地域編⑦:カリマンタン - jbic第31 章 地域編⑦:カリマンタン 245...

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31 地域編⑦:カリマンタン 245 地域編⑦:カリマンタン 地域概要 概要 ①インドネシア国内における経済的地位 カリマンタンは、インドネシアの中部に位置するボルネオ島の一部である。島全体の面積は 72.6 km 2 で、インドネシア領はこの内の 54.4 km 2 (日本の約 1.4 倍)を占める。同島中部でマレー シアと国境を接し、また同島北部にはブルネイ・ダルサラーム国がある(図表 31-1)。 カリマンタンは行政上、5 州(西カリマンタン州、中部カリマンタン州、南カリマンタン州、 東カリマンタン州、北カリマンタン州)から構成される。 2018 年の名目 GDP 1,230 兆ルピアで、 インドネシア全体の 8.2%を占める。州別の名目 GDP では、東カリマンタン州がカリマンタン地 域の 51.9%と過半を占め、以下、西カリマンタン州(同 15.8%)、南カリマンタン州(同 14.0%) が続く。 カリマンタンは天然資源が豊富で、石炭、石油、天然ガス、鉄鉱石、ボーキサイト、金などが 産出される。鉱業は地域名目 GDP 30.9%を占め、全国平均(7.8%)を大きく上回る。他方、 3 次産業では特に「卸売・小売業」と「情報・通信業」が全国平均を大きく下回っており、第 3 次産業全体の地域名目 GDP 構成比は 30.1%(全国平均:44.5%)と全地域の中で最も低い。 図表 31-1 カリマンタン(地図) (出所)白地図専門店(三角形)より作成 バンジャルマシン バリクパパン ブルネイ・ダルサラーム

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Page 1: 地域編⑦:カリマンタン - JBIC第31 章 地域編⑦:カリマンタン 245 地域編⑦:カリマンタン 地域概要 概要 ①インドネシア国内における経済的地位

第 31 章 地域編⑦:カリマンタン

245

地域編⑦:カリマンタン

地域概要

概要

①インドネシア国内における経済的地位

カリマンタンは、インドネシアの中部に位置するボルネオ島の一部である。島全体の面積は 72.6万 km2で、インドネシア領はこの内の 54.4 万 km2(日本の約 1.4 倍)を占める。同島中部でマレー

シアと国境を接し、また同島北部にはブルネイ・ダルサラーム国がある(図表 31-1)。

カリマンタンは行政上、5 州(西カリマンタン州、中部カリマンタン州、南カリマンタン州、

東カリマンタン州、北カリマンタン州)から構成される。2018 年の名目 GDP は 1,230 兆ルピアで、

インドネシア全体の 8.2%を占める。州別の名目 GDP では、東カリマンタン州がカリマンタン地

域の 51.9%と過半を占め、以下、西カリマンタン州(同 15.8%)、南カリマンタン州(同 14.0%)

が続く。

カリマンタンは天然資源が豊富で、石炭、石油、天然ガス、鉄鉱石、ボーキサイト、金などが

産出される。鉱業は地域名目 GDP の 30.9%を占め、全国平均(7.8%)を大きく上回る。他方、

第 3 次産業では特に「卸売・小売業」と「情報・通信業」が全国平均を大きく下回っており、第

3 次産業全体の地域名目 GDP 構成比は 30.1%(全国平均:44.5%)と全地域の中で最も低い。

図表 31-1 カリマンタン(地図)

(出所)白地図専門店(三角形)より作成

バンジャルマシン

バリクパパン

カリマンタン

ブルネイ・ダルサラーム

Page 2: 地域編⑦:カリマンタン - JBIC第31 章 地域編⑦:カリマンタン 245 地域編⑦:カリマンタン 地域概要 概要 ①インドネシア国内における経済的地位

インドネシアの投資環境

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これらの特徴から、内資・外資両方によって東カリマンタン州バリクパパンなどを中心に天然

資源開発を目的とした進出が活発である。また、「東洋のベニス」と呼ばれる南カリマンタン州都

のバンジャルマシン、オランウータンが生息するタンジュン・プティン国立公園等、観光資源も

豊富である。他方、全国平均の 5 分の 1 程度という人口密度の低さと、後述する交通インフラの

未整備から販路の構築・維持が難しいため、地域内の消費市場を狙った事業進出はいまだ限定的

と言える。

尚、ジョコ大統領は 2019 年 8 月、首都を東カリマンタン州内に移すことについて、最適地を選

定し、国会議長に所管を出したことが報道されており、2024 年には政府機関の移転が始められる

ことが伝えられている。

②工業団地・日系企業進出動向

インドネシア投資調整庁(BKPM)によると、2018 年のカリマンタン地域の外国直接投資(FDI)の受入れ総額(実行ベース)は 19.5 億ドルで、全国の 6.7%を占めた。同地域の中で最も多くの

投資を受け入れた州は中部カリマンタン州(6.8 億ドル)で、次いで東カリマンタン州(5.9 億ド

ル)であり、この 2 地域で全体の直接投資額の 6 割超を占める。

カリマンタンには高質とされる石油資源が賦存するため、国営石油企業プルタミナ、トタル、

シェブロン等のオイルメジャーをはじめ、各国の石油開発関連企業の進出が盛んである。日系企

業の進出としては、1966 年に国際石油開発帝石がインドネシア政府と同地域マハカム沖鉱区の生

産分与契約を締結した例が挙げられる(生産分与契約は 2017 年末で終了)。

東カリマンタン州の主要都市バリクパパン近くの Kariangau Industrial Estate では 2019 年までの

免税インセンティブを用意し、水道・電力などの産業インフラも比較的整備されている。

進出日系企業から見た事業・生活環境やコスト

図表 31-2 は、カリマンタンに進出した場合のメリットと留意点を整理したものである。

図表 31-2 カリマンタン進出のメリットと留意点

(出所)各種文献より作成

メリット 留意点

石油・石炭など天然資源が豊富に賦存している鉱業依存の産業構成のため、製造業や第3次産業の

振興が遅れている

バリクパパンなど、石油産業が盛んな都市は事業環

境が整っている交通など基本的なインフラの整備が途上である

中部カリマンタンを除けば、電化率は全国平均

(80.5%)と同等以上である

西カリマンタン州を除き、最低賃金は全国平均より

も高い

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第 31 章 地域編⑦:カリマンタン

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①インフラ・物流

【空港】

主要都市間は航空網で結ばれている。主な空港は東カリマンタン州バリクパパンのスルタン・

アジ・ムハンマド・スレイマン空港、南カリマンタン州バンジャルマシンのシャムスディン・ノ

ール空港等である。前者についてはシンガポールなどに就航している国際空港である。後者は国

内線のみが就航している。

【道路】

建設業者不足、湿地帯での建設コスト増などにより、東カリマンタンの主要県でも全般的に道

路整備は不十分である。現在、同州都のサマリンダと同州バリクパパンを結ぶ高速道路の開発が

進められている。

【電力】

インドネシア電力公社(PLN)の「PLN STATISTICS 2018」に拠ると、2018 年の州別の電化率

は、西カリマンタン州が 86.98%、南カリマンタン州が 96.52%、東カリマンタン州と北カリマン

タン州が合わせて 97.02%、中部カリマンタン州が 76.36%である。

②労働事情

【人材】

2018 年のカリマンタン地域の人口は 1,621 万人(同国全体の 6.1%)で、そのうち労働力は 1,130万人である。失業率は、経済規模の大きい東カリマンタン州でも 6.6%と全国平均の 5.34%を上回

る水準にある。同州では労働市場の供給面での懸念は小さいと考えられる。その他の州では、北

カリマンタン州を除く 3 州の失業率は 4%台で比較的低い(北カリマンタン州は 5.2%)。

【賃金】

2018 年の各州の月額最低賃金をみると、北カリマンタン州(277 万ルピア、約 21,400 円)と東

カリマンタン州(275 万ルピア、約 21,300 円)は全国平均(245 万ルピア、約 19,000 円)に比較

して、高い水準にある。また、南カリマンタン州(265 万ルピア、約 20,500 円)と中部カリマン

タン州(262 万ルピア、約 20,300 円)の最低賃金も全国平均を若干上回っている。他方、西カリ

マンタン州(221 万ルピア、約 17,100 円)の最低賃金は全国平均を下回る水準である。

③生活環境

【一般】

バリクパパンなどは石油産業関連に従事する外国人が多く、生活環境が比較的整っている。東

カリマンタン州には大規模なショッピングモールもある。

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インドネシアの投資環境

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【食事】

和食を食べられるレストランは少ない模様であるが、寿司を提供するレストランが数件ある。

また、ショッピングモールの「Pentacity Shopping Venue」ではステーキの「ペッパーランチ」が営

業している。

【教育】

日本人学校はなく、バリクパパンに Australian International School や Raffles Independent School等のインターナショナル・スクールが開校している。

【住居】

バリクパパンの日本人駐在員向け不動産の情報は少ない。尚、ホテルでは、市内に欧州の大手

チェーンホテルであるノボテル(Novotel Balikpapan Hotel)がある。その他ホテルを含め、出張者

向けのホテルとしては、宿泊単価は 5,000 円前後が多い模様である。

【治安】

都市部、郊外とも比較的治安は良いとされているが、2016 年 11 月に東カリマンタン州サマリ

ンダで教会への火炎瓶投擲事件が起こるなど、近年はテロ事件が発生している。また、スハルト

政権時に国内移民同化政策に基づきジャワ島等から大量の移住民が送り込まれた経緯から、移住

民と先住民との軋轢があるとされる点には注意が必要である。

【その他】

東カリマンタン州にはカラオケボックスやゴルフ場がある。今後、首都が移転して人口が増加

すれば、娯楽市場が拡大することも考えられる。

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第 31 章 地域編⑦:カリマンタン

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主要工業団地

カリマンタンに立地する主要工業団地を以下の表にまとめた。

No. 工業団地名 Address(県/市)総開発面積

(ha)

1 Tanahapuas Makmur Pontianak 117

2 Bumi Kecubung MakmurJl Pasir Panjang, Wilayah Kec Arut SelatanLainnya, Arut Selatan, Pangkalanbun 74151Kalimantan Tengah

95

3 Karya Bumi Kahayan Makmur Palangkaraya 400

4 Banjar Gawi MakmurJl Banjar Gawi III 138, Landasan Ulin Barat,Landasan Ulin, Banjarmasin 70722Kalimantan Selatan

100

5 Rasmalan Land Jaya Banjar 90

6 Kaltim Industrial Estate (BontangIndustrial Estate)

Wisma KIE Lt.2, Jl. Paku Aji Kav.79 BontangKalimantan Timur 75313 246

7 Kariangau Industrial Estate (KawasanIndustri Kariangau)

Jl. Bakusi Rahmat No.45, SamarindaKalimantan Timur - 75111 300

8 Kawasan Industri Delma Mandiri (DelmaIndustrial Park ) Bulungan 400