国内設備投資の展望 - 三菱ufj信託銀行1/19 三菱ufj 信託資産運用情報...

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1/1三菱 UFJ 信託資産運用情報 2014年5月号 国内設備投資の展望 Ⅰ.はじめに Ⅱ.国内設備投資の現状 Ⅲ.製造業と非製造業の設備投資行動と取り巻く環境 Ⅳ.終わりに 資産運用部 株式運用第1グループ 調査役 山本 株式運用第3グループ 調査役 大門 明子 中小型株式運用グループ 調査役 大野 . はじめに アベノミクスの「第三の矢」である成長戦略は、「日本再興戦略」として昨年6月に閣議 決定された。この中では今後3年間を「集中投資促進期間」と位置付けて、税制・予算・金 融・規制改革・制度整備といったあらゆる施策を総動員し、リーマンショック前の平均的な 水準である 70 兆円へと、民間設備投資を約 10%増加させることを目標として掲げている。 国内の設備投資は平成バブルの崩壊以降、長引く景気低迷やデフレ、円高を背景とした企 業業績の悪化や海外への生産シフト等によって水準が切り下がってきた。しかし常に縮小し ていたわけではなく、 20032007 年度にかけては持続的な拡大がみられるなど、諸条件が揃 えば一定の回復は期待できるであろう。 低迷が続いていた国内景気もようやく明るさが見え始めているが、日本経済が力強さを取 り戻すために、設備投資の動向は極めて重要である。そこで本稿では、リーマンショック前 とも比較しながら、国内の設備投資の回復の可能性について考察していきたい。 50 55 60 65 70 75 80 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 (兆円) (年度) 図表1:民間設備投資の推移 出所:内閣府「国民経済計算」より作成

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22001144年年55月月号号

国内設備投資の展望

Ⅰ.はじめに

Ⅱ.国内設備投資の現状

Ⅲ.製造業と非製造業の設備投資行動と取り巻く環境

Ⅳ.終わりに

資産運用部 株式運用第1グループ 調査役 山本 将 株式運用第3グループ 調査役 大門 明子 中小型株式運用グループ 調査役 大野 高

Ⅰ .はじめに

アベノミクスの「第三の矢」である成長戦略は、「日本再興戦略」として昨年6月に閣議

決定された。この中では今後3年間を「集中投資促進期間」と位置付けて、税制・予算・金

融・規制改革・制度整備といったあらゆる施策を総動員し、リーマンショック前の平均的な

水準である 70兆円へと、民間設備投資を約 10%増加させることを目標として掲げている。 国内の設備投資は平成バブルの崩壊以降、長引く景気低迷やデフレ、円高を背景とした企

業業績の悪化や海外への生産シフト等によって水準が切り下がってきた。しかし常に縮小し

ていたわけではなく、2003~2007年度にかけては持続的な拡大がみられるなど、諸条件が揃

えば一定の回復は期待できるであろう。 低迷が続いていた国内景気もようやく明るさが見え始めているが、日本経済が力強さを取

り戻すために、設備投資の動向は極めて重要である。そこで本稿では、リーマンショック前

とも比較しながら、国内の設備投資の回復の可能性について考察していきたい。

目 次

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(兆円)

(年度)

図表1:民間設備投資の推移

出所:内閣府「国民経済計算」より作成

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Ⅱ .国内設備投資の現状

長期間にわたって設備投資が抑制された結果、設備の老朽化が進んでいる。図表2は 1990

年を基準として設備がどの程度老朽化しているかを表したものである。これをみると、日本

の設備はアメリカやドイツと比較しても老朽化しており、リーマンショック後も一段と加速

しているのがわかる。設備のビンテージは 10 年以上が6割程度を占め、20 年以上でみても

3割と高い。設備の更新需要だけでもかなり蓄積していると考えられる。

出所:内閣府「平成 25 年度 年次経済財政報告」より作成

図表3:ビンテージ別生産設備保有構成

5~10年未満24.0%

15~20年未満11.9%

30年以上10.9%

20~30年未満18.5%

10~15年未満15.9%

3~5年未満8.6%

3年未満10.0%

出所:経済産業省「生産設備保有期間等に関するアンケート調査」より作成 調査期間:平成 25 年2月 25 日~3月 13 日

図表2:設備ビンテージ

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90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

日本(製造業)

米国(製造業)

ドイツ(全産業)

(年)

(対90年増加年数)

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設備の稼働状況はどうだろうか。足下では設備の過剰感は概ね解消されつつあり、リーマ

ンショック前に近づきつつある。一部の企業においては不足感も高まっており、今後も順調

に需要の回復が続けば、能力増強のための投資が動く可能性が高まってくる。

出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より作成 企業のキャッシュフローからみると、2012 年度は上場企業のうち約2割が最高益を更新し

ている。2013 年度も大幅な増益が見込まれており、当期純利益ベースでは過去最高の 2007

年度を上回る可能性もある。2014年度も引き続き利益成長が見込まれる中、金融機関の貸出

態度にも改善がみられており、キャッシュフローが企業の設備投資の制約になることは考え

にくい。

出所:財務省「法人企業統計」より作成

図表4:設備過剰感 DI

図表5:上場企業の経常利益の推移

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(兆円)

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全産業 製造業 非製造業

(「過剰」-「不足」、%ポイント)

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出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より作成

マクロ的にみると、国内の設備投資が回復へ向かう諸条件は整いつつあるように思われる。

以下ではもう少し詳細に、製造業と非製造業に分けて状況を確認していきたい。

出所:財務省「法人企業統計」より作成(2012 年度)

図表6:金融機関の貸出態度 DI

図表7:民間設備投資の業種別内訳

輸送用機器, 6%

機械, 4%

食料品, 4%

電気機器, 3%

その他製造業,12%

卸売小売, 14%運輸郵便, 10%

サービス, 9%

情報通信, 9%

電気, 7%

その他非製造業,6%

建設, 3%

不動産, 5%

化学, 5%

情報通信機器, 4%

非製造業64%

製造業36%

-25

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-10

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90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年)

(「緩い」-「厳しい」、%ポイント)

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Ⅲ .製造業と非製造業の設備投資行動と取り巻く環境

1. 製造業

(1)足下の状況

2014 年3月発表の法人企業統計調査によれば、2013 年 10月~12月の製造業の設備投資は

前年比+0.7%の増加と5期ぶりにプラスに転じたが、いまだリーマンショック以前の6割の

水準に留まり、回復の勢いは緩慢な状況である。

出所:財務省「法人企業統計」より作成

(2)稼働率と設備投資の関係性

それでは、今後も製造業の設備投資の抑制が継続するのだろうか。製造業の設備過剰感は、

前掲の図表4で確認したとおり、リーマンショック後の生産の急減で大幅に過剰超となった

後、過剰感の解消に向かっている。 ここで改めて生産能力と生産の関係を確認したい。生産能力は、リーマンショック直後、

生産の急減に対応する形で削減され、その後、しばらく横ばいで推移してきたが、東日本大

震災や一段の円高進行に見舞われた 2011 年以降、ゆるやかに削減が進んでいる。一方、生産

をみると、内需の回復とともに、円安転換を契機に持ち直しに向かっている輸出と歩調を合

わせる形で回復していることがわかる。

図表8:製造業の設備投資

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1

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2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

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原数値(四半期)

前年比

(前年比、%)

(年)

(投資額、兆円)

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出所:経済産業省「鉱工業指数」より作成(生産指数は季節調整値)

足下の設備の稼働率も、生産能力の削減や生産の増加を受け、2008 年と比べて△13%低い

水準とはいえ、徐々に改善してきている。稼働率の上昇は、先行きの設備投資の増加に結び

つくと考えられることから、稼働率と設備投資の伸び率について相関関係を調べてみると、

稼働率は設備投資に2四半期程度先行して動き、相関性も比較的高いことがわかる。今後も

一層の生産の改善があれば、稼働率の上昇を通じて設備投資の回復力が高まる可能性が高い。

図表9:生産能力と生産指数

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2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

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110

115

120能力指数

生産指数

(能力指数、2010年=100) (生産指数、2010年=100)

(年)

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05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

実質輸出

生産

(実質輸出、生産前年比、%)

(月)(年)

図表 10:実質輸出と生産の関係

出所:経済産業省「鉱工業指数」、財務省「貿易統計」より作成

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出所:経済産業省「鉱工業指数」より作成(季節調整値)

図表 12:稼働率と設備投資

図表 11:製造業の設備稼働率

出所:財務省「法人企業統計季報」、経済産業省「鉱工業指数」より作成

推計期間は 2005 年1-3月期~2013年4-6月期

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Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

08 09 10 11 12 13

(稼働率指数、2010年=100)

(期)(年)

0.00

0.10

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0.60

0.70

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0 -1 -2 -3 -4 -5

(相関係数)

(ラグ(稼働率先行)、四半期)

<稼働率と設備投資の伸び率の時差相関> <稼働率と設備投資の関係>

y = 0.8831x - 0.158

R2 = 0.5107

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(設備投資前年比、%)

(稼働率伸び率(2四半期先行、%))

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(3)資本ストック循環が示す製造業の期待成長率

次に、設備投資の動向を左右する重要な要素である期待成長率をみるため、資本ストッ

ク循環図を描き、設備投資、資本ストック、期待成長率の関係を確認する。 資本ストック循環図とは、Y 軸に設備投資前年比、X 軸に前年の資本ストックに対する設

備投資の比率をとったもので、資本係数(資本ストック/GDP)の伸びと資本ストックの除却

率を一定とすると、ある一定の期待成長率に見合った点を並べた双曲線を描ける性質がある。

資本ストック循環は、景気循環の過程でその時期の期待成長率を中心として時計回りに動き、

期待成長率自体に変化が生じた場合には、その中心が右上や左下にシフトする。 その動きをみると、リーマンショック前の 2007 年頃は、期待成長率2~3%を中心に循環

していたが、その後の景気後退期に期待成長率が低下し、中心が左下にシフトしており、足

下は期待成長率0%を中心とした循環となっている。 2012 年末以降、内需の回復がみられる中、設備投資から推定される期待成長率が低水準に

とどまっている理由は、外需の弱さと考えられる。2013 年は海外の GDP 成長率が弱かった

が、2014 年以降、国際機関の見通しに従った成長率が実現すれば、生産の加速が予想される

ほか、期待成長率の上昇で資本ストック循環の中心点が右上方向にシフトし、設備投資が拡

大しやすくなる可能性もある。

図表 13:製造業の資本ストック循環図

出所:内閣府「民間企業資本ストック統計」により作成(進捗ベース) 資本ストック係数の変化率と除却率は 1990年1-3月期から 2012年 10-12月期の平均

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10

20

30

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3 4 5 6 7

2% 4%期待成長率:0%

(設備投資前年比、%)

(前年の設備投資/前年末の資本ストック、%)

2007年4-6月期

2005年1-3月期

▲1%

1% 3%

2009年10-12月2013年7-9月期

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(4)伸び悩む輸出が設備投資の回復を遅らせる可能性

外需の回復は、輸出増加→生産増加→稼働率上昇や、期待成長率の上昇といった経路を通

じて設備投資の増加につながることがわかった。ただし、輸出については、海外景気や為替

の動きに対する感応度が低下していることが度々指摘されており、海外景気の拡大や円安の

進行があったとしても、前者の経路を通じた設備投資の回復が以前ほど見込みにくくなって

いる可能性がある。実際、リーマンショック以前は、輸出の伸び率が OECD 景気先行指数の

伸び率を上回っていたのに対し、足下は、輸出の伸び率が OECD 景気先行指数の伸び率を下

回っており、海外景気に対する感応度が低下していることが窺える。 理由としては、①日本企業が既往の円安にも関わらず、契約通貨ベースの価格を引き下げ

ないため、数量効果が出にくくなっていること、②構造的な現地生産比率の上昇などが考え

られる。①については、企業のマージン重視の姿勢ともいえ、企業収益改善を通して賃金の

増加に結び付けば、国内消費が底上げされ、いずれ国内設備投資の増加につながるため悪い

話ではない。②については、大企業製造業の多くが、国内よりも海外の方が潜在的な経済成

長率が高いとみており、地産地消を基本スタンスに、海外への投資を主体としている。地産

地消のスタンスに変更がない場合、長期トレンドとして国内設備投資が拡大するには持続的

な内需拡大などの下支えも必要であろう。

図表 14:実質輸出と先進国の景気先行指数との関係

出所:財務省「貿易統計」、OECD.Stat より作成

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010

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1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

-6

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-2

0

2

4

6実質輸出

OECD景気先行指数

(実質輸出前年比、%) (OECD景気先行指数前年比、%)

(月)(年)

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図表 15:輸出物価指数と実質実効為替レート

出所:日本銀行「企業物価指数」「実効為替レート」より作成(輸出物価指数は契約通貨ベース)

図表 16:設備投資増加への波及経路

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05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

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90

95

100

105

110

輸出物価指数

実質実効為替レート

(実質実効為替レート、2010年=100)(輸出物価指数、2010年=100)

(月)(年)

輸出数量増加

生産増加

稼働率上昇

円安

契約通貨ベース輸出物価引

き下げ

【内需】

海外GDP成長

輸出製品の競争力向上

国内の消費拡大

生産能力減少

設備投資増加

【外需】

期待成長率上昇

期待成長率上昇

出所:三菱 UFJ 信託銀行作成

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2. 非製造業

非製造業の設備投資は 2012 年秋以降、好調な内需を背景に緩やかながらも持ち直してい

る。ただし、水準としては、リーマンショック前の 2006~2007 年と比べて低位にとどまっ

ており、なお回復の余地が大きいとみることもできる。ここでは、非製造業の設備投資の動

向を概観するとともに、その内訳を個別に分析し、回復の持続性を検討する。

(1) 足下の状況

2013 年の非製造業の設備投資は、前年比で+4.0%と持ち直しているが、そのペースは緩

やかである。業種別の寄与度を確認すると、小売業、リース業、陸運業、建設業、不動産業

などの寄与が大きいことがわかる。

上位寄与となっている業種の設備投資の内容は、小売業が店舗の出店、建設業、陸運業、

不動産業はオフィスビル、物流施設、商業施設などの開発、リース業は賃貸資産であるが、

概ね施設に関連する投資が中心になっているといえる。

図表 18:非製造業の設備投資の業種別寄与度

■2013年の非製造業設備投資前年比・・・+4.0%

■業種別寄与度

小売業 リース業 陸運業 建設業 電気業 不動産業 情報通信業 その他 サービス業

1.4% 1.4% 1.0% 1.0% 0.5% 0.3% -0.4% -0.5% -0.8%

出所:財務省「法人企業統計季報」より作成

図表 17:非製造業の設備投資の動向

出所:財務省「法人企業統計季報」、内閣府「国民経済計算」により作成(季節調整値、設備投資デフレーターで実質化)

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(2000年=100)

(年)

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(2) 施設別の着工動向

非居住用建築物着工をみると、2009年を底として回復基調をたどっているが、リーマンショッ

ク以前の水準を回復するまでには至っておらず、2013 年と直近ピークの 2006 年を比較する

と、当時の3分の2程度の水準にとどまり、水準としては高くない。施設別にみると、全般

的に増加傾向となっているが、直近では特に店舗、倉庫の伸びが目立ち、小売業、陸運業、

建設業、不動産業による投資が活発化していることを裏付けている。以下、施設ごとに動向

を確認する。

① 店舗

まず、大型店舗の出店動向を把握するため、大規模小売店舗立地法(略称 大店立地法)の

届出状況をみると、2012 年、2013 年と回復傾向が鮮明になってきている。内訳を確認する

と、構成比率の高いスーパーマーケットが伸びているほか、医薬品のみならず化粧品、日用

雑貨、食品などの扱いを強化しているドラッグストアも着実に増加している。また、スーパー

マーケットにおいては足下で1店舗当たりの面積の増加が目立つ。

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

2005 06 07 08 09 10 11 12 13 (年度)

(届出面積、千㎡)

図表 20:大店立地法届出面積の推移

出所:国土交通省「建築着工統計」より作成

図表 19:民間非居住用建築物着工床面積の推移

<届出面積>

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

2005 06 07 08 09 10 11 12 13

事務所 店舗 工場

倉庫 その他

(床面積、千㎡)

(年)

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スーパーマーケットの届出面積が伸びている背景としては、①コンビニエンスストアやド

ラッグストアなど異業態も含めた顧客囲い込み競争が激化していること、②震災で延期され

た出店が動き出したこと、③老朽化した店舗や手狭になった店舗のスクラップ&ビルドが増

加していることなどが挙げられる。市場のパイが伸びにくい中、シェアの奪い合いとなる消

耗戦の様相が強まっているが、各社とも総じて出店を伸ばして成長を図る事業戦略を採って

いる上、大規模化の流れもあり、今後の届出面積も底堅く推移すると推察される。

次に、大店立地法でカバーされないコンビニエンスストアの出店動向をみると、大手5社

は継続的に出店数を伸ばしており、2014年度も出店数が伸びる見込みとなっている。市場の

飽和が懸念されながらも、生鮮食品や惣菜、PB 製品など品揃えを強化して中食化の流れを

取り込み、拡大を続けていることが窺える。

<1施設当たり平均届出面積>

<施設種類別届出面積>

出所:経済産業省「大店立地法による届出の状況について」より作成(2013年度の値は4-12月の前年比伸び率を用いて延長)

0

500

1,000

1,500

2,000

家電量販店

ホームセンター

ドラッグストア

スーパーマーケット

その他

2010

2011

2012

2013

(届出面積、千㎡)

0

2

4

6

8

家電量販店

ホームセンター

ドラッグストア

スーパーマーケット

その他

2010

2011

2012

2013

(届出面積、千㎡)

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22001144年年55月月号号

小売業では総じて出店数が増加傾向となっており、出店過剰が懸念されるが、日銀短観の

小売業の設備過剰感判断 DI を確認すると、2012 年から不足感が現れ、その不足幅も足下ま

で拡大傾向にあり、その背景としては雇用・所得環境の改善による個人消費の持ち直しが考

えられる。現状では、各社の出店攻勢が店舗過剰を招いて出店が減速するリスクを過度に懸

念するよりも、高まっている不足感を埋めるため、出店の増加基調が継続すると考えるのが

自然だろう。

図表 21:コンビニエンスストア出店数の推移(大手5社)

出所:コンビニエンスストア大手5社決算資料より作成

図表 22:小売業の生産・営業用設備過剰感 DI

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

2006 07 08 09 10 11 12 13 14 (年度)

(出店数) 見通し

出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」により作成

-6

-4

-2

0

2

4

6

3 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123 6 9123

2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(生産・営業用設備DI(「過剰」-「不足」))

(月)(年)

過剰超

不足超

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② オフィスビル

オフィスマーケットは、2011年以降、空室率が低下基調で推移しており、下落が続いてい

た賃料も、ようやく下げ止まりの動きをみせている。オフィスビルの需要は、震災を契機に

耐震性の高い物件を求める動きが強まったこと、賃料相場が下落したことなどから回復傾向

となっているが、最近は既存ビルの建て替えに伴う移転も目立ってきている。また、雇用環

境も改善を続けており、今後は手狭になったオフィスからの増床移転も期待出来るだろう。

オフィス需要が回復に向かう中、わが国の経済活動の中心地である東京のオフィスビルの

新規供給動向をみると、2012 年に大量供給があったものの、2013 年は急減しており、需給

ギャップの改善が進んでいると考えられる。2014 年以降は供給が増える見込みとなっている

が、良好な需給バランスを崩すほどの水準にはなく、低い資金調達コスト、賃料増加期待、

不動産価格上昇期待などの好条件も相まって、オフィスビルへの投資が行われやすい環境が

継続すると考えられる。

出所:三鬼商事資料より作成

0123456789

10

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 710 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14

15000

16000

17000

18000

19000

20000

21000

22000

23000平均賃料

空室率

(月)(年)

(平均賃料、円/坪)(空室率(逆目盛)、%)

図表 23:東京都心5区におけるオフィスビルの平均賃料と空室率

図表 24:大規模オフィス供給量推移

0

50

100

150

200

250

1986 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10 12 14 16

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

供給量

供給件数

(供給量、万㎡)

(年)

(供給件数、件)見込み

出所:森ビル「東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査」により作成

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22001144年年55月月号号

③ 物流施設

物流施設の賃貸マーケットをみると、2009 年以降、新規供給の抑制で空室率が低下基調で

推移した後、新規需要と新規供給が均衡し、2%程度の低い水準で安定している。特に、足

下は新規供給が大きく伸びているが、一方で需要も同程度伸びており、以下に述べるとおり、

新しく高機能な大型物流施設を求める動きが強まっていることが窺える。

新規需要が伸びている要因としては、景気の改善に加え、3PL(サードパーティー・ロジ

スティックス)市場と E コマース市場の拡大も挙げられる。

3PL とは荷主企業の物流を包括的に請け負うアウトソーシングサービスであるが、物流

の効率化で経営効率を改善したいという荷主企業のニーズを捉えて成長している。3PL 事

業者は、荷捌き、仕分け、出荷などの作業を効率的に行う必要があるため、これらに対応可

能である高機能な大型物流施設へのニーズが高まっている。

また、E コマースとはインターネットなどのネットワークを利用する電子化された商取引

であるが、インターネットやスマートフォン・タブレットの普及、E コマース参入業者の増

加、取扱品目の拡大などで市場が着実に伸びており、2018 年には市場規模が現在の2倍まで

拡大するとの見方がある。加えて、当日配送、時間指定などサービス向上で競争力を強化す

るため、利便性の高い立地で高機能な大型物流施設を利用したいというニーズも強まってお

り、E コマース市場の拡大が物流施設新設の牽引役を果たしていくだろう。

図表 25:物流施設の賃貸マーケット(東京圏)

出所:一五不動産情報サービス「物流施設の賃貸マーケットに関する調査」より作成

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7

2008 09 10 11 12 13

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450新規供給

新規需要

空室率

(空室率、%) (新規供給、新規需要、千㎡)

(月)(年)

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以上、足下の非製造業の設備投資は施設関連が牽引しているが、施設種別ごとにその動向

を確認すると、先行きも増加しやすい環境にあることがわかった。また、中期的には、2020

年の東京オリンピック開催に伴い、周辺の宿泊施設、商業施設の新設や建て替えが見込まれ

るほか、カジノ開設が解禁されれば関連施設の投資も期待できる。消費税増税後の個人消費

減速、職人不足等による建築着工の遅れなどの影響を受けながらも、底堅い需要を受けて非

製造業の設備投資は緩やかな回復を続けると考える。

Ⅳ .終わりに

本稿では足下までの設備投資の全体観と、製造業、非製造業のそれぞれの投資環境と見通

しについて考察した。製造業は、これまで設備投資の回復感が乏しかったが、先行指標であ

る稼働率の上昇を踏まえると、緩やかながらも持ち直しが見込まれるほか、外需の持続的な

回復が確認出来れば、期待成長率の上昇を通じて一段の設備投資拡大の可能性があることが

わかった。非製造業は、既に緩やかな設備投資回復局面に入っており、その牽引役は小売業、

建設業、不動産業、物流業などの施設関連投資であった。先行きについても、投資計画、良

好な市場環境、設備の不足感を踏まえると、引き続き施設関連投資を中心に緩やかな増加が

見込まれる。

製造業、非製造業共通のリスク要因として、消費税増税後の内需減退が挙げられ、その影

響が懸念されるが、回復に向けて動き出した設備投資が再び減少基調に後戻りしない様、政

府には設備投資を後押しする効果的な支援策の立案と着実な実行が求められる。既にアベノ

ミクス「第三の矢」として、特別償却や税額控除による減税、先端設備投資促進のための補

助金などの支援策が打ち出されているが、中長期的に設備投資を押し上げるには力不足との

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2005 06 07 08 09 10 11 12

(兆円)

(年度)

0

5

10

15

20

25

2010 11 12 13 14 15 16 17 18

(兆円)

(年度)

予測

図表 26:3PL 市場規模 図表 27:BtoC E コマース市場規模

出所:ロジスティックス・ビジネスより作成 出所:野村総合研究所「これから ICT・メディア市場で何が

起こるのか~今後5年の市場トレンドを予測~」より作成

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見方もある。需要拡大→設備投資拡大の好循環を生み出すためには、デフレ脱却、日本企業

の競争力向上が必要であり、これらを実現する上で、規制改革の推進、法人税率引き下げ、

TPP の締結などは有効な手立てと考えられ、早期の実現が望まれる。膨らみ始めた設備投資

回復の芽が、景気回復の持続と政府の後押しで育っていけるか、今後も注目していきたい。

(平成 26年4月 21日 記)

【参考文献】

参議院 経済のプリズム第118号 成長戦略の成否を握る民間設備投資の動向

内閣府 平成25年度 年次経済財政報告

日本銀行 近年の製造業の設備投資増加について

大和総研 円安・海外回復で輸出が伸びない5つの理由

内閣府 店舗・オフィスビル等への投資動向

日本政策投資銀行 Eコマース市場の拡大と物流業への影響

野村総合研究所 「これからICT・メディア市場で何が起こるのか~今後5年の市場ト

レンドを予測~」

※本稿中で述べた意見、考察等は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の公式見解ではない

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編集発行:三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部

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