n0 - 岩波書店n0.48 岩波書店 児童書編集部 2014年7月 思春期 (2)...

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N0.48 岩波書店 児童書編集部 2014 年 7 月 思春期 2妖怪なんてこわくない!/みんな、口をあけて歌いだす 3誇らしい2冊 4)/17文字の奥深さ 5思い出のマーニー/奇跡にであう物語 6喪失の先を描く/助けて! ここから出して!(7少年文庫の新刊から 8「読む力」シリーズ、完結/春の復刊のお知らせ 9こんにちは!/ジュニア新書〈夏のフェア〉 10映画・展覧会情報 11夏の少年文庫名作フェア/編集後記 12『こんや、妖怪がやってくる』より もくじ

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  • N0.48岩波書店 児童書編集部

    2014 年 7 月

    思春期 (2)妖怪なんてこわくない!/みんな、口をあけて歌いだす (3)

    誇らしい2冊 (4)/ 17 文字の奥深さ (5)思い出のマーニー/奇跡にであう物語 (6)

    喪失の先を描く/助けて! ここから出して!(7)少年文庫の新刊から (8)

    「読む力」シリーズ、完結/春の復刊のお知らせ (9)こんにちは!/ジュニア新書〈夏のフェア〉 (10)

    映画・展覧会情報 (11)夏の少年文庫名作フェア/編集後記 (12)

    『こんや、妖怪がやってくる』より

    もくじ

  • 2

    期 

     「その言い方、ムカつく」と、中1女子は一瞬でふてくされ、

    不機嫌を家じゅうにまきちらす。思春期は厄介だ。頭が痛い、お

    腹が痛い、脚が痛いと、全身からダルイ空気をたれ流す。口を開

    けば、「キモイ」「ウザイ」のオンパレード。

     

    ははん、そういう年頃よね、わたしも親の一言に無性にイラつ

    いて、家が壊れるくらいバンッ、バンッとドアをたたきつけてい

    たっけ。だが、そうわかってはいても、こちらも生身の人間だ。

    カチンときて、うっかり親の権威をふりかざそうものなら、ます

    ます険悪な雰囲気になって消耗する。まったく母と娘って……。

     

    親をはねつける一方で、友だちを求める気持ちがどんどん大き

    くなっていく10代。自分らしくありたいけれど、どう思われてい

    るかも気になる。無理にまわりに合わせるのは疲れるけれど、か

    といって、ひとりぼっちはさびしい。ほんとうの友だちがほしい

    ……そんなユラユラが伝わってくる。ああ、こんなとき、カニグ

    ズバーグの書く物語に出会ってくれたらなあ。

     

    仲間もほしい。クラス単位で取り組む体育祭や合唱祭といった

    行事や、試合や発表などに向かって日々練習を重ねる部活動は、

    ときに大きな盛り上がりを見せ、10代を夢中にさせる。メンバー

    の性格や能力を互いに認めないとやっていけないし、もめごとが

    起きれば自分たちで乗り越えなければならない。その経験を共に

    して得られた仲間はすなわち自分の居場所となり、充足感は表情

    にあらわれる。だれかをいじめることでつながる連帯にはノーを

    言えるはずだ。思いやりも優しさも、道徳の授業では身につかな

    い。

     「家でツンケンしているのは、学校(子どもにとっては社会)で

    ちゃんと頑張っている証拠、自然な成長の姿ですよ、その反対の

    ほうがむしろ問題です」と担任の先生になだめられたのは何年前

    のことだったか。思春期は大いなる脱皮の時期。身体もどんどん

    変化していく。大事なことも、くだらないことも、いっしょくた

    にむさぼるモンスターは、もがいたり葛藤したりした分、大人に

    なっていくのだろう。

     

    そう、少し距離をおいて見守ることにしよう。『はなのすきな

    うし』の「ふぇるじなんど」のおかあさんのようでありたい。

                              (愛宕)

     

     

    アンケートにご協力お願いします

     

    本誌をお読みくださっている皆様に、小社の児童書と「や

    かましネットワーク」についてアンケートを募集いたします。

    今後の出版活動、広報活動の参考にいたしますので、率直な

    ご意見、ご要望をお聞かせいただけましたら幸いです。

     

    同封のアンケート用紙にご記入のうえ、ファックス 

    03

    (5210)4127まで、お送りください。皆様のご協力を

    お願い申し上げます。   

  • 3

    妖怪なんてこわくない!

     

    ある村に、みんなから恐れられている妖怪がいました。おばあ

    さんは、あるばん、いっしょに暮らしていた子牛を食べられてし

    まい、つぎは自分が食べられる番だといって泣きます。「だいじ

    ょうぶ、きっと助けてあげるから」と、たまご、ぞうきん、かえ

    る、こん棒、火ばさみ、牛のふん、石のローラーが知恵をしぼり、

    力を合わせて妖怪に立ちむかいます!

     

    中国の青海省にすむトゥ族に伝わる昔話。たまごたちが妖怪を

    やっつける展開は、興味深いことに、日本の「さるかに」の仇討

    ちとよく似ています。妖怪はさんざんな目にあいますが、この絵

    本では、どこか愛嬌があって憎めません。

     

    痛快なお話と力強い絵は、幼い子どもたちをひきつけることで

    しょう。お二人合わせると一七〇歳をこえるベテランコンビが、

    心底楽しんで作った4冊目の絵本。ぜひご覧ください。  (愛宕)

    みんな、口をあけて歌いだす

     「ねこくん 

    いちばで 

    ケーキを 

    かった/そのあと 

    とおり

    で 

    しろパン 

    かった/ひとりで 

    たべてしまおかな?/ボーレ

    ンカにも 

    あげよかな?……」

     

    ロシアの国民的挿絵画家、ワスネツォフが絵をつけたわらべう

    たを選りすぐりました。ねこやうさぎ、くまや白鳥など、動物が

    たくさん登場します。ロシアの町は森や野原に囲まれているので、

    動物は身近な存在で、わらべうたの主役でもあるのです。 

     

    ワスネツォフの素朴で温かい味わいの絵は、日本でも人気があ

    り、絵本『3びきのくま』(福音館書店)でよく知られています。ゆ

    かいなうた、ドキッとするうた、やさしいうた。うたの気分とリ

    ズムを大切にした日本語訳、ぜひ声で楽しんでみてください。

     

    帯には、中川李枝子さんが、「老若男女問わずわらべうたを楽

    しむ極上の絵本」とコメントを寄せてくださいました! 

    (愛宕) 

    ◆こんや、妖怪がやってくる 

    ー中国のむかしばなし

    君島久子文

    小野かおる絵

    26.1

    ×20.2

    ㎝・32頁

    ▽本体1500円+税

    【3・4歳から】

    ◆ねこくん

    いちばで

    ケーキを

    かったーロシアのわらべうた

    ユーリー・ワスネツォフ絵

    たなかともこ編訳

    28.0

    ×21.6

    ㎝・32頁

    ▽本体1500円+税

    【3・4歳から】

    *7月25日刊行予定

  • 4

    〈寄稿〉

    誇らしい2冊    

     ふしみ

    みさを 

                 (翻訳家)

     

    訳者泣かせである。原書の文章はすべて手書きだったので、日本

    語版でもフォントを使わず、全部手で書いた。初版はなんと

    一九三四年。それから80年を経た今でも、とんでもなく斬新な作

    品だ。

     

    もうひとつ、まったく違った魅力を持つ、たまらなく美しい絵

    本がある。『おやすみおやすみ』だ。ミント色、薄い藤色、灰色、

    そして墨だけでできたこの絵本、デザイン性が高く、とびきりか

    っこいい。灰色はまるで銀色に見えるほど、柔らかく輝いている。

    パステル調なのに、甘ったるさは一切なく、潔い。でも、羽ぶと

    んに包まれているみたいに、しっとりと温かいのである。

     

    フリーで翻訳の仕事を始めたばかりのころ、編集部の愛宕さん

    と、白百合女子大の光吉文庫に1週間、朝から晩までこもったこ

    とがある。その時に見つけたのが、この本だ。以来10年以上、ず

    っと大切にあたためてきた。

     

    シンプルで深みのあるイラストは、変化に富んだ生涯を送った

     

    ちょっぴり変わった、ヘンテコな人が好

    きだ。本人はいたって真面目なのに、どこ

    かにじみ出てしまうおかしみのある人。ス

    キがなく、完璧すぎる人は、緊張してしま

    う。少しいびつで、人間くさいほうがいい。

    根っこが温かく、大胆さと繊細さの入り混

    じっている人が好き。

     

    絵本の好みも、まさにそうだ。そして、

    そんな理想にぴったりの、自由とヘンテコ

    の塊のような絵本が、ドロシー・クンハー

    ト作『さあ、はこをあけますよ!』である。

    職業柄、これまでたくさんの絵本を見てき

    たが、こんな本は初めて。脱力しまくって

    いる。文章もタダモノではない。句点も読

    点も極端に少なく、ちょっぴりつたない、

    似たような言葉がくり返され、ふんどしみ

    たいにどこまでも続いていく。このまま訳

    したら、ただのへたくそな、読みづらい訳

    文だ。でも、上手にまとめてしまったら、

    この本の魅力を殺してしまう。なんとも翻

    ◆さあ、はこをあけますよ!

    ドロシー・クンハート作

    ふしみみさを訳

    17.7

    ×25.2

    ㎝・上製・64頁

    ▽本体1600円+税

    サーカスおじさんが小さな小さな

    はこをあけると、中には小さな小

    さな犬ピーウィーが! 

    みんな、

    ピーウィが大好きです。

    【3・

    4歳から】

  • 5

    ◆おやすみ

    おやすみ

    シャーロット・ゾロトウ文/ウラジーミル・ボブリ絵

    ふしみみさを訳

    20.5

    ×25.9

    ㎝・上製・32頁

    ▽本体1400円+税

    クマやウマ、ハトやカメ、イ

    ヌやネコ、そして子どもたち。

    みんなどんなふうに眠るのか

    な? 

    やさしい詩で語りかけ

    ます。   

    【2・

    3歳から】

    ウラジーミル・ボブリだからこそ描けたのだろう。一八九八年、

    ウクライナに生まれた彼は、幼いころからジプシー音楽やその伝

    承に親しんで育った。ロシア革命時に国外に亡命し、バレエ団の

    衣装デザインを手がけたり、ビザンティン壁画の発掘を手伝った

    りした。その後ニューヨークへ渡り、グラフィックデザイナーと

    して、広告、絵本、壁画など、多方面で活躍。クラシックギター

    にも造詣が深い。こんなプロフィールを読むだけで、私はわくわ

    くしてしまう。

     

    原書Sleepy B

    ook

    (一九六〇年)はとうの昔に絶版で、原画もフ

    ィルムも残っていないから、状態のいい古本をスキャンして作っ

    た。でも、あともう少し後だったら、スキャンに耐えられる美本

    が入手できなくなって、この素晴しい作品が世の中から消えてし

    まったかもしれない。なんとも危ないところだったのだ。そんな

    ことも含め、私はこの2冊をみなさんのお手元に届けることがで

    きるのが、ものすごく誇らしいのである。

    17文字の奥深さ

     

    世界でいちばん短い定型詩、俳句

    は、いまやHAIKUとして海外で

    も親しまれています。本書は、小林

    一茶の生涯を33の俳句を織り交ぜな

    がらわかりやすく物語る、アメリカ

    生まれのユニークな絵本です。

     

    信濃に生まれ、幼くして母を亡く

    した一茶は、継母との不和もあり、

    ◆蛙となれよ冷し瓜―一茶の人生と俳句

    マシュー・ゴラブ文/カズコ・G・ストーン絵/脇明子訳

    26.7×22.2

    ㎝・40頁 

    ▽本体1600円+税

    【小学3・4年から】 

    *8月下旬刊行予定

    14歳で江戸に出されます。奉公先を転々としながらも俳句を学び、

    しだいに頭角をあらわすようになります。7年かけて日本中を旅

    して歩いたのは30歳の頃でした。四季折々の風物をスパッと切り

    取った俳句に、薄幸の人生を歩んだ一茶の喜びや悲しみが透けて

    見えるようです。英訳した短い詩も添えます。

     

    猫や蝶、蛙や雀など、身近な生きものがたくさん登場する俳句

    に、「やなぎむら」シリーズ(福音館書店)のストーンさんが、愛情

    をこめて絵を描いています。日頃見失いがちな細やかな自然の美

    しさを再発見できる、素敵な1冊です。お楽しみに!  

    (愛宕)

  • 66

      

    思い出のマーニー

    スタジオジブリ最新作映画の原作として注目されている少年

    文庫の長編が、はじめてハードカバーの単行本になりました!

    海辺の村の老夫婦の家にあずけられることになったアンナと、

    「しめっ地やしき」に住む金色の髪のマーニー。思春期の少女が

    体験した不思議なめぐり合わせを描く、感動的な物語です。

    巻末には、作者の長女(同作者の代表作「テディ・ロビンソン」

    に出てくるあのデボラちゃんです!)によるあとがきを、訳者の

    長女である森脇聰子さんに訳していただきました。さらに、作品

    世界を丁寧に深くとらえた故・河合隼雄氏の文章「『思い出のマ

    ーニー』を読む」を著作から転載しました。

    物語の舞台へと誘ってくれる青いカバーに金箔の文字。洋書

    風のたたずまいをもつ造本は、中嶋香織さんのデザインです。愛

    蔵にも贈り物にもよい美しい“御本”を、ぜひお手元に。 

    (愛宕)

    〈寄稿〉

    奇跡にであう物語      森脇聰子

    デボラ・シェパードさんによるあとがきの訳を、というお話

    があった数日後、私は実家にある母の仕事部屋を訪ねました。

    生前の状態のままにしてあるその部屋は、今もどこに何があ

    るのか母のみぞ知る空間ですが、同時にその時出会うべき大切な

    何かが、ふっと姿を現す不思議な場所でもあります。この日も、

    本棚の一番初めに気になったあたりに、母が使っていたとひと目

    で分かるボロボロになった原書W

    hen Marnie w

    as There

    があ

    りました。そこに残された書き込みには、原作者のことばや意図

    を何よりも大切にする母の翻訳姿勢が表れていました。デボラさ

    んが本編と同じ単語を使われていたら、できるだけ見つけて母が

    用いたのと同じ日本語にしよう、と私は心に決めました。

    あとがきの文章から、その言葉がありそうなシーンを思い出

    して、ロビンソンさんの原文と母の訳を何回も行ったり来たりし

    ました。私の悩んだ言葉に、母が同じ経路をたどって悩んでいた

    と分かることもあって、それは実に楽しい時間でした。

    少年文庫で『思い出のマーニー』が出版された時、母は現在

    の私に近い年齢でした。デボラさんはあとがきで、アンナがマー

    ニーとすごしたノーフォークの浜辺やしめっ地やしきにまつわる

    エピソードを紹介されていますが、私はその地に思いをはせなが

    ら、同じ年頃の母と出会っていたのです。

    『思い出のマーニー』は、そんな「自分の中の奇跡」に気づか

    せてくれる物語だと思います。

    ■特装版 思い出のマーニー 

    ジョーン・G・ロビンソン作

    松野正子訳

    ペギー・フォートナム挿絵

    四六判変型・上製カバー・416頁

    ▽本体1400円+税

    【小学高学年から一般】

    When Marnie was There

  • 7

    喪失の先を描く

    大切な人を失ったとき、人はど

    のように立ち直っていくのでしょう。

    助けて! 

    ここから出して! 

     

    ヘンリックの家は最近、庭に穴を掘ってばかりいる。かつ

    ては美しかったママの庭も、今では穴ぼこだらけ。だからあ

    る晩ヘンリックが、その穴の一つに落っこちたとしても、何

    の不思議もない。ただ問題はその穴が、一人ではとても上に

    のぼれないぐらい深いってこと。

     

    そもそものはじまりは、平凡な毎日を送るヘンリックの家

    に、退屈がだいきらいなコルドュラおばあちゃんが引っ越し

    てきたことでした。生活に刺激をもたらそうと、あの手この

    手で家族をほんろうするおばあちゃんは、ある日ヘンリック

    に、庭に埋められたおじいちゃんの宝のことを打ち明けます。

    すると、乗せられやすい家族たちだけでなく、なんと町ぐる

    みで宝探しがはじまってしまったのです……!

     『マッティのうそとほんとの物語』のザラー・ナオウラさ

    んによる最新作は、ハチャメチャな展開と、随所に散りばめ

    られたユーモアで、一気に読ませる快作。原稿を読みながら

    何度も笑ってしまいました。乞うご期待!     (須藤)

    ■落っこちた!

    *9月刊行予定

    ザラー・ナオウラ作/森川弘子訳

    A5判変型・上製・224頁 【小学3・4年から】

    ◆15の夏を抱きしめて〈STAMP

    BOOKS〉

    ヤン・デ・レーウ作/西村由美訳

    四六判・並製・294ページ▽1700円+税 【中学生から】

    15歳のトーマスは、物語中の「現在」では、死んだ存在として

    登場します。彼を愛する三人――恋人だったオルフェーと、トー

    マスの母親と、祖父には、まだトーマスの姿が見えています。ト

    ーマスのほうも、三人を静かに見ています。その三人の姿が、冷

    静なトーマスの目線から、語られます。

     

    オルフェーは、トーマスとの輝かしい日々の思い出にしばられ、

    現実を受けとめきれずに苦しみ、自分の命さえ危険にさらします。

    また、トーマスの父親と母親、祖父母、曽祖父母までさかのぼる

    家族の歴史と、愛と確執も明らかにされてゆきます。現在を生き

    る三人はそれぞれ、トーマスの死を受けて、大きな悲しみや、変

    化してゆく関係に向き合うことになります。

     

    けれども、皆、ゆっくりとではありますが、喪失のその先へ、

    小さくも確かな希望へ、歩みを進めていきます。ベルギーの、フ

    ラーンデレン地方の田舎を舞台に、過去と現在、愛と悲しみが織

    りなす、重層的な物語です。             (熊倉)

  • 8

     

    バルト海に浮かぶ島、ウミガラス島へ避

    暑にやってきた、メルケルソン一家。まる

    まるとして元気な島の女の子チョルベンと、

    その大きな犬、水夫さんとすぐに仲良しに

    なり、喜びと驚きに満ちた島の生活にとび

    こんでいきます。

     

    一家の末っ子のペッレは動物や昆虫を愛

    する男の子。大切にしていたうさぎのユッ

    ケをめぐるお話は、胸に響きます。また、

    あるとき、チョルベンがかわいがっている

    アザラシのモーセが売られてしまいそうに

    なりますが、みんなはなんとかそれを阻止

        少年文庫の新刊から

    わたしたちの島で【5月刊】

    (アストリッド・リンドグレーン作/尾崎義訳)

    大力のワーニャ【6月刊】

    (オトフリート・プロイスラー作/大塚勇三訳)

    すべく、お金を稼ごうと奮闘します。

     

    もともと、スウェーデンでテレビドラマ

    脚本として書かれ、その後、児童向け読み

    物として出版された作品です。ドラマ放映

    と本の出版と同年の一九六四年には、映画

    が作られました。その映画(邦題『なまい

    きチョルベンと水夫さん』)が、今年7月、

    日本で初めて公開されます。

     

    ぜひ、映画とあわせてお楽しみください。

    解説は菱木晃子さんです。   

     (熊倉)

     

    ワーニャは三人兄弟の末っ子。みんなか

    ら〈なまけのワーニャ〉と呼ばれるほどのな

    まけものです。そんなワーニャが17歳にな

    ったとき、森で盲目の老人に出会い、ふし

    ぎな予言をさずかります。それによれば、

    ワーニャにはいつか皇帝になるという運命

    が待っているということ。ただ、そのため

    にはまず、かまどの上で7年間、何もせず

    に寝てくらさなければなりません。

     

    はたしてワーニャは見事に試練をはたし、

    たいへんな怪力を身につけます。そして人

    びとを苦しめる怪物や魔女とたたかいなが

    ら、皇帝の冠をめざして旅をするのでした

    ……。

     

    昨年亡くなられたプロイスラーさんがロ

    シアを舞台に描く、痛快な冒険物語です。

    日本で最初に刊行されたのは一九七三年で

    すが、その時に描かれた堀内誠一さんによ

    るさし絵を、今回も収録しました。

    (須藤)

  • 9

    「読む力」シリーズ、完結

     

    絵本から読み物の本への移行がむずかしい、とよく言われます。

    文字が読めるようになれば自分で本を読めるようになるかという

    と、そう単純ではないのです。ところが、学校では(何でもいい

    から)「たくさん借りてたくさん読む」ことが奨励されがちです。

    それで本当に豊かな本の世界へと導くことができるのでしょうか。

     『読む力は生きる力』(二〇〇五年)以来、子どもと関わる現場に

    いる人たちと交わり励まし続けてきた脇明子さんが、小学生への

    読書支援について、理論と実践の両面から力強く語ります。

     

    まず、流し読みや拾い読みではなく、しっかりとした物語をじ

    っくり味わうことから得られる「生きる力」について説きます。

    電子メディア漬けの社会だからこそ、です。そして、おすすめの

    物語について具体的にどういうところがよいのかを説明し、さら

    に、それらを子どもたちに届ける方法を紹介していきます。「説

    明+一部朗読」で『ドリトル先生航海記』を紹介する原稿も公開。

     『物語は生きる力を育てる』、その実践編『子どもの育ちを支え

    る絵本』『自分を育てる読書のために』へと続く一連の著作の、

    いわば集大成。司書、読書ボランティアの方々はもちろん、クラ

    ス担任をもつ先生にも、ぜひ読んでほしい1冊です。  

    (愛宕)

     

    春の復刊のお知らせ

     

    毎年恒例、児童書の春の復刊。読者の皆さまから寄せられ

    たご要望などをもとに、しばらく品切れになっていた作品を

    復刊しました。個性的なさし絵とともに「バレエ」や「オー

    ケストラ」について学べる絵本、ランサムとシュルヴィッツ

    がタッグを組んだ名作絵本、昨年亡くなったカニグズバーグ

    が「モナ・リザ」制作の背景を描く読み物など、粒ぞろいの

    四冊です。どうぞこの機会をお見逃しなく。

    〈絵本〉

    ◆ワニのオーケストラ入門 ▽本体1700円+税

    (エリオット文/アロウッド絵/芥川也寸志・石井史子訳)

    ◆カエルのバレエ入門 ▽本体1600円+税

    (エリオット文/アロウッド絵/蘆原英了・薄井憲二訳)

    ◆空とぶ船と世界一のばか—

    ロシアのむかしばなし

    (ランサム文/シュルヴィッツ絵/神宮輝夫訳)

    ▽本体2000円+税

    〈読みもの〉

    ■ジョコンダ夫人の肖像 ▽本体2100円+税

    (カニグズバーグ作/松永ふみ子訳)

    ■読む力が未来をひらく―小学生への読書支援  

    脇明子著 

    四六判・並製カバー・224頁▽本体1600円+税

  • 10

    やかましネットワークのみなさま、こんにちは!

     

    児童書編集部に仲間入りしました宮村彩子と申します。「はじ

    めまして」なのですが、じつはすでにご縁はつながっていたよう

    にも感じています。というのも、この春まで10年間「製作部」と

    いう部署で児童書や単行本作りに携わっていたからです。お届け

    する本を通してひそかに出会っていたみなさまに、こうしてご挨

    拶ができること、すこし気恥ずかしくもうれしく思っています。

     「製作」という仕事になじみの薄い方もいらっしゃるかもしれ

    ません。主に刊行までの進行管理や本全体のデザインを手がける、

    少し職人的なモノ作りの現場です。本の完成というゴール目指し

    て、社内外の人とチームを組み、印刷・製本・紙・加工・函など

    各分野のプロと相談しながらパスをつなぎます。「やかまし」で

    おなじみの編集担当者たちもゆかいなチームメイトです。

     

    この10年間でゴールに至ったどの本にも思い出がぎゅっと詰ま

    っています。初めて製作した絵本は『美女と野獣』、少年文庫は

    『氷の花たば』、読み物は『川べのちいさなモグラ紳士』でした! 

    児童書の製作はとくべつ緊張の連続ですが、思い切り楽しんでい

    ました。原画と校正刷を見比べてぐっと集中する時間、どんなデ

    ザインにしようか頭をひねる時間は至福のひとときでした。

     

    さて、すこし角度が変わって、新たな役割を担うことになりま

    した。はたしてどんなパスが来るのか出せるのか不安な一方で、

    胸ときめかせています。これまでの幸せな経験を支えに、心と眼

    にひびいていつまでも余韻が残るような本作りをしていければと

    思います。どうぞよろしくお願いいたします!

    ジュニア新書 〈夏のフェア〉

     

    ジュニア新書は10代向けの新書シリーズとして多くの小中学生、

    高校生に読んでいただいています。ところで、たくさんのジュニ

    ア新書のなかでどの本が学校でよく読まれているのでしょうか? 

    このたび、全国の学校の先生方にアンケートを行い、おすすめの

    ジュニア新書を選んでいただきました。その結果をもとに、全国

    の協力書店でジュニア新書〈夏のフェア・目利き先生のイチオ

    シ!〉を開催します。

    ロングセラーの『詩のこころを読む』(茨木のり子著)、お菓子を

    切り口に歴史を探る『お菓子でたどるフランス史』(池上俊一著)、

    五輪招致スピーチで話題となった佐藤真海さんの『夢を跳ぶ』な

    どなど、選ばれた25冊を「ことば・国語力を磨く」「理科・科学

    にふれる」「世界史・日本史を学ぶ」「社会・平和を考える」「進

    路・生き方を探る」という5つのテーマに分け、先生方のおすす

    めコメントとともに紹介した小冊子もできあがりました。

    目利き先生たちの推薦する本が面白くないワケがない! 

    休みの読書案内としてぜひご活用ください。

    ◆ジュニア新書「目利き先生のイチオシ!

    小冊子」のご請求

    は、①郵便番号、②ご住所、③学校名、④ご請求の先生名、

    ⑤お電話番号、⑥必要部数を明記のうえ、ハガキ、ファックス

    03(5210)9433、メールjunior@

    iwanami.co.jp

    でど

    うぞ。                (ジュニア新書編集部)

  • 11

    〈映画・テレビ情報〉

    ●『なまいきチョルベンと水夫さん』

    あらたに少年文庫に仲間入りした『わたした

    ちの島で』(リンドグレーン作)。お話の元に

    なった映画が50年の時を経てデジタル修正版

    で劇場公開されます。チョルベンの姿につい

    ついにんまりしてしまうはず!

    7月19日

    新宿武蔵野館を皮切りに全国で上映予定!

    ●スタジオジブリ最新作

     『思い出のマーニー』公開へ!

    同じく7月19日よりスタジオジブリの最新作

    「思い出のマーニー」が公開されます。ジブ

    リ版マーニーの舞台は北海道!

    監督は「借

    りぐらしのアリエッティ」の米林宏昌さん。

    ●『山賊のむすめローニャ』が

     今秋からテレビアニメに!

    もうひとつリンドグレーンのお話が映像にな

    ります。『山賊のむすめローニャ』が「ゲド

    戦記」「コクリコ坂から」でおなじみ宮崎吾朗

    監督初のTVアニメシリーズに。今年の秋よ

    りNHK・BSプレミアムにて放送されます。

    〈全国の展覧会情報〉

    ●「生誕120年

    武井武雄の世界展

     ~こどもの国の魔法使い」

    全国巡回中です。8月6日から18日まで、大

    阪髙島屋7階グランドホールで開催予定です。

    ●「長谷川摂子展 絵本が目をさますとき」

    ご自身の出身地、出雲市平田本陣記念館で始

    まりました。前期「てのひらむかしばなしの

    世界」は7月27日まで。なんと全20冊の原画

    すべてを見ることができます!

    後期「読み

    継がれる絵本やお話の世界」は8月2日から

    10月5日まで。

    ●「ビネッテ・シュレーダー 美しく不思議

     な世界」展

    7月5日から8月31日まで、伊丹市立美術館

    で開催されます。『美女と野獣』『お友だちの

    ほしかったルピナスさん』など幻想的で貴重

    な原画が展示されます。

    ●後藤仁

    日本画と絵本原画の世界

    9月8日から28日まで、千葉市のギャラリー

    アートサロンにて、後藤仁さんの絵本原画展

    が開かれます。『犬になった王子』全原画を

    間近で見られるチャンスです。

    ●「くまのプーさん展」

    8月6日〜25日松屋銀座での開催を皮切りに、

    全国巡回予定。ディズニー社の協力を得て

    「プーさん」の歴史を語る資料や作品、絵本

    作家やアーティストによるコラボレーション

    作品が展示されます。

    ●「クルミわり人形とネズミの王さま展」

    三鷹市のジブリ美術館で開催中です。来年5

    月まで(予定)。少年文庫『クルミわり人形と

    ネズミの王さま』(ホフマン作)は、チャイコ

    フスキーの楽曲やバレエでおなじみ「クルミ

    わり人形」の原作です。宮崎駿監督描き下ろ

    しの展示パネルでお話を紹介。ほかにもバレ

    エの舞台が再現されたり、絵本『くるみわり

    にんぎょう』(徳間書店)の絵も配されたぜい

    たくな展示です。

    ●「思い出のマーニー×種田陽平展」

    7月27日〜9月15日 

    江戸東京博物館

    映画『思い出のマーニー』で美術監督を務め

    る種田陽平さんが、「思い出のマーニー」の

    世界を巨大空間アートで表現します。「マー

    ニーのいる世界」を体感することができます。

    また、映画の美術資料も併せて多数展示予定。

    ●「ジブリの立体建造物展」

    7月10日〜12月14日 

    江戸東京たてもの園

    スタジオジブリ作品に登場する建物にスポッ

    トを当てた展覧会。ミニチュア立体作品をは

    じめ、建物の設定資料、背景画などの美術資

    料などが展示されます。

    今号は映画や展覧会など、うれしいニュ

    ースが盛りだくさんとなりました。ぜひ夏の

    おでかけのヒントにお役立てください。そし

    て、この機会に、原作ともふれあっていただ

    けますように!

  • 12

    【編集後記】

    ▼うれしいお知らせを二つ。まずは、『マッティのうそとほんと

    の物語』(ナオウラ作/森川弘子訳)が、第61回産経児童出版文化

    賞・翻訳作品賞を受賞しました! 

    これはほんとの話です。

    ▼そして、『路上のストライカー』(M・ウィリアムズ作/さくまゆみ

    こ訳)が、今年度の読書感想文全国コンクールの課題図書[高等

    学校の部]に選ばれました! 

    アフリカの今が焼きつけられた

    力強い物語。〈STAMP

    BOOKS〉の1冊です。

    ▼編集部のメンバーが入れ替り、愛宕裕子、須藤建、宮村彩子

    の3名になりました。皆様の変わらぬご愛読・ご支援を心よ

    りお願い申し上げます。

    ▼岩波書店児童書のツイッターとフェイスブックがスタートし

    ました! 

    新刊やイベントのお知らせ、進行中の本のニュー

    スなどをお届けします。岩波書店ホームページ内の「児童書

    編集部だより」のアイコンからご覧ください。

    二○一四年七月一日発行〈第48号〉

    [編集・発行]岩波書店

    児童書編集部

    〒101―8002 

    東京都千代田区一ツ橋2―5―5

    電話

    03(5210)4058・4060・4057

    FAX

    03(5210)4127

          

    http://ww

    w.iw

    anami.co.jp/hensyu/jidou/ 

    [印刷所]サンパートナーズ株式会社 

     世代をつなぐ10のかけ橋

      

    夏の少年文庫名作フェア

     

    7月より全国の協力書店にて岩波少年

    文庫のフェアを実施します。夏休みの本

    選びにぜひお役立てください。

     【読者全員プレゼント】として特製トートバッグをプレゼントい

    たします。ヨットの図案はハードカバー版〈アーサー・ランサム

    全集〉の装丁につかわれていたものを使用しました。当時、装丁

    を手がけられた江森瑛子さんによれば、全集の装丁のグレーの地

    色は「かぎりなく冒険の広がるところ」すなわちイギリスの海・

    空・湖を象徴しているとか。今回のトートバッグは海や夏をイメ

    ージした濃紺の地に、白のヨットを配したさわやかなデザインに

    なりました。

     

    左記の10書目のフェア帯についている応募券2枚1口を葉書に

    貼り、お送りください。応募締切は10月末(当日消印有効)。詳し

    くはフェア帯をご覧ください。

    【フェア書目】 

    モモ/星の王子さま/クマのプーさん/長くつ下

    のピッピ/エーミールと探偵たち/ドリトル先生航海記/ト

    ムは真夜中の庭で/床下の小人たち/影との戦い ゲド戦記Ⅰ

    /ツバメ号とアマゾン号(上下)

     

    *フェア実施の書店についてのお問い合わせは、販売部児童書 

      

    係03(5210)4113へお願いいたします。