呼吸アセスメント能力向上プログラム 異常な呼吸パターンの...
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質向上!
やる気UP!
輝く現場の取り組み
筆者「患者さんの呼吸はどんな様子?」後輩「呼吸しています!」筆者「そうだね~,呼吸はしているね。ほかに気になることはない? 例えば,呼吸のパターンとかは?」
後輩「呼吸パターン?」筆者「そうだよ,この患者さんは緩徐に頻呼吸と無呼吸を繰り返しているでしょう。これって何か分かる?」
後輩「???」筆者「チェーン・ストークス呼吸だよ,知ってる?」
後輩「これがチェーン・ストークス呼吸ですか…。学生の時に聞いたことはありますけど,見るのは初めてです」
このように後輩看護師は,呼吸パターンの異常に
対する認識が低いため,気がつかないことがありま
した。また,学生時代に学んだ知識として知ってい
ましたが,実際のチェーン・ストークス呼吸を見た
ことがないことも要因だったと考えられます。もち
ろん筆者はその場で病態について説明はしました
が,知識として“分かった”だけで,観察“できる”
という次のアクションにつなげるためにはもっと工
夫が必要だと考え,呼吸パターンについての研修会
を企画しました。
●当院の新人看護師研修へ組み込む 当院看護部で新人看護師へ毎月実施している
看護師の日常業務において,患者の状態を把握す
るためバイタルサインを測定し,アセスメントを行
うことは必須です。臨床では体温や心拍(脈拍)数,
血圧,呼吸回数,SpO2の測定は日常的に実施して
いると思います。しかし,呼吸パターンの観察はど
うでしょうか。例えば,クスマウル(Kussmaul)
呼吸は重症代謝性アシドーシスを示す症状です1)。
また,死戦期呼吸が見られた場合は心停止などが示
唆されます。
このように呼吸パターンの異常は,患者の病態を
判断する上で非常に大切な徴候の一つと言えます。
しかし,実際の臨床では呼吸パターンの観察に対
し,多くの看護師が苦手意識を持っているのではな
いでしょうか?
そこで,今号から前編,後編の2回に分けて,当
院で実施している効率的に学習できるように工夫
し,異常な呼吸パターンの判断に対する看護師の判
断能力と,アセスメント能力向上に取り組んだプロ
グラムを紹介します。
プログラムの開発に至った経緯●救急外来での出来事 筆者が救急外来で勤務している時,搬送されてき
た患者がチェーン・ストークス(Cheyne-Stokes)
呼吸であることに気づきました。そこで後輩看護師
に観察してもらおうと考え,質問しました。
呼吸アセスメント能力向上プログラム 異常な呼吸パターンの認識と
アセスメント〈前編〉研修会の企画と教材開発の進め方
おもと会 大浜第一病院 看護管理室 看護主任 嘉陽宗司2002年沖縄看護専門学校卒業後,大浜第一病院へ入職。混合外科,救急外来,教育研修センター専任主任を経て,2017年より現職。看護部の教育担当業務の傍ら,AHA(アメリカ心臓協会)BLS/ACLS Faculty,ACLS-EP Course Directorとして,県内外でAHAコース活動を実施。また,バイタルサインからの臨床推論を学ぶシミュレーションコース,CPVS/BPVSコースの共同開発者として,全国各地でセミナー活動に取り組んでいる。
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「フォローアップ研修」では,多重課題,輸血の取
り扱いと実施,清潔操作(ガウンテクニック)など
のさまざまな研修を企画しています。その中の呼吸
音聴診に対するスキルを学ぶ「呼吸のフィジカルア
セスメント」研修に呼吸パターンの研修も組み込む
ために,今回の異常な呼吸パターンに対する認識と
アセスメント能力を高めるための研修教材を作りま
した。
●本研修企画時の課題 研修を企画するに当たり,次のような課題が挙が
りました。
①限られた研修時間
・研修時間は午後の2時間以内(休憩時間込み)
・1回の研修で受講するのは5~10人程度
②講師となる先輩看護師の負担
・座学だとスライドの作成や講義をするスタッフ
が必要
・指導者の勤務調整が大変
・ある指導担当看護師:「講義しろと言われたら
緊張して夜も眠れません!」
③新人看護師への対応
・新人看護師は午前中に勤務をしてから研修に参
加するので,午後の研修で座学なんかしたら
眠ってしまう可能性が高い!
このような事情から,研修に座学を導入するのは
困難でした。筆者が目指す“できる”ようになる研
修にするためには,シミュレーションを中心とした
内容が効果的と考えました。そこで,さらに指導す
るスタッフの負担を減らして効率化を実現するた
め,必要な知識は受講生各自で研修前に自己学習す
ることとしました。
●事前学習教材を作る 研修の効率化を実現するためには,受講者の準備
を整えておくことが必要不可欠です。事前学習を導
入することで,異常な呼吸パターンと推測される病
態に関する知識を揃えることができます。しかし,
知識を揃えるためには,受講者にきちんと学習して
もらうことが条件です。その工夫として,通常は学
習資料としてテキストなどの紙媒体が一般的です
が,筆者は異常な呼吸パターンを認識できるように
なるためには映像資料を用いることが効果的だと考
え,動画教材を製作することにしました。
動画教材を製作する際に工夫したことを表1に示します。
製作した動画教材は,チェーン・ストークス呼吸
(図1),クスマウル呼吸(図2),死戦期呼吸(図3)の3つです。動画の内容は,異常な呼吸パターンの
動画(筆者が患者役)とその解説,考えられる病態
で構成しました。また,動画の時間は約2分にまと
め,すきま時間に学習できるようにスマートフォン
やタブレット端末で視聴できるようにしました。
•異常な呼吸パターンの認識と起こっている病態を学べるようにする
•集中して学習できるよう,視聴時間を短くする
•いつでもどこでも好きな時に視聴し学習できる
表1 動画教材の製作のポイント
無呼吸と大呼吸を緩徐に規則正しく繰り返す。脳に何らかの障害(虚血・低酸素・中毒)で見られる呼吸パターンの異常
脳の虚血•脳実質:脳梗塞・脳腫瘍•血管病変:大動脈解離による脳循環の減少•全身:ショックによる循環血液量低下
脳の低酸素•呼吸不全による酸素供給不足
考えられる病態 脳の中毒•高尿素窒素血症(尿毒症)•高アンモニア血症(肝硬変)•高二酸化炭素血症(心不全・COPD)
動画
図1 チェーン・ストークス呼吸
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研修プログラムの企画,準備●研修会の企画 製作した動画教材を事前学習とした研修プログラ
ム「呼吸のフィジカルアセスメント:異常な呼吸パ
ターンの認識とアセスメント」として企画をしてい
きます。
看護部の承認を得た研修会として開催するために
は,上司や部署の管理者,施設によっては関連する
委員会などで検討を求める必要があります。よっ
て,研修のプランをしっかり立てていきます。
●研修計画書の作成(資料1) 研修計画書は研修を成功に導くために必要不可欠
で,料理でいうレシピのようなものです。表2に必要な項目を記します。
●研修に必要な書類・資料の準備●プレテスト,解答用紙の作成 研修の前提条件として,動画で学習することとし
ているので,研修に必要な知識の確認をするために
プレテストを実施します。
•重症代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾いている状態)で血液中の酸を呼吸(二酸化炭素を吐き出す)ことで代償している状態
•換気量が増加するため,会話がままならない(文章が言えず,単語ごとに呼吸をする)必ずしも頻呼吸とは限らない
AG開大性アシドーシス(酸の蓄積)•乳酸アシドーシス•ケトアシドーシス (糖尿病性,アルコール性,飢餓性)•腎不全
考えられる病態
AG非開大性アシドーシス (アルカリの喪失)•消化管でのアルカリ喪失(下痢)•腎臓でのアルカリ喪失 (尿細管アシドーシスなど)
動画
※AG:アニオンギャップ図2 クスマウル呼吸
•死戦期呼吸は哺乳類で見られる低酸素時の呼吸反応で「喘ぎ呼吸」や「下顎呼吸」とも呼ばれる
•低酸素になると…呼吸促拍→呼吸停止→喘ぎ様の呼吸が出現(死戦期呼吸)→呼吸停止,死亡
•死戦期呼吸が起こる原因は不明
図3 死戦期呼吸
動画
研修名:呼吸のアセスメント(呼吸パターンの異常) シミュレーション。対象:新人看護師前提条件: 異常な呼吸パターン(チェーン・ストークス呼吸・クスマウル呼吸・死戦期呼吸)の事前学習を行っている。 異常な呼吸パターンから考えられる病態(脳の異常,重症代謝性アシドーシス,心停止など)について学習している。目的異常な呼吸パターンにおけるアセスメントと初期対応を実践できる。
目標•異常な呼吸パターンを認識し病態と関連付けができる•アセスメント結果をSBARにて報告できる•初期対応ができる評価方法•事前学習による知識の評価をプレテスト•チェックリストにてシミュレーションによる行動を評価•知識の定着を確認するため,ポストテストにて評価事前学習:呼吸パターンの異常について製作した動画教材と病態・疾患についての資料を配布し学習してもらう。
必要機材:患者モニター表示シミュレーター呼吸パターンの異常の再現は模擬患者が望ましいが,動画で症例を示しても良い。
タイムスケジュール 所要時間
オリエンテーションプレテスト:呼吸パターンの異常を判別
症例シミュレーション5分(チェックリストで評価)ディブリーフィング5分
まとめ ポストテスト・アンケート記入
5分15分
10分×5回=50分予備時間として10分ほど確保する
20分
受講者:5~ 10人(1研修当たり) タイムスケジュール:研修時間100分
資料1 研修計画書
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