12-112-1 フィリピン税制の概要 国税 地方税 ‐...

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フィリピンの投資環境 94 税制 フィリピンの税を徴税組織で大別すると、国税、関税、地方税に分かれる。国税は内国税法に 基づいて内国歳入庁(BIR)が管轄。関税は関税法に基づき関税庁が管轄。地方税は地方自治体法 の規定の中で各地方自治体が定めた税務条例に基づき、所轄の地方自治体(主として市又は州) が管轄している。 関連法令は全て英語で発行され、その細則や解釈とともに一般紙や官報、及びインターネット で公告される。また、それぞれ不服審判所が設けられ、判例等も踏まえた裁定がなされており、 納税者に有利な裁定がされることも多い。更に不服があれば、裁判所に訴え出ることもできる。 BIR が管轄する税には、所得税(法人及び個人)、付加価値税(VAT)、印紙税、物品税等がある。 以下、フィリピンでの経営において誰もが直接関係する税を中心に、2018 1 月時点で施行され ている内容でその全体像を解説する。 図表 12-1 フィリピン税制の概要 国税 地方税 所得税(法人所得税、個人所得税) 付加価値税 関税 相続・贈与税 パーセンテージ税 物品税 印紙税 キャピタルゲイン税 など 固定資産税 不動産取引税 事業税 など 法人所得税 フィリピンの法人所得税の基本は、日本の法人税同様、課税所得に対する税である。この課税 所得とは「総所得の内、本法に定める特定の項目から、本法その他の特別法により当該所得に対 して認められた損金、基礎控除額及び追加控除額を控除したもの」(内国税法第 31 条)と定めら れている。実務的には、会計上の純利益に、税務上のプラス・マイナスを加えたものになる。 ただ、この基本形以外にもいくつかのパターンがある。まず、最低法人税は、課税所得が恒常 的に少額又はマイナスの法人につき、その総所得をベースに課される法人税で、赤字法人でも税 金を払うケースも発生する。創立当初からこれではあまりに厳しいので、設立 4 年目からとなっ ている。 また、経済が好調なフィリピンでは、遊休不動産を売却すると大きな利益が上がることもある。 こうした資本的資産の売買・交換から生じた損益について、通常資産の売買損益とは別に税を課 す、キャピタルゲイン税という形態もある。 更に、法人の利益を配当すると源泉税がかかる。これを避けようと配当をせずに、法人内に留 めておくと、不当に留保しているものと見なされる金額に対しては法人所得税が加算税的に徴収 (不当留保金課税)される。

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Page 1: 12-112-1 フィリピン税制の概要 国税 地方税 ‐ 所得税(法人所得税、個人所得税) ‐ 付加価値税 ‐ 関税 ‐ 相続・贈与税 ‐ パーセンテージ税

フィリピンの投資環境

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税制

フィリピンの税を徴税組織で大別すると、国税、関税、地方税に分かれる。国税は内国税法に

基づいて内国歳入庁(BIR)が管轄。関税は関税法に基づき関税庁が管轄。地方税は地方自治体法

の規定の中で各地方自治体が定めた税務条例に基づき、所轄の地方自治体(主として市又は州)

が管轄している。

関連法令は全て英語で発行され、その細則や解釈とともに一般紙や官報、及びインターネット

で公告される。また、それぞれ不服審判所が設けられ、判例等も踏まえた裁定がなされており、

納税者に有利な裁定がされることも多い。更に不服があれば、裁判所に訴え出ることもできる。

BIR が管轄する税には、所得税(法人及び個人)、付加価値税(VAT)、印紙税、物品税等がある。

以下、フィリピンでの経営において誰もが直接関係する税を中心に、2018 年 1 月時点で施行され

ている内容でその全体像を解説する。

図表 12-1 フィリピン税制の概要

国税 地方税

‐ 所得税(法人所得税、個人所得税) ‐ 付加価値税 ‐ 関税 ‐ 相続・贈与税 ‐ パーセンテージ税 ‐ 物品税 ‐ 印紙税 ‐ キャピタルゲイン税 など

‐ 固定資産税 ‐ 不動産取引税 ‐ 事業税 など

法人所得税

フィリピンの法人所得税の基本は、日本の法人税同様、課税所得に対する税である。この課税

所得とは「総所得の内、本法に定める特定の項目から、本法その他の特別法により当該所得に対

して認められた損金、基礎控除額及び追加控除額を控除したもの」(内国税法第 31 条)と定めら

れている。実務的には、会計上の純利益に、税務上のプラス・マイナスを加えたものになる。

ただ、この基本形以外にもいくつかのパターンがある。まず、最低法人税は、課税所得が恒常

的に少額又はマイナスの法人につき、その総所得をベースに課される法人税で、赤字法人でも税

金を払うケースも発生する。創立当初からこれではあまりに厳しいので、設立 4 年目からとなっ

ている。

また、経済が好調なフィリピンでは、遊休不動産を売却すると大きな利益が上がることもある。

こうした資本的資産の売買・交換から生じた損益について、通常資産の売買損益とは別に税を課

す、キャピタルゲイン税という形態もある。

更に、法人の利益を配当すると源泉税がかかる。これを避けようと配当をせずに、法人内に留

めておくと、不当に留保しているものと見なされる金額に対しては法人所得税が加算税的に徴収

(不当留保金課税)される。

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第 12 章 税制

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納税義務者と課税対象

納税義務者は、内国法人と外国法人に分類される。その上で、外国法人は外国居住法人と外国

非居住法人に分類され、それぞれの分類ごとに課税の範囲が定められている。

内国法人は、フィリピンの法律により設立・登録された法人で、一般的に、フィリピンに設立

した子会社は内国法人に該当する。

一方、外国法人とは、フィリピンの法律に基づいて設立された法人以外の法人である。外国法

人のうちフィリピン国内で事業を営む法人は外国居住法人とされ、一般的にはフィリピンで営業

を行う支店などが該当する。外国法人のうちフィリピン国内に支店等の恒久的施設を有さない法

人は外国非居住法人とされる。

図表 12-2 納税義務者の分類

納税義務者の分類 定義 内国法人 フィリピンの法律により設立された法人 外国居住法人 内国法人以外の法人でフィリピン国内において事業を営む法人

外国非居住法人 内国法人以外の法人でフィリピン国内において事業を営まない(恒久的施

設を有さない)法人

内国法人、外国居住法人、外国非居住法人の分類ごとに以下のように課税対象が定められている。

ただし、内国法人の株式売却益については、売却地を問わずフィリピンの国内源泉所得とされる。

図表 12-3 課税対象

納税義務者の分類 課税対象 内国法人 全課税所得 外国居住法人 フィリピン国内源泉所得

外国非居住法人 フィリピン国内源泉所得(貸付金の利子、配当、ロイヤルティ、株式売却

益等)

課税所得の分類

法人所得税における課税所得は、通常の所得、源泉分離課税所得、キャピタルゲイン等別途課

税される所得に大別される。このうち通常の所得は、総所得から事業経費を控除した正味の課税

所得のことを指す。源泉分離課税所得やキャピタルゲイン等別途課税される所得は、通常の課税

計算から除外される。なお、内国法人が他の内国法人から受領する配当は非課税とされるため、

通用の所得計算から除外される。

源泉分離課税所得は、銀行利息、ロイヤルティが該当し、内国法人はそれぞれ 20%の源泉分離

課税となる。源泉分離課税所得は、源泉徴収により課税関係が完了するため通常の課税所得の計

算からは除外される。

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フィリピンの投資環境

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キャピタルゲイン等別途課税される所得には、上場株式の売却益、非上場株式の売却益、非事

業用不動産の売却益が含まれる。このうち上場株式の売却益は、0.6%の課税により課税関係が終

了する。非上場株式の売却益については、15%の課税により課税関係が終了する。非事業用不動

産の売却益については、売却価額又は公正価値のいずれか大きい額の 6%で課税され課税関係が

終了する。

図表 12-4 課税所得の分類

課税所得の分類 内容 通常の所得 総所得-事業経費 源泉分離課税所得 銀行利息、ロイヤルティ等 キャピタルゲイン等 別途課税される所得

株売却益、非事業用不動産の売却益等

税額の算定(通常の所得)

通常の課税所得は総所得から事業経費を差し引いた正味の課税所得として計算され、正味課税

所得(通常の課税所得)に対して 30%の税率で課税される。なお、税務上の欠損金は 3 年間の繰

越が認められている。すなわち、欠損金発生後 3 年間の課税所得と相殺し、当該事業年度の法人

所得税額を減額することができる。一方で、欠損金の繰戻は認められていない。すなわち、発生

した欠損金を過去の課税所得と相殺し、税金の還付を受けることはできない。投資優遇を受けて

いる PEZA 企業や、BOI 企業で法人税免除期間中の企業は、本制度の対象外となる。以下課税所

得計算の特徴点について記載する。

長期請負工事 1 年を超える長期請負契約については工事進行基準により売上を計算する。

割賦契約 割賦販売については以下の計算式により売上を計算する。 当該割賦契約の総利益×当期に受領した売上代金/延払総額

たな卸資産 たな卸資産を保有する場合は必ず実地たな卸を行う必要がある。原価法のほか、低価法の採

用も可能。

減価償却 減価償却方法については、企業が合理的と考える方法を自ら選ぶことができる。減価償却方

法は定額法、定率法などが利用されている。税法上耐用年数に関する具体的な規定はなく、

企業が合理的と判断する耐用年数を設定する。

各種引当金 税務上、各種引当金への繰入額の損金算入は認められていない。

貸倒損失 貸倒損失は、回収不能な状態であることが明らかであり、かつ、納税者の事業に関連して発

生した債権であり、関連当事者に対する債権でない場合にのみ損金計上が認められる。

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第 12 章 税制

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租税公課 法人所得税、相続税、贈与税その他外国所得税などを除き損金算入ができる。

寄付金 指定寄付金については、全額損金算入が認められている。指定寄付金とは、国家優先計画に

従い政府へ行う寄付等であり公益性が高いと考えられる寄付金をいう。その他の一般寄付金

については、課税所得の 5%を超えない範囲で損金算入が可能である。

損害損失 災害等により生じる損失については、損金算入が認められている。ただし、指定された日(事

故等が生じた日より 30 日以上 90 日未満)までに届け出を行う必要がある点に留意が必要で

ある。

最低法人所得税

フィリピンでは税収を安定的に確保する手段として、正味課税所得の有無に関わらず最低法人

所得税(Minimum Corporate Income Tax, 以下 MCIT)の納付制度が導入されている。具体的には、

正味課税所得×30%で計算される通常の法人税額が売上総利益×2%で計算される MCIT を下回

る場合、最低法人税額を納付する必要がある。

通常の所得税額を上回る MCIT については、3 年間の繰越ができる。繰り越された MCIT は法

人所得税との相殺は可能だが、MCIT そのものとの相殺は認められていない点に留意が必要であ

る。なお、PEZA 企業は、本制度の対象外となる。

申告及び納付手続

フィリピンの法人所得税は、日本と同様、申告納税方式が採用されている。

通常の所得 第 1 四半期から第 3 四半期までは、各四半期末の 60 日以内に四半期申告書を提出する。四半

期申告書により申告・予定納付を行い、年度末に確定申告を行い、年間の税額が確定する。

四半期申告書では、課税年度の開始日から各四半期までの累積税額を計算し、当該税額から

前四半期までに支払った税額を控除した税額を納付する。 確定申告は、4 月 15 日又は会計年度終了後 4 ヵ月目の 15 日以前のいずれか適当な日に申告・

納付する。予定納付額と確定税額の差額の精算を行う際に、既予定納付額が確定税額を上回

る場合、還付請求又は税額控除証明書(Tax Credit Certificate、以下「TCC」)発行の申請を行

うか、次年度以降の予定納付額と相殺するかを選択することができる。次年度以降の予定納

付額との相殺を選択した場合には、還付請求又は TCC の申請は再度選択できない。なお、次

年度以降の予定納付額との相殺を選択した場合には、使用期限はなく企業が存続する限り繰

越可能となっている。

源泉分離課税所得 源泉徴収により課税関係が終了するため、別途申告を行う必要はない。

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フィリピンの投資環境

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キャピタルゲイン税

フィリピンで法人として所有していた資産を売却すると、原則としてその売却損益が法人所得

税課税対象の事業所得となる。しかし、事業に直接の関連性を有しない資産の場合、キャピタル

ゲイン課税の対象となり、事業所得との通算が許されないことがある。

典型例が、遊休土地・建物のような非事業用不動産である。こうした非事業用資産の売却に関

しては、売却価額又は公正価値のいずれか高い方に対して 6%の税率で課税される。こちらは事

業上の損失との損益通算が許されないので、本業が赤字でも納税額が発生する。以下キャピタル

ゲインに関する課税関係を示す。

キャピタルアセットに該当する不動産 売却価額又は公正価値のいずれか大きい金額に対して 6%の確定税額を、取引日から 30 日以

内に申告・納付を行う。

非上場株式 取引日より 30 日以内に確定申告書を提出し、納付する。確定申告書によりキャピタルゲイン

からキャピタルロスを差し引いた純額に対して以下の税率に基づき納付を行う。なお、キャ

ピタルゲインの額を上限としてキャピタルロスを相殺することが可能だが、超過するキャピ

タルロスを翌期以降に繰延べることは認められない。課税額は、従来正味のキャピタルゲイ

ンの額に応じて 5%もしくは 10%の税率が適用されていたが、2018 年 1 月 1 日施行の新税法

では、正味キャピタルゲインに多寡にかかわらず、一律 15%とされた。 図表 12-5 キャピタルゲイン課税

旧税法 新税法

正味キャピタルゲイン 100,000 ペソ以下: 5% 正味キャピタルゲイン 100,000 ペソ超 :10%

15%

上場株式 パーセンテージ税として、売却価額×0.6%で課税(源泉徴収)される。

不当留保金課税

事業上の必要性を超えて利益を配当せずに留保し、所得税を回避しているとみなされると、通

常の法人所得税の課税後に、更に 10%が追加的に課税される。これを不当留保金課税と言う。

課税対象法人 同族会社(Closely-held corporation)、すなわち発行済み株式総数の 50%以上を 20 名以下の個

人株主によって保有されている会社が課税対象法人となる。

課税対象となる留保金 課税対象となる留保金はその年の未処分利益(Undistributed Profit)、すなわち正味課税所得

(Net Chargeable Taxable Income)に非課税所得、総所得に算入されない所得、分離課税対象

所得、繰越営業損失控除額を加え、その年度の法人所得税額と配当を控除した額に対象年度

の以前の利益剰余金を加え、払い込み済み資本を控除した額。

課税額 未処分利益(Undistributed Profit)×10%

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第 12 章 税制

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合理的必要性の反証 上記未処分利益に対して配当等を行わない合理的必要性(Reasonable Needs of the Business)が

あれば課税対象とならないとされ、合理的必要性を持って反証しない限り対象法人の株主等

の租税回避行為があったとみなされ課税が行われる。ここでの合理的必要性による反証は、

例えば、当該所得を会社の設備投資や建物設備の購入のために留保していることにつき取締

役会で承認を行っている場合などを指す。

課税対象外となる企業 以下の法人は課税対象外となる。 1) 銀行及びノンバンクの金融仲介業者 2) 保険会社 3) 公開会社*(Public Held Corporation) 4) PEZA、スービック港湾市当局、クラーク特別経済区域登録企業 等

*ここでの公開会社は、発行済み株式総数の 50%以上を 21 名以上の個人株主によって保有さ

れている会社を意味する。対象会社自身が公開会社でない場合であっても、例えば日本の親

会社が公開会社にあたることを示す証拠書類を準備することによって課税対象外となること

が可能である。

なお、不当留保金に対しては、上記所得税法の規定による課税に加え、会社法の規定によりペ

ナルティが課される。会社法上は日本の親会社が公開会社である場合や PEZA 登録企業である場

合などの例外規定がないため、払込資本の 100%を超える留保金がある場合、原則通りペナルティ

対象となってしまう点に留意が必要である。

最終源泉税

最終源泉税とは、源泉徴収義務者によって代理徴収される税のうち、当該税金の支払いによっ

てフィリピンでの課税関係が完結するものである。フィリピンにある子会社から国外の親会社等

がサービス料、配当、利息、ロイヤルティを受け取る場合、フィリピンにおいて最終源泉税が課

される。

図表 12-6 最終源泉税

所得の種類 フィリピン国内法 日比租税条約 サービス 30% 免税 ロイヤルティ 30% 10% or 15% 利息 20% or 30% 10% 配当 30% 10% or 15%

サービス(技術指導料や経営管理料等) フィリピンに恒久的施設(Permanent Establishment : PE)がない場合、非居住者の事業所得

(Business Profit)は免税となる。

配当金 通常 30%で源泉徴収が行われる。ただし、日本の親会社への配当は日比租税条約により以下

の優遇税率が適用される。

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フィリピンの投資環境

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a. 6 ヵ月以上 10%以上の持株を継続保有する法人:10% b. その他の法人:15%

利息 通常 30%で源泉徴収が行われる。ただし、日本の親会社への利息は日比租税条約により 10%の優遇税制が適用される。

ロイヤルティ 通常 30%で源泉徴収が行われる。ただし、日本の親会社への支払は日比租税条約により 10%の優遇税制が適用される。

フィリピンでは、国内法の税率に替えて租税条約上の軽減税率、もしくは免税措置を適用する

ことができる。ただし、租税条約を適用して、軽減税率もしくは免税措置を利用する場合、租税

条約救済手続(Tax Treaty Relief Application, 以下「TTRA」という)をフィリピンの税務当局に対

して事前に申請する必要がある点に留意が必要である。なお、2017 年度より、利息、ロイヤルティ、

配当に関しては、TTRA に代わって居住者証明書(Certificate of Residence for Tax Treaty Relief、以

下「CORTT」という)を提出することで租税条約が適用できることとなった。TTRA に比べ手続

きが簡素化されている。ただし、サービスに関して租税条約を適用する場合には、依然として

TTRA の申請が必要である。

支店送金税

フィリピン支店(外国居住法人)が本国の本店に送金を行う場合、送金額×15%の支店利益送

金税が課される。

付加価値税

付加価値税(Value Added Tax, 以下 VAT)は、フィリピン国内で生み出された付加価値を課税対

象とする税金で、最終的な負担を物品やサービスの国内での最終消費者へ求める間接税である。

課税は取引の過程で随時行われ、納税義務者は物品の販売やサービスの提供を行う事業者となる。

各事業者は、自社の商品やサービスを提供するに際して、その売価に対して VAT を付加して顧

客に請求する。回収された VAT(売上 VAT)は、同社がその商品の調達や調達・製造に要した材

料、その他の諸経費の支払いに際して支払った VAT(仕入 VAT)が控除された上で、差額が納付

される仕組みとなっている。このような計算を行うことで、売上からそのために発生した原価や

経費を控除した後の利益、すなわち付加価値に対して VAT の税率を乗じたのと同じ税額が製品や

商品の製造・流通の過程で納付されていくことになる。

納付義務者

年間売上高が 3,000,000 ペソを超える業者及び物品の輸入を行う業者は VAT を納税する義務を

有する。

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第 12 章 税制

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課税対象取引

フィリピン国内における物品の販売や不動産のリース等のサービス提供、物品の輸入に対して

課税される。ただし、未加工状態で輸入される農産物・海産物、後述のパーセンテージ税の適用

対象となるもの等については、非課税取引となる。

税率

VAT の税率は一律 12%である。ただし、国外で消費される輸出取引に係る売上 VAT は 0%税率

とされている。一般的に、物品が輸出された国では輸入通関時点でその国の付加価値税が課され

ることになるため、物品の原産地国でも VAT を課税すると二重課税となる。そのため、輸出品に

は課税を行わず(0%税率)、対応する仕入 VAT についても他の売上 VAT と控除することにより負

担しないかたちになっている。この点、非課税売上については、フィリピン側が最終消費者とい

う位置づけになるため、これに対応する仕入 VAT を他の売上 VAT から控除できない。なお、PEZAの優遇措置を取得している企業は、ゼロ%VAT の恩典を受けることができる。

この点、ゼロ%売上について、下図にある通り、2018 年 1 月 1 日施行の新税法の中で、太字の

ようなかたちで明記された。また、条件付であるが、下線部の文言は旧税法のまま残っている。

しかしながら、当該下線部の条文は、申請してから 90 日以内に還付を行う新たな VAT 還付シス

テムの導入後、ゼロ%VAT 取引としてみなされなくなる点に留意が必要である。

一方、大統領が拒否権を発動したことにより太字の条文が拒否されている。この文言が拒否さ

れたことにより、当該条文のみが 2018 年 1 月 1 日で有効となっていない。現時点で VAT に関し

ては、大統領による否認が行われたものの、PEZA より通達(MC No. 2018-03)が発行され、従来

と同様の取扱いが継続されている。しかしながら、歳入規則および PEZA の通達において申請し

てから 90 日以内に還付を行う新たな VAT 還付システムを導入および運用し、2017 年 12 月末まで

に申請した VAT 還付申請が現金で 2019 年 12 月 31 日までに還付された場合には、ゼロ%VAT 取

引としてみなされなくなり、通常の 12%VAT が課される点に留意が必要である。

また、サービスに関しても以前の条文が残っているため、ゼロ%VAT が享受できる状況である

が、物品と同様に今後はゼロ%VAT が廃止される動きにあることに注意が必要である。

新税法

SEC106 (2)(a) ゼロ%VAT物品売上

(2)

(i) 特別法の下規定されているフィリピン関税とは別個独立した関税地域にて登録されている企業への

製品の販売及び実際の搬送

(ⅱ) 観光業法の下、観光インフラおよび企業誘致区庁(TIEZA)に管轄されている観光事業地域に登録さ

れている企業への製品の販売及び実際の搬送

(3) フィリピンに所在する輸出型製造企業に製造等のために配送される原材料や梱包材料の非居住者に対

する外貨建ての売上

(4) 原材料や梱包材料の 70%の生産が輸出される輸出型製造企業への売上

(5) 外国投資法によって間接輸出とみなされる売上

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フィリピンの投資環境

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SEC108 サービスに対する VAT

(B) ゼロ%VATが課される取引

(1) 外国通貨で行われ、外国で事業を行うその他の者のために、後ほど輸出する製品を加工、製造、再梱包

するサービス。

(3) 特別法の下、免税を受けている個人または企業、あるいはフィリピンが当該サービスに対してゼロ%

VATを約することに同意した国際協定の下、免税を受けている個人または企業へのサービス

(5) 70%以上の輸出を行っている企業への加工、製造、改造に従事するサブコンあるいは契約者が行った

サービス

(8)

(i) 特別法の下、フィリピン関税とは別個独立した関税地域に登録している企業へのサービス

(ⅱ) 観光業法の下、観光インフラおよび企業誘致区庁(TIEZA)に管轄されている観光業者地域に登録さ

れている会社に対するサービス

申告と納税手続

VAT の申告と納税は、旧税法では、月次で実施されていた。すなわち、月末から 20 日以内に月

次 VAT 申告書の提出と納付が求められていた。また、四半期ごとに各四半期末の翌 25 日以内に

四半期修正申告書を提出し、調整すべき税額があればその時点で修正を行っていた。一方、新税

法では、2023 年 1 月 1 日より申告及び納付が、四半期ごとに行われ、四半期末の翌月 25 日以内

に行うこととなった。

旧税法 新税法

VATは四半期申告を行う必要がある。一方で、支払

は毎月行う必要がある。(フォーム 2550Q と 2550M

を提出)

2023 年 1 月 1 日より申告及び支払は、四半期ごとに

行われ、四半期末の翌月 25 日以内に終わらせる必要

がある。(フォーム 2550Qのみ提出)

還付手続

輸出売上等のゼロ%取引から生じる仕入 VAT 及び会社清算時に生じる超過仕入 VAT を対象と

して還付の請求を行うことができる。ゼロ%取引が生じた四半期の四半期末から起算して 2 年間

が請求期限となる。2018 年 1 月 1 日以前の旧法では、還付方法は、現金による還付のほか、税額

控除証明書(Tax Credit Certificate : TCC)による還付が認められていた。

税額控除証明書とは、内国歳入庁への税の支払に対して税額控除を受ける権利を示すもので、

内国歳入庁から納税者に対して発行される証明書である。フィリピンでは、政府に税金還付のた

めの十分な予算がないため、通常、現金還付に替えて税額控除証明書の発行申請が行われていた。

なお、BIR の 2011 年発行の RR No. 14-2011 により、税額控除証明書は、他社への譲渡、売却が禁

止されていた。この点、2018 年 1 月 1 日以降の新税法では、TCC による還付は行われず、現金還

付のみとされている点に注意が必要である。

新税法では、BIR 及び関税当局(BOC)は、還付のためのワンストップサービスを行い、速や

かに現金還付を行うことが規定されている。また、BIR と BOC で回収した VAT の 5%に相当する

額は、自動的に特別口座として割り当てられ、還付のために使用されることが記載され、より迅

速な現金還付が行われることが期待されている。

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第 12 章 税制

103

還付プロセスについて、旧税法においては、納税者の申請後、税務長官が 120 日以内に還付の

判断を行わない場合には、みなし否認となり、納税者は 120 日を経過したとみなされる日から 30日以内に租税裁判所へ控訴するかどうかの判断を迫られた。一方新税法では、税務長官の判断期

間が 90 日とされ、120 日から 30 日短縮されている。また、新たに税務担当官が所定の期間内に

行動しない場合の罰則規定が設けられている。したがって、政府としてはより迅速な還付処理が

行われることを目指している。以下、還付について、旧法と新法の主な変更点を示す。

旧税法 新税法

112 条:現金還付及び TCC による還付が実施でき

る期間

適切な場合にのみ、税務長官は、完全な書類を提

出してから 120 日以内に納税者に対して現金還付

あるいは TCCの発行を行う。

現金還付あるいは TCC 発行の否認または部分否認

がある場合、もしくは、税務長官が上記の期間内

に処理を行わない場合、納税者は、その否認通知

の受領後または 120日経過後 30日以内に裁判所へ

控訴することができる。

112条:現金還付が実施できる期間

適切な場合にのみ、税務長官は、領収書、インボイス、

その他の書類を提出してから 90 日以内に納税者に対

して現金還付を行う。

適切でないと判断する場合には、書面にて否認の法的

根拠と事実を通知しなければならない。

現金還付の否認または部分否認の場合、納税者は、そ

の否認通知の受領後 30 日以内に裁判所へ控訴するこ

とができる。

ただし、BIR の担当官が 90 日以内に申請に関して行

動を起こさない場合には処罰の対象となる。

移転価格税制

2013 年 1 月 23 日付で、財務長官は、移転価格(関連者間での取引価格)に関する独立企業原則

の適用についてのガイドラインを示す Revenue Regulations No. 02-2013 (RR No. 02-2013) を発布した。

RR No. 02-2013 は、国外及び国内の関連者間取引に対して 2013 年 2 月より適用されている。

独立企業間価格の算定方法

RR No. 02-2013 によると、独立企業間価格の算定においては、OECD の移転価格ガイドライン

と同様に、最も適切な移転価格算定方法が用いられるとされ、具体的には以下の算定方法が挙げ

られている。

‐ 独立価格比準法 ‐ 再販売価格基準法 ‐ 原価基準法 ‐ 利益分割法 ‐ 取引単位営業利益法

RR No. 02-2013 は、特定の算定方法についての優先順位を示しておらず、利用可能な情報の信

頼性や調整計算の正確性の程度を考慮に入れた上で最も信頼性のある結果を生み出す方法が用い

られるべきであるとしている。

RR No. 02-2013 上、納税者が関連者間取引に係る収益貢献を適切に反映することを確実なもの

とし、関連者間取引に関する納税回避を防止するため、内国歳入局長官は、課税上移転価格の調

整を実行できることが示されている。また、以下の目的のため納税者は適切な文書化を行うこと

が要求されている。

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フィリピンの投資環境

104

‐ 移転価格に関する分析の抗弁のため ‐ 税務調査から生じる移転価格調整を回避するため ‐ 相互協議の申請を補助するため

相互協議とは、国際的な二重課税の回避のため租税条約締結国の税務当局の間で実施される協

議をいい、移転価格調整により生じた二重課税の排除のためのメカニズムでもある。相互協議に

関しては、別個のガイドラインが発布されるものと考えられる。

移転価格税制の適用範囲

RR No. 02-2013 上、フィリピンでの移転価格税制の適用は、国外の関連者との取引のみならず、

国内の関連者との取引についても適用されることが示されている。したがって、例えば国内取引

に関して、PEZA 登録企業など優遇税制の恩恵を受けている企業とそうでない企業との取引につ

いて、移転価格上の留意が必要になると考えられる。

関連者の定義

移転価格税制は関連者間取引に対して適用される。この点、RR No. 02-2013 では関連者の定義

に関して特定の資本持分比率(%)による基準は明示されておらず、支配があれば適用される。

文書化義務

移転価格文書は税務申告時に提出する必要はない。しかしながら、RR No. 02-2013 上、同時文

書化(Contemporaneousness)が要求されている。したがって、各年度の税務申告期限までに、関連

する文書を毎期作成していくことが必要となる。

税務調査及びペナルティ

RR No. 02-2013 上、移転価格税制固有の税務調査やペナルティは示されていない。現段階では、

通常の税務調査の中で取り扱われるものと考えられる。

事前確認制度

RR No. 02-2013 上、事前確認制度が設けられている。ただし、別途ガイドラインの公表が行わ

れるとされており、現段階では制度の詳細について明らかにされていない。

個人所得税

フィリピンの居住者か非居住者かに関わらず、フィリピン国内での雇用や事業によってフィリ

ピン国内源泉所得を得ている個人は、租税条約の規定によって免除されている場合を除き、個人

所得税の課税対象となる。

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第 12 章 税制

105

外国籍の者の居住性の判定

外国籍の者の居住性の判定は、基本的にフィリピンに住所を有するか否かで判断される。フィ

リピンに住所を有する場合、滞在期間の長短にかかわらず居住者と判断される。また、一般的に

は、2 年以上フィリピンに滞在する予定の者は、居住者と判断される。

納税義務者と課税対象所得

フィリピンでは、国籍や居住性によって以下のように課税対象所得及び税率が定まる。外国籍

の非居住者については、滞在期間が 180 日を超えるか否かで取り扱いが異なる点に留意が必要で

ある。

① フィリピン国籍の居住者 フィリピン国籍の居住者は全世界所得に対して無税~35%の累進税率が適用される。

② フィリピン国籍の非居住者 フィリピン国籍の非居住者は、フィリピン国内源泉所得に対して無税~35%の累進税率が

適用される。

③ 外国籍の居住者 外国籍の居住者は、フィリピン国内源泉所得に対して無税~35%の累進税率が適用される。

④ 外国籍の非居住者(滞在期間 181 日以上) 外国籍の非居住者で滞在期間 181 日以上のものは、フィリピン国内源泉所得に対して無税

~35%の累進税率が適用される。

⑤ 外国籍の非居住者(滞在期間 180 日以下) 外国籍の非居住者で滞在期間 180 日以下のものは、フィリピン国内源泉所得(総所得)に

対して一律 25%の税率が適用される。

図表 12-7 納税義務者区分と課税所得

納税義務者 個人所得税 フィリピン国籍の居住者 全世界所得×累進税率 フィリピン国籍の非居住者 フィリピン国内源泉所得×累進税率 外国籍の居住者 フィリピン国内源泉所得×累進税率 外国籍の非居住者(滞在期間 181 日以上) フィリピン国内源泉所得×累進税率* 外国籍の非居住者(滞在期間 180 日以下) 総所得×25%(フラットレート)*

* 日比租税条約においては、短期滞在者免税規定が存在し、以下の 3 条件を全て満たした場合に、フィリピン

での課税が免除される。 ‐暦年の総滞在日数が 183 日を超えないこと ‐日本法人が支払うこと ‐フィリピン法人が負担しないこと

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フィリピンの投資環境

106

課税所得の計算

課税所得は総所得から社会保険料控除を加味して計算される。また、課税所得に対して累進税

率を乗じ所得税額を計算する。総所得から税額控除(源泉徴収税額)を差し引いたものが納付税

額となる。なお、給与所得に対して経費控除は認められておらず社会保険料控除が認められてい

る。

控除項目

総所得から差し引かれる項目は以下の内容である。

図表 12-8 控除項目

控除項目 内容 13 ヵ月目 給与に関する

特別控除

82,000 ペソから 90,000 ペソに改正。13 ヵ月目給与に相当する金額が支払われた

場合にのみ適用可能。

課税所得に参入されない項目(De minimis benefits)

課税所得に算入されない項目としては、以下のものが挙げられる。なお、それぞれの上限を超

える場合には課税所得に算入される。上記に記した 90,000 ペソの枠内においては免税であるが、

合計で 90,000 ペソを超えた場合には、課税される。

図表 12-9 課税所得に参入されない項目

項目 限度 有給休暇買取分 暦年で 10 日まで 従業員の扶養者に対する医療目的の現金手当 半年につき 1,500 ペソ、あるいは 1 ヵ月につき 250 ペソ 米補助金 1 ヵ月につき 2,000 ペソまたは 50Kg ユニフォーム手当 年間 6,000 ペソ 医療代補助 年間 10,000 ペソ 洗濯代手当 1 ヵ月につき 300 ペソ 従業員の業績達成報奨金 年間 10,000 ペソ 残業及び深夜勤務の食事手当 地域ごとの最低賃金の 25% 13 ヵ月目給与及びその他の手当 90,000 ペソまでの 13 ヵ月目給与及びクリスマスボーナス

個人所得税率

フィリピン国籍の居住者、フィリピン国籍の非居住者、外国籍の居住者、外国籍の非居住者の

うち滞在期間が 181 日以上の者に対しては、以下に示す累進税率が適用される。2017 年 12 月 31日までは、500,000 ペソを超える課税所得に関して 32%の最高税率が課されていたが、2018 年 1月 1 日から施行された新税法によると、高所得者に対しては、以前の最高税率の 32%より高い

35%の最高税率が適用されている。一方で、250,000 ペソ以下の所得者は個人所得税が免税される

こととなり、中低所得者を中心に大幅な減税となっている。所得別の税率は以下の通り。

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第 12 章 税制

107

図表 12-10 旧個人所得税率(居住者等)2017 年 12 月末まで 課税所得の範囲(単位:ペソ) 税率

0~10,000 以下 5% 10,000 超~30,000 以下 10% 30,000 超~70,000 以下 15% 70,000 超~140,000 以下 20% 140,000 超~250,000 以下 25% 250,000 超~500,000 以下 30% 500,000 超~ 32%

図表 12-11 改正個人所得税率(居住者等)2018 年 1 月 1 日~2022 年 12 月 31 日 課税所得の範囲(単位:ペソ) 税率

0~250,000 以下 無税 250,000 超~400,000 以下 20% 400,000 超~800,000 以下 25% 800,000 超~2,000,000 以下 30% 2,000,000 超~8,000,000 以下 32% 8,000,000 超~ 35%

図表 12-12 改正個人所得税率(居住者等)2023 年 1 月 1 日以降 課税所得の範囲(単位:ペソ) 税率

0~250,000 以下 無税 250,000 超~400,000 以下 15% 400,000 超~800,000 以下 20% 800,000 超~2,000,000 以下 25% 2,000,000 超~8,000,000 以下 30% 8,000,000 超~ 35%

この点、外国籍の非居住者で滞在期間が 180 日以下の者に対しては、総所得に対して 25%の税

率が適用される。また、その他、ROHQ など特定の法人の外国人従業員に対しては 15%の税率が

適用されていたが、税制改正によってこれが廃止され、前述の通常の累進税率による課税が行わ

れるため注意が必要である。

図表 12-13 個人所得税率(外国籍非居住者等)

納税者 参照 税率 フィリピン内で事業に従事していない外国籍の

非居住者 フィリピンでの滞在期間が暦年

で 180 日以下の者 25%

地域統括本部(Regional or Area Headquarters)あるいは地域事業統括本部(Regional Operating Headquarters)の従業員

外国人従業員と同様に、雇用契

約があり外国人従業員と同様の

ポジションに就くフィリピン人

にも適用される。

15%

⇒新税法により

15%課税は廃止さ

れ通常の累進税率

による課税となる

オフショアバンクユニットの従業員

石油関連企業の従業員

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フィリピンの投資環境

108

申告と納税手続

フィリピン国籍フィリピンでは自己申告納税制度が採用されている。

通常の所得 給与所得に関しては、毎月末日から原則 10 日以内に源泉徴収額を計算し、源泉徴収申告書

(BIR Form 1601C)を作成後、納税額とともに提出する。また、給与所得など源泉分離課税

所得等以外の所得については、課税年度の翌年の 4 月 15 日までに確定申告書(BIR Form 1700)を作成し、提出とともに納税を行う。その際に、給与支給時の源泉徴収額との差額を精算す

る。 雇用者は、翌年の 2 月 28 日までに被雇用者に対して源泉税徴収証明書(BIR Form No. 2316)を発行しなければならない。また、雇用者は、1 月 31 日までに国内歳入局に対して被雇用者

一覧、源泉税徴収証明書とともに年次申告書(BIR Form 1604CF)を提出しなければならない

とされていたが、RR No. 11-2013 により当該規定が改定され、源泉税徴収証明書に関しては

2 月 28 日までに提出することが可能とっている。

源泉分離課税所得 源泉分離課税所得には預金利息などが含まれる。給与所得等の通常の源泉徴収対象所得と異

なり、源泉分離課税所得は源泉徴収の時点で、課税額が確定し課税関係が完了する。そのた

め、事業者が別途確定申告を行う必要はない。なお、預金利息に対する源泉徴収税率は 20%となっている。

キャピタルゲイン税 基本的な仕組みは法人所得税と同様である。キャピタルゲインは通常の所得と分離され課税

される。ただし、個人に対しては以下のような特例がある。

‐課税計算方法 保有期間が 12 ヵ月以上のキャピタルアセットは、キャピタルゲイン×50%が課税対象となる。

‐キャピタルロスの繰越 正味キャピタルロスのうち、正味課税所得を上限として翌年度への繰延が認められ、翌年

度に発生した保有期間が 12 ヵ月未満のキャピタルアセットの売却から生じたキャピタル

ロスとして取り扱われる。

還付

納税者の年度の要納税額を超える給与の源泉税徴収額は、4 月 15 日から 3 ヵ月以内に還付又は

その他の所得の税額から控除される。7 月 15 日以降になされた還付又は税額控除は、3 ヵ月経過

後、還付又は税額控除がなされるまでの期間に年利 6%の利息が付されることとなる。

フリンジ・ベネフィット

一般にフリンジ・ベネフィットとは、本来の給与に加えて給与所得者の立場において受けてい

る経済的利益 15であり、駐在員に対して会社から供与される住宅や自動車などがこれに該当する。

フリンジ・ベネフィットに関しても税制改正に伴い、税率が 32%から 35%へ変更となっており、

15 http://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/mag/pdf/j29d14.pdf

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第 12 章 税制

109

2018 年 1 月 1 日より、負担増加が見込まれる。駐在員や管理職への住居費用、乗り物各種費用、

メイド、運転手その他の家庭使用人の費用などフリンジ・ベネフィットの対象となる費用が発生

している場合、2018 年度から新税率を適用できているかについて留意が必要である。状況によっ

ては、金銭手当等への変更を行うと、所得税率とフリンジ・ベネフィットタックス税率の違いか

ら費用が少なくなることも考えられることから、給付体系の見直しを行うことも有用である。

その他の税制

印紙税(Documentary Stamp Tax: DST)

株式の発行及び譲渡、手形、小切手、リース契約書、借入契約書、不動産売買契約書、保険証

書、権利義務の移転や履行を証する書類等に対して、印紙税の支払が義務づけられている。例え

ば、旧税法では、フィリピン法人の株式を譲渡する際には、額面金額 200 ペソごとに 0.75 ペソの

印紙税が、借入の証書には 200 ペソごとに 1 ペソの印紙税が課せられていた。この点、2018 年 1月 1 日以降適用される新税法では、ほぼすべての項目において旧税法の倍の税額が設定されてい

る点に留意が必要である。特に現地日本企業に関わりが深いのは、下図の 4 点である。今後印紙

税を伴う取引を行った場合には、新税法の下での印紙税率が適用されるため、誤って担当者が旧

税法の印紙税率を適用していないか注意が必要である。

旧税法 新税法

株式発行 200 ペソにつき 1 ペソ

株式発行 200 ペソにつき 2 ペソ

株式譲渡 200 ペソにつき 0.75 ペソ

株式譲渡 200 ペソにつき 1.5 ペソ

借入金 200 ペソにつき 1 ペソ

借入金 200 ペソにつき 1.5 ペソ

オペレーティングリース 初めの 2,000 ペソに関しては 3 ペソ 超過する金額に関して 1,000 ペソ毎に 1 ペソ

オペレーティングリース 初めの 2,000 ペソに関しては 6 ペソ 超過する金額に関して 1,000 ペソ毎に 2 ペソ

なお、印紙税は、メモのような書面形式や実施した取引に対して実際に契約書を交わしていな

い場合であっても課税される場合があるので注意が必要である。また、関係会社の前払金、前渡

金といった advance 勘定にも課税される可能性があるため注意が必要である。印紙税は、翌月の 5日までに申告・納税する。

事業税

地方税は事務所を置く地方自治体で徴収される税である。最も身近な自治体はバランガイであ

る。バランガイとは「船」のことで、その長は船長を意味する「バランガイ・キャプテン」と呼ば

れる。そのバランガイを基礎自治体として、その上に市(シティ)又は郡(ミュニシパリティ)、

更にその上を全国 80 の州(プロビンス)が覆っているが、それぞれの地方自治体で地方税が課さ

れる。

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フィリピンの投資環境

110

地方税のうち、フィリピンでの事業活動上において一般的に最も重視すべきなのが事業税であ

り、外形標準課税となっている。年間の純受取額に対して、業種によっては最大 1%の課税がなさ

れるので、売上が大きく、粗利が小さい会社の場合は負担感が大きい。また、資本金基準もある

ため、資本金額の大きい企業も注意が必要である。

地方自治体法で上限税率は定められているが、各市によって税率は異なる。特にマニラ首都圏

は他の地方に比べて 50%増しで税率を定めて良いことになっている。このため、例えば製造業の

場合では、工業団地が集中するカビテ州やラグナ州では総受取金額の 0.375%以下の税率である

が、マニラ首都圏は総受取金額の 0.56%以下となる。

一方、ケソン市など、地方自治体によっては独自の優遇策を定めているケースもある。なお、

経済特別区登録企業は 5%総所得税を納付する代わりに地方税が免除となっている。

固定資産税(Real Property Tax: RPT)

土地、建物、機械・設備の所有者は、その所在地の州や市に対し、査定額に基づいた固定資産

税を納めなければならない。土地や建物だけでなく、機械・設備も対象となる。所得税免税期間

中のエコゾーン登録の輸出型企業については固定資産税の免除が定められているが、別途免税申

請が必要とされている。一方、通常の企業については固定資産取得時に評価額を自己申告し、地

方自治体税務課の査定を受けなければならない。

税率は物件の査定額、及び所在地により異なるが、上限税率は地方税法で定められており、フィ

リピンに 80 ある州政府については査定額の 1%、各市や、マニラ首都圏内の唯一の郡であるパテ

ロス郡については査定額の 2%となっている。また、それぞれに特別教育基金として 1%加算して

徴収される。したがって、州では 2%、各市やマニラ首都圏内の唯一の群であるパテロス郡では

3%が徴収されることとなる。

物品税

物品税は、特定品の取引に対して課税される税金である。2018 年 1 月 1 日から新税法が適用さ

れることに伴い、以下のような変更が生じる。

物品税(石油)

品目 旧税法

(単位:ペソ)

新税法(単位:ペソ)

2018/1 2019/1 2020/1

潤滑油、グリース

(ペソ/リットル) 4.5 8 9 10

加工ガス

(ペソ/リットル) 0.05 8 9 10

ワックス、ワセリン

(ペソ/キロ) 3.5 8 9 10

変性アルコール

(ペソ/リットル) 0.05 8 9 10

レギュラーガソリン

(ペソ/リットル) 4.35 7 9 10

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第 12 章 税制

111

品目 旧税法

(単位:ペソ)

新税法(単位:ペソ)

2018/1 2019/1 2020/1

プレミアムガソリン

(ペソ/リットル) 5.35 7 9 10

ジェット燃料

(ペソ/リットル) 3.67 4 4 4

ケロシン

(ペソ/リットル) 0.00 3 4 5

ディーゼル

(ペソ/リットル) 0.00 2.5 4.5 6

液化石油ガス

(ペソ/リットル) 0.00 1 2 3

アスファルト

(ペソ/キロ) 0.56 8 9 10

バンカー重油

(ペソ/キロ) 0.00 2.5 4.5 6

石油コークス

(ペソ/メトリックトン) 0.00 2.5 4.5 6

物品税(車)

旧税法 新税法

販売価格(ペソ) 税率 販売価格(ペソ) 税率

~600,000 2% ~600,000 4%

600,000~1,100,000

12,000 ペソ+600,000 ペソを超

える金額に対して 20% 600,000~ 1,000,000

10%

1,100,000 ~2,100,000

112,000 ペソ+1,100,000 ペソ

を超える金額に対して 40% 1,000,000

~4,000,000 20%

2,100,000~ 512,000 ペソ+2,100,000 ペソ

を超える金額に対して 60% 4,000,000~ 50%

物品税(たばこ)

旧税法 新税法

フィルター有のタバコに関して 2013 年 1 月 一箱 12 ペソ 2014 年 1 月 一箱 15 ペソ 2015 年 1 月 一箱 18 ペソ 2016 年 1 月 一箱 21 ペソ 2017 年 1 月 一箱 30 ペソ 2018 年 1 月 1 日以降は 4%ずつ上昇する。

フィルター有のタバコに関して 2018 年 1 月から 6 月 30 日まで 一箱 32.5 ペソ 2018 年 7 月 1 日から 2019 年 12 月 31 日まで 一箱 35 ペソ 2020 年 1 月 1 日から 2021 年 12 月 31 日まで 一箱 37.5 ペソ 2022 年 1 月 1 日から 2023 年 12 月 31 日まで 一箱 40 ペソ 2024 年以降は、4%ずつ上昇する。

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フィリピンの投資環境

112

二重課税の回避

日本の親会社など、税務上「非居住外国法人」と分類される会社も、フィリピン国内で所得を

計上する限り課税対象となる。例えば、フィリピン子会社への貸付金から金利を得た場合、金利

に対しては一般的に 20%の源泉徴収税が課される。一方、日本では金利収入は法人税の課税対象

となるので、何もしないでおくと、フィリピンと日本の双方で課税されてしまう。

こうした二重課税を避けるため、フィリピン政府は各国と租税条約を交わしており、日本とも

1980 年に条約を締結している(2007 年改訂)。例えば利子については、租税条約上、源泉徴収税

率は 10%を超えないこととされており、日本ではこれを 15%で源泉徴収されたものとみなして外

国税額控除を適用することができる。

しかし、こうした租税条約上の優遇税率を適用するためには、事前にフィリピンの内国歳入局

に租税条約の適用申請(Tax Treaty Relief Application, 通称 TTRA)を提出し、租税条約適用承認を

得ておかなければならなかった。この点、従前からこの TTRA は煩雑であるとの不満の声が大き

かった。このような状況もあり、2017 年 6 月 26 日より、非居住者に対する配当、利息、ロイヤル

ティに対する手続きが簡素化された。具体的には、租税条約上の軽減税率を適用する際に、TTRAではなく、FORM(Certificate of Residence For Tax Treaty Relief:CORTT)を提出することで租税条

約の優遇税率の適用が可能となった。

税制改正の動向

前述の通り、個人所得税、付加価値税、物品税、印紙税等については、2018 年 1 月 1 日以降新

税法が施行されている。この他、法人所得税減税及び税務優遇措置の合理化法案として、税制改

正のパッケージ 2 が国会に提出されている。以下が法人所得税と税務優遇措置に関する税制改正

案であるが、2018 年 5 月末時点で、国会での審議段階となっており、下記内容についても変更の

可能性がある点に留意が必要である。

輸出企業の定義を税務法に記載

輸出が少なくとも売上の 90%を占める会社を輸出企業とする(現状は 70%であり輸出要件が厳

しくなる)。

法人税率の減少

2019 年度より現行の 30%から 20%まで 1 年毎に 1%法人税率を減少させることを目標として

いる。ただし、GDP の 0.15%の金額を投資優遇措置の供与金額から削減する代わりに 1%の税率

減少を与えるというものとなっている。そのため、現時点ではいつ時点で法人所得税率の減少が

実現するのかは定かではない。また、選択的標準控除(Optional Standard Deduction)が個人、法人

ともに 40%から 20%に削減される。

優遇措置の対象法人

輸出企業だけでなく、国内業者も戦略的投資優遇計画の中に記載されている事業であれば優遇

措置を享受できる。

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第 12 章 税制

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法人所得税の優遇措置の内容

優遇措置の享受期間は、最長 5 年となっている。最長 3 年限度の法人所得税無税期間の後、以

下の優遇措置が与えられる。この 5 年間は、法人所得税無税期間を含み、無税期間が終わった後

に追加で 5 年ではない点に留意が必要である。

① 無税期間享受後の法人所得税率 15%

② 当初 3 年内に発生した投資金額の 50%について損金算入

③ 登録事業に関する研究開発費の 200%損金算入

④ 登録事業に関する訓練費用の 200%損金算入

⑤ 登録事業に関する労務費の 50%について追加損金算入

⑥ 国によって特定された地域に設置されたインフラに関する費用の 100%損金算入

⑦ 利益剰余金を用いて製造に再投資する場合、その金額の 5 年間の損金算入

関税優遇措置の内容

5 年間のみ設備、設備に必要なスペアパーツ、登録事業に使われる原材料は関税が免除される。

拡大投資する場合は、条件付で追加的に 5 年に限り設備にのみ関税が免除される。設備は登録事

業にのみ用いられることが条件となっており、別の事業に用いたい場合は、事前に許可が必要と

なっている。その場合、別事業に使用される部分に関しては、関税の支払が必要となる。また、

承認なしの設備の廃棄は、関税がかかることとなるため留意が必要である。

VAT 優遇措置の削除

VAT に関しては、新しい優遇措置制度の下では、優遇措置はない。

地方税優遇措置の削除

地方税に関しては、新しい優遇措置制度の下では、優遇措置はない。

優遇措置の付与

優遇措置は、事業活動の規模に応じて与えられる。投資額、雇用、投資規模、輸出額、後進地域

への投資が指標となる。

既存企業への経過措置

法人税無税期間の企業は、現在享受している法人税無税期間が終わった時点で優遇措置は終了

する。また、5%特別優遇税率については、2 年から 5 年の猶予期間を経過後、順次消滅する。

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フィリピンの投資環境

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ひとくちメモ 7: BIR Audit(税務調査)に備える

フィリピン当局の納税収入は納税者による通常の納税に加え、BIRによる税務調査の結果課される課徴金による収入が大きい。英語名に「Audit」とつくが、監査意見の表明を目的とした「監査」とは異なり、実態は税務調査である。BIRは近年、納税を忌避したものに対する積極的な課徴や、年間の徴収目標額を定めるなどアグレッシブな姿勢を強めている。しかしながら、納税者が準備さえ適切に行っておけば BIRの税務調査を過度に恐れる必要はない。下記は押さえておくべきポイントである。

a)税務調査がどの段階にあるかを適時に把握する 税務調査には、非公式協議の通知書(Notice for Informal Conference)を

受け取ってから 30 日以内の非公式協議、初期的な評価通知(Preliminary Assessment Notice : PAN)を受け取ってから 15日以内に抗議書の提出、正式な評価通知書(Final Letter of Demand and Final Assessment Notice : FLD/FAN)を受け取ってから 30日以内に再確認あるいは再調査の申し入れ、再調査の場合は 60 日以内に補足資料の提出といった重要なタイミングがある。期限がそれぞれの税務調査の段階で決まっているため、現時点でどこの段階にあり、いつまでに次のアクションをしなければならないのかを把握することが重要である。税務調査の流れについては以下の図を参照のこと。

b)税務調査を待たずに勘定調整を進めておく BIRの検出事項のパターンとして多いのは帳簿の金額と課税所得の差や、「alphalist」(全従業員の給

与総額、源泉所得税などの表)との不一致からくる。多くの納税者は、BIR による指摘を受けてから不一致の突合を始める。この作業は非常に多くの時間を要する事が多く、特に該当する取引を熟知している担当者が退職していた場合は言うに及ばずである。この不一致の検証作業には数年単位を要する事もあり、すべての項目で不一致が解消できるとは限らない。その間、年間 20%もの金利が発生する。 当然、このような事態は定期的な突合作業を実施する事で回避できる。ルーティン業務の中に含めておくことも一案だろう。

c)適切な証憑の管理

主要な BIRの指摘事項の一つに、取引の証憑の不備がある。当然の事ながら、納税額への影響が大きい取引ほど指摘される可能性は高い。指摘の内容としては、取引の性質に対する疑義や、適用した税率の是非、税務上の損金としての扱いの是非などがある。適切な証憑が保管されていない場合、BIR の指摘を回避することは難しくなる。

d)源泉徴収票を顧客から確保する

日系企業になじみの薄い税務実務として、源泉徴収票(withholding tax certificate)の不備も BIRの主要な指摘事項である。取引に際して買主が負担する withholding taxの税額を控除した金額を売主が受け取り、売主は法人税から当該金額を控除するが、取引の際に控除の根拠となる源泉徴収票を取得していないと BIRにより指摘を受け、控除が認められなくなる事が起こりうる。納税者として、源泉徴収票の取得と保管は必須であると言える。

BIR の調査官が最終的にどのような調査や指摘を行うかはケースバイケースであり、予測することが難しい。上記に挙げた基本的な事を抑え、適切に証憑を管理する事が重要である。現状、中央銀行が定める法定利率の 2倍(12%)が追徴金に対して加算される。この負担を考えれば間接部門である経理への投資も行わなければならない事がわかるだろう。

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