受け継がれた中世の栄光 プラハ の 街全体がミュージアム - …...3 2...

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1 聖ヴィート大聖堂に置かれた14世紀の聖 人、聖ヤン・ネポムツキーの墓碑。制作には 約2トンの純銀が使用されている。華麗な天 幕を捧げ持つ天使の姿がユニークだ。 All Rights Reserved,Copyright ©2018,Hitachi,Ltd.

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    受け継がれた中世の栄光

    プラハ

    街全体がミュージアム

    野町和嘉の

    地球巡礼

    聖ヴィート大聖堂に置かれた14世紀の聖人、聖ヤン・ネポムツキーの墓碑。制作には約2トンの純銀が使用されている。華麗な天幕を捧げ持つ天使の姿がユニークだ。

    All Rights Reserved,Copyright ©2018,Hitachi,Ltd.

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    ヴルタヴァ川の両岸に広がるプラハ旧市街。赤屋根で統一された中世さながらの見事な佇まいにより、市街地は世界遺産に登録されている。画面中央に架かるのがカレル橋。

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    チェコの首都プラハを旅したのは2016年

    9月のことである。

    スメタナ作曲の交響詩「我が祖国」に心揺さ

    ぶられ、やがてソビエトの戦車によって踏みに

    じられ圧殺されることになる、1968年の民

    主化運動「プラハの春」の顚てん

    まつ末を、息を詰めて

    観てきた私などの世代にとって、プラハという

    地名にはややほろ苦い特別な響きがある。作家

    のフランツ・カフカ、あるいは東京オリンピッ

    中世の時の螺旋階段を上る

    野町和嘉(のまち・かずよし)

    1946年高知県生まれ。杵島隆に師事した後、1971年

    にフリーの写真家となる。1972年サハラ砂漠への旅をきっか

    けにアフリカの乾燥地帯の取材を始め、アラビア半島、チベット、

    アンデス、ガンジス川流域などを長期取材。荒々しい自然と向き

    合って生きる人々の祈りと暮らしを捉え、国内外の雑誌に発表。

    『サハラ

    空と砂の間で』『ナイル』『チベット

    天の大地』『メッカ巡

    礼』『地球巡礼』など多くの写真集が国際共同出版される。ロー

    マ、ミラノ、台北ほかで「聖地巡礼」展を開催。土門拳賞、芸

    術選奨文部大臣新人賞、日本写真協会国際賞など受賞多数。

    2009年紫綬褒章受章。

    Website

    ▼ww

    w.nom

    achi.com

        ●プラハの天文時計カレル橋

    聖ヴィ―ト大聖堂●

    ●プラハ城 ●

       旧ユダヤ人墓地

    ヴルタヴァ川

    ショーウィンドー越しに覗のぞ

    く置物にも歴史を感じる。

    カレル橋の欄干を飾る聖人像と早朝の光に浮かぶ橋塔(右端の塔)。昼間は大勢の観光客で賑わう。

    旧ユダヤ人墓地。15世紀前半から18世紀まで埋葬され、数千の墓標がひしめいている。 広場の一画で焼き上がるポークの燻製。チェコのピルスナー・ビールにもよく合う。 中世から動き続けているプラハの天文時計。毎正時にはからくり時計が動きトランペットが鳴り響く。

    クの女子体操金メダリスト、ベラ・チャスラフ

    スカといった、時代ごとにプラハの片鱗を背

    負った人物のことなどを思いめぐらせている

    と、空港から乗ったタクシーは旧市街に差しか

    かっていた。そこで街中を滔とう

    とう々

    と流れるヴルタ

    ヴァ川(モルダウ川)を望んだとき、しみじみ

    とした想いがこみあげてきた。

    旧市街の中心部にあるクラシックな趣のホテ

    ルを予約しておいたところ、まさか、エレベー

    ターなしの4階の部屋で、息切れしながら螺旋

    階段を軋きしませ、連日何度も上り下りするはめに

    なる。

    プラハの歴史は9世紀末に西岸の丘陵に城塞

    が築かれたことから始まり、やがてボヘミア王

    国の宮廷が置かれたことで発展の礎を築く。

    1346年にボヘミア王カレル1世が神聖ロー

    マ帝国の皇帝に選ばれカレル4世となったこと

    を契機に、神聖ローマ帝国の首都がプラハに移

    されて街の大々的な開発が始まり、「黄金のプ

    ラハ」と形容されるヨーロッパ最大級の都市と

    してその地位を確立する。

    1938年にはヒトラーのドイツに占領さ

    れ、第2次大戦中に、プラハに居住していた約

    5万人のユダヤ人が虐殺されるという悲惨に見

    舞われた。一方で、大戦中の戦火を免れたこと

    で、街全体が、歴史の興亡を蓄積した壮大なる

    建築博物館として光彩を保っている。ロマネス

    ク様式(10世紀後半〜13世紀)、ゴシック(12世

    紀〜15世紀末)、その後に流行したルネッサン

    ス、バロック、アールヌーボーなどの様式建築

    が華やかさを競い合っている中世さながらの佇

    まいは、プラハ独特のものだ。その風格により

    ユネスコの世界遺産に登録されている。

    ヴルタヴァ川両岸には赤屋根で統一された美

    しい街並みが広がる。また、旧市街の丘の上に

    は、9世紀に建造され現在は大統領府となって

    いるプラハ城と、城内にひときわ聳そびえる聖

    ヴィート大聖堂がある。15世紀初頭にヴルタ

    ヴァ川に架けられ、その原形を伝えるカレル橋

    をはじめとする数々の歴史的建造物が、他の都

    市に観られない独特の風格を醸している。

    (写真・文/野町和嘉)

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