難波正和 相原 聡 -...

14
01 光電変換膜積層型 撮像デバイスの技術動向 難波正和  相原 聡 8Kスーパーハイビジョンで多彩な番組を制作するためには,カメラの更なる高感度化や 小型化が求められている。NHKでは,これらの課題の解決に向けて,撮像デバイスの高 感度化を目指した「低電圧増倍膜積層型撮像デバイス」と,カメラの小型化を目指した「RGB 有機膜積層型撮像デバイス」の2種類の光電変換膜積層型撮像デバイスの研究開発を進 めている。いずれのデバイスも,光電変換膜を信号読み出し回路上に積層することで性 能の飛躍的な向上を目指すものである。本稿では,撮像デバイスの高感度化およびカメラ の小型化に向けた技術について解説するとともに,光電変換膜積層型撮像デバイスの研 究開発動向を紹介する。 1.まえがき 2018年12月1日, 8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の本放送が衛星放送で開始された。 8Kは,ハイビジョンの16倍にあたる約3,300万画素(7,680×4,320画素)の超高精細映像 と22.2チャンネルの3次元音響から成る新時代のテレビジョンシステムである。ハイダイナ ミックレンジや広色域などにも対応し,かつてない臨場感を楽しむことができる。 テレビジョンシステムの進化に対応して,放送用カメラに用いられている撮像デバイスも 進化を続けてきた。画像の精細さの目安となる画素数については,標準テレビジョンで約 40万画素であったのに対し,ハイビジョンでは約200万画素,8Kでは前述のとおり約3,300 万画素まで多画素化が進んだ。また,現在の8K放送ではフレームレート *1 は60Hzであ るが,現在開発が進められているフルスペック8Kにおいては,フレームレートを120Hzに 高めることで,より滑らかな動きの表現が可能となる。さらには将来の放送サービスを見 据えて,特別なメガネ無しで自然な立体映像を楽しむことができる空間像再生型立体テレ ビの研究なども進められている。これらの究極の高臨場感を目指した研究開発の進展とと もに,撮像デバイスについても高速化・多画素化・画素微細化などへの要望が続いていく と想定される。 一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて は,すでに以下のような課題が生じている。 ① 撮像デバイスの高速化に伴い,1フレーム期間 *2 内に入射する光量が減少するため, 撮像デバイスの感度が低下する。 ② 撮像デバイスの多画素化,画素微細化に伴い,1画素に入射する光量が減少するため, 撮像デバイスの感度が低下する。 ③ 課題①,②に対処するために撮像デバイスを大判化した場合,被写界深度 *3 が浅くな *1 単位時間当たりに撮影できる動 画像の枚数。単位はfps (frame per second)またはHz。 *2 動画像において,1枚の画面を 撮影するのに要する時間。 フ レームレートの逆数に等しい。 *3 ピントが合う範囲。 4 NHK技研 R&D No.174 2019.3

Upload: others

Post on 15-Mar-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解説01

光電変換膜積層型�撮像デバイスの技術動向難波正和  相原 聡

8Kスーパーハイビジョンで多彩な番組を制作するためには,カメラの更なる高感度化や小型化が求められている。NHKでは,これらの課題の解決に向けて,撮像デバイスの高感度化を目指した「低電圧増倍膜積層型撮像デバイス」と,カメラの小型化を目指した「RGB有機膜積層型撮像デバイス」の2種類の光電変換膜積層型撮像デバイスの研究開発を進めている。いずれのデバイスも,光電変換膜を信号読み出し回路上に積層することで性能の飛躍的な向上を目指すものである。本稿では,撮像デバイスの高感度化およびカメラの小型化に向けた技術について解説するとともに,光電変換膜積層型撮像デバイスの研究開発動向を紹介する。

1.まえがき2018年12月1日,8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の本放送が衛星放送で開始された。

8Kは,ハイビジョンの16倍にあたる約3,300万画素(7,680×4,320画素)の超高精細映像と22.2チャンネルの3次元音響から成る新時代のテレビジョンシステムである。ハイダイナミックレンジや広色域などにも対応し,かつてない臨場感を楽しむことができる。

テレビジョンシステムの進化に対応して,放送用カメラに用いられている撮像デバイスも進化を続けてきた。画像の精細さの目安となる画素数については,標準テレビジョンで約40万画素であったのに対し,ハイビジョンでは約200万画素,8Kでは前述のとおり約3,300万画素まで多画素化が進んだ。また,現在の8K放送ではフレームレート*1は60Hzであるが,現在開発が進められているフルスペック8Kにおいては,フレームレートを120Hzに高めることで,より滑らかな動きの表現が可能となる。さらには将来の放送サービスを見据えて,特別なメガネ無しで自然な立体映像を楽しむことができる空間像再生型立体テレビの研究なども進められている。これらの究極の高臨場感を目指した研究開発の進展とともに,撮像デバイスについても高速化・多画素化・画素微細化などへの要望が続いていくと想定される。

一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいては,すでに以下のような課題が生じている。① 撮像デバイスの高速化に伴い,1フレーム期間*2内に入射する光量が減少するため,

撮像デバイスの感度が低下する。② 撮像デバイスの多画素化,画素微細化に伴い,1画素に入射する光量が減少するため,

撮像デバイスの感度が低下する。③ 課題①,②に対処するために撮像デバイスを大判化した場合,被写界深度*3が浅くな

*1単位時間当たりに撮影できる動画像の枚数。単位はfps(frame per second)またはHz。

*2動画像において,1枚の画面を撮影するのに要する時間。 フレームレートの逆数に等しい。

*3ピントが合う範囲。

4 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 2: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

るとともに,カメラサイズが大きくなることから,画質に優れた3板カラー撮像方式*4を採用することが難しくなる。

NHKでは,これらの課題を解決する手段として,課題①,②に対しては,撮像デバイスの高感度化に向けた「低電圧増倍膜積層型撮像デバイス」,課題③に対しては,カメラサイズの小型化に向けた「RGB有機膜積層型撮像デバイス」の開発に取り組んでいる。本稿では,撮像デバイスの高感度化およびカメラの小型化に向けた技術と,光電変換膜積層型撮像デバイスの研究開発動向について解説する。

2.カメラの高感度化に向けた撮像デバイスの動向2.1 撮像デバイスの高感度化

8Kスーパーハイビジョンでは,光学サイズ*5が同じであると仮定すると,カメラに用いる撮像デバイスの1画素の面積はハイビジョンの1/16となり,さらにフレームレートがハイビジョンの2倍であるため,フレーム期間内に1画素に入射する光量は1/32に減少する。このため,撮像デバイスを大判化し画素サイズの拡大を図っているが,カメラサイズで制限を受けるため,現時点での画素サイズは2.1µmや3.2µm1)と,ハイビジョンの画素サイズである5µmを下回っており,光量不足は解消していない。さらに,最近では主にスポーツ番組でのスロー再生のために,フレームレートが240fpsの8Kカメラシステムも開発されており2),ますます1画素当たりの入射光量は減少する方向にあり,撮像デバイスの高感度化が課題となっている。

また,放送用カメラ以外でも,家庭用のデジタルカメラやスマートフォンではさらに小型化が求められ,これらの撮像デバイスにおいても,十分な明るさがない屋内や夜景などのさまざまなシーンで鮮明な画像を取得するために,やはり高感度化への要望が高まっている。さらには,監視カメラや車載カメラなどでは,低照度下においても確実に人物や物体を認識する必要があり,撮像デバイスの高感度化は,広く求められる課題である。

撮像デバイスの感度は,光入射により得られる信号の大きさと,信号に重畳されるノイズの大きさの比である信号対ノイズ比で決まる。一般的な撮像デバイスの原理構造図を1図に示す。撮像デバイスの各画素は,主に,入射光の量に応じた電荷(電子または正孔)を生成し蓄積する光電変換部と,蓄積された電荷を電圧または電流の電気信号として読み出すための信号読み出し回路で構成される。光電変換部と信号読み出し回路のそれぞれにおいて,信号を大きくする,あるいはノイズを小さくするための,以下に述べるようなアプローチがなされている。① 受光面に入射した光を光電変換部でより有効に電荷として利用することを目的とし,多

*4カメラに入射した光を色分解プリズムで光の三原色(青・緑・赤)に分離した後,3つの撮像デバイスで,それぞれの光を電気信号に変換することによりカラー撮像を行う方式。

*5撮像デバイスの有効撮像領域の対角長。 例えば2/3型の撮像デバイスでは約11mmとなる。

1図 撮像デバイスの原理構造図(断面)

信号読み出し回路

遮光

出力信号

画素

電荷

光電変換部

光 光光

5NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 3: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

くの光を光電変換部へ導くために,光開口率*6を増加させるとともに,光電変換部を透過する光を少なくするために,光吸収係数*7の高い材料を用いる。

② 光電変換部で生成された電荷を信号として読み出す回路の低ノイズ化を図り,信号対ノイズ比を大きくする。

③ 光電変換部で生成された電荷に対し,アバランシェなどの電荷増倍*8を行うことによって信号を増やし,信号対ノイズ比を大きくする(2図)。撮像デバイスの高感度化に関する最近の具体的な研究開発動向については,次節で述

べる。

2.2 撮像デバイスの高感度化に関する研究開発動向光の有効利用という面においては,光電変換膜と信号読み出し回路を分離・積層した

膜積層構造が,光開口率や膜の材料選択の自由度という点で有利と考えられ,これまでに,有機材料*9から成る光電変換膜(以下,有機膜)を積層した8K用CMOSイメージセンサー

(画素サイズ3µm)3)4)が報告されている。通常のCMOSイメージセンサーと光電変換膜積層型イメージセンサーの構造比較を3図に示す。通常のCMOSイメージセンサーでは,光電変換部であるシリコン(Si)フォトダイオード*10の光入射側に金属配線が形成されているため,入射した光の一部が遮られてシリコンフォトダイオードまで到達できないが,光電変換膜積層型では,有機膜が光入射側の最表面になり,100%の光開口率を得ることができる。さらに有機膜には,可視光全域でシリコンよりも光吸収率の良い材料5)が開発されており,従来のCMOSイメージセンサーと比較して,入射光の利用効率を高めている。

*6画素面積に対する光電変換部の面積の比。

*7物質の光の吸収しやすさを示す指標。

*8強い電界によって加速された荷電粒子が衝突によってエネルギーを失う際に,新たな電子・正孔対を発生させるインパクトイオン化を繰り返し起こさせることで,電荷を増倍する方法。

*9炭素を基本骨格とする化合物。

*10光を吸収して電流を出力する光検出器。

2図 アバランシェ増倍の原理図

3図 イメージセンサーの構造比較

電荷

光電変換部

この間に高電界を印加

出力信号

信号読み出し回路

出力信号 出力信号

画素

信号読み出し回路

金属配線

電荷

絶縁膜

画素電極

光電変換膜 (有機膜)

光電変換部 (シリコン)

光 光

画素

(a)光電変換膜(有機膜)積層型 (b)通常のCMOS型

走査 走査

金属配線

入ってきた光をすべて光電変換膜に導くことが可能

金属配線の影響で光電変換部に導かれる光量が減少

電荷

6 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 4: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

このように,光電変換膜積層型イメージセンサーは,光開口率が100%であることに加え,光電変換膜自体がシリコンを上回る感度特性を持つことから,同様に光開口率100%を実現する裏面照射型*11CMOSイメージセンサー6)よりも高い性能が期待されるデバイスの1つであると言える。

一方,CMOS等のイメージセンサーにおけるノイズ発生源は,製造のプロセスに起因するところが大きく,以前からシリコン基板内部の欠陥や不純物を制御することによる回路内部のノイズ低減が進められてきた7)。プロセスの改善が進み,ノイズレベルが下がってきた最近では,新しい読み出し方式や回路方式などによる更なる低ノイズ化の研究開発が活発になってきた。4図は,現在主流の4トランジスター型のCMOSイメージセンサーの画素の回路構成を簡素化して示したものである。フォトダイオード(PD:Photo Diode)で光により生成された信号電荷は,電荷量を電圧値に変換する浮遊拡散層(FD:Floating Diffusion)*12へ転送され,信号として読み出される。この浮遊拡散層から信号を読み出す際に,リセットノイズ*13が発生する。これを低減するために相関二重サンプリング*14と呼ばれるノイズ低減手法がある。さらに,この手法を発展させた,複数回のマルチサンプリングとその平均化処理によりノイズを低減する手法も報告されている8)。さらにリセット自体を行わない,リセットゲートレス画素構造も提案されている9)。この画素構造の試作では,ノイズが入力電子数換算で0.5電子以下という,これまでにない超低ノイズ化が達成できたことが報告されている。このように,回路の低ノイズ化は着実に進んできている。

アバランシェ増倍を適用した技術としては,シリコン基板をベースにした,SPAD(Single Photon Avalanche Diode)イメージセンサーやAPD(Avalanche Photo Diode)-CMOSイメージセンサーが報告されている。

SPADイメージセンサーは,光子1個が入射するとアバランシェ増倍によって1個の大きなパルスを出力するダイオードを画素ごとに並べた構造であり,発生したパルス数をカウントすることにより,信号を出力する。光子1個から検出できるものの,画素ごとにカウンターが必要なこと,また,増倍に高い電圧を要するため,絶縁破壊防止の耐圧構造が必要で,画素サイズが大きくなることから,これまでは多画素化が困難であった。しかし,最近では3 次元積層化技術によっ て256×256画素のものも報告され10),TOF(Time of Flight)*15を用いた距離計測によるLiDAR(Light Detection And Ranging)*16等,車載カメラへの応用を目的に研究・開発が活発になってきた。

APDイメージセンサーは,デバイスの深さ方向に光電変換部,アバランシェ増倍部を形成したイメージセンサー(画素数1,280×720)11)である。印加するバイアス電圧を変えることにより,アバランシェ増倍モードと通常のフォトダイオードモードを切り替え,星明り程

*11イメージセンサーの基板側(裏面)からシリコンフォトダイオードに光を入射させる方式。

*12シリコン基板上に設けられたコンデンサーのようなもの。その静電容量が小さいほど,同じ電荷量でも大きな電圧値に変換できる。

*13浮遊拡散層に転送された信号電荷をリセットするときに,リセットレベルに重畳されるノイズ。次の信号電荷が転送されたときに,ノイズとして重畳されてしまう。

*14時間的な相関性を利用し,浮遊拡散層に信号電荷が転送される直前のノイズだけの状態と,信号電荷が転送された状態との差分をとることでノイズを低減する手法。

*15カメラから赤外線などの光を物体に照射して,戻ってくるまでの時間を計測することで,物体までの距離を測る方法。

*16赤外線の照射と走査を行い,戻ってくる光を検出し,物体の検知や,そこまでの距離の計測等を行う装置。レーダーの電波を光に置き換えたもの。

4図 4トランジスター型CMOSイメージセンサーの画素回路の構成

PD

FD

TX

RST

SF

SEL

出力信号サンプリング回路へ

電荷(電子)

RST:リセットトランジスターTX: 転送ゲート

SF: 増幅トランジスター        SEL: 選択トランジスター

7NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 5: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

度の暗い環境下から日中の明るい環境まで,幅広い照度条件下で撮影が可能である。しかしながら,シリコンのアバランシェ増倍は,バイアス電圧に対して急峻に生じるため,増倍のゲイン制御が難しい。このため,アバランシェ増倍モードでは,電荷数が約105倍に増倍できるものの,光入射のある画素の出力信号の大きさは電荷蓄積部の大きさにより制限されるため,出力は光入射の有無による2値化されたものとなり,現状では,低照度下での微妙な階調表現はできていない。

以上のように,撮像デバイスの高感度化に関しては,さまざまな手法で取り組みが行われているが,8Kスーパーハイビジョンに適した解像度と画質を維持した上での飛躍的な感度向上は,まだ実現されていない。

2.3 低電圧増倍膜積層型撮像デバイスと当所における開発状況前節で述べた光電変換膜積層型撮像デバイスにおいては,100%の光開口率と光吸収

率の高い膜材料の選択により,入射した光を余すことなく利用した8K撮像デバイスが実現可能と言えるが,さらにアバランシェ増倍の機能をプラスすることができれば,飛躍的な高感度化が期待できる。

当所では,予備実験による検討を重ねた結果,シリコンよりも光吸収率が高く,かつ低電圧でアバランシェ増倍動作が可能な光電変換膜(以下,低電圧増倍膜と呼ぶ)の材

5図 Ga2O3とc-Seを組み合わせた膜の量子効率

6図 Ga2O3とc-Seを組み合わせた膜の光電変換特性

300

量子効率(%)

波長(nm)

120

100

80

60

40

20

0400 500 600 700 800

印加電圧2V

15V

23V

0

一定

の強

度の

光を

照射

した

とき

の出

力電

(×1

0-9A)

膜への印加電圧(V)

9

8

7

6

5

4

3

2

1

05 10 15 20 25 30

入射光:波長450nm強度2.5µW/cm2

アバランシェ増倍(量子効率100%以上)

8 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 6: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

料の1つとして結晶セレン(c-Se)を見いだした。結晶セレンでは,光吸収係数がシリコンより1桁以上高く,膜を500nm以下に薄くすることができる。このため,結晶セレン薄膜では,アバランシェ増倍に必要な107V/m以上という高電界12)を低い印加電圧で実現でき,CMOS回路上への積層が可能となる。これまでに,p型半導体*17である結晶セレンに,n型半導体*18である酸化ガリウム(Ga2O3)を組み合わせた光電変換膜をガラス基板上に作製し,可視光領域全域で高い量子効率*19が得られること,さらに,アバランシェ増倍により量子効率が100%を超えることを確認した(5図,6図)。また,CMOS回路(画素数:992×636,画素サイズ:3µm)上に結晶セレンを積層した試作デバイスにおいては,結晶粒のサイズを画素サイズ(3µm)よりも小さく制御することで画質を改善できることを確認した(7図)13)~15)。しかしながら,現時点では,暗電流が十分に抑制できていないこと,またアバランシェ増倍の開始電圧が約15Vと高いこと(6図)から,CMOS回路上での増倍動作の実証には至っていない。暗電流については,セレン結晶化時の膜剥がれ防止用に追加したテルル層の膜質改善による暗電流の抑制を図っている。暗電流の抑制については,本特集号の報告1「結晶セレンによる膜積層型撮像デバイスの暗電流低減」を参照していただきたい。またアバランシェ増倍の開始電圧については,酸化ガリウムへのスズ添加や膜厚の最適化などによる低電圧化を進めている。併せて,低電圧増倍膜の積層に適した当所独自の低ノイズCMOS回路の開発も進めており,早期の低電圧増倍膜積層型8K撮像デバイスの実現を目指している。

なお,本節で述べた光電変換膜を積層したデバイスの試作においては,CMOS回路の駆動に関して,パナソニック(株)オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社にご協力いただいた。

3.�カメラの小型化に向けたRGB積層型撮像デバイスの�開発動向

3.1 現状のカラー撮像方式現在のカメラで一般的に使用されているCMOSやCCDなどの撮像デバイスは,入射光

の強弱に応じた信号を出力するが,入射光の波長,すなわち色を選択する機能はない。そのため,光学レンズを通して入射した光を光学的な手法によって三原色である赤(R),緑(G),青(B)に分けてから撮像デバイスで受光することによりカラー撮像を実現している。8図に示すように,現在採用されている主なカラー撮像方式には,3枚の撮像デバイスでカラー情報を得る3板式(8図(a))と,1枚の撮像デバイスでカラー情報を得る単板式(8図(b))とがある。

主に業務用カメラに採用されている3板式では,入射光を色分解プリズムでR光,G光,

*17正孔が電気伝導に寄与する半導体。

*18電子が電気伝導に寄与する半導体。

*19入射した光子1個に対して出力される電子または正孔の数。通常の材料では100%以下であり,シリコンの場合は60%程度となる。

7図 c-Seを積層したCMOSイメージセンサーによる撮像例 (画素数:992×636,画素サイズ:3µm)

9NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 7: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

B光に分離した後,3枚の撮像デバイスでそれぞれを受光する。この方式は,感度や解像度,色再現性に優れている反面,色分解プリズムと3枚の撮像デバイスが必要なため,カメラの小型軽量化には限界がある。特に,ハイビジョンの16倍にあたる約3,300万画素が必要となる8Kカメラでは,使用する撮像デバイスの大判化に伴って色分解プリズムも大きくなり,カメラの小型化が一層難しくなる。

一方,民生用のビデオカメラやデジタルカメラ,スマートフォンなどに搭載されているカメラでは,1枚の撮像デバイスの表面に光の三原色に対応したカラーフィルターを配置した,単板式のカラー撮像方式が広く採用されている。人間の目は波長550nm付近のG領域に最も高い感度を示すため,8図(b)のように,全画素の1/2を,G光を透過するフィルターにして市松状に並べ,残りの部分にR光もしくはB光を透過するフィルターを並べた配置が主流である。この方式では,色分解プリズムが不要で撮像デバイスも1枚で済むことから,カメラの小型軽量化が実現されている。しかしながら,受光面内をカラーフィルターで離散的にR光領域,G光領域,B光領域に区切っていることから,R光,G光,B光の情報を離散的にしか取得することができないため,3板式と比較して入射光の利用効率や解像度などが原理的に劣るという問題がある。

以上のように,現状の3板式と単板式には一長一短がある。そこで,3板式と単板式のそれぞれの長所を考慮し,撮像デバイスの深さ方向,すなわち,光の進行方向に,光を三原色に分離するための3つの層を設け,それぞれの層から三原色の各光量に対応する

9図 光がSi内部に侵入する深さと光強度の関係

8図 現在のカラー撮像方式

赤(R)用撮像デバイス カラーフィルター

撮像デバイス色分解プリズム

緑(G)用撮像デバイス青(B)用撮像デバイス

B

R G

GG

B

RGR

GB

B

R G

GG

B

RG

(a)3板式 (b)単板式

0

光強度(%)

光が侵入する深さ(µm)

R光(波長 700nm)

G光(波長 530nm)

B光(波長 450nm)

100

80

60

40

20

01 2 3 4 5

10 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 8: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

電荷を独立に取り出すことができれば,原理上,3板式と同等な画質を有する小型の単板式カラー撮像を実現することが可能になる。このような,R光,G光,B光を分離する層を積層した構造を持つ「RGB積層型撮像デバイス」としては,シリコン(Si)フォトダイオードを積層したものと,有機光電変換膜を積層したものが提案されている。

3.2 SiフォトダイオードによるRGB積層型撮像デバイス半導体の光吸収係数は光の波長によって異なることが一般的であり,Siでは,R光のよ

うな波長の長い光の光吸収係数は小さく,波長が短くなるにしたがってその係数はほぼ単調に増加していく。R光(波長700nm),G光(530nm),B光(450nm)のそれぞれにおける,Si内部に侵入する深さとその深さでの光強度の関係16)を9図に示す。入射した光の量の半分がSiに吸収され,光の強度が入射時の50%に減衰する深さは,R光で約3.2µm,G光で約0.8µm,B光で約0.3µmであり,波長の長い光ほどSi基板の深くまで侵入することが分かる。

この現象を利用し,フォトダイオードをSi基板の深さ方向に積層した単板カラー撮像デバイスが開発されている17)。このデバイスの1画素の断面構造を10図に示す。Si基板の深さ方向にpn接合層*20から成るフォトダイオードが複数形成されており,白色光がこのデバイスに入射すると,波長の短いB光は基板表面に近いフォトダイオード付近で吸収され,B光より波長の長いG光は中間のフォトダイオードまで到達し,さらに波長が長いR光は最も深い場所のフォトダイオードまで到達してそれぞれ吸収される。各フォトダイオードでは,吸収された光の量に対応した電荷が生成され,これらを独立に取り出すことでカラー情報

*20p型半導体とn型半導体が接合した層。半導体デバイスの基本的な構造で,整流性(一方向にしか電流を流さない性質)をはじめ,光電流,光起電力,発光などを得ることができる。

10図 Siフォトダイオードを積層した単板カラー撮像デバイスの1画素の断面模式図

11図 Siフォトダイオードを積層した単板カラー撮像デバイスの分光特性理論値

npn

p型Si基板

電子

G RBB出力

G出力

R出力

R

G

B

400

分光感度

波長(nm)

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0500 600 700

11NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 9: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

を得ることができる。理論的に導き出される各層からの信号の分光特性18)を11図に示す。可視域全域にわ

たって光を吸収するSiを光電変換材料に用いているため,基板表面に近いB光用のフォトダイオードでも一定量のG光やR光が吸収されているなど,各フォトダイオードの分光特性は広がりを持つ。そのため,色再現には信号処理による補正が必要であり,また,3板式に匹敵する光の利用効率を得ることも難しいと考えられる。

この撮像デバイスは2002年に実用化され,その後も開発が進められており,現在,製品化されている唯一のRGB積層型カラー撮像デバイスである。

3.3 RGB有機膜積層型撮像デバイス有機材料は可視光の吸収性に優れ,さらに,特定の波長域の光のみを選択的に吸収

する性質がある。これらの特長を利用し,光の三原色に正確に対応した有機光電変換膜(以下,有機膜と呼ぶ)を積層することで,3板式と同等の画質を有する単板カラー撮像デバイスを実現することができる(12図)。有機膜を用いたRGB積層型撮像デバイス(RGB有機膜積層型撮像デバイス)の基本構造を12図(a)に示す。この撮像デバイスは,B光に感度を持つ有機膜(B用有機膜),G光に感度を持つ有機膜(G用有機膜),R光に感度を持つ有機膜(R用有機膜)を積層したものである。

このデバイスの動作について,B用有機膜層の1画素を拡大した12図(b)により説明する。光がデバイスに入射すると,そのB光成分がB用有機膜で吸収され,吸収した光の量に対応した電子-正孔対が生成される。この電子-正孔対は膜に印加されている電界によって電子と正孔(電荷)に分離され,これらの電荷は外部に出力される。また,B光以外の光,すなわちG光成分とR光成分は,B用有機膜を透過し,G用有機膜に到達する。G用有機膜およびR用有機膜でも同様な動作が繰り返され,最終的に入射光は各有機膜層で光の三原色に分離されるとともに電荷に変換され,外部に出力される。このように,RGB有機膜積層型撮像デバイスでは,デバイスに入射した光を,デバイスの深さ方向,すなわち光の進行方向で三原色に分離するため,カラーフィルターを用いた色分解方式に比べて光の利用率が格段に高く,原理的には,入射光のほとんどすべてを利用することができる。さらに,受光面内の全領域でB光,G光,R光すべての情報を取得することができるため,3板式と同等の解像度を単板式で得ることが可能になる。

(1)有機膜の波長選択性このデバイスで用いられる有機膜は,光の三原色のうち,いずれか一色の光のみを吸

12図 有機膜を用いたRGB積層型撮像デバイスの動作原理図

(b)B用有機膜層の1画素の拡大図(a)基本構造

B用有機膜

B用有機膜画素電極

G光 B光

電子

正孔

電子-正孔対R光

対向電極

G用有機膜R用有機膜

拡大

12 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 10: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

収して電荷を発生する一方で,そのほかの色の光は透過する。したがって,有機膜の色は,膜が吸収する色の補色になることから,膜の材料としては,成膜後の膜の色が青,緑,赤の補色となるイエロー(黄色),マゼンタ(赤紫),シアン(水色)になる有機材料が選ばれる。13図は,この条件を満たす3種類の材料を選択し,それぞれの材料をガラス基板上に堆積した膜の写真と,これらの膜の光透過率を示す。この図から,B用有機膜(13図

(a))では青の波長域の光が選択的に吸収され,緑や赤の光は90%以上透過することや,G用有機膜(13図(b)),R用有機膜(13図(c))でも,選択した波長域を吸収し,それ以外の光はほぼ透過することが分かる。

これらの有機膜の分光感度特性19)を14図に示す。それぞれの膜で光の三原色のいずれかにほぼ対応した分光感度特性が得られることが確認できる。波長650nm付近の赤色光に着目すると,R用有機膜では光電流が観測される一方,B用,G用有機膜では光電流出力が少なく,11図に示したSiフォトダイオードを積層したデバイスと比較して色分離に優れている。また,将来,光の三原色に対して正確な波長選択性を持つ有機膜が実現できれば,有機膜の積層順,すなわちデバイスに入射した光からそれぞれの色の成分を取得する場合の,色の順番に制限がなくなる。有機光電変換材料としては,B用材料ではクマリン誘導体19),ポルフィリン誘導体20)やジナフトチエノチオフェン誘導体21),G用材料ではローダミン誘導体19)やキナクリドン誘導体22)23),R用材料ではフタロシアニン誘導体19)

13図 波長選択性を持つ有機膜の写真(左)と光透過率(右)の例

(a)B用

(b)G用

(c)R用

400

光透過率(%)

波長(nm)

100

80

60

40

20

0500 600 700

400

光透過率(%)

波長(nm)

100

80

60

40

20

0500 600 700

400

光透過率(%)

波長(nm)

100

80

60

40

20

0500 600 700

13NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 11: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

やナフタロシアニン誘導体24)などが報告されている。一方,RGB積層型撮像デバイスの光電変換部に有機膜を適用するには,有機膜の上下

を挟む電極を透明にしなければならない。一般的な透明電極形成手法では,有機膜の上に透明電極を形成すると,有機膜にダメージが生じて膜の性能が低下するため,有機膜上に低ダメージで透明電極を形成する手法の開発が必要となる。有機膜や,有機膜を透明電極で挟んだ受光素子の,当所における開発状況の詳細については,本特集号の報告2

「有機光電変換膜を透明電極で挟んだ受光素子の特性改善」を参照していただきたい。

(2)RGB有機膜積層型カラー撮像デバイスの開発状況積層したそれぞれの有機膜からの信号の読み出しには,15図に示すように,光透過率

の高い薄膜トランジスター(TFT:Thin Film Transistor)による信号読み出し回路を各有機膜に備える方法25)が提案されている。この方法では,有機膜層の間に読み出し回路が配置される構造であることから,読み出し回路の光透過性を高めることが重要になる。そこで,可視域の光を透過する酸化物半導体を信号読み出し用TFT回路のトランジスター材料に適用することが考えられている26)。代表的な酸化物半導体としては,酸化亜鉛

(ZnO)やインジウム・ガリウム・亜鉛複合酸化物(IGZO),インジウム・スズ・亜鉛複合酸化物(ITZO)などがあり,いずれもバンドギャップ*21が3.0eVより広く,可視光領域に感度を持たないため,光透過率の高いTFT回路を得ることができる。

当所では,RGB積層カラー撮像の原理を検証するために,3枚のガラス基板上のそれぞれに,ZnOを用いた信号読み出し用TFT回路アレイと,B用,G用,R用のうちいずれ

*21半導体における,価電子帯(電子が占有しているエネルギー準位の帯)の上端と伝導帯(電子が空のエネルギー準位の帯)の下端とのエネルギー差。半導体は,バンドギャップを超えるエネルギーの光しか吸収することができない。

15図 RGB有機膜積層型撮像デバイスの信号読み出し方法

R用G用B用

400光電流(規格化)

波長(nm)

1

0500 600 700

14図 波長選択性を持つ有機受光素子の分光感度特性例

B出力

透明対向電極

信号読み出し用TFT回路

透明画素電極

G出力

R出力 TFT

TFT

TFTB用有機膜

G用有機膜

R用有機膜

14 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 12: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 01

か1つの有機膜を形成した3つの素子を作製し,これらの素子を光の入射側からB用,G用,R用の順に積層した撮像デバイス(画素数128×96,画素ピッチ100µm)を試作した27)。この原理検証用デバイスでは,被写体の色に対応したカラーの動画像を得ることができ,積層した有機膜でR光,G光,B光を分離し,酸化物半導体TFTアレイで各色の信号出力が可能なことを初めて実証した。

上記の原理検証実験では,個別のガラス基板上に形成した3つの素子を重ねて撮像デバイスを構成したが,この手法では,層間に存在するガラス基板の厚みにより各層での光学像のぼけが生じ,出力画像の解像度が低下する。そこで,1枚の基板上に層間絶縁膜を介して複数の有機膜を近接配置していく構造を作製するための要素技術開発を進め,画素ピッチ50µm,128×96画素のデバイスによりカラー画像の取得に成功した28)。

現在,より高精細なデバイスの実現を目指して,TFT回路の更なる微細化を進めている。画素の微細化を進めた際にも安定したトランジスター動作が期待できるITZOを半導体として採用することで,信号読み出し用TFTアレイの画素ピッチを20µmまで微細化することができている29)。試作アレイを上から見た顕微鏡写真を16図に示す。画素ピッチを20µmにすることで,35mmフルサイズフォーマット*22でハイビジョンクラスの撮像デバイスが実現可能になる。最終的な目標である8K解像度のRGB有機膜積層型撮像デバイスの実現に向けては,TFT回路の更なる微細高集積化をはじめ,有機膜の波長選択性改善など,解決すべき多くの課題があり,今後の研究開発の進展が期待される。

なお,本節で述べた有機光電変換膜の分光感度特性の研究は埼玉大学と,また光透過型回路の研究の一部は高知工科大学との連携により,それぞれ進めた。

4.あとがき本稿では,光電変換膜積層型撮像デバイスの研究開発動向について紹介した。いず

れのデバイスも,信号読み出し回路の上に,入射光を電気信号に変換する光電変換膜が積層された構造となっており,従来の構造では解決が難しい,テレビジョンシステムの多画素化・画素微細化・高フレームレート化に伴う感度やカメラサイズの課題を,抜本的に解決できる可能性を秘めているデバイスである。

これらのデバイスを実現できれば,8K番組の更なる充実や,一層の多画素化が求められる空間像再生型立体テレビなどの次世代のテレビジョンシステムの進展にもつながることから,NHKでは今後も,早期の実現に向けて研究開発を推進していく。

*22撮像デバイスの光学サイズ規格の1つ。有効撮像領域の対角長は約43mm。

16図 画素ピッチ20µmの信号読み出し用TFTアレイの顕微鏡写真

TFT領域

画素ピッチ : 20µm 画素電極

15NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 13: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

参 考 文 献1) 島本:“スーパーハイビジョン撮像技術の研究開発動向,” NHK技研R&D,Vol.169,pp.4-11

(2018)

2) 梶山,菊地,船津,宮下,島本:“8K240fpsスロー再生装置の開発,” 映情学年次大,31C-3 (2018)

3) K. Nishimura, S. Shishido, Y. Miyake, M. Yanagida, Y. Satou, M. Shouho, H. Kanehara, R. Sakaida, Y. Sato, J. Hirase, Y. Tomekawa, Y. Abe, H. Fujinaka, Y. Matsunaga, M. Murakami, M. Harada and Y. Inoue:“An 8K4K-Resolution 60fps 450ke--Saturation-Signal Organic-Photoconductive-Film Global-Shutter CMOS Image Sensor with In-Pixel Noise Canceller,” ISSCC Digest of Technical Papers,5.2 (2018)

4) K. Nishimura, S. Shishido, Y. Miyake, H. Kanehara, Y. Sato, J. Hirase, Y. Sato, Y. Tomekawa, M. Yamasaki, M. Murakami, M. Harada and Y. Inoue:“Advanced Features of Layered-structure Organic-photoconductive-film CMOS Image Sensor : Over 120dB Wide Dynamic Range Funct ion and Photoelectr ic-conversion-controlled Global Shutter Function,” Japanese Journal of Applied Physics,57, 1002B4 (2018)

5) 林:“パンクロ有機薄膜積層型CMOSイメージセンサー:耐久性とデバイス性能,” 映情学技報,Vol.37,No.40,pp.5-8 (2013)

6) http://www.sony-semicon.co.jp/product_ ja/Is/CMOS\Tech/,“CMOSイメージセンサ”

7) M.-L . Ha, M.-K. Kang, S.-W. Yoon, C.-H. Han and J. Lee:“Temporal Noise Improvement Using the Selective Application of the Fluorine Implantation in the CMOS Image Sensor,” Proc. IISW,R9,pp.32-34 (2017)

8) 川人:“低ノイズイメージセンサ,” 映情学技報,Vol.40,No.12,pp.1-4 (2016)

9) 徐,川人:“リセットゲートレス画素を用いた超低ノイズイメージセンサ,” 映情学誌,Vol.72,No.2,pp.204-207 (2018)

10) A. R. Ximenes, P. Padmanabhan, M.-J. Lee, Y. Yamashita, D. N. Yaung and E. Charbon:“A 256×256 45/65nm 3D-Stacked SPAD-Based Direct TOF Image Sensor for LiDAR Applications with Optical Polar Modulation for up to 18.6dB Interference Suppression,” ISSCC Digest of Technical Papers,5.9 (2018)

11) M. Mori, Y. Sakata, M. Usuda, S. Yamashita, S. Kasuga, Y. Hirose, Y. Kato and T. Tanaka:“A 1280×720 Single-Photon-Detecting Image Sensor with 100dB Dynamic Range Using a Sensitivity-Boosting Technique,” ISSCC Digest of Technical Papers,6.6 (2016)

12) S. M. Sze:“Semiconductor Devices: Physics and Technology,” 産業図書,p.107 (2004)

13) S. Imura, K. Kikuchi, K. Miyakawa, H. Ohtake, M. Kubota, T. Okino, Y. Hirose, Y. Kato and N. Teranishi:“High Sensitivity Image Sensors Overlaid with Thin-Film Gall ium Oxide/Crystal l ine Selenium Heterojunction Photodiodes,” IEEE Transactions on Electron Devices,Vol.63,No.1,pp.86-91 (2016)

14) 為村,宮川,大竹,久保田,菊地,沖野,廣瀬,加藤,寺西:“微細結晶粒からなる塩素ドープ結晶セレン光電変換膜を積層したイメージセンサ,” 映情学技報,Vol.40,No.12,pp.13-16 (2016)

15) 為村,菊地,宮川,大竹,久保田:“ヘテロ接合型結晶セレン光電変換膜を積層したイメージセンサーの開発,” NHK技研R&D,No.153,pp.42-48 (2015)

16) 江上:“光電変換の基礎,” 映情学誌,Vol.68,No.1,pp.63-67 (2014)

17) R.B. Merrill:U.S. Patent,No.5,965,875 (1999)

16 NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3

Page 14: 難波正和 相原 聡 - NHK一方,現在の放送用カメラに用いられているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの一般的な撮像デバイスにおいて

解 説 0118) 米本:CCD/CMOSイメージ・センサの基礎と応用,CQ出版社,pp.234-236 (2003)

19) S. Aihara, Y. Hirano, T. Tajima, K. Tanioka, M. Abe, N. Saito, N. Kamata and D. Terunuma:“Wavelength Selectivities of Organic Photoconductive Films: Dye-doped Polysilanes and Zinc Phthalocyanine/ Tris-8-hydroxyquinoline Aluminum Double Layer,” Appl. Phys. Lett.,Vol.82,No.4,pp.511-513 (2003)

20) S. Aihara, K. Miyakawa, Y. Ohkawa, T. Matsubara, T. Takahata, S. Suzuki, M. Kubota, K. Tanioka, N. Kamata and D. Terunuma:“Photoconductive Properties of Organic Films Based on Porphine Complex Evaluated with Image Pickup Tubes,” Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.44,No.6A,pp.3743-3747 (2005)

21) 堀,高木,堺,清水,大竹,相原:“青色光に感度を持つ有機光導電膜の高効率化,” 応物春季予稿集,17a-P4-21 (2017)

22) S. Takada, M. Ihama and M. Inuiya:“CMOS Image Sensor with Organic Photoconductive Layer Having Narrow Absorption Band and Proposal of Stack Type Solid-State Image Sensors,” Proc. SPIE 6068,60680A (2006)

23) H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, M. Kubota and N. Egami:“Color Sensors with Three Vertically Stacked Organic Photodetectors,” Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.46,No.49,pp.L1240-L1242 (2007)

24) T. Saka i , H . Seo , T. Takag i and H . Ohtake:“H igh ly Sens i t i ve Organ ic Photoconductor Using Boron Sub-2,3-naphthalocyanine as a Red-sensitive Film for Stack-type Image Sensors,” MRS Advances,Vol.1,Issue 7,pp.459-464

(2016)

25) 相原:“有機光電変換膜を用いた撮像デバイス,” 光学,Vol.35,No.11,pp.585-587 (2006)

26) S. Aihara, H. Seo, M. Namba, T. Watabe, H. Ohtake, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T. Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:“Stacked Image Sensor with Green- and Red-Sensitive Organic Photoconductive Films Applying Zinc-Oxide Thin Film Transistors to a Signal Readout Circuit,” IEEE Trans. Electron Devices,Vol.56,No.11,pp.2570-2576 (2009)

27) H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, T. Sakai, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T. Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:“A 128 x 96 Pixel Stack-Type Color Image Sensor: Stack of Individual Blue-, Green-, and Red-Sensitive Organic Photoconductive Films Integrated with a ZnO Thin Film Transistor Readout Circuit,” Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.50,No.2,pp.024103.1-024103.6 (2011)

28) T. Sakai, H. Seo, T. Takagi, M. Kubota, H. Ohtake and M. Furuta:“Color Image Sensor with Organic Photoconductive Films,” Proc. IEDM,No.30.3,pp.30.3.1-30.3.4 (2015)

29) 堀, 高木, 堺, 中田, 佐藤, 大竹, 相原:“有機撮像デバイス用信号読み出し回路の微細化技術,” 映情学年次大,13C-1 (2018)

難なん

波ば

正まさ

和かず

1988年入局。同年から放送技術研究所において,高感度撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部上級研究員。博士(工学)。

相あい

原はら

聡さとし

2001年入局。同年から放送技術研究所において,有機光電変換材料を用いた撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部上級研究員。博士(学術)。

17NHK技研 R&D ■ No.174 2019.3