copd患者のための日常生活活動スケールの開発: … the st. george’s respiratory...

7
858 ●原 要旨:目的:COPD 患者に特異的な日常生活活動息切れスケール(ADL-D スケール)を開発し,その妥当 性と内的整合性を検証する.方法:83 人の男性 COPD 患者に対し,26 項目質問紙調査を行い,同時に ISWT,SGRQ,および MRC dyspnea grade を測定した.結果:26 項目質問紙の内,重要性が低いと判断 された 11 項目が削除され,最終的な ADL-D スケールは 15 項目となった.ADL-D スケールと,MRC dysp- nea grade,ISWT,SGRQ との間に強い相関があり,ADL-D スケールは,MRC dyspnea grade の重症度間 全てに有意差が認められた.ADL-D スケールと 26 項目質問紙は非常に強い相関関係があった.ADL-D ス ケールの Cronbach’s α 係数は 0.96 と高かった.結論:ADL-D スケールは,邦人男性 COPD 患者において ADL 障害を評価するために有効なスケールである. キーワード:日常生活活動,慢性閉塞性肺疾患,息切れ,質問紙,スケール Activities of daily living,Chronic obstructive pulmonary disease,Dyspnea, Questionnaire,Scale 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary dis- ease;以下,COPD)患者は,労作時の息切れが阻害因 子となり,日常生活活動(activities of daily living;以 下,ADL)能力の低下を引き起こす.病気が進行する につれ,多くの COPD 患者は息切れが起こるのではな いかという恐れ・不安,あるいは実際の息切れに伴う恐 怖・不安を経験する.そのため息切れが生じる ADL を 避けるようになり,ADL能力は徐々に低下していく )~臨床診療において ADL 評価は重要なアウトカムの一 つとして Barthel index などの一般的 ADL 尺度を用い て評価されてきた.しかし,COPD 患者の ADL 障害は 他の運動器疾患などとは異なり,動作自体の遂行能力は 保たれているが,息切れを訴えて動作を中断することが 多いため,一般的 ADL 尺度ではその障害状況を十分に はとらえられないことが指摘されている .そのために COPD の特性を考慮した疾患特異的な ADL 尺度とし て,the University of California, San Diego Shortness of Breath Questionnaire(SOBQ) ,the modified version of the Pulmonary Functional Status and Dyspnea Ques- tionnaire(PFSDQ-M) ,the Functional Performance In- ventory(FPI) 10,the London Chest ADL Scale (LCADL) 11,the Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(NRADL) 12,the chronic obstructive pul- monary disease activity rating scale(CARS) 13,and the Activities of Daily Living Using Upper Limb Score (ADL-U Score) 14などが開発されてきた. こ の な か で SOBQ,PFSDQ-M,FPI,LCADL は 本 邦の生活習慣に一致しないなどの理由から,本邦での報 告はまだ限られている.一方,NRADL,CARS,ADL- U Scoreは本邦にて開発された ADL 尺度である.しか し,NRADL は面接式のため評価に時間を要する.入院 患者のみに適応でき,外来患者には適応できない.移動 動作に重点が置かれており,上肢機能を評価するには不 十分といった問題がある.CARSは自立度の評価であり, 息切れの評価が含まれていないなどの問題点がある. ADL-U Scoreは我々が開発した上肢を用いたセルフケア に着目した 11 項目の自己記入式質問紙である.ADL-U Scoreは NRADL,6 分間歩行距離と有意な相関を認め, さらに息切れ重症度分類において有意差が認められ, Cronbach の α 係数 0.98 と,高い内的整合性を示した 14しかし,ADL-U Scoreは移動能力などの評価はできない 問題点があった. そこで今回,多くの COPD 患者に共通にみられる動 COPD 患者のための日常生活活動スケールの開発:日常生活活動息切れスケール 與座 嘉康 有吉 紅也 本田 純久 谷口 博之 千住 秀明 Respirology 誌からの二次発表論文です 〒8615598 熊本県熊本市和泉町 325 1) 熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科 2) 長崎大学熱帯医学研究所臨床医学分野 3) 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野 4) 公立陶生病院呼吸器・アレルギー内科 5) 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・ 作業療法学講座理学療法学分野 (受付日平成 21 年 5 月 25 日) 日呼吸会誌 47(10),2009.

Upload: dotram

Post on 28-Feb-2019

255 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

858

●原 著

要旨:目的:COPD患者に特異的な日常生活活動息切れスケール(ADL-D スケール)を開発し,その妥当性と内的整合性を検証する.方法:83人の男性COPD患者に対し,26項目質問紙調査を行い,同時にISWT,SGRQ,およびMRC dyspnea grade を測定した.結果:26項目質問紙の内,重要性が低いと判断された 11項目が削除され,最終的なADL-D スケールは 15項目となった.ADL-D スケールと,MRC dysp-nea grade,ISWT,SGRQとの間に強い相関があり,ADL-D スケールは,MRC dyspnea grade の重症度間全てに有意差が認められた.ADL-D スケールと 26項目質問紙は非常に強い相関関係があった.ADL-D スケールのCronbach’s α係数は 0.96 と高かった.結論:ADL-D スケールは,邦人男性COPD患者においてADL障害を評価するために有効なスケールである.キーワード:日常生活活動,慢性閉塞性肺疾患,息切れ,質問紙,スケール

Activities of daily living,Chronic obstructive pulmonary disease,Dyspnea,Questionnaire,Scale

緒 言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary dis-ease;以下,COPD)患者は,労作時の息切れが阻害因子となり,日常生活活動(activities of daily living;以下,ADL)能力の低下を引き起こす.病気が進行するにつれ,多くのCOPD患者は息切れが起こるのではないかという恐れ・不安,あるいは実際の息切れに伴う恐怖・不安を経験する.そのため息切れが生じるADLを避けるようになり,ADL能力は徐々に低下していく1)~5).臨床診療においてADL評価は重要なアウトカムの一

つとしてBarthel index6)などの一般的ADL尺度を用いて評価されてきた.しかし,COPD患者のADL障害は他の運動器疾患などとは異なり,動作自体の遂行能力は保たれているが,息切れを訴えて動作を中断することが多いため,一般的ADL尺度ではその障害状況を十分にはとらえられないことが指摘されている7).そのためにCOPDの特性を考慮した疾患特異的なADL尺度とし

て,the University of California, San Diego Shortness ofBreath Questionnaire(SOBQ)8),the modified versionof the Pulmonary Functional Status and Dyspnea Ques-tionnaire(PFSDQ-M)9),the Functional Performance In-ventory(FPI)10),the London Chest ADL Scale(LCADL)11),the Nagasaki University Respiratory ADLquestionnaire(NRADL)12),the chronic obstructive pul-monary disease activity rating scale(CARS)13),and theActivities of Daily Living Using Upper Limb Score(ADL-U Score)14)などが開発されてきた.このなかで SOBQ,PFSDQ-M,FPI,LCADLは本

邦の生活習慣に一致しないなどの理由から,本邦での報告はまだ限られている.一方,NRADL,CARS,ADL-U Scoreは本邦にて開発されたADL尺度である.しかし,NRADLは面接式のため評価に時間を要する.入院患者のみに適応でき,外来患者には適応できない.移動動作に重点が置かれており,上肢機能を評価するには不十分といった問題がある.CARSは自立度の評価であり,息切れの評価が含まれていないなどの問題点がある.ADL-U Scoreは我々が開発した上肢を用いたセルフケアに着目した 11 項目の自己記入式質問紙である.ADL-UScoreは NRADL,6分間歩行距離と有意な相関を認め,さらに息切れ重症度分類において有意差が認められ,Cronbach の α係数 0.98 と,高い内的整合性を示した14).しかし,ADL-U Scoreは移動能力などの評価はできない問題点があった.そこで今回,多くのCOPD患者に共通にみられる動

COPD患者のための日常生活活動スケールの開発:日常生活活動息切れスケール

與座 嘉康1) 有吉 紅也2) 本田 純久3) 谷口 博之4) 千住 秀明5)

Respirology 誌からの二次発表論文です〒861―5598 熊本県熊本市和泉町 3251)熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科2)長崎大学熱帯医学研究所臨床医学分野3)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野4)公立陶生病院呼吸器・アレルギー内科5)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座理学療法学分野

(受付日平成 21 年 5月 25 日)

日呼吸会誌 47(10),2009.

日常生活活動スケールの開発 859

Fig. 1 Steps in the development process of the Activity of Daily Living Dyspnea scale.

作項目で構成され,かつ簡便でCOPD患者のADL障害を反映できる新しいADL評価表の開発を目的に,日常生活活動息切れスケール(the Activity of Daily LivingDyspnea scale:ADL-D スケール)を開発し,妥当性と内的整合性を検証したので報告する.

対象と方法

対象対象は,日本国内の病院 7施設と診療所 3施設にて呼

吸リハビリテーションプログラムに参加し,症状の安定期にある男性COPD患者であり,質問紙調査に支障のある知的レベルの低下を認める患者,心筋症・弁膜症・コントロール不良な重症心不全・急性心筋梗塞・重症不整脈などの循環器疾患,および日常生活に支障をきたす骨関節疾患,脳血管疾患などの合併症を有する患者,研究開始前 3カ月以内に急性増悪の既往のある患者は対象から除外した.なお,各施設の倫理委員会から承認を得て,すべての対象者に対し,研究目的と方法を十分に説明したうえで,書面により研究への参加に同意を得た.方法対象者は,以下の評価を完了した.

1 The Medical Research Council(MRC)dyspnea grade

息切れ重症度は,MRC dyspnea grade15)を用いて評価した.2 The Incremental Shuttle Walking Test(ISWT)運動耐容能は,酸素療法を受けていない 56 例の対象

者で ISWT16)を用い評価した.対象者は少なくても 30分以上の休憩を挟んでテストを 2回行った.ISWTの中止基準は,強度の息切れなどの自覚症状,患者が決められた時間内に完全にコーンを回ることができない場合,経皮的酸素飽和度が 85%以下に達した場合などとした.3 The St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)健 康 関 連QOL(Health-related quality of life:

HRQOL)は,COPDに特異的な SGRQ17)を用いて評価した.SGRQは,53 項目の質問からなり,活動,影響,症状の下位尺度と合計で構成される.

ADL-D スケールの開発

Fig. 1 に,ADL-D スケールの開発手順を示す.26 項目質問紙事前にCOPD患者 20 例に対し,息切れを感じるADL

を聞き取り調査した.この事前調査結果と,ADL関連の先行文献を参考に 26 項目の動作項目を作成し,各動

日呼吸会誌 47(10),2009.860

Table 1 Characteristics of the male patients who par-ticipated in the questionnaire development (n=83)

RangeMean±SD

55―8671.8±5.7 Age (years)0.32―2.300.90±0.4 FEV1 (L) 11.8―78.433.9±14.3FEV1 (% predicted) 1.1―3.722.3±0.7FVC (L) 15.7―63.139.5±10.6FEV1/FVC (%) 120―610346.8±125.6ISWT distance † (m)  6―92.557.2±21.6SGRQ activity  0―92.232.9±21.2SGRQ impact 8.8―10050.1±22.1SGRQ symptoms4.5―9044.2±19.3SGRQ total 17―10478.3±21.6Pilot 26-item questionnaire ‡

† The 56 subjects who were not receiving supplementary oxygen.‡ A pilot 26-item questionnaire previously generated by open-ended interview and by literature review.ISWT, Incremental Shuttle Walking Test; SGRQ, St. George's Respiratory Questionnaire.

Appendix The Activity of Daily Living scale containing the 15 items for assessing activity of daily living in patients with chronic obstructive pulmonary disease.

作項目に対して「4:息切れを全く感じない」,「3:少し感じる」,「2:きつい」,「1:かなりきつい」,「0:最大限にきつい」の 5段階評定尺度と,別に「X:する必要なし」の回答を付け加え 26 項目質問紙を作成した.対象者が「X:する必要なし」と回答した項目は,欠

損値となり総合得点の標準化が困難である.そこで,「X:する必要なし」と回答した項目は,その動作を行った場合,息切れがどの程度起こるか予想して回答するように依頼した.回答にあたっては記入方法や内容を十分に説明した

後,自己記入式で行った.事前調査の対象者 20 例は,以降の本調査にも参加し,

全ての対象者は 2週間以内に 26 項目質問紙と他の測定を完了させた.項目選別我々は,3つの判定基準に基づいて項目を選択した.第 1に,20%以上の対象が「する必要なし」と回答

し,実用性がないと判断された項目を削除した(Not ap-

propriate).第 2に,Spearman の順位相関係数においてMRC

dyspnea grade と統計的に有意な相関がみられず(P>0.05),重症度と関連しないと判断された項目を削除した(Unrelated to global health).第 3に,理学療法士 13 名(呼吸リハ臨床経験年数 3~

20 年)に本研究の目的を説明し,各動作項目の重要性を臨床的に「残した方が良い」,「どちらともいえない」,「削除してもかまわない」から選択するよう依頼し,50%以上の理学療法士が「削除してもかまわない」もしくは

「どちらともいえない」と回答した項目を削除した(Low

clinical significance).残った項目をADL-D スケールの項目とした.

ADL-D スケールの妥当性と内的整合性の検討

ADL-D スケールの併存的妥当性は,ADL-D スケールとMRC dyspnea grade,ISWTの歩行距離,SGRQ(各下位尺度と合計得点)の関係から検討した.ADL-D スケールの判別的妥当性は,ADL-D スケール

をMRC dyspnea grade の重症度間で比較することによって検討した.ADL-D スケール開発過程での項目削除の影響を

ADL-D スケール(15 項目)と 26 項目質問紙の関係から検討した.最後に内的整合性を検討した.統計解析変数間の相関は Spearman の順位相関係数にて,群

間比較については,Mann-Whitney の U検定にて,内的整合性はCronbach の α係数にて検討した.統計解析には SPSS(バージョン 11.5J)を使用し,有

意確率が 5%未満をもって統計的に有意であるとした.

日常生活活動スケールの開発 861

Table 2 Relationships between scores on the ADL-D scale and MRC dyspnea grades, functional exercise capacity and health-related quality of life

SGRQISWT distance †

MRC dyspnea grades

ADL-D scale TotalSymptomsImpactActivity

―――――――ADL-D scale――――――-0.79 *MRC dyspnea grades―――――-0.59 * 0.67 *ISWT distance †――――-0.57 * 0.72 *-0.83 *SGRQ (activity) ――― 0.70 *-0.46 * 0.68 *-0.71 *SGRQ (impact) ―― 0.68 * 0.63 *-0.35 * 0.52 *-0.54 *SGRQ (symptoms) ― 0.79 * 0.95 * 0.86 *-0.52 * 0.74 *-0.79 *SGRQ (total)

*Spearman rank correlation P<0.001.†Data obtained in the 56 subjects who were not receiving supplementary oxygen.― , not applicable; ADL-D scale, the Activity of Daily Living Dyspnea scale; ISWT, Incremental Shuttle Walking Test; MRC dyspnea grade, the Medical Research Council dyspnea grade; SGRQ, St. George's Respiratory Questionnaire.

Fig. 2 Box plot showing relationship between the Ac-tivity of Daily Living Dyspnea scale (ADL-D scale) and the Medical Research Council (MRC) dyspnea grade. Data are displayed as box-and-whisker plots. The box indicates the lower and upper quartiles and the central line is the median value. The horizontal lines at the ends of the vertical lines are the inner fence.

Fig. 3 Scatter plot showing the relationship between scores obtained with the 15 item Activity of Daily Liv-ing Dyspnea scale (ADL-D scale) and the 26 item pilot questionnaire.

結 果

Table 1に,本研究に参加した 83 例の男性対象者の属性を示す.対象者の年齢は 55~86 歳からなり,肺機能による

COPD重症度分類では平均で重症に分類された.対象者のMRC dyspnea grade は 1 度が 9例,2度が 34 例,3度が 19 例,4度が 12 例,5度が 9例であった.事前調査の対象者と本調査の対象者との間に有意差は

なかった.

項目選択20%以上の対象が,「する必要なし」と回答した「洗

濯物を干す」(45.2%),「掃除機をかける」(41.7%),「ほうきで掃く」(41.7%),「テーブルを拭く」(32.1%),「床を拭く」(54.8%),「重たいものを床からテーブルに持ち上げる」(20.2%),「布団を干す」(29.8%),「重たいものを運ぶ」(21.4%)の 8項目が削除された.全ての項目がMRC dyspnea grade と有意な相関を認

め(r=-0.53~-0.76,P<0.001),削除された項目は無かった50%以上の理学療法士が「削除してもかまわない」も

しくは「どちらとも言えない」と回答した「床から立ち上がる」(54%),「タオルや布巾を手洗いする」(100%),「高い場所にある物を取る」(62%)の 3項目が削除された.従って,残った 15 項目にてADL-D スケールが構

日呼吸会誌 47(10),2009.862

成され,得点は 0~60 点の範囲で息切れが全くない場合は 60 点となった(Appendix).妥当性と内的整合性の検討ADL-D スケールの平均得点と標準偏差は 46.7±11.5

(範囲 14~60)であった.Table 2 は,ADL-D スケールとMRC dyspnea grade,

ISWTの歩行距離,SGRQの相関を示す.全てに有意な相関を認めた.ADL-D スケールは SGRQ(活動)と最も強く相関し,一方,SGRQ(症状)とは有意であるが,最も相関関係が弱かった.ADL-D スケールとMRCdyspnea grade,ISWTの相関は,SGRQ(活動)とMRCdyspnea grade,ISWTの相関より同程度以上強かった.ADL-D スケールは,MRC dyspnea grade の重症度間

全てに有意差を認め,MRC dyspnea grade 3 度~5度で特に著明であった(Fig. 2).ADL-D スケールとそのプロトタイプである 26 項目質

問紙とは非常に強い相関関係があった(Fig. 3).ADL-D スケールのCronbach の α係数は 0.96 と高かった.

考 察

今回我々は,邦人男性COPD患者を対象にADL-Dスケールを開発した.ADL-D スケールは自己記入式で,少ない項目から構成されているため,既存のADL評価尺度より簡便に行えると考える.さらに本研究の結果は,邦人男性COPD患者に対して,ADL-D スケールがISWT,SGRQおよびMRC dyspnea grade と相関し,一貫した結果を提供することを示している.多くのCOPD患者に適応できるADL評価表は,日常

生活の中で最も基本的であり,共通にみられる動作項目で構成されなければならない.そのため,我々は実施率の低い動作項目は削除することが望ましいと考えた.Lareau ら9)は PFSDQ-Mを作成する際,PFSDQ18)の項目の内 20%以上の対象者が行っていない項目を削除基準とした.本研究でも,より共通の動作項目で構成されるよう 20%以上の対象者が行っていない 8項目を削除した.臨床において用いやすいADL評価表は,項目が少な

く簡便であることが望ましい.これまで開発されてきたADL評価表11)14)は項目選択において,統計学的に検討はされているが,臨床的に検討されているものは少ない.そこで本研究では,統計学的検討だけでなく臨床的検討も加え,理学療法士の 50%以上が「削除してもかまわない」もしくは「どちらともいえない」と回答した 3項目は臨床的重要性が低いと判断し削除した.その結果,ADL-D スケールは 15 項目と少ない項目で構成され,自己記入にて短時間で完了することができ,評価者と患者の負担が軽減できると考えられる.

先行研究において,COPD患者のADL能力は運動耐容能およびHRQOLと相関すると報告されている.そこで,ADL-D スケールの妥当性を検証するために,我々はADL-D スケールが運動耐容能,HRQOLおよび息切れ重症度と関連すると仮説を立てた.ADL-D スケールは ISWTの歩行距離および SGRQと

強い相関を認めた.ADL-D スケールは,SGRQ(活動)と最も強く相関

し,SGRQ(症状)とは中等度の相関を示した.これは,SGRQ(活動)は息切れを評価しているのに対し,SGRQ(症状)は咳・痰,喘鳴などの症状を主に評価しているためと考えられる.これらの結果は,ADL-D スケールの得点が低い患者

ほど運動耐容能,QOLが損なわれており,ADL-D スケールは患者の健康ステータスを反映し,有効なツールであることを証明している.さらに,ADL-D スケールは,MRC dyspnea grade 全

ての重症度において有意差が認められた.すなわち,ADL-D スケールは,息切れによって引き起こされた障害レベルを区別できることを示唆している.項目数が少ないことは,テストの簡便性や実用性の点

では好ましいが,逆にテストから得られる情報量の点では問題となる場合がある.ADL-D スケールと SGRQ(活動)は,ADLにおける

息切れという同じ概念を測定しており,ADL-D スケールとMRC dyspnea grade,ISWTの相関は,SGRQ(活動)とMRC dyspnea grade,ISWTの相関より同程度以上強かった.SGRQ(活動)が「はい」「いいえ」の 2段階尺度であるのに対し,ADL-D スケールは 5段階尺度を適応したことで,項目数が少なくても,簡便性を損なうことなく多くの情報量を得ることができたと考える.加えて,ADL-D スケールは項目削除前の質問紙と非

常に強い相関を認められたことから,項目削除による影響が殆どなく,選択された項目にて包括的にADLにおける息切れが評価できると考えられる.一般的にCronbach の α係数が 0.70 以上であれば内

的整合性が良好とされている25).ADL-D スケールの内的整合性は非常に高く,息切れを測定するための効果的なツールであることを示した.ADL-D スケールに含まれる項目は,COPD患者が共

通に行っている動作であり,息切れを感じやすいとされる移動動作や上肢を使用した動作3)5)14)26)~28)が含まれている.我々のスケールは,ADL指導の基礎資料となり,ま

た,得点の低い項目の動作様式を運動療法に取り入れるなど,呼吸リハビリテーションプログラム作成時に重要

日常生活活動スケールの開発 863

な情報源と成り得る.本研究には,若干の限界がある.本研究の対象は邦人

男性COPD患者のみであった.我々は,女性COPD患者およびCOPD以外の慢性呼吸器疾患でのADL-D スケールの妥当性と内的整合性の検証,および邦人以外での検証も必要と考える.加えて,ADL-D スケールの再現性と呼吸リハビリテーションなど治療的介入への反応性も調査する必要がある.謝辞:稿を終えるにあたり,この原稿をチェックして頂きましたカーティン工科大学准教授 Sue Jenkins 博士,および本研究にご協力頂きました諫早記念病院,霧ヶ丘つだ病院,江南病院,公立陶生病院,聖隷三方原病院,長崎呼吸器リハビリクリニック,仲村クリニック,保善会田上病院,吉島病院リハビリテーションスタッフ各位に深謝申し上げます.

引用文献

1)Kinsman RA, Yaroush RA, Fernandez E, et al.Symptoms and experiences in chronic bronchitisand emphysema. Chest 1983 ; 83 : 755―761.

2)Prigatano GP, Wright EC, Levin D. Quality of lifeand its predictors in patients with mild hypoxemiaand chronic obstructive pulmonary disease. ArchIntern Med 1984 ; 144 : 1613―1619.

3)Restrick LJ, Paul EA, Braid GM, et al. Assessmentand follow up of patients prescribed long term oxy-gen treatment. Thorax 1993 ; 48 : 708―713.

4)Rennard S, Decramer M, Calverley PM, et al. Im-pact of COPD in North America and Europe in2000 : subjects’ perspective of Confronting COPDInternational Survey. Eur Respir J 2002 ; 20 : 799―805.

5)Velloso M, Stella SG, Cendon S, et al. Metabolic andventilatory parameters of four activities of daily liv-ing accomplished with arms in COPD patients.Chest 2003 ; 123 : 1047―1053.

6)Mahoney FI, Barthel DW. Functional Evaluation :The Barthel Index. Md State Med J 1965 ; 14 : 61―65.

7)Yohannes AM, Roomi J, Waters KW. A comparisonof the Barthel index and Nottingham extended ac-tivities of daily living scale in the assessment of dis-ability in chronic airflow limitation in old age. AgeAgeing 1998 ; 27 : 369―374.

8)Eakin EG, Resnikoff PM, Prewitt LM, et al. Valida-tion of a new dyspnea measure : the UCSD Short-ness of Breath Questionnaire. University of Califor-nia, San Diego. Chest 1998 ; 113 : 619―624.

9)Lareau SC, Meek PM, Roos PJ. Development andtesting of the modified version of the pulmonary

functional status and dyspnea questionnaire(PFSDQ-M) . Heart Lung 1998 ; 27 : 159―168.

10)Leidy NK. Psychometric Properties of the Func-tional Performance Inventory in Patients WithChronic Obstructive Pulmonary Disease. NursingResearch 1999 ; 48 : 20―28.

11)Garrod R, Bestall JC, Paul EA, et al. Developmentand validation of a standardized measure of activityof daily living in patients with severe COPD : theLondon Chest Activity of Daily Living scale(LCADL). Respir Med 2000 ; 94 : 589―596.

12)日本呼吸管理学会,日本呼吸器学会,日本理学療法士協会.ADLトレーニング.呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―.照林社,東京,2003 ;110.

13)Morimoto M, Takai K, Nakajima K, et al. Develop-ment of the chronic obstructive pulmonary diseaseactivity rating scale : reliability, validity and facto-rial structure. Nurs Health Sci 2003 ; 5 : 23―30.

14)與座嘉康,北川知佳,田中貴子,他.慢性呼吸器疾患患者における上肢の日常生活活動評価表の作成.日本呼吸管理学会誌 2003 ; 13 : 365―372.

15)Brooks SM. Surveillance for respiratory hazards.ATS News 1982 ; 8 : 12―16.

16)Singh SJ, Morgan MD, Scott S, et al. Development ofa shuttle walking test of disability in patients withchronic airways obstruction. Thorax 1992 ; 47 :1019―1024.

17)Jones PW, Quirk FH, Baveystock CM, et al. A self-complete measure of health status for chronic air-flow limitation. The St. George’s Respiratory Ques-tionnaire. Am Rev Respir Dis 1992 ; 145 : 1321―1327.

18)Lareau SC, Carrieri-Kohlman V, Janson-Bjerklie S,et al. Development and testing of the PulmonaryFunctional Status and Dyspnea Questionnaire(PFSDQ). Heart Lung 1994 ; 23 : 242―250.

19)Jones PW, Baveystock CM, Littlejohns P. Relation-ships between general health measured with thesickness impact profile and respiratory symptoms,physiological measures, and mood in patients withchronic airflow limitation. Am Rev Respir Dis 1989 ;140 : 1538―1543.

20)Mahler DA, Faryniarz K, Tomlinson D, et al. Impactof dyspnea and physiologic function on generalhealth status in patients with chronic obstructivepulmonary disease. Chest 1992 ; 102 : 395―401.

21)Bestall JC, Paul EA, Garrod R, et al. Usefulness ofthe Medical Research Council (MRC) dyspnoea scaleas a measure of disability in patients with chronic

日呼吸会誌 47(10),2009.864

obstructive pulmonary disease. Thorax 1999 ; 54 :581―586.

22)Belza B, Steele BG, Hunziker J. Correlates of physi-cal activity in chronic obstructive pulmonary dis-ease. Nurs Res 2001 ; 50 : 195―202.

23)Dourado VZ, Antunes LC, Tanni SE, et al. Relation-ship of upper-limb and thoracic muscle strength to6-min walk distance in COPD patients. Chest 2006 ;129 : 551―557.

24)Oga T, Nishimura K, Tsukino M, et al. Dyspnoeawith activities of daily living versus peak dyspnoeaduring exercise in male patients with COPD. RespirMed 2006 ; 100 : 965―971.

25)Bland JM, Altman DG. Statistics notes : Cronbach’s

alpha. BMJ 1997 ; 314 : 572.26)Tangri S, Woolf CR. The breathing pattern in

chronic obstructive lung disease during the per-formance of some common daily activities. Chest1973 ; 63 : 126―127.

27)Baarends EM, Schols AM, Slebos DJ, et al. Meta-bolic and ventilatory response pattern to arm eleva-tion in patients with COPD and healthy age-matched subjects. Eur Respir J 1995 ; 8 : 1345―1351.

28)Soguel Schenkel N, Burdet L, de Muralt B, et al.Oxygen saturation during daily activities in chronicobstructive pulmonary disease. Eur Respir J 1996 ;9 : 2584―2589.

Abstract

Development of an activity of daily living scale for patients with COPD : the Activity ofDaily Living Dyspnea scale

Yoshiyasu Yoza1), Koya Ariyoshi2), Sumihisa Honda3), Hiroyuki Taniguchi4)and Hideaki Senjyu5)1)Department of Health Science, School of Kumamoto Health Science University

2)Department of Internal Medicine, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University3)Department of Public Health, Graduate School of Biomedical Sciences, Nagasaki University

4)Department of Respiratory Medicine and Allergy, Tosei General Hospital5)Department of Physical Therapy, Course of Health Sciences, Graduate School of Biomedical Sciences,

Nagasaki University

Background and objective : Patients with COPD often experience restriction in their activities of daily living(ADL) due to dyspnea. This type of restriction is unique to patients with COPD and cannot be adequately evalu-ated by the generic ADL scales. This study developed an ADL scale (the Activity of Daily Living Dyspnea scale[ADL-D scale]) for patients with COPD and investigated its validity and internal consistency. Methods : Patientswith stable COPD were recruited and completed a pilot 26-item questionnaire. Patients also performed the Incre-mental Shuttle Walk Test (ISWT), and completed the St George’s Respiratory Questionnaire (SGRQ), and MedicalResearch Council (MRC) dyspnea grade. Results : There were 83 male participants who completed the pilot ques-tionnaire. Following the pilot, 8 items that were not undertaken by the majority of subjects, and 3 items judged tobe of low clinical importance by physical therapists were removed from the pilot questionnaire. The final ADL-Dscale contained 15 items. Scores obtained with the ADL-D scale were significantly correlated with the MRC dysp-nea grades, distance walked on the ISWT and SGRQ scores. The ADL-D scores were significantly different acrossthe five grades of the MRC dyspnea grade. The ADL-D scale showed high consistency (Chronbach’s α coefficientof 0.96). Conclusions : The ADL-D scale is a useful scale for assessing impairments in ADL in Japanese male pa-tients with COPD.