技術・政策の不透明性と水素市場状・将来情報を活用。 モデルの使用目的...

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2015年10月5日 富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 濱崎博 技術・政策の不透明性と水素市場 -複雑性を考慮したビジネス・シミュレーション- Copyright 2015 FUJITSU RESEACH INSTITUTE

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2015年10月5日 富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 濱崎博

技術・政策の不透明性と水素市場 -複雑性を考慮したビジネス・シミュレーション-

Copyright 2015 FUJITSU RESEACH INSTITUTE

問題意識

2014年6月23日に「水素ロードマップ」が発表されるなど、水素社会実現に向けた具体的道筋が見えてきた。

一方、水素社会実現の可能性に関して、懐疑的意見も根強い。

“多”プロセスでありトータルでのエネルギー効率が悪い

低炭素社会・エネルギー自給率実現において、再生可能エネルギーと水素は競合関係

水素の複雑性により、水素者社会評価の困難

(=既存の手法の限界)

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発表構成

I. 水素の複雑性 -水素は今までのエネルギーとどう違うのか?

II. 水素の複雑性を反映したエネルギーモデル・前提

–JMRT (Japan Multi-regional Transmission)モデルの説明-

III. シミュレーションを用いた定量的評価

水素社会は存在しうるのか?

不透明性の与える影響

再生可能エネルギーと水素の関係

IV. まとめ

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I. 水素の複雑性 水素は今までのエネルギーはどう異なるのか?

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既存のエネルギー社会

発電所 送電網 消費者

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電気

石油

油田 製油所 ステーション

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“複雑”な水素製造方法

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H2 (余剰) 石油化学・鉄鋼等

褐炭+CCS

再エネ等電力

ガス+CCS

注)CCS(Carbon Capture & Storage):CO2を回収し地面へ貯蔵することで大気中へのCO2排出を回避する手法。

CO2削減

効果 エネルギー

自給率 備考

化石燃料由来 △ △ エネルギー高効率 +CCS ○ △

電気(再エネ) ○ ○ ただし、再エネ由来の場合 下水汚泥 ○ ○

ガス

電気

水素

二酸化炭素

海外

下水汚泥

5

水素の蓄エネ機能

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余剰電力

不足電力

• 水素の再エネ不安性定対策としての蓄エネ機能

• 風力・太陽光のポテンシャルが高い地域では水素の蓄エネ機能が有効である可能性も。

Power to Gas

H2

時間

発電量

6

複雑な水素“需要”

H2

燃料電池

燃料電池

水素ステーション

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ガス

家庭・オフィス

ガス

電気

水素

水素・ガス混焼発電

7

複雑な水素社会のエネルギーシステム

H2

自動車

燃料電池

燃料電池

水素ステーション

蓄電

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(余剰)石油化学・鉄鋼等

褐炭

再エネ

再エネ

下水汚泥

油田 製油所 ステーション

火力発電

原子力発電

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II. 水素の複雑性を反映した

エネルギーモデル

JMRT (Japan Multi-regional Transmission Model)の説明

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“複雑性”を反映したエネルギーモデルの開発

FRI開発の日本エネルギーモデル(Japan Multi-regional Transmission (JMRT))に水素システムを導入し、シミュレーションを実施する。

IEA、イギリス政府、EU等で広く活用される開発環境TIMESを活用した詳細なエネルギー技術モデルの開発を行う。

TIMESは、エネルギーシステム全体で最も費用効率性の高い技術の組み合わせをシミュレーションする。

=「目指す社会」を実現するための「最適技術の組み合わせ」を計算

「NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ2010」、「水素ロードマップ」、IEA-ETSAP Energy Technology Database、その他学会誌等より水素関連技術の現状・将来情報を活用。

モデルの使用目的

1. 市場予測(市場参入する価値があるのか?ビジネスモデルのレジリエンシー)

2. 投資戦略(パイプライン、連系線などのインフラ投資)

3. R&D戦略(研究開発のゴール(性能・価格)をどこに置けばいいのか)

4. 政策評価(政策により当該市場はどの程度の規模になるか?)

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都道府県単位での詳細設計

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• 各都道府県単位で詳細なエネルギーシステムを構築

• 地域の特殊性を反映

石炭火力 LNG火力 石油火力

Sankey

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エネルギー需要曲線(12スライス)

時間別エネルギー需要(1日)

ミドル(8~13時、16~23時)

ピーク(14~15時)

オフピーク(0~7時)

季節別エネルギー需要(年)

春(3~6月)

夏(7~9月)

秋(10~12月)

冬(1~2月)

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時間別電力(万kW) 月別ピーク電力(万kW)

※2014年8月1日(東京電力) ※2014年(東京電力)

• 実際のエネルギー消費パターンを盛り込むことで、時間変動・季節変動の影響を考慮。

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再エネポテンシャル

再エネポテンシャル地域情報

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洋上風力

陸上風力

地熱

(出典)環境省再エネポテンシャル調査等よりFRI作成

送電網 道路

• 1km2のメッシュレベルでの再エネポテンシャル情報

• メッシュレベルでの発電量(稼働率)、投資費用

• 送電網・道路等インフラ整備状況も考慮

• 地域での再エネ特性を反映 • 太陽光、バイオマスは都道府県単位データ

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日本の電力送電網

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• 現在の連系線の容量を考慮し、電力融通の制約をモデル化。

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“政策目標”の不透明性=今後の目指す社会

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• 国際エネルギー機関(IEA)によると、2012年のエネルギー自給率は、OECD加盟国34か国中33位(6.3%(19.9%(2010))。

日本の温室効果ガス排出量(100万トン・CO2)

エネルギー安全保障

地球温暖化への対応

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“技術・インフラ”の不透明性①

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• MIRAIの価格は、723.6万円。優遇策受けることで約500万円(横浜市では400万弱)

• 将来ハイブリッド並みの価格まで低減するのか?

• 現状、4億円/ステーション。 • 一般的ガスステーションで、1億円/ステーション。 • ドイツのようにセルフでの給油(水素)はできない結果、運用費用も高い。

• 日本全国での水素供給網は存在しない。 • 水素を地産地消か全国融通で消費か?

燃料電池車

水素ステーション

水素供給網整備

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“技術・インフラ”の不透明性②

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電力連系線強化

風力ポテンシャル:大 電力需要:小

風力ポテンシャル:小 電力需要:大

• 風力など再エネのポテンシャルは地域に偏在(北海道は最大の風力ポテンシャル) • 再エネポテンシャルと電力需要の地理的アンマッチング • 連系線を強化することで再エネポテンシャルを全国で活用可能(=水素は不要か?)

洋上風力

陸上風力

地熱

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不透明性 変数

政策目標

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

技術

インフラ

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

システムズ分析シナリオ

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256 シミュレーション

(*) 2050年に2011年比 18

III. シミュレーションを用いた

定量評価

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現状ケース

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• 特に目標も、インフラ整備・水素製造への支援はなし • 水素ステーション費用、燃料電池車価格は低下

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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現状のままでは、水素の利用は限定的

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• 水素燃料は、水素製造、水素供給、水素消費の全てにおいて、技術開発及び導入促進のための環境整備が必要。

• 現状のままでは、大幅な水素導入は困難。

現状ケース (TWh) 最大期待ケース(後述) (TWh)

0.9兆円 1.4兆円

水素供給量

【参考】 石油:22兆円 電力:18兆円 ガス:7兆円 出典:日本LPガス協会(2014)

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最も水素が期待できるケース(最大期待ケース)

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不透明性 変数

政策目標

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

技術

インフラ

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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水素供給源

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供給量(TWh)

2020年には、新たな

供給手段の整備が必要

2.9兆円

20兆円

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部門別水素需要

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2020年

(TWh)

2030年 年

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燃料電池車も中心的役割(ストック)

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オフィスの電力源

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暖房

冷房

照明

給湯

機器その他

H2

化石 燃料

コジェネ

燃料電池

系統電力

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オフィス電力源(2050年)

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コジェネ 系統電源

燃料電池

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都道府県別オフィス電力源(2050年)

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燃料電池

系統電力

コジェネ

北 南

北海道 東京

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各不透明性の影響

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① CO2削減率との関係

③ 燃料電池車価格 及び 水素ステーション費用削減

④ 水素供給網整備

② エネルギー自給率との関係

不透明性 変数

政策

目標

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度

25% 50% 75% 95%

技術

インフラ

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用

現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし ⑤ 連系線強化

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① CO2削減率の影響

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最大導入ケースから、CO2削減のみ感度分析

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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CO2削減と水素供給

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2050年に30%減 2050年に60%減

2050年に90%減

• 初期のCO2削減は再エネ主導での実現可能だが、ある一定以上の削減では、水素の役割が急速に高まる

1.7兆円

5.9兆円

2.9兆円

20兆円

1.5兆円 4兆円

(TWh)

(TWh)

(TWh)

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③ 燃料電池車・水素ステーション費用

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燃料電池車・水素ステーション現状の場合、水素はどの程度か?

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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燃料電池車・水素ステーション費用の影響

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燃料電池・水素インフラ低価格 燃料電池・水素インフラ現状維持

燃料別自動車(ストック)

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④ 水素供給網整備の影響

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地産地消型水素利用では、水素の利用は限定的か?

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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地産地消か?全国融通か?

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地産地消 全国融通

• 水素を地産地消することで、水素市場を大幅に限定的市場にすることはない。

(TWh) (TWh)

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水素供給インフラ整備と電力起源水素製造

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全国融通(2050年) 地産地消(2050年)

112TWh (3兆円)

24TWh (6,500億円)

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水素の蓄エネ機能は有効か?

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風力発電による発電量(TWh)

電力起源の水素(TW

h)

• 再エネ普及による電力システム不安定性対策として水素の蓄エネ機能が有効。

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IV.まとめ

エネルギーシステム全体を俯瞰した視点の必要性

需要者は、運輸・民生・オフィス等多岐にわたる。セクター単位ではなく、横断的な視野が必要。

各技術には、特性がある(例えば、水素に関しては蓄エネ、風力に関しては不安定性等)ため、モデルケースを設定した技術間のコスト比較では、将来の予測に不十分。

エネルギー自給率向上、温室効果ガス削減、地域創生での水素の役割の確認。

水素と再エネは協力関係

水素エネルギーは、電力を貯める蓄エネ技術の側面もあり、本検討でも、再生可能エネルギー普及の拡大によって生じる電力システムの不安定性を経済合理的に安定化させる機能が水素は有する。

CO2削減の初期段階は再エネ主導であるが、ある一定以上の削減では水素の役割が急増。

現状では、水素のポテンシャルの有効活用は限定的。水素製造、供給、消費の全ての段階での支援策の検討が必要。

Copyright 2015 FUJITSU RESEACH INSTITUTE 38

Copyright 2015 FUJITSU RESEACH

INSTITUTE 39

②エネルギー自給率の影響

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エネルギー自給率を下げると、水素供給源は変わるのか?

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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エネルギー自給率と水素製造技術の関係

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輸入依存度25% 輸入依存度50%

輸入依存度75%

• 2050年にどの程度のエネルギー自給率を目指すかによって、水素を何から製造するのか、大きく変化。

• 自給率を高めると、自給率向上に有利な再エネ+水素の組み合わせが競争力を持つ。

(TWh) (TWh)

(TWh)

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⑤連系線の影響

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送電網連系線強化により、再エネが水素を不要とするのか?

不透明性 変数

政策

変数

CO2削減 0% 30% 60% 90%

エネルギー輸入依存度 25% 50% 75% 95%

その他

燃料電池車 500万円/台 300万円/台

(~2025年)

水素ステーション費用 現状 4分の1

水素供給網整備 あり なし

連系線強化 あり なし

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連系線拡充で水素の役割は低下するのか?

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連系線強化あり 連系線強化なし

• 送電網の連系線を強化したとしても、水素のエネルギー自給率・CO2削減における役割が大きく減少することはない。

(TWh) (TWh)

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電力融通と水素製造の関係

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連系線強化あり(2050年) 連系線強化なし(2050年)

電力由来水素 112TWh

電力由来水素 97TWh

電力融通 42TWh

電力融通 80TWh

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余剰水素供給能力

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産業 供給能力 自家消費 余剰能力

石油精製 189 125 64

石油化学 31 18 13

ソーダ 12 1 11

アンモニア 42 32 10

工業ガス 4 4 0

鉄鋼業 86 0 86

合計 363 179 184

億Nm3/年

出典)早内、石倉、「水素社会における水素供給者のビジネスモデルと石油産業の位置づけに関する調査」

余剰能力 出典

IAE (2014) 65

エネルギー総合工学研究所(2014)、「CO2

フリー水素チェーン実現に向けたアクションプラン研究」成果報告書

高野(2010) 81

高野香織(2010)、「産業界における水素供給可能量と供給に向けた課題」、水素エネルギーシステム

Vol.35, No.3

(2010)

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再エネの不安定性とその対策(ドイツ)

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Audi e-gas

Ubitricity

(出典)Audi

(出典)Ubitricity

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