思考力・判断力・表現力を育成する主体的な学習の工夫kiriken/27report-jhs.pdf ·...
TRANSCRIPT
-中学力 1-
思考力・判断力・表現力を育成する主体的な学習の工夫
-協同学習を組み込んだ授業デザインの提案-
中学校学力向上班
桐生市立清流中学校 藤生 朋子 桐生市立境野中学校 御子柴由季
桐生市立新里中学校 大森 健
あらまし
本研究では、思考力・判断力・表現力を育成するため、協同学習を組み込んだ授業デザイ
ンを構想し、実践を通して効果を明らかにした。その結果、協同学習は、他者からの客観的
な指摘による自己理解の深化、多面的で公正な思考の習得に有効であることがわかった。
Ⅰ 主題設定の理由
平成 26年 11月中教審の諮問において、初等中等教育における基準等の在り方について、学び
の質や深まりを重視し、課題の発見と解決に向けて主体的・協同的に学ぶ学習の充実が必要であ
ると述べている。自ら課題を見出し他者と協同して解決する力は、今までの教師が一方的に知識
を伝える一斉授業では身に付けることはできない。学習者自ら、能動的に取り組む授業への転換
が求められている。
また、群馬県の学校教育の指針において、主体的な学習への指針が示され、「たくましく生き
る力をはぐくむ~自ら学び、自ら考える力を~」を基本目標に掲げている。さらに、桐生市の授
業改善推進プランにおいて、思考力・判断力・表現力の育成を重点とし、探求的な学習を通して
自力で解決できる生徒の育成を目指している。
協同学習は、生徒自ら課題を見出し他者と協同して解決する学習課程を通して、生徒は、他者
の考えと自己の考えを比較検討し、判断統合を行い、表現することを繰り返す。言語活動の繰り
返しによって、思考力・判断力・表現力を育成できると考える。
協同学習はこれまで多くの実践的研究がなされ、学習効果が示唆されている。
ジョンソンら(1984)1)は、学習の条件を次のように定義している。①互恵的な協力関係(相
互依存関係を明確にした促進的な相互交渉を十分にさせる)、②個人の責任性(目標達成に貢献
し、職分を果たすという義務感を感得させる)、③相互作用の促進(目標達成に向けた適切な行
動を見つけ賞賛する)、④社会的スキル、(個人や小集団との対人スキルを適切に頻繁に利用)。
⑤グループの改善手続き(将来の実効性を高めるために、グループの現状に関する協同活動評価
を頻繁にかつ規則的に行う)、である。さらに、ジョンソンらの条件を受けて、ジョージ・ジェ
イコブスら(2002)2)は、様々な協同的な学習の技法を紹介している。①互恵的な協力関係の条
件を満たす協同学習として、ジグソー、スタッド(STAD)、ホップ・ステップ・クラス、②個
人の責任として、作家の輪、話し手の輪、学習前・学習後等、がある。しかし、協同学習の技法
について、教科の特性を考慮した実践の効果は明らかにされていない。
-中学力 2-
そこで本研究は、教科の特性を考慮し、様々な協同学習の技法を組み込んだ授業デザインを提
案し実践することを通して、生徒の思考力・判断力・表現力の育成を目的とする。
Ⅱ 研究のねらい
英語科・保健体育科・社会科において、各教科の特性に応じた協同学習を取り入れた授業実
践を通して、思考力・判断力・表現力を育成する。
Ⅲ 研究の見通し
課題解決的な学習場面において、意図的な言語活動を行う協同学習を取り入れた授業デザイ
ンを構想し実践する。生徒自ら課題を見出し他者と協同して解決する学習を通して、生徒相互
の思考力を高め、主体的に判断し、表現する力を高める。
Ⅳ 研究内容
1 研究計画
1学期 ○研究課題の確認
○研究主題・サブテーマの検討
○主題設定の理由・研究のねらい・研究計画の検討
○協同学習についての文献研究
○主題検討会
2学期 ○中間検討会
○協同学習を取り入れた授業の指導案の検討および作成
○授業実践
○授業検討会・草案検討会
○検証方法の検討(質問紙調査、インタビュー調査)
○調査結果からの分析
3学期 ○実践結果・成果と課題の検討
○紀要原稿の作成
○紀要原稿のまとめ
2 基本的な考え方
(1)協同学習について
主題設定の理由で述べた通り、協同学習についての理論は多数見られる。本研究では、教科の
特性を考慮し、効果的な協同学習を組み込んだ授業デザインを提案し実践を進める。以下各教科
の特性と効果的な協同学習について示す。
英語科は、聞く・話す・読む・書くの各領域における個人の責任制を重視した授業デザインを
提案する。英語を活用したコミュニケーションそのものではなく、英文の構成や話し方について
協同学習を進める。
保健体育科は、ペア学習を基本とし、相互作用の促進(目標達成に向けた適切な行動を見つけ
-中学力 3-
賞賛する)した授業デザインを提案する。技能を習得する場面における他者との関わりに着目し
た協同学習を進める。
社会科では、課題解決的な学習課程において、互恵的な協力関係を重視した授業デザインを提
案する。ジグソー学習を採用し、資料を読み解き、伝え合うことを通して思考を深める協同学習
を進める。
ア 英語科における協同学習について
英語科においては、英文によるスピーチ原稿を推敲する場面や、スピーチの仕方についてアド
バイスし合う場面でグループ活動を取り入れる。推敲する場面では、英文の正しさ、文章全体の
構成に着目させ、よりよいスピーチ文にしていくことを目的としたグループ活動を行わせる。ま
た、スピーチの仕方については、スピーチテストを最終目標とし、「人に伝わる英語」はどうい
う話し方が適切か、という部分に着目させる。推敲場面、スピーチの仕方をアドバイスする場面
とも、自分では気付けない部分を補い合い、互いの英語スキルを高めるための協同学習に視点を
当て、効果を検証する。
イ 保健体育科における協同学習について
保健体育科では、ハードル走における技能の習得場面における他者との関わりに着目し、ペア
学習を取り入れる。技能の習得のための練習は、「フォーム練習」3種目と「ハードリング練習」
3種目からそれぞれ1種目ずつ選び、それぞれ5分間取り組ませる。等質のペアを作り、技能チ
ェックカードを見ながら相手のフォームや動きを確認し、互いにアドバイスし合いながら技能を
身に付けさせることを目的とする。自身のイメージしている動きと実際の動きの違いに気付かせ、
アドバイスし合う協同学習とするために、技能を確認する注意点を示した技能チェックカードを
活用し、学習カードに載せたハードル走に関するキーワードを活用できるよう工夫する。ペア学
習する場面において、技能チェックカード、学習カードを活用し、ハードル走の技能を習得する
ための協同学習に視点を当て、効果を検証する。
ウ 社会科における協同学習について
社会科のグループ学習において、生徒は、個々に責任をもち自分の考えを交流する手立てが必
要である。個々に責任をもたせ「強い個人」になることが求められている。本研究では、個々に
責任をもたせることに有効なジグソー法を取り入れる。ジグソー法は、以下①~③のように進め
る。①視点のことなる資料について、グループ内で担当を決定する。②各視点ごとに担当が集ま
り、交流を通して資料を読み解く。③読み解いた知識をもちグループに戻り読み解いた結果を交
流し、さらに課題について話し合いを深める。ジグソー学習は、グループ内に意図的な交流が生
まれ、正確に情報を伝達することや、見方や考え方を深化することにつながり、効果的に言語活
動を行うことができる。言語活動を活性化させる協同学習の効果について研究する。
(2)思考力・判断力・表現力について
本研究における思考力・判断力・表現力は、次のように定義する。思考力は事象を筋道立て
-中学力 4-
て体系的に考える力、判断力は言葉や図、表、グラフなどの相互関連を理解し、それらを適切
に用いて問題を解決する力、表現力は思考・判断した過程や結果を、言語活動を通じて体現す
る、である。さらに、思考力・判断力・表現力を育成する取り組みとして、コンセプトマップ
を活用する。
生徒が自らコンセプトマップを作成することは、新たな知識が既習事項に付加され、関連性
や広がりから、生徒の理解を促進させるのに役立つ。また、教師は、生徒が作成したコンセプ
トマップから、生徒の学習状況とその程度を調べ、把握するために有効である。
また、英語科については、英文によるスピーチ原稿を推敲する場面や、スピーチの仕方につ
いてアドバイスし合う場面で使用したワークシートを活用する。グループ活動において、他者の
考えと自身の考えを比較・検討した結果、スピーチ原稿の内容の深まり、英文の正確さ、文章全
体の再構成から学習状況を把握するために有効である。
3 検証方法
検証は、「協同学習の効果」、「思考力・判断力・表現力の育成」の2点について行う。具体的
な方法として、「協同学習の効果」は、①協同学習への認識の変化、②協同学習によるメタ認知
への影響、について検証する。学習後の生徒へのインタビュー調査、学習前と学習後に実施す
る質問紙調査の結果を分析する。また、質問紙調査は、協同学習に対する認識の変化について、
協同作業認識尺度(長濱ら 2010)3)を用いて実施する。(表1)さらに、協同学習によるメタ認
知への効果について、他者との関わりによるメタ認知尺度(高垣ら 2014)4)を用いて実施する。
(表2)。
「思考力・判断力・表現力の育成」は、生徒が作成したコンセプトマップのワードの数やつ
ながり方より検証する。協同学習による他者との交流がワードのつながりにどのように影響し
たのか分析する。また、英語科は、コンセプトマップに記載できるワードが少ないため、ワー
クシートの記載内容や交流内容から検証を行う。
表1 協同作業認識尺度(長濱ら2010)抜粋
1 協同では、素直に意見交換することが大事である。
2 難しい勉強でも、グループのみんなと一緒にやれば、できる気がする。
3 協同は、勉強が苦手な人たちを助けるための方法である。
4 協同ならば、他の人の意見を聞くことができるので自分の知識も増える。
5 たくさん勉強しなければならないときでも、グループのみんなと一緒にやれば、できる気がする。
6 勉強が苦手な人たちは、助け合わなければならないが、勉強が得意な人たちが助け合う必要はない。
7 みんなで色々な意見を出し合うことは役に立つ。
8 協同では、グループのメンバーからの期待にこたえるために、がんばりたい。
9 勉強が得意な人たちが、わざわざ協同する必要はない。
10 協同することで、一人では考えつかないような解決方法(アイデア)を考え出すことができる。
11 勉強が苦手な人は、協同することで、よい成績をとることができる。
-中学力 5-
12 勉強が得意な人は、協同することで、もっとよい成績をとることができる。
13 一人でやるよりも、協同した方が、よい成績をとることができる。
14 協同は、グループのメンバーを信頼することが大事だ。
表2 他者との関わりによるメタ認知尺度(高垣ら2014)
1 グループの話し合いで、友だちの意見と自分の意見を比べながら聞くようにしている。
2 グループで話し合いをしていると、自分の考えがまとまることがある。
3 先生と話をしているうちに自分の考えがはっきりしてくることがある。
4 先生の説明と自分の意見を比べながら聞くようにしている。
5 先生の説明を聞いていると、自分の考えがまとまることがある。
6 グループの話し合いで友だちの意見を聞いて、自分の意見を考え直すことがある。
7 先生のアドバイスを聞いて、自分の意見を考え直すことがある。
-中学力 6-
Ⅴ 研究の実践
<英語科の実践> 中学校第1学年 桐生市立清流中学校 藤生 朋子
1 単元名 Unit6 ベッキーのおばあちゃん
2 章の目標
三人称単数現在形の形、意味、用法を理解し、第三者を紹介する表現をすることができる。
3 学習計画(全10時間予定、本時は9時間目)
時 学習活動 指導上の留意点及び支援 評価項目【観点】(方法)
1 ○三人称単数現在形の形、 ○イラストなどを使い、三人称の ○三単現の用法を理解し、
2 意味、用法を理解する。 概念をわかりやすく理解させる。 正しく使うことができる。
○ Unit6-1 の内容を理解す 【知識・表現】(WS)
る。
3 ○三人称単数現在形(疑問 ○既習事項の一般動詞 Do you ~? ○三単現の疑問文の用法を
4 文)の使い方を学習する。 から導入することで、違いが分か 理解し、正しく使うことが
○ Unit6-2 の内容を理解す るようにする。 できる。
る。 【知識・表現】(WS)
5 ○三人称単数現在形(否定 ○既習事項の一般動詞否定文 I don't ○三単現の否定文の用法を
6 文)の使い方を学習する。 と比較することで、違いがわかる 理解し、正しく使うことが
○ Unit6-3 の内容を理解す ようにする。 できる。
る。 【知識・表現】(WS)
7 ○三人称単数現在形の文を ○個人で書かせた後に、グループ ○三単現の文を使って第三
8 使って、第三者を紹介する 活動でアドバイスをさせあい、文 者を紹介することができる。
スピーチ文を作成する。 を訂正したり推敲したりさせる。 【表現】(WS)
9 ○作成したスピーチをグル ○スピーチテストに向けたアドバ ○人に伝わる英語を意識し
本 ープで発表する。 イスをさせあい、人に伝わる英語 ながら、スピーチの発表を
時 を意識させる。 することができる。
【表現】(アドバイスシート
・観察)
10 ○スピーチテストを行う。 ○評価項目、規準を明確にするこ ○人に伝わる英語を意識し
とで、気を付けるべきことを意識 ながら、スピーチの発表を
させる。 することができる。
【表現】(パフォーマンス)
4 本時
(1)ねらい
相手に伝わるような口調で、第三者を紹介する文を発表することができる。
(2)授業改善の視点
スピーチを推敲したり、練習したりする過程で、グループ活動による意見交換の場面を取
り入れたことは、生徒相互の思考力、表現力を育成するのに有効であったか。
(3)準備
-中学力 7-
ワークシート、付箋紙(アドバイスカード)
(4)展開
学習活動 時 形 指導上の留意点及び支援・評価
間 態 (◎:留意点・○:支援)
1.導入 5 全 ○低位の生徒のところへ行き、間違った発音や読めない部
・あいさつ 体 分をサポートする。
・ぺらぺら English ・
(ペアでの基本文確認活動) ペ
・単語発音練習 ア
【今日のめあて】相手に伝わるように、スピーチを発表しよう。
2.スピーチ発表 35 グ ◎教師のデモンストレーションにより、「どうすれば人に
6人グループ内で、第三者(有 ル 伝わるか」というポイント(声の大きさ、スピード、アイ
名人など)を紹介する文をス ー コンタクト)を再確認させる。
ピーチする。 プ ◎声の大きさやアイコンタクトなど、自分が意識するポイ
ントに気を付けさせながら練習させる。
①個人でスピーチの練習をす ◎発表者に、自分が一番意識するポイントをグループのメ
る。 ンバーに伝えさせる。
◎発表者に向けてスピーチのアドバイスを付箋に書かせ、
②発表者以外のメンバーは、 発表者に渡させる。
スピーチを聞いて誰の説明文 ○最終目標がスピーチテストであるということを確認し、
なのか推測する。また、発表 自分やグループのメンバーのスピーチをよりよくするため
者へのアドバイスカードを書 にはどうすればいいか、という点からアドバイスを考えら
く。 れるよう声かけをする。
3.まとめ 10 全 ○グループのメンバーからのアドバイスを整理し、本番の
発表で何名かクラスの前で発 体 スピーチテストに生かすように伝える。
表する。 ・ 〈本時の評価項目〉
スピーチテストへ向けて、自 個 【思】人に伝わる英語を意識してスピーチしている。
分のスピーチの改善点を確認 別 (観察)
し、まとめる。
(5)協同学習の様子
<グループ発表の様子> <アドバイスカードを書いている様子>
-中学力 8-
5 結果
(1)質問紙調査
協同学習の事前と事後に、生徒を対象に4件法での質問紙調査を行った。事前と事後を比
較し、特に変容が顕著であった質問項目の結果を以下に示す。
① 協同学習に対する認識の変化
ア グループ学習では、グループのメンバーからの期待にこたえるために、がんばりたい。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・積極的にアドバイスをすることができた。
・友達の良い点と改善点を見つけることができた。
イ 難しい勉強でも、グループ(ペア)のみんなでやれば、できる気がする。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・本番前に友達に聞いてもらえてよかった。
・英文を友達に直してもらえたので、発表に自信がもてた。
② 協同学習によるメタ認知の効果
ア グループの話し合いで友達の意見を聞いて、自分の意見を考え直すことがある。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・自分では声が出ていたと思っていたけど、アドバイスを聞いて、テストではもっと大きな声
で発表しようと思った。
-中学力 9-
・イントネーションをつけることに挑戦してみようと思った。
(2)ワークシート
学習後のワークシートの記載から、協同学習による学習における顕著な変化を次にまとめた。
ア 英文を作る過程における交流内容(指摘し合えたこと)
・誤 He is a soccer club. → 正 He is in a soccer club. (前置詞の挿入)(3件)
・誤 She haves a cat. → 正 She has a cat. (不規則変化の三単現の動詞の訂正)(6件)
・誤 She is a teacher → 正 She is a teacher. (ピリオドの忘れ)(12件)
イ スピーチにおける交流内容(指摘し合えたこと)
・多いアドバイス ①声が小さかった。(18件)
②アイコンタクトができていなかった。(8件)
③読むスピードが速すぎた(4件)
6 成果と課題( ○成果 ●課題 )
(1)協同学習の効果
①協同学習に対する認識の変化
○協同学習を通して、生徒は「メンバーからの期待に応えたい、頑張りたい」と感じるよう変
化がみられた。低位の生徒でも日本語でアドバイスができたことや、英語が得意な生徒は英
文の添削において力を発揮し、自己有用感をもてたことが要因であると考える。変容した生
徒の感想から、上位の生徒だけでなく、低位から中位の生徒もグループのメンバーの役に立
てたと感じられたと推察される。
●低位の生徒への英作文における十分な事後指導が必要である。
英文を推敲する段階での話合いは、低位の生徒が上位の生徒にほとんど英文を作ってもらっ
ている場面が見られた。しっかりとした事後指導を行い、低位の生徒の英語を書く力を定着
させることが必要である。
②協同学習によるメタ認知の効果
○協同学習を通し、「友達の意見を聞いて、自分の意見を考え直す」ことについて効果が見ら
れた。スピーチの学習は、英文を書く段階から英文推敲、発表練習まで、「相手に伝わる英
語」を一貫した目標に設定して取り組ませた。目標を意識させた結果、生徒の感想には、「自
分ではできていると思っていたが、グループのメンバーに改善点として指摘された」、「難
しい単語をこんなに使ったら、聞いている方がわからない」、「もっと英語にしやすい日本
語をまず考えたらいいのではないか」などが多く見られた。適切な目標を設定し協同学習を
行うことで、新たな考えや視点を交流し考えを深めることができたと推察される。さらに、
協同学習は「相手に伝わる英語」を意識させるための有効な手立てと考える。
-中学力 10 -
●グループの構成員を配慮し、協同学習に慣れさせる必要がある。
グループの構成員によって、有効なアドバイスを交流できた班と、そうでない班ができてし
まった。英語が得意で、発言がしっかりできる生徒のいるグループは、話合いが盛り上がり、
グループ全員が協力してそれぞれのスピーチをよくしようとしていたが、低位の生徒が多い
グループでは、話合いが止まってしまったところもあった。さらに、協同学習に生徒が慣れ
ていないということに起因していることもあると考える。今後、協同学習を授業に取り入れ、
全員が積極的な態度で臨めるよう環境を整える必要がある。
(2)思考力・判断力・表現力の育成
○学習内容(文法)を意識した修正に効果が見られた。
日本語によるスピーチ原稿から英語に作文する過程で協同学習による交流は、生徒が互いに
指摘し合えたことが分かる。上位層の生徒が中心となり、下位層の生徒に指摘することで正
しい英語表記となったと考えられる。学び合いが成立し、正しい英語表現につなげることが
できた。
○客観的な指摘から自己のスピーチの状況について正確に理解することに効果が見られた。
声の大きさは客観的に捉えることは難しい。協同学習による交流は、他者の指摘により自己
理解を深めることができたと考えられる。また、他のアドバイス「アイコンタクト」や「わ
かりやすいスピード」から、スピーチは相手(聞き手)を意識して表現することである、と
生徒が気付けたことがわかる。交流によって他者を意識した表現を理解することにつながっ
たと考えられる。
●クラスの前での発表は声が小さい傾向があり、継続的な指導が必要である。
スピーチの練習の際の「声が小さい」というアドバイスを、本番のスピーチテストでは生か
すことができた生徒が多く、ほとんどの生徒が「声の大きさ」でA「満足」B「おおむね満
足」の評価であった。しかし、クラスの前での発表となると、恥ずかしがって小さな声にな
ってしまう生徒がまだたくさんいるので、日々の授業から徹底していきたい。
●英文のチェックは、低位の生徒への配慮が必要である。
英文のチェックに関しては英語の得意な生徒は活躍できたが、低位の生徒は受け身になって
しまった。今後は、ワークシートを工夫し、「英語にしやすい日本語」を考える段階でアド
バイスし合ったことを書き込めるような形式を採用し、低位の生徒の意見を反映させ、自己
有用感をもたせたい。
-中学力 11 -
<保健体育科の実践> 中学校第1学年 桐生市立境野中学校 御子柴由季
1 単元名 陸上競技(ハードル走)
2 単元の目標
(1)ハードル走の学習に積極的に取り組むとともに、ルールやマナーを守り、役割を果たそう
とすること、健康・安全に気を配ることができるようにする。 【関心・意欲・態度】
(2)技能チェックカードを活用し、ハードル走の技術的ポイントを見つけたり、ペアの課題に
応じた運動の取り組み方を工夫したりできるようにする。 【思考・判断】
(3)記録の向上や競争の楽しさや喜びを味わい、リズミカルな走りから滑らかにハードルを越
すことができるようにする。 【技能】
(4)陸上競技の特性や成り立ち、技術の名称や行い方、関連して高まる体力などを理解するこ
とができるようにする。 【知識・理解】
3 学習計画(全6時間予定、本時は4時間目)
時 学習活動 指導上の留意点及び支援 評価項目【観点】(方法)
1 オリエンテーション
○ハードル走の意義、特性 ○単元の流れや授業におけるルー ○ハードル走の学習に取り
や成り立ち、単元の流れ、 ルやマナーを守ることなどについ 組もうとしている。
授業におけるルールやマナ て説明し、生徒が安全で効率よく 【関心】(観察)
ーを知る。 授業に取り組めるようにする。 ○ルールやマナーを守ろう
○50m走のタイム測定を ○50m走の結果からペア(男子 としている。
行い、タイムの近い者同士 7組、女子5組)を作り、教え合 【関心】(観察)
でペアをつくる。(男子7 い学習が効率良く行えるようにす
組、女子5組) る。
○50m走の結果から50 ○50m走の記録を参考に50m ○ハードル走の特性や成り
mハードル走の目標タイム ハードル走の自己の目標タイムを 立ちについて理解している。
を設定する。 設定させる。 【知識・理解】(学習カード)
○ハードル走の基礎を練習
し、自分にあったインター
バルを見つけ、試しの50
mハードルのタイム測定を
行う。
2 ハードル走の練習
○フォーム練習(「マット ○それぞれのハードル走の練習方 ○ハードル走の学習に取り
柔軟」「抜き足」「歩きハー 法を体験させながら、技術的ポイ 組もうとしている。
ドル」)とハードリング練 ントが確認できるように師範や助 【関心】(観察)
習(「新聞つっこみ」「リズ 言をする。 ○ルールやマナーを守ろう
ム走」「ハードリング」)の ○技能チェックカードを活用しな としている。
それぞれのやり方について がら「見る視点」を明確にした上 【関心】(観察)
体験し、技術的ポイントを で、教え合う場面で生かせるよう
確認する。 にする。
-中学力 12 -
○50mハードル走のタイ
ム測定を行う。
3 ペア学習
4 (技能チェックカードを活用) ○学習カードや技能チェックカー ○ハードル走における技術
本 ○ペアの課題に合った練習 ドを参考にして、今日のめあてを 的ポイントを見つけている。
時 方法を、フォーム練習3種 話し合わせる。 【思考・判断】(観察)
類とハードリング練習3種 ○ペアの課題に合った練習方法が ○授業を振り返り、自己の
類からそれぞれ1つずつ選 選べるよう助言する。 課題をつかんでいる。
び練習する。 ○ペア学習では、生徒の実態に合 【思考・判断】(学習カード)
○50mハードル走のタイ わせ、教師が個に応じて指導を行
ム測定を行う。 う。
5 ペア学習
6 (デジタルカメラを使用) ○デジタルカメラの映像に対して ○リズミカルな走りから滑
○ペアで互いのハードリン 学習カードや技能チェックカード らかにハードルを越してい
グをデジタルカメラで撮影 を参考にして、互いにアドバイス る。 【技能】(観察)
し、気づいたことをアドバ し合うよう助言する。
イスする。
○50mハードルのタイム
測定を行う。
4 本時
(1)ねらい
ペアの課題に応じた練習方法を選び、互いに教え合いながら練習することができる。
(2)授業改善の視点
課題解決の場面において、ペア学習を取り入れたことは、生徒相互の思考力・判断力・表
現力を育成するのに有効であったか。
(3)準備
ハードル24台、ミニハードル5台、技能チェックカード、ホワイトボード、タイマー、
ストップウォッチ、走り高跳び支柱2組、新聞紙、長机、学習カード、筆記用具
(4)展開
学習活動 時 形 指導上の留意点及び支援・評価
間 態 (◎:留意点・○:支援)
1.整列・挨拶・欠席者等の 10 全 ◎前時を振り返り、本時の意欲づけとなるよう、言葉掛け
確認をする。 体 をする。
2.ウォーミングアップを行 ◎5分間走では、心拍数120程度の強度で走るように声
う。 掛けをする。
・5分間走を行う。 ○体育係を中心に、号令に合わせて教師が率先して声を掛
・心拍数の測定を行う。 ける。
・全体で準備運動を行う。 ◎必要な部位をしっかりと曲げ伸ばしできるように言葉掛
けをする。
【今日のめあて】ペアの課題に応じた練習方法を選んで、互いに教え合いながら練習しよう!!
-中学力 13 -
3.本時の流れと本時のめあ 5 ペ ○学習カードから前時の学習を振り返り、ペアに合っため
てを確認した後、学習カード ア あてが立てられるように助言する。
や技能チェックカードを参考 ○技能チェックカードを参考に、技術的ポイントなどめあ
にして、ペアで話し合いなが てに書き加えられるように助言する。
ら、今日のめあてを立てる。
4.ペアになり、以下の種目 20 ペ ○選んだ技能チェックカードはホワイトボードにはり、持
の中から2種目を選び、練習 ア ち歩くよう指示する。
を行う。 ○フォーム練習からハードリング練習に移動する時には、
・フォーム練習3種目「マッ 素早く移動できるように声を掛ける。
ト柔軟」「抜き足」「歩きハー ○生徒の動きを観察し、うまくいかない生徒には、技能チ
ドル」より1種目を選択する。 ェックカードを参考にするように促したり、アドバイスを
・ハードリング練習3種目 したりする。
「新聞つっこみ」「リズム走」 ◎T1・T2の位置関係に配慮し、生徒の実態に応じた個
「ハードリング」より1種目 別指導を行う。
を選択する。 〈本時の評価項目〉
【思】ハードル走における技術的ポイントを見つけて
いる。(観察)
5.50mハードルの記録測 10 全 ○記録測定においては、ペアでの役割を確認し、効率よく
定を行う。 体 交替できるように指示する。
・各自にあったインターバル ◎タイム測定時に、効率よく進むように声掛けを行う。
(6.5 m、7 m、7.5 m)のコ ○ペアの相手が測定を行っているときには、もう一人は必
ースを選び測定を行う。 ず走りを見ていて、気づいたことなどをアドバイスするよ
・デジタルカメラで撮影をす う指示する。
る。
6.本時の振り返りと次時の 5 全 ○めあてを達成できたか自己評価させ、技能チェックカー
めあてを考え、学習カードに 体 ドや学習カードのキーワードを参考に具体的な表現で書く
記入する。 ように声掛けを行う。
◎次時に挑戦したい課題についても考えるように促す。
〈本時の評価項目〉
【思】授業を振り返り、自己の課題をつかんでいる。
(学習カード)
(5)協同学習の様子
<一斉指導の様子> <ペア学習の様子>
-中学力 14 -
5 結果
(1)質問紙調査
協同学習の事前と事後に、生徒を対象に4件法での質問紙調査を行った。事前と事後を比
較し、特に変容が顕著であった質問項目の結果を以下に示す。(数値は人数の値である)
① 協同学習に対する認識の変化
ア ペア学習では、素直に意見交換することが大事である。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・自分では気づけないところを気づいてアドバイスをもらえた。
・ハードリングを見てもらい、「ぬき足がもう少し速く抜けると楽かも」と言われ、意識して
やってみたらスムーズに越すことができた。
・自分では出来ていると思っていたが、アドバイスをもらい、直そうと思った。
イ ペア学習は運動が苦手な人たちを助けるための方法である。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・ハードルは苦手だったが、ペアでやる安心感と楽しさがあった。
・痛い思いをしたことがあったから嫌いだったけど、ペアでやったらタイムが伸びた。
・難しかったハードルがペアでやると上達した。
② 協同学習によるメタ認知の効果
ア ペアの話し合いで友達と自分の意見を比べながら聞くようにしている。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・自分の直す部分が見つけやすくなった。
・自分では思いつかない意見がでてきた。
-中学力 15 -
イ ペアで話し合いをしていると、自分の考えがまとまることがある。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・友達と話をしていて、自分もうまくいかない部分だと気づけた。
(2)コンセプトマップ
24人中 ワードとワードをつなぎ、つながりの意味を付加できる。<十分満足> 10人
31人中 ワードとワードをつなぐことができる。<おおむね満足> 14人
図1 ワードとワードをつないだマップ 図2 つながりの意味を付加したマップ
6 成果と課題( ○成果 ●課題 )
(1)協同学習の効果
①協同学習に対する認識の変化
〇ペア学習を取り入れた協同学習を通して、生徒は「素直に意見交換する必要がある、苦手な
人を助ける方法」と感じるよう変化が見られた。ペア学習において、的確にアドバイスし合
うことで、ハードル走の技能を効果的に習得できたことに起因していると考える。変容した
生徒の感想から、適切なアドバイスを受け練習した結果、自身の上達を実感できたことで、
ペア学習への安心感や楽しさを感得したと考えられる。
②協同学習によるメタ認知の効果
〇ペアでの話し合いを通して、「友達と自分の意見を比べながら聞く」、「自分の考えがまとま
る」ことについて効果があった。ペア学習におけるアドバイスの交流が、新たな視点の気付
きにつながったことに起因していると考える。変容した生徒の感想から、相手にアドバイス
-中学力 16 -
をすることで、自身の振り返りができ、自身の習得できない部分にも気付くことができたと
考えられる。
●ペア活動における話し合いの時間を短くする必要がある。
互いにアドバイスをする過程で、うまく話し合いができず、時間が長くなるペアがあった。
話し合いの時間が長くなると、運動における技能の習得効果が減少する恐れがある。ペア学
習を効果的に行うためには、教師がペア学習におけるアドバイスの視点を事前に指導するか、
活動する時間を十分に設定するなど配慮する必要がある。
(2)思考力・判断力・表現力の育成
○ペアによる協同学習は、自己の技能を客観的に理解し正しく表現することに有効である。
つながりの意味を付加したコンセプトマップをかいた生徒の感想は、「自分ではきづけない
ところに気づけた」「アドバイスで抜き足ができるようになった」が見られた。生徒は、自
身の技能について客観的に理解できたことに起因すると推察される。他者に指摘されること
で正しいハードリングを習得できたと考えられる。さらに、技能が上達するにしたがって、
楽しさを感じ、「一人でやるより、二人でやる方が楽しくできた」などの感想につながった
と考えられる。
●アドバイスについて、改善する方法をわかりやすく伝えるための支援が必要である。
ワードをつなぐだけのコンセプトマップをかいた生徒の感想は、「アドバイスするのが難し
かった」、「何のアドバイスをしたらよいかわからなかった」が見られた。「抜き足」などの
アドバイスの視点を授業で生徒に伝えたが、改善策を生徒に伝えることが不十分であったこ
とに起因すると推察される。生徒に改善するための方法を簡潔に伝えることが必要である。
さらに、多くのペア学習を採用し、生徒自身がアドバイスに慣れることも必要である。
-中学力 17 -
<社会科の実践> 中学校第1学年 桐生市立新里中学校 大森 健
1 単元名 (地理的分野)世界の諸地域 「アフリカ州」 (帝国書院)
2 単元の目標
(1)アフリカ州の地域的特色に関心を持ち学習課題について意欲的に取り組むことができる。
(社会的事象への関心・意欲・態度)
(2)アフリカ州の地域的特色を、様々な視点から多面的・多角的に考察するとともに、それを
適切にまとめ、表現することができる。 (社会的な思考・判断・表現)
(3)地図やグラフ、写真などの様々な資料を適切に読み取り、分かった内容をマップ等でまと
めることができる。 (資料活用の技能)
(4)学習課題を追求する学習を通して、アフリカ州の地域的特色や課題を理解することができ
る。 (社会的事象についての知識・理解)
3 学習計画(全6時間予定、本時は5時間目)
時 学習活動 指導上の留意点及び支援 評価項目【観点】(方法)
1 ○アフリカの特徴につい ○学習課題を提示し、予想させる ○アフリカの地域的特色に
て、予想・発表する。 ことで、課題解決への意欲を高め 関心を持ち、学習課題につ
られるようにする。 いて意欲的に考えようとし
○アフリカから連想される ○マイナスイメージばかりでなく、 ている。【関】
キーワードを集め、コンセ プラスのイメージについても出さ (発表・コンセプトマップ)
プトマップを作成する。 せるように発問を工夫する。
○単元を貫く学習主題を設 ○想像しにくいアフリカについて、
定する。 もっと知ってみたいという気持ち
を掘り起こさせる。
2 ○アフリカの自然環境につ ○アフリカの特色ある地形や気候 ○アフリカ州の自然環境に
いて理解する。 について理解させるために、白地 ついて理解し、その知識を
「アフリカの自然環境につ 図に書き込んでいく作業を取り入 身に付けている。【知】
いて説明しよう」 れる。 (発言・ノート)
3 ○アフリカの歴史的背景と ○植民地支配されていた歴史につ ○アフリカ州の歴史的背景
文化について理解する。 いて、言語の面から、既習のヨー を理解し、その知識を身に
「植民地支配が与えた影響 ロッパでの学習を振り返らせなが 付けている。【知】
について説明しよう」 ら理解させる。 (発言・ノート)
4 ○アフリカの産業について ○モノカルチャー経済と自立へ向 ○アフリカ州の産業につい
理解する。 けた取り組みについて、東南アジ て理解し、その知識を身に
「モノカルチャー経済の問 ア諸国の工業化を振り返らせなが 付けている。【知】
題点について説明しよう」 ら理解させる。 (発言・ノート)
5 ○学習課題について、A ~ ○ジグソー学習を取り入れ、各視 ○学習課題について、多角
本 D の4つの視点に分かれて 点に分かれて調べさせる。資料を 的・多面的に考察し、その
時 調べる。(エキスパート学 準備しておき、資料からわかるア 過程や結果を適切に表現し
習) フリカの特徴を読み取らせ、ホー ている。【思】
ムグループに持ち帰らせるように (発表・ワークシート)
-中学力 18 -
する。
A:環境的視点 B:歴史的視点 C:文化的視点 D:産業的視点
○調べたことをもとにし ○様々な視点からアフリカを考察
て、班としての結論をまと させ、各班で「アフリカのキャッ
め発表する。(ホーム学習) チコピー」を考えさせる。
6 ○各班の意見をクラス全体 ○安易に、班の考え=自己の考え ○学習課題について、多角
で共有し、意見交換を行う。 とするのではなく、全体で話し合 的・多面的に考察し、その
(クロストーク学習) う中で自己の考えを深められるよ 過程や結果を適切に表現し
○各自で学習の振り返りを うにする。 ている。【思】
し、コンセプトマップにま ○第1時で作成したコンセプトマ (発表・コンセプトマップ)
とめる。 ップと対比させることで、学習の
深まりを実感させる。
4 本時
(1)ねらい
「アフリカのキャッチコピーを考えよう」という本時の学習課題について、読み取った
資料を根拠として、多面的・多角的に考察することができる。
(2)授業改善の視点
課題追求の場面においてジグソー学習を取り入れ、グループでアフリカの特徴を表すキ
ャッチコピーを作らせたことは、アフリカの特徴を多面的・多角的に考察する上で有効で
あったか。
(3)準備
生徒:視点A~Dのエキスパート資料 ・発表用カード ・ワークシート
教師:説明用フラッシュカード
(4)展開
学習活動 時 形 指導上の留意点及び支援・評価
間 態 (◎:留意点・○:支援)
1.導入 5 全 ◎第1時で書いたコンセプトマップを見ながら予想をする
○単元の学習課題を確認す 体 ことで、学習課題を解決しようとする意欲を高める。
る。 ◎本時の学習イメージをつかませ、スムーズに学習に移れ
○ジグソー学習の手順を確認 るようにする。
する。 ◎できるだけ生徒が希望するグループに入れるよう、選ば
○ A ~ D のエキスパートグ せる。
ループを選ぶ。
学習課題:アフリカのキャッチコピーを考えよう
2.エキスパート学習 15 エ
○各班から A ~ D のエキス キ A:自然環境「豊かな自然」パートグループに分かれて、 ス ・砂漠やサバンナ、熱帯雨林などの多くの自然があり、
-中学力 19 -
資料からアフリカの特徴を読 パ それが野生動物や気候の多様性につながっていること
み取る。
ー
に気づかせる。
ト B:歴史「植民地支配」グ ・ヨーロッパ列強による植民地支配から、奴隷貿易や
ル プランテーションという負の側面に気付かせる。
ー
C:文化「ヨーロッパとのつながり」プ ・ヨーロッパとの結びつきが強く、現在でも人や文化
の交流があることに気付かせる。
D:産業「豊富な鉱産資源」・鉱産資源が豊富にあり、近年需要の高いレアメタル
の埋蔵量も多いことから、今後大きく成長する可能性
があることに気付かせる。
◎エキスパートグループの中で話し合いながら、資料から
わかるアフリカの特徴の手がかりを探らせるようにする。
また、根拠についても話し合えるようにする。
○資料の一部分を見るのではなく、全体を見て特徴をまと
められるように助言する。
○一人で進めるのではなく、話し合いながら進めさせるこ
とで、全員が情報を共有できるようにする。
3.全体で情報を共有し、ま 10 全 ◎発表をもとに、教師が黒板にキーワードを整理していく
とめる。 体 ことで、情報の共有化と思考の整理をする。
○ A ~ D へ順に読み取れた ◎プラス面とマイナス面を色別に分けて考えさせること
ことを発表する。 で、どちらか一方に偏ることがないようにする。
4.ホーム学習 15 ホ ◎短い文章で表現させることで、アフリカの特徴を的確に
○調べたことを持ち寄り、ア
ー
まとめられるようにする。
フリカの特徴を表すキャッチ ム ○大事な事は何かを考えさせることで、持ち寄った情報を
コピーを考える。 グ 総合的に判断させる。
ル 〈本時の評価項目〉
ー
【思】学習課題について、多角的・多面的に考察し、
プ その過程や結果を適切に表現している。(発言・WS)
4.発表・まとめ 5 全 ◎キャッチコピーの理由について発表させることで、クラ
○班ごとにキャッチコピーを 体 ス全体で班の考えが共有できるようにする。
発表する。 ◎かたよった考えで終わらせないように、アフリカにはプ
ラス面とマイナス面の両面があることを確認する。
◎アフリカの特徴と課題について、理解できたかどうかを
確認する。
○次時の予告を聞く。 ◎次時のクロストーク学習では、それぞれの班の考えを見
比べながら良い点と改善点について、全体で話し合うこと
を伝える。
-中学力 20 -
(5)協同学習の様子
<一斉授業の様子> <エキスパート学習の様子>
5 結果
(1)質問紙調査
協同学習の事前と事後に、生徒を対象に4件法での質問紙調査を行った。事前と事後を比
較し、特に変容が顕著であった質問項目の結果を以下に示す。(数値は人数の値である)
① 協同学習に対する認識の変化
ア グループ学習では、グループのメンバーからの期待にこたえるために、がんばりたい。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・自分の発言によって、みんなが気づかなかったことに気づけてうれしかった。
・他の人が気づかなかったことに自分が気づいて、その意見が採用されたのがうれしかった。
② 協同学習によるメタ認知の効果
ア グループで話し合いをしていると、自分の考えがまとまることがある。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
-中学力 21 -
・いろんな意見があって、一人で考えるよりもわかりやすかった。
・友達に説明したことで、もっとわかるようになった。
イ グループの話し合いで友達の意見を聞いて、自分の意見を考え直すことがある。
【肯定的な回答に変容した生徒の感想】
・なんで黒人(白人)が混ざっているのかわからなかったが、友達が「航空便でつながってい
るからじゃない?」と言っていたのを聞いて、「なるほど」と思った。
・班でキャッチコピーを考えているとき、自分の考えつかなかったことを友達が付け加えてく
れたおかげで、納得するものができた。
(2)コンセプトマップ
31人中 ワードとワードをつなぎ、つながりの意味を付加できる。<十分満足> 19人
31人中 ワードとワードをつなぐことができる。<おおむね満足> 12人
図1 ワードとワードをつないだマップ 図2 つながりの意味を付加したマップ
6 成果と課題( ○成果 ●課題 )
(1)協同学習の効果
①協同学習に対する認識の変化
○ジグソー学習を取り入れた協同学習を通して、生徒は「メンバーからの期待に応えたい、頑
張りたい」と感じるような変化がみられた。ジグソー学習において、自己の発言が認められ
る場面が意図的に設定されたことに起因していると考える。変容した生徒の感想から、自分
の考えがグループ内に同意されたり、新たな視点であることで、グループ内に貢献したい気
-中学力 22 -
持ちが増したと考えられる。
②協同学習によるメタ認知の効果
○ジグソー学習を取り入れた協同学習を通して、「自分の考えをまとめる」、「友達の意見を聞
いて、自分の意見を考え直す」ことについて効果があった。ホーム学習における話し合い活
動の活性化に起因していると考える。ホーム学習は、それぞれ持ち寄る資料が異なることで
様々な意見を基にした話し合い活動となる。変容した生徒の感想から、他者に説明すること
で理解が促進されたことや、積極的な意見交流が思考を整理させたと考えられる。さらに、
他者による新たな視点を指摘されたり、自分の考えに他者の考えを付加させたりすることで、
自己の考えを深め広げることができたと考えられる。
●ジグソー学習の経験が必要不可欠である。
生徒の動きが多くなるため、経験していないとスムーズに次の学習に移ることができなくな
ってしまう。ジグソー学習をより効果的に行うためには、生徒の思考の流れを止めずに動く
ことが重要である。
●エキスパートグループでの活動内容を精選することが肝心である。
本時ではエキスパート学習において共通の資料からアフリカ州の特徴を読み取らせたが、資
料の選択が不適切だと、その後のホーム学習における活動が滞ったり、内容が偏ったりして
しまう恐れがある。適切な資料の準備と、読み取れなかった場合に備えてヒントカード等の
手立てを講じておく必要がある。
(2)思考力・判断力・表現力の育成
○協同して社会的事象について多面的に公正に判断することに有効である。
つながりの意味を付加したコンセプトマップをかいた生徒の感想は、「ジグソー学習をやっ
てみて一人だと難しいこともみんなでやればできそうな気がした」、「みんなで協力してい
る感じがして楽しかった」が見られた。生徒は、協同して問題を解決したことが考えられる。
また、ホーム学習において自己の意見を押し通そうとせず、他者の意見を聞いて自己の意見
と比較して思考している様子が見られた。エキスパート学習における異なる事象をもち寄り、
問題を解決することで、一面的な考察や判断に陥ることなく、様々な角度から公正に判断す
ることにつながったと推察される。
●ジグソー学習の機会を多くし、様々な情報を総合的に判断し思考する力を身に付けさせるこ
とが必要である。
ワードをつなぐだけのコンセプトマップをかいた生徒の感想は、「ジグソー学習が難しかっ
た」「どうやって考えていいか分からなかった」が見られた。生徒は、エキスパート学習に
おいてグループ内で協力することが少なく、一人で解決しようとする傾向が見られた。また、
他人任せにしたため、ホーム学習で調べた内容を十分に伝えられないという場面も見られた。
学習内容の理解不足のためにうまく説明できなかったり、聞き手が自分の考えと繋げて考え
直すことができなかったりしたことに起因すると考えられる。ジグソー学習を頻繁に行い、
協同する過程で、情報を総合的に判断し、思考する力を身に付けさせることが必要である。
-中学力 23 -
Ⅵ 研究のまとめ
1 成果
(1)協同学習の効果
①協同学習に対する意識の変化
○他者と関わり合うことで自己有用感を得て意欲が増した。
・英語科では、グループによる協同学習を通して、上位の生徒だけでなく、低位から中位の生
徒もグループのメンバーの役に立てたと感得できた。
・保健体育科では、ペアによる協同学習を通して、適切なアドバイスを受け練習した結果、自
身の上達を実感できたことで、安心感や楽しさを感得できた。
・社会科では、ジグソー学習を通して、自分の考えがグループ内に同意されたり、新たな視点
であることで、グループ内に貢献したい気持ちが増した。
②協同学習によるメタ認知の効果
○他者の意見を聞いて自己の考えを深め広げることができた。
・英語科では、適切な目標を設定し協同学習を行うことで、新たな考えや視点を交流し考えを
深めることができた。
・保健体育科では、相手にアドバイスをすることで、自身の振り返りができ、自身の習得でき
ない部分にも気付くことができた。
・社会科では、他者に説明することで理解が促進されたことや、他者による新たな視点を指摘
されたり、自分の考えに他者の考えを付加させたりすることで、自己の考えを深め広げるこ
とができた。
(2)思考力・判断力・表現力の育成
○他者の客観的な指摘によって、自己理解が深まり、さらに、多面的で公正な思考ができた。
・英語科では、他者の指摘により自己理解を深めることができた。交流によって他者を意識し
た表現を理解することができた。
・保健体育科では、他者に指摘されることで正しいハードリングを習得できた。さらに、技能
が上達するにしたがって、楽しさを感じることができた。
・社会科では、エキスパート学習における異なる事象をもち寄り、問題を解決することで、一
面的な考察や判断に陥ることなく、様々な角度から公正に判断することができた。
2 課題
●協同学習の経験が必要不可欠である。
・他者へアドバイス(指摘)する視点や内容について十分に経験させる必要がある。さらに、
協同学習を深めるためには、交流する意味をもたせたり、交流の質を高める必要がある。
●下位群の生徒への配慮が必要である。
・下位群の生徒が積極的に交流に参加し、考えをもち深めることができるよう配慮する必要が
ある。自己の考えがもてるような支援やヒントカード等の工夫が必要である。
-中学力 24 -
参考文献
1)『学習の輪、学び合いの協同教育入門』ジョンソン、D.W.、ジョンソン、R.T.、ホルベック、E.J.著、石田
裕久、梅原巳代子訳、二瓶社、PP109-124
2)『先生のためのアイディアブック-協同学習の基本原則とテクニック-』ジョージ・ジェイコブス、
マイケル・パワー、ロー・ワン・イン著、伏野久美子、木村春江訳、日本協同教育学会
3)長濱文与・安永悟(2010)「大学生の協同作業に対する認識の変化‐対話中心授業と講義中
心授業を対象に‐」人間関係研究、9、pp.35-42
4)高垣マユミ・中西良文・田爪宏二(2014)「協同学習におけるメタ認知を促す教授方略が他
者との関わりの変化に及ぼす効果」三重大学教育学部研究紀要、第 65巻教育科学 pp.271- 278