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KEIO UNIVERSITY MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT (A 21 st Century Center of Excellence Project) KUMQRP DISCUSSION PAPER SERIES DP2006-037 貧困の動態分析 KHPS に基づく 3 年間の動態- 石井加代子* 山田篤裕** 概要 本研究では、KHPS により直近 3 年間の日本における貧困動態分析を試みた。所得格差の拡大 が指摘されている近年、貧困層において固定化が見られるのか、またどのような世帯類型におい て継続的な貧困状態に陥る確率が高いのか、などについて分析した。さらに、得られた結果と経 済協力開発機構(OECD)の既存統計とを比較することで国際的にみた日本の貧困動態の特徴を 確認した。分析の結果、貧困はすべての人にランダムに起こり得る現象ではないこと、ひとり親 世帯や世帯主が低学歴である場合、継続的に貧困に陥る可能性が高いこと、継続的貧困か一時的 貧困かで資産の保有状況に明確な差があること、などが分かった。貧困動態の国際比較からは、 日本における貧困は、英語圏諸国ほど深刻でないものの、大陸ヨーロッパ諸国に比べ貧困率のみ ならず貧困層の固定化においても楽観を許す状況にはないことが明らかになった。 *COE 研究員(ポストドクター)/慶應義塾大学経済学研究科 **慶應義塾大学経済学部助教授 Graduate School of Economics and Graduate School of Business and Commerce, Keio University 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345, Japan

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Page 1: KEIO UNIVERSITY MARKET QUALITY RESEARCH …ies.keio.ac.jp/.../old/gcoe-econbus/pdf/dp/DP2006-037.pdf本稿では、2004 年から2006 年までのKHPS の所得情報を用い、同一個人の異時点間の所得

KEIO UNIVERSITY MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT (A 21st Century Center of Excellence Project)

KUMQRP DISCUSSION PAPER SERIES

DP2006-037

貧困の動態分析

-KHPSに基づく 3年間の動態-

石井加代子* 山田篤裕**

概要

本研究では、KHPS により直近 3 年間の日本における貧困動態分析を試みた。所得格差の拡大

が指摘されている近年、貧困層において固定化が見られるのか、またどのような世帯類型におい

て継続的な貧困状態に陥る確率が高いのか、などについて分析した。さらに、得られた結果と経

済協力開発機構(OECD)の既存統計とを比較することで国際的にみた日本の貧困動態の特徴を

確認した。分析の結果、貧困はすべての人にランダムに起こり得る現象ではないこと、ひとり親

世帯や世帯主が低学歴である場合、継続的に貧困に陥る可能性が高いこと、継続的貧困か一時的

貧困かで資産の保有状況に明確な差があること、などが分かった。貧困動態の国際比較からは、

日本における貧困は、英語圏諸国ほど深刻でないものの、大陸ヨーロッパ諸国に比べ貧困率のみ

ならず貧困層の固定化においても楽観を許す状況にはないことが明らかになった。

*COE研究員(ポストドクター)/慶應義塾大学経済学研究科

**慶應義塾大学経済学部助教授

Graduate School of Economics and Graduate School of Business and Commerce,

Keio University 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345, Japan

Page 2: KEIO UNIVERSITY MARKET QUALITY RESEARCH …ies.keio.ac.jp/.../old/gcoe-econbus/pdf/dp/DP2006-037.pdf本稿では、2004 年から2006 年までのKHPS の所得情報を用い、同一個人の異時点間の所得

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貧困の動態分析

-KHPSに基づく 3年間の動態-

石井加代子・山田篤裕

【要約】

本研究では、KHPS により直近 3 年間の日本における貧困動態分析を試みた。

所得格差の拡大が指摘されている近年、貧困層において固定化が見られるのか、

またどのような世帯類型において継続的な貧困状態に陥る確率が高いのか、など

について分析した。さらに、得られた結果と経済協力開発機構(OECD)の既存統

計とを比較することで国際的にみた日本の貧困動態の特徴を確認した。

分析の結果、貧困はすべての人にランダムに起こり得る現象ではないこと、ひ

とり親世帯や世帯主が低学歴である場合、継続的に貧困に陥る可能性が高いこと、

継続的貧困か一時的貧困かで資産の保有状況に明確な差があること、などが分か

った。貧困動態の国際比較からは、日本における貧困は、英語圏諸国ほど深刻で

ないものの、大陸ヨーロッパ諸国に比べ貧困率のみならず貧困層の固定化におい

ても楽観を許す状況にはないことが明らかになった。

第1節 はじめに 本稿では、2004 年から 2006 年までの KHPS の所得情報を用い、同一個人の異時点間の所得

変化を追うことで、貧困の動態分析を行う。貧困層の固定化の有無、貧困の期間、貧困層の属性

を分析することにより、従来の静態的分析では観測できなかった側面を明らかにすることを目的と

する。さらに、ほかの(OECD)加盟国の貧困動態と比較することにより国際的にみた日本の特徴を

浮き彫りにすることも目的とする。

日本における所得格差の拡大はたびたび指摘されているが、貧困率に関しても 90 年代半ば以

降で増加傾向にあることがいくつかの研究により報告されている(橘木・浦川,2006 など)。OECD

の Förster and Mira d'Ercole (2005) による所得格差および貧困率に関する国際比較においても、

所得格差のみならず、相対的貧困で測った貧困率において、日本は OECD加盟国の中で高いほ

うに位置することが確認できる(表 1)1。ここでの相対的貧困の定義は、等価可処分所得2の中位値

1 Förster and Mira d'Ercole (2005)で用いられているデータは、各国の専門家により個票レベルから統一的な方法で再集計されたものに基づいている。とはいえ、世帯単位や税の取り扱い、所得の上限・下限の設定

などでいくつかの相違が存在する。こうした相違により、各国の各指標にバイアスがどのようにかかって

いるのか不明であり、単純な順位付けには留保が必要である。 2 等価可処分所得とは、世帯単位の所得を個人単位に変換したものであり、世帯所得を世帯員数の 0.5乗で割ることによって求められる。たとえば世帯所得が 400万円で世帯員数が 4人の場合、各世帯員は 200万円の所得を享受していると考えるのである。ここには 2つの暗黙の仮定があり、世帯員が大きくなるほど規模の経済性がその世帯内に働き、世帯所得はその世帯内の世帯員に等しく分配されている、とされて

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の 50%以下で、表 1 によると、日本では 7 人に 1 人が相対的貧困となっており、格差ばかりでなく

貧困にかんしても日本は問題をかかえている可能性が示唆される。

ただし貧困率の上昇を指摘する研究の多くは横断面データによる静態的分析であり、ある時点

において貧困と分類された人が次の時点においても貧困であるかは問われない。そのため、これ

ら横断面分析からは、より深刻な事態、すなわち貧困層が固定化し、貧しいものがより貧しくなって

いるかまで知ることはできない。このような貧困の「動態」を分析するには、同一個人の異時点間に

わたる所得情報が必要となる。日本においても、これまでいくつか貧困の動態分析がなされている

が、年齢や性別などにより調査対象が限定されたデータに基づく分析であることがほとんどである。

先行研究におけるこのような限界をふまえ、本稿では、幅広い年齢層を対象とした KHPSに基づき、

日本全体を見わたしたときの貧困の動態的側面を明らかにする。

表 1:OECD加盟国の格差指標と貧困指標(2000年)

格差指標 貧困指標

Gini係数 貧困率

ベルギー 27.2 7.8 n.a.デンマーク 22.5 4.3 0.53フランス 27.3 7.0 0.48ドイツ 27.7 8.9 0.40ギリシャ 34.5 13.5 0.49アイルランド 30.4 15.4 0.48イタリア 34.7 12.9 0.41ルクセンブルク 26.1 5.5 0.60オランダ 25.1 6.0 0.51ポルトガル 35.6 13.7 0.57スペイン 30.3 11.5 n.a.スウェーデン 24.3 5.3 0.52イギリス 32.6 11.4 0.43カナダ 30.1 10.3 0.49アメリカ 35.7 17.1 0.52日本 31.4 15.3 0.38

貧困線の相対水準

注)等価弾性値を世帯員数の 0.5乗とおく、等価可処分所得に基づく計算。Gini係数は所得格差指標として最もよく使われており、完全平等では 0%になり、所得の独占状況(完全不平等)では 100%となる指標である。貧困率は、ここでは中位等価可処分所得の 50%を貧困線とおいた場合の貧困線以下の人口割合である。また、貧困線の相対水準とは平均的生産労働者の手取り所得の比のことである。なお、ベルギーとスペインの Gini係数と貧困率は 1990年代半ばの数字である。

出所)Förster and Mira d'Ercole (2005)から抜粋。

なお、本稿の分析では中位等価所得の 50%以下を貧困とする相対的貧困指標を用いる。貧困

の分析を行う上で、貧困線をどこに設定するかは重要な課題であり、相対的貧困指標を採用する

理由を以下に明記する。

これまで日本国内における多くの貧困研究では、貧困線として生活保護の基準(扶助基準)が

用いられてきた。扶助基準は日本国憲法第 25条が保障する健康で文化的な生活水準を維持する いる。世帯員数の 0.5乗を等価尺度という。さまざまな等価尺度がこれまで考案されているが、OECDによる国際比較では世帯員数の 0.5乗が用いられ、これをとくに OECD scaleと称する場合もある。

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ことのできる最低限度を具体化した基準である。現在、その水準は一般世帯の消費支出の 6 割強

に設定されており、その意味で相対的な基準3といえる。したがって、相対的貧困指標は、現在の

日本における「最低限度」の概念と整合的である。

ただし、国際比較を念頭に置いた場合、各国の貧困率計測のために、各国の公的扶助制度で

各々用いられている扶助基準を(相対的)貧困線として用いることは膨大な量の作業を伴う。その

ため、本稿では国際比較分析で多用されている中位等価所得の 50%4を便宜的に採用する。なお、

平均的生産労働者の手取り所得との比でみた貧困線の水準は日本では 38%で、とくに高いわけ

ではない。むしろ他の国と比較してやや低いところにある(表 1)。

本稿は以下のような構成で分析を進めていく。次節で先行研究を概観したのちに、第 3 節では

まずKHPSの所得情報にかんして既存統計との比較を行い、KHPSが所得分布をどれほど的確に

捉えているか慎重に吟味する。続く第 4節では KHPS を用いて貧困の動態分析を行う。遷移確率

表により各階層間の移動の程度を確認したうえで、世帯属性により、どのような種類の貧困を経験

しやすいか、あるいは貧困状態への突入・脱出およびその期間について明らかにする。この節で

はパラメトリックな分析も行う。さらに第 5節では、KHPSと同じく 3 Wave以上の各国のパネル・デー

タを用いた OECDの既存統計との比較検討を行い、日本の貧困動態の特徴を明らかにする。

第2節 既存研究とその限界 貧困線をどこに設定するか、所得の定義、利用データの対象範囲によって、計測される貧困率

には必ずしも統一的な結果は得られないが、多くの研究で、1990年代以降日本における貧困率が

上昇傾向にあることが報告されている。これら貧困率の拡大を報告する多くの研究は、横断面デー

タにより静態的貧困率の推移を表しており、貧困期間や貧困に陥る原因、貧困から抜け出す要因

といった貧困動態について捉えることはできない。貧困動態にかんする分析は、大規模パネル・デ

ータの利用が可能になったことで、諸外国ではかなりの研究蓄積が存在するようになった5が、日本

ではさほど多くない。

独自の実地調査により貧困動態を研究したものとして、代表的なものに、江口(1979,1980)や

岩田(1995)をあげることができる。江口(1979,1980)は 3 巻に及ぶ大作で、貧困層に陥落する

3 より具体的には扶助基準(1類費+2類費)は現在、水準均衡方式とよばれる方法によって改定され、食費などの個人別支出(1類費)および光熱費等の世帯の共通経費(2類費)がそれぞれ設定されている。生活保護制度発足当初、扶助基準は生きていくために必要な年齢別栄養所要量から計算されており、その意

味では絶対的貧困の概念に基づいていた。しかし、その後、扶助水準の改定方式は変更され、1965年から83年までの格差縮小方式(一般世帯と生活保護世帯の消費支出の格差を縮小する方式)を経て、1984年からは一般国民の消費水準との比較において相対的に設定するため、一般世帯の消費支出の 6割強の水準に均衡させる現在の水準均衡方式となった。 4 後述されるように、KHPSでは等価「可処分所得」が計算できないので、中位等価「総所得」の 50%を用いる。ただし、これも後述されるように、日本の場合、所得分布の形状は等価可処分所得と等価総所得

でほぼ等しい。なお OECDでは中位等価可処分所得の 50%が貧困線に用いられるが、欧州連合(EU)などでは 60%が用いられている。 5 貧困研究の歴史が古いイギリスで、貧困研究におけるパネル・データの有用性を説いたものに Jenkins (2000)や Hills(2004)などがある。

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人々の貧困以前の属性や、貧困層の固定化の様相について、質的な社会調査により丹念に分析

している。岩田(1995)では、厚生施設や簡易宿泊所における記録資料や実地調査をとおし、不定

住貧困者の属性や貧困にいたるまでの経緯を調べ上げている。いずれの研究においても、綿密な

調査により、数量分析からは得難い貧困者の生活状況が克明に描かれている。

パネル・データを利用した貧困の動態分析には、原田他(2001)、樋口他(2003)、岩田・濱本

(2004)、山田(2004)、濱本(2005)などをあげることができる。原田他(2001)では 東京都老人総

合研究所「全国高齢者の生活と健康に関する長期縦断調査(JAHEAD)」を用いて、健康状態の

悪化や男性配偶者との死別が貧困突入リスクを高める要因であることを明らかにしている。また社

会経済的地位が低いほど、貧困突入のリスクが高いことも明らかにしている。同調査を用いた山田

(2004)は、女性の貧困リスクに焦点を当て、高齢女性の貧困が男性配偶者の職歴に大きく影響さ

れること、また現行の公的年金の給付水準は男性配偶者の死亡時における貧困リスクを軽減する

のに不十分なことを示した。家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」を用いた樋口他

(2003)では、1990年代後半以降で夫の収入における格差の拡大と所得階層の固定化が強まって

いることを指摘し、妻の就業がその格差を穴埋めしているか否かについて分析している。その結果、

夫の所得の低い世帯では就業する妻の賃金が低く、夫の所得における格差を縮小するまでは至

らないことを明らかにしている。岩田・濱本(2004)および濱本(2005)でも同調査を用い、貧困動態

を分析している。岩田・濱本(2004)では、何年にもわたり貧困状態にあり続ける人々の生活状態に

ついて、預金の有無や耐久財の保有といった観点から分析している。

以上の研究で用いられたパネル・データは高齢者あるいは壮年期の女性などを対象とするもの

であり、各々の研究目的にはよく合致したものである。しかし、国際比較から浮き彫りになった日本

全体の貧困率の高さを分析するには、より幅広い年齢層を捉えた情報に基づく分析が必要である。

そこで、本稿では 20-69歳男女を調査対象6とする 3時点の KHPSに基づき、日本全体を見わたし

たときの貧困の動態的側面を明らかにしたい。

第3節 KHPS と既存統計との等価所得分布にかんする比較 本節では、KHPSを用いて所得分布を評価することが適切であるかにかんし、既存の大規模統計

と比較することで検討する7。既存統計としては、厚生労働省「国民生活基礎調査」および総務省

「全国消費実態調査(総世帯)」を用いる。具体的には可処分所得および総所得における分布の

相違、世帯員の年齢階級別にみた相対的貧困率について比較検討を行う。

1. 既存統計の可処分所得分布と総所得分布にかんする検討

可処分所得と総所得での所得分布の相違を検討する理由は、KHPSではWave毎に、社会保険

6 ただし 20歳未満 70歳以上の情報も調査対象者と同居している場合には部分的に入手可能である。 7 ここでは所得分布のみにかんする検討を行っているが、木村(2005)では KHPSのより広範な調査項目について既存統計との比較分析を行い、ほぼ既存統計と整合的であるとの結果を得ている。

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料・税の質問方法が異なっている8ので、3 Waveに一貫した方法で可処分所得を計算することはで

きないからである。そのため、可処分所得ではなく総所得(直接税・社会保険料控除前所得)で所

得分布を評価するしかない。しかし、社会保険料・税体系が所得分布の形状を大きく変化させるほ

ど十分に累進的である場合には、総所得に基づく貧困の評価はミス・リーディングなものとなろう。

そこで、まず可処分所得と総所得の分布にどのような違いがあるか、「国民生活基礎調査」と「全国

消費実態調査」に基づいて検討しよう。具体的には、所得十分位毎に可処分所得と総所得のシェ

アの相違を求めることで検討する。

表 2は「国民生活基礎調査(1986、1995、2001年)」と「全国消費実態調査(1999、2004年)」の等

価総所得および等価可処分所得の所得十分位毎のシェアを示している。もし所得が完全平等に

分布しているなら、定義により各所得十分位は全所得にたいして 10%ずつのシェアをもつはずで

ある。しかし、実際の所得分布は完全平等からはほど遠く、所得十分位の低い方では所得シェア

が小さく、高いほうでは所得シェアが大きくなっている。たとえば、「国民生活基礎調査(2001 年)」

では第 I所得十分位は等価総所得で 2.4%、等価可処分所得で 2.2%のシェアを持っているに過ぎ

ない。総所得と可処分所得の違いは税・社会保険料の支払いにあり、両者を比較すると、社会保

険料・税で 0.2%ばかり所得シェアが低下したことがわかる。一方で、「全国消費実態調査(2004

年)」で第 I所得十分位の等価総所得・等価可処分所得を見ると、ともに 3.2%のシェアを持っており、

ほとんど差はない。

表 2:等価可処分所得と等価総所得の十分位毎シェア(%)

国民生活基礎調査 全国消費実態調査

1986 1995 2001 1999 2004

総所得可処分所得

総所得可処分所得

総所得可処分所得

総所得可処分所得

総所得可処分所得

I 3.1 2.9 2.4 2.5 2.4 2.2 3.3 3.3 3.2 3.2II 5.0 5.1 4.6 4.7 4.4 4.4 5.1 5.3 5.1 5.3III 6.4 6.5 6.0 6.2 5.9 5.9 6.2 6.5 6.2 6.4IV 7.5 7.6 7.2 7.4 7.1 7.1 7.2 7.5 7.1 7.4V 8.5 8.7 8.4 8.6 8.2 8.3 8.2 8.5 8.1 8.4VI 9.6 9.8 9.6 9.8 9.6 9.7 9.3 9.6 9.3 9.5VII 10.9 11.0 11.1 11.2 11.1 11.2 10.7 10.8 10.6 10.8VIII 12.6 12.6 12.9 12.9 13.0 13.0 12.3 12.4 12.3 12.3IX 15.0 14.9 15.6 15.4 15.7 15.7 14.9 14.7 14.8 14.7X 21.5 21.0 22.1 21.3 22.7 22.3 22.7 21.4 23.3 21.8合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 出所)金子他(2005)附属表、総務省『全国消費実態調査(2004年)』に基づく筆者らによる集計。

このように両調査で、所得十分位ごとに等価総所得・等価可処分所得シェアの相違を吟味すると

第X所得十分位を除けば 0.3%以下の差に収まり、多くの所得十分位階級では差はほとんどない。

この結果をみる限り、日本の場合、社会保険料・税はさほど累進的ではなく、等価総所得の分布を

8 これは社会保険料・税の回答率が低いため、その回答率を上げるべく、さまざまな質問方法が各Waveで試されたためである。

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それほど大きく変化させていないといえよう。このことは所得分布を分析するのに、日本の場合、等

価総所得を使うか等価可処分所得を使うかにそれほど大きな違いはないことを意味する。したがっ

て、KHPS で 3 Wave に統一的な方法で等価可処分所得が計算できないことは、将来において社

会保険料・税が大幅に累進性を強める場合を除けば、現時点でさほど大きな問題とはならない。等

価可処分所得分布の代わりに等価総所得分布を使っても差し支えないであろう。

2. KHPS と既存統計の総所得分布にかんする検討

次に検討しなければならない疑問は、KHPS の総所得の分布が、「国民生活基礎調査」と「全国

消費実態調査」の総所得の分布にどれほど近いかである。表 3では等価総所得の十分位毎シェア

をこれら既存統計と KHPS とで比較している。KHPS の分布を吟味する前に、まず「国民生活基礎

調査」と「全国消費実態調査」の等価総所得の十分位毎シェアの相違に注目すると、「国民生活基

礎調査」では第 Iから第V所得十分位まで所得シェアが「全国消費実態調査」より低く、「全国消費

実態調査」は第VIから第X所得十分位において所得シェアが「国民生活基礎調査」よりも低くなっ

ている。この観察結果は、松浦(2002)が指摘するように、「全国消費実態調査」と比較して「国民生

活基礎調査」の方が所得分布の両端(低所得層および高所得層)で厚みがあるために起こってい

る。

表 3:等価総所得の十分位毎シェア(%)

―KHPS と既存統計との比較―

国民生活基礎調査(2001年)

KHPS w1(2004年)

KHPS w2(2005年)

KHPS w3(2006年)

全国消費実態調査(2004年)

I 2.2 2.4 2.7 2.8 3.2II 4.4 4.6 4.8 4.9 5.3III 5.9 6.0 6.0 5.9 6.4IV 7.1 7.0 7.0 7.0 7.4V 8.3 7.7 7.9 8.0 8.4VI 9.7 9.2 9.2 9.1 9.5VII 11.2 10.8 10.8 10.7 10.8VIII 13.0 12.6 12.4 12.6 12.3IX 15.7 15.5 15.2 15.3 14.7X 22.3 24.1 24.0 23.7 21.8

注)『国民生活基礎調査』および『全国消費実態調査』は全年齢を調査対象としているが、KHPSは 2004年時点で 20歳未満 70歳以上については調査対象にしていない。

出所)金子他(2005)附属表、総務省『全国消費実態調査(2004年)』、筆者らによる KHPS集計。

次にこれら既存統計と KHPS との比較であるが、興味深いことに、KHPSの各所得十分位のシェ

アは、第 III所得十分位以下では、これら両調査のちょうど中間に位置していることがわかる。

以上から、「国民生活基礎調査」と「全国消費実態調査」とも等価総所得と等価可処分所得の十

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分位毎シェアが近いこと、および KHPS の等価総所得9の十分位毎シェアも低所得層ではこれら 2

つの統計とかなり近いことが示された10。

3. KHPS と既存統計の相対的貧困率にかんする検討

先にも述べたように我々の関心は相対的貧困にある。そこで、さらに KHPS における相対的貧困

率と既存統計の相対的貧困率を世帯員年齢カテゴリー別に比較検討する。なお、ここでは「国民

生活基礎調査」のみを用いる。「全国消費実態調査」の公表統計では世帯員年齢カテゴリー別の

相対的貧困率は公表されていない11からである。

表 4:世帯員年齢別 相対的貧困率(%)

―KHPS と国民生活基礎調査との比較―

国民生活基礎調査 KHPS 総所得可処分所得 総所得 Unbalanced Balanced

(%) 1986 1995 2001 2001 2004 2005 2006 2004 2005 200618-25 a) 10 14 17 17 22 20 18 16 17 1826-40 9 10 12 12 12 12 13 15 12 1241-50 9 10 12 11 9 8 8 11 8 951-65 13 13 14 14 13 11 12 14 11 1166-75歳 b) 23 21 19 21 21 16 13 22 15 14全体 c) 12 14 15 16 13 12 12 14 11 11

注)『国民生活基礎調査』および『全国消費実態調査』は全年齢を調査対象としているが、KHPS は 2004 年時点で 20 歳未満70歳以上については調査対象にしていない。したがって、(a)にかんし KHPS2004では 20-25歳、KHPS2005では 21-25歳、KHPS2006では 22-25歳、(b)にかんし KHPS2004では 66-69歳、KHPS2005では 66-70歳、KHPS2006では66-71歳、(c)にかんしKHPS2004では 20-69歳、KHPS2005では 21-70歳、KHPS2006では 22-71歳が当該調査年次における実際の年齢階級となる。

出所)金子他(2005)附属表、筆者らによる KHPS集計。

表 4 の左半分では「国民生活基礎調査(2001 年)」の等価可処分所得および等価総所得で計

測した相対的貧困率を示している。それとともに相対的貧困率が 3時点 15年間でどれほど変動す

るかを示すため 1986年と 1995年の数字も併記している。表 4の右半分では 3時点の KHPSを用

いて計測した相対的貧困率を示している。また、3 時点で所得等の変数が入手可能なサンプルだ

けに限定したデータ(Balanced Data)とそうした限定を加えないデータ(Unbalanced Data)の両方の

結果を示している。

まず、「国民生活基礎調査」における可処分所得で計測した 1986、1995、2001 年の相対的貧困

9 なお総所得にかんし、Wave1(2004年)では 100万円単位のカテゴリー別選択肢で質問している。Wave2(2005年)、Wave 3(2006年)と整合性を保つために、Wave1にかんしては各選択肢の中央値をあてはめ総所得を定義した。 10 調査対象に 20歳未満 70歳以上が含まれていないにもかかわらず、KHPSがこのように既存統計と近い値を示す理由として、20歳未満 70歳以上と同居している世帯については、等価総所得の計算の際にそれら世帯員の所得情報が含めて計算されていることが挙げられる。 11 世帯主年齢階級別の等価可処分所得に基づく相対的貧困率にかんしては、1999年および 2004年の全国消費実態調査(総世帯)で公表されている。しかしながら、全国消費実態調査では世帯主を世帯を主宰す

るものとして定義する一方、KHPSでは世帯主を最も労働所得が多いものとして定義しているため、比較可能ではない。

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率に注目する。3時点 15年間で最大 7%(18‐25歳)の変動がある。また、いずれの時点でも年齢

階層にたいして貧困率は J型となることがわかる。すなわち、相対的貧困率は 18‐25歳で高く、26‐

50歳にかけて最も低くなった後、65‐75歳で最も高くなっている。そして 2001年では 18‐25歳の相

対的貧困率と 66‐75歳の相対的貧困率は 2%ポイント差になるまでに近づき、U型になってきてお

り、近年、相対的に若年者の貧困リスクが高くなっていることが分かる。

また、「国民生活基礎調査(2001 年)」で等価可処分所得に基づく相対的貧困率と等価総所得

に基づく相対的貧困率とを比較すると、41‐50歳の 1%ポイントと 66‐75歳の 2%ポイントの差を除

けば一致していることが分かる。

次に等価総所得に基づく KHPSの相対的貧困率の値であるが、Balanced Dataで計測した方が、

「国民生活基礎調査(2001年)」の数値に近い。Unbalanced Dataでは若年層で「国民生活基礎調

査(2001年)」との間に 5%ポイントほどの差が出ているが、Balanced Dataでは 1%ポイントほどの差

しかない。もちろん「国民生活基礎調査」が 2001 年であり、KHPS が実施された 2004 年までの 3

年間に相対的貧困率に急激な変化が起こっている可能性は否定できないため、どちらの方が近い

とは断言できない。

ただし注意しなくてはならないのは、貧困の「動態」を分析するために Balanced Dataを用いた場

合、低所得層(第 I 所得五分位)を相対的に多く除外してしまう危険性があることである。表 4 はそ

の可能性を示している。ここでは、いずれかの Wave において脱落もしくは所得変数の無回答サン

プルを 100%とおいて、各 Wave における所得五分位毎の割合を算出している。たとえば、表 5 の

Wave 2におけるサンプルは、Wave 2において所得変数の値は入手可能ではあるが、Wave 1 もし

くは 3 において脱落もしくは所得変数が無回答である。もし、こうした脱落・無回答サンプルが完全

に所得とは関係なくランダムに発生しているなら、各所得五分位における値は 20%ずつになるは

ずである。しかし、3 時点とも明らかに第 I 所得五分位において脱落もしくは無回答サンプルとなる

比率は高くなっていることが表 5からは読み取れる。

表 5:脱落・非回答の所得五分位毎の発生状況(%)

KHPS2004 2005 2006

Ⅰ 26 22 28Ⅱ 19 20 18Ⅲ 18 18 19Ⅳ 21 17 20Ⅴ 16 23 15計 100 100 100

所得五分位

注)2004年では「wave1 で回答していたが wave2 もしくは 3 でサンプル脱落もしくは非回答」、2005年では「wave2 で回答していたが、wave1で非回答もしくは、wave3でサンプル脱落あるいは非回答」、2006年では「wave3では回答していたが、wave1 もしくは 2 で非回答」をそれぞれ 100%とおいて、所得五分位毎の割合を算出している。もし、完全に脱落・非回答がランダムに行われているなら、各所得五分位は 20%ずつになるはずである。

出所)筆者らによる KHPS集計。

こうした脱落・無回答の傾向は当然ながら相対的貧困率の値を変動させる可能性がある。まず、

低所得層が抜け落ちることにより貧困線(中位可処分所得の 50%)が上がる。しかしながら、貧困

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線が上がること自体は貧困率を上げる方向に働くが、低所得層が抜ける結果、逆に貧困率を下げ

る方向に作用するために、両者の影響は相殺している可能性がある。したがって、実際には表 4で

示されたように相対的貧困率の数値自体にそれほど大きな影響を与えていないかもしれない。もち

ろん、Balanced Data にするため脱落・無回答サンプルを除外することで分析結果に何らかのバイ

アスがもたらされている可能性については留保しておく必要はある。

以上のような留保があるとはいえ、これまで見てきたように KHPS は、調査対象者の相違(20 歳

未満および 70 歳以上が調査対象に含まれていないこと)、さらに総所得か可処分所得の相違にも

かかわらず、所得十分位毎の所得シェアおよび相対的貧困率の世帯員年齢カテゴリー別のパタ

ーンにかんして既存統計と多くの類似性を認めることができる。したがって少なくともその定性的な

動きに注目するなら、KHPS を貧困分析に用いることはさほど大きな問題を引き起こさないであろ

う。

第4節 KHPSに基づく貧困動態分析 この節では、所得階層間にどのような移動があるのかについて観察していく。

一時点の相対的貧困率の高さは、ただちに所得分配上の深刻な問題を意味するとはいえな

い。くじ引きのように所得階層間移動が活発で、すべての人が貧困に陥る確率を同じだけ

有しているような状況も考えられるし、その逆に、所得階層が固定的で貧困がある一部の

人にとってのみ起こりやすい状況も考えられる。後者のような状況では、貧困率の高さは

所得分配上の深刻な問題を意味すると考えられる。

より具体的には、将来のため、一時的に仕事を辞めて能力開発をすれば、その間所得はな

くなるが、それが終了して仕事に戻れば、以前よりも所得が増すといった状況が考えられ

る。それぞれの時点での所得を断面ごとに見た場合、情況判断を見誤ることもある。こう

した場合、どのような属性の個人がどのくらいの期間貧困を経験し、どのような属性の個

人が貧困からなかなか抜け出せないでいるのかなど、所得動態を明らかにすることは社会

政策上、重要な意味をもつ。

所得動態を分析する際には、同一個人の所得変動を数年間にわたり追跡したパネル・デー

タの存在が必須である。KHPSの開発により、幅広い年齢層における所得変動を分析するこ

とが日本でもようやく可能となった。

前節で確認したとおり、KHPSの所得データは既存統計とおおむね整合的な値を示してい

る。しかし、いくつか分析上の留保も存在するため、それを最初に指摘しておく。まず、

所得に関する計測誤差の問題である。分析で用いる所得は、断りのない限り昨年 1 年間の

世帯所得(総所得)である。世帯内に就業者が多かったり、収入源が複数である場合、調

査対象となった世帯員がそれらすべてを把握して正確な所得額を報告することは容易なこ

とではない。もし、t 期で所得を過少(過大)に報告してしまい、t+1 期では正確に所得を

報告した場合、t期から t+1期にかけての上方への階層移動が過大(過少)に観測されてし

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まう。別の問題としては、脱落・非回答サンプルによるバイアス問題があげられる。前節

で確認したとおり、低所得層で脱落率・無回答率が若干高い。ただし貧困率にかんして既

存統計と大きな違いはない。これらの問題がデータの信頼性を引き下げるほど深刻でない

と判断し、分析を行っていく。

1. 人々の所得は毎年どれだけ変動しているか?

まずは、人々の所得が毎年どれだけ変動しているのかについて、遷移確率表を用いて概観

する。この表は 2時点間での所得階層間の移動を表すのに便利である。表 6では、1年間の

世帯所得に基づいた等価総所得(I)の中位値(mI)を基準に、I < 0.5mI、0.5mI < I < 0.75mI、

0.75mI < I < mI、mI < I < 1.25mI、1.25mI < I < 1.5mI、1.5mI < Iの六階層間の遷移をみている。

最低所得階層は定義により相対的貧困(等価総所得の中位値の半分以下)と一致している。

表 6では、縦方向にWave 1(w1:2004年)での所得階層、横方向にWave 2(w2:2005年)での

所得階層を表している。所得階層が完全に固定的である場合は、対角線上の網掛け部分が

すべて 100%を示すことになる。完全にランダムに移動する場合には各セルは 17%となる。

表 6 では、w1 で最低所得階層にいたものの約半分(49%)が w2 でも引き続き貧困層にい

ることがわかる。残りの 35%は 1つ上方の階層に移動しているが、中位値の 0.75倍以上の

階層に上がったものは、15%強しかいない。一方、富裕層(等価総所得が中位値の 1.5倍以

上)では階層の固定化が強く、w1で富裕層であったものの 72%が次年度でも同一階層に留

まっていることがわかる。また、各階層において 80%強の人が、同一階層もしくはその周

辺の階層に移動しており、大きく順位が変更するような所得変動は少ないことがわかる。

表 6:第 1期から第 2期での所得階層の移動

N=2,153 wave2での所得階層 (%)wave1での所得階層

I < 0.5mI 0.5mI < I < 0.75mI 0.75mI <I < mI mI < I < 1.25mI 1.25mI < I < 1.5mI 1.5mI < I Total

I < 0.5mI 48.9 35.4 10.2 2.3 1.3 2.0 1000.5mI < I < 0.75mI 10.0 45.6 33.7 6.1 3.6 1.0 100

0.75mI <I < mI 7.1 13.4 47.7 19.2 8.0 4.7 100mI < I < 1.25mI 2.7 5.4 20.9 32.3 26.8 11.9 100

1.25mI < I < 1.5mI 1.0 3.1 12.4 19.7 37.3 26.4 1001.5mI < I 1.8 2.2 3.0 4.9 16.1 72.1 100

Total 11.0 17.7 21.4 13.2 14.0 22.7 100出所)KHPS2006年注) I:等価総所得、 mI:等価総所得の中位値

さて、表 6で示されているように、毎年 49%の確率で貧困者が 1年後も貧困層にとどまる

というペースが続くことを想定すれば、2年後には 24%(=49/100*49/100)のみが継続的に

貧困層に留まることが予想される。これに、貧困層に逆戻りする確率――すなわち w2で貧

困から抜け出したものがWave3(w3:2006年)に再び貧困層に戻る確率――がランダムであ

ると仮定して、9%(=(1-49/100)/6)を足すと、w1 で貧困層にあったものの 33%が w3 でも

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貧困層にあることが予想される。それでは、現実はどうであろうか。表 7では、w1から w3

における所得階層間の移動を遷移確率によって表している。これによると、w1で貧困層に

いたものの 47%が w3でも貧困層にいることがわかり、予想された 33%という数値より 14%

ポイント定着率が高いことが読み取れる。すなわち日本における貧困は万人にランダムに

起こりうる現象ではなく、ある一部の人にとって起こりやすいイベントであることがわか

る。

表 7:第 1期から第 3期での所得階層の移動

N=2,153 wave3での所得階層 (%)wave1での所得階層

I < 0.5mI 0.5mI < I < 0.75mI 0.75mI <I < mI mI < I < 1.25mI 1.25mI < I < 1.5mI 1.5mI < I Total

I < 0.5mI 46.6 29.8 16.1 3.9 1.6 2.0 1000.5mI < I < 0.75mI 13.1 40.8 30.6 7.0 5.1 3.4 100

0.75mI <I < mI 4.7 20.0 41.9 21.4 6.6 5.5 100mI < I < 1.25mI 3.0 6.8 23.9 30.9 21.1 14.4 100

1.25mI < I < 1.5mI 4.2 3.1 9.8 21.8 31.6 29.5 1001.5mI < I 1.4 3.5 4.5 7.5 12.2 70.9 100

Total 11.1 17.7 21.3 14.5 11.7 23.7 100出所)KHPS2006年注) I:等価総所得、 mI:等価総所得の中位値

2. 貧困経験タイプの分類

遷移確率表からは、貧困に陥ったそれぞれの人が、どの程度の期間、貧困から抜け出せな

いでいるかについてはわからない。所得が一時的に低いケースもあれば、常に所得が貧困

線を下回るケースも考えられる。前者の場合と後者の場合では、同じ相対的貧困でも深刻

さの度合が異なる。そこで、3期間のパネル・データを用い、貧困経験のあり方について表

8に示すよう 3つのタイプに分類し12、人々がどのくらいの期間、貧困にはまっているのか

について分析していく。

表 8:2006年の貧困率 と 3年間にわたる貧困経験タイプ別の割合 割合(%)

静態的貧困: 2006年の貧困率 11.1

動態的貧困: 2004-2006年における貧困経験  一時的貧困(3年間に1-2度貧困経験あり) 16.4  常時貧困  (3年間継続的に貧困状態) 4.7  貧困経験なし 78.9

(N=2,153) 100.0

出所)KHPS2006

12 パネルの観測期間がより長い場合には、再発的貧困、すなわち貧困層から抜け出した人が再び貧困層に戻るタイプを区別することができるが、ここでは観測期間が 3年と短いため、それについては一時的貧困と同じに分類しておく。

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12

表 8 では、2006 年時点の貧困率と、調査の対象者の 3 年間における所得の変動が 3 つの

タイプにどのように分類されるのかを表した。3期間中に貧困経験がないものは、サンプル

の 79%で、1~2回貧困を経験したものは全体の 16%、継続的に貧困を経験したものは全体

の 5%になる。3期間中に、少なくとも 1度は貧困を経験したことがある人の割合は全体の

21%で、2006 年における横断面の貧困率 11%の約 2 倍大きい。つまり、貧困層において、

ある程度の出入りがあることを意味する。

3. 世帯属性にみる貧困経験の特徴

これまで、貧困に陥る確率はランダムではなく、ある特定の階層においてのみ高い頻度で

起こり、さらに、貧困の持続期間にいくつかのタイプがあることがわかった。そこで、次

に、どのような属性を持つ人が一時的貧困および慢性的貧困に陥りやすいのか、その確率

について多項ロジット分析によってみていく。W1時点の世帯属性を用い、他の条件を一定

に貧困経験確率を示したのが表 9 である。表の第 1 列目には、各説明変数における貧困経

験なしに対する一時的貧困経験確率の比率(相対リスク比)、第 2列目には、各説明変数に

おける貧困経験なしに対する常時貧困経験確率の比率(相対リスク比)を示している。

世帯類型別に見ると、ひとり親世帯では、核家族や三世代世帯に比較して一時的貧困を経

験する確率は 4 倍、常時貧困に至っては 13 倍と非常に高い。また、単身世帯においては、

年齢に関係なく、核家族・三世代世帯に比較して一時的貧困確率は有意に高いが、高齢者

以外の単身世帯においては慢性的貧困確率も高いことが読み取れる。

世帯主の性別については、女性が世帯主である場合、貧困を経験する確率が高く、特に常

時貧困確率においては世帯主が男性の場合と比較すると 4 倍高いことがわかる。もちろん

これはひとり親世帯や単身世帯・単身高齢者世帯での高い貧困率と重複するところが大き

いであろう。

世帯主の学歴別に貧困経験確率をみてみると、世帯主が中卒である場合、高卒および高

専・短大卒に比較して一時的貧困確率および常時貧困確率がともに高いことがわかる。一

方、世帯主の学歴が高学歴である場合は、貧困確率が有意に低い。学歴の違いが貧困経験

確率に有意な差をもたらしていることがわかる。

また、世帯主が若年層である場合、引退年齢にあるものよりも、両方の貧困タイプにおい

て相対リスク比は大きくなっており、若年層における貧困リスクの高いことを表している。

特に、常時的貧困に関しては、若年層の相対リスク比は有意に高く、貧困にはまる確率の

高さを表している。

就業数については、世帯内で就業者がいない世帯において貧困を経験する確率が高く、就

業者 1 人世帯と比較して常時貧困を経験する確率が 3 倍高い。しかし、興味深いことに、

就業者が 2 人以上の場合では、就業者 1 人の場合と比較して、貧困経験確率において有意

な差がなく、単に就業者が多いほど貧困確率が低いといった形式は見出せない。夫の所得

が低い世帯の方が妻の働いている割合は高いといった「ダグラス=有澤の法則」が示すよ

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うに、貧困から逃れるために、多くの人が働くといった逆方向の因果関係による可能性が

ある。

表 9:各世帯属性が貧困経験確率に与える影響(多項ロジット)

N=2,151 相対リスク比 z値 相対リスク比 z値

世帯類型(レファレンス:核家族および三世代同居)単身(高齢以外) 2.01 2.71 *** 2.36 2.16 **ひとり親世帯 3.71 2.58 *** 12.61 4.76 ***単身高齢 2.93 1.68 * 1.12 0.12

世帯主性別(レファレンス:男性)女性 1.60 2.31 ** 4.24 5.17 ***

世帯主学歴(レファレンス:高卒および高専・短大)中卒 1.85 3.65 *** 3.98 5.17 ***大卒・大学院 0.46 -4.73 *** 0.37 -2.78 ***不詳 1.34 1.20 0.98 -0.05

世帯主年齢(レファレンス:30-64歳)29歳未満 2.35 3.50 *** 4.15 3.86 ***65歳以上 1.44 2.12 ** 1.23 0.65

世帯内就業者数(レファレンス:1人)0人 1.38 1.25 3.27 3.24 ***2人以上 0.78 -1.57 0.83 -0.63不詳 1.08 0.46 1.07 0.20

Log-Likelihood -1219.67

出所) KHPS2006注1) ***:1%有意水準、**:5%有意水準、*:10%有意水準

注3) 世帯情報はすべてwave1時点におけるもの。注4) 一時的貧困:3期間中、1~2度貧困を経験,常時貧困:3期中継続的に貧困。

注2) 世帯主性別欠損サンプル1件、世帯主年齢欠損サンプル1件を除く2,151人サンプル対象。

一時的貧困 常時貧困貧困経験なし 貧困経験なし

4. 貧困離脱・貧困突入と収入の変化

次に、所得源泉別に収入の変化に着目して、貧困への脱出・突入を引き起こす要因につい

てみていく13。

KHPS調査の設計上、所得源については、調査対象者とその配偶者のみについて月収単位

でしか得ることができない。したがって、この項では分析サンプルを、収入のあるものが

調査対象者およびその配偶者のみの世帯、すなわち、単身世帯(単身高齢者も含む)、核家

族世帯で子供が就業していない世帯(対象者が夫または妻。高齢世帯、ひとり親世帯も含

13 貧困状態への流出入に関わる出来事として、世帯人員数の増減といった世帯変動や、就業者数の変動、そして純粋な所得変動があげられる。OECD(2001)や Jenkins(2000)において、貧困状態への流出入に関わる出来事のほとんどが所得変動によるものであり、世帯変動が説明できる部分は少ないとされる。日

本の貧困動態がどの部分で主に説明できるかについては、国際比較分析の節であらためて検討する。

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14

む)に限定する14。可能な限りサンプル数を大きくするため、月収情報については少なくと

も 2期間連続して情報が得られる 1,654サンプルを分析対象とした15。

このサブ・サンプルの貧困率は 9.6%であり、全サンプルを対象とした貧困率より若干低い。

サブ・サンプルのうち、3 年間で貧困への突入が観測されたケースは 58 件、貧困からの脱

出が観測されたケースは 82件である。なお貧困線については前項までの分析と同様、全サ

ンプルで計測された等価総所得の中位値 50%を基準としている。

表 10 貧困突入・脱出の際に前期からの変動額のもっとも大きかった収入項目

貧困突入(N=58) 貧困脱出(N=82)

(%)貧困突入に際して

減少額が最大だった項目貧困脱出に際して

増加額が最大だった項目

夫の勤労所得 38 44妻の勤労所得 3 4事業・内職収入 10 11財産収入 0 1社会保障給付 21 10受贈金・仕送り金 5 2その他の収入 9 4各収入項目の減少なし 14 24Total 100 100

出所) KHPS2006

t-1期 --> t期

表 10の第 1列目で、t-1期に貧困でなかったものを対象に、t期に貧困に突入したサンプ

ルにおいて、貧困突入に際して、減少額が最大であった収入項目の割合を示している。す

なわち、t-1期から t期に貧困へと突入した 58件のサンプルのうちの 41%(=38+3)が、

貧困突入に際し、勤労所得の減少額が最大であったと理解できる。また、社会保障給付の

減少額がもっとも大きかったサンプルが貧困突入ケースの 21%と多い。社会保障給付の減

少額が最大であったと答えるサンプルの半数が 60歳以上で、そのほかにも、若年世代にお

けるひつ業給付の給付終了などが貧困突入の要因の 1つにもなっている。

次に表 10の第 2列目で、t-1期に貧困であったものを対象に、t期に貧困から脱出したサ

ンプルにおいて、脱出に際して、増加額が最大であった収入項目の割合を示している。こ

こでも、t-1期から t期に貧困から脱出した 82件のサンプルのうちの 48%(= 44+4)が、

貧困脱出に際し勤労所得が増加額最大の項目であったことがわかる。貧困脱出者のうち、

勤労所得の増加額が最大とする該当者の割合がもっとも高い。サンプルの 10%は、社会保

障給付が貧困脱出に際して、もっとも増加額の大きかった収入項目であり、勤労所得や事

業・内職収入についで、2 番目に重要な要因である。ちなみに、社会保障給付の増加額が貧 14 対象者の世帯の就業者が対象者やその配偶者でない場合、もしくは、対象者とその配偶者以外にも就業者が存在する場合、調査対象者とその配偶者の月収情報のみを用いて、その世帯の所得の変動の要因を分

析することはできない。そのため、3世代世帯や核家族で子供が就業している世帯、核家族で回答者が子供(w1時点で 20歳以上)のケースは分析対象から外れる。 15 なお世帯所得については前項までの分析と同様、3期間連続して情報が得られるサンプルに限定している。

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15

困脱出に際してもっとも大きかったサンプルの 8割は 60歳以上の高齢者で、引退過程にあ

るものと考えられる。

以上のようにサンプル数が限られていることが最大の難点であるが、少なくともこれまで

の分析で、貧困への脱出・突入においては、勤労所得の変動に加え、社会保障給付が貧困

に与える影響が大きいことが明らかになった。言い換えれば、貧困を引き起こす要因も、

貧困からの脱出を助ける要因も、一次分配による所得――すなわち就業によって得る所得

――に加え、公的な再分配制度によって得られる所得も、重要となることがわかる。

5. 貧困世帯の就業形態・資産

この節の最後に、就業形態および資産と貧困との相関について概観しておこう。

働いて勤労所得を得ることが、貧困状態を避けるための重要な条件であるが、前項でみた

ように世帯内に就業者が複数いても、貧困に陥っているケースがみられる。そこで、まず、

調査対象者もしくはその配偶者が世帯主で勤労者であるサンプルに限定し、働く貧困者の

就業状況についてみてみよう(表 11)。

ここでは、一時的貧困・常時貧困とは異なる、慢性的貧困という貧困タイプに着目して分

析を行う。慢性的貧困とは 3 期間の等価総所得の平均額が貧困線を下回っている状態をさ

す。3年間の平均所得で測るため、慢性的貧困は常時貧困よりも高くなる傾向がある。なお

貧困線については前項までの分析と同様、全サンプルで計測された等価総所得の中位値の

50%を基準としている。

表 11 世帯主の就業形態別にみた慢性的貧困の割合

N=1,623 非慢性的貧困 慢性的貧困 2005年時点の貧困率自営業・家族従業員・自由業 88% 12% 12%在宅就労・内職・委託・請負 80% 20% 14%雇用者 94% 6% 7%  うち 常勤 97% 3% 4%  うち 非常勤 79% 21% 24%出所)KHPS2006注1)回答者もしくはその配偶者が世帯主であるサンプル注2)慢性的貧困とは3期間の等価総所得の平均が貧困線以下にあるケースをさす。

表 12 貧困経験タイプ別 資産保有状況

(%) 非慢性的貧困 慢性的貧困貯蓄がない 15.2 32.5貯蓄が貧困線の2ヶ月分以下(貯蓄なし含む)注3) 17.8 44.8エアコンがない 16.5 38.1住宅を保有していない 21.1 33.3

出所) KHPS2006注1) 2005年(wave2)時点でみている。注2) 慢性的貧困とは3期間の等価所得の平均が貧困線いかにあるケースをさす。注3) 2005年の貧困線は月額単位で13万円。

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16

全体的にみて、雇用者の慢性的貧困の割合が低く、特に常勤雇用者の場合、貧困割合が僅

かしかないことがわかる。一方、非常勤の雇用者については、慢性的貧困割合が 21%と高

く、非常勤職の不安定さを物語っている。同様に、在宅就労・内職・委託・請負といった

非典型的就業形態において貧困割合が高い。

次に、貧困者の資産(ストック)に着目しよう。表 12 に示されているように、いずれの

項目においても、慢性的に貧困を経験していると、貯蓄、エアコン、住宅といった資産の

保有割合が低い。貯蓄に関しては、貧困線の 2 ヶ月分(26 万円)以下の貯蓄しか保有して

いない人の割合は、慢性的貧困者で半数弱確認できる。

以上、第 4節の分析結果をまとめると、貧困はすべての人にランダムに起こる現象ではな

く、ある特定の所得階層にとって起こりやすい現象であることがわかった。世帯属性別に

貧困に陥る確率についてみると、核家族世帯や世帯主が女性、低学歴、非典型的就業者の

世帯において、有意に貧困確率が高い。また、一時的貧困か常時貧困かで資産の保有にか

んして明らかな差が存在している。最後に、貧困から脱出・突入する際の大きな要因は、

勤労所得の増減であるが、それに加え、社会保障給付の増減も重要であることがわかった。

第5節 貧困動態の国際比較

OECD(2001)では、ヨーロッパ、カナダ、アメリカの計 14カ国におけるパネル・データ

(3年間)を用いて、貧困動態について国際比較している。この分析には日本は含まれてい

ない。本節では KHPSを利用することで、OECD(2001)との比較を通じて、国際的にみた

日本の貧困動態の特徴を明らかにする。

OECD(2001)との比較可能性についてはいくつかの留保がある。まず OECDの分析対象

年は 1993‐1995年であり(アメリカについては 1987‐1989)、KHPSの 2004‐2006年と 10

年ほどの時間差がある。また OECD(2001)では、等価可処分所得を用いており、等価総所

得を用いる KHPSとの不一致が存在する。さらに KHPS では 70歳以上および 20歳未満が

調査対象となっていない。なお計測期間における各国の経済状況も貧困動態指標に影響を

及ぼしている可能性があり、各国の単純な順位付けには注意が必要であることを付言して

おく。

3年の調査期間中に 1、2度貧困を経験した割合、すなわち一時的貧困率は、日本では 16%

とヨーロッパ平均の 19%より低い。その一方、常時貧困と慢性貧困については、それぞれ

5%と 10%で、ヨーロッパ平均の 4%と 8%よりも若干高い。アメリカやポルトガル、ギリシ

ャ、スペイン、イタリアといった南欧諸国と比較すれば、いずれの貧困率も低いが、その

他大陸ヨーロッパ諸国や北欧諸国と比較すると、常時貧困、慢性的貧困率は高い。第 1 節

でみたように日本では一時点での相対的貧困率が高いばかりではなく、貧困層が少なから

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ず固定化する傾向が読み取れる。また、アメリカはこの表を見る限り、常時貧困者割合が

高く、必ずしも所得階層は流動的で再チャレンジがしやすい国とはいえない。

表 13:さまざまな貧困指標による比較

一時的貧困率 常時貧困率 慢性的貧困率

ベルギー 16.0 2.8 5.2デンマーク 9.1 0.8 1.8フランス 16.6 3.0 6.6ドイツ 19.2 4.3 8.1ギリシャ 25.1 6.5 12.2アイルランド 15.3 1.3 5.3イタリア 21.5 5.6 10.4ルクセンブルク 12.7 2.2 5.1オランダ 12.9 1.6 4.5ポルトガル 24.2 7.8 13.4スペイン 21.3 3.7 8.7イギリス 19.5 2.4 6.5ヨーロッパ平均 19.2 3.8 7.9カナダ 18.1 5.1 8.9アメリカ 23.5 9.5 14.5日本 16.4 4.7 9.8出所) OECD(2001)Table2.1、KHPS2006注1) 一時的貧困:3期間中、1~2度貧困を経験したもの    常時貧困  :3期間中、継続的に貧困を経験したもの    慢性的貧困:3期間の所得の平均が貧困線以下のもの

(%)

次に、貧困でない人々が 1年間に貧困に陥る確率(貧困突入確率)と、貧困に陥っていた

人が 1年間に貧困から抜け出す確率(貧困脱出確率)、および、貧困経験者における平均貧

困経験期間について確認しよう(表 14)。

表 14:1年間における貧困突入・脱出確率、および平均貧困経験期間

貧困突入確率 貧困脱出確率 平均貧困期間(年)

ベルギー 4.7 48.2 1.6デンマーク 3.1 60.4 1.4フランス 4.6 46.9 1.6ドイツ 5.1 41.1 1.7ギリシャ 6.5 38.8 1.8アイルランド 5.0 54.6 1.5イタリア 5.3 40.6 1.8ルクセンブルク 3.6 47.4 1.6オランダ 4.2 55.7 1.5ポルトガル 5.4 37.0 1.9スペイン 5.9 49.6 1.6イギリス 6.0 58.8 1.5ヨーロッパ平均 5.2 46.1 1.7カナダ 4.8 36.4 1.8アメリカ 4.5 29.5 2.0日本 5.0 47.1 1.7出所) OECD(2001) Table2.2、KHPS2006

(%)

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まず、相対的貧困率が高いアメリカでは、貧困突入確率は 5%とヨーロッパ平均とほぼ同

程度であるが、脱出確率は 30%とヨーロッパ平均の 50%と比較して大幅に低く、貧困層の

固定化が懸念される。それを反映して平均貧困期間も 2.0年と比較的長い。日本は貧困突入

確率、脱出確率とともにヨーロッパ平均と同程度である。

一度貧困から脱出した人が再度貧困に陥り易い場合には、慢性的貧困率および貧困突入・

脱出確率が同時に高くなる。表 13で確認したとおり、日本ではヨーロッパ平均と比べると

一時的貧困率は低いが、慢性的貧困率は高い。もし特定の人々が貧困への出入りを繰り返

していることで、貧困の突入確率と脱出確率を同時に高めているのならば、貧困層の固定

化が起きている可能性がある。ただし、こうした貧困への「再突入」の分析には、より長

期にわたるパネル・データが必要となるため、その解明は今後の課題である。

表 15:貧困経験者に占める各貧困期間の分布

/および貧困観測数に占める各貧困期間経験者の分布

貧困経験1年 貧困経験2年 貧困経験3年 貧困経験1年 貧困経験2年 貧困経験3年

ベルギー 57.5 25.2 17.4 35.9 31.5 32.6デンマーク 71.6 20.1 8.3 52.4 29.4 18.2フランス 54.9 26.8 18.3 33.6 32.8 33.6ドイツ 48.6 29.2 22.2 28.0 33.6 38.4ギリシャ 47.1 27.0 25.9 26.3 30.2 43.5アイルランド 59.3 32.4 8.3 39.8 43.5 16.8イタリア 48.8 25.0 26.2 27.5 28.2 44.3ルクセンブルク 55.0 27.9 17.1 33.9 34.4 31.6オランダ 62.8 25.1 12.1 42.0 33.6 24.4ポルトガル 41.7 26.0 32.3 21.9 27.2 50.9スペイン 55.6 27.1 17.3 34.4 33.5 32.0イギリス 65.4 22.3 12.3 44.6 30.3 25.1ヨーロッパ平均 53.9 26.2 19.9 32.4 31.5 36.0カナダ 47.0 24.8 28.2 26.0 27.4 46.7アメリカ 36.9 22.5 40.6 18.1 22.1 59.8日本 50.5 27.1 22.5 29.3 31.5 39.2出所) OECD(2001) Table2.3、KHPS2006

(%) (%)

貧困観測数に占める各貧困期間経験者の分布貧困経験者に占める各貧困期間の分布

さらに、貧困の持続期間について掘り下げていこう。表 15 の左側では、貧困経験者のう

ちで、各貧困経験期間の割合を表している。これにより、3年間に貧困を経験した人々がど

のくらいの頻度で貧困を経験したのかについて知ることができる。いずれの国においても、

貧困経験者の半数前後が 1 年間のみ貧困を経験しているもので占められている。日本にお

ける 1 年間の貧困経験割合は 51%であり、アメリカの 37%と比較するとはるかに高いが、

ヨーロッパ平均 54%と比較すると若干低い。一方、貧困経験者に占める貧困経験 2 年以上

の人の割合は 27%、貧困経験 3 年以上の人の割合は 23%と、ほぼヨーロッパ平均に近い。

貧困率が高いアメリカや南欧諸国では、2年以上の貧困経験が占める割合は日本よりはるか

に高いが、その他のヨーロッパ諸国と比較すると、日本における長期の貧困経験者の割合

は若干高いことが分かる。

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表 15 の右側では、貧困観測数に占める各貧困期間経験者の割合を表している。このよう

な見方をすることで、対処すべき貧困にどのようなタイプのものが多いのかを知ることが

できる。日本においては貧困層の 39%が 3 年間ずっと貧困を経験している人によって構成

されている。ここでも、貧困率の高いアメリカや南欧諸国よりも低い割合を示しているが、

ヨーロッパ平均よりは 3%ポイント高く、日本では階層間移動がそれほど多くないことがう

かがえる。

最後に、貧困突入・脱出がどのようなイベントと付随して発生しているのかについて、表

16 で確認する。世帯内就業者数の増減がしばしば世帯人員数の変化と同時に起こることを

考慮し、各 4 列目に、世帯人員数の変化が起こらなかった場合の就業者数の変動ケースも

載せている。表 16から、日本においては貧困突入・脱出に際し、世帯内の就業者数の増減

はさほど重要な要因となっていないことが読み取れる。日本における貧困者がひとり親世

帯や単身世帯、高齢世帯に多く、このような世帯では就業者の増減が 3 年の間にはあまり

起こらないためと考えられる。その結果、世帯内の就業者数の増減が貧困突入・脱出と関

係がある国が多いが、日本においては、就業者の増減よりも世帯人員数の変化の方が影響

がやや大きいように見受けられる。

表 16:貧困突入・脱出と世帯人員数の変動および世帯内就業者数の変動

観測数世帯人員数の変化(a)

就業者数の減少(b)

世帯人員の変化なしの場合の就業者数の減少(c)

所得変動による貧困突入(世帯人員数の変化・就業者数の減少なし)

100- (a + c)

観測数世帯人員数の変化(d)

就業者数の増加(e)

世帯人員の変化なしの場合の就業者数の増加

(f)

所得変動による貧困脱出(世帯人員数の変化・就業者数の増加なし)

100- (d + f)

ベルギー 632 16.5 30.7 20.7 62.8 573 9.9 22.7 18.2 71.9デンマーク 339 39.0 32.9 15.2 45.8 262 20.7 22.8 16.3 63.0フランス 1285 27.1 21.5 10.8 62.1 1333 14.4 32.5 26.9 58.7ドイツ 936 21.6 24.6 15.9 62.5 954 11.3 25.5 21.9 66.8ギリシャ 1481 21.4 37.4 25.6 53.0 1566 18.7 31.1 22.2 59.1アイルランド 784 32.2 36.4 21.0 46.8 655 20.8 35.0 27.7 51.5イタリア 1702 25.6 34.9 21.4 53.0 2045 20.2 30.4 23.6 56.2ルクセンブルク 185 31.7 33.8 (15.6) 83.9 183 24.2 18.9 (10.1) 85.9オランダ 848 28.6 .. .. 684 23.6 .. ..ポルトガル 1315 22.3 47.6 35.5 42.2 1696 17.6 48.0 41.2 41.2スペイン 1897 25.3 42.9 30.1 44.6 2084 16.7 41.8 34.5 48.8イギリス 1015 25.9 27.0 16.2 57.9 1062 12.1 26.6 20.5 67.4ヨーロッパ平均 12419 24.8 30.3 18.4 56.8 13097 15.2 30.9 24.2 60.6カナダ 2182 41.2 30.0 9.3 49.5 1980 31.5 29.4 15.6 52.9アメリカ 564 37.5 42.3 15.0 47.5 698 27.0 30.5 19.1 53.9日本 162 27.8 26.5 (14.8) 57.4 229 21.4 13.4 (9.6) 69.0出所) OECD(2001) Table2.5およびTable2.6、KHPS2006注) ()内は該当数30件以下によるもの

貧困突入 貧困脱出(%) (%)

さらに、各 4列目には、貧困突入・脱出が世帯人員数および就業者数の増減と関係なく起

こった割合を示している。ここに該当するケースは、貧困突入・脱出が(就業者数の変動

によらない)純粋な所得変動によって引き起こされたものであると考えられる。表 10に戻

って結果を比較すると、分析サンプルの違いにより数値に合致は見られないものの、どち

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らの分析においても、この所得変動が貧困突入・脱出に対して日本ではより重要な要因で

あることを表している。

以上、第 5節の分析から、貧困の動態分析を通じて、日本の貧困について以下のことがわ

かった。まず、大陸ヨーロッパ諸国と比較して、日本では一時点の相対的貧困率が高く、

貧困に長く留まってしまう人々、すなわち、常時貧困者、慢性的貧困者の割合が高いこと

がわかった。また、貧困層への流出入は他の国よりも比較的頻度が高いが、一時的貧困割

合が低く、慢性的貧困割合が高いことからも、実際には(就業者数の変動によらない)純

粋な所得変動によって貧困層への出入りを繰り返している「ボーダーライン層」が存在し

ており、大陸ヨーロッパ諸国と比較すれば貧困層の相対的な固定化が懸念される。

また、国際比較での興味深い点として、長期的失業率が低く、流動的な労働市場を実現さ

せているといわれるアメリカにおいて貧困の固定化は顕著であり、所得階層が流動的な再

チャレンジしやすい国とみなすには疑問があることを付言しておく16。

第6節 おわりに 本稿では、2000年時点において OECD加盟国内で日本の相対的貧困率が英語圏諸国とヨーロ

ッパの中間に位置することを指摘した上で、KHPS を用い 2004年時点で 20‐69歳であった者が 3

年間にどのように相対的貧困を経験するのか、その動態について分析した。このような幅広い年齢

層にかんする貧困動態の分析はわが国ではいまだ希少である。

分析を行うにあたって、2 つの大規模既存統計、「全国消費実態調査」および「国民生活基礎調

査」との比較を行い、KHPS を用いて所得分配状況を吟味することが妥当かどうかについて吟味し

た。その結果、日本では等価総所得と等価可処分所得の十分位毎シェアにほとんど相違がない上、

既存統計と比較すると KHPSは世帯員年齢別の貧困パターンは類似していること、などが示され、

KHPSを用いて貧困動態を分析する妥当性が確認された。

遷移確率表に基づく分析の結果、中位所得 50%以下の貧困層および 150%以上の中高所得

層において、階層内における粘着性がみられた。すなわち、他の所得階層と比較して、これらの所

得階層から他の階層への遷移確率は相対的に低いことが示され、階層の固定化が懸念される結

果となった。また、1時点での貧困率は 11%であるが、タイム・スパンを広げて 3年間に一度でも貧

困に陥った人となると、21%とかなり多くの人が貧困を経験している。さらに、21%のうち、4 割が 3

年間継続して貧困状態にある。

こうした継続的・慢性的に貧困状態にある典型的属性は、世帯主が女性、ひとり親世帯、若年層、

低学歴、非正規職である。さらに、貧困離脱・突入の際に最も重要なのは勤労所得の変動であり、

16 アメリカにおいて失業動態(相対的に容易な失業脱出)が貧困動態(相対的に困難な貧困脱出)と一

致しない理由として、非就業層に貧困者が多く存在すること、また就業者が一人しかいない世帯に低賃金

労働者が多い(すなわちWorking Poorが多く存在する)こと、あるいは子どもが多いひとり親世帯の存在などが考えられる。いずれの解釈も詳細な分析を要するが、失業動態が貧困動態との一致を意味しないこ

とは再チャレンジしやすい社会の真の意味を考える際、重要な論点であろう。

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社会保障給付はその次に重要な収入であった。また継続的に貧困状態にある場合と、一時的に

貧困状態にある場合とでは、貯蓄、住宅保有などの資産面でも明らかな差異があった。

またいくつか留保はあるとはいえ、OECD の既存統計との比較から、大陸ヨーロッパ諸国と比

べて継続的に貧困状態にある者の割合が相対的に高く、また貧困層の出入りを繰り返すものが多

いことも明らかにされた。また世帯人員数や就業者数の変動ではなく、純粋な所得変動による貧困

突入・脱出が相対的に多いことも明らかにされた。これらは「ボーダーライン層」の存在を示唆して

いる。仮に、KHPS が調査対象としていない 70 歳以上を考慮した場合、この年齢階級における貧

困層は自らの勤労所得で貧困を脱出できる可能性は極めて低い上、社会保障給付額の積み増し

も捕捉率の低い生活保護以外望めないため、状況はいっそう深刻であるかもしれない。

こうした結果は一時点の貧困率だけではなく、複数時点における貧困動態にかんしても、日本

はそれほど楽観を許す状況にないことを示唆している。継続的な貧困状態にある層をとくに識別し

た上でのより効果的な社会政策が期待される。またデータとして、KHPS は現時点で 3 Wave のみ

の比較的若いパネル・データであるので、より長期的な貧困動態、すなわちより深刻な貧困状況や

貧困への再突入経路の解明が今後の課題であろう。

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Appendix:変数番号について(wave1:v~, wave2:w~, wave3:x~)

総所得:v1692, w750, x750

月収:v1663-1680, w724-741, x724-741

世帯類型:v9, w9, x9, v3-75, w3-75, x2-75より判断

世帯主性別:v76, w76, x76, v3-75, w3-75, x2-75より判断

世帯主学歴:w76, v106, v803, w108, w116, w361, w369より判断

世帯主年齢:v76, w76, x76, v3-75, w3-75, x2-75より判断

本人年齢:v6, w6, x6

就業者数:v3-75, w3-75, x2-75より判断

就業形態:v76, w76, x76,v218-219, w164-165, x164-165

住宅保有:w804

貯蓄額:v1633, w699, x699

エアコンの有無:w687-688