道路施策におけるetc2.0プローブ情報の 利活用について -...

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道路施策におけるETC2.0プローブ情報の 利活用について 鈴木 桂太 1 ・島津 美砂子 1 1 道路部 道路計画課 (〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1-1-1ETC2.0サービスでは,全国の高速道路上及び直轄国道上に設置されたETC2.0プローブ情報を 収集可能な路側機と車両に設置されたETC2.0対応車載器との相互通信により,様々な事象をド ライバーに伝えるとともに,各車両の走行経路や挙動履歴等のETC2.0プローブ情報を収集する ことが可能となっている.本論文では,収集されたETC2.0プローブ情報を用いて,渋滞回避を 目的に生活道路を迂回する交通の実態を把握することで,ETC2.0プローブ情報の道路施策への 利活用の可能性について考察を行ったものである. キーワード ETC2.0プローブ情報,走行履歴,挙動履歴 1. はじめに 平成21 年度に開始された「ITS スポットサービス」 (平成26 年度に「ETC2.0 」に名称変更)」は,全国の高 速道路上の約1,600 箇所に設置したETC2.0 プローブ情 報を収集可能な路側機と車両に設置されたETC2.0 対応車 載器との相互通信により,道路上で発生する様々な事象 をドライバーに伝え,渋滞回避・安全対策等を支援する とともに,各車両の走行経路情報及び急ハンドル・急加 減速等の挙動履歴を収集する事が可能となっており, 『道路を賢く使う取組』に寄与してきた. また,平成 26 年度より網羅的にデータが取得できる よう,管内の直轄国道においても ETC2.0 プローブ情報 を収集可能な路側機を整備しており,データ量・データ 取得範囲が大幅に拡大されている.(図-1) 図-1 直轄国道設置後のデータ取得状況 取得したETC2.0 プローブ情報はイントラからアクセス できる「新プローブ統合サーバ」及び「プローブ情報利 活用システム」で入手・加工が容易にできる体制が構築 されている. これまでのプローブ情報は外部への委託や購入により 情報を入手しており,相応の時間とコストがかかってい たが,ETC2.0 の整備により,素早く・簡単に・低コス トでの各種データの取得・分析が可能になった.(図- 2) 図-2 ETC2.0 プローブ情報取得データの概要 本論文では,ETC2.0 プローブ情報を活用し,渋滞回避 を目的に生活道路を迂回する交通の実態を把握するため, 対象エリアの『生活道路通過交通の実態』『通過交通の 走行速度』『急ブレーキ・急ハンドル等,挙動履歴の発 生箇所』について,国道7号新発田拡幅周辺エリアにお いて分析・考察を行ったものである.

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道路施策におけるETC2.0プローブ情報の 利活用について

鈴木 桂太1・島津 美砂子1

1道路部 道路計画課 (〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1-1-1)

ETC2.0サービスでは,全国の高速道路上及び直轄国道上に設置されたETC2.0プローブ情報を

収集可能な路側機と車両に設置されたETC2.0対応車載器との相互通信により,様々な事象をド

ライバーに伝えるとともに,各車両の走行経路や挙動履歴等のETC2.0プローブ情報を収集する

ことが可能となっている.本論文では,収集されたETC2.0プローブ情報を用いて,渋滞回避を

目的に生活道路を迂回する交通の実態を把握することで,ETC2.0プローブ情報の道路施策への

利活用の可能性について考察を行ったものである.

キーワード ETC2.0プローブ情報,走行履歴,挙動履歴

1. はじめに

平成21年度に開始された「ITSスポットサービス」

(平成26年度に「ETC2.0」に名称変更)」は,全国の高

速道路上の約1,600箇所に設置した,ETC2.0プローブ情

報を収集可能な路側機と車両に設置されたETC2.0対応車

載器との相互通信により,道路上で発生する様々な事象

をドライバーに伝え,渋滞回避・安全対策等を支援する

とともに,各車両の走行経路情報及び急ハンドル・急加

減速等の挙動履歴を収集する事が可能となっており,

『道路を賢く使う取組』に寄与してきた. また,平成 26年度より網羅的にデータが取得できる

よう,管内の直轄国道においてもETC2.0プローブ情報

を収集可能な路側機を整備しており,データ量・データ

取得範囲が大幅に拡大されている.(図-1)

図-1 直轄国道設置後のデータ取得状況

取得したETC2.0プローブ情報はイントラからアクセス

できる「新プローブ統合サーバ」及び「プローブ情報利

活用システム」で入手・加工が容易にできる体制が構築

されている.

これまでのプローブ情報は外部への委託や購入により

情報を入手しており,相応の時間とコストがかかってい

たが,ETC2.0の整備により,素早く・簡単に・低コス

トでの各種データの取得・分析が可能になった.(図-2)

図-2 ETC2.0プローブ情報取得データの概要 本論文では,ETC2.0プローブ情報を活用し,渋滞回避

を目的に生活道路を迂回する交通の実態を把握するため,

対象エリアの『生活道路通過交通の実態』『通過交通の

走行速度』『急ブレーキ・急ハンドル等,挙動履歴の発

生箇所』について,国道7号新発田拡幅周辺エリアにお

いて分析・考察を行ったものである.

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2. 対象エリアの状況

国道7号新発田拡幅は,新新バイパスの終点部に位置

し,新発田市街地部における慢性的な交通渋滞の緩和お

よび沿道地域の振興活性化を図ることを目的とする拡幅

事業である.また,当該箇所は国道7号,290号,4460号から形成される環状道路の一部を形成している. 平成24年度に実施した通学路緊急点検では「新発田市

街地の外環状道路を形成する国道7号の慢性的な渋滞に

より,市街地内を迂回する通過交通が発生し,通学路が

危険である.」と,指摘されている.

3. 分析

対象エリアで発生している問題について,ETC2.0プロ

ーブ情報を用いて分析を行った.対象は下記の通りとし

た.

・分析期間:平成27年4月~5月 全日

・対象エリア:新発田市街地(図-3)

図-3 対象エリア(新発田市街地)

上記対象エリアを走行したETC2.0プローブ情報を抽出

し,車両情報から1トリップごとの経路データの生成を

行った.また,走行履歴・挙動履歴データに含まれる車

両情報を用いてトリップ情報と急ブレーキについてマッ

チングさせ,各検討を行った.

(1) 幹線道路を迂回する車両 各トリップの出発地・走行経路の違いから抽出された

トリップを以下の3つに分類し,分類ごとのトリップ数,

を集計した. (図-4) (表-1)

・内外交通:外環状道路で囲まれた地域内を出発

・外外交通(外環状通過):地域外を出発しエリア内

を経由せず外環状道路を利用している車両

・外外交通(地域内通過):地域外を出発しエリア内

を通過する車両

図-4 対象エリア走行状況

表-1 対象トリップの分類

集計の結果,対象となる全トリップの約2割が地域内

を迂回していることが確認された.

また,迂回の目的を推測するため,同じ時間帯に通行

した有効なトリップの所要時間を比較した.比較の対象

は,渋滞箇所とされている国道7号中曽根交差点と県道

535号岡田交差点を休日ピーク時間帯の14時台~

17時台に通過したトリップを対象とし抽出した.その

結果,地域内通過の方が国道7号を通過するトリップよ

り所要時間が若干短いことが確認された.(表-2)

表-2 各経路の平均所要時間

経由 所要時間

内外(国道7号通過) 20′15″

外外(国道7号通過 10′57″

外外(国道7号通過) 11′23″

平均 14′12″

外外(地域内通過) 10′37″

外外(地域内通過) 13′29″

外外(地域内通過) 10′05″

平均 11′24″

これらの結果より,ドライバーは所要時間短縮(国道

7号の渋滞回避)のために地域内を迂回しているのでは

ないかと推測される.地域内には多くの小学校があり通

学路に指定されている路線も多いため,地域内の迂回を

減少させるためにも渋滞解消を目的とした新発田拡幅事

業を推進させる必要がある.

(2) 地域内の急減速箇所 地域内を通過する「外外交通(地域内通過)」につい

トリップ数

内外交通 2,064

外外交通(外環状通過) 3,386

外外交通(地域内通過) 1,093

総トリップ数 6,543

外環状道路

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て,急ブレーキ等の異常挙動の抽出を行い,各地点での

急ブレーキ等発生率を算出した.

急ブレーキ等発生率の算出にあたっては,挙動履歴よ

りDRMリンク毎に急ブレーキ等件数(前後加速度,左右

加速度,急旋回)とトリップ数を集計し,急ブレーキ等

件数をトリップ数で除した値を急ブレーキ等発生率とし

た.なお,急ブレーキ等の件数については,前後加速度,

左右加速度,急旋回に関わらず1データを急ブレーキ等

1件としてカウントした.この際に同一時刻(時分秒)

で複数の挙動データが発生する場合があるが,その場合

は1件としてカウントを行った.

・急ブレーキ等発生率[%]=

急ブレーキ等発生件数÷トリップ数×100

算出の結果,対象地域内各路線の急ブレーキ等発生率

は(図-5)の通りとなり,地域内の多くの箇所で急ブレ

ーキ等が発生していることがわかる.また,箇所によっ

ては100%を超える高い値となっていることがわかる.

図-5 地域内各路線の急ブレーキ箇所

この理由として,地域内の路線については幅員が狭い

ことや,住宅街であったり学校等が多く生活道路となっ

ていることが理由として推測される.

4. 現地調査

急ブレーキ等発生率が高く,トリップ数が多い3箇所

について,急ブレーキ等の原因を確認するため,現地確

認を行った.

○箇所A(図-6,写真-1・2)

・急ブレーキ等発生率:234.3%

・通過トリップ数:35台

・急ブレーキ等件数:82回

・車道幅員:約5.0m 歩道なし

当該箇所は,地域内で最も急ブレーキ等発生率が高い

箇所である.線形が極めて悪く,急カーブの連続になっ

ていることが,急ブレーキ等の原因として推測される.

また,歩道が設置されていないため,歩行者が通行して

いる場合,車両のすれ違いが出来ないことが,急ブレー

キ等の原因と推測される.

また,当該区間は,通学路に指定されていないものの,

小学校の近くに位置している.

図-6 位置図(箇所A)

写真-1 現地状況①(箇所A)

写真-2 現地状況②(箇所A)

○箇所B(図-7,写真-3)

・急ブレーキ等発生率:129.9%

・通過トリップ数:138台

・急ブレーキ等件数:178回

・車道幅員:約5.5m 歩道幅員:約2.2m

新潟市

胎内市

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当該箇所は,幅員が広く歩道も設置されており,地域

内で最も通過トリップ数が多いが,急ブレーキ率も

100%超える値となっている.走りやすい道路のため,

スピードの早い車両も多く,交差する道路からの車両の

侵入も多いことが,急ブレーキ等の原因と推測される.

図-7 位置図(箇所B)

写真-3 現地状況(箇所B)

○箇所C(図-8,写真-4)

・急ブレーキ等発生率:136.2%

・通過トリップ数:47台

・急ブレーキ等件数:64回

・車道幅員:約5.2m 歩道幅員:約1.4m

当該箇所は,スーパーや大学などに近接しているため,

歩行者や自転車が多い.特にスーパーの駐車場が,当該

道路を挟んで位置しているため,横断する歩行者が多い

ことが,急ブレーキ等の原因と推測される.

図-8 位置図(箇所C)

写真-4 現地状況(箇所C)

この様に,ETC2.0プローブ情報により分析されたデー

タの一部について,現地確認を行った結果,分析された

データが表す通り,急ブレーキが非常に多く発生してい

ると確認でき,分析されたデータが妥当であることも確

認することが出来た.また,現地確認を行うことで,

ETC2.0プローブ情報だけでは判断できない,急ブレーキ

等の各挙動の原因を推測することが出来た.

5. おわりに

今まで交通事故対策は,人身事故・物損事故など事故

として顕在化したものしか把握できず,対策の検討は事

象の発生後に行われていた.

ETC2.0プローブ情報を活用することで,潜在的な事故

危険箇所を客観的な情報に基づいて抽出することが可能

となり,また,エリア全体の情報を取得することで,生

活道路における幹線道路の渋滞を避けた通過交通の把握

や,速度の高い区間を抽出することができた.

挙動履歴についてはデータに基づいて現地を確認する

ことで,その要因が推測され,重大事故が起こる前の対

策の早期立案が期待できるものと考えられる.

ETC2.0プローブ情報の利活用については,今回分析を

行った交通安全対策の他,渋滞対策・整備効果・災害対

応など,多岐に渡る活用が可能であることから,管内の

課題把握・効果把握等に有効なツールとして,業務のP

DCAサイクルにETC2.0プローブ情報の利活用が組み込

まれ,積極的に活用されることを期待する.

参考文献 1)国土交通省:ETC2.0 (http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/etc2/) 2)新発田市:通学路安全対策箇所図 3) 鈴木桂太・中村圭介:道路調査におけるITSスポットデータ

の活用に関する一考察第32回土木学会関東支部新潟会研究調査

発表会論文集, pp.264-267, 2014.

新潟市

胎内市

小舟町交差点

新潟市

胎内市