持続発展教育 岡山大学視察報告 (1) -...
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所沢市持続発展教育(ESD)調査研究協議会 ユネスコスクール世界大会視察報告 平成26年11月6日~7日 岡山大学
1 はじめに 日本は、持続可能な開発のための鍵を「教育」と考え、2002 年の持続可能な開発に関す
る首脳会議において、2005 年から 2014 年の 10 年間を「国連持続可能な開発のための 10年」とすることを提唱した。その後の 10 年間の取り組みで、国内的には学校教育現場で一
定の成果を挙げ、国際的にも約 100 ヶ国がESD推進のため国内体制を整備するなど、少
しずつ浸透してきた。しかしながら持続可能な社会に変革していくほどに、広く一般にE
SDが浸透したとは言えない。 そこで、「国連持続可能な開発のための 10 年」終了後の 2015 年以降もより強力にES
Dを推進するため、日本政府はユネスコとの共催により、名古屋市、岡山市において「E
SDに関するユネスコ会議 ユネスコスクール世界大会」を開催した。この会合で、「国連
持続可能な開発のための 10 年」の成果を検証し、今後の課題を決めるという。 所沢市持続発展教育(ESD)調査研究協議会では、「ESDに関するユネスコ会議 ユ
ネスコスクール世界大会」を視察し、所沢市での ESD の研究が始まってからの取組につい
ての成果と課題を明らかにし、今後の市内の ESD の方向性を決める手段の一つとする。 以下にこの視察について報告する。 2 視察内容 Ⅰ 実践発表 11月7日(金) 岡山市立学校児童生徒による ESD 実践 (三校の小学校と一校の中学校の発表の中の以下の一校のみ視察することができた。) 「健康や環境について考える―いま私たちができることは―」岡山市立京山中学校 京山中の保健員4人が8020運動プロジェクト(80歳まで20本の歯を残す運動)
について委員会の 1 年間の取組が発表された。歯をテーマにし校内での健康のための様々
な活動、校外に出てお年寄りとの交流なども紹介された。委員が考案したカミカミレシピ
なども実際やって見せての発表だった。いずれの活動も現在の健康だけでなく今行ってい
ることが将来どのようにつながっていくか時間の流れと現在できることの社会とのつなが
りが縦軸と横軸になって大きく広がっていくものだった。 発表が終わった後、成田先生が児童に質問された。
Q1「この活動をして何が変わりましたか。」 Q2「この活動で大切だと思うことは何ですか。」 A 1「日常生活で常にかむことを意識するよう になりました。健康につながる活動は、将来に つながるのでずっと続けていきたいと思うよう になりました。」A 2「大切なことは、みんなで 楽しく健康を維持するということです。」など4 人の生徒の答えには「工夫して」(問題解決能力) 「みんなで」(つながり)「進んで」(意欲)が自 分のことばで表現され、子どもたちの話す内容 や取り組む姿勢に京山中学校の ESD の教育の 成果が現れていた。
Ⅱ 講演会 11月7日(金) ユネスコスクール世界大会 ―第6回ユネスコスクール全国大会― 『未来に生きる子どもたちのために』 日本ユネスコ国内委員会会長、 中央教育審議会会長 安西 裕一朗 戦後70年の今日、しあわせに生きるとは、厳しい社会を生き抜くことができるように
なる事である。真綿に包まれて生きていくことはできない時代が来ることを覚悟しなけれ
ばならない。2012 年の PISA の結果から見ても知識の活用力や問題解決能力は 2006 年以
降上昇している。全国学力・学習状況調査の内容からも小中学校では問題解決能力を高め
ようと努力している。しかし高校では問題解決能力を高める教育より、大学受験に対処す
る勉強が重視されているのが現状である。今の高校教育を変えていくためには、ESD を実
践している学校が入試に強くなるよう大学入試そのものを変えていく必要がある。 講演の初めにこのように述べた後、以下の話をされた。
(1) 具体的な国の動き ①中央教育審議会の主な審議事項 学習指導要領全体の改訂について (H26 年 3 月 28 日 第 90 回中央教育審議会配布資料「教育再生の実現に向けて」より抜粋) ○“他者と協働”しながら、新しい価値観を創造する力(今回“他者と協働”が加わる
予定) ○今後の社会を生きる力として求められる“資質と能力”は何かを明確にしたうえで確
かな学力を一人一人に育成することを目指す。 ○その際、主体的に学ぶ力、リーダーシップ、企画力・創造力などクリエイティブな能
力、感性や優しさ・思いやりにつても重要視する。 ②英語教育 グローバル人材について 小中高の学びを接続させる、指導と評価 ③髙校大学接続 公平性をめぐる社会の意識改革 高大接続改革実行プラン(仮名)
④持続可能な開発のための教育(ESD)とは 『持続可能な社会の担い手を育む教育』 ⑤ESD『持続可能な社会の担い手を育む教育』に関する我が国の取組 ○ 人格の発達や、自立心、判断力、責任感などの“人間性を育む”こと ○ 個々人が他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性の中で生きており、 “「関わり」、「つながり」を尊重できる個人を育む”こと。
<これまでの文部科学省の取組> ○教育基本計画 ○学習指導要領 中学社会、中学理科 →総合的な学習の時間を活用 ○ユネスコスクールを ESD の推進経典と位置づけ拡充 現在 807 校加盟
(2) 国内の課題 ① ユネスコスクールの質的向上(交流事業) ② 学習指導要領における ESD の明確化 ③ ESD の評価指標の開発等の調査研究
(3) 最後に、安西先生の考えとしてこれからの時代について以下のことを述べた。 ・コミュニケーションの質とスピードが高まる。 ・グローバル社会・地域社会への個人の関与が高まる。 ・個人が双方向メディアに直接参加する機会が増える。 ・“背景の違う多様な人々”と“協働”する機会が増える。 (自分の仲間でない人 例 地域の人など) <重要となる力> ・知識技能の活用力 ・生涯楽しく学び続ける学習継続力 ・情報を吟味する力・合理的思考力 ・予想外の変化に即座に対応する臨機応変力
*自分の目標を自分で見出して実践する「主体性」が要
Ⅲ ユネスコスクール世界大会 開会式 11月7日(土) ―第6回ユネスコスクール全国大会― ESDのさらなる発展を目指して ~2014年を越えて~ (1)私たちにとっての ESD (2)日本ユネスコスクールによる「国連 ESD の10年」の成果 (3)日本のユネスコスクール「私たちのコミットメント(誓い)」 (4)学校によるさらなる ESD の推進「ユネスコスクールからの提案」
Ⅳ 分科会11月7日(土)分科会
「小中学校の ESD で育む学力 ―問題解決能力・協力・意欲の育成について―」
多摩市立多摩第一小学校校長 棚橋乾先生 ユネスコスクールとして国研の ESD で育む7つの能力・態度を生徒の変容で分析した。
①批判的に考える力 ②未来を予測して計画を立てる力 ③多面的・総合的に考える力
④コミュニケーションを行う力 ⑤他者と協力する態度 ⑥つながりを尊重する態度 ⑦進んで参加する態度 上記の①~③は非常に重要な力ではあるが、生徒の変容は難しい。 そこで多摩第一小学校の ESD の取組では、特にこの3つの力をつけるために「問題解
決能力」を総合的な学習の時間における多摩第一型問題解決学習を行っている。 持続可能な社会づくりのための教育 ↓ 問題解決能力の向上=探求学習の充実 ↓
多摩第一小の ESD で育む能力・態度 国立政策研究所
ESD で重視する能力・態度 OECD
キー・コンピテンシー 問題解決能力 「工夫して」
思考力・判断力・表現力
課題を見つける力
仮説に基づき計画を立てる力
調べる力・まとめる力・発信力
①批判的に考える力
②未来を予測して計画を立てる力
③多面的・総合的に考える力
相互作用に 道具を用いる
つながり「みんなで」
協力・合意形成 協力する態度
他者から学び高め合う態度
④コミュニケーションを行う力
⑤他者と協力する態度
異質な集団で 交流する
意欲「進んで」 意欲・実践
意欲を持って活動に
取り組む態度
生活に生かし実践する態度
⑥つながりを尊重する態度
⑦進んで参加する態度
自律的に活動する
学校の取組を紹介後、参加者全員が ESD についての成果と課題を出し合いまとめていった。 【成果】 ①これまで行われてきた行事、取組について 改めて意味づけ、価値について再確認できた。 ②多様性を尊重し意欲を向上させることができた。 ③様々な活動の意欲を高めることができた。 ④様々な取組の結果、学力が向上した。 【課題】 ①学習の系統性と連続性がない。 ②学力が身につかない。 ③評価方法があいまい ④何を育てたいのか目標がはっきりしないので、評価があいまいになる。 ⑤体験ありきで結局 ESD はどのような能力・態度を育むのかあいまいなままである。 そのためにはどのような指導方法があるか。
3 視察の成果と課題 この世界大会では、「国連持続可能な開発のための 10 年」の成果を検証し、今後の課題
を決めるということで今回の視察をした。 【「国連持続可能な開発のための 10 年」の成果と検証】
国連持続可能な開発のための教育10年で、日本政府は 2008 年に改正教育基本法に基
づき教育施策の基本的な方針等を定める教育基本計画の重要な理念の一つとして ESD を
位置づけるとともに、5 年間に取り組むべき施策の一つとして ESD の推進を盛り込んだ。 2013 年には第 2 期教育振興基本計画により明確に ESD を位置づけた。さらに 2008 年に
は、小中学校の、2009 年には高等学校の学習指導要領に ESD の視点を盛り込んだ。その
成果として全国の小中高等学校において「生きる力」を育むという理念の下、ESD の視点
も重視した教育が推進されている。 今後の課題として学校現場で浸透している ESD を拡大していくとともに質を向上させ
必要があること。今後、①学習指導要領の記述と ESD のつながりをより明確にしていく
ことが必要との指摘もあり、今後検討していくことが求められている。また、②ESD を実
践する教員の養成も重要となっている。さらに、ESD を実践する学校では、児童生徒の想
像力や物事を多面的・総合的に考える力、論理的に考える力の向上といった、ESD の効果
が報告されている。ESD の教育上の③効果について実証する体系的な研究と客観的な評価
指標の開発が課題となっている。 この世界大会の検証を受け、今後の所沢市の ESD の方向性を決める手段の一つとする。