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電磁気学 I, II 風間洋一

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Page 1: 電磁気学 I, II 風間洋一hep1.c.u-tokyo.ac.jp/~kazama/emgakushuin/emall-up-zenki.pdf9 第1章 序論: 電磁気学I, IIの目標 1.1 電磁気学の重要性 電磁気学は次の二つの意味で非常に重要な学問である。実用性:

電磁気学 I, II

風間洋一

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電磁気学 I, II

担当 風間洋一  Home Page: http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/˜kazama/kazama.htm

電磁気学 I

1. 序論: 電磁気学 I, IIの目標

1.1 電磁気学の重要性

1.2 電磁気学の枠組みの概観

2. 静電場

2.1 クーロンの法則

2.2 電場の概念と重ね合わせ:連続分布に対するクーロン則

2.3 クーロン則の簡単な応用

2.4 ガウスの法則とマックスウェルの第1方程式

2.5 ポテンシャルエネルギーと電位

2.6 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場

2.7 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、および電場

2.8 電場のエネルギーの概念

2.9 導体系の電位と電気容量

2.10 導体系に働く力

電磁気学 II

3. 定常電流

3.1 オームの法則

3.2 ジュール熱

3.3 電荷の保存則

3.4 起電力と電池

3.5 抵抗と電池を使った回路網

4. 静磁場

4.1 序論

4.2 クーロン静磁場とローレンツ力

4.3 電流間に働く力とビオ-サヴァールの法則

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4.4 ビオ-サヴァール則からマックスウェル方程式へ

4.5 静磁場の法則の積分形とその応用

5. 時間変化する電磁場

5.1 磁場の時間変化:ファラディーの電磁誘導の法則

5.2 電場の時間変化とマックスウェルの変位電流

5.3 マックスウェル方程式系のまとめ

5.4 真空中のマックスウェル方程式と電磁波

参考書について:

• この講義では、電磁気学を高校で履修していることを前提としないので、それを前提とした教科書は用いない。講義ノートをきちんととり、適所に配された演習問題を自分で解いていけば、十分な理解が得られるように設計してある。

• 適当な時期に、何度かに分けて、講義ノートの pdf fileをHPに upする。演習問題の解答も付ける。

• しかし、自分の学力及び興味に合致した本を一冊座右において参考にすれば、より深い理解を得ることができる。電磁気学に関する本は多々あるが、定評のあるもの(の一部)をおおまかな難易度 (A,B)をつけて幾つか示す。この講義に関してはA程度で十分である。

– 長岡洋介:「電磁気学 I, II」、「例解電磁気学演習」、 岩波物理入門コース (A)

– 原康夫:「電磁気学 I, II」、裳華房 (A)

– 加藤正昭:「電磁気学」、東大出版会 (A ∼ B)

– ファインマン物理学:「電磁気学」、「電磁波と物性」、 岩波 (A ∼ B)

– バークレー物理学コース 「電磁気、上下」、丸善 (A ∼ B)

– バーガー・オルソン:「電磁気学 I, II」、培風館 (B)

– 金原寿郎:「電磁気学 I, II」、裳華房 (B)

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目 次

第 1章 序論: 電磁気学 I, IIの目標 9

1.1 電磁気学の重要性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

1.2 電磁気学の枠組みの概観 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

第 2章 静電場 17

2.1 Coulombの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

2.2 電場の概念と重ね合わせ:連続分布に対する Coulomb則 . . . . . . . . . 22

2.3 Coulomb則の簡単な応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

2.4 Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

2.4.1 Gaussの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

2.4.2 Gaussの法則による電場の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

2.4.3 Gaussの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35

2.4.4 Maxwellの第一方程式の微分形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

2.5 ポテンシャルエネルギーと電位 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

2.5.1 仕事とポテンシャルエネルギーの復習 . . . . . . . . . . . . . . . . 38

2.5.2 クーロン力によるポテンシャルエネルギーと電位 . . . . . . . . . . 39

2.5.3 電位の満たす方程式:ポアソン方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . 43

2.5.4 Poisson方程式の一般解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43

2.6 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46

2.6.1 単電荷、及び電気双極子のつくる場 . . . . . . . . . . . . . . . . . 46

2.6.2 電位の多重極 (Multipole)展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48

2.7 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場 . . . . . . . . . . . . . . . 53

2.7.1 静的な状態での導体の電気的特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53

2.7.2 導体の回りの静電場の求め方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54

2.7.3 Kelvinの鏡像法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

2.8 電場のエネルギーの概念 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

2.8.1 静電エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

2.8.2 簡単な系の持つ静電エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63

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2.8.3 静電エネルギーの電場のエネルギーとしての解釈 . . . . . . . . . . 64

2.9 導体系の電位と電気容量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 67

2.10 導体系にはたらく力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 74

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第1章 序論: 電磁気学I, IIの目標

1.1 電磁気学の重要性

電磁気学は次の二つの意味で非常に重要な学問である。

実用性:

• 日常生活における様々な電気的磁気的現象を司る。

• 実は、原子レベル以上のほとんどすべての現象を支配する。(但し、ミクロな現象に対しては量子力学も必要。)例: • 化学反応• 物性物理 ( 磁性体、導体、絶縁体、超伝導体、etc. )

• 生物の運動。脳の活動。

理由: 物質は正負の電荷を持った陽子と電子(及び中性子)からできており、これらの間に働く電磁相互作用は

(i) 遠距離力、かつ(ii) 他の相互作用に比べて強い(後述)。

理論的重要性:

• 場の概念のプロトタイプをなす。

– 近接相互作用の考え(ファラディー)。

– 波動の考え方。

• アインシュタインの相対性理論の原点。←電磁誘導

• 自然界の基本的な力の一つ。遠距離力 ↔ 質量がゼロの粒子の 交換によって生ずる力。

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10 第 1章 序論: 電磁気学 I, IIの目標

自然界の基本的な力、到達距離、相対的強さすべての力を感ずる陽子に対して比較。

“到達距離” 交換される粒子の質量 力の強さ(陽子に対して)

重力 ∞ 0 (重力子) ∼ 10−38

電磁気力 ∞ 0 (光子) ∼ 10−2

弱い力 ∼ 10−16 cm 100 GeV/c2 (W,Z 粒子) ∼ 10−5

強い力 (核力) ∼ 10−13 cm 140 MeV/c2 (中間子) ∼ 10

1 MeV/c2 =100万電子ボルト /c2 = 1.8× 10−27 gram。1 GeV/c2 = 1000 MeV/c2

(相対性理論の式 E = mc2から、質量mはE/c2とも表される。)

• “到達距離”と交換される粒子の質量は逆比例する。•  重力は基本的には圧倒的に弱いが、「中和」されないため巨視的物体に対しては加算的に働き非常に大きくなる。

• アインシュタインの夢: これらの総ての力を統一的に理解すること。アインシュタインは後半生を重力と電磁気力を統一することに費やしたが、うまくいかなかった。

• 現在までに、電磁気力と弱い力の統一は成し遂げられた。強い力も含めた「大統一理論」も作られているが、これに関しては確証はない。重力が最も難しい力。それも含めた統一理論の候補= (超対称)弦理論

1.2 電磁気学の枠組みの概観

• 以下に述べることは、これから 1年かけてゆっくりと理解していくことのまとめであり、現時点ではだいたいどんなものかをイメージできればそれで十分。

電磁気学は、次に述べる4つの基本的な法則から成り立っており、これを場の考えを用いて正確に表したものが Maxwellの方程式 (系)である。

1. Coulombの法則

点電荷 qが q′に及ぼす力 ~F : 但し rは qから q0の方向への単位ベクトル

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1.2. 電磁気学の枠組みの概観 11

~F (~r) =1

4πε0

qq′

r2r (1.1)

~r ≡ (x, y, z) = (x1, x2, x3) , r ≡ ~r

|~r| (1.2)

q′q

~r

これは瞬間的に働く遠距離力を表すが、q′に働く力を qがつくる場 ~Eq(~r) によるものと考えることもできる。その考えを表現すれば

~F (~r) = q′ ~Eq(~r) (1.3)

~Eq(~r) =1

4πε0

q

r2r , (1.4)

と書ける。この式は、電荷が与えられたときにどのような電場ができるかを表しているが、逆に電

場がわかればそれを生み出している電荷分布がわかるはずである。これを一般的に捉えたものが、 Maxwellの第 1の方程式である。

~∇ · ~E(~r, t) =ρ(~r, t)

ε0

, (1.5)

ρ = 電荷密度 = 単位体積あたりの電荷量 , (1.6)

ε0 = 真空の誘電率 (dielectric constant) . (1.7)

• この講義では誘電体の議論はしないので、「真空の誘電率」のきちんとした説明はしない。現時点ではある定数 (但し次元を持つ)と考えておけば良い。後に出てくる「真空の透磁率」についても同じ。

ここで ~∇ · ~Eは電場の湧き出し= divergenceと呼ばれ、ベクトルの内積と似た形で定義される:

~∇ · ~E ≡ ∂

∂x1

E1 +∂

∂x2

E2 +∂

∂x3

E3 (1.8)

電場の divergenceの直観的イメージについては、すぐ後で述べる。

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12 第 1章 序論: 電磁気学 I, IIの目標

2 偏微分の復習 :

偏微分: 多変数関数に対して、その変数のどれかひとつのみ変化させたときの傾きを表す。3変数の場合

∂f(x, y, z)

∂x= ∂xf(x, y, z) ≡ lim

∆x→0

f(x + ∆x, y, z)− f(x, y, z)

∆x(1.9)

∂f(x, y, z)

∂y= ∂yf(x, y, z) ≡ lim

∆y→0

f(x, y + ∆y, z)− f(x, y, z)

∆y, etc. (1.10)

具体的な計算は簡単:

f(x, y, z) = xmynzl (1.11)

∂xf(x, y, z) = mxm−1ynzl , ∂yf(x, y, z) = nxmyn−1zl , etc. (1.12)

2 ベクトルの内積と divergenceとの比較 :

内積の定義は

~a ·~b = a1b1 + a2b2 + a3b3 (1.13)

この aiを微分演算子に置き換えたものが、divergenceである。

2. Ampereの法則

電荷が移動すると、電流密度 ~ = ρ~vが生ずるが、それはよく知られたようにその電流の流れにまつわりつくような磁場(磁束密度) ~Bを生み出す。

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1.2. 電磁気学の枠組みの概観 13

さらに、Maxwellは電荷の保存則が成り立つためには、時間変化する電場によっても磁場が生じなければならないことを見いだした。こうした磁場の生成を正確に表したものがMaxwellの第 2の方程式である:

~∇× ~B = µ0

(~ + ε0

∂ ~E

∂t

), (1.14)

µ0 = 真空の透磁率 (magnetic permeability) (1.15)

電流と同じ資格で現れる ε0(∂ ~E/∂t)は Maxwellの変位電流と呼ばれ、電磁波の存在にとって重要な役割を果たす。

また、~∇× ~Bは磁場の回転=rotationと呼ばれ、ベクトルの外積に似た形で定義される微分演算である:

(~∇× ~B

)1≡ ∂

∂x2

B3 − ∂

∂x3

B2 , (1.16)

(~∇× ~B

)2≡ ∂

∂x3

B1 − ∂

∂x1

B3 , (1.17)

(~∇× ~B

)3≡ ∂

∂x1

B2 − ∂

∂x2

B1 . (1.18)

2 ベクトルの外積との比較 :

(~a×~b)1 = a2b3 − a3b2 , (~a×~b)2 = a3b1 − a1b3 , etc. (1.19)

2 場の divergenceの直観的イメージ :

電場の divergenceのイメージを得るには、次のような、原点から放射状に出ている電場を考えると良い。(原点に点電荷がある場合に他ならない。)

~E(~r) = E~r , Eは定数 (1.20)

この divergenceを計算すると、

~∇ · ~E = E(∂xx + ∂yy + ∂zz) = 3E 6= 0 (1.21)

実際、湧き出しがゼロでないことがわかる。点電荷があたかも水道の蛇口のような役割を果たしていることを表す。

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14 第 1章 序論: 電磁気学 I, IIの目標

2 場の rotationの直観的イメージ :

上記の電場の rotationの成分を計算してみると、

~∇× ~E1 = ∂x2x3 − ∂x3x2 = 0

~∇× ~E2 = ∂x3x1 − ∂x1x3 = 0 , etc. (1.22)

ゆえ、~∇× ~E = 0ゆえ、放射状の場は rotationを持たない。rotationを持つ典型的な場は次のようなものであり、直線電流が生み出す磁場の形である。

~B(~r) = B~r × z = B

x2

−x1

0

, Bは定数 (1.23)

この場の rotationを計算すると

(~∇× ~B)1 = ∂2B3 − ∂3B1 = 0

(~∇× ~B)2 = ∂3B1 − ∂1B3 = 0

(~∇× ~B)3 = ∂1B2 − ∂2B1 = −2B 6= 0

ゆえ、回転しているベクトル場 ~Bに垂直な第 3方向の ~∇× ~Bの成分 (~∇× ~B)3のみがちょうどゼロでない値を持つ。(ここに電流が通っている。)

一方、このベクトル場の divergenceを計算してみると

~∇ · ~B = ∂1(Bx2) + ∂2(−Bx1) + ∂3(0) = 0 (1.24)

であり、divergenceを持たない場であることがわかる。

3. 磁荷の非存在

実験家の執拗な努力にもかかわらず、未だ単独の「磁荷」(単磁極= magnetic monopole)は発見されていない1。従って磁束密度2 ~Bに対しては、電場に対するMaxwellの第 1方程式に対応して次の式が成り立つ:

~∇ · ~B = 0 . (1.25)

1素粒子の大統一理論では単磁極の存在が予言されている。発見されれば確実にノーベル賞。2Maxwellの方程式に現れる「磁場」 ~B の正式な呼び名。

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1.2. 電磁気学の枠組みの概観 15

これは明らかに電荷に対応する磁荷がないことを表している。これはまた、磁場を辿ってできる「磁力線」に電荷の作る電場が作る「電気力線」の場合のような「端」(源)がないことを意味している。

4. Faradayの電磁誘導の法則

磁場の時間変化は電場を生み出す。これは次の様に表される。

~∇× ~E = −∂ ~B

∂t. (1.26)

• これら4つのMaxwell方程式は、線形連立偏微分方程式系をなし、実際の物理的状況に応じた境界条件のもとに多様な解を生み出す。本講義では、そのうちの最も基礎的な部分のみ扱う。

Lorentz力:力学との接点

Maxwell 方程式には、荷電粒子がどのように電磁場と相互作用するのかが示されていない。これを補うのがいわゆる Lorentz力である。

~F = ~FE + ~FM (1.27)

~FE = q ~E , ~FM = ~v × ~B (1.28)

磁場による力は電荷が運動していないと働かないことに注意。~B

~v

~FM

Maxwell 方程式とローレンツ力のまとめ (Maxwell (1865))

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16 第 1章 序論: 電磁気学 I, IIの目標

(I) ~∇ · ~E =ρ

ε0

(1.29)

(II) ~∇ · ~B = 0 (1.30)

(III) ~∇× ~E = −∂ ~B

∂t(1.31)

(IV ) ~∇× ~B = µ0

(~ + ε0

∂ ~E

∂t

)(1.32)

• ~F = q( ~E + ~v × ~B) (1.33)

たったこれだけの式で総てのマクロな電磁気現象が記述できる!!

• 電磁気学 I: (I)

• 電磁気学 II: (II), (III), (IV )

2 巨視的な物体に対する適用 :

実際上の問題では、しばしば物質中における電磁場の問題を扱わなければならない。物質=特別な電荷、電流の配位=複雑な電子-陽子系。これを直接扱うのは不可能であるから、「巨視的な性質」の特徴を抜き出して分類し、近似的な扱いを行う。(その意味で熱力学に似た部分を持つ。)

分類:導体、絶縁体、半導体、超伝導体、誘電体、磁性体、

これらを用いて様々な配位をつくる:

抵抗、コンデンサー、コイル、電池、磁石、etc. → 回路 etc.

下線を引いた項目は本講義で説明する。 

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第2章 静電場

2.1 Coulombの法則

Coulomb’s law1 (1785) (Cavendish 1772 未発表 )

電荷 q′が電荷 qに及ぼす力:

~F = kqq′

R2R , (2.1)

~R = ~r − ~r′ (2.2)

R =~R

R2, R = |~R| =

√~R · ~R (2.3)

q′ q

O

~r~r′

~R

2 次元と単位 :

次元:

総ての物理量は次の 3つの「基本的次元」の組み合わせからなる「次元」を持っている。

基本的次元: 長さ = L , 時間 = T , 質量 = M (2.4)

以下では量Aの次元を [A]で表す。

例:

速度 [v] =

[dx

dt

]=

L

T, 加速度 [a] =

[dx2

dt2

]=

L

T 2, (2.5)

エネルギー [E] =

[1

2mv2

]= M

L2

T 2, 力 [F ] = [ma] = M

L

T 2(2.6)

• 次元はL,M, T のどのような組み合わせかのみが重要であり、係数等は問題にしない。

単位:

1イタリア語読みにすれば Columbus. Columbus day (in US) = Oct.12

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18 第 2章 静電場

各基本的次元をどのような基準で測るかを表すのが「単位」であり、様々な可能性がある。

例:

長さ Lの単位: m, cm, km, inch, yard, mile, etc. etc.

単位はいくらでも変えられるが、その量の次元は決して変わらない。

過去に良く使われた単位系= CGS単位系 C=cm, G=gram, S=second

現在良く使われている単位系=MKS単位系 M=m, K=Kg, S=second

2 次元解析の重要性 :

二つの原則

1. A = Bのような等式がある場合、AとBの次元は必ず等しくなければならない。

2. 物理量の次元は、考えている状況に現れる量の次元の組み合わせのみから作られる。

これらの事実を使うと、全く詳細な計算をせずに、答えの形が、定数を除いてわかってし

まうことがしばしばある。こうして答えの形を決める方法を「次元解析」と呼び、非常に

強力な方法をなす。また答えのチェックをする際に真っ先に次元があっているかを確かめ

ることが重要である。

次元解析の例: 2次元の単振り子の周期 T

2次元の単振り子に関する量は、振り子の質量 m、長さ l, 重力加速度 g しかない。各々

の次元は

[m] = M , [l] = L , [g] =L

T 2(2.7)

これらの量から、T の次元を作り出すには、次の組み合わせしかない[[g]

[l]

]=

1

T 2⇒ T = c

√l

g, c =定数 (2.8)

これは正しい形をしており、振り子の周期がmに依らないことが一目瞭然にわかる。

2 クーロンの法則に現れる量の次元と単位系 :

k及び qの次元は、次の関係が成り立つようになっていなければならない:

[kqq′] = [k][q]2 = [FR2] =ML3

T 2. (2.9)

つまり、kと qの次元は個別には決まらない。従って、便利なスキームをとることを考え

る。二つの代表的なスキームがある。

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2.1. Coulombの法則 19

1. 三元単位系: kを無次元量にとる。こうすると電荷 qの次元は [q] = M1/2L3/2/T

と定まる。

さらに、kの値を勝手に決める自由度がある。例えば、二つの同じ電荷を 1 m の距

離におくとき、及ぼしあう力が 1 ニュートンであったとする。このとき電荷の「値」

をいくつと呼ぶかは kをいくらに定めるかに依存する。 逆に言えば、値として定

まるのは kqqという積のみであって、個々の値ではない。

次の二つの取り方がよく用いられる。

• k = 1. この場合、力学量に対して CGS単位系を用いることが多い。これを

「CGS Gauss単位系」と呼ぶ。このときには、Coulombの法則は簡単な形だ

が、様々なところに 4π (=単位球面の表面積) が現れる。

• k = 1/4π. 今度は 4πが現れるのはCoulomb則のみとなる。

2. 四元単位系: 三元単位系での電荷の次元は複雑。⇒ 電荷に見かけ上独立な単位を導入する 。

実際にはMKS系において、まず電流の単位「アンペア」を定め、それから電荷の

単位「クーロン」を定めるやり方がよく用いられる。具体的には次のようにする。

• 1m 離れた同じ強さを持った平行電流の長さ 1mあたりに働く力(磁場による

ローレンツ力)が 2× 10−7N であるとき、この電流を 1 アンペアと定める2

d = 1m

l = 1m

~F1A 1A

2一般の公式は

F = km2I1I2

dl, km =

k

c2= 10−7

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20 第 2章 静電場

• 電荷の単位 C(Coulomb)

C = A · s (2.10)

• このとき kの単位は Coulombの法則より、[k] = Nm2/C2となる。kの数値

としては、この時点では天下りであるが、

k = 10−7c2 = 8.988× 109 (2.11)

c = 光速度 = 2.998× 108 m/s (2.12)

ととる。光速度の値が現れる理由は、後に電磁波を扱うところで明らかになる。

さらにこのように定められた kを次のように記す。

k =1

4πε0

(2.13)

ε0 = 真空の誘電率 (dielectric constant) (2.14)

誘電率の意味は、誘電体の理解を必要とするので、本講義では説明しない。

以下 MKSA四元単位系を採用する。

演習 2.1 Coulombという単位は実は非常に大きい。(落雷の放電は数クーロン程度。) 1

Kg, 1Cの2つの電荷をどれほどの距離におくと、地上重力 9.8 N と同じ力になるか。

解 地上重力による力 = 9.8 N

静電気力 = 9× 109 Nm2/R2. これらを等値すると

R =

√9× 109

9.8m

= 3.03× 104 m ' 30 km!

演習 2.2 陽子に対して重力とクーロン力の比はどれほどになるか。但し

mp = 1.672× 10−27 kg , ep = 1.602× 10−19 C (2.15)

G = 6.67× 10−11 Nm2/Kg2 (2.16)

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2.1. Coulombの法則 21

FC = 9× 109 Nm2

C2

(1.602× 10−19C)2

R2(2.17)

FG = 6.67× 10−11 Nm2

(Kg)2

(1.672× 10−27)2Kg)2

R2(2.18)

q qq FC

FG

' 1.24× 1036 (2.19)

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22 第 2章 静電場

2.2 電場の概念と重ね合わせ:連続分布に対する Coulomb

電荷 qが他の電荷から Coulomb力を受けている状態を、電荷 qの位置に他の電荷がつ

くった電場があり、それから qが力を受けるという近接相互作用の考え方を採用する。す

なわち、一般に

~F (~r) = q ~E(~r) . (2.20)

力はベクトル的に重ね合わされることを知っているので、力の重ね合わせ の原理から、

電場の重ね合わせ の原理が導かれる。これを個々の電荷のつくる電場に対しても適用す

れば、

q

qN

q2

q1

~E

~E(~r) =1

4πε0

N∑i=1

qi

R3i

~Ri (2.21)

~Ri ≡ ~r − ~ri (2.22)

を得る。

2 Eの次元と単位 :

F = qEから、[E] = N/C

E = (1/4πε0)q/R2を用いれば、

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2.2. 電場の概念と重ね合わせ:連続分布に対する Coulomb則 23

[E] =1

[ε0]

[Q

L2

](2.23)

とも書ける。この書き方は非常に便利であり、電場の次元をチェックするのに使うと良い。

2 連続分布による電場 :

電荷の担い手は電子と陽子であるから、古典的には電荷の分布は離散的である。しかし、

量子力学的にはそれらの位置は確率波として解釈されるので、連続的に分布することにな

り、実用的にも、巨視的物体に対しては連続分布と見なして十分。(というよりむしろそ

の様に取り扱うべきである。)

ρ(~r) = 電荷密度= electric charge density (2.24)

ρ(~r)dV = ~r近傍の微小体積 dV 中の電荷 (2.25)

dV = dxdydz = d3r (2.26)

これより、離散的な公式において、次の置き換えをすればよいことがわかる:

qi ⇒ ρ(~r′)d3r′ (2.27)∑

i

⇒∫

(2.28)

従って

~E(~r) =1

4πε0

∫ρ(~r′)

|~r − ~r′|3 (~r − ~r′)d3r′ (2.29)

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24 第 2章 静電場

2.3 Coulomb則の簡単な応用

2 例 1. 平面上の一様な電荷分布のつくる電場 :

y-z平面上に面密度 σで一様に電荷が分布しているとする (下図参照)。一様性から、電場を

測る位置を x軸上にとっても一般性を失わない。位置 ~r′近傍の微小面積上の電荷 σdy′dz′

がこの位置につくる電場を求める。

2 対称性と次元解析 :

次元解析と並んで非常に重要なのは、考えている系が持っている対称性である。

この例の場合、平面上に特別な方向はないから、ゼロでないのはExのみ。また σの次元

は [σ] = Q/L2. これはちょうど ε0Eの次元に等しい。従って、

Ex = cσ

ε0

の形にならなければならない。ここで cは無次元量。xの他に長さの次元を持つ量はない

から、cは定数である他はなく、Eは xによらない!従って、実際に計算で求めなければ

いけないのは cの値のみ。

2 実際の計算 :

~r′ = (0, y′, z′) , ~r = (x, 0, 0) ,

q qq ~r − ~r′ = (x,−y′,−z′)

~r

z

y

σdy′dz′

~r′

x

従って、基本式より

~E(~r) =σ

4πε0

∫dy′dz′

(x,−y′,−z′)(x2 + y′2 + z′2)3/2

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2.3. Coulomb則の簡単な応用 25

y′ z′のかかっている成分は奇関数の −∞から∞の積分ゆえゼロになる。(これは対称性から明らか。)従って

Ey = Ez = 0

Ex =σx

4πε0

∫dy′dz′

1

(x2 + y′2 + z′2)3/2

2 Scalingの考え :

この種の積分をうまくやるには、次のような scalingの考えを用いて x依存性を抽出して

しまうのが良い。

y′ = xu , z′ = xv∫dy′dz′

1

(x2 + y′2 + z′2)3/2=

C

x

ここで C =

∫dudv

(1 + u2 + v2)3/2=数

Cは平面極座標を用いると簡単に求まる:

u

v

a

da

(u, v)

φ

u = a cos φ , v = a sin φ

C =

∫ ∞

0

2πada

(1 + a2)3/2

= π

∫ ∞

0

db

(1 + b)3/2(b ≡ a2)

= 2π (2.30)

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26 第 2章 静電場

従って結局

Ex(~r) =σx

4πε0

· 2π

x=

σ

2ε0

= constant (2.31)

Ey = Ez = 0 (2.32)

この結果は後にGaussの法則を用いて再導出する。

演習 2.3 z-軸上に単位長さあたり τ の線密度で一様に分布する電荷がつくる電場を求め

たい。

(1) まず、対称性と次元解析を用いて、結果の形を予想せよ。

(2) 実際に計算を行って電場を求めよ。

Er(r)r

unit length τ

解 (1) 対称性からゼロでないのは電場の動径方向成分 Erのみで、しかもこれは rの関

数となることは明らか。また、次元解析より、τ ∼ Q/L,E ∼ (1/ε0)Q/L2であるから、c

を定数として

Er =cτ

ε0r

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2.3. Coulomb則の簡単な応用 27

となるはずである。

(2) 対称性を考慮すると、x-軸上の点 ~r = (x, 0, 0)で電場 Exを計算すれば良い。

~r = (x, 0, 0) , ~r′ = (0, 0, z′)

q qq ~r − ~r′ = (x, 0,−z′)

Ex =1

4πε0

∫τdz′x

(x2 + z′2)3/2

=τx

4πε0

x

x3

∫ ∞

−∞

du

(1 + u2)3/2(z′ = xu)

2πε0

1

x

∫ ∞

0

du

(1 + u2)3/2

積分は、 u = tan θとおけば容易にできて 1を与える。従って答えは

Er(~r) =τ

2πε0

1

r(2.33)

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28 第 2章 静電場

2 例 2. 球面上の一様な電荷分布のつくる電場 :

球の半径 = a、全電荷 = Qとおく。面密度は σ = Q/(4πa2).

対称性から、電場は法線方向成分 Enのみ。

無次元量 a/rが存在することに注意すると、次元解析から、次の形が可能:

En =1

4πε0

Q

r2f(a/r)

r →∞では 点電荷に見えるから、f(0) = 1とならなければならない。

Coulombの法則を使った実際の計算はかなり難しい。(球面の小さな面積要素からの寄与

を総て足し合わせる (積分する)ことが必要。) 従って、この計算は省略して、答えだけを

示す。

f(r/a) =

1 r > a

0 r < a

q qq En(~r) =

Q

4πε0r2 r > a

0 r < a(2.34)

• この答えは r = aで不連続だが、実際の場合には、球殻には厚みがあるので、その部分

で連続的につながる。

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2.4. Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 29

• 途中の計算は複雑だが、結果は非常に簡単かつ驚異的!r > aの場合はちょうど中心に電荷 Qがある場合の答えに等しい。また球の内部では場

は完全にうち消しあう。

これは次の節で述べる Gaussの法則から見事に説明される。

2.4 Gaussの法則とMaxwellの第1方程式

以上見てきたように、Coulomb則は一般の電荷分布に対して適用できる法則であるが、

その直接的適用はかなり煩雑であり、また遠隔作用の形をとっている。そこで、Coulomb則

の本質を場の立場からMaxwellの第一方程式として捉えるために新しい見方を開発する。

2 基本的描像 :

Maxwellは電磁気理論を構築する際に、流体力学とのアナロジーを駆使した。その考え方

の一つは、電荷を流体の湧き出し口 (あるいは吸い込み口、総称 source)と見立て、そこ

から湧き出す流体が閉じた面を横切って出ていく際の保存に注目することである。具体

的には、次の様な状況を考えることによって 「Gaussの法則」と呼ばれる重要な式を得

ることができる。

q

q

2.4.1 Gaussの法則

2 電荷が閉曲面内にある場合曲面上の微小な面積:

dSとそこでの電場(電束密度)の垂直成分 En = ~E · nの積を微小な「電束」(electric

flux)と呼ぶ。面を貫く全電束は

Φe =

∫EndS =

∫~E · ndS . (2.35)

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30 第 2章 静電場

q

~E

En

n

r

r2dΩ

今、電荷 qを囲む単位球を考え、qと dSのヘリを結んでできる錘がこの球面を横切る際

の微小面積を (無限小の)「立体角」 dΩと呼ぶ。通常の角度も実は弧の長さで測っている

ことを思い出そう。

θ

θ radian1

この定義から、明らかに ∫dΩ = 4π

dS

r2dΩ

θ

図から容易に

r2dΩ = dS cos θ → dS =r2dΩ

cos θ(2.36)

を得る。En = E cos θであるから ( E ≡ | ~E|) 、

Φe =

∫E(~r)r2dΩ (2.37)

ここで Coulomb則を用いると、

Φe =

∫q

4πε0r2r2dΩ =

q

4πε0

∫dΩ

=q

4πε0

4π =q

ε0

(4πがちょうどキャンセルする。) (2.38)

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2.4. Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 31

∫~E · ndS =

q

ε0

, (任意の閉局面に対して) (2.39)

すなわち、全電束はその中にある電荷を表している。この結果を得るのにE ∼ 1/r2であ

ることが非常に重要であることに注意。

2 この議論のエッセンス :

特に、電荷を球面で囲んだ場合を考えると分かり易い。

半径 r′の球面上にある電荷の総量は、面密度を σ′とすると σ′4πr′2。この量が保存しな

がら拡がっていくと考えると、任意の半径 rに対して σ′4πr′2 = σ4πr2となり、しかも、

r′ → 0の極限を考えると、これは全電荷 qに等しい。次元解析からE ∼ q/ε0L2 = σ/ε0。

従って、

q = ε0E4πr2

q qq E · 4πr2 =q

ε0

(2.40)

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32 第 2章 静電場

2 電荷が閉曲面の外部にある場合 :

dS1

~E(1)

~E(2)

dS2

q

nが外向き法線方向であることに注意して、

∫EndS =

∫E(1)

n dS1︸ ︷︷ ︸(q/4πε0)dΩ

− E(2)n dS2︸ ︷︷ ︸

(q/4πε0)dΩ

= 0 ←同じ立体角の積分に帰着するゆえ

以上より、一般の電荷分布に対しては重ね合わせの原理を用いて、次の結果を得る:

Maxwellの第一方程式の積分形

∂V

~E · ndS =1

ε0

∑i

qi =1

ε0

(V 中の電荷の和 )

=1

ε0

V

ρ(~r)d3r

∂V = V の境界面

2.4.2 Gaussの法則による電場の計算

Gaussの法則は、形がきれいで意味も分かりやすいだけでなく、ある条件のもとで、電

場の計算に絶大な威力を発揮する。

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2.4. Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 33

2 条件: :

系の対称性から適当な閉曲面上で場が一定でそのため面積分の外に出せること。

すなわち、∫

∂V

~E · ndS = En

∂V

dS = EnS =Q

ε0

q qq En =Q

ε0S(2.41)

2 例 1. 球面上の一様な電荷分布がつくる場 :

この際の電場は、既にCoulomb則を直接用いて求めたが、Gaussの法則を用いるとはる

かに簡単に計算できる。対称性から、電場は動径方向成分しか持たず、しかもその大きさ

は rにのみより、角度によらない。これを E(r)と書いてGaussの法則を適用すると∫

S

EndS = E(r)4πr2

=

Q/ε0 if r > a

0 if r < a

q qq E(r) =

Q

4πε0r2 if r > a

0 if r < a

Qa

r

~E(~r)

演習 2.4 半径 aの一様に帯電した球がつくる電場を求め、その大きさをグラフで示せ。

特に球の内部ではどうなるか。

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34 第 2章 静電場

解 全電荷を Qとする。外部では前例と同じ。内部では、半径 r以内の電荷が Q(r/a)3

であることから

E(r) =1

4πε0

Q(r/a)3

r2=

Q

4πε0

r

a3(2.42)

となり、rに linearに増大する。

a

Q/(4πεa2)

E(r)

r

2 例 2. 無限に長い直線上の一様な電荷分布のつくる場 :

線密度を τ とする。右図において対称性から Eは r方向であるから上下面からの寄与はゼロであり、積分は円筒の側面積のみ考えればよい。従って

ε0

∫EndS = ε0E(r)2πrl = lτ

q qq E(r) =1

2πε0

τ

r(2.43)

電荷 τ l

rEr

l

すなわち、電場は 1/rでしかおちない。この直観的な理由は次のとおり。z方向に系は一

様であるから、あたかもその方向の次元がなくなり、2次元の世界で点電荷がつくる電場

を求めるのと同じになる。(実際 lは両辺でキャンセル。)従ってGaussの法則の積分は

4πr2を出さずに、円周 2πrを出す。これは2次元性から電束が拡散する次元が減ったた

め電場が弱らないことを表す。

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2.4. Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 35

演習 2.5 y-z平面に一様に分布した電荷がつくる電場を求めよ。

解 面密度を σとする。電場は面に垂直。両側の面からの寄与を正しく考慮して Gaussの法則を適用すると

ε0

∫EndS = 2× ε0E(x)S = σS

q qq E(x) =σ

2ε0

= constant (2.44)

これは1次元上の点電荷のつくる電場とも見ることができる

S

x Ex

演習 2.6 半径Rの無限に長い円筒の側面上に、電荷が一様な面密度 σで分布していると

き生ずる電場を求めよ。

解 軸対称性から、Er成分のみゼロでない。半径 r、長さ lの閉じた円筒面で囲んだ領域

にガウスの法則を適用すると、

r > Rの場合: この領域内部にある電荷の総量は q = 2πRlσ。一方電束は Er × 2πrl。

従って

Er =σR

ε0r

r < Rの場合: 内部には全く電荷がないので Er = 0。

2.4.3 Gaussの定理

Gaussの法則は面積分と体積積分の間の関係を与えているが、ここから、局所的に各点

で成り立つ法則を引き出すことによって Maxwellの第一方程式(の微分形)を得ること

ができる。これを可能にするのが、数学の定理としての「Gaussの定理」である。(一般

に「 Stokesの定理」と呼ばれるものの3次元での形。)本質は、Gaussの法則の左辺の面

積積分を体積積分になおすところにある。

2 Gaussの定理 :

~E(~x)を一つのベクトル場、V を有限な3次元領域、 ∂V をその境界面、とするとき

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36 第 2章 静電場

∂V

~E · ndS =

V

~∇ · ~E d3x (2.45)

~∇ · ~E =∂Ex

∂x+

∂Ey

∂y+

∂Ez

∂z

=∑

i

∂iEi

V∂V

En

証明: 対象となる領域を小さな直方体に分割して考える。まず x方向成分に着目する。全体としてこの直方体から x方向に外に出ていく ~Eの fluxは

Φx =

S′1

Ex(x + ∆x, y′, z′)dy′dz′ −∫

S1

Ex(x, y′, z′)dy′dz′

S1

=

∫ ∆y

0

dy′∫ ∆z

0

dz′ (2.46)

y′, z′を y, zのまわりで展開して微少量は無視すれば

Φx ' [Ex(x + ∆x, y, z)− Ex(x, y, z)] ∆y∆z

=∂Ex

∂x(x, y, z)∆x∆y∆z (2.47) (x, y, z)

Ex(x + ∆x, y′, z′)

Ex(x, y′, z′)

∆z

∆y

∆x

S1

S2

従って、y, z方向に出ていく fluxも加えれば、この直方体に関して∫

~E · ndS =

(∂Ex

∂x+

∂Ey

∂y+

∂Ez

∂z

)∆V (2.48)

微小直方体を寄せ集めてもとの領域全体を構成すると、その表面以外では左辺は打ち消

しあうから、結局任意の V に対して Gaussの定理が成り立つことがわかる。

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2.4. Gaussの法則とMaxwellの第1方程式 37

2.4.4 Maxwellの第一方程式の微分形

上記 Gaussの定理を Gaussの法則の左辺に適用すると∫

∂V

~E · ndS =

V

~∇ · ~Ed3x

=1

ε0

V

ρd3x (2.49)

これが任意の V に対して成り立つから、被積分関数が一致しなければならない。こうし

て我々は Maxwellの第一方程式を得る:

~∇ · ~~E =ρ

ε0

(2.50)

Coulomb則はこの微分方程式の解として得られることになる。これについては「電位」

の概念を導入した後に述べる。

まとめ

Coulomb

Gauss Maxwell 1st eq

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38 第 2章 静電場

2.5 ポテンシャルエネルギーと電位

2.5.1 仕事とポテンシャルエネルギーの復習

2 仕事と保存力 :

W =

∫ P

P0

~F · d~x =

∫ s

s0

~F (~x(s)) · d~x

dsds (2.51)

こうして定義された仕事が経路によらないとき、~F は「保存力」と呼ばれる。「保存力」と呼ぶわけは、そのような力が働くとき、系の全エネルギーが保存するからである。このとき、始点P0(~x0)を固定して考えると、W は終点P (~x)の一価関数となる。これを −U(~x)と書き、U(~x)をP0から測ったポテンシャルエネルギーと呼ぶ。従って、保存力 ~F に逆らって ~x0から ~xまで物体を動かすために必要な仕事は

P0(~x0)

P (~x)~F

d~x

U(~x)− U(~x0) =

∫ ~x

~x0

(−~F ) · d~x(2.52)

この分のエネルギーがポテンシャルエネルギーとして蓄えられる。

~F の U による表式

~F を U で解くことを考えよう。そのために、まず両辺の時間微分をとる。すると左辺は

dU

dt=

∂U

∂x

dx

dt+

∂U

∂y

dy

dt+

∂U

∂z

dz

dt

= ~∇U · d~x

dt(2.53)

一方右辺は

d

dt

∫ t

(−~F (~x(t))) · d~x

dtdt = −~F · d~x

dt(2.54)

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2.5. ポテンシャルエネルギーと電位 39

積分の経路は任意であるので、途中の d~x/dtも任意の関数。そのとき両辺が一致するため

には、d~x/dtをとった量が一致する必要がある。すなわち

~F (~x) = −~∇U(~x) (2.55)

~F が保存力であることを言うには、それがこのように書けることを示すのが一番早い。

2.5.2 クーロン力によるポテンシャルエネルギーと電位

~x′にある電荷 q が位置 ~xにつくる電場は、

~E(~x) =1

4πε0

q

|~x− ~x′|3 (~x− ~x′) (2.56)

で与えられるが、これは ~xにある単位電荷に働く力とも解釈できる。この力が保存力で

あることは、次の公式から容易に確かめられる:

∂xi

1

|~x− ~x′| =∂

∂xi

1√∑i(xi − x′i)2

= − xi − x′i|~x− ~x′|3 (2.57)

すなわち

~∇ 1

|~x− ~x′| = − ~x− ~x′

|~x− ~x′|3 (2.58)

ここで “nabla”記号 ~∇は

~∇ ≡

∂∂x1∂

∂x2∂

∂x3

(2.59)

で定義される微分演算子。式 (2.58)は後で重要になる。~Eの表式と比べれば直ちに

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40 第 2章 静電場

~E(~x) = −~∇φ(~x) (2.60)

φ(~x) =1

4πε0

q

|~x− ~x′| + const (2.61)

φ(~x)は「静電ポテンシャル」 (electrostatic potential)、あるいは「電位」と呼ばれ、これ

に電荷を掛けたものはエネルギーの次元を持つ。定数は φ(~x = ∞) = 0と定義するとゼ

ロにとれるから、結局

φ(~x) =1

4πε0

q

|~x− ~x′|

=

∫ ~x

(− ~E(~x′)

)· d~x′ (2.62)

これは単位電荷を ∞から ~Eに逆らって ~xまで持ってくるのに要する仕事を表している。

電位は次の重要な性質を持つ:

1. 電場の重ね合わせより、電位の重ね合わせができることがわかる。

2. 電場はベクトル場であるのに対して、電位はスカラー関数 (1成分関数)なので、遙

かに取り扱い易い。従って、まず電位を求め、しかる後 ~E = −~∇φにより電場を求

めるのが良い。

2 一般の電荷分布による電位 :

電位に対する重ね合わせは (ベクトルではなく)単なる関数の足し算であるから、

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2.5. ポテンシャルエネルギーと電位 41

φ(~x) =1

4πε0

∑i

qi

|~x− ~xi| (2.63)

φ(~x) =1

4πε0

∫ρ(~x′)d3x′

|~x− ~x′| (連続分布の場合) (2.64)

演習 2.7 (1) 無限に長い直線 (z軸)上に線密度 τ で一様に分布した電荷がその周りに作

る電位を求めよ。

但し、(∞遠ではなく)直線から垂直距離 aの点での電位を 0と定める。

注意:いったん直線の長さを有限(例えば 2l)にとって計算し、しかるのち l → ∞の極限を考えること。

dz

z

0

r

√r2 + z2

(2) 得られた電位から電場を求め、以前求めたものと一致することを示せ。

解 (1) 対称性から、電位は z軸まわりに対称であり、また zに依らないから、z軸から

の距離 rのみの関数となるはずである。r = aで電位がゼロになる条件を考慮に入れると、

z ∼ z + dz間の電荷が作る電位は

τdz

4πε0

(1√

r2 + z2− 1√

a2 + z2

)(2.65)

となるから、これを−lから lまで積分すればよい。第一項については変数変換 z = ruで

zから uの積分に変えると∫ l

−l

dz√r2 + z2

=

∫ l/r

−l/r

du√u2 + 1

= 2

∫ l/r

0

du√u2 + 1

(2.66)

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42 第 2章 静電場

第二項は r → aとして得られるから、引き算すると 2∫ l/r

l/adu/

√u2 + 1となる。l →∞の

極限では u >> 1であるから、これは次の簡単な積分に帰着する:

liml→∞

2

∫ l/r

l/a

du√u2 + 1

= liml→∞

2

∫ l/r

l/a

du

u= 2 ln

a

r(2.67)

従って求める電位は

φ(r) =τ

2πε0

lna

r(2.68)

(2) 電場は明らかに r方向成分Erしかない。電位と電場の関係から

Er = − ∂

∂rφ(r) =

τ

2πε0

1

r(2.69)

これは以前求めた答えと一致する。

2 等電位面と電場の方向 :

等電位面 (equipotential surface)がわかると、電場がどのようにできるかを幾何学的に直ちに知ることができる。

等電位面 ⇐⇒ φ(~x) = C = const

q qq 0 = φ(~x + ∆~x)− φ(~x)

= ∆~x · ~∇φ(~x)

⇒ ∆~x · ~E(~x) = 0 (2.70)

∆~x

~x ~x + ∆~x

φ = const

従って、電場は等電位面に直交する。~E

φ = const

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2.5. ポテンシャルエネルギーと電位 43

2.5.3 電位の満たす方程式:ポアソン方程式

既に述べたように、電場を求めるにはまず電位を求めてこれを微分すればよい。これま

でに得られた二つの方程式

~∇ · ~E =ρ

ε0

(2.71)

~E = −~∇φ (2.72)

を組み合わせると、

~∇ · ~E = −~∇ · ~∇φ

= −∇2φ =ρ

ε0

(2.73)

すなわち

∇2φ = − ρ

ε0

(2.74)

∇2 =∂2

∂x2+

∂2

∂y2+

∂2

∂z2= Laplacian (2.75)

を得る。これを Poisson 方程式 と言う。特に、ρ = 0の場合は Laplace 方程式と呼ば

れる。

2.5.4 Poisson方程式の一般解

Poisson 方程式の一般解を得ることは、Coulomb力による電位の形を参考にすればそう

難しくない。Poisson方程式を満たす一つの解(特解という)φ0(x)が見つかったとしよ

う。一般解を φ(x)とすると

∇2φ = − ρ

ε0

∇2φ0 = − ρ

ε0

q qq ∇2(φ− φ0) = 0

q qq φ(~x) = φ0(~x) + f(~x) (2.76)

f(x) = Laplace方程式の一般解 (2.77)

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44 第 2章 静電場

となる。Laplace方程式の解は、境界条件が与えられれば、簡単な場合には後に述べる方

法で解くことができる。

Coulomb力による電位はPoisson 方程式の解の一つであるはずであるから、次の定

理を得る:

Poisson 方程式の一般解 φ(x)

φ(~x) =1

4πε0

∫d3x′

ρ(~x′)

|~x− ~x′| + f(~x) (2.78)

∇2f(~x) = 0 (2.79)

2 チェック :

∇2を働かせてみよう。ナイーブに計算すると

~∇ 1

|~x− ~x′| = − ~x− ~x′

|~x− ~x′|3 (2.80)

q qq ~∇ · ~∇ 1

|~x− ~x′| =−~∇ · (~x− ~x′)

|~x− ~x′|3 − (~x− ~x′) · ~∇ 1

|~x− ~x′|3

= − 3

|~x− ~x′|3 − (~x− ~x′) · (−3)(~x− ~x′)

|~x− ~x′|5= 0 (2.81)

従って一見 ∇2φ = 0となりそうに思えるが、実は上の計算では暗黙の裡に ~x 6= ~x0を仮

定していることに注意。すなわち ~xと ~x′が等しくなる近傍では注意深く考察をし直さね

ばならない。

~xのまわりに半径 εの小さな球を考えて、その内部での積分を考察したいのだが、~x = ~x′

となる点は避けたい。そこで、体積積分をその表面での積分に直すGaussの定理を使う

ことを考える。

計算したいのは、

∇2φ(~x) =1

4πε0

|~x′−~x|≤ε

d3x′ρ(~x′)∇2 1

|~x′ − ~x| (2.82)

=1

4πε0

|~x−~x′|≤ε

d3x′ρ(~x′)~∇ · ~∇ 1

|~x− ~x′| (2.83)

ε

~x

~x′n

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2.5. ポテンシャルエネルギーと電位 45

今、εを十分小さくとれば ρ(~x′) ' ρ(~x)であり、また ~∇· ~∇(1/|~x− ~x′|) = ~∇′ · ~∇′(1/|~x− ~x′|)と書け、~∇′(1/|~x− ~x′|) = (~x− ~x′)/|~x− ~x′|3であるから

∇2φ(~x) =ρ(~x)

4πε0

|~x−~x′|≤ε

d3x′~∇′ ·(

~x− ~x′

|~x− ~x′|3

)

=ρ(~x)

4πε0

|~x′−~x|=ε

ε2dΩn · (~x− ~x′)

ε3← Gauss’ theorem

= −ρ(~x)

4πε0

∫dΩ = −ρ(~x)

ε0

(2.84)

となり、確かに Poisson方程式の一つの解になっていることがわかる。

演習 2.8 静電ポテンシャルが次のいわゆる湯川型で与えられているとする。

φ(r) =e−kr

r,

(k > 0 , r =

√x2 + y2 + z2

)

(i) 電場 ~E(~x)を求めよ。

(ii) ガウスの法則を用いて、原点を含む半径 R内の電荷の総量を求めよ。

(iii) 原点の無限小近傍内の電荷量を求めよ。また、全空間の電荷の総量を求めよ。

(iv) 原点以外での 電荷密度を求めよ。

(v) 原点を除く 全空間における電荷の総量を求めよ。(ここで∫∞0

drre−kr = 1/k2を用

いてよい。)この結果と (iii)の結果を比較してその整合性を論ぜよ。

解  

(i)

Ex = −∂r

∂x

∂φ

∂r=

x

r3(1 + kr)e−kr

q qq ~E =~r

r3(1 + kr)e−kr

(ii) ガウス則より

4πR2E(R) =Q(R)

ε0

q qq Q(R) = 4πε0(1 + kR)e−kR

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46 第 2章 静電場

(iii) (ii)の結果より直ちに

原点での電荷 = Q(0) = 4πε0

全電荷 = Q(∞) = 0

(iv) Maxwellの方程式より、原点以外では

ρ = ε0~∇ · ~~E = −ε0

k2

re−kr

(v) 原点以外の電荷の総量は∫ ∞

0

ρ(r)4πr2dr = −4πε0k2

∫ ∞

0

drre−kr = −4πε0

従って原点と原点以外の電荷を加えるとちょうどゼロになっており、(iii)の結果と一致

する。

2.6 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場

2.6.1 単電荷、及び電気双極子のつくる場

電場や電位に対する重ね合わせの原理は、電磁気学の一つの要である。これは逆に、一

般の電場や電位を「基本的な電荷分布」のつくる電場や電位の和に分解して考えることが

できることを意味する。それでは「基本的電荷分布」として一体どういうものを考えるべ

きであろうか。まず直観的に基本的であると思われる電荷の配位を考察することから始め

てみよう。

2 1. 原点にある点電荷:

これは基本的であろう。そのつくる電位は

φ0(~r) =1

4πε0

q

r(2.85)

2 2. 電気双極子 ( Electric Dipole ):

原点近傍で図のような二つの近接した電荷のペア(全電荷はゼロ)がつくる電位を考える。

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2.6. 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場 47

∆r = d cos θ

r

r + ∆rθ

q

−q

d

d ¿ r、従って ∆r ¿ rとすると、電位は

φ1(r) =1

4πε0

(q

r− q

r + ∆r

)

=1

4πε0

q∆r

r(r + ∆r)

' 1

4πε0

qd cos θ

r2(2.86)

となる。ここで p ≡ qd を一定に保って  d → 0の limit をとると次の電位の形を得

る。

φ1(~r) =1

4πε0

p cos θ

r2

=1

4πε0

~p · rr2

∼ 1

r2

注:θは ~pと ~rのなす角度。y軸からの角度ではない。

第二式で ~pは−qから qに向かう大きさ pのベクトルで、電気双極子モーメント (electric

dipole moment)と呼ばれる。

2 電気双極子のつくる電場 ::

電場の概略を見るには、まず等電位面 (↔ r2 ∝ cos θ) を描き、それに直交するものとし

て電場を描けばよい。z-y平面に投影すると

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48 第 2章 静電場

z

y

θ = 0 line

θ = π line

~p

cos θ > 0

cos θ < 0

電場の表式は次のようになる:

~E1(~r) =1

4πε0

1

r3(3(~p · r)r − ~p) (2.87)

演習 2.9 電気双極子の作る電位 φ1から電場 ~E1を求めよ。

解 電位は

φ1(~r) =1

4πε0

~p · ~rr3

(2.88)

従って ~E1の i成分は

~E1,i = − ∂

∂ri

φ1 = − 1

4πε0

(pi

r3− 3~p · ~r(∂r/∂ri)

r4

)(2.89)

ここで、∂r/∂ri = ri/rを用いると、

~E1,i =1

4πε0

1

r3(3(~p · r)ri − pi) (2.90)

2.6.2 電位の多重極 (Multipole)展開

単電荷や双極子といった電荷分布はどのような意味で「基本的」なのか。実は、これら

は有限な領域内の任意の電荷分布が遠方につくる電場を記述する系統的な近似の第一項

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2.6. 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場 49

と第二項になっている。まず、非常に遠方からながめれば内部の構造は見えず全体の電荷

があたかも一点に集まっているように見えるはずである。この寄与を取り除くと、残りは

全体としてゼロの電荷を持った電荷分布になる。そこでこれを少し近づいて見れば、まず

大ざっぱに電荷の正負の偏りが見えるであろう。これが dipole場である。典型的な例を図

示すると

= +

Q = 2 Q = 2 Q = 0

この描像を系統的に導こう。それには電位を 1/rの巾で展開すれば良い。

~r~x

ρ(~x)

~0

~rでの電位は

φ(~r) =1

4πε0

∫ρ(~x)

|~r − ~x|d3x

以下 r ≡ |~r|, x ≡ |~x|と記し、r >> xとして x/rについて巾展開する。

1

R=

1

|~r − ~x|=

(r2 + x2 − 2~r · ~x)−1/2

=1

r

(1 +

(x

r

)2

− 2~r · ~xr2

)−1/2

ここでTaylor展開の公式

(1 + y)α = 1 + αy +α(α− 1)

2!y2 + · · · (2.91)

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50 第 2章 静電場

を用いると

1

R=

1

r

[1 + (−1

2)

((x

r

)2

− 2~r · ~xr2

)

+(−1

2)(−3

2)

2!

((x

r

)2

− 2~r · ~xr2

)2

+ · · ·]

=1

r

[1 +

~r · ~xr2

− 1

2

(x

r

)2

+3

2

(~r · ~xr2

)2

+ · · ·]

=1

r

[1 +

~r · ~xr2

+1

2r4

(3(~r · ~x)2 − r2x2

)+ · · ·

]

従って φ(~r)は次のように展開される:

φ(~r) =1

4πε0

∫d3xρ(~x)

1

r

[1 +

~r · ~xr2

+1

2r4

(3(~r · ~x)2 − r2x2

)+ · · ·

]

=1

4πε0

∫d3xρ(~x)

1

r

[1 +

∑i

xiri

r2+

1

2r4

∑i,j

(3xixj − δijx

2)rirj + · · ·

](2.92)

ここで次のように “モーメント”を定義する:

全電荷 Q =

∫d3xρ(~x) (2.93)

dipole moment pi =

∫d3xxiρ(~x) (2.94)

quadrupole moment Qij =

∫d3x(3xixj − x2δij)ρ(~x) (2.95)

点電荷の集合に対しては、xiは離散的な定数であるから、ρ(~x) を掛けた積分は、電荷を

掛けて和をとることに帰着する。従ってこれらの表式は、nを点電荷のラベルとして、次

のように簡単になる:

Q =∑

n

qn (2.96)

pi =∑

n

(xn)iqn (2.97)

Qij =∑

n

(3(xn)i(xn)jqn − δijx

2nqn

)(2.98)

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2.6. 基本的な電荷分布とそのつくる電位、電場 51

これらを用いて電位をかくと

φ(~r) = φ0(~r) + φ1(~r) + φ2(~r) + · · · (2.99)

φ0(~r) =1

4πε0

Q

r∼ 1

r(2.100)

φ1(~r) =1

4πε0

~r · ~pr3

∼ 1

r2(2.101)

φ2(~r) =1

4πε0

1

2r5

∑i,j

riQijrj ∼ 1

r3(2.102)

φ1(~r)はちょうど dipole場の電位を表している。実際右図の dipole電荷分布に対して piを計算すると、

pz =d

2q + (−d

2)(−q) = qd

px = py = 0

となり、以前の定義と一致する。

0

q (0, 0, d2)

−q (0, 0,−d2)

d

演習 2.10 図のような電荷分布に対して dipole 及びquadrupole モーメントを計算せよ。 またより高次ののモーメントは存在するか。次に qd2 =fixed, d → 0の極限でこの電荷分布のつくる電位を求めよ。

px =d

2q + (−d

2)(−q) +

d

2(−q) + (−d

2)q = 0

同様に py = 0

Quadrupoleモーメントに関しては容易にQxy = Qyxのみゼロでないことがわかる。例えば

Qxx = 3

(d

2

)2

(q + (−q) + q + (−q))

−2

(d

2

)2

(q + (−q) + q + (−q)) = 0

q (d2,

d2)

−q (d2,−d

2)

−q (−d2,

d2)

q (−d2,−d

2)

d/2

d/2

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52 第 2章 静電場

Qxyを計算すると、

Qxy = 3

(d

2

)2

q × 4 = 3qd2

高次のモーメントは当然存在する。しかし、qd2=fixed, d → 0 の極限では、高次の

モーメントは全て qdn, (n ≥ 3)に比例するからゼロになる。すなわち、quadrupole

momentはまさしくこの極限での四重極場を厳密に記述していることになる。従って電

位は

φ(~r) =1

4πε0

3qd2 xy

r5

で与えられる。

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2.7. 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場 53

2.7 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場

物質を電気伝導度で大まかに分類すると、

• 導体 (electric conductor):例 金属(伝導電子)、電解質の溶液(正負のイオン)

• 絶縁体 (insulator, or dielectric media)

に分かれる。導体系に関する静電気力学は、実用的にもまた理論的にも重要である。

2.7.1 静的な状態での導体の電気的特徴

静的=電流の流れがない状態

このときの導体の電気的特徴:

1. 導体中に電場なし:←電場があれば電流が生ずる。

2. 導体内で、電荷密度=0:← 電荷密度があれば,Gaussの法則でその回りに電場が生

じてしまう。

3. 従って、電荷や電場が存在できるのは表面のみ。

電流が生じない為には電場は表面に垂直。その大きさはGaussの法則を用いると

En =σ

ε0

(2.103)

En

dS

EndS = σε0dS

(電場は片側にのみできるので、その大きさは両側に分散する場合に比べて2倍に

なっていることに注意。)電荷分布は導体内部で ~E = 0となるように分布。あるい

は表面も含めて電位 φが一定になるように分布。

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54 第 2章 静電場

4. 外部電場中に導体をおくと、帯電していない場合でも表面に誘導電荷が現れる。こ

れを静電誘導という。

⊕+ + +

− − −=

+ + +

− − −~E = 0

上の 1.から 3.より、静的な状態での導体は、「等電位体」であり、その特徴は次の図に

まとめられる:

En = σε0

~E = 0, ρ = 0φ = const

φ = const

2.7.2 導体の回りの静電場の求め方

今までは電荷分布 ρ(~r)が与えられたとして電位 φ(~r)さらには電場 ~E(~r)を求めてきた。

しかし導体の場合は導体表面での電荷分布が事前にわからないので別な考え方をしなけ

ればならない。

2 問題の設定の仕方 :

導体の回りの静電場は次の方針で求まる。

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2.7. 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場 55

1. 導体内部ではすでに答は判っている:

ρ = ~E = −~∇φ = 0

→ φ(~r) = c = const.

2. 導体表面では (Dirichlet型)境界条件 (電位の値自体を指定する)

φ = c = const. (2.104)

を満たす。

3. この境界条件のもとで、導体の外部での Poisson方程式

−∇2φ =ρ

ε0

(但し ρは外部の真電荷のみ) (2.105)

を解く。従って結局外部の空間に限って境界値問題を解けば良いことになる。この限りに

おいては内部が導体であることは全く考慮する必要はない。それどころか、この段階で

は、内部にどんな電荷分布を仮定してもよい。

導体であることは内部解として φ =一定=表面上の値、を採用するところにのみ効いて

くる。

さて、Poisson方程式 (2.105)の一般解はすでに求めてある。再掲すると

φ(~r) =1

4πε0

∫d3r′

ρ(~r′)

|~r − ~r′| + f(~r) (2.106)

∇2f(~r) = 0 (2.107)

問題は f(~r)の決め方である。無限遠でゼロになる解を考える限りにおいては f(~r) = 0と

して良かったが、導体の問題では、有限領域にある導体表面上で φ(~r) = cという境界条

件を満足させるために、うまく f(~r)を選ばねばならない。しかも、f(~r)はLaplace方

程式の解でなければいけない。従って、一般には、Laplace方程式の一般解の知識が必要

になり、これは数学的に難しい。

しかし、幸いなことに、導体の形が簡単な場合には、次に述べるKelvinの鏡像法と呼ば

れるうまい考え方を用いることにより、一般的な方法よりはるかに簡単に解を(すなわち

f(~r)を)求めることができる。

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56 第 2章 静電場

2.7.3 Kelvinの鏡像法例 1

図のように接地された無限の導体面からある距離に電荷 qがおかれているとき、任意の点 P (x, y, z)

での電位を求めよう。接地するということは、そこの電位を無限遠の電位と等しくする、すなわちゼロにするということである。外部でのPoisson方程式を満たす一つの解は明らかにCoulomb場

φ0(P ) =1

4πε0

q

r

で与えられる。しかし、これだけでは明らかに導体表面での境界条件 φ = 0を満たさない。

y-z面 P

q−q

rr′

φ = 0

鏡像電荷

接地

dd

x

x− d

そこで、図のように仮想的な鏡像電荷をおく。この電荷のつくる電位は

φ1 =1

4πε0

−q

r′

と書けるが、仮想電荷は導体の内部に置いたのだから、外部では常に r′ 6= 0であり、従っ

て Laplace方程式を満たす。この電位を加えると

φ =1

4πε0

q

(1

r− 1

r′

)

これは明らかに境界上でゼロという条件を満たしている。すなわち、適当な鏡像を考える

ことにより、 必要な Laplace方程式の解 f(~r) = φ1(~r)が簡単に得られたのである。

2 導体表面上の電荷分布 :

さて、このとき導体表面にはどのような電荷分布ができているだろうか。これを求めるに

は、まず表面上での電場の x成分Exを求め、Ex = σ/ε0より σを求めればよい。電位を

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2.7. 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場 57

具体的に書くと

R2 ≡ y2 + z2

r =√

(x− d)2 + R2

r′ =√

(x + d)2 + R2

φ =q

4πε0

(1√

(x− d)2 + R2− 1√

(x + d)2 + R2

)(for x ≥ 0)

φ = 0 (for x < 0)

外部解を微分してExを求めると

Ex = − ∂

∂xφext

= − q

4πε0

( −x + d

((x− d)2 + R2)3/2+

x + d

((x + d)2 + R2)3/2

)

x = 0とおいて表面での値を求めると

Ex(0, y, z) = − q

4πε0

2d

(d2 + R2)3/2

=σ(y, z)

ε0

ゆえ表面電荷密度は

σ(y, z) =−q

d

(d2 + R2)3/2

さらに誘導された全電荷量を求めよう。

Qind =

∫dy dz σ(y, z)

= 2π

(−qd

) ∫ ∞

0

RdR

(d2 + R2)3/2

= −qd1

d

∫ ∞

0

udu

(u2 + 1)3/2

︸ ︷︷ ︸1

← R = ud (scalingの方法)

= −q (2.108)

従って誘導された全電荷はちょうど鏡像としておいた電荷の量に等しい。

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58 第 2章 静電場

演習 2.11 このことをGaussの法則を用いて導け。

解 あくまでも外側の領域で議論する。図のような領域にGauss則を適用すると、法線

の向きに注意して

無限遠

n

En = − σε0

q−q

q = −∫

σ(y, z)dy dz + ε0

”∞”

EndS

無限遠からの寄与を求める際に重要なのは、無限遠からみると、鏡像電荷と真電荷のつく

る場は dipole場に等しいということである。Dipole場の電位は φ ∼ 1/r2ゆえ、電場は

|~E| ∼ 1/r3でおちる。これに対して dS ∼ r2dΩだから、無限遠での積分はゼロになる。

従って以前求めた結果 (2.108) をえる。

演習 2.12 図のように、折り曲げられ接地された一様な薄い導体面 (z = 0, x ≥ 0面、及

び x = 0, z ≥ 0面よりなる)があり、位置 (b, 0, a)に電荷 qがある場合を考える。

b

ax

zq

1. 鏡像法の考えを用いて、領域 x ≥ 0, z ≥ 0中の任意の点 (x, y, z)における電位を

求めよ。

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2.7. 導体系とそれに伴う電荷分布、電位、及び電場 59

2. a = bの場合に導体面に誘導される電荷密度を求めよ。また誘導電荷の総量を求め

よ。但し次の公式を適宜用いよ。∫

dx

(x2 + c2)3/2=

1

c2

x√x2 + c2∫

dx

x2 + c2=

1

ctan−1 x

c

解 鏡像電荷を次の図のように置けば導体上で電位 = 0が満たされる。

q

q −q

−q b

a

(i) 電位 φ(~x)は容易に

φ(~x) =1

4πε0

(q√

(x− b)2 + y2 + (z − a)2+

−q√(x− b)2 + y2 + (z + a)2

+−q√

(x + b)2 + y2 + (z − a)2+

q√(x + b)2 + y2 + (z + a)2

)

(ii) まず z = 0面を考える。ここでは Ezのみ non-zeroで、 a = bとおくと

Ez = −∂zφ =2aq

4πε0

(((x + a)2 + y2 + a2)−3/2 − ((x− a)2 + y2 + a2)−3/2

)

表面電荷密度 σ(x, y)は

σ(x, y) = ε0Ez(x, y)

で与えられる。z = 0面上の電荷の総量は、これを積分して得られる。

Qz=0 =

∫ ∞

0

∫ ∞

−∞dyσ(x, y) =

2qa

4π(I+ − I−)

I± =

∫ ∞

0

∫ ∞

−∞dy

1

((x± a)2 + y2 + a2)3/2(2.109)

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60 第 2章 静電場

上記の公式を用いて y-積分を実行すると

I± = 2

∫ ∞

0

dx1

(x± a)2 + a2

この積分は容易に計算できる:∫ ∞

0

dx1

(x + a)2 + a2=

∫ ∞

a

du

u2 + a2

∫ ∞

0

dx1

(x− a)2 + a2= 2

∫ a

0

du

u2 + a2+

∫ ∞

a

du

u2 + a2

q qq I+ − I− = −4

∫ a

0

du

u2 + a2=−4

atan−1 u

a

∣∣∣∣a

0

= −π

a

従って

Qz=0 =qa

(−π

a

)= −1

2q

同様に Qx=0 = −12q。従って、

Qtot = −q

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2.8. 電場のエネルギーの概念 61

2.8 電場のエネルギーの概念

この節では、基本的な電荷分布の持つ静電エネルギーを求め、さらにそれがそれらのつ

くる電場自体に蓄えられているエネルギーとして解釈できることをみる。

2.8.1 静電エネルギー

すでに述べたように、電位と電荷の積はポテンシャルエネルギーの意味を持っている。

簡単な電荷分布についてこの具体的な形を示す。

1. 二個の点電荷系の持つエネルギー:

U = q1φ2 = q2φ1 =1

4πε0

q1q2

r12

(2.110)

2. 三個の場合:

U =1

4πε0

(q1q2

r12

+q2q3

r23

+q3q1

r31

)

=1

4πε0

1

2

i 6=j

qiqj

rij

(2.111)

ここで 1/2 の因子は qiqj/rij と qjqi/rji の double

countingを補正する因子。

r12

r12

r23

r31

q1

q1

q2

q2

q3

3. n個の場合:三個の場合より明らかに

U =1

4πε0

1

2

i6=j

qiqj

rij

(2.112)

4. qj (j 6= i)が qiの位置につくる電位による表式: 電位の表式は

φi =1

4πε0

j 6=i

qj

rij

であるから、上記の U は次のように書ける:

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62 第 2章 静電場

U =1

2

n∑i=1

qiφi (2.113)

5. 連続的な電荷分布の場合: 次の置き換えをすれば良い。

qi −→ ρ(~x)d3x

φi −→ φ(~x)∑

i

−→∫

d3x

従って

U =1

2

∫d3xρ(~x)φ(~x) (2.114)

6. 電荷が導体上にあるとき:導体上でφ =constであることから、静電エネルギーの表式は次のように簡単になる。

U =1

2

∑i

Vi

d3x ρ(~x)φi

=1

2

∑φi

Vi

d3x ρ(~x)

=1

2

∑Qiφi (2.115)

ここで Vi = i番目の導体での積分

Qi = i番目の導体上の全電荷

すなわち、導体一つ一つをあたかも荷電粒子のように扱ってよい。

Q1

Q2

Q3

φ2

φ3

φ1

V1

V2

V3

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2.8. 電場のエネルギーの概念 63

2.8.2 簡単な系の持つ静電エネルギー

1. 導体球: 球外の電場はあたかも中心に全電荷Qがあるときと同じであるから

導体の電位 φ =1

4πε0

Q

a

ゆえ U =1

2Qφ =

1

8πε0

Q2

a

2. 一様に帯電した球: 電荷密度を ρとすると

ρ =Q

43πa3

= const.

球体内部での電位を求めよう。まずGaussの法則より容易に

Q

a

Q

a

for r ≥ a En(r) =1

4πε0

Q

r2=

ρa3

3ε0

1

r2

for r ≤ a En(r) =ρ

4πε0

(4/3)πr3

r2=

ρr

3ε0

(2.116)

原点から rの距離での電位 φ(r)は、外向き電場Enに逆らって無限遠から単位電荷

を rの位置まで持って来るのに要する仕事であるから、

φ(r) = −∫ r

∞En(r′)dr′

= −∫ a

ρa3

3ε0

dr

r2−

∫ r

a

ρr

3ε0

dr

=ρa3

3ε0a− ρ

6ε0

(r2 − a2)

6ε0

(3a2 − r2) (2.117)

a

φ

r0

ρa2

3ε0

ρa2

2ε0

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64 第 2章 静電場

これより

U =1

2

∫ρφd3x =

ρ2

12ε0

∫ a

0

(3a2 − r2)4πr2dr =4πρ2a5

15ε0

(2.118)

次元解析による、答えの次元のチェック

この問題における物理量は半径 [a] = Lと電荷密度 [ρ] = Q/L3.

φ ∼ EL ∼ Q

ε0L(2.119)

U ∼ Qφ ∼ Q2

ε0L(2.120)

一方 ρ2 ∼(

Q

L3

)2

=Q2

L6

q qq U ∼ 1

ε0

ρ2L5 (2.121)

ゆえ、次元は確かに合っている。

コメント:原子核を ρが半径によらない一定の球とみたとすると、

質量 M ∝ a3

U ∝ a5

q qq U ∝ M5/3 (2.122)

従って静電エネルギーは質量が大きくなるとその 5/3乗で増える。これは重元素の

原子核ほど大きなエネルギーを蓄えており、それを放出する分裂が起こりやすいこ

との原因となっている。

2.8.3 静電エネルギーの電場のエネルギーとしての解釈

静電エネルギー U を直接電場 ~Eで書くことを考える。

U =1

2

∫d3xρφ

ρ = ε0~∇ · ~E を代入すると

U =ε0

2

∫d3xφ~∇ · ~E

=ε0

2

∫d3x

(~∇ · ( ~Eφ)− ~E · ~∇φ

)⇐部分積分

=ε0

2

∫dSEnφ +

ε0

2

∫d3x~E · ~E ⇐ガウスの定理

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2.8. 電場のエネルギーの概念 65

第一項の積分において、遠方では高々

En ∼ 1

r2, φ ∼ 1

r, dS ∼ r2

ゆえ、この積分は rが大きな極限で、1/r → 0であるから効かない。従って

U =ε0

2

∫d3x| ~E|2

u(~x) = 電場のエネルギー密度 =ε0

2| ~E|2

補:点電荷の自己エネルギー

上で得た電場によるエネルギーの表式を最も簡単な点電荷の場合に適用してみよう。

E = | ~E| = 1

4πε0

q

r2

U =ε0

2

∫E2d3x

=ε0

2

∫ ∞

0

(q

4πε0

)21

r44πr2dr

=

[− q2

8πε0

1

r

]∞

0

= ∞ ! (r = 0のところから発散)

この発散の原因は、点電荷それ自身との距離がゼロであることによる。あるいは、Uの連

続分布の式に持っていくときに qi → ρ(~x)d3xとしたが、この操作は点電荷それ自身をさ

らに無限小の部分に分割したことになっているためと考えてもよい。

Abrahamの電磁質量の考え: Abrahamはこの現象を積極的に解釈しようとした。電子

を半径 aの導体球と考える。するとその静電エネルギーは以前計算したように

U =1

2eφ =

e2

8πε0

1

a

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66 第 2章 静電場

となる。相対論の考えよりこれを電子の質量エネルギーと解釈すると、

mc2 =e2

8πε0

1

a

⇒ a =e2

8πε0mc2' 1.4× 10−13 cm =古典電子半径

という描像を得る。残念ながらこの考えは次の理由によりうまくいかない。

電子の運動に伴い、電場もまた歪んで運動してゆく。これに伴って電場は運動量を運ぶ。

これを |v| ¿ cの場合に計算すると

~p =4

3m~v 6= m~v

となり正しい結果を与えない。

ゆえ、点電荷の場合には、自己エネルギーを差し引いて考える。電荷の総数が変化しない

ときには、エネルギーの原点をずらして考えれば何等支障はない。しかし、相対論的量子

力学にいくと電荷の総数は保存しない (電子、陽電子共に正のエネルギーを持って対生成

されうる。)のでこの考えは使えなくなる。そこでは「繰り込み」という手法で困難を回

避するが完全に満足のいくものではない。本質的には非常に短距離での量子電磁気学の欠

陥をあらわすものと考えられる。

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2.9. 導体系の電位と電気容量 67

2.9 導体系の電位と電気容量

導体は「等電位体」として特徴づけられたが、導体系の電位とその上に帯電する電荷の

間には電磁気学の重ね合わせの原理から簡単な関係が成り立つ。

一個の導体の場合

導体の電位 φとその上の電荷Qの間の一般的な関係を導こう。まず、電位 φがどのように定まるかを復習する。電位 φ

が導体外部で満たす性質は

(i) 外部の空間で ∇2φ = 0

(ii) 無限遠での境界条件(約束) φ = 0

(iii) 導体表面での境界条件 φ = φc = const

こうして定まった電位 φから表面での電場 Enを求め、さらにそれを用いて表面上の全電荷 Qが次のように求まる:

φC

En = n · (−~∇φ) (2.123)

Q = ε0

∫dSEn (2.124)

重要なのはこれらの式がいずれも線形であることである。(これは以前述べたように電場

や電位の重ね合わせの原理からの帰結である。)すなわち、上記の方程式を満たす解を φ

とすると、それを λ倍したものもやはり Lapalace方程式を満たす。但し、表面での境界

条件は λ倍される。すると明らかに導体上の電荷も λ倍される。すなわち

φ −→ λφ

Q −→ λQ

このことは、導体の電位 φcとQが比例することを意味する。

Q = Cφc (2.125)

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68 第 2章 静電場

比例係数Cを導体の電気容量 (electric capacity)と言う。

Cの単位:[C] = Coulomb/Volt = F (Farad). ここでVolt = [Energy/Q] = Joule/Coulomb.

Faradと言う単位は、Coulombと同じく大きすぎるので、次のものがよく使われる:

µF = 10−6F micro Farad

pF = 10−12F pico Farad

2 Cの決まり方 :

電気容量 Cは、導体の大きさと形状によって決まる。実際に Cを求めるには、導体上に

Qなる電荷を与えたときの φcを計算し、Qと φcの関係を求めるのが最も簡単。

2 例: :

半径 a = 1mの球形の導体の電気容量。全電荷を Qとすれば、電位及び容量は、

φ =1

4πε0

Q

a

q qq C = 4πε0a =107

c2= 1.1× 10−10F = 110 pF (2.126)

この例のように、実際電気容量は pF程度になることが多い。

二個の導体 =コンデンサー

複数の導体からなる系に対しても電気容量の概念を拡張することができる。

簡単のため、二個の導体の場合を考えよう。導体1,2にそれぞれ電荷 Q1、Q2を与えた

とき導体外部にできる電位 φ(~x)は、重ね合わせの原理より、Q1のつくる電位 φ(1)(~x)と

Q2のつくる電位 φ(2)(~x)の和になる:

φ(~x) = φ(1)(~x) + φ(2)(~x)

φ(1)を考える場合には Q2 = 0としてよいから、導体表面の電位は 唯一存在する Q1に比

例する他はない。 φ(2)に対しても同様。従って図のよう状況になる:

Q1 Q2

φ2

φ1

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2.9. 導体系の電位と電気容量 69

式で書くと、 Q2 = 0の時は、

φ1 = D11Q1 , φ2 = D21Q1

のようにQ1に比例する。同様にQ1がゼロの場合には

φ1 = D12Q2 , φ2 = D22Q2

これらを重ね合わせると

φ1 = D11Q1 + D12Q2

φ2 = D21Q1 + D22Q2

(2.127)

従って、

φi =∑

j

DijQj (2.128)

Dijを電位係数と呼ぶ。これを逆に解くと

Qi =∑

j

Cijφj (2.129)

Cijは容量係数と呼ばれる。いったんDijまたはCijが求まると、φiがわかればQiがわか

る(あるいはその逆)という具合になる。

• CとDは行列として逆行列である。すなわちC = D−1。

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70 第 2章 静電場

コンデンサーとその容量

特に、Q1 = Q = −Q2としたとき、この導体系をCon-

denserと呼ぶ。このとき、φ1, φ2はいずれもQに比例するから、電位差 V = φ1 − φ2 もまた Qに比例する。ゆえ

Q −Q

φ2

φ1

Q = CV (2.130)

というよく知られた関係式を得る。電位差、従ってコンデンサーの容量は、無限遠での

電位のとり方の約束によらないことに注意する。

演習 2.13 このときの Cを電位係数 Dijで表せ。

φ1 = D11Q1 + D12Q2 = (D11 −D12)Q

φ2 = (D21 −D22)Q

q qq V = φ1 − φ2 = (D11 −D12 −D21 + D22)Q

q qq C = (D11 −D12 −D21 + D22)−1

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2.9. 導体系の電位と電気容量 71

コンデンサーの例

例1: 平行板コンデンサー

Q

−Q

~E d

Area = S

図より

σ = Q/S =表面電荷密度 =有限

E = σ/ε0

V = Ed = σd/ε0 =d

ε0SQ

これより

C = ε0S

d∼ ε0

面積長さ

(2.131)

間隔が狭いほど電位差は小さく、従って容量は大きい。但しあまり狭くすると放電が起

こる!

• コンデンサーが回路の中でどのように使われ、どのような役割を果たすかは、電流とそれが作る磁場の話をした後で説明する。

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72 第 2章 静電場

例2: 同心球面コンデンサー

−Q

Qa

b

中間領域での電場、及び電位差は

E(r) =1

4πε0

Q

r2

V =

∫ a

b

(−E(r))dr =Q

4πε0

(1

a− 1

b

)

=Q

4πε0

b− a

ab

q qq C =4πε0ab

b− a(2.132)

やはり、面積を長さで割ったものになっている。

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2.9. 導体系の電位と電気容量 73

演習 2.14 上記の同心球面コンデンサーについて容量係数を計算し、次の性質を確かめ

よ。

Cij = Cji i 6= j

Cii ≥ 0

Cij ≤ 0

解 今度は、各導体に異なる電荷を与えたときの φiを個々に求めなければならない。まず電場を求め、それから電位を求めるのが簡単。内側の球面にQ1、外側の球面にQ2を与える。中間領域ではGaussの定理より Q2

Q1

φ1

φ2

E(r) =1

4πε0

Q1

r2

ゆえ、電位差は

φ1 − φ2 = −∫ b

a

dr

=Q1

4πε0

(1

a− 1

b

)

外側の空間での電位は

φ =1

4πε0

Q1 + Q2

r

q qq φ2 =1

4πε0

Q1 + Q2

b

従ってこれらの関係式から電位係数Dijを読みとれば、行列として

D =1

4πε0

1

b

(ba

1

1 1

)

この逆行列がCijゆえ

C = 4πε0ab

b− a

(1 −1

−1 ba

)

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74 第 2章 静電場

2.10 導体系にはたらく力

平行板コンデンサーにはたらく力

図のような平行板コンデンサーにはたらく力を求めよう。まともに Coulomb力を計算しても求まるが、次に述べる仮想仕事の原理を用いると簡単である。図のような状態に保っておくには、求める力 ~F に逆らって外力 ~Fext = −~F を加えなければならない。ゆっくりと δxだけ二つの面を離すと、このときした外力のする仕事はFextδxであり、その分コンデンサーのポテンシャルエネルギーは増加するから

Q

−Q

x~Fext

~F~E

Fextδx = −Fδx = δU

q qq F = −δU

δx(2.133)

上記の系に対してこれを計算しよう。

U =1

2

∑i

Qiφi =1

2Q(φ1 − φ2) =

1

2QV

V = Ex =σ

ε0

x

q qq U =1

2QEx

q qq δU =1

2QEδx

q qq F = −1

2QE = − Q2

2ε0S(2.134)

F の符号が負であるということは xのへる方向、すなわち板を近づける方向に力が働くこ

とを意味する。

次元解析

[F ] = [Q][E] = [Q]Q

ε0L2=

Q2

ε0L2(2.135)

従って正しい次元が得られている。