インターネット・コミュニケーション論(2015年度)第10回...
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インターネット・コミュニケーション論(2015年度)第10回 2015. 06. 17
第10回 インターネットとわたしたちの生活(1)2000年代までの変化について
1.かかわりの電子的変容
電子的な「かかわり」の社会風景 ---> ケータイやインターネットの利用 ⇩ ひとびとの「かかわり」を断ち切り関係性の希薄化を招く?
電子的な「かかわり」の社会風景とそこに起因する疑問を検証
3つの疑問
① ケータイやネット利用の理由 ---> 伝えたいことがある?/「かかわり」自体を求めている?
② ケータイやネット = 電子メディア ---> 「かかわり」の不活発化や希薄化と直結?
③ ひとびとを電子的な「かかわり」へ向かわせる理由
2.「かかわり」の電子メディア
コミュニケーションの2つの機能
伝達機能 ---> メッセージや情報を他者へ伝える
交話機能 ---> 「かかわり」を開設および確認する(ヤコブソン)
⇩ あらゆるコミュニケーションが備える機能 ---> 典型例:あいさつ/世間話
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{用件伝達が多い
自己充足的なやりとり
待ち合わせの連絡
遊びの誘い
できごとや気もちの伝達
特に用件なし
0 20 40 60 80 10060
65
27
13
60
56
60
70
29
25
79
96
音声通話携帯メールパソコンメール
待ち合わせの連絡
遊びの誘い
できごとや気もちの伝達
特に用件なし
0 20 40 60 80 10060
65
27
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56
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音声通話携帯メールパソコンメール
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3.自己充足的なメール・コミュニケーション
メール・コミュニケーション ---> 伝達機能/交話機能のどちらがより強いか?
中村功による全国調査(2000年) ---> 携帯電話(PHS含む)における音声通話およびメールの内容の違いに着目
音声通話に多い内容
「待ち合わせなどの約束や連絡」---> 68%(メールでは52%) 「仕事上の報告,連絡,相談」 ---> 38%(メールでは14%)
メールに多い内容
「その時あったできごとや気もちの伝達」---> 66%(音声通話では21%) 「とくに用件のないおしゃべり」 ---> 41%(音声通話では18%)
結論:メール = かかわりのメディア( > 情報伝達のメディア)
辻・三上による大学生調査(2001)(図aを参照) 図a:音声通話/携帯メール/パソコンメールでやりとりすることの多い内容(複数回答)
パソコンメール ---> 「かかわり」のメディアの性格が強い
パソコンメール/ケータイメールの性格の差異 ⇩
拡大/補強のメディアという差異
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パソコンメールもケータイメールと同様の使われ方 ---> 自己充足的なやりとり(「できごとや気持ちの伝達」「特に用件なし」) が音声通信より明らかに多い
パソコンメール ---> 「待ち合わせの連絡」「遊びの誘い」は少ない (音声通信・ケータイメールと比較して) ⇩ ⇩ パソコンメール ---> 待ち合わせや一緒に遊ぶことの少ない相手との 「かかわり」において利用 電子空間だけでの対人関係
ケータイメール ---> 対面的な「かかわり」と並行して利用 (および音声通話)
「メル友」(メールのやりとりのみ/あまり会わない・会ったことのない友人) ⇩ ケータイメール利用者 ---> 15%程度 パソコンメール利用者 ---> 40%前後
パソコンメール ---> 新しい「かかわり」を開き・拡大するメディア
ケータイメール ---> 既知の相手との「かかわり」を補完・強化するメディア
厳密な区分ではない ⇩ オンライン上で知り合った後にオフラインでも会うケース
橋元良明らの全国調査(2002) オンライン上で知り合った「メル友」 ---> 約半数がオフラインでも会う経験
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BBSやウェブ ---> 「かかわり」形成のメディアとして機能
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4.電子掲示板・ウェブ日記・ブログ・SNS
電子的な「かかわり」の拡大 <--- どのような「場」や「きっかけ」か? ⇩ 「出会い系サイト」や「友だち募集サイト」の存在
橋元らの全国調査(2002および2004) 出会い系サイトにアクセスするネット利用者は全体の2~4% 電子掲示板(BBS:Bulletin Board System)上のやりとり 多いケース ---> ホームページ経由でのメール交換
ネット利用者 ⇩ 約4割が電子掲示板にアクセス ---> そのうち半数は書き込み経験あり ---> 2割はBBSで知り合った相手とメール/電話/会った経験あり (ネット利用者の8%)
WIP(World Internet Project)日本調査 月1回以上BBSや個人サイトにアクセスする利用者 ⇩ そうではない利用者よりネットを通じて知り合った友人がいる割合が非常に高い
川浦康至らのウェブ日記調査(1999) ウェブ日記の書き手 ---> 他者との「かかわり」を重要視
ウェブ日記を書き続ける意欲となる要因 ⇩ 「自己表現満足」/「対自己効用」/「対関係効用」/「被理解満足」を想定 ---> 「自己表現満足」は日記執筆の継続意向に結びつかず ---> 「対自己効用」「対関係効用」「被理解満足」が継続意向に結びつく ---> 「対自己効用」 = 読み手からのフィードバックに支えられている
公 ̶ 私のねじれた状況
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ウェブ日記 ---> 「自己満足のために執筆する」というイメージは誤り ---> 他者との「かかわり」における満足を得るために執筆
ウェブ日記 ---> 日本のウェブ文化の特徴のひとつ
石井健一らの調査(2000) 個人が開設したウェブサイトに日記を掲載している割合 日本:24%/米国:8%/中国:4% ---> 高い日本の割合
日本の個人サイトに掲載の文章 ⇩ 全般的に趣味/身辺雑記的な私的内容が多い ⇩ 私的内容を不特定多数に対し開かれたコミュニケーション空間へ公開
日本の個人サイト ---> 友人・知人のサイトへリンクする割合が高い ⇧ 最近のネット技術の展開:他者とのリンクを促進する方向へ ⇩ 「トラックバック機能」:情報同士をつなぐリンク/人と人をつなぐリンク
SNS(Social Networking Service) ---> 電子コミュニティ・サービスの一種 SNSの基本要素 ---> 既存メンバーからの招待制 ---> 実名公開の原則 ---> 自分専用ページの開設 ---> 「友人の友人」とのリンク ---> 非匿名的な出会い系サイト
インターネットに対する電子的公共圏としての役割期待 ⇩ 日本の動向を参照すると・・・ 「私」を発信するメディア 他者との私的な「かかわり」を媒介するメディア これがインターネットの現状として適切
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5.電子的な「かかわり」の弱さと親密さ:フレーミングと顔文字
ケータイ/インターネット ---> 冷たい/希薄なイメージ ⇧ 対面的な「かかわり」と比較して
私的な「かかわり」の希薄化を助長? 電子メディア ---> 希薄な「かかわり」を求める人びとが盛んに利用する?
インターネット ---> コンピュータを媒介したコミュニケーション || CMC(Comptuer-Mediated Communication)
CMC ---> 相互の表情が見えず/声の調子もわからない
⇩ ⇩ ⇩ 「冷たさ」を連想させるコミュニケーション ⇩ コミュニケーション上の非言語的情報が欠乏 ---> メッセージが誤解される恐れ ⇩ フレーミングの発生
フレーミング発生の可能性 ---> CMC >> 対面状況 ⇩ 多くの実験や調査が示唆 ⇧ CMCにてフレーミングが起こりやすいことを実証した研究はほとんどない ---> 実験方法の不適切さ/調査におけるバイアスが影響 (柴内の研究(1998)による)
若者たちは文字のやりとりに冷たさを感じない
楽観的インターネット論とは逆の調査結果
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辻・三上による大学生調査(2001) ---> メールの交換 = 「文字ならではの楽しさがある」 ---> 8割が回答
別の調査では… ---> 「親しい友人」と交換するメールに絵記号をよく使う傾向あり
6.インターネット・パラドクス
非言語的情報の欠如と異なる視点での研究 ---> インターネットにおける電子的「かかわり」の「弱さ」を問題視
R.クラウトらの研究(1998) ---> 米国のある地域の住民にネット接続可能なPCを提供 ---> 1995年から2年間の継続調査 ---> 利用状況/対人関係/心理状態などを調査
結果 ---> ネットを頻繁に利用する住民
⇩ 家族とのコミュニケーションが減少 ⇩ 地域コミュニティでの(対面的)つきあいの範囲減少 ⇩ 孤独感や抑鬱感の拡大 ⇩ ⇩ ⇩ ⇩ 「インターネット・パラドクス(逆説)」 ⇧ 「弱いきずな」概念による解釈
「弱いきずな weak tie」(グラノヴェター) ---> つきあいの機会が少ない/結びつきの途切れやすい対人関係
インターネット上の電子的「かかわり」 = 「弱いきずな」 ⇩ 対面的「強いきずな」にとってかわる ⇩ 心理的サポートの欠乏/孤独感や抑鬱感の拡大
現在の日米 ---> インターネットは人びとの「かかわり」を不活発化せず
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インターネット・コミュニケーション論(2015年度)第10回 2015. 06. 17
インターネット・パラドクスに対する反論 ---> 多くの調査結果により反証 ⇩ ⇩ クラウトらによる追跡調査(2002) 最初の調査とは異なる結果 ⇩ ⇩ 地域コミュニティでのつきあい範囲が拡大 ネットを頻繁に利用する者 ---> 孤独感や抑鬱感とは関連なし
橋元ほかによる調査(2004) 家族・友人とのつきあい/孤独感・抑鬱傾向の助長 ---> 関連無いことを確認
クラウトらの指摘 ふたつの調査が異なる結果 ---> ネット利用の一般化 ⇩ 家族・友人との「かかわり」を維持する働きが増進
7.「かかわり」の希薄化という錯覚
クラウトらの追跡調査(2002) ---> 外向的なネット利用者 ⇩ 孤独感の減少/コミュニティへの関与の強化 興味深い分析結果 ---> 内向的なネット利用者 ⇩ 逆の変化が発生
橋元ほかの調査(2004)でも同様の傾向を確認
関係の親密志向
関係の切り替え志向
関係の拡大志向
キャラの切り替え志向
性別
年齢
-0.60 -0.45 -0.30 -0.15 0.00 0.15 0.30 0.45 0.60
-0.41
-0.15
0.39
0.12
-0.04
0.30
「木を見て森を見ず」のような錯覚
「弱い」が「希薄」ではない電子的「かかわり」を人びとが求める理由は?
インターネット・コミュニケーション論(2015年度)第10回 2015. 06. 17
「電子的な『かかわり』の希薄さ」というイメージの発生 ⇧ クラウト/橋元調査などから発生した「錯覚」ではないか?
ものごとの良い面より悪い面が目立つ ---> 内向的なネット利用者の変化が目立つ ⇩ ネット利用が社会的「かかわり」を不活発化する面を印象づけ ⇩ 内向的なネット利用者の特徴が全体像として錯誤される
ネット上での「かかわり」 = 弱いきずな ≠ 希薄なきずな ⇩ 橋元ほかの「メル友」調査(2002)(図bを参照)
図b:メル友の有無と友人関係志向との関連
(弱いきずな典型例であるはずの)「メル友」がいる人 ---> 親密な友人関係を求める傾向
橋元ほかのケータイ調査(2004) ケータイメール <--- 対面的「かかわり」( = 強いきずな)との比較 ⇩ 友人関係/家族関係を不活発化/希薄化しない
対人関係の全般にわたり局面化が進行
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8.電子的「かかわり」と「私」の不安:「かかわり」の「局面化」
人びとが「弱い」電子的「かかわり」を求めるのか? ⇩ ひとつの理由 ---> 電子メディアの登場以前から対人関係の局面化が進行 ⇩ 局面的な関係 = 「あっさり」した「かかわり」 ⇧ つきあいの場面/状況を限定した関係性
局面的な関係 ---> (接触頻度の少ない)弱いきずなと親和的 ⇩ 弱いきずなと局面的な関係は完全に一致するものではない
NHK放送文化研究所の調査(2004) ---> ’73から実施の調査 職場・近隣・親戚との「望ましい」つきあい方 「なにかにつけて相談したり,たすけ合える」全面的なつきあい ⇩ 減少
「しごとが終わってからも,話し合ったり遊んだりする」局面的なつきあい 「しごとに直接関係する範囲」の局面的なつきあい ⇩ 増加
教育学の領域でも同様な指摘 ---> 子どもたちの友人関係が1980年代から局面化
関係性の「希薄」化と対人関係の局面化は混同されやすい ---> 本来両者は区別されるべきもの
NHK放送文化研究所の調査(1994)/日経商業消費研究所(1998)の調査 親友とのつきあい方 ---> 1980年代以降回答の比率に変化無し ⇩ 経年変化の面でみても関係性の希薄化と局面化は異なる動向を示す
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関係性の局面化 <--- 高度経済成長期における都市化の全国的な拡大が原因
かつてのムラ社会 ---> 特定の相手との間に複数の関係性を形成・維持 現代の都市社会 ---> 特定の相手との全面的な関係は好まれず
大谷信介の調査(1995) 都市部ほど局面的な関係性が好まれる傾向を指摘
9.絶え間なきつながりのメディア
インターネット/ケータイ = 弱いきずな(局面的な「かかわり」)のメディア ⇧ 社会的・時代的背景を素地として登場
対面的な関係と並行して用いられているケータイ ---> 対面的な関係性の「弱いきずな」化のゆえに受容されたメディア
辻の大学生調査(1999) 局面的な友人関係を使い分け/切り替える ---> ケータイの所有率と関連あり
辻の調査(2003) 局面的関係性の切り替え志向 ---> ケータイを通じた友人とのコミュニケーション頻度と関連を指摘
ケータイ = 「かかわり」のチャンネルを切替操作する「関係リモコン」として機能 ⇩ 音声通話の場合に顕著にみられる
ケータイメールは少し異なる傾向を示す ---> 関係切替志向より親密志向が強く関連
メールは時と場所を選ばずにコミュニケーションが可能 ⇩ 「絶え間なきつながり(perpetual contact)」(カッツ&オークス)のメディア ---> 親密な「かかわり」を深めるのに適切なメディア
局面的関係の断片化 ---> 「私」のゆらぎ ⇩
確実で密接な「かかわり」への欲求として結実
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「たえまなき」つながり ---> 接触頻度の多い「強い」きずな ⇩ 関係性の多局化という時代の流れに逆行?
難しい解釈:考慮すべき点(1) ---> メールというメディアの低い束縛度
辻・三上の調査(2001) ケータイメール ---> 「行動が縛られているような気がする」 ---> 1割程度
メール = 接触頻度の多い強いきずな ⇩ 束縛度の高い全面的な関係とは限らない
考慮すべき点(2) ---> 局面化する関係性の中から生まれる「つながり不安」
辻の調査(2003) 子どものケータイにかかってきた電話を親は取り次がない ⇧ ⇩ 個人と個人をダイレクトにつなぐメディア ⇩ ⇩ 「友だちのことが親に知られなくなった」ために… ⇩ アイデンティティが不安定な傾向にあることを指摘
親子関係と友人関係が切断されて個別化:「別世界」化 ⇩ ひととつながる「私」 = 自我(自己)を保持しづらい
(図bを参照)「メル友」のいる者 ---> 電子メディアという「別世界」のみでの「かかわり」をもつ者 ⇩ キャラの切り替え志向が高い傾向
音楽をきく
テレビをみる
メールする
0 10 20 30 40 50 60 70
33
51
60
56
61
63
感じる者感じない者
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10.ケータイメールと孤独
局面的関係の断片化/確実かつ密接な「かかわり」欲求 ⇩ ⇩ コインの「表」と「裏」 ⇩ 絶え間なきつながりの中でのみ「私」の存在を感じ取れない
中村の大学生調査(2003) 孤独耐性の低い者( <--- 「ひとりで夕食をたべるのは耐えられない」) ⇩ 友人とのケータイメール通信量が多い傾向を指摘 ⇩ 孤独であることの所在なさ/不安感 ---> 「つながり依存」へ結実
辻の大学生調査(2005)(図cを参照)
図c:メールがない時の孤独感の有無と,孤独の解消法
「ケータイに着信・メールがないとき」に孤独感を感じるか? 「感じる」 ---> 22% 「やや感じる」 ---> 40%
着目点(1) ケータイ ---> 孤独を解消する手段/新たな孤独を生み出すもの ⇩ 物理的にはひとりでいる状況 ---> 社会的状況定義が変化 ⇩ 新たな孤独を感じる余地が発生
循環的なプロセス ---> つながりが自らを再生産
逆説的な「かかわり」から構成される社会としての電子メディア社会
インターネット・コミュニケーション論(2015年度)第10回 2015. 06. 17
着目点(2) 「ケータイに着信・メールがないとき」 ⇩ 孤独の解消法として「メールをする」を選択する割合が高いことを指摘
電子メディア ---> つながりの常態化 ---> 「絶え間」に孤独が発生 ⇧ ⇩ ⇧ 「絶え間」なきつながりへの強い欲求発生 ⇧ ⇩ 「絶え間」への不安感増大 <--- つながりのさらなる常態化
結論
つながりの形成・維持(保持) ---> 個人の孤独不安を必ずしも解消せず
つながりが自らを再生産すること副産物 ⇩ つながりか疎外される不安(感)の再生産
絶え間なき親密なつながりの中で不安をかかえる「私」 = 自己(自我)