自閉症支援における 問題行動対応集...

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自閉症支援における 問題行動対応集(1) 自閉症eサービス 2013年度版

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自閉症支援における 問題行動対応集(1)

•自閉症eサービス

•2013年度版

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(1)自閉症と問題行動

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「問題行動」をめぐる逸話

自閉症=問題行動を起こす人、行動障害の激しい人というレッテル

「強度行動障害」と呼ばれる事例 自傷が激しく、失明した

2階から飛び降りて、足を骨折しても、走りまわっていた

胃の中からゴム手袋が何枚も出てきた

毎日、服を破いて、いつも裸で暮らしている

食事をまったく受け付けない(ジュースしか飲まない)

家に行くと、床や壁には穴があき、天井にはフォークが刺さっている

さまざまな○○療法

「カリタスの家事件」「高井田苑事件」 専門性(専門機関)のいかがわしさと施設内虐待の可能性

しかし、それでも入所施設に入れざるを得ない状況

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福岡県「カリタスの家」の事件 (2004年11月末~12月の報道によると)

• 施設内で職員の体罰・暴行が常態化し、それが公にされてこなかった(密室化していた) • 熱湯を飲ませる、袋に入れて一晩放置、木酢を顔にかける・・・

• 施設長自らも体罰・暴行をおこなっていた

• 行動障害・自閉症支援に取り組んできたという評判と驕り • 他に行くところがない、見てくれるところがないという消極的な選択

• 行政との暗黙の了解、同業者内の甘え、保護者の依存体質・・・

• 第3者によるチェックや市場競争的な調整機能が働かない

• 「行動障害児・者を守る会」や自閉症・発達障害支援センター「ハレルヤ館」(当時)

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障害のある子どもへの体罰 ~大阪府教育委員会が懲戒処分を行った事例~

• 興奮状態となった児童を落ち着かせるために、教諭が椅子に座らせよ

うと押さえつけたため、顔を机に打ち付け、児童に前歯2本が欠ける怪

我を負わせた。

• 児童に個別に指導を行っていた際、児童が「ボケ」と発言し、教諭の頭

を叩いたため、感情的になって反射的に当該男子児童の頭を平手で2

回叩いた。

• 給食後、教諭が教室で生徒の指導に当たっていた際、生徒の手が顔に

当たり、眼鏡を払い落とされたことに立腹し、持っていた牛乳瓶で当該

生徒の頭部を叩いた。

• 生徒が興奮してオーディオ機器を押し投げ、手を振り回したり、自分の

手を噛むという自傷行為をしたため、教諭がそれを制止しようとし、左手

の甲と左の頬を叩き、当該生徒の右頬が床につくような形で押さえ込ん

だため、当該生徒は頬に擦過傷ができるなどの怪我を負った。

• ~体罰防止マニュアル改訂版~ 大阪府教育委員会 H19.11

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虐待事件から、私たちは何を考えるべきか(「問題行動」に絞ると)

問題行動を繰り返していたのは誰か?

「良かれ」という甘えた意識(=支援者中心主義)

「大変な人たちを抱えている」という「やってやってる」感

教育的指導という名の体罰・虐待

一人の人間として認めない劣等処遇

「わからないから」「文句を言わないから」「誰も見ていないから」という軽率で、欲求不満のはけ口としての行動

自閉症の特性・文化を理解しているか?

自閉症の人への尊敬の気持ちはあるか? つまり、自閉症の人と一緒に暮らしたいと思っているのか?

精神論ではなく、客観的・科学的な検証に耐えうる作業を

専門性を備えたヒューマンサービスへ

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自閉症とは

• 中枢神経系の障害によって起こる発達障害

• 脳における情報の処理過程に違いがある o 感じ方、捉え方に違いがある

o うまく理解できない、うまく表現できない

• 自閉症は心の病気ではない

• 行動や認知の特徴から診断する

=診断基準

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自閉症スペクトラム

①社会性(相互的な対人関係)の障害

②コミュニケーションの質的障害

③こだわりと想像力の障害

幅が狭く、常同的・反復的な興味・行動・活動

2歳~3歳ぐらいまでに障害の特徴が明らかになる

青年期・成人期になって初めて診断されるケース

自閉症スペクトラム

「三つ組」(ローナ・ウィング)

広汎性発達障害

DSM-Ⅳ(1994)診断と統計のためのマニュアル(アメリカ精神医学会)

ICD-10(1990)国際疾病分類(世界保健機関)

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①社会性の障害

• 人をあまり意識しない/過剰に意識する o 共感性の欠如

o 「心の理論」 ex.サリーとアンの実験

• 人とやりとり(相互交渉)の偏り o 孤立群、受動群、積極・奇異群

o 友だちが作れない

o アイコンタクトがないか奇妙

• 「形式ばって仰々しく関わる」群(高機能) o 過度に礼儀正しく、ルールに厳格

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現場でよくある「問題行動」 ①対人社会性の障害

• 集団行動がとれない、協調して行動しない

• 協力しない、模倣しない

• 場にそぐわない行動をする、突飛な発言がある

• 社会的なルールを守らない、常識がない

• 挨拶をしない、人の顔を見ない

• 付き合いが悪い、友だちができない

• 一方的にかかわってくる

• 特定の人をターゲットにして、かかわってくる

• 指示待ち、自発的に行動しない

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②コミュニケーションの質的障害

• 話し言葉がない、話し言葉の発達の遅れ

• 話し言葉があっても、コミュニケーションの道具としてうまく使えない o エコラリア、反復言語

o 助詞や前置詞の使い方

o 文語調や杓子定規な表現、創作言語

o アクセントや音量

• 話し言葉を理解することが苦手 o 言葉はほとんど理解できない(合図でしかない)

o 文字は読んでも、意味は理解できない

o 字義通りの理解、偏った解釈

• 非言語的コミュニケーションの使用の限定 o ジェスチャー、うなずき、表情・・・

• やりとりの問題

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言葉の意味がわからない、 取り違える、文字通りの解釈

• 豊富な語彙で文法は間違っていなくても・・・

• 字句の解釈の問題 o 「試みる」→「心をみる」 「解脱」→「脱いで解決する」

o 「ペットボトル」→「ペットが入ったボトル」

o 「静かに歩く」→口に指を当てて「シーッ」と言いながら歩く

o 「まっすぐ家に帰りなさい」「その話しが一人歩きしないように」

• その場に応じた解釈ができない o 冗談や皮肉がわからない

o 「このことは水に流すよ」→「水を流すのは僕の仕事です」

o 「相手の話が冗談か本気かが、私にはわかりません」

• 命令形を決定的ルールと取り違える

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現場でよくある「問題行動」 ②コミュニケーションの障害

• 「ハイ」「わかった」と返事したのに、そのとおりしない

• 「ダメ」「がんばろう」「大丈夫」などと伝えてもぴんとこない

• 言葉の指示がわからず、間違った行動をする

• 黙ったまま突然暴れる、急に泣き出す

• ずっと独り言を言っている、コマーシャルばっかりしゃべっている

• 大声でしゃべる、小さい声で聞き取れない

• 一方的にかかわってくる、話しを止めない

• 会話が成り立たない

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③こだわりと想像力の障害

• 同じ行動を繰り返す o 反復的な感覚的体験

o 決まった手順や儀式にこだわる

• せまい興味に没頭する(物や情報を集める)

• 想像力の乏しさ(経験していないこと、目に見えないことを想像することがむずかしい) o ごっこ遊び(ふり遊び)の少なさや幅の狭さ

o 人の気持ち

o 時間の流れ、将来の計画

o はじめてのことや変更

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-想像力の障害-

混乱・不安

日課・活動などの変更

物の位置や道順の変更

職員の動き いつもと違う人

複数または新しい情報の処理

が苦手なため、パニックになっ

たり同じ形(同一パターン) に

こだわってしまう

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現場でよくある「問題行動」 ③こだわり、イマジネーションの障害

• ドアの開け閉めにこだわる

• ずっと水遊びが終わらない

• いつものやり方じゃないと気がすまない

• 服のタグをやぶく、めがねをはたく

• 空き缶を集めてくる、空き缶を手放せない

• ごっこ遊びをしない、オモチャで遊ばない

• ブロックは色別に一列に並べるだけ

• 夜中に起きてきて、朝ごはんを要求する

• 何度も予定を確認してくる

• 何でも前倒しで行動する、行動が止まる

• 他人の物を勝手に取ろうとする

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その他の特性

• 認知発達のアンバランスさ o でこぼこのプロフィール

o 特殊なスキル cf.サバン症候群

• 体の使い方のおかしさ、ぎこちなさ

• 感覚の異常、過敏さ・鈍感さ

• 摂食、睡眠など生理的機能の不調

• 気分の不安定さ、不安・恐れ

『高機能自閉症アスペルガー症候群入門』(中央法規)

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-感覚の問題- 子供の泣き声

食べ物の食感や臭いに過敏

衣類の肌触り

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現場でよくある「問題行動」

④感覚の問題など

• 耳ふさぎがある、奇声をあげる

• くるくる回っている

• 偏食がきつい、異食がある、噛まずに飲み込む、水のみが激しい

• 顔や手を自傷する、毛をぬく

• 服やぶき、つばはき、女性の髪の毛の臭いをかぐ

• 不眠、ちょっとした物音でも目が覚める

• 調子の良い時と悪い時の差が激しい

• 固まって動かなくなる、いつも隅っこのほうにいる

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なぜ、問題行動は減らないのか?

• 問題行動を引き起こす原因が解決されていない

• 場当たり的な対応で、むしろ問題行動が強化・助長されてしまっている

• 適切な行動が教えられていない

• 問題行動の解決に向けて、組織的・計画的な対応がとられていない

• つまり、本人の問題ということで、

• 私たちがやるべきことが具体的に明らかになっていない

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よくある例

ことばで話しかけ、理解してもらおうとする。

しかも、ながーい話し言葉

(名詞・動詞・比喩・肯定・否定語etc ゴチャ混ぜ)

期待している行動をしてくれない

ますます、ながーい話し言葉 + 感情的な態度

伝わらないことによる

お互いのストレス

悪循環

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スパルタの発想

力で屈服させる、抑えつける

「悪いことをした」という認識からスタートする(理由や原因は問わない)。だから、「罰を与えてもいい」「報復してもいい」「我慢させたらいい」と、自らの行動を正当化する

「怒り」「腹いせ」「逆上」「仕返し」の感情

<言葉で叱る、言い聞かせる、脅す→それでも、言うことを聞かない→罰を与える、力で抑える>というプロセスをたどる

しばしば場当たり的→職員が見ていないときはどうでもいい、長期的な影響については関心がない

「過剰矯正」「タイムアウト」「身体拘束」「体罰」etc

力関係が逆転したとき→「抑えられない」「うちでは対応できない」「放っておくしかない」と投げ出す傾向

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全面的受容の発想

「好きでやっているんだから」と受け入れる姿勢

受容→本人の心理的な満足や飽和を期待

行動を受け入れること→その人を受け入れること、という捉え方

理解できない行動でも「寄り添う」「見守る」「共感する」→理解できな

い行動は「解釈される」が、具体的に支援はされない

「本人が選んだんだから」と認める姿勢

自己決定、自己選択の風潮

「本人がやっている」と相互関係を遮断する「追認」「放任」

恣意的な線引き

どこまで認めるか?→結局、介入するか、そのまま放置するかが曖

昧(その場やその人の都合による)

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<相互作用の視点> 「問題行動」をしている?

「問題行動」を引き起こしている?

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個別化された評価の不足

• 思いこみでかかわる o 私たちと同じように感じている、理解しているという思いこみ・・・「できるはずだ」「わかるはずだ」

o それでうまくいかないと、非難へと変わる・・・「何でできないんだ」「こんなに伝えているのに」「何度言っても言うことをきかない」

o 相手(自閉症の人)の立場に立てない

• 評価の方法とプロセスを知らない o フォーマルな評価、インフォーマルな評価(現場観察)

o 得意、できること、興味関心、理解レベル・・・

• 評価に基づいた支援や対応が提供されない o 個別化(一人ひとりに合わせる) VS 今までのやり方、現場のやり方

o 何を支援するのか? どのように支援するのか? が不明確

o 自立につながらない・・・支援者に依存させる(or 反発・拒否される)

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「問題行動」をめぐる よくあるライフヒストリー①

乳・幼児期⇒親の不安と支援の遅れ

– 診断が未確定、支援機関への不信感

– 「様子を見ましょう」「親の子育ての問題」「声をかけてあげて

ください」などの無責任なアドバイス

– 家族の孤立感と情報過多による混乱

学齢期⇒教育の失敗

– 学校・先生の無理解、専門性のなさ

– 先生のやり方を一方的に押し付けられる、あるいは、放任

や無視の対応・・・先生が替わるたびに、やり方も変る

– 「指示待ち」「反発、拒否」「全般的なイライラ」「全般的な混

乱」の蓄積

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ナオトくんの場合

「ほとんどしゃべらない」「一人でずっと遊んでいる」ので、母は以前から心配。保健所の検診では、「お母さん、もう少し様子を見ましょう。絵本の読み聞かせがいいですよ」などとアドバイスされる。

専門の医療機関に問い合わせると、受診に2年以上待たないといけない。4歳のとき、「広汎性発達障害ですね」と診断されるが、詳しい説明や対応方法の話しはなし。

地域の小学校に入学・・・1年生の先生は、「クラスの友だちの中でもまれるのがいい」「何でも食べられるように、給食は残さず食べる」との方針で、普通学級で過ごさせようとする。

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ナオトくん(続き)

次第に本人は授業中の立ち歩きが目立ち、2学期の運動会の頃になると、飛び出しや手を噛む行動が頻繁に。もともと偏食が強かったが、給食は先生が付きっきりで指導し、嫌いな食べ物は飲み込むようになった。

2年生にあがると、授業の内容にもついていけなくなり、クラスに加配の先生を配置してマンツーマンの対応になる。相変わらず立ち歩きや飛び出し、自傷がなくならない。

クラスメイトからは、「ナオトくん怖い」「ナオトくんに叩かれた」などの訴えが出てきて、結局3年生から特別支援教室に移る。

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学校での切実な問題

授業に参加できない、学校に行きたがらない

行事や集団活動になじめない

いわゆる「問題行動」が頻発する

従来の(一般の児童向けの)教育方法が通用しない

○○療法への過信と安易な適用

いじめ、子ども同士のトラブル

教師間の捉え方や対応の不一致

学校に対する親の不信感、親との協力関係の難しさ

つまり、学校が教育の場として有効に機能していない場合

– 親の理解

– 学校・先生の理解

– 同級生や保護者の理解

– 進路先に悩む・・・教育の場としていいところが見つからない

その結果・・・

– 学業不振、不登校、引きこもり、退学

– 反社会的な行動(非行や犯罪)

– 精神的ストレス、精神疾患

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※学校のやり方(協調性)

私はもちろん、先生に直接指示されたことはした。けれども、周

囲の人間にはあまり関心が持てず、グループ内でもよくぼんやり

していた。

他人に注意を払い、他人の考え方や関心に気を配ることがいか

に重要か、小学校はあの手この手でそれを教えようとしていたの

に、私は周囲の人間を漠然としか意識できず、人の気持ちや考

えを読み取る能力はまるでなかった。私に協調性を教えるのは、

まるで、耳の聞こえない人を、音楽に合わせて行う集団演技に加

えようとするようなものだっただろうと思う。私は一体何を教えら

れているのか見当もつかなかったし、自分にだけ聞こえない音楽

に全員が合わせて動いていることにすら気がつかなかった。

• 『地球生まれの異星人』(泉流星) p38

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※学校のやり方(騒音)

・・・歌いやすいだけの理由で、いつも決まって同じ曲ばかりを、小学校なる場所で、必ず日課にように歌わされているからだった。それだけでも十分に苦痛なのに、先生の弾く足踏みオルガンが、その悶絶に拍車を掛けた。

一番苦しかったのは、「レレレレ、レミファ」の箇所だった。ただでさえ混乱していた頭の中は、異常な入力にますます掻き乱された。その音は、大勢から殴られるように辛く、痛くて、これが自分にとっても「集団生活」で受けた、初めての苦痛とも呼べるものだった。

その不協和音を聞かされるたびに、まるで自分そのものが破壊されるような出来事となった。だからといって、その場から逃げ出すことは「集団生活」の決まりが許さなかった。あまりにも凄まじい音響に、思わず私はあたりを見渡し逃げ場を探した。 – 『変光星』(森口奈緒美)p.53-54

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不登校に至る経過・要因

教師の無理解、無理な対応

学校の許容範囲のなさ、「歩み寄り」の欠如

感覚過敏、不安・不快な環境、体調不良

学業不振、勉強がわからない、面白くない

子ども関係、いじめ、教室内での孤立

生活リズムの乱れ、親の無理解、無理な対応

実行機能の障害、プランニングの困難さ

子ども自身が(親も)、学校に行く意味を失う

学校に行かなくてもやっていけるという経験

しばしばぶり返す、長期化する⇒引きこもりや精神疾患の危険性

学校の対応能力の欠如・・・仕方ない、現状を変えられないと思っている

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不登校に対するアプローチ(1)

現状を変えずに、子どもが自発的に登校することは非常に困難

①徴候

行き渋り、朝の不調、否定的な発言

②引き金:エピソードあり(なし)

行事、休み明け、いじめ、体罰、試験、失敗体験、家庭環境の変化

③逆効果の対応

叱咤激励、放任、過剰な促し、不安をあおる言動、まわりの事情を言う

④長期化、常態化

予防と復学(あるいは別の生活スタイルの組立)の2段階のアプローチ

予防→ふだんから環境調整と無理をさせない対応、引き金を引かない

復学→生活リズムを整える、段階的・暫進的なプログラム(本人が受け入れられるところから)

別の生活スタイルの組立→復学にとらわれない、本人の納得と社会資源を組み合わせて、より充実した生活を設計する

長期的な視点に立つこと

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不登校に対するアプローチ(2)

<学校+家庭+外部の専門家>が連携することが大前提

徴候と初期対策・・・早めに短期間学校を休ませ、その間に要因分析をおこない、学校/家庭環境の組み立て直しに着手する。再登校の時期を早めに設定し、可能なら本人にも提示する(見通しを伝える)

復学・・・学校環境・教師の対応を全面的に改めた上で、段階的・暫進的に復帰を進める。休学中(不登校中)、生活リズムが崩れないように、日中活動を積極的に組み立てる。

例)放課後登校や別室登校、保護者付き添い、年度替わりのタイミング、相性のいい教師や生徒を付ける、好きな活動だけ参加

別の生活スタイルの組立・・・不登校が長期化した場合は、しばしば他の社会資源を探す必要(家だけではバランスを崩す)が出てくる。生活全体を再構築する

例)転校、ホームティーチ、デイケアやガイドヘルパーの利用、家事手伝い

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10代後半の課題

「思春期だから」と片づけても、本質的な問題解決にはならない

いわゆる「思春期」と呼ばれる問題の中身は?

– 体の成長、親や先生との力関係が逆転する、独立心

– 生活場面の広がり、社会体験が増す

– 自立と社会参加が大きなテーマになるが、その支援が間に合っていない(自分でできることが増えていくが、混乱要因も増える)

卒業後の進路(教育サービスから福祉サービスへ)

– ガイヘルやショートステイの利用・・・時間保障的なサービスの功罪

– 個別の移行計画と就労支援はどこまで進むか

これまで培われてきた人間関係や社会との信頼関係が大きく影響する

– 良好な学習態度

– 学校選択、サポート体制、将来の地域生活を具体的に準備すること

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「問題行動」をめぐる よくあるライフヒストリー②

青年期⇒地域生活の困難さが顕在化

– 体力の逆転、我慢の限界、混乱の極み

– 学校の機能停止・・・ただ教室にいるだけ、不登校の常態化、生活の乱れ

– その場しのぎとして居宅サービスに流れやすい(ショートステイやガイドヘルプ)・・・場当たり的な対応が重なる

成人期⇒施設入所へ

– 家や地域で「問題行動」が頻発するが、有効な対応策は見出せないまま、状況は悪化していく

– 親の限界、地域生活の限界⇒親の高齢化と入所施設への希望

– 「問題行動」を起こす人、というレッテル

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ユキオさんの場合

支援学校中学部の頃から、学校や家で他害や物壊しが出始める。特に騒がしい場所や音が苦手で、行事や年度がわりの時期になると不調になり、耳ふさぎと奇声のあと、人を叩きにいったりガラスを割ろうとすることがよくあった。

先生は常時そばについて、本人の他害や破壊を止めていたが、高等部になって体格も良くなり、「男の先生じゃないと止め切れない」「複数で見る必要がある」と言われる。

家では、比較的静かに過ごしているが、特にやることがないのでゴロゴロしてお菓子を食べたり水遊びをしていて、肥満になってきた。

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ユキオさんの場合(続き)

親以外の人でも関われるように、地域での体験も増やしたいと、ガイドヘ

ルパーと外出をするようにしたが、ヘルパーとの外出先でも、うるさい人

ごみの中で奇声をあげたり人を叩こうとするので、男性ヘルパー以外は

対応できなくなってきた。

最近、夜中に外に出て行きたいと訴えることがあり、仕方なく親が連れ

出すと、駅前のコンビニに行ってお菓子やコーラを買おうとする。どうも

ヘルパーとの外出で覚えてきたようだ。

何度かそういうことが続き、本人の訴えも強くなり、親も疲弊し、入所施

設のショートステイを使うようになった。学校卒業後の行き場を探してい

るが、施設入所も考えないといけないと学校側からは言われている。

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ショートステイや ガイドヘルパーの利用について

支援費制度以降、さまざまな在宅支援サービス(ショートステ

イやガイドヘルパー)が利用しやすくなったが・・・

「どこでもいいから外出を」「作業所や施設がないのでデイサービスを

使うしかない」「家で過ごせないからショートステイでお泊り」など

各事業所・施設の対応や考え方がバラバラ。場当たり的な対応

自閉症の人には、予測できない、落ち着かない生活になって

いる(生活のモザイク化)

週単位の生活を時間保障的にサービスで埋めていくだけで、

地域生活における主体性が失われてしまっている

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ストレスの原因になること

• 大きすぎる音、雑音、騒音

• 多すぎる話しかけ、会話、質問、指示

• 見通しのない状況、急な変更

• 自発的に行う活動

• 散らかった環境、視覚的な乱雑さ

• 多すぎる人、広すぎるスペース

• 多すぎる要求

• 過度な身体接触、強要

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E.ショップラー編著

『自閉症への親の支援』(黎明書房)より

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こういうことは逆効果(対応編)

• 能力的にできないことを要求すること

• 大声での威嚇、過度の接触

• 長い説教、小言を言う

• 嫌いな刺激にさらすこと

• <終わり>を伝えず、放置する

• 興味関心のない活動

• 本人にとって動機にならないご褒美

• 手順が変わること

• 突然の中断・変更

• 見通しを伝えないこと

• 視覚的な手がかりを与えないこと

• 曖昧な指示やほのめかし

o 「がんばって」「ちゃんとして」「みんなやってるんだから」

o 冗談や隠喩を使う

• 複雑な指示、一度に複数の指示

• 「先生の言うことを聞け」「先生のまねをするな」などと言行が一致しない態度をとること

• 本人と約束したことを守らないこと

• 失敗させてから、叱ること

• 個人的な特徴を笑ったり、なじったりすること

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こういうことは逆効果(環境編)

• 騒音、気になる音、突然の音 • まぶしすぎる照明や光、気になるものが目に入る、暗すぎる

• 狭すぎる、広すぎる • 周囲の人の動きがあわただしい

• 相性の悪い人が近くにいる • 臭い • 嫌いな食べ物 • 温度調節や湿度の問題(暑過ぎる、寒すぎる・・・)

• 天候や気圧の変化 • 衣服の肌触り

• 雑然とした環境

• 水場やトイレが物理的に近くにある

• やることがない

• 何をしていいかが明らかになっていない

• 活動内容がころころ変わる

• 誰とコミュニケーションをしたらいいかわからない

• 急な席替え、模様替え

• 複雑な動線、集団活動

• 逃げ場がない

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自閉症の人の立場に立つと

知らない世界で、訳のわからないことばで話しかけられたら・・・

その不安を訴えたり、やりとりする方法がわからなかったら・・・

不快な刺激にいつもさらされたら・・・

突然叱られ、突然連れ回され、突然中止されたら・・・

今、ここで、何をしていいのかがわからなかったら・・・

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適切な初期対応とは① 過剰に反応しない、場当たり的な対応を避ける

不用意な身体拘束や叱責で、エスカレートさせないこと

興奮しやすい、興奮すると収まりにくい

恐怖心や不安感を植えつけ、それが二次的な問題を引き起こす可能性

ただし、安全の確保には努める

周囲が大声をあげたりバタつくと、本人がそのことで余計に注意を向けてしまう

注意獲得的な行動が強化される

場面や人とくっついて行動がパターン化するおそれ

対応の不統一や場当たり的な対応で、本人の混乱や不安を助長させないこと

誤学習が生まれる危険

何が正しくて、何を改めないといけないのかが、わからなくなっていく

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適切な初期対応とは②

静かに、落ちついて対応する ゆっくりと近づく

小さな声で、ゆっくりと、しかしはっきりと聞き取れるように

視覚的な手がかりを使う:指差し、文字、絵や写真、モデルを示すなど

落ち着ける場所(Calm Down Area)に誘導する 事前に確認しておく

強引に連れだすと、タイムアウトと捉えられる危険

本人が落ち着くのを待つ

本人の立場にたって、原因、理由をさぐる

それから、適切な活動(本来やるべき活動)に戻す どうしてもその場にいられない(その活動への参加が難しい)なら、別の場所・活動に誘導する

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基本的に整えるべきことは

• 落ち着いて過ごせる場所

• 適度な活動

• 安定した日課の流れ

• 見通し

• 周囲の伝え方、かかわり方の整理

• 興味のある活動、課題

• できることが増えていくこと

• 嫌なこと、できないこと、苦手なことが強要されない

• その他、ストレスに対する配慮

• 自閉症の理解と個別化された評価が必須になる