電磁気学 ii+ 進んだ学習...
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電磁気学 II+ 進んだ学習
風間洋一
3
第6章 進んだ学習
電磁気学 IIでは磁場および時間変化する電磁場について、最も基本的な事柄を述べたが、
以下では、磁場の取り扱いに関する少し進んだ優れた見方を導入すると同時に、さらに幾
つかの典型的な電磁気現象について解説する。
6.1 ベクトルポテンシャルによる磁場の表し方
静電場の取り扱いに関しては、電場 ~Eを静電ポテンシャル1φの
微分で表すことが非常に便利であり本質的であった。すなわち
~E = −~∇φ , (6.1)
これによって、3成分を持つ電場を一つの関数から計算することができると共に、φに電
荷を掛けたものが、ポテンシャルエネルギーの意味をもつ、すなわち
qφ(~x) =
∫ ~x
−∞(− q ~E(~x′))︸ ︷︷ ︸
~F (~x′)
·d~x′ (6.2)
という、物理的に重要な描像を得た。
さて、磁場の場合にも同様にしてそれが何かの量を微分して得られるかたちに書けるで
あろうか。この問いに対する答えは電場の場合と比べることでは得られない。
静電ポテンシャルによる電場の表示は、電場が電荷にする仕事を考えることによって導か
れたのであったが、磁場によるローレンツ力は、以下に見るように電荷に対して仕事をし
ないからである!
1実は「ポテンシャル」という言葉には二つの意味 (用法)がある。ひとつは、静電ポテンシャルの場合のように、仕事によって蓄えられたエネルギーという意味であるが、もう一つは、仕事とは関係なく、ある量を何らかの別の量の微分で表すことができるとき、微分される量のことを言うこともある。後者の方がより一般的な用法である。静電ポテンシャルの場合は ~E = −~∇φ であるので、両方の意味を兼ね備えている。
4 第 6章 進んだ学習
実際磁場 ~Bが電荷 qを無限小の距離 d~x動かす場合の仕事は
dW = q~v × ~B︸ ︷︷ ︸~FM
·d~x (6.3)
であるが、~v× ~Bは~vと垂直な方向のベクトルであり、~vと同じ方向のベクトル d~xとは常
に直交する。すなわち右辺の内積は常にゼロとなるから dW = 0であり、磁場によるロー
レンツ力は仕事をしないのである。
しかし、Biot-Savartの法則を良くみると、 ~Bがある量の「微分」で書けることが次の
ようにしてわかる。
まず~a×~b = −~b× ~aを用いてBiot-Savart則を書き直すと
~B(~x) =µ0
4π
∫d3x′
(− ~x− ~x′
|~x− ~x′|3
)× ~(~x′)
ここで以前 Poisson方程式の一般解を求めたときにでてきた次の式を思い出そう。
~∇ 1
|~x− ~x′| = − ~x− ~x′
|~x− ~x′|3
これを代入すると
~B(~x) =µ0
4π
∫d3x′~∇ 1
|~x− ~x′| × ~(~x′)
ここで次の公式を用いる。
演習 6.1 次の公式を示せ。
~∇a(~x)×~b(~x′) = ~∇× (a(~x)~b(~x′)) (6.4)
解 第一成分を計算すると(
~∇× (a(~x)~b(~x′)))
1=
∂
∂x2
(a(~x)b3(~x′))− ∂
∂x3
(a(~x)b2(~x′))
=∂
∂x2
a(~x)b3(~x′)− ∂
∂x3
a(~x)b2(~x′)
=(
~∇a(~x)×~b(~x′))
1
6.1. ベクトルポテンシャルによる磁場の表し方 5
この公式を利用して ~∇を積分の外にだすと、次の形が得られる:
~B(~x) = ~∇×(
µ0
4π
∫d3x′
~(~x′)
|~x− ~x′|
)(6.5)
これより、ベクトルポテンシャル ~A(~x)と呼ばれる量を
~A(~x) =µ0
4π
∫d3x′
~(~x′)
|~x− ~x′| (6.6)
と定義すると磁束密度 ~Bは
~B = ~∇× ~A
すなわち、ベクトルポテンシャルの rotationで書ける。
~Aの形を静電場のときに導入した静電ポテンシャルと比較しよう。
φ(~x) =1
4πε0
∫d3x′
ρ(~x′)
|~x− ~x′|電場と磁場のポテンシャルによる表式はかなり異なるが、ポテンシャル自身の表式は非常
によく似た形をとることに注目しよう。
いずれにせよ、磁束密度 ~Bを計算するのに、Biot-Savart則より遙かに簡単な積分で得
られる ~Aをまず計算し、それの rotationをとるというやり方が使えることになる。
演習 6.2 無限に長い直線電流のつくる磁場 ~Bを、まず ~Aを求め、その rotationをとる
方法によって求めよ。
6 第 6章 進んだ学習
解 定常直線電流に対しては∫断面 ~(~x′)d3x′ = Id~x′であるから、
~A(~x) =µ0I
4π
∫d~x′
|~x− ~x′| =µ0I
4πz
∫ ∞
−∞
dz′√ρ2 + (z′ − z)2
, (ρ2 = x2 + y2)
= 2µ0I
4πzI(ρ)
ここで I(ρ) ≡∫ ∞
0
dt√ρ2 + t2
(6.7)
この積分は tが大きなところで log発散するが、その部分は定数であり、物理的な磁束密
度 ~Bには効かない。このことを考慮して、I(ρ)をいったん ρで微分したものを計算して
みる。
dI
dρ= −
∫ ∞
0
ρdt
(ρ2 + t2)3/2= −1
ρ
∫ ∞
0
du
(1 + u2)3/2= −1
ρ
これを積分し直すと、直ちに
I(ρ) = − ln ρ + const. = −1
2ln(x2 + y2) + const.
q qq ~A = −µ0I
4πz ln(x2 + y2) + const.
この rotationを計算すれば容易に次の結果を得る:
B1 = −µ0I
2π
y
x2 + y2, B2 =
µ0I
2π
x
x2 + y2
6.1.1 ベクトルポテンシャルに対する「ゲージ変換」の自由度
ベクトルポテンシャルの定義には、重要な不定性が存在する。まずすでに IIの演習問
題で扱ったように、任意の関数Λ(~x)に対して
~∇× ~∇Λ = 0
なる公式が成り立つことは容易に確かめられる。従って、今 ~B が ~∇ × ~Aと書けたとす
ると、
(∗) ~A′ ≡ ~A + ~∇Λ
で定義される新しいベクトルポテンシャル ~A′もまた同じ ~Bを与える。実際
~∇× ~A′ = ~∇× ~A + ~∇× ~∇Λ = ~∇× ~A
6.1. ベクトルポテンシャルによる磁場の表し方 7
すなわち同一の磁束密度を与える ~Aには ~∇Λの不定性がある。これをゲージの自由度とい
い、上の変換 (∗)をゲージ変換と言う。このことは、古典電磁気学においてはベクトルポテンシャル自体は観測量ではなく、 ~Bのみが観測可能な物理量であることを意味する2。
ゲージ変換で互いに移り変われる ~Aの中から一つ具体的なものを選択することを、ゲージ
固定と呼ぶ。それには ~Aに対して付加的な条件を付けてやればよい。例えば ~Aのdivergence
という量を考えると、そのゲージ変換は
~∇ · ~A′ = ~∇ · ~A +∇2Λ
となり、一般に ∇2Λはゼロでないから、~∇ · ~Aの値によってゲージを区別することがで
きる。そこで上で電流の積分として (6.6)のように具体的に与えられた ~Aに対してその
divergenceを調べてみよう。
~∇ · ~A =µ0
4π
∫d3x′ ~∇ ·
(~(~x′)
|~x− ~x′|
)
=µ0
4π
∫d3x′ ~(~x′) · ~∇ 1
|~x− ~x′|= −µ0
4π
∫d3x′ ~(~x′) · ~∇′ 1
|~x− ~x′|= −µ0
4π
∫d3x′ ~∇′ ·
(~(~x′) · 1
|~x− ~x′|
)←− ~(~x′) の分布が有限ならば 0
+µ0
4π
∫d3x′
~∇′ · ~(~x′)|~x− ~x′| ←−静的な場合の電荷保存より 0
= 0
ゆえ、上記の ~Aは
~∇ · ~A = 0 (6.8)
という特別なゲージ条件をみたしていることがわかる。これはクーロンゲージ条件と呼ば
れる。
2量子力学では、 ~A自体が物理的意味を持つ状況が存在することがあり、非常に重要な効果を生み出す。
8 第 6章 進んだ学習
6.1.2 静磁場 ~BのみたすMaxwell方程式
• まず ~B = ~∇× ~Aより直ちに次のMaxwell方程式のひとつを得る。
~∇ · ~B = ~∇ · (~∇× ~A) = 0
(最後の等式は rotationと divergenceの定義から簡単に示せるので各自確かめよ。)
これと、電場に対するMaxwellの方程式
~∇ · ~E =ρ
ε0
との比較から、上式が磁荷の非存在を表していることがわかる。
• 次に ~∇× ~Bを考えてみよう。
演習 6.3 次の恒等式を証明せよ。
~∇× (~∇× ~A) = ~∇(~∇ · ~A)−∇2 ~A (6.9)
解 これも定義を忠実に当てはめれば簡単に示せる。第1成分を計算すると
左辺 =[~∇× (~∇× ~A)
]1
= ∇2(~∇× ~A)3 −∇3(~∇× ~A)2
= ∇2(∇1A2 −∇2A1)−∇3(∇3A1 −∇1A3)
= −∇2A1 +∇1(∇1A1 +∇2A2 +∇3A3)
=右辺 (6.10)
この恒等式を用い、途中でCoulomb gaugeの条件式を入れると
~∇× ~B = ~∇× (~∇× ~A)
= ~∇(~∇ · ~A)−∇2 ~A
= −∇2 ~A ←− ~∇ · ~A = 0
= −µ0
4π∇2
∫d3x′ ~(~x′)
1
|~x− ~x′|この右辺の各成分は、µ0/4πを 1/4πε0に置き換えれば、静電ポテンシャルに対する
ポアソン方程式の場合と同じ形なので、µ0~(~x)に等しい。こうして、静磁場に対す
るAmpere の法則が得られる。
6.2. 静磁場の多重極展開と磁気双極子モーメント 9
以上の結果をまとめると、静磁場に対するMaxwellの方程式として
~∇ · ~B = 0 磁荷の非存在
~∇× ~B = µ0~ Ampere則
が ~B = ~∇× ~~Aを用いて得られる。
6.1.3 Vector Potentialの満たす微分方程式
ベクトルポテンシャル自体の満たす方程式はどうなるだろうか。前節の計算の途中の結
果から直ちに
∇2 ~A(~x) = −µ0~(~x)
すなわち、各成分は Poisson方程式を満たすことがわかる。従ってその一般解は
~A(~x) =µ0
4π
∫d3x′
~(~x′)
|~x− ~x′| + (~h(~x))
∇2~h(~x) = 0
となり、h(~x) = 0ととったものが Coulomb gauge条件を満たすベクトルポテンシャルと
なる。
6.2 静磁場の多重極展開と磁気双極子モーメント
我々は Iで、電位を表す式
φ(~x) =1
4πε0
∫d3x′
ρ(~x′)
|~x− ~x′| (6.11)
において電荷分布からの距離 r ≡ |~x|が非常に大きいときに、どのような電荷分布が一番効いてくるかを、1/rに対する巾展開をすることで調べ、遠方でのポテンシャルの振る舞
いの順番に、「点電荷」φ ∼ 1/r、「電気双極子」φ ∼ 1/r2、等の基本的電荷分布を得た。
10 第 6章 進んだ学習
ベクトルポテンシャル ~Aの各成分の表式は、上記の φの表式と同じ形であるから、こ
れに対しても全く同様に 1/r展開をして、どのような電流の分布が遠方で最も効くかを調
べることができる。
静電場のときと同様に電流分布が有限領域内にあるとして、これを遠くから眺めるこ
とを考える:
以前と同様に、r ≡ |~x|, r′ ≡ |~x′|と記し、r >> r′ として r′/rについて巾展開する。電位
の多重極展開のときの公式がそのまま使えるから
1
|~x− ~x′| =1
r
[1 +
~x · ~x′r2
+1
2r4
(3(~x · ~x′)2 − r2r′2
)+ · · ·
]
従って ~A(~x)は次のように展開される:
~A(~x) = ~A0(~x) + ~A1(~x) + ~A2(~x) + · · ·
ここで
~A0(~x) =µ0
4π
1
r
∫d3x′~(~x′)
~A1(~x) =µ0
4π
1
r3
∫d3x′(~x · ~x′)~(~x′)
...
6.2. 静磁場の多重極展開と磁気双極子モーメント 11
これを電位に対する多重極展開と比較しよう。電位の場合は、
φ0(~x) =1
4πε0
1
r
∫d3x′ρ(~x′)
φ1(~x) =1
4πε0
1
r3
∫d3x′(~x · ~x′)ρ(~x′)
であった。形は非常によく似ているが、以下で見るように重要な違いがある。
2 (i) ~A0(~x) の計算:まず、電流密度の各成分:
ji(~x) が時間変化のない場合の電荷の保存則を用いて次のように divergenceで書けること
に着目する:
ji(~x) = ~∇ · (xi~)− xi~∇ · ~
= ~∇ · (xi~) ← ~∇ · ~ = 0 電荷保存
これを用いると直ちに∫
d3xji(~x) =
∫d3x~∇ · (xi~) =
∫
Σ(∞)
dSxin · ~
= 0 (~(~x)は有限領域に分布)
を得る。これは磁場を作る電流の場合には、点電荷に対応するもの (磁荷)がないことを
表している。
2 (ii) ~A1(~x)の計算:計算したいのは、:∫
d3x′(~x · ~x′)~(~x′)の積分。これに関して次の定理が成り立つ:
電荷の保存則 ~∇′ ·~(~x′) = 0が成り立つ場合、任意の ( ~x′によらない)ベクトル
~aに対して∫
d3x′(~a · ~x′)~(~x′) =
[1
2
∫d3x′~x′ × ~(~x′)
]× ~a
12 第 6章 進んだ学習
証明 まずベクトル三重積の公式 ~A× ( ~B × ~C) = ~B( ~A · ~C)− ~C( ~A · ~B) を用いると
~a× (~x′ × ~) = ~x′(~a · ~)− ~(~a · ~x′)q qq (∗)
∫d3x′(~a · ~x′)~ =
∫d3x′(~a · ~)~x′ −
∫d3x′~a× (~x′ × ~)
と書き換えられる。ここに現れている積分は、いずれも∫
d3x′ji(~x′)x′jの形の積分の組み
合わせである。すでに示したように、~∇′ · ~(~x′) = 0が成り立つ場合
ji = ~∇′ · (x′i~(~x′)) (6.12)
と divergenceの形に書き直せるから、部分積分を途中で用いると∫d3x′jix
′j =
∫d3x′~∇′ · (x′i~(~x′))x′j
= −∫
d3x′x′i(~ · ~∇′)x′j ←部分積分
= −∫
d3x′x′ijj
すなわち、iと jを入れ換えると符号が変わる。これを用いて (∗)式の左辺の積分を書き換えると、 ∫
d3x′(~a · ~x′)jj =
∫d3x′
∑i
aix′ijj = −
∫d3x′
∑i
aijix′j
= −∫
d3x′(~a · ~)x′jこれは (∗)式の右辺第一項の符号を変えたものに等しいから、結局 (∗)より定理の式を得る。
~a = ~xとおいてやると、∫d3x′(~x · ~x′)~(~x′) = −1
2~x×
(∫d3x′~x′ × ~(~x′)
)
=
[1
2
∫d3x′~x′ × ~(~x′)
]× ~x
ここで磁気双極子モーメント (magnetic dipole moment) ~m を次のように定義する:
~m =1
2
∫d3x′~x′ × ~(~x′)
6.2. 静磁場の多重極展開と磁気双極子モーメント 13
これを用いると
~A1(~x) =µ0
4π
~m× ~x
r3
途中の計算は少し複雑であったが、最終的な結果は非常にきれいになる。これに対応する
磁束密度 ~B1(~x)は rotationを計算して、
~B1(~x) = ~∇× ~A(~x) =µ0
4π
3x(x · ~m)− ~m
r3
で与えられる。
演習 6.4 この計算を実行せよ。
6.2.1 平面中のループ電流のmagnetic moment
Magnetic moment の直観的な意味を探るために、平面上の任意の形のループ電流を考
える。
14 第 6章 進んだ学習
電流密度はループ上にしかないから、~xのまわりで小さな円筒を考えると、
d`
∫
断面d2x~(~x) = Id~
と書ける。従って定義より
~m =I
2
∮~x× d~
12~x × d~は面に垂直なベクトルでその大きさは 1
2| ~x |
d`⊥ = da (微小三角形の面積). 従って
1
2
∮~x× d~ = [ループの囲む面積] n
n = 面に垂直な単位ベクトル
ゆえ
| ~m | = I · Area
と書ける。この結果はループの形によらない。
演習 6.5 図のような微小な円形ループ電流(電流の強さ I)によってつくられる磁場を
記述する vector potentialを具体的に求め、上の結果を確かめよ。
6.2. 静磁場の多重極展開と磁気双極子モーメント 15
解 図のように座標をいれると
~A(~x) =µ0
4πI
∮d~x′
|~x− ~x′|ここで
~x′ = (a cos φ, a sin φ, 0)
q qq d~x′ = a(− sin φ, cos φ, 0)dφ
|~x− ~x′| = R =(r2 + a2 − 2a(x cos φ + y sin φ)
)1/2
r ≡ |~x|
従って
~A(~x) =µ0
4πI
∫ 2π
0
dφa(− sin φ, cos φ, 0)
R
r >> aとしてR−1を展開すると
R−1 ' r−1(1 +
a
r2(x cos φ + y sin φ)
)
第一項の積分は dφ積分すると∫ 2π
0
dφ sin φ =
∫ 2π
0
dφ cos φ = 0
ゆえ効かない。次の項は∫ 2π
0
dφ sin φ cos φ = 0
∫ 2π
0
dφ sin2 φ =
∫ 2π
0
dφ cos2 φ = π
16 第 6章 進んだ学習
より容易に計算できて
~A(~x) =µ0
4π
Ia2π
r3(−y, x, 0)
=µ0
4π
m
r3(−y, x, 0)
ここで m = Iπa2 = magnetic momentの大きさ
図より (−y, x, 0) = z × ~xと書ける。従って magnetic
momentを ~m = mzと定義すれば
~A(~x) =µ0
4π
~m× ~x
r3
を得る。
6.3 磁場が電流に及ぼす力と回転力
6.3.1 一般論
無論基本は Lorentz力である。単位体積あたりに働く力は
~f = ρ~v × ~B = ~× ~B
ゆえ全体で
~F =
∫d3x~(~x)× ~B(~x)
原点のまわりの回転力、すなわちトルクを求めよう。
単位体積あたりのトルク = ~x× ~f
= ~x× (~× ~B)
ゆえ全体で
6.3. 磁場が電流に及ぼす力と回転力 17
~N =
∫d3x~x×
(~(~x)× ~B(~x)
)
6.3.2 一様な磁場の場合
一様な磁場中の有限領域に電流が流れている場合には面白いことが起こる。まず力を
計算する。~Bは ~xによらないから積分の外に出せる。すると、以前導いた式∫
d3x~(~x) = 0
を用いて、
~F =
(∫d3x~(~x)
)× ~B = 0
を得る。すなわち、どんな電流分布に対しても全体としては力は働かない。(図参照)但し、合力がゼロと言っているのであって、ループの各部分には力が働くから、ループは一般に変形を受ける。(例は後述。)
重要なのは、回転力は働くことである。実際トルクを計算すると、
~N =
∫d3x~x× (~(~x)× ~B) 6= 0
回転力の性質
どのような回転力が働くのかを具体的にみよう。二つの方法がある。
(i) 一般論: vector解析及び電荷の保存則を用いる。まずベクトルの三重積の公式
より
(∗) ~x× (~(~x)× ~B) = ~(~x)(~x · ~B)− ~B(~(~x) · ~x)
18 第 6章 進んだ学習
さらに、以前導いた次の公式を思い出す:∫
d3x~(~x) · ~x = 0 ,
∫d3x (~x · ~B)~(~x) = ~m× ~B
ここで ~m =1
2
∫d3x~x× ~(~x) magnetic moment
これらを (∗)の右辺に適用すると、次の非常に簡単な結果を得る:
~N = ~m× ~B
これを図示すると右図のようになる。すなわち、~mを ~B
の方向に揃えようとする回転力が働く。(トルクベクトルN は回転軸の方向を表すことを想いだそう。)
この回転力はモーターの原理として使われている。
6.3.3 磁場中のmagnetic momentの持つpotential energy
磁場中の magnetic momentには回転力が働くことを見たが、これを用いて magnetic
moment の持つポテンシャルエネルギーを計算しよう。以前コンデンサーに働く力を求め
た際に用いた仮想仕事の原理の考え方を用いる。~mと ~Bが角度 θをなしているとする。
ループが回転しないように保っておくには、外からトルク
~N ext = − ~N = −~m× ~B
を加えなければならない。こうした釣合の状態でほんの少し外からのトルクを増して微小
な角度 δθだけ回転させるとき、 ~N ext のする仕事の大きさは (xδθ =移動距離)
N extδθ = mB sin θδθ
= −mBδ cos θ = δ(−mB cos θ)
この分系のポテンシャルエネルギー U が増加するから、上式は δU に等しいはずである。
これより U は
6.4. 一般の電場の potentialによる表式 19
U = −mB cos θ = −~m · ~B
と求まる。明らかに、~mと ~Bの方向がそろったときエネルギーが最も低いので、それを
実現する方向に回転が起こるのである。
6.4 一般の電場のpotentialによる表式
我々は静電場が静電ポテンシャルの微分で書けることを知っているが、実はFaraday則
に現れる時間に依存する電場の場合にはこのことは成り立たない。実際、 ~E = −~∇φの
形に書ける電場は
~∇× ~E = −~∇× ~∇φ = 0!
ゆえ、その rotationは常にゼロになってしまう。
ではポテンシャルで書くにはどうしたら良いか。キーは Faraday 則の右辺に現れる磁
束密度が ~B = ~∇× ~Aのようにベクトルポテンシャルの rotation で書けることを利用する
ことである。これを用いると
~∇× ~E = −~∇× ∂ ~A
∂t
q qq ~∇× ( ~E +∂ ~A
∂t) = 0
q qq ~E +∂ ~A
∂t= −~∇∃φ
従って、
~E = −~∇φ− ∂ ~A
∂t
のように書ける。これは静電場の場合の拡張になっており、Faraday則を自動的に満たす。
すなわち、Faraday則を ~Eに対する微分方程式と見たときの解になっているのである。
20 第 6章 進んだ学習
6.5 電流の時間変化とインダクタンス
我々は既に、定常電流がつくる静磁場について学んだが、この節では電流が時間変化す
る場合を取り扱う。
電流の時間変化は当然磁場の時間変化を生み出すが、それはまたFaraday則に従って電
場を誘導する。そしてその電場は起電力として働いて電流の新たな流れを生み出すという
連鎖的な現象を引き起こす。実用に用いられる回路系では、こうしたフィードバックを伴
う相互作用が働くのである。
6.5.1 インダクタンスの定義
上述の連鎖的現象を記述するのに欠かせない基本的概念としてインダクタンス の概念
がある。これは回路電流とそれによってできる磁束密度の間の関係を簡潔に表すと同時
に、あとで見るように、電流の持つ「慣性」を表すものである。
まず、導体系における全電荷Qiと電位 φiの線形関係を思い起こそう。
一つの導体 Q = Cφ 電気容量
一般の場合 Qi =∑
j
Cijφj 容量係数
これはMaxwell方程式が線形であることに由来したが、全く同様にして、ループ電流系
における各ループを貫く磁束Φiとループを流れる電流の強さ Iiの間に線形関係が成り
立つ。
一つのループ電流の場合
~と ~Bの関係は線形であるから、磁束Φ =∫
dSBnと電流の強さ Iは比例する。これを次
のように表す:
Φ = LI
L = 自己インダクタンス
= self inductance
6.5. 電流の時間変化とインダクタンス 21
Lの単位:Weber/Ampere = Henry
Lは回路の形状等で決まる。自己インダクタンスの大きな回路では、同じ電流に対してよ
り大きな磁場が発生する。
多くのループ電流がある場合
Φi = ループ iを貫く磁束、Ij =ループ jを流れる電流の強さ、とすると、重ね合わせの
原理により、導体系の場合と同様に次の関係が成り立つことが容易にわかる:
Φi =∑
j
LijIj cf. Qi =∑
j
Cijφj
Lii = self inductance(自己インダクタンス)
Lij (i 6= j) = mutual inductance (相互インダクタンス)
例1: ソレノイドの自己インダクタンス:
ソレノイドに電流を流したときに発生する磁場がコイルを貫く磁束の量を求めることに
よって、自己インダクタンスが計算される。
22 第 6章 進んだ学習
n = 単位長さあたりの巻き数
B = µ0nI
ひと巻き毎の磁束 = Φ = BS, 巻き数 = n`
q qq Φtot = n`BS = µ0n2`SI
q qq L = µ0n2`S = µ0n
2 × Volume
例2: 二つの同軸ソレノイドの相互インダクタンス:
Φ1 = L12I2 when I1 = 0
Φ2 = L21I1 when I2 = 0
まず I1 = 0, I2 6= 0の場合を考える。このときできる磁束密度はB = µ0n2I2. ゆえ、単位
長さあたりの磁束はBS2. これがソレノイド1と n1`回絡むからむ。従って
Φ1 = µ0n2I2n1`S2
q qq L12 = µ0n1n2`S2
6.5. 電流の時間変化とインダクタンス 23
次に、I2 = 0, I1 6= 0の場合には、B = µ0n1I1/ 単位長さあたりソレノイド2の面を通る
磁束は BS2 = µ0n1I1S2. これが n2`回絡むから
Φ2 = µ0n1I1S2n2`
q qq L21 = µ0n1n2S2` = L12 相反性
6.5.2 インダクタンスの役割
以下に見るように、インダクタンスは電流が時間的に変化する際に、電流の流れの「慣
性」を表す量であることがわかる。
一つのループ回路における電流の流れ
すでに述べたように、電流の変化に伴い、次の現象が起きる:
電流(磁場の発生源)の変化 → 磁場の変化 → Faraday則による起電力
このとき、起電力は電流の変化を妨げる方向に働くのであった。Φ = LIを用いると
E = −dΦ
dt= −L
dI
dt
回路に電流を流すには無論外部起電力(電池)Eextが必要である。回路の抵抗をRとす
ると、Ohmの法則より
全起電力 = Eext + E = RI
逆起電力の電流変化による表式を代入すると
LdI
dt+ RI = Eext
これは摩擦及び外力のある場合の粒子の運動方程式と同じ形をしている:注目する。
mdv
dt+ λv = F ext
容易に
L ⇔ m
I ⇔ v
R ⇔ λ
Eext ⇔ F ext
24 第 6章 進んだ学習
の対応が見て取れる。
t = 0で電流がゼロである場合、Iに対する微分方程式を解くと
I(t) = I(∞)(1− e−(R/L)t
)
I(∞) ≡ Eext/R
従って、電流はだいたい L/Rの時間の後に、かけている起電力に比例した定常的な値
Eext/Rになる。Lが大きいと、質量が大きな場合と同様に、その終値に近づくのに時間
がかかる。この力学系とのアナロジーは非常に有効である。
LCR回路におけるインダクタンスの役割
コイル、コンデンサー、抵抗(及び電源)を直列に組み合わせた回路はLCR回路と呼
ばれ、交流を流したときに共振(共鳴)現象を起こす性質を持つ。(クォーツ時計の中の
クォーツは丁度このような働きをしている。)
L: 自己インダクタンスC: コンデンサーの容量R: 抵抗
外部起電力を Eextとし、Q = CV を思い出すと、回路を一回りしたときの電圧のバラン
スを表す式として
LdI
dt+ RI +
Q
C= Eext
を得る。I = dQ/dtを代入すると
(∗) Ld2Q
dt2+ R
dQ
dt+
1
CQ = Eext
6.5. 電流の時間変化とインダクタンス 25
となり、ちょうど強制力と抵抗力が働いている振動子系の運動方程式
md2x
dt2+ α
dx
dt+ kx = F ext
と同型になる。対応は
L ∼ m (質量)
R ∼ α (抵抗力の係数)1
C∼ k (バネ定数)
式 (∗)を Lで割ると
d2Q
dt2+
R
L
dQ
dt+
1
LCQ =
Eext
L(6.13)
と書けるから、力学系との対比を考えて、以後
2λ ≡ R
L, ω2 ≡ 1
LC
と置く。ωはこの系の固有角振動数を表している。
さらに、この対応から、エネルギーに対して次の対応が示唆される。
運動エネルギー1
2mv2 ↔ 電流のエネルギー
1
2LI2
位置のエネルギー1
2kx2 ↔ 静電エネルギー
1
2
1
CQ2
(電流のエネルギーについては次節で考察する。)
外部起電力がない場合の微分方程式の解は、よく知られているように、一般に減衰振動に
なる。
交流起電力の場合
特に、交流起電力 Eext = E0 cos ω′tが働く場合を考察しよう。このとき、以下に見るよう
に共振現象が起こる。この場合の微分方程式を解くには、複素数に拡張して
E(t) = E0eiω′t
I(t) = I0eiω′t , I0 = e−iφ
Q(t) =1
iω′I0e
iω′t =1
iω′I(t)
26 第 6章 進んだ学習
と置き、最後に実部をとるのがよい。これを方程式 (∗)に代入すると(
Liω′ + R +1
iω′C
)I0e
iω′t = E0eiω′t
従って、
I0 =E0
Z
Z ≡ iω′L + R +1
iω′C=
L
ω′(2λω′ + i(ω′2 − ω2)
)
と書ける。Zは複素インピーダンスと呼ばれ、直流回路の場合の電気抵抗に対応する。複
素数の極座標表示
a + ib =√
a2 + b2 eiφ
tan φ =b
a
を用いると、容易に
I(t) = |I0| cos(ω′t− φ)
|I0| =E0
R
2λω′√(ω2 − ω′2)2 + 4λ2ω′2
tan φ =ω′2 − ω2
2λω′
を得る。ω′を変えていくと、それがちょうど系の固有振動数ωと一致するとき共振(共鳴)を起こし、電流の大きさ |I0|は最大値 E0/Rをとる。(右図参照。)抵抗が小さいときには、非常に鋭い共鳴が得られる。
6.6. 電流のエネルギーとその磁場のエネルギーとしての解釈 27
6.6 電流のエネルギーとその磁場のエネルギーとしての解釈
電荷の静電エネルギーは電場のエネルギーとして解釈できることを以前見た。復習す
ると、
電荷のCoulombエネルギー −→電場のエネルギーU =
1
2
∫d3xρφ =
∫d3x
ε0
2| ~E|2
u(~x) =ε0
2| ~E(~x)|2 エネルギー密度
この節では、同様に、定常電流のエネルギーが静磁場のエネルギーとして解釈できること
を見る。
6.6.1 一回路系
まず一つの回路について考える。Eextを電池の起電力とすると、電流が時間変化する場
合も含めたときの方程式は
LdI
dt+ RI = Eext
これに Iを掛けると、
LIdI
dt+ RI2 = EextI =
dW
dt=仕事率
=d
dt
(1
2LI2
)+ RI2(ジュール熱)
12LI2はちょうど運動エネルギー 1
2mv2の形をしており、Joule 熱に変わる部分を除いた電
流の持つエネルギーを表していると考えられる。(以前は仕事率のみ考えたので、定常電流
に対しては一定である電流のエネルギーは考えなくてもよかった。)従って
電流のエネルギー = U =1
2LI2 =
1
2ΦI
と定義するのが自然である。導体のもつ静電エネルギー (1/2)QV との類似に注目せよ。
28 第 6章 進んだ学習
6.6.2 一般の静磁場の場合
次にこの定義を一般の静磁場の場合に拡張することを考える。磁束の定義に Stokesの
定理を適用することにより
Φ =
∫dSn · ~B =
∫dSn · (~∇× ~A) =
∫d~ · ~A
従って
U =1
2IΦ =
1
2
∫Id~ · ~A =
1
2
∫d3x~ · ~A
を得る。静電エネルギーの一般式 (1/2)∫
d3xρφと比較せよ。
さらにこれを磁束密度 ~Bで書き換えたい。それには次の公式を用いる:
~∇ · (~a×~b) = −~a · (~∇×~b) +~b · (~∇× ~a)
特に、~a, ~bが有限領域でのみゼロでないならば、左辺を積分したものはゼロになる。従って∫d3x~a · (~∇×~b) =
∫d3x~b · (~∇× ~a)
が成り立つ。~a = ~A, ~b = ~Bとおくと∫d3x ~A · (~∇× ~B) =
∫d3x~B · (~∇× ~A)
=
∫d3x~B · ~B
静磁場に対するAmpereの法則 ~∇× ~B = µ0~を用いると電流のエネルギーは結局
U =1
2
∫d3x ~A · ~ =
1
2µ0
∫d3x ~A · (~∇× ~B)
=1
2µ0
∫d3x ~B · ~B =
1
2µ0
∫d3x| ~B|2
となり、磁場のエネルギーの形で書けることになる。
注: 導き方から明らかなように、これはあくまでも静磁場に対する表式である。実際時
間変化がある場合には、磁場の時間変化は電場を誘導し、また電場の時間変化は磁場を生
み出すから、磁場と電場の明確な分離はできない。しからば、時間変化がある場合の場の
エネルギーはどう考えるべきであろうか。
6.7. 電磁場のエネルギー保存則とポインティングベクトル 29
6.7 電磁場のエネルギー保存則とポインティングベクトル
6.7.1 時間的に変化する場合の電磁場のエネルギーの定義
まず考えられるのは、形式的に静磁場の場合の磁場のエネルギーの表式をそのままの形
で時間変化がある場合も定義として採用することである。すなわち、
磁場のエネルギー = UM ≡ 1
2µ0
∫d3x| ~B|2
磁場のエネルギー密度 = uM(~x, t) =1
2µ0
| ~B(~x, t)|2
そして電磁場全体のエネルギー密度の定義としては
uEM ≡ ε0
2| ~E|2 +
1
2µ0
| ~B|2
を採用する。
6.7.2 エネルギー保存則とポインティングベクトル
こうした、かなり勝手に拡張された電磁場のエネルギーの定義が有用であるためには、
それが何らかの保存則を満たすことが必要である。
これを調べるために、電荷を持った粒子の集合と電磁場からなる系を考える。磁場による
ローレンツ力は常に速度に垂直で仕事をしないことを考慮すると、このとき電磁場が粒子
に対して行う仕事率は、
dW
dt=
∫d3x~f · ~v =
∫d3xρ~E · ~v =
∫d3x~E · ~
で与えられる。こうしてなされた仕事は、(熱エネルギーも含めて)粒子の力学的エネル
ギー Umechに転化されるから、
dUmech
dt=
∫d3x~E · ~
30 第 6章 進んだ学習
と書ける。ここでAmpere-Maxwellの方程式を思い起こそう。
~∇× ~B = µ0~ + µ0ε0∂ ~E
∂t
~について解くと
~ =1
µ0
~∇× ~B − ε0∂ ~E
∂t
これをエネルギー変化の式に代入すると
dUmech
dt=
∫d3x
{1
µ0
~E · (~∇× ~B)− ε0~E · ∂ ~E
∂t
}
さて、以前にも用いたベクトル解析の公式及び Faraday則より
~E · (~∇× ~B) = ~B · (~∇× ~E)− ~∇ · ( ~E × ~B)
= ~B ·(−∂ ~B
∂t
)− ~∇ · ( ~E × ~B)
これを代入すると
dUmech
dt= −
∫d3x
1
µ0
~∇ · ( ~E × ~B)− ∂
∂t
∫d3x
(1
2µ0
| ~B|2 +ε0
2| ~E|2
)
と書ける。ここでPoynting’s vectorと呼ばれる量 ~P を導入する:
~P ≡ 1
µ0
~E × ~B
すると、上の式は電磁場のエネルギーの定義と併せて
dUmech
dt= −
∫d3x~∇ · ~P − ∂UEM
∂t
と書ける。力学的エネルギー密度 umech(~x, t)を
Umech =
∫d3xumech(~x, t)
6.7. 電磁場のエネルギー保存則とポインティングベクトル 31
で定義すると、上式が任意の領域で成り立つから、積分をはずして整理すると、
∂(umech + uEM)
∂t+ ~∇ · ~P = 0
を得る。この式は電荷の保存則と同じ形をしている。すなわち、電荷密度に対応するもの
として、全エネルギー密度 u = umech + uEM、電流密度に対応するものとしてポインティ
ングベクトルがあって、全体としてエネルギーの保存を表しているのである。Poynting
vector ~P はエネルギーの流れの密度を表しており、実は相対論でいうところの運動量密度
(に c2を掛けたもの)に他ならない。
演習 6.6 以前述べた Abrahamの電子模型に基づいて、電子の運動量を計算しよう。半
径 aの導体球としての電子が、速度 ~vで直線運動しているとする。ある瞬間の電子の位
置を原点にとって、そこから位置 ~xのところにできる電場と磁場を求めたい。電子の速
度が光速度に比べてうんと小さいときには、電場は原点に電子が静止していると考えて求
めたもので十分正確に与えられる。また磁場は電子の運動による電流 ~(~x) = e~vδ(~x)でつ
くられると考えてよい。
(1) Biot-Savartの法則から、位置 ~xのところにできる磁場を求めよ。
(2) Coulomb電場と併せて、Poynting vectorを求めよ。
(3) これを r ≥ aの全空間で積分し、c2で割って、電子のつくる電磁場に付随した運動
量 ~pを求めよ。
(4) これと電子の電磁質量の式から ~p = (4/3)m~vとなり、正しい運動量と速度の関係か
らずれてしまうことを示せ。
解 (1) Biot-Savartの法則より
~B(~x) =µ0
4π
∫d3x′
e~vδ(~x′)× (~x− ~x′)
|~x− ~x′|3 =eµ0
4π
~v × ~x
r3
(2) 電場は ~E = (e/4πε0)(~x/r3)で与えられるから、Poynting vectorの定義より
~P =1
µ0
~E × ~B =e2
16π2ε0
~x× (~v × ~x)
r6
32 第 6章 進んだ学習
(3) ベクトル三重積の公式より ~x× (~v × ~x) = ~vr2 − ~x(~x · ~v)。第二項の x成分の積分は∫
d3xx2vx
r6=
1
3
∫d3x
r2vx
r6
と書けるから、
~p =1
c2
∫d3x~P =
e2
16π2ε0c2
∫ ∞
a
dr4πr2
(1− 1
3
)~vr2
r6
=e2
6πaε0c2~v
(4) 電磁質量は m = e2/(8πaε0c2)であったから、比較して ~p = (4/3)m~vを得る。
6.7.3 平面波に対するエネルギー保存則
この節の最後として、平面電磁波の伝播が、以前導いたエネルギー保存則を満たしてい
ることを演習問題の形で確かめておこう。
演習 6.7 簡単のため z方向に伝播する次のような平面電磁波を考える。(位相は時間の
原点を適当に取って簡単化した。)
~E = Ax cos k(ct− z)
~B =1
cAy cos k(ct− z)
このとき、平面波のエネルギー密度、Poynting vector、を求め、エネルギー保存則が成り
立っていることを具体的に示せ。
解 エネルギー密度は定義より
uEM =ε0
2| ~E|2 +
1
2µ0
| ~B|2
=
(ε0
2+
1
2µ0
1
c2
)A2 cos2 k(ct− z)
=ε0
2(1 + 1)A2 cos2 k(ct− z)
ここで 1 + 1と記したのは ~Eと ~Bの寄与が等しいことを意味している。この時間変化を
求めると
∂uEM
∂t= −ε0A
22ck cos k(ct− z) sin k(ct− z)
6.7. 電磁場のエネルギー保存則とポインティングベクトル 33
次に Poynting vectorを計算する。
~P =1
µ0
~E × ~B
=1
µ0
A cos k(ct− z)1
cAz cos k(ct− z)
=1
cµ0
A2 cos k(ct− z)z
従って
~∇ · ~P =∂Pz
∂z=
1
cµ0
A22k cos k(ct− z) sin k(ct− z)
これら二つの式より
∂uEM
∂t+ ~∇ · ~P = 2kA2 sin k(ct− z) cos k(ct− z)
(−ε0c +
1
cµ0
)
しかるに
1
cµ0
− ε0c =1
cµ0
(1− ε0µ0c
2)
= 0
従って
∂uEM
∂t+ ~∇ · ~P = 0
となり、確かにエネルギー保存則が成り立っている。