韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響 ·...

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78953 The social economical influence of “the employment permission system” in Korea SANO Koji はじめに 韓国の雇用許可制も2014月で施行10周年を迎 え,その成果だけでなく,限界や課題も次第に明らか になりつつある。前稿,佐野孝治[2014]「韓国の『雇 用許可制』と外国人労働者の現況 日本の外国人労 働者受入れ政策に対する示唆点⑴ 」では,雇用許 可制の概要および外国人労働者の現状について明らか にした。本稿はその続編であり,「雇用許可制」の社 会的・経済的影響に関する評価を行う 評価に当たっては,誰の立場から評価するか,そ してどのような評価基準を採用するのかが重要であ る。利害関係者としては,①外国人労働者,②使用者, ③韓国人労働者,④送出し国などを想定できるが,わ れわれは特定の立場に立脚せず,雇用許可制という「制 度」「政策」評価として,韓国の経済・社会発展にと ってプラスかどうかという「公益性」の見地から評価 を試みたい。 評価基準として,以下の雇用許可制の基本原則が守 られているかどうかで判断する。すなわち,①労働市 場補完性(韓国人優先雇用)の原則,②均等待遇(差 別禁止)の原則,③短期ローテーション(定住化防止) の原則,④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原 則,である。 したがって,まずⅠ節では,世論調査をもとに韓国 人の外国人に対する意識について概観する。次いで, Ⅱ節では,雇用許可制の基本原則が守られているかど うかという基準で,雇用許可制を評価する。続いて, Ⅲ節では,中小企業経営者および外国人労働者の視点 から雇用許可制の評価を整理する。最後に,Ⅳ節では, 近年,社会問題として関心がもたれている外国人犯罪 の増加について考察する。なお韓国の雇用許可制の評 価だけでなく,台湾やシンガポールなどの外国人労働 者政策の比較検討を踏まえた,日本の外国人労働者受 入れ政策に対する示唆点については,次稿で分析する。 Ⅰ 韓国人の外国人に対する意識の変化 雇用許可制の評価をする前に,世論調査をもとに韓 国人の外国人に対する意識について概観しておこう。 韓国の有力紙の一つである『中央日報』に「彼らの コリアンドリームは韓国人には悪夢」 という記事が 掲載された。外国人労働者が低学歴の韓国人労働者の 仕事を奪っているという内容である。ここ数年で外国 人労働者や結婚移民に対する意識は否定的に変わりつ つあるように思える。もともと韓国は外国人が多いと いっても,人口の3%と少なく,「単一民族」的情緒 を持っている点で,日本と同様であった。白人以外の 外国人に対して,排他的・差別的意識を持つ人も少 韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響 日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点⑵ 福島大学経済経営学類教授   佐 野 孝 治  福島大学地域創造 26巻 第22ページ 2015Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 26 (2):3-22, Feb 2015

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Page 1: 韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響 · して外国人の増加に対応して,韓国の外国人に対する 意識は,多文化共生社会に適合したものに変化したの

韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響 (7895)

―  ―3

The social economical influence of “the employment permission system” in Korea

SANO Koji

は じ め に

 韓国の雇用許可制も2014年8月で施行10周年を迎え,その成果だけでなく,限界や課題も次第に明らかになりつつある。前稿,佐野孝治[2014c]「韓国の『雇用許可制』と外国人労働者の現況―日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点⑴―」では,雇用許可制の概要および外国人労働者の現状について明らかにした。本稿はその続編であり,「雇用許可制」の社会的・経済的影響に関する評価を行う1。 評価に当たっては,誰の立場から評価するか,そしてどのような評価基準を採用するのかが重要である。利害関係者としては,①外国人労働者,②使用者, ③韓国人労働者,④送出し国などを想定できるが,われわれは特定の立場に立脚せず,雇用許可制という「制度」「政策」評価として,韓国の経済・社会発展にとってプラスかどうかという「公益性」の見地から評価を試みたい。 評価基準として,以下の雇用許可制の基本原則が守られているかどうかで判断する。すなわち,①労働市場補完性(韓国人優先雇用)の原則,②均等待遇(差別禁止)の原則,③短期ローテーション(定住化防止)の原則,④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原則,である。

 したがって,まずⅠ節では,世論調査をもとに韓国人の外国人に対する意識について概観する。次いで,Ⅱ節では,雇用許可制の基本原則が守られているかどうかという基準で,雇用許可制を評価する。続いて,Ⅲ節では,中小企業経営者および外国人労働者の視点から雇用許可制の評価を整理する。最後に,Ⅳ節では,近年,社会問題として関心がもたれている外国人犯罪の増加について考察する。なお韓国の雇用許可制の評価だけでなく,台湾やシンガポールなどの外国人労働者政策の比較検討を踏まえた,日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点については,次稿で分析する。

Ⅰ 韓国人の外国人に対する意識の変化

 雇用許可制の評価をする前に,世論調査をもとに韓国人の外国人に対する意識について概観しておこう。 韓国の有力紙の一つである『中央日報』に「彼らのコリアンドリームは韓国人には悪夢」2という記事が掲載された。外国人労働者が低学歴の韓国人労働者の仕事を奪っているという内容である。ここ数年で外国人労働者や結婚移民に対する意識は否定的に変わりつつあるように思える。もともと韓国は外国人が多いといっても,人口の3%と少なく,「単一民族」的情緒を持っている点で,日本と同様であった。白人以外の外国人に対して,排他的・差別的意識を持つ人も少

論 文

韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響―日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点⑵―

福島大学経済経営学類教授  佐 野 孝 治 

福島大学地域創造第26巻 第2号 3~22ページ2015年2月

Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 26 (2):3-22, Feb 2015

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―  ―4

なからずいる。2007年に国連の人種差別撤廃委員会(CERD)から,単一民族を強調しすぎており,人種差別に対して適切な措置を採るよう勧告を受けたり,2012年の総選挙で初めて,フィリピンから帰化して国会議員になったイ・ジャスミン氏に対して,激しい差別発言がなされたりするなど3,依然として「ウリナラ(我が国)主義」は根強いといえよう。 その韓国が,2007年以降,外国人労働者にとどまらず,韓国人と外国人の社会的統合を主要課題とする統合政策を進めている。「外国人処遇基本法」(2007年5月)や「多文化家族支援法」(2008年3月)などが相次いで制定され,外国人参政権も認められるようになった。この隣国の社会実験は日本の外国人労働者受入れにとっても重要な示唆を与えると考えられる。果たして外国人の増加に対応して,韓国の外国人に対する意識は,多文化共生社会に適合したものに変化したのだろうか。 娥山政策研究院の2013年11月の世論調査によれば,79.2%の韓国人は「外国人に拒否感を感じない」と回答しており,おおむね外国人に対しては寛容である。他方,「多文化家庭の増加は韓国社会の競争力を強化する」という回答は,67.5%と過半数を超えているが,逆に「社会統合を阻害する」という回答も32.5%存在し,女性(36.3%)と20代(35.1%)が若干高くなっている。また2011年調査に比べると肯定的評価は74%

から6.7ポイント低下している(図1参照)。 低下した要因は20代と30代の多文化家庭に対する評価の急落である。たとえば20代は75%から65%に10ポイント低下している。抽象的には,外国人に対して寛容であるが,具体的に移民者に対する意識を出身国別にみると,米国人に対しては肯定的評価が66%と高い

が,人数が多い中国人(40%)やフィリピン人(52%)に対しては低い。日本人に対しても日韓関係の悪化を反映して,40%と低い。特にアフリカ人など有色人種に対しては差別的だと,国際的に批判を受けている4。 外国人労働者に対する韓国人の意識は,「韓国社会の価値を惑わす」が2010年の16%から2013年には22%

に上昇し,特に,20代は13%から31%に急増した。また「韓国社会への適応能力の不足」は25%から27%へと増加し,若年世代の保守化傾向の中で外国人労働者に対する否定的評価が高まりつつある5。 経済分野,社会分野,政策分野別の世論調査では,まず経済分野では,「韓国経済に寄与」するという回答が63%と高く,「外国人が韓国人の仕事を奪う」については,27%と低く,おおむね肯定的に評価している。次に,社会分野では,総論では「社会発展に寄与」が53%と過半数を占めているが,各論では,「犯罪率の上昇」(53%)など社会不安が増大するとみている。特に20代の60%は犯罪率が上昇すると考えている(図2参照)。 続いて,政策分野では,「韓国政府が過度な移民者支援をしている」に対して,否定が45%と肯定38%を上回っているものの,拮抗する水準であり,韓国人に対する「逆差別」問題や外国人の増加による,社会保障など社会的コストに対する韓国人の目も厳しくなっている。 また,韓国では,インターネット上で外国人に批判的なコメントがあふれており,外国人労働者受入れに反対する団体も「外国人労働者対策市民連帯」6や「多文化反対汎国民実践連帯」7,「外国人犯罪清算連帯」8

など次々と生まれている。しかし,これまでマスコミではほとんど取り上げられておらず,取り上げられる場合でも「韓国版KKK」などと批判的なニュアンス

100%

肯定 否定 わからない

70%80%90%

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11.811.8 13.7 1212 7.57.5 18 7.27.2

35.235.2 33.133.124.824.8

25.125.1

13.713.7 1818

6666 44.544.5

5353 53.253.263.263.2

26.526.537.537.5

67.767.7

不法移民の強力な防止

過度な移民者支援

仕事を奪う

韓国経済に寄与

社会発展に寄与

犯罪率の上昇

図2 韓国人の外国人に対する意識

80(%)

競争力強化 社会統合阻害70

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10

02011 2012 2013

図1 多文化家庭が韓国社会に及ぼす影響

出所:キムジユン・他[2014]「閉じられた大韓民国韓国人の   多文化認識と政策」『issueBRIEF』(04)、5ページ。

出所:娥山政策研究院「THE ASAN PUBLIC OPINION    BRIEF」2014年2月。

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の記事が多い9。さらに日本と比べ政策策定に対する影響力もあまりない。 最後に,日本の外国人労働者に対する世論調査を挙げて比較してみると,2004年の内閣府の調査では,単純労働者の受入れを認めない理由では,「治安の悪化」(74%),「地域社会でのトラブル増加」(49%)と社会的不安を挙げる者が多く,「雇用の悪化」(41%),「労働条件改善の遅れ」(16%)など経済的不安はそれほど高くない10。2010年の内閣府調査でも,外国人労働者に求めることは,「日本語能力」(94%),「日本文化に対する理解」(86%),「日本の習慣に対する理解」(89

%)などは高いが,「預貯金等の資産」(45%)はそれほど高くない11。 以上,世論調査の結果から判断すると,日韓両国とも,雇用の悪化など経済的不安はそれほど大きくないが,犯罪の増加,言葉や文化を理解しないことによるトラブルの増加など社会的問題に対する関心が高いことがわかる。

Ⅱ 基本原則から見た「雇用許可制」の評価

 本節では,「雇用許可制」の社会的・経済的影響を評価するにあたって,雇用許可制の基本原則が守られているかどうかで判断する。すなわち,①労働市場補完性(韓国人優先雇用)の原則,②均等待遇(差別禁止)の原則,③短期ローテーション(定住化防止)の原則,④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原則である。

1.「労働市場補完性の原則」―外国人労働者は韓国人の職を奪うのか―

 まず「労働市場補完性の原則」が守られているのかどうかについて検討する。 日本では,外国人単純技能労働者の受入れに対して慎重な理由の一つとして,「国内労働者との競合・代替」に対する懸念があげられているが,韓国では,外国人労働者が韓国人の職を奪い,労働条件を悪化させるという否定的見解と,逆に,3K業種なので韓国人労働者とは競合せず,むしろ生産拡大効果があるという肯定的見解が併存している。 韓国政府は,「労働市場補完性の原則」を第一に挙げ,外国人単純技能労働者を全面的に受入れるのではなく,外国人労働者政策委員会が業種別に労働市場需給調査,景気動向,不法滞在外国人数などを考慮し,受入れ人数を調整している。また労働市場テスト(韓国人労働者の求人努力)を行い,国内で

韓国人労働者を雇用できない事業所に対して,雇用許可を与えている。さらに事業場移動を原則3回に制限している12。このように制度的には,韓国人労働者との競合が生じないようにしているが,実態はどうであろうか。 第一に,マクロ的に見ると,2003年の外国人労働者は不法滞在者を含めて約46万人であったが,2014

年には約76万人へと,約30万人増加した。この間の失業率は,2003年の3.6%に対して,2014年5月には同じく3.6%であり,大きな変化は見られない。 第二に,IOM移民政策研究院のカンドングァン・他[2010]によれば,2008年の外国人労働者による生産誘発効果は29.5兆ウォン(約3兆円)であり,内訳をみると,専門職は4.5兆ウォン,非専門職は25兆ウォンである。これはGDPの0.93%に相当する。これに結婚移民者,留学生を含めれば,生産誘発効果は33.2兆ウォンに達する。また付加価値誘発効果で見ても,8.2兆ウォンで,総付加価値額の0.82%に相当している。 さらに外国人労働者が5~20%増加すれば,総雇用は0.24~0.83%増加し,実質民間消費は,0.07~0.23%,輸出は0.21~0.72%増加すると推計されており,少子・高齢化の中で,韓国経済にとってプラス効果があると分析している13。 第三に,現時点では,外国人労働者は労働力人口の3%程度とそれほど大きな割合を占めていないため,全体としては,韓国人労働者との競合・代替問題は深刻化していないように見えるが,一般雇用許可制と特例雇用許可制では影響が異なる点に注意が必要である。 まず一般雇用許可制は,ベトナム,フィリピン,タイ,インドネシアなど15ヶ国政府との間で二国間協定(MOU)を締結し,毎年クォータを決定し,外国人を受け入れる制度であり,中小製造業,農畜産業,漁業,建設業,サービス業など5業種が対象である。この制度による外国人労働者は約25.8万人と規模があまり大きくなく,労働力不足率が高い3K業種の製造業中心に就労しているため,韓国人労働者との競合は少なく,補完的役割を果たしているといえる。 2013年の中小製造業の不足人員は5.6万人,不足率は3%であり,中小企業中央会の実態調査によれば,外国人労働者を雇用している中小製造業の労働力不足率は10%と高水準である。このうち約8割の企業が「韓国人の就業忌避や離職率の高さを考える

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と,外国人労働者枠を韓国人で補うことは不可能」と回答している。また別の使用者に対するアンケートでも9割が「外国人労働者は労働市場を補完している」と回答している14。 他方,特例雇用許可制(訪問就業制)では一定程度代替関係があるといわれている。この制度は,中国や,CIS諸国(旧ソ連地域)など11ヶ国の韓国系外国人(同胞)を対象とし,サービス業など38業種が対象である。クォータ管理をせず,総在留規模で管理しており,現在27.4万人滞在している。韓国語を話せる韓国系外国人は,サービス業や建設業での就業が認められていることに加え,事業所変更が自由であるため,労働市場での代替現象が発生している。 建設業では,外国人労働者と韓国人労働者との競合が一定程度みられる。特に不法外国人労働者の増加によって,政府のコントロールが困難になり,高齢の韓国人労働者の職が奪われたり,賃金水準が低下したりすることが懸念されている。近年,韓国社会では格差の拡大がみられ,低所得層との競合が問題となっている。キムジョンホ,ユキョンジュン[2010]によれば,中卒以下の学歴の低熟練労働者,日雇いの労働者は外国人によって職が奪われる可能性が高いと分析している15。またチェギョンス[2011]によれば,2050年に外国人労働者が,全就業者の5%を占め,その半数の学歴が高卒未満であると仮定すると,高卒未満の労働者の供給が11.5%増加し,時間当たりの実質賃金は2.1%のマイナスになると推計している。他方で,高卒以上の実質賃金は0.7%,大卒以上の賃金は1.7%のプラスになると推計している(表1参照)。 筆者のインタビュー調査によれば,1990年代における建設業の日当は7~10万ウォンであったが,現在は10年前よりも少ない5~8万ウォンの日当である。この原因を韓国人は外国人労働者が増加したため賃金が減少したと批判しているという16。このた

め韓国人と韓国系外国人との間で摩擦が頻発している。 サービス業でも,同様に,韓国系外国人労働者と韓国人労働者との競合が指摘されている。特に,中高年女性の職を奪ったり,労働条件の低下を招いたりしているとの批判がある。 以上,マクロ経済的に見れば,外国人労働者の受入は韓国経済にとってプラスであるが,受入れ制度別,業種別にみると影響は異なっている。一般雇用許可制においてはおおむね労働市場補完性の原則は守られているが,特例雇用許可制については原則が一定程度侵されているといえよう。 これの示唆するところは,人権団体が主張する事業場移動の自由化や労働許可制は,韓国人労働者との競合を生み,賃金や労働条件を引き下げる可能性があるということである。外国人労働者の人権と韓国人労働者の優先的雇用という2つの原則をいかに両立するのかが,残された重要な課題である。

2.「短期ローテーション(定住化防止)の原則」  ―短期ローテーションは維持できるか―

⑴ 「短期ローテーション(定住化防止)の原則」の変化 単純技能外国人労働者の受入れに関しては,多くの国で,滞在期間の長期化,不法労働者化,結婚・家族の呼び寄せなどに伴う社会的コストの増加を懸念して,短期ローテーション・システムを採用している。 韓国の雇用許可制も,基本的に滞在期間は3年間ないし4年10ヶ月であり,一時帰国6ヶ月後,再入国が可能なローテーション・システムである。この滞在期間については,企業の要望,訓練・採用コストの節約,在留期間の満了に伴う不法労働者化の抑制といった観点から,滞在期間が次第に長期化している。2009年の改正では,同じ事業所で再雇用する場合には,1年10ヶ月間延長できる

表1 外国人労働者流入の学歴別実質賃金(時給)に対する影響(単位:%)

全就業者に占める外国人労働者の割合

労働供給増加効果 賃金に対する影響高卒未満 高 卒 高卒未満 高 卒 大卒以上

3% 6.9 2.6 -1.3 1.4 1.05% 11.5 4.3 -2.1 0.7 1.710% 23.0 8.6 -4.2 1.5 3.5

 出所:チェギョンス[2010]「移民および外国人力流入が労働市場に及ぼす中長期的効果」    『韓国開発研究院政策研究シリーズ』。

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ようになり,最長4年10ヶ月間となった17。 また2012年から「誠実勤労者再入国就職制度」が開始された。これは,誠実に勤務した外国人労働者が,事業主の要請により,出国3ヶ月後に再入国でき,韓国語試験と入国前・後就職教育も免除される制度である。これにより,再度滞在できるため,通算で最長9年8ヶ月間滞在できる。ただし,①就職期間(再雇用期間含む)中,事業場変更がないこと,②農畜産業,漁業,50人以下の製造業に勤務していることなど厳しい条件となっている。 さらに2011年より,一定の条件を満たした単純技能労働者を対象に,在留資格の変更や永住権付与がなされるようになった。たとえば非専門就業(E-9),船員就業(E-10),訪問就業(H2)などの在留資格を特定活動(E-9),居住(F-2)に変更できる。これにより韓国内で自由に就業することができる。そのための条件は,①過去10年以内に単純技能労働者として4年以上合法的に就労,②35歳未満,③2年生大学卒業以上,④技能士以上の資格保有または最近1年間の賃金が同一職種の平均賃金以上,⑤韓国語能力試験3級以上,などである18。この制度改正は短期ローテーションの原則に対する一定の修正として注目される。⑵ 不法滞在者は減少したか 「不法滞在者」19は,「不法残留者」(正規に入国した後,在留期間を経過してそのまま在留する者)と「不法在留者」(不法入国,不法上陸により,そのまま在留する者)に分けられる。統計的に把握できるのは,不法残留者であるが,ここでは一般的な「不法滞在者」を使用する。産業研修生制度時代は外国人の約8割は不法滞在者であり,産業研修生も5割が不法労働者化していた。2002年の不法滞在者は30.8万人であったが,2004年の雇用許可制の導入に先立ち,不法滞在4年未満の22.7万人を対象に,合法化措置を採り,18.4万人が合法化された。2014年6月現在の不法滞在者は18.7万人とそれほど大幅に減少してはいないが,不法滞在比率20は,11%へと低下している(図3参照)。 国別では,中国人が6.9万人(内,韓国系中国人1.9万人)(構成比38%)と最大で,次いでベトナム人2.6万人(15%),タイ人2.4万人(11%)となっている。年齢別では,30代31%,40代27%,20代23%と比較的若い世代が多い。続いて,不法滞在期間別では,2年以下が41%,5~10年未満

22%,10年以上13%の順である。 最後に,在留資格別にみると,一般雇用許可制の「非専門就業」が5.4万人(29%),「短期訪問」4.5万人(24%),「ビザ免除」2.6万人(13%),「訪問就業」(特例)6500人(4%)となっている。以前は,短期訪問が大部分を占めていたが,在留期間の満了に伴い,「非専門就業」で入国した労働者の不法滞在が増加している。2009年から2014

年にかけて,1.2万人から5.3万人に増加し,不法滞在者になる割合も,6.9%から21.2%に増加している。期間満了を迎える外国人労働者は,2014

年には6.9万人,その後も2015年10.4万人,2016

年5.6万人にのぼるため,これらの相当数が不法滞在者になると懸念されている。 他方,不法滞在者の出国率をみると,2010年10

月1日から2011年9月30日にかけて,不法滞在者4万8,188人中9,583人(19.9%)が出国している。在留資格別では,「非専門就業」が出国率19.4%,「訪問就業」は12.7%と平均以下である。国別では,韓国系中国人の出国率は9.5%と低いのに対し,タイ(25.3%),中国(23.3%)は高い。また年齢別では20代,30代の出国率は25%程度と比較的高く21,韓国で得た賃金を元手に母国でビジネスをするケースが多いという。 ちなみに不法滞在の状況を日本や台湾と比較してみると,日本では,1993年の29.9万人から,2014年1月には5.9万人に激減している。割合も同期間に18.5%から,2.8%へと低下し,韓国の

0

10

20

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(1000人)

不法滞在者不法滞在比率(右軸)

19901995199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013

2014年06月

 図3 韓国における不法滞在者数と不法滞在比率    の推移

出所:法務部・出入国・外国人政策本部[各年]『出入国・外国人政策統計年報』、および[2014]「出入国・外国人政策統計月報6月」7月より作成。

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4分の1程度である。国別では,韓国24%,中国14%,フィリピン9%の順である。在留資格別では,「短期滞在」が70%と圧倒的に多く,次いで「日本人の配偶者等」6%,「留学」5%の順である22。また台湾では,不法滞在者は94年の6,000人から,2013年1.9万人に増加しているが,割合は4%と変わらず,韓国よりも低水準である23。 以上,雇用許可制が導入されたことによって,産業研修生制度の時期に比べれば,不法滞在者数,比率ともに大幅に改善した。ただし,日本や台湾に比べれば,高水準にあり,しかも,近年,在留期間の満了に伴い,一般雇用許可制で入国した者が不法労働者化している。その意味で,短期ローテーション(定住化防止)の原則が揺らぎを見せている。 これに対し,韓国政府は,外国人労働者の帰国を促す自発的帰還プログラム(ハッピーリターンプログラム)を整備するとともに,不法滞在者に対する取り締まりを強化している。また不法滞在が多かったベトナムに対しては2012年にクォータ(割当て)の停止措置を採るなどしている。さらに2013年末には,出入国管理法の改正案を提出し,外国人登録証不正使用者などに対する制裁強化などを検討している。

3.「均等待遇の原則」―外国人労働者の人権は守られているか―

 外国人労働者の人権を守ることについては,日本の技能実習生制度に対する国際的な批判24を見てもわかるように,決して他人ごとではなく,重要な原則の一つである。また人権問題だけではなく,「外国人労働者争奪戦時代」に突入している現在,持続的に外国人労働者の受入れをしていくためには,均等待遇と人権の擁護は不可欠の条件となっている。 韓国では,産業研修生制度時代は形式的には研修生であったため,最低賃金未満の賃金で長時間労働を行っていた。また労働者としての権利も保障されず,賃金不払いだけでなく,パスポート・外国人登録証の取り上げ,暴行といった人権侵害のケースも数多くあり,「現代版奴隷制」と呼ばれるほどであった。 雇用許可制に転換して,「外国人勤労者雇用等に関する法律」(22条)に差別禁止が明文化され,韓国人労働者との均等待遇の原則が採用されたが,実態はどうなっているのであろうか。業種ごとの外国

人労働者の具体的な労働条件については,前稿で明らかにしたので,ここでは要点を整理する。⑴ 均等待遇の原則は守られているか 第一に,制度的には,外国人労働者は韓国人と同様に,勤労基準法,労働組合法,最低賃金法,産業災害補償保険法などの労働関連法が適用される。また雇用契約の際も,賃金,労働時間,休日,勤務場所など労働条件および契約期間を明示した標準雇用契約書を取り交わし,不当に低い労働条件にならないようにしている。 法務部の『2013年在留外国人実態調査』によれば,16%の外国人労働者が「雇用契約違反があった」と回答している。ただし2010年の調査結果の30%に比べれば大幅に改善している。しかし農畜産業に従事する労働者は,そもそも「勤労基準法」の適用対象から除外されており,劣悪な労働環境にさらされやすくなっている。雇用契約書を作成していないケースは34%,最低賃金法違反の契約書は61%に達している25。 第二に,労働三権については,韓国人労働者と同様に保証されている。ただし,外国人労働者を雇用している中小製造業者のうち,労働組合を有しているのは4%にすぎない。また初の外国人労働者の組合であるソウル京畿仁川地域移住労働者労働組合は,2005年に設立申告書を出した後,現在,大法院(最高裁判所)の判決を待っており,正式には組合と認められていない。これは不法労働者が加入していることが主な理由である26。 第三に,社会保険については,国民健康保険と産業災害補償保は義務加入であるため,それぞれ98%,96%の外国人労働者が加入している。雇用保険は任意加入であり,国民年金は送出し国との相互主義の原則によって適用される(中国,タイ,フィリピンなど8ヶ国は適用)。 ただし農畜産業では社会保険の加入率は低い,法務部の実態調査によれば,健康保険は27%と低水準である。また産業災害補償保険については,施行令では農林漁業の5人未満の事業所を適用除外としているため,ほとんどの事業所は加入していない。 その他の保険として,退職金を支給し,賃金未払いに備えるために使用者は出国満期保険と賃金滞納保証保険に加入しなければならず,外国人労働者は帰国費用保険と傷害保険に加入しなければならない。

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 ところで2014年1月に改正された出国満期保険の支給時期をめぐって,韓国で議論が起きている。出国満期保険の支給時期を,被保険者が退職した時ではなく,出国した時から14日以内とした。これは不法滞在を防止するためであるが,これに対し,帰国後の申請では,保険金の受取りが不便で,外国人労働者とって不利益になると外国人支援団体の多くが反対運動を起こしている。 第四に,賃金水準については,最低賃金すら法的に保障されていなかった産業研修生に比べれば改善したといえる。チュヨンスン国会議員が国税庁に提出させた国政監査資料「外国人勤労所得・総合所得10分位別現況」によれば,2008年から2012年にかけて,国税庁に所得を申告して納税した外国人労働者は,13万5,489人から31万3,120人に増加し,平均所得(月額)も137万ウォン(約14万円)から,151万ウォン(15万円)に10%程度増加した(図4参照)。 しかし2012年の最低賃金水準は,1時間4580ウォン,月95.7万ウォンであり,外国人納税者の60

%(18.8万人)が最低賃金水準以下である。また課税最低水準に達しない外国人労働者も16.1万人いるため,少なくとも35万人が最低賃金以下である27。したがって制度的に整備されたとはいえ,依然として劣悪な環境におかれている外国人労働者が多いということができる。 次に,韓国人の平均賃金と比べても,87%程度であり,依然として格差は残っている。賃金格差の説明要因としては,韓国人との労働生産性格差があげられており,外国人労働者の労働生産性は韓国人の85.4%と評価されている28。

 また賃金不払いに関しては,産業研修生の時代(2001年)には,賃金不払いを経験した労働者の割合が36.8%であったのに対し,2013年には3.4%に激減している。未払い賃金額は235万ウォン(約24万円)である。農畜産業では若干高く5%であるが,産業研修生制度に比べれば大幅に改善している。 第五に,外国人労働者の多くは3K業種で雇用されているため,韓国人労働者に比べ,産業災害の被害を受けやすくなっている。外国人労働者の産業災害率は2006年の0.67%から,2013年の0.84%(5,586人)へと増加している。これに対し,韓国人労働者の産業災害率は低下傾向にあるため,2013年では1.4倍に達している。業種別では,製造業63%,建設業20%が大部分で,8割が30人未満の小規模事業場で発生している。 原因としては,劣悪な労働環境に加えて,不十分な言語コミュニケーション,長時間労働,不十分な安全教育,安全意識の低さなどがある。2012

年に産業安全保健公団が実施した実態調査によれば,外国人労働者(300人対象)の63%は「保護具の支給など安全保健に関して差別がある」と回答し,また5割以上は,「安全保健のために保護具支給が最も必要」と回答している29。 法務部の調査では,外国人労働者が仕事中に困ったこととして,「作業中の負傷」(24%)が最も多く,続いて「悪口」(20%),「速い作業速度」(19

%)の順である。産業災害にあった場合には,「事業主が治療費全額を負担」26%,「産業災害補償保険で処理」19%であるが,事業主が公式的に届け出ず,個人的に治療を勧めるケースもある。産業災害にあった人の9%は本人が治療費を負担しなければならなかった30。 このような状況に対し,Amnesty International[2009]は外国人労働者たちが,3K業種で危険な労働をしているにもかかわらず,十分な教育や安全装置を提供されておらず,「使い捨ての労働者」として扱われていると批判している31。⑵ 外国人労働者の人権は守られているか。 韓国の「雇用許可制」は,2010年には,ILOからアジアの「先進的な移住管理システム」と評価され,翌年には,国連から,「公共行政における腐敗の防止と戦い」分野における最も権威のある賞とされる「国連公共行政大賞」を受賞するなど,国際的に高い評価を受けている。確かに,産業研

15535(万ウォン)(万人)

145

15030所得税を納入した外国人労働者数(左軸)

外国人労働者平均所得(月額)(右軸)

14020

25

130

13515

12510

115

120

0

5

2008 2009 2010 2011 2012

図4 外国人労働者の平均所得と納税者数の推移

出所:国税庁[2014]「外国人勤労所得・総合所得10分位別現況」   (チェンスン議員国政監査資料)

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修生制度に比べれば,外国人労働者に対する人権侵害は大幅に減少した。雇用許可制導入以前は,研修生たちの離脱防止のために,通帳,パスポート,外国人登録証の取り上げ(会社保管)が頻繁に行われた。しかし,パスポートや外国人登録証の取り上げに関しては,その割合は2005年の48%

から2009年には25.8%に低下しており,改善している32。 しかし,人権侵害や差別がなくなったわけではない。韓国国内の人権団体,外国人労働者支援団体だけでなく,国際機関からも厳しい目が向けられている。たとえば,2014年9月末に国連人種差別特別報告官として,初めて韓国を公式訪問したムトゥマ・ルティエレ氏は,「国際差別撤廃条約加入と差別禁止に関する国内法条項により,改善を見せているものの,韓国には依然として深刻な人種差別が存在する」と指摘している。また外国人労働者の事業場移動制限や出国満期保険の支払時期などに加えて,漁業や農畜産業で就労している外国人労働者たちは,給与など労働条件に格差があるばかりではなく,暴言や暴力にさらされていると批判している33。 法務部の実態調査によれば,2013年には調査対象者のうち,35%の外国人労働者が差別を経験している。これは2010年の調査に比べれば,11ポイント減少しているとはいえ,依然として高水準である。公共機関での差別経験は少ないが,職場や公共交通,近所での差別経験が多くなっている。また韓国系中国人の差別経験も2010年から2013年にかけて43%から37%に減少しているが,改善幅は6ポイントと小幅である。製造業での差別経験は減少したが,建設業や飲食店業では逆に増加している34。 韓国移住人権センター事務局長のキムキド氏は,雇用労働部とその傘下の雇用センターが人権侵害の防止に大きな役割を果たしていないと,次のように批判している。毎年,雇用労働部が実施する外国人雇用事業場の点検も有名無実であり,人権,労働権侵害にあった外国人労働者には立証責任を問う反面,加害者の事業主には軽い処罰に終わっている。また最低賃金法違反などが多いにもかかわらず,雇用許可制限や雇用許可取り消しは2012年でそれぞれ,62件と16件に過ぎない35。 先述の国連人種差別特別報告官ムトゥマ・ルティエレ氏は,公衆浴場でエイズがうつると,出入

り拒否にあった女性と面談し,このケースは韓国の国家人権委員会で差別と認められたにもかかわらず,賠償や是正が行われていないと述べ,適切なモニタリングと処罰が重要だと指摘している36。⑶ 事業場の移動制限をめぐる議論 雇用許可制の評価を巡って大きな争点となっているのが,事業場の移動制限の問題である。韓国系中国人を対象とした特例雇用許可制を除けば,外国人労働者の事業場移動は原則として認められていないが,事業主が同意した場合には,滞在期間3年間の間に3回まで変更できる。また2年間の雇用期間の延長の際には,2回の変更ができる。 事業場移動件数は,2006年の1.9万件から,2013年には5.3万件へと増加している37。事業場変更の理由は雇用契約の解約・終了が9割で,残りは休廃業である。また2013年の実態調査では,事業場移動回数は平均0.9回で,平均勤続期間は21ヶ月である。事業場移動の制限がない韓国系中国人の場合は平均1.3回,勤続期間は18ヶ月であり,若干差がある38。 この事業場の移動制限に対して,外国人移住労働者対策協議会,移住人権連帯などの外国人労働者支援団体や人権団体,宗教団体は,外国人労働者の職業選択の自由が侵されていると主張し,協力してその撤廃を求めている。3回ルールの下では,2回変更してしまうと,3回目の職場での労働条件が悪くても,不法労働者になりたくなければ,我慢せざるを得ない。そのため雇用許可制になっても産業研修生制度と同様の人権侵害が起こってしまうという主張である。韓国では,宗教団体や市民団体の力が強く,マスコミや政府に対しても一定の影響力を持っており,裁判でも係争中である。 これに対し,政府は賃金未払いや事業主の不当労働行為などがあれば回数制限なしで許可しており,人権侵害には当たらないとしている。また事業場の移動制限は,零細企業の労働力需給と外国人労働者の権益保護のためであると反論してい る39。受入れ事業体や関連団体も訓練・採用コストなどの点から,移動制限の緩和には反対の立場をとっている。 先述のように事業場移動を自由にすれば,韓国人労働者との競合が発生し,労働市場補完性の原則が侵害される可能性がある。制度を維持するためには,外国人労働者の人権と韓国人労働者の優

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先的雇用という2つの原則のバランスをとることが必要となっている。⑷ 新興国市場開拓の手段としての外国人労働者に対するケア・支援 外国人労働者に対する差別や人権侵害をなくしていくことは,単に人道的問題だけでなく,経済的問題でもある。短期ローテーションの単純技能労働者はいずれ母国に帰国するが,その際,韓国に対して良いイメージを持って帰ってもらうためには,外国人労働者に対するケア・支援が必要である。 外国人労働者の満足度調査(2013年)では,職場に対しては5点満点中3.4点であり,生活に対する満足度は3.5点である。差別を経験してはいるものの,おおむね満足しているように見受けられる。帰国前に行われるアンケート調査では,「韓国のイメージが向上した」と回答する者が63.4%,「母国を除いて親しみを感じる国1位として韓国を選択する者」が38.5%(2位24.5%)となっている。さらに「帰国後韓流を薦める」と回答した者は78.8%,「韓国製品を購入する」と回答した者は92.4%である40。2012年と比べても,多くの指標で,韓国に対する肯定的評価が高まっており,新興国市場において「韓流」を定着させ,韓国製品の市場拡大を促進するうえで,一定の役割を果たしているといえよう。

4.「受入れプロセスの透明化の原則」は守られているか⑴ 政府主導型の受入れシステム 2014年8月に,雇用許可制施行10周年を記念して,雇用労働部と産業人力公団主催の評価討論会が開催された。外国人労働者,事業主,送出国担当者,外国労働者支援団体などの多様な観点から評価がなされた。その際,産業研修生制度と比べて,大きく改善したと共通認識を得られたのは,「外国人労働者受入れプロセスの透明化と不正の減少」である。 産業研修生制度時代は民間の斡旋業者・ブローカーによって運営されていたため,送出しプロセスは不透明で不正が横行していた。送出し費用は2001年調査によると産業研修生3,500ドル,不法労働者4,872 ドルと高額であり,1万ドル以上を支払った外国人労働者も1割存在していた。多くは借金をし,それを返済したうえで,貯蓄をしな

ければならないという初期条件であった。そのため,少しでも高い賃金を求めて不法労働者化するという悪循環であった41。 この悪循環を断ち切ることを可能にしたのが,政府主導型の受入れシステムである。研修生制度の民間対民間(P to P)から政府対政府(G to G)へと大きく転換した。これは,民間の斡旋業者がマッチングや管理を行っているシンガポールや台湾などとは対照的な,韓国の雇用許可制の最大の特徴といってよい。 まず送出国と韓国で,二国間協定(MOU)を締結し,雇用労働部が主管して,韓国産業人力公団が選抜,導入,管理,帰国支援までの全プロセスに関与する。次に,MOUを通じて,送出国に対しても,送出し機関は政府機関やそれに準ずる公共機関とし,送出しの公式費用も協議で決定する。また韓国と同様に,政府が募集から帰国までのプロセスを,責任を持って管理し,韓国で不法労働者化しないことを求めている。 このように,送出国と協力して,政府主導型のシームレスな外国人労働者の受入れプロセスを構築しており,プロセスの透明化と不正の減少に貢献している。さらに労働者の求職コストだけでなく,事業主の求人・管理コストの削減にもつながっている。このことが評価され,11年に「国連公共行政大賞」の受賞につながった。 ただし,MOUを結んでいるとはいえ,送出国の政府が必ずしも公正に運営しているとは限らない。たとえば,2005年にインドネシアで送出しをめぐって労働者に金品を要求し,出国が遅れる事態が発覚した。また斡旋料や急行料と称するわいろなどが横行している国もある。これに対し韓国政府はスタッフの現地派遣とともにモニタリングを強化し,不正発覚の場合は,クォータの縮小,受入れ停止,送出し機関の変更などペナルティ措置を採っている。先述のインドネシアに対しては,2005年6月から2006年4月まで送出しが中断された。また不法労働者対策についても,送出国政府に一定の努力を求めている。たとえば,ベトナム人の不法労働者が増加し,2011年12月に1万人を超えたため,2012年8月から2013年12月まで送出しが中断した。再開の際のMOUでは,不法労働者化を防止するために,韓国に労働管理事務所を開設するとともに,ベトナム人労働者に保証金500万ウォン(50万円)を課すことになった。

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⑵ 受入れプロセスの透明化・公正化と送出費用の減少 第一に,受入れプロセスが公的機関に管理されることにより,透明化と公正化が進んだと評価できる。2013年の調査では,外国人労働者の主観的評価は,「非常に公正」36%,「若干公正」が31%

と三分の二が肯定的に評価している。逆に「非常に不公正」3%,「若干不公正」6%と否定的評価は少ない。5点満点でも,2010年の3.7点から3.9点に改善している。国別では,ベトナムが3.4点,インドネシアとスリランカが3.7点と相対的に低い評価である(表2参照)。これは送出し費用,特に非公式費用の金額とも関連している。 雇用許可制と産業研修生制度を比較した事業主の評価を見ても,2011年では,「受入れプロセスの透明化の向上・不正の減少」は5点満点で,5点が53%,4点7%,3点20%,2点19%,1点0%で,平均は3.7点と比較的高水準である。 第二に,平均送出し費用は,2001年の3,500ドルから2011年には927ドルに激減している。国際比較でも,シンガポールは1万ドル,オーストラリア,アメリカ,ヨーロッパは1万5,000ドルから 2万ドルかかるのに対し,韓国はその1割程度である。初期費用が少ないため,多くのお金を稼ぐことができるので人気が高い。 ただし費用については,各種の調査により,乖離がある点に注意が必要である。2013年の法務部

の実態調査では,平均送出し費用は,274万ウォン(27万円),2010年の316万ウォン(32万円)に比べて13%低くなった。国別では,ベトナムが466万ウォンと最も高く,フィリピンは149万ウォンと最も低い。ただしベトナムなど公務員に支払う非公式的な費用がかかったという回答は12%,民間ブローカー費用がかかったという回答は10%あり,依然として不正はなくなっていない。他方,特例雇用許可制の韓国系中国人の場合,送出し費用は2010年の264万ウォンに比べ,37%低下し,192万ウォンであり,一般雇用許可制に比べ若干少ない42。 以上,受入れプロセスの透明化の原則は守られていると評価できるが,民間ではなく政府が管理・運営することにより,行政コストの問題がある。たとえば,外国人労働者の体系的導入及び管理を担う産業人力公団の2013年の決算額は8,381億ウォンに上る43。これを税金で負担するのは国民であり,受益(中小企業)と負担(国民)の不一致問題は残っている。また民間の仲介業者に比べて,公的機関では効率性に問題があるという指摘や,民間企業の事業機会が奪われているという指摘もある。

Ⅲ 中小企業経営者および外国人労働者の 視点からの雇用許可制の評価

 本節では,中小企業経営者および外国人労働者の視点から雇用許可制の評価を整理する。評価する立場が

 表2 外国人労働者の就職費用と送出しプロセスに対する評価(単位:万ウォン,%)

ベトナム カンボジア ネパール インドネシア フィリピン スリランカ タ イ 全 体 韓国系中国人

送出し費用総額 466 231 193 364 149 213 204 275 192

  韓国語試験・教育 55 25 28 62 22 17 34 35 52

  直接費用(航空機代) 102 109 118 149 79 138 84 117 67

  海外出国負担金 57 38 15 116 14 28 47 40

  非公式的費用(斡旋料・急行料) 200 10 60 52 11 36 15 83 65

送出しプロセスに対する評価  非常に不公正だ 3.9 0.7 0.7 2.3 0.8 5.7 1.7 2.6  若干不公正だ 8.1 0.7 1.4 12 6.3 13.1 3.4 5.9  どちらでもない 46.6 3.4 22.9 26.3 28.9 13.1 14.5 25.2  若干公正だ 26.1 22.1 13.6 35.3 38.3 45.1 67.5 30.7  非常に公正だ 15.3 73.1 61.4 24.1 25.8 23 12.8 35.6合計(%) 100 100 100 100 100 100 100 100

2013年調査平均 3.41 4.66 4.34 3.67 3.82 3.66 3.86 3.912010年調査平均 3.31 3.84 2.94 3.32 3.82 3.99 3.72 3.65

 注:平均は非常に不公正1点,若干不公正2点,どちらでもない3点,若干公正4点,非常に公正5点で計算。 出所:法務部・出入国・外国人政策本部[2013]『2013年在留外国人実態調査』より作成。

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韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響 (7905)

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外国人労働者なのか使用者なのかでは,評価が180度異なる可能性がある。まず中小企業経営者は雇用許可制についてどう評価しているのかについて検討する。

1.中小企業経営者の視点からの雇用許可制の評価⑴ 産業研修生制度と比べ軒並み改善 2004年8月の雇用許可制の施行に対して,中小企業中央会は,当時反対の声明を出した。主な理由は,外国人労働者の賃金が上昇して中小企業の負担が増えるというものであった。また外国人労働者の受入機関が,中小企業中央会から,公的機関に変更になるため,外国送出機関と韓国内の委託管理会社の利権が失われるという理由もあった。送出機関・ブローカーは,高額の仲介手手数料を失い,委託管理会社は,研修生1人当り,1時金32.6万ウォン,毎月2.4万ウォンという管理費用44を喪失することになった。 その後2007年1月までは,中小企業中央会で運営する産業研修生制と労働部が運営する雇用許可制の二つの制度が並立していたが,2007年に産業研修制が廃止され,雇用許可制へと一元化された。これに対しても,当時,中小企業経営者総連合会が,「中小企業の外国労働者の採用に対する選択権を政府が剥奪したことは市場経済原則に背く」と,反対の声明を出した45。ただし,産業研修生を雇用した経験がある中小企業全体が反対というわけではなく,韓国労働研究院の実態調査では,雇用許可制に一元化することに賛成する意見が59

%と過半数を占めていた46。 その後,中小企業経営者たちは雇用許可制をどのように評価しているのだろうか。いくつかのアンケート調査をもとに検討する。 まず雇用労働部[2011]「雇用許可制施行評価制度改革方案」で,雇用許可制と産業研修生制度を比較した経営者の評価をみると,2011年では,5点満点で,「外国人不法雇用の減少」3.5点,「受入れプロセスの透明化の向上・不正の減少」3.7点,「外国人労働者の職務能力」3.3点,「外国人労働者の韓国語能力」3.3点と比較的高水準である。特に評価が高いのは「外国人の人権保護」3.9点である。また当初懸念された「外国人労働者の賃金・その他費用」に関しても3.5点であり,産業許可制よりは改善したと評価している。 次に,雇用許可制に対する満足度を見ると,すべての項目で普通以上であり,2014年には2012年

の満足度を上回っている。特に「韓国産業人材公団などが提供するサービス」3.4点,「標準勤労契約書による勤労契約締結」3.4点,「外国人労働者に対する人権保護」3.3点,「導入過程の透明性」3.3点などで高くなっている。「賃金など費用削減」も3.1点とそれほど低くない(図5参照)。したがって,アンケート調査から見る限り,雇用許可制に対しておおむね満足していると判断できる。⑵ 外国人活用時の問題点 しかし,雇用許可制には経営者から見て,問題点も多くある。図6の外国人活用時の問題点を見ると,「必要な外国人労働者の確保が困難」3.7点,「コミュニケーションの困難さ」3.5点,「文化・生活習慣の差」3.3点などが相対的に高い。ただし2012年と比べると改善傾向にある。 この中で,マスコミでもよく取り上げられる最大の問題点は,外国人労働者のクォータが不十分な点である。中小企業中央会が2011年に中小製造

外国人労働者に対する労務管理の容易性

2014 2012

外国人労働者の不法滞在の可能性減少

外国人労働者に対する事後管理サービス

韓国産業人材公団などのサービス

外国人労働者賃金など費用削減

外国人労働者に対する人権保護

標準勤労契約書による勤労契約締結

就職前実施する就職教育内容

要件に合う外国人労働者の選択

雇用センターが提供する外国人求職者に対する情報内容

関連書類および行政手続き

導入過程の透明性

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

図5 中小企業経営者の雇用許可制に対する満足度   (5点満点)

出所:イキュヨン[2014]「雇用許可制10周年成果および今後   政策課題」(「外国人労働者雇用実態調査」)

2014 2012

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

勤勉性が低い

韓国人労働者と融和しない

愛社心が少ない

生産性が低い

コミュニケーションの困難さ

事業場変更の多さ

文化・生活習慣の差

必要な外国人労働者の確保が困難

図6 外国人活用時の問題点(5点満点)

出所:イキュヨン[2014]「雇用許可制10周年成果および今後   政策課題」(「外国人労働実態調査」)。

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業者589社を対象に実施した「外国人労働者活用あい路調査」によれば,回答企業の73%が,外国人労働者のクォータが不十分だと回答している。また2013年の韓国貿易協会の調査でも,中小製造業305社の36.4%は外国人労働者のクォータが不足していると回答し,1社当たり6~13人を追加配分することを望んでいる。この不足していると回答した企業の94%は,クォータそのものの廃止を希望している47。特に地方では,人材不足が深刻であり,外国人労働者の受入拡大と弾力的運用を強く要求している。 第二に,事業場変更の問題である。人権団体や市民団体からは強く批判されている事業場変更だが,経営者の立場では別の言い分もある。中小企業中央会の調査では,53%の企業が,事業場変更のための怠業や仮病を経験している。特に入国後1ヶ月以内の事業場変更要求を経験した企業も32.4%に達している。韓国貿易協会の調査では,外国人労働者の頻繁な事業場変更によって,事業主の負担が増大していることから,変更回数を現在の3回から1回に制限すべきだと希望している企業が48%に上る48。 第三に,申請してから活用できるまでに時間がかかる問題で,38%の企業が「所要期間が長い」と回答している。85%の企業が1か月以内を望んでいる。 最後に,外国人労働者のビザの期間を現在の3年から延長してほしいという要望も強い。5年間に延長が58%,10年以上も18%を占め,中小企業は安定した生産のため,長期的に外国人労働者を雇用したいと考えている。

2.外国人労働者の視点からの雇用許可制の評価 中小企業経営者が雇用許可制についておおむね満足しているが,他方で,クォータの拡大,事業所変更の削減,在留期間の延長などを求めていることがわかった。次に,外国人労働者が雇用許可制についてどう評価しているのかを検討する。 2014年8月に,雇用労働部や市民団体等で多くのイベントが開催された。そのうちの一つに移住政策フォーラムによる「外国人雇用許可制度10周年を迎えて」という集会があった。これは移住共同行動,外国人移住労働者対策協議会,移住人権連帯など60

余りの主要な外国人支援団体の集まりである。その中で何人かの外国人労働者が証言を行っている。た

とえば養豚場で働くカンボジア人労働者は,「1年間でたった2日間しか休むことができず,病気にかかって死んだ豚を社長に強制的に食べさせられ,1年間ずっと病気で死んだ豚だけを食べなければならなかった」と証言している49。佐野孝治[2014c]で述べたように,農畜産業では勤労基準法の適用を受けないため,外国人労働者は悲惨な状況に置かれやすい。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは『苦い収穫(Bitter Harvest)』(2014年)という報告書で,「韓国は,搾取と強制労働のための人身売買をまん延させる恥ずべき制度を作り上げている」と批判している50。ただちに一般化はできないが,こうした人権侵害があることも事実であり,雇用許可制の廃止と事業場移動の自由化など人権が保障される新しい制度を求める外国人労働者も多い。 また毎年メーデーなどでは,外国人労働者らが,労働三権の保障,取り締まり追放の中断,労働ビザの発給,生活賃金の保障などを要求して集会を開催している。 しかし,すべての外国人労働者が「雇用許可制の廃止」を要求しているわけではない。いくつかの外国人労働者に対するアンケート調査では,雇用許可制に対しておおむね満足している姿が浮かび上がる。 まず,入国時について,中小企業中央会が,2013

年に10ヶ国の外国人労働者1,058人を対象として実施した「外国人労働者就職実態調査」を見てみよう。これによれば,外国人労働者が日本や台湾ではなく,韓国を選択した理由は「韓国に対する好感のため」が37%と最も多く,次に,「日本・台湾に比べて高い賃金」24%,「日本・台湾に比べて宿舎など良好な労働条件」21%の順であり,「日本・台湾に行きたかったが行くことができなかったと」という回答は5%に過ぎなかった。韓国に入国した外国人労働者は消極的理由ではなく,日本や台湾に比べ,韓国が賃金や労働条件などで相対的に有利だという積極的な理由で,韓国で働くことを選択している51。 次に,滞在時の外国人労働者の職場に対する満足度(5点満点)は,全般的に「普通」(3点)以上である。特に同僚との関係(3.4点)と上司との関係(3.4点)など対人関係の満足度が高い反面,賃金(3.1点)や労働強度(3.0点)などが相対的に低めになっている(図7参照)。 たとえば,賃金の満足度を企業規模別にみると,9人以下が3点に対して,50人以上は3.3点と規模が大きいほど満足度は高くなっている。国別では,

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フィリピン人が3.3点と最高で,インドネシア人が2.8点と最低である。続いて2010年と2013年を比較すると,同僚との関係,宿所を除けば,すべての項目で,満足度が低下している。特に賃金は3.7点から3.1点に大幅に低下している52。 また先述したように,受入れプロセスに関しても,外国人労働者は,「非常に公正」36%,「若干公正」が31%と肯定的に評価している。5点満点でも,2010年の3.7点から,2013年には3.9点に改善している。 最後に,先述した帰国時のアンケート調査(2013

年)では,「韓国のイメージが向上した」と回答する者が63.4%と大多数であり,「悪化した」は13.9%に過ぎない。また母国を除いて親しみを感じる国1位として韓国を選択した者が38.5%,2位として選択した者は24.5%に上っている。 以上,入国から,帰国までのアンケート結果を見る限り,一部を除き多くの外国人労働者は「雇用許可制」全体を「人身売買をまん延させる恥ずべき制度」とまでは,否定していないと考えられる。 外国人労働者の受入れを進めていく際に,経営者や国内の労働者の意見に比べて,外国人労働者の意見は軽視されがちである。しかし,無視し続ければ,不満が累積し,治安の悪化につながる危険性がある。2013年だけでも,シンガポール,マレーシア,サウジアラビア,スウェーデンなどで外国人労働者の暴動が発生している。

Ⅳ 外国人犯罪の増加

 これまで雇用許可制の基本原則と労使双方の視点から雇用許可制を評価してきた。産業研修生制度時代と比べ改善された点も多いが,労働条件の格差や人権侵害,不法滞在者の増加など課題も残されている。さら

に,近年大きな社会問題となっているのは外国人犯罪の増加である。韓国人の外国人労働者に対する世論調査(2013年)でみたように,「韓国経済に寄与する」という回答が63%と過半数を占める一方,「犯罪率が上昇する」という回答も53%あり,社会不安が増大するとみている。 日本の内閣府の世論調査(2004年)でも,単純技能外国人労働者の受入れに反対する理由として,「治安の悪化」(74%)を挙げる者が多い53。このように日韓で,外国人労働者が増加することにより,犯罪が増加するという強い懸念がある。本節では,韓国における外国人犯罪の実態についてデータをもとに明らかにする。

1.外国人犯罪は増加するか⑴ 増加する外国人犯罪 外国人による犯罪(検挙者数)は,2001年の4,328人から,2013年の2万4,984人へと急激に増加している(図8参照)。これは外国人滞在者そのものが同期間に56.7万人から,157.6万人へと約3倍になったことが基本的な要因であるが,10

万人当たりの検挙者数も同期間に763人から1,585人に倍増しており,外国人犯罪は明らかに深刻化しているといえる。 犯罪類型別に見てみると,最も多いのは暴力で8,338人と全体の33%を占めている。次いで,交通違反が2009年の1,594人から2013年には5,769人と増加し,23%を占めている。続いて,知能犯9%,窃盗7%,強姦2%となっている。90年代の単純な窃盗,出入国違反,暴力に加えて,カード偽造,偽装結婚,文書偽造,電話金融詐欺,産業スパイなど多様化が進んでいる。これらの犯罪の背後には外国系組織暴力団(14ヶ国,65グループ)

同僚との関係

2010 2013

宿舎

上司との関係

作業場環境

作業場安全度

労働強度

労働時間

休日付与日数

賃金

雇用期間

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

図7 外国人労働者の職場に対する満足度(5点満点)

出所:法務部[2013]「2013年在留外国人実態調査」より作成。

2,00030,000殺人 強盗 強姦 窃盗 暴力 知能 その他 10万人当たり検挙者数(右軸)

1,600

1,80025,000

1,200

1,40020,000

800

1,00015,000

400

60010,000

0

200

0

5,000

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

図8 韓国における外国人犯罪の推移(単位:人)

出所:警察庁(犯罪情報管理システム)などより作成。

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があるといわれている54。 また,外国人による殺人,強盗,強姦,窃盗,暴力の5大犯罪も2001年の777人から2013年の2,419人に増加しており,凶悪化が進んでいる。外国人犯罪現況によれば2008年から2014年7月までの,5大犯罪の累計は6.2万人で,全体(16.1万人)の38%を占めている。内,暴力が4万6,194人と最も多く,次いで窃盗1万1,502人,強姦2,079人,強盗1,152人,殺人586人の順となっている。 2013年では殺人の検挙者は73人であるが,10万人当たりの検挙者数は5人であり,韓国平均の2.9人を超える水準である。ちなみに日本では0.5人であり,10倍の殺人発生率である。 最近では,建設業者社長が,ブローカーを通じて韓国系中国人に3,000万ウォン(300万円)で殺人を依頼し,その容疑者が,2014年10月に逮捕される事件が発生している。この事件は,韓国映画の「黄海」と同じ内容であったため,世間の注目を集めた。このような請負殺人事件は増加傾向にあり,2011年から,2014年6月までに35件発生しているが,35件中,11件は検挙されていない55。他にも2012年に京畿道水原市で起きた韓国系中国人によるバラバラ殺人事件は,韓国を震撼させ,

防犯グッズが品薄になるなど外国人犯罪に対する警戒感を高める一因となった56。 国別では,2013年では中国人が1万5,121人(57%),米国人が1,947人(7%),ベトナム人が1,908人(7%)を占めている。2008年からの累計でも,中国人(9万3,503人),ベトナム人(1万2,780人),米国人(1万266人)の3ヶ国が上位にある。 中国人(韓国系中国人)による犯罪は,凶悪犯罪である殺人の68%,暴力の66%を占め,マスコミなどで取り上げられることが多い。そのため外国人犯罪=中国人犯罪とみなされやすい。ただし,登録外国人10万人当たりの検挙者数(2011年)でみると,モンゴル人7,064人,米国人6,756人,カナダ人4,124人の順であり,中国人(2,921人),ベトナム人(2,205人)はほぼ平均値である(表3参照)。したがって,外国人犯罪=中国人犯罪は偏見である。逆に,最も少ないのはインドネシア人(578人)である。米国人が多いのは麻薬犯(30

%が米国人)に加え,在韓米軍の軍人による犯罪が多いためである。⑵ 不法滞在者は犯罪を起こすか。 日本では,不法滞在者の存在が外国人犯罪の温床になると考え,警察や入国管理局が合同摘発や

 表3 国籍別外国人の検挙者数(2007年,2011年)

2007年 2011年

検挙者数 構成比 登録外国人10万人当たりの犯罪 検挙者数 構成比 登録外国人

10万人当たりの犯罪中国 8,421 58.0 1,998 15,677 58.2 2,921ベトナム 571 3.9 850 2,438 9.1 2,205米国 836 5.8 3,134 1,788 6.6 6,756モンゴル 925 6.4 4,518 1,503 5.6 7,064タイ 470 3.2 1,481 944 3.5 3,634ウズベキスタン 207 1.4 1,896 728 2.7 2,986フィリピン 258 1.8 601 535 2.0 1,394台湾 737 5.1 3,343 504 1.9 2,357カナダ 167 1.1 2,254 271 1.0 4,124パキスタン 180 1.2 2,237 246 0.9 2,995ロシア 199 1.4 4,250 227 0.8 3,785インドネシア 93 0.6 392 171 0.6 578

日本 140 1.0 775 130 0.5 615

バングラディシュ 398 2.7 5,089 124 0.5 1,174その他 922 6.3 1,930 1,629 6.1 2,460

計 14,524 100.0 1,897 26,915 100.0 2,763

 注:米国は米軍やその家族を含む。 出所:チェヨンシン,カンソクジン[2012]『外国人密集地域の犯罪と治安実態研究』韓国刑事政策研究院,78,    80ページより作成。

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集中取締りを実施している。韓国でも一般に不法滞在者が犯罪を起こしやすいと考えられているが,実態はどうであろうか。法務部出入国・外国人政策本部の統計月報によれば,2014年8月末の滞在外国人は171万896人であり,そのうち不法滞在者は減少傾向にあるとはいえ,18万9,126人であり,11%を占めている。 「不法滞在者犯罪現況」(警察庁)によれば,2010年から13年8月までの3年間で,不法滞在者による犯罪は6,383件である。年別に見ると,2010年1,907件,2011年1,537件,2012年1,591件とほぼ横ばいである57。 犯罪類型別では,暴力1,230件(19%),交通違反(無免許,飲酒運転)988件(15%),知能犯罪960件(15%)の順となっている。殺人65件,強盗150件,強姦128件など凶悪犯罪も発生している。たとえばパキスタン人やバングラデシュ人などの不法滞在者が,韓国の永住権取得を目的として,韓国人女性を妊娠させるといった強姦事件も発生し,「マニュアル」があるのではといううわさまで流れた58。 また国別では,中国2,344人(37%),ベトナム955人(15%),モンゴル737人(12%),タイ558

人(9%),ウズベキスタン379人(6%)の順であり,やはり中国人が多いが,不法滞在者千人当たりの発生率(12年末)でみると,モンゴル24人,ウズベキスタン22人,カザフスタン22人,ロシア17人であり,中国は8人とほぼ平均値である。中国人の不法滞在者が多いため,発生率は相対的に低いものの,発生件数の4割を占めている。 地域別では,外国人が多い京畿道が2,406件(37

%)と多く,次いでソウル特別市1,168件(18%),慶南道525件(8%),慶北道370件(6%)の順となっている。 ただし,外国人犯罪全体の中では,不法滞在者による犯罪は相対的に少なく,不法滞在者の存在が外国人犯罪の温床とまでは言い切れない。外国人滞在者中,不法滞在者は2007年21%だったが,外国人犯罪者中,不法滞在者は13.5%である。2011年では,外国人滞在者中,不法滞在者は12%

だったが,外国人犯罪者中,不法滞在者は5.7%であり,不法滞在者による犯罪は減少傾向にある。不法滞在者は,外部との接触を避け,問題を起こさないようにする傾向があるためである。逆に,不法滞在の事実を悪用されて,被害者になるケー

スが多い59。たとえば警察を詐称した恐喝や脅迫,女性の場合には強姦の対象となりやすい。被害を受けても警察に申告すれば,強制出国になるため,泣き寝入りすることも多かった60。 しかし2013年3月から「通知義務の免除に関する指針」が施行され,容疑者だけを処罰し,被害者は出入国管理事務所に通知されないことになった。警察や検察,人権委員会などは通知義務を免除される。適用される犯罪は,殺人・傷害・過失致死傷,遺棄・虐待,逮捕・監禁,脅迫・略取,強姦,窃盗・強盗,詐欺・恐喝などである。⑶ 外国人密集地域では犯罪が増加するか。 韓国では近年外国人密集地域の治安の悪化やスラム化が懸念されている。チェヨンシン,カンソクジン[2012]によれば,2011年現在,外国人の割合が10%以上もしくは5,000人以上の集住地域は94ヶ所存在する。最大の密集地域は1万7,378人が住む安山市である。外国人の密集地域として,第一に,大規模産業団地周辺(安山市,元谷洞など)を挙げることができる。中国,タイ,ベトナム,インドネシアなど主に製造業に従事する外国人労働者が居住している地域である。 第二に,大都市の低価格住居地(ソウル市九老区,永登浦区など)には,主にサービス業に従事する韓国系中国人が居住している。これらの地区の中には,低所得の外国人労働者や不法滞在者が集まり,スラム化が進んでいるため,夜間は危険で歩けないという地域もある。 外国人密集地域であるソウル市九老区と安山市における外国人犯罪を全国平均と比較してみると,10万人当たりでは安山市は全国平均よりも少ないが,九老区は全国平均を上回っている。殺人,強盗,強姦など5大犯罪で見ると,九老区は全国平均を大幅に上回っているのに対し,安山市はほぼ全国平均である(図9参照)。韓国系中国人が多く居住する九老地区での外国人犯罪が深刻であることがわかる。他方,外国人密集地域では,九老地区だけでなく,安山市でも韓国人による犯罪が全国平均を上回っている。したがって外国人密集地域の治安の悪化や犯罪増加の責任を外国人のみに帰することはできない。 外国人犯罪の防止対策として,出入国段階で,外国人の犯罪歴を確認するとともに,治安施設の拡充,街灯やCCTVの設置などが進められている。しかし,外国人犯罪が2010年から3年間で18%増

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加したのに対し,外国人犯罪を担当する警察庁の人員は5.5%しか増加していない。2014年8月現在で1,038人であり,内,英語を話せる者371人,中国語を話せる者151人,ベトナム語を話せる者41人に過ぎす,増加する外国人犯罪に対応できていない61。

お わ り に              ―「外国人労働者争奪戦時代」のアジアと日本―

 本稿では,日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点を明らかにするための前提として,韓国の雇用許可制の社会的・経済的影響を,雇用許可制の基本原則(①労働市場補完性の原則,②短期ローテーションの原則,③均等待遇の原則,④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原則)が守られているかという基準から評価した。 結論としては,以前の産業研修生制度と比較すれば,大幅に改善されていると評価できる。特に,送出国と協力して,政府主導型のシームレスな外国人労働者の受入れプロセスを構築しており,プロセスの透明化と不正の減少に貢献している。さらに労働者の求職コストだけでなく,事業主の求人・管理コストの削減にもつながっている。このことが評価され,2011年に「国連公共行政大賞」の受賞につながった。 ただし,賃金格差や差別を根絶することはできていないし,不法労働者も雇用期間の満了に伴い増加傾向にある。さらに,外国人の増加に伴って,外国人犯罪も増加し,多様化,凶悪化,組織化が進むなど新たな問題も発生している。

 次に,中小企業経営者および外国人労働者の視点からの雇用許可制の評価では,中小企業経営者は雇用許可制についておおむね満足しているが,クォータの拡大,事業所変更の削減,在留期間の延長などを要求している。他方,外国人労働者は雇用許可制の廃止と事業場移動の自由化など人権が保障される新しい制度を求める者もいるが,入国から,帰国までのアンケート結果を見る限り,一部を除き多くの外国人労働者は「雇用許可制」全体を廃止すべきとまでは考えていない。 現在,アジアにおいて経済成長と少子高齢化が進む中で,「外国人労働者争奪戦時代」が始まっている。韓国や台湾も,持続的な経済成長を図り,3K業種や介護・看護分野での人手不足を補うために積極的に外国人労働者を受け入れている。この様子はNHKの「国際報道2014」62や「クローズアップ現代」63などでも取り上げられている。すでに「外国人労働者争奪戦」は「高度人材」や「グローバル人材」をめぐって,欧米も含めてグローバルに展開している。 しかし,それだけではなく単純労働者に関しても「争奪戦」は始まっている。送出し国の中国やベトナムの賃金水準の上昇やビジネスチャンスの拡大によって,海外出稼ぎそのものがスローダウンしつつある。もはや都市部の中国人にとって,単純労働者として日本で働く意味はなくなりつつある。日本は,次第に,インドネシアやミャンマーなど賃金水準が低い国にフロンティアを拡大させようとしているが,それも中長期的には限界がある。 その上,外国人労働者から見た場合,韓国や台湾に比べて,日本は魅力的な「出稼ぎ先」とは見なされなくなってきている。その理由として,第一に,最長就労期間が日本は3年64であるのに対し,台湾は12年,韓国は9年8か月と長い。第二に,日韓の賃金水準も日本の長期的な経済停滞によって,ほとんど差がなくなっている。第三に,初期費用が,韓国は日本の1割から2割程度であり,ブローカーに借金する必要がない。第四に,円安によって,稼げる額が目減りしてしまっている。2013年10月に実施した筆者のベトナムでのインタビュー調査でも,人気があるのは台湾,マレーシア,韓国で,日本はその後塵を拝していた。アジア地域の外国人単純労働者の受け入れ制度を比較してみても(表4参照),就労期間や事業場変更など,外国人労働者の立場に立ってみれば見劣りがする。 アジアの受入れ各国では,外国人労働者を確保するために,不断に「制度革新」を進め,韓国も雇用許可制の問題点を分析し,改善を進めている。これに対し,

4,500(人)

3,500

4,000

韓国平均 安山市

2,500

3,000ソウル市九老区

1,500

2,000

1,000

0

500

外国人による犯罪 韓国人による犯罪 外国人による5大犯罪 韓国人による5大犯罪

図9 外国人集住地域の犯罪検挙者数   (2011年,10万人当たり)

注:5大犯罪は殺人、強盗、強姦、窃盗、暴力である。出所:チェヨンシン,カンソクジン[2012]『外国人密集地域の   犯罪と治安実態研究』韓国刑事政策研究院より作成。

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安倍政権の外国人労働者受入れ拡大策は,従来の技能実習生制度の枠組みを維持したものであり,国際協力と単純労働者の利用というダブル・スタンダードのジレンマから抜け出すことはできていない。 長期的な労働力人口の減少に合わせて外国人労働者を受け入れていくためには,技能実習生制度の枠組みにこだわるのではなく,雇用許可制や労働許可制の導入も含め,新たな外国人労働者受入れ政策への転換を進めていくべきだと考えられる。 したがって,次稿では,韓国の雇用許可制だけでなく,台湾やシンガポールの外国人労働者政策も比較検討しながら,日本の外国人労働者受入れ政策への示唆点を分析することにしたい。

 本稿は,文部科学省・科学研究費・基盤研究(C),「日本・韓国・台湾における外国人労働者政策と支援システムに関する国際比較研究」(代表者:佐野孝治,2011年~2014年),及び科学研究費・基盤研究(B),「外国人研修・技能実習生の人権擁護のための日越国際アクションプラン策定研究」,(代表者:坂本恵,2011年~2014年)の研究成果の一部である。

参 考 文 献A.日本語文献イギュヨン[2012]「韓国における非専門職外国人材政策の現状と課題」『第12回日韓ワークショップ報告書 外国人労働者問題:日韓比較』労働政策研究・研修機構。

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佐野孝治[2010c]「韓国における外国人労働者支援システム」『商学論集』79⑶。

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田巻松雄[2011]「外国人労働者問題の日韓比較に関するノート」『宇都宮大学国際学部研究

 表4 アジア地域の外国人単純労働者受け入れ制度

日  本 韓    国 台  湾 シンガポール

制度 技能実習生制度 雇用許可制 雇用許可制 労働許可制

在留資格 技能実習生 労働者(非専門就業,訪問就業) 労働者(就労ビザ) 労働者(労働許可:WP)

運営主体 民間 公的機関 民間(一部は公的機関) 民間

就労期間 3年 9年8か月(最長) 12年(最長) 有効期間2年,更新可

事業場変更 できない 原則3回 原則できない できる

 出所:各種資料より作成。

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1 本稿は,佐野孝治[2014b]新聞連載「『外国人雇用許可制度』とは―韓国の経験に学ぶ―」『週刊労働新聞』,第11回~第24回をベースに,大幅に図表等を加え,加筆修正したものである。先行研究のレビュー等については,佐野孝治[2014c]を参照。

2 『中央日報』2011年8月10日付。3 イ・ジャスミン氏が当選すれば,不法滞在や花嫁売買が増えるなどの批判や中傷がインターネット上にあふれた。4 2013年に,韓国のたばこメーカー(KT&G)が,新製品の「This Africa」を販売する際に,チンパンジーをアフリカ人に見立てたことに対して,「アフリカ・たばこ規制同盟」などから批判を受けている。5 キムジユン・他[2014]「閉じられた大韓民国 韓国人の多文化認識と政策」『issue BRIEF』(04),5~7ページ。6 2003年結成。オンライン会員約6,000人。不法滞留者によって,国内3K業種の賃金など労働条件が悪化したと主張し,その取り締まりを要求している。7 オンライン会員約1,900人。8 2010年結成。オンライン会員710人。9 『京郷新聞』2012年6月19日。10 内閣府大臣官房政府広報室[2004]『外国人労働者の受入れに関する世論調査』。

11 内閣府大臣官房政府広報室[2010]『労働者の国際移動に関する世論調査』。

12 佐野孝治[2014c],Ⅳ節を参照。13 カンドングァン・他[2010]『移民の経済的効果および政策的示唆点』法務部報告書,およびカンドングァン・他[2011]『移民の経済的効果 京畿道地域を中心に』IOM移民政策研究院研究報告書を参照。

14 中小企業中央会[2013a]『2013中小企業人力実態調査』,参照。

15 キムジョンホ,ユキョンジュン[2010]「外国労働者の代替性と統計問題」『KDI政策フォーラム』(226),参照。16 佐野孝治[2010c]「韓国における外国人労働者支援システム」『商学論集』79⑶,参照。

17 5年連続滞在すれば,永住権申請および一般帰化申請要件となるため5年未満とした。

18 佐野孝治[2014c],制度の詳細については,雇用労働部ウェブサイト(http://www.moel.go.kr),雇用許可システム(EPS)ウェブサイト(https://

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福島大学地域創造 第26巻 第2号 2015.2(7914)

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www.eps.go.kr)などを参照。19 韓国の市民団体では,「不法労働者」と呼ばず,「未登録労働者」と呼ぶ場合もある。入国管理法違反のレベルであり,労働法上の違反には当たらないという解釈である。

20 不法滞在比率=不法滞在者/(不法滞在者+長期滞在外国人)×100

21 イサンニム,チョンヨンタク[2011]『不法滞留者現況分析および管理政策研究』IOM移民政策研究院研究報告書。

22 法務省入国管理局[2014]「本邦における不法残留者数について」

23 行政院労工委員会統計資料庫簡易査詢(http://statdb.cla.gov.tw/statis)。

24 米国国務省人身売買監視対策室[2013]『人身売買報告書』では「日本政府は技能実習制度における強制労働の存在を正式に認知しておらず,本制度の悪用から技能実習生を保護するための効果的な管理・措置が不足している」と批判している。

25 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a]『2013

年在留外国人実態調査』,参照。26 佐野孝治[2010c],参照。27 『アジア経済』2014年10月24日および『ヘラルド経済』2014年10月24日。

28 労働生産性は国によって異なり,韓国系中国人(89.4%),インドネシア人(87.5%)は比較的高い。

29 チャンハナ議員,国政監査資料,『アジア経済』2013年10月22日。

30 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a],参照。31 Amnesty International[2009]Disposable

Labour: Rights of migrant workers in South Korea From Human to Workers' Rights?.

32 佐野孝治[2010a]「外国人労働者政策における『日本モデル』から『韓国モデル』への転換」『地域創造』22⑴。

33 『民衆の声』(http://www.vop.co.kr)。34 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a],参照。35 キムキド[2014]「移住労働者雇用許可制10年 なぜ満身創痍になったか」『PRESSIAN』(http://www.pressian.com/news)。

36 『民衆の声』(http://www.vop.co.kr)。37 マソンギュン[2014]「『雇用許可制改悪の10年』に対する反論」『ハンギョレ』9月1日。

38 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a],参照。39 マソンギュン[2014],参照。

40 イキュヨン[2014]「雇用許可制10周年成果および今後政策課題」,22~24ページ。

41 佐野孝治[2010a],参照。42 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a],参照。43 産業人力公団ウェブサイト(http://www.hrdkorea.or.kr/),参照。

44 『韓国日報』2002年1月7日。45 『文化日報』2006年2月22日。46 労働部[2006]「雇用許可制一元化59%が賛成」2月。

47 チャンヒョンスク,パクチヌ[2013]「外国人労働者活用のあい路および改善方案」『IIT Trade Focus』12(53)。

48 同上。49 ユハウン[2014]「移住労働者に対する差別と暴力が相変わらず<雇用許可制10年>」8月20日。(http://prolabour21.com/)。50 Amnesty International[2014]“Bitter harvest: Exploitation and forced labour of migrant agricultural workers in South Korea”

51 中小企業中央会[2013b]『外国人勤労者就業実態調査』,参照。

52 法務部・出入国・外国人政策本部[2013a],参照。53 内閣府大臣官房政府広報室[2004]『外国人労働者の受入れに関する世論調査』」。ちなみに筆者が2014年6月に与党の政務調査会・外国人労働者等特別委員会で報告した際も,議員からの質問の多くは外国人犯罪についてであった。

54 『ソウル新聞』2009年10月7日。55 『ソウル新聞』2014年10月16日。56 『ソウル経済』2012年4月10日。57 国会行政安全委員会所属のシンソンミ議員の国政監査資料。

58 『ディリー韓国』2007年6月11日。59 チェヨンシン,カンソクジン[2012]『外国人密集地域の犯罪と治安実態研究』韓国刑事政策研究院。

60 『ソウル新聞』2014年3月7日。61 『韓国労働教育新聞』2014年10月13日。62 2014年6月26日,27日放送。63 2014年7月9日放送。64 2015年より,一部で5年に延長。