fpdとipの性能の違いが アイリスフィルタの腫瘤検出能に...

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― 15 ― 吉本・近藤:FPD と IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響 1 緒 言 乳癌の早期発見にはマンモグラフィが最も有用 な検査方法であると位置づけられている。近年は マンモグラフィの集団検診が行われるようにな り、一人の医師が読影する画像量が増えてきた。 そこで、読影医の負担を減らし、腫瘤検出能を向 上させる目的で開発されたのが、コンピュータに よる支援診断システム( CAD)である。 CAD で腫瘤検出を目的として用いられる画像 処理フィルタの一つにアイリスフィルタがある。 これは乳癌腫瘤の濃度勾配ベクトルの集中度を算 出して乳癌腫瘤検出を行うものである。 マ ン モ グ ラ フ ィ に は 近 年 FPD( Flat  Panel  Detector)や IP( Imaging Plate)といったディ ジタルシステムが用いられるようになってきてい る。それぞれの装置は画像を得るまでの機構が異 なるため画像には特徴がある。MTF や DQE は FPD の方が良いとされている。しかしこれまで の FPD は画素サイズが 100 ~ 150 [μm]程度と IP に比べて大きかったためこれが解像度を低下 「コ ン ピ ュ ー タ に よ る 画 像 診 断 支 援 シ ス テ ム ( CAD)」 で 用 い ら れ る 画 像 処 理 フ ィ ル タ の 一 つ にアイリスフィルタがある。本実験はアイリスフィルタを用いて、FPD と IP で腫瘤検出を行っ た際に腫瘤検出能にどのような差が生まれるかを検証したものである。FPD と IP では画像を得 るまでの機構が異なる。そのため画質にはそれぞれ特徴がある。FPD の方が MTF、DQE 共に良 いとされている。今回使用した FPD 装置 AMULET の画素サイズは IP と同じ 50[ μ m] であるた め、解像度の比較的な差もない。 それぞれの検出器について性能評価を行った。WS は低周波数領域において AMULET の方が 高い値を示し、粒状性が悪かった。また、MTF については全体において AMULET の方が高い値 を示し、高鮮鋭だった。何種類かの模擬腫瘤を乳房ファントムの上に乗せて撮影し、アイリス フィルタで腫瘤検出を行った。いずれの検出器においても直径が大きい腫瘤ほど集中度が低下し た。アイリスフィルタは濃度勾配ベクトルの方向のみから腫瘤を検出する。濃度勾配が緩やかだ とノイズの影響を受けやすくなり、集中度が低下する。直径が大きい腫瘤は濃度勾配が緩やかに なるため、集中度が低下した。また直径が大きく高さの低い腫瘤については FPD装置の方が高 い集中度を示した。WS 値は AMULET の方が高かった。しかし今回使用した模擬腫瘤に影響を 及ぼすノイズはより高周波領域のノイズと考えられる。二つの検出器では高周波領域においては WS 値に大きな差はなかったため、腫瘤検出の影響に差はなかった。一方、腫瘤辺縁に相当する 領域において MTF の値は FPD 装置の方が高かった。これにより FPD 装置では腫瘤辺縁まで検 出されており高い集中度を示した。IP装置では腫瘤辺縁まで検出することが出来ず、集中度が低 下した。直径 12.5[mm]、高さ 1[mm]の模擬腫瘤検出においてはシステム上の検出レベルを下 回った。したがって、腫瘤検出能において FPD 装置の方が高性能である。 FPD と IP の性能の違いが アイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響 (平成25年11月28日受理) 吉本 絵夢、近藤 啓介

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吉本・近藤:FPDと IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響

1.� 緒 言 乳癌の早期発見にはマンモグラフィが最も有用な検査方法であると位置づけられている。近年はマンモグラフィの集団検診が行われるようになり、一人の医師が読影する画像量が増えてきた。そこで、読影医の負担を減らし、腫瘤検出能を向上させる目的で開発されたのが、コンピュータによる支援診断システム(CAD)である。 CADで腫瘤検出を目的として用いられる画像処理フィルタの一つにアイリスフィルタがある。

これは乳癌腫瘤の濃度勾配ベクトルの集中度を算出して乳癌腫瘤検出を行うものである。 マンモグラフィには近年FPD(Flat Panel Detector)や IP(Imaging Plate)といったディジタルシステムが用いられるようになってきている。それぞれの装置は画像を得るまでの機構が異なるため画像には特徴がある。MTFや DQEはFPDの方が良いとされている。しかしこれまでのFPDは画素サイズが 100 ~ 150[μm]程度とIP に比べて大きかったためこれが解像度を低下

 「コンピュータによる画像診断支援システム(CAD)」で用いられる画像処理フィルタの一つにアイリスフィルタがある。本実験はアイリスフィルタを用いて、FPD と IP で腫瘤検出を行った際に腫瘤検出能にどのような差が生まれるかを検証したものである。FPD と IP では画像を得るまでの機構が異なる。そのため画質にはそれぞれ特徴がある。FPD の方が MTF、DQE 共に良いとされている。今回使用した FPD 装置 AMULET の画素サイズは IP と同じ 50[ μ m] であるため、解像度の比較的な差もない。 それぞれの検出器について性能評価を行った。WS は低周波数領域において AMULET の方が高い値を示し、粒状性が悪かった。また、MTF については全体において AMULET の方が高い値を示し、高鮮鋭だった。何種類かの模擬腫瘤を乳房ファントムの上に乗せて撮影し、アイリスフィルタで腫瘤検出を行った。いずれの検出器においても直径が大きい腫瘤ほど集中度が低下した。アイリスフィルタは濃度勾配ベクトルの方向のみから腫瘤を検出する。濃度勾配が緩やかだとノイズの影響を受けやすくなり、集中度が低下する。直径が大きい腫瘤は濃度勾配が緩やかになるため、集中度が低下した。また直径が大きく高さの低い腫瘤については FPD 装置の方が高い集中度を示した。WS 値は AMULET の方が高かった。しかし今回使用した模擬腫瘤に影響を及ぼすノイズはより高周波領域のノイズと考えられる。二つの検出器では高周波領域においてはWS 値に大きな差はなかったため、腫瘤検出の影響に差はなかった。一方、腫瘤辺縁に相当する領域において MTF の値は FPD 装置の方が高かった。これにより FPD 装置では腫瘤辺縁まで検出されており高い集中度を示した。IP 装置では腫瘤辺縁まで検出することが出来ず、集中度が低下した。直径 12.5[mm]、高さ 1[mm]の模擬腫瘤検出においてはシステム上の検出レベルを下回った。したがって、腫瘤検出能において FPD 装置の方が高性能である。

FPD と IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響

(平成 2 5 年 1 1 月 2 8 日 受理)

吉本 絵夢、近藤 啓介

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駒澤大学医療建康科学部紀要 第 11 号(2014)

2.�2.� 集中度の算出 2.1 節で算出した勾配ベクトルの向き よりを求める。は注目画素を中心に半径  の円内にある各画素に対し、各画素と注目画素とを結ぶ直線とその画素点における勾配ベクトルとのなす角である。Fig.3 に示す任意の画素 Pの   は、注目画素Oと Pを結んだ直線OPと画素 Pにおける勾配ベクトルの向き   とのなす角である。上記のように各画素の角  の余弦の値を算出する。

させる原因になっていた。今回の実験で使用したFPD装置AMULETは IP と同じ 50[ μ m] の画素サイズを実現しており、これによる比較的な解像度の低下も無くなった。したがってFPDの方が粒状度、解像度共に良いことが期待される。 今回はFPD装置AMULETとIP装置PROFECTでマンモグラフィを撮影し、アイリスフィルタを使って腫瘤検出を行った際に、二つの性能の違いが検出能にどのような影響を及ぼすのかを検証し、評価する。

2.� アイリスフィルタについて 乳癌腫瘤陰影は中心部に向かって濃度が低くなる特徴を持つ。アイリスフィルタは濃度変化の勾配を表すベクトルを用いて、ベクトルの集中する領域を抽出し、強調する。2.�1.� 勾配ベクトルの算出 勾配ベクトルの傾き は注目画素に対して 5×5のマスクを取り、周囲の辺の濃度値合計をそれぞれ ~ としたとき(1)式を用いて算出できる。

    …(1)

    …(2)

   …(3)

3.� 各装置における画像取得の仕組み3.�1.� AMULET FPD装置は主に直接型と間接型に分類される。 今回使用したFUJIFILM社製AMULETは直接型に分類されるが、従来の直接型と異なるTFT(薄膜トランジスタ)を使用しない仕組みで、Direct Optical Switching テクノロジー方式と呼ばれる。X線が検出器に入射すると a-Se により電子・正孔対が発生して両極に印加された電圧によって電子は引き寄せられる。収集電荷は一度中間帯で捕獲され、潜像を形成する。その後読み出し光を照射することで a-Se が励起状態となり電子正孔対を発生すると、捕獲されていた電子が正孔を引き寄せ、残った電子が画像情報として贈られる。これによりTFTを使用せずに画像を読み出すことが可能となったのでアパーチャによる画図 1 勾配ベクトル算出のマスクフィルタ

注目画素

図 2  の算出

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吉本・近藤:FPDと IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響

定(表 3、図 7)、WS測定を行った。PROFECTについてはグリッドを取り外すことができないのでグリッド有りについてのみ測定を行った。

素サイズの制限がなくなり、最小クラスの1画素50[μm]を実現している。3.�2.� PROFECT

 PROFECTは IP を使用したFUJIFILM社製装置である。入射したX線のエネルギーにより励起したEu2+ はその一部が色中心と呼ばれる中間のエネルギー準位に留まり、潜像を形成する。その後レーザー光を照射すると再び励起状態になってから輝尽発光によりエネルギーを放出する。この光を読み取ることで画像を得る。

4.  実験方法4.1.  WS 測定 最初にFPD装置AMULETにて、マンモファントムを撮影条件 28[kV], 36[mAs], Mo/Mo で撮影し、PCで画像情報を取得した。ImageJ で乳房ファントム画像(図 4)をAB方向に走査してProfile か ら 乳 房 相 当 の デ ィ ジ タ ル 値(GrayValue = 7400 ~ 7500)を得た(図 5)。 これと同じくらいのディジタル値を得られるアクリル厚を探すため、厚みを 4,4.5,5,6[cm]と変えて撮影し、それぞれの表 1のようなディジタル値を得た。よって最も近いアクリル厚 4.5[cm]でWSを測定することにした。 次にWS測定に必要なガンマ測定を行った。アクリル厚 4.5[cm]でmAs 値を 28, 32, 36, 40, 45[mAs]と変えたときの入射表面線量とディジタル値からガンマを求めた(表 2、図 6)。 以上のデータを用いてWSをグリッド有りと無しの場合についてそれぞれ測定した。アクリル板に一様露光した原画像から ImageJ を用いて256 × 256 の ROI で切り取った。トレンド補正をした上で、フーリエ変換を行いWSのデータを求めた。同様の作業を 128 画素平行移動した違うROI においても繰り返し、その平均値を画像のWSとした。今回はいずれも 20 点サンプリングを行った。 IP 装置 PROFECTについても同様にガンマ測

表 1 アクリル厚とディジタル値アクリル厚[cm] ディジタル値

4 7900 ~ 80004.5 7300 ~ 74005 6600 ~ 67006 5600 ~ 5700

図 4 乳房ファントム画像

A B

図 6 AMULET の特性曲線

0.556800

入射表面線量(対数)[mR]

ディジタル値(対数) 7800

7600740072007000

0.6 0.65 0.7 0.75 0.8

0

A B

6000

13000120001100010000900080007000

500 1000 1500 2000 2500

図 5 マンモ画像の Profile

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駒澤大学医療建康科学部紀要 第 11 号(2014)

5.� 結果5.�1.� 性能評価の結果 WSとMTFの測定結果を以下に示す。図 9に水平方向のWSを図 10 に垂直方向のWSを示した。AMULETはグリッド有りの方がWSの値は高くなった。また、PROFECTでは水平方向においてグリッドの影響により 8[cycles/mm]付近にWSの上昇が見られた。しかし、AMULETにおいては水平方向と垂直方向とでは有意な差は見られなかった。また、図 11 にMTFの測定結果を示した。全体においてAMULETの方がMTFの値が高く、高鮮鋭だった。

4.�2.� MTF測定 エッジ法にてMTFを測定した。検出器上にタングステン製のテストデバイスを置き、撮影条件28[kV],36[mAs], Mo/Mo,グリッド有りで撮影した。テストデバイスのエッジ中心は検出器左右方向の中心で、前後方向は検出器胸壁側の縁から 60[mm]奥側の位置とし、デバイスを検出器表面に密着させて配置した。エッジは水平方向に若干傾けて撮影した。PCで画像を取り込み、MTFを測定した。4.�3.� 乳房ファントム撮影と腫瘤の検出、評価 模擬腫瘤を乳房ファントムに一つずつ乗せ、二つの装置で同じ撮影条件 28[kV],36[mAs], Mo/Mo,グリッド有りで撮影した。 模擬腫瘤は直径が12.5[mm],10.0[mm」,7.5[mm]で高さが3.0[mm],2.0[mm],1.0[mm]のものと、直径が5.0[mm]で、高さが5.0[mm],4.0[mm],3.0[mm],2.0[mm]の半円球状のものを用いた。いずれも乳房ファントムの中心から水平方向に10[mm]移動させた位置に模擬腫瘤を置き撮影した(図8)。得られた画像からアイリスフィルタを用いて腫瘤検出を行い、その違いを検証した。

図 7 PROFECT の特性曲線

0.41800

210020502000195019001850

入射表面線量(対数)[mR]0.45 0.5 0.55 0.6 0.65

ディジタル値(対数)

図 8 使用した模擬腫瘤 図 10 WS 垂直方向

図 9 WS 水平方向

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吉本・近藤:FPDと IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響

5.�2.� 腫瘤検出の結果 アイリスフィルタの結果を以下に示す。図12はAMULETにおける高さ1[mm]での違いについて、図13はPROFECTにおける高さ1[mm]での違いである。いずれも直径が大きいほど集中度の低下が見られた。また、高さ2[mm],3[mm]についても同様の結果が見られたが、高さが高いほど直径の違いによる集中度の差は少なかった(図14~17)。 また、二つの検出器間で最も違いが現れたのは直径 12.5[mm],高さ 1[mm]のときだった。AMULETは集中度が 0.5 程度あり、CADで検出可能なレベルであったが、PROFECTは 0.3 程度となった。CADはシステム上 1/ π、およそ 0.3以下になるとシステム上ノイズとして判断され、腫瘤としては検出されなくなる。そのため、PROFECTでは検出不可能であると予測される。

00

1

0.8

0.6

0.4

0.2

108642空間周波数[cycles/mm]

MTF

MTF値(AMULET)

MTF値(PROFECT)

0-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

100

7.5mm

200 300 400

位置

集中度

10.0mm12.5mm

図 12 AMULET(高さ 1mm)

図 11 MTF 測定結果0

-0.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

位置

集中度

100 200 300 400

7.5mm10.0mm12.5mm

図 13 PROFECT(高さ 1mm)

0-0.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

位置

集中度

100 200 300 400

7.5mm10.0mm12.5mm

図 14 AMULET(高さ 2mm)

0-0.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

位置

集中度

100 200 300 400

7.5mm10.0mm12.5mm

図 15 PROFECT(高さ 2mm)

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駒澤大学医療建康科学部紀要 第 11 号(2014)

と考えられる。アイリスフィルタは画像のコントラストではなく、勾配ベクトルの方向のみから腫瘤を検出するため、勾配が緩やかなほどノイズの影響を受けやすくなり、集中度が低下する。また、腫瘤の中心部は濃度勾配が特に緩やかになるため、よりノイズの影響で集中度が下がりやすくなる。腫瘤の直径が大きいほど勾配が緩やかな部分が大きくなるため、集中度がより低下すると考えられる(図 19)。

6.� 考察 いずれの検出器においても、直径が大きいほど集中度が低下したのは、濃度勾配の差によるもの

 また、直径が大きく高さの低い腫瘤においてAMULETの方が PROFECTより高い集中度を示したのは、AMULETのMTFの高さによるものと考えられる。 WS測定結果より、AMULETの方がWSの値は高く粒状性は悪かったが、WS値が特に高い値を示したのは 2[cycles/mm] 程度までの低周波数領域だった。今回の実験で使用したサイズの腫瘤に影響を及ぼすノイズはより高周波領域のノイズと考えられる。高周波領域においてはAMULETと PROFECTのWS値に大きな差は見られなかった。したがって、ノイズによる影響の差はあまり無かったと考えられる。 一方MTFの測定結果よりMTFの値は全体においてAMULETの方が高かった。特に腫瘤辺縁に相当する高周波領域において、AMULETはPROFECTより高いMTFを示した。したがって腫瘤の辺縁まで検出され(図 18)、PROFECTより高い集中度が得られたと考えられる。一方、PROFECTは図 18 より辺縁部分の集中度の変移が緩やかで検出が低いことがわかる。したがって腫瘤の検出率がAMULETに比べて低下したと

0 100 200 300-0.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

位置

集中度

400

7.5mm10.0mm12.5mm

図 16 AMULET(高さ 3mm)

0 100 200 300-0.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

位置

集中度

400

7.5mm10.0mm12.5mm

図 17 PROFECT(高さ 3mm)

0 200 400 600-0.2

位置

-0.1

10.90.80.70.60.50.40.30.20.10

AMULET

PROFECT

図 18 直径 12.5mm、高さ 1mm

図 19 直径の大きさの違いによる濃度勾配の差

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吉本・近藤:FPDと IP の性能の違いがアイリスフィルタの腫瘤検出能に及ぼす影響

考えられる。7.� 結語 直径が大きい腫瘤ほど濃度勾配が小さくなることでノイズの影響を受けやすくなり、集中度が低下することがわかった。 また、直径が大きく高さの低い腫瘤において、AMULETのMTFの高さにより、PROFECTよりも高い集中度が得られることがわかった。したがってAMULETの方が高性能であるといえる。

References

[1] 市川勝弘 , 石田 隆行 : 標準 ディジタルX線画像計測 ; オーム社,第 1版,第 1刷,pp70-169,(2010).

[2] 藤村美穂 : 可変リングフィルタの検出性能の検討 ; 駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科 総合研究論文集 画像技術科学コース, pp133-140,(2010).

[3] 依田百合絵:可変リングフィルタの乳癌(腫瘤)の検出性能評価;駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科 総合研究論文集 画像技術学コース,pp51-59,(2011)

[4] 酒井寿知,荻原義裕,清水昭明,小畑秀文,武尾英哉,縄野繁:適応リングフィルタを用いたマンモグラム上の腫瘤陰影候補領域の検出;電子情報通信学会,MI2000-14,pp13-20, (2000)[5] 魏軍,荻原義裕 , 清水昭明,小畑秀文:勾配ベクトルの点集中性フィルタの特性解析;電子情報通信学会論文誌,Vol.J84-D-2, No.7, pp1289-1298,(2001)

[6] 武尾英哉,志村一男:乳房CR画像を対象としたコンピュータ支援画像診断システム;富士フィルム研究報告,No.43,(1998)

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駒澤大学医療建康科学部紀要 第 11 号(2014)

Summary

One of the image-processing filters used with “Computer Aided Detection (CAD)” has an iris filter. This experiment Verifies what kind of difference is born to tumor detection capability, when a tumor is detected by FPD and IP using an  iris filter.  In FPD and IP, since mechanisms until  it obtains a picture differ, there is the different feature in image quality. Generally, FPD is said for MTF and DQE to be higher than IP. Since the FPD equipment “AMULET” used this time is the 50 micrometers as it of IP with same pixel size, the difference in resolution is not produced, either.The quality assessment was performed about each detector.  In AMULET, WS showed the high 

value in the low frequency domain, and grainness was bad. Moreover, in AMULET, MTF showed the numerical value high on the whole, and was high sharpness. Several kinds of imitation tumors were put and photoed on the breast phantom, and detected the tumor by  iris filter. With any detector, degree of concentration became  low,  so  that  the diameter of  the  tumor was  large. An  iris  filter detects a tumor by the direction of a concentration gradient vector. Since it will become easy to be subject  to  the  influence of a noise  it  the concentration gradient  is  loose, degree of concentration becomes low. Since, as for the tumor with a large diameter, the concentration gradient became loose, degree of concentration became low. As for FPD, degree of concentration became high rather than IP at the time of a tumor with a large diameter and low height. In AMULET, the numerical value of WS was high. However, the noise which has influence to the imitation tumor used this time is considered more to be a noise of a high-frequency domain. About each detector, since there was no big difference in the numerical value of WS in a high frequency domain, it was uninfluential. On the other hand, in the domain equivalent to tumor edge, FPD equipment had the numerical value of MTF higher than IP equipment. With FPD equipment,  it came to be detected  to  the edge of a  tumor by  this, and degree of concentration became high by it. Since IP equipment was not able to detect the edge of the tumor, degree of concentration became low. The 1mm-high  imitation tumor  [in the size of 12.5mm] was  less than the disregard  level on a system. Therefore, FPD equipment has performance higher than IP equipment.

Influence which Attains to the Tumor Detection Capability of an Iris Filterby the Difference in the Performance which Compared FPD with IP

Emu Yoshimoto Keisuke Kondo