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Page 1: .先導的取り組み例の紹介 · 2019-11-15 · アウトカム基盤型教育への改革も多い。 ・カリキュラムを学習成果基盤型へと移行するために、卒業時、および臨床実習終了時

.先導的取り組み例の紹介

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.先導的取り組み例の紹介

医学チーム

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4-1.先導的取り組み例の紹介(医学チーム) 診療参加型臨床実習の導入とより質の高いものにするための先導的活動について紹介する。 1)組織の設置と担当教員の配置

診療参加型臨床実習のための組織作りと担当教員については積極的に取り組まれている。 ・診療参加型臨床実習の充実等を図るため、専任教員を配置した教育支援センターを設

置した。

・臨床実習プログラムのための組織を設置した(クリニカルクラークシップサポートセ

ンター)。

・医学教育企画室に特任助教が配置された。

・一昨年度に臨床医学教育研究センターが設立され、現在臨床実習の充実化なども含め

た卒前教育のマネージメントの一翼を担っている。

・「診療参加型臨床実習企画・運営委員会」および「地域包括型臨床実習実行委員会」を

設置し、担当教員の配置・充実を行った。

・地域医療ユニット 准教授 、助教 を新設し、今年度から本格的に臨床医学実習、ク

リニカルクラークシップで関連施設に学生を派遣している。

このように名称はさまざまであるが、教育ユニットの設置や増員が図られている。

・診療参加型臨床実習拡充に向けて専任教員の増員を進めている。

・医学教育センター教員の充実 名→ 名 。

・ 教育担当教員を 名増員した。

・新たに附属 病院全てに実習責任者(医師)、担当事務職を設置した。

このように増員の幅に関しても大きな差異があるようであり、また専任か兼任かも明ら

かではない。業務範囲も、大学によっては初期臨床研修医の管理もシームレスに行ってい

るところもある。さらに、担当事務職の配置もきわめて重要である。

2)実習時間数の増加

分野別国際認証に向けて、診療参加型臨床実習の時間数の増加も多くの大学で行われて

いる。実際はまだ計画段階のものが多い。

・ 年次、 年次の臨床実習時間の見直し、実習時間を増やすための学外の病院と連携の

見直し、学内アドバンスド 実施へむけての委員会を立ち上げている。

・臨床実習 週化、学外実習 週間( 週間を 回)。

・平成 年度入学生から新カリキュラムに移行し、 年生の 月から行っていた臨床実

習を 年生の 月から開始し、臨床実習期間の大幅な延長や、診療科ローテートや学

外実習を見直す予定となっている。今年度学外実習機関として 病院を追加して合計

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で 病院としたが、今後も引き続き拡充を行う予定である。

このように、各大学が臨床実習の期間の延長を企画しており、多くの大学では 年生の

月から臨床実習を開始するものが多くなってきている。課題としては、学生者数の増加と

期間の延長が重なり臨床教員の教育負担が非常に大きくなること、またそれによる教員の

不足、実習病院・施設の不足があげられる。

3)カリキュラムの改革

具体的なカリキュラムの変更について先導的取り組みを挙げる。

・実習する診療科を一部変更した。また、地域医療に関する項目を追加した。

・医学科入学定員増による実習学生の増加に伴い、実習期間及びローテートの見直しを

図った。

・ある病棟には 年間を通して切れ目なくステューデントドクターを配置する方針で

準備を進めている。

実習期間の確保のために卒業試験の廃止や短縮、総合試験問題化などの取り組みがなさ

れている。

・ 年時の卒業試験を廃止または短縮し、その分診療参加型臨床実習の実施時間数の

増加を図る予定でカリキュラムを策定した。卒業試験を廃止した場合の学生評価は、

本学共通の評価項目による 方式評価システムで実施する予定である。

・在宅医療を実習する機会の充実。

総合診療能力の涵養や、地域での診療経験のための取り組みも多い。さらに、海外との

連携も模索されている。

・ 年生を対象とした参加型実習において、地方病院での学外実習に特化した地域医療

実習を導入した。

・各診療科をローテートする前に基幹診療科実習として、内科系および外科系をそれぞ

れ 週間ずつ実習する。

・第 学年では、地域医療機関において地域医療に密着した実習を行うことを計画して

おり、この実習では を経験し、医師のプロフェッショナリズムの涵養

も図れるよう検討している。

・ 年生関連教育病院実習で実習地域病院を拡充し、学生 人 病院 週間の泊まり込み

実習として取り入れた。

・診療参加型臨床実習としての地域医療実習を実施する医療機関の拡大を図り実施して

いる。(出雲松江地区で 施設増加。地域医療実習を行う学外の医療機関の総数は、

現在、 機関。)

・総合診療科ローテートの開始、高齢者医療に重点をおいている学内セクションのロー

テート必修化などを予定。

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・救急部でのクリクラを新たに開始した。韓国の大学でのクリクラを実施しており、

派遣学生数を増加させた。

・ で対馬離島実習( 週間)や韓国啓明大学医学部病院での臨床実習を希望者に行っ

ているが、これらのプログラム参加人数の拡大、その他のプログラムの構築を検討中。

アウトカム基盤型教育への改革も多い。

・カリキュラムを学習成果基盤型へと移行するために、卒業時、および臨床実習終了時

の到達目標(アウトカム)を設定するためのワークショップを実施し、コンピテンス・

コンピテンシーを明示する。

カリキュラム改革は教育改革の根幹であり、各大学において数年先を見通したカリキュ

ラム改革が行われることが期待される。

4)学生評価の工夫

診療参加型臨床実習をはじめとする臨床医学教育の評価に関して多くの大学で先導的取

り組みがなされている。ポートフォリオの利用などについての先導的取り組みをまとめた。

・臨床実習の成績評価を具体的かつ厳格にする予定である。

・臨床実習でのログブックによる形成的評価。

・ポートフォリオ(学習目標設定、実習日誌、経験した症例、 、症例レポート、総

括的評価を含む)を導入している。

・ を利用した電子ログブックの導入。

・ ポートフォリオの作成可能な学習支援システムを導入した。これも評価に用いる

ことができるよう検討中である。

・ 方式で各講座・地域医療機関共通の評価項目・尺度を用いて、その到達度を評価す

るとともに、学生は経験した症例や実施シミュレーターについて記載し、ポートフォ

リオとして活用できる評価・記入システムを構築している。評価については、指導医

が評価する項目と同一の項目を学生が自ら自己評価を行っている。進級判定の指標と

して用いるための、評価の客観性と公平性を担保することが課題である。

・「経験と評価の記録」に倣い、平成 年度に大学改革推進事業の一環として実施した

「地域包括型診療参加臨床実習」において、学生が作成する症例のレポートの他に、

ふりかえり(ポートフォリオ)や簡易版臨床能力評価表を導入した。

・今年度より臨床実習後到達度評価 の導入を行う予定地域の関連病院実習では

度評価を取り入れている。大学独自のログブックに準ずるポートフォリオを作成して

使用している。

・臨床実習評価表の大幅な見直しと の導入。

・初期臨床研修のポートフォリオとの一体化を検討している。

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学生による電子カルテの記載に関してもいくつかの取り組みがなされている。

・学生によるカルテ記載は、 、パスワード管理にて実際の電子カルテに記入し、指導

医が修正・認証するシステムとしている。

・診療参加型実習において、電子カルテとは独立して学生が記載し指導医が指導できる

記録システムを試行する予定。

・電子カルテについては、システムを改良し、学生用に電気カルテに記入できるように

した。

・学生が臨床実習中にカルテ記載を行い、指導医から内容の確認と指導を受けた。

臨床実習終了後の についての取り組みも多い。その他の臨床評価と合わせて記載

した。

・カリキュラム改訂においてアドバンスド を導入し、卒業要件とする検討を行って

いる。

・アドバンスド に相当するものを実施している大学へ見学および、実施への委員会

を設置した。

・アドバンスド に合格することが卒業要件になっており、再試験を行ったが 名不

合格となった。アドバンスド の医療面接の課題に新たに模擬患者への検査結果の

説明を取り入れた。これまで学生が模擬患者役をしていたが、本年度より地域で活動

している新老人の会のメンバーに模擬患者役として協力していただいた。

・来年度より 型のアドバンスオスキ を実施することを前提に、教員対象の を実

施する予定となっている。

・臨床能力の評価に を導入した。

・「地域包括型診療参加臨床実習」において、 度評価として医師以外の医療職ならび

に患者から評価してもらう評価表を導入した。

・看護師、患者、指導医を含む 度評価を導入した。現在は患者、指導医からの評価

を受けている。

・ を用いた臨床実習の教員、学生からの評価の導入。

・ 段階評価の実施及び学生への開示。

医行為の経験実績の評価も行われている。

・各科で臨床実習中に実施する医行為の項目を定め、実習終了後に実際に体験できたか

どうか学生にアンケート形式で自己申告により回答させている。

5)指導体制の強化

指導体制の強化は、カリキュラム改革と表裏一体であり、すべての大学で が開催され

ているものの、より有効な教員養成が求められている。

・指導医を補佐する意味でも研修医を活用している

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・実際に初期臨床研修医の下に学生を配置した。研修医の上には指導医がおり、屋根瓦

式による指導体制であった。

・臨床実習の今後の課題と現状についての を開催し、現状分析と課題等についての

意見交換を行った。

・ を対象にした学習会の開催、教員が参加しやすいショート の

実施。

6)横断的診療・チーム医療

超高齢化社会に向けて総合的な診療能力を持った医師の養成や、チーム医療の円滑な実

践が欠かせない。これらについても先導的な取り組みをまとめた。

・総合診療内科をローテーションの中に加えた。

・総合診療教育充実のため、臓器別内科実習集の 日を総合内科外来実習、振り返り、

症例検討会を実施、また金曜日の午後に内科共通臨床推論カンファレンスを実施して

いる。

・学生が院内チーム医療活動への参加(在宅医療へ繋げる退院支援カンファ、 、 、

緩和ケアチームなど)。

・「地域包括型診療参加臨床実習」において、地域基幹病院の他にサテライト実習施設と

して診療所・訪問看護・保健所等においても実習を行い、地域医療に携わる医療・保

健・福祉・行政のシステムを学習した。

・附属病院の初期研修医を医療過疎地の病院に派遣する事業を行っており、それに学生

を随行させることを検討している。

・単科の医科大学とは異なり医療系総合大学であるので、これを生かした 学部(医・

歯・薬・保健医療学部)連携臨床実習を実施しており、これら学生間の評価を行って

いる。

以上、診療参加型臨床実習の導入と質の向上のための先導的試みを紹介した。診療参加

型臨床実習の導入のためには多方面からのカリキュラム改革が必要であり、医学教育全般

にわたる先導的取り組みが紹介されたと考えている。

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.先導的取り組み例の紹介

看護学チーム

「超高齢社会に向けて地域在宅における

患者家族の療養生活を支える基礎的能力

育成への看護系大学の先進的な取り組み

聞き取り調査」

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Ⅰ.研究の背景・目的

超高齢社会に向けて、疾患や障害を抱えて生活する人々の在宅生活を支える能力育成が

重視される中、看護基礎教育の中で、各大学がさまざまな教育の場や指導者を開拓し、新

たな展開を試みていることが予想される。それらの取組は、各大学の特色ある教育ではあ

るが、他大学にとっても非常に参考になるものである。 Webアンケート調査より、①地域在宅における療養生活支援を教える教員や指導者が不足

していること、②地域在宅の実習場所確保が容易ではないこと、③地域在宅での療養支援

には医療職に加え、福祉職を含む多職種連携が重要であるが、その教育モデルの例が限定

的であること、という3つの課題が明らかになった。 そこで、超高齢社会に向けて地域在宅における患者家族の療養生活を支えるための現行

制度やさまざまな保健医療福祉施設間・多職種間の協働連携のあり方についての課題と方

向性を提言するために、前述の課題に対して先進的な取組をしている看護系大学の現状と

課題について聞き取り調査を実施した。

Ⅱ. 研究方法

1)調査期間 2013年10月~11月

2)研究協力者および募集の方法 a)研究協力校および研究協力者

全国の看護系大学において、地域在宅における患者と家族の療養生活を支える看護援

助(多職種多機関連携のあり方を含む)に関する教育において、先進的な取組をしてい

る3校に勤務する教員3名。なお、今回の調査は、平成25年度文部科学省先導的大学改革

推進委託事業であり、12月に開催予定の医学分野、歯学分野との合同公開シンポジウム

で、その先進的取組を公表されることについての同意が得られる大学、教員のみを協力

校、および協力者とさせていただいた。その事を、責任者への説明書、説明同意書、会

員校への告知文にも明記した。 b)募集方法

(1)研究協力校の募集 日本看護系大学協議会のメール配信システムを用い、本調査を実施すること、また協力

可能な看護系大学に連絡をしていただくような内容を記載した内容を、すべての会員校に

メール配信した。メール配信にあたって、当該システムを利用することに関しての承諾は

日本看護系大学協議会から得た。同時に研究メンバーのネットワークを利用して協力者を

募った。 協力依頼をする看護系大学については、研究メンバー間で、地域在宅における患者と家

族の療養生活を支える看護援助(多職種多機関連携のあり方を含む)に関する教育におい

て、先進的な取組をしている看護系大学に関する情報収集を行い、協議の上決定した。 (2)依頼方法 依頼は、看護系学部もしくは学科の責任者(以下、責任者)に書面を郵送し、到着した

ころを見計らって電話で説明し、責任者からの承諾が得られたら研究協力校とした。説明

は文書を用いるが、承諾は口頭によるものとした。 責任者から研究協力者を紹介していただき、研究協力者に文書と口頭で説明を行い、

同意を得た。

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3)データ収集方法 データ収集は、以下の方法による半構成的面接により行った。 研究協力者1人あたり1回、約90分程度の半構成的面接を行った。面接の日時については、

研究協力者の希望を第一に考え決定した。面接を行う場所は研究協力者が希望する場所と

し、プライバシーが確保できる個室にて実施した。 面接内容は、地域在宅における患者と家族の療養生活を支える看護援助(多職種多機関

連携のあり方を含む)に対する教育に関する取組を中心に、インタビューガイドに基づい

て行った。研究協力者の承諾を得たのち、ICレコーダーに録音し、逐語記録とした。 4)データ分析方法 面接で得られた内容は、地域在宅における患者と家族の療養生活を支える看護援助(多

職種多機関連携のあり方を含む)に対する教育に関する取組について分析し、取組の特徴

とその具体がわかるようまとめた。 5)倫理的配慮 ・ 研究の趣旨を理解し、研究者の説明により協力の意思を表示した者のみを研究協力者と

した。また、途中で参加をやめることができること、断っても不利益は生じないこと、

話したくないことは話さなくてもよいことを保証した。同意後に同意撤回する場合には、

同意撤回書を使用することを説明した。併せて公開シンポジウムでの公表になることに

ついても説明した。 ・ データは研究の目的および、平成 25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業に関

連した合同公開シンポジウムや報告書等以外には使用しないことを確約した。 ・ 連絡時に必要となる個人情報については、情報が漏洩しないように管理した。 ・ 逐語記録を作成する際にはプライバシーポリシーを明示している外部業者に委託し、研

究協力者から外部委託を承諾していただけない場合は、研究者が逐語録の作成を行った。 ・ 研究結果は、平成 25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業の合同公開シンポジ

ウムで、その取組について公表されること、また関連学会等において発表する可能性が

あることを説明した。 ・ 本調査結果は、文部科学省への報告書、日本看護系大学協議会の会員校への報告書等に

て還元することを確約した。 ・ 本調査結果は、本研究プロジェクトに関連したシンポジウム(2013 年 12 月開催)で公

開するとともに、報告書にまとめ、日本看護系大学協議会のホームページ上で公開する

予定であることを明記した。 ・ 本研究は、日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。(承認番

号 2013-83)

Ⅲ.結果

聞き取り調査では、先導的な取組をしている3校について行った。 A.国立大学法人 島根大学 1)大学の背景 5学部、6大学院で構成される総合大学。看護学科は医学部に属し、基礎看護学講座、臨

床看護学講座、地域看護学講座の3講座で9領域を置いている。また、医学系研究科修士課

程に看護学専攻を置き、看護分野6コースを開講している。看護学科定員は、入学定員60名、

3年次編入10名の260名である。

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2)ヒアリング対象者の立場 地域看護学講座(地域看護学分野、老年看護学分野の2分野で構成)の教授であり、専門

は老年看護学。 3)取組について 島根県は人口の約30%が高齢者という全国で第3位の超高齢県で、東西に広がる中山間

地域や離島を抱えるという地理的特性がある。学部教育において超高齢化、医療職の不足、

偏在という課題がある地域で医療人材を育成するというミッションがあり、学科では老年、

地域看護重視のポリシーを持つ。 平成24年度改正カリキュラムへの変更を契機に、領域を超えた横断的な教育プログラム

作成に取組み、超高齢化の保健・医療・福祉のニーズに応えられる保健師・看護師の力を

持った看護職養成を目標の一つとしている。上記特徴のある地域に貢献できる人材を育成

する必要を確認し、全員が保健師を修得する統合カリキュラムを教育の柱とした。それに

より地域医療・在宅医療は全領域の共通課題であり、幅広い力で連携・協働する能力を持

った看護職を育てる基盤ができた。 現状として地域看護学講座において地域看護学担当の教授が不在で、それ以外にも欠員

の教員枠がある状態があるが、医学部寄付講座の地域医療支援学講座から保健福祉行政や

地域保健活動等の講義展開等の協力を得ている。また医学部長に教育理念を実現するため

に必要性を説明し、退職保健師を嘱託講師として実習指導を担当するために雇用すること

を認めてもらい、行政等を通じて、人材を探し、主に離島のことをよく知っている元保健

師を学生教育に導入している。島根大学が長年かけて地域と築いてきた関係性もあり、学

生が離島や山間部へ実習に行くと。地域住民から歓迎され、実習中の学生のホームステイ

を引き受けてくれるなどの環境もある。 地域看護学講座が在宅看護学を担当しているため、老年看護学と在宅看護学の教育上の

連携を図り、援助論で対象とした事例を次年度は同じ事例を在宅看護の演習で学生教育が

できる工夫を取り入れている。それらの事例による学習は「地域医療教育遠隔支援e-learning」(現代GPで採択)上でもできるようにアップし、医学部学生にも活用されている。 また高齢者施設での実習は4年次に実施し、多職種の連携から行われているチーム医療

について学ばせる意図を含ませ、高齢者の療養の場、生活の場の状況に応じたケアを学習

している。さらに、4年次に学生が自分を振りかえり、それをもとに目標を立てて取組む

総合実習が始まり、以前は4年次に評価が下がっていた実践能力の協働能力が、この実習

の影響もあってか現在は維持されている状況である。 4)取組を普及・発展させていくために 取組の普及・発展については、地域のニーズや大学の理念が重要であり、そこから大学

の教育がどうあるべきか検討することが重要であると考える。 B.神戸市看護大学 1)大学の背景

1 学部 1 学科公立大学であり、1 学年学生定員は 24 年度入学生から 95 名、3 年次編入

10 名の 105 名である。 2)ヒアリング対象者の立場 ヒアリング対象者は2名で、一人は地域連携運営委員長、もう一人は科目の運営に関わる

立場にあった。大学には「地域連携国際交流センター」(H25.11~COC事業実施に伴い、

地域連携教育・研究センターに改編)が設置されており、地域連携運営委員会が地域貢献

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活動の運営主体となり教員の活動を支えている。 3)取組について (1)「地域住民による教育ボランティア」 平成18~20年度の現代GPに採択されたことを契機に導入した。市民の健康・福祉、地

域貢献ができる人材を育てたい、地域住民に対して大学が何をできるかという検討から始

め、開始にあたっては、住民のニーズ調査を実施した。具体的な活動としては、登録ボラ

ンティア制度をつくり、地域住民に大学の授業や演習での模擬患者やゲストスピーカーと

して協力いただく「教育ボランティア」として活動していただいている(現在、西区住民

約80名が登録)。 教育ボランティアの登録・調整は地域連携運営委員会で行っている。各授業担当教員は

授業内容に応じて、ボランティアの人数・条件・授業内容などを、地域連携運営委員会に

申請する。申請を受け、地域連携運営委員会が登録ボランティアの方々に連絡してコーデ

ィネートしている。参加する教育ボランティアが決まった後は各科目教員が直接連絡をと

り、事前の打ち合わせやVTR視聴等を行って、授業や演習にのぞんでいる。平成18年度は4科目、19年度は9科目で参加いただいた。

学生は教育ボランティアが参加するということで、リアルに対象者のイメージを高めて

演習等に取り組むことができている。授業の様子は科目終了ごとにホームページにアップ

し、また「教育ボランティアニュースレター」の作成を行い、登録されている方々に送付

している。 アウトカム評価は各科目の成績評価によるが、学生の満足度は高い。教育ボランティア

にとっては社会参加や学生との交流の機会となり、やりがいにもつながっている。トータ

ルな評価はできていないので、今後評価方法を検討していく必要がある。 (2)「健康生活支援学実習」(統合科目)

基礎看護学実習後の2年後期の必修科目として、統合科目で健康生活支援学実習を行っ

ている。平成19年度から始めて7年目である。実習目的は、「地域で生活する人々の中で

関わる力を養い、人々の生活と生活の場である地域特性を理解し、その人にとっての『健

康』とは何かを考える。また人々が健康を維持・増進するための支援のあり方を考察する」

であり、基礎的実習の位置づけである。 学生はグループごとに西区の地区の一つに入って実習する。地域の受入れは良い。主な

実習内容は「教育ボランティア訪問」「地域の探索」「地域の社会資源や施設の訪問」等

である。実習の最後に、教育ボランティアが参加する発表会を行っている地区もある。 本科目には看護系全分野の教員が関わる。事前準備としては、民生児童委員を通して教

育ボランティアを紹介していただいたり、行政(西区)やふれあいのまちづくり協議会、

社協などの協力を得たりして、学生のみで地域に出て実習できるようにしている。この段

階が非常に大変かつ重要である。学生は自分たちで教育ボランティアに電話してアポをと

り、訪問計画を立てる。アポの取り方については、事前に教員と練習して行う。その他の

動き方や地域探索なども自分たちで計画を立てて決めていく。教員が一緒に地域に行かな

いので、学生の主体性がのびる。学生の学びは、地域住民である教育ボランティアにも伝

わる。それは教育ボランティアの感動にもなり、次につながっている。 最終日には、合同カンファレンスと称した発表会を行っており、グループごとにそれぞ

れの地区で学んだ内容やプロセスなどを報告し、学びを共有する。 評価については、多数の教員が関わるため科目としての評価は難しいが、実習目標にそ

って評価している。地区により学生の体験も異なるため、カンファレンスで学びをしっか

りおさえるようにしている。学生は地域で暮らす人の生活の理解、地域と健康の関連、地

域住民との関わり方、異世代コミュニケーションなど、多くの体験と学びを得ている。初

めは異世代の方とコミュニケーションをとることさえ難しいが、実習が進んでくると話せ

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るようになっていき、その人の価値観、地域や文化などが健康にとって大切であることを

学んでいる。 4)取組を普及・発展させていくために これらの取組には多数の教員の関わりとコンセンサスが必要であり、また多くの部署と

の調整が必要である。具体的な展開においては、実習ローテーションとの絡み(学生及び

担当教員のスケジュール調整)を調整するのが難しい状況がある。平成25年度にCOCを獲

得したこともあり、COC事業の中で教育ボランティア導入授業を発展させ、地域連携教育

としてカリキュラムの中に位置づけていくことを予定している。 C.公立大学法人 埼玉県立大学 1)大学の背景 1学部 5 学科・3 専攻で構成される公立法人大学である。保健医療福祉学部に看護、理学

療法、作業療法、社会福祉、健康開発の5学科を、大学院として保健医療福祉学研究科を

擁する。看護学科の 1 学年学生定員は、入学定員 120 名、3 年次編入 40 名である。 2)ヒアリング対象者の立場 老年看護学教授であい、開学時より本取組みを開始、構築してきた立場にある。

3)取組について (1)IPE カリキュラムの変遷

開学準備のときからこの取組を実施している。その理由として、大学は 1999 年に「連携

と統合」を理念として開設したが、1997 年に文部省(当時)が、21 世紀に向けた医療人育

成の報告書を出し、連携が必要だということが書かれていたことも契機となっている。 前身の短大では、看護大学をつくってほしいという要請を県にしていたが、県としては

看護だけではなく、さまざまな職種の養成が必要だろうという考えがあったため、保健医

療福祉学部という学部になった。準備室では「大学は単に専門職の養成教育ではない」と

いう考えであったこと、さらに文科省の方針もあったことから、連携できる人材育成とい

うことを掲げようということになった。 開学以来、「連携と統合」の教育は何かといろいろ調べている中、2002 年にイギリスに

ある CAIPE(Centre for the Advancement of Interprofessional Education)という専門職連

携教育推進センターというところに行き、大学の「連携と統合」の教育は CAIPE の定義す

る IPE(Interprofessional Education)であることを確信し、さらなる構築を進めた。 2005 年には「保健医療福祉における連携と統合の教育」というテーマで現代 GP を、「保健

医療福祉の連携と統合を目指す教育展開-Interprofessional 教育の実践を通して」というテーマ

で特色 GP を獲得している。 開学期から 2006 年までの IPE 開発期を経て、2006 年の短期大学部との統合・健康開発

学科新設と同時にカリキュラム改正が行われた。その時に、IPE 科目であるヒューマンケア

論とフィールド体験学習を継続させながら、4 年次にインタープロフェッショナル演習(IP演習)を新設した。

2012 年のカリキュラム改正で、IP 演習から体系的な IPE へと変更した。具体的には、1年前期:ヒューマンケア論、ヒューマンケア体験実習、2 年前期:IPW 論、3 年後期:IPW演習、4 年後期:IPW 実習を展開する。

(2)IPE演習の特色

IP 演習の目的として重視したことは、地域の保健医療福祉の場で、体験を通して連携と

協働を学ぶことである。教育目標は、①個別の利用者・利用者集団・地域の理解と課題解

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決のプロセスを体験する、②多領域の相互理解のプロセスを体験する、③チーム形成のプ

ロセスを体験する、④この体験を振り返り、意味づけ、自分の課題を見いだすことである。 演習の方法は、4 学科の学生が、1 グループ 4~5 名程度で、県内の病院や福祉施設など

で実習をするものである。実践の場で体験することを通して、連携・協働できる保健・医

療・福祉の人材にどのようにすればなれるのかを考えられるようにしている。現在は大学

間連携で、埼玉医大の希望する学生も参加している。演習の場は、病院だけでなく、介護

老人保健施設、介護老人福祉施設、障害者施設、地域の相談施設、地域包括支援センター、

NPO などであり、学びに関与する人材は、患者・利用者、学習の場にいる専門職(看護師、

相談員、PT、OT など)である。 到達度については、厳密な評価をしていない。体験学習、経験学習であるため、目標は

4つ挙げていて、利用者のケアプランを立てていくことや、チームをつくっていくこと、

連携を学ぶことが入っているが、最後に体験をリフレクションし、振り返って自分のもの

にしていくという目標も入れている。したがって、きちんと振り返りができて、そのとき

に了解できたと思えればいいのではないかと考えている。 実施している教育は、現場への影響も多大である。例えば、ある特養では、入院して作

ってきた褥瘡を特養のヘルパー、介護士や看護師やみんなで治し、「これ、連携の力です」

って、相談員がこの間、報告してくれることがあった。また、スタッフがリーダーをやり

たいと言うようになったとの報告もあった。病院の看護師も「院内のいろいろなセクショ

ンのことを知らなかったが、IP 演習を受け入れるようになって、すごくわかるようになっ

た、もっと看護師がいろんなセクションと交流できるようにしなくてはいけない」と話し

てくれた。埼玉医大が入ったことによって、医師が関心を示してくれ、医師も参加してく

れるということも出てきたりしている。結局、この学びの真の評価は現場に行ってから他

職種と連携できるかどうかだと考えている。 学習効果や卒後 1 年目の追跡調査は行っているが、教育の評価研究が課題である。日々

回すことに今まで必死だったため難しかったが、追跡調査をすることにしている。 (4)取組を普及・発展させていくために

大学間連携という点においては、教育分野、学校教育分野の参画が得られないことが課

題としてある。 保健・医療・福祉の人材育成は、結局は実践家を育てていくことであるため、教育研究

と実践が切り離されてはいけないと考えて、実習地の協力を得ながらやってきているが、

それを動かしていく組織がまだきちんとできていないことが課題としてはある。学科の教

育等のことをやりながら、横断的に行う科目であるが、それを横断的にやる組織というも

のを大学として十分作ることができていない。 科研のときはペーパー・ペイシェントで学習を展開したりしたが、それでは不十分で、

実際に現場で学ぶことが必要である。ペーパー・ペイシェントでは結局、患者が不在とな

り、自分たちの主張で終わってしまう。標準化はできるが、本当にその人のためなのかと

いう吟味ができない。標準化をしたくて連携教育をやるわけではない。いかに創造的に新

たなものをつくるか、その人に合ったものをつくるか、求めているものに応じるかという

ところに特徴があるため、現場に浸って体験学習をすることが大事である。 自分たちの専門の教育をするのに連携教育も必要である、また、連携教育をすることで

自分たちの教育も高まることは体験的に感じている。連携はあくまでもツールのひとつで

ある。理念を掲げながら、現場とも連携して工夫して作り上げていくことが必要である。

D.他の大学の取組 聞き取り調査はできなかったが、その他にも秋田大学、青森県立保健大学、岐阜県立看護大学

等の取組などは先進的なものであった。

秋田大学の場合、今年度 事業として採択された「高齢者に安心を提供する医療看護による

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地域づくり」というテーマの活動に今後 年間取り組む予定である。教育では他職種連携に関す

る科目、生活モデルでの看護の展開に関する科目の新設、地域包括支援センターを含む実習、医

学科の学生との協働実習、高齢者理解として聞き書きボランティア養成講座等を計画している。

本事業は自治体との連携のもとに展開されることになっており、教育・研究を横手市と共に展開

していくことになっている。すでに、実習においては認知症療養者へのケア、要介護度の高い高

齢者のケア、医療依存度の高い高齢者とその家族へのケア、老老介護、家族看護の実際等を経験

し、演習では在宅ターミナルケアの事例に基づき看護の展開を学ぶような教育を展開している。

秋田大学としては、自校が高齢化率全国1位の本県の健康課題に対して果たす役割は大きく重要

であると考えているため、学部の教育、大学院教育、現任教育の中でのプログラムと地域住民へ

の直接的貢献をめざし、研修センター構想を持っており、超高齢社会に対応して行く予定である。

特に急性期の医療における看護の展開と地域・在宅における長期療養支援、終末期支援とを学ぶ

にあたっては、治療モデルに基づく視点から生活モデルの看護に視点を置き換える必要があり、

そのどちらも展開できるような看護職の養成を行っていくことを目指している。そのような意味

においても課題に挙げたような縦断的に全体像の把握ができるような実習体系を構築すること

ができないかの検討をしている。

青森県立保健大学では、専門科目に入る前の1年次には、地域の人々の生活の実態を知ること、

地域の人々の声に耳を傾け健康に対する考えを知ることなど、基本的なことを学ばせるためにフ

ィールドワークを実施している。また、4年次には、再び4学科混成グループで、アセスメント

からケアプラン作成までよりよいケアマネジメントを考える実習を通じて多職種連携に必要な

能力を身につけさせるようにしている。この学習は、他学科の学生とともに学ぶとともに、グル

ープで一人の対象者に対するケアマネジメントを体験する。また、総合カリキュラム下では、地

域看護学実習において約半数の学生が高齢者の家庭訪問や健康教育相談を体験している。さらに

在宅看護実習においては、4日間で平均8回 人高齢者の訪問を経験できるようなプログラムに

している。この実習では訪問する高齢者の6割は認知症があり、5割は要介護5の高齢者であっ

た。大学としては、単に療養生活だけでなく、健康生活あるいは高齢者をはじめ、どうみんなで

支え合っていくか(ソーシャルキャピタル)を考える必要があると思っている。そういう意味で、

保健師課程は選択制になったが、看護師課程に「地域看護学(2単位)」「地域看護実習(1単

位)」を必修とした。また、平成 年度の実施にむけて、「在宅看護論」および実習の単位を各

1単位増やして、療養者および家族を支えるための実践能力をより高めるように準備している段

階である。

岐阜県立看護大学では、卒業研究 単位を履修する分野に、中山間地域の診療所を入れている。

その診療所は医師、看護師、作業療法士、理学療法士等の研修施設となっていることから、地域

住民の受け入れはよい。そのため本学の学生は在宅療養している高齢者とその家族の生活支援に

関して、 ~ ヵ月にわたって、看護計画、ケア実施、評価のプロセスを取り組むことができる。

大学がある地域は、商店街が少なく大部分が田畑と住宅であることから、自治会と協力して高齢

者の生活を支援する心身の健康づくりに関わる事業を展開し、これら事業に学生の高齢者支援に

関する教育を入れることを考えている。

Ⅳ.まとめ

紹介した各大学では、いずれも大学設置の背景や教育理念の中に、地域連携や多職種連

携のことが使命として含まれていることが挙げられる。そのため、全学的な取組になって

おり、活動を継続する中で、見直しをして発展させていることが特徴である。また、地域

の特性を生かし、また地域のニーズに合わせて、活動していることも特徴である。 これらの活動は、GP や COC などの活動として助成金も得ており、取組のユニーク性と

ともに活動資金の確保なども、取組を深化させていくための重要な点である。

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.先導的取り組み例の紹介

歯学チーム

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4-3.先導的取り組み例の紹介(歯学チーム) 1)診療参加型臨床実習の改善・充実への取り組み (1)組織体制の改革の取り組み

・診療参加型臨床実習を担当する、専従の教員を配置する。 ・臨床教務委員会の下に、臨床実習委員会と臨床実習管理・評価委員会を置き、臨床

実習委員会では実習班編成や出欠席状況の把握など運営に関する事項を担当し、臨

床実習管理・評価委員会では「臨床実習手帳」の記録に基づいた実習内容の到達度

や評価を担当することとし、役割を分担した。臨床教務委員会は臨床実習委員会と

臨床実習管理・評価委員会を統括することとし、制度として整えた。 ・臨床実習委員会の責任者と臨床研修の責任者を兼ねることにより、卒前・卒後の一

貫したプログラムの策定を行う。 ・若手教員の臨床実習委員会への参加を促すことにより、早期に後継者の養成を行う。

(2)カリキュラム整備の取り組み

①到達目標についての取り組み ・診療参加型臨床実習に関する各診療科等の修了認定の参考となる、ミニマムリクワ

イアメントを明文化した。 ②方略についての取り組み

診療科ローテートの見直しの取り組み ・補綴,保存科以外の各科へのローテート間隔や内容を変更した. ・従来のローテート方式を踏襲しているが、自験症例に関しては診療科を跨いで持続

できる方式にしており、45 週を通じて患者診療に当たれる体制にしている。 ・今年度秋開始の臨床実習から、これまで3週間連続であった口腔外科のローテーシ

ョンを分割し一週間単位とし、その間に保存補綴診療を行う時間を設け、患者さん

の診療予約間隔が長くならないように配慮した。 ・新設診療科(息さわやか外来、インプラント外来、歯科心身外来など)への配属実

習を追加し、全ての臨床教員が臨床実習を担当する自覚を促すように努めた。 人的資源の確保の取り組み ・臨床実習と臨床研修を連携させた屋根瓦方式の実施(方略の工夫) ・臨床実習後のアドバンス選択実習プログラムに、臨床研修診歯科医の診療室への配

属コースを設け、研修歯科医が指導する機会を与えることにより、人的資源の確保

と同時に、研修歯科医のモチベーション向上が図れた。

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実習時間の確保の取り組み ・毎日 17:30 までの実習時間延長、土曜日の基礎科目の講義追加、冬季、夏季の休暇

期間の短縮等により、臨床実習の期間延長を図った。 実習環境の整備の取り組み ・大学病院での学生用診療ユニット数の確保

③臨床実習の評価についての取り組み ・多角的な評価を導入。包括臨床実習における自験症例数、その他の見学・介助症例

数などをクレジット化し、点数化する。自験した症例について症例報告を行わせて

採点。終了時 OSCE+臨床技能到達度試験を実施。臨床実習中に毎週ポートフォリ

オの提出を求め、提出状況を採点。これらを重み付けして総合評価を行う。 ・ポートフォリオの改善と電子化を進めている。看護師、衛生士から実習態度、器具

の扱いについてフィードバックを受け、それを自ら記録して提出を義務づけた。 ・観察記録による行動目標ごとの評価について、3段階評価(A、B、C)とし、とく

に「医学・歯学教育の充実・改善に関する調査研究の報告書」に示されている必須

項目に関しては A、B 評価になるまで指導する。 ④患者確保の取り組み ・協力患者には、診療費支払い計算場所を別にして迅速化を図る、1 年に 1 回歯学部長・

病院長名で感謝状を贈呈。 ・患者からの同意書を取得(診療内容の項目別に部分的、段階的、限定的に運用)。 信頼関係が構築されると、協力度の上昇が見られる。そのこと自身が指導歯科医お

よび担当する学生の励みにもなり、さらにその次につながり教育的効果が上がる。 ・全学の保健管理センター(歯科)を歯学部内に設置。歯科受診勧告を受けた学生は、

希望があればそこから直接新患受診することができる。 ・専門診療科に臨床実習協力患者紹介の呼びかけを行うとともに、初診・再診患者へ

臨床実習の意義や内容を記載したリーフレットを配付し、患者確保に努力している。 ・患者情報誌を活用し、臨床実習を周知している。

2)学習段階に応じた臨床実習の取り組み ・1 年シミュレーション実習体験、相互実習体験、病院見学から始まり、2 年生の病院

における患者体験実習と見学実習、口腔保健学科学生と合同の相互実習、3 年生の実

際の患者を想定して行うシナリオベースの統合型臨床基礎実習、4 年生の診療科希望

配属実習、5 年生の臨床前スキルアップ実習、予備登院といった流れで、1 年生の早

い段階から、学習段階に応じてらせん状に臨床現場を体験させることにより、プロ

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フェショナリズムの涵養と併せて、診療参加型の能力の向上に繋がるカリキュラム

編成を積極的に行っている。 3)多職種連携教育への取り組み

・医学部歯学部の全学科(医学科、保健衛生学科、歯学科、口腔保健学科)の最終学

年の学生を全員参加させ、混合のグループを編成し、チーム医療についてケースス

タディーをグループ討議と全体発表形式で実施している。 ・周術期口腔管理センターでの実習および医学部・薬学部学生との共修で離島医療・

保健実習など地域医療の実習を行っている。 4)学外実習機関の活用の取り組み ①学外実習期間の確保のための取り組み

・指導者に経験と学位等に応じて臨床教授等の称号を授与し、学内の各講座に依頼し

て、卒業生、教室 OB の中から新規の臨床教授等の推薦を常時依頼している。 ・同窓会、地域歯科医師会、医師会、関連病院への協力依頼。 ・先々、本学附属病院の地域医療への貢献に繋がると考え、学外機関との連携を行う。 ・同窓が部長や院長となっている病院・医院の活用。 ・地域の医療機関のスタッフを対象にした講演会の実施などにより連携を深めて、学

外の臨床実習の充実を図る。 ・老健施設に引率し見学だけでなく介護を体験させるだけでなく,他職種連携に関し

ても学ばせる。そのためにも定期的な関係者会議を開催する。 ②在宅診療・地域医療の実習の取り組み ・臨床実習中に介護施設体験実習(2日間)、地域医療体験実習(1〜2日)を実施中。 ・学外実習機関として介護体験実習 17機関、地域医療体験実習9機関に依頼している。 ・老健施設での実習の充実。

5)基礎教育との連携の取り組み ・5年生時に基礎分野に配属し研究中心大学の実際を体験する。臨床実習中も配属先

の研究者(教員等)と密な関係を保持させる。 ・基礎と臨床の連携を図る授業を取り入れる。基礎科目では臨床を意識させる内容を

取り入れ、臨床科目では基礎が重要・必要であることを再確認させる内容を取り入

れるようにしている。基礎科目の授業を臨床教員が担当、あるいは臨床科目の授業

に基礎系教員が担当する。 ・研究コースワーク制(研究室配属)、6年朝礼ミィーティング(10 min Lecture)の

実施。

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・基礎系教員が臨床実習中の講義や口頭試問等に参加し、臨床科目と基礎科目との連携

を強化して、知識の整理・統合に努めている。 ・基礎科目の教育の中でも臨床との関わりについての講義を行うとともに、臨床実習期

間中も関連する基礎の講義を行っている。 ・5 年生において臨床薬理学や臨床生化学など基礎系教員が臨床的な内容の講義をし、

また 6 年生においては、「統合講義」を行い、基礎科目を含めた複数の専門科目を統合

して、PBL 形式で行っている。

6)その他 ①学生のモチベーション向上の取り組み

・臨床実習生宣誓式の実施。

②学生のカルテ記載に関する取り組み ・カルテ記載をケースとして課し、カルテ記載に関する講義と試験を実施し、その合格

者にカルテ記載を許可している。 ・公式カルテについて学生に記入させた後、指導者がチェックと押印をすることとして

いる。電子化保険算定内容入力についても、指導者のチェック後に学生が入力する。 ・電子カルテシステムが本格稼働し、学生も ID を割り当てられ、学生にも制限付きで

電子カルテへのアクセス権を与えている。カルテの閲覧、限定的なカルテ記載、代理

記載(指導者の承認が必要)が可能となっている。 ・POMR に沿った記載法。全身疾患等に対応したカルテ記載に今年度から改定した。

③実習充実のための工夫のためのシミュレーション教育の取り組み

・診療参加型臨床実習では、事前の予習・準備が重要となり、スキルスラボラトリーを

活用し、自学実習の態度を併せて習得する。 ・シミュレーション実習は足りない経験を補完するための実習ではない。 ・シミュレーション実習はあくまでもシミュレーションであり、臨床教育においても

診療参加型実習の予備教育に過ぎない。したがって、自験症例不足の補完は臨床実習

期間の延長か患者数の増加でしか行うことができないと考えている。 ④メンタルヘルスや学力の習熟度に問題を抱える学生への対応についての取り組み ・チューター制度を導入。1学生に教員及び大学院生を配備し、きめ細かな指導を行う。 ・学内の保健管理センタ-や産業医のアドバイス等を常に受けられる環境を整備。 ・スチュデントセンター、健康管理センターと連携して、定期的にカウンセリングを 実施。

・助言教員制度があり、教授、准教授、講師が 7~8 人の学生について、学習面及び生活

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面の支援をし、指導を行っている。メンタル的に問題のある学生に対しては、本学 心療内科医師(教授)が直接対応している。学力の習熟度に問題を抱える学生に対し ては、学習担当教員が個別に指導するとともに、さらに平日の授業終了後や夏季休暇 中に、スチューデント・アシスタントによる補習を行い、学習支援を行う。

上記の取り組みを実践するためには、まず指導歯科医の質の担保し、かつモチベー

ションを向上させる必要がある。そのためには、たとえば下記のような種々の目的でそれ

ぞれ特化したFDの開催が必須と考えられる。 ・的確な診療参加型臨床実習の実践のため ・ポートフォリオ(電子化も含む)について理解を深めるため ・プロフェッショナリズム教育の理解を深めるため ・教育技法の共有化を図るため ・メンタルヘルスへの適切な対応のため おわりに 各項目についての取組事例は、単一に、散発的に実施してもあまり大きな効果は期待で

きない。可能な限り包括的に多くの項目に連携して、これらの取り組みを実施することで

相乗的な効果が期待できると思われる。これからも診療参加型臨床実習の改善・充実につ

いての種々の取り組みについて、継続的に有益な情報交換の場を共有したいと考えている。

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.医学・看護学・歯学チーム

合同シンポジウムの報告

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平成25年度文部科学省 先導的大学改革推進委託事業 医療提供体制見直しに対応する医療系教育実施のためのマネジメントの在り方に関する調査研究

医学・看護学・歯学チーム合同シンポジウム プログラム

日 時:12月5日(木)10:00~17:50場 所:東京医科歯科大学 タワー2階 鈴木章夫記念講堂

開会挨拶:大山 喬史(東京医科歯科大学 学長) 袖山 禎之(文部科学省 高等教育局 医学教育課 課長)

【基調講演】 10:20~10:50

「ヘルスケア人材供給に関する長期戦略について」 猪飼 周平 一橋大学大学院社会学研究科 教授

【シンポジウム1】 地域医療と総合診療 10:50~11:50

「地域連携教育(コラボ教育)を取り入れた看護専門職者の育成」 都筑 千景 神戸市看護大学 地域・在宅看護学 教授

「地域を診る総合診療医」 草場 鉄周 北海道家庭医療学センター 理事長

【シンポジウム2】 超高齢社会を見据えた地域医療の教育 12:50~14:20

「地域医学教育の新しいパラダイム」 葛西 龍樹 福島県立医科大学医学部 地域・家庭医療学講座 主任教授

「超高齢社会の医療を担う人材の育成」 原 祥子 島根大学 医学部地域看護学講座(老年看護学)教授

「今後求められる地域歯科医療を担い得る医療人育成を目指した歯学教育の推進」 曽我 賢彦 岡山大学病院 中央診療施設 医療支援歯科治療部 副部長・准教授

【シンポジウム3】 多職種連携教育 14:30~16:30 「自己主導型学習を推進する専門職連携教育」 朝比奈 真由美 千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 講師 「看護学から見た多職種連携教育」 大塚 眞理子 埼玉県立大学 保健医療福祉学部 教授 「医系総合大学における多職種連携教育」 片岡 竜太 昭和大学スペシャルニーズ口腔医学講座 歯学教育学 教授 「医歯学融合教育における多職種連携教育」

鶴田 潤 東京医科歯科大学医歯学融合教育支援センター 准教授 【総合討論】 これからの医療人の教育マネジメント 16:30~16:55 【総括講演】16:55~17:40 「医療における て・あーて 」

川嶋 みどり 日本赤十字看護大学 名誉教授 閉会挨拶:福田 康一郎(社団法人医学系大学間共用試験実施評価機構 副理事長)

【敬称略】

(昼食 11:50~12:50)

(休憩 14:20~14:30)

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シンポジウム開催にあたって

医学チーム・リーダー 北村 聖(東京大学) 皆様、おはようございます。ただ今から平成 25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託

事業「医療提供体制見直しに対応する医療系教育実施のためのマネジメントの在り方に関

する調査研究 医学・看護学・歯学チーム合同シンポジウム」を開催させていただきたいと

思います。 私、この中で医学チームのリーダーをさせていただいております東京大学の北村と申し

ます。よろしくお願いいたします。本日は、年末の、また週の半ばのお忙しい中、朝早く

からお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。 このシンポジウムのタイトルは非常に長いのですが、簡単に言えば、医師・看護・歯科

医師、医療人の教育にあたって、今までのように教員が教えたいことを教える、あるいは、

学生が学びたいことを学ぶだけではなくて、社会、特に日本の直面している超高齢社会、

この社会のニーズに合った人を教育して育てるという方向に行くためには、どうしたらい

いかということを、3 つの職種が一緒に語り合おうという企画であります。ほとんど 6 時

まで、極めて長いシンポジウムとなりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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シンポジウム開会挨拶

東京医科歯科大学

学長 大山 喬史

皆様おはようございます。本日は年末の大変お忙しい中、全国の医療系大学、医療者養

成機関からも大変大勢の方に本日の合同シンポジウムにご参加をいただきまして、誠にあ

りがとうございます。本日ご参加の皆様をお迎えするにあたりまして、一言御礼とご挨拶

を申し上げさせていただきます。 本日のシンポジウムは、平成 25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業の一環と

して、医学・看護学・歯学チームにより合同で開催されると伺っておりますが、大変この

お忙しい中、文部科学省高等教育局医学教育課課長の袖山禎之様にもお運びいただきまし

て、誠にありがとうございます。 基調講演では、一橋大学大学院教授の猪飼周平先生。そして、総括講演では、日本赤十

字看護大学名誉教授の川嶋みどり先生をはじめ、3 つのシンポジウムでは、多数の先生方に

シンポジストをお引き受けいただき、ご参加いただくこと、誠に感謝を申し上げたいと思

います。 内閣府の発表によりますと、昨年 10 月のデータのようですが、わが国の総人口に占めま

す 65 歳以上の人口は、高齢化率ということで表しますと、24.1%と聞いております。これ

はわが国が世界で他に類を見ない非常に速いスピードで、超高齢社会に突入したことを示

しているのではないかと認識しております。超高齢社会となったわが国の医療体制のあり

方、いろいろな面で高齢化社会のあるべき姿、これについては、世界の国々から注目され

ていると言っても過言ではないと思っております。 近年、医療現場で多職種連携のニーズが急速に高まっていると思っておりますが、その

ための教育がどうあるべきかも、併せて考えていかなければならない。そして、どういう

人材を育てていくかということが、われわれが今直面している問題ではないかと認識して

おります。 本学におきましても、これからの超高齢社会に対応できる医療者、教育者、研究者も合

わせてそうですが、養成する意味で、一昨年より医歯学融合教育、多職種連携教育を導入

しております。後ほど本日のシンポジウムで、本学がどういう取り組みを行っているのか

は、具体的にご紹介できる機会を頂いております。 こういった世界共通の重要課題であります健康長寿社会における医療システムのあり方

や、そのシステムに即した今後の医療者養成教育について、本日のシンポジウムが皆様に

とって実りあるものとなりますよう、心から祈念いたしまして、簡単ではございますが、

私の御礼と開会にあたる挨拶にさせていただきます。本日はどうぞ一日、長時間にわたり

ますが、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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シンポジウム開会挨拶

文部科学省高等教育局医学教育課

課長 袖山 禎之

先生方、おはようございます。ただ今御紹介いただきました文部科学省医学教育課長の

袖山でございます。本日は、全国の医学系・歯学系・看護学系大学の臨床教育担当の先生

方にお越しをいただきまして、感謝を申し上げます。また、日ごろより我が国の医学・歯

学・看護学教育に多大な御尽力を頂いていることに対し、この場をお借りて心から御礼申

し上げたいと思います。 先ほど大山学長からも御紹介ございましたように、本シンポジウムは、平成 25 年度にお

ける文部科学省の先導的大学改革推進委託事業として、「医療提供体制見直しに対応する医

療系教育実施のためのマネジメントの在り方に関する調査研究」ということで、東京大学

が委託先ということでお願いをしているものでございますが、実際には全国の数多くの先

生方に御参加をいただきまして、御検討をいただいているところでございます。 この事業は文部科学省の委託事業として、教育現場の実態に即しました新たな教育資本

の開発、あるいは具体的な導入方法等の先導的な調査をお願いしているところであり、こ

れらの成果を広く公表することによって、大学の教育改革の取組を支援・促進をするとい

う目的のために実施をしているものでございます。 この事業、医療系につきましては、平成 22 年度から様々な事業を実施いただいておりま

す。22 年度には、医学系の臨床教育制度の見直しを受け、調査研究チームによる医学教育・

歯学教育のモデル・コア・カリキュラムの改定素案を作成いただいたところでございます

し、23 年度においては、診療参加型の臨床実習時における、経験と評価の記録のための学

生が携帯するログブックですとか、あるいは映像で見る診療参加型臨床実習の DVD の作成

などをしていただいたところです。これらについては既に各大学で御利用いただいている

ところかと思います。 また、昨年でございますが、「高齢社会を踏まえた医療提供体制の見直しに対応する医療

系教育の在り方に関する調査研究」という形でお願いをしたところです。この中では特に

診療参加型臨床実習の一層の拡充と、高齢化社会に対応できる医療人養成というテーマで

調査研究をしていただき、その結果、教育の各段階における臨床現場の体験や、チーム医

療の実践に向けた教育の在り方、在宅医療の実践に向けた教育の在り方などについて提言

をいただいたところでございます。 本年度の事業におきましては、平成 24 年度の提言というものを踏まえまして、さらに

医療提供体制の見直しに対応する医療系教育実施のためのマネジメントの在り方という

観点で、調査研究をしていただいているところです。本日のシンポジウムは、この調査研

究の一環として開催いただいているものでございます。

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本日のシンポジウムは、昨年の調査研究において、大学病院以外の地域の医療機関や在

宅での実施を含む臨床実習の必要性などが提言される一方、大学へのアンケートによりま

して、指導者の確保や育成、また学外の医療機関などとの連携、協力患者の確保といった

多様なステークホルダーとの連携・協力による教育体制の整備ということに課題が生じて

いるという現状が、浮き彫りになったところでございます。 このように高齢社会の進展による病院における治療を中心とした医療から、在宅医療な

どによる長期的な疾病への対応を行うなどの地域の医療提供体制の見直しに対応した医療

人材養成を行う必要に、どう対応するか。そのために地域と連携をして、医療系教育とい

うものを実施していく必要があるわけでございます。このためにどういう体制を起こして

いくか。大学として指導者の育成確保、また学外の病院や診療所、訪問看護ステーション

などの医療機関との連携、また患者や家族の理解の取得などといったステークホルダーと

の連携・協力による教育体制を構築していくためのマネジメント。このようなことの重要

性といったことにつきまして、是非御議論をいただきたいと思っております。 医学部生、歯学部生、看護学部生に対する地域と連携した教育体制整備のマネジメント

の在り方といったことについて、本日のシンポジウムにおきまして、議論が深まることを

期待しているところでございます。このシンポジウムの成果につきましては、是非それぞ

れの大学の教育改革の取組の中で、参考にしていただければ幸いであると考えております。

さて、せっかくの機会でございますので、昨今の医療系の教育、人材養成をめぐります

政府としての昨今の動きについて、ごく簡単に御紹介をいたしたいと思っております。御

案内のとおり、超高齢化社会というものが進行していく中で、健康・医療というものに対

する国民のニーズは、ますます高まっていく状況にあるわけですが、またこのことによる

いわゆる社会保障に関する経費の増大ということが、我が国の行財政の大きな課題になっ

ているわけでございます。こういった中で、現政権における最も重要な政策課題として、

健康・医療というものに対応する施策を掲げているということは、御存じのことかと思い

ます。 この夏には政府としては、いわゆる健康・医療戦略を立ち上げ、そういった課題に対応

するための社会保障体制、とりわけ医療体制の今後の在り方ですとか、あるいは、医療参

入というものを我が国における成長産業と位置付け、特に医療分野においては、いわゆる

輸入超過というような状況がある中で、多様なニーズに対応する我が国初の医療というも

のを進めていこうというような、大きな動きになっているわけでございます。 こういった中で、特に研究開発についても、積極的に進めていこうということで、いわ

ゆる日本版 NIH というような組織を来年度にも整備し、そこでの一元的な予算配分の中で、

重点的に臨床研究あるいは様々な医薬品の研究開発などを進めていき、我が国の産業とし

ても、この医療分野というものをしっかりと位置付けていこうという取組が進んでいると

ころでございます。また一方では、厚生労働省を中心といたしまして、先ほど申し上げま

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したような様々な地域の医療のニーズに対応するための医療体制の在り方ということで、

チーム医療の推進といったような観点からの様々な議論がなされ、これを踏まえた医療法

の改正なども、今後行われるという状況になっています。 このように医療界全体、我が国の健康・医療全体の方向性というものも考えながら、こ

の医学教育の在り方というものも議論していく必要があると思っておりますし、本日の

このテーマというのは、まさにその理にかなった内容となっているのではないかと思って

いる次第でございます。

一方で、現在の深刻な医師不足、特に地方における医師不足という状況というものに

対応するために、これまで 1,400 人以上にわたります医学部入学定員の増を図ってきた

ところでございますが、医学部の新設を求める声も、従来から多くあるわけでございます。

その中で、特に大きな動きとして、2 つの動きがございまして、1 つが震災復興ということ

のシンボル的な意味合いも含めた東北地方における医学部の新設。もう 1 つが、いわゆる

国家戦略特区という制度を、今現在国会で議論しているところですが、こういった制度を

活用する中での医学部の新設というような提案がなされている。大きなこの 2 つの動きが

あるわけでございます。 このうち東北地方の医学部新設につきましては、去る 10 月に安倍総理から具体的な検討

の指示が下村文部科学大臣になされ、その要請を踏まえ、先週の金曜日に下村文部科学大

臣から、今後の東北地方における医学部新設の手続きの進め方ということで、東北地方に

おいて 1 校に限り医学部の新設を今後認め、手続きを進めるという方針が示されたところ

でございます。これについては、今後、政府の方針として位置付けた後に、具体的な手続

きを進めていくということになると思いますが、さまざまな御意見がある中ですので、特

にこの地域医療体制の崩壊というものにつながるような懸念ですとか、あるいはしっかり

と東北地方に医師を根付かせるための方策などの通常のこれまでの医学部設置にはないよ

うな留意点、条件というものをしっかりクリアするということを、新設にあたっての条件

ということで、方針の中で示しているところであり、こういったものをどのように具体的

に大学をつくりたいといった方がクリアしてくるかというようなことを踏まえながら、慎

重に手続きを進めてまいりたいと考えております。報道では、早ければ平成 27 年 4 月にも

というようなことが出ておりましたが、これはあくまでも最短のスケジュールとして、可

能性のあることということでお示しはしたものですが、実際にはいろいろ準備に時間が当

然かかってくると思いますので、我々としてはそういった準備の状況に合わせた柔軟なス

ケジュールで進めてまいりたいと考えているところでございます。 もう 1 つの課題につきましては、東北の議論とは完全に切り離して、今、議論を進めよ

うとしているところですが、今後具体的に特区の動きというものが進展していく中で、そ

ちらの方については慎重に検討していきたいと考えているところでございます。 医学部の新設の関係につきましては、各大学の先生方の関心も高いところであると思い

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ますし、非常に社会的にも大きく注目をされているところでございます。現状まだまだは

っきり決まっていないところも多いわけですが、適宜各先生方、各大学の皆様方にも状況

を提供させていただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げたいと存じま

す。 最後になりますが、本日のシンポジウムにつきまして、御多忙の中準備をいただきまし

た北村先生をはじめとする研究チームの先生方、また事務局の皆様、そして東京医科歯科

大学の皆様方、さらには御出席いただきました皆様方に、心から御礼を申し上げますとと

もに、本日のシンポジウムが実りあるものとなることを、心より祈念いたしまして、私か

らの御挨拶とさせていただきます。

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【基調講演】 「ヘルスケア人材供給に関する長期戦略について」

一橋大学大学院社会学研究科 教授 猪飼 周平

【座長:北村】 それでは、早速ですが、基調講演に移りたいと思います。最初に基調

講演をお願いしたのは、猪飼周平先生です。お手元の資料にご略歴がありますので、省略

させていただきますが、医療者ではなくて社会学者であります。9 月に私の所属している

東大のセンターで、一度ご講演をいただきまして、社会学者から見たヘルスケアの変動と

いうものは、われわれがもっと知っておくべきものだろうと、非常に感銘を受けました。

今回のシンポジウムにあたりまして、お忙しい中、ぜひ余人をもって代えがたいからお願

いということで拝み倒して、出ていただくことになりました。ぜひ社会学者の先生から

見たヘルスケアの今後ということで、お聞きいただければと思います。簡単ですが、では

猪飼先生、お願いいたします。 【猪飼】ただ今、過分なご紹介をいただきました猪飼です。現在、一橋大学で医療政策の

研究をしております。研究の仕方としては、主に歴史的な資料を使って研究をするという

手法を使っています。恐らくこれまでの医療政策やヘルスケア関係のいろいろな研究の文

脈では、あまり類例がないようなタイプの研究ですので、もしかすると初めて私の研究に

ついての話をお聞きになる方には、少し戸惑いもあるかもしれませんが、それは、基本的

に狙っているところが、本日のタイトルにもあるように、長期の戦略についてである点が

主要因となるように思います。通常行政の感覚でいくと長期といっても最長 10 年とか、あ

るいはもうちょっとくらいだと思うのですが、私の研究をしている長期というのは、短く

て四半世紀、場合によっては半世紀先というぐらいの非常に長いものです。 このような超長期の政策にとって可能かつ意味のある知識とは、いわゆる具体的にこう

いう制度をつくればいいとか、法律などに直接落とし込むためものではなくて、もっとそ

の手前にあるもの、例えて言えば、方角を教える「北極星」のような知識になります。方

向が分かれば、それに基づいて様々な戦略や制度の設計が、可能になってくるわけです。

その意味では、私の研究は、政策の前提に影響する、そういったタイプの研究だといえま

す。 四半世紀とか半世紀といった政策的には超長期の未来に関して、従来研究で一番効果を

上げてきたのは、いわゆる人口推計に関する研究です。というのは、人口は推計が当たる

からです。他方で、それ以外の様々な社会的な要素については、従来あまり当たらないと

考えられてきた。ただ、実際には、これから何十年かの間に起こることというのは、人口

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の変化だけではないわけです。価値観も変化するし、人の性質も変わっていく、社会の構

造も変わっていく。このため総体としてある社会の未来というものを考えようとすると、

様々な要素が変化することを前提として本当は考えなくてはいけないわけです。このため、

社会科学者の間では、未来というものは例外を除けば予測することが難しいということで

大体合意があって、未来に言及する社会科学研究そのものが、冒険的とみなされる傾向が

あります。 ただ、そのような中にあっても、歴史に関する情報は、現在、社会科学的な文脈で知ら

れているものでは、比較的未来とつながっていると考えられています。例えば、社会科学

の分野の一つに、未来学といわれるような分野があります。未来学の研究というのは、実

際にはその種の本を開いて頂くと分かるのですが、概ね歴史の分析になっているはずです。

つまり、未来を理解するということの最も必要な情報というのは、歴史的な資料として存

在している。そこにあるのは、ただ単に昔のことを知ることが楽しいというようなレベル

の、あるいはそこから教訓を得るというレベルの、いわゆる楽しみとしてやる歴史とも、

あるいはある時代の社会そのものを解明しようとする歴史学とも違っていて、過去の材料

を使って、ある種政策的な展望を構築していくという、そういうタイプの研究です。未来

学とみなされていないものでも、たとえば政治学、経済学、社会政策学などの分野では従

来から、政策史という研究領域があり、多くの研究蓄積がありますが、それらの研究の多

くは未来学同様未来の政策への展望的知識を狙って行われてきています。その意味では、

私が行っているような歴史的アプローチは、ヘルスケアの分野ではこれまであまり行われ

てこなかったものに属していますが、社会科学一般からみると決して特殊なものではあり

ません。 前置きが長くなりましたが、本日は、そういった社会科学の伝統の上に立って、長期の

人材戦略につながるような話をしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。 高齢化の裏側にあるもの

さて、歴史的アプローチに立ったときにまず見えてくるのが、今のヘルスケアの最大の

課題は人口高齢化であるという、各所で前提的に語られている言説のバランスの悪さとい

うことになります。 例えば、在宅という分野を考えてみましょう。在宅という分野に関して、先駆的にそう

いう取り組みをしてきた方々には、戦後から 1980 年、場合によっては 90 年ぐらいまでを

総じて先駆といってよいかもしれませんが、いろいろな方々がおられました。そういう方々

の仕事を振り返った時に、彼らがどういう問題意識で在宅という分野に取り組んだかとい

うと、やがて高齢化するから、そのために準備しておこうという意識ではなかったでしょ

う。彼らは何を考えていたかというと、在宅というケアは良いケアなのだ、ということで

した。在宅ケアは非常に良い性質を持っていて、質的な意味で在宅ケアというのは、いわ

ゆる施設的なケアにはない重要な良さがあるのだという認識に基づいて、その信念で、日

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の目が当たらないような状況の中であっても、そういう課題に取り組んでおられたわけで

す。 それが実はある段階から、在宅ケアは高齢化の問題なのだと、議論が変わってゆく。そ

れは高齢化をしていくと、高齢化に対応するためのケアシステムが必要になるとか、資源

整備が必要になるという観点から、そういうことが言われるようになり、それを実現する

ためには、在宅ケアというものをうまく活用していくことが必要なのだという議論に取っ

て代わられてゆくわけです。 後でまた言及しますが、人口高齢化への対策として、在宅ケアというのがどれほど有効

なのかというと、実は、論理的にはあまりつなげることができません。高齢化について、

多くの政策担当者の方々が強く意識するのは、財政的な逼迫(ひっぱく)の問題です。高

齢者ケアに大きな資源を投入しなくてはいけないので、そのための人材整備だとか、資源

整備なわけです。ただ、それをどういうふうに進めていくのがよいか。特に財政は非常に

強い制約を受けていく中で、どうやっていけばよいのかと考えた時に、今まである意味施

設という「点」で行われたケアを、地域という「面」で展開するということは、普通に考

えると合理的ではないはずです。要するに、コストが上がってしまうと考える方が、自然

なわけです。トランスポーテーションコストやそれに伴う調整コストが、すごく上がると

考えなければならない。つまり、地域ケアみたいなものを展開することで、直線的にケア

が安くなる、要するにそれに対応できるような財政的な逼迫を、緩和してくれるようなも

のになるという保証が、そもそも自明でないわけです。 にもかかわらず、高齢化イコール在宅ケアで、それは安いんだということが言われてい

た時期というのがありました。厚労省も地域包括ケアを推進する際に、当初はそういうロ

ジックで政策推進をしていたわけですが、現在ではその看板をかなり下ろしていて、安く

なるということはあまり言わなくなりました。実はそのぐらいここは誤解を含んでいる可

能性のある論点なのです。それがまず一つ。 そうだとした時に、それでは地域ケアとか在宅ケアとかいうものは、そもそも何のため

にやるのか。そこに結局話が戻っていくわけです。ただ、全体の流れとして、地域ケア的

な方向にケアが進んでいくというのは、私は正解だと思います。それはなぜかと言うと、

高齢化とは一義的には必ずしもつながっていない部分で、大きな社会の変動があって、そ

れはある種価値観の変動なのですが、その価値観の変動が、地域ケアというものを良いケ

アだと認識する方向に向かって、社会が動いている。つまり、人々のニーズというか、要

請というか、こういうケアがあってほしいという願いをかなえていく方向に向かって、ケ

アシステムというものを再構築していくと、おのずと地域ケア的なものになっていくとい

う、そういう状況が生まれつつある。この変化が今歴史的に起こっている。 ケアの生活モデル化

今、ケアの世界で起きていることを一言でまとめると、ケアの「生活モデル化」という

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ことができると思います。生活モデルという言葉自体は、もともと障害者福祉とかソーシ

ャルワークの領域で作られた言葉です。それが作られたのがだいたい 1980 年ごろなのです

が、それと同じ時期に、WHO の ICIDH(1980 年)というケアモデルが発表されたわけで

す。今は ICF ですが、これは言ってみれば障害や疾病の分類の基本的な枠組みのモデルだ

けですが、重要なことは、ケアがどういうふうなケアで行われることが望ましいのかとい

うことについての理念のある種国際的な合意というか、最大公約数的なものを意味してい

るとみることができます。 そこで、生活モデルはどういうものかについて、ごく簡単にお話しさせてください。一

例で脳卒中という病気を考えます。それによって障害が残りました。例えば、片麻痺が残

った。それで字が書けない。それでコミュニケーションが社会の中でうまくとれないとい

う状況があった時に、生活モデルの一つの重要な特徴というのは、究極的なケアの目標は

QOL だと考えるわけです。QOL が何かということは、後でまた議論しますが、とにかく生

活の質という言葉通りの意味だと、ひとまず考えてください。そうすると、ここの質がど

れだけ高いかというところに、生活モデルというのはフォーカスを当てるということに対

応している。 生活モデルの意味を理解するためには、その対極となるケアモデルをみるとわかりやす

い。上で言及したような脳卒中の状況があった時に、生活モデルに対置されるモデル、こ

れは 20 世紀を通じて医療の世界において一番卓越していた価値観、ケア観なわけですが、

それは「医学モデル」と呼ばれるものです。医学モデルでは、脳卒中によって様々な派生

的な問題は起こるかもしれないけれども、問題の根幹はここである。だから、脳卒中をも

し完全に治すことができるのであれば、その先の付随的な問題は起きないわけだから、こ

こを治してしまおうという発想になります。この発想に基づいて、治療のための様々な資

源であるとか、研究資源みたいなものを集中させていく。そして、これこそが 20 世紀の医

療を席巻したケアモデルでもあったのです。 これに対して、生活モデルというのはどういうふうに考えるかというと、要は QOL が上

がればいいわけだから、病気が治るのならそれはそれでいいけれども、治らなくても、狭

義のリハビリテーションをやればいい。それがうまく行かなくても、例えば字が書けない

という問題であったら、利き手の反対側をトレーニングするとか、あるいは PC を使うとか、

様々なサポートを使って字を書けばいいかもしれない。それでも例えば、非常にがっかり

しちゃって、外に出るという気力がなくなってしまっているとか、いろんなことが起こり

得るわけですが、そういう場合には様々な人のサポートを借りて、人とコミュニケーショ

ンの場に出ていけばいいのかもしれない。そうやって考えるわけです。これが実は生活モ

デルという考え方の原型的な姿です。 ここで、医学モデルと生活モデルとでは何が違うか。ポイントは、実は原因観なのです。

原因観の違いとは何か。原因という概念は、究極の原因は存在しないというところに、重

要な特徴があります。要するに、原因にはその原因となる事象のさらに原因を考えること

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ができ、原因の原因の原因、原因の原因の原因の原因みたいにして、いくらでも遡ってい

くことができるわけです。つまり、原因というものは、究極の原因がないところに、その

特徴がある。とすると、実は医学モデルというのは、無数にある問題状況の発生させる原

因の中の一つ、要するに医学的にオペレートできるような部分だけをつかまえて、問題を

解決しようとするタイプの、一種の還元主義的なアプローチなわけです。 これに対して、生活モデルというのは、原因が無数にあるということを、そもそも前提

として認めて、原因が無数にあるということは、原因ごとに対応策を考えれば、論理的に

は対応策も無数に考えられるわけです。そこには、効果的なものとか、そうじゃないもの

とか、選り分けだとか、様々なものが起きるでしょうが、論理的には無数に対策も含めて

考えることができるわけです。そうやって様々なレベルでの原因をつかまえて、そこで対

応していこうというのが、実は生活モデルの基本戦略なわけです。 さらに、これは医療の世界だけで起きている変化ではなくて、人が人を支援するという

ような様々な領域で同時に起こってきている変化で、医療の変化よりはずっと大きな変化

を背景にしています。その変化の中に飲みこまれるような形で、生活モデル化というのが、

医療にもその波が押し寄せてきていて、実際にケアの考え方が、医学モデルから生活モデ

ルに向かって、徐々に変化してきている。 生活モデルから見ると、医学がどう見えるかというと、治療医学の世界というのは、重

要ではあるけれども、その人の生活を支えていく無数に存在し得る手段の中のあくまで一

つという位置付けに変わるわけです。実は、今の医療の世界が直面している問題は、この

医療の位置付けの変化に、どう適応するかという問題なわけです。 ICIDH を発展させた ICF は、このような考え方を一般化したものです、たとえば、原因

は互いに一つの結果の原因は一つとは限らないです。たくさんあるかもしれないし、互い

に原因と原因が総合的に、要するに独立でない可能性もあります。そういうことを全部考

慮すると、ある一人の患者なり当事者なりの状態は、様々な原因となる要素の網の目とい

うか、ネットワークの中の結節点に置かれることになるわけです。そういうのを、エコシ

ステム的な原因観といって、ICF はそれを非常にきれいに表現しているわけです。 先ほど少し申し上げましたが、この変化というのは、実は広い意味での福祉、要するに

人が人を支援するという意味での最広義の福祉の全域で、このケア観の転換は起きていま

す。先ほども、例えば ICIDH なんかもそうですが、あれは障害分類なのです。結局、障害

者福祉の領域で先行的に変化が起きる。さらに、その障害者福祉での領域での変化は、そ

れだけで起こったのではなくて、実は生活保護とか様々な社会支援の領域で、同時に起こ

ってきたものの一種なのです。 たとえば、社会的排除という言葉をお聞きになったことあるかもしれませんが、今、EU

の社会政策の中心政策は、社会的排除に対する包摂政策というのが、政策の中核になって

います。この社会的排除という考え方は、実は先ほど言ったエコシステム的な原因観その

ものを使っています。つまり、これは 1970 年代の後半ぐらいから徐々に現われてきて、80

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年代ぐらいには、福祉領域ではある種コンセンサスになる。ただ、医学モデルの非常に強

かった医療の領域では、そこから 10 年ぐらいのタイムラグがあり、リハビリテーションの

領域では、上田敏先生のような先覚的な方々が、そういうものの重要性を主張しておられ

ましたが、本格的に医療の世界に入ってくるのは 90 年代に差し掛かってから、つまり、10年ぐらいのタイムラグがあってからです。ただ、それからもう 20 年以上がたち、今、ヘル

スケアの領域も、大きくその生活モデル的な価値観に飲みこまれようとしている。そうい

う状況です。 医療の世界を、歴史的に振り返ってみると、20 世紀を通じて医学モデル的な価値観が卓

越していました。医療をやるときに、これまでの常識というのは、病院と診療所という 2つの中核的な制度を使うシステムなわけです。この病院と診療所というものが、なぜ長年

医療の基本とされてきたのか。これは端的に言えば、患者を治療する上で都合がいいから

です。つまり、患者を医学的な意味で治癒に導くために合理的な制度を追求していくと、

おのずと病院と診療所という二元的なシステムの型になる。私たちは、比較的最近まで、

医療といえば病院と診療所という二元的システムによって供給するものだということを自

明のことと考えてきましたが、この自明性はまさに、医学モデル的価値観が医療界全体を

20 世紀を通じて包み込んでいたからなのです。 それが今のように生活モデルのような形で、違う目標に置き換わるとどうなるかという

と、システム的な大変動が起きてしまう。要するに、これまで前提だったことが、前提

ではなくなっていくわけです。現在私たちは、地域包括ケアだとか、多職種連携だとか、

新しいケアの形を求めて右往左往しているわけですが、この状況を本当に作り出せるのは、

高齢化ではなく、20 世紀的な医学モデルから生活モデルへのケア観の転換なのです。高齢

化は、資源整備の部分でケアシステムを部分的に制約している存在にすぎません。 ここはちょっと話し出すと長くなるので割愛しますが、簡単に言うと、生活モデル化

すると、生活モデルというものを前提としてケアシステムを構築しようとすると、おのず

とケアシステムは、地域包括ケア的な姿を取るというのが、ある種自然になってきます。

そこにはいろいろな要素が絡むので、単線的にそっちに向かうわけではないのですが、

生活モデルを原則として理解して、それに向かって進んでいく。要するに、20 世紀におけ

る医学モデルと同じように、そういうものが進んでいけば、ケアシステムはおのずと地域

包括ケア化するということが、論理的に言えます。これはちょっと別のところでいろいろ

議論したり、紙で書いたりしているので、関心のある方はお読みいただければと思います。 そう考えたときに地域包括ケア、今の焦点になっている政策ですが、これをどう理解

することができるかというと、実は従来医療界で言われてきたのは、1 番(スライド 7 の①)

です。しかし、これはやや論理的におかしいといわざるをえません。この議論は生活習慣

病中心になってきて、治らない人が大量に出てきたから、QOL、生活モデルだと言ってい

るわけです。ただ、実は時代をさかのぼればさかのぼるほど、生きている人たちはみんな

どんどん今の観点から見ると、不健康に生きているわけです。要するに、それが医学の進

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歩というものの意味です。そう考えると、実は時代をさかのぼるほど、本当は QOL 重視の

社会にならなければいけません。 次に、②の安上がりというのが成り立たないというのは、最初に申し上げた通りです。

結局、③のようにケアの質が良いからやるという論理でなければ、地域包括ケアとは成立

する根拠を見いだせないものなのです。ただ、生活モデル化というものを引き受けて、そ

れを認めて、それに基づいてケアをやっていこうとすると、地域包括ケア的なものになる

という意味なのです。

もう時間がないので、ごくごく簡単に申し上げます。そうなった時に、地域包括ケア、

幾つかの特徴を帯びます。お配りした資料の中で少し書いているのですが、簡単に言うと、

QOL を支えるということが、ヘルスケアにとっての一番重要な目標になるわけです。そう

なった時に、患者あるいは病院に入院している患者って、どういうふうな存在に見えるか。

従来長年厚生行政というのは、いわゆる社会的入院の解消というのを、政策の中心に掲げ

てきました。ただ、生活モデルで考えてみると、社会的入院でない患者なんていません。

どんな人でも、医療ニーズと生活ニーズを両方抱えていると考えなければ、ケアが成り立

たない。 そう考えてみると、今、病院が 8,000 ぐらい日本にあるわけですが、医学的な治療の効

率を高めていって、在院日数を短くしていくということが、効率性を持つような病院とい

うのは、要するにヨーロッパやアメリカの病院がそういう病院だと考えると、それに対応

地域包括ケアは何のために

つの説明

① 患者が治らないから( 治療医学敗北説)– 長寿化・ 疾病構造の転換によって治らない病気を抱えながら生きる主と して高齢者が増大した→彼らに適合的なケアは を重視した地域包括ケア

② 安上がりだから( 医療費抑制説)– 医療ニーズの低い人びとが医療機関特に病院を利用すればするほどケアシステムの効率は低下するので、 できるだけ多く の人びとを地域でケアするよう にした方がよい

③ ケアの質がよいから( 支援観の歴史的変化説)– 年代以降、 メ インスト リームの支援観が、 単純な欠乏の充足から、 を生活モデル的アプローチによって充足しよう とするものへ変化してきている。 この新しい支援観に沿ってヘルスケアを実施しよう とすると 、 おのずと地域包括ケア的なシステム形態をとる。

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する病院というのは、8,000 のうち恐らく 1,000 からちょっと多いぐらい。残りの日本で病

院と呼ばれるもののほとんどは、実は生活と医療というものを、両方供給できるような柔

軟な組織でならなければならないという結論に、必ずなるわけです。これに今の日本の医

療システムは、対応できていないわけです。考えてみれば分かりますが、生活ニーズと医

療ニーズを両方持っている人に対して、私たちの施設は医療施設ですから、医療ニーズに

しか対応しませんというサービスの仕方が、合理的かということです。当然不合理だし、

効率が悪い。ここの部分は、長期的に見ると、必ず変わっていかざるを得ない。そういう

領域です。 あと、もう一点申し上げておきますと、QOL とは何かという問題。医学のいろいろな

論文等で、QOL の測定尺度、SF-36 とか Euro QOL とか、様々なものが提案されています

が、これらのすべては、QOL を測定してはいません。それはまさに血圧計や体温計が、健

康を測定しないのと同じです。生活の質それ自体を、測定尺度は測定しないのですね。要

するに、客観的な指標を参考に使うために考案されている。ただ、それが自己目的化しや

すいということで、QOL イコール測定尺度によって測られたものだという認識が広まりや

すいのですが、QOL というのは究極的に測定できない。 ここでもし、究極的にあなたはどんな生活がいいですかと、例えば質問されたとします。

これに答えられる人はいません。たとえば学生に質問すると、南フランスでクルーザーに

乗って暮らすこととか言うんです。だけど、本当に南フランスでクルーザーに乗りたいの

って聞くと、いや、どうですかねみたいにだいたいなります。他の人に南フランスでクル

ーザーに乗りたい人って聞くと、あまり手が挙がらない。つまり、お互いにそれが望まし

いという形で合意できない。非常に多様性が高い。しかも、自分自身でも具体的にそれを

イメージすることができないようなものが、QOL のオプティマムの領域です。 それを目指していくシステムとは一体何なのか。医学モデル的な世界においては、医学

という限定が付くけれども、何を目標にするかというのは、客観的に知ることができまし

た。そこを目指せば良かった。それに対して QOL というものを目指そうとすると、それが

分からないということを前提に出発しないといけません。ここが実は 20 世紀的なシステム

と 21 世紀的なシステムの大きな違いです。そこで、やはり旧来的な発想をする医療の研究

者たちというのは、それを医学のかつての領域に引き寄せたいので、一生懸命「測定尺度」

すなわち客観化する道具を作ろうとします。そして膨大の数の提案がなされる。これは、

いってみれば、「ないものねだり」です。 これに対して、従来のさまざまな社会的な技術として、それが何だか分からないものを

取り扱う技術が実はあります。例えば、わが国の憲法でも憲法第 13 条で明文化されている

幸福追求権がそれです。憲法が何を定めているかというと、幸福とは何かということは分

からないけれども、それぞれの人が自分の幸福を追求することを、他人に邪魔させないと

いうことを定めている。これは、自己決定権の尊重につながります。近代社会では多くの

場合、これでうまくゆきます。医療関係者の方に知っておいて頂きたいのは、幸福のよう

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に不可知なものであっても、それを無理に客観化、指標化しなくとも社会的に取り扱う方

法が存在するということです。 とはいえ、自己決定権とおなじやり方は、直接ケアの世界に適応しても、とくに日本を

含むアジア的文脈では上手く行かない可能性が高いです。というのも、自己決定すること

が難しかったり、そういう能力がうまく発揮できないような方たちというのを、特にたく

さん対象として含むシステムが、ケアシステムだからです。 とすると、この幸福追求権とは違うやり方を、模索しなくてはいけない。そこがどうや

ってそういうものをつくっていくかということで、ここでは時間の関係で詳しくはお話し

できませんが、1 つだけ私がヒントとなると考えていることをお話しすれば、たとえば、ケ

アの中で「寄り添う」という行為がありますが、これは実は自己決定でもなく、パターナ

リズムでもない領域を狙った、非常に重要なタイプのケア的行為です。このような行為の

合法性をうまく保障することができれば、幸福追求権とは別のやり方かつ客観化とは別の

やり方で、QOL を支援することができるのではないかと考えています。 最後に、人材の条件ということで考えた時に、一つ重要なポイントがあるということを

述べて起きましょう。簡単に言うと生活的な価値に関与できる能力というのが、医療者に

求められる。これは在宅ケアに関わる医療者のみならず、急性期の病院に勤めている医療

者にも、求められるわけです。要するに、退院した後、その人がどういう療養生活を送る

のかということを、イメージすることができなければ、病院の中だけで最も安全な医療の

手段を選択してしまいます。そうではなくて、療養の大きなサイクルの中で、その人が家

に帰ってどういう暮らしをしながら薬を使うのだろうか、どういう暮らしをしながら生活

するのだろうかを、イメージできなければいけません。とすれば、そこには能力的な条件

があって、医療者は人間に興味がある人でなければならないということになります。だか

ら、医学教育というのは、私は 18 才で入れるのは早いと思っています。簡単に言えば、そ

こをスクリーニングできないから。それはそういうふうに考えていますが、いずれにして

もそういう能力を持った医療者を、中心に置かなくてはいけない。そういうことになりま

す。 さらに言うと、地域連携の基本とは、実は生活というのは、ニーズがものすごく多様で、

個別性が高い。とすると、私はこのケアをします、私はこのケアをしますということを

かき集めて、それらの専門分業でシステムをつくっても、その外側にニーズが必ず発生し

まう。つまり、生活ニーズに対応できるようなタイプのヘルスケアの専門職は、柔軟に自

分が何をするのかということを、その場で選択しながら、目的に向かって進む。要するに、

目標設定を前提として、その中で仕事を分配していくようなタイプのチーム組織が必要で

あり、その中で働けるようなタイプの人が必要です。そうすると、おのずと地域連携とか

多職種連携といいますが、チーム内で能力的に重複は発生する。このような能力の重複を

認めない地域連携は効率的に回らない。 概して、保健師だったら、保健師にしかできない仕事は何だろうと考えて、保健師の仕

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事を探しがちです。あるいは、訪問看護師にしかできない能力って何だろうとか、そうい

う方向で物事を考え、そこでそれを専門化していって、職業として形をつくっていこうと

しがちです。私の理解ではこのような独自性の探索とは違うアプローチが必要です。それ

をやらないと、多分これからのケアのニーズに、対応できないということになると考えて

います。 少し時間が長くなりましたが、ここで終わりたいと思います。ありがとうございました。

【座長:北村】 猪飼先生、どうもありがとうございました。基調講演として、先生方が

想像したのと随分違うと思うのですが。総合討論にはいらっしゃらないということなので、

ここでもしご質問があれば、一つ二つお受けしたいと思いますが、挙手を。よろしいです

か。ご略歴に書いてある著書に、メールアドレスが書いてありましたよね。もし質問があ

る人は、その本を買っていただいて、メールアドレスにメールを送っていただくのが、

一番いいと思います。 【猪飼】 本を買うというのは、もちろん条件ではございませんので。 【座長:北村】 図書館で見てもいいそうです。先生、どうもありがとうございました。

それでは、シンポジウム 1 の方へ行きます。座長は、医学チームのメンバーで横浜市立

大学の後藤先生にお願いいたします。

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Dec.5, 2013

ヘルスケア人材供給に関する長期戦略について

猪飼周平一橋大学大学院社会学研究科

e-mail: [email protected]

url: http://ikai.soc.hit-u.ac.jp/

tel: 042-580-8527 (office)

1

自己紹介

Q1. 社会科学者が生み出すものとは何か?A. 社会理論

Q2. 社会理論とは何か?A. 「地図」のようなもの=自

分が置かれている状況、葛藤、進むべき方向などを説明してくれるもの

Q3. 実践家と社会科学者の関係は?A. 例えていえば「木を見る

係」と「森を見る係」による連携

2010年に『病院の世紀の理論』を上梓して以来、医療業界、行政、医療経済学とも異なるアプローチをとる医療政策学者として少しずつ認知されつつあるといったところ(?)。

Q4. 歴史的知識の重要性とは?

A. 現在の社会構造を理解する上で、また社会構造がなぜ存在しているのかを説明する上で大変効果的

2

ケアの世界に起きていること

ケアの生活モデル化

– ケアの究極的な目的はQOL– エコシステム的原因観

3

国際障害分類(ICIDH)における障害モデル

disease or disorder 病気/変調

impairment 機能障害

disability 能力障害

handicap 社会的不利

国際生活機能分類(ICF)2001

ケアの生活モデル化の背景

4

福祉全領域の

生活モデル化

ヘルスケア領域の生活モデル化

障害者福祉領域の生活モデル化

生活モデルは1970年代後半ごろから「ケア」の全領域(広義の福祉領域)に拡がってゆく

→生活保護・社会福祉領域→公衆衛生→医療

医療における生活モデル化

20世紀治療医学的治癒を究極的目標とするケアシステム

21世紀QOLを究極的目的とするケアシステム

今日の政策の基本原則は生活モデルを前提として医療システムを再構築すること

5

生活モデル化への対応としての地域包括ケア化

地域包括ケア化

1)ヘルスケアの包括化システムが統合的に作動すると効率的であるのは自明。だが、20世紀は医療が保健や福祉とは異質の目標を有していたために実現できなかった。ケア目標がおよそ1世紀ぶりに共有される → 統合されることが自然。

2)ヘルスケアの地域化1. 人びとはそもそも在宅的環境を選好している

現実的な選択肢の中で様々な選択が行われた結果としての居住

2. 生活ニーズの多様性への対応生活ニーズを充足するケア供給側も多様性を含む必要がある→もっとも遍在している資源が地域社会

3. 生活ニーズに関する情報の取得情報は当事者の生活環境に集積 → ケア関係者は地域を舞台にケアをすることが情報的にも合理的

4. 生活の継続性

6

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