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インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産 構造についての比較・分析 誌名 誌名 農林水産政策研究 ISSN ISSN 1346700X 巻/号 巻/号 15 掲載ページ 掲載ページ p. 19-40 発行年月 発行年月 2009年6月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

誌名誌名 農林水産政策研究

ISSNISSN 1346700X

巻/号巻/号 15

掲載ページ掲載ページ p. 19-40

発行年月発行年月 2009年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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農林水産政策研究第 15-j手 (2009): 19-40

龍査・資料

インドネシア@マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と

生産構造についての比較@分析

小泉達治

要 "'" 日

パーム鴻の主産国であるインドネシアおよびマレーシアでは パーム油脂来中心のバイオディー

ゼルの普及と生産の拡大を関っている。両盟におけるパーム油由来のバイオディーゼル生産コスト

のうち原料代が8割強を占める生産構造において,パーム油価格高騰は全体的なコスト上昇となり,

両菌におけるバイオディーゼ、ル生産の最大の制約要問となっている。マレーシアでは産業政策とし

て利益が出ない状況の下,事業の凍結を進めているが,インドネシアではバイオディーゼlレ生産を

通じた農業関発を「模索」している。このように,インドネシア・マレーシア両匿の生産・政策の

対応は大きく異なっているが こうした栢遣は 両国における政策導入自的とパーム油所有形態に

原因があるものと考察される。

1.はじめに

世界の植物油需要量は,中国をはじめとする途

上留の所得向上等により増加傾向にある。こうし

た状況下,世界の植物油消費量の 3割を占めるパ

ーム油は, 2005年には大豆油を抜き,世界で最も

多く供給される植物油となった。現在,パーム油

の主産国であるインドネシアおよびマレーシアで

は,農業振興やエネルギー・環境問題等への対5ち

から,パーム油由来中心のバイオディーゼルの普

及と生産の拡大を図っている。その一方で,原料

となるパーム油価格は 2006年以降,高騰してお

り,今後のパーム油需給に与える影響が世界的に

も懸念されている。

これまでもパーム油由来のバイオディーゼル生

産に関する研究では, Tan (2007)がインドネシ

ア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産拡

大の可能性について調査・分析を行った。また,

山崎,鍋谷,相良 (2005)が,インドネシア・マ

レーシアにおけるパーム油からのノfイオディーゼ

原稿受務!日 2009年4月初日.

ル研究開発動向について調査・分析を行った。さ

らに,石川,山崎,岩本,小坂田,宮脇,桔良 (2005)

がパーム油由来のバイオディーゼル燃料方法の経

済性評価等を行った。しかし,最近のパーム油価

格上昇を踏まえたインドネシア・マレーシア両国

におけるバイオディーゼ、ル生産構造と両悶のバイ

オディーゼル政策・生産構造の相違を比較・分析

した研究はこれまで行われていなL以1)。本研究で

は,インドネシア・マレーシアにおけるノTイオデ

イーゼル政策・生産構造の比較・分析を目的とし

ている。

以上の状況を明らかにするため,インドネシ

ア・マレーシアにおけるバイオ燃料政策の展開と

パーム油需給に与える影響について, 2007年 11

月 28 自 ~12 月 5 日にかけてマレーシア(プラン

テーション産業省パーム油庁,国際貿易産業省,

水・エネルギー・通信省,マレーシア大学 (UPM),

連邦土地開発公社等) ,インドネシア(農業省プ

ランテーション総高,農業省社会・政策研究セン

タヘ技術評価応用庁,工業省,ボゴール農科大

学,ダルマ・ベルサダ大学,バイオ燃料工業会等)

一日ー

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農林水産政策研究第 15号

において現地調査を行った。

なお,本研究は 2008年 4丹までの情報に基づ

いている。

注(1) インドネシアにおけるバイオディーゼル政策動向

およびマレーシアにおけるバイオディーゼゾL政策動

向の概要についてはこの他に小泉 (2008a)および小

泉 (2008b)があるが,本研究では両国の政策・生産

構造についての調査・分析を深め,両国の生産構造・

政策を比較分析した点に大きな相違がある。

2.バイオ燃料の特性

バイオエネルギー (Bioenergy) とは,バイオ

マスを化学反応させて得られるエネルギーを意味

する。また,バイオマス (Biomass) とは,重量

またはエネルギー量で示す生物体の量,あるいは

エネルギーや工業原料の資源として見た生物体と

しての資源を意味する(山地・山本・藤野 2000)。

バイオエネルギーは利用の形態により,荘来型バ

イオエネルギー(低エネルギー効率 15%以下の非

蕗業的エネルギー)と新型バイオエネルギー(高

度なエネルギ一利用効率を有する商業的エネルギ

ー,主として産業用として使用)に分類すること

ができる(山地・山本・藤野 2000)。この新型

バイオエネルギーのうち,自動車用燃料として使

用できるバイオ燃料としてはバイオエタノール,

バイオディーゼルが普及している。バイオエタノ

ールとは,さとうきびのような糖笠原料やとうも

ろこしのような澱粉費原料を発醇・蒸留して製造

されるものである。バイオディーゼゾレは,世界的

には,なたね油,パーム油,大豆油といった植物

語を主原料として生産されている。 EUではなた

ね油を,米国では大豆油を主原料としてバイオデ

ィーゼルを生産している。植物油脂そのままでは

粘度が高く,撚料としての使用は思難であるため,

脂肪酸メチルエステル (FAME)に変換すること

で粘度を下げている。製品としての FAMEは一

般的にバイオディーゼルと呼ばれている(石川,

山崎,岩本,小坂田,宮脇,相良 (2005))。

バイオ燃料は,化石燃料と異なる特徴がある。

まず,第 1に再生可能エネルギーである。再生可

能エネルギーとは,地球上にある自然のエネルギ

ーを電力や熱に変換したものをさす。化石燃料は

化石資源の埋蔵量の制約を受けるのに対して,バ

イオ燃料は植物を原料とするため,半永久的に枯

渇することはない(横山 2001)。また,化石燃

料のように地域的に偏在せず,地球規模に広く原

料が分布していることも特徴である。

第2に,バイオ燃料は「カーボンニュートラル」

である。バイオ燃料をエネルギーとして使用し,

燃焼によって二酸化炭素を放出しても,植物が大

気中の二駿化炭素を吸収して成長することから,

最終的には二酸化炭素を増加させない重要な性質

がある。この構造をfカーボンニュートラjレJ(C02

ニュートラル)という。バイオ燃料の使用増加に

よる二酸化炭素使用削減を通じて地球温暖化妨止

に役立つという観点、から バイオ燃料がカーボン

ニュートラルである意味は極めて重要で、ある。

第3に,バイオ燃料をガソリン・軽鴻の代替燃

料として使用することにより,ガソリン・軽油の

需要量の笹減が可能となる。原油の需要量削減は,

エネルギー自給率向上ならびに,貿易収支の改善

にも寄与する。

第4に,バイオ燃料の生産は,農産物に対して

新規の市場を創出し,農業・農村経済の活性化を

もたらす。バイオ燃料の生産は,余鵜農産物の処

理機能の他に,廃棄物から生産される場合は廃棄

物の量と処理費用を削減し,資源の有効利用を実

現する。

第1図のバイオディーゼルの世界生産量の推移

をみてみると,2000年の 72.1万トンから 2006年

の 541.6万トンへと急速に拡大している。最大の

生産国であるドイツやその他の欧州の生産量が増

加している他,米国の生産量も 2005年以降,急速

に増加していることがわかる。また,マレーシア・

インドネシアについては生産の開始が比較的最近

であるため,世界全体と比較した場合,数量は大

きくない。しかし,インドネシアにおけるノTイオ

ディーゼ、ル生産量は 2006年の 1,000 トンから

2010年の 68万トンに拡大 マレーシアにおいて

は2006年の 12万トンから 2010年の 60万トンに

拡大することが予測されている (F.O.Licht2007)。

オイルパームは植えてから約3年で結実(油ヤ

シ果房 11トン/ha) し 1O~13 年で収穫のピー

クを迎え(油ヤシ果虜 35トン/ha), 25年ほど

で商業作物としての役目を終える。その間,甚径

- 20ー

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

(単位:1,000トン)

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

第 1盟 世界のバイオディーゼ、ル生産の推移

資料:F.O.Licht (2007)

3cm程度の果実がおおよそ 2,000儒実った油ヤシ

果房 (FFB) を 1 本の木で年間 13~16 個ほど産

出する(山崎,錦谷,相良 2005) 0 100kgのパ

ーム果実 (FFB) には粗パーム治 (CPO)が 22

~23kg 含まれ,メタノール,苛性ソーダ等を加え

て, 23kgのバイオディーゼ、ルが生産できるととも

に 2kgのグリセリンが副産物として産出される

(第2図)。

3. インドネシアのバイオ燃料生産と

政策の課題

(1)バイオ撚料政策の導入目的と背景

インドネシアでは,石油の消費量は 1990年以

降,増加傾向にある一方,石油の生産量は 1999

年以降,減少傾向にあり(第3顕) ,石油の輸出

国として OPECに加盟しているものの, 2003年

以降は若油の純輸入国である。石油の消費量

(2006年)は年間 6,000万キロリットルのうち,

50%が輸送用燃料であり インドネシアでは石油

パーム果実 (FFB) <100kg>

パーム核油 (PKO) < 2kg>

粗パーム油 (CPO) <23kg>

グリセリン <2kg>

バイオディーゼル<23kg>

第 2図 パーム油からのバイオディーゼル生産工程(概要)

資料:山崎,鍋谷,相良 (2007)から作成.

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農林水産政策研究第 15号

<1,000/¥レル/臼>1,800.0

1.600.0

1,400.0

1,200.0

1,000.0

800.0

600.0

400.0

200.0

。。

需要量

19801981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 19921993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 200220032004

第3関 インドネシアにおけるお油需給の推移

資料:OPEC (2006) より作成.

輸入依容度軽減のためバイオ燃料を中心とした再

生可能エネルギーの開発が国家レベルでの諜題と

なっている。

インドネシアの貧困層は 2007年 3月現在,

3,720万人であり,全人口の 16.6%を占める(第

4図)。また, 2007年3月現在の失業者は 1,055

(単位:%)

25 23.4

20

15

10

5

。1999 2000 2001 2002 2003

万人に達し,貧困層の削減,失業者対策も国家レ

ベルでの課題となっている (Piyarson2007)。

こうした状況の下,インドネシア政府では,石

油輸入依存度削減,貧匿の削減・雇用の拡大等の

観点から 2006年「国家エネルギ一政策J(National Energy Policy : 2006年大統領令第5号)に基づ

2004 2005 2006 2007年3月

第4圏 インドネシアにおける貧困率の推移

資料:BPS, Brighton Institute and Bogor University (2007) ,

- 22-

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼ、ル政策と生産構造についての比較・分析

き,バイオディーゼ、ルを中核とするバイオ燃料の

積極的な普及・増産政策を発表した。 r国家エネ

ルギ一政策Jでは,エネルギー供給源のうち石油

由来の割合を現荘の 51.6%から 2025ij三までに

20%に減らし,再生可能燃料の割合を 17%とする

計画である。内訳は,バイオ燃料 5%,地熱エネ

ルギー5%,バイオマス・原子力・太陽光・風力

等 5%,石炭液化 5%である。

バイオ燃料については,短期的には貧閤削減,

雇用創出が主な目的であるが,長期的には代替エ

ネルギー源の確保による石海輸入依存度の軽減が

目的である O

(2)バイオ燃料政策の展開

バイオ燃料に関しては, 2006年に大統領をヘッ

ドに 13省庁の閣僚等から構成される National

Committeeにより,国家バイオ燃料言十顧 (National

Plan on BiofueO とロードマップ (Roadmapfor

Biofuels Development) が発表された(第 1表)。

このロードマップではバイオディーゼ、ルとバイオ

エタノール等についての計画の拡大が記載されて

いる O バイオディーゼルについては, 2010年まで

に全掴レベルで輪送用軽福に対して 10%混合,

2015年までに全国レベルで伺 15%混合, 2025年

までに同 20%湛合とし,バイオディーゼル生産を

2010年までに 240万キロリットル, 2015年まで

に450万キロリットル, 2025年までに 1,020万キ

ロリットルとする計画である。原料は,パーム油

に加えてジャトロファ(1)を活用することを計画し

ている。また,ココナッツオイル等からのバイオ

ディーゼル生産についても研究開発を行ってい

る。

バイオエタノールについては, 2010年までに全

関レベルでプレミアムガソリンに対してバイオエ

タノール 5%滋合, 2015年までに同 10%混合,

2025年までに同 20%漉合とし,これにより,バ

イオエタノール生産は 2010年までに 150万キロ

リットル, 2015年までに 270万キロリットル, 2025

年までに 630万キロリットルとする計画である。

謀料は,キャッサパとさとうきびからの糖蜜を活

用する。この他にも,スィートソルガム,サゴ,

とうもころしからのバイオエタノール生産につい

ての研究開発を行っている。

関家バイオ燃料計画では,バイオ燃料生産拡大

のために, 2010年までにパーム,ジャトロファ,

キャッサパの作付面積を 150万 ha,さとうきびの

作付面積を 75万haまで拡大することを自標とし

ている。この他に NationalCommitteeにより発表

された「戦略計画J(Strategic Plan)では, 2015

年まで、に新規にパーム独の作付面積を 400万haに

拡大し,年間 1,770万キロリットルの生産を行い,

ジャトロファについても新規に 300万haの作付記

積を 450万haに括次し,年調 100万キロリットルの

バイオディーゼル生産を計画している。以上の計

画は義務数量ではなく,あくまでも努力目標数量

である。

政府で、はバイオ燃料生産に対して大規模な税制

控除・補助金は導入していないが, 100万ドル以

上のバイオ燃料施設を建設した業者には6年間で

毎年 5%ずつの税控除を行う他,インドネシア商

業銀行からのクレジットが行われている。この他

に政府としては,内外からのバイオ燃料に関する

投資を集め,パイロットプロジェクトを各地で進

めていく方針である。

バイオ燃料生産に関する研究器発については,

2006-2009年の期間に 50,000万RP(610万円)(2)の

研究開発費が政府から支出されており,主として

バイオディーゼル生産コストの抵減を罰る研究に

第1表 インドネシアバイオ燃料に関するロードマップ

2005年一2010年 2011年一2015年 2016年一2025年

計画輸送用軽油に対して 10% 輸送用軽油に対して 15% 輸送用軽油に対して 20%

バイオディーゼル 混合使用 混合使用 混合使用

需要量 241万KL 452万KL 1,022万KL

計画プレミアムガソリンに対しプレミアムガソリンに対しプレミアムガソリンに対し

バイオヱタノール て5%混合使用 て 10%混合使用 て 15%混合使用

i需要量 148万KL 278万KL 628万KL

資料:National Plan on Biofuel (2007)

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農林水産政策研究第 15号

重点、が置かれている。また,政府では,国内 12

地区の 200の村落において fエネルギー自給村j

(ESSV,Energy Self Sufficient Village) を構築

し,地域におけるエネルギー自給率を向上させる

とともに,雇用の拡大や貧閣の削減を関っている。

ESSVは,地方政府,公営企業,民需企業による

ファンドで運営され,バイオディーゼノレの他にも

バイオガス,薪等多撞のバイオマス資源由来のエ

ネルギーを活用する。インドネシア政府では,

ESSVについては, 2008年に 500,2009年に法

900まで増やす計画である。

(3 )バイオヂイーゼル生産講造と課題

1)生産の現状

インドネシアでは, 22の工場で、バイオディーゼ

ルを生産している。 2006年の生産量は 1,000トン

であったが, 2007年の生産量は 36万トンと見込

まれている (F.O.Licht2007) 0バイオディーゼ、ル

の軽油への混合は,当初 5% (B5)が計画されて

いたが,現在は生産コストの上昇から 2.5%(B2.5)

となっている。 B2.5(一部 B5) はジャカルタで

201カ所,スラパヤで 15カ所のガソリンスタンド

で販売, E5等はジャカルタおよびマランにおけ

る5カ所のガソリンスタンドで販売されている。

バイオディーゼ、ル製造技術については, ドイ

CUS$/Tonne) 1,200

1,000

800

600

400

200

ツ・イタリアからのライセンス技能を活用してい

る。ジャトロファからのバイオディーゼル生産に

ついては実証実験中であるため,確立した工程は

ないものの,収穫した果実を,ボイラーにより乾

燥させ,粉砕,搾油の後に粗ジャトロファ油を採

取してからエステル化の工程により,バイオディ

ーゼルを生産している O

2)バイオディーゼル生産議選と課題

現在,インドネシアにおけるバイオディーゼゾレ

生産の最大の制約要因はパーム油価格の高騰にと

もなう生産コストの上昇である。パーム油の国際

価格 (PalmOlein RBD Mal.ciff Rotterdam) は

2001年の 277US$/tから 2007年 9月には

883US$/tへと高騰している(第5国)。パーム

油由来のバイオディーゼル生産コストの特徴とし

ては,原料となるパーム油価格が全体の 85%を占

めることである。指数のバイオディーゼル製造業

者団体からの聞き叡り結果から (3),バイオディー

ゼル生産コストは,精製パーム油生産が 10,073RP

(122.8円)/L,バイオディーゼル製造コスト(労

賃,電力費,触媒等)が 1,698RP(20.7円) /L

と合計 11,771RP(143.5円)/Lである。バイオ

ディーゼル生産コストについては,山崎,鍋谷,

相良 (2005)が調査した 3,500RP/L (42円)を

大きく上回っている。これは,パーム油価格が

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 12

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

第5図 国際パーム油価格の推移

注. Palm Olein RBD, Mal.cif.Rotterdamの価格 (OilWorld 2007) .

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

2005年の水準に比べて 2倍以上に高騰している

ことが要国と考えられる。これに対して,軽油価

格は, 4,300RP (52.4円) /Lであり,軽油に対

してバイオディーゼルは競争力を有していない

(第6国)。インドネシアでは,ガソリン価格・

軽油価格について国際価格よりも低い水準で小売

価格が設定されており,その若額は政府からの補

助金として支払われているものの,バイオディー

ゼルに対しては何らの補劫・税控i桧措壁も適用さ

れていなt'0 インドネシアでは,当初, B5が言f画されてい

たものの,生産コストの上昇から,国営石油会社

である fプルタミナJでは取扱い量を減らしてお

り,混合率を 2.5%に設定している。バイオディ

ーゼルを販売している国営石油会社{プロタミナ」

では, B2.5計画の推進により, 2007年には約

7,000億ルピア (85.3億円)の損失を計上したた

め,この損失を政府・議会に対して補填するよう

強く求めている。バイオディーゼル産業界にとっ

ては,補助・税制優遇措置がないこと,バイオデ

ィーゼルの義務化も実現していない等の不満があ

り,これらを政府に対して強く要望してpく方針

である。また,この他にもバイオディーゼル政策

はリーダーシップが欠如しており,各省庁間の謂

<単位:RP/L>

14,000

整がうまくいっていないといった点もバイオデイ

ーゼル製造業者団体から指摘されているω。

現在のところ,国内で、はバイオディーゼ、ルを生

産しでも赤字になる一方であり,生産を続けるメ

リットがない状況にある。国内のバイオディーゼ

ル生産者が生産を続ける理由は, EUを中心に中

関,韓国,自本に対しての輪出を増やしていくこ

とにある。

EUでは,石油依存度軽減,温室効果ガス排出

削減,大気汚染対策,雇用確保・新規産業創出,

農業振興の目的からバイオ燃料の普及・生産の拡

大を鴎っており, 2007年3月の欧州理事会では,

2020年までに輪送用燃料の最低 10%をバイオ燃

料にするという義務目標の設醤が合意された。EU

の加盟国ではディーゼル率の比率が最近,増加し

ている。販売比率は 97年の 2割強から 2004年に

は5割にまで達していることから,バイオディー

ゼ、ル需要の増加が今後見込まれる。こうした中,

EU域内での需要を満たす生産が可能か否かが争

点、となっている。このため,ブラジルやインドネ

シア等は EUに対するバイオ燃料輪出に大きな関

心を寄せている。

前述のバイオディーゼル生産コストに輸送コス

ト(船賃,保険料込み) , EU共通関税を加えて

12,000 11,771 /バイオディーゼル

製造コスト

10,000

8,0∞

自,0∞

4,0∞

2,0∞

1,698

精製パーム油価格

10,073

バイオディーゼル生産コスト

4,300

軽油価格

第6図 インドネシアにおけるバイオディーゼ、jレ生産コストと軽油価格との比較

資料:インドネシアバイオディーゼル製造業者からの聞き取り調査により筆者作成.

- 25-

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農林水産政策研究第 15考

ドル換算(4)したところ,インドネシアのバイオデ

イーゼル価格は1.50US$ /Lとなる。これに対

して EUにおけるなたね法を原料としたバイオデ

ィーゼル生産コストは1.60US$/Lとなる(第

7図)。このため,インドネシア国内では軽、油に

対して競争力を有していないバイオディーゼ、ルも

EUでは輪送コストを支払っても,競争力を有す

るO ただし,パーム油由来のバイオディーゼ、ル生

産コストの 85%が原料代で占められているため,

今後パーム撞舗格が高騰した場合はその優位性も

失われることになる。

ただし,現在のパーム油価格水準において EU

産バイオディーゼルに対して競争力を有するイン

ドネシアにおけるバイオディーゼル製造業者は,

国際市場志向を今後,強めていくものと考えられ

る。また,国際原油価格が現在の水準以上に高騰

した場合は,国の様助にも限界があるため,国際

原油儒格が更に高騰した状況が続き,ガソリン・

軽油への補助額の削減にともない,園内向けバイ

オディーゼル生産が拡大する可能性がある。

(4)パーム油需給への影響

インドネシアにおけるパーム油生産量は1990/91

年度の 265万トンから 2007/08年度には 1,830万

くじS$IL>

1.80

トンにまで拡大しており, 2005/06年度以降はマ

レーシアを抜いて世界最大のパーム油生産国とな

った(第8図) 0 また,輸出量は 2007/08年度は

1,360万トンと世界第2位の輸出国である (USDA-

FAS 2007) (第9図)。パーム油の国際価格 (Palm

Olein RBD Mal.ciff Rotterdam) は 2001年の

277US$/tから 2007年 9月には883US$/tへと

高騰している。

インドネシアでは1年間に約 1,500万トンの CPO

(粗パーム油)を生産,そのうち 400万トンは国

内用であり, 1,100万トンは輸出用である。パーム

については, 2007年の生産量である 1,700万ト

ンから, 2010年には 2,000万トンまで生産量を増

やす計画である O

現在,国際的にもパーム油価格が高騰しており,

国内食用油用,バイオディーゼル用,輪出用での

競合が激しくなっている O パーム油製造業者とし

ては国内向けよりも菌際市場の方が魅力的である

ため, CPOの輸出拡大をはかっている。政府とし

ては,輸出を規制し,国内仕向け量を多くするこ

とで国内 CPO儲格上昇を緩和したいと考えてい

るO このため, CPOの輸出に際して 10%の輸出

税を課税しているものの CPO輸出に歯止めがか

かっていない。 CPO価格の高騰により,パーム農

1.60 ノ~R 1.60

1.40

-・...・::::}¥:|←ー輸送コスト'777777777771 紛賞、保険料込み)

製造コスト

1.20

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Uvψψ日目

ιvlvlvヰ

0.80

0.60

0.40

0.20

。o。インドネシア産バイオディーゼル

涼料コスト(なたね泌)

第 7図 インドネシア産バイオディーゼ、ル価格と EU産バイオディーゼル価格との比較

EU産バイオディーゼル

注. EUの製造コスト,輸送コストについては, Tan (2007) を使ffl.EUの菜種価格は Rapeoil, Hamburg,fob ex】 millの2007年9月時点の価格を使用.

- 26-

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

く1,000MT>

45,000

40,000

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

。90/91 2000/01 06/07

その他世界

マレーシア

インドネシア

07/08 年

第8園世界のパーム油生産量の推移

資料:F AS-USDA (2007) ,

<l,OOOMT>

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

D

90/91 2000/01 06/07

その他t!t界

マレーシア

インドネシア

第9図世界のパーム油輸出量の推移

資料:F AS-USDA (2007) .

家,関連産業においては利益が出ているが,一般

市民に対しては,不利益を与えていると考えられ

る。ただし,食用油のみならず食料品価格全体が

上昇しているので,パーム油価格高騰のみが社会

関題となっているわけではない。

(5) ジャトロファからのバイオディーゼル生

産の可能性と課題

1)ジャトロファの特性

インドネシアでは,最近,ジャトロファ (Jatropha

curcas) という油糧植物がバイオディーゼル生産

用として注目を集めており, r国家バイオ燃料計

画Jのロードマップにもその生産拡大可能性が記

- 27-

Page 11: インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産 … · ア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産拡 大の可能性について調査・分析を行った。また,

農林水産政策研究第 15号

述されている。ジャトロファは年間降雨量 400mm

以下の乾燥地帯でも育ち,干ばつや害虫にも強い

ため,乾燥し,作物生産に不向きな「荒れ地」の

多いヌサ・トゥンガラ諸島や西チモール島を中心

に,作付計画が進められている O

ジャトロファは,果実が収護できるまでに半年

かかり,その後 15~20 年,果実を収穫すること

が可能である。また,乾燥地や荒れ地で、も育つこ

とや,ジャトロブァの実は「ソルボ」という毒性

があり,金用に不向きであるため,食用と競合し

ない。

ジャトロファのうちバイオディーゼル生産に向

くのは Jatrophacurcasである (5)。また,ジャトロ

ファ由来のバイオディーゼ、ルはパーム油由来のバ

イオディーゼルに比べて,引火点、・流動点、が低い

点、で,品質面での優位性がある。ジャトロファは

これまでも,各生産地において医薬品として活用

されていた。また,第2次世界大戦中に, I日日本

陸軍燃料本部が,ランプ用の油や戦車用の燃料と

して開発したことも現地では知られている。

インドネシア政府では,貧困対策として,ジャ

トロファを作付けして,それをバイオディーゼル

生産の原料とするプロジェクトを行っている。ジ

ャトロファは,農作物生産が困難な地域の「最後

の作物jとして政府は考えている。パームやココ

ナッツの作付けが適していると思われれば,これ

らの作物を植え,ジャトロファを作付けしない方

主十である。

ジャトロブァは最近 2~3 年前から植えられた

ばかりで, Iフィージブルスタディ jの段階であ

るため,現在のところ関連データは十分収集され

ていない。収量については, 12トン/haという目

標もあるが,現実的にはインド,ニカラグアの収

量である 5トンIha(種子ベース:油換算で1.5ト

ンIha)が目標である。生産コストについても,デ

ータはないが,パーム油出来のバイオディーゼル

に比べて 30%程高いと言われている (3)。

パームは,初期投資額が大きいが,ジャトロフ

ァはパームに比べて初期投資額が低い。パーム油

からの CPO生産には 2,300万RP(27.1万円)/

haのコスト(資本,可変コスト含む)がかかるが,

ジャトロファから種子を生産するコスト(同)は

約 800万 RP(9.8万円)/haである。また,i由を絞った後の 30%のケーキについては,解毒の後

に家畜用の館料としての活用も期待できる (6)。

2)課題

ジャトロファは以上のような特性を有している

が,難点、は,ア)収量がパーム鴻に比べて低いこ

と,イ)果実の価格が不安定 (500RP(6.1丹)

/L~1 ,500RP (18.2円) /Lの範囲で変動)で

あること,ウ)政府からの果実の価格支持政策が

行われていないこと,エ)農家への認知度が低い

こと,オ)農家が栽培しでも販売先が確保されに

くいこと,カ)種子の確保が困難なこと(種子の

価格が高騰している)等である。

ジャトロファは西ヌサ・トゥンガラ諸島にある

ロンボク島で 400haの生産が行われているが,基

本的にはパーム油と異なり,大規模生産には不向

きである O また,ジャトロファは,現在のところ

用途がバイオディーゼル向けしか開発されておら

ず,将来のバイオディーゼル価格下落を視野に入

れた,新規需要の開発が求められている O

(6 )その他の課題

1)技術的課題

パーム油由来のバイオディーゼルは,なたね油

由来のバイオディーゼルに比べて引火点・流動点、

が高く (第2表) ,欧州、!や司本等の高緯度地域で

第2表 バイオディーゼ、ルの基本特性

パーム 菜 種 ひまわり 大変

密度 (g/ml) 0.842 0.871 0.873 0.87

動粘度 (CSt) 5.15 4.43 4.3 4.12 引火点 (OC) 179 178 182 186

流動点 CC) 12 -13 -5 -2

資料.松村正利・サンケァフューヱルス編「バイオディーゼル最前線J. 注.流動点は燃料が低滋で国体になる温度で,特に原料植物の脂肪酸組成に

よって大きな差が生じる.

- 28一

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

は冬季の使用が困難というデメリットがあるもの

の, B 5程度の混合率であれば,使用は開題ない

とされており,パーム油由来のバイオディーゼル

の冬季使用向けに関する研究開発はほとんど行わ

れていないのが実情である。このため,インドネ

シア産バイオディーゼルを用いた高混合率での冬

季寒冷地での使用は困難と思われる。

バイオディーゼル生産に関するインフラ整備に

ついての其体的方針は政府から示されていない

が,導入が進むにつれて今後の課題となることが

予想される。

2)環境と開発

Friends of Earth (2005) らは,バイオディー

ゼル増産に伴うパーム油の生産拡大は,マレーシ

ア,インドネシアにおける森林破壊,環境破壊の

危険性があり,特にオラウータン等の絶滅危倶動

物の個体数が危機的なレベルにまで減少すると指

摘している。この指摘に対して,インドネシア政

府関係者は,今後のバイオディーゼル増産のため

には500万haのパーム畑が新規に必、要になるのは

事実であるが,パーム畑拡大のための乱開発につ

いては政府が厳しく規制していると主張してい

る。事実, 2000年以降は,政府からのライセンス

がないと森林開発が盟難な状況である O しかし,

政府からの規制が今後とも十分効力を発揮するか

否かは不明確で、あり,パーム油増産のための熱帯

林破壊とその環境への影響については今後,十分

に注視していく必要がある。

(7)小括

インドネシア政府では 石油輸入依存度削減,

貧困の削減・雇用の拡大等の観点から 2006年

「国家エネルギー政策jを発表し,バイオテずイー

ゼルを中核とするバイオ燃料の積極的な普及・増

産政策を計画している。周年に大統領をヘッドに

13省庁の龍能等から構成される NationalCommittee

により, r国家バイオ燃料計画」と fロードマップ」

が発表され, 2025年に向けた中長期的なバイオ燃

料生産・普及計画と原料作物の生産目標も発表さ

れた。ただし,これらの自標は義務ではなく,あ

くまでも努力自擦である。

現在,インドネシアにおけるバイオディーゼル

生産の最大の制約要罰はパーム油価格高騰による

生産コストの上昇である。インドネシアでは,ガ

ソリン価格・軽油価格について国際価格よりも抵

い水準で小売錨格が設定されており,その差額は

政府からの補助金として支払われている。一方,

バイオディーゼルに対しては政府から何ら播助・

税控除措霊も適用されていない。このため,国内

のバイオディーゼル価格は,軽油価格に対して価

格競争力を有していない。現在のところ,国内で

はバイオディーゼルを生産しでも赤字になる一方

であり,政府からの補劫・税控除がないと生産を

続けるメリットがない。

一方,国内では軽油に対して競争力を有してい

ないバイオディーゼルも対 EUでは輸送コストを

支払っても,競争力を有するため,バイオディー

ゼル製造業者は,罰内供給よりも国際市場志向を

今後,強めていくものと考えられる。ただし,パ

ーム油由来のバイオディーゼルは品質面でなたね

油由来のバイオディーゼルに劣るため,今後のパ

ーム油の価格上昇により,なたね油由来のバイオ

ディーゼルに対する割安感、が EUの実需者に感じ

られないとその競争力も失われてしまう点、に留意

が必要でーある。また,インドネシア政府は,ジャ

トロファからのバイオディーゼル生産振興も許画

しているが,商業的実用化には多くの課題がある。

インドネシア政府では,今後,関係省庁が一体

となって,バイオ燃料政策を推進していく方針で

あるが,バイオディーゼル事業者や誹究者からは,

バイオ燃料業者に対する支援,具体的普及策が不

十分で、あること,政府がバイオディーゼル産業に

対する支援・補助を行わない限り,目標通りの計

画を達成することはかなり困難であることが指摘

されている。パーム油高騰により,国内向けのバ

イオディーゼル生産には一定の歯止めがかかるも

のの,海外向けのバイオディーゼル生産や CPO

輸出には歯止めがかかる気配が少ない。こうした

動向は,パーム油需給の逼迫要因として今後も十

分に注視していく必要がある G

注(1) ジャトロファ(Jatropha curcas)とは,干ばつや害

虫にも強い低木である。

(2) 1円=82.00インドネシアルピア (2007年 12月 10

日時点)。

(3) 2007年 12月に行った聞き取り調査。

(4) 1ドル=9,305インドネシアルピア (2007年 12月

- 29-

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農林水産政策ー研究 第 15号

10日時点)。

(5) バイオディーゼル生産に向くジャトロファは

J atropha curcasであるが,本穏では一般的な総称であ

るジャトロファという名称、を使用する。

(6) インドネシア農業省およびボゴール農科大学におけ

る聞き取り調査結架 (2007年 12月)。

4.マレーシアにおけるバイオディーゼル

生産・政策の展開と課題

(1)バイオディーゼル政策の離嬰

マレーシアでは最近の経済成長から石油消費量

が 1990年から 2004年にかけて年平均 5.8%増加

する一方,生産量は伺1.7%の増加にとどまって

おり,産油罰であるものの,政府としては将来的

なエネルギー供給確保に不安を感じている(第 10

図)。また,マレーシアは, 2004/05年度までは,

世界最大のパーム油生産国であり, 2007/08年度

の生産量は 1,660万トンと世界のパーム油生産量

の41.3%を占めている。また, 2007/08年度のパ

ーム、油の輪出量は 1,310万トンと世界の輸出量の

45%を占めており,インドネシアと並ぶ世界最大

のパーム油輸出国である (USDA-FAS 2007)。

マレーシア政府は,在油海外依存度の保減,パ

<1,000バレル/臼>

800.0

700.0

600.0

500.0

400.0

300.0

200.0

100.0

0.0

ーム油価格の安定,バイオ燃料の輸出等を目的と

して 2006年3丹に「国家バイオ燃料計画J(National Biofuel Policy)を発表し,パーム油由来のバイオ

ディーゼルの生産・普及を促進する方針を発表し

た。マレーシアにおけるバイオ燃料とは,パーム

鴻由来のバイオディーゼルのことであり,キャッ

サパ・糖蜜等を原料としたバイオエタノールの開

発は計画していない。また,新規に開拓可能な農

地が少ないため,インドネシアと異なり,ジャト

ロファからのバイオディーゼル生産は計画してい

ない。この国家バイオ燃料計画は,プランテーシ

ョン産業省が発表したものであり,首相の強いイ

ニシアティブの下,関係省庁が連携して政策を推

進しているという形にはなっていない。エネルギ

一政策を担当する水・エネルギー・通信省でも積

極的にバイオディーゼル政策を推進していないの

が現状であり,政府内でもプランテーション産業

省と菌際貿易産業省といった一部の省庁のみがバ

イオディーゼル生産の振興に取り結んでいる。

マレーシアにおけるエネルギ一政策の優先順位

は,原油,石油製品,天然ガス,水力,石炭,再

生可能燃料であり,バイオ燃料はこの「第5エネ

ルギーJである再生可能燃料(バイオガス,太揚

生産量会

1980 1982 1984 1986 1988 19ヲo 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004

第10図 マレーシアにおける石油需給の推移

資料:OPEC (2006) より作成.

- 30一

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小泉・インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

光,水素等)の一部に位置付けられている。この

ように,エネルギー全体としてのバイオ燃料の取

扱いは小さい。マレーシアの乗用車の主体はガソ

リン車であり,ディーゼル車はマイナーであるの

で,パーム浩関係者を除き,国内でのバイオディ

ーゼルの普及への期待は大きくない。

(2)バイオディーゼル生産構造と課題

マレーシア政府で、はバイオディーゼル生産量に

ついての公式なデータはないが, F.O.Lichtによ

ると 2006年の生産量は 12万トンと一位界のバイオ

ディーゼ、ル生産量の 2.2%程である (F.O.Licht2007)。

パーム油からのバイオディーゼル生産工程は,イ

ンドネシアと同様である。 2007年4月からは,軽

油に対してバイオディーゼルを 5%まで混合する

ことが認められた。

2006年に政府では, 96のプロジェクトについ

てバイオディーゼル事業の認可を行い,そのうち

Golden Hope社やパームオイル庁等の出資によ

り 8工場がバイオディーゼル生産の開始を発表

し 3工場の生産が確認されている。バイオデイ

ーゼル生産コストのうち原料であるパーム油のコ

く単位リンギ/リットル>

4.50

4.00

3.50

3.00

2.50

2.00

1.50

1.00

0.50

0.00

バイオディーゼル価格

ストが 85%を占める。パームオイルの価格は,前

述のとおりであるが,パーム油価格の高騰は,最

近のマレーシアにおけるバイオディーゼル生産を

困難なものにしている。政府関係者,研究者らか

らの聞き取り調査では(lh バイオディーゼル生産

コストは,原料代 3.6リンギ(120.1円)(2)/L,バ

イオディーゼル精製コスト(労賃,電力費,触媒

等) 0.6リンギ (20.0円)/Lの合計 4.2リンギ

(140.1円)/Uとなる。これに対して,軽油小

売価格は1.58リンギ (52.7丹)/Lであり,イン

ドネシアと同様に軽油に対してバイオディーゼル

は競争力を有していない(第 11図)。マレーシア

政府でも,ガソリン・軽油の小売価格は悶際価格

よりも抵い水準に設定されており, 1.58 1)ンギ

(52.7円)/Lのうち, 0.58リンギ (19.3円)は

政府からの補助金として支払われている。一方,

バイオディーゼ、ルに対しては何ら政府からの補

助・税控除措置も適用されていないということが

問題である。つまり,マレーシア政府はバイオデ

ィーゼルよりも化石由来燃料を優遇しているた

め,バイオディーゼルは,軽油に対して競争力を

有していないのが現状である。

バイオディーゼル精製コスト

軽油価格

第 11図 マレーシアにおけるバイオディーゼル生産コストとディーゼル価格

(2007年 9月)

資料:マレーシア政府関係者,研究者からの聞き取り調査により筆者作成.

- 31ー

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農林水産政策研究第 15号

こうした状況下,マレーシアではバイオディー

ゼル製造業者が国内向けにバイオディーゼルを出

荷しでも損失が出る一方となり,国内向けバイオ

ディーゼル生産を継続することが国難となってい

る。このため,政府では,バイオディーゼ、jレ生産

に関する事業申請をすべて凍結している。また,

政府では, 96のバイオディーゼルプロジェクトに

ついて事業認可を行い 8工場がバイオディーゼ

ル生産を発表したものの,最近ではこれらの工場

もパーム油の高騰からバイオディーゼ、ル生産を中

止している状況にある。

マレーシアにおけるバイオディーゼルの拡大に

は,半島部を中心とする原料価格の高騰の他にも,

土地の制約,機械の調達等の問題がある。今後の

バイオディーゼル政策の展開については,政府の

投資・援助に加えて, EUや日本,中間,韓霞等

国外におけるバイオ燃料の需要が増加するかが鍵

で、ある。

(3)パーム油需給への影響

マレーシアのパーム油生産量のうち, 10%が国

内の植物油田, 90%が輸出用であり,元々,輸出

志向が高い農産物である。パームの作付け面積は,

1990年の 220万haから 2000年には 340万ha,

2006年には 420万haと増加している。 FFBの単

収は1990年は18.53kg/ha,2000年には18.33kg/ha,

2006年には 19.6kg/haと壁かに上昇している。ま

た, CPOの単収は 1990年の 3.64kg/haから 2006

年には 3.93kg/haと僅かに上昇している (MPOB

2007)。

マレーシアでは, 1956年の国家的開発の推進に

より,半島マレーシアにおける農業はほとんど開

発し尽くされたと言われている。特に,半島マレ

ーシアにおいては,経済成長に伴う地価の高騰や

住宅需要の増加により新規農閣の開発が困難にな

っている。パーム油もかつては,半島部が生産の

中心であったものの,最近ではそのシェアが抵下

している。半島部のパーム油生産量の割合は,

1998年の 72.0%から 2003年には59.5%まで低下

している一方,東マレーシアの割合は, 1998年の

28.0%から 2003年の 40.5%に増加している。東

マレーシアのサラワク州では近隣のインドネシア

やフィリピン南部からの比較的低賃金の労働力を

活用できるというメリットがあるため,サラワク

州を中心とする地域では今後,パーム油の生産拡

大の可能性がある。

マレーシアの CPO生産コストは,インドネシ

アに比べて高く,この差は,労費や土地にかかる

費用と考えられる。パーム油価格高騰に伴う食用

油の高騰により,市民も不満を持っているが,全

体的な食料品価格の上昇のもとでは,食用油価格

の上昇のみが大きな社会問題とはなっていない。

なお,パーム増産に対して,遺伝子組換え品瞳は

使用しない方針であり,あくまでも優良品種の交

配で単収増加を図る考えである。政時では CPO

の輸出を制限しているが,精製パーム油 (RBD)

とバイオディーゼルの輪出規制は行っていない。

従来, EUへは, RBDとバイオディーゼルを輸出

してきたが,最近で、は精製パーム油のみを輸出し

て, EU内での需給動向に応じて,食用油とする

かバイオディーゼル用として仕向けるかを選択し

てもらう方が,生産国としてリスクが少ない。こ

のため, RBDのみを輪出する傾向が強くなってい

る。

このため,閤際的な植物油高騰による国際パー

ム油高騰と需要の多様化により,マレーシアでは

RBDの輸出が拡大する可能性はあるが,バイオデ

ィーゼル生産については,パーム油高騰が最大の

制約要因となっているため,生産は縮小するもの

と思われる O このため,マレーシアにおいて,圏

内のバイオディーゼル生産の拡大が国際パーム油

備格の上昇を引き起こすという可能性は低いもの

と考えられる。

(4)その飽の課題

1)規格・インフラ等の開題

マレーシアでは,バイオディーゼルの国内規格

が未整舗の状況にあり,現在,政府の作業部会で

バイオディーゼル規格作りが進められている。規

格の内容は EUのバイオ燃料規格に近いものにな

ると思われる。ただし,現在はバイオディーゼゾレ

生産から和益が出ない状況であるため,バイオデ

ィーゼル生産から利益が出るようになった後に本

格的な規格を策定する方針である。また,バイオ

ディーゼルの冬季使用については,パーム油庁の

研究機関において,引火点・流動点を下げるため

- 32一

Page 16: インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産 … · ア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産拡 大の可能性について調査・分析を行った。また,

小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策ーと生産構造についての比絞・分析

の研究開発を行っている O バイオディーゼ、jレの輸

送インフラについては,現在のところほとんど整

髄されておらず,普及拡大か義務目標が正式に決

まれば政府と民間企業との間で,議論が開始され

るものと思われる。また,バイオディーゼル副産

物であるグリセリンは パーム油庁の研究機関に

おいてその可能性を研究している段階である O

2)罷発と環境

Friends of Earth (2005) らは,パーム油由来

のバイオディーゼル増産はマレーシアにおける森

林破壊,生態系破壊の危険性があると指摘してい

る。この見解に対しての政府関係者,環境や生態

系の研究者(マレーシアプトラ大学)らは(1)マ

レーシア半島部では,パームの作付け面積の拡大

の余地がなく,新規の土地を開発してまでパーム

増産を行う余裕はほとんどない状況にあると主張

している。また,東マレーシアのサラワク州では

新規の土地を開発する余地が多少あるものの, 1987

年の「環境影響アセスメント」法の施行以降,政

府により厳しく乱開発が規制されているため,環

境に悪影響を与えるような乱開発は行われていな

pと主張している。

また,マレーシアの主要なパーム油関連企業は,

散州の消費者 NGO主導の「持続可能なパームオ

イルのためのラウンドテーブルJ(RSPO) (3)基準

に沿った{環境と地域社会に十分配慮した持続可

能なパームオイル」を生産している点を強調して

pる。

政府の晃解は,半島部におけるパーム畑の新規

開発は限界があるため,環境に悪影響を与える

能性はほぼないとしている。しかし,新規の土地

を開発する余地がある東マレーシアのサラワク州

を中心とする地域では,連邦政府からの監視や規

制が十分に働いているか不明確であるため,パー

ム畑の新規器発が環境に与える影響を十分に監視

していく必要があると考える。

(5 )小括

マレーシアでも,インドネシアと同様にバイオ

ディーゼ、ルの普及・増産政策が進められているが,

一部の省庁が政策を推進しているに過ぎず,ヱネ

ルギ一政策全体からもかなりマイナーな存在であ

り,関係者を除き国内でもそれほど期待されてい

ない状況にある。バイオディーゼルは,パーム油

錨格が低い時に使用されるものであり,現在のよ

うに価格が高騰している状況下で国内向けの生産

を行うメリットは少ない。マレーシアにおいても,

ガソリン・軽油価格は国際価格よりも低い水準で

小売価格が設定されているものの,バイオディー

ゼ、ルに対する政府からの補助・税控除措置はない

という問題がある。つまり,マレーシア政府はバ

イオディーゼルよりも化石燃料を優遇しているた

め,バイオディーゼルは,軽油に対して競争力を

有していない。

マレーシア政府では,バイオディーゼル生産に

関する事業申請をすべて凍結するとともに,バイ

オディーゼル生産を開始した工場もすべてパーム

治の高騰からバイオディーゼル生産を中止してい

る。マレーシアでは,現在のような価格高騰時に

はバイオディーゼルを生産するよりも, EUを中

心に RBDを輪出し,各国の需給動向に応じて,

金用語とするかバイオディーゼル用とするかを選

択してもらう方が, リスクが少ないため,バイオ

ディーゼル生産よりも, RBDを多く輸出する傾向

が強くなっている。このように,マレーシアでは

パーム油価格高騰により,バイオディーゼル生産

にf詣一止めがかかっているが~i兄にある。

注(1) 2007年 11月末におけるl詞き取り調査結果。

(2) 1マレーシアリンギ=33.35円 (2007.12.10時点、)

(3) パーム滋!の供給関係者の強調とステークホルダー

との対話により持続的なパーム油の成長と消費を促

進することを問的に設立され, 2005年 11}=jに持続

可能なパームのための基本方針が採択された。

5. インドネシア・マレーシアにおける

バイオディーゼル政策と生産構造につ

いての比較・分析

インドネシアおよび、マレーシアにおけるノTイオ

ディーゼル政策および生産構造は,ほぼ同ーのも

のとして認識されることが多い。パーム油由来の

バイオディーゼル生産コストのうち原料代が 85%

を占める点で生産構造は共通している。また,パ

ーム油価格高騰によりバイオディーゼルが軽油に

対して価格競争力を有していない状況にある点も

共通している。

- 33-

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農林水産政策研究第 15号

両盟におけるバイオディーゼル政策の目的は,

エネルギ一安全保障である点は共通しているが,

インドネシアでは貧国削減,失業対策としての政

策自的を優先しており,マレーシアでは,パーム

治儲格の安定を居的としている点で政策目的が異

なっている(第 3表)。

インドネシアでは,関係省庁が連携して政策を

推進して短期的・中長期的な政策目標および計画

を発表しているのに対し,マレーシアでは一部の

省庁のみが政策を推進しており,中長期的なピジ

ョンを明らかにしていない。さらに,パーム油高

騰により,マレーシアでは新規事業申請を凍結し,

既存の工場もバイオディーゼル生産を中止し, RBD

の輪出増加を積極的に行っている。これに対して,

インドネシアではバイオディーゼルの EUへの輸

出を今後,強化することで生産を継続していく方

針である。インドネシアでは,パーム油由来のバ

イオディーゼ、ルの他にもジャトロファからのバイ

オディーゼル,キャッサパ・糖蜜からのバイオエ

タノール生産の拡大も計画している oその一方で、,

マレーシアではパームオイル由来のバイオディー

ゼル生産のみが行われている o

以上のバイオディーゼル生産への対応の相違は,

両国におけるパーム油所有形態と政策導入目的の

相違に原因があると考えられる。マレーシアでは,

主にパーム油産業振興対策としてバイオディーゼ

ル政策が計画されたが,パーム油産業として利益

が出る見込みが少ない状況にある。また,政府は

再生可能燃料としてのバイオディーゼルよりも石

油由来の燃料を優遇しているため,製造業者はバ

イオディーゼル生産を中止し, RBD輪出拡大に転

じている。マレーシアでは,ノfームプランテーシ

ョンの 60%を大企業が保有し,小規模の農家が所

有する割合は全体の 10%程度である点 (MPOB

2007)がインドネシアの所有形態と大きく異なっ

ており,企業として和益が出るか否かがバイオデ

ィーゼル政策の継続の重要な判断材料となってい

る。

一方,インドネシアでは,農業省によると,パ

ームプランテーションの所有形態は小農 33%,政

府系企業 18%,企業 49%となり,マレーシアと

は異なっている。これに加えて,バイオディーゼ

ル政策として,エネルギ一政策よりも,貧隈削減,

失業対策を優先しており,地域振興対策としての

意味合いが大きい。このため,パーム油価格が高

騰しでも生産を継続するとともに,ジャトロファ

といった他の油糧作物からのバイオディーゼゾレ生

産やバイオエタノール生産を計画している。特に,

インドネシアでは「エネルギー自給村J(ESSV,

Energy Self Sufficient Village) を構築し,地域

におけるエネルギー自給率を向上させるととも

に,雇用の拡大や貧国の削減を図っている。つま

り,マレーシアのように大規模化を図るのではな

く,小規模な「エネルギー自給村Jの数を増やし,

地域開発に活用できるバイオディーゼル政策を推

進している。この中で,食料需給に影響を与える

第3表 インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産・政策等の比較

生産国生産しているバイオ燃料の種類2006年生産量(単位:トン)2007年生産量見込み(単位:トン)

原料

主要政策呂的(短期)

主要政策目的(中長期)

政策の推進体制

生産上の課題

研究開発

資料:筆者作成.

インドネシアバイオディーゼル,バイオエタノール

1,000

360,000

ノfーム油,ジャトロファ,キャッサパ,さとうきび

マレーシアバイオディーゼル

120,000 290,000

パーム油

雇用創出,貧国対策一一パーム油産業の振興,石池輪入

エネルギー源確保による石油輸入依存 依存度の削減度軽減

大統領をヘッドに 13省庁の閣僚等から構成される国家委員会

パーム泊高騰による生産コストの上昇

ャトロファ,ココナッツオイ)1--,スィートソJレガム,サコ:とうもろこしからのバイオ燃料生産

- 34-

プランテーション産業省と国際貿易産業省等

パーム池高騰による生産コストの上昇

バイオディーゼルの引火点・流動点の改善

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーセ、ル政策と生産構逃についての比較・分析

ノfーム治ではなく,ジャトロファからのバイオデ

イーゼルも活用していくことが計画されている。

以上のように,インドネシアおよびマレーシア

におけるバイオディーゼル政策および生産構造は

ほぼ開ーのものとして認識されることが多いが,

その生産構造や政策には多くの差異が見られるの

である。

6.結論

ノtーム油の主産闇であるインドネシアおよびマ

レーシア政府では,パーム油由来中心のバイオデ

イーゼルの普及と生産の拡大を図っている。パー

ム油出来のバイオディーゼ、ル生産コストのうち原

料代が 85%を占める生産構造において,パーム油

価格高騰は全体的なコストの上昇となり,バイオ

ディーゼル生産の最大の制約要国となっている。

さらに,ガソリン・ディーゼル小売価格は鴎捺価

格より低い水準で設定されており,その差額、は故

府からの補助金として支払われている。しかし,

バイオディーゼルに対しては何ら補助・税控除措

置も適用されていないという開題がある。このた

め,バイオディーゼル価格は,補助を受けている

軽油価格に対して緬格競争力がない状況にある。

一般的には両国におけるバイオディーゼル生産が,

パーム油価格高騰の原因として論じられているが,

実際は高騰したパーム価格が両国のバイオディー

ゼル生産の制約要因となっているのである。

こうした状況を受けて,マレーシア政府では,

バイオディーゼル生産に関する事業申請をすべて

凍結するとともに,バイオディーゼル生産をはじ

めた工場もすべて中止している。一方,インドネ

シアでは軽油に対する競争力はないバイオディー

ゼルも EUでは競争力を有することができるため,

バイオディーゼルの輪出を積極的に行うととも

に,国内生産についても減少するものの生産は継

続していく方針である。

以上から,両国における政策導入目的とパーム

油所有形態に相違があるものと考察される O マレ

ーシアでは,パーム農閣の大部分を大企業が保有

していることから,バイオディーゼ、ル政策の主目

的がパーム油関連産業の振興にあるため,産業と

して利益が出るか否かがバイオディーゼル政策上

の重要な判断材料となっている。このため,政府

は利益が毘込めないとの判断から事業の凍結を進

めている。一方,インドネシアのパームプランテ

ーションの所有形態は,企業の占める割合がマレ

ーシアに比べて低く,小農の占める割合が高い状

況にある。バイオディーゼル政策としては,貧閤

削減,失業対策を優先しており,地域振興対策と

しての意味合いが大きい。このため,パーム油価

格が高騰しでも生産を継続するとともに,ジャト

ロファといった他の油糧作物からのバイオディー

ゼ、ル生産やバイオエタノール生産を計画しており,

バイオ燃料政策を通じた農業開発を進めている。

特に,インドネシアでは fエネルギー自給村」

を構築し,地域におけるエネルギー自給率を向上

させるとともに,雇用の拡大や貧困の削減を図っ

ている。つまり,マレーシアのように大規模化を

図るのではなく,小規模な「エネルギー自給村j

の数を増やし,地域開発に活用できるバイオディ

ーゼル政策を推進している。この中で,食料需給

に影響を与えるパーム油ではなく,ジャトロファ

からのバイオディーゼルも活用していく方針であ

る。特に,貧陸地域対策としては,燃料用バイオ

ディーゼルよりも,ジャトロファからバイオディ

ーゼルを製造して,貧困地域の生活用エネルギー

として利用する方が効果的であると考える。しか

し,ジャトロファ由来のバイオディーゼルの商業

的生産については多くの課題があるにも関わら

ず,政府からの補助・支援が十分に行われていな

い状況にある。このため 政府からの補助・支援

の限界を超えた部分について国際的な資金協力・

技術協力を行うことが今後,必要となると考える。

以上のように,パーム油価格高騰は全体的なコ

スト上昇となり,インドネシア・マレーシア両国

におけるバイオディーゼル生産の最大の制約要因

となっているものの,両国の生産・政策の対応は

異なっている。マレーシアでは産業政策として利

益が品ない状況下,事業の凍結を進めているが,

インドネシアではバイオディーゼル生産を通じた

農業開発を「模索Jしている状況にある。今後,

インドネシアでは農業開発の観点からのバイオデ

イーゼル政策の新しい展開が進められ,この点、に

国際開発援勤の必要性も考えられる。

なお,インドネシアに対するバイオディーゼル

- 35-

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農林水産政策研究第 15号

生産を通じた農業開発への国際開発援助の可能性

については今後,更に分析を進めたい。その中で

もジャトロファを活用したバイオエネルギー生産

が,地域経済・環境・生態系・地域文化に与える

影響についても現地調査を進めたい。さらに,本

研究では十分に議論できなかったパーム鴻増産に

よる環境・生態系への影響についての分析を行う

ことも今後の課題である。

〔引用文献〕

F.O.Licht (2007), FQ.ucht World Ethanol & Biofuels ReporιF.O.Licht.

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2005.

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宮脇長人,棺良泰行 (2005)無触媒アルコリシス

反応によりバイオディーゼル燃料生産の経済的評

価と原料油の価格がバイオディーゼル燃料の価格

に及ぼす影響について,日本食品工業会誌, Vo1.6,

No2.113叩 120ページ.

小泉達治 (2008a)rマレーシアにおけるバイオディー

ゼル政策の展開と課題についてJ,食料と安全第

6巻, 44~50 ページ.

小泉達治 (2008b)rインドネシアにおけるバイオディ

ーゼル政策の展開と課題についてJ,食料と安全

第7巻, 24~29 ページ.

松村正利・サンケァフューエルス編 (2006)rバイオ

ディーゼル最前韓」工業識査会, 29ページ.

MPOB (Malaysian Palm Oil Board), (2007), Malaysian

Oil Palm Statistics 2006, Malaysian Palm Oil

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Oil World (2007), Oil WorJd Monthly, ISTA Mielke

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Priyarson DS (2007),“百lePolicy of Bio-energy Development

in Indonesia", Br単 tenInsti初旬 andBogor Agricultural

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Tan. C (2007),“Palm biodiesel in Southぽ nAsia", Rabobank

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山地憲治,山本博己,藤野純一 (2000)rバイオエネル

ギーJ, ミオシン出版, 18~20 ページ.

山崎理恵,鍋谷浩蕊,相良泰行 (2005), rマレーシア・

インドネシアにおけるバイオディーゼル研究動向J,『日本食品工学学会誌.1, Vo1.6, No.2, 105~111 ぺ

ーン.

横山伸也:バイオエネルギー最前線,森北出版, 2001, 6

~8 ページ.

USDA同 FAS(USDA町 FAS (Foreign Agricultural

Service, U.S. Department of Agricultur号), (2007):

Price Supply & Distributionわ;ews,

httn:/ /www.fas.usda.lZov/Dsdlintro.asD.

[イ寸 記:2008年 4月以降の動き]

本稿は 2007 年 11 月末~12 月初旬にかけての

インドネシア・マレーシア両菌における現地調査

結果を踏まえて, 2008年4月に本稿を執筆した。

編集上の都合により,本稿の掲載は大幅に遅れた

が,その後の主な動き (2008年 4月以降)につい

て{寸言己としてまとめておく。

国際パーム油価格は, 2006年以降上昇し, 2008

年 3丹には 1,385US$/トンまで上昇したものの,

穀物や他の植物油・油糧種子と同様に, r金融不安Jによる商品市場からの資金流出,世界的な不況に

よる需要の減退懸念等から, 2008年 9月以降は下

落し, 2008年 11月には 606US$/トンまで下落

した(付記鴎)。

パーム鴻を原料とするバイオディーゼルの 85%

は,震料となるパーム油が占めるため,パーム油

価格下落にともないインドネシアおよびマレーシ

アにおけるバイオディーゼル生産コストは下落す

るものと考えられる。こうしたパーム油価格下落

を踏まえて,マレーシア国際貿易産業省では,こ

れまで凍結していたバイオディーゼル生産事業を

再開し, 2008年 10月に 1,020トンの生産能力を

有する 91カ所のプロジェクト・ライセンスを承認

した (F.O.Licht2009)。

しかし,国際パーム法価格は, 2009年 1丹以捧は

再び上昇し, 2009年 4月には 855US$/トンに

達している。このため,バイオディーゼゾレ生産コ

ストは再び増加していると考えられる。さらに,

国際原油価格 (WTIprice FOB) も2008年 6月

には 133.9US$/バレルまで上昇したものの,同

年 9月以韓,大幅に下落し, 2009年 4月には, 49.6

US$/バレルとなったため,インドネシアおよび

マレーシアにおけるバイオディーゼ、ルは軽油に対

する価格競争力がないものと考えられる。以上か

ら,両菌のバイオディーゼル生産のマージンは本

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Page 20: インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産 … · ア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産拡 大の可能性について調査・分析を行った。また,

小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産構造についての比較・分析

(US $ /Tonnel

1600

1400

1200

1日00

800

600

400

2日D

O

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 1 7 10 1 4 7 10 1 4

1989 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

付記図 医際パーム油価格の推移

注. Palm Olein RBD, Mal.cif.Rotterdamの価格 (OilWorld 2009) .

鮒属資料

ジャワ

関属第 1鴎 インドネシア地割

東・中部カリマンタこJ

ジャトロファの生産拡大が期待できる地域

注.実線はパーム主要生産地, i皮線はジャトロファからの生産拡大が期待できる地域.

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農林水産政策研究第 15号

::tND Gulfof

Thailand

bETN!¥M.

サラワク州(生産拡大地域)

-圃,.,

SPRATLY ,.,' ISLANDS ;~ I /-'

グ問V

South China Sea

KEPULAVAN ANAMRAS C) KEPULAUAN

(INDONESIA) ::; NATURA (INDONESIA) 也

‘ .. INDONESIA

附属第2図 マレーシア地関

稿を執筆した 2008年4丹時点と比較しでも,同

等の水準にあると考えられる。

マレーシアはバイオディーゼル政策の主要目的

がパーム油産業の振興という点から,バイオディ

ーゼ、ル生産の利益が出ない場合は,再度,バイオ

ディーゼルのプロジェクトを凍結し,生産を中止

することも考えられる。このため,バイオディー

ゼル政策は,今後の国際パーム油価格の動向次第

で絶えず変更を余儀なくされるという不安定な展

開となることが予想される。こうした政策の変更

は,マレーシアが中長期的にバイオ燃料政策を進

めていく上での障害となることが考えられる。

EUではパーム油の輪入量の 84.2%をインドネ

シア・マレーシア産が占めている (OilWorld 2008)。

2008/09年度において EUにおけるパーム油から

のバイオディーゼル生産量は 57.5万トンと,イン

ドネシア,マレーシアそれぞれを上回る量のパー

ム油がバイオディーゼ、ル生産に使用されている。

一方, EUにおけるインドネシア・マレーシアか

らのバイオディーゼル輸入量は 17,5万トンと全体

の輪入量の12%程度に過ぎない (F,O.Licht2009)。

このように, EUは製品としてのバイオディーゼ

ルを輸入するより,震料であるパーム油を利用し

てバイオディーゼルを生産する傾向にある。そし

て, EUは世界で最も多くパーム油を原料として

1¥イオディーゼルを生産している。このため, EU

のバイオ燃料政策はインドネシア・マレーシアの

バイオ燃料政策のみならずパーム鴻需給にも大き

な影響を与えると考えられる。

EUでは, 2008年 12月に「再生可能エネルギ

一本!日用促進指令J(Promotion of the use of energy

from renewable sources)が欧1>1'1議会において採択

され, 2020年までに全輪送用燃料に占める再生可

能燃料の割合を 10%にするという義務目標を設

定した。この義務目標達成には EU加盟国の生産

だけでは対応できす,バイオ燃料やバイオ燃料原

料の輸入も活用する方針である。輸入バイオ燃料

や輪入原料については, EU域内産と同様に扱わ

れることになるものの, r持続可能性基準jを満た

すことが必要になる。この「持続可能性基準」は

化石燃料に対するバイオ燃料の温室効果ガス削減

率が LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)分

析により, 35%以上, 2017年からは 50%以上,

2017年以降のプラントは 60%以上の削減義務が

あることに加え,生物多様性の高い土地円炭素

計留の高い土地(2)でのバイオ燃料の原料生産を行

うことが出来なくなることを定めている。 EUの

LCA分析では,パーム油からのバイオディーゼル

生産の GHG削減効果は 19%であり, r持続可能

性基準」を大きく下回る (3)。また,インドネシア

やマレーシアのパーム法生産は,同基準の生物多

様性の高い土地や炭素貯留の高い土地での生産に

も該当してくる可能性もある。このため,今後,

インドネシアおよびマレーシアがパーム油由来の

バイオディーゼルおよびパーム油を EUに輸出す

る場合には, EUの f持続可能性基準Jが最大の

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小泉:インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と主主主主構造についての比較・分析

制約要陸となることが考えられる。この「持続可

能性基準JはEUへの輪出向けのみに適用される

ことになるが,インドネシアおよびマレーシア両

国にとってパーム油の最大の輸出先は EUである

ことから,この「持続可能性基準jの遵守を通じ

て,両国における持続可能なパーム油生産および

パーム油由来のバイオディーゼル生産を促す効果

も一方で,期待できる。

注(1) 生物多様性の高い土地とは, a)人的活動がなく自然

生態系への人為的影響が然い原生林・未開発森林, b)

法規制により,保護地域に指定された地域(国際協定

や国際自然保護連合等の悶際機関による指定を受けた

地域), c) 生物多様性の高い自然草地,生物多様性の

高い非自然草地(多用な生物穏が生息し,人為的介入

が無ければ消滅する土地を指す。ただし,原料調達が

箪地の維持に必主主不可欠と判断された場合の生産は認

められる(欧州議会 2008)。

(2) 炭素貯留の高い土地とは, a)土地が永続的または l

年の大半の関,水に磁われている湿地, b)生育密度が

高く(樹高 5m以上,林冠 30%以上), 1 ha以上連続

した森林, c)樹高5m以上,林冠 10-30%で 1ha以上

連続した森林。ただし, GHG算定において土地利用変

化による排出を考慮する場合は,同土地での生産は認

められる。また,泥炭地での原料の生産は認められて

いないが,原料生産が土壌流出につながらないと立証

された場合は,生産は認められる(欧州議会 2008)。

(3) 欧州委員会によるデフォルト値であり,一般的生産プ

ロセスの場合,総排出量は 68gC02e/MJとなり,化石

燃料に対する GHG削減率は 19%となる。搾油音寺にメ

タンを回収したプロセスの場合は,総排出量は

37gC02e/MJとなり,化石燃料に対する GHG削減率

は56%となる(欧州議会2008)。

〔引用文献〕

European Parliament (欧州議会 2008),“Promotion of

the use of energy from renewable sources" , P 6

TA吋 PROV(2008)0609,European Parliament.

F.O.Licht (2009), F.O.Licht World Ethanol & Biofuels

Report Vol7, No9, F.O.Licht.

Oil World (2008), Oil World Annual 2008, ISTA

Mielke GmbH.

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Page 23: インドネシア・マレーシアにおけるバイオディーゼル政策と生産 … · ア・マレーシアにおけるバイオディーゼル生産拡 大の可能性について調査・分析を行った。また,

農林水産政策研究第 15号

Comparison analysis of biodiesel policy and production in Indonesia and Malaysia

Tatsuji Koizumi

Summary

The government of Indonesia and Malaysia are promoting palm oil based biodiesel production and

utilization. The cost of raw materials accounts for 85 percent of the total cost. High palm oil price is the

obstacle to expand biodiesel production in lndonesia and Malaysia.百owever,the biodiesel production and

policy of both countries are quite different. The government of Malaysia suspended new biodiesel projects,

because the industry can' t get benefit from the projects. The government of lndonesia is working for

agricultural development through biodiesel production. It is considered that these differences are caused by

the policy objective of biodiesel program and the structure of palm farming style.

- 40-