カセイ峡谷の朝 - obayashi...6 カセイ峡谷の朝...

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  • 6

    カセイ峡谷の朝

    夜と朝の境界がかすかに薄紅色を帯びると、火星

    の地平線がくっきりと強い円弧を描いて浮かび上が

    った。

    いつもながらの静かな火星の夜明け前の光景

    だ。

    マ1

    ス・グライダーの機首を東へ向けると、太

    陽が昇る前の空にひときわ青い星が輝いている。四

    億キロの彼方にある、懐かしい水の惑星・地球。通

    信機を通して、私が朝の挨拶を送っても、二

    O分以

    上はかかる距離である

    火星時間午前六時過ぎ。

    空をピンク色に染めなが

    ら、太陽が姿を見せ始めた。

    火星に昇る太陽は、地

    ><

    風力発電装置

    d』 .・園 圃.田園.回ー.岡田a』... 由貯蔵タンク

    球で見る三分の二ほどの大きさしかなく、しかも舞

    い上がった砂塵の影響で輪郭のはっきりしない光を

    放っている。そのため地球とはまた違った芭洋t

    た夜明けが訪れる。

    眼下には、数千メートルの深さのカセイ峡谷から

    立ちのぼる朝霧が、ミルキーウェイのように白く輝

    く帯となって流れていく。ゆっくりと旋回しながら

    谷間の霧の上を抜けると、朝日に照らされた砂の丘

    や巨大なクレーターが大地に強烈な陰影のリズムを

    刻んでいた。

    外はマイナス数十度の世界だが、

    マl

    ス・グライ

    ダーの小窓から眺める景色は、信じられない神秘的

    レクテナ

    ・・・圃圃

    ・2巴==

    ローパ一発着場

    研究施設

    な美しさを秘めている。どこまでも続く赤い大地。

    の赤い色が、古代から地球の人間たちの心をどれ

    はど強くとらえてきたことだろう。

    「燃える星」とい

    われ、「

    戦いの星」として象徴的に語られたのも、す

    べては幻惑的な赤い大地のせいである。古代人は、

    赤い惑星に生命の躍動を感じたのかもしれない。火

    星の大気に宿る酸素が、土に含まれる大量の鉄分を

    酸化させた結果だと人間が知ったのは、科学探査の

    時代になってからのことであった。

    カセイ峡谷を越えて南へ十数分。前方の平原にキ

    キラと光る一群の建物が見えてきた。北緯二O度、

    西経七O度に位置する火星最大の町、マー

    ス・ハピ

    2 』 002090 2070 2050 2040 ?030 2020

    火星開発の発展段階

    地下通路

    一一上

    250 (M) E・・・・・I SO 200 ..... 50 100

    7

    コンビュータよりアウトプットした図面

  • その後、定住への布石として、恒久的な造水施設

    を建設し、同時に火星の土や気象に関する探査が進

    められた。また、将来のテラリウム型の居住形態を

    間へと発展を遂げている。

    こうした火星開拓の歴史的な経緯を、北から南へ

    と連なる都市の発展軸に見ることができる。

    都市の形態は、また水の流れをシンボルとした生

    存軸をも表現している。四六年前に八名の定住者が

    試掘した地下氷鉱は、いまも北の正陵にあって利用

    されている。現在では規模の大きな造水施設が稼動

    しているが、そこから南へと都市の発展方向に向か

    って、生命の水もまた歳月とともに流れを広げてき

    た。その南端部では、テラリワム、居住棟、火星フ

    ァームの建設が進められ、マl

    ス・ハピテ1

    ション

    ーはいまもなお拡大を続けている

    マl

    ス・グライダーに乗って上空の雲聞からこの

    直線状の都市を眺めるとき、私は火星という未知の

    新天地を開拓しようとする人間の強い意志を感じる。

    人間の意志が、都市の形態を決めているともいえる

    だろう。いまから一OO

    年以上前、当時の地球の著

    名なSF

    作家

    a

    であったアl

    サ1・

    c

    ・クラ

    l

    クは、

    飛ある小説の中で金属、ドlムに全体を覆われた人口二

    000

    人の火星都市を想定した。将来、火星の都市

    がどのような発展形態を遂げるかは不明である。あ

    前提とした、横穴カプセル式の住居実験なども行な

    われた。やがて、相当数の人聞を受け入れるため、

    平地に都市機能の中枢となるコントロールセンター

    と、水処理やエ、糸ルギl関連のインフラストラクチ

    ャーの建設が進展し、都市としての形が少しずつ整

    っていった。

    地球と火星とを結ぶ大型のシャトル宇宙

    船による定期航路が創設され、物資の運搬量が飛躍

    的に増大したことも忘れるわけにはいかない。そし

    この間、

    ていよいよ五O人を超す人聞がこの町に居住し、本

    格的な火星開拓が始まったのは、二O三五年のこと

    であった。

    人々は、地球から運んできた円筒形のユ

    ニット住宅に住み、火星ファームの空気膜グリーン

    ハウスでは、生きていくのに不可欠と考えられた最

    低限の農作物の生産が始まった。自給自足への道が

    ようやく見え始めたのである

    さらに、実験フィールドとしてドl

    ム型の空気膜

    テラリウムが建設され、植物が火星の環境下で生育

    するための研究も進められた。テラリワムとは、火

    星を地球化するための、実験的な人工空間である。

    このテラリワムはのちに、住居と結び付いた生活空

    るいはア

    l

    サl

    c

    -クラl

    クの描いたような都市

    が誕生するかもしれない。

    しかし、二O五七年のい

    まは、厳しい火星環境と正面から向きあった、混沌

    ~ 、哩之~

    ~

    や無秩序のない都市形態こそふさわしいものに思え

    るのである。

    ハイヌl

    ン・ショー

    フルオ1

    卜・クル!ズ・コントロール装置を解除

    したマl

    ス・ロ

    l

    パl

    は、赤い砂塵を上げて町へ向

    かっていく。凹凸の激しい火星の大地を、コンピュ

    ータに頼らずマニュアル・ミッションにして自分で

    運転するのは、実にいいストレス解消になる。

    郊外のグライダー発着場から町までは一O分ほE

    の距離だ

    っかのまの、ドライブを楽しみ、町の入り

    口に着くと、ちょうど火星の月フォポスが真吾一の天

    空にかかっていた。それは目に見える速度で太陽面

    を横切り、あと二時間もすれば東の地平線に消える。

    初めて火星を訪れた者は誰でも、ジャ、万イモ型をし

    た不思議な衛星フォボスと真昼一の太陽とが演じる、

    この天体ショl

    にしばし魅了されることだろう。

    フォボスは、長径でも二八キロという小さないび

    つな衛星で、七時間三九分で火星の周りを回ってい

    る。

    西の空に昇り、わずか四時間半後には東の地平

    線に沈む速足の衛星だ。そのため

    一日に何度か南の

    空に姿を現わすが、かなり暗く目立ちにく

    い。

    10

    函 ・ 大久保朗

    昼間のフォボスは幻のような淡い姿で現われ、太

    陽の前を横切るとき、約二五秒間の日食を見せてく

    れる。

    といっても大ききは地球で見る月の半分に満

    たないので、太陽を半分隠すに過ぎないのだが、そ

    ~ー-

    れでもこのショーはなかなかの見物である。反対に

    夜の空を駆けるフォボスは、真夜中に急に火星の陰

    に入って

    一度姿を消した後、再び現われて、火星の

    夜を賑やかにする。つまり、地球でいうところの月四

    食である

    日食と月食を一日のうちに見せてくれる→

    -フ

    火星の名優フォボスは、私のように長い間この地に

    滞在する者にとって、親しい友人のような存在とな〈サア※

    っているのだ

    火星にはもう一つ、ダイモスという名の衛星があ

    る。

    この星は、フォボスとは反対に東の空に昇り、

    一一日半をかけて西の地平線にゆっくり沈む

    。実際の

    大きさはフォボスの半分程度だが、火星から遠いの

    で小さな星にしか見えない。

    それでもフォボスとダ

    イモスのコンビは遠い昔からさまぎまな形で注目を

    浴びてきた。

    火星探査の始められた初期、フォポスとダイモス

    は火星探査の前進基地として使用された

    現在では、

    金属資源の利用や小惑星の成り立ちを知るための探

    査対象として研究が行なわれている。

    マl

    ハビテl

    ション

    l

    の中へ

    マl

    ス・ハピテ!ション1

    は大きく分けると、ド

    ーム型-アラリワム、カプセル型居住エリア、火星ファ

    ーム、そしてコントロールセンターや造水・生命維

    持・研究施設などの中枢グl

    ンから構成されている。

    ・テラリウム

    地下通路を抜けてテラリワムに入る扉を開けると、

    初めは誰でも驚くことだろう。

    いままで見てきた赤

    い砂の続く大地とは一変し、緑の樹木が繁り、流れ

    る水があり、そこには魚の群れまで泳いでいる。地

    球上の森林公園に来たのかと錯覚するかもしれない。

    しかし、冷静になって周囲を見渡せば、

    11

    」こが空気

    膜によって造られた加圧ドl

    ムの中。であることに気

    が付くはずだ

    建築面からいえば、テラリウムは長径約八0メー

    トル規模の空気膜構造の多目的ドl

    ムである。空気

    膜は、構造材としては地球からの輸送が比較的容易

    (軽量で体積も少ない)であり、火星のような外部

    作業の困難な環境下で大空聞を建設するにも適して

    いる。

    また、光や宇宙線を透過させる性質があり、

    空間内に模擬火星ともいうべき実験フィールドを設

    定するにも相応しい素材である。

    テラリワムの高さは項部で約九メートルと低めに

    設定し、反対に地下部は深さ約一五メートルまで利用

    , .

  • してい

    る。これは、火星の砂嵐の影響を

    考慮すると同

    時に

    宇宙線から

    遮断された安全性の高い地下部を

    研究施設や住居として

    積極的に利用した

    結果である

    利用形態からみると、テラリウ

    ムに

    は二つのタイ

    プがある。

    タイプ1

    は、

    実験フィールドとしてのテ

    ラリ

    ムだ。地上部分を

    空気膜だけで覆い

    光や宇

    宙線を意図的にテラリ

    ム内に取り

    込み、地下部分

    は主として研究・

    実験施設としている

    地球から

    んだ植物を基に

    火星環境下での適応実験や品種改

    良の研究などを行なう実験空間であり

    テラリウ

    内では人聞は宇宙服を着て作業を

    行な

    っている

    こで進められて

    いる研究は

    いつの日

    か人類が宇宙

    服を着けずに火星上で生活できるよ

    に、火星環境

    を変化させる

    「テラ

    フォl

    ング(惑星改造)」への

    布石でもあるのだ。

    もう一つのタイプ2

    は、居住者の生活空間

    として

    タイプl

    の実験段階が終了す

    のテラリウムである。

    ると、空気膜の上をさらに三メー

    トル厚の火星の土

    で覆い、宇宙線を遮断し、酸素を補充して地球上に

    近い環境を創る。宇宙服を着けずに人間も動物も自

    由に動き回ることのできる空間である。天井の人工

    太陽とドl

    ム底辺部の彩光装置によって十分な光に

    あふれ、緑の樹木や水辺のあるこのテラリウムには

    私もよく軽いスポーツをしたり、

    くつろヤために訪

    かつての研究・

    実験施設の大半は住居に変更

    され、テラリウムに向かって聞かれた生活を楽しむ

    れる。

    こともできるのだ。

    両方のタイプのテラリウムに共通していることは、

    大きな池を持っていることである。この池は、貴重

    な水を貯蔵するタンクなのである。

    こうしたテラリワムがすでに二棟あり、いま三棟

    が進んでいる。それほど遠くない将来、

    住民のすべてがテラリウム内の住居、て暮らすことに

    めの建設工

    なるだろう。

    カプセル型居住エリア

    火星ファーム

    町の東西に広がるグリーンハウス群。それは食糧

    を自給するための火星ファームである。火星の環境

    は、さまざまな点で植物の栽培に適している。たと

    えば、組物栽培には不可欠な水があり、一日の長き

    が地球とほぼ等しく、太陽系の恵みがある。太陽エ

    ホルギーは地球の四三%に過ぎないが、大気が希薄

    なので植物には十分な光が得られる。また、粘土質

    を含む火星の土は、改良を加えれば土耕栽培さえ可

    能なのである。

    ・グリーンハウス

    火星ファームのグリーンハウスは、地球からユニ

    ット化した空気膜を運搬し、火星の大地に設置する

    だけで比較的容易に建設することができる。

    それだ

    見、地球上のビニールハウスとあまり違いが

    けないように見えるだろう。

    こには地球で見るのと同じ小麦や野菜などが実って

    いるのだから

    しかし、火星ファームのグリーンハウスには、実

    際にはさまざまな特徴がある。まず、火星表面の気

    圧がきわめて低く、植物の生育や人間の作業に適き

    ハウス内に入っても

    ハウス内を一00

    ミリバール

    (約一O分

    ないため

    の一気圧)に加圧してある。植物はこの程度の気圧

    があれば十分に生育する上、空気膜にも負担がかか

    らないからである。空気膜の素材には、超高分子ポ

    リエチレン繊維のメッシュにポリエチレンフィルム

    を貼り合わせたものを使用し、光透過性と強度をで

    きるだけ高め、さらに

    UV

    カットフィルムによって

    植物を紫外線から保護している。紫外線のほか宇宙

    線に対しては、ここで栽培されている植物はほとん

    ど影響を受けずに生育するこ

    とができる。

    ただし、

    影響を受けやすい種子の保存と播種のみは、宇宙線

    を遮断した居住エリアの一画で行なわれている

    た、火星の低温(とくに夜間の熱ロス)に対処する

    住民の多くが現在生活してレるのが、カプセ

    ル型

    の居住エリアである

    これは

    二O

    一一年に町の建設

    が始まって以来の伝統的な住まいでもある。

    当初のスタッ

    フは、

    着陸船と簡易カプセ

    ルをねん\

    らとして、困難な開発に従事したが

    本格的な定住

    計画が始まってから

    は、このア

    ルミ合金製のカプセ

    ル型居住エリアとな

    った。居住ユニッ

    トを地球から

    運び

    そのままプラ

    グイン(接置)する方法は、火

    星環境の中で安全な住居を大量に建設する

    のに適し

    ていた。現在では、居住棟の上をさ

    らに

    火星の土で

    覆い、宇宙線から

    保護している

    カプセ

    ル型住居とい

    と、便宜的なイ

    メー

    ジを持

    自然光・宇宙線

    基幹バイフ 基幹バイプ

    一一一一一一一一---1 附室 |一一 一

    研究施設

    研究施設研究施設

    研究施設

    テラリウムタイプ 1 断面灰

    保温方法として、二重の空気膜、アルミ蒸着ブライ

    ンドカーテンを使用している。

    グリーンハウスでの栽培方法は、管理の容易な水

    耕栽培を中心にし、

    一部では土耕栽培も行なってい

    。土耕栽培は、将来の火星緑化計画に向けた研究

    テl

    マでもあるのだ

    現時点で火星の大地をそのま

    ま利用するには、有機物を混入し、有用な微生物を

    プレンドした特製土壌をつくり、さらに土に浸透し

    た本の凍結予防措置が必要t

    なる。そ

    でハウスの

    地下部を断熱材で囲ったり、温水パイプを土中に通

    すなE

    の保温設備が採用されている。

    グリーンハワス内では、人間は酸素マスクだけで

    っかもしれないが、決してそんなことはない。六メ

    トル×

    一六メートルを一ユニットとした空間に

    二名を居住単位としているので、内部はかなりゆっ

    たりとしている

    定住を目的とした住居だけに、当

    初から

    十分な余裕と快適性を考えて計画されてきた。

    それだけに

    開発当

    初から

    の住民の中には、テラ

    ウム内

    の住居より

    伝統的なカプセル型住居を

    愛する

    のが少なくないほどだ

    そんなカプセル型住居の一室

    112

    番地(あの、アイ

    ンシュタインの

    住所と同

    番地)の部屋で

    今日、初めての赤ん坊が誕生しよ

    うとしている

    のである

    マl

    サl

    ストリー

    テラリウムタイプ 2 断面図

    13

    基幹パイプ

    12

    一一一--1 機械室 |一一一一一一

    サービス施設

    住居

    住居

    住居

    基幹パイプ

    作業を行なうことができる。実際には育所から馴化、

    栽培、収穫にいたるすべての作業はコ

    ンピュー

    タ管

    理きれたロボットが行なっており、人間は時折、管

    理のためにグリーンハウスを訪れるだけでいいのだ

    が、むしろ植物との接触を求めて頻繁にやって来る

    のである。

    生産食糧

    この火星ファームで生産される食糧は、かなりの

    種類にのぼる。主食としての小麦、稲、

    ビタミンや

    ミ、今フルを補うジャ万イモ、大豆、レタス、トマト

    なE

    の野菜に加え、補助食品としてのスピルリナな

    どの藻類も栽培している。これらの穀類・野菜類・

  • グリーンハウスイメージ図グリ ーンハウス平副図グリ ーンハウス断面岡

    画・大久保朗

    0 N

    単位 . m

    豆類

    主ネギ

    その他

    いも類

    裁主音lM

    小麦

    レタス

    トマト

    I .8

    l

    oo nu

    通路

    裁定ロボット\\

    自動織送車

    栽培棚

    I .8

    -|民

    太陽光

    気圧

    成分窒素(N ,)

    酸素(0 ,)

    二酸化炭素 (CO ,)

    一五四00平方メートルにな

    八OO

    カロリーのエ、汗ルギー

    を供給する日常の食糧

    はもちろん、地球への帰還者用の携帯食糧や、将来

    の人口増加や事故に備えた予備食糧までを、

    星ファー

    ムで生産することができる

    15

    藻類の全栽培面積は

    る。

    換気ダクト

    また、動物性蛋白質の供給源としては、山羊、鶏、

    魚類も飼育している。肉用としてのほか、山羊はミ

    ルクを、鶏は卵を補給して食生活に変化を与えてく

    れる。

    それだけでなく、タイプ2

    のテラリワム内で

    この火

    二O五七年の現在、火星ではほぼ自給自足の生活

    が可能である。

    おそらく十数年後には、地球とほと

    んど同じメ

    ューが食車を飾ることになるだろう

    そればかりか、火星独自の食品が開発されて、地球

    への輸出が始まっているかもしれない。

    火星ファー

    ムの種苗管理センターでは、当地で生産する食糧の

    種苗管理のはか、火星環境に適応した新品種の開発

    温水パイプ

    飼育される動物たちは、人間にやすらぎを与えてく

    れる存在にもなっているのだ。同様に、テラリウム

    内の池ではテラピアも養殖され、三日に一度は(魚

    好きにはいささか残念かもしれないが)切り身を味

    わうち」t

    もできる。

    一五O人の定住者に一日平均小委 6,000m'

    米 4 , 000 m'

    いも類 2,5001!1'

    レタス SOOm' トマト SOOm'

    豆類 500附 至ヰギ soomキ

    その他(イチゴな ど) 900m'

    70%

    5%

    25%

    「火星ファーム」栽培品種面積表

    、z、

    0

    合計 15,4日o m·

    グリーンハウス内気体成介表

    IOOmb

    ,

  • r=--一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一二=土ごここ土ごごここごご:ごごごヱこここニ±±±±竺Z土土ご士主士竺竺土士

    火星とは何か

    太陽系第四の惑星である火星は、

    00万キロの距離にあり、一・八八年

    期で公転している。その軌道は、

    太陽から約二億三O

    (六八七日)の周

    地球が太陽を中心とし

    火星は楕円形を描いている。そ

    のため地球から見た火星の動きは非常に複雑に感じられ、

    た円形であるのに対し、

    科学的な観測時代が訪れる以前には、デンマークの貴族

    チコ・プラエのよう仁火星の不可思議な運行に魅せられ

    て一宅観測を続けた天文観測家もいた。

    地球と火星との距離は、最長で四億キロ、最短でも六

    000万キロある

    地球と月t

    の距離

    (約三八万キロ)

    と比較すると非常に遠いが、現在の技術を駆使すれば三

    年程度で往復できると試算されている。

    代表的な軌道のタイプ

    火星の大ききは、半径が地球のはぽ半分の三三九七・

    二キロ。重力は、

    地球の0・三八倍と小さい。自転の周

    期(一日の長さ)は二四時間三九分と地球にきわめて近

    く、太陽に対する自転軸の傾きが約二五度(地球は二三・

    地球と同様に四季の変化がある

    五度)あるため、

    し、太陽から遠いだけにエ、亦ルギlは地球の四三%程度

    しカ

    しか受けず、気温は赤道付近の地表面で平均マイナス六

    O度(摂氏)、最高が一五度、最低はマイナス一OO度に

    も達する。寒暖の差は激しいが、それでも月面の寒暖差

    (約三OO度)と比較するとはるかにしのぎやすい。一

    般に生命体は、熱には弱いがある程度の寒さには耐性が

    数百度という高温の金星などと比較すると、

    あるので、

    火星の気温は原始的な生命を維持できる範囲内とも考え

    られている。

    オポジシ ョン型

    数ヵ月火及に滋·{£、金星スウインクーパイを合む場合もある

    火星到着

    ',, ~ ///// \\\///

    \〉\一手ど戸三滞在期間

    コンジヤンクション型

    単独の軌道としてはエヰ、ルギー誌が最も少くてすみ l 年以上火星に滞在

    火星フライパイ

    火星付近を通過しながら着陸することなく地球に戻って〈る

    2 機を使用するこ/:!こより、短期滞在も可能

    往路

    地獄出発

    火星出発

    人\

    \ \

    \ \

    往路

    火星滞在

    帰路

    」DYコωドヨミヨ白コ且刃巴門才〉[ゐ霊山一川「

    ωBR刃巾帥D己『円巾印LHD∞斗軒古

    輸送にかかる燃料,肖費量(デルタ v)

    地球静止軌道

    ダイモス火星低軌道

    デルタv

    は輸送にかかる燃料の消費量を示す数値であり、この数値

    が大きいほど多量の燃料が必要であるこtを意味する。この図より

    明らかなように、火星では大気を利用して宇宙船を減速することが

    できるため、到達するための燃料の消費量が月の場合よりも少なく

    てすむ。

    火星に行く場合、まずロケットで打ち上げられた資材を用い、地球

    低軌道、て宇宙船が組み立てられる。ここまでU畑/s

    のデルタV

    必要である。地球周回後ロケットの噴射により火星遷移軌道に投入

    され、推進力を使わない長い慣性飛行に入る。火星周辺に到着後、

    逆推進力の噴射により減速し、火星周囲軌道に突入する。さらに減

    速することにより火星表面に着陸する。この減速過程はあえて推進

    機を使わず火星大気を利用した減速が可能である。地球低軌道より

    火星到着まではし間/s

    のデルタv

    でよい。

    地E事出発・帰還

    〉「nyおの・JヘDCコ問苓J白血「帥玄-85

    コ〔UOコ円巾古門的由主03B門戸5-cg

    」aHJ

    「三国ココ包富山az

    -n-OBZ〉∞〉PACCN」』Eコ巾

    gg

    ミ莞

    O

    一0年代には火星への有人探査計画を推進するプラン

    を発表している。ソ連は、すでに火星の衛星であるフォ

    ポスに向けて探査機を打ち上げ(これは失敗に終った

    がてその後もやはり火星への有人飛行計画の実現をめざ

    して、各国協調のプランを立案しようt

    している。

    これほどまでに人類そひきつける火星の魅力とは、い

    ったい何なのだろうか。

    ①科学探査の対象

    t

    ての火

    火星には二酸化炭素を中心とした大気があり、気温は

    低温とはいえ比較的安定しており、地下や大気中仁は水

    もあると考えられる。

    また地形を見ても、火山活動や川

    の流れた痕跡などがある。こうした環境は、ほかの惑星

    と比較するt

    はるかに地球と似ている。したがって、火

    星の気候や地質変

    化の過程を探査する

    ことにより、地球

    及び太陽系の起源を知るための大きな手掛かりを得られ

    る可能性が高い。

    地球と環境が似ていることは、また生命が存在する可

    能性も示唆している

    かつて

    H・

    G

    ・ワエルズが『宇宙

    戦争』の中で描いたような火星人は荒唐無稽としても、

    地球上、てはすでに絶滅した原始生命が地中や岩石中など

    に残っているかもしれない。それは惑星における生命発

    生のメカニズムを知ること仁つながる。

    ②新しい資源開発の基地としての火星

    火星における資源開発は、二つの面から考えることが

    できる。一つは、火星及び宇宙へと人類が進出するのに

    役立つ資源である。たとえば宇宙空聞を航行するロケッ

    ト推進剤を、火星で得ることができる。大気中の二酸化

    炭素、アルゴン、水などがその材料となる。水は火星で

    の人類の居住に欠かせないものでもある。

    また火星の土

    にはノントロナイト、モンモリロナイトな

    E

    の粘土鉱物

    の存在が予想される。粘土鉱物を含む土は、植物栽培に

    適しており、火星における農耕の可能性や、緑化計画の

    背景となっている。

    もう一点は、地球では未知の鉱物や希少な資源への期

    待である。月の探査によって、地球上では貴重な核融合

    の材料となるヘリウム3

    が発見されたように、火星から

    も人類の発展に寄与する資源が見つかる可能性はある。

    そうした資源は、将来的には地球に輸出され、火星の経

    火星が注目されるもう一

    点である。

    つの理由は、大気が存在する

    二酸化炭素守中心に、

    水などからなる火星の大気は、

    窒素、アルゴン、酸素、

    人聞が生存するためのさ

    まざまな資源を提供するほか、将来的には植物の生育が

    可能とも考えられる。

    大気の圧力は地球と比較

    ヲ」、B』

    l〕、

    f’中jl、

    すると

    0・

    00六気圧から0・

    O

    一五気圧ときわめて低

    ぃ。

    そのため大気による保温効果がなく、

    大きな原因ともなっている。

    それが低温の

    さらに、

    大気が希薄であり、

    磁気圏もないため、宇宙線や紫外線が大量に降り注いで

    いる。

    自然現象としては、大気のある火星では風が発生する。

    砂が風で移動し、地球。て見られるような風紋を描くヲ」’と

    もある。

    また火星の大気中では水分が凝縮して雲や霧が

    ている。

    地下に永久凍土として眠っ

    かつて火星には豊富な水の流れがあり、

    発生する。

    より多量の水は、

    それが

    現在は地下に凍結していると考えられている。一方、火

    18

    星の北極と南極にあたる極冠には、大規模な氷原が見ら

    れる。これは氷、あるいはドライアイスの層ともいわれ

    るが、季節によって面積は大きく変化する。こうした永

    久凍土や極冠の氷原、

    クQ’〉』

    さらに大気中にある水分を合計す

    火星表面を一00メートルの厚さの海で覆うはど

    の膨大な量になるともいわれている。

    そのほかにも大気の存在は、さまざまなことを示唆す

    。たt

    えば火星に着陸する場合、大気の抵抗によるエ

    アロブレーキを利用して減速することができる。高度が

    低くなれば、パラシュートによる降下も可能となる。ま

    た火星上では、気球やグライダーの利用も考えられる。

    大気密度が低いため大きな浮力は得られず、重量物の運

    搬には向かないが、観測や調査用には有効であろう

    人類はな、ぜ火星へ行くのか

    それは一二世紀を迎えようとする現在、

    人類が宇宙に賭ける壮大な夢のシンボルである。

    火星への挑戦

    アメリ

    カは、

    一九九0年代に宇宙ステーション

    「フリーダム」

    を完成させ、

    一二世紀の初めには月に基地を建設し、

    済圏を形成する基盤ともなりうる。

    ③宇宙開発の前進基地としての火星

    アメリカの探査機ポイジャーが太陽系の果てまでも旅

    を続けているように、人類はさらに宇宙の奥深く自らの

    可能性を求めて進出していくだろう。その際、火星に恒

    久的な基地があれば、さまぎまな利点が考えられる。た

    t

    えば、鉄、ニッケル、プラチナなどの鉱物資源の宝庫

    t

    もいわれる小惑星帯が、火星の外側にある。小惑星帯

    の開発を行ない、その成果を地球にフィードバックする

    には、火星が重要な位置を占めている。

    また火星より遠い外惑星探査を行なう際に、火星は宇

    宙開発技術や情報を集積した最先端基地として、あるい

    はオアシスの役割を持つ中継基地として機能することが

    rしおtoQ。

    ④「第二の地球」としての火星

    人類は地球上にいつまで住めるのだろうか。自ら

    が築

    き上げた文明によって地球環境が変化し、そのコントロ

    ールがつかない日が来るかもしれない

    あるいは、人口

    の爆発的な増大や蕃星の衝突によって、人類の子孫は生

    存を賭けた宇宙への旅を行なう必要に迫られるかもしれ

    ない。そうした事態の想定に、一%でも現実性があると

    したら、人類は地球外の天体に居住するための可能性を

    考慮しておくべきだろう。そのための天体として、火星

    はもっとも適していると考えられる。

    かりにそうした緊急事態は避けられたとしても、人類

    がもう一つの地球守持つことにはロマンがある。太陽系

    の中、て、なぜ地球だけが生命発生の惑星と成りえたのか

    を知るには、環境の似た火星において「第二の地球」を

    つくるための探査や実験が大きな志昧念持つはずである。

    ⑤新しい価値観を形成する場

    t

    しての火星

    コロンブスのアメリカ大陸発見がその後数百年にわた

    って新世界への夢を綴ってきたように、あるいは宇宙飛

    行士たちの多くが宇宙空間で超越的な神の存在を感じた

    ように、ニュl

    フロンティアは人類にとって新しい機会、

    可能性、知識、そして豊かな生活をもたらし、精神を活

    性化する。

    19

    もし人類が火星上で暮らすことになれば、未知の体験

    の中からまったく新しい価値観を創造する可能性がある

  • 脱出速

    50 ~ 乗(

    芦ヨ

    ω

    "' 0 100..::;

    150

    たとえば、

    地球上で形成されたあらゆるシステム(政治

    地球から火星への輸送重量について

    検討を行

    距離( 10 'km)

    0 0. 7

    体制や国家の概念、宗教など)

    応川

    J、レ

    lsレ

    キキBLL

    ノノ

    なった。

    地球から

    火星へt

    輸送する内容

    ・人間三OO人

    (内一五O人は定住者)

    食糧一年分

    ・建物関係(テラリワム及びグリー

    ンハウス

    用の空気膜、

    土台、居住ユニッ

    ト、コントロールセ

    ンタ

    ー及び各施設

    ユニット、設備器材など)

    (トラック、採掘機、ロ1

    パI

    、ブル、ドl

    50

    100

    150

    を超えた、

    ぞ形成するかもしれない。それはつまり、

    新大陸に渡つ

    ・建設機械類

    、ザ!なE)

    太陽発電関係(太陽発電衛星、

    パイプ、その他

    これらを合計すると、マ1

    ス・ハピテl

    ション

    1

    の建

    設と定住に要する総重量は約四000トンとなる。

    一般に、七五トンの貨物を火星に降ろすには、地球低

    軌道上で燃料を含んで総重量五00トンの宇宙船が必要

    とされる。したがって四

    000

    トンの貨物を運ぶ場合は、

    総重量二七000トンを地球低軌道上に運ばなければな

    らない。

    現在(一九九O年)のスペース

    シャトルは一度に三

    0

    トンを地球低軌道上に運ぶ能力があり、これを利用する

    と計九OO回の飛行を必要とする。かりに

    二O

    一一年か

    ら二O五七年までの四六年をかけて輸送を行なうL\

    年に約二O回の飛行t

    いうことになる。

    また現在開発中の大型宇宙輸送船HLLV

    (ZSくて

    円一昨TED与〈

    SEO

    )は、一同の輸送能力が一00トン

    あると仮定できる。これを利用すれば計二七O回の飛行

    となり、年約六副となる。

    一方、地球低軌道から火星面への輸送については、一

    度に七五トンの貨物を火星に降ろすt

    すると、その都度

    五00トンの総重量を必要とする。したがって全体では、

    四六年間に計五四回、

    一年当たり一・

    二回の飛行となる。

    ただし、実際に輸送を行なう場合は、飛行方法はコン

    ジヤンクション型に限定せ、ず、いくつかの方法を複合的

    に採用するほうが合理的である。また燃料のうちの酸素

    については、月面に酸素製造工場を設置し、そこから運

    ぶ方法も考えられる。

    そうした場合、前記の飛行回数を

    幅に減少できることを、書き添えておきたい。

    20

    縦帥酬は脱出速度の4e采の似てあり、連動エネルギーをぶわす。これ

    はまた、この住民を脱出するためのけ一世エネルギー(市力ポテンシ

    ャル)とも写しい。

    機軸は仲離を表わす。

    この図より明らかなよう

    に、地球から脱出するにはい入以のエネルギーを必要とする

    。一方、

    ハと火

    U引に到汗する凶叫ん刊は、電力ポテンシ守ルの坂を転げ落ちてい

    くことになり、その余剰子みル

    ギーがそのまま速度に変換されてし

    まう

    これを避けるために減速する必安があるが、そのための工、汗

    ルギーがまた必要となる。

    火足の場合、大気を利附した減速が吋能

    である。

    た人聞がアメリカ人となったように、

    新惑星に移住した

    レクテナ)

    人類が火星人となることでもある。

    火星へ

    の輸送計画

    人類が実際に火星に都市を建設する場合、建設材料の

    大半は地球から運搬すること仁なる

    そこで、今回のマ

    ハピテ1

    ションーを例として、プロ

    ジェクトチ|

    ムでは輸送計画についても検討を行なった。

    地球から火星へt飛行するには、

    ク匂。

    次のような方法があ

    ①代表的な軌道のタイプ

    ・火星フライパイ(着陸せずに火星付近を通過し地球に

    戻る。

    二機使用することにより、火星への短期滞在も可

    -コ

    ンジヤンクション型

    (単独の軌道としてはエ、みルギ

    ーが最少で済む。

    ただし一年以上火星に滞在する必要が

    地球系・火星系の脱出エネルギー図(重力ポテンシャル)

    ある)

    -オポジション型(数カ月火星に滞在

    金星の重力を利

    用する

    ・ド刀法もある)

    ②燃料節約の輸送手段

    低推力推進

    (電気推進などの低推力推進装置を連続的

    に使用し航行する)

    惑星間輸送船利用(地球l火星聞を常時往復する輸送

    船を利用する)

    この〉フち、AI同はコンジヤンクション型を想定し、燃

    料はすべて地球から運ぶものとして検討を進めた。

    ジヤンクション型は

    火星探査機バイキング号も使用し

    たもので、地球から打ち上げられた宇宙船がロケ

    ット噴

    射によって地球軌道を離れ、やがて火星軌道に到達した

    L」おt、

    そこに火星がいるように計算して航行する。帰り

    は反対に、地球軌道に戻ってきたとき、地球がそこにい

    るように計算して航行する。

    打ち上げの時期が限られ、

    また火星で約一年間を過ごす必要があるため、往復で三

    年聞を要するが、現在考えられている単独の方法として

    はもっともエ、不ルギーが少なくて済む。

  • 一九九O年、私達の先祖はまだ地球にすんでいたが、

    そのなかで日本人t

    呼ばれる種族はようやく私達の火星

    に対する漠然とした興味を持ち始めた。地球の二大国だ

    ったアメリカ、ソ連t

    いう国々は、一九六0年代より、

    火星を人類の字宙開発の一つの目標と考えていたが、マ

    リナ1

    、バイキング、マルス、フォボス探査機などを送

    ったにすぎなかった。宇宙後進国の日本は、技術大国、

    経済大固としてようやく火星に目を向け始めた頃だった。

    字宙開発は、専ら科学的な興味が唯一の原動力となって

    いたのだが、この頃より、無重量状態で生成される純粋

    化合物、具体的には、医薬品と半導体が将来、利益を生

    みだすかも知れないと考えられ始めたのである。

    アメリカとソ連は、宇宙先進国としてはるかに先を見

    ていた。

    ただ、その原動力が時代とともに変わってきた

    のである。

    何よりも国家の威信を賭け、かつ宇宙技術の

    箪事技術への応用という実用面を考慮しながら行なって

    きた宇宙開発も、ここに来て様変りしてきだ。その要因

    としては、東欧の政治情勢の変化とソ連自身の改革によ

    る冷戦の終罵、それにともなう軍事費削減、低水準のソ

    連経済、豊かともいえなくなったアメリカ経済、軍事技

    術への過剰な投資によるアメリカ民生技術の低下、地球

    環境の悪化による地球自体の見直し、などである。変化

    の端的な表われが、前年の七月のブッシュ米国大統領の

    演説であり、月を経て火星へと至る有人宇宙計画におい

    て、国際協力を打ち出したことにある。もはやいかなる

    国も単独でプロジェクトを遂行する技術と資金を持たず、

    また、そうする必然性もなくなってきたのである

    その

    一つの芽が

    一九九0年代に建設され、運用に入

    たスペース・ステーションである

    白木はこのステーシ

    ョンで暴露部を持つユニークな実験モジュールを作り上

    述したような材料実験を行なっている

    このスペース・

    ステーションはその後の宇宙開発において決定的に重要

    な意味を持った。

    このステーションが置かれた地球低軌

    道は、高度こそ四六0キロメートルと低いが、輸送にか

    かるコストを考えた場合、地球低軌道は月や火星に飛躍

    ては計測器を付けた風船を火星大気上に浮遊させる計尚

    も実行された。二四時間周期で昼間は火星上を移動し夜

    間表面に滞留し大気上層から表面までを異なった地点で

    調べた。

    続いて火星無人ロl

    パーが送られ広範囲の地表

    上のサンプルを遠隔操作で分析したり、地中をドリリン

    グし水分の有無を調べたりした

    最後に火星表屑物質が

    無人探査船によって地球に持ち帰られ実験宰で詳細に分

    析された。

    この表層物質の分析に・おいては化学組成の分

    析が資源探査の回的からもっとも重要であるが、その他

    生物学的分析も詳しく行なわれた。

    火星では生命が発生

    した可能性が地球との類推から非常に高いので、生命の

    起源を考えるうえで火是正絶好の場を提供すると考えら

    れたからである

    この火星無人探査で得られたものは、一二つに分けられ

    る。

    一に、有人探査にむけての技術の修得である。す

    なわち、地球|火星輸送技術、エアロaブレーキ技術、イ

    メージング技術、テレオペレーション技術、着陸/離陸

    技術、帰還技術、殺菌/滅菌技術、などである

    第二に、

    火星についての科学的な知識が得られた。火星は、太陽

    系の起源、生命の起源を知るために格好な場を提供する

    し、火星資源の利用のための基礎資料が得られたりした

    第三に、有人探査が行なわれる前仁、生物学的検査が行

    なわれた点、である。

    この時期、数カ所で行なわれた無人

    探査ではまだ、火星型生命t呼べるものは発見されなか

    った。

    従って、そのような生命を持ち帰っ

    て地球を汚染

    する危険は少ないと考えられたし、また、地球の人類が

    火星の生物環境を著しく変えることもあり得ないと結論

    づけられたのである

    徹底的な火星の生物探しは後の有

    人による探査まで待たなければならなかった。こうして、火

    星は、初めて人類を受け入れる準備を整え終えたのである

    最初の有人探査は、地球上のアメリカ、ソ連、日本、

    ヨーロッパ、中国の共同計画で行なわれた。乗組員八人、

    片道九カ月、火星滞在約

    一年の長期ミッションであった。

    乗組員は、すぺて既婚の男女、ただしカップルは含まれ

    ておらず、また、最悪の事態を想定して子供を持たない

    的に近いことになる。ここに人類が定住するということ

    は、後に月や火星への有人探査を進めていくうえで輸送

    エネルギーの観点からはもうすぐそばまできたというこ

    とを意味している。

    この時代にスペース・ステーションまで足を延ばして

    きた人類は、かなりの長期間ここに住んだ。材料実験や

    天文観測と並んで重要だった研究テ!マは、

    生物科学実

    験である。無重量状態あるいは人工重力が生物体に及ぼ

    す影響、太陽放射線が生物体に及ぼす影響、これらの状

    態で植物や動物が育っかどうか、閉鎖生態系での有機物

    循環、などである。

    す?に気が付くことは、

    これらの実

    験がすべて将来の人類の字宙空間への移住のために行な

    われたことである

    確かにスペース・ステーションは、

    人類が月や火星に出ていくための重要な第一ステップで

    あった。そして有人月・火星計岡は、今私達が見るよう

    に、全地球的な||米ソ日欧などによる||大プロジェ

    クトになったのである。

    一日一火星に興味を持ち始めた私達の祖先もまっしぐら

    に火星にやって来たわけではなかった。まだまだ越えな

    ければならない課題がたくさんあったためで、彼らは三

    つの手段を用いることにした

    スペース・ステーション

    の建設、月面基地の建設、そして火星無人探査である。

    米日欧のスペース・

    ステーションは、前章でも触れた

    ように一九九0年代の後半から運用を開始した

    乗組員

    が常時宇宙空間、て生活し、無重量、放射線の生命体への

    影響、生命維持装置、低軌道での組み立て施設、宇宙生

    活の心理学的な影響などが調べられた

    当時の技術レベ

    べでは、火星旅行には片道九カ月かかることになってい

    たので、乗組員はステーションに少なくとも

    一年以上滞

    在し火星旅行に係わる上述の専ら生物科学的な影響が徹

    底的に調べられた。

    月面基地は二OO五年に建設が開始された

    月仁人類

    を送ることは

    一九六01

    一九七0年代に行なわれていた

    ので短期間人聞を送り無事連れ戻す噂」とは技術的な問題

    ではなかったが、ここでは、低軌道から月への大量輸送

    ものが選ばれた。

    原則として、乗組員は飛行中家族t

    交信はかなりコントロールされていた。

    第一回白の有人探査船は全て地球の材料

    でまかなわれ

    た。

    月面基地での体制が整い月の資源が使われる時代が

    来るまではまだしばらく待たなければならなかった

    。二

    O同のスペースシャトルと

    一五回の材料運搬機が資材と

    乗組員を地球低軌道に送り、そこで二00トンの探査機

    が組み立てられた。

    組み立てが終ると、液酸液ぷエンジ

    ンがふかされ地球周副軌道を離れ、地球|火星遷移軌道

    に入った。

    軌道投入後、エンジンは軌道修正用の電気推

    進以外は止められ、機体は人工重力を作り出すためゆっ

    くりスピンをかけられ長い巡航状態にはいった。食糧は

    原則として地球より持っていかれたが、機内で小規模な

    農場を作る試みは行なわれた。

    空気と水は完全に再縄環

    されていた。

    火星に近づくと、着陸船が切り放され、エアロブレー

    キとパラシュートを使いながら火星表面に軟着陸した。

    乗組員は別に送られてきた計三基の資材運搬船の機体を

    組み合わせて居住区を造り、かつ植物栽培用の温室を建

    設した

    機体は火星表面土で覆い、長期に亙る宇宙放射

    線への人体の暴露を防いだ。

    火星大気の二酸化炭素より

    得た一酸化炭素と酸素を帰還用の推進材料とした

    母船

    は火星軌道での着陸船切り離し後、地球方向に一E戻っ

    ていたが、再び火星に戻って来た際に火星から発進して

    きた乗組員を回収し帰途の旅についた。地球軌道突入後

    は軌道上で乗組員と回収したサンプルはスペースシャト

    ル仁移され、地表上に帰還した。

    このミッションは周到に計画されたものであり、これ

    により得られたものは大きかった。第一に、火星に無事

    に人聞を運び無事に地球に帰還させるt

    いう技術を獲得

    したこと

    第二に、火星資源などの科学探査が有人でな

    されたため得られた情報量がきわめて多くなったことで

    ある

    。最初の火星有人探査の後を受けて、片道九カ月、二年

    おき仁出発するフライトが定期化した。後には、いろい

    系の確立、大規模建築物の他天体上での建設技術が確立

    された。.すなわち、真空、低重量環境における有人によ

    る建設、天文観測施設の設置、大型月面自動車の実用化、

    が図られた。また、月鉱物の採掘、および精練も月面基

    地での重要な任務の一つであった。とりわけ、月で生産

    される酸素燃料抜きではその後に続く火星開発は存在し

    得なかっただろう。

    火星無人探査は一九九四年に始められ、以後二年おき

    に、アメリカ、ソ連、ヨーロッパ、そして遅ればせなが

    ら日本から探査機が送られた。前述した理由で、国際協

    調が積極的に図られ、ソ連の探査機にヨーロッパやアメ

    リカの計測機器が搭載されたりし、得られたデータは相

    互に公開された。探査機はいくつかのタイプに分けられ

    る。先ず、火星観測探査機が送られ、赤道付近、極付近

    それぞれが軌道上から観測された。これにより火星大気

    組成、表面物質が詳細に分析された。これと同時に行な

    われたのが、ペ、不トレ1タl

    実験であり、これは槍状の

    測定機器を数カ所、数メートルの地中に突き刺し、地震

    波の分析により地中構造を調ペた。おもしろい実験とし

    22

    バイキング着陸地点の風景。 岩面に白っぽく光っているのは霜(写真/NASA)

    ろな軌道を利用してはば毎年定期便が出発するようにな

    った。

    火星周囲軌道には常に複数の人工衛星が置かれ恒

    久的火星基地建設の補給を担った

    最初の小型火星基地

    は、赤道に近いこと、水が確保できること、科学探査と

    して興味のある場所に容易にアクセスできる点を考慮し、

    マリナl

    峡谷の北、カセイ峡谷のす「南の平原上に建設

    された。

    居住棟には安全を最ら考慮して半地下に埋めら

    れた着陸モジュールが使われたが、温室、倉庫などには

    空気膜構造が使われた。

    また、火星宇宙港が作られ地球

    l

    火星間の輸送に使われたが、また、滑走路、飛行船発

    着場が作られ、火星内の輸送!とりわけ南北間輸送l

    貢献した。

    火星資源の利用には二通りの方法が使われた。

    第一に、大気を圧縮、分別する方法。

    これにより、二酸

    化炭素、水、アルゴンが得られた。第二に、表層物質の

    精練

    建設資材用の、鉄、アルミ、シリカ、等が得られ

    た。また、地下数メートルに眠る永久凍土から水も得る

    ことができた。

    人聞が火星に滞在し始めてまずしたことは、新しい時

    計を作ることだった。火星に住みながら地球の時刻で過

    ごすのは不便なことである。ここでは、二四時間三九分

    (地球の単佐)を

    一火星日と定め、約六八七日(地球の

    単住)を一火星年とした。ただ、地球とも通信しなくて

    はならないため、地球時刻と火星時刻との換算計算機を

    常に持ち歩かなければならなかった。しかも地球|火星

    聞の通信は、太陽系での両惑星の相対位置に応じて、三

    分から二O分の時間遅れが生じるため、通信における時

    刻の設定は複雑をきわめた。余暇時間には有志が屋外に

    出て基地のシンボル’としての簡単なH時計を作ったりし

    た。地球から新たにやって来たばかりの人々は火星の時

    刻で生きることにより、遠くの新世界にやってきたこと

    を実感するのだった。後にこの時代が私達によって火星

    暦紀元前と呼ばれることになろうとは、だれも知らなか

    っただろう。

    火星基地には常に一O人程度の人聞が滞在していた

    最初は一年おきに交替していたが、二O二O年から一年

    以上滞在する人聞が現われ、火星表面での長期滞在の及

    ぼす影響、が調べられた。麦、米、大豆、各種野菜類の種

    子が持ち込まれ、ここで栽培が試みられた。これらは温

    23

  • 室内で育てられたが、放射線は発育にはそれはE

    影響し

    なかった。ただ、種子は遺伝子への影響を避けるため半

    地下仁保存された。二O二五年には、初めて兎ーと鼠が持

    ち込まれ、生殖を繰り返しながら、三分の一の重力が及

    ぼす影響を調べられた。

    基地の人間達は、主に火星の調査を目的tした科学者

    と、基地を維持発展させるためのエンジニアからなりた

    っていたが、もちろん、このなかの何人かは医師の免許

    と立派な料理の腕前を持っていた。あらゆる国籍の人聞

    からなりたち男女もほぼ同数に保たれた。何よりもこれ

    らの選ばれた人達に要求されたのは、協調性であった。

    火星に来る以前にも彼らは地球上において共同生活をし、

    あらゆる相性が調べられていた。

    異性聞の相性は永遠に解明することのできない問題だ

    が、ここでは、試験的にすべて独身者が選ばれていた。

    共同体としてもっとも危険なことは、嫉妬、失恋による

    個人の仕事の能率の低下t、その集団へ及ぼす悪影響で

    ある。この頃の基地の人員t

    して、他人への依頼心を持

    たず、また異性問の交流に対しておおらかな感情を持つ

    独身者が選ばれていた。

    以上の議論は、もちろん、向性

    聞の交流にもあてはまっていた。

    この時代の火星基地において注意深く避けられていた

    のは、妊娠とそれに続く出産、である。その第一の理由は、

    放射線の精子、卵チ、胎児、母体に及ぼす影響が解明さ

    れていなかったことである。火星基地に一旦到着すれば、

    基地は放射線から保護されているので安全であるが、飛

    行期間中の被爆はある程度避けられない。初期には、宇

    宙ステーションや月面基地でこの効果が調べられ、後に、

    小動物が実験用に火星に持ち込まれ研究が続けられた

    第二の理由は、放射線以外の火星独自の環境の生体、出

    産に及ぼす影響が不明であったことである。三分の一の

    重力は人類の未だ経験しなかった環境であり、胎児の成

    育、出産に影響を与える。また、女性は、初めて地球|

    月の系を離れ、月公転の周期性から解放されることにな

    った。火星で初めて子供が誕生するのは、上記の問題の

    解決されたこの世紀平ばまで待たねばならなかった。

    ある一円、基地に素晴らしいニュースがもたらされた。

    マリナl

    峡谷の近くにある小さな谷は、かつて水の流れ

    費用で米ることができるようになった。小惑星帯に資源

    が眠っていることを聞いた一部の地球の者は、銀行の融

    資を受けてまでして採掘船を仕立て、火星経由で小惑星

    帯に赴いたり、あるいは、その帰途に立ち寄ったりした。

    運よく資源のある小惑星を当てたものは良かったが、そ

    うでない者は、帰途の費用もなく、火星に駐留した。す

    なわち、火星はある意味、て、守コールドラッシュの起こっ

    たときのサクラメントやサンフランシスコの役割を判っ

    たのである。成功者、失敗者の区別仁係わらず、銀行は、

    火星に支店を開設して彼らに対処した

    この時期の現象

    はプラチナラッシュと呼ばれている。

    二O九O年頃の地球は、人口七O億人、温室効果の影

    響でアメリカ大陸は砂漠化し、ヨーロッパと円本は、半

    ば水没していた。また、地球全体が温暖化したので熱帯

    の伝染病が全地球的に蔓延したりしていた。その頃、火

    星はようやく人口五万人を数えたばかり‘であったが、太

    陽系のGNP

    の五%までを占めるようになっていた。

    火星の居住地は合計八つあり、その最大のものは今私

    達のいる、カセイ峡谷にあるカセイ居住地である。ここ

    には、一万人の人聞が住んでおり、オフィスビルディン

    グ、ホテル、居住区、人工生態系、歓楽街セクション、

    火星宇宙港が作られてきた

    また、火星内遠征、遊覧の

    ための火星車乗り場、ハイウエー入り口、飛行場(滑走

    路)、リニアモーターヵl

    乗り場、気球乗り場なども併設

    されており、都市としての機能を果たしている。

    火星の随所に見られる山や谷などの景観は火星人のみ

    ならず地球人にとっても好適な観光の対象となっている。

    海抜二七キロメートルのオリンポス山は仰ぎ見て美しい

    ばかりではなく、登山、サンドスキl

    、ハンググライダ

    ー、砂嵐の起こったときの有人凧なE

    の名所でもある。

    麓には、ホテルが立ち並び賑わいを見せているが、項上

    まで登りつく者は稀である。

    七キロメートルもの深さの

    あるマリナ

    l

    峡谷は、また、人々の好んで訪れる場所で

    ある。崖をゆっくり下りることも出来るが、地表からエ

    レベーターで降りて谷底を散策するこt

    もできる。一部

    の地形を利用してガラスドl

    ムでおおった自然公園がで

    きてからは、人々は宇宙服なして、谷の壁面に直接触れ

    ながら歩き回ることができるようになった。少し遠出を

    たことによって出来たことが知られている。ここに調査

    にでかけた生物学者が、地下二0メートルの地層に、火

    星起源の生命体、すなわちバクテリアを見つけたt

    いう

    のだ。後に調べられた詳細な検査によれば、この生命体

    は、地球型と同様原則的にアミノ酸、核酸から出来てい

    ること、ただしその組み合わせは異なっていること、地

    球の嫌気性細菌に似ていること、炭素、酸素の同住体比

    は明らかに火星起源であること、遺伝子の暗号は地球型

    t

    異なること、および、光学活性は地球型と同じくアミ

    ノ酸はL

    型、リボl

    スはD

    刑主であること、などが分かっ

    た。火星での生命体の発見は地球中心の宇宙観ぞ変える

    ものであったし、人々の目をより火星に、そして広く宇

    宙に向ける効果を持った。生命体の集落の発見されたこ

    の地域仁は、後に、火星生命研究キャンプが

    設置され生

    命の起源学者が常駐することとなった。

    二O三五年になるt

    、火星の水とアルゴンを推進剤と

    した小惑星帯無人探査機が打ち上げられた。無人プロー

    ブの打ち上げにはまだまだ地球上から打ち上げたほうが

    安上りではあったが、これは将来の有人飛行の技術を得

    ることが主要な目的の一つであった。というのは、この

    ときまでに、小惑星帯の資源についてはかなりよく分か

    っていたからである。

    生存技術について自信を深めるにつれ、基地は少しず

    つ拡張していった。生命維持装置の観点より見れば、初

    期投資さえすれば、人数の増加はそれほE

    問題にならな

    いし、かえってシステムの安定度、安全性は増すのであ

    。結婚しているカップルも数組やってきた。子供を生

    み育てる準備が出来たのである。地球環境が悪化しつづ

    けており、地球人は真剣に火星への移住の可能性を探り

    始めていた。この基地の人口が一五

    O人を超えた頃、第

    二、第三の同様な基地が出来始めてきた

    オリンポス山

    の盤、そしてマンガラ峡谷に居住地、さらに、北極冠近

    くに前線基地ができた。この頃になると、三年、四年と

    暮す者も出てきて、彼らはみな特別に選ばれてきた人間

    たちだったが、本国から離れた向由を楽しむようにもな

    ってきた。民族、宗教、思想を超えた交流が続けられ、

    火星独白の祝日を設けるまでになった。二O五七年には、

    最初の火星生れの子供が誕生し、火星産のワインを飲み

    してもいいと思う者は極地方へもでかけていく。極に広

    がる水や二酸化炭素の氷は私たちに資源の貴重さを改め

    て感じさせてくれる。また、歴史に興味のある者は一九

    六0年代のバイキング探査機のあるクリユス平原とユート

    ピア平原の二カ所のバイキング遺跡公園を訪れるだろう。

    火星の有人開拓史とともに進められてきた火星生命体

    の探査はいくつかの箇所で原初の火星起源生命の発見へ

    t

    導かれた。極冠の山の崖の内部に大規模な生きた原初

    生命集落がいくつか見つかったほか、峡谷の崖の内部に

    も集落とともに有核生物の化石が見出された

    これらの

    場所は天然生命公固として厳密に周囲から隔離、密封さ

    れ、これまでどおりの進化の行末が科学者によって見守

    られている。と同時に、訪れる観光客にも生命の神秘さ

    を教えてくれる。

    既に火星生れの二代目が誕生しており、彼らは、火星

    人としての外見的特徴を獲得しつつある。すなわち、太

    陽光照射が少ないために色が臼く、重力が小さいために

    脚が細く長くなり、全体に背が高くなっている。

    この居

    住地の近辺に火星ランドと呼ばれるテl

    マパl

    クがオー

    プンし、そこでは、地球シミュレータ!と呼ばれるアト

    ラクションが大好評を博したこt

    がある。単に、地球の

    lG

    の重力をかけるだけだが、貧血を起こして失神する

    のがティーン

    エージャーのプl

    ムになったりした。実際

    に、父祖の園、地球を訪れた子供達もいるが、彼らは、

    足を骨折したり、貧血を起こしたり、野菜や果物の小さ

    きゃ環境条件の悪さに驚いて、散々の体で帰ってくる。

    一般に、火星人は、民族的な混交が進んでおり、その

    進取な気性から地球での宗教、思想とも無縁である。二

    O九0年代に、火星の富を妬んだ地球政府が重税を課し

    てきたので、二O九二年、火星の各居住地に住む人々が

    集まり、独立を宣言した。地球にはもはやこの火星の勢

    いをtE

    めるだけの力はなかった。

    こうして、二一O

    年、火星連邦が定められた。選挙に引き続き開催された

    第一同議会において、カセイ市に首都が置かれることに

    なった。火星生れの首相が首長に選ばれ、正式な貨幣を

    ながらお祝いをした。ちょうど、

    人を超えた頃だった

    火星総人口が、五00

    全地球的なプロジェクトとして続けられてきた火星開

    発も二O五O年を境t

    して様相を変えてきた。第一の理

    由は、輸送手段の改善により地球|火星聞が飛躍的に近

    くなってきたこ

    t

    であり、第二に、これにt

    もない、火

    星がピジ、みスの場として考えられるようになってきたこ

    とにある。

    これまで無人で行なわれてきた小惑星帯の探査の結果、

    予想されていた重金属資源の存在が確認されたため、有

    人の採掘船がでかけていった。彼らは火星の衛星を採掘

    した要領で小惑星帯を採掘し、精練した鉄、ニッケル、

    貴金属を火星のみならず、大量に地球に送り始めた。こ

    れらが地球に届き始めた二O七五年には採掘を受け持っ

    た火星採掘株式会社の株は急騰し、以後同様の会社が無

    数に設立されることになった。

    推進系の制約からこれまで最小ェ、汗ルギ

    l

    軌道である

    ホ1

    マン軌道を原則的にとっていたため地球1

    火星聞の

    交通には長い時聞がかかり障害となってきた。ところが、

    地球上で核融合が成功し、それが宇宙推進にも使われ始

    めた二O六O年には、地球|火星聞が片道一二O日に短縮

    されるようになり、私企業による輸送サービスが飛躍的

    に活発になってきた。この推進システムを使うと輸送す

    べき推進剤が少量で済み、常にエンジンを動かし続ける

    ことにより大幅な旅行期間の短縮が図られたのだった。

    これにともない、それまで賛沢であった火星旅行が一層

    身近なものになり一つの産業として認められるようにな

    ってきた。旅行者はアメリカの、グランドキャニオンを訪

    れるように火星のマリナi

    峡谷を訪れ、また、太陽系最

    大のオリンポス山を訪れるようになった。二O八O年に

    なると、太陽光の光圧を大きな帆によって受けるこt

    より推進する太陽帆推進が開発され、地球|火星間旅行

    一週間、地球|小惑星聞旅行二週間に短縮された。

    この頃の推進系のめぎましい開発により、旅行費用も

    著しく下がり、地球|火星聞は、平均月収の三カ月分の 24

    定め、住民にパスポートを発行した。それまでは、皆、

    地球諸国のパスポートを所有していたのである。新しい

    火星連邦憲法が定められ、自由、平等の理念とともに、

    火星の環境を美しいままに守ることがすべての住人に義

    務づけられた。私達火星人の独自性をよりよく象徴する

    かのように私達は火星に即した暦を作ることにした

    れまで暫定的に使われていた火星独自の時間(火星目、

    火星年)が整備され、この二一O一年が火星元年として

    生まれ変わることとなった。これまでの火星人には新し

    い火星暦紀元前の生年月日が与えられ、火星の公転(六

    八七地球日)を一年とした年齢が数え直された。だれも

    が、半分位若返ったような気がして喜んだものだった。

    火星元年の今年、憲法制定に引き続き、第一回火星連

    邦議会において火星緑化準備法案が提出された。私達火

    星人は、豊かで平和な社会を得、自由、独立を勝ち取る

    こ・とが出来たが、ただひとつ、澄んだ空の下で共通の空

    気を吸うことが出来なかった。そのためには、頭上にあ

    る覆いを取り去り、かつ、私達が呼吸できる大気を全火

    星上に作り出す必要がある。地球が四六億年かけて生命

    の進化と共に作り上げてきた海と大気からなる世界をこ

    こ火星、てなるべく短い時間に人為的に作り出すことが必

    要となる。これまでの予備的な研究に依れば、この計画

    の完成には少なくt

    も一O万年かかるt

    いわれてきた。

    この法案は、この期聞を短縮し計画を実現可能なものに

    するための研究を直ちに開始することを提案するもので

    あった。

    火星連邦議員は、あらゆる観点から充分な議論

    を尽くしたうえで、この法案を可決した。二五火星年間

    の慎重な研究期間の後に火星暦二五年(地球暦約二一五

    O年)、私達は惑星を緑化するという試みに挑戦、計画を

    開始することになる。

    これは私達からの子孫への贈物である。研究次第では、

    子供達、子孫達は、芝生の上に寝ころがって日光浴をし

    たり、青く輝く海で泳いだり、速くの仲間に大声で呼び

    かけたり、岩山守駆け降りたりすることができるかもし

    れない。その目的のために私達は努力を惜しまないこと

    をここに誓ったことになる。火星は私達の夢が実現する

    かけがえのない惑星である。

    25

    (大林組プロジェクトチlム)

    033_004033_005033_006033_007033_008033_009033_010033_011033_012033_013033_014