シェアリングエコノミーの定量分析...定義...
TRANSCRIPT
定義
シェアリングエコノミーとは、主にオンラインプラットフォームを通じて、部分的または一時的に余剰なモノやサービスを共有する経済システムのこと
「所有」から「利用」へ
Uber(ライドシェア)
Airbnb(空き部屋の一時的な貸出、民泊)
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全世界の市場規模
2025年には3350億ドルに
総務省「情報通信白書平成28年版」
PwC「The sharing economy - sizing the revenue opportunity」
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Airbnb
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民泊仲介世界最大手の米エアビーアンドビーを利用した訪日客の数が2016年1~10月の累計で300万人を超えたことが明らかになった。10月末で訪日外国人観光客の数は2000万人を突破しており、1割前後が同社のサービスを使ったとみられる。民泊を巡る法整備が難航する中、訪日客の利用が先行していることが浮き彫りになった。
2016/11/16 日本経済新聞
1.データ・指標
どのようなデータや指標を用いれば、シェアリングエコノミーの影響を観察できるか 具体的な影響
Uberが普及 Uberへの仲介手数料(GDPでカウントされる)
Uberのドライバーの所得(GDPでカウントされるはず)
利用者厚生の上昇(GDPではカウントされない)
自家用車保有率の低下⇒販売量の減少=消費低下⇒GDP低下の可能性 GDPで測ると、経済に及ぼす影響はネットでマイナスになる可能性
類似の事例:フリーミアム
オンライン無料百科辞典(Wikipedia)の普及
ブリタニカが売れなくなる&GDPにカウントされない⇒GDPにマイナス
先行研究では広告費用やブラウジング時間、ブロードバンド接続料や通信トラフィック量による計測が試みられている。
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1.データ・指標
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原理的には消費者余剰で計測するのが最良
しかし消費者余剰は観察不可能
GDP:経済厚生を測ることができない。
デジタル経済の測定(OECD)
「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」
本研究では、
シェアリング関連企業の株価を使って、シェアリングエコノミーが企業の期待キャッシュフローに与える影響を推定する。
2.因果効果
経済学の実証分析では、仮説を検証する際、相関関係だけでなく、因果効果の推定が求められる。
逆因果・内生性の問題
一般的な分析手法(skipped)
1. 構造推定
2. 誘導形推定
1. RCT(ランダム化比較試験)
Observed difference=Treatment effect
2. 自然実験・疑似実験・DID(差の差推定)
Observed difference=Treatment effect + Selection bias
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差の差推定(skipped)
標準的な応用計量の手法
集団を、外生的な変化を受ける処置群(Treated)と変化を受けない統制群(Control)に分ける。
処置群と統制群の差が因果的な処置効果(Treatment effect)
0 1Time
Control
Treated
Treatment effect
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差の差推定の拡張
1. 差の差推定は一般に静的な線形回帰モデルを仮定しており、系列相関のあるデータに用いると狭い信頼区間を推定することになる。
2. 差の差推定は2時点間での因果効果の有無しか測ることが出来ない。
変化の効果がどのように発現しまた変化していくのか、が重要な問いであることが多い。
いつ変化の効果が発現し終わったのか、について強い仮定を置いて分析することになる。
変化の効果が継続中、またはその可能性がある場合、分析結果の解釈が困難。
⇒現在進行的な現象であるシェアリングエコノミーの影響を測るため、新しい推定手法を用いる。
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今回用いる統計手法(Brodersen et al. (2015))
(skipped)
拡張型差の差推定
1. データを変化前と変化後に分割する。
2. 変化前のデータを使って、時系列モデルを推定 状態空間モデルを使用する。
同時点の説明変数、潜在的な状態変数を用いた柔軟なモデル化が可能
機械学習の文献ではベイズ構造時系列(BSTS)モデルと呼ばれる。
3. 推定した時系列モデルを使って、反実仮想の変化後データを推定する
もしも変化がなかったら、どのようなデータだったのか
4. 推定した系列と現実のデータの差を求めることで、因果的な処置効果を計測する。
現実のデータは処置群、予測した系列は統制群と考えられる。
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応用:拡張型差の差推定
1. シェアリングエコノミーを『変化』と考える。
2. 株価の時系列を変化の前後に分割する。
Uber登場以前・以後など
3. 変化前の株価の時系列を使って、時系列モデルを推定
状態空間モデルを使用する。
同時点の説明変数、潜在的な状態変数を用いた柔軟なモデル化が可能
4. 時系列モデルを使って、変化後の株価の時系列を推定
変化がなかった時の反実仮想データを求める。
5. 現実の時系列と推定した時系列の差を求めることで、因果的な処置効果を計測する。
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イベント
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どのようなイベントを「変化点」とみなすか
UberやAirbnbといったユニコーン企業は上場しておらず、B/Sデータも利用できないため、見極めが困難
本研究では、VCからの投資ラウンド情報を利用
評価額がある一定以上になった時の投資ラウンドの日付を『変化』とみなして、分析を行う。
UberはシリーズB投資ラウンドで$3.5Bと評価
AirbnbはシリーズD投資ラウンドで$10Bと評価
仮説1
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Uberが普及することによって、タクシーメダリオン(営業権)の価値が下がる。
1. メダリオン関連の融資業務を行っているメダリオンフィナンシャルの株価を代理変数として使用
メダリオン・ファイナンシャル(Medallion Financial Corp.)は特殊金融会社。タクシーの営業免許証、関連資産の購入及びローンを提供している。
その他の事業も行っているので、完全な代理変数にはならない。
2. シカゴのメダリオン価格を用いて分析
メダリオンは市場で売買されているが、取引頻度があまり高くない。
メダリオンフィナンシャル(MFIN(旧TAXI))
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点線が反実仮想、実線が現実の株価
1
2
3
4
-2
-1
0
1
orig
ina
lp
oin
twis
e
0 1000 2000 3000 4000 5000
仮説2
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Uberが普及することによって、レンタカー需要が落ちる? エイビスバジェットグループ(CAR) ハーツグローバルホールディングス(HTZ) 1. エイビスは2013/1/3 にカーシェア大手ジップカーを約5億ド
ルで買収しており、シェアリングエコノミーの恩恵を受けるため、影響は不明(影響の相対的な大きさに依存)。
他方で、ハーツは伝統的なレンタル事業のみを行っているため、ネガティブな影響を受ける。
2. ハーツは2016/7/5にUber、Lyftとそれぞれ提携を結ぶことを発表。したがって、提携後はシェアリングエコノミーの恩恵を受けると考えられる。
大和自動車交通(9082) 日本のUberは規制によってリムジン配車アプリのみ利用可能(2014/8/5~)、ライドシェアは利用不可。影響は限定的と考えられる。
ハーツ・グローバル・ホールディングス(HTZ)1
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1
2
3
4
5
-3
-2
-1
0
1
orig
ina
lp
oin
twise
0 500 1000 1500 2000 2500
ハーツ・グローバル・ホールディングス(HTZ)2
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1
2
3
4
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
orig
ina
lp
oin
twis
e
0 500 1000 1500 2000 2500
仮説3
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カーシェアリングの普及により、カーシェア事業者が恩恵を受ける。
2009/3/24 パーク24がカーシェアリングに参入
マツダレンタカーを買収
2014/12/10 パーク24「カーシェア」が黒字化 14年10月期営業
仮説4
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Airbnbの登場により、ホテルへの需要は低下するか 高級ホテルとは顧客層が違うので、競合せず影響は限定的(Zervas/Proserpio/Byers(2016)) アメリカ 4~5つ星:スターウッド(HOT)、マリオット(MAR)、インターコンチネンタル(IHG)、ヒルトン(HLT)、ハイアット(H) スターウッドはマリオットに買収 ヒルトンは上場して間もないため、推定に十分な長さの時系列が得られない。
3~4つ星:チョイス(CHH)、ウィンダム(WYN)、ベストウェスタン(未上場)
日本
ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985) 日本上陸は2014/5~
ローエンドホテルとは競合する可能性 株価のデータが存在しない。
スターウッド・ホテル・アンド・リゾート・ワールドワイド (HOT)
29
3
4
5
-0.5
0.0
0.5
1.0
orig
ina
lp
oin
twis
e
0 1000 2000 3000 4000
インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)
30
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
-0.5
0.0
0.5
1.0
orig
ina
lp
oin
twis
e
0 1000 2000 3000
チョイス・ホテルズ・インターナショナル(CHH)
33
2
3
4
-0.5
0.0
0.5
1.0
orig
ina
lp
oin
twis
e
0 1000 2000 3000 4000 5000
結論
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シェアリングエコノミーの影響を計測
消費者余剰が理想だが不可能
拡張差の差推定+株価を用いて因果効果を推定
ケーススタディの結果、理論・先行研究と整合的な結果を得ることが出来た。
タクシーメダリオン市場への影響
レンタカー市場への影響
カーシェア事業の影響
ホテル市場への影響
統計的な有意性を含め、今後も引き続き長期的な影響を計測していく必要性
FAQ 1. 株価の分析には限界があるのでは
原理的及び最終的な目的は消費者余剰の分析、現状では不可能
拡張型差の差推定手法を用いるには、ある程度高頻度なデータが必要
2. 投資家の反応を見ているだけでは?
株価=期待将来キャッシュフローの割引現在価値の合計
3. 株価推定のプロセスは効率的市場仮説に抵触しないか
T-1期までの株価を用いて推定したパラメータ値、T期の株式指数や債券利回りの同時相関を使ってT期の株価を推定しているので、抵触しない。
原理上、株式指数や利回りもシェアリングエコノミーの影響を受けるが、これは無視できると仮定して分析を行っている。
4. ルーカス批判に抵触しないか
もし処置群の株価を予測するなら、ルーカス批判に抵触する。
この手法は、統制群の株価を推定し、現実のデータ(処置群とみなす)との乖離を分析しているので、ルーカス批判に抵触しない。
5. 個別株価と株式指数との間に見せかけの回帰の問題は生じないか
トレンドを同時推定して回避している。
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投資行動の違い
非シェア経済型企業 各企業が動産・不動産を取得、維持、管理
実物資産への投資
シェア経済型企業 企業はオンラインプラットフォームを整備
ネットワークインフラへの投資
プラットフォームに参加する主体が動産・不動産を取得、維持、管理
同じ産業分類の企業であっても、異なる投資行動 Ex. 無形資産投資
ただし、スタートアップのB/S関連データは取得出来ず、分析は困難
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