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Inside Telecommunications 12 | 1 Issue12 Inside Telecommunications テレコムセクター最新トレンド EY グローバルテレコムリーダー Jonathan Dharmapalan EY Japan テレコムリーダー 塚原 正彦 2013 10-12 月期 新たなデバイスとネットワークテクノロジー Inside Telecommunications(第 12 号)へようこそ。 本号ではモバイル決済と広告基盤の技術革新、ウェラブル端末、超高速ブロードバンドの技術開発な ど、多くの話題を取り上げています。 ご意見・ご感想などがございましたら、ぜひお寄せください。

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 1

Issue12

InsideTelecommunicationsテレコムセクター最新トレンド

EY グローバルテレコムリーダー

Jonathan DharmapalanEY Japan テレコムリーダー

塚原 正彦

2013 年 10-12 月期

新たなデバイスとネットワークテクノロジー

Inside Telecommunications(第 12 号)へようこそ。

本号ではモバイル決済と広告基盤の技術革新、ウェラブル端末、超高速ブロードバンドの技術開発な

ど、多くの話題を取り上げています。

ご意見・ご感想などがございましたら、ぜひお寄せください。

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 2

序 章 ......................................................................................................................................... 3

1. サービスイノベーション .............................................................................................................. 4

モバイル決済とマーケティングの融合 ........................................................................................... 4

モバイルデータ料金プランの進化 ................................................................................................. 5

2. テクノロジー ............................................................................................................................ 7

ウェアラブル技術の時代 ............................................................................................................ 7

超高速ブロードバンドの新たな技術 .............................................................................................. 8

3. 規制 .................................................................................................................................... 10

米国 ネット中立性の議論が再燃............................................................................................... 10

インド M&A 関連の方針を明確化 ............................................................................................. 11

4. M&A.................................................................................................................................... 13

概要 .................................................................................................................................... 13

脚光浴びるラテンアメリカ ......................................................................................................... 13

投資ファンドの活発な動き ........................................................................................................ 14

インドへの増資 ...................................................................................................................... 14

香港における M&A ................................................................................................................. 15

海外事業拡大を目指す日本の通信事業者................................................................................... 16

裏表紙 ....................................................................................................................................... 18

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 3

序 章

2013 年はテクノロジーとメディア、テレコムの各分野にまたがる多くの M&A が発生し、取引

額は前年比 54%増の 5,103 億ドルに上りました1。業界間の境界が曖昧になる中、モバイ

ルショッピングおよびソーシャルネットワークの急速な技術革新と、企業のクラウドおよびモ

ビリティに対する需要の伸びは、今後さらなる M&A を生じさせる要因となりそうです。

通信事業者が、異業種との垂直関係からなる新たなエコシステム(経済圏)にどこまで適応

可能か検討を深めている中、ウェブ/テクノロジー大手と通信事業者の関係に注目が集

まっています。フェイスブックが 2 月に発表したワッツアップの買収や、1 月のグーグルによ

る熱感知センサーメーカーNest の買収は、ソーシャルメッセージングやスマートホームと

いった多様な領域への参入を図ろうとうする同社の強い意向を表しています。

一方で、中核市場におけるイノベーションの重要性は忘れられがちです。各国・地域の通信

事業者は長らく、超高速ブロードバンドへ投資を抑制してきました。特に西欧の市場は他地

域に比べ、ネットワーク更新が遅れていました。しかしこの数か月、そうした方向を転換する

動きが見られます。G.FAST 技術により通信事業者のメタル回線が延命可能となったことは、

長期的に見て、各国が進める超高速ブロードバンド普及目標達成に重要な意味を持ってい

るでしょう。

個人向け・法人向け双方のデータ通信への需要増加に対応するためには、堅牢なインフラ

に移行することが必要であり、技術革新はその重要な役割を担っています。しかし、テクノロ

ジーの進化が加速する中、ネットワークの将来を保証することは決して容易ではありません。

英国の研究者らは 10 月、「Li-Fi」による 10Gbps のデータ転送に成功したことを明らかにし

ました。Li-Fi は光を用いたインターネット接続で、現在の Wi-Fi による無線通信よりも高性能

となる可能性があります。

研究から実用化への進展は決して保証されているものではありませんが、こうしたイノベー

ションはテレコムセクターが依然として技術革新の途上にあることを示しています。一方で、

破壊的サービスプロバイダは確実に業界を巡る環境に影響を及ぼしています。グーグルは

すでに光ファイバ網を独自に構築、現時点では米国 3 都市に限定されているものの、既に

10Gbps を実現しています。

通信事業者は、価格設定の在り方についても引き続き検証を進めています。米国ではこれ

まで、家族向けプランとデータシェアプランが提供されてきましたが、変化の速度はますます

加速しており、M2M 課金や AT&T が開始したスポンサー付データプランといった最近の新し

い動きは、モバイルデータの最適な課金オプションを模索するサービスプロバイダにとって

無視できないものとなっています。

1 Mergermarket

Adrian Baschnongaグローバルテレコムセンター

リードアナリスト

[email protected]

テレコムセクターでは引き続き M&A が盛んに行われています。通信事業者は隣

接領域への進出を図りつつ、中核市場における新たな M&A に備えています。規

制当局は依然として統合シナリオに慎重であるものの、一方ではテクノロジー企

業 が 成 長 領 域 へ の 進 出 を 強 め よ う と し て お り 、 通 信 事 業 者 と OTT

(Over-the-top)プレーヤーの関係は、バルセロナで開催された今年の MWC

(Mobile World Congress)における主要テーマとなりました。

序章

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 4

1. サービスイノベーション

モバイル決済とマーケティングの融合

モバイル決済の長期的な成長の可能性と、銀行口座を持たない

人々に対する金融サービスの提供、あるいは小売店の POS 向

け非接触型決済といった分野では通信事業者の役割について

様々なことが言われています。ガートナーは昨年、世界のモバイ

ル決済利用者数は 2013 年末までに、前年比 22%増の 2 億

4,520 万人に及ぶだろうとの予想を示し、モバイル決済市場の

成長が期待されています2。

その一方で、モバイル決済の利用者数は世界のモバイル通信

加入者のわずか7%に留まっており、端末依存型決済は依然とし

てごく初期段階にあることを示しています3。このことは特に先進

国市場で顕著です。先進国市場においては、既に様々な決済手

段が存在すること、業界横断的な競争が激しいこと、断片的な

技術と複雑な規制の存在、といった要因がモバイル決済の普及

を阻害しています。

こうしたことから、先進国市場のモバイル事業者は小売業者向

けに顧客分析やマーケティングなどの付加機能を提供するため、

POS 連動型決済など新たな付加価値を模索しています。

通信事業者が、洗練された近接型決済を提供するために検討

すべき主要な事柄の一つは企業間提携です。英国のモバイル

事業者 4 社のうち 3 社によって設立された合弁企業 Weve は、

モバイル決済機能に先立ち、企業向けモバイル広告サービスと

ポイントサービスの提供を開始しました。Weve は過去 1 年間に

渡り、サービス内容の拡充を続けてきました。同社は 2013 年

10 月までに 2 千万人のモバイルユーザーを獲得し、175 のブラ

ンドに約 400 の SMS/MMS を利用したマーケティングキャン

ペーンを提供、2014 年 1 月にはモバイルディスプレイ広告サー

ビスのベータ版の試験運用を開始したと発表しました4。

多くのキャンペーンで匿名化した位置情報が用いられており、広

告主は郵便番号や端末ブランド、モバイル契約区分などによっ

てターゲットを絞り込むことができます。英国のモバイル広告市

場は今後数年間で大きく成長し、2017 年までに全メディアにお

ける広告の 31%を占めるようになると見られており、Weve は上

記のような機能が差別化要因になると考えています。位置情報

マーケティングの可能性はクリック率(CTR)の高さに裏付けられ

2 “Gartner Says Worldwide Mobile Payment Transaction Value to Surpass $235 Billion in

2013” Gartner 2013/6/4

3 前掲; “Gartner Mobile Economy 2013” GSMA/AT Kearney, 2013

4 “Weve take on tech ginants in battle of m-commerce” Campaign 2013/10/3, “Weve

mobile Display Service goes into Beta” Weve 2014/1/29

ており、位置情報を活用した広告によって業界平均 CTR は

2020 年までに倍増すると見られています5。

図 1 英国モバイル広告費(2012-2017)

出所: “UK Mobile Ad Spending to Pass the £1Billion Mark This Year” eMarketer 2013/12/19

通信事業者らは先進国市場におけるモバイル決済基盤につい

て、既存の顧客基盤を活かしつつウェブ/E コマース大手との競

争を回避するため、競合関係を超えたかつてない相互協力関係

を推し進めています。

モバイル事業者らはまた、銀行との合弁も進めており、広がりを

見せる決済エコシステムの一部として、コアコンピテンシーの統

合を模索しています。ベルガコムと BNP パリバ・フォルティスは

昨年、モバイルコマースの合弁を発表、欧州委員会の承認を得

ました。

両社は商品購入とクーポン引換といった複数機能の提供を計画

しており、その中核としてアプリ決済サービスを盛り込もうとして

います。さらに、他社のスマートフォンユーザーや他行のデビット、

クレジットカード利用者にも開放していく計画です6。

通信事業者とリテール銀行による、こうした新たな相互関係の在

り方は、スペインでも見られます。テレフォニカは CaixaBank 及

び Saptander との合弁事業を発表しました。両社は商品表示、

割引、宣伝といった流通/小売業者と消費者の間のオンライン

インタフェースを提供する計画です。業者との決済だけでなく個

人対個人をサポートするデジタルウォレットもまもなく投入される

見込みです。この合弁事業はスペイン国内約 60 万の法人を対

5 “Mobile Location-based Marketing Solutions Analysis and Market Forecast 2013-2017”

PR Newswire 2013/11/13

6 “Belgacom and partners to launch mobile wallet “ Mobile World Live 2013/3/13

英国モバイル広告費(百万ポンド) 全メディア広告費に占める割合(%)

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 5

象としているものの、サービスの海外展開も計画中であることを

明らかにしています。また、他事業者の新規参加にも前向きで

す7。

欧州の取組みはモバイル決済とマーケティングソリューションの

融合を目指したものですが、一方ではモバイル POS を巡る破壊

的イノベーターとの競争を背景に、決済ソリューションサービス

のさらなる拡張を図る通信事業者もあります。AT&T は 1 月、決

済技術専門の Vantive との提携を発表しました。スマートフォン

及びタブレット向けにアプリベースのクレジット/デビットカード

リーダーソリューションを提供するとしています8。これはチップと

PIN カードリーダーの費用を削減したい個人事業主の間で人気

を呼んでいる Square と iZettle といった競合に対抗するもので

す。

通信事業者の提携先が、カード発行会社やモバイル利用者、モ

バイルコマースプロバイダ、リテール銀行や他の通信事業者な

ど、多様な方面に広がる中、創業間もないテクノロジー・スタート

アップに投資する通信事業者もあります。スウェーデンのテリア

ソネラは、デジタル ID 及びモバイル決済のアプリケーションとプ

ロセスを開発する NorthID と Accumulate に投資しました。また、

テレフォニカデジタルはベンチャーキャピタルと共に米国を拠点

とするモバイル決済インフラプロバイダの Boku に投資しました。

こうしたことは先進国市場の通信事業者に限りません。ジャマイ

カを拠点とするデジセルは 10 月、スタートアップ企業の Flint に

投資しました。Flint は、ドングルの代わりにスマートフォンのカメ

ラを使ってクレジットカード、デビットカードをスキャンする技術を

有しています9。

モバイル事業者が水平方向と垂直方向の企業間提携によって

その機動性を高めようとする中、モバイル決済市場では多くの

課題が影を落としています。特に技術の断片化は深刻です。米

国では競合するエコシステムが多く存在しており、流通/小売業

者とモバイル事業者はそれぞれ独自の取組みを進めようとして

います。さらに、モバイル POS リーダーの市場は大量の類似製

品で溢れています。

POS モバイル決済のイノベーションをもたらす新たな技術の登場

も続いています。BLE(Bluetooth Low Energy)とそのアプリ

ケーションは、NFC に代わるものとして注目を集めそうです。

HCE(Host Card Emulation)もまた、多様なプレーヤーによる

サービス提供が可能となることから、既存のビジネスモデルを破

壊しうる技術です。

スマートフォンと位置情報を活用したい流通/小売業者にとって、

ソリューションの選択は難しいものとなっています。急増する

様々な技術とモバイルソリューションの移行にかかる時間の長さ

が背景にあります。サービスの成否は、既存の POS システムの

更新費用や多様な活用方法を可能とする付加価値ソリューショ

ンへのニーズなど、多くの要因が関係しています。

7 “CaixaBank, Santander and Telefonica to create the first joint venture between banks

and telecom operators in Europe to develop new digital businesses” Telefonica blog

2013/5/20

8 “AT&T and Vantiv Announce New Mobile Payment Solutions for Businesses of All Sizes”

AT&T 2014/1/14

9 “Mobile Payments Startup Flint Raises $6M Series B Led By Digicel Group” TechCrunch

2013/10/25

モバイルデータ料金プランの進化

モバイルデータ通信の高い需要に応えるため、通信事業者は月

額パッケージを提供するようになっています。利用者が複数端

末間および家族間での共有を求めていることや端末代金支払い

の多様なオプションが求められているためです。通信事業者に

とっての利点は明白で、顧客獲得と維持に要するコストの削減、

新たな価値の提供による売上拡大、そして解約率の低減です。

こうしたモバイルデータシェアプラン(データ利用可能量の共有)

は拡大が見込まれています。2015 年までに世界で販売される

モバイルブロードバンド端末 1 億 8,600 万台は、こうしたシェア

プランで提供されると見られています。これは全販売数の15%に

相当します10。データシェアプランを利用するスマートフォンは、

2015 年までに世界で 47%になると見られており、USB カードは

25%、タブレットは 15%がデータシェアプラン利用になると見られ

ています11。

図 2 データシェアプラン適用のモバイルブロードバンド端末数(世界)

出所: ”Infonetics Research Whitepaper: The New Requirements of Shared Data Plans”

Infonetics 2011/10

米国の通信事業者は、こうした料金モデルを最初に適用しまし

た。LTE への移行が早期に行われていたためです。4G 開始後

は段階型料金プランに移行し、2012 年には複数端末利用者を

対象に段階型データプランの提供を開始しました。シェアプラン

の利用者は、より多くのデータ通信が可能なパッケージプランに

アップグレードすることが多く、加入者数は確実に伸びていま

す。

通信事業者は新たな価値を提供するため、モバイルデータ通信

の利用状況計測ツールを利用者に提供する一方、テザリングや

Wi-Fi ホットスポットなどのサービスも提案しています。無制限の

通話/テキストメッセージもパッケージの一部に含まれており、

従来の「全部入り」データプランで通話とテキストメッセージに上

限が設定されていたこととは正反対の方向性です。

10 “Infonetics Research Whitepaper: The new Requirements of Shared Data Plans”

Infonetics 2011/10

11 前掲

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モバイルデータの課金モデルはこの 1 年、競争が激化する米国モバイル市場でさらなる進展を見せてきました。ファミリープランの登場

に伴い、通信事業者は端末の新規購入ローンとアップグレードプログラムを含めたパッケージを投入しました。T-モバイルは 2013 年 3月、同社の「脱キャリア」戦略の一環として年間契約制度を廃止、さらに追加通話回線と段階型/無制限型データプランの提供を発表

しました12。

米国市場以外のモバイル事業者もこれに続いています。テルストラは 2013 年 10 月、個人向けモバイルデータシェアパッケージの提

供を開始しました13。スウェーデンのテリアソネラや英国の EE といった欧州の通信事業者もデータシェアプランの提供を開始しました。

コンテンツプロバイダが収益化を求める中、課金モデルの革新によってデータローミングへのニーズが喚起されています。T-モバイル

USA は 10 月、無制限データパッケージに追加料金不要のデータローミングを加えたプランを 100 か国以上で提供開始しました。一方

AT&T は 2014 年 1 月、「スポンサー付データプラン」を発表しました。個人利用者もしくは法人利用者のデータ通信料を予め指定され

た企業に請求するというものです。

データシェアプランと端末購入ローンで早々に成功を収めたとはいえ、通信事業者は今後も随時自らの価格戦略を見直す必要があり、

さらなる顧客ニーズの分析が求められます。例えば、家族向けパッケージではモバイルデータ通信の利用量は不均衡なことが多く、

様々な端末を使用する小規模事業者向けプランとはかなり異なったものとなるでしょう。また、時間単位課金やアプリケーションパスが

さらなる人気を呼ぶ中、テザリングもデータシェアプランの別の形として発展を続けるでしょう。

企業の注目を集めている M2M(機器間通信)は、新たなデータシェアプランとして発展すると見られます。アラブ首長国連邦のエティサ

ラットは 2013 年 12 月、企業向けデータシェアプランの提供を開始しました。1GB から 2,000GB までのデータ利用を含んでおり、複数

SIM 間で共有することができます。M2M で使用するデータ量は業種ごとに異なることから、通信事業者は企業のニーズの変化に合わ

せた新たなデータ利用プランを検討することになるでしょう。

バンドルサービスを柔軟に運用したいモバイル事業者にとっては、リアルタイム課金やポリシーコントロールなど請求方法の見直しが

求められるでしょう。課金モデルのイノベーションが予測しづらい状況の中、課金処理の一本化は立ち上げプロセスのスピードを早める

ことができ、一方でリアルタイム分析と優れた顧客分析に基づいたアップセル提案は、通信事業者が俊敏な対応を取るための助けとな

るでしょう。

図 3 多様なモバイル料金プランに対する通信事業者の対応状況

どのサービスを提供していますか。または提供したいと思いますか。

出所: ”Charging and Billing for the Digital Economy” Openet 2013/10 (通信事業者 80 企業に対する調査)

12 “T-Mobile Makes Bold ‘Un-carrier’ Moves” T-Mobile 2013/3/26

13 “Telstra is the first major Australian carrier to launch shared mobile data packages for consumers” Telstra 2013/10/1

アプリケーション

パス

時間単位

課金

データシェア

(ファミリープラン)

データパス

複数端末プラン

回答率(%)

提供中 計画中

提供予定なし提供したいが、能力不足

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2. テクノロジー

ウェアラブル技術の時代

ウェアラブル端末市場の爆発的成長は、2014 年のテクノロジー

セクターにおける主要テーマの一つとなっています。シスコは最

新の市場予測”Visual Networking Index”の中で、組込型の通

信装置もしくはスマートフォンなどを通じて通信する装着型端末

は、世界で 2013 年の 2, 200 万から 2018 年には合計 1 億

7,700 万台に及ぶだろうとしています14。

図 4 通信機能付ウェアラブル端末台数(2013-18 年)

出所:”Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update” Cisco

2014/2/5

専用端末向けに設計された新世代アプリなどを開発する開発者

が増えるに伴い、ウェアラブル端末の出荷は急増しています。発

展途上にあるこの分野では現在、フィットネスと健康管理用途が

中心に、スマートウォッチやスマートグラスの市場開拓が進めら

れようとしています。例えばスマートウォッチによる体調管理など、

今後類似の機能が様々なウェアラブル端末に盛り込まれるもの

と見られています。

今のところ、ウェアラブル端末はスマートフォン市場の派生品に

過ぎないと見られています。しかし参入するベンダーが増えれば

独立した端末カテゴリーとして発展していく可能性があります。

サムスンとソニーは消費者向け電子機器メーカーの中でも特に、

この分野に積極的です。

アップルやグーグル、HTC、マイクロソフトといった主要ベンダー

も今年、スマートウォッチを投入する計画です。こうしたことから、

主要な端末機器メーカーは今後、自社の製品ラインナップの見

直しを迫られることになるでしょう。例えばスマートフォンとタブ

レット、ウェアラブル端末のミックスは、機能や価格といった面で

新たな差別化要素をもたらすことになるでしょう。

14 “Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update” Cisco

2014/2/5

一方、発展を続けるウェアラブル分野は専用機器メーカーの間

でも一定のシェアを占めています。米国の健康管理器具メー

カー、Fitbit は 2009 年、初めて製品を投入、クアルコムとソフト

バンクのベンチャーキャピタル部門から資金提供を受けました。

もう一つの注目すべきスタートアップ企業はフランスの Withingsです。同社は昨年、装着型のフィットネスモニター”SmartActivity Tracker”を発表しました。これは専用アプリを使って健

康に関するデータをリアルタイムに収集、保存するというもので

す。

ウェアラブル端末は多くのテクノロジー関連分野で成長をもたら

す期待されています。例えば、ウェアラブル端末用センサーへの

需要は、半導体の需要を高めることになるでしょう。また、現在

のウェアラブル端末はスマートフォンと併用することが主流です

が、今後は Wi-Fi やセル方式による無線通信が重要になると見

られ、専門ベンダーにとって新たなビジネス機会となるでしょう。

ウェアラブル端末は IoT(Internet of Things)の分野でも重要で

す。「IoT」は多様な意味合いを持つ用語で、通信機能を備えた

様々なモノ同士を繋ぐネットワークを表しています。耳目を集め

る製品発表を横目に、端末メーカーと通信事業者はウェアラブ

ル技術の出現によって消費者と企業のニーズがどの程度再定

義されるものなのか検討を進めています。最近の調査によれば、

消費者はウェアラブル端末に関心を持っているものの、同時に

個人のプライバシーに関する懸念も示されています。

(百万台)

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 8

図 5 ウェアラブル端末に関する意識調査

出所: ” SSI Survey On Popularity Of Wearable Computers” SSI 2013/9 (回答人数: 3,645

人)

リストバンドとスマートグラスは利用者に受け入れられやすい形

状となっている一方、多くの消費者は現実的な脅威として、プラ

イバシーの侵害を懸念しています。ウェアラブル端末が持つ

データ記録機能について尋ねると、その利便性以上に、個人情

報に関する懸念が指摘されました。エンドユーザーの中では新

たな端末の利用について、興味と警戒の念が混在していること

を示しています15。

ウェアラブル端末を自社のサービスに含める場合、モバイル事

業者はエンドユーザーの意識の変化を理解しておく必要がある

でしょう。ウェアラブル端末は、ネットワークの世界で新たな需要

を生み出すものとは見られていません(シスコはモバイルデータ

トラフィックについて、2018 年までに 0.4%を占めるようになるの

みと考えています)が、ウェアラブル技術が通信事業者の M2M/IoT 戦略に影響を与えることは確かです。

デバイス管理機能は様々な端末の登場に合わせて向上させて

いく必要があります。端末がどのように利用されるのか分析する

ことによって、この先数年間、収益を得ることができるかもしれま

せん。新たなウェアラブル端末の登場は、サービス提供者の価

格設定に影響を及ぼすでしょう。特定の端末や安価な再販品、

大量のガジェットなどをセットにしたバンドルパッケージといった

形もあるかもしれません。

今後、ウェアラブル端末の登場によって変化するであろう消費者

ニーズに合わせ、企業間提携の枠組みを見直していくべきでしょ

う。専門機器メーカーとの提携は間違いなくその重要性を増すこ

とになります。様々なプレーヤーが優位性を得ようとする中、

ファッションやスポーツブランドとの関係構築もまた、長期的な売

上拡大につながるかもしれません。

超高速ブロードバンドの新たな技術

高速通信網の整備が義務付けられている中、欧州の通信事業

15 “SSI Survey on Popularity Of Wearable Computers” SSI 2013/9(サンプル数:2645 人)

者は光ファイバ網整備にかかる費用の抑制策を模索しています。

LTE 網は周波数オークション実施後速やかに展開されましたが、

一方光インフラの展開は近年、公的資金の削減により当初計画

を下回る結果となっています。例えば、「コネクティングヨーロッ

パファシリティ」と呼ばれる EU の政策パッケージの予算は 2013年 2 月、92 億ユーロから 10 億ユーロに削減されました。

次世代アクセス網(NGA)の人口カバー率は、欧州全体で前年

比 6%増の 53%です(2012 年末時点)。これは、2020 年までに

30Mbps サービスの人口カバー率を 100%にするという EU デジ

タルアジェンダの計画を下回るものであり、技術の種類を問わず、

地方でも最低限、高速ブロードバンドの利用を可能とするとした

カバーエリアの拡大率は、基準以下となっています16。

図 6 EU27 か国 次世代アクセス網の人口カバー率

出所: ”Broadband coverage in Europe in 2012” European Commission 2013/11

こうしたことから通信事業者は、カバーエリア拡大にかかる投資

を効率的に行うため、回線の性能を最大限に引き出すことがで

きる技術を模索しています。VDSLは現時点で、欧州の次世代ア

クセス基盤として最も多く採用されています。光ファイバを各戸に

敷設するよりもはるかに安価であり、ケーブル事業者は自社ネッ

トワークの DOCSIS3.0 対応をほぼ終えています。

重要なことは回線集約やベクタリング、”Phantom Mode”など、

VDSL の高速化を助ける技術が複数存在するということです。中

でもベクタリングは複数回線を使用する必要がなく、大きなビジ

ネ スチ ャ ン ス が 期 待 さ れ て い ま す 。 FTTP ( Fiber To ThePremises)と比較してコスト削減効果は大きく、ドイツテレコムに

よるとベクタリング VDSL は FTTP に比べ、1 世帯当たりの設備

投資費を 70%削減できるとされています17。

ドイツテレコムによるこの発表は2 年前のものですが、ベクタリン

グ VDSL はここに来て、通信事業者の間で採用が広まっていま

す。アイルランドのドミナントであるEircomは9 月、自社の光ファ

イバ網上でベクタリングを展開、2015 年 6 月までに、国内 40万戸で下り100Mbps の速度を実現する方針を明らかにしました18。同社は 11 月、光ファイバ網の拡張計画を発表、2016 年ま

でに同国の 70%で同じ速度を実現するとしました。

仏オレンジは10 月、フランス国内で進行中のネットワークモダナ

イ ゼ ー シ ョン 計 画 の一 環 と し て 、 VDSL2 を 導 入 し 、 最大

16 “Broadband coverage in Europe in 2012” European Commission 2013/11

17 “Webiner VDSL-Vectoring” Deutsche Telekom 2013

18 “eircom’s Fibre Network to Offer Broadband Speeds of 100Mb” eircom 2013/9/25

回答率(%)

欲しい/すごく欲しい

個人のプライバシーが侵害されると思う

オーストラリア フランス ドイツ 日本 オランダ イギリス アメリカ

人口カバー率(%)

EU 全域 EU 地方部

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 9

100Mbps の速度を実現すると発表しました19。これに先立ち、

オランダの旧国営 KPN は、ベクタリング VDSL のカバーエリアに

27 万世帯を追加するとしました20。また、オーストラリアのテル

ストラもベクタリング VDSL の試験運用を発表しました。これは同

国 で FTTP を ベース と した全国ブロー ドバン ド( NationalBroadband Network)計画に遅れが生じていることによるもので、

戦略見直しの結果、低コスト技術の組み合わせにより 2019 年

までに最大 100Mbps の回線を人口の 3 分の 2 が利用できるよ

うにするとしています21。

ベクタリングに続いてさらに新しい技術が登場し、銅線を活用し

た光ファイバ網のベネフィットをもたらしています。中国のベン

ダー、ファーウェイは G.Fast 技術の先駆者で、VDSL によって

1,000Mbps 以上の速度を実現しました。BT グループは 10 月、

G.FAST を利用したブロードバンド通信の技術試験計画を明らか

にしました。これは FTTdp(Fiber to the Distribution Point)、す

なわち各戸の近隣拠点まで敷設した光ファイバと併用するもの

です22。アルカテル・ルーセントによれば、G.FASTはベクタリング

技術を用いて性能向上を図っています23。

このように通信事業者は、既存のメタル資産を活用できる新たな

技術の採用に積極的です。一方で光ファイバ関連産業には別の

課題がもたらされています。ベクタリングの分岐装置は特定の

DSL 事業者が設定することになっているため、既存の銅線設備

との組み合わせによるネットワーク性能の向上には規制当局の

支持が必要となるでしょう。このため規制当局は G.FAST の採用

に新たな勧告を示すことになるかもしれません。英国の Ofcomは、FTTP よりも銅回線と FTTdp の組み合わせに経済的利点を

見出しています。

ベンダーのサポートも重要です。例えば、MSAN(Multi-ServiceAccess Nodes)上で機能するシステムソリューションなど、多く

のサプライヤが異なるベクタリング技術を採用しています。

G.FAST については標準化の取り組みも重要です。G.FAST の国

際標準規格は 12 月、ITU(国際電気通信連合)の最初の承認を

受けました。

こうした新たなブロードバンドアクセス技術の将来は予測は明る

いと見られています。ベクタリングと G.FAST の優位性を最初に

認めたのは欧州の通信事業者でしたが、これまで FTTP を志向

していたアジアの先進国市場の事業者もその優位性を認めてい

ます。同時に、通信事業者は超高速ブロードバンドを提供する

同軸ケーブル TV に強い関心を示しており、インフラ更改に新た

な方向性が登場しつつあることを示しています。

しかしながら、すべてのプレーヤーはその展開にあたり慎重な検

討が求められるでしょう。ケーブル事業者に対抗するため、ベク

タリング技術を使った高速通信の実現を目指す者もあれば、自

社の過剰なネットワーク負荷軽減のため活用する者もあるでしょ

う。場合によっては、自社の老朽化した銅線網がベクタリングに

よる高速化に耐えうるものかどうかも確認が必要でしょう。そして、

設備投資費の面で G.FAST が有利なことは十分明白であるもの

19 “Orange, the leader of fibre deployment, is reaffirming its ambition of offering its

customers the highest speeds with the launch of VDSL2 technology” Orange 2013/10/1

20 “KPN to expand VDSl vectoring coverage” Telecomper 2013/9/9

21 “Revised NBN to deliber access to fast broadband to Australians sooner and at less

cost to taxpayers” NBN co. 2013/12/12

22 “BT To Trial Huawei G.FAST FTTdp Copper Broadband Technology” Tech Week Europe

2013/10/21

23 “The Numbers ae in; Vectoring 2.0 Makes G.fast faster” Alcatel-Lucent 2013/7/4

の、新たな技術の展開にかかるコストを含め、その運用費用に

ついても十分に検討しておく必要があるでしょう。

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3. 規制

米国 ネット中立性の議論が再燃

ネット中立性の問題は引き続き通信業界の難しい課題となって

います。規制当局はインターネットのオープン性を保証するため、

通信事業者によるコンテンツプロバイダへのデータ課金を制限

する方向にあります。これまでのところ、米国司法はそうした姿

勢の典型でしたが、米国の裁判所は 1 月、FCC(米国連邦通信

委員会)が定めた原則を覆す判断を示し、インターネットのトラ

フィック規制の在り方について、再び議論を呼び起こすこととなり

ました。

FCC が定めた「オープンインターネットに関する規則(2010 年)」

(Open Internet Order of 2010)は通信事業者およびケーブル

事業者の双方を含む ISP 事業者に、その発信元に関わらず全て

のトラフィックを平等に扱うことを求めています。これについては

幾度となく疑念が呈されてきました。ベライゾンは FCC が定めた

3 つの主な規則のうち 2 つの取り消しを求め、米国控訴裁判所

に提訴しました。控訴裁判所はブロードバンド規制について、

FCC の権限は認められているとしたものの、差別行為を規制す

る権限は与えられていない、としました。

この裁判所の判断は、消費者保護団体の間でインターネットの

自由が脅かされているとの懸念を広げました。ISP 事業者による

特定インターネットサービスの優先、あるいは特定トラフィックの

ブロックといった行為に繋がる可能性があると推測されるためで

す。通信事業者はこれまで、データトラフィック量の増加に伴い

多額の設備投資が必要になっているとして、大量のトラフィックを

発生させている動画配信などのコンテンツプロバイダへの課金

の正当性を主張してきました。一方、OTT サービス事業者は

「オープンインターネット」と「利用者の自由」を主張しています。

FCC は裁判所の判断に対し、上訴を含めあらゆる対応策を検討

するとしています24。また、米国民主党の議員団は 2 月、FCC の

ネット中立性に 関する規則を復活させ る法案 ”The OpenInternet Preservation Act”を上下院に提出、オープンインター

ネットの規則を巡って政治的な論争となる様相を示しています。

重要なのは、FCC が示したネット中立性の規則の基礎となる法

律は「一般的な通信事業者」を対象としたものであって、情報

サービス事業者に分類されるブロードバンド事業者に適用され

るものではなく、FCC はその権限を逸脱していると裁判所が判断

24 “Chairman Wheeler Statement on Court Opinion On Open Internet Rules” Federal

Communications commission 2014/1/14

したことです。その一方で裁判所は、1996 年電気通信法の第

706 条により、ISP 事業者のネットワーク管理を規制する権限が

与えられているとの FCC の主張を支持し、ネット中立性を強制す

るための新たな道筋が示されることとなりました。

FCC は上訴も可能です。しかし新たに示された判断を無効なも

のとするためにブロードバンド事業者の分類をいかに見直そうと

も、FCC の権限範囲に関する議論を再び呼び起こしてしまうだけ

かもしれず、裁判所の判断を覆すことができるかどうかは不透

明です。コンテンツプロバイダは現状維持を望んでおり、かつ

オープンインターネットは多くの利用者から支持されることも確信

しています。ネットフリックスの CEO は投資家に宛てた書簡の中

で、「ネット中立性には社会からの広汎な支持がある」との認識

を示しました25。

総合的に勘案すれば、このネット中立性の規則はインターネット

政策のパラダイムシフトを示すものとは言い難いものです。それ

は業界に衝撃をもたらしはしたものの、しかし見方によっては、

一部の特殊な国・地域の対応を示しているに過ぎません。例え

ば欧州では、オランダが 2011 年、OTT 保護策を導入したことを

除けばネットの中立性の問題は法的に扱われるべきものとは一

般的に見なされていません。欧州委員会は伝統的に、設備競争

に任せるべきとの姿勢を取っており、通信事業者のコンテンツプ

ロバイダに対する価格交渉力はより設備負担の少ない事業者

の存在によって弱められることになるかもしれません。

各国の規制当局は、競争の欠如によってオープンインターネット

が毀損される場合、これに介入する権限を有しています。EU は

トラフィック管理ポリシーにおける通信の透明性について ISP 事

業者の署名を得ており、こうしたことはフランスの規制当局

ARCEP が、フランスの通信事業者「フリー」によるグーグル傘下

のユーチューブのサービスへの対応について、消費者保護機関

から調査を求められたことから始まっています26。

米国の規則が新たな論争を呼び起こす中、欧州の議会は「様子

見」の姿勢を示しており、サービスの妨害といった事態から消費

者を保護しつつ、通信事業者とコンテンツプロバイダによる企業

間合意を嗜好している様子です。

欧州委員会は政策パッケージ”Connected Continent”の一環と

して、既存の対応の在り方を明確化する方針ですが、これもまた

25 “Netflix CEO on Net Neutrality: We Will ‘Vigorously Protest’ a ‘Draconian Scenario”

The Wall Street Journal 2014/1/22

26 “ARCEP closes the administrative inquiry involving several companies, including Free

and Google, on the technical and financial terms goverining IP traffic routing” ARCEP

2013/7/19

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論争を呼ぶものです。EU の地域委員会(Committee of theRegions)は 1 月、欧州単一通信市場形成に向けた法案が通信

事業者とコンテンツプロバイダ間の合意を制度化するものである

ならば、利用者の権利は損なわれかねないと警告しました27。

EU 加盟各国の規制当局は一般に、ネット中立性に関する見解

を公式に表明しています。多くはこの問題に関する取組計画の

公表に留まっていますが、特定の法律を制定した国もあります。

図 7 EU28 か国のネット中立性に対する態度

出所: ”Net Neutrality in the EU – Country Factsheets” Openforum Academy 2013/9

その他の市場では、オープンインターネットを巡る法整備につい

てそれぞれに議論が行われています。ブラジルの規制当局

Anatel は、ネット中立性のための強力な権限について決議しま

した。2011 年に提案された法案”Macro Civil da Internet”(Civil Rights Framework for the Internet)は、広く意見募集を

募ったのち、同国会で成立しました。同国大統領は9 月、同法の

施行を急ぐよう正式に要請しました28。

業界を取り巻く環境が不透明となっている中、通信事業者はコン

テンツプロバイダとの新たな関係を構築することで自らのビジネ

スモデルに革新をもたらそうとしています。AT&T は 1 月、4G 利

用者向けに「スポンサー付データプラン」を発表しました。この

サービスでは、ヘルスケアや小売、メディア・エンターテイメント、

金融機関といった様々な業界の企業がスポンサーとなり、自ら

の顧客や従業員に提供することができます。データ通信利用料

はスポンサー企業に直接請求されるため、映画の予告編やゲー

ムといったコンテンツの宣伝や、従業員が使用する業務用アプリ

などの使用料を企業が直接支払うことができます。

通信事業者は重いネットワーク負荷と投資負担に直面しつつ新

たなビジネスモデルの構築を必要としており、一方 OTT 事業者

は既存のビジネスモデルの維持を望んでいます。政府と規制当

局はインターネットガバナンスと消費者保護の観点から広い視

点でこの問題を捉えています。いずれにせよ、ネット中立性に関

する議論が今後も続くであろうことは間違いありません。

インド M&A 関連の方針を明確化

27 “Telecoms package reform: EC proposal must be sent back to the drawing board”

Committee of the Regions 2014/1/31

28 “Macro Civil: Brazil’s Push to Govern the Internet” The Huffington Post 2013/10/22

12 月初め、加入者獲得を巡って 13 社がひしめきあい、世界で

最も競争の激しい市場の一つとなっているインドのモバイル業界

で、M&A の新たな規則が公表されました。インドの関係閣僚会

議(EGOM)は 2 社以上の事業者が経営統合する場合、統合後

の市場シェアが同国の加入者数の 50%を超過しない限り、これ

を許可するという電気通信委員会の先の勧告を承認しました。

この上限は従来 35%と定められており、国内に 22 個ある通信

サービス区域「サークル」でそれぞれ上位を占める通信事業者

同士の統合を妨げていました。新しいガイドラインの公表により、

長らく念願となっていた経営統合が実現できることとなりました。

インドのモバイル市場は非常に細分化しており、市場の集中度

を示す HHI 指数(ハーシュマン・ハフィンダール指数)は、同国市

場には加入者シェア 10%未満の通信事業者が多く存在すること

を示しています。

図 8 各国モバイル市場の HHI 指数

出所: BMI country telecommunications report, 1Q14, EY による分析

この新しい M&A に関する方針は最終的な閣議決定を待ってい

るところですが(本レポート執筆時点)、財務状況の苦しい事業

者や周波数および免許の活用が十分でない事業者のためのイ

グジットオプションも設けられる予定です。セクター全体の負債

が粗利益 389 億ドルを上回る 458 億米ドルとなっている中

(2013 年)29、そうしたオプションは有益かもしれません。

新指針は、通信事業者が 900MHz と 1800MHz のオークション

に参加しようとしているところにもたらされました。オークションの

入札額は 9 日目時点で合計 98 億米ドルに上りました30。オーク

ションの規則自体、ごく最近合意されたばかりのものです。内閣

は 1 月、大手キャリアのオークション参加を促すため、落札者が

支払う年間周波数使用料を 5%に削減しました。また、これに先

立ち、通信事業者の関心を喚起すべく最低入札価格の引き下げ

も行いました。

M&A と周波数オークションに関する規則の改正は、通信事業者

に事業拡大のための二つの道筋を示すものであり、インドの通

信業界の信頼性を高めることになるでしょう。新しい M&A 関連

規則は周波数保有について明示しており、経営統合後は 3G と

BWA(Broadband Wireless Access)の周波数を 2 ブロックまで

保有することができるとしています。

しかし、アクセスサービス用の電波はサークル全体の 25%まで、

帯域はサークルに割当られた周波数帯の 50%までとする既存

の上限は維持されており31、主要企業同士の統合を妨げること

29 “Telecom industry cracking under financial pressure” The Hindu 2013/7/11 TRAI

Indicator Reports TRAI, EY による分析

30 “BRIEF - india telecom spectrum bids total $9.8 bln, 900 MHz prices unchanged since

Monday” Reuters India 2014/2/12

31 “Changes in Tele M&A Poicy Get EGoM Nod” The Economic Times Delhi Edition

国数

ネット中立性について

公式に態度を

表明した国

ネット中立性について

法律を整備した国

ネット中立性について

今後の対応を公表した国集中度

低中国

ノル

ウェ

フィ

リピ

シン

ガポ

ール

南ア

フリ

マレ

ーシ

英国

イン

ドネ

シア

ブラ

ジル

ロシ

米国

イン

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 12

になるでしょう。

周波数利用料(SUC:Spectrum Usage Charges)の問題は、実

に厳しいものとなるでしょう。この新しい規則では、M&A によって

GSM 用の周波数帯 4.4MHz 超もしくは CDMA 用の 2.5MHz 超

の帯域幅を取得した企業は、オークションとの差額を政府に支

払う必要があります。政府は M&A ではなくオークションによって

周波数を割り当てたい意向であり、企業の M&A 活動を抑制する

ことになるかもしれません。

こうしたことから通信事業者は、事業規模の拡大と必要な周波

数の維持確保について、慎重に検討する必要があります。SUCの制度と周波数の共有/取引の可能性について全体的な俯瞰

が重要であり、特に周波数獲得を主目的とする買収は企業買収

の論理に則して慎重に検討すべきです。同時に、多くの通信事

業者が M&A によるシナジー効果を期待し、そのコストのため重

い債務を負っているという事実は、インドのモバイル通信セク

ターの今後の M&A 動向に、確実に影響を及ぼすでしょう。

2013/12/4

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 13

4. M&A

概要

世界各国で M&A が続いています。2013 年第 4 四半期(10-12 月)の M&A 件数は 157 件となり、第 3 四半期(155 件)、第 2 四半

期(165 件)に相当する結果となりました。また、第 4 四半期の合計買収額は 394 億米ドルでした。ボーダフォンが保有していたベライ

ゾン・ワイヤレスの株式 45%をベライゾン・コミュニケーションズが取得するという、過去最大規模の買収があった前期の 1,730 億米ド

ルから大きく下がりました。

地域別では、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)地域の M&A は引き続き活発で、同地域の第 4 四半期の合計取引額は 213 億米ド

ルとなり、前期比(307 億米ドル)では減少したものの、第 4 四半期の世界の合計取引額の大半を占めました。ドイツとインド、その他

多くの市場で統合計画が話題となっている中、クロスボーダーM&A はますます盛んとなっています。

図 9 通信業界地域別 M&A 取引額(2013 年第 3-第 4 四半期)

出所: ThomsonOne, Capital IQ, Mergermarket

脚光浴びるラテンアメリカ

第 4 四半期最大の M&A は、ポルトガルテレコムが 10 月に発表したブラジル Oi との経営統合でした。これはブラジルで高まる市場競

争、特にモバイル部門の激しい競争の中、ポルトガルテレコムが以前から出資していた Oi の優位性を高めるためのものであり、負債

削減と経営効率の向上を図ると共に、機器ベンダーとの契約交渉を有利にする狙いがあります。ポルトガルテレコムによるブラジル市

場参入は初めてのことではなく、Oi の少数株式を取得する以前には、Oi の競合であるテレフォニカ Vivo の株式 50%を保有していたこ

ともありました。

ブラジルの競争当局 CADE(Conselho Administrativo de Defesa Economica: 経済擁護行政委員会)は 1 月、この取引を承認、およ

そ 190 億米ドルの年間売上と 1 億人以上の加入者を持つ新会社設立の道が開かれました32。マクロ経済の影響下にあるポルトガル

テレコムにとってこの取引は、地元市場における厳しい状況を緩和するものとなるでしょう。同時に、有料 TV に関するポルトガルテレコ

ムの専門知識と Oi が持つ光ファイバ網の組み合わせは、バンドルサービス提案の強化に役立つでしょう。

この他、フランスのオレンジがドミニカ共和国での事業をルクセンブルクのアルティスに 14.4 億米ドルで売却することで合意しました。

32 “UPDATE 1 – Brazil competition watchdog approves Oi, Portugal Telecom merger” Reuters 2014/1/14

EMEIA

南北アメリカ

アジア太平洋

日本

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この取引は、オレンジが 2011 年に発表した資産見直し戦略に基づくものです33。アルティスはさらに、ドミニカ共和国で固定及びモバ

イルサービスを提供するケーブル事業者トリコムの株式 88%を取得、オレンジから買収したモバイル事業と統合していく方針です。

クアトロプレイサービス市場の拡大を目指すこの新会社は統合後、400 万余りの加入者を持つことになります。現地メディアによると、

新会社はオレンジ・ドミニカーナのブランド名を継承し、また同国内における4G モバイルネットワークと光ファイバのカバーエリア拡大の

ため、アルティスは向こう 3 年間で 3 億 9,000 万米ドルを投資する計画です34。

アルティスは既に、マルティニークとグアドループ島、仏領ギアナで有料 TV、高速ブロードバンド、モバイルサービスを提供してきました

が、今回の M&A によって同社はさらに、カリブ諸島における存在感を増すこととなります。

投資ファンドの活発な動き

通信業界への進出を強める投資会社の一つであるアルティスは、ドミニカ共和国のモバイル及びケーブル資産取得に続き、フランスの

ケーブル事業者ヌメリカブルへの出資比率引き上げを行いました。同社は欧州の 100%子会社アルティス VII を通じて4 億 6,700 万米

ドルを投入、ヌメリカブル株式保有率を 30%から 40%に引き上げるとともに取締役会の議決権を獲得ました35。

他の投資ファンドの動きも活発です。チェコの投資会社 PPF グループは 11 月、テレフォニカのチェコ子会社の株式の大半を 33 億米ド

ルで買収することで合意したと発表、さらにテレフォニカのスロバキアの事業も取得しました。両国の持株会社は社名を変更する予定

ですが、今後 4 年間は O2 ブランドでの営業を継続する予定です。欧州の規制当局は 1 月、この取引を承認、テレフォニカはチェコの

事業者の株式 4.9%を維持する予定です。この事業分割は、テレフォニカが進める資産整理と地域集約の一環です。

米国の投資会社 KKR(Kohlberg Kravis Roberts)は 2013 年 10 月、英国の投資会社 Mid Europa Partners からユナイテッドグルー

プを取得しました。ユナイテッドグループはルクセンブルクを拠点とし、セルビアブロードバンドや Telemach Slovenia、TelemachBosnia といったバルカン半島諸国のケーブル事業者や、南東ヨーロッパで衛星 TV を提供する Total TV といった子会社を通じて、通

信・メディア関連サービスを展開しています。同地域におけるブロードバンドと有料 TV の普及率は他の欧州市場に比べ低い水準に留

まっています。また、今回の取引は KKR にとって同地域で最初の直接投資となりました。

投資会社は M&A で利益を得るべく通信関連資産への投資を強めており、ここ数年、固定部門やケーブル事業部門で活発な動きを見

せています。ドイツテレコムは 11 月、中欧のインフラ事業者 GTS を投資会社グループから 5 億 4,600 万ユーロで取得したと発表しま

した。GTS は東欧地域に自社の光ファイバ網と 14 のデータセンターを持ち、3 万 8,000 の顧客を有しています。

ドイツテレコムはこの買収により、主にチェコとポーランドにあるモバイル中心の子会社に光ファイバ網を提供し、東欧地域でクロスボー

ダーサービスを提供する狙いがあると見られています。この買収はまた、ドイツテレコムのもう一つの中核戦略である法人部門の強化

を目指すものでもあります36。

インドへの増資

2013 年第 4 四半期、インドでは M&A に関する新たな方針の公表を前に多くの取引が行われました。多くの企業が、外国企業による

地元企業への出資比率を 100%まで認めるという自由化の恩恵を得ています。

ボーダフォンは 10 月、17 億米ドルを支払ってインドの子会社の株式保有率 64%をさらに引き上げて 100%子会社とするため、規制当

局に承認を申請しました。一方ノルウェーのテレノールは、ユニノールブランドで営業するテレウィングの株式 25%を取得、保有率を

74%に引き上げました。

インドではその他に、11 月の Boku による Qubecell 買収がありました。米国を拠点とする Boku はキャリアビリングとクロスモバイル決

済の世界的リーダーであり、インドで主要な地位にある同業者の買収を通じてインドの 4 大モバイル事業者との関係を持つことができ、

33 “Orange reached an agreement with Altice for the disposal of Orange Dominicana” Orange 2013/11/27

34 “Altice to merge Tricom and Orange Dominicana following dual takeover” Telegeography 2013/12/17

35 “Altice increases Numericable position and forms new consolidated Altice Group” Altice 2013/11/18

36 “Deutsche Telekom acquires GTS Central Europe” Deutsche Telekom 2013/11/11

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同国のモバイル加入者の 75%へのリーチが可能となります37。なお取引の詳細は非公開となっています。

図 10 通信業界 M&A 取引額ランキング(2013 年第 4 四半期)

出所: ThomsonOne, Capital IQ, Mergermarket

香港における M&A

2013 年第 4 四半期、アジア太平洋地域で最大の取引額となったのは、HKT による香港のモバイル事業者 CSL の買収でした。HKTは CSL をオーストラリアのテルストラから 24 億米ドルで取得しました。CSL は 2000 年、香港の通信市場への進出拡大を図っていた

テルストラに売却されていましたが、今回 PCCW の固定部門である HKT がこれを買収しました。

加入者数の最も少ないモバイル事業者であった PCCWは固定回線市場でのポジションに合わせ、モバイル市場のリーダーになろうとし

ています。テルストラの撤退は法人事業へのフォーカスという、同社の地域戦略に基づくものです。テルストラは 1 月、O2 ネットワーク

スの取得を完了しました。O2 ネットワークスはオーストラリアの企業で、企業向けにセキュリティコンサルティングとインテグレーション

サービスを提供しています。テルストラはまた、昨年 8 月、統合コミュニケーションとコンタクトセンターの事業者 NSC グループの買収を

発表しました。NSC グループはオーストラリアとニュージーランド、アジア太平洋地域で事業を展開しています。

規制当局は HKT による CSL の買収に難色を示していました。このため PCCW は今後、4G 周波数や M&A などで一定の制約を受ける

ことになるかもしれません。HKTは政府の周波数割当計画に則した3G用周波数の一部返却を既に申し入れているものの、それでも今

回の買収後に HKT が保有することとなるモバイル用周波数は、香港全体の 38%に相当するものとなるでしょう。

37 “Boku Acquires Qubecell, India’s Leader in Direct Carrier Billing” Boku 2013/11/21

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海外事業拡大を目指す日本の通信事業者

日本の通信事業者各社は海外事業拡大を推進しており、2013 年第 4 四半期、それぞれ大きな動きを見せました。NTT コミュニケー

ションズは米国で IT インフラとセキュリティ管理サービスを提供するバーテラテクノロジーズの完全子会社化と、企業向けデータセン

ター事業者米レイジングワイヤの株式 80%取得を公表しました。

この二つの取引はいずれも、法人向けサービスの海外売上拡大という NTT の戦略に沿ったものです。同社はバーテラの買収により、

これまで160 か所だった進出先市場を 190 か所にまで拡大することになります。また、レイジングワイヤへの投資は、NTT の米国にお

けるデータセンター事業のプレゼンスを倍増させることになります。さらに NTT ドコモは、スマートフォン向けコンテンツ拡充のため、料

理教室の ABC ホールディングスを買収しました。

ソフトバンクは小売関連とテクノロジー部門での成長拡大を目指しています。同社は 2013 年第 4 四半期、米国の携帯販売会社ブライ

トスターの株式 57%を取得しました。取得額は 12.6 億米ドルです。この買収は端末メーカーに対する価格交渉力を高め、費用を削減

する狙いがあります。ソフトバンクはまた、10 月、フィンランドのモバイルゲーム開発会社スーパーセルを 15.3 億米ドルで買収、同四

半期の中で世界最大規模の M&A となりました。この買収は、モバイルインターネットサービスの展開を強化する狙いがあります。

KDDI は再び国内市場に注意を向けています。同社は 12 月、セキュリティビジネス強化のため、セキュリティサービス事業者ラックの株

式 27%を追加取得しました。KDDI はさらに、同社の完全子会社でケーブルテレビ事業者の JCN(ジャパンケーブルネット)と、J:COM(ジュピターテレコム)の経営統合を発表しました。KDDI は J:COM の株式 50%を保有しています。

図 11 アジア太平洋地域の通信業界における主な M&A(2013 年第 4 四半期)

日付 買収側 被買収側 出資比率(取得額) 被買収側企業の主な事業

2013/12/20 Hong Kong Television NetworkLtd.

China Mobile Hong Kong Corp.Limited

100%(2,000 万米ドル) モバイル TV サービス

2013/12/20 BigAir Group Limited(オーストラリア)

Anittel Communications Pty(オーストラリア)

100%(600 万米ドル) 法人向けコミュニケーションサービス

2013/12/20 HKT(香港) CSL New World MobilityLimited (香港)

100%(24 億 2,500 万米ドル) 大手モバイル事業者

2013/12/18 Telkom Infranusantara PT(インドネシア)

PT Tara Cell Intrabuana(インドネシア)

39.55%(5,000 万米ドル) 移動通信用鉄塔

2013/12/9 KDDI(日本) 株式会社ラック 27.15%(3,900 万米ドル) ネットワークセキュリティ/システム開発・

インテグレーション

2013/12/9 TPG Telecom Limited(オーストラリア)

AAPT (オーストラリア) 100%(4 億 900 万米ドル) 通信サービス

2013/11/27 Telekom Malaysia Berhad GTC Global Sdn Bhd(マレーシア)

100%(1,400 万米ドル) 統合セキュリティ分析システム、ブロード

バンドソリューション2013/11/19 株式会社ジュピターテレコム ジャパンケーブルネット株式会社 100% ケーブル TV

2013/11/14 SK Telecom Company Ltd.(韓国)

Nano EnTek, Inc.(韓国)

15.48%(700 万米ドル) ソフトウェア開発/システムインテグレー

ション

2013/11/8 Taiwan Star CellularCorporation

VIBO Telecom Inc.(台湾)

100%(1 億 3,600 万米ドル) モバイル事業

2013/10/28 NTT コミュニケーションズ(日本) RagingWire(米国) 80%(5 億 2,500 万米ドル) 企業向けデータセンター事業

2013/10/25 NTT ドコモ(日本) ABC ホールディングス(日本) 51%(2 億 600 万米ドル) 料理教室

2013/10/18 ソフトバンク(日本) Brightstar Corp.(日本) 57%(11 億 500 万米ドル) 携帯端末販売

2013/10/15 ソフトバンク(日本) Supercell Oy(フィンランド) 51%(15 億 3,000 万米ドル) モバイルゲーム開発

出所:Mergermarket, Telecom Asia, Factiva 2014 年 1 月

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(余白)

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Inside Telecommunications 第 12 号 | 18

裏表紙EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory

EY について

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などの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高

品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらし

ます。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチーム

を率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、ク

ライアント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献し

ます。

EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネッ

トワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバー

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リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していま

せん。詳しくは、ey.com をご覧ください。

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