山口県における医薬品製造業の現状と 今後の展望 ·...

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はじめに 我が国では、高齢化の進行や医療ニーズの多 様化等を背景に、医薬品の市場規模が拡大して きた。その一方で、薬価引き下げや大型薬特許 切れ、欧米メーカーとの競争激化等、医薬品産 業を取り巻く環境は大きく変化しつつある。 こうした中で、複数の国内大手製薬メーカー が主力工場を置く山口県では、各メーカーの生 産拠点集約や新規事業進出等に伴う設備増強が 進められており、医薬品の生産金額も2,000億 円を超える水準に達する。さらに本県は、医薬 品の原薬 1 の出荷額(経済産業省「工業統計」 における「医薬品原末、原液」)が全国トップ クラスという特徴を有し、製薬メーカーの工場 だけでなく、一部の化学メーカーの生産拠点に おいても、原薬や中間体 2 の製造が行われている。 本稿では、全国の医薬品製造業の現状につい て整理し、山口県の状況に関しても統計データ 等で把握する。さらに、県内企業・工場の主な 取り組みについて、本県の特徴である原薬や中 間体の製造にも着目してまとめた上で、今後の 動向を展望する。 1  医薬品の有効成分となるもの。 山口県における医薬品製造業の現状と 今後の展望 〈 要 旨 〉 1.我が国における医薬品の市場規模(2012年)は9兆5,000億円強で、2001年の水準を3割程度 上回った。一方、2012年の国内生産金額は約7兆円で、都道府県別では埼玉県(約7,700億円) がトップであり、山口県(2,100億円強)は12位となっている。 2.医薬品製造業は、新薬メーカーやジェネリック医薬品(後発医薬品)メーカーに加えて、受託製 造に特化した企業など多様なプレーヤーによって構成される。1つの新薬が世に出る確率は3万 分の1といわれる通り、医薬品はハイリスクハイリターンの事業であるほか、薬事法や薬価など の規制下にある。世界的に市場が拡大する一方で、欧米メーカーとの競争は激しく、大型薬の特 許切れや医療ニーズの多様化等、医薬品産業を取り巻く環境は大きく変化しつつある。 3.山口県においては、県内本社の医薬品メーカーは極めて少ないものの、複数の国内大手製薬メー カーが主力工場を置き、原薬製造や製剤等を手掛けている。これらの工場では近年、販売拡大や 新規事業進出、さらには他工場からの生産移管等に伴い、設備増強が相次いで行われている。 4.山口県は、医薬品の原薬の出荷額(経済産業省「工業統計」における「医薬品原末、原液」)が 全国トップクラスという特徴を有する。県内では、製薬メーカーの工場だけでなく、一部の化学 メーカーの生産拠点においても、既存事業で培った化学合成技術をベースに、原薬や中間体(原 薬の前段階の物質)を製造している。 5.今後、大手製薬メーカーの県内工場は、一部企業の事業再構築に伴う工場再編が進む中、数少な い国内生産拠点として重要な役割を果たしていくと考えられる。また、化学メーカーの原薬・中 間体生産は、製薬メーカーからのコストダウン要請等、事業環境は厳しいものの、ジェネリック 医薬品の市場拡大等もあり、安定的に推移する見通しである。一方、県内中小企業においては、 医薬品の生産工程で使用される機器類もしくはそれらの部品・部材の製造に関して、自社の優れ た技術を活用したビジネスチャンスがあると考えられる。 2  医薬品の出発原料が原薬となる過程で生成される物質。 2│やまぐち経済月報2014.11 report 調査 report

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Page 1: 山口県における医薬品製造業の現状と 今後の展望 · 医薬品の生産工程で使用される機器類もしくはそれらの部品・部材の製造に関して、自社の優れ

はじめに 我が国では、高齢化の進行や医療ニーズの多様化等を背景に、医薬品の市場規模が拡大してきた。その一方で、薬価引き下げや大型薬特許切れ、欧米メーカーとの競争激化等、医薬品産業を取り巻く環境は大きく変化しつつある。 こうした中で、複数の国内大手製薬メーカーが主力工場を置く山口県では、各メーカーの生産拠点集約や新規事業進出等に伴う設備増強が進められており、医薬品の生産金額も2,000億円を超える水準に達する。さらに本県は、医薬品の原薬1の出荷額(経済産業省「工業統計」

における「医薬品原末、原液」)が全国トップクラスという特徴を有し、製薬メーカーの工場だけでなく、一部の化学メーカーの生産拠点においても、原薬や中間体2の製造が行われている。 本稿では、全国の医薬品製造業の現状について整理し、山口県の状況に関しても統計データ等で把握する。さらに、県内企業・工場の主な取り組みについて、本県の特徴である原薬や中間体の製造にも着目してまとめた上で、今後の動向を展望する。

1 医薬品の有効成分となるもの。

山口県における医薬品製造業の現状と今後の展望

〈 要 旨 〉1.我が国における医薬品の市場規模(2012年)は9兆5,000億円強で、2001年の水準を3割程度上回った。一方、2012年の国内生産金額は約7兆円で、都道府県別では埼玉県(約7,700億円)がトップであり、山口県(2,100億円強)は12位となっている。

2.医薬品製造業は、新薬メーカーやジェネリック医薬品(後発医薬品)メーカーに加えて、受託製造に特化した企業など多様なプレーヤーによって構成される。1つの新薬が世に出る確率は3万分の1といわれる通り、医薬品はハイリスクハイリターンの事業であるほか、薬事法や薬価などの規制下にある。世界的に市場が拡大する一方で、欧米メーカーとの競争は激しく、大型薬の特許切れや医療ニーズの多様化等、医薬品産業を取り巻く環境は大きく変化しつつある。

3.山口県においては、県内本社の医薬品メーカーは極めて少ないものの、複数の国内大手製薬メーカーが主力工場を置き、原薬製造や製剤等を手掛けている。これらの工場では近年、販売拡大や新規事業進出、さらには他工場からの生産移管等に伴い、設備増強が相次いで行われている。

4.山口県は、医薬品の原薬の出荷額(経済産業省「工業統計」における「医薬品原末、原液」)が全国トップクラスという特徴を有する。県内では、製薬メーカーの工場だけでなく、一部の化学メーカーの生産拠点においても、既存事業で培った化学合成技術をベースに、原薬や中間体(原薬の前段階の物質)を製造している。

5.今後、大手製薬メーカーの県内工場は、一部企業の事業再構築に伴う工場再編が進む中、数少ない国内生産拠点として重要な役割を果たしていくと考えられる。また、化学メーカーの原薬・中間体生産は、製薬メーカーからのコストダウン要請等、事業環境は厳しいものの、ジェネリック医薬品の市場拡大等もあり、安定的に推移する見通しである。一方、県内中小企業においては、医薬品の生産工程で使用される機器類もしくはそれらの部品・部材の製造に関して、自社の優れた技術を活用したビジネスチャンスがあると考えられる。

2  医薬品の出発原料が原薬となる過程で生成される物質。

2│やまぐち経済月報2014.11

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1.医薬品製造業の現状⑴ 医薬品の国内市場規模は9兆5,000億円強 厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、日本における医薬品の市場規模(2012年:出荷-輸出)は9兆5,000億円強で、2001年の水準を3割程度上回った(図表1)。我が国ではこの間、輸入の伸びが目立ち、2012年の輸入

金額は2兆8,000億円台と、2001年の3倍近くに達している。⑵ 国内生産金額は約7兆円、都道府県別では  埼玉県がトップ 医薬品の国内生産金額(2012年)は約7兆円で、ここ数年は横ばい傾向にある(図表1)。全体の9割近くを医療用医薬品が占めており、薬効大分類別では循環器官用薬(血圧降下剤や高脂血症用剤等)が最大である(図表2)。 2012年の数値を都道府県別にみると(次ページ図表3)、埼玉県が約7,700億円と最も多く、以下は静岡県、富山県、大阪府、東京都等の順であり、山口県は2,100億円強で12位となっている。このうち、埼玉県の生産金額は6年連続の全国トップであるほか、静岡県は医療機器の生産金額(2012年:3,652億円)が全国1位であり、医薬品と合わせた金額は1兆円を超えている。また、「置き薬」で知られる富山県は、

図表1:医薬品の国内市場規模等推移

図表2:医薬品の分類と生産金額(2012年)

やまぐち経済月報2014.11│3

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ジェネリック医薬品や他企業からの受託に係る生産も比較的多い3。なお、大阪府は道

どしょうまち

修町(大阪市)が古くから「くすりの街」として知られており4、武田薬品工業㈱などの大手メーカーが、創業の地である同町に現在も本社を置いている。

2.医薬品製造業の特徴⑴ 新薬メーカーのほか、ジェネリック医薬品  メーカーなど多様なプレーヤーが存在 医薬品製造業は、国内トップの武田薬品工業㈱をはじめとする新薬メーカーや、日医工㈱などのジェネリック医薬品メーカーに加えて(図表4)、受託製造に特化した企業など多様なプ

レーヤーによって構成される。企業数でいえば、中小規模の業者が中心である5ものの、売上高(2011年)に関しては、上位5社で全体の約4割、上位30社で約8割を占めている6。

3 ジェネリック医薬品最大手の日医工㈱の本社は富山市。4 江戸時代には「薬種問屋」が集積しており、明治以降、有力な問屋が相次いで製薬業に進出していった。

5 厚生労働省「医薬品産業実態調査」(2012年)によると、回答企業354社の57.9%が資本金3億円未満である。

6 厚生労働省「医薬品産業ビジョン2013」による。

図表3:都道府県別医薬品生産金額(2012年)

図表4:日本の主な医薬品メーカー 

企業名 概要

新薬メーカー

武田薬品工業㈱国内最大手。がん領域強化や新興国事業拡大等を目的に、米国のミレニアムなど欧米企業を買収。

アステラス製薬㈱2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併。泌尿器、移植に次ぐ第3の柱としてがん領域強化。

大塚HD㈱大塚製薬や大鵬薬品工業等が傘下。抗精神病薬「エビリファイ」は世界の医薬品売上トップ10入り。

第一三共㈱三共と第一製薬が2005年に経営統合。大衆薬については第一三共ヘルスケアで展開。

田辺三菱製薬㈱三菱ケミカルHD傘下。2007年に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併。抗リウマチ薬が主力。

中外製薬㈱世界大手ロシュ(スイス)傘下。抗がん剤が主力。抗インフルエンザ薬「タミフル」も売上拡大。

エーザイ㈱アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」と抗潰瘍薬「パリエット」の2大製品を有する。

協和発酵キリン㈱キリンHD傘下。2008年に協和醱酵工業とキリンファーマが合併。腎性貧血治療薬が主力。

新薬メーカー(兼業系)

JT(日本たばこ産業㈱)

1987年に医薬品事業へ進出。JTは研究開発を担当し、傘下の鳥居薬品が製造販売。

富士フィルムHD㈱傘下に富山化学工業。インフルエンザ治療薬がエボラ出血熱の治療に効果を発揮し注目。

明治HD㈱明治製菓が1946年よりペニシリン製造。現在はMeiji Seikaファルマで医薬品事業を展開。

帝人㈱帝人ファーマが医薬品事業展開。世界で約40年ぶりに痛風・高尿酸血症治療剤の新薬開発成功。

ジェネリック医薬品

メーカー

日医工㈱ジェネリック医薬品国内最大手。本社は富山市。アステラス製薬の富士工場買収。抗がん剤の開発強化。

沢井製薬㈱ジェネリック医薬品大手。今年6月に6成分11品目の新製品発売。田辺三菱製薬工場の鹿島工場取得予定。

東和薬品㈱ジェネリック医薬品大手。水なしで飲むことができる薬の製剤技術「RACTAB技術」を開発。

(資料)㈱じほう「薬事ハンドブック2014」、    各社ホームページ他

4│やまぐち経済月報2014.11

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 新薬メーカーにおいては、2000年代に再編が進み、最近は新規領域や海外事業を強化する取り組みが活発化している。また、異業種から医薬品事業に参入した「兼業系」メーカーの間では、医療機器を含む「ヘルスケア」部門の重点化を進める企業が目立つ。 なお、2005年の薬事法改正に伴い、医薬品の製造に係る全ての工程を委託することが可能になった7ことを受けて、製造受託に係るビジネスが拡大してきた。「薬事工業生産動態統計」によると、原薬から製剤まで全て国内で手掛ける場合、委託製造による生産金額が自社製造の2分の1超の水準に達しているほか、原薬等を輸入して最終製品にするケースでは、自社製造と委託製造の差がわずかとなっている8。⑵ 研究開発に長い期間と多額の費用が必要 医薬品の研究開発には、長い時間と多額の費用を要する。1つの新薬について、研究開始から承認取得までの期間が15年を超えることもあり(図表5)、その間の費用は1,000億円を上回るケースもある。ところが、新薬候補として研究を始めた化合物が新薬として世に出る確率は3万分の1といわれ9、医薬品はまさしく、ハイリスクハイリターンの事業だといえる。 なお、総務省「科学技術研究調査」によると、医薬品製造業の売上高に占める研究開発費の割合は1割超で、製造業では最大である(図表6)。⑶ 製造・販売や価格等について規制あり 医薬品は人命にも関わる製品であり、品質や安全性の確保が強く求められる。こうした観点から、製造・販売等に際しては、医療機器と同7 医薬品の製造や販売に関する許可制度が、改正前は「製造業」と「輸入販売業」の2種類であったのに対し、改正後は「製造業」と「製造販売業」の2本立てとなり、「製造販売業」については他への製造委託も可能となった。

8 2012年の医薬品生産金額のうち「国産」については、自社製造が3兆4,796億円、委託製造が1兆8,130億円であるほか、「輸入」では自社製造が8,828億円、委託製造が8,013億円である。

9 日本製薬工業協会「製薬協ガイド」による。

図表5:新薬ができるまで

図表6:製造業の総売上高に占める社内使用研究費の割合(2012年) 

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じく薬事法10などの規制に縛られる。 また、医薬品のうち医療用医薬品の価格は、「薬価」と呼ばれる公定価格である。薬価については2年に1度改定が行われており、2014年は5.64%(消費増税分上乗せ後では2.65%)の引き下げが行われた。なお、長期収載品11については、ジェネリック医薬品への置き換え率に応じた追加の引き下げが実施されている。

3.医薬品製造業を巡る最近の動き⑴ 世界市場拡大の一方、欧米勢との競争激化 世界の医薬品市場は、2014年に初めて1兆ドルに達し、2017年には1兆2,000億ドルまで拡大するとの見通しが示されている12。米国では、いわゆる「オバマケア13」の実施による市場拡大が想定されており、中国など新興国では、中間層の所得増加や医療保険制度の整備等に伴い、医薬品市場も大幅な伸びが見込まれる。こうした動きに対応して、国内の製薬メーカーは海外事業を積極的に展開しており、欧米のメーカーを買収する動きもみられる。 しかしながら世界的には、ファイザー(米国)やノバルティス(スイス)、メルク(米国)など欧米勢が圧倒的な規模を誇っている。これらの海外メーカーは近年、パイプライン(新薬候補)確保や新興国でのシェア拡大等を目的に、M&Aを積極的に展開しているほか、日本国内でのシェアも高めつつある14。

⑵ 大型薬の特許切れと医療ニーズの多様化 長い期間と多額の費用によって市場に投入された新薬であるが、特許期間(最長25年)が過ぎると、安価なジェネリック医薬品との競合が生じる。2010年前後には、国内外の製薬メーカーにおいて、「ブロックバスター 15」と呼ばれる大型薬が相次いで特許切れを迎える「2010年問題」が取りざたされ、多くのメーカーが売上減少に直面した。大型薬の特許切れは今後も続くため、新薬メーカーとジェネリック医薬品メーカーの競争は一段と激しくなる見通しである。 その一方で、医療ニーズは多様化しており、医薬品に関しても、これまで重点が置かれてきた生活習慣病の領域から、がんなどの「アンメット・メディカル・ニーズ」(未充足の医療ニーズ)へと研究開発の対象がシフトしている。こうした状況下、新薬メーカーに対しては、バイオ医薬品16など画期的な医薬品を生み出すことが期待されている。⑶ 医療関連の政策にも注目 国は、高齢化等を背景に膨張する医療費の抑制を図るべく、様々な施策を進めている。医薬品に関しては、新薬よりも安価なジェネリック医薬品の使用を促進しており、昨年策定した「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」では、ジェネリック医薬品の数量シェアを2018年3月末までに60%以上にするとの目標を定めている。さらに、「セルフメディケーション17」の推進が図られる中で、「スイッチOTC18」など一般用医薬品(大衆薬)の適正な使用が求められている。

10 現在の薬事法は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改正される(11月25日施行)。

11 特許切れに伴ってジェネリック医薬品(後発医薬品)が市場に投入されている新薬(先発品)。ジェネリック医薬品が最初に収載されて5年経過後も、置き換え率が20%未満のものについては、2.00%の追加引き下げが行われた。

12 新聞報道等による(原出所は米国の調査会社IMSヘルス)。13 オバマ政権が進める医療保険制度改革。公的医療保険と民間の医療保険を利用して、事実上の国民皆保険を実現するもの。

14 厚生労働省「医薬品産業ビジョン2013」によると、日本市場での外資系企業のシェアは、1991年の18.6%から、2011年には36.2%とほぼ2倍の水準に達している。

15 一般には年商10億ドル超の製品を指す。16 遺伝子工学など、いわゆる「バイオテクノロジー」を応用して生み出された医薬品。

17 WHO(世界保健機関)の定義では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」こととされている。

18 医療用医薬品として用いられていた有効成分を一般用医薬品として使用できるようにスイッチした(切替えた)もの。

6│やまぐち経済月報2014.11

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 一方、医薬品や医療機器といった医療関連ビジネスの振興策も打ち出されており、今年6月には、一定の条件を満たす医薬品について承認審査期間を短縮するなど、世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器等の実用化の推進を図る「先駆けパッケージ戦略」が取りまとめられた。

4.山口県の医薬品製造業の実態と特徴⑴ 「医薬品原末、原液」の出荷額は全国トッ  プクラス 「薬事工業生産動態統計」によると、山口県における医薬品の生産金額(2012年)は約2,135億円で、全都道府県中12位となっている(4ページ図表3、図表7)。2001年以降は2,000億円台で推移しており、全国順位はこのところ10位台が続いている。また、製造所数は31か所で、全都道府県中18位である。 一方、経済産業省「工業統計」(2012年)における「品目編」のデータをみると、山口県の「医薬品原末、原液」の出荷額は736億円で、数値が秘匿されている都道府県を除くとトップとなっている19。また、「医薬品製剤(医薬部外品製剤を含む)」の出荷額は2,275億円で全国9位(秘匿除く)となっており、山口県から出荷される全品目の中では3番目に多い20。 なお、「工業統計」の産業細分類別データによると、「医薬品製剤製造業」の従業者数は2,366人で、全業種中3位の水準となっており、「医薬品原薬製造業」を含めると約3,300人に達する(図表8)。

19 全国の「医薬品原末、原液」の出荷額5,641億円のうち、数値が秘匿されている都道府県の合計額が1,000億円を超えていることから、山口県よりも出荷額の多い都道府県が存在する可能性はある。ちなみに、2011年の1位は徳島県(862億円)、2位は山口県(412億円)であった(いずれも秘匿分を除く順位)。

20 トップはガソリン(6,592億円)、第2位は普通乗用車(気筒容量2,000mlを超えるもの、シャシーを含む:金額は秘匿)である。

図表7:山口県の医薬品生産金額推移

図表8:山口県の製造業細分類業種別従業者数 (単位:事業所、人、%)

順位 業種 従業者数 対製造業構成比

1 自動車部分品・附属品製造業 4,835 5.3

2 自動車製造業(二輪自動車を含む) 2,959 3.2

3 医薬品製剤製造業 2,366 2.6

4 製鋼・製鋼圧延業 2,357 2.6

5 輸送機械器具用プラスチック製品製造業(加工業を除く) 2,237 2.5

6 脂肪族系中間物製造業(脂肪族系溶剤を含む) 2,157 2.4

7 その他の有機化学工業製品製造業 2,104 2.3

8 船舶製造・修理業 1,995 2.2

9 オフセット印刷業(紙に対するもの) 1,989 2.2

10 水産練製品製造業 1,784 2.0

・・・

25 医薬品原薬製造業 926 1.0

(資料)経済産業省「工業統計」

やまぐち経済月報2014.11│7

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⑵ 県内本社の医薬品メーカーはごく少数 山口県における医薬品製造業関連の企業・工場をみると(図表9)、その多くは県外本社企業の生産拠点となっている。 こうした中で、数少ない県内本社の医薬品メーカーとして挙げられるのが、日本歯科薬品㈱(下関市)である。同社は、歯科に特化した医薬品・医薬部外品・医療機器・化粧品という4つの事業分野を有しており、このうち歯科用医薬品に関しては、口腔洗浄・含そう剤「ネオステリングリーン」が国内で高いシェアを有する。 なお、県内では同社の他に、江戸時代創業のホンノー薬品㈱(岩国市)が伝統薬「ホンノー薬」の製造販売を行っている。⑶ 国内大手製薬メーカーの主力工場が立地 山口県では、複数の国内大手製薬メーカーが主力工場を置き、原薬製造や製剤等を行っている(図表9)。これらの工場では近年、設備増強

の動きが相次いでみられる(次ページ図表10)。① 武田薬品工業㈱光工場 武田薬品工業㈱光工場(光市)は、同社のグローバル生産体制の中核を担う拠点であると共に、本県の医薬品製造業を長年にわたり牽引している。 同工場は1946年、当時の大阪工場に次ぐ同社の新たな生産拠点として、旧光海軍工廠跡に開設された。最初に手掛けたのは発疹チフスワクチンの製造で、その後、ビタミンCも生産するなど規模を拡大していった。現在は、同社主力製品の原薬製造や製剤に加えてワクチン(麻しん風しん混合ワクチン等)の製造も行っている。 2005年には当時の湘南工場(神奈川県藤沢市)における生産を移管したほか、2010年以降、抗体医薬治験原薬棟や新たな製剤棟を建設した。さらに光工場では、新型インフルエンザワクチンの生産もスタートしており、国の助成金も活

図表9:山口県の医薬品製造業関連企業・工場

8│やまぐち経済月報2014.11

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用しながら、半年で3,300万人分のワクチン供給を可能とする生産体制の構築を図っている。② 田辺三菱製薬工場㈱小野田工場 田辺三菱製薬工場㈱小野田工場(山陽小野田市)は、田辺三菱製薬㈱グループにおける医薬品製造の中核を担う生産拠点である。 同工場は1925年、田辺五兵衛商店小野田製薬所としてサリチル酸の製造を開始した。戦後には結核治療薬を生産し、1970年代にかけては製剤工場を相次いで建設するなど、田辺製薬㈱の主力生産拠点として規模を拡大した。2005年に分社化で山口田辺製薬㈱となった後、2007年に田辺製薬㈱と三菱ウェルファーマ㈱の合併で田辺三菱製薬㈱が誕生し、翌2008年、同社の100%子会社である田辺三菱製薬工場㈱の小野田工場となった。現在は固形剤(錠剤や散・顆粒剤)や注射剤、原薬のほか、中間体や治験薬を製造しており、2013年度の生産実績は、錠剤23億錠、散・顆粒剤257トン等となっている。 なお、田辺三菱製薬工場㈱は、国内の生産拠点5か所を小野田工場と吉富工場(福岡県吉富

町)に集約する方針であり、一部の工場については他社への譲渡を進めている。③ 協和発酵キリン㈱宇部工場 協和発酵キリン㈱宇部工場(宇部市)は、経口固形製剤の専用工場として、高血圧症・狭心症治療剤等の製造を行っている。 同工場は当初、協和醱酵工業㈱宇部工場として化学肥料(硫安・尿素)を生産していたが、その後、発酵技術の活用による医薬品製造を手掛けることとなり、1991年に医療用医薬品の製剤工場を建設した。2008年に協和醱酵工業㈱とキリンファーマ㈱の合併で協和発酵キリン㈱が設立され、現在に至っている。 同工場では、2012年12月に新製剤工場が竣工した。国内生産拠点の集約に伴うもので(四日市工場は閉鎖済、富士工場と堺工場を閉鎖予定)、宇部工場には富士工場の製品(抗てんかん薬等)が移管される。生産能力は年間8億錠で、既存の工場と合計で年間14億錠となり、2015年初めから商業生産を開始する予定である。 なお、同工場関連では、協和発酵キリン㈱の100%子会社である協和発酵バイオ㈱が、山口事業所(宇部市と防府市の工場)で、原薬となるアミノ酸等の製造を行っており、2021年までには生産を防府に集約する予定となっている。④ 帝人ファーマ㈱医薬岩国製造所 帝人ファーマ㈱医薬岩国製造所(岩国市)は、帝人㈱グループにおける医薬品製剤・原薬の生産拠点で、製薬技術研究所を併設している。 同製造所は、1927年に操業を開始した帝國人造絹糸岩国工場の流れを汲むもので、1978年には帝人㈱岩国事業所内に医薬事業部門岩国製造所が設立された。1989年に医薬製剤工場、1992年には医薬原薬工場がそれぞれ生産を開始し、1998年には製薬技術研究所が開設された。2003年には分社化によって帝人ファーマ㈱が設立さ

図表10:大手製薬メーカーの    県内工場における投資事例

名称 内容 投資額

武田薬品工業㈱光工場

2011年1月、抗体医薬治験原薬棟完成。 約55億円

2012年、糖尿病や高血圧症向け等の内服固形剤専用新製剤棟完成。

約140億円

2012年、新型インフルエンザワクチンの製造設備新設。今後も増設予定あり。

約340億円

田辺三菱製薬工場㈱小野田工場

製剤棟の耐震強化工事実施。2016年10月完成予定。 約10億円

協和発酵キリン㈱宇部工場

富士工場の生産機能を移管、内服固形製剤製造。2015年稼働開始予定。

約40億円

帝人ファーマ㈱医薬岩国製造所

痛風・高尿酸血症治療剤等の販売拡大に対応すべく試験棟増設。2013年6月稼働。

約10億円

製薬技術研究所に、外科手術用シート状止血剤の融合製剤棟を新設。2014年10月着工、2015年秋完成予定。

約20億円

(資料)各社ニュースリリース、新聞記事他

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れ、製造所も現在の組織体制となった。 同製造所では2013年、痛風・高尿酸血症治療剤の生産拡大や新薬開発に対応するため、試験棟を増設した。さらに2015年には、素材技術とヘルスケア技術の融合による画期的な医薬品開発を図るため、融合製剤棟を開設する。融合製剤棟では、帝人㈱グループの高機能繊維製造技術と医薬品製造技術を融合した、止血・接着効果の高い外科手術用シート状フィブリン糊接着剤の開発推進に向けて、治験薬製造に必要となる各種製造装置や試験設備等が設置される。⑷ 化学メーカーが原薬や中間体を製造 県内では、医薬品以外の製品をメインとする化学メーカーが、既存事業で培った化学合成技術をベースに医薬品事業へ進出し、原薬や中間体を製造している(8ページ図表9、図表11)。① 宇部興産㈱宇部ケミカル工場 宇部興産㈱は、宇部ケミカル工場(宇部市)において、医薬品の原薬・中間体の製造を手掛けている。 同社の医薬品事業は、長年培った有機合成技術をベースとするもので、1980年代から研究開発を進め、1995年に第1医薬品工場が操業を開始した。1998年には第2医薬品工場、2004年には第3医薬品工場が稼働し、2011年には原薬・中間体の生産拡大を図るべく、第4医薬品工場を立ち上げた。この間、2010年には医薬事業部を新設している。 現在の事業は、自社、または製薬メーカーとの共同で新薬を創製する「自社医薬」と、製薬メーカーから原薬・中間体の製造を請け負う「受託医薬」の2本柱からなる。このうち自社医薬に関しては、抗アレルギー薬「タリオン®」(パートナー:田辺三菱製薬㈱)や血圧降下剤「カルブロック®」(同:第一三共㈱)、抗血小板剤「エフィエント®」(同:第一三共㈱)など、大手製

薬メーカーとの共同研究開発で生み出された製品があり、これらの原薬を製造している。さらに同社単独では、開発候補化合物の特定を目指した創薬研究を精力的に展開中である。 一方、受託医薬に関しては、長年の化学品製造経験・ノウハウを活用し、国内外の製薬メーカーから、開発~上市後までのいずれの段階においても、新規医薬品の原薬・中間体の受託製造を引受けている。これまで取引関係のなかった製薬メーカーとの関係構築にも努めた結果、受注件数は増加傾向にあり、さらに、同社は今後、ジェネリック医薬品の原薬製造への拡大を図る方針である。

図表11:化学合成による    医薬品(錠剤)製造工程の例

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② 日産化学工業㈱小野田工場 日産化学工業㈱小野田工場(山陽小野田市)は、農薬関連の製造を行う一方、同社唯一の医薬品関連の生産拠点として、高コレステロール血症治療薬「リバロ®」などの原薬を製造している。同工場は1891年、日本舎密製造会社小野田工場として硫酸の製造を開始し、塩と硫酸を用いた「ルブラン法」による炭酸ソーダの生産も手掛けた。その後、医薬品事業進出に伴い、1994年に製剤工場の操業を開始し、2011年には「リバロ®」の原薬製造設備が本格稼働した。現在は「リバロ®」の他に高血圧治療薬「ランデル®」の原薬も製造している。③ セントラル硝子㈱宇部工場 セントラル硝子㈱宇部工場(宇部市)は、同社のコア技術の1つであるフッ素化技術をベースとして、医薬品原薬・中間体の製造を行っている。1984年、中間体等に利用される有機フッ化物のプラントを立ち上げた後、1990年に同社の原薬を用いた全身吸入麻酔剤「セボフルラン」の国内販売が開始され、1994年には同原薬の専用製造設備が完成した。現在は、抗潰瘍剤の原薬製造等も手掛けている。④ 東ソー㈱グループ 東ソー㈱南陽事業所(周南市)では、抗体医薬製造時の抗体と不純物の分離に使用される分離精製剤「トヨパール」を製造している。「トヨパール」は、親水性ポリマーの球状体で、高強度で化学的な安定性に優れ、吸着容量も大きいこと等が強みである。2013年には、抗体吸着性能が従来品を30 ~ 50%上回る、精製効率の高い製品の製造・販売を開始した。 なお、グループ企業の東ソー有機化学㈱、東ソー・ファインケム㈱、東ソー・エフテック㈱(いずれも周南市)は、各社独自の化学合成技術を活用して中間体を製造している。

⑤ その他 中間体に関しては、周南コンビナートに立地する2つの工場でも手掛けている。保土谷化学工業㈱南陽工場(周南市)は、塩素をベースとする独自のホスゲン化技術等を駆使した中間体製造に特徴がある。また、各種化学品の製造を行うタマ化学工業㈱徳山工場(周南市)は、1989年に中間体工場の操業を開始した。 この他には、㈱トーア紡コーポレーションの100%子会社である大阪新薬㈱(山陽小野田市)や、富士紡ホールディングス㈱の100%子会社である柳井化学工業㈱(柳井市)も、独自の合成技術により中間体を製造している。 一方、塩ビ樹脂製品を手掛ける徳山積水工業㈱(周南市)は、医療機器に相当する真空採血管のほか、医薬品関係では血清分離剤や血液凝固促進剤を手掛けている。また、臨床検査薬・機器大手の富士レビオ㈱は、宇部事業所(宇部市)でインフルエンザ診断薬等を製造している。 なお、下松市に生産拠点を有する東洋鋼鈑㈱は、がん診断等に用いるDNAチップを開発した。飲料缶用の鋼板等の製造で培った表面処理技術を活用したもので、同社は今後、事業化に向けた研究を加速させる方針である。⑸ 新規進出の一方で工場閉鎖の事例あり 山口県では最近、医薬品関連の新たな工場進出の動きがみられる。 代表的な事例が、山口市の山口テクノパークに約300億円を投じて進出したテルモ山口㈱である。同社は今年4月、医療機器に相当するカテーテル製品の生産を開始しており、2015年には「ドラッグ&デバイス21」製品の製造がスタートする予定である。

21 あらかじめ治療薬などの薬剤を充填した注射器や輸液容器で、医薬品と医療機器の組み合わせにより付加価値を高めた製品。

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 また、工業用ガス大手の大陽日酸㈱は、グループ会社の周南酸素㈱(周南市)の工場敷地内に、PET(陽電子断層撮影)診断用がん診断薬原料となる「水-18O」の製造プラントを新設する。「水-18O」は超高純度の酸素を濃縮したもので、国内では大陽日酸㈱のみが製造している。投資額は約30億円で、2015年10月操業開始予定であり、稼働後は千葉工場と合計で世界一の年間生産能力(600㎏)となる。 このように、医薬品関連の生産拠点が開設される一方で、過去には工場が閉鎖された事例もある。日本たばこ産業㈱は、防府工場(防府市)で胃腸薬等の生産を行っていたが、同社の事業再構築に伴い、2006年3月末に生産を中止し、2012年3月末には工場自体も閉鎖された。

5.山口県の医薬品製造業の展望⑴ 大手製薬メーカーの工場は各社の重要な生  産拠点としての役割発揮 本稿で紹介した通り、県内に立地する大手製薬メーカー4社の生産拠点では、販売拡大や新規事業進出、さらには他工場からの生産移管等に伴う設備増強が相次いで行われている。 とりわけ、田辺三菱製薬工場㈱と協和発酵キリン㈱の事業再構築に伴う工場再編により、上記4社の国内生産拠点はいずれも1~2か所に集約され、うち1つが山口県に立地することになる(図表12)。地域経済への波及効果という観点でいえば、本社機能がない上、研究開発機能も限定的という課題はあるものの、県内の工場は今後、各社の数少ない国内生産拠点として重要な役割を果たしていくと考えられる。⑵ 化学メーカーの原薬・中間体生産は安定的  に推移する見通し 県内の化学メーカーが生産している原薬や中間体の需要に関しては、ジェネリック医薬品の

市場拡大等もあり、増加が見込まれている。こうした中で各メーカーは、コア事業に注力する一方で、医薬品や機能性素材など成長分野の強化を図っている。製薬メーカーからのコストダウン要請や他企業の新規参入等、事業環境は厳しいものの、原薬・中間体の生産は今後も安定的に推移する見通しである。⑶ 製造機器関連等で県内中小企業にもビジネ  スチャンス 前述の通り(4ページ)、医薬品製造業の産業構造をみると、比較的規模の小さい企業が目立つ。これに対し山口県の場合、大手の製薬メーカーや化学メーカーによる事業展開が中心であり、中小企業が医薬品製造に関わっている分野は、ごく一部の企業を除くと、資材供給や製品輸送など周辺業務にとどまるものとみられる。 但し、医薬品の生産工程で使用される機器類(次ページ図表13)や、それらの部品・部材の製造に関しては、県内中小企業にもビジネスチャンスはあると考えられる。実際に、蒲鉾など水産練り製品の製造装置を手掛ける㈱ヤナギヤ(宇部市)は、錠剤の成形機を製造しているほか、魚肉をかき混ぜたり潰したりする機械の技術を応用し、攪拌機の商品化を目指している22。

22 2014.1.11日本経済新聞地方経済面。

図表12:県内に工場を有する    大手製薬メーカーの国内生産拠点

企業名 国内生産拠点

武田薬品工業㈱ 大阪工場(大阪府大阪市)光工場(山口県光市)

田辺三菱製薬工場㈱

鹿島工場(茨城県神栖市:譲渡予定)大阪工場(大阪府大阪市:閉鎖予定)小野田工場(山口県山陽小野田市)吉富工場(福岡県吉富町)

協和発酵キリン㈱

高崎工場(群馬県高崎市)富士工場(静岡県長泉町:閉鎖予定)堺工場(大阪府堺市:閉鎖予定)宇部工場(山口県宇部市)

帝人ファーマ㈱ 医薬岩国製造所(山口県岩国市)(資料)各社ホームページ

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医薬品製造機器に利用されている要素技術は、粉体に関するものなど幅広く、こうした分野で優れた技術を有する県内企業の参入が期待される。

おわりに 医薬品製造業は、高付加価値の製品を生み出す産業であり、景気変動の影響を受けにくいといわれている。山口県においては、大手製薬メーカーの主要生産拠点が立地する上、原薬製造に関しても全国有数の規模を誇るという強みがあることから、本県の医薬品製造業は引き続

<主要参考文献>厚生労働省「医薬品産業ビジョン2013」(2013年)㈱じほう「薬事ハンドブック2014」(2014年)日本プロセス化学会「実践プロセス化学」(2013年)各社ホームページ、ニュースリリース、有価証券報告書

き、雇用や生産等の面で地域経済をけん引するものと思われる。今後は、特徴的な技術を有する県内の多くのものづくり企業が、製造機器の開発等を通じて医薬品製造業との関わりを深めていけば、同業界が厚みと広がりのある産業として一層発展していくに違いない。

(能野 昌剛)

図表13:医薬品の生産工程で使用される主な機器類

生産工程 主な機器類 機能等の概要

中間体や原薬の製造

反応釜医薬品原料の反応、蒸留、結晶化に使用。耐久性や加工性に優れたステンレス等の金属製反応釜のほか、腐食・耐食防止のため内部をガラスなどで溶融加工(ライニング)した反応釜等がある。

遠心分離機、ろ過機結晶の混ざった液体を固形部分と液体部分に分離するもの。主な機器は、高速回転による遠心力で分離する遠心分離機や、密閉下で加圧もしくは減圧することによってろ過する加圧/減圧ろ過機等。

製剤

粉砕機原薬の粒子径を適切な大きさに粉砕する機器。セラミックボールの中に投入して粉砕するタイプや、高速回転するハンマーを用いるもの、高速ジェット気流で粉砕する機器など様々な種類がある。

分級機(ふるい機)製剤過程の粒子を分別(ふるい分け)する機器。網を振動させるふるい分けや、気流によって分別する方法等、機能に応じた装置がある。

混合機、攪拌機固形状のものをかき混ぜる「混合」や、流体状のものをかき混ぜる「攪拌」に使用。容器自体を回転させるものや、容器内の羽根を回転させる機器等がある。

造粒機顆粒の製造に欠かせない機器。結合剤を加える湿式と、乾燥状態のまま成形粉砕する乾式がある。湿式については、押出造粒、転動造粒(回転運動を利用)、流動層造粒(熱風で流動化後に結合剤で凝集)等に分類される。

打錠機錠剤をつくるための機器。ローラーの回転によって杵と臼が作動し成形を行うロータリー式が一般的。

(資料)日本プロセス化学会「実践プロセス化学」他

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