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ISFJ2015 最終論文 1 ISFJ2015 政策フォーラム発表論文 労働時間が出生率に与える影響 1 南山大学 水落研究会 社会保障②分科会 守部晴香 筒井亮太 平野慶 水野七帆 2015 11 1 本稿は、2015 年 12 月 5 日、12 月 6 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォ ーラム 2015」のために作成したものである。本稿の作成にあたっては、水落准教授(南山 大学)をはじめ、多くの方々から有益且つ熱心なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の 意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく 筆者たち個人に帰するものである。

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ISFJ2015 最終論文

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ISFJ2015 政策フォーラム発表論文

労働時間が出生率に与える影響1

南山大学 水落研究会 社会保障②分科会

守部晴香

筒井亮太

平野慶

水野七帆

2015年 11月

1 本稿は、2015年 12月 5日、12月 6日に開催される、ISFJ日本政策学生会議「政策フォ

ーラム 2015」のために作成したものである。本稿の作成にあたっては、水落准教授(南山

大学)をはじめ、多くの方々から有益且つ熱心なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の

意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく

筆者たち個人に帰するものである。

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要約

1989 年に合計特殊出生率が 1.57 と発表された、いわゆる「1.57 ショック」以来、日本

では少子高齢化という問題を抱えている。出生率低下により若者の人口が減少すると、生

産年齢人口減少による日本の経済規模の縮小や、人口構造の変化による現役世代・将来世

代の社会保障の負担が増加すること、過疎化が進行することが問題点として挙げられる。

日本は、先進諸国と比較して労働時間が長く、女性の就業率が 30 代以降に低くなる。

そこで本稿では、女性の就業率と 25-34 歳の男女の超過実労働時間に焦点をあて、「超過

実労働時間が長く、女性の就業率が低いと合計特殊出生率を低下させる」という仮説を立

てた。分析手法は、2002-2012 年の都道府県データを使用した重回帰分析によるもので、

説明変数として男女別の超過実労働時間、女性の就業率、女性の初婚年齢、女性の大学・

短大進学率を使用した。分析結果は、25-29 歳の男女の超過実労働時間、30-34 歳の男女

の超過実労働時間に負の相関があった。また、30-34 歳の女性の就業率と出生率には正の

相関が、女性の初婚年齢、女性の大学・短大等進学率には出生率と負の相関があった。

以上のことから、本稿で提言する政策は、①就業スタイルの自由選択制②労働時間の短

縮③待機児童問題解消に伴う保育士の労働環境の改善とベビーシッター制の導入の 3 点で

ある。①就業スタイルの自由選択制は、 出産、育児を控えた労働者に対して企業が就業ス

タイルの自由を認めるというものである。これは個人の状況に合わせて労働時間、労働日

数を決めることができるものであり、特に女性の継続雇用による家計の安定化を図り、若

者の経済的不安による産み控えを緩和させることを目的とする。②労働時間の短縮は、企

業が行う取り組みを政府や自治体が公表することで、労働時間が短縮できるというもので

ある。本稿では、北九州市ワーク・ライフ・バランス推進協議会での取り組みを例として

挙げた。③待機児童問題解消と保育士の労働環境の改善は、量的にも質的にも保育サービ

スを充足させ、待機児童の解消とそれに伴う保育士確保のために保育士の労働待遇の改善

とベビーシッター利用を推進するという制度である。

以上 3 つの政策を併用することによって、男女の超過実労働時間を短縮し、女性の就業

率を上昇させる効果が期待できる。つまり、それぞれの政策が補完的に行われることで効

果を発揮する。

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目次

はじめに

第1章 問題意識

第2章 現状分析

第 1節(1.1) 日本における出生率の推移

第 2節(1.2) 予定子供数と現存子供数のギャップとその要因

第 3節(1.3) 出生率低下の要因

第 1項 女性の就業率

第 2項 女性の大学・短大進学率

第 3節 女性の初婚年齢

第 3項 超過実労働時間

第3章 先行研究及び本稿の位置づけ

第 1節(1.1) 先行研究

第 2節(1.2) 本稿の位置づけ

第4章 出生率低下の実証分析

第 1節(1.1) 仮説

第 2節(1.2) 分析枠組み

第 3節(1.3) 分析結果

第 1項 基本統計量と相関行列

第 2項 分析結果と解釈

第5章 政策提言

第 1節(1.1) 政策提言の方向性

第 2節(1.2) 出生率回復の政策

第 1項 就業スタイルの自由選択制

第 2項 労働時間の規制

第 3項 保育サービスの充足

おわりに

先行論文・参考文献・データ出典

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はじめに

1989 年に合計特殊出生率が 1.57 と発表された、いわゆる「1.57 ショック」以来、日本

では少子高齢化という問題を抱えている。出生率低下により若者の人口が減少すると、生

産年齢人口減少による日本の経済規模の縮小や、人口構造の変化による現役世代・将来世

代の社会保障の負担が増加すること、過疎化が進行することなどが問題点として挙げられ

る。

しかし、少子化に対する政府の取り組みを振り返ると、少子化に対して国が楽観的な見

方を取っていたように思える。「少子化の要因と少子化社会に関する研究会」(財務省

(2005))では、政府は、平成元年の出生率に関する 1.57 ショックをきっかけとして、いわ

ゆる少子化対策を実施した、とある。このことから、日本政府は 1989 年まで出生率を引

き上げる政策に着目していなかったといえる。また、日本政府による人口政策に関するア

ンケート調査に対する回答によると、公式には出生率の引き上げ意図は否定している。こ

れは、子供を産む・産まないという選択は、結婚した夫婦が決定するものであり、国が関

与することではないという考え方に基づいている。

しかし、出生数の低下に歯止めがかからない現状を受けて、政府に対する本格的な政策

介入への要望が高まってきた。日本政府はこれまでに、エンゼルプランや新エンゼルプラ

ン、次世代育成支援対策推進法、少子化社会対策基本法、少子化社会対策大綱及び子ども・

子育て応援プランなどの政策を打ち出してきた。しかし、これらの政策は、2014 年におけ

る日本の合計特殊出生率が 1.43 であり、人口を維持するために必要な出生率の水準である

人口置換水準が 2.07 に届いていない現状を鑑みると、出生率引き上げに成功したとは言い

難い。

本稿では、出生率が低下する要因として、長時間にわたる労働時間と女性の就業率の低

さの 2 つの要因を挙げる。日本は、先進諸国の中でも労働時間が長く、育児に割り当てる

時間が他の先進諸国よりも短い。また、保育サービスが充実しておらず、女性の継続雇用

が困難になっている。

労働は、人のライフスタイルと密接な関係を持つものであるため、超過実労働時間と女

性の就業率に着目して分析・検証を行うことによって、出生率が上昇する政策を提言する

ことが本稿の狙いである。

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第1章 問題意識

この章では、少子化が進行するとどのような影響が生じるかについて、日本全体のマク

ロ的問題からと、個人レベルのミクロ的問題からの二つに分類して問題点を挙げていく。

まず初めに、日本全体での少子化による影響について述べていく。日本全体に与える少

子化の影響としては、労働力人口の減少による、経済規模の縮小と社会保障負担の増大の

2 つの問題が挙げられる。

まず初めに、日本全体での少子化による影響として、少子化の弊害である人口構造の変

化による労働力人口の減少について述べていく。図 1 は、1920 年から 2060 年までの 140

年間の日本における人口構造の変化について表している。この図からは、2010 年以降の日

本では単なる人口減少ばかりでなく、0~14 歳人口と 15~64 歳人口、つまり、子どもや

若者・中高年層が減少し続ける将来予測がされている。

図 1

「日本の人口構造の推移と見直し」(内閣府「将来の日本の人口構造」より転載)

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年齢3区分別の人口規模及び全体に占める割合の推移について、中位推計結果をみると、

年少人口(0~14 歳)では、2010 年の 1,684 万人から、2015 年に 1,500 万人台へと減少し、

2046 年に 1,000 万人を割って、2060 年には 791 万人の規模になる。総人口に占める割合

は、2010 年の 13.1%から低下を続け、2025 年に 11.0%となり、2060 年には 9.1%となる

見込みである。

次に、生産年齢人口(15~64 歳)については、2010 年の 8,173 万人から減少し続け、

2060 年には 4,418 万人となる。総人口に占める割合は、2010 年の 63.8%から低下し続け、

2017 年には 60%を下回り、2060 年には 50.9%となる。

また、高齢者人口(65 歳以上)については、2010 年の 2,948 万人から、団塊世代が参

入を始める 2012 年に 3,000 万人を上回り、緩やかな増加を続けて、第2次ベビーブーム

世代が高齢者人口に入った 2042年に 3,878万人でピークを迎える。その後は減少に転じ、

2060 年には 3,464 万人となる。総人口に占める割合は、2010 年の 23.0%から上昇を続け

て、2060 年には 39.9%に達する。高齢者人口自体は 2042 年をピークに減少し始めるが、

年少人口と生産年齢人口の減少が続くため、高齢者人口割合は相対的に上昇し続けること

となる。

以上より、推計通りに少子高齢化が進行すると仮定すると、2060 年には高齢者人口が生

産年齢人口の約 4 倍になることが予想される。つまり、少子化が進行し続けると、高齢者

人口が増加するに伴い、生産年齢人口が減少し続けるため、労働力人口が減少してしまう。

次に、労働者人口減少に伴う問題点として挙げられる影響を 2 点述べていく。

1 つ目の影響としては、経済規模の縮小が挙げられる。前述のように生産年齢人口が減

少するということは、市場における消費者が減少することでもある。消費者が減少するこ

とによって国全体の消費も減少するため、経済自体も縮小すると考えられる。

2 つ目の影響としては、社会保障負担の増大が挙げられる。平成 12 年 10 月の厚生労働

省推計によると、社会保障給付費は 2005 年に 100 兆円、2010 年には 127 兆円と税収入

の約 4 倍、2025 年には 207 兆円になるとされている。実際、国民負担率2は 1975 年の 7.5%

から 2002 年には 15.5%と大幅に増加している。世帯主の年齢階級別所得再分配状況によ

れば、60 歳以上か未満かによって、当初所得と再分配所得の額が逆転して税金がもらえな

いということになりかねない。このように、高齢者人口の増加は生産年齢にあたる人々の

社会保障負担を増大させる。

2 税負担と社会保険料負担の合計が国民所得に占める割合

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次に、少子化が個人のレベルに与える影響について述べていく。本稿では、以下の 4 つ

について述べていく。

1 つ目の影響としては、子供の社会性が育まれにくくなるということである。少子化に

よる子供の数の減少による子ども同士の交流機会の減少や過保護化などにより、子どもの

社会性が育まれにくくなるといった子ども自身の健やかな成長への影響が懸念されている。

2 つ目の影響としては、地域のコミュニティ機能が弱体化することが挙げられる。少子

化と高齢化の進行により、地域の防犯や消防などの自主的な住民活動をはじめとする地域

のコミュニティ機能が弱体化すると考えられる。このことにより、人々の地域に対する意

識が希薄化し、地域活動が弱体化することが考えられる。この状態が更に進行すると、人々

は地域の人々や、近所の人々とのコミュニケーションをとらないようになり、一人暮らし

の高齢者の孤独死などが増加すると考えられる。

3 つ目の影響としては、個人レベルでの生活水準の維持が困難になるという点である。

少子化により、現役世代への税金や社会保険料等の負担が増大し、手取り所得が減少する

こととなり、生活水準の維持が困難になることが懸念される。

4 つ目の影響としては、過疎化の進行が挙げられる。先に挙げた「日本の人口構造の推

移と見直し」(図 1)どおりに少子高齢化が進行すると、現行の地方行政の体制のままでは、

市町村によっては住民に対する基礎的なサービスの提供が困難になると懸念されている。

以上のように、少子化が進行し続けると様々な問題が起きると考えられている。本稿で

は、このような問題意識のもとで少子化の改善のための政策提言をしていく。

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第2章 現状分析

本章では、日本における出生率を取り巻く環境に関する現状について述べていく。まず

初めに、出生率の推移について、その後、予定子供数と現存子供数のギャップとその要因

について、そして本章の最終部分において出生率の低下が何によって影響されているのか

について述べていく。

第 1節 日本における出生率の推移

まず初めに、戦後から現在に至るまでのわが国の合計特殊出生率の推移について述べて

いく。そもそも合計特殊出生率の定義とは、「15~49 歳までの女性の年齢別出生数を合計

したもの」である。これを簡単に要約すると、一人の女性が一生に産む子供の平均数につ

いて示したと言われる指標である。日本における合計特殊出生率は、第二次ベビーブーム

以降、多少の増減はあるものの全体としてみると減少の一途をたどっている。

図 2 は戦後から現在までの日本における合計特殊出生率と出生数について表したグラフ

である。このグラフからも読み取れるように、戦後、わが国では 2 回のベビーブームを経

験している。ここで言うベビーブームとは、特定の地域で一時的に新生児誕生率が急上昇

する現象のことを指す。昭和 22~24 年の第一次ベビーブームの出生数は約 270 万人、出生

率にすると 4.32、昭和 46~49 年の第二次ベビーブームの際の出生数は約 200 万人、出生

率にすると 2.14 であった。その間、丙年と呼ばれる 1966 年は合計特殊出生率が 1.58 と

急激に下がった。第二次ベビーブーム以降合計特殊出生率は減少し続け、平成元年には丙

年の出生率である 1.58 を下回る 1.57 を記録した。このことを「1.57 ショック」と呼ぶ。

これ以降も日本における合計特殊出生率は減少し続け、平成 17 年には合計特殊出生率は

過去最低の 1.26 にまで落ち込んだ。その後、出生率は微増傾向で、2014 年には 1.42 にま

で回復したものの、依然としてわが国における出生率は人口置換水準3である 2.07 は下回

っており、日本の人口は減少し続けることが危惧されている。

3 人口を長期的に一定に保つために必要な出生水準

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図 2

「合計特殊出生率の推移」(厚生労働省 HP「2010 年人口動態特殊調査」より転載)

第2節 予定子供数と現存子供数のギャップとその要因

図 3 は、2010 年に行われた「第 14 回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研

究所)において、1977 年から 2010 年に至るまでの夫婦が考える平均理想子供数と平均予

定子供数、現存子供数についてまとめたグラフである。夫婦が考える「理想子供数」やそ

れぞれの夫婦の持つ事情を考慮したときの「予定子供数」と比較すると、「現存子供数」と

は 1 より大きい差がある。さらに、1977 年以降「現存子供数」は減少傾向にあるため、「理

想子供数」「予定子供数」との差は埋まらないままである。特に、「予定子供数」と「現存

子供数」は 2010 年には 1.25 以上も差があることが読み取れる。他方で、2002 年以降、「予

定子供数」は徐々に増加しており、夫婦の出生に対する意欲までもが損なわれていないこ

とが読み取れる。このことから、出産を望む人々に対して、理想を実現しうる様に、「現存

子供数」を「予定子供数」に近づけることが必要とされるであると考える。また、2010

年における「予定子供数」は 2.08 であり、人口置換水準である 2.07 を超えているため、

「予定子供数」を実現することによって、少子高齢化に歯止めをかけることができると考

えられる。

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図 3

「平均理想子ども数と平均予定子ども数の推移(結婚継続期間 0~4 年)」

(国立社会保障人口問題研究所 「第 14 回出生動向基本調査」より作成)

次に、この理想子供数、予定子供数、現存子供数の間にギャップが生じている理由につ

いて述べていく。この調査の対象は、予定子ども数が理想子ども数を下回る初婚同士の夫

婦、予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦であり、割合にすると全体の 32.7%を占め

る。

予定子ども数が理想子ども数を下回る理由として最も多いのは「子育てや教育にお金が

かかりすぎるから」である。特に、30 歳未満での若い世代ではこうした経済的理由を選

択する割合が高い。一方、30 歳代以上では、「欲しいけれどもできないから」などの年齢・

身体的理由の選択率が高い。

また、今後子どもを生む予定がある夫婦に、予定の子ども数を実現できないとしたとき

に考えられる理由についてたずねたところ、妻が 30 歳未満の若い層で 43.6%が「収入が

不安定なこと」を挙げている。また、妻が 35 歳以上の夫婦では 65.3%が「年齢や健康上

の理由で子どもができないこと」により予定の子ども数を持てない可能性があると考えて

いる。

2.42 2.49 2.51 2.4 2.33 2.31 2.3 2.3

2.08 2.22 2.28

2.14 2.11 1.99 2.05 2.08

0.93 0.79

0.94 0.79 0.74 0.76 0.81

0.72 0.5

1

1.5

2

2.5

3

1977 1982 1987 1992 1997 2002 2005 2010

理想子供数 予定子供数 現存子供数

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第3節 出生率低下の要因

本稿では、日本における出生率低下の要因として、男性と女性の超過実労働時間、女性

の就業率、女性の初婚年齢、女性の大学・短大進学率の 4 つを挙げる。

本節では、第 1 項で女性の就業率、第 2 節で女性の大学・短大進学率、第 3 節で女性の

初婚年齢、第 4 節で超過実労働時間についての日本の現状について述べていく。また、こ

れらの 4 つの要因と、出生率との関連性は第 4 章で詳しく述べていく。

第1項 女性の就業率

坂爪(2010)によると、1980 年以前の日本では、女性の就業率と合計特殊出生率には負の

相関があったが、1980 年以降女性の就業率と合計特殊出生率は正の相関へと変化したこと

が述べられている。つまり、出生率を上げるには女性の就業率を上げるべきであると指摘

されている。

ここで、男女別に表した労働力率についてのグラフについて考察してみる。図 4 は、男

女別の年齢階級別労働力率の就業形態別内訳について表している。これによると、女性の

労働力率は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇

するという,いわゆる M 字カーブを描いている。近年,徐々に M 字の谷の部分が浅くな

ってきているため、全体では女性の就業率は上昇傾向にあることが読み取れる。

しかし、女性の就業形態を見ると,男性に比べて若年層でも非正規雇用が多いことに加

え,多くの女性が結婚・出産期にさしかかる 25 歳以降で,正規雇用が減少して非正規雇

用が増加する傾向が見られる。これは高校、あるいは大学等を卒業した後、初めは正規雇

用として働き始めた女性も,結婚,出産等とライフイベントを重ねるにつれて,徐々に非

正規雇用,あるいは一時的な離職といった選択を行っているためであると考えられる。し

かし、前述の出生動向基本調査からも 20 代夫婦が予定子供数を産めない理由の大部分を

経済的理由が占めている。この M 字カーブから、結婚・出産を控える女性は正規雇用から

非正規雇用、あるいは離職をせざるを得ず、出産に備えた資金を十分に用意できないため

に出産が遅れ、女性の体力次第では出産をやめる可能性もあると考えられる。そのため、

結婚・出産を控えた 20 代から 30 代の女性が正規雇用の継続雇用を実現することで、更な

る出生率の引き上げに期待が出来る。

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図 4

「年齢階級別労働力率の就業形態別内訳」

(内閣府男女共同参画局 「男女共同参画社会の形成の状況」より転載)

次に、図 5 の女性の年齢階級別労働力率の雇用形態別内訳を世代別に見ると,正規雇用

については,各年齢階級において世代間で大きな差は見られず,おおむね,結婚・出産に

当たる年齢階級で離職した後,正規の職員・従業員としてはほとんど再就職しないという

傾向が読み取れる。一方,非正規雇用を見ると,M 字カーブの谷及び右側の山を含む各年

齢階級において, 1 つ前の世代よりも労働力率が高くなっている。このことより、近年の

全般的な労働力率の上昇及び M 字カーブの解消傾向には,非正規雇用者数の増加が影響し

ていると考えられる。

以上より、日本では近年になり M 字カーブの谷が緩やかになってきているが、実際はフ

ルタイムで働く正規雇用の人々ではなく、非正規雇用の人々によってその形が変化してき

たことが読み取れる。しかし、第二子以降を見据えた出産・育児に対する十分貯蓄を残す

ためにも、M 字カーブは正規雇用においても形が変化しなければならない。そのため、女

性が正規雇用として出産・育児の後でも働くことができる環境を整えていくことが望まれ

る。

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図 5

「女性の年齢階級別労働力率の世代による特徴」

(内閣府男女共同参画局 「男女共同参画社会の形成の状況」より転載)

第 2項 女性の大学・短大進学率

ここでは、女性の大学・短大進学率が合計特殊出生率に与える影響について述べていく。

図 6 は、戦後から現在に至るまでの男女別の大学・短期大学への進学率について表した

グラフである。また、図 7 は男女別の大学進学率、図 8 は男女別の短期大学進学率を表し

ている。これらのグラフより、戦後、女性の大学進学率は 10%を割っていたが、経済成長

に伴い、男性と共に大学進学率を伸ばしてきており、現在でも男性と比べると 4 年制大学

に通う女性は少ないが、短期大学と四年制大学をあわせた女性の進学率は 50%を超えてい

ることが読み取れる。特に、女性は男性に比べて大学ではなく短期大学に通う人が多く、

それによって高卒人口が減ってきているともいえる。そして、この女性の大学・短期大学

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ISFJ2015 最終論文

14

進学率の増加に伴い、女性の初婚年齢は、この 30 年間で約 4 歳上昇している。これは、

大学に通っていた 4 年分、初婚年齢も上昇したと考えられる。この部分については次項に

て詳しく論じていく。

図 6

「大学・短期大学への進学率」 (文部科学省 「2015 年学校基本調査」より作成)

図 7

「大学への進学率」(文部科学省 「2015 年学校基本調査」より作成)

0

10

20

30

40

50

60

70

昭和

29

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41

45

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57

61

平成

2

6

10

14

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22

26

男性

女性

0

10

20

30

40

50

60

昭和

29

33

37

41

45

49

53

57

61

平成

2

6

10

14

18

22

26

男性

女性

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15

図 8

「短期大学への進学率」(文部科学省 「2015 年学校基本調査」より作成)

第3項 女性の初婚年齢

図 9 は、戦後から現在に至るまでの男女別の平均初婚年齢について表したグラフである。

このグラフからも読み取れるように、戦後から現在に至るまで、日本では初婚年齢が男女

ともに上昇し続けており、平成 23 年時点では、男性では 30.7 歳、女性では 29 歳が平均

初婚年齢となっている。また、図 10 は、第 1 子、第 2 子、第 3 子を出産する母の平均年

齢について示したグラフである。このグラフより、昭和 60 年から現在までの約 35 年間で

第 1 子、第 2 子、第 3 子を産む母の年齢は約 4 歳上昇しており、平成 17 年以降、第 2 子

を産む母の平均年齢は 31 歳を超えている。この第 1 子、第 2 子、第 3 子を出産する母の

平均年齢が 35 年間で約 4 歳上昇した背景には、前項にて述べた女性の大学進学率の上昇

が関わっていると考える。

また、図 11・12 は女性と男性の年齢階級別婚姻件数について表したグラフである。年

齢階級別の婚姻件数を見ると、結婚したカップルのうち、半数は 30 歳以上の婚姻である

ことがわかる。大淵・岡田(1996)によると、生物学的知見からは、妊娠確率は 20 代前

半で最盛期を迎え、20 代後半より次第に低下し、35 歳時点で最盛期の 75%程度に低下す

ると言われている。先に述べた年齢階級別の婚姻件数のデータから、約半数の夫婦は、婚

姻時から出産の生物学的制約が大きい状態にあるといえる。

0

5

10

15

20

25

30

昭和

29

33

37

41

45

49

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平成

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6

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22

26

男性

女性

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図 9

「平均初婚年齢」 (厚生労働省 「平成 23 年人口動態調査」より作成)

図 10

「母の出産時平均年齢」

(厚生労働省 「2010 年人口動態特殊調査『出生に関する統計』」より作成)

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

昭和

29

32

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41

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53

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62

平成

2

5

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17

20

23

男性

女性

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

第1子

第2子

第3子

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図 11

「年齢階級別婚姻件数(女性)」

(国立社会保障・人口問題研究所 「2012 年版人口統計資料」より作成)

図 12

「年齢階級別婚姻件数(男性)」

(国立社会保障・人口問題研究所 「2012 年版人口統計資料」より作成)

20~24

20%

25~29

44%

30~34

23%

35~3

9歳

9%

その他

4%

20~2

4歳

14%

25~29

39%

30~34

27%

35~

39歳

13%

その他

7%

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第4項 超過実労働時間

出生率低下の規定要因として超過実労働時間も挙げられる。ここで言う超過実労働時間

とは、企業によってあらかじめ決められた所定内労働時間を延長して勤務した際に生じる

残業時間のことを指す。

年平均労働時間の国際比較についての OECD のデータによると、日本の労働時間は他の

先進諸国と比べるとアメリカに次いで多いことが分かる。次に、日本国内での年齢階級別

の男性の労働時間についてのグラフに注目してみる。図 13 のグラフでは、年齢階級別の

男性の労働時間について示している。このグラフより、男性において週 60 時間以上の長

時間労働をしている人は、どの年代においても、2005 年以降減少傾向にある。しかしなが

ら、子育て期にある 30 代男性については、約 5 人に 1 人が週 60 時間以上の就業となって

おり、他の年代に比べ最も高い水準となっている。このことより、日本では子育て世代に

当たる 30 歳代男性は就業時間が多く、子どもを出産したとしても妻のみに育児を任せざ

るを得ないと考えられる。

そこで、次に男性における国別の育児時間、家事時間のグラフを取り上げてみる。図 14

では、6 歳未満の子供を持つ夫の家事・育児時間について表したグラフである。図 14 から

も読み取れるように、育児時間と家事時間を国際比較してみると、日本における 6 歳未満

の子どもをもつ夫の育児時間は、1日平均約 40 分程度しかなく、欧米諸国と比較して半

分程度となっている。家事の時間を加えても、我が国の子育て期の夫の家事・育児にかけ

る時間は 1 日平均 1 時間程度となっており、欧米諸国と比べて 3 分の 1 程度となるなど、

男性の育児参加が進んでいないことが読み取れる。

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図 13

「子育て世代の男性の長時間労働」 (内閣府「少子化対策 HP」より転載)

図 14

「6 歳未満の子どもをもつ夫の家事・育児時間」(内閣府「少子化対策 HP」より転載)

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第 3章 先行研究及び本稿の位置づけ

第1節 先行研究

本稿を執筆するにあたって「マクロ経済モデルによる家族・労働政策が出生率に及ぼす

結果の分析」(増田、2011)、「都道府県別にみる出生率と女性就業率に関する一考察」

(坂爪、2007)、「「男性の働き方の見直し」は出生力を高めるのか」(藤野、2003)、

「労働市場と所得分配」(樋口・佐藤、2010)の 4 本の先行研究を参考にした。

まず、初めに本節では 4 本の論文の要約を述べる。増田(2011)は、マクロ時系列デー

タを用いることによって、保育所定員数を家族政策、労働時間を労働政策の代理変数とし

て同時にコントロールしながらシミュレーションを行った。そこに GDP に影響を及ぼす

資本ストックをコントロールすることで経済成長が達成されるシナリオも加えた上で、日

本における家族政策と労働政策が出生率に及ぼす影響について検証をしている。分析で使

用している変数は合計特殊出生率、女子初婚率、女子就業率、女子失業率、男子正規賃金、

女子正規賃金、保育所数、保育所定員数、実質 GDP、民間企業資本ストック、男女合計の

労働時間(所定内実労働時間+超過日労働時間)などである。また、シミュレーション期

間は 2010 年から 2020 年の 11 年である。この結果、保育所定員数の増加、労働時間の短

縮、経済成長は出生率を高める効果がある可能性を示した。しかし、保育所定員数と労働

時間を同時にコントロールした場合、単独にコントロールした場合と比較して、出生率は

より大きくなるという結果から、労働時間の短縮だけでは、少子化対策としては不十分で

あり、少子化対策は総合的に行うほうが出生率を高める効果がある可能性を示唆した。

坂爪(2010)では、M 字型を描く日本の女性の年齢階級別労働力率と出生率に基づいて

都道府県を分類した上で、坂爪(2008)で構築したモデルを適用して出生率と就業率の決

定要因を分析・考察した。なお、坂爪のモデルは基本的にはベッカー(1965)などに従っ

ているが、女性の労働時間を所与としている点で異なっている。この結果、保育サービス

が充足していない状態で女性の労働時間を短縮した場合には就業率・出生率ともに変化し

なかったのに対し、保育サービスが充足している状態で女性の労働時間を短縮した場合は

就業率・出生率ともに上昇するとの結果を得た。この結果から、坂爪は、女性の労働時間

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21

を短縮しても、保育サービスの整備が進んでいなければ出生率の上昇には繋がらないと指

摘している。

藤野(2003)は、まず日本人男性の育児休暇取得率が先進国の中で最低水準であること、

わが国では先進諸国に比べて所定外労働時間が長い上に有給休暇の取得率が低いこと、ま

た、慣習的に無償のサービス残業もあることを指摘している。そして、男性がこのような

働き方を変え、家計内での時間配分を増やすことができた場合、夫婦の出生力はどのよう

に変化するのかを分析・考察した。この結果、男性(夫)の働き方が見直され、今まで労

働市場として働いていた時間を家計内に配分することができれば出生力を高める可能性が

あり、この際に生じる夫の機会費用が小さければ小さいほど出生力を高める効果が増すこ

とを示した。また、有給休暇を取得することによって、あるいはサービス残業を減らすこ

とによって昇給や昇格に差があるなどの不利益な処遇がなされず、できる限り経済的損失

を抑えた育児休暇制度を創ることが今後の重要な課題であると指摘している。さらにその

ためには、長期継続雇用を基盤とし、長時間労働を評価してきたわが国の雇用慣行を根本

的に見直す必要があると指摘している。

樋口・佐藤(2010)では、労働市場において女性の役割がいかに変わってきたかを労働

の需要と供給の両面から考察し、特に景気変動との関連を検討しながらわが国における女

性の就業促進や両立支援を目的とした諸施策について、その効果の検証を行った。

樋口・佐藤は、妻が大卒であると中卒・高卒の人と比べて離職率は低く継続就業率は高

いこと、夫が大卒であると妻の離職率が高いこと、また雇用情勢に関して、景気が回復す

れば継続就業しやすい状況が生まれ離職率が下がること、失業率が高いと離職率が有意に

上昇することなどの推定結果を得た。この結果から、労働市場における女性の役割は質量

ともに拡大しており女性雇用者は増加傾向にあるが、増加しているのは非正規労働者であ

り、正規雇用者は減少していることを示した。また、女性の就業の質を向上させるために

結婚後、出産後の継続就業が必要であり、そのためには、育児休業制度などの制度導入と

ともにそれの運用と、柔軟な働き方を促進するために労使協議による数値目標の設定や成

果を検証することが有効であると指摘し、これを企業に義務付ける枠組み作りについての

提言を行った。

以上の 4 本の先行研究から、今まで日本で行われてきた政策は、夫婦が子どもを産み控

える要因を直接取り除く政策ではなかったこと、政府が育児休業法などの制度の理解を企

業から得ることができなかったことから、少子化が深刻化してしまったことが分かる。

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そこで本稿では、以上の先行研究を参考に、産み控えの要因が現在の労働環境、つまり

政府の打ち出す政策や企業の対応にあるという考えのもと、労働時間を所定内労働時間と

超過実労働時間を区別して考え、超過実労働時間が単独で出生にどれほど影響与えるのか

を分析する。そして分析結果を踏まえ、子どもの出産・育児行動の際に障害となる労働環

境を改善することで、夫婦の出生力を高め、出生率上昇に繋がる政策を提言する。

第2節 先行研究と本稿の位置づけ

今日までにわが国で行われてきた出生率上昇のための政策は、保育の量的拡大や 0 歳か

ら 2 歳児保育の充実などを定めた「エンゼルプラン」や放課後児童クラブの推進や、産休・

育休後の職場復帰を促進する仕組みづくり、不妊専門相談センターの整備などが含まれた

「新エンゼルプラン」など、社会全体で子育てを支援する政策であった。しかし、直接的

に夫婦の出生力を高める政策ではなかったため、出生率低下に歯止めを掛けることができ

ず、今後回復する兆しも見られない。

平成 25 年厚生労働白書によると、2 人以上子どもがほしいと考える夫婦は 9 割を超えて

いるにも関わらず、実際には経済的理由や年齢・身体的理由により理想の子ども数かそれ

以上子どもを産んでいる女性は 7 割程度である。経済的理由に関して、子育て世代の雇用

者に占める非正規雇用者の割合が大きくなり、子育て世代の収入が減少しているという問

題がある。また、年齢・身体的理由については、30 代半ば以降、出産に関する様々なリス

クが大きくなるため、出産適齢期の女性が出産しやすい環境づくりが必要であることが指

摘されている。

そこで本稿では、女性就業率と男女の超過実労働時間が出生に与える影響について注目

し、分析を行った後、分析に基づいて子育て世代の経済的安定と夫婦の年齢や置かれてい

る環境に合わせた柔軟な働き方を認めることを軸とした男女の出生力を上げるための政策

を提言する。なお、ここでの分析方法は都道府県データに基づいた重回帰分析であり、被

説明変数として合計特殊出生率、説明変数として男女の超過実労働時間、女性の大学・短

大等進学率、女性の就業率、女性の初婚年齢を使用する。

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第 4章 出生率低下の実証分析

第 1節 仮説

本稿では、出生率低下の規定要因として、男性・女性の超過実労働時間、女性の就業率

女性の初婚年齢・女性の大学短大等進学率の 4 つを挙げ、「超過実労働時間が長く、女性

の就業率が低いと合計特殊出生率を低下させる」という仮説を検証する。

出生行動に関する経済理論としては、ベッカー・ウィリスらのシカゴ・グループによる

「質・量モデル」(1960)、「時間配分の理論」(1965)、が挙げられる。これらの仮説やモデ

ルでは、出生行動をミクロ経済学の消費者理論に置き換えており、ある夫婦が、子どもを

出産することによって、喜びや満足、つまり効用を得るものという前提の下に成り立って

いる。また、出産・育児は、家庭でのくつろぎ、娯楽、健康等を目的とした家計内生産物

と同様、消費財の一部であり、夫婦はどの消費財を選択するか迫られることになる。

ベッカー(1960)の「質・量モデル」は、所得の増減がもたらす子どもの数の変化を、需

要の所得弾力性を用いて説明したモデルである。所得が増加し、その一部が子どもに割り

当てるとすると、夫婦は子どもの数を増やすか、より多くのお金を教育にかけ、子供の質

を向上させるかの二つの選択肢がある。「質・量モデル」によると、所得が増加した際に、

子どもの質に対しては弾力性をもち、教育等に金銭を投資するが、子どもの数に対しては

非弾力的であるという仮説を立てた。つまり、「所得の増加は、子どもの質を増やすが、子

どもの数は減らす」という仮説を立てた。

他方、出産や育児によって就業中の母親が退職すると、母親は労働によって本来得られ

るはずの所得を失うことになり、この失った所得も子どもに関するコストであるというこ

とができる。このような費用を機会費用と呼ぶが、「質・量モデル」は、機会費用を考慮し

ていない仮説であり、ベッカーは、「時間配分の理論」(1965)によって、「質・量モデル」

に機会費用の概念を拡張した。「時間配分の理論」では、所得は、夫の貨幣所得と家計内の

資産に、妻の所得を加えたものであり、夫の貨幣所得と家計内の資産は一定であるとした。

つまり妻の所得によって、家計内の所得は決定し、さらに、妻の所得は、妻の労働時間・

賃金率によって決定し、そこから夫婦は効用を得るとしている。したがって、妻が労働す

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ることによって所得を得る効用と、所得を失う代わりに出産・育児から得ることができる

効用の二つを夫婦は選択することになる。さらに、労働により得られる効用と、出産・育

児によって得られる効用の合計が最大となるように 1 日の使用可能時間を配分する。

「質・量モデル」、「時間配分の理論」を踏まえて、改めて出生率の規定要因を述べると、

超過実労働時間と女性の就業率が挙げられる。女性が 1 日の使用可能時間を消費する際に、

労働によって得られる効用が、子育てに時間を費やすことで得られる効用よりも、大きけ

れば女性は働くことを選択し、小さければ女性は出産・育児を選択する。また、労働によ

る効用と、子育てによる効用を合計して効用を最大化するように夫婦は行動を選択する。

したがって、労働時間が夫婦の理想よりも長すぎれば、夫婦は労働時間を減らすことで、

子育てに時間を消費すると考えられる。つまり、日本の労働者の労働時間が先進諸国に比

べて長いとすれば、出生率に対して負の影響を持つことが期待できる。

また、女性の就業率に関して、坂爪(2010)は、保育サービスを量的に充実させた上で

女性の労働時間を減らせば、出生率に正の影響を持つと指摘している。このことを、「時間

配分の理論」に当てはめると、保育サービスの量的充実によって、子育てに消費していた

時間を、他の家計財の生産や労働に時間を消費できることが考えられる。結果として、女

性は仕事と子育ての両立が可能となり、効用は最大化されるため、女性の就業率は、出生

率に正の影響を持つことが予想される。

また、女性の初婚年齢の高さと、女性の大学・短大等進学率の高さは、一般的に出生率

を低くする要因と考えられている。女性の初婚年齢が高くなれば、出産・育児に要する体

力が衰えるため、出産による効用が減少すると考えられる。また、女性の大学・短大等進

学率が高くなれば、女性の賃金が上昇するため、子育てによって失う機会費用がより高価

になる。つまり、女性の大学・短大等進学率は、労働による効用を高くするため、女性は、

より多くの時間を労働に消費すると考えられる。以上のことから、女性の初婚年齢と女性

の大学・短大等進学率は、出生率に対して負の影響を持つことが期待できる。

本稿では、シカゴ・グループが提唱した「時間配分の理論」と、一般的に出生率を低く

する要因を取り入れた分析を行う。また、各説明変数の予想される係数を男女の超過実労

働時間・女性の初婚年齢・女性の大学・短大等進学率の係数は負に、合計特殊出生率に対

し、女性就業率の係数は正になることが期待できる。

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表 1 各変数の予想される係数

説明変数 係数

男性超過実労働時間 負

女性超過実労働時間 負

女性の就業率 正

女性の初婚年齢 負

女性の大学・短大等進学率 負

(注)被説明変数は合計特殊出生率

第 2節 分析枠組み

本分析では、2002 年から 2012 年の都道府県別データを用いて分析を行う。また、夫婦

の年齢によって機会費用や得られる効用に対する見方が異なる可能性があるため、超過実

労働時間・女性の就業率に関しては、25-29 歳のデータ・30-34 歳のデータの両方を用い

て分析も行う。本稿の分析モデルは、合計特殊出生率を被説明変数とし、一般的に合計特

殊出生率に影響すると思われる女性の初婚年齢や女性の大学・短大等進学率で合計特殊出

生率への影響をコントロールする。さらに各年の合計特殊出生率の推移をコントロールす

るために、年次ダミーを分析に組み込んだ上で、男女の超過実労働時間と女性の就業率を

説明変数とした最小二乗(OLS)分析による推定を行う。以下が推計式である。

合計特殊出生率

= α(定数項)+ β1・女性初婚年齢 + β2・25-29(30-34)歳女性超過実労働時間

+ β3・25-29(30-34)歳男性超過実労働時間 + β4・女性の大学・短大等進学率

+ β5・年次ダミー(2002-2011 年)+ u(誤差項)

また、女性の就業率のサンプルサイズが他の説明変数と異なるため、女性の就業率を分

析に組み込んだ際の推定式を以下に示す。

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合計特殊出生率

= α(定数項)+ β1・女性初婚年齢 + β2・25-29(30-34)歳女性超過実労働時間

+ β3・25-29(30-34)歳男性超過実労働時間 + β4・女性の大学・短大等進学率

+ β5・25-29(20-34)歳女性就業率 + β6・2002 年ダミー + β7・2007 年ダミー

+ u(誤差項)

また、以下が変数の定義である。各変数の出典は、表 2 にまとめた。

●被説明変数

・合計特殊出生率(2002~2012 年)

15~49 歳までの女性の年齢別出生数を合計した指標

●説明変数

①男女の超過実労働時間(2002~2012 年)

一ヶ月間に、事業所の就業規則で定められた所定労働日における始業時刻から終業

時刻までの時間を越えて労働した時間数、及び所定休日において労働した時間数

②女性就業率(2002、2007、2012 年)

15 歳以上人口のうち実際に働いている女性の割合

③女性の初婚年齢(2002~2012 年)

女性が初めて結婚して同居を始めた年齢の平均値

④女性の大学・短大等進学率(2002~2012 年)

高校を卒業した女性のうち、大学・短期大学・専門学校等に進学した女性の割合

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表 2 各変数の出典

使用する変数 出典

合計特殊出生率

(2002-2012 年)

人口動態統計

「合計特殊出生率」

(厚生労働省)

男性・女性超過実労働時間

(2002-2012 年)

賃金構造基本統計調査

「超過実労働時間」

(厚生労働省)

女性就業率

(25-29 歳、2002 年・2007 年、2012 年)

国勢調査結果

「労働力状態,就業者の産

業,就業時間など」

(総務省統計局) 女性の初婚年齢

(2002 年-2012 年)

人口動態統計

「妻の平均初婚年齢」

(厚生労働省)

女性の大学・短大等進学率

(2002 年-2012 年)

学校基本調査

(卒業後の状況調査)

(文部科学省)

第3節 分析結果

第 1 項 基本統計量と相関行列

分析に使用する変数の基本統計量を表 3・4 に示した。なお、女性の就業率以外の変数

でのサンプルサイズは、47 都道府県のデータ 11 年分の 517 であるのに対し、女性の就業

率におけるサンプルサイズは、47 都道府県のデータ 3 年分の 141 である。したがって、

基本統計量に関しては、サンプルサイズが 517 であるもの、141 であるものの順に示す。

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ISFJ2015 最終論文

28

表 3 基本統計量(サンプルサイズ 47×11=517)

平均 標準偏差 最小値 最大値

合計特殊出生率 1.398 0.132 1.00 1.9

25-29 歳女性

超過実労働時間 9.077 1.925 5 19

30-34 歳女性

超過実労働時間 8.186 1.777 4 15

女性初婚年齢 28.046 0.682 26.4 30.4

25-29 歳男性

超過実労働時間 19.133 3.285 12 29

30-34 歳男性

超過実労働時間 18.983 3.111 11 30

女性の大学・短大等

進学率 49.697 7.536 32.472 69.25

表 4 基本統計量(サンプルサイズ 47×3=141)

平均 標準偏差 最小値 最大値

合計特殊出生率 1.411 0.134 1.02 1.9

25-29 歳女性

超過実労働時間 9.064 2.029 5 14

30-34 歳女性

超過実労働時間 8.156 1.818 4 13

25-29 歳

女性就業率 73.277 4.409 63.2 83.5

30-34 歳

女性就業率 65.579 7.116 47.4 81.1

女性初婚年齢 28.011 0.854 26.4 30.4

25-29 歳男性

超過実労働時間 19.284 3.071 13 29

30-34 歳男性

超過実労働時間 19.22 3.176 11 30

女性の大学・短大等

進学率 49.527 7.48 32.472 69.09

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ISFJ2015 最終論文

29

また、分析に先立ち、説明変数間の相関を確認したところ、表 4、5、6、7 のようにな

った。説明変数間の相関のうち、共通して女性初婚年齢と女性の大学・短大等進学率、女

性超過実労働時間と男性超過実労働時間の相関が高いことがわかる。本分析では、多重共

線性の可能性を考慮に入れ、変数を入れ替えしながら分析を行う。

表 5 相関行列(25 歳-29 歳、サンプルサイズ 517)

女性初婚

年齢

女性初婚年齢 - 25-29 歳男性

超過実労働時間

25-29 歳男性

超過実労働時間 0.101 -

25-29 歳女性超

過実労働時間

25-29 歳女性

超過実労働時間 0.333 0.613 -

女性の大学・

短大等進学率

女性の大学・

短大等進学率 0.619 0.284 0.402 -

表 6 相関行列(25-29 歳、サンプルサイズ 141)

女性初婚

年齢

女性初婚年齢 - 25-29 歳

女性就業率

25-29 歳

女性就業率 0.467 -

25-29 歳男性

超過実労働時間

25-29 歳男性

超過実労働時間 0.278 0.006 -

25-29 歳女性

超過実労働時間

25-29 歳女性

超過実労働時間 0.389 0.069 0.699 -

女性の大

学・短大

等進学率

女性の大学・

短大等進学率 0.582 0.121 0.446 0.446 -

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ISFJ2015 最終論文

30

表 7 相関行列(30 歳-34 歳、サンプルサイズ 517)

表 8 相関行列(30-34 歳、サンプルサイズ 141)

第 2 項 推定結果と解釈

次に、推定結果と解釈について述べる。本分析は、女性就業率のサンプルサイズと他の

説明変数のサンプルサイズは異なるため、47×11=517 の女性就業率を除いた分析と、47

×3=141 の女性就業率を組み込んだ分析を行っており、25-29 歳の女性就業率を除いた分

析結果、25-29 歳の女性就業率を組み込んだ分析結果と 30-34 歳の女性就業率を除いた分

析結果、30-34 歳の女性就業率を組み込んだ分析結果を順に示す。

女性初婚

年齢

女性初婚年齢 - 30-34 歳男性超

過実労働時間

30-34 歳男性

超過実労働時間 0.057 -

30-34 歳女性

超過実労働時間

30-34 歳女性

超過実労働時間 0.202 0.584 -

女性の大学・短

大等進学率-

女性の大学・

短大等進学率 0.619 0.249 0.309 -

女性初婚

年齢

女性初婚年齢 -

30-34 歳

女性就業

30-34 歳

女性就業率 0.377 -

30-34 歳男性

超過実労働時間

30-34 歳男性

超過実労働時間 0.214 -0.248 -

30-34 歳女性

超過実労働

時間

30-34 歳女性

超過実労働時間 0.241 -0.236 0.604 -

女性の大

学・短大

等進学率

女性の大学・

短大等進学率 0.582 -0.019 0.358 0.399 -

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ISFJ2015 最終論文

31

表 9 出生率に関する検定結果(25-29 歳、サンプル数 47×11=517)

回帰 1 回帰 2 回帰 3 回帰 4 回帰 5

定数項 6.662 ***

(0.364)

1.97 ***

(0.045)

7.104 ***

(0.339)

6.456 ***

(0.361)

6.439 ***

(0.339)

女性初婚年齢 -0.172

*** (0.002)

-0.184

*** (0.012)

-0.167 ***

(0.013)

-0.165 ***

(0.012)

女性超過実労働時間 0.004

(0.003)

-0.01 **

(0.003)

0.004

(0.003)

-0.001

(0.002)

男性超過実労働時間 -0.005

** (0.002)

-0.002

(0.002)

-0.007 ***

(0.003)

-0.004 *

(0.002)

女性の大学・短大等進学率

-0.003 ***

(0.001)

-0.007 ***

(0.001)

-0.003 ***

(0.001)

-0.003 ***

(0.001)

2002 年ダミー -0.406

*** (0.029)

-0.132 ***

(0.023)

-0.427 ***

(0.029)

-0.398 ***

(0.029)

-0.395 ***

(0.028)

2003 年ダミー -0.381

*** (0.027)

-0.162 ***

(0.023)

-0.393 ***

(0.027)

-0.378 ***

(0.027)

-0.373 ***

(0.026)

2004 年ダミー -0.358

*** (0.026)

-0.16 ***

(0.024)

-0.364 ***

(0.026)

-0.358 ***

(0.026)

-0.349 ***

(0.025)

2005 年ダミー -0.316

*** (0.024)

(-0.141) ***

(0.023)

-0.322 ***

(0.025)

-0.317 ***

(0.025)

-0.307 ***

(0.024)

2006 年ダミー -0.265

*** (0.024)

-0.111 ***

(0.023)

-0.272 ***

(0.024)

-0.27 ***

(0.024)

-0.259 ***

(0.023)

2007 年ダミー -0.231

*** (0.023)

-0.086 ***

(0.023)

-0.241 ***

(0.023)

-0.232 ***

(0.023)

-0.224 ***

(0.022)

2008 年ダミー -0.18 ***

(0.022)

-0.053 *

(0.023)

-0.19 ***

(0.022)

-0.18 ***

(0.022)

-0.173 ***

(0.022)

2009 年ダミー -0.179

*** (0.022)

-0.078 **

(0.024)

-0.199 ***

(0.022)

-0.159 ***

(0.021)

-0.173 ***

(0.022)

2010 年ダミー -0.052

* (0.02)

0.011

(0.023)

-0.063 **

(0.02)

-0.045 *

(0.02)

-0.049 *

(0.02)

2011 年ダミー -0.047

* (0.02)

-0.015

(0.023)

-0.054 **

(0.02)

-0.045 *

(0.02)

-0.047 *

(0.02)

修正決定係数 0.477 0.3065 0.4658 0.4706 0.476

サンプルサイズ 517 517 517 517 517

(注 1)“・”は 10%有意 、”*”は 5%有意 、

”**”は 1%有意 、”***”は 0.1%有意を表す。

(注 2)表中の数字・記号は上から順に、

推定係数・有意水準・標準誤差を示す。

(注 3)推定係数・標準誤差は小数点第四位を四捨五入

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ISFJ2015 最終論文

32

表 10 出生率に関する推定結果(25-29 歳、サンプルサイズ 47×3=141)

(注 1)“・”は 10%有意 、”*”は 5%有意 、

”**”は 1%有意 、”***”は 0.1%有意を表す。

(注 2)表中の数字・記号は上から順に、

推定係数・有意水準・標準誤差を示す。

(注 3)推定係数・標準誤差は小数点第四位を四捨五入

回帰 1 回帰 2 回帰 3 回帰 4 回帰 5

定数項 6.662 ***

(0.786)

1.866 ***

(0.238)

7.311 ***

(0.743)

6.372 ***

(0.754)

6.394 ***

(0.709)

女性初婚年齢 -0.174

*** (0.027)

-0.243

*** (0.025)

-0.166 ***

(0.027)

-0.165 ***

(0.025)

女性超過実労働時間 0.005

(0.007)

-0.012 ・

(0.007)

0.006

(0.007)

-0.001

(0.005)

女性就業率 0.001

* (0.002)

0.002

(0.003)

0.001

(0.002)

0.001

(0.002)

0.001

(0.002)

男性超過実労働時間 -0.005

(0.004)

0.001

(0.005)

-0.008 ・

(0.004)

-0.003

(0.003)

女性の大学・短大等進学率

-0.003 *

(0.002)

-0.008 ***

(0.002)

-0.003 **

(0.001)

-0.004 *

(0.015)

2002 年ダミー -0.41 ***

(0.053)

-0.126 ***

(0.031)

-0.438 ***

(0.052)

-0.394 ***

(0.032)

-0.395 ***

(0.049)

2007 年ダミー -0.234

*** (0.032)

-0.087 ***

(0.025)

-0.247 ***

(0.032)

-0.231 **

(0.051)

-0.225 ***

(0.029)

修正決定係数 0.4522 0.2924 0.4353 0.4496 0.4537

サンプルサイズ 141 141 141 141 141

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ISFJ2015 最終論文

33

表 11 出生率に関する推定結果(30-34 歳、サンプルサイズ 47×11=517)

(注 1)“・”は 10%有意 、”*”は 5%有意 、

”**”は 1%有意 、”***”は 0.1%有意を表す。

(注 2)表中の数字・記号は上から順に、

推定係数・有意水準・標準誤差を示す。

(注 3)推定係数・標準誤差は小数点第四位を四捨五入

回帰 1 回帰 2 回帰 3 回帰 4 回帰 5

定数項 6.354 ***

(0.36)

6.492 ***

(0.34)

6.266 ***

(0.353)

1.951 ***

(0.045)

6.881 ***

(0.331)

女性初婚年齢 -0.162

*** (0.003)

-0.167 ***

(0.012)

-0.159 ***

(0.013)

-0.184 ***

(0.012)

女性超過実労働時間 -0.004

(0.003)

-0.005

* (0.003)

-0.017 ***

(0.003)

-0.004

(0.003)

男性超過実労働時間 -0.002

(0.002)

-0.003 *

(0.002)

0.001

(0.002)

-0.004 *

(0.002)

女性の大学・短大等進学率

-0.003 ***

(0.013)

-0.002 ***

(0.001)

-0.003 ***

(0.001)

-0.007 ***

(0.001)

2002 年ダミー -0.388

*** (0.03)

-0.398 ***

(0.028)

-0.383 ***

(0.03)

-0.12 ***

(0.023)

-0.41 ***

(0.029)

2003 年ダミー -0.366

*** (0.027)

-0.375 ***

(0.026)

-0.364 ***

(0.027)

-0.153 ***

(0.023)

-0.38 ***

(0.027)

2004 年ダミー -0.344

*** (0.026)

-0.353 ***

(0.025)

-0.343 ***

(0.026)

-0.153 ***

(0.023)

-0.353 ***

(0.026)

2005 年ダミー -0.302

*** (0.025)

-0.311 ***

(0.024)

-0.301 ***

(0.025)

-0.132 ***

(0.023)

-0.31 ***

(0.025)

2006 年ダミー -0.256

*** (0.024)

-0.262 ***

(0.023)

-0.256 ***

(0.024)

-0.107 ***

(0.023)

-0.264 ***

(0.024)

2007 年ダミー -0.218

*** (0.023)

-0.225 ***

(0.022)

-0.219 ***

(0.023)

-0.081 ***

(0.023)

-0.228 ***

(0.023)

2008 年ダミー -0.169

*** (0.022)

-0.174 ***

(0.022)

-0.169 ***

(0.022)

-0.517 *

(0.023)

-0.18 ***

(0.022)

2009 年ダミー -0.166

*** (0.022)

-0.169 ***

(0.022)

-0.158 ***

(0.021)

-0.069 **

(0.023)

-0.185 ***

(0.021)

2010 年ダミー -0.044

* (0.021)

-0.047 *

(0.02)

-0.042 *

(0.02)

0.02

(0.023)

-0.055 **

(0.021)

2011 年ダミー -0.046

* (0.02)

-0.047 *

(0.019)

-0.044 *

(0.019)

-0.009

(0.022)

-0.053 **

(0.02) 修正決定係数 0.4752 0.4748 0.4747 0.3186 0.4636

サンプルサイズ 517 517 517 517 517

Page 34: 労働時間が出生率に与える影響E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E… · 2018. 3. 18. · また、30-34 歳の女性の就業率と出生率には正の 相関が、女性の初婚年齢、女性の大学・短大等進学率には出生率と負の相関があった。

ISFJ2015 最終論文

34

表 12 出生率に関する推定結果(30-34 歳、サンプルサイズ 47×3=141)

(注 1)“・”は 10%有意 、”*”は 5%有意 、

”**”は 1%有意 、”***”は 0.1%有意を表す。

(注 2)表中の数字・記号は上から順に、

推定係数・有意水準・標準誤差を示す。

(注 3)推定係数・標準誤差は小数点第四位を四捨五入

回帰 1 回帰 2 回帰 3 回帰 4 回帰 5

定数項 5.938 ***

(0.79)

1.474 ***

(0.19)

6.47 ***

(0.766)

5.83 ***

(0.751)

5.8439 ***

(0.731)

女性初婚年齢 -0.156

*** (0.027)

-0.002

*** (0.025)

-0.154 ***

(0.026)

-0.153 ***

(0.025)

女性超過実労働時間 0.002

(0.006)

-0.012 ・

(0.007)

0.001

(0.007)

0.001

(0.006)

女性就業率 0.0035

* (0.002)

0.0055 **

(0.002)

0.0039 *

(0.002)

0.004 *

(0.002)

0.004 *

(0.002)

男性超過実労働時間 -0.0016

(0.004)

0.002

(0.004)

-0.003

(0.004)

-0.001

(0.003)

女性の大学・短大等進学率

-0.0033 *

(0.001)

-0.0068 ***

(0.002)

-0.0035 *

(0.002)

(-0.003) *

(0.001)

2002 年ダミー -0.347

*** (0.058)

-0.06 ・

(0.033)

-0.364 ***

(0.058)

-0.339 ***

(0.055)

-0.339 ***

(0.053)

2007 年ダミー -0.208

*** (0.033)

-0.065 **

(0.025)

-0.217 ***

(0.034)

-0.207 ***

(0.033)

-0.204 ***

(0.031)

修正決定係数 0.4687 0.3402 0.4524 0.4719 0.4723

サンプルサイズ 141 141 141 141 141

Page 35: 労働時間が出生率に与える影響E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E… · 2018. 3. 18. · また、30-34 歳の女性の就業率と出生率には正の 相関が、女性の初婚年齢、女性の大学・短大等進学率には出生率と負の相関があった。

ISFJ2015 最終論文

35

① 25-29 歳の推定結果

2002 年から 2012 年の都道府県データを用いて、合計特殊出生率の規定要因を推定した

ところ、25-29 歳女性就業率を除いた回帰(表 7)では、回帰 2 において 25-29 歳女性超

過実労働時間の推定係数は、負(1%水準で有意)であり、予想通りの結果であった。また、

男性超過実労働時間・女性の大学・短大等進学率においては、説明変数の入れ替えによっ

て有意水準の変化は見られたものの、おおむね予想通りの結果であった。回帰 1、3、5 に

おいて、25-29 歳男性超過実労働時間の推定係数は負であり、回帰1において 1%水準、回

帰 3 において 0.1%水準、回帰 5 において 5%水準で有意であった。また、女性初婚年齢と、

女性の大学・短大等進学率の推定係数はともに負であり、0.1%水準で有意であった。

回帰 1 において、合計特殊出生率に対する 25-29 歳男性の超過実労働時間の限界効果は、

-0.005、回帰 2 において 25-29 歳女性の超過実労働時間の限界効果は、-0.01 であった。例

えば、25-29 歳男性の超過実労働時間を月当たりで減らすと、合計特殊出生率を 0.025 引

き上げる効果が、回帰 2 において、25-29 歳女性超過実労働時間を月当たり 5 時間短縮す

ると、合計特殊出生率を 0.05 引き上げる効果がある。

次に、25-29 歳女性就業率を入れて分析した表 8 における推定結果について述べる。回

帰 1 において、25-29 歳女性就業率に 5%水準の有意性が見られ、推定係数は正で予想通り

の結果であった。しかし、回帰 2・3・4・5 には 25-29 歳女性就業率の有意性が見られな

かった。また、回帰 2 においてのみ 25、-29 歳女性超過実労働時間の推定係数が、負に 10%

水準で有意であり、25-29 歳男性超過実労働時間は、回帰 3 においてのみ、推定係数が負

で、10%水準で有意であった。

25-29 歳女性就業率を入れた回帰 1 において、合計特殊出生率に対する女性就業率の限

界効果は、0.0008、回帰 2 において、25-29 歳女性超過実労働時間の限界効果は、-0.012、

回帰 3 において、25-29 歳男性超過実労働時間の限界効果は、-0.008 であった。例えば、

回帰 1 において、女性就業率を 10%ポイント上昇させると、合計特殊出生率は 0.008 上昇

させる効果がある。また、回帰 2 において 25-29 歳女性超過実労働時間を月当たり 5 時間、

回帰 3 において 25-29 歳男性超過実労働時間を月当たり 5 時間短縮すると、回帰 2 におい

て、合計特殊出生率は 0.06、回帰 3 において、0.04 上昇する効果がある。

②30-34 歳の推定結果

30-34 歳の推定結果(表 9)については、女性初婚年齢・女性就業率・女性超過実労働

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ISFJ2015 最終論文

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時間・女性の大学・短大等進学率・男性超過実労働時間が予想通りの結果であった。女性

初婚年齢が負の係数(全ての回帰で 0.1%水準で有意)、30-34 歳女性超過実労働時間が負

の係数(回帰 3 で 5%水準、回帰 4 で 0.1%水準で有意)、女性の大学・短大等進学率が負

の係数(全ての回帰で 0.1%水準で有意)、30-34 歳男性超過実労働時間は負の係数(回帰

2・5 で、5%水準で有意)であった。

30-34 歳女性就業率を除いた推定結果において、回帰 2 において、合計特殊出生率に対

する 30-34 歳男性超過実労働時間の限界効果は、-0.003、回帰 3 において、30-34 歳女性

の超過実労働時間の限界効果は、-0.005 であった。したがって、回帰 2 において、30-34

歳男性超過実労働時間を月当たり 5 時間、回帰 3 において 30-34 歳女性超過実労働時間を

月当たり 5 時間短縮すると、合計特殊出生率は、回帰 2 において、0.015、回帰 3 におい

て 0.025 上昇する効果がある。

次に、30-34 歳女性就業率を分析に組み込んだ推定結果(表 10)において、全ての回帰

において、30-34 歳女性就業率の推定係数は、正で、予想通りの結果となった。また、30-34

歳女性就業率は、回帰 2 において、1%水準、回帰 1・3・4・5 は、5%水準で有意であっ

た。また、30-34 歳男性超過実労働時間は、有意性が見られず、30-34 歳女性超過実労働

時間は、回帰 2 において、10%水準で有意であったが、他の回帰では有意性が見られなか

った。

30-34 歳女性就業率を組み込んだ推定結果において、基本モデルである回帰 1 で、合計

特殊出生率に対する 30-34 女性就業率の限界効果は 0.0035 であった。例えば、30-34 歳女

性就業率を 10%ポイント上昇させると、合計特殊出生率は 0.035程度上昇する効果がある。

また、回帰 2 において、30-34 歳女性超過実労動時間の限界効果は、-0.012 であった。つ

まり、回帰 2 で 30-34 歳女性超過実労働時間を月当たり 5 時間短縮すると、合計特殊出生

率は-0.06 上昇する効果がある。

③ 推定結果の解釈

以上の分析結果から、変数の入れ替え・多重共線性によって、有意水準が変化したもの

の、男女の超過実労働時間・女性の就業率は合計特殊出生率に影響を与えることが分かっ

た。女性就業率を分析に組み込んだ場合と組み込まなかった場合に、超過実労働時間の有

意性に変化が見られた要因は、二つ考えられる。

一つ目の要因として、働き盛りの男性や女性にとっては、自ら進んで所定外労働をする

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ISFJ2015 最終論文

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ことで、会社・社会での自己の地位を確立し、出世を目指すことが考えられる。つまり、

労働によって得られる効用は、子育てによって得られる効用よりも大きい場合もあり、労

働時間の短縮の必要性は、夫婦の子どもに対する効用の捉え方次第である。

二つ目の要因としては、時間外労働によって得られる給料も大きいため、生活資金や出

産・育児に向けての貯蓄のためとも考えられる。この場合においても、超過実労働時間を

第三者が介入して、強制的に短縮するより、夫婦の判断に委ねて、必要ならば時間を減ら

せる環境を作る以上のことはしない方がよいことを示唆している。

また、特に、女性就業率の影響は、30-34 歳になると有意水準が高くなり、30 代の女性

の継続雇用となった。このことから、合計特殊出生率を引き上げる政策として、

●30 代女性の就業率の更なる引き上げ

●男女の残業時間の短縮が可能な環境

が必要であると言える。

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第 5章 政策提言

第 1節 政策提言の方向性

この章ではまず初めに、第 4 章の分析部分において立てた仮説の結果について考察し、

その後、分析結果に対応した政策提言について述べていく。

本稿では、「超過実労働時間が長く、女性の就業率低いと合計特殊出生率を低下させる」

という仮説を立てた。そして、分析の結果、男女の超過実労働時間は 25-29 歳、30-34 歳

において、合計特殊出生率と負の相関があった。また、女性の就業率については合計特殊

出生率と正の相関があり、特に 30~34 才の女性においては全ての回帰において有意性が

出ており、その影響が顕著であった。この結果より、政策提言の方向性としては、女性の

就業率(特に 30~34 歳)を上げ、さらに 25~34 歳の男女の超過実労働時間を減少させる必

要性があると考える。なお、本稿では労働に着目した政策提言を行うため、合計特殊出生

率と負の相関が確認された女性の大学進学率と女性の初婚年齢については政策提言に反映

させない。

また、男性・女性の超過実労働時間と合計特殊出生率の有意性が見られなかった推定結

果が出た要因として、主に 2 つ考えられる。1 つ目の要因としては、働き盛りの男性や女

性にとっては、自ら進んで所定外労働をして会社での自己の地位を確立し、出世を目指し

ていることが考えられる。2 つ目の要因としては、時間外労働によって得られる給料も大

きいため、生活資金や出産・育児に向けての貯蓄のためとも考えられる。また、このこと

を示唆する調査を図 23 に示した。労働政策研究・研修機構によって平成 22 年に行われた

「仕事特性・個人特性と労働時間」という調査のうち、「仕事に対する意識の否定・肯定

度別にみた月間総実労働時間」の一部の項目を、管理職・非管理職別に示した。同調査の

結果は、「出世志向が強い」に「当てはまる」人は、「当てはまらない」人と比較して、

非管理職では 15 時間、管理職では、5 時間労働時間が長いことが分かる。また、専門職指

向が高く、高い人事評価を受けてきた非管理職の労働者は、労働時間が長い傾向にある。

図から読み取れることをまとめると、職場の雰囲気や上司との仕事上の関係で仕方なしに

残業している人もいれば、出世・人事評価のために残業する人もいることがわかる。

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4 図 15

出世志向が

強い

専門職指向

が高い

これまで受けて

きた人事評価は

高いほうだ

仕事を頼まれ

ると断れない

上司が退社す

るまで帰宅し

ない

非管理職

当てはまる 193.0 186.2 190.0 188.0 207.9

やや当てはまる 187.3 183.3 183.4 181.8 194.4

あまり

当てはまらない 182.1 182.3 181.7 180.3 183.3

当てはまらない 178.2 174.4 180.2 174.7 176.9

合計 183.2 183.2 183.2 183.2 183.2

管理職

当てはまる 192.8 187.2 191.2 191.9 202.1

やや当てはまる 187.4 185.7 186.7 184.5 192.8

あまり

当てはまらない 183.4 185.4 181.0 183.9 184.3

当てはまらない 187.7 185.6 184.8 176.5 183.4

合計 186.0 186.0 186.0 186.0 186.0

仕事に対する意識の否定・肯定度別に見た月間総労働時間の平均(時間)

(2010 年「仕事特性・個人特性と労働時間」(労働政策研究・研修機構)より作成)

したがって、個人の価値観に介入し、残業時間を減らすことを好ましく思わない見方も

あるだろう。しかし、第 2 章第 4 項で述べたように、先進国諸国と比べると日本人男性の

労働時間は長く、その結果、家事・育児時間は短い。また、女性が長時間の残業を強いら

れるならば、子育てに対する負担は大きくなるため、少なくとも、残業時間を企業・労働

者が望めば、減らすことができる状態にしておく必要がある。

また、政策提言について述べる際、第 2 章第 2 節で述べた予定子ども数と現存子ども数

のギャップにも注目していく。第 2 章第 2 節においては、予定子ども数と現存子ども数の

ギャップは、女性の年齢が 30 歳未満であると、子どもを出産・育児をすることに対して

の経済的負担のため、30 歳以上では年齢・身体的不安のために予定子ども数を達成できな

いという結果が出ている。このため、政策提言においては、まず 30 歳以上での年齢的・

身体的不安を取り除けるようなるべく早い時期に出産できるような政策を、そしてその結

果、20 代で出産することになった場合の経済的不安を取り除けるような政策提言をしてい

きたいと考える。

4 「仕事特性・個人特性と労働時間」における、回答者の属性を示す。

非管理職は 5,020、管理職は 2,733 である。また、非管理職のうち男性は 75.8%、非管

理職の女性は 24.2%、管理職のうち男性は 97.9%、管理職の女性は 2.1%である。

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本稿の政策提言の方向性としては、①就業スタイルの自由選択制と②労働時間の規制の

実施、③労働環境改善に伴う保育士の確保とベビーシッター制の導入の3本柱で政策提言

を述べていく。なお、①は労働者側が行うべき政策、②は雇用者側が行うべき政策、③は

①と②と併用して用いる政策という位置づけである。

第 2節 出生率回復の政策

第 1節 就業スタイルの自由選択制

就業スタイルの自由選択制とは、出産・育児を控えた、または育児期間中の労働者に対

して企業側が就業スタイルの自由を認めるというものである。例えば、本来ならば週休 2

日の仕事であっても労働者側の希望に応じて週 3 日勤務を認める、またフルタイムの仕事

ではなく 15 時には仕事を終わる、可能な仕事に対しては自宅作業を認めるといった制度

である。つまり、この制度は個人に合わせて労働日数や労働時間数を決めることができる

という制度である。就業スタイルの自由選択制によって、女性の就業率を上昇させ、男女

の超過実労働時間を短縮させることが期待できる。ここで重要なことは、この制度を正規

雇用の労働者に対して適用することである。第 2 章第 1 項で述べたように、特に女性は出

産・育児の年齢に差し掛かると、労働力率を表したグラフは M 字カーブを描くようになる。

これは多くの女性が出産・育児により正規雇用の職を辞めてしまうということを示してい

る。正規雇用であった職を辞めてしまうと、必然的に収入が減少する。第 2 章第 2 項でも

述べたが、収入の減少は予定子ども数と現存子ども数のギャップがある理由であるため、

合計特殊出生率はさらに低下すると考えられる。反対に、個人の自由で就業スタイルの選

択を認めることで、女性の正規雇用が持続するならば、安定した賃金や福利厚生を継続的

に得ることができろ。結果として、子育て世代、特に 30 歳まで若者の経済的不安を取り

除き、理想子ども数を実現させやすい環境にあると考えられる。

しかし、就業スタイルの自由選択制を日本で取り入れるのには様々な問題があるだろう。

例えば、現在でも人々が有給休暇を取ることをためらうように、会社を休む・早退するこ

とに対して人々は後ろめたさを感じ、同時に会社側もそれを避けたいと考えている場合が

考えられる。一方で、フランスやスウェーデンのように少子化対策に取り組んでいる国は、

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41

就業スタイルの自由選択制を認め、この制度の運用に成功した国もある。これは、フラン

スやスウェーデンにおいては少子化対策を国の重要政策として掲げ、国民自身も少子化対

策の必要性について十分理解をし、出産・育児に携わる人々が働きやすい環境作りをする

必要性を把握しているために成り立っていると考えられる。日本では、少子化対策の必要

性について人々の関心は薄く、経済成長にばかり注目が集まっているため、直ちに少子化

対策のために就業スタイルの自由選択制を取り入れることは考えづらい。そのため、就業

スタイルの自由選択制を取り入れる際には、少子化対策の必要性について企業側から十分

な理解を得ること、制度の導入によって女性の継続雇用が可能になるというメリットを説

明することが必要になるだろう。

また、労働者となる女性の考え方も考慮に入れる必要がある。現在では育児休業を取得

した後に会社に復帰する際、女性は休んでいた期間分を把握することが困難であり、それ

を見据えて育児休業制度を利用せずに離職してしまう女性が多い。就業スタイルの自由選

択制では、出産の前後を除いて、育児期間中も個人に合わせた就業スタイルを認めている

が、やはり出産前後に連続して職場を離れることに対して女性は不安を感じ、離職を選択

する可能性がある。そこで、就業スタイルの自由選択制を取り入れる際には、政策の質に

も着目する必要がある。したがって、自宅で作業が可能な仕事については自宅作業を認め

る、また休業中も自宅から会社の内部の様子や自分が関わっている部門の仕事を閲覧する

ことが可能なサービスを取り入れることが必要である。

●政策の実現可能性

政策に対する理解を得るために、企業側に対して女性の継続雇用が可能になるというメ

リットを説明することが重要である。さらに、政策の質的観点から、女性が休業後の会社

復帰時に遅れを取れ戻すことに不便さを感じないよう休業中も自宅で仕事をすることを可

能にし、会社の様子をオンラインで確認することができるサービスを取り入れることが必

要である。以上の課題が解決されれば、政策の実現を期待できる。

以上より、本稿では 1 つ目の政策提言として、女性の就業率を上昇させ、超過実労働時

間を短縮させるために就業スタイルの自由選択制を提案する。

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第 2 項 労働時間の規制

次に、労働時間の規制について述べる。日本は、第 2 章第 4 項で述べたように、労働時

間が長い国であるが、労働時間を短縮することは難しいものではないと裏付けるアンケー

トを、図 24 に示した。「仕事特性・個人特性と労働時間」(平成 22 年、労働政策研究・

研修機構)のアンケート調査によると、企業が、「ノー残業デー」・「退勤時刻の際の終

業の呼びかけ・強制消灯」等の取り組みを行っている場合と、行っていない場合での、月

間の労働時間は、非管理職・管理職ともに、行っている企業のほうが短いことが読み取れ

る。特に、「ノー残業デー」・「長時間労働の者やその上司への注意・助言」を「やって

いる」と回答した労働者は、「やっていない」と回答した労働者よりも、毎月の労働時間

が 10 時間以上短いことが読み取れる。

図 16

ノー残業

デー

退勤時刻の

際の終業の

呼びかけ・強

制消灯

IDカード等

による労働

時間の管

理・把握

自分の労働

時間が簡単

にわかる仕

組み

長時間労働

の者やその

上司への注

意・助言

定期検診以

外での長時

間労働やス

トレスに関

するカウン

セリング

非管理

やって

いる 175.0 175.6 179.6 178.6 177.6 177.3

やって

いない 187.9 185.9 185.0 187.2 188.2 186.0

合計 183.2 183.2 183.1 183.2 183.2 183.3

管理職

やって

いる 180.4 182.3 184.6 182.5 181.9 181.1

やって

いない 190.6 187.4 187.1 189.0 191.9 190.6

合計 186.0 185.9 186.0 186.0 186.0 186.0

長時間労働対策の実施別に見た月間総労働時間の平均(時間)

(2010 年「仕事特性・個人特性と労働時間」(労働政策研究・研修機構)より作成)

以上より、より多くの企業が自主的に労働時間を短縮しようとする取り組みが広まるこ

とで、労働時間は最大で 10 時間短縮できると考えられる。このことから、政府が具体的

にできる政策は、労働時間の短縮に関心のある企業に対して、表 16 で挙げた取り組みを

周知すること、労働時間の短縮に成功している企業に対して表彰を行い、政府がその取り

組みを公表すれば、更なる効果が期待できるだろう。

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ISFJ2015 最終論文

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●政策の実現可能性

政策の実現可能性を示すために、北九州市ワーク・ライフ・バランス推進協議会(北九州

市総務企画庁)と、同協議会によって、表彰を受けた「社会福祉法人北九州市手をつなぐ

育成会」(福祉業)での取り組みを紹介する。

まず初めに、北九州市ワーク・ライフ・バランス推進協議会での取り組みについて述べ

ていく。ここでは、労働者の仕事と子育て、介護の両立を支援している企業で表彰を行っ

ており、表彰を受けた企業は、物品等供給契約の入札参加資格審査、建設工事の入札参加

資格審査、公共工事の総合評価方式での入札、中小企業融資制度の申し込みの 4 つの項目

において優遇される。

次に、社会福祉法人北九州市手をつなぐ育成会での取り組みを紹介する。社会福祉法人

北九州市手をつなぐ育成会では、「残業管理委員会」という部署が設置されており、サー

ビス業の残業を当然とみなす意識を改める試みを行ってきた。結果として、「社会福祉法

人北九州市手をつなぐ育成会」は、労働者が育児休業後の短時間労働を選択可能となった

こと、残業時間削減への取り組みが積極的であることが評価され、2009 年に、北九州ワー

ク・ライフ・バランス表彰にて、表彰された。

以上の例から、政府と企業が取り組みを行うことで、政策の実現可能性を期待できる。

第 3 項 保育サービスの充足

政策提言①と②が運用されることによって、女性の就業率が上昇し、男女の超過実労働

時間が減少すると考えられる。そこで政策提言の 3 つ目としては、女性の就業を手助けす

るための政策を打ち出す。それは、女性が働いている間に自らの子どもを預けておく場所、

つまり保育サービスが十分に整っていることである。言いかえれば、そのような保育サー

ビスが十分に整っていない状態で、出産後も働こうとしている女性は子どもを産むことに

対して後ろ向きであるだろう。そのため、保育サービスを充実させることは、その時点で

子どもを育てている人々だけではなく、今後子どもを出産しようとしている女性にも有効

な政策であると考える。

本稿における保育サービスの充足という政策においては、2 つの政策を打ち出す。

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1 つ目は、待機児童率の解消とそれに伴う保育士の確保が挙げられる。現在、特に都市

部において保育園の待機児童率が高くなっている。一見、少子化がより急速に進行してい

る都市部では、少子化により待機児童も減少していると考えられる。この矛盾は、保育士

不足が原因に挙げられる。保育士は、待遇や賃金の面において他の仕事と比べると劣悪な

環境に置かれていることが多く、現在保育士の資格を持っているのにも関わらず保育士と

して働いていない人が増加している。さらには、全国保育協議会の 2011 年度の調査によ

ると、全国の公私立保育園において 85.9%において非正規の保育士を雇用していることが

判明した。特に、公立保育所においては 2 人に 1 人が非正規職員である。非正規職員は正

規職員に比べて、給料が低いだけでなく、退職金や昇給もないため、正規職員と比べて労

働環境の悪さを鑑みることができる。現在のまま、非正規職員が増加していくと労働環境

の悪さゆえに、ますます現役の保育士が減少していくと考えられる。つまり、待機児童の

解消のためには、正規職員の保育士を増加させ、保育士を安定的に確保することが必要で

あると考えられる。

しかし、ただ単に保育士の数を増やすことと、親が保育園に預けようとすることは一致

しない。親が保育園に求めるものとしては、「保育の質」である。やはり、自分の目の届

かないところに子どもを預けるため、親は保育の質が良いと保育園に子どもを預けようと

する。そのため、保育士の労働環境を改善することも大切であるが、その際に保育の質が

下がらないような保育士自身のスキルアップが必要とされる。この点については、保育士

として実践的に働く前にもう一度研修をする、また保育士として働いている間も保育士同

士で協力し合える環境を作りあうことが必要であると考える。

以上より、待機児童解消のためには保育の質を上げながら、正規職員の割合を増やすこ

とが必要であると考える。

2 つ目としては、保育園だけでなくベビーシッターの有効活用が挙げられる。現在、日

本は他の先進諸国と比べてベビーシッターを利用する文化が根付いていない。しかし、ベ

ビーシッターは比較的低額で頼むことも可能であるメリットがある。また、政策提言①に

おける就業スタイルも自由選択制によって母親が短時間だけ、あるいはシフト制のように

変則的な勤務体系で働くことになった場合、保育園では親の希望に対応しきれない場合も

ある。そのような際、ベビーシッターならば保育園では不可能な親の希望も融通が利くだ

ろう。

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ISFJ2015 最終論文

45

日本では、未だベビーシッターの文化は根付いていないが、今後女性が働くようになっ

ていく場合、子どもを預ける場所を探すのは急務である。保育園に入ることができなかっ

たためベビーシッターという考え方ではなく、最初から保育園かベビーシッターという選

択肢があると地域全体としても、待機児童問題が解消されていくと考える。

●政策の実現可能性

保育所職員の正規雇用化とベビーシッター制の導入は今のところ運用がされていないた

め、政策の実現可能性については未知な部分も多い。しかし、政策提言①と②が運用され

ても子どもを預けられる場がなければ女性は働くことができないであろう。そのため、こ

の政策は実現可能性については未知数であるが政策が行われるべきであると考える。

本稿では、分析により「女性の就業率を上昇させ、男女の超過実労働時間を減少させる」

と合計特殊出生率は上昇することが判明した。その結果より、この章では政策提言として

3 つの政策を掲げた。そして、この 3 つの政策はお互いを補いながら効果を発揮すると考

えられるため、3 つの政策が同時に行われる必要がある。

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おわりに

本稿の目的は、女性就業率と労働時間が出生率低下の規定要因であるとし、女性就業率

を上昇させ、労働時間を短縮することによって出生率の上昇を試みることであった。

本稿では先行研究ではなかったものとして、男女別の超過実労働時間に注目して分析を

行ってきた。分析では、「超過実労働時間が長く、女性の就業率低いと合計特殊出生率を

低下させる」という仮説を立てた。その結果、超過実労働時間と合計特殊出生率には負の

相関、女性の就業率と合計特殊出生率には正の相関があることが分析より明らかになった。

そして、政策提言部においては、分析結果をもとに 3 つの政策を打ち出した。その 3 つの

政策は労働者側の視点からのもの、企業側からの視点のもの、そしてそれらを補うものに

分類される。そして、これらは補完的なものであるため同時に 3 つの政策が成り立ってい

ることが必要であると考える。

また、本稿の内容・政策が ISFJ を通して各所に広がり、出生率回復の一助となること

を願い本稿を締めくくる。

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先行研究・参考文献・データ出典

【参考文献】

・増田幹人(2012)『マクロ経済モデルによる家族・労働政策が出生率に及ぼす効果の分

析』人口問題研究 機関誌 第 68 巻第一号特集Ⅰ 「家族・労働政策と結婚・出生行動

の研究(その2)」pp14-31

・藤野敦子 (2003)『「男性の働き方の見直し」は出生力を高めるのか』

関西学院大学 産業研究所 産研論集 第 30 号 pp47-55

・坂爪聡子(2010)『都道府別に見る出生率と女性就業率に関する一考察』

京都女子大学現代社会研究

・伊達雄高・清水谷論 (2004) 『日本の出生率低下の要因分析:実証研究のサーベイと政

策的含意の検討』 内閣府経済社会総合研究所

・戸田淳仁(2007) 『出生率の実証分析―景気や家族政策との関係を中心にー』

独立行政法人経済産業研究所

・樋口美雄(2010) 『労働市場と所得分配』 内閣府経済社会総合研究所

・平成 25 年度版厚生労働白書 『若者の現状と課題』

【引用文献】

・加藤 久和「人口経済学入門」日本評論社(2001 年 5 月 10 日)

・総務省 HP 「少子高齢化・人口減少社会」閲覧日 9 月 10 日

(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112120.html)

・文部科学省 HP 「少子高齢社会の現状と科学技術の課題」閲覧日 9 月 10 日

(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200601/001/001/0101.htm)

・厚生労働省 HP 「出生に関する統計」閲覧日 9 月 10 日

(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo1.html#03)

・内閣府 HP 「少子化対策」閲覧日 9 月 10 日

(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/data/jinkou.html)

・労働政策研究・研修機構 HP「2010 年仕事特性・個人特性と労働時間」

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(www.jil.go.jp/press/documents/20101207.pdf)

・縄田康光(2009)

『少子化を克服したフランス~フランスの人口動態と家族政策~』

衆議院常任委員会第三特別調査室 「立法と調査」

・柳沢房子(2007)

『フランスにおける少子化と政策対応』

国立国会図書館「レファレンス」

・日本労働研究機構欧州事務所(2003)

『フランスの家族政策、両立支援政策及び出生率上昇の背景と要因』

・独立行政法人 経済産業研究所 「少子化と日本経済の影響」

http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/02111501.html

・厚生労働省 人口動態統計特殊報告

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/list58-60.html

・日本経済新聞 2012 年 11 月 10 日夕刊

「全国の保育所、86%で非正規雇用 公立では2人に1人」

【データ出典】

・厚生労働省 HP (2002-2012) 「合計特殊出生率」人口動態統計

(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei11/)

・厚生労働省 HP (2002-2012) 「妻の平均初婚年齢」人口動態統計

(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka04.html)

・厚生労働省 HP (2002-2012) 「25-29(30-34)歳男女超過実労働時間」賃金構造基本統

計調査

(http://stat.jil.go.jp/jil63/plsql/JTK0400?P_TYOUSA=R1&P_HYOUJI=C0040&P_KI

TYOU=0)

・総務省統計局 HP (2002,2012) 「女性の有業率」就業構造基本統計

(http://www.stat.go.jp/data/shugyou/topics/topi740.htm)

・文部科学省 HP (2002-2012)「大学・短大等進学率」学校基本調査

(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528)

(URL はすべて 2015/10/20 アクセス)