ドライブトレインの効率改善へ、多段化や電動化、...

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(4) No.29 2016.8 FOURIN 世界自動車技術調査月報 2016 年 6 月 21 日~22 日、ドイツ南部ボーデン湖に面する Friedrichshafen の国際会議場において VDI(ド イツ技術者協会)主催による、2016 年自動車ドライブトレイン世界会議が開催された。 会場には世界 20 ヵ国から自動車産業、機械産業の 2,000 人近い技術者が参集。二日間を通じて、全体演、分科会、並行会議を含めて合計 85 コマの技術プレゼンテーションが行われ、最新の技術成果の発表と、 各専門分野に関するディスカッションが行われた。 また、会議場に併設する形で、ドイツ・欧州を中心に自動車メーカー、自動車部品メーカー、エンジニアリ ング会社、技術研究機関など 91 の企業と団体がブースを設置し、新技術、新部品を展示した。 ドライブトレイン世界会議の全体講演では、パワートレインの快適性、効率、安全性の向上を実現するイテリジェント化の動向、また、近年の燃費・排ガス規制への不正対応を反映して実走行段階における効率向 上技術の重要性が強調された。 分科会としては、DCT(Dual Clutch Transmission)、開発コンセプト、コンポーネント、バイワイヤシステム、シ フトエレメント、工法、ドライブトレイン、シミュレーション、軽量化、AT、NVH、シミュレーションというテーマが設 定され、それぞれのテーマについての研究成果と課題発表が行われた。また、各プレゼンテーションに対し て余裕を持って質疑時間が設定され、幅広い議論が展開された。 ドイツでの開催ということを反映して、DCT や CBY(Clutch By Wire)など MT 関連の技術発表が多方面から 発表。メカニカルな部品やシステムの効率向上や、軽量化、小型化を徹底する姿勢が目立った。燃費低減を 第 16 回 VDI 主催、2016 年自動車ドライブトレイン世界会議報告 ドライブトレインの効率改善へ、多段化や電動化、自動運転技術の活用を提案 (FOURIN 作成) 【会議場前ブース】 目指す立場からは、多段ステップ AT や多段 DCT をベース にした新世代の 1 モーターハイブリッドシステムの発表や、様な車種への採用に対応するためのモジュール設計の発表 が目立った。また、自動運転との連動を念頭に置いたパワー トレインの協調制御や V2X などの発表も行われた。 以下、会議参加を通じて得た欧州における自動車用ドライ ブトレインの最新動向を現地プレゼンテーションや会場、 ブースでのヒアリングから報告する。 【会場前広場】

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Page 1: ドライブトレインの効率改善へ、多段化や電動化、 …...フトエレメント、工法、ドライブトレイン、シミュレーション、軽量化、AT、NVH、シミュレーションというテーマが設

(4) No.29 2016.8

FOURIN 世界自動車技術調査月報

2016 年 6 月 21 日~22 日、ドイツ南部ボーデン湖に面する Friedrichshafen の国際会議場において VDI(ド

イツ技術者協会)主催による、2016 年自動車ドライブトレイン世界会議が開催された。

会場には世界 20 ヵ国から自動車産業、機械産業の 2,000 人近い技術者が参集。二日間を通じて、全体講

演、分科会、並行会議を含めて合計 85 コマの技術プレゼンテーションが行われ、最新の技術成果の発表と、

各専門分野に関するディスカッションが行われた。

また、会議場に併設する形で、ドイツ・欧州を中心に自動車メーカー、自動車部品メーカー、エンジニアリ

ング会社、技術研究機関など 91 の企業と団体がブースを設置し、新技術、新部品を展示した。

ドライブトレイン世界会議の全体講演では、パワートレインの快適性、効率、安全性の向上を実現するイン

テリジェント化の動向、また、近年の燃費・排ガス規制への不正対応を反映して実走行段階における効率向

上技術の重要性が強調された。

分科会としては、DCT(Dual Clutch Transmission)、開発コンセプト、コンポーネント、バイワイヤシステム、シ

フトエレメント、工法、ドライブトレイン、シミュレーション、軽量化、AT、NVH、シミュレーションというテーマが設

定され、それぞれのテーマについての研究成果と課題発表が行われた。また、各プレゼンテーションに対し

て余裕を持って質疑時間が設定され、幅広い議論が展開された。

ドイツでの開催ということを反映して、DCT や CBY(Clutch By Wire)など MT 関連の技術発表が多方面から

発表。メカニカルな部品やシステムの効率向上や、軽量化、小型化を徹底する姿勢が目立った。燃費低減を

第 16 回 VDI 主催、2016 年自動車ドライブトレイン世界会議報告

ドライブトレインの効率改善へ、多段化や電動化、自動運転技術の活用を提案

(FOURIN 作成)

【会議場前ブース】

目指す立場からは、多段ステップ AT や多段 DCT をベース

にした新世代の1モーターハイブリッドシステムの発表や、多

様な車種への採用に対応するためのモジュール設計の発表

が目立った。また、自動運転との連動を念頭に置いたパワー

トレインの協調制御や V2X などの発表も行われた。

以下、会議参加を通じて得た欧州における自動車用ドライ

ブトレインの最新動向を現地プレゼンテーションや会場、

ブースでのヒアリングから報告する。

【会場前広場】

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No.29 2016.8 (5)

FOURIN 世界自動車技術調査月報

種類別変速機予測

ZF を始め欧州の主要部品メーカーは CBY(Clutch By

Wire)の発表を行ない、MTの需要が依然として健在であ

ることから、MT をより取り扱い安く、また燃費貢献する技

術として CBY の技術普及を目指すとしている。ZF が発

表した 2030 年までの需要予測によると、2030 年段階に

おいても、MT は世界需要の 36%を占め、台数規模では

2025 年まで拡大を続け2030 年も 4,000 万台超を維持す

ると見込んでいる。

一方、DCTは2015年から2030年までに3倍増、CVT

は 6 割増を見込んでいる。AT の伸びは 7%にとどまるが、

台数規模の拡大は続く。

一方、AT 内の段数別シェアを予測する BorgWarner

は 2015 年から 2020 年までに 4 速と 5 速 AT の需要が

ほぼなくなり、6 速以上の AT となり、5 速、6 速 AT も 8

速以上にシフトするとしている。また、CVT も漸増を続け

小型から中型車用 AT において中心的な役割を担うこと

が見込まれている。

【BorgWarner が予測する段数別世界 AT 比率】

【ZF が予測するトランスミッション世界別自動車需要】

(万台)

1%未満1% 3% 6%

36% 31%29%

29%

13% 15%

16%

16%6%

10%

11%

12%

1%

1%

1%

1%

44%

42%

40%

36%

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

2015年 2020年 2025年 2030年

MT

AMT

DCT

CVT

AT

EV

(ZF のプレゼンテーションより)

(BorgWarner のプレゼンテーションより)

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(6) No.29 2016.8

FOURIN 世界自動車技術調査月報

【BMW が発表した 1 モーターパラレルハイブリッドシステム】

地域により異なる走行状況に応じたトルクと車速の関係

自動車の走行状況に応じて車軸に求められるトルク

は大きく変化する。このため、トランスミッションに求めら

れる役割は基本的には始動、加速、市街地素行、都市

間走行、高速走行時に求められるトルクを提供するため

に一般に下図の通りになる。

だが、各国・地域の道路事情、走行パターン、自動車

走行文化によって、自動車に求められる性能が異なる。

このことが、自動車がプラットフォームやアーキテク

チャーにより共通化部分を増やし、エンジンもまたダウン

サイズ化により共通化が進む一方で、加速性能や

フィーリングに大きく関わるトランスミッションやハイブリッ

ドのパワーユニットの種類、性能が大きく異なるのはそ

のためである。

今回の自動車ドライブトレイン世界会議では、MT、

CVT、AT、ハイブリッドパワーユニットが世界の関係企

業から新製品や新技術発表が行われた。世界共通傾

向としては 8 速以上の AT、欧州からは新世代の DCT

と、AT や DCT と組み合わせた 1 モーターパラレルハイ

ブリッドシステムが発表された。

モータークラッチユニット

モーターセットに、クラッチ、

トーションダンパーが組み込まれている

モータークラッチユニット

(車速, km/h)0 40km/h 80km/h 120km/h

高速道

ランナバ

ウト合流

加速走行

都市間走行

高速道走行市街地走行

始動

1,200N・m

600N・m

(トルク、N・m)

車軸に求められるトルク

【自動車の走行状況に応じて車軸に求められるトルクと車速の変化】

(BMW のプレゼンテーションより)

(Karlsruhe Institute of Technology、Institute of Product Engineering のプレゼンテーションより)

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No.29 2016.8 (7)

FOURIN 世界自動車技術調査月報

第二世代に入った欧州プラグインハイブリッド

欧州関係者からの発表で目立ったのが、第二世代に

入った1 モーターハイブリッドシステムで、ZFから新型の

8 速 AT に、M-Benz から 9 速 AT にモータークラッチユ

ニットを組合せたものが発表された。

双方ともに、モータークラッチユニットは、エンジン駆

動の切り離しを担当するクラッチと、エンジン駆動を伝達

するトルコンやクラッチ、振動吸収用トーションダンパー

等を一体化したモジュールとして設計され、多様な AT

との組み合わせが可能なようにモジュール化が進められ

【48V マイルドハイブリッドシステムに関連するスタータージェネレーターとベルトテンショナー】

ている。モータークラッチモジュールは、内製または合

弁会社で生産されており、欧州高級車ユーザーのニー

ズに合わせた走行モードを実現できるようにした。

欧州では、厳しくなる CO₂排出規制対応とともに VW

のディーゼル車排ガス不正以来、実走行時の燃費改善

や排ガス浄化に関連した部品や技術が、重視されてい

る。だが、その一方で長距離・高速走行性能は譲れな

い要素として頑なに維持・強化を図っている。ドライブト

レイン分野の技術革新は市場ニーズへの妥協なき対応

を前提に、規制対応とともに進展している。 (久保)

【M-Benz が 9AT ベースにした 1 モーターパラレルハイブリッドシステムの構成モジュール】

【M-Benz が発表した 9AT(9GH)をベースにした 1 モーターパラレルハイブリッドシステム】

ディスコネクトクラッチ

駆動モーター

トルクコンバーター

トーションダンパー2

トーションダンパー1

トルクコンバーターと

ディスコネクトクラッチパワーヘッドハウジング ベーストランスミッション

駆動モーターローター

フランジ

駆動モーターステーター

駆動モーターロータートルクコンバーターのセット

(M-Benz のプレゼンテーションより)

(M-Benz のプレゼンテーションより)