住宅設備の変遷モデル - ur都市機構...写真下:bl部品のマーク...

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台所、浴室、便所などの「水周り」は、社会的事情や技術開発力などの時代背景に深 くかかわりながら日々進歩しています。日本住宅公団設立当初の公団住宅の設備は、人 造石研出しの流し台、汽車式と呼ばれる和風兼用便所、木製の浴槽など、当時としては 高い水準でしたが、手仕事的な要素が大きく、価格も高く大量生産には不向きでした。 公団は住宅の供給を行う一方で、住まいを支える技術の開発育成にも取り組みました。 BF釜とともに開発された浴槽は、当時の量産試験場において合板での試作を経て寸法 を定め、素材についても木製、FRP、2 種類のホーロー製の4タイプでテストを重ねて 決定されました。このように、さまざまな設備部品を、企業や各種団体とともに指針作 りや開発、改良を行い、大量発注することで価格をおさえ、産業として軌道に乗せまし た。その成果は、KJやBL制度を通して一般の住宅にも広がっていきました。 新たに開発した部品は、当初公団内部で用いられていましたが、公営住宅や民間でも集 合住宅の建設が増え、良質で安価な部品類を求める要望が高まったため、1960 年に 公共住宅規格部品制度(KJ)が発足しました。KJの発足により部品類は公営住宅で も広く使われるようになり、生産量も増大して一時非常に安定しました。しかし、KJ 部品は、発注者側で設計内容を決めてしまう仕様規定であったため、単一規格部品とな り、性能・技術面でメーカー間の自由競争がなくなり、また多くのメーカーが参入した ため、大量計画生産のメリットがなくなってきました。そこで、1973 年に性能規定 を導入した優良住宅部品認定制度(BL)を発足させ、公共住宅専用部品としてではな く、一般住宅も含めた部品へと展開します。BLの目指した性能規定とは、委員会が示 す要求性能を満たす部品を、企業が自由な設計、自由な価格で提案し、委員会が性能を 保証し認定するものです。この 2 つの制度を通して、住宅部品が普及し、産業が育ち、 住宅設備の向上がはかられたのです。 写真左:ステンレス流し台に残るKJ部品のマーク 写真下:BL部品のマーク 住宅設備の変遷モデル -機構の技術開発の取り組み- 集合住宅における建築・設備の工法、部品は、時代と共に大きく変化して きました。特に台所や浴室、トイレなどは日本住宅公団が設立された昭和 30 年(1955)当時と現在とを比べるとより快適にそして安全になりました。 このコーナーでは、日本住宅公団発足から現在までの住宅設備の歩みを 実物大空間に再現して紹介しています。

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  • ■ 新しい住まいを支える技術

    台所、浴室、便所などの「水周り」は、社会的事情や技術開発力などの時代背景に深

    くかかわりながら日々進歩しています。日本住宅公団設立当初の公団住宅の設備は、人

    造石研出しの流し台、汽車式と呼ばれる和風兼用便所、木製の浴槽など、当時としては

    高い水準でしたが、手仕事的な要素が大きく、価格も高く大量生産には不向きでした。

    公団は住宅の供給を行う一方で、住まいを支える技術の開発育成にも取り組みました。

    BF 釜とともに開発された浴槽は、当時の量産試験場において合板での試作を経て寸法

    を定め、素材についても木製、FRP、2 種類のホーロー製の4タイプでテストを重ねて

    決定されました。このように、さまざまな設備部品を、企業や各種団体とともに指針作

    りや開発、改良を行い、大量発注することで価格をおさえ、産業として軌道に乗せまし

    た。その成果は、KJやBL制度を通して一般の住宅にも広がっていきました。

    ■ KJ と BL

    新たに開発した部品は、当初公団内部で用いられていましたが、公営住宅や民間でも集

    合住宅の建設が増え、良質で安価な部品類を求める要望が高まったため、1960 年に

    公共住宅規格部品制度(KJ)が発足しました。KJの発足により部品類は公営住宅で

    も広く使われるようになり、生産量も増大して一時非常に安定しました。しかし、KJ

    部品は、発注者側で設計内容を決めてしまう仕様規定であったため、単一規格部品とな

    り、性能・技術面でメーカー間の自由競争がなくなり、また多くのメーカーが参入した

    ため、大量計画生産のメリットがなくなってきました。そこで、1973 年に性能規定

    を導入した優良住宅部品認定制度(BL)を発足させ、公共住宅専用部品としてではな

    く、一般住宅も含めた部品へと展開します。BLの目指した性能規定とは、委員会が示

    す要求性能を満たす部品を、企業が自由な設計、自由な価格で提案し、委員会が性能を

    保証し認定するものです。この 2 つの制度を通して、住宅部品が普及し、産業が育ち、

    住宅設備の向上がはかられたのです。

    写真左 :ス テン レス 流し 台に 残るK J部 品の マー ク

    写真下 :B L部 品の マー ク

    住宅設備の変遷モデル-機構の技術開発の取り組み-

    集合住宅における建築・設備の工法、部品は、時代と共に大きく変化して

    きました。特に台所や浴室、トイレなどは日本住宅公団が設立された昭和 30

    年(1955)当時と現在とを比べるとより快適にそして安全になりました。

    このコーナーでは、日本住宅公団発足から現在までの住宅設備の歩みを

    実物大空間に再現して紹介しています。

    概要

  • ■ 1960 年代 創生期・開発期

    《新しい住様式の導入》

    絶対的な住宅不 足という時 代背景のもと でスタートした 公

    団住宅の住宅や設備の設計には、当時もっとも新しい“設計思

    想”と“住まい方の提案”が随所に取り入れられました。当時

    の公営住宅より 2 ㎡広い42㎡の公団住宅において、設備面

    でもより高い住様式をとの考えから打ち出されたのは、浴室の

    設備と、台所を DK(ダイニングキッチン)スタイルにするこ

    とでした。

    ■ 1970 年代 大量建設期

    《規格化と大量供給》

    高度経済成長を背景に大量供給に重点がおかれ、標準設計によ

    る住宅供給が推し進められました。住宅の標準設計は、部品の規

    格化、量産化を促し、価格の低廉化と部品の均一化を実現しまし

    た。さらに機材のユニット化は、現場における省力化に寄与しま

    した。公団では、燃焼に対して安全な BF 釜や換気扇、耐久性・

    経済性を考慮したホーロー浴槽、施工性を向上させた床上排水型

    便器、据置型の洗面ユニットを開発・採用し、多くは一般住宅へ

    普及しました。

    ■ 1980 年代 都市整備期

    《より快適に》

    住宅の質の向上に加えて、より安全で安らぎのある快適な住空間

    が求められるようになりました。住宅設計に女性の意向が大きく反

    映され、2バルブ混合水栓を導入しお湯が気軽に使えるようになる

    など台所や浴室、洗面所などの水廻り設備の充実が図られました。

    住戸規模が大きくなり水周りを住戸中央にレイアウトしたフロン

    テージセーブ型住戸が登場しますが、換気扇の発達やセントラル給

    湯器、乾式工法による FRP 浴槽、洗濯機防水パンの開発が支えたの

    です。

    ■ 1990 年代 新事業展開期

    《良質な住宅ストックの形成》

    安定したゆとりある住生活の基盤となる良質な住宅ストックの

    形成に向けて、共有空間の充実、広い住居面積、自然環境になじ

    んだ景観形成がテーマとなりました。

    居住者の多様な生活スタイルへの対応を図るとともに、環境に

    やさしい技術や、サスティナブル技術への取り組みが行われまし

    た。赤水対策や配管の更新性向上をはかったさや管ヘッダー工法、

    節水型大便器、シングルレバー式混合水栓などが実用化されてい

    きます。