世界保健機関(who)...malaria no more japan who 2018 年世界マラリア報告書 2018...

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世界保健機関(WHO) 2018 年世界マラリア報告書 概要 認定 NPO 法人 Malaria No More Japan (マラリア・ノーモ ア・ジャパン)

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世界保健機関(WHO)

2018 年世界マラリア報告書

概要

認定 NPO法人Malaria No More Japan

(マラリア・ノーモ ア・ジャパン)

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WHO 2018年世界マラリア報告書

2018 年 11 月 19 日にモザンビークのマプートで発表された WHO の第 11 回世界マラリア報告書は、

2017 年末までのマラリア対策の世界的進展をまとめたものです。2017 年の報告書では、多くの国でマ

ラリア対策の進展が止まっており、2016~2030 年 WHO グローバルマラリア技術戦略(GTS)の罹患

率と死亡率の 2020年の目標を達成する可能性が低くなっていることが記載されていました。その一年後

に発表された 2018年の報告書には、マラリアの疾病負荷の最も高い国々における対策の強化を含めたそ

の後の進捗が記載されています。

報告書へのリンク:https://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2018/en/

図1.2000年にマラリアの現地感染が起こった国々の、2017年の状況(WHO)

~2017年の症例件数~

1件以上

0件

3年以上継続して 0件

2000年以降マラリアの無いことが承認された国

マラリアの無い国

該当外

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1.世界及び地域のマラリアの疾病負荷の数値

マラリア症例

2017年には、推定 2億 1900万件のマラリアが世界中で発生しました。この数値は 2010年には 2億 3900

万件、2016年には 2億 1700万件でした。

2017年のマラリア症例数は 2010年に比べて、推定 2000万件少なくなっていますが、2015年~2017年

のデータから、この期間に世界的なマラリア症例を減らすことに関し著しい進展がみられていないこと

が明らかになりました。

図 2 に示されているように、2017 年のマラリア症例のほとんどは WHO アフリカ地域(2 億人、92%)

でみられ、それに続きWHO東南アジア地域(5%)、そしてWHO東地中海地域(2%)となっています。

図 3に示されるように、サハラ以南のアフリカ 15か国とインドで、世界のマラリアの疾病負荷の約 80%

を占めています。ナイジェリア(25%)、コンゴ民主共和国(11%)、モザンビーク(5%)、インド(4%)、

ウガンダ(4%)の 5か国で、全世界のマラリア症例のほぼ半分を占めています。

アフリカで最も大きい疾病負荷を抱えている 10 か国では、2016 年に比べて 2017 年にマラリア症例が

増加したと報告されました。そのうちナイジェリア、マダガスカル、コンゴ民主共和国では 50万件以上

という最も高い推定増加率となっています。一方インドでは同期間に 300 万件の減少(2016 年比 24%

減少)が報告されています。

熱帯熱

マラリ

三日熱

マラリ

図 2.WHOの地域ごとのマラリア推定症例件数(WHOによる推定)

AFR:アフリカ地域、SEAR:東南アジア地域、EMR:東地中海地域、WPR:西太平洋地域、AMR:米州地域

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図 3.各国のマラリア症例件数の割合(2017年。WHO)

図 4.2017年にマラリア症例が 30万件を超え、2016年比で 10万件以上の減少(緑色)

又は増加(赤色)した国々(NMP報告・WHO推定)

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2010 年から 2017 年にかけて、世界のマラリアの罹患率がリスク人口 1000 人あたり 72 件から 59 件に

減少しました。その期間に 18%減少したことになりますが、リスク人口 1000 人あたりの症例数は過去

3年間変わらず、59件のままでした。

WHO 東南アジア地域ではマラリアの罹患率が減り続けています。2010 年にはリスク人口 1000 人あた

り 17件だったのが、2017年には 7人に減少しました(59%減)。WHOの他の全ての地域では、ほぼ進

展がないか、罹患率の増加が記録されています。WHO米州地域は、主にブラジル、ニカラグア、ベネズ

エラにおけるマラリア感染の増加により、罹患率が増加しました。WHOアフリカ地域では、マラリア罹

患率は 2年間続けてリスク人口 1000人あたり 219件のままでした。

熱帯熱マラリア原虫はWHOアフリカ地域で最も一般的にみられるマラリア原虫で、2017年の推定マラ

リア症例の 99%以上を占めていますが、WHO 東南アジア地域では約 63%、WHO 東地中海地域では

69%、WHO 西太平洋地域では約 72%となっています。一方、WHO 米州地域では三日熱マラリア原虫

が最も多くみられ、マラリア症例の約 74%を占めています。

マラリアによる死亡

2017年には、世界で推定 43万 5000人がマラリアで亡くなりました。この数値は、2016年には推定 45

万 1000人、2010年には推定 60万 7000人でした。

5歳未満の子どもはマラリアの影響を最も受けやすく、2017年の世界中でのマラリアによる死亡の 61%

(26万 6000人)が 5歳未満の子どもでした。

マラリアによる死亡が最も多かったのが WHO アフリカ地域で、2017 年の全マラリア死亡の 93%が

WHOアフリカ地域に集中していました。他方、2010年と比べると、2017年にはマラリアによる死亡が

世界で 17万 2000人減りましたが、その 88%はWHOアフリカ地域での減少でした。

図 5 に示されているように、2017 年の世界のマラリアによる死亡の 80%近くが WHO アフリカ地域の

17か国とインドで起こっています。そのうち次の 7か国で世界のマラリアによる死亡の 53%を占めてお

り、その内訳はナイジェリア(19%)、コンゴ民主共和国(11%)、ブルキナファソ(6%)、タンザニア

(5%)、シエラレオネ(4%)、ニジェール(4%)、インド(4%)となっています。

WHO 米州地域以外の全ての地域では、2010 年に比べて 2017 年にマラリアによる死亡率が減少しまし

た。WHO東南アジア地域による減少が一番大きく(54%)、次いでWHOアフリカ地域(40%)、WHO

東地中海地域(10%)となっています。このような進展にもかかわらず、マラリア死亡率の減少率は、マ

ラリアの罹患率の推定傾向を反映して 2015年以来低下しています。

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マラリア関連貧血

今年の報告書には、マラリア関連貧血に関するセクションが含まれています。未治療のまま放置すると、

特に妊娠している女性や 5歳未満の子どもといった、脆弱な人々が死亡に至る可能性があります。

貧血は、かつてマラリア対策の進歩の鍵となる指標であり、その有病率は介入の有効性を評価するのに

使われていました。近年、マラリア関連貧血の疾病負荷に対する意識の低下がみられています。貧血はマ

ラリアに罹ったことによる重要な直接的及び間接的な結果であるにもかかわらず、マラリアに罹患しや

すい人々の間での貧血の有病率は、マラリアの伝播及び疾病負荷の指標として定期的に報告されていま

せん。

2015年から 2017年にかけて疾病負荷の高いアフリカの 16か国で実施された世帯調査によると、5歳未

満の子どもの貧血の有病率は計 61%で、うち軽度の貧血は 25%、中等度の貧血は 33%、重度の貧血は

3%でした。そのうちマラリア検査で陽性だった子どもの間では、貧血の有病率は計 79%で、うち軽度の

貧血は 21%、中等度の貧血は 50%、重度の貧血は 8%でした。

2.マラリアプログラム及び研究への投資

マラリア対策及び排除のための投資

2017 年に世界で推定 31 億米ドルがマラリア対策・排除のために、マラリア流行国の政府や国際パート

ナー機関によって投資されました。この額は 2016 年に報告された数字よりも僅かに高くなっています。

2017 年の投資の 4 分の 3 近く(22 億米ドル)が WHO アフリカ地域で使われ、続いて WHO 東南アジ

図 5.マラリアによる死亡の推定:18か国で世界の死亡の約 8割を占めている

(2017年。WHO)

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ア地域(3 億米ドル)、米州地域(2 億米ドル)、そして東地中海地域及び西太平洋地域(各 1 億米ドル)

となっています。

同年低所得国に 14 億米ドル、低中所得国には 12 億米ドル、高中所得国には 3 億米ドルが投資されまし

た。国際的な資金調達が低所得国と低中所得国の主要な資金源で、それぞれ 87%と 70%を占めています。

2017 年のマラリア流行国の政府による拠出は 2016 年と同様、資金総額の 28%(9億米ドル)を占めて

います。そのうち 3分の 2が国家マラリア・プログラム(NMP)によるマラリア対策活動に使われまし

たが、残りはマラリア患者のケアのための費用だったと推定されています。

図 6 に示されているように、過去数年間と同様、米国がマラリア対策への最大の国際資金源となってお

り、2017年に 12億米ドル(39%)を拠出しました。開発援助委員会(DAC)のメンバー国による拠出

は合計 7億米ドル(21%)、英国及び北アイルランドは各約 3億ドル(9%)、ビル&メリンダ・ゲイツ財

団は 1億ドル(2%)でした。

2017 年に投資された 31 億米ドルのうち 13 億米ドルは世界エイズ・結核・マラリア対策基金 (グロー

バルファンド)を通じての支援でした。

投資見通し

2010年以降マラリア対策への資金供与は比較的安定しているものの、2017年の投資水準は GTSの最初

の 2 つのマイルストーンに達するのに必要な額には程遠くなっています。最初の 2 つのマイルストーン

とは、2020年までに世界全体でマラリア罹患率及び死亡率を 2015年比で少なくともそれぞれ 40%削減

する、ということです。

図6.資金源ごとのマラリア対策・排除への拠出の推移

(2000年~2017年。単位:米 10億ドル)

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また、GTS の 2030 年の目標を達成するには、マラリア対策のための資金が 2020 年までに最低でも年

66億米ドルに増加する必要があると推定されています。

マラリアの研究開発への投資を強化することは、GTSの目標を達成する上でカギとなります。2016年に

はこの分野で 5 億 8800 万米ドルが費やされましたが、これは研究開発の年間必要推定額の 85%にすぎ

ません。

マラリアワクチン及び医薬品の研究開発資金は減少しましたが、一方、ベクターコントロール(媒介生物

対策)製品への投資は、2015年から 2016年にかけて 3300万米ドルから 6100万米ドルへと約倍増しま

した。

3.マラリア対策製品の配布

殺虫剤処理蚊帳(ITN)

製造業者からの報告によると、2015 年から 2017 年の間に、計 6 億 2400 万張の ITN(主に長期残効型

の殺虫剤処理蚊帳:LLIN)が世界で配布されました。この数は前期(2012 年~2014 年)の 4 万 6500

張に比べて大幅に増加しています。

世界で推定 5 億 5200 万張の ITN が NMP によって配布されましたが、その大半(85%にあたる 4 億

5900万張)は 2015年から 2017年の間にサハラ以南アフリカで配布されました。世界で配布された ITN

の 85%は大量配布キャンペーンを通じて無料で配布され、8%は妊婦検診施設で、そして 4%は予防接種

プログラムの一貫として配布されました。

迅速な診断テスト

2017年には世界で推定 2億 7600万個の迅速診断テスト(RDT)が販売されました。

同年 2 億 4500 万個の RDT が NMP によって配布されました。ほとんど(66%)の RDT は熱帯熱マラ

リア原虫のみを検出できるもので、サハラ以南アフリカに供給されました。サハラ以南アフリカでは、

RDTはマラリアの疑いがある人々の診断のために公的保健施設で最も多く使われる検査となっています。

2017年に行われたマラリア検査の推定 75%が RDT を使用したもので、2010 年の 40%から増加しまし

た。

アルテミシニンベースの併用療法

推定 27.4億件のアルテミシニンベースの併用療法(ACT)の治療コースが、2010年から 2017年にかけ

て当該国によって調達されました。うち推定 62%は公的セクター向けに調達されたと報告されています。

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2010 年から 2017 年の間に、NMP によって 14.5 億件の ACT 治療コースが提供されましたが、そのう

ち 14.2億件(98%)はWHOアフリカ地域での提供でした。

近年の診断検査の増加に伴い、ACT 治療コースはますます、マラリア検査が陽性だった患者にターゲッ

トを絞って提供されています。このことは、ACTと検査の比が大幅に減少した(2010年の 2.5と比較し

て 2017 年は 0.8)ことからも解ります。しかしこれは、ACT を受けた患者の推定 30%がマラリア検査

を受けていないことを意味します。

3.マラリアを予防する

ベクターコントロール

2017年には、アフリカでマラリアの危険にさらされている人々の 2人に一人が、ITNの中で寝ることに

よってマラリアの予防を行いました。ITN の中で寝る人の割合は 2010 年の 29%から増加しました。さ

らに、ITNを入手できる人々の割合は 2010年の 33%から 2017 年には 56%に増加しました。しかしこ

の数字は 2015年以降僅かしか改善されておらず、2016年以降は停滞傾向にあります。

2010年から 2017年の間に、世帯人数 2人あたり 1張人以上の ITNを持つ世帯は 40%に倍増しました。

しかしこの数字は過去 3年間で僅かしか増加しておらず、全ての人に ITNが行き届くにはまだ程遠いの

が現状です。

マラリアの危険にさらされている人々の中で、住宅の内壁に殺虫剤を散布する予防方法である室内残留

噴霧(IRS)によって保護されている人々は減っています。世界で IRSによって保護されている人々は、

2010年のピークの 5%から 2017年の 3%に低下しており、全てのWHO地域で減少しています。

WHO アフリカ地域では、IRS によって保護されているリスク人口は 2010 年の 8000 万人から 2016 年

には最低の 5100万人に減少し、2017年には 6400万人に増加しました。他のWHO地域では、2017年

に IRSで保護された人々の数は米州地域では 150万人、東地中海地域では 750万人、東南アジア地域で

は 4100万人、西太平洋地域では 150万人でした。

国が殺虫剤の変更や循環(より高価な化学薬品への変更)、実施戦略の変更(例えば、マラリア排除国で

のリスク人口の減少)を行うことにより、IRSのカバー率が低下しています。

予防的療法

アフリカでの中・高程度のマラリア感染地域にいる女性を保護するために、WHOは抗マラリア薬スルフ

ァドキシン - ピリメタミンを用いた「妊娠中の間歇的な予防的治療(IPTp)」を推奨しています。2017

年の IPTpのカバー率を報告したアフリカ 33か国では、推定 22%が推奨投与量である 3回以上の IPTp

を受けました。この数字は 2015年には 17%、2010年には 0%でした。

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同年アフリカのサヘル地域の 12か国 1570万人の子どもが季節性マラリアの化学的予防(SMC)プログ

ラムによって保護されました。しかし、この介入の恩恵を受けるべきはずの約 1360万人の子どもは、主

に資金不足のために受けることができませんでした。

4.診断テストと治療

ケアにアクセスする

迅速な診断と治療は、軽度のマラリア症が重篤化して死亡に至るのを防ぐ最も効果的な方法です。2015

年から 2017 年の間にサハラ以南アフリカの 19か国で実施された全国世帯調査によると、熱がある子ど

ものうち、訓練を受けた医療提供者のところに治療に連れて行かれた子どもの中央値は 52%でした。こ

れには、公的セクターの病院やクリニック、公式の民間セクター保健施設、そしてコミュニティへルスワ

ーカーが含まれます。

熱のある子どもがケアのために公的保健セクターに連れてこられる割合(中央値 36%)は正式な民間医

療セクター(中央値 8%)より多くなっていますが、ケアを全く受けなかった割合も高くなっています

(中央値 40%)。保健ケア提供者へのアクセスの難しさや保護者のマラリア症状に対する認識不足など

がその原因です。

この全国調査では、世帯収入と所在地によって医療ケアへのアクセスに格差が生じていることが明らか

になりました。熱がある子どもがケアに連れてこられた割合が貧困世帯(中央値 58%)より裕福な世帯

(中央値 72%)のほうが高く、また農村部(中央値 60%)より都市部(中央値 69%)のほうが高くなっ

ています。

マラリアの診断

2010年から 2017年にかけてサハラ以南アフリカの 30か国で実施された 58件の調査によると、熱があ

る子どものうち公的保健セクターで診断テストを受けた子どもの割合は 2015年から 2017年の間に増加

して中央値 59%となりました(2010年~2012年の中央値は 33%)。

サハラ以南アフリカで実施された 56件の調査で収集されたデータから、公的保健施設に連れてこられた

熱がある子どものうち、抗マラリア薬による治療を受ける前にマラリア診断テストを受けた割合は、2010

年〜2012年の中央値 35%から 2015年~2017年の中央値 74%に上昇していることがわかりました。正

式な民間保健セクターでも同様の増加が記録されており、2010 年〜2012 年の中央値 41%から 2015 年

〜2017年の中央値 63%に上昇しています。

マラリアの治療

2015年から 2017年にかけてサハラ以南アフリカで実施された 19件の世帯調査によると、熱がある 5歳

未満の子どものうち、抗マラリ薬が投与されたのは 29%でした。

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民間セクターに比べ、公的保健セクターで医療ケアを受けた子どもの方が、最も効果的な抗マラリア治

療である ACT を受ける割合が高くなっています。サハラ以南アフリカで実施された 18 件の国別調査の

データによると、2015 年から 2017 年の間にマラリアの治療のために公的保健セクターに連れてこられ

た熱がある子どものうち、推定 88%が ACTを受けました。正式な民間保健セクターでのこの割合は 74%

でした。

WHOは、子ども間での治療ギャップを埋めるために、包括的地域症例管理(iCCM)の実施を推奨して

います。このアプローチは、子どもの生命を脅かす共通した状況(マラリア、肺炎及び下痢)に対する保

健施設やコミュニティレベルでの包括的管理を促進するものです。2017年にはマラリアの疾病負荷の高

いアフリカの 21 か国のうち 20 か国で iCCM 政策が策定され、そのうち 12 か国がその政策を実施し始

めました。

5.マラリアのサーベイランスシステム

マラリアに最も影響を受けている地域や人々を特定し、最大の効果を出すために的を絞って資源を投入

するには、マラリアの症例及び死亡の効果的なサーベイランスシステムが不可欠です。強力なサーベイ

ランスシステムには、ケアやケース発掘の症例への確実なアクセスや、公的であれ民間であれ全てのセ

クターによる健康情報の完璧な報告が必要です。

2017 年の、中等度から高程度の疾病負荷を抱えた 52 か国ではマラリアの報告率は 60%以上でした。

WHO アフリカ地域では、46 か国中 36 か国で、少なくとも 80%の公的保健施設が国家保健情報システ

ムを通じてマラリアに関するデータを報告していることを示しています。

6.マラリア排除

世界的には、排除のネットワークは広がっており、多くの国で感染症例件数がゼロに向かっています。

2017 年に 1 万件より少ない症例を報告したのは 46か国で、2010 年の 37か国、2016 年の 44か国から

増加しています。国内での感染症例が 100 件未満という、排除達成間近とみることができる国の数は、

2010年には 15か国でしたが、2016年には 24か国、そして 2017年には 26か国に増加しました。

2018年にパラグアイがマラリアの無い国としてWHOの認定を受けました。一方、アルジェリア、アル

ゼンチン、ウズベキスタンはWHOの認定を正式に申請しています。また、2017年に中国とエルサルバ

ドルが地元での感染による症例件数がゼロであったことを報告しています。

GTSが設定している 2020年の重要なマイルストーンの 1つは、2015年にマラリアが流行していた国の

中で少なくとも 10 か国がマラリア排除を達成することです。現在の進歩率をみると、10 か国でこのマ

イルストーンを達成できる可能性があります。

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2016年にWHOは、2020年までにマラリア排除を達成する可能性がある 21か国を特定しました。WHO

は「E-2020 諸国」と呼ばれているこれらの国の政府の排除加速目標達成を支援しています。E-2020 諸

国のうち 11 か国はマラリア排除目標の達成に向かって順調に進んでいますが、10 か国からは地元での

感染による症例件数が 2016年と比較して 2017年に増加したことが報告されています。

7.マラリア対策を軌道に戻すための課題

世界のマラリア対策が直面している課題は数多くあります。本報告書でも強調されているように、達成

目標年が近づいてきている 2020年及び 2025年のマイルストーンを達成する上で現在直面している障壁

は、疾病負荷が高い国々でマラリアが増え続けていることと、国際資金や自国資金が適格に調達されて

いないことです。同時に、抗マラリア薬への寄生虫の耐性や殺虫剤への蚊の耐性が出現し続けているこ

とも進捗を脅かしています。

高疾病負荷国

2017年には、11か国(サハラ以南アフリカの 10か国及びインド)が世界のマラリアの推定症例件数及

び死亡数の約 70%を占めました。これら 11 か国のうちインドのみが、2016 年と比較して 2017 年にマ

ラリア症例数が減少したとの進捗を報告しています。

世界のマラリア対策を軌道に戻すために 2018 年 11 月 19 日にモザンビークで、国主導の新たなアプロ

ーチ「高い疾病負荷から高い効果へ」が本報告書の発表とともに開始されました。

WHO とマラリアを終わらせるためのロールバックマラリア(RBM)パートナーシップによるこのアプ

ローチは、次の 4つの柱に基づいています。

1. マラリアによる死亡を減らすために各国及び世界の政治的関心を奮い立たせる

2. 情報の戦略的利用により効果を高揚する

3. 全てのマラリア流行国に適した最良のグローバルなガイダンス、政策及び戦略を策定する

4. 調整された各国の対策を実施する

資金調達

マラリアプログラムが主に外部資金調達に依存している高疾病負荷国 41か国のうち 24か国で、2015年

〜2017年のリスク人口 1人あたりの平均資金水準が、2012年〜2014年の平均水準に比べて低下しまし

た。この低下はコンゴで 95%と最も大きく、ウガンダでは 1%と最も小さくなっています。リスク人口

1人あたりの総資金額が 20%以上減少した国々では、国際資金と自国資金がともに減少しています。

高疾病負荷国 41 か国では全体として、マラリアの危険性にされされている人 1 人あたりの資金は 2.32

米ドルでした。

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薬剤耐性

ACT は、最近のグローバルなマラリア対策の

成功に不可欠であり、マラリア治療のための

ACT の有効性を保持することは、グローバル

へルスの優先事項です。

2010 年から 2017 年の間に実施されたほとん

どの研究によると、ACT はまだ有効であり、

全体的な有効性は大メコン圏(GMS)外では

95%以上となっています。アフリカでは、アル

テミシニンの(部分的)耐性はこれまでに報告

されていません。

図 7に示されるように GMSでは、現在WHO

が推奨している 5つの ACTのうち、カンボジ

アでは 4 つ、タイ及びラオスでは 3 つ、ベト

ナムでは 2つ、ミヤンマー及び中国(雲南省)

では 1つのACTによる治療が失敗する割合が

10%より多くなっています。

アルテミシニンの(部分的)耐性及びパートナー医薬品への耐性を含む多剤耐性が GMS の 4 か国で報

告されていますが、この地域ではマラリア症例及び死亡が大幅に減少しています。抗マラリア薬の有効

性をモニターすることで、ほとんどの GMS 諸国でマラリア治療政策が迅速に更新されるようになりま

した。

殺虫剤耐性

最近発表された WHO の「マラリアのベクターの殺虫剤耐性に関する 2010 年~2016 年世界報告書」に

よると、一般的に使用されている殺虫剤4種 - ピレスロイド(pyrethroids)、有機塩素(organochlorines)、

カルバメート(carbamates)、及び有機リン酸(organophosphates)に対する耐性が WHO アフリカ地

域、米州地域、東南アジア地域、東地中海地域、西太平洋地域で主要なマラリア媒介蚊の全てに広がって

います。

2010 年~2017 年のデータを提供したマラリア流行国 80 か国のうち 68 か国で、1か所のモニタリング

サイトで収集された 1 つのマラリアベクターに、4 種の殺虫剤のうち少なくとも 1 種に対する耐性が検

出されました。報告が改善されたことと、新たに 3 か国で初めて耐性が報告されたことにより、この数

字は 2016年より増加しています。2種以上の殺虫剤に対する耐性は 57か国で報告されています。

図7.大メコン圏:熱帯熱マラリア感染の治療

が失敗する率が高い ACTの数(WHO)

Page 14: 世界保健機関(WHO)...Malaria No More Japan WHO 2018 年世界マラリア報告書 2018 年11 月19 日にモザンビークのマプートで発表されたWHO の第11 回世界マラリア報告書は、

現在 ITNに使用されている唯一の殺虫剤であるピレスロイドへの耐性は広範囲に及んでおり、調査が行

われた地域の 3 分の 2 以上で少なくとも 1 つのマラリアベクターに検出されましたが、最も多く検出さ

れたのはWHOのアフリカ地域及び東部地中海地域でした(図 8)。

有機塩素化合物に対する耐性は、モニタリングサイトのほぼ 3 分の 2 で少なくとも1つのマラリアベク

ターに検出されましたが、最も多く検出されたのはWHO東南アジア地域でした(図 8)。

カルバメート及び有機リン酸に対する耐性は、それぞれ 33%及び 27%のモニタリングサイトで検出され

ており、それほど大きな問題とはなっていません。カルバメートへの耐性は WHO 東南アジア地域で、

有機リン酸に対する耐性はWHO西太平洋地域で最も多く検出されました(図 8)。

現在の状況から、マラリアベクターの殺虫剤耐性管理のための WHO 世界計画に沿った殺虫剤耐性モニ

タリング及び管理計画が不可欠といえます。これまでに 40か国がこれらの計画を完成しました。

図 8.報告された殺虫剤耐性:2010年~2017年にWHOがモニタリングを行ったサイトのうち

耐性が検出されたサイトの割合

AFR:アフリカ地域、SEAR:東南アジア地域、EMR:東地中海地域、WPR:西太平洋地域、AMR:米州地域

耐性が確認(蚊の死亡率 90%未満)

耐性の可能性(蚊の死亡率 90~97%)

耐性の潜在性(蚊の死亡率 98%以上) n:データが報告されたサイト数

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ITN は、蚊がピレスロイドに耐性を持つようになった地域でも、引き続きマラリア予防の有効なツール

となっています。このことは、WHOが 2011年から 2016年の間に実施した大規模な複数国評価で、5か

国の研究サイトに共通してみられました。

関連リンク

⚫ WHO事務局長のビデオメッセージ Getting the global malaria response back on track

https://www.youtube.com/watch?v=84Rt4Jt5Sgs&feature=youtu.be

⚫ パンフレット:High burden to high impact: a targeted malaria response

http://www.who.int/malaria/publications/atoz/high-impact-response/en/

⚫ ビデオ:High burden to high impact: A targeted malaria response

https://www.youtube.com/watch?v=LxHeKfet0As

⚫ The Lancet op ed: "Countries must steer new response to turn the malaria tide" with Dr Tedros

Adhanom Ghebreyesus and Dr Kesete Admasu

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS0140-6736(18)32943-X/fulltext

⚫ RBM Partnership to End Malariaによるソーシャルメディアツールキット

https://spark.adobe.com/page/rQJk4bNh0r46M/