芸術における形態生成の方法と認識 method and...
TRANSCRIPT
芸術における形態生成の方法と認識
加藤良将
中京大学 情報科学研究科 〒470-0393 愛知県豊田市貝津町床立 101
Method and recogn i t ion o f fo rm generat ion in ar t
Yoshimasa KATO
Graduate school of Computer and cognitive sciences, Chukyo University
101 Tokodachi, Kaizu-cho, Toyota-shi, Aichi, 470-0393 JAPAN
Abstract: The form has three stages. And, They connected the artist's consideration to the appreciation person's consideration. I investigated the work that was able to be interactive. Because, that works have form. But, it is not constant form. Keywords: Media-art, Contemporary art, form generation
1.はじめに
近年,コンピュータの発展や低価格化は芸術の分野にも大きな影響を与えている. 例え
ば,コンピュータグラフィックスは比較的安価なコンピュータでも作成可能となってきて
いるし,CAD や CAM を用いればコンピュータ内のグラフィックを3次元物体として作成す
ることもできる.現在の建築やプロダクトのモデル化の過程では CAD をもちいてシミュレ
ーションをすることも少なくない.また,グラフィックだけではなく,それに伴う CG アニ
メーションや映画などにはコンピュータは必要不可欠である.そして,インタラクティブ・
アートの作品群では,音響やセンサ,グラフィックを統合的に扱う IRCAM のミラー・パケ
ットによる Max/MSP(Cycling'74),Casey Reas と Benjamin Fry による Processing など
の制御ソフトウェアがなくてはならないものとなっている.
また,コンピュータでの形態変化は短時間であると考える.例えば,モデル化は CAD を
用いることによって一瞬で大きさや色,テクスチャなどを変えることができる.また,制
御ソフトウェアを用いたインタラクティブ・アート作品においては,ミリ秒単位での制御
も可能である.作品の形態表現が不定形態化している現在において,生成方法と鑑賞者の
認識の関係や,形態化する意味を問い直す必要があると考える.
2.作品における非形態表現と不定形態表現
作品の表現方法を分類しておく.まずは,絵や彫刻,写真などのように半永久的に形態
を保持する作品を仮に定形態表現作品と呼ぶ.これには,二つの意味を含んでおり,それ
は「物体として表現されている」ことと「形態が一定の形態で安定している」ことである.
それぞれに対する表現は次の2つである.一つは言語や記号,既成イメージなどをもちい
たり,「パフォーマンス」や「アースワーク」の記録写真も含まれたりする作品自体は形態
が意味を持たない「コンセプチュアル・アート」などの「非形態表現」作品.もう一つは
人力や風力,電気モーターなどを動力とする可動部分を含む「キネティック・アート」や,
作品と鑑賞者の間に相互作用をもたらした「インタラクティブ・アート」などの「不定形
態表現」である.
非形態表現においては形態自体が意味を持つのではなく,作者の概念を伝えるために仕
方なく形にしているという点が重要である.もし,仮に作者と鑑賞者が対話をし,そこで
概念が伝われば形態化する意味はないのである.しかし,作者はすべての鑑賞者との対話
の場を持つことができないため,形態化する必要があると私は考える.
また,不定形態表現においては作品自体が動いていることが重要であり,一定の形態で
とどまることはない.特に,キネティック・アートでは「動き」そのものが作品と言え,
モホリ=ナギの「運動による構成(1919-1920)」(図1)やアレクサンダー・カルダーによ
る「モビール」(図2)が代表的な作品例である.インタラクティブ・アートにおいては、
作品と鑑賞者が対話することによる関係性が作品となりえる。現代においてはコンピュー
タを用いた作品が多く,図3のようなシステムが一般的であり、鑑賞者が作品に参加する
ことによって、その後に出来上がる形態にまで干渉する。作品における形態生成の方法を
作者が作り,生成の過程は鑑賞者にゆだねていることになる.つまり,「非形態表現」「不
定形態表現」においては形態に美を求めるのではなく,その概念や動き,システムに芸術
性を求める必要がある.
3.形態化の意味
芸術作品において,形態化するということは作者の意
図や概念などのメッセージを鑑賞者に伝えるためである.
そして,図4のような流れを考えることができる.多く
は菊竹清訓の代謝建築論[3]で語られている「か・かた・
かたち」に影響をうけているが,私は段階的な形態の関
係とその流れを右図のような三角形で示すこととした.
物体化していない「概念的形態」,設計図面などの「設計,
実験的形態」,実態化された「物質的形態」である.流れとしては,作者は概念を物質化し
展示を行い,鑑賞者はその物資されたものから制作意図やメッセージを汲み取ることが行
われる.非形態表現の場合は概念が重要であるため,鑑賞者が知識を持っていれば物質化
する必要がない.つまり,形態の各段階でコミュニティを形成しえる.また,不定形態表
現の場合は「設計,実験的形態」と「物質的形態」を何度も行き来する.参加することで
形態理解が進み,作者の制作意図を認識することが容易になると考える.
図版出典及び参考文献
[1]「tate Collection 」 http://www.tate.org.uk/
[2]ジェイコブ・バール=テシューヴァ(2001)『カルダー』TASCHEN(ニューベーシック・アート)
[3]菊竹清訓(1969)『代謝建築論 か・かた・かたち』彰国社
図 2 「白い円盤と赤と黒の上の 7 つの
点( 1 9 6 0)」アレクサンダー・カルダー[2]
図 1「運動による構成」
ナウム・ガボ[1]
図 4 制作における段階的形態と認識
図 3 インタラクティブ・アートに
おける鑑賞者と作品とのシステム
例