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脳科学研究の現状と今後の展望
日本脳科学関連学会連合
将来構想委員会
尾藤晴彦(東京大・院医・神経生化学)
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資料1
会員総数:約11万人2019年9月現在(重複あり)
日本神経科学学会6200名
日本生理学会2900名
日本解剖学会2500名
日本神経化学会1300名
日本神経病理学会1200名
日本神経回路学会600名
日本磁気共鳴医学会3700名
日本臨床神経生理学会3200名
日本認知症学会3500名
日本自律神経学会1000名
日本神経内分泌学会
600名
日本神経学会9000名
日本小児神経学会3800名
日本神経免疫学会600名
日本リハビリテーション医学会
10100名
日本脳神経外科学会9500名
日本ニューロリハビリテーション学会
460名
日本心理学会7400名
日本神経心理学会1700名
日本てんかん学会2800名
日本アルコール・アディクション医学会
1000名
認知神経科学会517名
-脳に関する基礎科学から臨床医学までを支える-
日本精神神経学会18299名
日本神経精神薬理学会1302名
日本臨床精神神経薬理学会
1148名
日本睡眠学会3820名
日本生物学的精神医学会1227名
日本薬理学会4728名
日本神経放射線学会
768名
日本頭痛学会2567名
日本脳科学会219名
連合代表:山脇成人(広島大・脳・こころ・感性センター) 運営委員会 将来構想委員会 2
少子・超高齢化・医療の進展→世界最初の、健やかな育成と格差のない長命の実現
・健康寿命の延長が国家的課題・幸せを感じ、希望を与える生き方の実現・健やかな脳活動の理解・脳健康障害の予防・脳疾患の診断治療と予後予測
日本における脳科学研究の社会的意義
子供から後期高齢者まであらゆるライフステージで脳科学研究を進める必要
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1.脳科学における最先端研究の状況と解決すべき問題点
• 認知症:14.5兆円/年(1)
(さらに有病率が急速に増加中)• 統合失調症:2兆7800億円/年(2)
• うつ病:2兆円/年(3)
参考(米国)•自閉スペクトラム症: 25.5兆円(4)
(1) 厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究事業). 2015. わが国における認知症の経済的影響に関する研究(2) Sado et al, Neuropsychiatr Dis Treat 9: 787-798, 2013(3) Sado et al, Psychiatry Clin Neurosci 65: 442-450, 2011(4) Buescher et al, JAMA Pediatr 168: 721-728, 2014
1.脳科学における最先端研究の状況と解決すべき問題点
日本における精神・神経疾患の経済損失
脳科学委員会(第45回、2019.7.30)資料1「精神・神経疾患克服に向けた国内外の脳科学研究の動向について」
より改変 4
脳の階層性の理解に立脚した脳神経科学が脳神経医学の礎を築く
・脳の分子・細胞病理、ゲノム情報、回路機能破綻の解明による根本治療薬の設計が実現し、非臨床POC確認から実臨床における検証段階へ進展している成功例
例: 網膜色素変性症に対するiPSC治療芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症に対する遺伝子治療球脊髄性筋萎縮症(SBMA) に対する抗アンドロゲン療法
・予測不能なブレークスルーが脳科学研究を大きく進展させている:例:光遺伝学、iPSC
細胞 神経回路 精神・神経症状
ゲノム情報
脳分子ネットワーク
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1.脳科学における最先端研究の状況と解決すべき問題点
脳疾患における分子・細胞病理、ゲノム情報、回路機能破綻等のメカニズム解明
疾患関連分子シグナルの網羅的解析
単一時点 → 多点(ライフスパン全体)に亘る動態解析へ
疾患特異的分子細胞病理のスペクトラムを解明
2.基礎と臨床の脳科学研究の協働-現状と将来展望
細胞種の多様性の理解に基づく解析へ
創薬標的となり得る疾患関連分子ネットワークの時系列的同定
組織病理 シングルセル病理
基礎・臨床融合
現状 将来展望
基礎・臨床融合
疾患横断的分子細胞病理のスペクトラムを解明
組織 時系列的な分子ネットワーク把握
ゲノム情報・回路機能破綻
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新しい疾患概念と技術開発
脳疾患ゲノム研究
※エフェクトサイズが大きいゲノム変異に注目
「脳疾患生物学」の推進
細胞内小器官・液-液相分離の細胞生物学
「細胞精密医療」の実現
シナプスの分子生物学「シナプス病」・「チャネル病」としての疾患の理解
コネクトーム解析興奮抑制バランス異常等の回路病態メカニズムの理解
光遺伝学・化学遺伝学の活用
基礎と臨床の真の融合: 基礎- 臨床のequal partnership融合研究を実現する技術イノベーションの重要性
※部分的成果が発表されつつある
基礎中心、もしくは臨床中心 基礎と臨床の融合研究
異常蛋白質の凝集・伝播
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2.基礎と臨床の脳科学研究の協働-現状と将来展望
新規バイオマーカー開発と診断・評価技術革新分子メカニズム(基礎)に基づくバイオマーカー等(臨床)
分子ネットワーク破綻分子変化→症状出現のメカニズム解明
個々の細胞種の病理変化ミクログリアPV陽性インターニューロン自律神経系等
行動指標・生体情報人工知能(AI)による computational neurology/psychiatry脳波・画像・行動・言語etcモデルへのトランスレーション
発症前・早期マーカーハイリスク集団の同定生体試料・情報の解析
基礎研究 臨床研究
疾患病態理解と予防・診断・治療・予後予測への展開
ニューロン グリア・血管
回路
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2.基礎と臨床の脳科学研究の協働-現状と将来展望
・ メカニズム:分子の異常・細胞異常・・・ 疾患iPSC・ハエ・線虫…
・人工的な行動課題に制限されず、自然な環境で解析
メカニズム・病態に直結する精神・神経疾患モデル
(例)ヒトでエフェクトサイズの大きなゲノム変異を導入したマウス→モデル動物での分子ネットワーク破綻解析からヒトバイオマーカーを探索
・ 病態:分子→神経回路→表現型・・・マウス・非ヒト霊長類
病態を反映したモデル動物の開発と創薬への応用
行動解析技術開発
・基礎・臨床・製薬企業で同じ標準化条件にて活用
標準化と基盤整備
(例)強制水泳バッテリー、迷路学習→ 人工知能(AI)技術等を活用した行動解析
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2.基礎と臨床の脳科学研究の協働-現状と将来展望
ヒトリソース・データ蓄積の必要性臨床情報と紐ついたブレインバンクネットワークのさらなる発展
・サステーナブルかつ品質管理が行き届いたリソース構築⇒日本発の世界標準
ヒト行動表現型(画像・脳波・睡眠等)についてビッグデータ解析
臨床情報と紐づき、品質管理が為された脳疾患iPSCバンク
・オーガノイド培養技術開発の基盤構築⇒シナプス形成率向上や多細胞種の適切混合・自己組織化を実現
・ Real World Data (RWD) との連結
⇒予防・予後予測に今後不可欠となる可能性
臨床情報と紐ついた脳疾患ゲノム情報
・ 予防・診断・治療への活用へ⇒根本治療薬の実現・AIによる臨床診断への展開
脳疾患レジストリー
⇒倫理問題を考慮しつつ、RWDを再活用
脳機能破綻のヒト表現型解析の実現へ 10
2.基礎と臨床の脳科学研究の協働-現状と将来展望
3.個体と環境の相互作用の理解に向けた脳科学研究の将来展望
創造的意思決定のメカニズム:
大脳基底核・大脳皮質を中心とした行動創出
正の制御 負の制御
報酬回路のダイナミクス報酬制御破綻による依存症
環境因子
罰の情報処理恐怖情動疼痛回路
衝動行動・睡眠障害・社会性行動の理解
意思決定の神経機構と障害メカニズムの解明
環境因子
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3.個体と環境の相互作用の理解に向けた脳科学研究の将来展望
(1) 回路間相互作用のダイナミクスへのアプローチ環境情報を解読する大脳皮質・情動価値を付与する側坐核/扁桃体・行動出力を決定する大脳基底核
(2) 大規模・高次元神経・行動データの測定と解析技術の開発脳固定・覚醒下の計測→自由行動下のモデル動物解析技術食餌・睡眠・活動量などに基づく個体と環境の相互作用の定量化日常的な活動遂行中の人間の脳活動と行動の解析技術
(3) 脳・遺伝子・神経活動データと行動・臨床データの紐付け・データベース化個性・性差・多様性の情報科学的解析
(4) AI ・機械学習を活用した構成的脳科学・ニューロエンジニアリングとの融合
神経レベル(ハードウェア)と情報レベル(ソフトウェア)の理解の統合
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複雑化する脳科学研究への対応策
多様性を活かしたチーム研究・個別研究を構成し、疾患横断的連携を密にする必要性
2.ELSIの重要性:データ取得フォーマットやインフォームドコンセントなどについての合意
3.技術開発力・データ解析力を担う若手人材育成
中長期研究を実現するチームワークの醸成とリソースサステナビリティーの保証
1.脳科学研究は、中長期研究である宿命を背負っているため、柔軟性を内包した研究エンドポイントやチーム構成を許容することが研究計画に求められる
イノベーションにつながる研究計画の立案には十分な準備期間を配慮すべき
生命科学・医工学・コンピューター科学等における専門力・俯瞰力と文理をまたぐ総合力
大学等における研究人材育成における支援の重要性
長期的ゴール実現を可能にするキャリアパス設計
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・基礎と臨床のバランス・先端的技術開発と疾患研究の調和の取れたマネージメントを推し進め、中長期的なトップダウン研究が重要。
・日本人を対象にする脳疾患研究だからこそ、世界に先駆けて我が国が経験する少子化・高齢化医療に貢献できる成果が期待できる。
・成果物の現時点での経済価値としてだけでなく、長期的ゴールに向かって持続的に成果を生み出す研究人材とそのネットワークを国家アセットとして評価すべき。
サステナブルな脳神経科学研究支援体制が支える脳神経医学の社会への貢献
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