mn li o co - 名古屋工業大学 創成シミュレーション工学専...
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平成 26年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算応用科学分野
Li イオン二次電池固溶体正極材料の第一原理計算による構造解析
学籍番号: 25413510 氏名: 稲吉 輝
指導教員名: 尾形 修司
1 はじめに
Liイオン二次電池は車載用などの大型電源としても用いられることが検討されるが,更なる高容
量・高エネルギー密度といった高性能化,安全に対
する信頼性の向上,低コスト化が不可欠である.近
年,現在のLiCoO2に替わる高容量正極活物質とし
て,Li2MnO3-LiMO2 (M = Co, Ni etc.) 固溶体材料に興味が持たれている.また,Liイオン二次電池の安全性の問題に対する解決策の一つとして固体電解質材
料が期待されており,結晶性固体電解質材料
Li3xLa2/3-xTiO3 (通称LLTO) が高イオン伝導体として盛んに研究が行われている.しかし電池の多くの性
能は電極材料や電解質そのものの特性だけでなく,
電極/電解質界面の構造と物性に大きく左右されるため,高性能化のためには界面近傍の微視的な構造
や充放電時の化学反応を明らかにする必要がある.
本研究はこのような背景のもとに,第一原理計算に
基づいて (1) 固溶体正極材料内部と,(2) 固溶体正極/固体電解質界面の,初期充電過程における微視的な構造と電荷補償機構について詳細に検討した. 2 シミュレーション条件
本研究で用いられた固体電子構造の計算方法であ
るバンド計算法は,密度汎関数理論に基づく平面波
基底 PAW法[1]によるものである.電子状態計算には第一原理計算コードVASP[2]を用いており,交換相関相互作用にはGGA+U[3]を導入の上,スピン分極を考慮した計算を行っている.Li挙動の計算にはNEB法[4]を用いている. 3 固溶体正極材料内部の計算
固溶体正極材料内部の解析として,Li2MnO3 (LMO) 結晶について,Li 欠損形成エネルギー,Li 脱離に伴う電荷補償,Li 拡散に関しての計算結果を示す.(i) LMOでは従来のLiCoO2正極と異なり,Li脱離に伴う電荷補償は酸素が担うこと (図1),(ii) 遷移金属層からもLiの脱離が行われ得ること (図 2) を系統的に示し,高容量を発現している理由を理論
的に解明している.また,より現実に近いLi+ + Mn4+
→ Ni2+ + Co3+モデル (Co/Ni 置換固溶体モデル) に関して比較検討を行ったところ,(iii) Li脱離に伴う電荷補償は,LMO結晶と違って遷移金属のCoが担うこと (図 3),(iv) Co/Ni近くのLi 欠損形成エネルギー (3.9〜4.1 eV) がLMO領域 (4.54 eV) よりも小さくなることが分かった.これは実験での初期充電
過程における価数変化の報告[5]と一致しており,固溶体材料中における局所構造とCo/Niの置換に伴う初期充電過程の反応機構の一部を解明している.
図 2 : Li2MnO3におけるLi拡散活性化エネルギー. Li2MnO3 には 4h, 2c サイト(Li 層),2b サイト(Li1/3Mn2/3層) の 3つの Liサイトが存在している.Li1/3Mn2/3層からもLiの脱離が行われ得ることが示唆されている.
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Ener
gy [e
V]
Normalized migration path
(b) 4h→2c
(c) 4h→2b
(a) 4h→4h
Mn
O
Li
Li
Li
CoO
図 1 : (a) Li2MnO3, (b)LiCoO2 のLi脱離に伴うホールの 3次元プロット.Li2MnO3では O-2pが Liの電荷補償を担っている.
(a) (b)
平成 26年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算応用科学分野
4 表面・界面モデルの計算
正極LMOと固体電解質LLTOの界面についての計算結果を示す.格子定数の整合性が取れている界
面モデルでLi欠損形成エネルギーを計算したところ,(i) LiLaO終端面とTiO終端面とで顕著な違いがあること (図 4) が分かり,さらに電子状態解析から,(ii) 終端面での差は界面での結合状態の違いに起因していること (図 5) が分かった.本計算結果より,界面抵抗の変化に関与すると考えられているLi空乏層[6]の厚さが終端面に大きく依存し,終端面の制御が界面構築において必須であることが予想される. 5 まとめ 本研究では高容量かつ安全性の高い電池の開発に
向けて,第一原理計算を用いてLiイオン二次電池固溶体正極材料について充放電時の化学反応の解明を
図ったものである.その結果,正極および正極/固体電解質界面の微細原子構造・電子構造と初期充電過
程における反応機構の一部を解明し,材料設計にお
ける新たな指針を示している.本研究のような理論
研究は,実験事実だけからは窺い知ることのできな
い原子・電子レベルの情報を得ることができ,材料
設計上の重要な情報が得られる強力な開発ツールと
なることが示されている.今後,さらに第一原理計
算と高精度な実験計測を組み合わせることにより,
経験を超えた工学の創成が期待できる.
参考文献
[1] P. E. Blöchl, Phys. Rev. B 50,17953 (1994).
[2] G. Kresse and J. Furthmuller, Comput. Mat. Sci. 6, 15 (1996).
[3] V. I. Anisimov, J. Zaanen, and O. K. Andersen, Phys. Rev. B 44,
943 (1991).
[4] G. Mills, H. Jonsson, and G. K. Schenter, Surf. Scie. 324, 305
(1995).
[5] A. Ito, Y. Sato, T. Sanada, M. Hatano, H. Horie, and Y. Ohsawa, J. Power Sources 196, 4785 (2011). [6] J. Haruyama, K. Sodeyama, L. Han, K. Takada, and Y. Tateyama, Chem. Mater. 26, 4248 (2014).
−4 −2 0 2 4
−8 −6 −4 −2 0 2 4 6 8Energy(eV)
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(a) Li2MnO3-Co/Ni (b) with Li-vacancy
Ni-3d
TOTALDe
nsity
of s
tate
s in
f.u.
(eV-
1 ) O-2p
Co-3d
Mn-3d
Ni-3d
TOTAL
O-2p
Co-3d
Mn-3d
図 3 : Li2MnO3-Co/Ni置換モデルにおける (a)Li欠損なし, (b) Co/Ni近くにLi欠損を作成したときの状態密度.Li脱離に伴う電荷補償はCo-3dが担う.
図 4 : LMO/LLTO界面モデルにおけるLi欠損形成エネルギー.終端面で顕著な違いが見られる.
図 5 : 界面形成に伴う電荷密度の変化.黄色は増加,水色は減少を表しており,結合状態に違いが見られ
る.比較的イオン結合的な LiLaO終端では電子のスクリーニングが起こりやすくなり Li 欠損形成エネルギーが下がると考えられる.
La
Mneg
TiO
Mneg
eg
O
(a) La-O : イオン結合
(b) Mn-O : 共有結合
(c) Ti-O : イオン結合