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INNERVISION ( 33・2 ) 2018 5 RSNA 2017 特 集 連携を評価できるとされ,簡便な解析法 が開発され普及すると,精神疾患の画 像診断が行える時代が来ると思われる。 精神疾患の研究発表では,9 演題中 5 演 題は中国からであり,最近の中国の研究 レベルの上昇がうかがえるものであった。 中枢神経領域では,従来の解剖学的 画像に加え,機能的な情報,定量的解 析を加えることで正確な評価ができるよ うになってきており,今後ますます画像 診断の重要性が増すと考えられる。 今回の RSNA は,新しい時代を感じ た学会であった。本稿が少しでも最新 の RSNA 情報としてお役に立てれば幸 いである。 2017 年も米国イリノイ州シカゴ市にて, 第103回北米放射線学会(RSNA 2017) が開催された。シカゴらしからぬ暖冬で, ホテルから会場まで行くにも,街に出る にも絶好の天候だった。今回の大会テー マは“Explore. Invent. Transform.”。 われわれ放射線科医が,何を探求し, その価値を最大限に生かすためにどのよ うに考案し,開発していくべきなのか? そして,放射線医学の中心にいる患者 に再度焦点を合わせることによって,わ れわれは,患者やそれにかかわる臨床医 に最大限の奉仕を提供できるように,そ の変革の道をたどっている最中にある。 さて,今回の RSNA の特徴は,何と いっても人工知能のセッションが大幅に 増えたことである。胸部領域においても Scientific Paper,Scientific Poster, Education Exhibit,すべての領域にお いて人工知能の演題が目立っていた。 また,例年どおりとも言えるが,中国, 韓国からのScientific Paperの発表が非 常に多かった印象である。Education Exhibit会場においても,Machine Learningのコーナーや (図 1) ,Deep Learning Classroom が設けられるなど, 人工知能技術が放射線医学に急速に進 展しつつあることが感じとれた。今後, 人工知能技術が,われわれ放射線科医 のスタイルを大きく変える時代が来るか もしれない。 胸部領域では,Thoracic Malignan- cy/Lung, Thoracic Malignancy/Thy- mic and Esophageal,Lung Nodule, Lung Nodule/MRI,Emphysema and Airways,Dual energy/Radiomics, Diffuse Lung Disease,Lung Cancer Screening,Interventional/Ablation, Vascular,Functional Lung Imaging/ Radiation Dose Reductionの11セッ ションがあった。このたび,Thoracic Malignancy/Lungのセッション (SSA05) で,当大学の基礎工学部と共 同開発したディープラーニングを用いた 肺腺癌の病理学的浸潤成分の予測に関 する preliminary な研究を発表する機会 を得た。ディープラーニングを用いれば, たとえ少ない学習症例であっても放射 線科医と同等の正解率を提供可能であり, 感度や特異度など診断精度に関しても, 経験豊富な放射線科医と同等の結果を 提供可能であることを示した。Lung Nodule のセッション (SSC 03) では,人 工知能関連の演題が9演題中3演題あ り,人工知能型の CAD システムを用い た CT や X 線写真での病変検出に関す る演題があった。人工知能以外では, テクスチャ解析を含めた定量値を用いた ものが多く,肺結節とその周囲肺実質 のテクスチャ解析が,体積倍加時間より も肺結節の悪性度診断に有用であるこ とを示した演題があった。また,Dual energy/Radiomicsのセッション (SSG 03) においても,定量評価が主流 を占め,radiomic featuresから臨床病 期 N 0 患者の病理学的リンパ節浸潤を予 測する演題や,遺伝子phenotype別 (EGFR,KRAS)の肺がんの特徴をテク スチャ解析で評価した演題などが発表さ れていた。annular ring approachと呼 ばれる手法を用いた,腫瘍とその周囲肺 を 5 mm ごとに拡大した領域を解析する 方法なども使われていた。また,特発性 間質性肺炎の進行を予測するためのモデ ル構築に関する演題など,Diffuse Lung Disease のセッション (SSK05) におい てもRadiomics関連の評価法が目立っ た。全体として,共通して言えることは, 例年と同様に CT,MRI,PET すべての 領域で定量イメージングが重要視されて おり,三次元解析や texture 解析を用い た演題が,各セッションの大半を占め, それに加えて,人工知能を用いた演題が 少なくとも一つは入っているといった構 成が 2017 年の特徴である。この傾向は 2018 年も同様,あるいはそれ以上になる のではないかと予想する。 2017 年度,新しく導入されたセッショ ンは,Lung Nodule/MRI (SSJ 05) であ る。肺結節の MRI 診断に関する総論が 最初に 10 分程度あり,その後に発表が 開始されたが,総じて,diffusion エキスパートによる RSNA 2017 ベストリポート 1. 領域別最新動向:CT & MRI の技術と臨床を中心に 胸部(肺) 梁川 雅弘 大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学 図 1 レイクサイドラーニング センターのMachine Learning のコーナーにて

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INNERVISION (33・2) 2018  5

エキスパートによるRSNAベストリポート

RSNA 2017特 集

連携を評価できるとされ,簡便な解析法が開発され普及すると,精神疾患の画像診断が行える時代が来ると思われる。精神疾患の研究発表では,9演題中5演題は中国からであり,最近の中国の研究

レベルの上昇がうかがえるものであった。 中枢神経領域では,従来の解剖学的画像に加え,機能的な情報,定量的解析を加えることで正確な評価ができるようになってきており,今後ますます画像

診断の重要性が増すと考えられる。 今回のRSNAは,新しい時代を感じた学会であった。本稿が少しでも最新のRSNA情報としてお役に立てれば幸いである。

 2017年も米国イリノイ州シカゴ市にて,第103回北米放射線学会(RSNA 2017)が開催された。シカゴらしからぬ暖冬で,ホテルから会場まで行くにも,街に出るにも絶好の天候だった。今回の大会テーマは“Explore. Invent. Transform.”。 われわれ放射線科医が,何を探求し,その価値を最大限に生かすためにどのように考案し,開発していくべきなのか?そして,放射線医学の中心にいる患者に再度焦点を合わせることによって,われわれは,患者やそれにかかわる臨床医に最大限の奉仕を提供できるように,その変革の道をたどっている最中にある。 さて,今回のRSNAの特徴は,何といっても人工知能のセッションが大幅に増えたことである。胸部領域においてもScientific Paper,Scientific Poster,Education Exhibit,すべての領域において人工知能の演題が目立っていた。また,例年どおりとも言えるが,中国,韓国からのScientific Paperの発表が非

常に多かった印象である。Education Exhib i t 会場においても,Machine Learningのコーナーや(図1),Deep Learning Classroomが設けられるなど,人工知能技術が放射線医学に急速に進展しつつあることが感じとれた。今後,人工知能技術が,われわれ放射線科医のスタイルを大きく変える時代が来るかもしれない。 胸部領域では,Thoracic Malignan-cy/Lung, Thoracic Malignancy/Thy-mic and Esophageal,Lung Nodule, Lung Nodule/MRI,Emphysema and Airways,Dual energy/Radiomics, Diffuse Lung Disease, Lung Cancer Screening,Interventional/Ablation, Vascular, Functional Lung Imaging/Radiation Dose Reductionの11セッションがあった。このたび,Thoracic Ma l i g n a n c y /Lung のセッション(SSA05)で,当大学の基礎工学部と共同開発したディープラーニングを用いた肺腺癌の病理学的浸潤成分の予測に関するpreliminaryな研究を発表する機会を得た。ディープラーニングを用いれば,たとえ少ない学習症例であっても放射線科医と同等の正解率を提供可能であり,感度や特異度など診断精度に関しても,経験豊富な放射線科医と同等の結果を提供可能であることを示した。Lung Noduleのセッション(SSC03)では,人工知能関連の演題が9演題中3演題あり,人工知能型のCADシステムを用いたCTやX線写真での病変検出に関する演題があった。人工知能以外では,

テクスチャ解析を含めた定量値を用いたものが多く,肺結節とその周囲肺実質のテクスチャ解析が,体積倍加時間よりも肺結節の悪性度診断に有用であることを示した演題があった。また,Dual ene rgy/Rad i om i c s のセッション(SSG03)においても,定量評価が主流を占め,radiomic featuresから臨床病期N0患者の病理学的リンパ節浸潤を予測する演題や,遺伝子phenotype別

(EGFR,KRAS)の肺がんの特徴をテクスチャ解析で評価した演題などが発表されていた。annular ring approachと呼ばれる手法を用いた,腫瘍とその周囲肺を5mmごとに拡大した領域を解析する方法なども使われていた。また,特発性間質性肺炎の進行を予測するためのモデル構築に関する演題など,Diff use Lung Diseaseのセッション(SSK05)においてもRadiomics関連の評価法が目立った。全体として,共通して言えることは,例年と同様にCT,MRI,PETすべての領域で定量イメージングが重要視されており,三次元解析やtexture解析を用いた演題が,各セッションの大半を占め,それに加えて,人工知能を用いた演題が少なくとも一つは入っているといった構成が2017年の特徴である。この傾向は2018年も同様,あるいはそれ以上になるのではないかと予想する。 2017年度,新しく導入されたセッションは,Lung Nodule/MRI(SSJ05)である。肺結節のMRI診断に関する総論が最初に10分程度あり,その後に発表が開始されたが,総じて,d i f f u s i o n

エキスパートによるRSNA 2017ベストリポート

1.領域別最新動向:CT&MRIの技術と臨床を中心に胸部(肺)

梁川 雅弘 大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学

図1  レイクサイドラーニングセンターのMachine Learningのコーナーにて