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2001年3月 黒坂 昭一 ロシアの金融とリスク管理

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Page 1: ロシアの金融とリスク管理 - ESRI2 2)その他の金融 ロシアの金融市場には上記の銀行部門の他に一応は証券・保険市場等も存在する。市場

2001年3月

黒坂 昭一

ロシアの金融とリスク管理

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- 目 次 -

1.ロシアの金融事情概観

1)民間商業銀行の設立と二層銀行制度への移行……………………… 1 2)その他の金融…………………………………………………………… 2 3)銀行セクターの位置付け……………………………………………… 2

2.海外金融市場への再登場

1)債務問題発生の経緯…………………………………………………… 5 2)ロシア国家債務の構成………………………………………………… 5 3)地方政府の債務………………………………………………………… 5 4)民間企業、銀行の債務………………………………………………… 6

3.ロシアの銀行セクター

1)これまでの変遷………………………………………………………… 7 2)銀行のバランスシート構成…………………………………………… 8 3)外国系銀行……………………………………………………………… 12 4)ロシアにおける国有銀行問題………………………………………… 14 5)ロシア中銀の商業銀行活動規制……………………………………… 15 6)銀行制度改革への動き………………………………………………… 15

4.ロシアの証券市場

1)市場の概観……………………………………………………………… 16 2)ロシア企業の ADR 発行問題………………………………………… 17

5.ロシア金融バブルの発生

1)1998 年8月の経済金融危機とモラトリアム宣言…………………… 18 2)ロシアの金融ピラミッド・スキーム………………………………… 21 3)NDF 問題(オフ・バランス取引)…………………………………… 25

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4)S タイプ口座…………………………………………………………… 25

6.銀行のリスク管理

1)リスクの考え方………………………………………………………… 27 2)主要なリスクの管理方法……………………………………………… 28 3)信用リスク管理………………………………………………………… 30 4)ALM 管理……………………………………………………………… 32

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1.ロシアの金融事情概観

1)民間商業銀行の設立とニ層銀行制度への移行

ソ連時代の末期より設立が認められ始めた民間商業銀行は、市場経済体制への移行とと

もに雨後の筍の如く多数設立され、これらの商業銀行とロシア中央銀行からなる二層銀行

制度に移行した。当初は銀行とは名ばかりで業務内容からは、特定の利益グループに奉仕

する“ポケット銀行”的な存在に過ぎなかった。混乱期にはグループの金庫番と為替投機

屋程度の機能しか有していなかったこれらの銀行の中から、国有企業の民営化過程で有力

な企業を傘下に収めた一部の銀行が所謂金融産業グループの中核として成長し、ロシアの

間接金融市場が形成されて来た。ハイパー・インフレ下での厚い貸出利ザヤと為替益で繁

栄を謳歌した銀行も、1995 年8月の銀行危機発生後、為替・金融の安定化とともに徐々に

整理・淘汰されていった。銀行破産法の不備もあり、依然として相当数の銀行が存続して

いることになっているが、1998 年8月の経済・金融危機で実質破綻した銀行は多い。商業

銀行数及び銀行ライセンス取消数の推移は表-1の通りである。その後、ロシア中央銀行

は商業銀行を(1)公的支援を与え再生すべき銀行、(2)比較的健全で地方の銀行シス

テムの基礎となるべき銀行、(3)問題銀行であるが、国民経済に悪影響を与える可能性

の大きい銀行、(4)整理すべき銀行の4つのカテゴリーに分類し、整理・統合を推進す

る計画を策定し、連邦政府は金融機関再建庁 (Agency for Restructuring Credit Organizations)

を設立して実行中である。

商業銀行業務の大原則は“公共性”、“安全性”、“収益性” であるが、以上の様な状況下、

ロシアに個人、企業に信頼され国民経済の発展に金融仲介機能を発揮し得る商業銀行制度が根

付いたとは言い難い。更に国際経済への統合に伴い国内外での評判リスク(Reputation Risk)への

配慮も増々不可避となっている。

<表-1>

ロシアの商業銀行数推移 銀行ライセンス取消推移

1991 年 1992 年 1993 年 1994 年 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 1,306 1,713 2,019 2,294 266 332 221 127 36 1995 年 1996 年 1997 年 1998 年 2,578 2,603 1,697 1,468

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2)その他の金融

ロシアの金融市場には上記の銀行部門の他に一応は証券・保険市場等も存在する。市場

経済体制への移行に伴い株式会社の新設が認められ、国営企業の民営化バウチャー発行、

株式会社化、更に連邦政府による国債の発行開始により有価証券市場が出現した。証券市

場は 1997 年秋のピーク時には株式の時価総額が約 1,000 億米ドル相当にまで達したと推定

されるが、その後の金融危機で 10 分の1程度の水準まで急落するなど投機的な動きをして

いる。一部の優良企業・銀行の株式は、ADR(American Depositary Receipt)・GDR(Global

Depositary Receipt)の形で国際金融市場でも取引されるものもあるが、証券市場での主役は

依然として国債であり、企業の資金調達の場として直接金融市場が機能しているとは言い

難い。国際経済への統合プロセスの進行とともにリース、ファクタリング、モーゲージ・

ローン、公社債の発行等、様々な金融手段も導入されているが、法制・税制の不備もあり

現状は限界的な役割しか果していない。

3)銀行セクターの位置付け

ロシアの金融市場の中心は間接金融の銀行部門ではあるが、その総資産額は GDP の2~

3割程度の規模に過ぎず、他の新興市場国と比較しても極めて低い水準にある。企業の金

融の大部分は依然として市場原理が希薄な売り掛け・買い掛け決済、バーター取引、現金

決済であり、個人の現金志向も相まって経済取引の相当部分が公式統計では捕捉の困難な

地下経済となっていると推察される。企業部門でも様々なルートで非合法なキャピタル・

フライトが行われており、個人部門では 300~500 億米ドルのタンス預金が外国紙幣の形で

退蔵されていると推察されている。これらの金額規模を勘案すると、ロシアの銀行部門が

国民経済に果たしている役割は極めて低水準にあると言える。

1998 年金融危機前後の状況

100 大銀行の資産構成推定 部門別銀行貸出構成 個人の金融資産構成 ( 1 Jul. 1998 現在) ( 1 Nov. 1998 現在) (1 Dec. 1998)

貸出: 40% 法人 : 78.2% 銀行預金:1,399 億ルーブル (45.8%) 国債投資: 27% 銀行 : 16.2% 現金: 1,168 〃 (38.3%) 株式投資: 5~6%以下 個人 : 5.6% 証券: 485 〃 (15.9%) 合計 : 3,707 億ルーブル 合計 : 3,052 〃

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最近の状況 ロシアの銀行セクター(2000年末現在)

(10 億ルーブル) (前年比) ローン残高 : 956.3 +38.5% インターバンク : 104.7 +16.7% 同シェア : 11% 前年 15% 対企業・中長期 : +31.4%

(出所:国家統計委員会)

個人金融資産(外貨預金・現金は含まず) (単位:10 億ルーブル) 462.6(1 Feb.2000) 総額 :731.1(1 Jan.2001) 内銀行預金 :304.2 現金 :289.3 証券 :137.6 704.0(1 Feb.2001)

個人預金(ルーブル及び外貨建て)

318.9(Jan.2000) 397.3(Jul.2000) 453.9(Dec.2000) 462.5(1 Jan.2001)

(内ズベル・バンクのシェア:75.1%、前年同期:73%)

外貨購入支出割合:8%(Jan.2000) 7%(Jan.2001)

(個人収入:285.7)

(個人支出:322.2)

出所:国家統計委員会(IF d/d 5 Ma.2001)

旧ソ連・東欧諸国の銀行セクターの位置付け

銀行融資/GDP (%)

銀行資産による国有銀行のシェア(%)

預金保険制度の有無

ハンガリー 21 9 有 チェコ 44 23 有 ポーランド 19 25 有 スロベニア 36 42 有 エストニア 26 6 有 ロシア 12 42 無 ウクライナ 9 12 無 ベラルーシ 19 60 有 モルドバ 12 0 無

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(注)各国中央銀行、年金基金、保険、投信データからゴールドマン・サックス累計、1999 年末

市場経済の血液として重要な役割が期待される商業銀行であるが、わずか 10 年程度の経

験しか持っていない。現在のロシアの商業銀行部門の問題点を整理すると(1)不良債権、

(2)過少資本、(3)過度の投機的取引への関与、(4)関連会社取引比重の高さ、(5)

経験不足の経営者・行員、(6)政治・財政への過度な依存等を指摘し得る。

金融危機時の投機的行動への反省もあり、銀行による実態経済への投融資強化が叫ばれて

いるが、以上の様な問題点に加え“会計制度”、“コーポレート・ガバナンス”、“透明性”

等解決すべき課題は多い。

2.海外金融市場への再登場

旧ソ連の対外債務問題が国際金融市場でクローズアップされ始めたソ連崩壊前より実質

的に海外での資金調達の道は閉ざされていたが、債務の繰り延べで基本合意が成立した

1995 年ころよりロシア連邦政府、地方政府、商業銀行、優良企業が相次いで国際市場への

再登場を果たした。1998 年の金融危機で新旧債務ともに返済が困難となったが、以下はそ

の後の債務処理状況を中心に取りまとめたものである。

債務の繰り延べは様々な利害関係を有する債権者間の公平な取扱い( equal

treatment/comparability)が必要である。ロシアの場合、強制的な繰り延べ措置もとられてお

り、(1)国内債務と対外債務、(2)ルーブル債務と外貨債務、(3)国内債権者と非

居住者債権者、(4)様々な非居住者債権者(銀行・企業・投資ファンド等)の取扱いは

透明・公平とは言い難い印象が残っている。

個人金融資産の配分状況

0% 20% 40% 60% 80% 100%

米国

英国

ドイツ

日本

株・投信

債券現金・預金

その他

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1)債務問題発生の経緯

1992 年の旧ソ連崩壊前後に多額の対外債務問題が露呈した。債権者との債務繰り延べ交

渉が行われ、パリ・クラブは 1995 年に、ロンドン・クラブは 1997 年末に合意が成立した。

旧ソ連債権は旧ソ連外経銀や外国貿易公団等に対する実質ソブリン債務のみであったが、

市場経済体制の移行に伴って、地方政府、民間企業、銀行も新たに対外債務者として登場

した。1998 年8月の金融危機発生でロシアの債務問題が再燃した。

2)ロシア国家債務の構成

(1)対国際金融機関

(2)ユーロ・ボンド

(3)旧ソ連 パリ・クラブ

1999 年~2000 年に期日到来の元利金につき暫定繰り延べ合意成立。

(4)旧ソ連 ロンドン・クラブ

PRIN(Principal Note)と IAN(Interest Arrears Note)と称される金融手段へと証券化される

に伴い、少なくとも全体の1/4を国際的な投資ファンドが保有。2000 年2月に以下条

件で債務削減を含む再繰り延べ案で基本合意。

対象債権 金額(億米ドル) 削減率 新発ユーロ債

PRIN 222 条件 37.5% 3 0 年/据置7年

IAN 68 33.0% 30 年/据置7年

上記の未収利息 28 0% 10 年/据置6年

合 計 318 平均 36.5%

(5)国内外貨建ボンド

約 110 億ドルあり、非居住者が半分程度保有との推定もある。

(6)国内ルーブル建ボンド

1998 年8月に強制借換が宣言されたが、非居住者もピーク時には全体の1/3に近い

約 170 億ドル保有との推定あり。

3)地方政府の債務

最大の借手モスクワ市の対外債務は約 10 億ドル。ユーロ・ボンド発行総額は約 20 億ドル。

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4)民間企業、銀行の債務

1998 年金融危機前のピーク時残高は民間銀行 192 億ドル、企業 60~80 億ドルと推定。

ロシアの外貨建国家債務 (単位:10 億米ドル)

1 Jan. 2000 1 Jan. 2001 1 Jan. 2002 1.公的信用 66.5 66.0 65.3 うちパリクラブ諸国 48.6 * 48.4 48.3

非パリクラブ諸国 3.3 ** 3.1 2.9 旧コメコン諸国 14.6 14.4 14.1 2.民間信用 39.4 39.1 39.1 うちロンドン・クラブ 30.1 29.8 29.8

商業信用 9.3 9.3 9.3 3.国際金融機関 19.4 18.3 19.7 4.外貨建ボンド 26.7 26.7 25.7

うちユーロボンド 15.6 15.6 14.6 Min Fin Bonds 11.1 11.1 11.1 5.ロシア中銀 6.4 6.2 6.2

合計 158.4 156.3 156.0 (出所: 2000 年8月に下院に提出された2001 年予算案付属資料)

ルーブル建債務 (単位:10 億ルーブル)

1 Jan. 2001 1 Jan. 2002

合計 578.544 575.73

うち OFZ-PD(変動利回り) 24.297 24.297

OFZ-FD(固定利回り) 376.014 319.463

OGNZ (貯蓄性) 3.247 30.0

OFZ-FK(固定利札付き) 131.565 131.565 *国別パリクラブ債務

**国別非パリクラブ債務

(単位:10 億米ドル) ドイツ: 21.1 韓国: 1.1 イタリア: 5.9 クウェート: 1.0

日本: 5.6 U.A.E.: 0.4 米国: 4.0 フランス: 3.0 オーストリア: 2.5 カナダ: 1.6

英国: 1.5

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3.ロシアの銀行セクター

1)これまでの変遷

ソ連崩壊後のロシア商業銀行の動向を簡単に振り返ると、まず 1991 年~1992 年に新設の

純粋民間商業銀行に加え、旧国有特殊銀行の支店が独立・商銀化し、多数設立された。商

業銀行とは名ばかりで、当時の主要業務はハイパー・インフレ下で超低金利の中銀借入の

受皿となってグループ企業へ資金を流す事や、下落を続ける自国通貨に対する為替投機的

な取引であった。1995 年4月 26 日にロシア中銀が財政赤字補填の為の直接貸出を中止し、

中央指令貸出も停止し、為替市場の混乱と銀行間資金市場が機能不全状態になった 1995 年

8月の“暗黒の火曜日”危機を経験するに到り、状況が一変する。これ以降、国家財政赤

字ファイナンスや中央からの資金供給が細った実物経済への金融が商業銀行に期待された

が、金融基礎インフラが未整備かつ顧客たる企業の財務内容デスクロージャーやコーポレ

ート・ガバナンスが不十分な状態下、実物経済への金融は困難であり、相対的に安全高利

な財政赤字補填の為に発行が開始された短期国債購入へと業務をシフトし、民間資金需要

をクラウディング・アウトする結果をともなった。結局は過度な対外借入に依存し、1998

年の金融危機で壊滅的な打撃を受けた。目下は債務の後始末をしつつ銀行システムの再構

築をはかり、銀行の本源的業務である実物経済への投融資への傾斜に努めている状況であ

る。以下の緒表は銀行セクターの主要な係数を様々な角度から取りまとめたものである。

<表-2> ロシアの銀行セクター J a n . 1 9 9 8 J u n . 1 9 9 8 S e p . 1 9 9 8 J a n . 1 9 9 9 J u n . 1 9 9 9

1 . 登 録 授 権 資 本 金 33 . 2 4 2 . 6 4 5 . 5 52 . 5 74 . 8( 1 0 億 ル ー ブ ル )

2 . 自 己 資 本 金 総 額 (除 く貯 蓄 銀 行 ) 95 . 9 9 6 . 2 9 4 . 9 51 . 5 48 . 2

3 . 投 資 勘 定 項 目 ( 除 く 貯 蓄 銀 行 )( a ) 国 債 55 . 1 4 9 . 4 3 3 . 6 25 . 5 22 . 8( a ' ) 総 資 産 に 占 め る シ ェ ア ー 9.5 8 . 3 6 . 0 3 . 3 2.3( b ) 株 式 6.6 9 . 3 9 . 4 7 . 6 8.3( c ) 約 束 手 形 40 . 7 4 9 . 3 4 8 . 3 61 . 6 74 . 2

4 . 貸 出 合 計 291 . 5 2 9 3 . 1 2 9 2 . 9 4 41 . 7 4 90 . 0( a ) 実 体 経 済 向 け (ル ー ブ ル 建 ) 128 . 6 1 1 5 . 2 1 1 2 . 1 97 . 4 1 40 . 5( b ) 実 体 経 済 向 け (外 貨 建 ) 84 . 7 1 0 0 . 4 1 0 2 . 6 2 39 . 8 2 17 . 3( c ) 個 人 向 け (ル ー ブ ル 建 ) 12 . 6 1 2 . 4 1 2 . 1 10 . 5 11 . 4

5 . 延 滞 債 権 合 計 12 . 1 1 4 . 1 1 4 . 8 39 . 8 40 . 2

6 . 延 滞 利 息 11 . 9 1 1 . 9 1 1 . 6 5 . 9 9.1

7 . 法 人 預 金 175 . 5 1 4 8 . 2 1 4 2 . 5 2 83 . 2 3 82 . 6

8 . 個 人 預 金 (ル ー ブ ル 、 及 び 外 貨 建 ) 170 . 2 1 9 3 . 7 1 8 1 . 2 1 99 . 8 2 34 . 8

8 ’ . 個 人 預 金 ( 含 む 貯 蓄 銀 行 ) 1 3 7 . 3 1 2 7 . 7 1 48 . 2 1 78 . 3

9 . 銀 行 間 借 入 106 . 0 1 0 3 . 3 1 0 4 . 9 1 95 . 7 2 04 . 2

9 ’ . 銀 行 間 借 入 ( う ち 非 居 住 者 銀 行 か ら ) 74 . 7 7 8 . 5 7 9 . 5 1 33 . 6 1 28 . 9

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2)銀行のバランスシート構成

以下はロシアの商業銀行の主要なバランスシート項目、及び各々の項目に影響を与え得

る要因を整理したものである。後述の様々なリスクにさらされている事が良くわかる。

1998 年金融危機当時の状況を見てみよう。まず資産面では以下の特徴が挙げられる。

●現金・預金 :為替リスク、国内銀行の信頼欠如から外貨や外銀志向が強い。毎年多額

の米ドルの紙幣が輸入されており、危機の発生した 1998 年でさえ約 150

億米ドルが輸入されている。

●貸 付 金 :グループ企業向けがほとんどであり、且つ短期貸出が中心である。大銀行

の場合には主たる融資先はロシア経済の要である天然資源輸出関連企業で

あるが、国際市況の軟化で、資金繰り/財務内容の悪化傾向が見られた。

●有価証券 :短期国債で積極的に運用していたが、価格の急落で多額の含み損が発生

し、高かった筈の流動性も急速に失われた。但し地方の銀行は国債運用

の恩恵に余り浴さなかった為に、今回の被害は総じて軽微である。運用

目的の保有株式相場は急落する一方、グループ形成の為の政策投資株式

保有による資金の非効率な固定化も目立っている。

●動産・不動産:別荘・高級自動車の購入に加え、本店ビルの新築による多額の資産固定

化傾向が見られる。本店ビルが完成した直後に危機や倒産を迎えた銀行

も珍しくない。

資産 負債外貨シフト ルーブル 現金 中銀借入 O/D 引締強化

外貨 Repo.

中銀準備預金 預金 預金 個人・法人 ルーブル 外貨タンス預金化ロシア商銀 銀行 銀行 外貨 為替リスク増大

外銀不良債権化 グループ企業 短期貸付金 約束手形/為替手形

地方政府 短期借入金 ロシア商銀(ルーブル、外貨) 調達難外銀(外貨)

価格急落 GKO(ルーブル): 短期国債流動性低下 MinFin/外債: 中長期国債

(外貨)

不良化 グループ企業: 中長期貸付金 中長期借入金 調達難

価格急落 グループ企業: 株式 自己資本 資本金 外貨建部分の流動性低下 準備金 ルーブル強制転換

什器・備品引当金 積増

資金の固定化 新築本店ビル: 土地・建物

ロシア商銀のバランスシート構造

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次に負債面の特徴を見よう。

●預 金 :一般商業銀行に対する国民の信頼は薄く、国有貯蓄銀行(ズベル・バン

ク)が全体の7割以上を占める個人預金は未だ安定した調達源に成長し

ておらず、インフレ懸念の中、期間も短い。法人預金も 1998 年初よりの

徴税強化で減少傾向にあった。外貨預金の比重も相対的に高い。(但し、

1997 年 10 月の 91 億米ドルから 1998 年8月に 65 億米ドル、更に 10 月に

は 18 億米ドルに急減している。)

●借 入 金 :銀行間取引及び、手形発行による国内調達から、国際金融市場での外貨

調達への比重が増加した。一部には国際金融市場での債券発行による中

期の調達も行われたが、大部分は短期調達であり、アジア危機発生以降、

借換え/新規借入が急激に困難となっていた。

●自 己 資 本 :大手銀行は形式的には自己資本比率の国際基準を満たしているかに見え

たが、現物・手形出資等流動性の低い部分が混入していた他、恣意的な

不良債権償却/引当不足による実質自己資本の減少懸念もあった。

資産・負債の両面より以上を要約すると、不安定な運用/調達基盤、運用の集中、過度

の資金の固定化、為替リスクを内包したバランスシート構造であり、外的ショックに極め

て脆い体質と言える。十分な流動性・為替リスク対策や ALM 管理が求められる事は当然で

あるが、ロシアの金融インフラからはやや無理な注文であろう。加えて今回の危機では、

マージン・コールや先物為替といったオフ・バランスでの突然の債務急増は注目に値する。

因みに、1999 年末のロシア 100 大商業銀行の主要バランスシート項目と、これに関連し

た外部経済主体との関係を整理したものが以下の表-3と4である。

銀行であれ企業であれ、個々の経済活動主体は各々のバランスシートの下で活動している

が様々な項目で有機的に相互連関している。これが市場での活動に“ゲームのルール”や

“行動倫理”が求めれる所以であり、ルール違反者に対しては制裁を課したり市場から退

場してもらう必要がある。

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<表-3> インターファックス ロシアの100大銀行 (単位:百万米ドル)

総資産 現金及び 金融機関 証券 貸付金 〃 (overdue) 総負債 自己資本金 金融機関 同左 非金融中銀預け金 預け金 うち短期 うち 中長期 預金預り金 内 外国銀行 機関預金

全銀行 ( 1,320.6 )31.12.1999 44,069.5 4,271.4 4,798.4 7,866.9 22,245.5 14,733.5 8,527.2 38,523.8 5,545.7 7,489.7 4,306.7 24,245.6

金額 ( 1,256.0 )30.6.2000 52,536.6 7,103.8 6,113.3 8,721.3 24,909.6 16,970.9 9,469.5 46,780.8 5,755.8 8,038.5 3,990.8 30,484.8

( 3.0 )31.12.1999 100.0 9.7 10.9 17.9 50.5 33.4 19.3 87.4 12.6 17.0 9.8 55.0

構成比 ( 2.4 )30.6.2000 100.0 13.5 11.6 16.6 47.4 32.3 18.0 89.0 11.0 15.3 7.6 58.0

除くズベル銀行 ( 1,061.9 )31.12.1999 30,041.9 2,854.2 4,642.0 2,344.8 16,653.7 10,374.6 7,078.1 25,729.2 4,312.7 7,207.7 4,285.5 12,991.0

金額 ( 977.8 )30.6.2000 35,619.1 3,478.9 6,019.6 2,822.0 19,036.7 12,776.6 7,481.5 31,146.6 4,472.6 7,801.8 3,970.3 16,814.8

( 3.5 )31.12.1999 100.0 9.5 15.5 7.8 55.4 34.5 23.6 85.6 14.4 24.0 14.3 43.2

構成比 ( 2.7 )30.6.2000 100.0 9.8 16.9 7.9 53.4 35.9 21.0 87.4 12.6 21.9 11.2 47.2

在モスクワ銀行 ( 996.8 )31.12.1999 25,225.3 1,929.2 3,497.2 2,147.7 14,518.8 8,812.2 6,461.0 21,417.0 3,808.3 6,501.8 3,749.2 10,120.1

金額 ( 921.0 )30.6.2000 28,753.9 2,229.8 4,404.8 2,361.3 16,068.7 10,429.1 6,776.1 24,828.2 3,925.7 7,167.9 3,505.4 12,252.6

( 4.0 )31.12.1999 100.0 7.6 13.9 8.5 57.6 34.9 25.6 84.9 15.1 25.8 14.9 40.1

構成比 ( 3.2 )30.6.2000 100.0 7.8 15.3 8.2 55.9 36.3 23.6 86.3 13.7 24.9 12.2 42.6

モスクワ・サンクト ( 16.3 )を除く 金額 31.12.1999 2,785.6 666.5 927.2 92.3 847.2 578.6 299.8 2,439.5 346.1 154.5 117.5 1,809.2

( 14.6 )30.6.2000 4,481.5 941.2 1,448.9 232.9 1,500.9 1,215.5 329.3 4,097.9 383.5 150.5 88.1 3,316.9

( 0.6 )構成比 31.12.1999 100.0 23.9 33.3 3.3 30.4 20.8 10.8 87.6 12.4 5.5 4.2 64.9

( 0.3 )30.6.2000 100.0 21.0 32.3 5.2 33.5 27.1 7.3 91.4 8.6 3.4 1.9 74.0

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<表-4>

上方圧力

1999年ロシアの100大商業銀行

(単位: 百万米ド ル/( 換算: US$=R27)

資産 負債項目 金額 シェア(%) 項目 金額 シェア(%)

現金・中銀預金 4,271.4 9.7 金融機関預金・借入 7,489.7 17.0金融機関預け金 4,798.4 10.9 (短期外銀預金借入) (2,497.8) (5.7)

外圧 有価証券 7,866.9 17.9 (中長期外銀預金借入) (1,868.9) (4.1) 外圧世界経済 (うちロシア連邦債) (7,429.2) (16.4) 非金融機関預金 24,245.6 55.0 世界経済

国際金融市場 株式 772.0 1.8 (流動性短期預金) (22,320.6) (50.6) 国際金融市場

貸付金・手形 22,245.5 50.5 (うち個人預金) (9,684.1) (22.0)(うち短期) (14,733.5) (33.4) 証券 3,351.4 7.6( 中長期) (8,527.2) (19.3) その他 3,437.1 7.8(延滞債権) (1,320.6) (3.0) (負債合計) 38,523.8 87.4(貸倒引当金) (▲2,440.4) (▲5.5) 資本金 3,716.5 8.4不動産・設備 1,372.5 3.1 準備金 2,661.8 6.0その他 2,713.6 6.1 繰越し利益・その他 ▲ 832.6 ▲ 1.8

(資本合計) 5,545.7 12.644,040.3 100 44,069.5 100.0

(出所: INTERFAX-100 Top Russian Banks, Results of 1999)

下方圧力 (企業時価総額 GDP 50%?)

パリ・クラブロンドン・クラブ   国際金融機関 etc

ロシア連邦

Dr. Cr.預金・現金 国内債金、外貨 外貨貸付金 中銀借入出資有価証券固有資産

企業 ADr. Cr.預金・現金 銀行借入

売掛金 買掛金手形貸付金 資本金動産、不動産

企業 B

Dr. Cr.預金・現金 銀行借入

売掛金 買掛金

資本金

ロシア商銀 or 外銀Dr. Cr.貸付金 金融機関預り金有価証券

個人金融資産

ロシア連邦貯蓄銀行Dr. Cr.国債 個人預金外債貸付金

企業 CDr. Cr.預金 借入金

売掛金

ロシア中銀Dr. Cr.ロシア政府(債務返済) 政府預金非居住者預金・債権 金融機関預り有価証券金融機関融資 資本金

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3)外国系銀行

脆弱な国内銀行を保護すべく、様々な規制があったものの、ここ 10 年間にかなりの外国

銀行がロシアに進出している。これらの外銀は多額の外貨資金の流入パイプとなったのみ

ならず、様々な金融技術や経営ノウ・ハウをもたらした。外銀進出の初期段階では、貿易

関連金融やロシアの商業銀行との為替・資金取引が中心であったが、1998 年6月末の時点

では主要 12 行合計で総資産の約 32%がロシア国債の運用で占められている。一部には資産

の半分以上を占める銀行も見られる。

なお直近の状況は以下の通りである。

銀行名 資産規模(単位:百万米ドル)

Dec. 1997 Jun. 1998

Chase Manhattan Bank Int. 446.6 1,130.7

Citibank T/O 917.0 1,030.7

AMN AMRO Bank 382.8 755.5

Credit Suisse 829.7 752.3

Credit Lyonnais (Russia) 662.2 705.4

Westdeutsche LBVostok 241.9 466.6

Rep; Nat'l Bank of New York 343.4 373.1

BNP Dresdner Bank 367.0 368.0

Societe Generale Vostok 315.5 360.8

Raiffeisenbank Austria 162.2 212.9

Bank of Austria 200.7 181.5

ING Bank Eurasia 659.6 969.7

合 計 5,528.6 7,307.2

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30.6.199831.12.199930.6.2000

(単位 :百万米ドル)総資産 現金及び

中銀預け金金融機関預け金

証券 貸付金    〃うち短期

   〃うち中長期

総負債 自己資本金 金融機関預金預り金

同左内 親子ローン

非金融機関預金

ABN-AMRO 304.0 11.2 1.8 71.0 211.4 211.6 0.7 284.7 22.0 181.5 69.9335.0 30.6 34.6 11.4 238.4 166.4 76.3 299.7 35.2 162.3 117.0351.5 25.2 132.3 10.9 168.7 93.3 79.5 314.0 37.5 102.2 82.0 171.7

(30.9.98) 351.2 14.8 1.4 11.0 316.3 166.4 142.5 325.2 26.0 251.8 60.9BNP-Dresdner 437.8 31.4 29.0 4.9 365.2 291.2 60.8 429.6 8.1 243.9 165.8

444.5 31.6 3.1 9.2 394.6 336.9 51.4 442.8 1.8 247.0 240.6 178.9Citibank 1,073.1 51.1 34.2 445.6 508.5 485.4 21.5 932.4 140.7 569.7 269.0

737.5 54.1 27.6 100.2 479.0 366.4 114.5 681.7 55.8 324.9 282.7785.6 46.0 14.0 124.7 490.4 405.1 102.1 711.9 73.6 323.1 300.2 279.6

Ingbank 969.7 20.5 19.0 358.7 553.1 229.9 325.4 925.1 44.6 828.2 76.3331.4 28.4 12.5 57.8 207.3 12.7 187.4 294.6 36.9 152.2 89.3307.4 16.6 30.9 35.3 201.5 42.8 159.0 256.0 51.4 138.1 125.0 85.9

(30.9.98) 216.3 6.3 4.1 43.1 115.1 79.1 36.5 227.9 ▲ 24.4 192.9 30.3RZB 302.0 31.1 38.8 20.3 201.4 136.0 70.2 279.1 22.9 102.5 161.6

409.4 42.9 16.5 21.9 295.6 209.0 100.6 386.3 23.1 105.4 64.5 237.2上記合計 2,914.3 103.9 60.5 929.4 1,704.4 1,172.4 526.6 2,695.3 208.9 2,024.1 506.4

2,143.7 175.6 142.5 194.6 1,491.3 972.7 509.2 1,984.7 158.9 985.8 816.42,298.4 162.3 196.8 202.0 1,550.8 1,087.1 492.6 2,111.0 187.4 915.8 812.3 953.3

総合計 (overdue 53.3)(金額) 3,124.7 198.7 477.4 262.2 1,907.1 1,386.7 563.9 2,656.4 468.3 1,178.3 857.0 1,120.4

総合計 (外銀)(構成比)% 100.0 6.4 15.3 8.4 61.1 44.4 18.0 85.0 15.0 37.7 27.4 35.9

ロシアに於ける主要外銀動向<表-5>

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外資系銀行の状況 (出所:ロシア中央銀行、2001 年1月1日現在)

174 現地法人+1支店(アルメニア)

このうち 129 現法 +1非銀行機関がゼネラル・ライセンスを保有

地域別分布状況(28 の地域に分散)

モスクワ市・州 88 行

サンクトペテルブルグ 8 行

チュメニ州 7 行

オレンブルグ州 2 行

沿海州 2 行

ウドムート共和国 2 行

100%外資銀行:23 行 資本金:94 億ルーブル

20~100%の外資系銀行:33 行 資本金:58 億ルーブル

非居住者保有株式合計:155 億ルーブル(前年比+30.9%)

自己資本総額:2,079 億ルーブル(前年比+86.6%)

4)ロシアにおける国有銀行問題

ロシア中銀法改正問題に関連して、以下銀行に中銀が保有している株式の売却・民営化

の問題が挙げられる。

●在外の銀行:1年以内に売却

●ロシア外国貿易銀行:3~4年以内に売却

●ロシア貯蓄銀行:5年以内(但し預金保険制度の創設が前提)

以上の旧ソ連時代からの歴史を持つ銀行の他に、以下のような新設の国有専門銀行があ

る。

●ロシア開発銀行

●ロシア農業銀行

●ロシア輸出入銀行

●対外経済関係活動銀行

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旧来から存続している国有系銀行による民間金融機関業務への圧迫排除、競争原理の促進

問題と逆に、民間金融機関ではリスクが高過ぎ投融資が困難な中小企業向け融資、カント

リーリスクが高い諸国への輸出振興融資、長期の融資を必要とする設備投融資等を国策的

に遂行する特殊目的国有銀行の創設問題を区別整理して検討して行く必要がある。

5)ロシア中銀の商業銀行活動規制

市場経済活動に不可欠な資金供給の仲介機能を果たし、公共性と安全性が求められる商

業銀行の活動には様々な規制・管理が必要である。現在導入されている主な規制基準は以

下の通りである(後述6、銀行のリスク管理を参照)。

自己資本比率:最低8%

流動性規制 :最低 20%(現金)、最低 70%(当座)、最高 120%(長期)、最低

20%(総合)

1社(グループ)当たり貸し出し限度:最高 25%

大口融資規制:最高 800%

1 社当たり債務(預金)限度:最高 25%

1 株主当たり貸し出し限度:最高 20%

株主宛て総与信限度:最高 50%

関連会社宛て与信限度:最高2%

同上(含む保証) :最高3%

対非居住者金融機関:最高 400%

第三者企業株式保有限度:最高 25%

1社当たり株式保有限度:最高5%

手形発行限度:最高 100%

貴金属取引用流動性比率:最低 10%

以上の他にも個人預金預かり限度規制や為替持ち高規制等がある。因みにロシア商業銀

行全体の為替オープン ポジション上限総額は 110~150 億ルーブルと見られている。

6)銀行制度改革への動き

ロシア中銀は 2001 年2月に実物経済への投融資活性化を目的とする新“概念”文書を下

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院に送付している。主要ポイントは以下の通りである。

●インフレ、金利の引き下げ及びリファイナンスとルーブル相場の安定メカニズムの導入

●銀行の様々なポジション調整に利用可能な金融手段への関心喚起(例えばシンジケー

ト・ローン、リスクシェアリング、債務保険)

●中長期資金調達問題:個人預金吸収強化、預金保険制度の創設

●金融機関の所得税率の一般企業並みへの引き下げ

●外国銀行の資本金規制(現行:資本金総額の 12%が限度)の引き上げ(25%へ)

●外国銀行の信頼強化:未決済 NDF 残高情報の開示(現状 NDF の法的根拠が不明確であ

るが、必要に応じ民法改正も計画)

4.ロシアの証券市場

1)市場の概観

国有企業の民営化バウチャー、短期国債、民営化された企業の株式と言った取引対象とな

る有価証券の登場と共に証券市場が形成されてきた。1994 年~1995 年の間に推定 30~40

億ドル相当のポートフォリオ投資が流入してミニ・バブルが発生、1995 年8月の“暗黒の

火曜日”の原因となったり、1998 年8月の金融危機直前には GDR、ADR 形式により外国で

のロシア企業の株式取引も可能となったことから、株式の時価総額が一時 1,000 億ドルを越

える規模にまで急拡大した。

しかし、現在のロシアの証券市場は未だ投機的な西側資本に依存する部分が大きいのみな

らず、これまで証券業務に対する規制が緩かったロシアの商業銀行が、市場参加者かつ投

資家として積極的な役割を果たしている。安定した投資家たる国内の機関投資家、個人投

資家の育成は今後の課題である。この為には国内の資金蓄積もさることながら、国有企業

の民営化過程で発生したインサイダー的な経営者・従業員株主を多数抱える所有構造の特

殊性、少数株主の保護、財務内容の開示制度、オフショア取引への移動を誘惑し易い税制

等、基本事項の改革が必要である。ロシアの投資家が米ドル、不動産、在外資産を選好す

る一方、ロシアの株式市場は投機的性格が強いとは言え、外国投資が推定 60~90%の資金

供給を行っている現実も直視の必要がある。但し今後、法制・税制面の改善により、国内

不動産を担保とした社債発行の促進による市場活性化努力も必要である。幸いなことに、

1998 年の金融危機で崩壊状態となった株式市場も国際的な余資基調の中、1999 年中には割

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安感から外資が流入した。代表的な株価動向を示す RTS 指数は 1997 年 10 月に 571 ポイン

トのピークに達した後、1998 年9月には 46 ポイントにまで急落したが、1999 年末には 150

ポイントに上昇した。更に、1999 年 12 月のロシア下院議会選挙結果及びエリツィン大統領

辞任により今後の政治的安定化に注目が集まり、2000 年初には 1998 年6月以降初めて 200

ポイント台を回復した。いずれにせよロシアの株式時価総額は過去5年間に乱降下しつつ

も、約 500 億ドル米ドル相当に留まっている。

旧ソ連・東欧圏の株式市場 (1999年12月時点のEBRDの分析)

上場企業数 GDP比の時

価総額(%) 時価総額比の先買高(%)

ブルガリア 828 5.8 7.6

クロアチア 59 12.8 2.9

チェコ 164 21.8 34.9

エストニア 25 35.2 15.9

ハンガリー 68 33.4 88.2

ラトビア 70 8.2 11.6

リトアニア 54 10.7 25.5

ポーランド 221 19.6 37.7

ルーマニア 5,825 2.6 36.3

ロシア 207 39.7 3.9

スロバキア 845 3.8 65.5

スロベニア 28 11.1 39.8

ウクライナ 125 3.6 11.1

2)ロシア企業の ADR発行問題

これまで不透明・不明確であった株主の議決権に関し、以下の様な決定がなされている。

連邦証券委員会は、ADR 発行体企業の経営者が、保管銀行から割り当てられた委任状に

基づき、株主総会で投票することを禁止する決定をした。発行企業は同委員会に対し、同

社と保管銀行間の契約内容に株主総会での投票権を有する株式の所有者に関する情報が含

まれている事を確認する書類を提出する必要がある。又、保管契約には保管銀行が投票委

任状を発行する事を禁止する内容を盛り込む必要がある。なお、連邦証券委員会は、海外

上場株式総額がロシア国内上場株式総額の 75%以上となる企業に対し ADRの発行を差し止

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める事ができる。

CSFBの推定に依れば、ロシア企業株式の ADR 取引高は国内証券市場取引高の約 40%に

相当する。因みにポーランド、ハンガリーでは 40~50%、トルコでは 10~15%であり、月

間取引高は前者の場合で$2.5~3.5bil.、後者は$25~35bil.である。ロシアの企業は主に企業

イメージの向上を目的に 1996 年1月に ADR 市場への参入を開始した。企業が国内市場に

対し抱いていた否定的な見方も大きな原因である。ロシアの証券市場が量的拡大に向かう

インセンティブがあるとすれば、積み立て式年金制度への移行やより集中的なミューチャ

ル・ファンドの発達と資本移動制限の撤廃と言った政治問題の解決であろう。

現在 ADR を発行しているロシア企業の産業分野別状況は以下の通りである。

石油・ガス:6社

電力:7社

通信:12 社

その他:3社

なお連邦証券委員会の決定に基づきロシア中銀は証券ブローカーと顧客勘定の分別管理

に関する通達を出した(実施日 2001 年3月1日)。

5.ロシア金融バブルの発生

1)1998 年8月の経済金融危機とモラトリアム宣言

8月 17 日にロシア政府・中銀は(1)ルーブル相場の実質切り下げ、(2)一部民間対

外債務の 90 日間のモラトリアム、(3)ルーブル建短期国債の償還停止、(4)有事の資

本取引規制などを骨子とする緊急金融対策に関する共同声明を突然発表し、国際金融市場

を驚かせた。同時にロシア中銀は 1998 年8月 17 日から 90 日間にわたるモラトリアム対象

取引として以下を決定した。

●期間 180 日超の対外借入元本の返済

●レポ取引を含む有価証券担保融資に関わるマージン・コールの支払

●先物為替取引の実行

なお、国家の対外債務返済や対外経済活動に関する経常取引は対象外である。

推定の域を出ないが、モラトリアムの対象債務は、対外借入:約4億米ドル、マージン・

コール:約 25 億米ドル、先物為替:約 100 億米ドルと言われている。通常対外債務のモラ

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トリアムと言えば借入債務が中心であるが、今回のロシアの危機においては、マージン・

コール、先物為替金額の大きさが注目され、ロシア版のミニ・ヘッヂ・ファンドの存在を

うかがわせる。これが7月 13 日に日本政府のアンタイド・ローン 15 億米ドルを含む総額

226 億ドルの IMF 等による緊急金融支援パッケージ合意にもかかわらず、あっけなく破局

を迎えた一因とも推察される。この金融支援パッケージに加え、民間ベースでも総額 64 億

米ドル相当の新発及びルーブル建国債の任意中長期ユーロ債に借り換えが合意されている。

ここで今回の金融危機に至った背景を概観して見るが、上述のモラトリアム対象債務の

内訳がその原因を雄弁に物語っている。

(1)まず対外債務の増大である。ロシアの民間銀行や有力企業による在外資金調達は、1995

年頃より始まるが、1996 年~1997 年前半までに急増している。但し、借入期間はピーク

時においても一部例外を除き、期間1年にせいぜい6~12 ヶ月の貸出人による延長オプ

ション付きが大部分の短期借入である。ロシアの居住者民間銀行の対外借入の中には、

現地法人形態で進出した欧米銀行による実質親子ローン借入も相当多額に上っている

(2)1995 年より財政赤字のファイナンス形態として始まったルーブル建短期国債の発行は、

ロシアの商業銀行セクターに加え、非居住者投資家の購入により順調に消化されていた。

通貨バンド制の導入によるルーブル相場の安定と、公定歩合にほぼ連動した流動性の高

い、高利回りで安全な運用対象と見なされた為である。

ピーク時には非居住者による保有シェアが 30%程度に高まり、金額ベースでも 200 億

米ドル以上にも達している。

IMF等支援(億ドル)(1998 年7 月13 日合意)

1998 年 1999 年 合計

IMF 125 26 151

世銀 17 43 60

日輸銀 6 9 15

148 78 226

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20

公定歩合

1996.2.10 7.24 8.19 10.21 12 . 2 97.2.10 4.28 6.16 10 .6120% → 110% → 80% → 60% → 48% → 42% → 36% → 24% → 21%

1998.1.1 2 . 2 2.17 3 . 2 3.16 5.19 5.27 6 . 5 6.2428% → 42% → 39% → 36% → 50% → 150% → 60% → 80% → 60%

ルーブル相場推移

1996年6月 12月 1997年6月 12月 1998年3月 6月 9月 12月

5.097 → 5.56 → 5.782 → 5.96 → 6.106 → 6.198 → 16.0645 → 20.65

注1.各月末の対米ドル中銀公定レート

2.1997 年以前分はデノミ実施後ベースに換算

この非居住者にとっても魅力的に見えた短期国債も、アジアの通貨危機に端を発した

新興市場への不信感から、1997 年後半より、非居住者資金の流出により消化難に陥って

いった。一方ロシアの財政赤字の拡大は続き、1998 年に入ると矢継ぎ早の金利引上げで

自転車操業的に発行され続けられたが、需給面より徐々に限界に近づきつつあった。

(3)次に国際収支面からの懸念発生が挙げられる。ロシアは石油・天然ガス等を中心とする

一次産品の輸出でソ連崩壊後も大幅な貿易黒字を記録していた。しかし、国際市況の悪

化で貿易黒字も先細りが懸念され、経常収支の赤字転落が徐々に現実的となって来た。

これによるルーブル切り下げ不安圧力が増大し、非居住者資金の流入停止/流出加速に

拍車がかかった。

通貨・金融面からの不安材料が増大する中での政治的不安定要素が与える心理的な影

響も大きい。エリツィン大統領の健康不安説が持続的に流れる中、1998 年3月にはチェ

ルノムイルジン首相が突然解任され、金融界にはその能力が未知数のキリエンコ首相が登

場した。

以上の様なロシア国内外の金融環境の変化の中で、突然ロシアの金融システムが崩壊した

訳であるが、キーワードは、短期国債増発、対外調達依存拡大、ルーブル切り下げ懸念で

ある。この3つの要素が密接に関連した金融スキームは図のように要約されるが、これを

筆者はロシア版の“ピラミッド・スキーム”と呼ぶこととし、構築と崩壊のプロセスを説

明する。様々なリスクの存在とその管理の重要性を理解して欲しい。

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外貨建借入

10.. 10

ルーブル建40 40 短期国債購入

ルーブル建

80 短期国債購入

<担保> 100 100<対外借入+ルーブル国債購入>

(短期国債) (有価証券担保借入)株式等 +

(a)銀 行 間デポ

     (b)シンジケート・ローン (c) 外 債

欧米銀行

シア

商銀

5 NDF締結

(1) Dr. Cr.

ルーブル国債 個人預金

法人預金 (ルーブル建)

(2) Dr. Cr.ルーブル国債 非居住者銀行預金

シンジケート・ローン 外債発行

(外貨建)

(3) Dr. Cr.

ルーブル国債 預金Min.Fin.Bond 借入PRIN,IAN's 起債ユーロボンド

(4) Dr. Cr.

ルーブル国債 Sタイプ口座

(非居住者投資家)

   (8)ルーブル/外貨建担保

  ルーブル建:GKO、OFZ、株式

  外貨建:MinFin、ADR、ロンドンクラブ

  (9)担保価格の下落マージン・マネーの追加・支払い

(6)欧米現法によるカストディーサービス・デポ

ジタリーサービスの提供

(7)

80

(5)NDF締結

1(オフバランス)

ロシアA銀行 ロシアB銀行

 株式(ルーブル及び外貨建て)

(非居住者投資家)

ルーブル国債 Min. Fin. Bond ロシア株式

ルーブル国債 外貨借入

2)ロシアの金融ピラミッド・スキーム

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図は 1998 年8月の金融危機発生直前までに構築された金融ピラミッド・スキームを簡単

に図式化したものである。以下、取引発生の順番にそのプロセスを説明する。

(1)1996 年よりロシアは財政赤字補填の為に短期国債の発行を開始した。プライマリー・デ

イーラー(銀行及び証券会社)経由、市場で投資家に販売される訳であるが、国内の資

本蓄積の未熟な当時のロシアで投資資金を保有しているのは、一部の大企業と商業銀行

程度であった。通常、保険会社等の機関投資家が有力な買い手であるがロシアにおいて

は未発達の状態である。そこで商業銀行は個人、企業から預かった資金の運用対象とし

て国債を購入、保有した。加えて一部の大企業や個人或いは非居住者投資家の買い注文

の仲介も行った。ここまでは極めて自然な行動である。

(2)その後、国債の発行増加が行われる一方、銀行の本来業務の一つである企業向け融資が

様々な理由で進展せぬ状況下、安全・確実・高利回りと言った相対的な投資優位性に着

眼し、ロシアの有力商業銀行は海外からの外貨建て調達(銀行間預金、シンジケート・

ローン、外債の発行等)にも依存した国債運用にのめり込んで行った。又、海外の投資

家もロシアの金融・為替の安定化に自信を深めつつ国債投資に参加した。徐々にロシア

金融市場への参入を果たしていた欧米系銀行の役割も大きかった。この段階でロシアの

投資家も非居住者投資家もルーブルの為替相場変動による為替リスクを潜在的に負う事

となった。

(3)以上のように、旧ソ連の対外債務問題で中断していたロシアの国際金融市場への再登場

或いは国際経済への統合過程の進展に伴い、調達・運用の両面でロシア金融市場の内外

とのリンクが強化されていった。上述のルーブル建て国債のみならず、国有企業の民営

化によるロシア企業の株式、これらの株式を見合いに発行される ADR(American

Depository Receipt)、旧ソ連外経銀行の凍結外貨預金を見合いに発行された国内外貨建て

債券(Min Fin.Bond),ロシア連邦ユーロ・ボンド、旧ソ連対外債務の一部であるロンド

ン・クラブ宛て債務が証券化された有価証券等が活発にロシア内外で流通・取引される

様になった。これに伴いカントリーリスク、デリバリーリスク、流動性リスク、価格変

動リスク、信用リスク等様々なリスクにさらされる事となった。

(4)海外から大量の資金がロシア国内に流入することは、ロシアの対外信用力の向上を意味

する一方、短期・投機的資金の予期せぬ流出のリスクも抱える事となった訳である。こ

の様な短期資本取引の危険性に留意し、当初ロシアの金融当局は非居住者による短期ル

ーブル建て国債の購入に対し、為替スワップ締結(スワップ後の外貨ベース利回りは同

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期間のユーロ・ボンドの利回り水準に保たれたが、その後徐々に緩和・撤廃している)、

S タイプ口座と称する特別な勘定の開設を義務付けた。通貨コリドール制度の下ではル

ーブルが一定の範囲でしか変動せぬ為、内外の魅力的な金利差が投機的資金の過度の流

入を煽る可能性があった為である。

(5)スワップ義務の撤廃は短期資本取引の自由化とも言えるが、非居住者投資家にとっては

よりハイ・リターンが狙える一方、為替コリドール制度の変動幅拡大の動きとあいまっ

て過度の為替リスクにさらされる事を意味する。ロシアの銀行も対外借入れに依存した

ルーブル建て国債運用には、一応ロシア中銀により定められた為替オープンポジション

規制の制約はあるとはいえ、同様のリスクを負っていた。そこで登場したのが

NDF(Non-deliverable Forwards)と呼ばれる一種の為替リスクヘッジの為のデリバティブ取

引である。為替管理規制や金融市場の特殊性により、通常の為替先物予約取引が困難な

イマージング市場で主として活用されている。結果論的ではあるが、金融危機後大量の

決裁不能が発生し、一部の裁判所で本取引は博打取引であり決済不要との判決が出たり、

海外の債権者が一部のロシアの銀行口座差し押さえに動く等、依然として混乱が続いて

いる。

(6)又、非居住者によるロシアの株式、公社債投資に伴い、現物の保管・管理の必要性が高

まった。残念ながら、ロシアには安心して保管・管理を任せ得る金融機関は極めて少な

く、かつ事務処理の正確さや迅速性が必要とすれば、皆無に等しい状態である。進出し

て来た欧米一流銀行のロシア現地法人は以上の条件を満たし得る格好の金融機関となっ

た。近代的なカストデイー・サービスやデポジトリー・サービスが導入された。このサ

ービスはロシアの銀行・企業にも極めて便利なものであった。体制移行国のロシアリス

ク(カントリー、信用リスク等)を海外の投資家が的確に判断する事は容易ではない。

しかしロシアの国際金融市場への再登場に伴い、欧米の格付け機関もロシアに進出しよ

うとする投資家のニーズに応えたのである。

(7)様々な金融手段・技術・インフラが整備された事から、上述の金融商品を担保とした資

金の調達(例えばレポ取引)も可能となった。つまり商業銀行或いは企業が運用目的で

購入・保有していた国債、債券、株式を担保に提供する事で、効率的に新たな資金の調

達が可能になった訳である。ここで金融商品の大きな価格変動リスクや、事務リスクに

される可能性も高まって行った。

(8)さて、銀行が上述の如く担保提供により新規に資金を調達したとしよう。銀行の信用仲

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介が正常に機能し、かつこれを支える法制・税制インフラが整備されていて、調達資金

が運転資金、貿易金融等の形で実体経済に振り向けられれば問題はない。もしこのよう

な環境にないとすれば、銀行は別な運用を探す必要がある。ロシアの金融危機前は残念

ながらこの様な資金の多くが再度国債の運用に向けられた。政治・経済情勢や金利動向

により国債の価格・利回りは市場で決まるが、金利水準が一定であれば国債の担保価値

は徐々に逓減しつつ図のピラミッドの様に資金の調達・運用を繰り返す事が出来る。但

し、債券価格つまり担保価値は市場動向により変化する事から、取引の相手方の信用力

にもよるが、通常は価値の突然の減少リスクに備えマージン・マネーと称する保証金を

差し入れる必要がある。

(9)さて、以上のようなピラミッドが構築されていた金融危機の前に何が起こっていたであ

ろうか。イ)1997 年夏頃から発生したアジアの金融危機の影響で外国投資家のエマージ

ング市場への警戒感が高まり、徐々に資金の回収に動いていた。ロ)ロシアの財政赤字

は増加傾向を続けていた。ハ)ロシアの主要輸出品の国際市況が悪化し、貿易・経常収

支の赤字が懸念された。ニ)ロシアの政治情勢も昏迷を深めていた。この様な状況下、

外国投資家は総じてルーブル相場の切り下げ懸念を含めカントリーリスクの高まりから、

新規融資の停止、既存投資の売却・回収に動いた。ロシア政府は外資の急激な流出に対

処すべく、矢継ぎ早に金利の引き上げを行った。この結果、商業銀行の運用資産である

国債の価格は急低下、差し入れ担保の価値も低下した為に追加担保を差し入れるか返済

を迫られる事となった。つまりピラミッド左辺のバランスが急激かつ大幅に変動した。

又、銀行のバランスシート上でも、資産サイドの国債運用と負債サイドの海外借入れ間

のバランスが大きく崩れる事となった。更に、借入れ更新の道を絶たれた銀行は新たな

調達先を発掘するか、或いは国債を市場で売却して穴埋めをせざるを得ない。しかし、

ここには価格変動、流動性と言った市場リスクが待ち構えている。

(10)以上の様な経緯で一つの企業・銀行が破綻すると、バランスシートの関連から必然的に

他の企業・銀行に波及し連鎖倒産を引き起こすシステム全体の危機となった。1998 年の

金融危機時に発動された、ルーブルの切り下げ、民間対外債務のモラトリアム宣言、ル

ーブル国債の強制繰り延べ措置は、全て以上の状況を雄弁に物語っている。引き続き発

生した対外債務の繰り延べ問題、NDF の決裁問題、銀行セクターの再生問題は未だに抜

本的な解決がなされず残されている。

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3)NDF 問題 (オフ・バランス取引)

NDF とは Non-deliverable Forward の略称であり、オフ・バランスで締結される一種の為替

先物取引である。ルーブル建て短期国債への内外からの投資に対する為替リスクのヘッヂ

手段として活発に利用され、1998 年に破綻した金融ピラミッドの構築にも一役買った。危

機後に多額の契約不履行が発生したため、多くの破産・破綻銀行も関係している。総債務

額は約 80 億ドル程度と推定されているが、依然として全貌は把握されておらず、2001 年に

入り、ようやくロシア中銀が、ロシアの商業銀行に対し 1998 年8月 17 日以前に締結した

NDF 契約のうち、未決済になっている残高を報告するよう求めている。この NDF 取引は、

一部の下級裁判所の判決で博打取引の一種と見なされ、支払義務が否認されており、ロシ

ア中銀はこの取引の合法性を確認すべく最高裁判所に提訴の予定と伝えられる。これは一

種の法務リスク(legal risk)である。因みに NDF の決済問題に関し、フランスの Credit Agricole

Indosuez とロシアの National Reserve Bank が資産の差し押さえも含め国際的な法廷闘争に発

展しているが、成り行き次第では National Reserve Bank が同種取引を行ったカウンター・パ

ートたる他のロシアの商業銀行向け債権の回収に動く可能性がある。裁判判定の結果次第

では 80 億ドル超の債務がロシアの金融市場に加わることとなり、新たな銀行システム危機

を引き起こし、1割程度の銀行の倒産が発生する可能性もあると報じられている。但し、

ロシア外国貿易銀行の如く対外的な債務の必要性を認め、全額対外決済を実行している銀

行の場合、ロシア国内での合法性が認知された際には、他のロシア商銀から債権の回収が

可能となる。

現状、個別銀行の未決済 NDF 残高は明らかではないが、各種報道を取りまとめると以下

の通りである。

Uneximbank(US$ 1.7 BIL), Chase Manhattan International (US$ 633.8 MIO), CS First

Boston (US$ 284.2 MIO), Avtobank (US$ 239.3 MIO), Alfa Bank (US$ 34.5 MIO),

INKOMBANK(相当多額), MFK, Alba Alliance, VIZAVI.

4)S タイプ口座

創設当初は、非居住者が所定のルーブル建て証券を購入するために導入された。1998 年

の金融危機後に残高が凍結される一方、様々な規制が導入された。1999 年に所定のロシア

国内プロジェクトへの投資が許可されることとなったが、2000 年 10 月3日付けロシア中銀

通達によりその手続きが示され、同年 12 月 28 日付け通達で以下の通り整理されている。

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●非居住者は指定金融機関(現在 34 行)でのみ口座開設が可能

●非居住者はロシア国内に支店あるいは駐在員事務所を保有していない場合でも開設可能

●以下の3タイプがある

(a) Conversion タイプ(ルーブル対価での外貨売買用)

(b) Investment タイプ(証券及び金融機関宛て資本投下取引)

(c) Project タイプ(1999 年 11 月 20 日付け政府令に記載されている国内プロジェクト

投資:但しロシア中銀の許可が必要)

●前者2口座は各指定銀行にそれぞれ1口座のみ開設可能であるが、“プロジェクト”タ

イプは口座開設数に制限はない。

1998 年の金融危機後に S タイプ口座に凍結されている残高は現在約 100 億ルーブルと推

定されるがこれまでに以下の規制緩和が行われた。

●1999 年にセカンダリー市場でのルーブル国債取引が再開された際、特別な国債を購入・

売却する形で得られたルーブル資金を、外貨オークションを通じ外貨で購入し国外送金

する事が認められた。

●或いは上述の Project タイプ勘定に振り替え、1年経過後国外送金が許された。

●2001 年3月、ロシア中銀理事会は、勘定残高の活用手続きの規則の緩和を決定した。具

体的には、同口座に入金される公社債の利払い金及び株式配当金の国外送金を認めるも

の。これにより 2001 年には約$200 万が自由に送金可能となる。

又、非居住者間の残高振り替えも認められた事から、ポートフォリオ投資家経由新たな

ロシアの国債投資、或るいは企業投資に関心を有する外国投資家に対し、割安なルーブル

資金の提供出来る可能性が生まれた。ロシア中銀によればこれらの措置による 2001 年の国

外送金は約 10 億ドルと推定される。

更に、20 億ルーブルを上限に、ロシアへの直接投資の原資としての活用の道も開かれた。

具体的には経済発展貿易省が承認した指定プロジェクトへの融資、或いはロシア企業の定

款資本投資が利用可能となり、最低3年間経過後には国外への送金は自由となる。必要に

応じ 2002 年には上限見直しの可能性もある。以上により国債投資家の名義が相当変わると

推測されるが、非居住者投資家の当該市場でのシェアは 20%程度に留まると予測される。

ロシア財務省及び Alfa bank の推定によると S タイプ勘定の規模は以下の通りである。

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<1999 年上半期の残高>

Conversion A/C:3,024 百万ルーブル、Investment A/C:8,083.7 百万ルーブル、

Frozen Transit A/C:4,726.5 百万ルーブル

Nov.2000 現在の時価総額:700~800 億ルーブル(約 25~30 億ドル)

(S a/c 残高プラス対象ロシア国債の市場価格合計)

リスク国債の償還は 2001 年末にピークを迎えるが、2001 年の非居住者受け取り利息約

100 億ルーブルに加え、国債の市場価格の上昇により非居住者の保有時価総額は更に 150~

180 億ルーブル増加の可能性がある。

ロシアの場合、短期ルーブル国債の売買に関連した短期資本取引の自由化が時期尚早であ

ったと思われる。自由化に伴うメリットとデメリットとを良く検討し、国情を踏まえた自

由化策が必要であるが、外的要因により急激に変化し得る”市場”との対話も重要である。

6.銀行のリスク管理

1)リスクの考え方

(1) 銀行経営環境

グローバルな活動及び複雑な金融技術が最近の銀行業の特徴である。これらの要因によ

り複雑なリスクの側面が登場している。規制緩和の動きも又、銀行の新たなビジネスへの

参入を可能にしている。例えば、最近まで日本及び米国には銀行業と証券業を遮断する規

制があったが、その緩和と共に2つの金融機関間の競争は促進されている。マクロ経済要

因もまた影響を与える。経済が急速に拡大している間、リスクは比較的少ないが、そうで

ない場合には業務推進の為には複雑なリスク評価能力が必要とされる。要すればグローバ

ル化、規制緩和、変化する経済環境、発達する金融技術により銀行を取り巻く環境には様々

なリスクが増大している。つまり昨今の銀行業は資金の仲介者からリスクの仲介者へと変

化した。

(2)リスク管理の失敗

最近のショッキングな失敗例として、Baring Bros.と大和銀行のケースが挙げられる。

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Barings は一人のトレーダーによる虚偽の株価指数先物取引により 900 万ポンドの損失を

被り、大和銀行のケースでは一人の債券トレーダーにより 10 億米ドルの損失を出した。こ

れらから分かるように、たった一人の行員により、いとも簡単に企業の失敗の引き金が引

かれ得る。しかしながら、債券トレードや先物契約は完全に合法的であり、事実利益をあ

げる為にはリスクを採る必要がある。従って、ここで最も重要な事は、リスクをいかに回

避するかではなく、むしろいかにリスクを管理するかである。

(3)会計と規則

銀行監督のスタンスは、銀行業界の保護から、より市場指向政策に変化してきている。

自己責任が強調され、それぞれが内部のリスク管理プロセスの強化を求められている。リ

スクそのものと言うより、このプロセスが検査の対象となっている。更に、より高度の透

明性が株主、格付機関、及び投資家から求められている。トレード業務に対する

Market-to-Market 会計も一般化している。

(4)リスクのカテゴリー

イ) 市場リスク:金融手段のポートフォリオの価値が変化する事から発生するリスクで、

対象は商品から外国為替契約に及ぶ。

ロ) 信用リスク:債務者の契約条件不履行により発生するリスクで、商業銀行にとっては

最も本源的なリスクである。

ハ) 流動性リスク:期限の到来時に当該債務の支払いが不能となるリスク。

ニ) 決済リスク:取引の相手側が、その支払い義務を履行できない事によるリスク。

ホ) オペレーションリスク:職員の詐欺行為、及びシステムの欠陥と言った内部管理の欠

如により損失を被るリスク。

ヘ) 法務リスク:不完全な法的書類、或いは第三者からの提訴により被る損失リスク。

2)主要なリスクの管理方法

(1)市場リスク

リスクを極小化する基本的なポイントは、イ)リスク取り上げ方針、ロ)組織、ハ)取引権

限・ポジション限度、ニ)報告、ホ)人事管理と言った内部管理体制を構築することである。

即ち、銀行の上席管理者は、リスクとリターンのバランスをはっきりと決定し、フロン

ト オフィスとバック オフィス間の然るべきチェック体制を導入する必要がある。権限と

ポジション限度は文書で明確にすべきである。ビジネスの性格上、損失は短期間に大きく

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なる事から、報告は出来るだけ頻繁に行うべきである。又、リスク管理の出来る有能なオ

フィサーを育成する事は極めて重要である。

(2)信用リスク

このリスクは商業銀行業務にとって最も本源的なリスクである。与信方針をまず明確に

し、組織的には業務推進部門と審査部門を分離すべきである。また誰に承認権限があるか

明確にする必要がある。信用評価制度は一つの基準で、信用リスクを管理する上で理想的

である。最近では融資全体から生ずる予想損失を評価し、リスクとリターンの観点からよ

り良い貸し出し資産構成を作るポートフォリオ管理が重要視されている。当然ながら、債

務者の返済能力の首尾一貫した厳格な判断は商業銀行業務の基本的事項である。

(3)流動性リスク

市場からの資金調達が困難となる“Funding Risk”と、市場流動性が低く、ポジションを

占める為に追加のコスト支払いが必要となるような“Market Liquidity Risk”の二種類のリス

クがある。後者はポジション限度を設けたりすることで管理可能であるが、前者はそれ程

容易なことではない。

(4)決済リスク

取引相手の不払いと定義され、基本的には信用リスクである。しかし、同時に流動性リ

スク或いはシステムリスクにも類似している。これは決済リスクが、市場の流動性に限り

がある場合取引相手の信頼度に関わりなく発生する為である。このリスクを回避する為に、

即時グロス決済制度(Real Time Gross Settlement System)や国際的なネッティングシステム

(International Netting System )のような制度が構築されている。

(5)オペレーションリスク

巨大な損失の大部分は、従業員の詐欺的行動を伴ってきた事は経験が示す通りである。

組織、権限、事務フローは銀行内で何が起こっているかを知り、このような事故を防止

する上で明確でなければならない。更に内部の監査、検査機能は強化する必要がある。

(6)法務リスク

以下のように様々な側面がある。イ)提訴:日々の問題や株主による訴え、ロ)法令遵

守:それぞれの国における活動の合法性チェック、ハ)書類作成:法的書類の有効性チェ

ック、ニ)戦略的分野:新種ビジネスやパテント等

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3)信用リスク管理

金融機関の信用供与が、受信者の業況悪化などの理由から、債務不履行となる危険をい

う。このリスクは金融機関の本源的なものであり、永年にわたり管理手法について経験・

研究を行っているが、銀行業務の多様化・高度化・国際化に伴い更なる高度化が求められ

る。管理手法には以下の2つの種類がある。

(1)個々の与信に関するリスク管理:個別案件毎の審査・管理や担保の徴求等による保

全措置により、融資一件一件への対応が中心

(2)ポートフォリオとしてのリスク管理:銀行全体として与信集中を回避し、危険の分

散を図り、リスクとリターンを定量的に把握した上で与信ポートフォリオ全体を管理

(1)個々の与信に関する信用リスク管理

通常以下の5つのプロセスに加えコンピュータによるシステムサポートが必要である。

イ)与信政策(Credit Policy )

ロ)与信審査・承認(Credit Approval)

ハ)与信事後管理(Credit Monitoring)

ニ)与信監査(Credit Examination )

ホ)問題与信管理(Problem Credit Administration )

イ)の与信政策とは、貸し出しを始めとする与信運営に関する銀行の基本的な方針を示すも

ので、具体的には、(a)与信判断基準、(b)決裁権限と与信管理基準、(c)与信格付制度等である。

ロ)は、取引先の実態把握を行い、個々の融資案件の妥当性を判断したり、キャッシュ

フロー分析を行う事である。

ハ)のポイントは、(a)取引先の業況の定期的チェック、(b)貸出金の資金使途のフォロー、

(c)取引先の属する企業グループの総合的管理である。具体的には、決算期毎の財務分析、

財務内容の変化や大口融資規制の全行的なチェックを行う事である。

ニ)のポイントは、通常の業務・審査ラインとは独立した部署を設け、第三者の立場か

ら信用リスクの管理状況の監査を行う事である。

ホ)で重要な事は、業況悪化先を、例えば、本部で一元的に所管し、万一事故等が発生し

た場合も、管理・回収の専門知識を有する本部が指導する等、重点的管理を行う事である。

なお個別与信審査のポイントを更に整理すると以下の通りである。

A.取引先審査:(a)定量分析、(b)定性分析

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B.案件審査 :(a)資金使途の確認、(b)返済原資の確認

C.キャッシュフロー分析

(2)ポートフォリオとしての信用リスク管理

ポートフォリオとしての信用リスク管理は、リスクの多様化・複雑化でますます高度化

が必要となっているが、具体策としては、(a)与信格付制度、(b)信用リスクの計量化が行わ

れている。与信格付制度とは、債務者、並びに取引案件の信用リスクを統一的な尺度で評

価し、信用度に応じ記号化表示する制度で、これによりリスクの計量化を図り、管理・運

営の高度化を図るものである。この内債務者格付の基本的な考え方は、債務負担の大きさ

と、それを支える償還原資の大きさと安定性を評価する事である。償還原資では、営業キ

ャッシュフローによる将来の大きさと安定性を、資産価値・外部流動性により補完的な償

還力を見る。

一般事業法人の債務者格付における評価項目を整理すると、以下の通りである。

イ) 営業キャッシュフローにおける評価

A.定量要因(経営指標)

(a)債務償還能力:債務償還年数、インタレストカバレッジレシオ等

(b)財務状況:安全性(自己資本比率等)、収益性(売上高・総資産経常利益率等)、

成長性(経常利益増加率等)、企業規模(自己資本等)

B.定性要因(経営実態)

(a)経営環境:需要動向、競業状況

(b)企業特性:業歴、経営者、株主、営業基盤、競争力等

C.将来のキャッシュフロー評価

ロ) 補完的な債務償還原資の評価

A.資産価値:処分可能な保有資産の価値

B.外部流動性:親会社による支援、優良な主力銀行からの支援等

ハ) 債務の実態評価

子会社・関連会社の不良資産や訴訟リスク等を評価し、実態債務を把握する

以上による評価を、外部の格付や企業評価等を参考に客観的に検証した上で最終的な決

定をする必要がある。なお案件の格付は、債務者格付に加え担保・保証、与信期間、債券

保全上の問題、トランスファーリスクを評価の上決定する。

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以上の様に決定された格付は、最低年一回(原則的には毎期決算日より6カ月以内)定

期的に見直しが必要であり、債務者の信用に変化がある場合には、その都度見直しが必要

である。

4)ALM 管理(Asset and Liability Management)

簡単に言えば、(1)経済、或いは金融環境の将来を予測し、(2)必要な流動性を維持

し、(3)信用或いは市場リスク等を回避し、(4)最終的に収益の安定化や極大化を達成

する為に、資産と負債の最適な構成・内容を管理する事である。この為には、イ)金利の自

由化、ロ)安定的な中・長期金利制度、ハ)資金・証券の自由な二次市場の構築、ニ)金利

の変動を利益獲得の好機と捉え得る経営者の態度等が必要不可欠な環境・条件である。

周知の通り銀行業には様々のリスクが付随するが、例えば、信用リスクに関して言えば

信用供与の集中回避、監査・検査体制の構築と共にリスクに見合った収益性検討の観点も

重要である。更に先物為替予約、金利スワップ、オークション等のオフ・バランス取引も

市場リスクに関連し市場動向の変化に留意しつつ管理を要する項目である。市場リスクと

は、外国為替、資金、債券、株式取引に伴うリスクであるが、具体的には資金市場からの

調達リスク、金利の変動に伴うリスク、為替相場の変動リスク等である。因みに金利は次

のような理由で変動する。即ち、経済成長、インフレ率、顧客の資金需要、為替相場、中

央銀行の金融政策である。

以下は、銀行業務の単純かつ基本的な貸し付けと預金を使った例である。

(ケース-1)

資産 負債 預金 100 平均コスト 3%p.a. 1.貸し付け 100

1年後期日一括払い 金利:5%p.a.

2-1 当座 20 0%p.a.

2-2 3 カ月 30 3%p.a.

2-3 6 カ月30 4%p.a.

2-4 1 年 20 4.5%p.a.

ネットマージン 2%p.a.

(a)信用リスク:1の貸し付け金 100 が期日に返済不能となる可能性

(b)資金調達リスク:2-1 の当座預金残高が全て引き出される可能性

2-2~3 の定期預金が期日に更新書き換えされない可能性

(c)金利変動リスク:2-2~3 の定期預金の金利が当初の金利と異なる可能性

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資産と負債の間の構造に差異(投資期間と資金調達期間の違い)がある為に、銀行は資

金調達リスク(資金調達の失敗による倒産)と金利変動リスク(損失或いは赤字による倒

産)の両方を負っている。