財政再建と経済成長をどう両立するか ·...

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2 J R I レビュー 2012 Vol.1, No.1 財政再建と経済成長をどう両立するか ─ スウェーデンの財政再建の経験 ─ 調査部 理事 翁 百合 目   次 はじめに 1.プロローグ:スウェーデン・ボリー財務大臣の講演のエッセンス 2.財政再建策の概要 3.スウェーデンの財政再建策の評価 4.日本への示唆:スウェーデンとの比較分析 5.結 論

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Page 1: 財政再建と経済成長をどう両立するか · とくに、財政問題が深刻なギリシャなどでは財政再建 のための緊縮策により景気回復が遅れ、さらにこれが財政の悪化を招くという悪循環に入りつつある。

2 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

財政再建と経済成長をどう両立するか─スウェーデンの財政再建の経験─

調査部 理事 翁 百合

目   次

はじめに

1.プロローグ:スウェーデン・ボリー財務大臣の講演のエッセンス

2.財政再建策の概要

3.スウェーデンの財政再建策の評価

4.日本への示唆:スウェーデンとの比較分析

5.結 論

Page 2: 財政再建と経済成長をどう両立するか · とくに、財政問題が深刻なギリシャなどでは財政再建 のための緊縮策により景気回復が遅れ、さらにこれが財政の悪化を招くという悪循環に入りつつある。

財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 3

1.わが国においても、また南欧諸国においても、財政再建と経済成長の両立は極めて重要な課題と

なっている。1990年代以降世界各国で財政再建に向けた取り組みが行われてきたが、最も成功したの

は、スウェーデンとカナダであるといわれている。スウェーデンは、90年代初頭の金融危機の後、財

政が悪化、長期金利が94年には上昇して、大手保険会社が財政再建への取り組みが本格化しない限り、

国債を購入できないと宣言するなど、金融市場にも国民にも危機感が高まるなかで政権交代が起こり、

本格的な財政再建に取り組むことになった。

2.スウェーデンの財政再建は歳出削減と増税を半々の規模で行ったが、結果的に財政再建に効果が

あったのは、歳出削減であった。主に現役世代の社会保障給付を削減することが財政赤字縮小に結び

ついた。さらに、97年からは財政再建のフレームワークが導入されて、景気循環にあわせて無理なく

財政赤字を縮小するためのルールが形成されたことも、財政再建を持続的なものとした。

3.スウェーデンの財政再建が成功したのは、経済成長と両立できたことが大きい。なかでも、為替相

場の大幅減価による輸出増加と企業のIT導入等に伴う生産性の向上が持続したことが大きい。

4.OECD諸国の財政再建の取り組みをみても、スウェーデンは典型的な成功例といえる。大幅な財政

再建に成功した国は増税もさることながら、歳出削減に成功している。スウェーデン同様大胆な財政

再建に成功したカナダも、大幅な歳出削減に成功しているが、為替相場の減価とNAFTA締結、輸出

の最大相手国米国の経済好調などにより、外需が増大し、財政緊縮策が経済成長のネックにならな

かったことが指摘できる。

5.わが国は当時のスウェーデンよりもはるかに高い公的債務/名目GDP比率の水準となっており、

しかも高齢化が進行している。90年代当時のように外需に頼れる環境ではないこともあり、今後の財

政再建への取り組みはスウェーデンが直面していた当時の環境よりかなり厳しいことが予想される。

このことは、単一通貨の下で外需に頼れずに景気拡大と財政再建を両立しなければならない南欧諸国

も同様である。

6.ただし、経済成長と両立しながらでないと財政再建が難しいことがスウェーデンの経験からは明ら

かである。わが国としては、無駄な歳出削減は必要であるが、財政再建を急ぎすぎて内需を縮小させ

ないようにすること、長期的に労働生産性を引き上げる努力をしていくこと、立地の魅力を高め長期

的な輸出基盤を残しておくこと、女性の労働力を生かすためにも子育て支援策を重視すること、質の

高い投資を行っていくことなどが、財政再建と経済成長の両立のために重要である。

要  約

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4 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

はじめに

 現在南欧を中心とするEUの多くの国で財政赤字が深刻化、公的債務が拡大しており、景気後退の進

行とともに、金融危機の淵に追い込まれている。とくに、財政問題が深刻なギリシャなどでは財政再建

のための緊縮策により景気回復が遅れ、さらにこれが財政の悪化を招くという悪循環に入りつつある。

 わが国でも、ギリシャなどの財政問題が深刻なEU諸国をはるかに上回る公的債務╱GDP比率、歳入

構造の脆弱性を抱えており、財政健全化策が急務となっている。現在は国内貯蓄で国債を消化している

状況で長期金利は安定しているものの、今後の高齢化による貯蓄取り崩しが見込まれるなか、その状況

は永続するものではない。一方、消費税の引き上げといった歳入強化策が景気に与える影響を懸念する

声も聞かれ、経済成長と財政健全化をどう両立するかが最大の課題となっている。

 1980年代以降、先進国ではカナダなど財政健全化に成功した国は少なからずあるが、90年代の金融危

機以降のスウェーデンの財政健全化は、経済成長と財政再建の両立の成功例として知られる。また、ス

ウェーデンは、金融危機後に年金改革など様々な制度改革も並行して行い、この内容は広く日本でも紹

介されている。イタリア・モンティ首相が2012年3月に来日したときも、「われわれは北欧的な地中海

の国となる」と発言し、財政問題に苦しむイタリアが目指すべきモデルとして北欧諸国があることが注

目された。一方でアメリカでも共和党がスウェーデンの財政再建をモデルとすることに言及するなどの

(図表1)財政再建の改善幅と再建ペース

(潜在GDP比、%) (%/年) (%/年)

政 権再建期間(A)

(年間)

改善幅 再建ペース

経済成長率

(実質)

財政収支

(B)

構造的プライマ

リー収支

(D)

循環的収支

(C)

財政収支

(B/A)

構造的プライマ

リー収支

(D/A)

循環的収支

(C/A)

カナダマルルーニ 9(84~93年) ▲0.7 2.7 ▲0.7 ▲0.1 0.3 ▲0.1 2.3クレティエン 4(93~97年) 8.5 7.1 1.0 2.1 1.8 0.3 3.4

オーストラリアホーク 7(84~91年) 1.9 1.8 ▲0.2 0.3 0.3 ▲0.0 2.9キーティング 3(93~96年) 2.2 2.0 0.6 0.7 0.7 0.2 4.1ハワード 4(96~00年) 2.5 0.5 0.7 0.6 0.1 0.2 4.2

スウェーデンカールソン 2(94~96年) 5.5 5.9 0.7 2.8 3.0 0.4 2.9パーション 3(96~99年) 4.0 2.0 1.8 1.3 0.7 0.6 3.8

アメリカ クリントン 8(93~01年) 4.4 2.5 0.9 0.6 0.3 0.1 3.6

ニュージーランドロンギ 3(86~89年) 3.1 3.6 ▲1.1 1.0 1.2 ▲0.4 1.3ボルジャー 7(90~97年) 5.7 1.7 0.9 0.8 0.2 0.1 3.4

イギリスメージャー 4(93~97年) 5.6 5.2 1.3 1.4 1.3 0.3 3.4ブレア 4(97~01年) 2.9 1.5 0.3 0.7 0.4 0.1 3.4

ドイツ コール 6(92~98年) 0.3 1.8 ▲1.1 0.1 0.3 ▲0.2 1.4

フランス

バラデュール(ミッテラン大統領下) 2(93~95年) 0.9 0.9 0.2 0.5 0.5 0.1 2.2

ジュペ(シラク大統領下) 2(95~97年) 2.1 2.6 ▲0.4 1.1 1.3 ▲0.2 1.6

スペインゴンサレス 4(92~96年) ▲0.7 2.4 ▲2.0 ▲0.2 0.6 ▲0.5 1.6アスナール 8(96~04年) 4.3 0.1 1.5 0.5 0.0 0.2 3.7

アイルランド フィッツジュランド 5(82~87年) 5.1 7.5 ▲2.2 1.0 1.5 ▲0.4 2.3

フィンランドアホ 2(93~95年) 1.7 1.1 1.8 0.9 0.6 0.9 3.8リッポネン 8(95~03年) 8.1 6.0 1.2 1.0 0.8 0.2 3.7

11カ国の単純平均 8.6 6.1 5.4 0.5 0.8 0.7 0.1 2.8

(資料)内閣府「世界経済の潮流」2010年に加筆(注1) OECD、各種資料より作成。(注2)再建期間が特定できるものは特定し、それ以外は政権の任期期間とした。(注3) ニュージーランドは86年以前のデータがないため、ロンギ政権は86年からとしている。(注4)ドイツは、92年以前のデータがないため、コール政権は92年からとしている。(注5)スウェーデンの財政収支改善幅と財政収支再建ペースに網掛け(筆者)。

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 5

動きがある。

 スウェーデンは、人口の少ない小国開放経済であり、社会福祉制度の厚みなどそもそもわが国とはそ

の規模も構造も大きく異なるが、スウェーデンの経験は、①財政再建としては極めて包括的なものであ

ったこと、②当時GDP比で6%もの巨額の財政資金が銀行救済のために投入されるなど、戦後でも最

も深刻な金融危機直後から行われたものであること、③また実際に相当な規模の財政再建に近年で最も

短期間で成功したこと(1994年から96年の2年間で財政収支(対GDP比)は5.5%改善したが、これは

年平均でみると2.8%の改善であり、これは他の財政再建国と比較しても最も顕著な改善ペース、図表

1参照)などの点を鑑みれば、この経験を学ぶことは今後の日本の取り組みを考えるうえで何らかのヒ

ントが得られるものと考えられる。

 本稿では、スウェーデンの財政健全化策を紹介したうえで、この事例に関する財政健全化と経済成長

の関係を巡る議論を紹介しつつ検討、分析する。そのうえで、こうした議論が日本でどこまで参考にで

きるか、その教訓を探ってみたい。

1.プロローグ:スウェーデン・ボリー財務大臣の講演のエッセンス

 バブル崩壊によって引き起こされた金融危機に伴う金融機関への公的資金投入(92年~93年)、失業

対策への財政資金投入などで93年に最も大幅な▲11.4%の赤字(対GDP比)に陥ったスウェーデンは、

その後財政再建を大胆に進め、98年に財政再建に成功して黒字に転換した。この5年間でみると、財政

収支╱GDP比は、12%強も健全化を実現したことになる。98年以降も継続して黒字を計上、リーマン

ショック後の2009年の段階でも赤字には転じたが、財政赤字はGDP比で1%以内と小さく、先進国の

なかでは優等生といえる。また、債務残高GDP比率については、96年に84.7%と最悪の状況となったが、

それ以降順調に低下を続けている(図表2)。

 スウェーデンが財政再建に本格的に取り組んだのは、94年秋の政権交代後の社会民主党(カールソン、

およびパーション政権~99年)であった。現在の中道穏健党のボリー財務大臣はスウェーデンの財政再

(図表2)スウェーデンの財政収支と債務残高の推移(GDP比)

(資料)OECD Factbook

(対GDP比、%) (対GDP比、%)

(年)

一般政府債務残高(左目盛)

2010200820062004200220009896949219900

10

20

30

40

50

60

70

80

90

▲12

▲10

▲8

▲6

▲4

▲2

0

2

4

6

財政収支(右目盛)

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6 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

建の経験を欧州が学ぶべきであるとして、そのエッセンスについて次のように講演している(2009年1

月)。

① 財政再建に向けてすべての手段を使うべきこと。増税だけでは労働意欲を阻害するし、歳出削減だけ

でもこれに依存している人たちに大きな影響を与えるので、歳出削減と増税をバランスよく組み合わ

せることが重要である。

② 所得税、資本課税の増税は成長を妨げるので理論上は問題とされるが、スウェーデンは財政再建のた

めにも、また再建計画の正当性を確保するためにも必要と考えて、所得税増税を実施せざるを得なか

った。

③ 歳出削減については、成長や雇用を促進する教育、職業訓練などにはなるべく手をつけなかったほか、

労働インセンティブを阻害しないようにした。必要な人に支援が届くように福祉政策を適切にコント

ロールできる効果的なルールが必要である。さらに、R&Dや必要な社会インフラについても手をつ

けなかった。歳出カットは、年金や退職金、失業保険などに集中したが、政治家はこうした不人気な

政策についてリーダーシップを発揮しなければならない。

④ 歳出計画はインフレ・スライドとしないこと。そうしないと計画通りの歳出削減ができなくなる。

⑤ マクロ指標などについて保守的な仮定に基づくベースライン・シナリオを置くことにより、政府に対

する信頼を確保し、投資家からの失望を呼ばないようにすること。このことが長期金利の安定確保に

つながる。

⑥ 財政再建が政治的なマンデートとなれば、速やかにこれを開始することが政治的にも、また、実際に

効果を上げるうえでも重要。

⑦ 既得権益団体と対峙する政治的なコストを計算して進めること。ただし、政府の意思を示すために、

政治家や公務員の報酬などシンボリックな歳出削減が必要とされることもある。

⑧ 国民の労働参加の担保こそが、長期的な歳入の持続性確保には必要である。保育への助成や積極的労

働政策などについては財政支出を維持し、とくに女性の労働参加に配慮する。また給付税額控除を導

入して貧困問題に対処した。

⑨ しっかりとした財政健全化のフレームワークの必要性。複数年度のシーリングや予算決定プロセスを

トップダウンで強力なものとすること、独立の財政政策評価委員会の存在など。

⑩ 社会の結束の維持。最貧層にしわが寄らないよう全員で負担を分担すること。

 このように、スウェーデンの財政再建の示唆は極めて多面的であるが、実際にどのような財政再建策

をとったのか、具体的にみていこう。

2.財政再建策の概要

(1)金融危機と財政再建への道のり

 スウェーデンの金融危機はよく知られているように、80年代後半からの金融規制緩和や金融緩和に

より、銀行の融資が大きく膨らみ不動産など資産価格の上昇(いわゆる 「スウェーデンバブル」)を招

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 7

いたことが原因であり、このバブル

崩壊によって大手銀行が軒並み影響

を受けて金融危機に陥った。これに

伴い、実体経済も大きく落ち込み、

91年から3年連続でマイナス成長と

なった(図表3)。92年にはスウェ

ーデン通貨クローナに対する海外投

機筋からの攻撃が強まり、為替防衛

の必要性が高まり、夏には中央銀行

であるリクスバンクは短期金利を

500%まで引き上げる(9月16日)

といった事態に立ち至った。結局そ

の後11月にはスウェーデンは固定為

替相場制を断念し、クローナはただちに9%減価し、その後1年でさらに20%減価することになった。

92年9月には大手銀行のゴータ銀行が破綻し、国家管理の元に置かれることになった。こうした金融

危機に対する直接的な財政支出と金融危機に伴う景気後退による財政支出増加から財政収支が悪化し

てしまった(89年段階の財政黒字対GDP比3.3%→93年財政赤字対GDP比11.4% 同公的債務対GDP比

45%→76%)。

(2)財政再建策

(初期段階:危機進行時(90年代前半))

 スウェーデンの財政再建は、こうした金融危機を契機とした財政悪化を是正する必要性が認識される

ことにより、取り組みが始まった。金融危機が進行した91年から94年にかけて中道右派連立政権であっ

た当時のビルト政権が、深刻な景気後退のなか、景気対策をとりつつ、財政再建の取り組みにも着手し

た。

 まず金融危機、景気後退が続いている90年代前半に、財政再建への取り組みが始まった。92年9月に

緊急経済対策がまとめられ、そのなかで年金支給額削減、住宅補助削減、疾病保険・労災保険の保険料

自己負担の導入、石油税、たばこ税の増税なども実施された。93年4月には財政再建プログラムが策定

され、失業保険の被用者負担増額、薬剤費等に対する国庫負担の削減等が策定された。

 一方で、ビルト政権は、並行的に中央省庁再編、国営企業民営化、地方分権、規制緩和を推進した。

さらに、90年から91年にかけて税制改革を行い、支払い利子所得控除などの税制優遇策を廃止して課税

ベースを拡大する一方で、経済活性化のための法人税率の引き下げ(57%→30%)、個人所得税率引き

下げ(73%→51%)を実現したのである。他方で、資本所得税を導入、環境税も引き上げた。しかし、

公的債務が拡大し、GDP比13%もの赤字を出しながらの大規模な所得減税は、国民に将来不安をかえ

ってあおるものとなり、消費を後退させてしまった。結局ビルト政権は、94年秋の選挙で、財政再建を

掲げて戦った社会民主党政権に敗退することとなった。この90~93年の消費落ち込みのエピソードは、

(図表3)実質GDP前年比と需要項目別寄与度の推移

(資料)国立経済調査研究所より日本総合研究所作成

(%)

(年)

▲6

▲4

▲2

0

2

4

6

8

純輸出在庫品増加総固定資本形成一般政府消費支出家計消費支出

201020082006200420022000989694921990

実質GDP伸び率

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8 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

公的債務が大きいなかで減税しても逆効果であるというという典型的な非ケインズ効果の表れとして分

析されている(Gravazzi and Pagano [1996]など、後述)。

(本格的な財政再建策の契機とその概要)

 財政再建を掲げて勝利して政権の座についた、

94年10月以降の社会民主党政権であるカールソ

ン政権、これを引き継いだパーション政権の時

期に、本格的な財政再建策が実現した。94年の

段階で、政府がこれほど財政再建に取り組まざ

るを得なくなった背景には、財政赤字の拡大に

より長期金利が94年に入って約半年で7%から

11%まで急上昇したという市場の圧力もあった

(図表4)。海外投資家が93年の冬頃から、大量

に 国 債 を 売 却 し 始 め た の で あ る(Wolrath

[1995])。

 財政再建に新政府が本格的に取り組む契機となった一つの背景には、大手民間保険会社の動きもあっ

た。スウェーデン大手生命保険会社スカンディアが、94年7月に、「信頼できる財政再建策が出るまで

は国債を購入しない」という意向を公式に示したのである。当時のスカンディア社長Wolrathは、「社

会のインフラである主要投資家として、生命保険会社は、増大する政府債務をファイナンスするよりも、

健全な財政を促進する義務があると考えた」としている。当時の生命保険会社は、国家の債務の約2割

を保有している状況であった(Wolrath[1995]、注1)。

 加えて、スウェーデンがEUに加盟するためのコンバージェンス・プログラムに添う必要があったこ

とも財政再建を後押しした。プログラムは、実際に95年6月にEUに提出され、一般財政赤字を97年ま

でにGDP比で3%以下とすることが義務付けられた。

 この94年から97年までの時期の主要財政再建策の特徴は、抜本的な歳出削減と歳入増加策にあった。

具体的には以下の通りである。

○ 給付削減:年金の物価スライド幅抑制、社会保障関係費削減、児童手当減額、失業手当の給付率引

き下げ、傷病手当の給付見直し、農業者への救済金縮小、障害基礎年金引き下げ、外来患者自己負

担額上限額の引き上げ

○ 負担増:医療費の自己負担引き上げ、高額所得者への緊急増税、キャピタルインカム課税の強化

○ 成長への配慮:固定資本投資を促進するための一時的な控除制度の導入、中小企業減税、ベンチャ

ー投資への控除

 94年から97年の間の歳出削減・歳入拡大プログラムは、次表の通り、1,255億クローナ、GDPの7.5%

に相当する大規模なものであり、歳出削減額の割合はその約半分であった(図表5)。

(図表4)長期金利の推移

(資料)トムソン・ロイター(原資料)Riksbank

(%)

(年/期)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

2010/12006/12002/198/194/11990/1

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 9

(財政フレームワークの改革)

 その後97年に至り、政府はすでに検討が進められていた予算決定プロセスや財政フレームワークの改

革を実現し、この財政健全化維持の姿勢を持続的なものとする取り組みに注力した。その主な内容は以

下の通りである。

①予算決定プロセスの変更

3年間の複数年度予算の策定、マクロ経済政策運営を踏まえた予算編成を実現、歳出総額や歳出分野へ

の配分は内閣主導で決定。そのほかは省庁の裁量に任せるというトップダウンとボトムアップを組み合

わせたもの

②財政フレームワークの変更

1) 財政黒字目標の設定 今後の高齢化社会の到来を踏まえて、中央政府レベルで景気循環を通じて中

期的にGDP比で2%の財政黒字を維持するというルールを策定した。2007年にこの水準は1%に引

き下げられた。

2) 歳出シーリング制の導入 上記の財政黒字目標を踏まえて、予算策定時に2年間の経済予測を添付

し、それに見合った形で3年の利払い費を除いた中央政府の歳出総額のシーリングを設けることと

した。さらに、省庁の枠を超えて分類される27の歳出分野とその内訳である約500の議決予算につ

いても、それぞれの歳出分野に上限が設定される。シーリングの拘束力は強く、もしどこかの項目

で歳出が上限を超えた場合には、他の項目で削減するというペイアズユーゴー原則に則り、歳出の

再配分を行う。なお、シーリングのなかには、歳入が大幅に減る景気後退が起こるような危機対応

時のための危機対応基金も含まれることとなっていた。

(図表5)財政再建プログラムの概要(1998年の段階)

(資料)Bergman[2011](注)財政再建前:91ⅠQ~93ⅢQ 再建中:94ⅣQ~97ⅣQ 再建後:98ⅠQ~2000ⅣQ。

(10億クローナ)

歳出削減家計への移転 34.6 補助金削減 8.1 政府支出削減 6.8 その他 21.7 合 計 71.2

歳入拡大社会保険料 23.7 キャピタルゲインタックス 7.5 高額所得者への増税 4.2 生産税 6.1 その他 27.5 合 計 69.0

相殺要因食料に対する付加価値税の減免 7.6 その他 7.1 合 計 14.7 プログラム全体の合計 125.5

参考 景気指標等の推移 (%)

財政再建前 94ⅢQ 再建中 再建後一般歳出(GDP比) 67.5 68.2 63.3 58.5歳入(同) 60.3 59.4 58.9 60.6財政赤字(同) ▲7.2 ▲8.8 4.4 2.1プライマリーバランス(同) ▲7.7 ▲7.9 ▲2.9 3.3GDP成長率 ▲0.5 4.2 2.9 4.2消費伸び率 ▲0.7 1.5 1.8 4.0失業率 8.0 11.1 11.3 8.5

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10 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

3) 地方財政収支均衡ルールの導入 2000年より

93、96年と地方財政調整制度改革を実施したが、2000年からは、収支均衡に失敗し事後的に赤字と

なった場合には、2年以内に赤字を解消する必要があるとされた。なお、年金給付、傷害手当てと

いった現金給付は国が行うが、医療・介護などの現物給付は地方が所得税などの自主財源を原資に

強化できるため、医療介護などの給付増が国家財政にはねない形に工夫されている。

 こうした予算の編成や予測作業は、「財政政策委員会」といった独立した政府機関によって評価され、

情報開示を行うなどの透明性確保のための制度的工夫も設けられた。

 加えて、社会保障改革が並行して行われた。94年のエーデル改革では、社会的入院による高齢者医療

費高騰を問題視して、前述の通り、医療と介護の役割分担を明確にし、制度間の整合性と連携を高める

こととした。すなわち、高齢者ケアの質向上と効率化のために、ランスティング(広域地方自治体)が

担っていた訪問看護や長期療養ケア等の保険医療サービスを、福祉サービスを担っていたコミューン

(日本の市町村)に移管し、高齢者サービスの実施・責任主体を一元化し、保険医療と福祉を統合した

のである。さらに、99年に年金制度改革を実現し、保険料の固定化と自動財政均衡メカニズムの導入と

国庫負担を最低保証年金に重点化した。この結果負担と給付の関係が明確になったほか、財政資金の効

率的運用につながっている。

(注1)これに対して、Wolrathは、株主や顧客からは歓迎されたが、政治家筋からは予想されたとおりネガティブなリアクション

があった、としている。

3.スウェーデンの財政再建策の評価

 以上スウェーデンの財政再建の概要を確認してきた。スウェーデンでは、94~97年には大幅な歳出削

減と歳入増加のプログラムを実施し、その後97年からは財政フレームワークを制定し、長期的に財政規

律を守る方向で財政のスタンスを変更した。

 それでは、スウェーデンの90年代半ばの集中的な財政再建策は、具体的にどのような効果を持ったの

であろうか。また、財政再建と経済成長はどのような関係があったのであろうか。さらに97年以降の財

政フレームワークの変更はどの程度、スウェーデンの財政の持続可能性に影響を与えたのだろうか、ま

た、この時期のスウェーデンの財政再建は他国の財政再建と比較してどのような特徴があったのだろう

か。こうした論点を、先行研究も参考にしながら、検討していきたい。

(1)どの財政再建策が効果を持ったのか─歳出削減の効果

 94年から97年にかけて総額1,250億クローナという集中的な財政再建策を実施した結果、財政赤字の

削減状況は前掲図表2の通り、大きく改善、98年には財政黒字対GDP比1.9%を実現し、その後も黒字

基調が定着した。

 財政再建にどの項目が寄与したのかについて、歳出・歳入の内訳をみると、実際には、94~97年の税

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 11

率引き上げにもかかわらず、歳入総額の拡大はそれほど大きくない。むしろ、歳出は93年の段階で70%

もの高い水準にあったが、97年までに50%台後半にまで大きく減少したほか、その後も減少傾向にあり、

従来の「大きな政府」が財政再建を通じて変化したことがわかる(図表6)。さらに歳出項目を詳細な

項目ごとに分析すると、個人や企業への所得移転が大きく減少、政府消費も若干減少している。これを

機能別にみると、具体的には福祉分野の削減のみならず職業訓練への補助や住宅手当などの削減も大き

かった(Bosworth[2011])。一方で、直接税や付加価値税収はほとんど変化していないことが、図表7

からみてとれる。

(図表6)歳出規模・歳入規模(うち税収)(GDP比)の推移

(対GDP比、%)

(年)(資料)国立経済調査研究所(注)税収は、直接税(Direct taxes)と付加価値税等(Taxes on output)の合計。

30

35

40

45

50

55

60

65

70

2009 2007 2005 2003200199 97 95 1993

一般政府うち税収

一般政府・歳入

一般政府・歳出

(図表7)具体的な歳出歳入項目ごとの推移(対GDP比、%)

(年)(資料)国立経済調査研究所

▲80

▲60

▲40

▲20

0

20

40

60

80

財政収支

2009 2007 2005 2003 2001 99 97 95 1993

その他歳入

社会保険料

付加価値税等

直接税

個人への移転

企業への移転

利払い費

政府消費

その他歳出

歳入

歳出

57

▲68 ▲65▲62 ▲60

▲58 ▲56 ▲56▲53 ▲52 ▲54 ▲54 ▲52 ▲52 ▲51

▲49 ▲50▲53

57 57 57 56 56 54 52 52 53 54 53 53 52 5256 55

17 16 16 17 18 16 16 16 16 16 16 16 17 18 1916 15

19 21 21 21 22 23 21 20 20 21 22 22 21 20 2020 20

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12 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

 このように、スウェーデンの集中的財政再建の成功は、結果的に金融危機時の90年代前半に膨張した

歳出を名目GDP比で5年間で1割強と大幅に削減したことに拠っており、歳出削減が90年代半ば以降

の財政再建に大きな効果を持ったことがわかる。

(2)財政緊縮下でなぜ景気は回復したのか

(拡張的財政再建仮説はあてはまったのか)

 それでは、スウェーデンではなぜ上記のような歳出削減、増税といった財政緊縮策をとりながら景気

悪化につながらず、むしろ景気が回復したのであろうか。現在のギリシャなど欧州周縁国の最大の問題

の一つは、急激な財政緊縮策が景気を悪化させ、それがさらに財政を悪化させるという悪循環に入って

いることである。また、わが国でも消費税引き上げなど財政再建のための取り組みが、かえって経済に

悪影響を与えることが懸念されている。スウェーデンの事例はどう解釈すればよいのだろうか。

 財政再建を実施することが、経済活動を拡大する場合もあることは、歴史的にも実証的に明らかにさ

れている(いわゆる拡張的財政再建仮説(Expansionary Fiscal Contraction, 以下EFC仮説、非ケイン

ズ効果ともいう)。すなわち、債務残高が高い水準にあり、これに対して何ら対策がうたれないような

状況であれば、家計は今後必ず財政再建を余儀なくされ将来の負担が大きくなり可処分所得が減少する

と考えて、消費を控えるであろうし、労働意欲も減退してしまう。しかし、財政再建によってそうした

懸念が払拭されれば、将来の可処分所得に対する期待を修正したり、課税額の減少により家計資産の価

値が高まったり、公共支出から民間支出に切り替えたり、リスクプレミアムが縮小して金利が低下する

などのルートを経て、需要を拡大する効果を持ち、労働供給にもプラス効果を持つ、というものであ

る。

 こうしたEFC仮説についての研究は多いが、例えばイタリアの経済学者シュヴァッツイ・バガーノ

による研究(Giavazzi & Pagano [1990])では、80年代以降のデンマークとアイルランドの財政再建

中に消費が拡大した事例を分析し、その結果、83年から86年のデンマークで財政再建下において景気が

回復した事例は、歳出削減によって、景気が回復するというEFC仮説があてはまった事例であったと

結論づけている。すなわちデンマークでは、この時期の厳しい財政再建の折、内需中心に実質GDP3.6

%の成長を実現したのであるが、その背景には、実質金利低下に伴う住宅価格の上昇による資産効果も

あるが、それでは説明しきれない分として、歳出削減により将来の可処分所得が増加するであろうとい

う期待に裏付けられた効果が認められたとしている。

 一方で、スウェーデンの場合、90年代初頭のGDP落ち込みは、消費も設備投資も一般的な消費関数

や設備投資関数では説明しきれない。Giavazzi & Pagano [1996]は、公的債務GDP比率が上昇する最

中で91年の所得税大幅減税といった特別措置が実施されたことが、将来の労働や金融資産から得られる

所得に対する悪いニュースと受け止められた可能性が高いとしている。いずれにせよ、90年代初頭の

GDPの大幅低下は、減税がかえって逆効果を与えることがあるという非ケインズ効果の典型であった。

 こうした減税に伴う非ケインズ効果があったことを踏まえれば、危機後のスウェーデンでは、例えば

前掲図表4では、94年ⅢQの段階で財政再建スタート時において、景気が回復基調に入っているため、

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 13

財政再建によって消費にかえってプラスの影響を与えたのではないかとの仮説も十分成り立ちうるよう

に思われる。そうした仮説に基づいて実証を行ったのがBergman[2011]の研究である。実際スウェー

デンの場合、本格的財政再建を始めた94年の後半頃から95年にかけてGDPは大きく回復していた(図

表8)。

 しかしながら、BergmanのVARモデルによる実証分析(インパルス応答関数分析)によれば、税率

の引き上げは消費の減少と所得の減少をもたらしたとの結果が得られている。一方、歳出カットは、一

時的に1年間はマイナスの影響をもたらしたが、その影響は1年で終了し、その後消費や所得にはプラ

スに効いている。また94年ⅣQから97年ⅣQの財政再建をダミーとして、これが消費、所得、失業に与

える効果を同様の分析でみたが、有意な経済拡大効果を認めることができなかった。

 結局、この分析によって、Bergmanは、予想に反して、スウェーデンの財政再建についてEFC仮説

はあてはまらなかった、と結論づけている。その理由として、Bergmanは、①家計は財政再建によっ

て経済が悪化し、また失業率も高まると懸念したため、将来の可処分所得は低下すると予想したこと、

②スウェーデンの財政再建の半分が税率引き上げで計画され、家計は、歳出削減はいずれ危機前の水準

に戻るだろうが、高額所得者への追加課税といった税率の引き上げを一時的と宣言されていても結局こ

れが永続的になるだろうと予想したこと、といった事情が考えられるとしている。

 また、Bergmanはさらに、財政再建を本格化した94年の段階で経済は回復し、プライマリーバラン

スも回復の基調にあったが、本格的な財政再建が進行するにつれて、経済を再び悪化させた可能性があ

ったとの見方も示している。

(図表8)94年の回復期以降の四半期毎のGDP各コンポーネントの寄与率推移

(資料)トムソン・ロイター(原資料)Statistics Sweden(SCB)

(%)

(年)

▲20

▲15

▲10

▲5

0

5

10

15

Q1 1994 Q1 97 Q1 2000 Q1 2003 Q1 2006 Q1 2009

輸 出

実質GDP成長率

輸 入

在庫品増加総資本固定形成

政府消費支出民間消費支出

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14 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

(財政再建下の景気回復はなぜもたらされたか)

 それでは94年当時、財政緊縮策を本格化しながらも、景気が回復したのはなぜだろうか。その背景に

は、第1に、大幅な自国通貨安の定着があったと考えられる。実際に当時の実質実効為替相場をみてみ

ると(図表9)、92年から大幅に自国通貨安が進行しており、94年から95年にかけて大きく輸出競争力

が回復している。これが輸出増加に結びつき、スウェーデンの景気回復を支えた構図がみえてくる。

 第2に、為替相場の減価、労働生産性の回復による製造業のユニットレーバーコストの低下(図表

10)、名目金利が大幅に低下して実質金利も低下したこと等により、企業部門の設備投資が回復したこ

とも指摘できる。

 なお、93年には80年代までの高インフレの反省から中央銀行であるリクスバンクが導入したインフレ

ーションターゲティングを導入した。この枠組みも奏功し、物価上昇率についての信頼性が高まり賃金

上昇率が抑えられた側面もある。

 また、94年後半以降のGDP伸び率のうち、総資本固定形成の寄与度は高いが、93年頃からの企業の

債務縮小の動きは顕著である(図表11)。こうした企業部門の過剰債務の縮小による投資余力の拡大と

実質金利の下支え(図表12)も企業部門の回復を促した可能性が高い。

 このデレバレッジの状況を金融機関サイドからみると、94年の段階ではバブルは収束の過程にあった

ことが確認できる(図表13)。92年の公的資金投入等によって銀行部門が安定化し、金融環境が安定化

したために、前述の通り大幅に悪化していた企業マインドが改善した可能性が高い。

 従来の財政支出の削減は、経済成長を下折れさせなかったのであろうか。こうした見方については、

外需が成長を下支えしたほか、Johansson & Jonson [2003]の実証分析では70年から97年の財政支出に

よるケインズ効果が小さくなってきていたことを示している。このような幾つかの背景からこの時期の

歳出削減が必ずしも成長押し下げに直結しなかったことが、財政再建の成功に寄与したといえるだろう。

(図表9)実質実効為替相場の推移

(資料)トムソン・ロイター、Riksbank(原資料)実効為替レート:IMF(注)政策金利は1994年5月まではMarginal rate。94年6月以降はRepo rate。月末値。

(2005年=100) (%)

80

100

120

140

160

180

200

220

名目実効為替レート(左目盛)

実質実効為替レート(CPIベース)(左目盛)

実質実効為替レート(ULCベース)(左目盛)

2010/1(年/月)

2005/12000/195/11990/10

5

10

15

20

25

30

35

40

45

政策金利(右目盛)

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 15

 以上を小括すると、スウェーデンが本格的財政緊縮策を採用した94年の段階からしばらくの間景気が

回復したことは、スウェーデンの財政再建を成功に導いた大きな鍵であったと考えられる。しかし、財

政再建が国民の悲観論を消し去って消費を増加させたわけではなかった。こうしたEFC仮説が働かな

かった背景には、財政再建によって可処分所得が増えるというルートで国民の期待に働きかけることが

できなかったこと、増税にも頼った財政再建であり、税の引き上げは永続的と国民に受け止められてい

たことなどの理由が考えられる。

 このことは、将来の可処分所得が回復しないと予想されると、大胆な財政再建をしても景気拡大効果

は期待できないこと、さらに不人気な歳出削減を実施せざるを得ない状況から、歳出削減実施のために

(図表10)製造業のユニットレーバーコストの推移

(資料)OECD

(雇用者報酬/実質GDP)

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

201020082006200420022000989694921990(年)

(図表11)各部門のデレバレッジの状況

(資料)Statistics Sweden(注1)債務は、bonds, short term securities, leasing and loans の合計。(注2)2011年は速報値(Preliminary figures)。

(対GDP比、%)

(年)

一般政府 家計

非金融企業

40

50

60

70

80

90

100

20102005200095901985

(図表12)実質金利の推移

(資料)Swedish Riksbank “Economic Commentaries, No5 2008”

各目レポレート

実質レポレート

3か月物利回り

実質3か月物利回り

(%)

(年)

18

16

14

12

10

8

6

4

2

0

▲21979 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 2003 2005 2007

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16 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

有権者を意識して高額所得者の所得税増税など

に頼っても、景気をさらに悪化させ、財政再建

を不成功に終らせる可能性があることを示唆し

ているといえるだろう。

 他方、スウェーデンの場合、為替の減価によ

る輸出競争力の回復、企業部門の生産性の向上、

実質金利の低下や金融危機の収束によるバラン

スシート問題解決の急速な進展、企業マインド

の改善などによる設備投資の増加がプラスの経

済成長をもたらした。すなわち、経済が大きく

落ち込んでその後に財政緊縮策を採用して、金

利低下、為替減価に直結したが、小国であるが

ゆえにこれによって輸出競争力が高まったことが極めて大きなメリットをスウェーデン経済にもたらし

たといえ、財政再建にフォローの風を吹かせた可能性が高い。

(3)97年以降の財政フレームワークの導入はどの程度有効だったか?

 前述の通り、危機前のスウェーデン財政の特徴は「大きい政府」で税収が多く、他方で補助金等の支

出も構造的に多かったが、先に見た通り、危機後には個人・企業への移転支出は著しく減少した。その

多くは現役向けの社会保障関連支出である。スウェーデンの場合、失業に対する手厚い手当ての支給や

政府消費の増加といった財政均衡装置がビルトインされていた(Bi et al.[2010])。すなわち、危機前

は景気の悪い局面では補助金や政府消費が大きくなり、景気が良い局面では政府消費等が小さくなると

いう点で、景気循環と異なる動きをしていた(「カウンターシクリカル」であった)。

 図表14の通り、大きなパフォーマンスの違いが97年の財政フレームワーク変更を境に出てきている。

第1に、移転支出╱GDPが大きく減少している。第2に、政府消費がカウンターシクリカルからプロ

シクリカルに変化している。この動きに伴い、90年代前半までは、政府消費が増えると遅れて債務が大

きくなっていたが、その後はそうした関係は薄れていることをBi et al. [2010] は分析している。Biらは、

上記の数値を前提に、97年の財政フレームワークの変更がスウェーデンの「財政的限界」をどの程度シ

フトさせたかについて、パラメーターについて一定の前提を置いてモデル化し、97年前は債務残高╱

GDP80%近辺が財政的限界だったが、その後は100%近辺までにシフトしたと試算している(補論参照)。

 Biらは、スウェーデンのよう

な福祉大国において、平均税率

が引き下がり、移転支出も小さ

くなったこと、また政府消費が

プロシクリカルに変化したこと

が国債のリスクプレミアムの縮

小に寄与した、としている。た

(図表13)金融機関の国内向け信用/GDP比率推移

(資料)Statistics Sweden, OECD(注)95年まで、および2001年以降はグロスの数値。96年~2000年

まではネットの数値。

(対名目GDP比、%)

(年)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

201020052000959085801975

(図表14)97年の財政フレームワーク変更前後の相違点(年、%)

1980─2007 1980─1997 1997─2007生産性に対する政府消費の反応 ▲0.246 ▲0.281 0.174生産性に対する移転支出の反応 ▲1.816 ▲1.864 ▲1.13平均税率 49.718 49.652 49.911政府消費/GDP 29.498 29.896 29.792移転支出/GDP 21.193 22.49 19.106

(資料)Bi & Leeper[2010]より抜粋

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 17

だし、金利と債務残高GDP比の関係は線形ではなく、状況が変わると突然に金利が上昇する可能性が

あることも示している。

 Biらの分析によれば、スウェーデンの97年以降の財政フレームワークの変更は、家計の消費・国債購

入の行動の変更や生産性の改善をもたらし、スウェーデンの財政的限界を変更し、国債のリスクプレミ

アムを減じた可能性が高いことを示している。財政フレームワークの変更により政府消費がプロシクリ

カルに変更し、自動的な財政刺激策をとらなくなったことが、長期的な財政の持続可能性を高める方向

に寄与した可能性を示唆している点が興味深い。

(3)スウェーデンの財政再建は、過去の世界各国の財政再建のなかでどのような特徴を持つのか

 スウェーデンの財政再建と景気回復の両立の特徴は、以上の通りであるが、スウェーデンの事例は先

進国の今までの財政再建の例のなかでどのように位置付けられるのであろうか。

 前掲図表1の通り、スウェーデンは、80年代以降の財政再建において、財政収支の改善幅においても、

再建ペースにおいても最も大幅に早く改善した国と位置付けられる。

 Guichard et al. [2007]は、78年以降リーマンショック以前の2005年までのOECD24カ国の85の財政

再建のケースを分析し、以下のように特徴を整理している。

① 大幅な財政赤字と高金利、そして選挙が、大胆な財政再建を促進する力となっており、このことは国

民の危機感の共有が財政再建の抵抗を克服する鍵となっていることを意味している。このことは透明

な形での情報提供と財政状況の分析が重要なことを示唆している。

② 財政再建の多くは歳入増が歳出減よりも上

回って寄与しているケースが多いが、

GDP 4%以上の大胆な財政再建を成功さ

せているケースにおいては、歳出削減が歳

入増を上回るケースが過半となっている

(図表15)。歳出削減は歳入増よりも低金利

をもたらしやすく、民間貯蓄を動かして経

済を活性化する傾向があることや、政府の

財政再建へのコミットメントがより国民に

伝わることが背景と考えられる。

③ 財政支出に目標を設ける財政ルールは、財

政再建を成功させる傾向にある。このことは、財政再建にとって、よく考えられた財政ルールが効果

的であることを示している。そうしたルールは透明性、景気に対する柔軟性、予算のカバレッジの広

さ、効果的なエンフォースメントメカニズムと組み合わせることが必要である。

 こうした80年代以降の世界の財政再建の一般的傾向とスウェーデンの事例を照らし合わせると、いず

れも共通の特性を持つことがわかる。スウェーデンの場合も、高金利と選挙、国民の危機感が財政健全

化の促進力となったほか、また歳入増よりも歳出減が大きな効果を持った。さらに、97年に導入された

(図表15)GDP比4%以上の財政再建を行った国の歳出削減と歳入増の関係

(資料)Guichard[2007]

1086420▲2▲4▲6▲8▲10▲10 ▲8 ▲6 ▲4 ▲2 0 2 4 6 8 10

歳出の変化(GDP比、%)

歳入の変化(GDP比、%)

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18 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

柔軟で効果的なエンフォースメントシステムを持つ財政支出目標と財政ルールが効果を発揮したからで

ある。

 また、スウェーデンと同様成功の例としてとりあげられるカナダとの比較ではどうか。カナダは93年

11月にスタートしたクレティエン政権の下で財政再建が進められた。94年度当時の公的債務残高は

GDP比で68%になっており、92~93年の段階では、GDP比で9%程度の大幅な財政赤字であったが、

クレティエン政権下の財政再建で99年には黒字を実現し、公的債務残高GDP比率も徐々に低下してい

った。このようにカナダでも財政収支╱GDPを5年間で10%も改善している。

 Bosworth[2011]は、スウェーデンの歳出削減の特徴は、異なる分野についてキャップを目標とし

て掲げて実現したことにあるが、カナダについては、こうしたキャップを設けることなく、より柔軟な

政府レベルの「プログラムレビュー」の仕組みを導入することによって、歳出削減を実現したという特

徴がある、と分析している。プログラムレビューとは、「公共の利益」、「政府の役割」、「連邦政府か州

政府か」、「民営化」、「効率化」、「費用負担の適切さ」の六つの基準に基づいて既存の政策の見直しを実

施するものであった。これに基づき、州政府への交付金、失業保険制度、年金制度の改革、産業補助金

の削減、民営化、エージェンシー化などを実施し、歳出削減を実現していったのである。

 スウェーデンとカナダは、先進国のなかでも財政赤字を大胆に減少させた代表的な2国であるが、

「歳出削減の成功」が財政再建を可能にしたという点は、共通している。また、歳出削減の内容も類似

点があるが、その手法が異なる。スウェーデンの場合は、比較的わかりやすいキャップ制であったが、

カナダの場合は、政府の役割をどう考えるか、

という観点から、一定の基準に基づいて実施し

た行政改革と並行して歳出削減を行った点が異

なる(図表16)。

 それでは、当時の財政再建と景気回復をカナ

ダでも両立できた背景はどこにあるのであろう

か。Duy[2012]によれば、カナダの緊縮財政

は、実質金利を引き下げ、カナダドルを減価さ

せ、カナダの輸出競争力を強化した点が重要で

あるとしている。実際、90年代のカナダドルの

対USドル相場は減価を続けた(図表17)。

 当時カナダの主要輸出国であるアメリカは順

調に経済が拡大し、92年のNAFTA締結(94年

発効)の影響もあってカナダの輸出は大きく増

加し、2000年段階で輸出はGDPの45%に達し

ていた。

 このように、スウェーデンとカナダの成功は

極めて多くの共通点がある。すなわち、90年代

当時の世界経済は順調に回復しており、歳出削

(図表17)90年代のカナダドル対USドル推移

(資料)BOE

(カナダドル/USドル)

(年)

1.6

1.5

1.4

1.3

1.2

1.1

98 20009694921990

(図表16)カナダにおける政府支出の削減(機能別)

(GDP比、%)

1993 2000 変 化合 計 52.2 41.1 ▲11.1一般公的サービス 13.4 9.9 ▲3.5防 衛 1.6 1.1 ▲0.4治 安 2.0 1.6 ▲0.4経済政策 4.5 3.5 ▲1.0環境保護 0.6 0.5 ▲0.1住宅コミュニティー 1.1 0.9 ▲0.2健 康 6.7 5.9 ▲0.7文化、宗教 1.1 0.9 ▲0.2教 育 9.4 7.3 ▲2.1社会的保護 12.0 9.5 ▲2.5

(資料)Bosworth[2011]

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 19

減によって内需に影響が出たとしても、両国とも輸出依存度の高い特徴を持つ経済であり、主要輸出国

に対して為替が大幅に減価し輸出競争力を高められたことから、財政再建と経済成長を果たせたのであ

る。このように両国ともそもそも歳出削減をしても外需に頼れる経済構造を持っており、しかも世界の

経済環境が順調であったというフォローの風が吹いたということができる。

4.日本への示唆─スウェーデンとの比較分析

 それでは、スウェーデンの経験は、日本との比較においてどのような意味を持つであろうか。最後に

この点を検討しておこう。

(1)大きな政府のスウェーデンと比較する意味があるか?

 スウェーデンは大きな政府の代表であり、「大きな政府」を全体的に見直して、必要な部分の社会保

障給付の削減を行った。一方で、日本は現在社会保障給付の必要額は増加しつつあるが、むしろ負担は

小さい。今後の社会保障給付についてはその財源を賄えない状況となっており、社会保障給付の無駄の

削減は行う必要があるものの大胆な引き下げは急速な高齢化から難しく、中期的に歳入拡大努力が必要

であることは間違いない。

 一方で、わが国の場合は、スウェーデンのように財政再建を実現しながら成長を持続していくことは

学ぶべきである。むしろ成長を実現しなければ財政再建は果たせない。また、 95年対比でみると日本

の財政支出の規模が最も伸びており、スウェーデンは最も縮小しているが、スウェーデンは先進国の中

でも生産性を最も伸ばしている(図表18)。また、政府のサイズと生産性をみると必ずしも大きな政府

の福祉充実国の生産性が低く、小さな政府の生産性が必ずしも高いわけではないことがわかる(図表

(図表18)政府規模の変化と生産性向上の関係

労働生産性(1995年=100)

80 90 100 110 120100

110

120

130

140

一般政府支出 (GDP比、%)1995年=100

スウェーデン

ドイツ

イタリア

スペイン

日 本フランス

アメリカ

イギリス

(資料)OECDより日本総合研究所作成(注1)2010年の数値。日本のみ2009年。(注2)労働生産性=Gross value added at basic prices, total

activity(US $, constant prices, constant PPPs, OECD base year)/ Total employment, domestic concept

(図表19)政府規模と生産性水準の関係

(資料)図表18に同じ(注1)2010年の数値。日本のみ2009年。(注2)労働生産性定義は図表18に同じ。

労働生産性(USドル)

40 45 50 55 60500,00

60,000

70,000

80,000

90,000

一般政府支出(GDP比、%)

スウェーデンドイツ

イタリアスペイン

日 本

フランス

アメリカ

イギリス

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20 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

19)。このように成長、雇用を促しつつ、財政再建を実現していく視座が欠かせないことがわかる。

(2)EFC仮説は日本であてはまるか

(現状の国民の将来不安の動向)

 それでは日本では、どのように財政再建と景気回復を実現していけばよいのだろうか。まず財政再建

によってEFC仮説を日本で実現できるかどうか検討してみたい。

 スウェーデンの経験によれば、債務残高が大きい場合は、減税は経済をかえって悪化させること、ま

た税率の引き上げや歳出削減が今後続くことが予想される場合には、税率の引き上げでも歳出削減であ

っても、将来の可処分所得の予測を変えることはないためEFC仮説は期待できず、財政再建が消費を

活性化することは必ずしも期待できないことがわかった。

 実際に、スウェーデンは最近までの四半期データを活用して、VAR分析により、政府債務残高がど

の程度経済成長に影響したかについて、検証したところ、図表20の通りとなった。これをみると、財政

再建スタート前は、政府債務がGDP成長に対して有意にマイナスに効いているが、財政再建スタート

後は、プラスで有意、全期間を通してみると、プラスであるが有意ではないという結果となった。消費

との関係でみると、符号は同じであったが、いずれも有意な結果は得られなかった。この結果をみる限

り、債務残高が極めて高い水準にあ

った、金融危機時以降は債務残高が

増加することによって、実体経済活

動が抑制されていた可能性を示唆し

ている。他方、債務残高が減少して

いくと、実体経済との関係は明確で

はなくなっている(注2)。

 比較的小さな政府である日本の消

費税引き上げについては、どう考え

るべきであろうか。わが国の現状の

消費動向をみると、すでに債務残高

が大きく、将来不安から大幅な消費

増は見込めない状況となっている。

例えば、内閣府[2009]の年次経済

財政報告によれば、老後の年金に対

する不安が必要貯蓄額に及ぼす影響

の推計として、非常に心配であると

する人の上乗せ額が198.2万円、年

金や保険が十分ではないからとする

人の上乗せ額が284.6万円、年金支

給額が切り下げられるとみているか

(図表20)VAR分析の結果

被説明変数 GDP 危機前財政再建

スタート後全期間

期 間前年比1期ラグ

1986Q2−94Q3 94Q4−2012Q1 86Q1−2012Q2

説明変数 被説明変数

政府負債

短期金利

CPI

為替相場

定数項

R2

0.357(2.408)**

−0.163(−3.63)***

0.001(2.205)**

0.468(3.567)***

−0.002(−5.731)***

0.385(0.067)

0.897

0.855(9.533)***

0.057(1.688)*

−0.001(−0.384)

−0.477(−1.901)*

−0.000(−0.854)

0.049(1.152)

0.636

0.878(12.822)***

0.031(1.442)*

0.000(0.239)

0.009(0.089)−0.000

(−0.085)0.03

(1.137)0.715

被説明変数 消 費 危機前財政再建

スタート後全期間

期 間前年比1期ラグ

1986Q2−94Q3 94Q4−2012Q1 86Q1−2012Q2

説明変数 被説明変数

政府負債

短期金利

CPI

為替相場

定数項

R2

0.479(3.150)***

−0.079(−1.630)

−0.001(−0.546)

0.445(2.414)**

−0.001(−2.252)**

0.223(0.081)

0.735

0.589(6.013)***

0.000(0.033)*

−0.000(−0.114)

−0.348(−2.300)*

−0.000(−0.112)

0.025(0.920)

0.416

0.739(9.712)***

0.017(0.846)

−0.001(−1.753)*

0.195(1.998)*

0.000(0.719)−0.006

(−0.252)0.692

34 70 104

(資料)Riksbank、スウェーデン統計局、IMFのデータを使用して分析(注)*** ** *はそれぞれ、1%、5%、10%水準で優位。

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 21

らとする人の上乗せ額が178.6万円とされている。老後の生活不安を感じる人の増加に伴い、勤労者世

帯では家計貯蓄率が上昇している傾向も確認されている。

 この先、財政再建が進むとこうした傾向が解消する可能性があるだろうか。税率の引き上げも歳出削

減も一時的なものとなると国民は認識せず、EFC仮説はあてはまらない可能性が高い。それでは、な

ぜ一時的と認識できないか。スウェーデンとの決定的な違いは、人口動態の相違がある。

(年齢構成の変化の違いをどう捉えるべきか?)

 スウェーデンは社会民主労働党のエランデル首相が1946年から69年まで総理の職にあり、女性の就業

と家事育児の両立のための環境整備に重点をおいた家族政策を開始した。その後もこの政策は継続され、

スウェーデンは現在出生児数の9割弱が保育施設を利用しており、女性の労働力率も上昇、また男女の

平均賃金格差も縮小した。こうした政策が奏功して、スウェーデンの出生率は99年に1.50であったが、

現在は1.94までに回復している(藤井[2011])。

 このため、スウェーデンの人口高齢化の進行は、日本に比較すると相当緩やかである(図表21)。高

齢化率も最大になるのは、2100年を超えた時点と予想されており、その時点で50%程度と予想されてい

る。一方で、日本の高齢化率は2050年の段階で70%と予想されている。この意味で、今後の日本の増税

は永続的とならざるを得ない。

 日本でも、今後スウェーデン同様、

無駄な歳出の削減に踏み込むことは当

然必要であるが、スウェーデンの場合

は現役世代向けの社会保障給付もあっ

たため一時的な削減がしやすい側面も

あった。日本は、今後の高齢社会の進

展を考えると今後数十年のタームで高

齢者個々人向けの給付額が増加するこ

とは難しい。こうした日本の急速な高

齢化が決定的に今後の家計の可処分所

得見通しに対してネガティブな影響を

与えることが予想される。

 このように、わが国の場合は、すでに債務残高が大きく、高齢化が進むことが予想されていることか

ら、財政再建によってもEFC仮説が出現しない可能性(税収増加によっても、歳出削減によっても可

処分所得の変化に対する期待を変えられないという可能性)が高いことに留意する必要がある。

(3)長期的経済成長を支えたものは何か?─高い輸出依存度、生産性

 スウェーデンやカナダの例をみると、財政緊縮策を成功させるうえで、輸出が伸びて経済が成長した

ことが大きかった。そのメカニズムの背景には、為替相場の減価、実質金利の低下があったし、両国と

(図表21)スウェーデンと日本の人口動態の変化(高齢者/生産年齢人口の推移)

(資料)国連(注)2010年以降は予測。

(%)

(年)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

スウェーデン

21002085207020552040202520109580651950

日 本

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22 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

も輸出依存度が高く、世界経済も現在よりは順調に拡大していた。しかし、現状の日本経済をみると、

為替相場の減価は当面は欧州情勢などを鑑みると難しく、金利も大幅に低下しており、輸出依存度自体

はこれらの2カ国よりも低い。しかも現状、外需の伸びにそれほど期待できる環境にはないため、残念

ながらこれら2カ国のような外需に頼った形で緊縮財政が可能とは思われない。むしろ、わが国がこの

2カ国のように大胆な財政緊縮策を実施することはリスクが高い。これは現在ソブリン問題に直面して

いる南欧諸国も同様といえる。

 一方、スウェーデンでは、長期的に労働生産性が向上したが、その背景には、法人税を引き下げて外

資を積極的に導入し、IT活用を積極的に促して資本装備率を高めたことや、規制緩和による競争促進

なども関連している(図表22)。輸出の回復に加えて国内の生産性の向上を実現できたことも、スウェ

ーデンでは財政支出を削減しつつ、成長を享受することができた背景の一つと考えられる。

 わが国の長期的経済成長をどのように促していけばよいのだろうか。スウェーデンの状況と照らし合

わせると、輸出拡大に多くを期待できないわが国は、早急な財政再建によって需要を冷やすことなく、

R&DやIT投資の促進など、長期的な生産性の向上を図りながら潜在成長率を上げていくことが必要で

あろう。とくに、今後労働人口が大きく減少していくことを考えると、労働生産性の向上は重要である。

わが国としては、中小企業の生産性を上昇させることや、生産性の低い分野から高い分野に経営資源を

シフトさせることが必要であろう。また、労働の質を向上させることも重要である。加えて日本の立地

の魅力を向上させる努力や、高付加価値のマザー工場を残すなど、将来為替相場が減価した場合に、輸

出のメリットを得られるようにしておくことも必要と考えられる。

 さらに、わが国の場合は、今後留意すべき点がある。それは今後急速に高齢化が進むなか、民間貯蓄

が急速に減少すると国内の国債需要減少に直結するという点である。

(図表22)労働生産性の伸びの推移

(資料)OECDより日本総合研究所作成

80

90

100

110

120

130

140

150

アメリカイギリス

スウェーデンスペイン

日 本イタリア

ドイツフランス

201020082006200420022000989694921990

1995年=100

(年)

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 23

(4)資金循環の違いをどう捉えるべきか

 当時のスウェーデンの家計貯蓄と公的債務の比率をみると、グロスでは家計金融資産が公的債務を上

回っていたが、ネットでは0.5であり、相当程度を海外投資家に依存していた(図表23)。

 日本では、現状公的債務残高の増大と高齢化に伴う家計貯蓄の低下から、グロスでは家計金融資産は

1.5、ネットでは1に近づきつつある(図表24)。すなわち、家計の貯蓄が今までは国債購入を支えてき

たが、それが維持可能ではなくなってきている。したがって、今後高齢化が一層進展して家計貯蓄が取

り崩されると、日本国債を国内で支え続けられない可能性がある。その意味で、今後、民間投資や消費

の拡大は経済成長に寄与して公的債務の拡大ペースを減らす可能性があるが、公的債務がこれだけ高い

水準となっている状況では、企業や家計の貯蓄が急速に減少すると国債の需要が低下してかえって財政

的限界を引き下げる可能性もあることには留意が必要であろう。

 このように考えると、日本はBiらの試算によるスウェーデンの金融危機以前の財政的限界の水準であ

った公的債務╱GDP80%をはるかに上回る200%を超える水準になっており、民間貯蓄取り崩しが一気

に進むと、財政的限界という厳しい段階に近づいてしまう可能性もある。

 わが国の貯蓄投資バランスを考えれば、財政赤字の発生を極力抑制しつつ、単に投資や消費を一時的

に刺激する政策ではなく、全要素生産性を引き上げることによって、資本生産性や労働生産性を向上さ

せ、付加価値の高い財、サービスを提供できるような設備投資が行われるようにすることが必要で、こ

れによって、家計や企業の貯蓄の緩やかな低下とともに成長の方向を目指すことが適切ではないか、と

考えられる。

(図表23)スウェーデンの家計の金融資産と政府債務の関係

0.0

0.4

0.8

1.2

1.6

2.0

2010200520009590851980

(資料)Statistics Sweden(注1)債務残高は、short-term securities, long-term securities, short-term loans, long-term loansの合計。一般政府は中央政

府、地方政府、社会保障基金の合計。(注2)家計は対家計民間非営利団体(non-profit institutions serving households)を含む。(注3)1994年まではSNA68、1995年以降はESA95ベース。

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

(兆スウェーデン・クローナ)

(年)

(倍)

一般政府債務残高(左目盛)

家計金融資産残高・グロス/一般政府債務残高(右目盛)

家計金融資産残高・ネット/一般政府債務残高(右目盛)

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24 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

(注2)使用したデータは次の通り。政府債務は中央政府債務残高、短期金利は国債3カ月物利回り、為替相場は実質実効為替相場。

ちなみに政府債務のGDPへの影響について、計測結果について為替相場をのぞいて頑健性について検証したところ、符号条

件は同じであったが、危機後は政府負債残高が有意に影響していたが、危機前は有意な結果は得られなかった。

5.結 論

 スウェーデンの財政再建の成功のエッセンスは、増税と歳出削減をバランスよく組み合わせ、持続的

な成長の実現に配慮した財政運営を続け、柔軟で透明な財政運営ルールを作ったことにあった。しかも、

為替減価による輸出増が緊縮財政のネガティブな影響を打ち消し、生産性の向上を持続的成長を可能に

した。当時のスウェーデンの状況と照らし合わせると、わが国の経済の特徴は異なり、またわが国を取

り巻く経済環境は厳しく、財政再建を巡る今後の展望は厳しいが、以下のような点に注意して進める必

要があるだろう。

 第1に、わが国は、今後人口動態が大きく変化し、高齢化率が急速に高まる。このため、今後財政再

建に取り組むことができても、将来の可処分所得が増えるという期待を国民が持つことができる可能性

は小さく、将来不安が薄れるというルートを通じて民間消費を復活させるルートは期待できない。その

分、内需の動向に十分配慮した財政再建を実現していく必要がある。

 第2に、わが国においても、増税だけでなく、「無駄な」歳出の削減については本格的に取り組む必

要がある。具体的には医療提供体制の見直し、データ整備または生活保護制度の改革などによって、非

効率に使われている財政支出の見直しには取り組む必要があろう。しかし、早急な財政再建は慎重にす

べきである。

(図表24)日本の家計の金融資産と政府債務の関係

0

200

400

600

800

1,000

2010200520009590851980

(資料)日本銀行「資金循環統計」(注1)債務残高は民間金融機関貸出、国庫短期証券、国債・財融債、地方債政府関係機関債の合計。一般政府は、中央政府、地

方政府、社会保障基金の合計。(注2)家計は対家計民間非営利団体を含まない。

一般政府債務残高(左目盛)

家計金融資産残高・グロス/一般政府債務残高(右目盛)

家計金融資産残高・ネット/一般政府債務残高(右目盛)

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

(兆円)

(年)

(倍)

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 25

 第3に、スウェーデン、カナダの経験を見る限り、財政緊縮策を成功させた主要な背景に、為替が大

幅に減価し輸出競争力が回復したことがあるが、わが国ではこうしたルートは期待しにくい。したがっ

て、財政再建を進める際には、大胆な歳出削減はリスクがあるため、適度に内需を刺激しながら長期的

な成長を重視した地道な取り組みを進める必要がある。

 財政再建に取り組むなかでも、スウェーデンのように、立地を魅力的にして外資を呼び込んだり、マ

ザー工場を残すなどにより、輸出基盤を残すことや、労働生産性を向上させながら経済を成長させる努

力が重要と考えられる。同様に、スウェーデンのように女性労働力を生かし、少子化の進行を食い止め

るための子育て支援策のための財政支援も、長期的な成長には不可欠である。

 第4に、わが国のGDP比でみた公的債務残高は極めて高く、対外債権の大きさといった国債の購入

余力の大きさが多少わが国の「財政的限界」を猶予しているといえる。わが国の家計部門と企業部門の

貯蓄超過は長期的な需要不足の背景とされてきた。しかし、今後貯蓄の急速の減少は、国債需要に影響

を与える可能性もあるため、質の高い投資を増やして高付加価値の財・サービスを提供するなど、貯蓄

投資バランスにも配慮した経済政策運営が求められる。

 以上のように、現在のわが国は、当時のスウェーデンよりはるかに難しい状況にある。今後の財政再

建にあたっては、経済成長との両立こそ重要であり、「無駄な」歳出の削減は必要であるが、内需の動

向に配慮しつつ、長期的な成長を実現するための生産性向上、女性活用、国内の高付加価値製品の生産

基盤確保のための政策などに留意しながら財政再建を実現していくことが重要であろう。なお、スウェ

ーデンが行った、財政再建のための中期的かつ柔軟で現実的なルールを導入することも、極めて重要で

ある。

補論 Bi et al.[2010]による財政的限界の議論

 「財政的限界」とは、国家として債務をそれ以上抱えれば、デフォルトしてしまう状況である。例え

ば、所得税率引き上げにより単純にあるところまでは歳入は増えるであろうが、上昇しすぎると、働い

ても所得がなかなか増えないことから労働意欲がそがれ、かえって税収は低下する(いわゆるラッファ

ーカーブの議論)。そうした歳入の極大ポイントが財政的限界である。その水準は、直接的には労働供

給の所得に対する弾力性の大きさに依存するし、その時点の経済状況、政治情勢や政府のサイズ、経済

の多様性など様々な状況にも依存する。このように歳入の極大ポイントがあると考えれば、政府が抱え

られる債務の大きさにも限界があることになる。そうした政府が抱えられる債務の大きさはまた、家計

の所得と消費行動との関係で貯蓄(債務保有額)が決定され、限界が画されてしまう。

 Biらは、前記のようなスウェーデンの財政フレームワークの変化─小さな政府への移行(平均税率の

引き下げ)、プロシクリカルな政府支出、シーリングの設定など─は、財政限界をどのように変更させ

たか、スウェーデン経済の実態に基づいた数値計算によって分析している(補図)。財政フレームワー

ク変更の結果、財政的限界は、危機以前は債務残高対GDP比80%であったのに対し、危機後は100%を

超える水準にまで上昇している。とくに、政府支出をプロシクリカルに変更した場合の効果をみると、

財政的限界の分布が小さくなっており、債務残高対GDP比80%の水準ではデフォルトの可能性がなく

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26 JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1

なっていることがわかる。さらに金利水準が債務残高GDP比に依存することを前提に金利水準につい

ての試算を行うと、危機以前では、債務残高GDP比65%の段階でリスクプレミアムが生じていたが、

危機以降は、90%前後の水準からしかリスクプレミアムが生じない結果となっている。

 実際、前掲図表1をみると、94年から98年の公的債務╱名目GDP比率は80%超えの状況が続いており、

(補図)財政的限界と長期金利(国債リスクプレミアム)の試算

(資料)Bi and Leeper[2010]

350

300

250

200

150

100

50

00.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

危機前

公的債務/GDP

公的債務/GDP

危機前 vs 危機後

危機前

0.9 1.0 1.1 1.2 1.3

0.3

20 40 60 80 100 120

0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3

18

16

14

12

10

8

6

4

2

0

危機前

危機後

危機後

危機後(政府支出をプロシクリカルに変更した場合)

危機後(政府支出にシーリングを設けた場合)

金利(%)

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財政再建と経済成長をどう両立するか

JR Iレビュー 2012 Vol.1, No.1 27

財政限界ギリギリの状況であったことがわかる。さらに、ネット家計金融資産に対する公的債務の割合

は0.5倍であり、海外に大きく依存する厳しい水準でもあった。

(2012. 10. 12)

参考文献

・Bergman U.M.[2011]. “Budget Consolidations in the Aftermath of Financial Crisis: Bi H. and

Leeper.

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