「国際課税の現状と企業の国際税務管理」labs.kbs.keio.ac.jp/murakamilab/20150224_慶應...中で、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問...

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ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)はスイス法上の組織体であるベーカー&マッケンジー インターナショナルのメンバーファームです。専門知識に基づ くサービスを提供する組織体に共通して使用される用語例に倣い、「パートナー」とは、法律事務所におけるパートナーである者又はこれと同等の者を指します。同じく 「オフィス」とは、かかるいずれかの法律事務所のオフィスを指します。 © 2015 ベーカー&マッケンジー法律事務所 (外国法共同事業) 「国際課税の現状と企業の国際税務管理」 2015年2月24日 慶應義塾大学院ビジネススクール講義用資料 ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) 大河原 健

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ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)はスイス法上の組織体であるベーカー&マッケンジー インターナショナルのメンバーファームです。専門知識に基づくサービスを提供する組織体に共通して使用される用語例に倣い、「パートナー」とは、法律事務所におけるパートナーである者又はこれと同等の者を指します。同じく「オフィス」とは、かかるいずれかの法律事務所のオフィスを指します。

© 2015 ベーカー&マッケンジー法律事務所 (外国法共同事業)

「国際課税の現状と企業の国際税務管理」

2015年2月24日

慶應義塾大学院ビジネススクール講義用資料

ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) 大河原 健

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Ⅰ.国際税務プランニング

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0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

日本 アメリカ

フランス ドイツ

中国 韓国

イギリス シンガポール

23.79

31.91 33.33

15.83

25.00

22.00 23.00

17.00

10.83

8.84

13.76 2.20

法人税率:25.5%

事業税率:4.3%

地方法人特別税:

事業税額×67.4%

住民税:

法人税額×12.9%

地方法人税:

法人税額×4.4%

(東京都) (カリフォルニア州)

連邦法人税率:35%

州法人税率:8.84%

法人税率:

33 1/3%

法人税率:15%

連帯付加税:

法人税額×5.5%

営業税率:13.76%

法人税率:25%

(全ドイツ平均)

法人税

率:22%

地方所得税率

:2.2%

法人税率:23%

法人税率:17%

地方税

国税

34.62%

40.75%

33.33%

29.59%

25.00%

24.20%

23.00%

17.00%

法人所得課税の実効税率の国際比較

0%

0%

0%

0%

出所: 財務省資料より

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39 37

26

31 30

37

31

34

39

34

58

0

10

20

30

40

50

60

A社 B社 C社 D社 E社 F 社 G社 H社 I 社

26

16

19

4

11

26

13

23

16

27

23

L社 M社 N社 O社 P 社 Q社 R社 S社 T社

平均19%

連結ベース時価総額日米上位11社の租税負担率(2013年)

(注) 日米時価総額上位11社(異常値のあった2社は除外)。

出所: データベースORBIS

平均

36%

17%の差

%

日本企業 米国企業

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代表的米国企業の税務ポジション

大きな差

税務最適フロンティア曲線

税務リスク

J 典型的日本企業の税務ポジション

税務コスト

日本企業と米国企業の税務ポジションの差異

5

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現 状 改善A方式

(売上10%の増加)

改善B方式 (税率6.5%の低減)

売上高 1,000 1,100 1,000

総費用 800 880 800

税引前当期純利益 200 220 200

法人税 70 77 57

実効税率 35.0% 35.0% 28.5%

税引後当期純利益 130 143 143

税引後当期純利益に対する影響額 - 13 13

<億円>

税務コスト13億円の削減は、売上高100億円伸長と同等の効果

税引後利益向上例

6

(注)

(注) 総費用は売上高の80%と仮定。

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<米国>

<アイルランド・オランダ>

<海外>

アイルランド:法人①

利益を蓄積

グループ親会社:Y社

研究開発

オランダ法人:BV

アイルランド:法人②

コンテンツなどの配信拠点

現地法人

バミューダ法人

(支配管理会社)

顧客

無形資産使用許諾 使用料

無形資産使用許諾

販売サービス契約

使用料

コスト+数%の手数料

広告サービス契約

広告料

販売支援

費用分担契約(CCA)

ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ取引概要図

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日本IBM事件におけるクロスボーダー取引

米国IBM社(外国法人)

米国WT社(外国法人)等

(有)IBMAPホールディング

(内国法人)

日本IBM

株式売却 利子

貸付

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II.国際的租税回避に対応するための国際的取組み

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OECDの取組みの多元化

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➢二重課税排除

➢有害税制への対応

➢課税ルールの精緻化

➢二重課税排除の実効性確保

➢二重非課税(租税回避)の防止

➢透明性確保

➢執行協力ネットワーク

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税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画

‒ 1. 近年、各国がリーマンショック後に財政状況を悪化させ、より多くの国民負担を求めている中で、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題が顕在化。

‒ 2. この問題に対応するため、OECD租税委員会は2012年より「税源浸食と利益移転」(BEPS:

Base Erosion and Profit Shifting)に関するプロジェクトを立ち上げ、2013年7月19日に「BEPS行動計画」を公表。BEPS行動計画は、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(7月19~20日、モスクワ)に提出され、日本をはじめとするG20諸国から全面的な支持を得た。

‒ 3. 行動計画の実施に関し、OECD非加盟国のG20メンバー8か国(※)がOECD加盟国と同様に意見を述べ、意思決定に参加しうる枠組みとして「OECD/G20 BEPSプロジェクト」を設ける事としている。

(※)中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフ

リカ

‒ 4. 各国が、二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動の行われている場所での課税を十分に可能とするため、OECDは、行動計画の各項目について、2014年9月~2015年12月の間に、新たに国際的な税制の調和を図る方策を勧告することとしている。

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① 電子商取引に対する直接税・間接税のあり方

電子商取引では、他国から遠隔で販売、サービス提供の経済活動ができることを鑑みて、電子商取引に関する

直接税および間接税のあり方を検討する。

② ハイブリッド・ミスマッチを利用した租税回避の防止

二国間での税務上における法令に基づく事業体・取り扱いが異なることを利用して、両国の課税を逃れる取引

(2つの地域での同一費用の損金創出、所得に対応しない損金の発生、外国税額控除の濫用、資本参加免税制度

の濫用)に関してハイブリッド・ミスマッチ取引の効果を否認するモデル租税条約および国内法の規定を策定

する。

③ タックスヘイブン対策税制の見直し、普及

タックスヘイブン対策税制に関して、各国が最低限導入すべき国内法の基準についての勧告を策定する。

④ 利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限

支払利子等の損金算入を制限する措置の設計に関して、各国が最低限導入すべき国内法の基準について、勧告を

策定する。

⑤ 有害税制への対抗

加盟国の優遇税制を審査し、現在の枠組みに基づき、非加盟国を関与させる。

⑥ 租税条約濫用の防止

条約締約国でない第三国の個人・法人等による不当に租税条約の特典享受の濫用を防止するためモデル租税条約

規定及び国内法に関する勧告を策定する。

⑦ 恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

恒久的施設(PE)の設定を免れることを防止するために、租税条約の恒久的施設(PE)の定義を変更する。

⑧ 無形資産を、移転することで生ずるBEPSを防止する移転価格ガイドラインの作成、および無形資産の移転に

関する特別ルールの策定

親子会社間等で、特許等の無形資産を移転することで生じるBEPSを防止する国内法に関する移転価格ガイド

ラインを策定する。また、価格付けが困難な無形資産の移転に関する特別ルールを策定する。

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BEPS行動計画

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© 2015 ベーカー&マッケンジー法律事務所 (外国法共同事業)

⑨ 移転価格税制

親子会社間等のリスクの移転又は資本の過剰な配分によるBEPSを防止する国内法に関する移転価格ガイドラ

インを策定する。

⑩ 移転価格税制(他の租税回避の可能性が高い取引)

非関連者との間では非常に稀にしか発生しない取引や管理報酬の支払いを関与させることで生じるBEPSを防止

する国内法に関する移転価格ガイドラインを策定する。

⑪ BEPSの規模や経済的効果の指標を政府からOECDに集約し、分析する方法を策定

⑫ タックス・プランニングを政府に報告する義務規定の勧告策定

タックス・プランニングを政府に報告する国内法上の義務規定に関する勧告を策定する。

⑬ 移転価格関連の文書化の再検討

移転価格税制の文書化に関する規定を策定する。多国籍企業に対し、国毎の所得、経済活動、納税額の配分に関

する情報を、共通様式に従って各国政府に報告させる。

⑭ 相互協議の効果的実施

国際税務の紛争を国家間の相互協議や仲裁により効果的に解決する方法を策定する。

⑮ BEPS対抗措置を効率的に実現させる多国間協定の開発

BEPS対抗措置を効率的に実現させるための多国間協定の開発に関する国際法の課題を分析し、その後、多国間

協定を開発する。

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BEPS行動計画(移転価格)

無形資産【行動8】<2014年9月(①、②、2015年9月③、④>

1. 関連者間で無形資産を移転することで生じるBEPSを防止するルールを策定する(以下を含む)

① 広範かつ明確に記述された無形資産の定義を採用する

② 無形資産の移転及び利用に関連する利益が(価値創造から切り離されるのではなく)価値創

造に従って適切に配分されることを確保する

③ 価格付けが困難な無形資産の移転に関する移転価格税制又は特別な措置を策定する

④ 費用分担契約に関するガイダンスを更新する

リスク及び資本【行動9】 <2015年9月>

1. 関連者間のリスクの移転又は過剰な資本の配分により生じるBEPSを防止するルールを策定する

2. 事業体が契約上リスクを負担したり資本を提供したというだけの理由で、当該事業体に不適切な利益

が生じないことを確保するための移転価格税制又は特別な措置の採用を含む

3. 策定されるルールは、利益が価値創造と整合することをも要求する

4. 利子の損金算入及びその他の金融取引支払いに関する作業との調整

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BEPS行動計画(移転価格)

他のリスクの高い取引【行動10】<2015年9月>

1. 非関連者間では発生しないか、非常に稀にしか発生しない取引を関与させることにより生じる

BEPSを防止するルールを策定する。

2. 以下についての移転価格税制又は特別な措置の採用を含む

① 取引きの再構築がされ得る状況を明確化する

② グローバル・バリュー・チェーンの文脈において、移転価格算定方法、とりわけ利益分割法の適用

方法を明確化する

③ マネジメント・フィーや本社経費など、税源浸食を引き起こす一般的な支払いに対して保護を与え

移転価格文書化の再検討【行動13】 <2014年9月>

1.税務行政の透明性向上のため、企業のコンプライアンス・コストを考慮しつつ、移転価格文書化に関す

るルールを策定する

2.策定されるルールには、多国籍企業に対し、国ごとの所得、経済活動及び納税額のグローバルな配分に

関して必要な情報を共通様式に従って関連する全ての当局に提供することを義務付けることが含まれる

15

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協議文書(無形資産)

2013年7月「無形資産の移転価格に関するディスカッションドラフト改訂版」公表【抄】

1.第1章(独立企業原則)

①ロケーション・セービング及び市場固有の特徴、集合労働力、多国籍企業のグループ・シナジー

2.第6章(無形資産に対する特別の配慮)

①無形資産=有形資産や金融資産ではなく、商業活動に使用するにあたり所有又は支配することができ、

比較可能な状況で非関連者間による取引において発生した場合に、その使用又は移転によって報酬が

生ずるもの

②無形資産取引を分析する枠組み

(i) 法的取決めの条件に基づく無形資産の法的所有者の特定

(ii) 機能分析の手段による、無形資産の開発等に関連する当時者の特定

(iii) 両当事者の行動と法的取決めの条件が合致しているかの確認

(iv) 法的所有の観点からの無形資産の開発等に係る関連者間取引及び貢献の特定

(v) 各当事者の貢献と独立企業間価格が一致しているかの決定

(vi) 例外的状況における取引の再構築

③複数の無形資産移転取引について、信頼し得る比較対象が特定できない状況においては、評価テク

ニックを使用して関連者間で移転した無形資産の独立企業間価格を見積もることが可能。特に、所得

をベースとした評価テクニックの適用、とりわけ評価中の無形資産に帰属する見積の将来所得の動向

又は将来キャッシュフローの割引現在価値の計算を前提とした評価テクニックは、適切に使用されれ

ば特に有用。 16

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無形資産の種類

① 市場に関連するもの

商標、商号、意匠権、インターネットのドメイン名

② 顧客に関連したもの

顧客リスト、顧客との契約、顧客との関係

③ 契約に関連するもの

ライセンス契約、フランチャイズ契約、リース契約、雇用契約

④ 特許に関連するもの

特許関連技術、実用新案権、技術ノウハウ

⑤ 企業秘密に関連するもの

デザイン、図表、スキーム

⑥ データ処理に関連するもの

ソフトウェア著作権、データベース

⑦ 人材に関するもの

雇用契約、熟練労働者

⑧ 立地に関連するもの

借地権、借家権、鉱掘権、水利権、地上権

⑨ のれんに関連するもの

組織に関わるのれん、技術に関わるのれん、名声、専門家の経験、事業の継続価値

⑩ 芸術に関連するもの

著作権(写真、映画、ビデオ、テレビ、音楽、演劇)、絵画美術

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© 2015 ベーカー&マッケンジー法律事務所 (外国法共同事業)

①ロイヤルティ・ケース ②無形資産の一括譲渡ケース

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ

本社

子会社B

子会社A

本社 地域統括

子会社A

子会社B

既存IP

の譲渡

既存技術(無形資産)への対価

IPライセンス

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ ロイヤルティ

IPライセンス

無形資産に対する対価の回収方法 ①、②

① 本社が子会社からロイヤルティを一括回収:本社が無形資産を一括所有

② 本社が統括会社に、既存無形資産を一括譲渡:地域統括会社が無形資産を所有

IPライセンス

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子会社B

地域統括

本社

開発費用を予測便益に応じて分担

子会社A 新IP ライセンス

ロイヤルティ

新IPの自社

使用・開発

CSA ロイヤルティ

新IPライセンス

無形資産に対する対価の回収方法 ③

<海外> <A国>

コストシェアリング(“CSA”)の締結: 本社及び地域統括会社が無形資産を共同所有

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無形資産に対する対価の回収方法④

米国本社

欧州地域

・その他地域

アジア

オセアニア地域

欧州

地域統括

会社

アジア/

オセアニア

地域統括会社

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ

IPライセンス

米国顧客 CSA

高所得・低税率課税

高所得・低税率課税

米国で課税

子会社A

子会社B

子会社C

子会社D

子会社E

子会社F

子会社G

コストシェアリング(“CSA”)の締結: 本社及び欧州・アジア/オセアニア地域統括会社が無形 資産を共同所有

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本社とヨーロッパ地域統括会社がCSAを用いて無形資産を共同所有し、ヨーロッパ地域統括

会社がアジア/オセアニア地域統括会社にライセンスの供与

無形資産に対する対価の回収方法⑤

米国本社

欧州

地域他

アジア/

オセアニア地域

欧州

地域統括

会社

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ

IPライセンス

ロイヤルティ

IPライセンス

米国顧客

CSA

高所得・低税率課税

米国で課税

ロイヤルティ IPライセンス

アジア/

オセアニア

地域統括会社

低所得・低税率課税

子会社B

子会社C

子会社D

子会社E

子会社F

子会社G

子会社A

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協議文書(移転価格文書化及び国別報告)

2014年1月「移転価格文書化及び国別報告に係るディスカッション・ドラフト」公表【抄】

1.移転価格文書化の二層構造アプローチ

①企業部ループ全体に共通する基本情報を含むマスターファイル及びローカル企業の重要な取引に特化

して記載されるローカルファイル

②マスターファイルの内容:記載のストラクチャー、MNEの事業説明、MNEの無形資産、MNEグルー

プ内金融活動、MNEの財務状況と納税状況

③国別報告は国別の所得、納税額、経済活動のグローバルな配分に関する情報を記載する様式で、マス

ターファイルの一部

④ローカルファイルの内容:対象事業体、関連者間取引、税務情報

2.コンプライアンスに関する論点

①同時文書化、文書の作成・申告時期、重要性、文書の保存期間、文書の更新頻度、使用言語、罰則、

守秘、その他

3.執行

①各国は、MNEグループ内関連者がマスターファイル、ローカルファイル、国別報告を提出するよう、

国内法による移転価格文書化規定の改定を求められる

②マスターファイル(含国別報告)は、MNEグループの親会社の指示で完成され、各国に所在する関連

者を通じて各国税務当局が入手。即座のコンプライアンス遵守がない場合、各国税務当局は情報交換

により入手可能

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© 2015 ベーカー&マッケンジー法律事務所 (外国法共同事業) 23

紛争解決・MAPを巡る動き

2004年 国際的な税の紛争解決手続の改善についてプログレス・レポート公表

2008年 モデル条約25条(相互協議条項)の改正(仲裁規定の導入)

2009年 移転価格ガイドライン第4章(移転価格に関する紛争の回避及び解決のための執行上のアプローチ)改定

BEPS行動計画(紛争解決・MAP)

紛争解決メカニズムをより効果的なものにする【行動14】<2015年9月>

1.ほとんどの条約において仲裁規定がないことや、特定の場合にMAPや仲裁へのアクセスが否定されるといった事実を含め、各国が、MAPにより条約適用上の粉砕を解決する上での障害に対処するための解決策を策定する

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BEPS行動計画(電子商取引)

デジタル経済の課税上の課題に対処する行動【行動1】<2014年9月>

1.デジタル経済によって生じる既存の国際課税ルールの適用上の主要な困難性を特定し、包括的

アプローチをとり、直接税及び間接税の双方を考慮に入れて、これらの困難性に対処するため

の詳細なオプションを策定する

2.検討されるべき課題は以下を含むが、それに限定されない

①現行の国際ルールの下では、企業が、他国の経済において、つながりの欠如のために納税義務

を負うことなく、重要なデジタル・プレゼンスを有することができること

②デジタル商品・サービスの利用を通じて生成される市場性のある位置データから想像される価

値の帰属

③新しいビジネスモデルから生じる所得の性質決定

④関連するソースルールの適用

⑤デジタル商品・サービスの越境販売に係る付加価値税・消費税の効果的な徴収を確保する方法

3.作業には、このセクターにおける様々なビジネスモデルの徹底的な分析を要する

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協議文書(電子商取引)

2014年3月「デジタル経済の課税上の問題への対応に関するディスカッション・ドラフト」公表【抄】

【幅広い課税問題に対処するための潜在的なオプション】

1.PEから除外される範囲の見直し

①モデル条約5条パラ④(PEを構成しない準備的・補助的活動)が適用されないようにする

②パラ4の削除、パラ4の(a)ないし(b)を削除するか、(a)ないし(b)を当該活動の性格が準備的・補助的で

あることという条件に係らしめる

2.重要なデジタル・プレゼンス

①事業が完全にデジタル化されて行われる状況に対処するため、代替的なネクサス(結び付き)を見出

②「完全に非物質化されたデジタル活動」(e.g.契約締結がネット上で遠隔的に完結)に従事する企業が、

他国において「重要なデジタル・プレゼンス」を保有する場合(e.g. デジタル商品・サービスが当該

国で広く使用・消費される)にPEを有するものとする

3.仮想PE(Business Profits TAGで検討済み)

①仮想の固定的施設「サーバー上のウェブサイト)、仮想代理人PE、オンサイト事業PE

4.その他

①デジタル取引に対する源泉徴収税の創設、消費課税 25

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2012年 ハイブリッド・レポート(Hybrid Mismatch Arrangements: Tax Policy and Compliance

Issues)公表

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BEPS行動計画(ハイブリッド・ミスマッチ)

ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の否認【行動2】<2014年9月>

1.ハイブリッド商品・事業体の効果(例えば、二重非課税、二重所得控除、長期の課税繰延等)を否認

するためのモデル条約の規定及び国内ルールの設計に関する勧告を作成する(以下を含む)

①ハイブリッド商品・事業体(及び双方居住者である事業体)が不適切に条約の特典を得るために利用

されないことを確保するためのOECDモデル租税条約の改正

②支払者により所得控除可能な支払の益金不算入又は収益非認識を防止する国内法の規定

③受領者の所得に計上されない(かつ、CFC税制及び類似のルールによる課税を受けない)支払の所得

控除を否認する国内法の規定

④他の国でも所得控除可能な支払の所得控除を否認する国内法の規定

⑤必要があれば、二以上の国が取引や構造に対し上記ルールを適用しようとする場合の調整ルール又は

タイブレーカー・ルールに関する指針

2.国内法の改正とOECDモデル租税条約の規定の改正との関係に特に注意を払う

3.利子損金算入制限、CFCルール及び条約漁りに関する作業との調整

ハイブリッド・ミスマッチを巡る動き

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2014年3月「ハイブリッドミスマッチ取決めの効果の否認に関するディスカッション・ドラフト(国内法への勧告)(条約上の論点)」公表【抄】

(国内法への勧告)

1.ハイブリッドミスマッチ取決め=事業体又は商品の税務取扱上のハイブリッド要素を利用して、取決めの下での支払に係る税務結果のミスマッチを生じさせ、利益を移転させる取決め

①損金算入/益金不参入(D/NI)と二重損金算入(DD)

②ハイブリッド事業体:透明体か非透明体かのミスマッチ

③ハイブリッド商品:1、ハイブリッド譲渡:資産所有権の所在地のミスマッチ、2、ハイブリッド金融

商品:商品に基づく支払の性格(負債か資本か)のミスマッチ

④他の国でも所得控除可能な支払の所得控除を否認する国内法の規定

⑤必要があれば、二以上の国が取引や構造に対し上記ルールを適用しようとする場合の調整ルール又は

タイブレーカー・ルールに関する指針

2.国内法改正とOECDモデル租税条約の規定の改正との関係に特に注意を払う

3.利子損金算入制限、CFCルール及び条約漁りに関する作業との調整

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協議文書【ハイブリッド・ミスマッチ)

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情報交換の3類型

個別の納税者に対する調査等において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、条約相手国・地域の税務当局(外国税務当局)に必要な情報の収集・提供を要請するもの。

納税者の取引先が海外に所在するため、国内で入手し得る情報だけでは十分な税務調査委を進めることが出来ない場合に有力な手段となる。

1. 個別的情報交換(要請に基づくもの)

2. 自発的情報交換

自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するもの。

3. 自動的情報交換

法定調書等から把握した非居住者への利子・配当・使用料等の支払等に関する情報を、利子・配当等の支払国の税務当局から受領国の税務当局へ送付するもの。

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III.J社国際税務プランニング事例

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J社は、今回日本の税務当局から課税された米州との取引については、相互協議および国内救済による二重課税の解消をめざすこととした。一方、今回、課税は逃れたが、今後も成長が見込まれるアジアでのビジネスについては、税務リスクを検証し、実行可能な税務戦略を考案することとした。そのため、経理、法務、事業部それぞれの代表者でプロジェクトチームを立ち上げ、Phase1で現状のビジネス、税務リスクの検証、及びそれに基づく税務戦略案の検討、Phase2で税務戦略案のさらなる検討及び決定、Phase3でその実行を行った。

<基本的なステップの確認>

アジアでのビジネスに関する税務リスク及び税務コストを低減するため、J社プロジェクトチームは外部専門家の協力を仰いだ。そこでタックスプランニングに関する、以下(A~C)のような基本ステップを踏むようアドバイスを受けた。

A-1. 事実関係(ビジネス及び利益の源泉)の分析

J社のアジア・ビジネスにおいて利益を生み出しているもの(利益の源泉)が何であるかを分析する。

・機能(研究開発、原材料の調達、製造、営業、販売等を行う者は、その果たす機能に応じた利益を得る

と考えられる)

・リスク(研究開発リスク、市場変動リスク等。これらを負担する者は損失を被る可能性があるが、成功

した際には利益を得ると考えられる)

・資産(特に、価値ある無形資産は多大な利益を生むと考えられる)

A-2. 税務リスクの検証

上記で判明した利益の源泉に鑑み、各関連者が得ている対価が移転価格税制上、適切であるかを検証する。また、上記を税務当局に説明できるような準備が出来ているか(移転価格ドキュメンテーション)、関連者間の契約は実態に合っているか等を確認する。

さらに、移転価格以外の税務リスクについても検証する。

J社国際税務戦略の立案・実行に取り組む

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ビジネス上の実行可能性(業務に支障をきたさないこと)を最優先し、移転価格税制以外の税制にも配慮する。

C. 実行

上記の税務戦略を実行し、事業再編後の税務リスクを低減するため、移転価格ドキュメンテーションや関連者間契約書の整備を行う。

J社プロジェクトチームは上記の基本ステップを、Phase I、II、IIIと位置づけ、実行に移した。

B. 税務戦略の構築

上記で判明した事実関係を元に、現在、高税率国にある利益の源泉の一部を低税率国に配置し、税務コストを低減できる可能性があるかを検討する。

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Phase I ビジネス、税務リスクの検証、税務戦略案の検討

A. 既存のアジア・ビジネスに関する分析

J社のアジアにおけるビジネスについて、その経緯、利益構造、取引の流れ、各関連者の果たす機能、負担しているリスクを分析し、利益の源泉(何が利益を生み出しているか)を検証した。その結果、以下のようなことが判明した。

J社のアジア・ビジネスにおける各関連者の機能・リスク・資産

・J社のアジア・ビジネスにおいては、日本で開発した技術を用いて、タイ・中国で製品を製造し、それを

タイ・中国・日本で販売していた。原材料の調達はタイ・中国子会社が独自に行っているが、品質のば

らつきがあり不良品率が下がらないことが問題となっていた。タイ・中国子会社は、技術の使用料(ロ

イヤルティ)を日本本社に支払っていた。その他、日本本社は本社及びそのアジア子会社のためにマー

ケティングを行っており、ブランド構築活動も行っていた。タイ・中国子会社も現地企業向けにマーケ

ティングを行っていた。タイ・中国子会社でもJ社のブランドを使用していたが、現地での知名度は低く

効果が限定的との判断から、ブランド使用料を日本本社には支払っていなかった。

・J社のアジア・ビジネスの利益の源泉

主な利益の源泉は、J社が日本で多額の費用をかけて研究開発を続けている製造技術であることを確認した。また、日本本社では現在もアジア向け新規技術の開発を行っており、これが将来のアジア・ビジネスにおける利益の源泉になることが見込まれた。

J社のブランドは日本国内では知名度もそこそこあり、利益の源泉になっているものの、アジアではまだ知名度が低く利益への貢献は小さいと判断した。

(Phase Iでは定性的分析のみで、詳細な定量分析はPhase II以降に行った。)

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B. 現在の税務リスクの検証

直近5年間のJ社のアジア・ビジネスについて検証したところ、以下のリスクが特定された。

・近年の大きな利益変動

タイ子会社の利益が急激に伸びているのに対し、日本本社のアジア向け部門利益は減少傾向にあ

り、その理由が移転価格によるものか、それ以外の理由であるかの検討も行われていなかった。

これは日本での移転価格課税リスクが特に高いと判断された。

・ブランド・ロイヤルティ

J社のブランドは日本では知名度があるものの、中国・タイでは知名度が低いこともあり、中国・

タイ子会社は日本本社にブランド使用料(ロイヤルティ)を支払っていなかった。これは日本に

おける移転価格課税リスクは高いと考えられた。

・移転価格ドキュメンテーションの不備

各国で移転価格ドキュメンテーションが作成されていなかった。

これについては日本・中国・タイの各国における移転価格課税リスクが高いと考えられた。

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・関連者間契約書の不備

関連者間の契約書が存在せず、どの関連者が何を行うか、対価をどう設定するか、問題が生じた

際のリスクをどの関連者が負うのかが明確に書面にされていなかった。

これは日本・中国・タイの各国における移転価格課税リスクが高いと考えられた。

C. 税務戦略案の策定

上記の分析より、J社のアジア・ビジネスは、機能・リスク、無形資産が日本本社に集中していることが判明したが、税務上およびビジネス上も少なくとも一部を国外に移転することが望ましい

と考えられた。

・アジアの事業統括拠点の設立

現在、各関連者がそれぞれ果たしている機能を、事業統括拠点(以下、統括拠点)で一元管理して各関連者は限定的な機能を果たすようにすることで、ビジネス上も各関連者の管理がやりやすくなり、かつ、税務上も利益の源泉を低税率国へ移転することが可能であると考えられた。統括拠点の設立場所としては、香港またはシンガポールを主に検討することとした(実際には、マレーシア、タイ、ベトナムも当初選択肢にあった)。

・利益の源泉の再配置

主な利益の源泉となる以下の無形資産について移転、再配置の可能性を検討し、Phase II以降で更に検証していくことを決定した。

‒ ・「既存技術」の日本から国外統括拠点への移転

‒ ・将来開発されるアジア向け「新規技術」の国外統括拠点への計画的配置

‒ ・「ブランド」の日本から国外統括拠点への移転

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Phase II 国際税務戦略案の詳細な検討

A. Phase Iにおける国際税務戦略案の実行可能性・効果の検証統括会社の設立国

以下のような項目について、シンガポール/香港のビジネス上、税務上のメリット・デメリットを勘案し、どちらの国に統括拠点を設立すべきかの検討を行った。

・租税条約網の充実度

シンガポールは米国との租税条約がないことが懸念材料としてあげられたが、将来にわたり、米国との直接取引を行う可能性が低いと思われ、他国との租税条約は充実しているのでシンガポールで問題ないと判断された。

・適用実効税率(損金算入項目の比較等を含む)

香港・シンガポールで実際に適用される可能性の高い税率が検討された(後述のとおり、税率は現地当局との交渉により法定税率よりさらに低減の余地が多々ある)。また、両国で、税務上、損金と認められる項目の比較も行い、J社が統括会社を設立した場合、最終的にどちらの国の方が、税額が少なくなるかを検討した。

統括会社はシンガポールに設立することとした。

(理由)

・ビジネス上の利便性(整ったビジネス環境、優秀な人材の獲得可能性(研究開発者を含む)

・シンガポールで新規に統括会社を設立した場合に、与えられると見込まれる税務上の特典(後述)、等決定

決定

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2.利益の源泉の移転

Phase Iの分析で判明したJ社の現在および将来のアジア・ビジネスにおける主な利益の源泉の移転について以下のように考えられた。

①「既存の無形資産」の移転

・「既存技術」

過去に日本本社が開発したものであり、統括会社に売却すれば、その後のロイヤルティ収入は統括会社が享受することになるが、譲渡対価は高額になり、それが日本で譲渡益として課税される。

そこで、既存技術を移転した場合としなかった場合の日本及びアジア関連者の課税所得をシュミレーションしてみた結果、譲渡時(1年目)は日本の課税所得が増加するため、全体の税額が高くなるものの、6年目から節税効果が生じることが判明した。実際には各国毎の詳細なシュミレーションを行ったが、図表4-3

では簡易化したシュミレーションのイメージを記載している。考案している税務戦略では、中国・タイ子会社の機能・リスクをシンガポール統括会社に集約することによる節税効果等も期待されるが、ここでは既存技術の日本からシンガポールへの譲渡の効果のみをシュミレーションしている。

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「既存ブランド」

日本本社が構築してきたものであるが、日本以外のアジア地域では知名度が高くない。日本本社から統括会社に譲渡した場合、将来のブランド使用料は統括会社に支払われることになるが、一方で譲渡対価は高額になり、それが日本本社で譲渡益として課税されるため、税務上のメリットは低い。

② 将来の「新規無形資産」の移転

将来開発されるアジア向け「新規技術」

J社では日々、日本本社で研究開発を行っているが、このままでは、開発されるアジア市場向け「新規技術」も日本本社に帰属し、アジア関連者がロイヤルティを日本本社に支払うこととなる。J社は、研究開発拠点や費用・リスクの負担者を変更することにより、将来の「新規技術」を、日本本社ではなく統括会社に保有させることの可能性を検討した。

既存ブランド

既存ブランドの譲渡は行わないこととした。

(理由)

高額の譲渡益課税の支払いに比して、現地で知名度が低く便益があまりないため、高いロイヤリティを課すことは難しいと判断したため。

決定

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・既存技術

既存技術をシンガポール統括会社に譲渡することとした。

・新規技術

アジア向け新規技術の開発拠点をシンガポール統括会社に移転し、将来の新規技術及びそれから生じる利益を統括会社に帰属させることとした。日本での研究開発活動は統括会社からの受託研究とする。

(理由)

・既存技術の譲渡は、一時的な譲渡益課税があっても長期的には節税効果が高い。

・アジア向け新規技術の開発をシンガポールで行うのはビジネス上も可能である。

・将来の節税効果が大きい。

決定

3 各関連者の機能・リスクの変更

可能な限り、シンガポール統括会社にアジア・ビジネスに係る機能・リスク・無形資産を集中し、それ以外の関連者(日本本社を含む)の機能・リスクを限定するために、移転できる機能・リスクの検証を行った。

①日本本社からシンガポール統括会社に移転する機能・リスク

日本本社が有する以下の機能・リスクについて、移転可能性を検討した。

・研究開発

日本本社はこれまで、基礎技術の開発の他、アジア、アメリカ等、市場別に新規技術の開発を行ってきた。このうち、アジア市場向けの研究開発は、今後シンガポール統括会社で方針を決定し、費用を負担し、実際の研究開発もシンガポールに移転できるものは移転し、日本で継続する部分に関してはシンガポール統括会社からの受託研究とすることの実行可能性を検討した。

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マーケティング

日本本社は、これまで、日本顧客への営業、市場調査等を行ってきたが、この方針策定・決定を行う責任者等をシンガポールに移せるかを検討した。

販売

日本本社は、これまで、顧客への販売に係る一切の活動を行ってきたが、この方針決定、リスク等をシンガポールに移転できるかを検討した。

②中国・タイ子会社からシンガポール統括会社に移転する機能・リスク

・原材料調達

中国・タイ子会社はこれまで、独自に原材料調達を行ってきたが、これをシンガポール統括会社で管理できるかを検討した。

・製造

中国・タイ子会社は、これまで、製造計画の構築、生産管理等を含め製造に係る全ての活動を独自に行ってきたが、必ずしも上手くいかず、非効率な面も多く見られた。また、中国・タイ製造子会社間の横の連携もほとんどされていなかった。製造機能及びそれに関するリスクをシンガポールで管理することで、ビジネス上、税務上の効率化が図れるかを検討した。

・販売

中国・タイ子会社はこれまで、顧客への販売に係る一切の活動を行ってきたが、この方針決定、リスク等をシンガポールに移転できるかを検討した。

機能をシンガポールに移し、日本本社の機能を以下のように変更することとした。

・研究開発 → 受託研究開発サービスの提供

・マーケティング → 受託マーケティング・サービスの提供

・販売 → 受託販売サービスの提供

決定

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中国・タイ子会社の機能を以下のように変更することとした。

・原材料調達 →調達サービスの提供

・製造 →受託製造サービスの提供

・販売 →受託販売サービスの提供

③ シンガポール統括会社の機能・リスク

シンガポール統括会社の機能・リスクは以下のように決定された。

・アジア市場向け新規技術の開発

(一部を日本本社に委託)

・マーケティング

(一部を日本本社に委託)

・原材料調達

(一部を中国・タイ子会社に委託)

・製造

(中国・タイ子会社に委託)

決定

決定

関連者に委託するサービスに関しては、それに対する適正な対価を支払うこととした。

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B. 移転価格の設定方法

以下の項目を念頭に、統括会社設立、利益の源泉の移転後の関連者間取引における対価の算定方法を検討、決定した。

・移転価格税制上、支払いの種類(モノの対価、サービスの対価、ロイヤルティなど)に適した方法か

・各関連者において、実際に適用・管理が可能な方法であるか

・将来の税務調査における検証に十分耐えられる方法であるか

C. その他の検討事項

機能・リスク・無形資産の移転・再配置を検討するにあたって、同時に以下のような項目に関する課税リスクも同時に徹底的に検討を加えた。

1. タックスヘイブン対策税制

2.源泉税

3. 恒久的施設(PE)

4. 消費税

5. 関税

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Phase III 実行

A. 統括会社の設立

1.シンガポールEDBとの交渉

シンガポールは企業誘致に非常に熱心な国であり、新規にシンガポールに会社を設立する外資系企業に

対して、様々な特典を与えている。特に税務上の優遇措置は、シンガポール経済開発省(EDB)が積極

的に行っている。

・シンガポールは国内経済発展のために対内直接投資を行う企業に税務上の優遇措置を付与することを

EDBが決定することができる。税務当局はその決定に従う。

・優遇税率

多くの欧米企業は、シンガポールの法定税率(17%)から更に低い10%~5%以下の税率をEDBとの交渉

を経て享受している。

・法人税以外の税目等に関する優遇措置

法人税率以外にも、源泉税、損金算入項目・金額・時期が優遇対象となり得る。

・審査における提出書類

提出書類は、ビジネス内容の説明書、資本関係図、将来のビジネスプラン、雇用計画、資本全計画表な

ど。

・審査に要する時間

最終認可までには、通常5ヶ月から10ヶ月程度かかるが、審査期間の長短は企業側の上記書類の

提出にどの程度時間を要するかにかかっており、EDBの審査自体は通常迅速である。

・EDBとの交渉の鍵

EDBから有利な条件を引き出すための鍵は、シンガポールでの事業規模、資本金額、雇用者数、

無形資産の保有をなるべく多く提示することである

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2. EDBとの交渉結果

J社は、シンガポールにおける優遇措置は、EDBとの交渉により個別に決定されることが分かったため、EDB

との交渉経験が豊富な専門家に全面的に委託することとし、結果、満足のいく条件を引き出すことに成功した。

① J社統括会社に関する交渉内容

・現在のJ社のビジネス、及び今後のビジネスプラン(特にシンガポールにおける)についてEDBに説明。

・上記を元に、EDBがシンガポールにとってのメリットを主張し、優遇案を提案、数回の交渉。

・EDBとの大筋合意が出来た後、シンガポール統括会社の従業員数、経費、資本金等の詳細を更に交渉。

② シンガポール統括会社の設立

上記のEDBとの合意要件に従い、以下のとおりシンガポール統括会社を設立した。

・研究開発責任者2名がシンガポールに赴任(ただし、研究開発部長1名は日本に残った)。

・上記3名の部下として、現地で10名を採用。今後3年間に更に10名採用予定。

・中国・タイ工場の製造工程管理責任者3名のシンガポール赴任(1ヶ月に1度程度帰国するものの、通常の業務

はシンガポールで行い、適宜、中国・タイへ出張)。

上記3名の部下として、現地で10名を採用。

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B. 各関連者の機能・リスク、取引の変更

管理機能をシンガポール統括会社に移転し、各関連者の機能・リスクを限定的にした(図表4-5)。

C. サポート資料等の作成

1. 関連者間契約書

事業再編後の各関連者の機能・リスク及び関連者間の対価の支払い方法が明確になるよう、関連者間契約書を作成した。

契約書はJ社プロジェクトチームが依頼した、弁護士と移転価格専門家がチームを組み、移転価格及びその他の法律面から検証した。

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2. 移転価格ドキュメンテーション

J社プロジェクトチームは、事業再編後の税務リスク軽減のため、ドキュメンテーションを専門家に依頼

した。ドキュメンテーションでは、特に、事業再編により、実際に各関連者の機能・リスク・資産がどのように変わったか、その変更に伴う対価をどのように算定したか、事業再編後の移転価格をどのように算定しているかを詳細に記述し、J社アジア・ビジネスにおける再編及びその後の関連者間取引価格が、移転価格上、適切なものであることを説明できるものとした。

3. 事前確認(APA)の申請

税務リスクを完全に排除するためにJ社はAPAの申請を行った。

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IV.企業にとっての国際税務戦略

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企業にとっての事業目的と国際税務戦略

1. 企業文化・経営方針

(a) 企業実態

・企業設立の経緯・目的

・事業体

・株主構成

・事業・経営者の変遷

・業績

(b) 企業内部の税務コストへの意識

・同族系大企業の意識

・財務・経理部が強い権力を持った企業の意識

・開発・営業のみで意思決定を行っている企業の意識

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企業にとっての事業目的と国際税務戦略

2. グローバル企業としての国際税務プランニングと社会的責任

(a) 税務調査で注意を引かない国際税務プランニングを考える

・典型的な伝統的日本企業

・高税務リスク・高税務コスト

・第一優先は、税務調査で税務当局の注意を引かない国際税務プランニング

(b) 相互協議で二重課税が排除される国際税務プランニングを考える

・租税条約の重視

・APAの取得

(c)不服審判・訴訟で勝てる国際税務プランニングを考える

・米国企業例

・低実効税率を実現している米国企業においては、税務調査において否認されることを前提

としつつ、その先の訴訟を見据えたプランニングを実行

・税務案件の勝訴が日本で増加していることも考慮

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企業にとっての事業目的と国際税務戦略

3. 税務訴訟解決の時間軸を事業運営との絡みでどう考えるか

・会計面 -財務諸表への影響等

・税務面 -追徴課税の支払、延滞税

・経営面 -経営・人事への制約

・評判 -対外的な発表の仕方、企業イメージ