フレイル・サルコペニア予防から健康寿命の延伸へ …- 62 - 第 31回...

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- 62 - 31 61 61 42 30 34 18 24 1984年3月 京都大学医学部卒業 1987年4月 京都大学医学部大学院医学研究科博士課程(内科 系専攻)入学 1991年4月 京都大学医学部老年科医員 1991年8月 同上助手 1993年7月 - 1997年3月 カリフォルニア大学サンフランシスコ校ポストド クトラルフェロー 1997年4月 - 2003年6月 京都大学医学部老年内科助手 2003年7月 - 2009年3月 京都大学大学院医学研究科加齢医学講師 2009年4月 - 2014年12月 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授 2015年1月 - 2018年3月 国立長寿医療研究センター副院長 2015年4月 - 2019年3月 国立長寿医療研究センター老年学・社会科学センター長 2017年11月 - 国立陽明大学客員教授 2018年4月 - 2019年3月 国立長寿医療研究センター病院長 2019年4月 - 国立長寿医療研究センター理事長 6月6日(木) 14:30 ~ 16:00 第16会場/東北大学百周年記念会館 2F 「ホール」 合同シンポジウム8 フレイル・サルコペニア・健康寿命 フレイル・サルコペニア予防から健康寿命の延伸へ 荒井 秀典 国立長寿医療研究センター わが国の高齢化率は28%を超え,要支援・介護認定高齢者は600万人を超えている. 2025年には高齢者人口が30%を超えることとなり,ますます介護に要する費用が財政を 圧迫することが予想されており,その対策が喫緊の課題である.このような状況の中, 75歳以上の高齢者の要介護要因として重要なのはフレイル(加齢による衰弱)である. フレイルとは,加齢に伴う様々な臓器機能変化や予備能力低下によって外的なストレス に対する脆弱性が亢進した状態とされ,健常な状態と要介護状態の中間に位置する状態 である.フレイルは身体的要因のみならず,認知的,社会的要因も含まれ,これらがお 互いに負の影響を及ぼし合っている.従って,この負の連鎖を抑制する仕組みが必要で ある.一方,身体的フレイルの原因としてサルコペニアが注目されている.サルコペニ アは加齢とともに骨格筋量が衰え,筋力,歩行速度が低下して,要介護,死亡,転倒・ 骨折など不良の転帰との関連が示されている.このフレイル・サルコペニアは,いずれ も糖尿病や骨粗鬆症など様々な疾患との関連が知られている.たとえば,糖尿病のコン トロール不良はフレイル,サルコペニアとなるリスクとなり,一方フレイル・サルコペ ニアの存在は,糖尿病患者の血糖コントロールの不良や予後に影響を及ぼす.また,サ ルコペニアと骨粗鬆症は密接に関連している.従って,これらの疾患を含む様々な疾患 の診療においてフレイル・サルコペニアの評価・予防・介入といった視点が現在の超高 齢社会においては重要である.また,フレイル,サルコペニアのリスクとしてタンパク 質とビタミンDの摂取不足や運動不足があげられるため,栄養管理を含めた生活指導が 重要である.疾患管理とともにPolypharmacy対策や口腔機能の維持,感染予防も重要 である.このように包括的なアプローチによりフレイル,サルコペニアを予防すること により健康寿命の延伸を図るべきである.

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第31回

日本老年学会総会第61回

日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

日本基礎老化学会大会第30回

日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1984年3月 京都大学医学部卒業1987年4月 京都大学医学部大学院医学研究科博士課程(内科

系専攻)入学1991年4月 京都大学医学部老年科医員1991年8月 同上助手1993年7月 - 1997年3月 カリフォルニア大学サンフランシスコ校ポストド

クトラルフェロー1997年4月 - 2003年6月 京都大学医学部老年内科助手2003年7月 - 2009年3月

京都大学大学院医学研究科加齢医学講師2009年4月 - 2014年12月 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授2015年1月 - 2018年3月 国立長寿医療研究センター副院長2015年4月 - 2019年3月 国立長寿医療研究センター老年学・社会科学センター長2017年11月 - 国立陽明大学客員教授2018年4月 - 2019年3月 国立長寿医療研究センター病院長2019年4月 - 国立長寿医療研究センター理事長

6月6日(木) 14:30 ~ 16:00 第16会場/東北大学百周年記念会館 2F 「ホール」合同シンポジウム8 フレイル・サルコペニア・健康寿命

フレイル・サルコペニア予防から健康寿命の延伸へ

荒井 秀典国立長寿医療研究センター

 わが国の高齢化率は28%を超え,要支援・介護認定高齢者は600万人を超えている.2025年には高齢者人口が30%を超えることとなり,ますます介護に要する費用が財政を圧迫することが予想されており,その対策が喫緊の課題である.このような状況の中,75歳以上の高齢者の要介護要因として重要なのはフレイル(加齢による衰弱)である.フレイルとは,加齢に伴う様々な臓器機能変化や予備能力低下によって外的なストレスに対する脆弱性が亢進した状態とされ,健常な状態と要介護状態の中間に位置する状態である.フレイルは身体的要因のみならず,認知的,社会的要因も含まれ,これらがお互いに負の影響を及ぼし合っている.従って,この負の連鎖を抑制する仕組みが必要である.一方,身体的フレイルの原因としてサルコペニアが注目されている.サルコペニアは加齢とともに骨格筋量が衰え,筋力,歩行速度が低下して,要介護,死亡,転倒・骨折など不良の転帰との関連が示されている.このフレイル・サルコペニアは,いずれも糖尿病や骨粗鬆症など様々な疾患との関連が知られている.たとえば,糖尿病のコントロール不良はフレイル,サルコペニアとなるリスクとなり,一方フレイル・サルコペニアの存在は,糖尿病患者の血糖コントロールの不良や予後に影響を及ぼす.また,サルコペニアと骨粗鬆症は密接に関連している.従って,これらの疾患を含む様々な疾患の診療においてフレイル・サルコペニアの評価・予防・介入といった視点が現在の超高齢社会においては重要である.また,フレイル,サルコペニアのリスクとしてタンパク質とビタミンDの摂取不足や運動不足があげられるため,栄養管理を含めた生活指導が重要である.疾患管理とともにPolypharmacy対策や口腔機能の維持,感染予防も重要である.このように包括的なアプローチによりフレイル,サルコペニアを予防することにより健康寿命の延伸を図るべきである.

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第31回

日本老年学会総会第61回

日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

日本基礎老化学会大会第30回

日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1982年 山口大学医学部卒業1982年 千葉大学医学部大学院医学研究科博士課程修了1986年 東京都老人医学総合研究所研究所研究員1989年 国立予防衛生研究所研究員1991年 香川医科大学第三内科医員1992年 ロンドン大学ルドウィック癌研究所研究員1996年 愛媛大学医学部助教授2008年 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所研究部長2018年 自然科学系研究副所長兼任 現在に至る

6月6日(木) 14:30 ~ 16:00 第16会場/東北大学百周年記念会館 2F 「ホール」合同シンポジウム8 フレイル・サルコペニア・健康寿命

サルコペニアと認知的フレイルおよび精神・心理的フレイルの因果関係とは?

重本 和宏,森 秀一,大村 卓也東京都健康長寿医療センター研究所

 要支援・要介護の原因とつながるサルコペニア・フレイルの有効な予防対策を確立するため,メカニズムを解明して科学的根拠に基づいた早期診断法及び評価法の開発が必要とされている. 2016年にサルコペニアが国際疾病分類(ICD10)に認定され,国内外で骨格筋を対象とするメカニズムに関する研究が進められている. Friedが提唱した定義に基づくフレイルの5項目は,主に身体的な加齢変化に基準を定めた身体的フレイルの評価方法である. 一方で,認知機能の低下,うつ状態などの認知的フレイルおよび精神・心理的フレイルは身体的フレイルと同様に要支援・要介護の原因へとつながるため,そのメカニズムの解明は健康寿命の延伸を達成するために重要な課題である. サルコペニアに対して有効な運動介入は,身体的フレイルだけでなく認知的フレイルと精神・心理的フレイルの予防にも有効であることが期待されており,この科学的な因果関係の解明は認知的フレイルと精神・心理的フレイルを理解する上で大きな手がかりとなるであろう. 近年,フレイルとサルコペニアのメカニズムに関する基礎研究の報告が増え始めており,我々の研究の取り組みも交えて紹介する予定である.

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第31回

日本老年学会総会第61回

日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

日本基礎老化学会大会第30回

日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1994年3月 北海道大学歯学部卒業1994年6月 東京都老人医療センター歯科口腔外科医員1995年4月 東京歯科大学口腔外科学第一講座入局1997年8月 東京歯科大学オーラルメディシン講座助手2001年4月 ドイツ フィリップス・マールブルグ大学歯

学部 研究員兼任2007年4月 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外

科学講座講師

2012年4月 国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部口腔感染制御研究室長

2016年4月 東京都健康長寿医療センター研究所社会科学系副部長

2019年4月 北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室准教授 現在に至る

6月6日(木) 14:30 ~ 16:00 第16会場/東北大学百周年記念会館 2F 「ホール」合同シンポジウム8 フレイル・サルコペニア・健康寿命

社会科学研究からみたオーラルフレイルとその他フレイルとの関係について

渡邊 裕北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室

 超高齢社会の日本において,健康寿命の延伸や介護予防の視点から,フレイルに注目が集まってきている.フレイルは身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含んだ概念である.フレイルの状態にある高齢者は加齢に伴い生じてくるこれら問題が複雑に悪影響しあっているため,多職種による多面的なアセスメントと対応が必要となる.そのため現在,社会科学系の研究においては,フィジカル,ソーシャル,コグニティブなど様々なフレイルに関して多面的な検証が行われている. その中の一つにオーラルフレイルがある.日本においては,大規模コホート研究において,オーラルフレイルがフィジカルフレイル,サルコペニア,要介護状態,死亡のそれぞれの発生に関連があることが示され,フレイルの早期発見,重度化予防の観点から特に注目されている.我々はこれまで日本のいくつかの大規模コホート調査においてオーラルフレイルに関する検証を行ってきた.その中でオーラルフレイルは単に口腔機能の低下から,栄養状態が悪化し,フィジカルフレイルのリスクを高めるだけではないことを明らかにしてきた.オーラルフレイルは食事や栄養以外にも,会話や表情の表出,容姿などに大きく影響することから,コミュニケーションや人との繋がり,社会参加などを障害すると考える.そのためソーシャルフレイル,コグニティブフレイルなどとも関連があることも分かってきている. そこで本報告では,我々が関与している日本の4つの大規模コホート調査のデータを用いて,オーラルフレイルを中心に,フィジカル,ソーシャル,コグニティブといったフレイルとの関係を多面的に検証する.そして,それらの関係性を明らかにするとともに,多職種による多面的な対応の在り方を考察し,健康寿命の延伸への戦略について考えてみたい.

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第31回

日本老年学会総会第61回

日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

日本基礎老化学会大会第30回

日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1989年3月 千葉大学看護学部看護学科卒業1996年3月 東京大学大学院医学系研究科保健学専攻修

士課程修了1999年3月 東京大学大学院医学系研究科健康科学・看

護学専攻博士後期課程修了1999年4月 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科地域

保健学講師2002年11月 UCLA医学部Sepulveda VAMC 老年学研究

所客員研究員

2005年4月 大阪府立大学看護学部看護学科在宅看護学助教授

2006年4月 大阪市立大学医学部看護学科在宅看護学教授2008年4月 大阪市立大学大学院看護学研究科在宅看護

学教授 現在に至る【所属学会】日本老年看護学会,日本地域看護学会,日本在宅ケア学 会, 日 本 老 年 社 会 科 学 会,Gerontology Society of Americaなど

6月6日(木) 14:30 ~ 16:00 第16会場/東北大学百周年記念会館 2F 「ホール」合同シンポジウム8 フレイル・サルコペニア・健康寿命

要支援高齢者のフレイル改善・予防と在宅ケアにおける包括的アプローチ

河野 あゆみ大阪市立大学大学院看護学研究科在宅看護学

 フレイルとは,加齢などにより脆弱性が高まり要介護状態,死亡等に陥りやすい状態を意味する.フレイルな高齢者の特徴には,①健常な状態に戻る可逆性が高い,②身体・心理精神・社会面など多面的に機能が低下している,③生活の工夫や周囲の手助けによって在宅生活が可能であることが挙げられる.要介護度認定区分の要支援高齢者では,測定指標の違いにより幅はあるが,過半数以上はフレイルであると推定され,要支援高齢者のフレイルな状態を改善・予防することは重要な課題である.ここでは,演者らが集積してきた研究データを示しながら,老年看護の立場から要支援高齢者のフレイル改善.予防のための在宅ケアの方策について,話題提供を行う. 2012年度新規認定の要支援高齢者1658名に対する5年間の医療介護給付データ解析では,ICD10大分類による新生物・腫瘍,血液・造血器の疾患・免疫機構の障害,呼吸器系疾患であることは死亡と関連していた.また,精神及び行動の障害,神経系の疾患,皮膚及び皮下組織の疾患であることは要介護化と関連しており,要支援高齢者の死亡や要介護化の予防にはこれらの疾患管理が重要である. 総合事業開始前の2014年の要支援高齢者710名への調査では訪問介護・通所介護のみ利用者が46.6%,他サービス併用・利用者が27.0%,サービス未利用者が26.3%であり,他サービス併用・利用者の虚弱性が最も高かった.要支援高齢者のうち虚弱性が高い者には複合的な生活支援を提供する必要性が示された. 要支援高齢者587名と各高齢者の近隣在住住民ボランティア315名への横断調査の結果,住民ボランティアの近隣づきあいの程度が高いほど,要支援高齢者の虚弱性が低く,近隣づきあいを強化することがフレイル予防につながる可能性が示唆された. 以上より,要支援高齢者の在宅ケアには,適切な疾患管理と生活支援ならびに地域のソーシャル・キャピタルを強化するなどの包括的アプローチを行うことが重要と考える.