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海洋政策学会 4 回年次大会 ~新たな海洋秩序・政策構築への日本のイニシアティブ~ 海底鉱物資源開発の現状と政策課題 ー資源開発10カ年計画とリスクの軽減ー 浦辺徹郎 (東京大学理学系研究科) 1. 大陸棚の延長:四国海盆、小笠原海台、+α 2. 膨大な領海+大陸棚の調査のあり方は? 3. 大陸棚開発としての海底資源開発とは? 4. 海底熱水鉱床開発のビジネスモデルは? 5. 海底資源の開発リスクは軽減されたか? 本日の議論の内容

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Page 1: 海底鉱物資源開発の現状と政策課題oceanpolicy.jp/dai4kai slide/KK2-URABE.pdf海洋政策学会 第4回年次大会 ~新たな海洋秩序・政策構築への日本のイニシアティブ~

海洋政策学会 第4回年次大会

~新たな海洋秩序・政策構築への日本のイニシアティブ~

海底鉱物資源開発の現状と政策課題 ー資源開発10カ年計画とリスクの軽減ー

浦辺徹郎 (東京大学理学系研究科)

1. 大陸棚の延長:四国海盆、小笠原海台、+α

2. 膨大な領海+大陸棚の調査のあり方は?

3. 大陸棚開発としての海底資源開発とは?

4. 海底熱水鉱床開発のビジネスモデルは?

5. 海底資源の開発リスクは軽減されたか?

本日の議論の内容

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我が国の延長大陸棚

認められた範囲

審査が先送りされた範囲

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その他の海底資源の分布

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これらのほとんどの資源は、科学調査が成されているに過ぎない。

熱水活動:浦辺徹郎、マンガンクラスト:臼井朗、メタンハイドレート:MH21計画、石油天然ガス:平朝彦、作図:岸本清行による

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海底熱水鉱床:知られているものと将来の探査候補地

探査の進展順序(1→3): 1.現在存在が知られている鉱床 2.その周辺海域(伊豆、沖縄)

3.堆積物に覆われているが、有望な地域(九州パラオ海嶺、西伊豆テラス等)。

資源探査には100年単位の時間が必要

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問題意識

1. 延長された大陸棚は高い資源ポテンシャルを有する。さらに、大陸棚調査の過程で、我が国の領海、EEZ中にエネルギー資源も含め、多くの鉱物資源ポテンシャルが確認された。

ー 国の海洋政策にそれらの探査をどのように位置づけていくべきか?

2. 海底資源獲得を視野に入れた各国の権利主張も増大し、競争が激化しつつある。正しく政策を立てるため、海底資源開発の課題と展望とをどのように理解すべきか整理する必要がある。

ー 現在、海底鉱物資源に“想定されている価値”は妥当なものか?

3. 海域における資源開発には、予防原則に基づく環境保護が提唱されており、各国に海洋管理のあり方が問われている。我が国は資源開発の取り組みが進んでおり、デファクトスタンダードを提供していく立場にある。

ー 我が国はこの問題で本当にイニシアチブを取れるのか?

4. 海底資源開発の“ビジネスモデル”の確立に向けてなにをすべきか?

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しかし、幾つかの難問がある

• 日本の領海・排他的経済水域・延長大陸棚は広大。陸上にあれば、オーストラリアとインドの間、約451万km2の面積。

• ここは「新しい日本のフロンティア」。しかし“広大なフロンティア”の開拓は我が国にとって未経験の課題。しかも遠洋域。

• 総合海洋政策本部「海洋調査の推進に関する検討委員会」において、各省庁・機関のミッション毎の海洋調査がまとめられているが...

同一縮尺で比較したオーストラリア、日本の大陸棚

外縁(部分的に正確ではない)、およびインドの面積。

770万km2 450万km2

330万km2

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第一に基礎調査、三次元海底探査やボーリング調査による資源量の確認が必須。

第二に資源開発方法の検討と実海域でのパイロットプロジェクトによる検証が重要。

第三に環境影響評価と環境保全対策の確立が求められる。

・(鉱業法などの)法整備や海底鉱区の許認可と開発プロセスの決定も必須である。これらが整備された段階で、経済性評価や商業開発の検討が可能になる。

・今後海外の開発状況にも注視し、日本が新しい海底資源の商業開発に乗り遅れぬことも重要である。(同社は2011.12.22レポート「2012年世界政治・経済展望」で、2012年の技術イノベーションの第1に、「動き出す海底資源開発」を挙げている。)

7 三井物産戦略研究所レポート(2010.12.24)

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マンガン団塊の教訓

マンガン団塊の教訓 1981年:「マンガン団塊採鉱システムの研究開発」プロジェクト発足。

旧工業技術院 (現産業技術総合研究所) の大型工業技術研究開発制度(大プロ)による。公害資源研究所(当時)が担当。

1981年〜1997年:異例ともいえる16年間の長きにわたり実施され、 169億円が投じられたものの、社会情勢の変化等もあり商業的な開発に結びつかなかった。

1997年、「海洋総合実験に代わる採鉱実証試験」を水深2,200mの海底で行い、終了。

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同じ過ち?を繰り返さないために

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マンガン団塊:1981~1997年(16年間)、169億円を投資。環境影響評価などの成果はあったが、実海域テストは実施せず終了。業界にトラウマを残した。

地熱開発促進調査:1980年より、日本の発電量の30%を目標にスタート。年間予算50億円程度。国立公園内における開発規制、温泉組合からの不同意等の理由もあり、発電量の0.03%の時点で、「中小地熱」(カテゴリーC)を残し事実上終了。

メタンハイドレート:2001年より15年計画で、MH21計画がスタート。来年度約4年遅れで、洋上産出試験を実施予定。(私見だが、吸引法という(困難な)回収方法を採用しており、商業化には相当時間がかかるという印象)

大変厳しい見方で関係者には申し訳ないものの;

1.いずれも、当初計画を大幅に超過しており、自然相手の資源開発の困難さを表

している。しかし、全体計画は失敗しても、企業は損をしていないケースが多い。

2.後のプロジェクト評価で、リーダーシップ不足とされるケースが多く、責任体制が

明確でないまま、官僚の無謬主義の中で根本的な見直しが困難であった。

3.海底鉱物資源の開発に当たっても、「スピード感を持って」という言葉が政治家

からささやかれたが、現在の10ヶ年計画に落ち着いたという経緯がある。

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同和鉱業 深沢鉱山の開発史 秋田県大館市深沢鉱山は、小坂鉱山と花岡鉱山の中間に発見された中規模の黒鉱(くろこう)鉱床。当時最新の坑内掘りの技術を導入して突貫工事で開発され、最短記録を塗り替えた。

採鉱技術が未確定の海底資源の場合、更に時間がかかる。

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海底資源の“価値”と探査 1. 海底鉱物資源の特徴を振り返ってみると、資源開発はリスクが大きく、

企業が独自で取り組むのは困難。一方、資源ナショナリズムが起こる中、その探査は国家的な国土開発の意味も持つだろう。

2. つまり、海底熱水鉱床の“富”は、将来の国家リスク回避といった価値もあり、私企業の枠を越えている。国がその意味付けの下に、海洋調査計画の中に位置づける必要。

3. 誰が探査リスクを担うのか、金属鉱業事業団(現:JOGMEC)の「広域→精密→企業探鉱(資源探査3段階方式)」の海底版が必要でないか?

4. 開発/採鉱の前段階に当たって、「基盤ツール」開発の成果を活かす形で、海洋調査/探査産業等の育成も必要でないか。

5. それらの商業的活動と、国・国の機関による科学的調査を組み合わせて、海洋に出ていく機会(調査船・人・企業など)を増やす政策が実施される必要がある。

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○ 海底地形の詳細な把握

海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発

ー対象に近づいた探査ー 文部科学省競争的資金(年間4億円程度)

○ 海底下構造の詳細な把握

○ 船舶からの探査だけでは得られない、高精度のデータが取得可能

○ 船舶からの探査では不可能な、即時的なデータ取得が可能

正確な資源量把握に必要な詳細地形計測が可能

(mオーダー

⇒cmオーダー)

海水を採取しないと分析できなかった溶存成分が現場で計測可能

コアを採取しないと分析できなかった

含有成分が現場で計測可能

CTD・多筒採水器 現場型化学センサー ボーリングマシンシステム 現場型含有成分

分析装置

船舶からの計測

AUVからの計測

AUV

ROV

AUVに搭載

AUVに搭載 ROVに搭載

地震波、電磁波

重力、重力偏差などを用いて、鉱床の存在に伴う微妙な変化を検知。

基盤ツール

資料より

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リスク (1/4)はいかに軽減されつつあるか

1.地質リスク

・品位推定に関するリスク:伊是名Hakurei siteでは約100本のボーリングによる平均品位が算出されつつある。ただし、As, Hg, Thなどの有害元素含有量が高いことが分かってきており、新たなリスクとなっている。

・資源量推定に関するリスク:稠密ボーリングと精密マッピングを通してHakurei siteの鉱床の産状、形態が明らかにされつつある。ボーリングのコア回収率が低い(40%)はれき状鉱石のせいではないか。

・鉱床数不足に起因するリスク:既知鉱床の数が少なく、それらの一つに問題が生じたときに代替がきかない。(未解決)

・探査法に関するリスク:過去の開発事例がなく、確立された探査手法もない、が文科省で「基盤ツール」(年間4.2億円)開発が進んでいる。

・自然災害リスク:地震・噴火等の自然災害の可能性 (未解決)

13 *青字は新たな対策。 赤字、黒字は元の文章のまま。

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リスク (2/4)の軽減中間結果

2.技術リスク:未踏の開発を行うことに伴う

・創業者リスク:誰も生産の経験を有していない。(未解決、しかしノーチラスの試みは本格的であり、大いに参考になる。)

・システム開発リスク:どのようなシステムが好適かテストがない。(同上。かつ10ヶ年計画で採鉱システムの検討が行われている。)

・採鉱・揚鉱リスク: 熱水鉱床はこれまで採掘されたことがなく、採鉱技術が確立していない。揚鉱と船上の泥水処理も未解決。(未解決)

・選鉱・製錬リスク:平成23年度のJOGMEC航海の多くの時間は選鉱・製錬試

料の採取に用いられている。問題は、鉱石が多様であること。有害元素の存在によっては、経済性を持たないケースもあり得る。

・コスト・リスク:予期せぬコストが生じる可能性がある。(未解決、しかしこれはやってみないと正確な予想が難しい。)

・海象リスク:悪天候による稼働率低下、操業中止、重大事故。(未解決)

・機器リスク:海洋機器の設計不備、性能不足、故障、納期の遅れ(未解決)

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リスク (3/4)の軽減中間結果

3.人的要因による(政治的・社会的・経済的)リスク

・法律の未整備リスク:改正鉱業法が昨年度制定され、本年度実施される予定で大きく前進。ただし環境パラメータについては未解決。

・海洋保護区リスク:改正鉱業法には環境保全に関する規定が盛り込まれておらず、将来制定されるべき「海域管理法」(仮称)への要望が強くなっている。海洋保護区については、ベースライン調査により取り組みが可能である可能性がでてきた。

・環境保護リスク:非政府組織の圧力やロビー活動。 (未解決、しかし法的整備を通じてリスク低減は可能か。)

・環境アセスリスク:開発10年計画の一環として環境ベースライン調査が実施されつつある。しかし、開発側であるJOGMECが保全も行っている現行方式は早急に改善されなければならない。

・市場リスク: 金属価格の変動などはむしろリスクではなく、うまく利用していくことが求められる。

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リスク (4/4)の軽減中間結果

4.我が国固有のリスク

・人的資源の欠如: これは全く未解決。次期海洋基本計画で取り上げられるよう、働きかけが必要。

・総合技術企業の欠如:これは全く未解決。

・民間移行のシナリオが未決定:政府主導で10ヶ年計画を立て、民間移行へのシナリオを作ったが、10年後に移行するのかについては悲観的意見も出ている。

・鉱業実施主体が不在:我が国には受け皿企業の中心として創業者リスクを背負い切れる企業が無いため未解決。

・国家戦略が未確定:将来日本が海底資源開発をどのような話のコンテキストの中で行うか未確定(未解決、働きかけが不可欠)。

・投資環境:我が国にはベンチャー企業に投資する環境が無い。(未解決)

16 我が国の社会体質・企業体質が、将来的にも未解決のリスクとなっている。

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結 論

明治初期、国の産業政策の中心に鉱山開発があり、数多くの御雇い鉱山技術者が破格の待遇で雇用された。それらは、外貨獲得の中心となったばかりでなく、その後の重工業発達の起点となった。

「海洋国家の開国」にあたり、海底鉱物資源は新しいフロンティア開発の前衛となるだろう。それを有効活用することにより、海洋の理解、空間計画の立案、管理、開発に結びつけていくべきである。

国の役割は、遠洋域へのアクセス環境を整備し、海底鉱物資源開発に向けてのリスクを軽減することにより、起業を支援していくことにある。

企業側としても、最初に出ていくもののみが創業利益を獲得することにつながるだろう。その意味で資源開発の基盤ツール等を活用していく必要がある。

海洋を軍事的にではなく、科学的な知見を基にいかに保護・管理していくかが、国際的に問われている。日本はそのモデルとなるべきでないか?

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ご静聴ありがとうございました。

浦辺 徹郎 東京大学大学院理学系研究科 この海域に調査・理解・管理の網がかかることを願いつつ。

K.Kisimoto

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