エレベーター救助 - 興部進歩の会ops2018/04/03 · エレベーター救助 原 康平...
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エレベーター救助
⽯原 康平
(茨城県⼟浦市消防防本部)
この度「救助の基本+α」を担当させていただく茨城県⼟浦市消防本部の⽯原と申します。いつもこのコーナーを拝⾒し現場活動の参考にさせていただいているので,まさか⾃分が担当するとは・・・⼤変光栄です!さて今回はエレベーター救助(閉じ込め救出)について書かせていただきます。
1 はじめに
私達が⽣活においてエレベーターは,建物内を上下⽅向に移動する「縦の交通機関」であり,誰しもが利⽤する⾝近な設備です。しかし地震や停電,機器の不具合等によりエレベーターかご内の乗客が閉じ込められる場合があります。この「閉じ込め」に対し,消防としてどのような流れで対応していくかということと,基本的なエレベータに関する知識について説明していきたいと思います。※なおエレベーター関係者より,本誌は⼀般の⽅も読む可能性があり,乗場⼾解錠等の詳細は事故や悪戯が起こる可能性があるため控えてほしいとのことでした。エレベータ各社が消防向けに配布しているマニュアル等を参考にしてください。
2 エレベーターの知識
エレベーターは主に「油圧式」と「ロープ式」の駆動⽅式があり,「ロープ式」の中でも機械室の有無で別れます。つまり「油圧式」,「ロープ式(機械室あり)」,「ロープ式(機械室なし)」に分けられます(図1参照)。「油圧式」は油圧によりプランジャーを駆動してかごを昇降させるもので,「ロープ式」はかご室とつり合おもりをロープでつなぎ摩擦⼒によって昇降させるものです。救出に⼤きく関係するドアは,乗場⼾(外側)とかご⼾(内側)の2枚で,中央開きと⽚開きのものがあります。中にはガラス⼾を使⽤したものがあり,かご室の状況や停⽌位置が確認できます。かご室は難燃材で作られており(⾮常⽤エレベーターは不燃材),気密構造ではないため閉じ込められても窒息する⼼配はありません。停電時にはかご内の停電灯が点灯します。
エレベーターが乗場以外で⽌まる要因として下記等があります。・電気回路が絶たれる(停電やその他電気異常)とブレーキが作動する。・エレベーターの速度が異常に増⼤した際にブレーキが作動する。
また,地震や⽕災,停電といった不慮の事態が発⽣した際に最寄階や避難階に直⾏させるといったような安全を図る管制運転機能を有しているものがあります。⼾が開いたまま⾛⾏しない機能(⼾開⾛⾏保護装置)や,電源が⼊っている時はかご⼾が開かない等といった安全装置が設けられているものもあります。なお全てのエレベーターがこのような機能を有しているわけではないことに注意しましょう。※エレベーターは製造会社・年式や構造または安全装置の有無など,それぞれ違いがあります。
図1:エレベーターの駆動方式
ロープ式(機械室あり) ロープ式(機械室なし)油圧式
確認事項
・かご内の⼈数
3)かご内の状況確認(インターホンや⾁声による)
2)停電しているかを確認する。停電の場合は電⼒会社に連絡し,復旧までの時間を確認する。
管理室や⼀階の乗場付近等に,かご室内と通話ができるインターホンが設けられている。これを⽤いて要救助者と通話し状況を確認する。(写真1・2参照)
1)⼊電以降,エレベーター会社が判明次第連絡し現場に向かってもらうよう要請する。また現場によってはビルの管理⼈が常駐しており,鍵やスイッチの位置を把握していることがあるということも念頭に置き活動する。なお要救助者を緊急的に救出しなければならないと判断した際は救出に移⾏する。
3 救出⼿順 エレベーターの閉じ込め事故が起きた際は,以下のような⼿順で活動します。
図2:救出フローチャート1
※エレベーター会社が判明次第次第 すぐに連絡する。
5)エレベーター作業員や停電時の場合は復旧が⻑時間になる時やかご内の要救助者を緊急的に救出する必要があると判断できる時は以下のような⼿順で救出活動にあたります。 消防による救出について
全ての活動においてエレベーター会社から助⾔をもらえるよう,電話をつないでおく。エレベーターは多種多様(製造会社・年式・規模)であり,同じ製造会社でも違うためエレベーター会社に確認しながら活動します(消防隊員の知識経験や⼿持ちの資料のみでは構造やスイッチ等の位置を完璧には把握しきれていないため,危険かつ⾮効率です)。
・健康状態の確認
・発⽣状況やかご内の状況(照明点灯や傾き等)
この時要救助者の健康・精神状態をしっかり確認し相⼿の⽴場になって考えること。閉じ込められているという特殊な環境ということを理解し,安⼼させるような⾔葉をかける。私が出場した閉じ込め事例でも,ガラス付のドアで要救助者が⾒える状況であったにも関わらず,要救助者の状態をしっかりと確認する前に隊全体の意識が「ドアの開放」に向いてしまう事などもあった。反省・・・
※停電でない際は全ての⾏先階ボタンを押してみるよう指⽰する。
4)エレベーター会社,その他関係機関への連絡,確認
エレベーター会社作業員の到着や復旧時間等を伝えたり,時間がかかる際は消防にて救出するなど現況および今後の活動⽅針を伝えます。また要救助者本⼈の状態を再度確認すること。
・エレベーター会社に作業員の到着時刻等を確認する。
・エレベーター内に連絡し状況を伝える。
写真1:インターホンにて 写真2:乗場から肉声にて
+α
+α
5)エレベーター作業員や停電時の場合は復旧が⻑時間になる時やかご内の要救助者を緊急的に救出する必要があると判断できる時は以下のような⼿順で救出活動にあたります。 消防による救出について
全ての活動においてエレベーター会社から助⾔をもらえるよう,電話をつないでおく。エレベーターは多種多様(製造会社・年式・規模)であり,同じ製造会社でも違うためエレベーター会社に確認しながら活動します(消防隊員の知識経験や⼿持ちの資料のみでは構造やスイッチ等の位置を完璧には把握しきれていないため,危険かつ⾮効率です)。
過去に乗場⼾が開いたままかご室が動き⼈が挟まれた事故がありました。状況によっては当て⽊等によって挟まれ防⽌を図ります。
6)救出活動中に不意にエレベーターが動く恐れがあるため,電源を切り休⽌状態にします。
※休⽌状態にしないとかご⼾が開かないものもある。
図3:救出フローチャート2
かご室と乗場の段差が60cm以内か隙間から確認します。(写真3・図4参照)
9)60cm以内の場合かご内の要救助者にドアから離れるように伝え乗場⼾を全開し,かご⼾も全開します。開ける前に中の要救助者がドア付近にいる恐れがあるため,必ず注意喚起します。全開したドアは⾃動で閉まるため,⽤⼿やドアストッパー(マイナスドライバー等差し込めればOK)で閉まらないようにします。その後要救助者を救出し,ドアを全閉します。(写真4・5・6参照)
8)かご室の有無と停⽌位置を確認します。
過去に乗場⼾が開いたままかご室が動き⼈が挟まれた事故がありました。状況によっては当て⽊等によって挟まれ防⽌を図ります。
各社のマニュアルや電話にてエレベーター会社からのアドバイスを参考に「乗場⼾解錠キー」にて乗場⼾を数cm開けまする。※乗場⼾の解錠⽅法は各エレベーターごとで違い,専⽤の鍵が必要。
7)乗場⼾の開錠 ※ここから先の活動は常に昇降路への転落防⽌を図りながら活動します。
図4:かご室と乗場の段差 写真3:乗場戸の隙間からかご室の停止位置を確認
10)60cmを超える場合状況から要救助者を安全確実に救出できるかどうかを判断します。それができない場合はエレベーター会社の作業員を待ちます。救出する際は⾮常に危険であるため転落防⽌を徹底します。※特にかご⼾解放時が危険
写真4:乗場戸を全開 写真5:かご戸を全開
写真6:必要があれば中に乗り込み,介添えして救出する
かご⼾と乗場⼾が重なっている部分があり救出スペースがある状況では転落防⽌を図りながら,段差が⼤きいので脚⽴を⽤いての救出しまう(救助者がかご内に⼊り補助する)。なお段差が⼤きい時は昇降路へ転落する恐れがある隙間ができるため注意します。(写真7・8参照)
状況から要救助者を安全確実に救出できるかどうかを判断します。それができない場合はエレベーター会社の作業員を待ちます。救出する際は⾮常に危険であるため転落防⽌を徹底します。※特にかご⼾解放時が危険
写真7:段差(乗場床面とかご室床面の差) 写真8:昇降路へ転落に注意
≦60cm?
danger!
・かご室の上部に移動(落差が⼤きい時はかぎ付きはしごを使⽤する)
・救出⼝を開け,脚⽴やかぎ付きはしごを⽤いて救出する。
・エレベータのかご室が停⽌している位置の直上階のに移動し「乗場⼾」を開放する。
かご室天井にある救出⼝からの救出について(乗場に停⽌していない,つまりかご⼾と乗場⼾が重なっている部分がなくドアから救出できない状況)※近年製造のエレベーターにはほとんど設けられていない。なお⾮常⽤エレベーターには必ず設けられている。ちょっと⼀⾔ 私⾃⾝正直ほとんどのエレベーターに救出⼝があると思っていましたが,街中でエレベーターに乗る度に天井を確認したところ,救出⼝が付いたエレベーターはなかなか⾒つかりませんでした。アクション映画の観すぎですね(笑)(図5・写真9参照)
※救出⼝がない場合はかご室を乗場まで動かし救出するため,作業員の⽴ち会いは必須です。
準備する資機材(写真10参照)
基本的な救助個⼈装備で対応
・所有するエレベーター会社ごとの各種鍵(乗場⼾解錠や休⽌モード切替キー等)やマニュアル
・かぎ付きはしご・脚⽴・ドアストッパー(ドア閉まり防⽌)
・要救助者⽤ヘルメット・安全帯 ・拡声器 ・ロープ(⾃確設定⽤ロープ,救出⽤)
※場合によってはハーネスを着装します。
個⼈装備(写真11参照)
図5:救出口使用例
写真9:かご室天井(救出口なし)
写真10:準備する資機材(例) 写真11:個人装備(例)
+
出 ⾝ 地 茨城県
趣 味 サーフィン・ゴルフ(腕前はイマイチ)
以上が基本的なエレベーター閉じ込めに対応する活動の流れになります。エレベーター会社や消防の他本部の⽅と話したり,エレベーター関係の資料に⽬を通したりして私なりに「エレベータ救助」について研究しましたがどれも活動の流れ等に⼤きな違いはありませんでした。(違ったらすみません・・・) 先にも記載しましたが,各エレベーターで機能や構造,規模が違い救出のアプローチが異なってきます。もちろんこれら全てを把握し理解するのが理想ですが,なかなか難しいことだと思います。様々な種類のエレベーターに対応するためには普段からメンテナンスをしている「エレベーターのプロ」つまりエレベーター会社の作業員に⽴ち会ってもらうことが安全に救出できる⼀番の⽅法です。仮に⽴ち会うことができない状況でも,リアルタイムで電話の助⾔をもらい活動することが安全確実な救出活動につながります。 そして⼀番⼤切なのは当たり前ですが,「要救助者」のことを考えた活動です。意外に「エレベーター救助」のような特殊設備が関係する事案では隊全体の意識が機械に向きがちです。かご室内の状況(⼈数・年齢・健康状態・発⽣時間)をしっかりと把握した上で活動⽅針を決め,「声」で閉じ込めれている⼈の不安を拭い安⼼させてあげるといったことが⼤切なのではないでしょうか。 「エレベーター救助」において記載したようなフローチャートのようにはいかない時もあると思います。例えば⼤規模地震が起きた際,多くのエレベータの閉じ込め事故が発⽣すると予想されます。その時エレベーター会社はパンク状態となり,作業員の⽴ち会いや助⾔等が無い状況での活動になることもあるでしょう。活動マニュアルがあっても何かが変わるだけで「想定外」になります。その「想定外」に対応する能⼒こそが「+α」なのではないでしょうか。
消防⼠拝命 平成17年 4⽉
座右の銘 明⽇やろうは⾺⿅野郎!
撮影協⼒ 岡⽥ 淳史
著 者 ⽯原 康平(イシハラ コウヘイ)
4 最後にちょっと⼀⾔
所 属 ⼟浦市消防本部 ⼟浦消防署
余談ですが,今回の執筆中に1件のエレベーター閉じ込めによる救助事案へ出場しました。私はちょうどエレベーターに関する知識を増やし意気揚々と現場に向かいましたが,エレベーターの製造会社が私達が所有している鍵や対応マニュアルと⼀致しないものでした・・・この時⼀瞬「まいったな」と頭の中でつぶやきました。幸いエレベーター会社から電話で助⾔をいただきドアを開け救出することができました。何度も述べているようにエレベーターは多種多様で,さらには製造業者も事故を無くしより安全にするため⽇々研究をしてエレベーターの「安全装置」も進化しているそうです。救助活動時にはこの「安全装置」が障害になることもあるでしょう。こういったことから「エレベーター救助」では⼿技的なものよりも,状況を把握し決断する判断⼒とイレギュラーに対する対応⼒が求められるのではないでしょうか。 少々⻑い「ちょっと⼀⾔」となってしまいましたが,今後もあらゆる災害において最善な活動が⾏えるよう「+α」を増やし,要救助者に対して思いやりたっぷりの救助隊員になれるよう誠⼼誠意努めて参りたいと思います。
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磯⼭ 裕貴
⽥中 洋平