月刊 3 - kkc · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~...

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451 March 3 2017 第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して キリンの広報活動について キリン(株) 執行役員 CSV本部コーポレートコミュニケーション部長 藤原哲也 広報力アップを目指して悪戦苦闘 (株)ローソン 常務執行役員 コミュニケーション本部長兼CHO補佐 宮﨑 純 企業広報研究 企業博物館のOwned Mediaとしての ストーリー発信について ―企業理念やナラティブを共有する― 東京経済大学 コミュニケーション学部教授 駒橋恵子 統合報告書は、いま アステラス製薬が生み出す価値を、 総合的により分かりやすく伝える アステラス製薬(株) 第39巻第3号通巻451号2017年3月1日発行(毎月1回1日発行)1980年10月23日第3種郵便物認可

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Page 1: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

451March

月刊 3

2017年

◆第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して キリンの広報活動について キリン(株) 執行役員 CSV本部コーポレートコミュニケーション部長 藤原哲也

広報力アップを目指して悪戦苦闘 (株)ローソン 常務執行役員 コミュニケーション本部長兼CHO補佐 宮﨑 純

◆企業広報研究 企業博物館のOwnedMediaとしての ストーリー発信について ―企業理念やナラティブを共有する― 東京経済大学 コミュニケーション学部教授 駒橋恵子

◆統合報告書は、いま アステラス製薬が生み出す価値を、 総合的により分かりやすく伝える アステラス製薬(株)

第39巻第3号通巻451号2017年3月1日発行(毎月1回1日発行) 1980年10月23日第3種郵便物認可

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国内1日 2016年10 ~ 12月期の法人企業統計(財務省)3日 2月の消費動向調査結果(内閣府)

8日1月の国際収支速報(財務省)1月の景気動向指数速報(内閣府)2月の景気ウォッチャー調査(内閣府)

10日 1~3月期の法人企業景気予測調査(内閣府・財務省)22日 2月の貿易統計(財務省)

31日 2月の失業率(総務省)2月の有効求人倍率(厚生労働省)

海外3日 2月の米雇用統計(米労働省)7日 1月の米貿易収支(米商務省)9日 ECB(欧州中央銀行)定例理事会(ドイツ・フランクフルト)14 ~ 15日 FOMC(米連邦公開市場委員会)(米FRB(連邦準備制度理事会))15日 2月の米小売売上高(米商務省)21日 2016年10 ~ 12月期の米経常収支(米商務省)

3 月の動き

今 月 の 表 紙

あいおいニッセイ同和損害保険は、「活力ある社会の発展と地球の健やかな未来」を支えるため、様々なステークホルダーとのコミュニケーションを基本とした社会貢献活動に取り組んでいる写真は、「ハザードマップ」のプレゼンテーション技術を競う、「ハザードマップロープレ全国大会」の様子

『経済広報』では、裏表紙に関連する写真・イラストを表紙に

掲載しています。

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月の動き

発行/一般財団法人経済広報センター 国内広報部   東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館 TEL:03-6741-0021印刷/三葉株式会社 TEL:03-3294-4751※本誌掲載の記事・写真・イラスト・図版の無断掲載を禁じます。

2017年3月号目次

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

キリンの広報活動について藤原哲也(キリン(株) 執行役員 CSV本部コーポレートコミュニケーション部長)

2

広報力アップを目指して悪戦苦闘宮﨑 純((株)ローソン 常務執行役員 コミュニケーション本部長兼CHO補佐)

5

企業広報研究

企業博物館のOwnedMediaとしてのストーリー発信について―企業理念やナラティブを共有する―駒橋恵子(東京経済大学 コミュニケーション学部教授)

8

アクティブラーニングに貢献する工場・PR施設見学、出前授業とは向山洋一(TOSS(教育技術法則化運動) 代表)

11

統合報告書は、いま7

アステラス製薬が生み出す価値を、総合的により分かりやすく伝えるアステラス製薬(株)

13

視点・観点

日本は悲観大国を脱することができるのか?~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長)

14

経済広報センター活動報告

英国のEU離脱、EPAなどを議論~シンポジウム「日欧経済関係の未来」を開催~ 16

2017年世界経済の展望~ Brexit、米国新政権、日本経済の行方~ 18

コーポレートメッセージ

powerwithheart関西電力(株) 19

調査から見る日本企業の広報力2016 vol.7

戦略なき広報に「未来」はない阪井完二(企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 副所長)

23

連載

経済広報センターNEWS 20企業広報ニュース(広報トピックス) 24企業広報ニュース(Book) 25企業・団体のCSR活動(あいおいニッセイ同和損害保険(株))� 裏表紙3月の動き� 表紙裏

12017年3月号〔経済広報〕

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キリンの広報活動について藤原哲也(ふじわら・てつや)キリン(株)執行役員 CSV本部コーポレートコミュニケーション部長

キリングループの事業概要

1907年にキリンビール(株)が設立され、2007年

に純粋持株会社の体制に移行し、キリンホールディ

ングスが誕生した。キリングループは、次の3つの

領域を中心に事業を展開している。

①�キリンビール(株)、キリンビバレッジ(株)、メル

シャン(株)などを中核事業会社として、国内にお

ける酒類・清涼飲料の製造・販売をする日本綜合

飲料事業

※なお、キリン(株)は中間持株会社で、日本綜合飲

料事業を統括している

②�オーストラリア、ブラジル、東南アジアを主な展

開地域として、海外における酒類・清涼飲料の製

造・販売をする海外綜合飲料事業

③�協和発酵キリン(株)を中心とした、医薬などの製

造・販売をする医薬・バイオケミカル事業

キリンホールディングスが誕生した2007年ごろ

より、M&A(企業の合併・買収)による積極的な海

外への事業展開を行い、今では海外の売上比率(酒

税を除く)は約40%となっている。キリングループ

には、例えば、フィリピン国内でシェアが90%台の

会社である「サンミゲルビール」や、オーストラリア

とニュージーランドでビールのシェアがトップで、

乳製品への事業展開も行っている「ライオン」などが

ある。そして、2015年には「ミャンマーブルワリー」

の株式も取得した。同社はミャンマー国内の80%の

シェアを誇る。市場全体を見ても非常に伸びてお

り、有望な成長市場といえる。2016年からは同社

で、「一番搾り」の製造も開始した。

コーポレートコミュニケーション部の体制

●“ブランドを機軸とした経営”への新体制2012年までは、各社に広報部門を設置していた

が、2013年1月にキリン(株)設立に伴い、各社の

広報部門を統合した。ニーズ探索力強化のために

「CSV本部」「ブランド戦略部」を、そして、各社に

あったR&D機能を統合した「R&D本部」を設置

し、お客様へ新たな価値を創造する体制を構築し

た。さらに、新たなカテゴリーやビジネスモデルを

つくっていくため、「事業創造部」(設立時は「新市場

創造室」)も設置している。

2013年5月には、各社の本社機能を中野の本社

にすべて集約した。各社にあった広報機能を統合す

ることで、重複した役割や無駄を省き、人員は統合

前の約1割を削減すると同時に、注力すべき機能に

は資源配分を柔軟に対応することができた。そし

て、マスコミなどからの問い合わせも、統合により

窓口を一本化している。

●コーポレートコミュニケーション部の組織私が所属する「コーポレートコミュニケーション

部」は、CSV本部の中にある。コーポレートコ

ミュニケーション部は60名が所属し、報道チーム

(8名)、企画チーム(10名)、工場広報チーム(5

名)、お客様相談室(37名)から成る。報道チーム

はマスコミとのやり取りが中心で、企画チームは

ニュースリリースの作成や会見準備など報道チーム

のサポートのほか、コミュニケーションストーリー

の策定、グループ報の制作・発行などを担っている。

そして、工場広報チームやお客様相談室を通じて、

ステークホルダーとの双方向コミュニケーションを

〔経済広報〕2017年3月号2

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

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図り、商品・企業ブランドの価値向上に繋げている。

なお、IR室はキリンホールディングスに設置し

ているが、座席は報道チームの隣に位置しているた

め、風通しがよく広報とIRが連携しやすくなって

いる。また、宣伝機能は広報部門にはなく、各事業

会社のマーケティング部門が担っている。

●コーポレートコミュニケーション部の役割コーポレートコミュニケーション部は、消費者、

マスコミ、機関投資家、アナリストなど様々なス

テークホルダーの声を基に、課題を的確に把握し、

経営トップや関係部署に提言していくことに注力し

ている。各事業会社に取締役会はないが、事業会社

ごとに、経営戦略会議(社長や本社の役員、部長が

集まる決定機関)において、広報活動報告と次の四

半期の広報活動方針の意見交換や合意を四半期に1

度実施している。

また、キリンホールディングスの取締役会では、

機関投資家やアナリストの声を半期に1度伝え、今

後のIR方針について意見交換をする場を設けてい

る。そして、社外取締役や社外監査役を中心に様々

なご意見を頂戴し、IR活動や提言内容が有効で

あったかどうかを、アンケートで評価していただく

などをして、PDCAを回している。

●工場広報チームの役割工場広報チームは、品質の良さを支えている当社

のモノづくりにかける姿勢やこだわりを、工場エリ

アでの情報発信と、工場見学などの直接体験の両輪

によって、分かりやすく伝えていくことが役割だ。

工場見学は、モノづくりにかける情熱やこだわりが

詰まった、当社ならではの製造工程の「理わけ

」を、工場

で実際の体験を通じて理解してもらい、①直接体験

により、来場者をファン化する場、②来場者のクチ

コミにより、来場者の周囲にPR効果を生み出す

場、と位置付けている。

一般のお客様向けに、キリンビール(9工場)、キ

リンディスティラリー御殿場蒸溜所、キリンビバ

レッジ(2工場)、シャトーメルシャン、の合計13

工場で見学を実施している。なお、キリンビールの

9工場は、一番搾りブランドの強化に伴い、工場見

学内容を刷新し、新・一番搾り製法の価値を紹介し

ている。

●お客様相談室の役割お客様相談室は、酒類チーム(18名)、清涼飲料

チーム(13名)、VOC(Voice�Of�Customer)活用

チーム(6名)の3つに分かれている。酒類チーム

は、2016年4月より、ビールチームとワインチー

ムを統合し、酒類チームのメンバー全員が、キリン

ビールとメルシャンの両社に関する問い合わせに対

応する体制へ変更した。

同室は、①お客様のお問い合わせ・ご意見・提案

への対応を行うお客様窓口としての機能と、②お客

様の声の集計・分析や、社内への情報発信、お客様

の声の活用、商品・サービスの改善提案、お客様本

位理念の社内啓発・浸透などの情報発信機能を有

し、お客様満足とブランド価値の向上を日々図って

いる。なお、お客様からのお申し出件数は、年間で

約7万7000件(2015年実績)に上る。

キリンビール、キリンビバレッジの広報活動

●キリンビールビール市場は、若者のビール離れや酒税改正など

の様々な要因から過渡期を迎えている。もっとビー

ル市場を魅力化し、活性化していかなければ明るい

未来はないとの危機感を抱いている。そこで、目指

す姿を「お客様のことを一番考えている会社」として

いる。これは、お客様にとって、より身近なビール

会社になり、ビールの味覚や楽しみ方の多様性を、

ビール愛と遊び心を持って、もっとお客様に感じてい

ただけるような提案を行っていきたいということだ。

具体的には、「47都道府県の一番搾り」「クラフト

ビール」などのチャレンジングな取り組みを通じて、

ビール市場の魅力化実現に乗り出している。47都

道府県の一番搾りの商品コンセプトは、“地元の誇り

をおいしさに変えて”をスローガンに、地域で暮ら

すお客様と共に地元の魅力を発掘し、47都道府県

ごとに味の違いや個性を楽しめる特別な一番搾りを

共創することだ。これは、CSV(Creating�Shared�

Value*)の取り組みとしても位置付けている。開発

に当たっては、地元の食・文化・情報に精通されて

いる全国約400名のお客様に、共創ワークショップ

に参加いただき、そこで作成した商品コンセプトを

基に、ビール工場の醸造長が商品開発をするという

プロセスを踏んだ。

*CSV(共有価値の創造):マイケル・ポーターが提唱した、社会的価値と経済的価値の同時実現を目指すという概念

2017年3月号〔経済広報〕 3

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

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また、商品を通じた復興応援活動として、47都

道府県の一番搾りの売り上げを、1本1円として熊

本地震の復興支援に充てている。2016年7月には

熊本県で“熊本づくり”を発売したが、全国のお客様

より、「熊本を応援したい」「“熊本づくり”をぜひ購入

したい」との声が殺到し、10月に全国で発売するこ

とになった。この商品の売り上げは、1本10円と

して熊本地震の復興支援に充てている。

2016年の6~8月に消費者調査を実施したとこ

ろ、発売1カ月後の商品の認知率は、約60%という

結果が出ている。これは、通常の新商品の倍に当た

る数値だ。さらに、6人に1人が飲用経験有との調

査結果も出ており、テレビCMなどと連動した広

報活動が、お客様に対して非常に効果があったと

感じている。また、20代に対して調査を進めると、

2015年に比べ、20代での認知率・飲用率は2倍、

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)

でのツイート数は6倍となっており、若年層から

の支持がとても高いことが分かった。そして、20、

30、40代のそれぞれに、キリンへの好意度を調査し

たところ、20代が最も高く、地域への愛着心や地元

愛が若年層に強い傾向があることも実感した。

こうした活動が奏功し、47都道府県の一番搾り

の販売は、年初目標の120万箱から約2倍の260万

箱へ上方修正するなど、一番搾りブランドの販売状

況は、2016年年間で+0.9%と3年連続プラスを達

成した。

●キリンビバレッジキリンビバレッジは、2016年の基本方針を「“ブ

ランド力強化”と“収益構造改革”の両輪により、利

益ある成長を実現する」とし、営業利益率を少なく

とも3.0%以上に上げていくことを目標にしていた。

具体的には、2016年に発売30周年を迎える、キリ

ンビバレッジのNo.1ブランド「午後の紅茶」のほか、

春は「生茶」、秋は「FIRE」と、ブランドを絞って

投資をしていく形でブランド強化を図ってきた。さ

らに、営業戦略や自動販売機戦略、コスト削減によ

る収益構造改革を進めることで、営業利益率は目標

を上回る形で推移した。

これらの方針を基に、実際に実施した広報活

動は、2016年3月にリニューアルした「新・生

茶」を例に取り上げる。従来、広告やSP(Sales�

Promotion)などは、マーケティング部門でコミュ

ニケーションプランの骨子を作成して出来上がっ

た後、発表の約1カ月前に広報部門に広報活動の

相談があるという流れであった。しかし、今回

は、2015年の11月ごろから広報部門およびデジタ

ルマーケティング部も加わり、テレビ、イベント、

ウェブ施策、マスコミイベントなどを連動させ、一

緒になってコミュニケーションシナリオを作成し

た。そして、食とのマリアージュ、体験型試飲会な

ど各種イベントを実施するとともに、テレビ、新聞

だけでなくウェブ向けにアレンジしたリリースの作

成を行うなど、ウェブの露出を強化した。

CSVの取り組み

東日本大震災により、仙台工場も大きな被害を

受けたことが、当社のCSV活動の契機になった。

2013年の新体制移行に当たり、従来のCSRへの

取り組みから、CSVの実践を経営の中心に据えて

いる。当社は、事業活動そのものによって、社会課

題の解決に貢献するCSVを目指している。

コンプライアンステーマとして「公正な事業慣行」

「人権・労働」、サステナビリティのテーマとして

「環境」「食の安全・安心」、当社ならではのテーマと

して「人や社会の繋がりの強化」「健康の増進」の6つ

のテーマを設け、「製品・サービス」「バリューチェー

ン」「地域社会」の3つのアプローチによってCSV

を実践している。広報活動も、CSVが経営の中核

を成す取り組みであることの理解獲得に向け、積極

的に社長取材やイベント実施などにより、コンセプ

ト・考え方の浸透に繋がる記事化を実施してきた。

また、「復興応援キリン絆プロジェクト」として、

2014年までに60億円を拠出し、「心と体の元気サ

ポート」「子供の笑顔づくり支援」「地域食文化・食産

業の復興支援」の3つの幹で活動を継続している。

中でも、「地域食文化・食産業の復興支援」を主軸に、

地域活性化の支援を引き続き進めている。これまで

も、東北で収穫された素材で作った商品を販売し、

全国のお客様に“東北の元気とおいしさ”をお届けし

てきたが、今後も地域で暮らすお客様と一緒に、地

域の魅力を発掘しながら作り出す、47都道府県の

一番搾りをはじめ、地域の風土や文化に根差した商

品の開発や楽しみ方の提案を行い、地域の皆様と一

緒に笑顔になれる場を広げていきたい。� k

(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)

〔経済広報〕2017年3月号4

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

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広報力アップを目指して悪戦苦闘宮﨑 純(みやざき・じゅん)(株)ローソン常務執行役員 コミュニケーション本部長兼CHO補佐

世の中・メディアを鬼にさせない十則

当社では、加盟店や社員を合わせて約20万人が

働いています。約5年前から、毎年1~3割程度外

国人社員を採用していて、広報部にも中国人社員が

在籍しています。中国には、“広報”という言葉はな

く“公共関係”といわれ、“公関”と略して呼ばれるこ

とが多いそうです。広報では、メディアをはじめ、

様々なステークホルダーと広報活動を通じて関係を

つくることが必要なため、私自身は、“公関”という

言葉の方がしっくり感じます。

当社の全国のコンビニエンスストアには、1日に

1千万人、1カ月では3億人と非常に多くのお客様

が店舗を訪れ、商品を購入してくださっています。

そのため、お客様から多くのお問い合わせやご意見

と、メディアの方々からの取材依頼も多くいただい

ています。日々、悪戦苦闘しながら攻めと守りの広

報活動を行っています。

本日は、今までの経験を基に作成した自社の研修

用素材を紹介させていただきます。�まずは“リスク

対応”の「世の中・メディアを鬼にさせない十則(鬼

十則)」を紹介いたします。

鬼十則1:二河百道

“二河”は、南の火の川と北の水の川のことで、

火の川は怒りを、水の川はむさぼる心を象徴しま

す。“二にがびゃくどう

河百道”とは、その間に天国への一筋の白い

道が通っている様を例えた仏教用語のことです。

何かリスクが出たとき、当事者は「大したこと

ではない」「大丈夫」と事を大きくしたがりません。

また、社内の各部署はそれぞれの立場で意見を述

べ、トップも利益低下を不安視し、できる限り穏

便に済まそうとします。よく、社内説得が9割と

いわれますが、そのようないろいろな立場や反対

がある中でも、信念を持って、説得や調整を繰り

返して良い方向(百道)に向かわせるのが広報の役

割です。

鬼十則2:天守閣理論

天守閣では、敵が迫ってきているなど、遠くで

起こっていることがよく見えます。広報担当者

は、マスコミや世論の動きを予測して一歩先を見

る力を養い、こちらが目指す結果に導くように段

取りを決めることが求められます。

鬼十則3:マグマ退治

リスク対応には、「謝罪」「調査」「対策」「処分」の

4つが重要です。これらを実施し公表すること

で、世の中の不満や批判“マグマ”を抑えるように

します。以前に(株)リスク・ヘッジ代表の田中辰

巳さんに教わった“社(謝)長(調)大(対)変でしょ

(処)!”の覚え方は大変役に立っています。

鬼十則4:攻撃は最大の防御なり

事の重要性や社会の流れによって、店頭告知・

HP掲載・記者会見の実施を判断します。早め早

めにすることが重要です。世の中からの“遅い”か

“早い”かの印象で、マグマの大きさは異なります。

2017年3月号〔経済広報〕 5

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

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鬼十則5:“確率論”ではなく“万が一”

当社では、消費期限やアレルゲン表示ミスの公

表の場合、この程度では健康被害はないのではな

いかという声が出ます。

万が一にでも発生した場合、会社が傾いたり、

経営責任を問われる他社事例は数多くあります。

鬼十則6:会見は人生をさらけ出す

会見では、すべてを把握した上で臨む必要があ

ります。正確な詳細情報を伝えることが大切で、

質疑応答で記者からすぐに手が挙がらないとき

は、質問が不要になるほど説明ができたといえる

でしょう。また「会見では人生が出る」とアドバイ

スを受けたことがあります。術に頼ることなく、

会見者の胆力や誠実さが問われます。

鬼十則7:常識力に勝るものはなし

世論に対応するので、“常識力”が大切です。そ

れを磨くには他社の失敗例を、うちとは関係ない

ものと考えるのではなく、“他山の石”として捉え

るのがよいでしょう。

鬼十則8:劇場型のテレビには気を付ける

テレビでは、“画”を必要とするので予期しな

かったような編集をされることもしばしばありま

す。特に記者会見のときは、どのカットがどのよ

うにテレビで使われるのかを十分に意識し、一挙

手一投足に気を付けなければなりません。

鬼十則9:結果はすぐに出る

リリースや会見を行った後、昨今では、SNS

(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の書

き込みで世論の反応がすぐに分かります。それら

を確認することで、次の一手や今後の対策を立て

ていきます。

鬼十則10:リスクと人事は突然やってくる

リスクと人事は、曜日・時間に関係なく、ある

日突然やってくるといわれます。マニュアルの作

成など、事前準備や体制はもちろん整えておく必

要がありますが、突然発生したときにはマニュア

ルを確認する時間がないため、運用できるように

日ごろから準備しておくことが大切です。

トップ広報

次は“攻め”の広報です。私はトップ3名に仕えて

きました。トップ広報を行う上で、どのようなこと

に気を付けて戦略を立てているのか、次の3つのポ

イントを紹介させていただきます。

1.題材とタイミング

特に、就任後の数カ月は、どの社もトップイン

タビューなどを積極的に実施していると思いま

す。ハネムーン期間だけでなく、その後の継続も

大切です。

「トップはコメント力が重要だ」と記者からも言

われます。社会的なテーマのコメントを求められ

ることも多いのですが、その内容とタイミングも

大切といえます。トップの“人となり”も会社の知

名度やブランドを高めていく上で必要です。会社

と経営者の立ち位置、これには会社業績やトップ

の在籍期間、社外活動などが影響してきます。こ

れらを踏まえた上でトップに情報やコメント案を

出していきます。

2.共感

トップの発信には、その内容に大義と共感が必

要と考えています。

経営で、SWOT分析を使うことがあると思い

ますが、トップにも活用できます。例えば“弱み”

を“強み”に変えるのもひとつの方法です。“強引”

を“判断力”へ、“転職の多さ”を“経験”へなどを試

みました。

3.効果のあるメディアの選択

やはり、テレビ番組での特集効果は最も大きい

です。そのほか、新聞や雑誌、ウェブでの特集記

事も重要です。NHKの「プロフェッショナル�仕

事の流儀」、テレビ東京の「カンブリア宮殿」「ガイ

アの夜明け」、TBSの「がっちりマンデー !!」で

はトップを特集いただきました。それらの番組を

通じてトップの人となりや経営の考え方を社内外

に伝えることができました。

最近では今年1月6日と8日に放送した、NHK�

BSプレミアムの「覆面リサーチ�ボス潜入」では、

当社社長が正体を隠して現場に潜入し、社員と共

〔経済広報〕2017年3月号6

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

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に一緒に働き、会社の在り方や課題を一緒に探り

解決していく番組でした。メディアを通して、会

社の経営方針や社長の人格、現場への思いなどを、

加盟店のオーナーやスタッフ、社員に伝えること

で、さらに社員を奮起させる効果がありました。

SNS対応

先日、東京大学の教授から、マスコミ論に関する

面白い話を伺いました。調査によると、日本と米国

ではメディアに対する国民の信頼度が異なり、日本

では約7割あるが、米国では約2割しかないそうで

す。そのため、トランプ大統領は、メディアを攻撃

したとしても、世論の賛成は得られるとの見解でし

た。また、日本も、SNSの影響が増してきていま

す。個人がメディア化しているため、SNSへの対

応には力を入れています。当社に関するツイッター

でのつぶやきは、1日で1万件を超えます。SNS

の投稿に関して、対応が必要な内容については広報

部が担当しています。

また、今話題となっているフェイクニュース対応

にも頭を悩ませています。パロディ・誤報・捏造を

判別して対応方法を分けています。

メディアへの露出を高めるために

最近では、「冬のスープ説明会」「レジロボの披露」

「でか焼鳥発売」などのイベントや記者会見を実施

し、多くのテレビや新聞で取り上げてもらいまし

た。様々な成功や失敗を経験した中で、メディアに

取り上げてもらうためには、手前味噌的な内容では

だめで、次の3つの視点がすべて入っている必要が

あると考えています。

・�独創性

・�季節性

・�時事性(社会性)

そして、これに加え、“前さばき”が非常に重要で

す。マスコミ側は何を望んでいるのか、どのような

“画”を撮りたいのかなどを事前に確認しておくこと

も必要となっています。 

最後に

当社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選

定する「健康経営銘柄」に小売業から2年連続で選ば

れました。日本は今後、少子高齢化で生産年齢人口

が減少し、給付減・負担増の世の中になります。働

き方改革、健康経営、第4次産業革命などに対応し

ながら、利益を上げていかなければなりません。常

日ごろから広報部員には、将来を見る「鳥の目」、細

部を見る「虫の目」、流れを見る「魚の目」を持つよう

にお願いしています。そして、社会と会社に片方ず

つ足を入れて、世の中からの期待と会社の取り組み

をマッチングさせる、まさに広報は“公関”の業務と

いえると考えています。� k

(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)

定価:1300円(税込)編集・販売株式会社宣伝会議購読申込月刊「広報会議」読者サービスセンターTEL:03-3475-7670インターネットからもお申し込みいただけます。http://sendenkaigi.com/

4月号

[巻頭特集] 経済メディアとの付き合い方

広報の仕事の基本 報道対応 Q&A

[特別企画] クリッピングと共有方法

記事の二次利用、著作権は大丈夫?[連載] トップと語る 経営と広報

キリン 執行役員 藤原哲也氏

PR・IR・危機管理

2017年3月号〔経済広報〕 7

第32回企業広報功労・奨励賞を受賞して

Page 10: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

企業博物館のOwnedMediaとしてのストーリー発信について―企業理念やナラティブを共有する―�

駒橋恵子(こまはし・けいこ)東京経済大学 コミュニケーション学部教授

体験を共有するコミュニケーションメディア

企業理念や創業精神は会社の支柱であり、企業の

根幹となるナラティブ(物語)をブランドストーリー

としてステークホルダーと共有することは、従業員

にロイヤルティ(忠誠心)とプライドを持たせ、取

引先に自社の歴史や先端技術を伝え、消費者に企業

ブランドと好意度を高める。

また、「モノから経験へ」という経験価値のマーケ

ティングが重視される中で、なんらかの体験や使用

後の主観的な評価が知覚品質をつくる、という認識

も広がってきた。体験後の感想をSNS(ソーシャ

ル・ネットワーキング・サービス)でつぶやくのも

日常的になり、視覚的な体験はInstagramなどです

ぐに拡散し、雑誌掲載以上の波及力を持つ。こうし

た傾向を反映してか、ユーザー参加型のイベント市

場は急拡大しており、2015年のイベント市場は14

兆円を超えた(日本イベント産業振興協会調べ)。若

者はCDを買わないが、ライブやフェスなどの体験

施設にはまめに足を運ぶ。会議イベント市場は約

2兆円、見本市・展示会と販促イベントの市場が各

1兆円と、こちらも金額を伸ばしている。

こうした市場環境の中で、企業博物館のOwned�

Mediaとしての情報発信機能が注目されている。全

国にたくさんの博物館が開館しており、バブル期に

周年事業として建設された博物館も、近年は大規模

なリニューアルや移転を行っている。博物館は、視

覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚など、五感に訴求する

体験型メディアであるし、ステークホルダーとのダ

イレクトなコミュニケーションの場である。予算に

合わせて場所や広さを選べ、自社資料の開示で企業

理念や創業精神を伝え、従業員の帰属欲求を高める

ことができる。消費者向けの見学施設として観光名

所になっている館も多い。

筆者は日本広報学会の助成研究などで、これまで

約50館の企業博物館を訪ね、多数の館長から話を

聞くことができた。小さな一室の館もあれば、広大

なスペースで歩き回るだけで2時間かかった館もあ

る。それぞれ館のコンセプトは違い、伝わる印象も

違ったが、確実にステークホルダーにメッセージを

伝える広報機能を果たしていると感じた。

企業博物館の目的・対象による違い

ICOM(国際博物館会議)の定義によれば、博物

館とは「収蔵・研究・展示を系統だって継続し、後

世に伝える業務を遂行する」ものであり、日本の博

物館法でも「教育的配慮の下に一般公衆の利用に供」

することが求められている。従って、企業博物館の

中には財団法人化するなどして、教育的な「業界情

報」の展示をしているところもある。例えば印刷博

物館は、凸版印刷の100周年事業の一環として設立

〔経済広報〕2017年3月号8

企業広報研究

Page 11: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

されたが展示内容に自社名を一切出していない。紙

の博物館(王子製紙)も同様で、財団法人化した公共

的な立場から、業界の知識や歴史だけを伝えてい

る。こうした公共性の高い館が「博物館」の本流かも

しれない。

しかし、広報学の研究者としては、空間のメディ

ア性とコミュニケーション機能を活用して企業のナ

ラティブを伝える博物館に注目している。創業者の

語録や自社の歴史をビジュアルに見せる館は、まさ

に展示空間にメッセージを盛り込んだ広報館であ

る。展示内容は館によって異なり、小学生や幼児が

楽しめるようなファミリー向けの展示から、投資家

や取引先などに自社の技術力をプレゼンテーション

するのに効果的な展示まで、様々である。

そこで、企業博物館をコンセプトごとに分類して

概念図を作成したものが、次の図である。縦軸に対

象となるステークホルダーの年齢層(取引先や投資

家などか、消費者を中心としたファミリー向けか)、

横軸に展示内容の公共性(企業情報か業界情報か)を

とった。

■企業博物館の目的・対象による類型化

第Ⅰ象限は、取引先・投資家・従業員などのス

テークホルダーに自社情報を伝える館で、創業精神

や自社製品の歴史や先進性などを伝える展示内容で

ある。館内の展示解説は大人の見学者を対象として

書かれている。具体的には、ソニー歴史資料館、江

崎記念館、松下幸之助歴史館、セイコーミュージア

ム、オムロンコミュニケーションプラザなどで、創

業者の映像や音声を再現したり、創業時の原点とな

る志を当時の写真と共に文字化したりして、企業文

化のコンテキストを伝えている。本社に近い場所に

あり、予約が必要な館が多く、日・祝日は休館日で

あることが多い。新入社員の研修や取引先の案内に

も使われており、「企業情報・理念共有型」といえる。

第Ⅱ象限は、業界技術を伝える館で、公共性の強

い業界のリーダー企業にこのタイプが多いようだ。

NTT技術史料館、ガスミュージアムなどは、自社

の歴史がそのまま電信電話やガスの発展の軌跡であ

るので、社会インフラの拡充に自社の技術がいかに

貢献してきたか、という歴史的展示が多い。「市場・

技術の認知度向上型」といえる。

第Ⅲ象限は、業界の情報を小学生やファミリー層

に分かりやすく伝える館で、地域貢献やアミューズ

メント的要素が強く、学校の社会見学に使われるこ

とも多い。入館料は有料の施設が多く、日・祝日は

家族で賑わうので、休館日は月曜日などの平日であ

る。紙の博物館、ガスの科学館、鉄道博物館など

で、企業色をほとんど出さず、低学年の子どもも楽

しめるような展示になっている。地元密着型の「地

域の社会貢献型」といえる。

第Ⅳ象限は、自社技術や歴史を幅広く消費者層に

伝える館である。東芝未来科学館、日本航空SKY�

MUSEUM、グリコピア、カップヌードルミュージ

アム(インスタントラーメン発明記念館も同じ)など

である。日清食品の創業者がインスタントラーメ

ンをどうやって発明したか、カップヌードルの容器

の秘密は何か、などが映像や展示物で楽しみながら

理解できるようになっていたり、グリコのおまけの

歴史を展示していたりする。自分で体験できる館も

多く、ラーメン、カップ麺、オリジナルポッキーな

どを楽しく作れるので、海外旅行者が団体で訪れる

こともある。このタイプは地域の観光施設のランキ

ングとしても多数のネットサイトで上位に入ってお

り、「企業ファン育成型」といえる。

全ての企業博物館が4つの象限に分けられるわけ

ではない。例えばトヨタ産業技術記念館は、広大な

館内に約150人のスタッフを抱え、図の右半分の第

Ⅰ・第Ⅳ象限の要素を兼ね備えた展示を行ってい

る。織機会社の時代から国産車の開発を経て現在に

至るまでの技術の歴史や経営トップの語録を展示

し、職員が当時の機械を動かすなどしてデモンスト

レーションしており、海外の取引先がビジネスの視

2017年3月号〔経済広報〕 9

企業広報研究

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点で見たり、観光客が楽しむために立ち寄ったり、

小中学生が社会見学として訪れたり、多様なニーズ

に応えられるようになっている。

図の上半分の第Ⅰと第Ⅱ象限の要素、つまり企業

の歴史と業界の発展を並行的に展示しているのは、

花王ミュージアムやまほうびん記念館などである。

土日休館で予約が必要なので一般観光用ではない

が、グループの新入社員が必ず見学すること、海外

からの取引先も多いことなどから、企業広報館とし

ての機能を果たしていると考えられる。

図の左半分の第Ⅱと第Ⅲ象限の要素、つまり業界

情報を専門家から小学生まで幅広く伝えているの

は、例えば竹中大工道具館である。世界中の大工道

具を民族遺産として保存・展示してあり、財団法人

化して自社名を出していない。唐招提寺の原寸大木

組みなどもあるので、専門家にとっても貴重な資料

館だが、木の種類によるおがくずの匂いの違いなど、

ファミリーでも楽しめる展示やイベントもある。

第Ⅲ象限と第Ⅳ象限のファミリー向け博物館で

は、オリジナルグッズが充実しているのも特徴だ。

入館者サービスの小冊子やメモ用紙だけでなく、売

店には有料のクリアファイル、キーホルダーやカッ

プなど様々な記念グッズが並び、企業ロゴやキャラ

クターがデザインされた商品が、オリジナル紙袋に

包まれて次々と売れている。創業者の伝記が書籍・

漫画・童話風など十数種類も並んでいる館もあった。

館のコンセプトは伝えたいコンテンツ次第

近年はウェブサイトに企業の歴史を漫画化・アニ

メ化して載せる企業も増えてきたが、その場所まで

出掛けていって、時間をかけて展示内容を見て回っ

た方が、企業のナラティブは体感として記憶に残

る。まさに百聞は一見に如かず、である。数年前か

ら大学のゼミ生を連れて幾つかの企業博物館を訪れ

ているが、約1時間の見学で企業に対する理解は深

まり、単純にファンになる学生も多い。

歴史的な自社製品を動態保存している館、創業者

の苦労や率直な想いを文字化している館、先進的な

科学技術を体感できる館などには、企業を理解する

ための多くの物語がある。そして印象的な館は、館

長の広報マインドが高いのが特徴である。広報担当

から館長になった人も多い。

企業博物館の来館者数は自社の社会的注目度を図

るバロメーターでもある。北海道余市のウイスキー

博物館(ニッカウヰスキー)は、NHK連続テレビ小

説「マッサン」の放映当時は入場者数が3倍になった

という。またネガティブな歴史を背負った企業は、

たとえ市場リーダーであっても正直な歴史展示が

しづらく、企業博物館を設けていない。そんな中で、

酪農と乳の歴史館(雪印メグミルク)が食中毒事件の

展示コーナーを設けていたのは、企業姿勢が見えて

好感が持てた。

1社で複数の館を運営している企業も多い。トヨ

タ自動車は前述の産業技術記念館のほか、古今東西

のクラシックカー約160台を動態展示した博物館、

織機の創業者の生家を再現した記念館、自動車の創

業者の別荘を移転した記念館、工場見学主体の館、

試乗体験できるテーマパーク、とコンセプトの違う

施設が6館もあり連携を取っている。パナソニック

も本社敷地内の松下幸之助歴史館のほか、PHP研

究所内にある松下資料館の2館があり、展示内容や

運営主体が異なる。日清食品は大阪と横浜で2館あ

り、アミューズメント系の体験は東西共通である

が、創業者のビデオや展示物は微妙に違う。江崎グ

リコは神戸と埼玉のグリコピアのほか、本社敷地内

に創業者の理念や製品・広告を展示した記念館があ

る。今回は4つの象限に分類したが、細かく見てい

けば「百館百様」である。

このように、企業博物館には様々なターゲットと

展示内容があり、来館者に向けてメッセージを発信

している。経済産業省の近代化産業遺産に指定され

ている館や収蔵物も多く、見学していると、創業者

の言葉や当時の製品がストーリーとして語りかけて

きて、企業の歴史が我々の現代生活に繋がっている

ことを実感する。当時の工場の雰囲気を音や匂いで

再現している館もあり、文字や画像で見るよりも、

企業に対する親しみは確実に高まる。まさに企業

のナラティブを伝えるOwned�Mediaならではのメッ

セージ機能といえる。 � k

〔経済広報〕2017年3月号10

企業広報研究

Page 13: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

アクティブラーニングに貢献する工場・PR施設見学、出前授業とは�

向山洋一(むこうやま・よういち)TOSS(教育技術法則化運動) 代表 

■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長 

今後の教育のキーワードは、シンギュラリティ

■2020年の教育改革は、子どもたちがこれからの時代を生き抜いていくための教育改革と聞いている。何が重要か。

向山 現在の教育改革で最も重要なのは、シンギュラリティ。人工知能が人類の能力を超えてしまう瞬

間が必ず訪れるので、それに向かって人類はどうし

たらいいのか。子どもたちに何を教えればいいの

か。学習内容、学習の仕方が変わっていく。今ある

職業が次から次へとなくなっていく。そうした時代

を子どもたちが、生き抜いていくために必要な能力

を身に付ける教育が求められている。

そのために必要な能力は2つ。ひとつは英語。T

OSSは、この数年間、アジア各国の主要な小学校

を訪問している。香港、台湾、中国、シンガポール

の学校を訪問した。かつては日本の方が、教育は優

れていた。15年前は私たちが上海の小学校で英語

やコンピュータの授業を行うと、上海の先生方が驚

いていた。ところが、近年訪問しての実感は、あっ

という間に日本は追い越されてしまったというこ

と。取り返しがつかないぐらいに後れを取ってい

る。香港では小学3年生が英語で授業を受け、6年

生が全て英語で、校内の案内をしてくれた。もう

ひとつは、IT。ITを使った授業も進んでいた。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、

世界中からやってくる外国人観光客に小学5、6年

生が道案内を英語でできるくらいのレベルになって

いてほしい。

■なぜ、こんなに差ができてしまったのか。向山 日本では、今でも小学校で英語を教えることに反対する教師がいる。日本の教育現場は、アジア

諸国で起きている、このような大きな変化に気付い

ていない。これは英語だけではない。数学にしても

同様。上海は数学教育が世界の中でも進んでいる。

日本の子どもたちに、どのような教育が必要かを真

剣に考えなければならない。

■どのような教育が必要か。向山 ひとつの問題を徹底して実験したり、話したりする能力だ。私は、大田区の小学校に勤めてい

た。近くに多摩川があったので、「川は誰のものか」

を調べさせる授業をしたことがある。河川敷に行く

と、看板がある。見ると「国交省」「環境省」などと書

かれている。国のものなのか、と子どもたちは考え

る。なのに、ゴルフ練習場がある。これは民間が国

から借りているのか、それとも国から買ったのか。

野菜を栽培している。それは近くの農家のものなの

か。「東京都」との看板がある。ということは、反対

側には「神奈川県」の表示があるのか。とすると、川

の中のどこまでが東京都で、どこからが神奈川県な

のか。それらを調べさせたり、議論させたりする教

育(アクティブラーニング、調べ学習)が重要だ。

子どもたちが調べ、考える工場見学、出前授業に

■企業は、そのようなアクティブラーニングに貢献できるのか。

2017年3月号〔経済広報〕 11

企業広報研究

Page 14: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

向山 工場見学する際に、子どもたちが、ただ単に説明を聞きながら見学するのではなく、「工場内で気

が付いたことを全部書きなさい」と言ってから見学

させると、子どもたちの目つきが変わる。様々なこ

とに気付くようになる。なぜ壁が白いのか。この配

列にはどんな意味があるのか。工場内にはゴミが落

ちていないこと、そうした「気付き」がある。企業は

効率化、環境対策などでたくさんの工夫をしてい

る。工場を漠然と通り過ぎるのではなく、それらを

子どもたち自身に気付かせるのである。子どもたち

から「すごいなあ」「感心した」との声が自然と出てく

る。

そして、できれば、パンフレットなどのお土産が

あった方がいい。また、子どもたちが学校に戻り工

場で気付いたことや、工場内の絵を書き込める壁新

聞形式の用紙があれば、工場見学を振り返る授業が

できる。それを教室に貼っておくこともできる。そ

の用紙に企業名が入っていると、昔は貼れなかった

が、今はかつてほどうるさくなくなった。

先ほどの「川」のように、長いものは材料にしやす

い。企業に関連した内容でいえば、例えば、「電線」。

この電線はどこまで続いているのかな、その先に何

があるのかなと興味を持たせながら授業ができる。

「ガス管」も同様だ。ガス管のずうっと先はどうなっ

ているのか。「水道」も、水道管の先はどうなってい

るのか、なども子どもたちが興味を抱きやすい。

また、動きがあるものがいい。金融教育ならば、

お金の流れがある。お金が銀行から会社へ。会社か

ら給料として社員へ。社員がそのお金で買い物。商

品を買うと、お金はお店へ、といった具合にお金の

循環で経済を教えることができる。

教師は、こうして見学する工場を決める

■工場見学で、何かアドバイスを。向山 教師は、見学する工場をどのように決めるのか。もちろんどのような展示があるか、大人用の説

明ではなく子ども向けの説明になっているか、が重

要なのは当たり前だが、それ以外に、ロジスティッ

クとして、まずバスが止められる駐車場があるか。

そして、バスで移動するため、子どもたちはトイレ

に行きたくなる。十分なトイレがあるか。また、見

学は一度に何人まで受け入れられるか。何時間の

コースなのかも必要な情報だ。そして、子どもたち

がお弁当を座って食べるスペースがあるか。立派な

椅子でなくてもいい。長い椅子があれば十分だ。し

かも、雨の場合でも大丈夫なように屋根のあるス

ペース、または室内か、なども決め手になる。

食品工場だと、工場内での飲食が禁じられている

ことが多いが、工場の敷地の横にプレハブでもあれ

ばいい。そして、水かお茶だけでも出してもらえれ

ば十分だ。

出前授業には、写真やモノの用意を

■出前授業で注意する点は。向山 5年生の家庭科などといった具合に、自分たちの出前授業が、どの教科のどの単元に相当するの

か、指導要領のどこに当てはまるのかを、まず調べ

る。拡大解釈でもいい。この授業でできる、という

当たりをつける。どの企業でも、どこかに当てはま

ると思う。これが決まると、何月の授業になるかが

決まる。いずれにしても、学校の先生に相談してみ

るといい。また、できれば、写真やモノを用意する

といい。一目瞭然だし、子どもたちを引きつける。

水道局の出前授業ならば、言葉で説明するよりも、

汚れた水がきれいになる実験をする。そうすると、

水がろ過されるのが一目で分かる。水道局の仕事が

分かる。このように体験や実験がある方がいい。小

学生は、とにかく楽しくないと集中力がもたない。

■TOSSは、企業のPR施設のコンパニオンの説明の仕方のアドバイスも行っていると聞いたが。

向山 コンパニオンの説明も、人によって差がある。大人向けに慣れていると、説明が「で、ござい

ます」など丁寧になり過ぎる。子ども向けには「で

す」で十分だ。TOSSでは、企業のPR施設のコ

ンパニオンに対して説明の仕方のトレーニングを

行っている。明るい表情で話しているか、語尾が

はっきりしているか、などの幾つかの項目を用意

し、それらをクリアしているかをチェックしてい

る。項目をチェックしながら、説明を繰り返しても

らうと、かなり上達する。社内で行うと、角が立つ

ので、私たちのような第三者に依頼してくるのだろ

う。企業の、こうしたリクエストにも応じている。

TOSSは1万5000人の小中学校の教師から成る教育技術をシェアするサークル活動。会員は、全国でサークル活動を展開している。経済広報センターは、TOSSが実施している環境教育、産業教育などを後援している。

� k

〔経済広報〕2017年3月号12

企業広報研究

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統合版『アニュアルレポート』移行の経緯

アステラス製薬は、2012年から統合版『アニュア

ルレポート』へ移行している。従来は、IR担当が

機関投資家を対象に『アニュアルレポート』、CSR

(企業の社会的責任)担当が社員を含めたマルチス

テークホルダーを対象に『CSRレポート』を発行し

ていた。

同社はCSR経営を事業活動のベースに置いてい

る。革新的な医薬品の創出を通じて社会の持続可能

性の向上に貢献するとともに、企業としての持続的

な成長を果たしていく。同社の取り組みや生み出す

価値を効果的に伝え、理解促進を図ることを目的

に、それぞれのレポートで発信していた情報を統合

し、統合版『アニュアルレポート』への移行を進め

た。メインターゲットを投資家としつつ、すべての

ステークホルダーに伝えていくツールと位置付けて

いる。

ビジネス、企業価値への重要度で情報を整理

同社は、「事業活動」「社員」「社会」「環境」「倫理・コ

ンプライアンス」の5つをCSR経営のフィールド

としている。同レポートもこの5つのフィールドに

沿って、「新薬を開発して患者さんに届けることが、

社会にとっても同社にとっても価値向上に繋がる」こ

とをメインメッセージとして、全体を構成してきた。

レポートの作成は、IR担当者とCSR担当者が

協働で行う。移行当初は、「どのように統合し、どの

ように伝えていくのか」といった作成方法の検討が

中心であった。現在は、より統合されたレポートと

して進化させていくために、「どのような情報の開示

が必要か」という視点で検討している。

例えば、製薬企業にとってビジネス、企業価値に

大きな影響を及ぼすもののひとつが「イノベーショ

ン」の取り組みだ。同社は、「イノベーションの創出」

を経営の重要課題に掲げ、その基本方針・戦略を

「CEOメッセージ」などの「戦略」パートで示し、研

究開発への取り組みや成果、それらを支える人材に

ついては「事業概況」パートで社員の声を交えて具体

的に語っている。

また、同レポートはCSR活動を伝える役割も担

うが、詳細な情報を組み込み過ぎると、重要なこと

は何かがかえって分かりにくくなってしまうことも

ある。このため、同レポートでは、ビジネスや企業

価値への重要度でCSRに関わるテーマを絞り込

み、詳細情報はウェブで公開するなど発信情報にメ

リハリをつけている。

例えば、「社会的責任(CSR)」のパートでは、

「CSR活動における重要課題(CSRマテリアリ

ティ・マトリックス)」を開示している。これは、事

業活動の前提として取り組むべき課題や社会課題の

中から、「社会課題の大きさ」と「同社の事業との関連

性」で優先順位をつけマッピングしている。また、

CSR経営の全体像・重要課題を示した後に、「事業

活動におけるCSRの取り組み」「社員」「社会」「環

境」「倫理・コンプライアンス」といったCSR経営

の各フィールドの切り口から、伝えるべき重要な情

報を分かりやすく展開していくなど、構成面の工夫

も見られる。

同社は、IIRC(国際統合報告評議会)のガイド

ライン発行前から、経営計画や経営ビジョンの中に

価値創造プロセスが組み込まれていた。事業戦略を

説明する中で、ビジネスモデルや価値創造プロセ

スの考え方も示してきた。それでも、年々、非財務情

報に対する投資家のニーズが高まっており、そうした

ニーズにどう応えていくか、課題は尽きないという。

今後も、CSR経営をベースに、同社が生み出す

価値を効果的に伝えることのできるレポートづくり

を目指していく。さらに、レポートが一層有効活用

されるよう、フィードバックの入手をはじめ、読み

手との対話にも取り組む考えだ。� k

(文:国内広報部主任研究員 守谷ちあき)

この2、3年、統合報告書を発行する企業が多かったが、製薬業界は移行が早く、各社の特徴を表現する重要なツールとなっている。アステラス製薬は、同社が生み出す価値を総合的により分かりやすく伝えることを重視し、統合版『アニュアルレポート』を制作している。

アステラス製薬(株)

アステラス製薬が生み出す価値を、総合的により分かりやすく伝える

統合報告書は、いま 7

2017年3月号〔経済広報〕 13

Page 16: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

日本は悲観大国を脱することができるのか?~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」                調査結果~ロス・ローブリーエデルマン・ジャパン(株) 社長

先日、「2017 エデルマン・トラストバロメーター」の日本の調査結果が発表された。本調査はエデルマンによる17回目の信頼度調査で、世界28カ国3万3000人以上を対象に、2016年10月13日から11月16日にかけて実施された。

日本の知識層と一般層の間に初めて現れた信頼の格差

本調査結果によると、自国に対する信頼度(自国

の企業、政府、メディア、NGOに対する信頼度の

平均値)において、日本の知識層(注1)と一般層(注2)の

間に初めて大きな開きが出たことが明らかになっ

た。その差は、昨年の3ポイントから15ポイント

へと、過去1年間で大幅に広がっている。知識層

の各組織に対する信頼度は大きく上昇し、企業55%

(10ポイント上昇)、政府53%(12ポイント上昇)、

メディア45%(6ポイント上昇)、NGO/NPO�

44%(4ポイント上昇)となった。一方、一般層は、

逆の傾向を見せ、企業39%�(5ポイント低下)、政府

35%(3ポイント低下)、メディア31%(6ポイント

低下)、NGO/NPO�29%(4ポイント低下)と全

て低下した。日本の知識層と一般層の間に現れた信

頼の格差は、一般層による信頼度の下落よりも、知

識層の信頼度の回復がより強い影響を及ぼしている

と推察できる。

日本は昨年に引き続き「悲観大国」

日本の知識層における信頼度は回復を見せたが、

「自分と家族の経済的な見通しについて、5年後の

状況が良くなっている」と答えた日本人回答者は、

知識層31%、一般層17%(グローバル平均:知識層

62%、一般層:49%)で、昨年に引き続き調査対象

28カ国中最下位の結果になった。

さらには、「全体として、国は正しい方向に向かっ

ている」と思っている日本人は全回答者の33%しか

おらず(グローバル平均:50%)、日本人はより将来

に対して悲観的な国民であることがうかがえる。ま

た、「子どもたちは、私より良い人生を送れるだろ

う」と思っている日本人回答者は29%で、グローバ

ル平均の55%と比較しても、日本人は将来に対して

(注1)知識層:25 ~ 64歳で、学歴が大卒以上。同世代と比較して世帯収入が上位25%以内。メディアに日常的に触れ、ビジネスに関するニュースに関心を持っている層で、調査対象の13%を指す。

(注2)一般層:全回答者から知識層を除いた回答者で、調査対象の87%を指す。

〔経済広報〕2017年3月号

視点・観点

14

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希望を抱いていない国民であり、引き続き「悲観大

国」であることが明らかになった。

全ての組織に対する信頼が低下、組織に対する不信が社会システムそのものに対する不信へ

全回答者のデータを見ると、組織に対する信頼度

は、企業、政府、メディア、NGO/NPOの全て

において、日本を含めグローバル平均で低下してお

り、組織に対する不信感は、社会システム(制度や

体制)そのものに対する不信を生み出している。グ

ローバルのデータによると、不公平感や、将来への

失望などから、社会システムが機能していないと

思っている人は全回答者の53%に上り、機能してい

ると思っている人はほんの15%で、どちらか分から

ない人が32%であった。日本ではどちらか分からな

い人が最も多く(45%)、機能していないと思ってい

る人は42%で、機能していると思っている人はわず

か13%であった。

不安や恐れから求められる変化

現在世界的に高まっているポピュリズムの風潮

は、この社会システムそのものに対する不信感に加

え、腐敗、グローバル化、社会的価値の喪失、移

民、技術革新の速さといった、社会の様々な問題に

対して人々が抱く不安や恐れによってさらに加速

される。そして、現状に不安や不満がある人々は変

化を求める。本調査結果によると、「どちらが真実を

伝えていると思うか」という問いに対して、「国のや

り方をこのまま変えたくない人」を選んだ回答者は、

グローバル平均29%、日本27%であった一方、「物事

を変えようとする改革者」を選んだ人は、グローバ

ル平均71%、日本73%であった。また、驚いたこと

に、グローバル平均では2人に1人が、日本では5

人に2人が、事実はそれほど重要でないと考えてお

り、「たとえ真実を誇張しているとしても、私と私の

家族にとって良いことをしてくれると信頼できる政

治家を支持する」と回答している。

実際に起こった例を見てみると、米大統領選でク

リントン氏に投票した米国民で、現在の様々な社会

問題に恐れを抱いている人は45%だったのに対し、

トランプ氏に投票した人は67%で、社会システムへ

の不信感や、現状に不安や恐れを抱いている、より

多くの人が、変化を求めてトランプ氏に投票したこ

とが明らかになった。

企業が求められているものとは?

相対的に見ると、ほかの諸外国と比較して、日本

人の様々な社会問題に対する不安や恐れのレベルは

それほど高くない。また、社会システムに対して

も、最も多いのは機能しているかどうか分からない

と思っている人である。そして、この「分からない」

層が最も信頼している組織は企業であり、日本にお

ける信頼回復のカギは、企業が握っているといえ

る。では企業は何を求められているのだろうか?企業に対する信頼を築く上で最も重要だと考えら

れているのは、「従業員を大切にする」ことである。

また、一般社員は最も信頼されているスポークス

パーソンでもある。グローバルの調査結果による

と、あらゆるトピックにおいて、一般社員がスポー

クスパーソンとして最も信頼されていることが明ら

かになった。

CEOに対する信頼は調査対象28カ国全てにお

いて低下し、調査史上最低レベルとなった。「CE

Oを極めて/非常に信頼できる」と答えた日本人

回答者はほんの18%にすぎない(グローバル平均:

37%)。リーダーシップが危機を迎える今、企業は

どのように社員との関係性を築いていくか、エンプ

ロイーエンゲージメント(社内コミュニケーション)

の重要性がますます高まっている。企業は、まず、

社員との密なコミュニケーションを通して、社員が

抱える不安や不満を解消するように取り組み、社員

との信頼関係を構築しなければならない。そして、

雇用や技術革新、グローバル化などから生まれる

人々の不安を取り除くために、今後どのように社会

に貢献していくのかを、分かりやすい形で発信して

いく必要がある。現在、社会システムが機能してい

るかどうか分からないと思っている人々がどちらに

転ぶかは、今後の企業の在り方にかかっているのか

もしれない。 � k

2017年3月号〔経済広報〕

視点・観点

15

Page 18: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

英国のEU離脱、EPAなどを議論~シンポジウム「日欧経済関係の未来」を開催~

経済広報センターは、昨年12月9日、ベルリン日独センターと、日本と欧州の経済関係の展望についてのシンポジウムを共催した。英国の欧州連合(EU)離脱問題(Brexit)や日EU経済連携協定(EPA)交渉などについて、日欧の官民関係者による活発な議論が展開された。

ベルリン日独センター評議員として挨拶に立ったフォン・ヴェアテルン駐日独国大使は、「英国のEU離脱問題があっても、英国が欧州や世界に対し背を向けることはない。日本政府、企業は、欧州側に自らの意見や要望を伝えてほしい」と発言した。続いて講演した駐日欧州連合代表部のハマレーン公使参事官・通商経済部長は、日本とEUで世界のGDP(国内総生産)の3割を占めるとした上で、「世界経済の成長と雇用にとり、今日、自由貿易の重要性が増している」と述べた。外務省欧州局の宮川審議官も、日EU・EPAを早期に合意させた上で、「環境やテロ対策など様々なテーマについて、アジア欧州会合(ASEM)などの多国間の枠組みも活用しながら、日欧協力を強化していきたい」と発言した。

その後のパネルディスカッションでは、日下一正国際経済交流財団会長をモデレーターに、5人の識者により、①Brexitの英国経済、欧州経済への影響、②政治面と経済面(市場、通貨など)の統一度のギャップから生じる諸課題につき、活発な意見交換がなされた。

講演

ハンス・カール・フォン・ヴェアテルン駐日独国大使

2016年11月にヨアヒム・ガウク独大統領が来日した際、日本の経済人、有識者と意見交換した。世界経済の不確実性が高まる中、ドイツと日本のような民主主義国家は、より一層、政治・経済の両面で協力していく必要があるという認識で一致した。英国はEU離脱後も、欧州や世界に背を向けるわけではない。日本の政府・企業には、英国政府やEUに対して、要望や懸念を率直に伝えていただきたい。EUは利害調整の方法をさぐる必要がある。しかし、いいとこ取りは許されない。「基本的自由」はEUに帰属する。

ティモ・ハマレーン駐日欧州連合代表部 公使参事官・通商経済部長

今日ほど、世界経済の成長と雇用にとって、自由貿易が重要なときはない。�2015年、欧州委員会は、「万人のための貿易(Trade�for�All)」戦略を決定した。これは、多国間、二国間の自由貿易協定を深化

させ、貿易の恩恵を広く一般市民に行き渡らせることを目標としている。この戦略の下、現在、50カ国以上にわたる20ほ

どの貿易協定交渉が行われている。中でも、日EU・EPAは戦略的に重要だ。日本とEUは世界のGDPの3割を占め、大きな影響力とグローバルな役割を有している。Brexitによる日本企業の懸念は十分理解しており、懸念や要望事項には十分、考慮したい。

宮川 学(みやがわ・まなぶ)外務省 欧州局審議官

日本政府は昨年9月、「英国及びEUへの日本からのメッセージ」を発表した。これは、英国の国民投票の結果を受けて、数百の日本企業に対するヒアリングを実施した上で、官民の有識者が参加するタスクフォースで、Brexitに関する意見と要望を取りまとめたものである。離脱プロセスが世界経済に大きな混乱をもたらすことなく円滑に進むよう、英国およびEUと協力していきたい。日本と欧州、そして米国は、保護主義、反グロー

バリゼーション、テロ、ポピュリズムなどに対して、協力して取り組んでいくべきである。特に日欧間では、日EU・EPA交渉を早期に妥結させた上で、ASEMなどの多国間の枠組みを活用しつつ、環境、サイバー、テロ対策、防衛・宇宙、食の安全などにつき、協力を加速させたい。

〔経済広報〕2017年3月号

経済広報センター活動報告

16

Page 19: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

パネルディスカッション

日下一正(くさか・かずまさ)(一財)国際経済交流財団 会長(モデレーター)

Brexitのプロセスには、EU各国の政治的思惑、社会情勢など、複雑な要素が絡んでくる。英国は単一市場へのアクセスを犠牲にしても、移民の問題にこだわるのか。いずれにしても、企業は、Brexit後のグローバルな戦略について、頭の体操を始めておく必要がある。

フベルトゥス・バートケルン経済研究所 所長

Brexitには、大きく2つのシナリオがある。ひとつは、いわゆるハードBrexit(強行離脱)である。この場合、英国のEU単一市場へのアクセスは、WTOメンバーとしての水準にとどまることになる。もうひとつのシナリオは、ソフトBrexitであり、英国とEU27カ国との間には、モノの貿易の関税は撤廃されるが、通関手続きなどの非関税障壁が残ることになる。加えて、英国はEUへの拠出金の負担などは求められるが、政策決定には関与できない。EU離脱交渉では、最終的に英国が妥協するのではないかと見ている。その理由としては、英国のモノ・サービスの輸出の44%はEU向けだが、EUの輸出の場合は、英国向けのものは6.5%にすぎない。貿易面で見ると、EU27カ国の交渉ポジションが強いと思われる。

ピーター・マシオンドイツ銀行 東京支店長

国際金融にとり、資本の移動は非常に重要である。現在、EUにおける約8000の金融機関は、ユーロ圏の単一免許制度の下、英国でビジネスを行っている。しかし、ハードBrexitの場合には、英国政府が新たに課す規制のために、免許を取得し直さなければならない。このシナリオでは、国境を越えた資本移動に関して、追加的な制約が課せられることは不可避となる。Brexitなどにより、世界政治・経済がどう展開していくかは、予測が難しくなっている。電気自動車

やフィンテックなどの分野で、多くの新しい先進的な技術開発が進展しているが、これらに関する規制内容が流動的で予見できないものであれば、企業の投資活動にも影響する。このような状況が、経済にもたらす長期的な影響を懸念している。

清水 章(しみず・あきら)経団連 ヨーロッパ地域委員会企画部会長(株)日立製作所 執行役常務グローバル渉外本部長

経団連ミッションで、昨年の10月、ロンドンとブリュッセルを訪問し、政府関係者や経済団体などと意見交換した。英国は、人の移動を制限しつつ、EU単一市場へのフルアクセスを維持しようと考えているようだったが、ブリュッセルはこれを受け付ける雰囲気ではなかった。米国大統領選の結果、環太平洋経済連携協定(T

PP)や環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の行く末が危ぶまれている。この中で、日EU・�EPAの締結は、自由で開かれた貿易を推進する上で、非常に重要だ。早期の交渉妥結を期待する。

ニコラス・スミスCLSA証券(株) ストラテジスト

英国は欧州第2の経済大国である。EUのGDPの約2割を占め、EUへの拠出金も2番目に大きい。加えて、英国市場は、ほかのEU加盟国にとって非常に重要である。これらを考えれば、離脱交渉は、英国に有利な形で進むのではないか。現在のEUの制度は硬直的で、域内の黒字の還流

メカニズムがなく、緊縮財政を迫られる中、各国独自の財政刺激策を取ることもできない。これが、経済格差の根本的要因である。

中村宏之(なかむら・ひろゆき)読売新聞東京本社 調査研究本部主任研究員

Brexitの背景には、多くの英国民の中に、反EUともいえる感情があったのではないか。また、「欧州経済を支えるのは英国」といった自尊心もあっただろう。英国は、リーマンショックからの立ち直りも早かった。加えて、ブレア政権以降、移民が急増した結果、

「英国民の雇用が脅かされる」「社会保障に多額の税金が使われる」といった不満が、特に地方で高まってきた。政府やメディアのエリート層は、ここを十分に読み切れなかったのではないか。� k

(文責:国際広報部主任研究員 別所達也)

2017年3月号〔経済広報〕

経済広報センター活動報告

17

Page 20: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

2017年世界経済の展望~ Brexit、米国新政権、日本経済の行方~

経済広報センターは、2016年12月15日、英国ザ・エコノミスト・グループで、ザ・エコノミスト・コーポレートネットワークのフローリアン・コールバッハ北東アジア編集ディレクター (商学博士)を招き、

「2017年 世界経済の展望~ Brexit、米国新政権、日本経済の行方~」と題する懇談会を開催した。経済誌『The Economist』を毎週発行する同グループは、傘下のシンクタンク部門であるザ・エコノミス

ト・インテリジェンス・ユニットにて、世界各国の政治経済の動向を予測分析したレポートを提供している。懇談会でコールバッハ氏は、2017年の世界経済の成長率を前年比0.3ポイント増の2.5%成長との予想を

披露する一方で、「企業経営者は英国の欧州連合離脱問題(Brexit)やトランプ新政権の動向とその影響を注視していく必要がある」と語った。以下はその発言概要である。

※本稿に記載のデータは、ザ・エコノミスト・グループの分析により2016年12月時点で算出した数値である。

2017年の世界経済

好調な米国経済と新興

国経済の持ち直しにより、

2017年の世界経済は前年比

0.3ポイント増の2.5%の成

長を達成すると見ている。

中国経済の減速が懸念され

るが、中国の国内消費は依

然として好調である。

今後、世界貿易は回復に向かうと考えているが、

保護主義の台頭など、政治的リスクの高まりが懸念

材料である。

欧州の抱える課題

2017年の欧州経済は、前年比0.5ポイント減速し、

1.1%成長と予想する。欧州は、Brexitのほかにも、

移民問題、ギリシャ金融支援問題など、多くの課題

を抱えている。2017年には、オランダ総選挙、フ

ランス大統領選挙・国民議会選挙、ドイツ連邦議会

選挙などが予定されており、既にナショナリズムや

ポピュリズム的な動きも見られる。そもそもEU

(欧州連合)加盟国の中で、国民の間にEUのあり様

に不満が見られるのは英国だけではない。これらの

政治的な動きを注視した上で、日本企業は欧州市

場に対する経営戦略を立案し、実行しなければな

らない。

トランプ新政権

TPP(環太平洋経済連携協定)離脱、「オバマケ

ア」の廃止、移民制限など、トランプ氏が選挙戦で

示した施策については、これらがどこまで実行に移

されるのかを見定める必要がある。経済政策の展開

も見通し難いものの、2017年の米国経済は2.3%程

度の成長と見ている。

トランプ政権の対アジア政策は、日本にも大きく

影響する。この地域に対する米国の影響力が低下す

ることになれば、日本は自らの役割を再考すること

が必須となる。

日本経済とアベノミクス

日本経済は成長力不足で、2017年の成長率は

0.5%(注)と予想する。為替はドルが強い状態が続い

ているが、円は「セーフへイブン(安全資産)」であ

るため、世界的な不安感や不確実性の高まりによ

り、投資家が円を買い戻し、円高に向かう可能性

もある。アベノミクスについては、経済成長率や

消費者物価指数に関して目標を達成していないも

のの、少子高齢化の中では、一定の成果を上げて

いる。今後、さ

らなる経済成長

を実現するため

には、構造改革

をより一層、進

める必要があ

る。� k

(注)ザ・エコノミスト・グループは、本年1月時点で日本経済の成長率を「1.0%」と予想している。

(文責:国際広報部主任研究員 渡辺精一)

〔経済広報〕2017年3月号

経済広報センター活動報告

18

Page 21: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

Corporate message

コーポレートメッセージ

このページでは、企業の「コーポレートメッセージ」や「コーポレートステートメント」など、事業活動を行う上で大切にしている想いやストーリーについて紹介します。

お客さまや社会との約束“power with heart”を策定

関西電力は「お客さまと社会のお役に立ち続ける」

ことを創業以来の使命として、お客さまの立場に

立った経営を推進してきたが、こうした中で昨年4

月に電力の小売全面自由化が実施され、今年4月に

はガスの小売全面自由化が予定されるなど、エネル

ギー業界を取り巻く環境が大きく変化している。こ

の変化に積極的に対応するため、お客さまにとって

の関西電力の存在意義を伝え、共感いただき、選ん

でもらうための方策としてブランドステートメント

の検討を開始した。策定に向け、一般のお客さまと

従業員に意識調査を実施し、電気やガスといったエ

ネルギーを供給する会社に必要なイメージや今後の

関西電力が強化するべきイメージを確認。同時に検

討を進めていた経営理念なども踏まえて議論を重

ね、“powerwithheart”を策定した。

お客さまや社会の『力』になるための活動に向けて

社外へのPRとしては、昨年4月より俳優、佐々

木蔵之介氏を起用し、テレビなどでCMを放映。

佐々木氏が黒部ダムを訪れたり、関西電力の従業

員を演じるなど、様々なシーンを通じて、“power

withheart”に込めた想いを伝えている。

一方で、コーポレートブランドを確立させるため

には、従業員による地道な実践活動が不可欠とし

て、社内においても浸透活動を行っている。“power

withheart”に込めた想いを意識して業務に励むこと

ができるよう、携帯できるサイズのブランドブック

を配布。また全86カ所の事業所でブランドキャラ

バンを実施し、コーポレートブランドの必要性や効

果を事務局から直接説明した。

関西電力は、今後もこのような従業員の意識啓発

に向けた取り組みを継続し、従業員がそれぞれの持

ち場において、“powerwithheart”という約束を果

たす、つまり、まごころと熱意を込めたサービス

で、お客さまや社会の「力」になり続けるために自ら

考え、行動し続けていく。自由競争下においてお客

さまから選ばれ続ける企業を目指す関西電力の今後

に期待したい。 k

(国内広報部主任研究員 平澤 徹)

関西電力グループブランドブック

Brand Book

はじめに

私たち関西電力グループは、安全最優先と社会的責任の全うを経営の基軸に位置づけ、「お客さまと社会のお役に立ち続ける」ことを使命に、明るく豊かな未来を実現し、ともに歩んでいきます。

経営理念

関西電力ブランドブック(表)

私たちの基本姿勢関西電力グループビジョン

安全の確保を最優先にします

CSRを確実に実践します

変わらぬ使命のために、変わり続けます

お客さまの立場に立った安心、快適、便利なサービスを幅広くお届けし、くらしとビジネスのべストパートナーとして信頼され、選ばれることで、国内外において成長を続けながら、エネルギー分野における日本のリーディングカンパニーとしての役割を果たしていきます。

関西電力グループは、人を大切にするという考えのもと、公正な事業活動を通じて、社会の持続的な発展に貢献します。私たち一人ひとりは、これまで培ってきた「使命感」や「チャレンジ精神」を発揮し、良き社会人として自らの業務に最善を尽くすとともに、次の基本的責務を果たします。

[ 基本的責務 ]

Kansai Electric Power Group

W 438 × H 126_蛇腹折り

(折りたたみ時 W 73×H 126 )

2016年4月 発行

[ 関西電力グループ理念体系 ]

当社グループがめざす将来のありたい姿を示すものであり、戦略面で経営理念の追求を支えます

経営の基本的な目的、経営姿勢を表す当社グループの最上位の概念です

当社グループと役員・従業員一人ひとりの行動を方向づける基本的な考え方を示すものであり、意識・行動面で経営理念の追求を支えます

Mar. 28th, 2016

私たちはエネルギー新時代を迎えるにあたり、お客さまや社会から信頼され、選ばれる企業グループとなるため、「経営理念」「私たちの基本姿勢」「関西電力グループビジョン」を策定しました。さらにこれらに掲げた企業姿勢や提供価値を端的に表すブランドステートメントを定めました。

「power with heart」

このブランドステートメントは、関西電力グループとお客さまや社会との約束です。

“まごころと熱意を込めたサービスで、お客さまや社会の『力』になりたい”という想いを込めています。

私たち関西電力グループは、全従業員が一体となってこの約束を果たしていきます。

力強く躍動感のある斜体、やわらかい印象を与える小文字と温かみを感じるウォームグレーで、「power with heart 」 の言葉が持つ力強さとやさしさを表現しています。さらに、「新風」をモチーフにしたオレンジの曲線デザインを加えることで、新しい時代においても変革し続けるというグループ従業員の熱意を込めています。

ブランドステートメント 関西電力グループとお客さまや社会との約束

デザインに込めた意味ブランドステートメントに込めた意味

関西電力ブランドブック(裏)

W 438 × H 126_蛇腹折り

(折りたたみ時 W 73×H 126 )

Mar. 28th, 2016

関西電力グループのブランドステートメント「power with heart 」 には、“まごころと熱意を込めたサービスで、お客さまや社会の『力』になりたい”という想いを込めています。

お客さまや社会との約束である関西電力グループのブランドステートメント“power with heart”には「まごころと熱意を込めたサービスで、お客さまや社会の『力』になりたい」という想いを込めている。このブランドステートメントは関西電力グループの在り方を示す「経営理念」「私たちの基本姿勢」「関西電力グループビジョン」で掲げた企業姿勢や提供価値を端的に表したものとして位置付けられている。

関西電力(株)

powerwithheart

2017年3月号〔経済広報〕 19

Page 22: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

N E W S

Keizai Koho Center News

2016年11月30日~ 2017年1月16日

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~二酸化炭素の回収・

貯留技術の現状と展望」、講師:

熊谷 司 日揮 営業本部中国事業

推進部部長)

早稲田大学商学部で「企

業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「変化に対応する日

本企業~グローバリゼーションに

おける取り組み(3)」、講師:酒

井 良次 セブン-イレブン・ジャ

パン 取締役常務執行役員企画本

部長兼財務本部長)

2〜4日、米国(ワシン

トンD.C.)で「全米社会科

協議会年次総会(NCSS)北米社

会科教育関係者招聘プログラム・

フォローアップ活動」を行った。

早稲田大学基幹理工学

部・創造理工学部・先進

理工学部で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「21世紀におけ

る科学技術と社会~スマート社

会の展望」、講師:進士 誉夫 東

京ガス エネルギーソリューショ

ン本部ソリューション技術部スマ

エネエンジニアリンググループグ

ループマネージャー)

慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企

業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦略

~M2Mを支えるクラウド&サイ

バーセキュリティ」、講師:岡田

昭広 富士通 セキュリティマネジ

メントサービス事業本部長)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~エネルギー・環境

先端技術と地球温暖化対策」、講

師:手塚 宏之 JFEスチール

技術企画部理事地球環境グループ

リーダー)

日本経済新聞に「企業

トップが続々と講義」と題

して、企業人派遣講座に関する

「意見広告」を掲載した。

早稲田大学商学部で「企

業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「変化に対応する日

本企業~IT技術における取り組

み(4)」、講師:福田 輝光 NT

Tデータ ビジネスソリューショ

ン事業本部ビッグデータビジネス

推進室長)

シンポジウム「日欧経済

関係の未来―Brexit、F

TA、Globalization」を開催し、

ハンス・カール・フォン・ヴェア

テルン駐日独国大使、駐日欧州連

合代表部のティモ・ハマレーン公

使参事官・通商経済部長、外務省

の宮川学欧州局審議官の講演の

後、パネルディスカッションを

行った。(詳細は、本誌16ページを

参照)

ヤマトホールディング

スの羽田クロノゲート(東

京都大田区)で、「生活者の企業施

設見学会」を開催し、社会広聴会

12/9

12/1

12/2

11/30

12/5

12/6

12/7

12/8

12/8

12/9

〔経済広報〕2017年3月号20

Page 23: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

員27名が参加した。羽田クロノ

ゲートは、陸・海・空の全ての輸

送手段が利用できる、ヤマトグ

ループ最大級の総合物流ターミナ

ルである。医療機器の洗浄やパン

フレットの印刷、製品の修理な

ど、多彩な付加価値機能も有して

いる。

見学会当日は、空中回廊から目

の前を荷物が流れていく様子など

を見学し、宅急便をはじめとする

物流の仕組みやヤマトグループ

が目指す物流の未来「バリュー・

ネットワーキング」構想などについ

て学び、社会的な価値を生み出す

物流事業について理解を深めた。

経団連会館で、「事業活

動に関する懇談会」を開催

し、企業広報をめぐる最近の課題

と、それに対応する当センターの

活動を会員に説明した。その後、

宮本アジア研究所の宮本雄二代表

が、「習近平政権のこれから」をテー

マに講演した。参加者は69名。

早稲田大学基幹理工学

部・創造理工学部・先進

理工学部で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「21世紀におけ

る科学技術と社会~スマート社会

の展望」、講師:矢島 孝應 ヤン

マー ビジネスシステム部執行役

員部長)

慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企

業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦略

~長寿で、隠れた秀逸な国際的中

小企業をめざして」、講師:藤井

大介 フジイコーポレーション 代

表取締役、福嶋 路 東北大学 大

学院経済学研究科教授)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先

端と将来展望~原子力発電の現

状及び先進的原子力発電への展

望」、講師:市川 長佳 東芝 エネ

ルギーシステムソリューション社

電力・社会システム技術開発セン

ター技監)

ザ・エコノミスト・コー

ポレートネットワークのフ

ローリアン・コールバッハ北東ア

ジア編集ディレクターを講師に、

「2017年世界経済の展望〜Brexit、

米国新政権、日本経済の行方〜」

に関する懇談会を開催した。(詳細

は、本誌18ページを参照)

わが国経済界の対外発

信強化の観点から、日本

外国特派員協会(FCCJ)と協力

し、会員企業関係者と外国メディ

ア記者との懇談会「ジャパン・ビ

ジネス・アップデート」シリーズ

をスタートさせた。本シリーズで

は、日本企業の役員などが自社の

戦略などを外国メディアに説明す

ることにより、関係強化の基盤構

築とともに、日本企業のより積極

的で国際的な情報発信の促進を目

指している。

第1回会合には、中外製薬の板

谷嘉夫取締役上席執行役員CF

Oが出席し、FCCJ会長のカ

ルドン・アズハリ・パンオリエン

トニュース東アジア支局長はじ

め、スイス放送協会、ザ・ストレ

イツ・タイムズ(シンガポール)、

ザ・エコノミスト・グループ(英

国)の記者らと、同社のグローバ

ル戦略などについて活発な意見交

換を行った。

12/12

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12/13

12/14

12/15

12/15

2017年3月号〔経済広報〕 21

Page 24: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

N E W S

Keizai Koho Center News

2016年11月30日~ 2017年1月16日

早稲田大学商学部で「企

業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「変化に対応する日

本企業~グローバリゼーションに

おける取り組み(4)」、講師:丹

羽 俊介 東海旅客鉄道 執行役員

広報部長)

米国(ジョージア州アト

ランタ)で、東レの吉永稔

米国社長を講師に、「第22回ビジ

ネス・スピーカー・シリーズ」を

開催した。

早稲田大学基幹理工学

部・創造理工学部・先進

理工学部で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「21世紀におけ

る科学技術と社会~スマート社会

の展望~スマートコンストラク

ション(スマート生産システム)」、

講師:四家 千佳史 コマツ 執行

役員スマートコンストラクション

推進本部長)

慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企

業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦略

~オンライン英会話サービスの取

り組みについて」、講師:中村 岳

レアジョブ 代表取締役社長)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~地熱発電の現状と展

望」、講師:加藤 久遠 三菱マテ

リアル 環境・エネルギー事業本

部エネルギー事業部地熱・電力部

部長補佐)

早稲田大学商学部で「企

業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「変化に対応する

日本企業~環境における取り組

み(3)」、講師:内海 実 花王

Corporate Executive Fellow)

慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企

業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦

略~中小企業は知恵の経営」、講

師:村上 義昭 日本政策金融公庫

総合研究所主席研究員)

社会広聴活動を取りま

とめた『ネットワーク通信

(新春号No.69)』を発行した。「イ

ンターネット利用に関するアン

ケート」調査結果やクロスメディ

ア・コミュニケーションズの雨宮

和弘代表取締役のインタビュー

「企業はホームページ、SNSを

どう活用すればいいのか」、コマ

ツ、オムロンにおける「企業と生

活者懇談会」、ニコンミュージア

ムでの「生活者の企業施設見学会」

の模様などについて掲載した。

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~電力システム改革

と今後の電気事業」、講師:服部

徹 電力中央研究所 社会経済研究

所 事業制度・経済分析領域 領域

リーダー 副研究参事)

早稲田大学商学部で「企

業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「変化に対応する日本

企業~グローバリゼーションにお

ける取り組み(5)」、講師:梅津

克彦 ヤマト運輸 国際戦略室長)

「教員の民間企業研修」

の様子をまとめた『教員の

民間企業研修レポート2016』を発

行した。

「経済広報センター会員

企業と在日中国メディア

との交流会」を開催した。本会合

は日本企業・団体と在日中国メ

ディア関係者との関係強化を図る

観点から、2005年以降、毎年開催

しており、今年度は、日中合わせ

約100名が参加した。

「どうする? 次年度の

IR・CSR情報開示~事

例で学ぶ、媒体の体系整理とES

G企画~」をテーマに、「企業広報

講座(第6回東京会場)」を開催し

た。講師は、タンシキの秋山和久

代表取締役。参加者は68名。(本誌

2月号に秋山氏の記事を掲載)� k

(国内広報部 鈴木陽子)

12/15

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1/13

1/13

1/16

〔経済広報〕2017年3月号22

Page 25: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

調査から見る日本企業の広報力2016

メディアは重要ではない?当研究所で2年ごとに実施している「企業広報力

調査」を題材に続けてきた本連載も今回で最終回と

なる。調査に回答いただけた533社に改めて感謝を

申し上げたい。もし回答をしそびれた企業があれ

ば、企業広報戦略研究所のサイトで簡易診断が可能

なので試していただければ幸いである。

最終回は、2016年調査結果の総括と「広報の未来」

についてまとめてみたい。

まず、今回の調査から見る企業の広報活動の変化

ポイントについて。

・ 広報ターゲットとして「メディア」が4位に下がり、

「従業員」「地域社会」の重要度が上昇(連載vol.5)。

・ 重要テーマとして「社内活性化」「危機管理」「CS

R(企業の社会的責任)」が急上昇(vol.5)。

・ コンテンツ消費時代において「情報創造力」の重要

性がさらに高まってきた(vol.4)。

・ 最も伸びた活動は「自社に影響を及ぼす法規制や

行政の動向について、継続的に把握している」(前

回調査比+10.4ポイント)(vol.6)。

・ そして、今後、未来に向けて広報責任者が最も注

力していきたい活動が「広報戦略」であるというこ

と(図1)。

メディアリレーションズからパブリックリレーションズへの進化

調査結果を一言でまとめれば、「メディアリレー

ションズからパブリックリレーションズへの進化」

であると捉えている。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービ

ス)が全世代に広く普及し、あらゆるステークホル

ダーが個々に意思表明を行い、発信力の強い個人は

マスメディアをもしのぐ“インフルエンス”力を発揮

し始めている。従来の新聞・テレビといった媒介者

(メディア)を主な対象としてきた「広報活動」が、パ

ブリックを対象としたリレーション活動に進化して

いる。こうした流れは今後もさらに加速していくだ

ろう。

しかし、企業のリソースは限られている。

マスメディアのみならず、多様なステークホル

ダーを対象としたリレーション活動をまんべんなく

展開していく余力は、よほど体力のある企業でなけ

れば難しい。

そこで、重要となってくるのが「広報戦略」である。

我々は広報戦略を「広報目標達成に向けたシナリ

オ」であると捉えている。

誰に、どのように思われたいのかといった「広報

目標」を明確にすることが広報戦略立案の第一歩で

ある。この目標が明確であれば、ステークホルダー

の優先順位付けがしやすくなり、限られたリソース

を戦略的に割り振ることが可能となる。

戦略なき広報に「未来」はない「広報目標」を立てるための指標となるのが中期

経営計画などの経営戦略だ。今回の調査結果では

「中・長期的な広報戦略・広報計画を作成している」

企業はわずか28.1%にとどまった。3分の2以上の

企業が、戦略・目標がないまま広報活動をしている

可能性がある。経営戦略と密な連携を図ることが、よ

り良い「広報」の未来に繋がっていくと確信している。

当研究所では広報・PRの発展に寄与する研究

を、産学連携で今後も続けていきたい。 k

(企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内)

 副所長 阪井完二)この連載は今月号で終了します。

vol.7

戦略なき広報に「未来」はない

■図1 広報責任者が今後強化したい領域広報責任者が今後強化したい領域

1

第2回(2016) 企業広報力調査より

図1)

強化したい 1位

強化したい 2位

強化したい 3位

11.3

12.5

17.0

15.3

10.1

9.7

13.2

10.9

0.0

3.0

6.0

9.0

12.0

15.0

18.0情報収集力

情報分析力

戦略構築力

情報創造力

情報発信力

関係構築力

危機管理力

広報組織力

広報責任者が今後強化したい領域

1

第2回(2016) 企業広報力調査より

図1)

強化したい 1位

強化したい 2位

強化したい 3位

11.3

12.5

17.0

15.3

10.1

9.7

13.2

10.9

0.0

3.0

6.0

9.0

12.0

15.0

18.0情報収集力

情報分析力

戦略構築力

情報創造力

情報発信力

関係構築力

危機管理力

広報組織力

2017年3月号〔経済広報〕 23

Page 26: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

広  報トピックス

広  報トピックス

企業広報ニュース

クラリベイト アナリティクス(旧トムソン・ロイター IP&Science)は、世界で最も革新的な企業・機関を選出する「Top100グローバル・イノベーター2016」を発表した。同社は世界的

な情報サービス企業であり、保有している特許データを基に知財・特許動向を分析し、独創的

な発明のアイデアを知的財産権によって保護し、事業化を成功させることで、世界のビジネス

をリードする企業・機関を毎年選出している。今回で6回目となる。

この賞は、「特許数」「成功率(特許庁に出願したものが特許と認められる割合)」「グローバル性

(日本、米国、欧州、中国での特許出願件数から算出)」と、「影響力(引用における特許の影響を

評価)」(分析対象は過去5年間。「グローバル性」のみ過去3年間)の4つの軸で評価し、世界中

から100社が選出される。

100社のうち、日本企業は34社であり、米国(39社)に次いで2番目に多い。

選出された日本企業は、アイシン精機、ブリヂストン、キヤノン、ダイキン、富士フイルム、富士通、日立製作所、本田技研工業、ジェイテクト、川崎重工業、神戸製鋼所、小松製作所、京セラ、マキタ、三菱重工業、日本電気、新日鐵住金、日産自動車、日東電工、日本電信電話、オリンパス、オムロン、パナソニック、ルネサス エレクトロニクス、セイコーエプソン、信越化学工業、昭和電工、ソニー、住友電気工業、東芝、トヨタ自動車、ヤマハ、安川電機、矢崎総業である。  k

(国内広報部主任研究員 磯部 勤)

東京証券取引所は、企業価値の向上を目指す経営を実践している上場企業を表彰している。東証市場の全上場会社(約3500社)が対象で、2016年度は「企業価値向上表彰」大賞に花王、優秀賞に明治ホールディングスとスタートトゥデイ、アステラス製薬の3社が選ばれた。同表彰は年1回実施しており、今回で5回目である。

「企業価値向上表彰」は、東京証券取引所が市場開設者の立場から望ましいと考える企業価値

の向上を目指した経営の普及・促進を図ることが目的で、2012年度に創設された。資本コス

トをはじめ、投資者の視点を深く組み込んで企業価値の向上を目指すなど、東証市場の魅力向

上に資すると認められる経営を実践している上場会社を表彰対象としている。

選定は、過去数年間の「エクイティ・スプレッド(ROE:自己資本コスト)」の平均値、また

は成長率が良好な会社として400社程度を選抜した後、2回のアンケートによりファイナリス

トとして数社に絞り込み、投資家などからファイナリストに関する意見を募集。さらに、上場

会社表彰選定委員がファイナリストの経営陣に対してインタビューを実施し、決定するという

プロセスで行われた。

大賞を受賞した花王は、資本コストを上回る企業価値の創造額を表す経営指標である「EV

A」を先駆的に導入し、これを様々な経営のプロセスで活用することで持続的な価値創造を実

現しているなど、「企業価値向上経営」を特に高いレベルで実践していると認められた。 k

(国内広報部主任研究員 磯部 勤)

Top 10

0

グローバル・

イノベーター 2

01

6

「企業価値向上表彰」

大賞は花王

〔経済広報〕2017年3月号24

Page 27: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

Book

Book

企業広報ニュース

工場見学がブームとなっている。その一方で、企業担当者の多くは、工場見学が「ファンづくり」に寄与しているのか、費用対効果はどうかといった悩みを抱えているという。 2015年5月にオープンした「味の素グループうま味体験館」は、味の素グループの「ファンづくり」に貢献する主要なコンテンツ。見学者に「さすが、味の素グループ。やるなー、味の素グループ。」との認識を持ってもらうことを目標に掲げる。同書は、工場見学のノウハウを、同館の運営に携わる「工場見学プロジェクト」の産学のメンバーがまとめている。同プロジェクトが実施した調査で、「工場見学実施の目的が共通認識になっていない」「見学者の評価に関する調査が定性面に偏っている」「施設や運営などに関わる『人・もの・金』の評価が確立されていない」といった課題が明らかになった。これらを踏まえた、①コンテンツの見直しと品質向上、②グループ従業員全員での「こころからのおもてなし」、③工場見学評価方法の開発、の3つの取り組みを紹介している。特に、「工場見学の評価方法開発チーム」がまとめた「ATTM法」は、業務システムに組み込める評価方法だ。「工場見学プログラムの評価」「見学者の意識変容・態度変容の評価」の2つのKPI(重要業績評価指標)の結果を運営に活用する。ほかにも、スタッフの技能向上の方法や見学者の声の集め方、「Web申し込みシステム」の活用方法などの具体的な取り組みが紹介され、企業と生活者のコミュニケーションの在り方を考えるヒントが詰まった一冊となっている。 k

(国内広報部主任研究員 守谷ちあき)

経済広報センターの元常務理事の上田惇生氏――彼は、ドラッカーの主要作品の全てを翻訳しているドラッカー研究の第一人者。日本のドラッカー学会の初代会長でもある。同書は、1970年代に全米マネジメント協会出版部が、ドラッカーに依頼してマネジメントの極意をテープに吹き込んだものを書籍化したものである。1970年代の発言なのに、ドラッカーの言葉は、今読んでも全く色あせていない。ドラッカーの著書を愛読する日本の経営者は多いが、ドラッカーは、マネジメントはイズムでも、サイエンスでもなく、実践であると説いている。マネジメントは、世の中と人の生活をより良いものにするための道具であり、当然、そこにはハウツーがあると主張する。同書のサブタイトルは「ドラッカーが語りかける毎日の心得、そしてハウツー」。目次を見ると、「上司として成果をあげる」「上司をマネジメントする」「スペシャリストをマネジメントする」などの項が並ぶ。訳者あとがきで上田氏は、ドラッカーの言葉を引用しながら「成果をあげる人とあげない人の差は、才能ではない。いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題。(中略)その組織に成果をあげさせるものがマネジメント」と締めくくっている。この本は、マネジメント全般について書かれたものであるが、広報部門の仕事を念頭に読んでも、多くのヒントが得られると思う。 k

(常務理事・国内広報部長 佐桑 徹)

『工場見学がファンをつくる

実施ノウハウと評価方法』

『われわれはいかに働きどう生きる

べきか

ドラッカーが語りかける毎日の心得、そしてハウツー

産学連携「味の素社工場見学の評価方法開発チーム」中嶋康博、氏家清和、伊藤暢宏、赤澤周平、相馬隆史、山本恵裕著、日本経済新聞出版社2016年12月発行、1800円(税別)

P.F.ドラッカー述、上田惇生訳、ダイヤモンド社2017年1月発行、1300円(税別)

2017年3月号〔経済広報〕 25

Page 28: 月刊 3 - KKC · ~「2017 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~ ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長) 14 経済広報センター活動報告

企業・団体のCSR活動

発行:一般財団法人 経済広報センター   Printed in Japan

平成29年3月1日発行(毎月1回1日発行)

昭和55年10月23日第3種郵便物認可

http://www.kkc.or.jp/

第39巻第3号通巻451号

2017

3

あいおいニッセイ同和損害保険は、「グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えます」という経営理念の下、様々なステークホルダーとのコミュニケーションを基本とし、損害保険会社の特性を生かしたCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでいる。近年、気候変動・地球温暖化の影響により、台風の大型化、ゲリラ豪雨などが頻発している。さらに今後、南海トラフ巨大地震の発生が懸念されるなど、震災への対応が社会的課題となっている。こうした状況の中、同社は、地震保険の普及や地域の防災・減災に向けて全社を挙げて取り組んでいる。東日本大震災から5年目の節目となった2015年には、全国で「地震保険普及活動」に取り組み、期間中の契約件数1件につき5~ 10円を、翌2016年度に同社より各都道府県に寄付した。寄付金は、地域での防災対策費用として役立ててもらっている。また、地域における防災・減災の取り組みとして

「ハザードマップ」を活用した備えの重要性と正しいリスク認識を伝える活動に力を入れている。この活動では、社員や代理店がお客さまへ、災害予測図を使いながら水害や地震などが発生した際に予測される被害の範囲や程度、避難場所や避難経路などの情報を提供する。多くの人が地域の安全・安心に関心を持ち、自らの生命と財産を守ることを考えるきっかけづくりをすることが狙いだ。2016年度には、同社のプロ代理店組織である「A

D全国プロ会」と「ハザードマップロープレ全国大会」を共催し、1万人が参加した地方予選を通過した代表者30人がプレゼンテーション技術を競った。代表者たちは、「ハザードマップマイスター認定証」を授与され、今後、ハザードマップマイスターとして、自己研鑽と、この活動を通じた全国各地の防災・減災の取り組みをけん引していく。加えて、保険にベルマークを付与する唯一の損害

保険会社(2017年1月現在)として収集活動にも注力しており、社内や取引先などから集まったベルマークを東日本大震災や2016年の熊本地震の被災地の学校へ寄付するなど、同社らしさを生かした活動も行っている。2011年度から開始したこの活動では、これまでに1170万点を収集し、小中学校など118校へ寄贈した。今後も、企業メッセージである「全力サポート宣

言」(迅速、優しい、頼れる)を実践し、明るく元気なCSR活動を通じて、企業価値の向上と持続可能で健やかな地域社会の発展を目指していく考えだ。 k

(国内広報部主任研究員 守谷ちあき)

あいおいニッセイ同和損害保険(株)

お問い合わせ先広報部CSR推進室TEL:03-5117-0203

HP http://www.aioinissaydowa.co.jp/csr/

安心・安全な社会の実現に向けて

情報提供に使う「あなたの街のハザードマップ」(オリジナル教材)

発行人/渡辺 良 編集人/佐桑 徹

[ISSN0918–4600

東京都千代田区大手町一-

三-

経団連会館

(本体価格三〇〇円+税)

電話〇三-

六七四一-

〇〇二一 〒一〇〇-

〇〇〇四

(送料別、賛助会員の購読料は会費に含む)

「ハザードマップロープレ全国大会」の参加者は、ハザードマップマイスターとして、全国各地の防災・減災の取り組みをけん引していく

集めたベルマークは役職員が仕分け・集計し、東日本大震災や熊本地震の被災地の学校へ寄付している