地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響...

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地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響 < 要 旨 > 近年、児童虐待による子どもの尊い命が奪われる重大な事件が後を絶たず大きな社会問 題となっており、児童虐待相談対応件数は、平成2年度の集計開始以来、右肩上がりに上 昇し続けている。児童虐待防止には、地方自治体および児童相談所の発生予防から自立支 援に至る一の対策が必要である。 しかしながら、児童虐待については、家庭の繊細な問題であり、定量的な分析は難しい として、地方自治体の取り組みの政策効果については、明らかになっていない。例えば、 事業の取り組み状況や主たる相談窓口の職員の置状況等が児童虐待相談対応件数等へ与 える影響については十分に検証されていない。 本稿は、近畿圏内全市役所を対象にしたアンケート調査を行い、児童虐待相談対応件数 およびその中から児童福祉施設入所に至った件数を用いることで、地方自治体の取り組み の政策効果について、理論的考察をもとに実証分析した。その結果、ファミリーサポート センター事業等や保育士等の職種を置することが、児童虐待相談対応件数および児童福 祉施設入所件数に影響を与えることが分かった。また、人口密度のいによって、児童人 口当たりの主たる相談窓口の職員数増加が与える影響も明らかにした。 これらの結果から、児童虐待防止に有効となる地域性を活かした事業を推すること や、人口密度のいによってより効果のある職種を置や、啓発活動の推をすべきであ ると政策提言を行った。 2012 年(平成 30 年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU17710 長谷川 智久

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地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響

< 要 旨 >

近年、児童虐待による子どもの尊い命が奪われる重大な事件が後を絶たず大きな社会問

題となっており、児童虐待相談対応件数は、平成2年度の集計開始以来、右肩上がりに上

昇し続けている。児童虐待防止には、地方自治体および児童相談所の発生予防から自立支

援に至る一連の対策が必要である。

しかしながら、児童虐待については、家庭の繊細な問題であり、定量的な分析は難しい

として、地方自治体の取り組みの政策効果については、明らかになっていない。例えば、

事業の取り組み状況や主たる相談窓口の職員の配置状況等が児童虐待相談対応件数等へ与

える影響については十分に検証されていない。

本稿は、近畿圏内全市役所を対象にしたアンケート調査を行い、児童虐待相談対応件数

およびその中から児童福祉施設入所に至った件数を用いることで、地方自治体の取り組み

の政策効果について、理論的考察をもとに実証分析した。その結果、ファミリーサポート

センター事業等や保育士等の職種を配置することが、児童虐待相談対応件数および児童福

祉施設入所件数に影響を与えることが分かった。また、人口密度の違いによって、児童人

口当たりの主たる相談窓口の職員数増加が与える影響も明らかにした。

これらの結果から、児童虐待防止に有効となる地域性を活かした事業を推進すること

や、人口密度の違いによってより効果のある職種を配置や、啓発活動の推進をすべきであ

ると政策提言を行った。

2012 年(平成 30 年)2月

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU17710 長谷川 智久

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目 次

第1章 はじめに 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 1

第2章 児童虐待について 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 3

281 児童虐待の定義 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 3

282 児童虐待防止に係る関連制度 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 3

283 児童虐待の現状 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 4

284 児童虐待に対する地方自治体の取組(アンケート調査の実施) 888888888888888888888888888 4

285 アンケート調査結果 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 5

第3章 児童虐待に対する地方自治体の取組についての理論的考察 88888888888888888888888888888888 7

第4章 地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響についての実証分析 888888888 10

481 実証分析の方法 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 10

48181 分析方法 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 10

48182 使用するデータ 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 10

482 推計モデル 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 11

48281 実証分析1(被説明変数を児童虐待相談対応件数/児童人口とする変量効果モ

デル) 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 13

48282 実証分析2(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童人口とする変量効果モ

デル) 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 13

48283 実証分析3-1(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

とする変量効果モデル) 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 14

48284 実証分析3-2(実証分析3-1に説明変数を追加) 888888888888888888888888888888888 14

483 実証分析の結果と考察 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 15

48381 実証分析1(被説明変数を児童虐待相談対応件数/児童人口とする変量効果モ

デル)の結果 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 15

48382 実証分析2(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童人口とする変量効果モ

デル)の結果 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 16

48383 実証分析3-1(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

とする変量効果モデル)の結果 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 17

48384 実証分析3-2(実証分析3-1に説明変数を追加)の結果 8888888888888888888888 12

48385 実証分析結果のまとめ 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 19

第5章 まとめ 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 19

581 政策提言 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 21

582 今後の研究課題 8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 22

謝辞 88888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 23

参考・引用文献 888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888 23

附録「地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響について」 88888888888888888888888888 24

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第1章 はじめに

児童虐待は大きな社会問題の一つである。平成 22 年度中に全国 210 か所の児童相談所

が児童虐待相談として対応した児童虐待相談対応件数は、速報値で 122,572 件である。こ

れは、厚生労働省が統計を取り始めた平成2年の 1,101 件から一度も減少することなく、

年々増加の一途を辿っている。

しかし、児童虐待相談対応件数だけを捉えて、単純に児童虐待が増加していると言うこ

とはできない。児童福祉法第 25 条1にあるように、児童虐待を受けたと思われる児童を発

見した場合、全ての国民に通告する義務が定められているが、一昔前までは躾として許容

され、虐待として認識されなかったような行為が、関連制度等が改正されるにつれ、今日

では虐待として捉えられるようになった。また、児童虐待重症事例に対して、マスコミ等

によって報道される機会が増加し児童虐待防止に対する啓発活動が活発になるにつれて、

近隣住民等の児童虐待への知識習得につながり、虐待相談が増加したことも考えられる。

児童虐待が増加しているかどうかの判断は難しいが、一方で、一旦児童が虐待による被

害を受けると、社会的にも大きな影響があるとの結果が示されている。社会福祉法人恩賜

財団母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所の和田および東大の五十嵐(2013)らによる社

会的コストの推計より、児童が虐待を受けることで児童自身が失う利益や医療費、生活費

の増大は年 186 兆円となっており、虐待を受けた直後だけでなく、生涯にわたり大きな負

担が続くことが浮き彫りとなった。

そのため、児童虐待が発生した際に重症化を防ぐ点だけでなく、児童虐待を未然に防止

するという点が非常に重要となってくる。児童虐待の対応を行う公的機関としてまず挙げ

られるのが児童相談所および市町村であるが、それらの役割は異なる。児童相談所は児童

家庭相談を行う市町村への援助、必要に応じて子どもの一時保護や児童福祉施設等への入

所措置などを行う一方、市町村は、子育て支援サービス等を通じ比較的軽微なケースの対

応や重篤なケースなどの児童相談所への連絡等を行うこととされてきた。しかし、平成 16

年度に児童虐待防止法の改正によって、市町村の役割として相談対応が明確化され、虐待

対応先に追加されたことから、以後、市町村の相対的な役割は大きくなってきていると考

える。そのため、子育て支援サービス等の一時対応の窓口となる地方自治体の取り組み事

業が、児童虐待防止にどれくらい寄与しているのか、それを計量的に分析することで、目

に見える形で地方自治体の取り組みを評価することには、一定の意義があると考えられ

る。

児童虐待の対応に関する先行研究としては、内田(2005)は、児童虐待相談対応件数に

ついて、平成 11 年以降、都市が地方に比べてとりわけ高い発見率をもつようになり、心

理的虐待、ネグレクト、性的虐待は、身体的虐待に遅れる形で、都市において相対的に強

い関心が注がれ始め、平成 13 年度には、すべての虐待種別が都市において頻繁に発見さ

れることとなったとしている。また、計量的に分析した研究としては、板谷・秋田

1 児童福祉法第 25 条より抜粋

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(2013)は児童虐待防止法の法制定・法改正の内容を総合的にまとめ、比較している。三

枝(2003)は児童虐待の問題は家庭に埋没するミクロな問題であり、データを用いて定量

的な検証を行うことが難しいと指摘したが、児童虐待相談対応件数を用い都道府県別パネ

ルデータ分析を行うことで、児童虐待防止法の法的効果を定量的に検証した結果、平成 16

年改正および平成 20 年改正は児童虐待相談対応件数を増加させることが分かり、児童虐

待の早期発見の効果があったとしている。李(2012)は、虐待相談対応件数を用い、児童

数で除したものを児童虐待相談対応率とし階層ベイズ推定を行い、2005 年の当時の一時点

のデータについて、地域別の児童虐待相談対応率は地域によって高低差が存在することを

実証している。また、緒方(2014)も同様に児童虐待相談対応件数を用い、都市化(人口)

傾向と非都市地域性について虐待種別ごとに検証を行ったものである。

このように、計量的に分析した研究に使用されているデータは、虐待相談対応件数であ

る。児童虐待相談対応件数は、児童相談所を有する都道府県、政令指定都市、中核市では

毎年公表されているデータ2であるものの、その中から実際に児童福祉施設に入所した件数

については公表されていない。さらに、これまでに、児童福祉施設入所件数のデータで定

量的に分析した研究はない。

そこで、本研究では、近畿圏内全市役所に対してアンケート調査を行い、虐待相談対応

件数だけを聞き取るのではなく、実際にその中から児童福祉施設等に入所した件数を聞く

ことによって、本当に虐待を受けた数を把握することができるのではないかと考えた。分

析に際しては、地方自治体へのアンケート調査結果により、5ヵ年度のパネルデータを作

成し、地方自治体単位での児童人口あたりの児童虐待相談対応件数および児童福祉施設入

所件数へ地方自治体の取り組み事業や主たる相談窓口の職種、児童虐待防止啓発活動等が

与える影響を、変量効果モデルにより実証分析を行った。

なお、本稿の構成は次のとおりである。第2章では、児童虐待防止に係る関連制度及び

児童虐待について説明する。第3章と第4章においては地方自治体の取り組みが児童虐待

へ与える影響について理論分析および実証分析を行い、結果に基づいた考察を行う。そし

て、第5章において政策提言と今後の課題について言及する。

2 厚生労働省による福祉行政報告例。社会福祉関係諸法規の施行に伴う各都道府県、指定

都市及び中核市における行政の実態を数量的に把握して、国及び地方公共団体の社会福祉

行政運営のための基礎資料を得ることを目的とする。

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第2章 児童虐待について

本章では、児童虐待防止に係る関連制度及び児童虐待について簡単に整理する。

281 児童虐待の定義

児童虐待とは、児童虐待の防止等に関する法律3より、以下表1のように 4 種類に分類さ

れる。

表1 児童虐待について

身体的虐待 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えるこ

と。

性的虐待 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさ

せること。

ネグレクト 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放

置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の

行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

心理的虐待 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家

庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていない

が、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する

不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ず

る心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心

理的外傷を与える言動を行うこと。

282 児童虐待防止に係る関連制度

児童虐待防止については、平成 12 年 11 月に「児童虐待の防止等に関する法律」(通称

児童虐待防止法)が施行された。その後、激増する児童虐待が憂慮される中、平成 16 年

度に第1回目の改正がなされた。改正では、第1条に、児童虐待は著しい人権侵害である

ことが明記され4、また、児童虐待の定義として、児童の面前でのDVに対して、心理的虐

待が適応されることとなった。平成 19 年度には第2回目の改正がなされ、児童の安全確

認等のための立ち入り調査等の強化、保護者に対する面会・通信等の制限の強化、保護者

に対する指導に従わない場合の措置の明確化などが行われた。平成 20 年度の児童福祉法

の改正では、乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業等の子育て支援事業の法定化及び

努力義務化がなされ、地方自治体関連機関による要保護児童対策地域協議会の機能強化な

どが行われた。平成 23 年度の児童福祉法の改正では、里親等委託中及び一時保護中の児

童に親権者等がいない場合の児童相談所長の親権代行の規定などが行われた。また同年度

3 児童虐待の防止等に関する法律 第2条(児童虐待の定義)より抜粋 4 児童虐待の防止等に関する法律 第1条(目的)より抜粋

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に民法等の一部改正が行われ、家庭裁判所は、2年を超えない範囲内に限り親権を停止す

る期間を定めることとされた5。さらに、平成 22 年度の児童福祉法および児童虐待防止法

の改正では、妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援を行う子育て世代包括支援セン

ター6の全国展開や市町村及び児童相談所の体制強化などが行われた。

283 児童虐待の現状

上記のような法制度の整備等の取り組みにも関わらず、児童虐待相談対応件数は増加し

続け、相次ぐ児童虐待による死亡事件や重症事例も生じている。死亡事件や重症事例の防

止には、児童虐待が深刻化する前の早期発見・早期対応が必要である。そのため、厚生労

働省は、児童虐待の発生予防に資する取組みとして、生後4ヶ月を迎えるまでの乳児のい

る全ての家庭を訪問する乳児家庭全戸訪問事業や、同事業において引き続き支援が必要で

あるとされた家庭を訪問する養育支援訪問事業等を用意している。その他にも、今回、ア

ンケート調査で聞き取りを行った地方自治体の取り組みとしては、子ども・子育て支援法

第 59 条に基づく子ども・子育て家庭等を対象とする事業として、市町村子ども・子育て

支援事業計画に従って行う地域子ども・子育て支援事業が行われている7。

一方、児童相談所および地方自治体では相談体制の強化を図ろうとしているものの、人

員の増加や適切な職種の配置は十分とはいえず、そのため地方自治体職員の疲弊を引き起

こしている。このことは、結果として相談体制の質の低下にもつながりかねない。

国においては、法改正における相談体制の強化などが明記されているが、地方自治体の

現状と整合した制度の検討が必要となると考えられる。

284 児童虐待に対する地方自治体の取組(アンケート調査の実施)

前述したとおり、地方自治体においては法に基づく取り組み以外にも様々な取り組みが

実施されている。本研究では、近畿圏内全市役所を対象にアンケート調査を実施し、実際

にどのような取り組みが行われているかについて整理した。当初、奈良県内全市町村を対

象に調査を行うこととしていたが、町村ではデータ数が少なくデータ分析できない可能性

があることから、対象は市に限定することとし、調査範囲を近畿圏内全域に拡大した。ア

ンケートは合計 111 自治体に送付し、51 自治体から回答を得ることができた。

アンケート調査の実施にあたっては、まず本調査項目を作成するにあたり、関係機関への

聞き取り調査を行い、回答可能な年数、内容等について確認を行った。そして、都道府県

の児童福祉担当窓口に対して、県内市役所への作成したエクセル調査項目の一斉送付が可

能であるかの問い合わせを行った。可能であった県については、メールでの転送をお願い

した。その他については、各市役所のホームページよりメールアドレスが確認できる場合

5 民法第 234 条の2(親権停止の審判)より抜粋 6 母子保健法における名称は、「母子健康包括支援センター」 7 子ども・子育て支援法第4章地域子ども・子育て支援事業を参照

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は、それを使用し、問い合わせフォームしかない場合については、逐一電話連絡し、メー

ルアドレスを確認し送付した。なお、アンケート調査の概要については表2のとおりであ

る。

表2 アンケート調査の概要

○調査期間:平成 29 年 11 月 22 日~平成 29 年 12 月 2 日

○調査対象:近畿圏内全市役所(111 自治体)

○回 答 数:51 自治体

○回 答 率:46%

○調査内容:全6問

・問1 児童虐待相談対応件数及び児童福祉施設入所件数について

(平成 24 年度~平成 22 年度実績)

・問2 取り組み事業について

・問3 主たる相談窓口及び職員の配置状況について

・問4 児童虐待防止マニュアルの整備状況について

・問5 児童虐待防止のための研修の実施状況について

・問6 児童虐待防止啓発活動について

※アンケート様式は本論文の最後に示す。

285 アンケート調査の結果

アンケート調査結果について、結果概要を以下に示す。

主たる相談窓口は、図1に示すとおり、児童福祉

主管課が一番多く、ついで福祉事務所(家庭児童相

談室)であった。また、主たる相談窓口の職員の職

種については、図2に示すとおり、バラつきが多く、

児童福祉司と同様の資格を持つ者と教員免許を持つ

者が多いという結果となった。

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児童虐待防止マニュアルの整備状況については、図3に示すとおりマニュアルを8割以上

の自治体が保有しており、図4に示すとおりマニュアルの作成元は市町村が一番多いとい

う結果となった。

児童虐待防止のための研修の実施状況については、図5に示すとおり8割の地方自治体で

行っており、研修の回数については図6に示すとおり最も多い回数は3~4回/年で、研

修の実施主体については図7に示すとおり他機関への参加が多いという結果となった。

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児童虐待防止啓発活動については、

図8に示すとおりポスター掲示、リ

ーフレット配付及び設置、広報誌へ

の掲載については、ほぼ全ての自治

体で実施しており、各関係機関への

訪問、住民向けイベントの開催、そ

の他については、自治体間で差が生

じ、実施割合が低い結果となった。

啓発活動(その他)については、の

ぼり、懸垂幕設置、講演会開催、庁内モニターや電光掲示板に啓発メッセージ掲載、研修

開催等があった。

第3章 児童虐待に対する地方自治体の取組についての理論的考察

そもそも、本当に減らすべきものは児童虐待であるが、虐待そのものの実態は全てを直接

的に観察できるわけではなく、観察できるのは児童虐待相談対応件数や児童福祉施設入所

件数についてのみである。そのため、本研究では、まずは児童虐待相談対応件数に注目する

こととする。

地方自治体の虐待防止への投資(取り組み)が増えることは児童虐待相談対応件数を減ら

す効果があると考えられる一方、周囲の者の発見や通報を容易にすることから、児童虐待相

談対応件数を増やす効果があるとも考えられる。

この構造を単純な理論モデルで示しておきたい。

虐待の発生数 a は、抑止の取り組み e の減少関数とする。単純化のために、� = 1 − �(た

だし、0 1 � 1 1)であり、e の投資をした場合のコストは��=�とする。

注目する変数である相談数を n とすると、相談は、まず虐待があって、それが周囲の者に

より行政に対してなされるものであるので、a の増加関数であり、相談支援・周知の取り組

みによる発見・通報確率 m(0 1 � 1 1)の増加関数でもある。具体的には、�=�� × �、

(��=1 − �)とする。ただし、m にかかる投資コスト c(m)は人口密度により異なると考

えられる。

人口密度(低、中)の場合は、��=�

人口密度(高) の場合は、��=��

と仮定する。これは、人口密度(高)の都市の方が、より低コストで、発見・通報できるこ

とを意味している。

ここで、行政が、虐待防止の取り組み e と、相談支援・周知の取り組みによる発見・通報

確率 m を同じく 0 から 1 まで増加させていく(パラメータは e とする)としたら、相談件

数 n は、どのようなグラフの形状になるか図9に示した。

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図9 相談件数と虐待防止の取り組みの関係

上線 ��=��のとき、�=1 − �Ȃ�

下線 ��=�のとき、�=1 − ��

図9に示すとおり、グラフは上に凸の形状であること、つまり投資を増やしたときに児童

虐待相談対応件数が増える領域(これは、虐待数が減る効果よりも、より高い確率で相談に

至る効果の方が強いため)がある一方で、ある閾値を越えると、反対に投資が増えると児童

虐待相談対応件数が減る領域が示された。

また、相談支援コストが低い人口密度(高)(��=��の地域)では、児童虐待相談対応

件数が多く、グラフの頂点の位置も異なること、そして、同じ投資水準であっても、人口密

度(低、中)(��=�の地域)では、n(e)が増加する領域なのに、こちらのエリアでは減少

する領域に入っているケース(例 e=084 くらいのところ)があることも分かった。

続いて、児童福祉施設入所件数について注目する。人口密度(高)では、児童虐待相談対

応件数が、より低コストで発見・通告ができることが示された。そのため、より重篤になる

もの、例えば児童福祉施設に入所するようなケースを、事前に見つけだすことができると考

えることができる。そのため、人口密度(高)では、未然防止の効果が高くなるため、児童

福祉施設入所件数が少なくなると考えられる。

e

n

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以上のアンケート調査結果および理論的考察から、以下の3つの仮説を導きだし、次章

で実証分析により検証することとする。

① 地方自治体の取り組みについては、現状ではそれを適正に測定し、数値的根拠のある

対策が取られていない。児童虐待を予防、または重篤なケースを防ぐことが重要であ

り、地方自治体のより有効な取り組みが、虐待防止につながるのではないか。

【仮説1】地方自治体それぞれの地域性に応じ、求められる事業が異なるため、独自の取

り組みが児童虐待防止に有効である。

② 児童虐待は、関連する法律等の改正および啓発活動が活発に行われることによって、

「児童虐待」として捉えられ、相談されるケースが増えている。それは、地方自治体の

人材不足を招く要因の一つでもある。制度に見合った十分な体制(職種、人員の配置

等)がなされていないのではないか。

【仮説2】児童虐待防止に有効となる職種の配置がある。

③ 人口密度の違いによって、地方自治体の取り組み等が、虐待相談対応件数および児童

福祉施設入所件数へ与える影響に違いがあるのではないか。

【仮説3】人口密度(高)の都市のほうが、密集しているため、隣近所との距離が近くな

り、より低コストで児童虐待を発見・通告できる。

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第4章 地方自治体の取り組みが児童虐待へ与える影響についての実証分析

前章では、理論的な考察を行い3つの仮説を導いた。

本章では、これらの仮説について、地方自治体の取り組みが児童虐待へ与える影響につ

いての実証分析について述べる。

481 実証分析の方法

48181 分析方法

児童虐待防止の体制については、単純に地方自治体の取り組み等の違いを比較したとし

ても、その他の条件の違いが影響している可能性があるため、取り組み等の効果とは言え

ない。そこで、今回の推計モデルにおいては、児童虐待相談対応件数および児童福祉施設

入所件数に大きな影響を与えると予想される地域性の変数をコントロールした上で、本研

究で着目した人口密度による違いについて、取り組みの効果について検証する。

(1)地域性のコントロール

地域特性が児童虐待防止に与える影響が大きいと思われることから、まず、各都道府県

の自治体ダミーを作成した。児童福祉施設入所件数は、各都道府県の児童相談所を経由す

ることになるため、これを「都道府県ダミー」でコントロールする。

(2)人口密度

本研究において着目した各市役所の人口密度の違いで3つに分類分けを行った。基準と

なる数値については参考として、総務省統計局より人口集中地区および準人口集中地区の

数値を用いることとした。所在地の人口密度が 5,000 人/km2以上の人口密度(高)を基準

とし、所在地の人口密度が 0 人/km2~3,000 人/km2を「1」とし、それ以外について

「0」とする人口密度(低)ダミー、そして、所在地の人口密度が 3,000 人/km2~5,000

人/km2を「1」とし、それ以外について「0」とする人口密度(中)ダミーを作成した。

48182 使用するデータ

本研究で使用するデータは、市町村の取り組み等を把握するために、筆者が近畿圏内全

市役所に対して行ったアンケート調査の結果と、各市役所統計から生活保護人員、住民基

本台帳年齢階級別人口から児童人口2、そして、全国都道府県市区町村面積調から各市役所

の面積を用いる。

2 住民基本台帳年齢階級別人口より、児童人口(0~19 歳)を算出

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482 推計モデル

「実証分析1」と「実証分析2」と「実証分析3-1」の三つのモデルを構築し分析

し、「実証分析3-2」で補足を行う。

「実証分析1」では、児童虐待相談対応件数/児童数を被説明変数とする変量効果モデ

ルを構築し、地方自治体の取組等が児童虐待相談対応件数/児童数に与える影響を分析す

る。

「実証分析2」では、児童福祉施設入所件数/児童数を被説明変数とする変量効果モデ

ルを構築し、地方自治体の取組等が児童福祉施設入所件数/児童数に与える影響を分析す

る。

「実証分析3-1」では、児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数を被説明変数

とする変量効果モデルを構築し、地方自治体の取組等が児童福祉施設入所件数/児童虐待

相談対応件数に与える影響を分析する。

「実証分析3-2」では、「実証分析3-1」に住民向けイベントの開催ダミーと人口

密度の交差項の説明変数を加えたものを構築した。

説明変数については、市役所のアンケート調査回答から下記のとおり作成、実証分析1

から実証分析3-1で同じとした。説明変数は以下の表3のとおりである。生活保護人員

については「各市役所統計」より、児童人口(0~19 歳)および各市役所総人口について

は「住民基本台帳年齢階級別人口等(市区町村別)」より、人口密度算出のための各市役

所面積については「全国都道府県市区町村別面積調」より入手した。基本統計量を表4に

示す。

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表3 説明変数一覧

表4 基本統計量

名前 内容 出典ファミリーサポートセンター事業ダミー 市役所の取り組み事業がファミリーサポートセンター事業の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数事業(その他)ダミー 市役所の取り組み事業が事業(その他)の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数福祉事務所ダミー 主たる相談窓口が福祉事務所の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数保健師・助産師・看護師ダミー 主たる相談窓口の職員の職種が「保健師・助産師・看護師」の場合に「1」、それ以外の場合に「0」を取るダミー変数保育士ダミー 主たる相談窓口の職員の職種が「保育士」の場合に「1」、それ以外の場合に「0」を取るダミー変数研修ダミー 児童虐待防止のための研修を実施している場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数住民向けイベントの開催ダミー 児童虐待防止啓発活動で住民向けイベントの開催をしている場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(低)ダミー 「住民向けイベントの開催ダミー」と「人口密度(低)ダミー」の交差項住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(中)ダミー 「住民向けイベントの開催ダミー」と「人口密度(中)ダミー」の交差項滋賀ダミー 所在地が滋賀県の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数京都ダミー 所在地が京都府の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数大阪ダミー 所在地が大阪府の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数兵庫ダミー 所在地が兵庫県の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数和歌山ダミー 所在地が和歌山県の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数生活保護人員割合 生活保護人員÷各市役所総人口 B C児童人口に占める職員の割合 主たる相談窓口の職員数÷児童人口(0~19歳) A C

人口密度(低)ダミー 所在地の人口密度が0人/km2~3000人/km2の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数

人口密度(中)ダミー 所在地の人口密度が3000人/km2~5000人/km2の場合に「1」、それ以外の場合に「0」をとるダミー変数児童人口に占める職員の割合×人口密度(低)ダミー 「主たる相談窓口の職員数÷児童人口(0~19歳)」と「人口密度(低)ダミー」の交差項児童人口に占める職員の割合×人口密度(中)ダミー 「主たる相談窓口の職員数÷児童人口(0~19歳)」と「人口密度(中)ダミー」の交差項

A アンケート調査B 各市役所統計C 住民基本台帳年齢階級別人口等(市区町村別)D 全国都道府県市区町村別面積調

A C D

A

A C D

C D

観測数 平均 標準偏差 最小値 最大値児童虐待相談対応件数/児童人口 254 0.0079 0.0076 0.0004 0.0468児童福祉施設入所件数/児童人口 184 0.0002 0.0003 0 0.0016児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数 183 0.0461 0.1055 0 0.8132ファミリーサポート事業ダミー 255 0.8431 0.3644 0 1事業(その他)ダミー 255 0.1216 0.3274 0 1福祉事務所ダミー 255 0.3137 0.4649 0 1保健師・助産師・看護師ダミー 255 0.3922 0.4892 0 1保育士ダミー 255 0.4314 0.4962 0 1研修ダミー 255 0.8235 0.3820 0 1住民向けイベントの開催ダミー 255 0.3490 0.4776 0 1住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(低)ダミー 255 0.2314 0.4225 0 1住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(中)ダミー 255 0.0392 0.1945 0 1滋賀ダミー 255 0.0784 0.2694 0 1京都ダミー 255 0.1373 0.3448 0 1大阪ダミー 255 0.3137 0.4649 0 1兵庫ダミー 255 0.2745 0.4471 0 1和歌山ダミー 255 0.0980 0.2980 0 1生活保護人員割合 163 38.19 487.3 0.0041 6221児童人口に占める職員の割合 255 0.0005 0.0004 0.0001 0.0019人口密度(低)ダミー 255 0.7451 0.4367 0 1人口密度(中)ダミー 255 0.0980 0.2980 0 1職員数/児童人口×人口密度(低)ダミー 255 0.0004 0.0004 0 0.0019職員数/児童人口×人口密度(中)ダミー 255 0.0000 0.0001 0 0.0005

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48281 実証分析1(被説明変数を児童虐待相談対応件数/児童人口とする変量効果モデ

ル)

実証分析1では、被説明変数を児童虐待相談対応件数/児童人口とする変量効果モデル

を構築する。推計式は以下のとおりである。

(実証分析1の推計式)

児童虐待相談対応件数/児童人口

=α+β1(ファミリーサポートセンター事業ダミー)+β2(事業(その他)ダミー)

+β3(福祉事務所ダミー)+β4(保健師・助産師・看護師ダミー)

+β5(保育士ダミー)+β6(研修ダミー)+β7(住民向けイベントの開催ダミー)

+β2(滋賀ダミー)+β9(京都ダミー)+β10(大阪ダミー)+β11(兵庫ダミー)

+β12(和歌山ダミー)+β13(生活保護人員割合)

+β14(児童人口に占める職員の割合)

+β15(人口密度(低)ダミー)+β16(人口密度(中)ダミー)

+β17(職員数/児童人口×人口密度(低))+β12(職員数/児童人口×人口密度(中))

+ε

※εは誤差項である

48282 実証分析2(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童人口とする変量効果モデ

ル)

実証分析2では、被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童人口とする変量効果モデル

を構築する。推計式は以下のとおりである。

(実証分析2の推計式)

児童福祉施設入所件数/児童人口

=α+β1(ファミリーサポートセンター事業ダミー)+β2(事業(その他)ダミー)

+β3(福祉事務所ダミー)+β4(保健師・助産師・看護師ダミー)

+β5(保育士ダミー)+β6(研修ダミー)+β7(住民向けイベントの開催ダミー)

+β2(滋賀ダミー)+β9(京都ダミー)+β10(大阪ダミー)+β11(兵庫ダミー)

+β12(和歌山ダミー)+β13(生活保護人員割合)

+β14(児童人口に占める職員の割合)

+β15(人口密度(低)ダミー)+β16(人口密度(中)ダミー)

+β17(職員数/児童人口×人口密度(低))+β12(職員数/児童人口×人口密度(中))

+ε

※εは誤差項である

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48283 実証分析3-1(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数とす

る変量効果モデル)

実証分析3-1では、被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数とす

る変量効果モデルを構築する。推計式は以下のとおりである。

(実証分析3-1の推計式)

児童福祉施設入所件数/虐待相談対応件数

=α+β1(ファミリーサポートセンター事業ダミー)+β2(事業(その他)ダミー)

+β3(福祉事務所ダミー)+β4(保健師・助産師・看護師ダミー)

+β5(保育士ダミー)+β6(研修ダミー)+β7(住民向けイベントの開催ダミー)

+β2(滋賀ダミー)+β9(京都ダミー)+β10(大阪ダミー)+β11(兵庫ダミー)

+β12(和歌山ダミー)+β13(生活保護人員割合)

+β14(児童人口に占める職員の割合)

+β15(人口密度(低)ダミー)+β16(人口密度(中)ダミー)

+β17(職員数/児童人口×人口密度(低))+β12(職員数/児童人口×人口密度(中))

+ε

※εは誤差項である

48284 実証分析3-2(実証分析3-1に説明変数を追加)

実証分析3-2では、実証分析3-1に説明変数を追加した形で構築する推計式は以下

のとおりである。

(実証分析3-2の推計式)

児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

=α+β1(ファミリーサポートセンター事業ダミー)+β2(事業(その他)ダミー)

+β3(福祉事務所ダミー)+β4(保健師・助産師・看護師ダミー)

+β5(保育士ダミー)+β6(研修ダミー)+β7(住民向けイベントの開催ダミー)

+β2(滋賀ダミー)+β9(京都ダミー)+β10(大阪ダミー)+β11(兵庫ダミー)

+β12(和歌山ダミー)+β13(生活保護人員割合)

+β14(児童人口に占める職員の割合)

+β15(人口密度(低)ダミー)+β16(中)ダミー)

+β15(人口密度(低)ダミー)+β16(人口密度(中)ダミー)

+β17(職員数/児童人口×人口密度(低))+β12(職員数/児童人口×人口密度(中))

+β19(住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(低))

+β20(住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(中))

+ε

※εは誤差項である

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483 実証分析の結果と考察

48381 実証分析1(被説明変数を児童虐待相談対応件数/児童人口とする変量効果モデ

ル)の結果

推計結果は表5のとおりである。

まず、ファミリーサポートセンター事業を行うと、児童虐待相談対応件数/児童人口は

08011 多くなっている(有意水準1%)。ファミリーサポートセンター事業とは、子育て中

の労働者や主婦等の会員とし、児童の預かり援助を希望するものと当該援助を行うことを

希望するものとの連絡、調整を行うものであり、周囲の者が発見・通報する可能性を高く

しているのではないかと考えられる。

次に、人口密度の違いについて考察する。人口密度(高)のほうが、人口密度(低、

中)よりも職員数/児童数の割合を高くすると、より多くなることが分かった(有意水準

1%)。前述の理論的考察より、人口密度(高)のほうが、より低コストで発見・通報で

きるため、人口密度(高)のほうが、児童虐待相談対応件数/児童人口を上げる可能性が

あることが示された。

なお、その他の説明変数の係数からは、以下の点が確認された。

・保育士を配置すると、08004 多くなる(有意水準5%)

・主たる相談窓口が福祉事務所にある場合、08004 少なくなる(有意水準 10%)

・奈良県と比べ、京都府であると 08009 少なく(有意水準 10%)、兵庫県であると 08014

少なくなる(有意水準1%)

表5 実証分析1の推計結果

変数名 係数 標準誤差ファミリーサポートセンター事業ダミー 0.0108 *** 0.0023事業(その他)ダミー 0.0031 0.0019福祉事務所ダミー 0.0044 * 0.0024保健師・助産師・看護師ダミー 0.0021 0.0022保育士ダミー 0.0044 ** 0.0021研修ダミー -0.0012 0.0030住民向けイベントの開催ダミー -0.0003 0.0018滋賀ダミー 0.0009 0.0053京都ダミー -0.0085 * 0.0047大阪ダミー -0.0047 0.0046兵庫ダミー -0.0141 *** 0.0048和歌山ダミー -0.0046 0.0054生活保護人員割合 0.0000 0.0000児童人口に占める職員の割合 140.0 *** 28.65人口密度(低)ダミー 0.0326 *** 0.0082人口密度(中)ダミー 0.0352 *** 0.0109職員数/児童人口×人口密度(低)ダミー -130.7 *** 28.89職員数/児童人口×人口密度(中)ダミー -151.9 *** 40.71定数項 -0.0345 *** 0.0095

観測数補正決定係数

被説明変数:児童虐待相談対応件数/児童人口

1620.3292

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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48382 実証分析2(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童人口とする変量効果モデ

ル)の結果

推計結果は表6のとおりである。

まず、ファミリーサポートセンター事業を行うと、児童福祉施設入所件数/児童人口は

080001 多く(有意水準 10%)、事業(その他)行うと 080002 多くなる(有意水準1%)

ことが分かった。実証分析1より、ファミリーサポートセンター事業を行うことで、発

見・通報する可能性を示唆したが、そのことによって、重症なケースに至るまでに入所件

数を増やし、児童を救うことができているのではないか、また、事業(その他)について

も、地域性に応じた効果が発揮できているのではないかと考えられる。

次に、人口密度の違いについて考察する。人口密度(高)のほうが、人口密度(低、

中)よりも職員数/児童数の割合を高くすると、より少なくなることが分かった(有意水

準1%)。実証分析1の結果より、人口密度(高)のほうが、より低コストで発見・通報

できる。そのため、児童福祉施設入所件数/児童人口については、重篤なものを未然に防

ぐことが出来ている可能性が示された。

なお、その他の説明変数の係数からは、以下の点が確認された。

・保育士を配置すると、08001 多くなる(有意水準1%)

・職員の研修を行うと、08002 少なくなる(有意水準1%)

表6 実証分析2の推計結果

変数名 係数 標準誤差ファミリーサポートセンター事業ダミー 0.0001 * 0.0001事業(その他)ダミー 0.0003 *** 0.0001福祉事務所ダミー 0.0001 0.0001保健師・助産師・看護師ダミー 0.0001 *** 0.0001保育士ダミー 0.0001 0.0001研修ダミー -0.0002 *** 0.0001住民向けイベントの開催ダミー -0.0001 0.0001滋賀ダミー 0.0001 0.0001京都ダミー 0.0000 0.0001大阪ダミー -0.0001 0.0001兵庫ダミー 0.0000 0.0001和歌山ダミー 0.0000 0.0001生活保護人員割合 0.0000 0.0000児童人口に占める職員の割合 -15.21 ** 6.401人口密度(低)ダミー -0.0041 ** 0.0017人口密度(中)ダミー -0.0042 ** 0.0016職員数/児童人口×人口密度(低)ダミー 15.28 ** 6.404職員数/児童人口×人口密度(中)ダミー 15.85 ** 6.300定数項 0.0041 ** 0.0017

観測数補正決定係数

被説明変数:児童福祉施設入所件数/児童人口

1060.0044

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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48383 実証分析3-1(被説明変数を児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数とす

る変量効果モデル)の結果

推計結果は表7のとおりである。

人口密度の違いについて考察すると、人口密度(高)のほうが、人口密度(低、中)よ

りも職員数/児童数の割合を高くすると、児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

を少なくすることが分かる(有意水準1%)。人口密度(高)のほうが、実証分析1およ

び2よりの結果からも、児童虐待相談対応件数が増加し、児童福祉施設入所件数が減少す

るためと考えられる。児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数に対してもより大き

な影響を与える。

なお、その他の説明変数の係数からは、以下の点が確認された。

・事業(その他)行うと、08122 多くなる(有意水準1%)

・保育士を配置すると、08045 少なくなる(有意水準 10%)

・住民向けイベントを開催すると、08069 多くなる(有意水準1%)

・奈良県と比べ、兵庫県であると 08073 多くなる(有意水準 10%)

表7 実証分析3-1の推計結果

変数名 係数 標準誤差ファミリーサポートセンター事業ダミー 0.0153 0.0352事業(その他)ダミー 0.1280 *** 0.0398福祉事務所ダミー 0.0084 0.0233保健師・助産師・看護師ダミー -0.0114 0.0221保育士ダミー -0.0454 * 0.0256研修ダミー 0.0101 0.0263住民向けイベントの開催ダミー 0.0688 *** 0.0254滋賀ダミー -0.0334 0.0477京都ダミー -0.0236 0.0455大阪ダミー 0.0005 0.0407兵庫ダミー 0.0732 * 0.0424和歌山ダミー 0.0185 0.0416生活保護人員割合 0.0000 0.0000児童人口に占める職員の割合 -14256 *** 2641人口密度(低)ダミー -3.692 *** 0.6834人口密度(中)ダミー -3.869 *** 0.6649職員数/児童人口×人口密度(低)ダミー 14207 *** 2643職員数/児童人口×人口密度(中)ダミー 14757 *** 2599定数項 3.700 *** 0.6926

観測数補正決定係数

被説明変数:児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

1050.1070

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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48384 実証分析3-2(実証分析3-1に説明変数を追加)の結果

推計結果は表8のとおりである。

人口密度の違いについて考察すると、人口密度(低、中)のほうが、人口密度(高)よ

りも住民向けイベントを開催することによって、児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対

応件数を少なくすることが分かった(有意水準1%)。前述のとおり、児童虐待相談対応

件数は増加の一途を辿っているが、人口密度(低、中)のほうが、より住民向けイベント

での効果により児童福祉施設入所件数が抑えられており、より重篤なケースに至らず入所

せずに済んでいることを意味する。人口密度(低、中)では、啓発活動での児童虐待防止

が浸透しやすく、未然防止の効果が高いことが分かった。

なお、その他の説明変数の係数からは、以下の点が確認された。

・奈良県と比べ、滋賀県であると 08025 多く(有意水準1%)、京都府であると 08023 多

くなる(有意水準1%)

表8 実証分析3-2の推計結果

変数名 係数 標準誤差ファミリーサポートセンター事業ダミー 0.0256 0.0304事業(その他)ダミー 0.0428 0.0441福祉事務所ダミー -0.0086 0.0211保健師・助産師・看護師ダミー 0.0064 0.0215保育士ダミー 0.0028 0.0237研修ダミー -0.0361 0.0241住民向けイベントの開催ダミー 0.4062 *** 0.0681住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(低)ダミー -0.4333 *** 0.0772住民向けイベントの開催ダミー×人口密度(中)ダミー -0.4174 *** 0.1010滋賀ダミー 0.0254 *** 0.0422京都ダミー 0.0231 *** 0.0421大阪ダミー 0.0059 0.0355兵庫ダミー 0.0542 0.0374和歌山ダミー 0.0062 0.0357生活保護人員割合 0.0000 0.0000児童人口に占める職員の割合 -20066 2526人口密度(低)ダミー -4.9738 ** 0.6372人口密度(中)ダミー -5.0067 *** 0.6078職員数/児童人口×人口密度(低)ダミー 20036 *** 2531職員数/児童人口×人口密度(中)ダミー 20190 *** 2455定数項 4.9968 *** 0.6455

観測数補正決定係数

被説明変数:児童福祉施設入所件数/児童虐待相談対応件数

1050.1683

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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48385 実証分析結果のまとめ

最後に、実証分析の結果を踏まえ、第3章で理論的に導き出された3つの仮説の検証結

果についてまとめる。

まず、地方自治体の取り組みについて、地方自治体による児童虐待防止の事業等が有効

であれば、発見・通報する可能性が高くなり、より重篤なケースになるのを防げているた

め、児童を未然に防いでいると考えられる。

また、人口密度×職員数/児童数について、人口密度(高)の場合、職員数/児童数の

割合を大きくすることで、人口密度(低、中)よりも虐待相談対応件数を増加させ、児童

福祉施設入所件数を減少させる効果が大きいことが分かった。

なお、人口密度×啓発活動について、人口密度(低、中)の場合、啓発活動(住民向け

イベントの開催)を行うことで、人口密度(高)よりも、児童福祉施設入所件数/児童虐

待相談対応件数を減少させることができ、より深刻なものを防げていると示唆された。

第5章 まとめ

分析結果を補足するために、アンケート回答のあった市役所から、事業(その他)を行

っている自治体、人口密度(高)および人口密度(低)に属する自治体を抽出し、匿名を

条件に実態調査のヒアリングを実施した。結果は表9のとおりである。

表9 ヒアリング結果について

【地方自治体の取り組みについて】

・事業の開始年度・順序については、国の動き及び予算の確保に依存している。

・地方自治体の財政部門を説得できる材料がないと新規事業は難しい。

・虐待種別について、虐待をしてしまう者の背景が異なるため、有効な事業を特定する

のは困難。

・子育てに大変さを抱えている場合は、一時預かり事業9、ファミリーサポートセンター

事業が有効ではないか。

・母子保健から、乳児家庭全戸訪問事業につなぎ、養育支援訪問事業と、事業を行って

いるケースから判断すると、虐待を防げているのではと実感はある。

【虐待をしてしまう者の傾向について】

・特定妊婦10の数が多い。

・児童虐待が重症化しそうなのは乳児が多く、特定妊婦から発展するケースが多い。

9 厚生労働省より、家庭において保育を受けることが一時的に困難となった乳幼児につい

て、地域子育て支援拠点、駅ビル、商店街などの駅周辺等利便性の高い場所などにおいて

一時的に預かり、必要な保護を行う事業 10 児童福祉法第6条の3第5項より保護者に監護させることが不適当であると認められる

児童及びその保護者又は出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要

と認められる妊婦

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・生活保護など、貧困対策の必要性を感じる。

・就労支援をしても継続できない人が多い。

・地域の中に相談できる人がいない。

・寄り添って、どう支援するか、どう関係性を作れるかが重要である。

【職員について】

・国が求める職員の人数は、明らかに足りないと感じる。そのため継続対応が困難。

・職員不足は、どこの地方自治体でも抱えている問題である。

・職員一人一人の研修による対応力の向上が必要である。

・経験年数はスキルにつながるため、2、3年異動ではなく長期に関わることが必要。

・職種は重要である、特に看護師と保育士。

・職員(職種)を更に充実させることが可能であれば、精神保健福祉士、心理士。

・保育士は、親への対応が上手である。

【医療機関との連携について】

・早期から特定妊婦などに関われるため、医療機関の情報は重要である。

・虐待者が精神疾患であるケースも多く、医療機関との連携は重要である。

・公立病院との連携は比較的取れているが、個人病院になるとそうではない。

【国、都道府県に求めるもの】

・職員のスキル向上のための研修。

・医師向けの研修。

また、本研究を実際の事例に当てはめて考えてみるとどうなるか検討してみる。

例えば、平成 30 年 1 月 12 日の伊丹市の児童虐待ケースを例にとって考えてみる。本ケ

ースは、5歳児童(次女)が、母親、祖母から日常的に虐待を受けており、コンビニ店員

による通報で虐待が判明したケースである。ちなみに、児童の姉妹には虐待の痕跡が見ら

れなかった。

まず、人口密度についてであるが、伊丹市の人口密度は 7,259 人/km2であり、本研究

において、人口密度(高)に属する。そのため、まず職員数/児童人口を増やすことが有

効であるといえる。また、今回の事件の場合、児童相談所も把握していなかったケースで

あることからも、まず、児童虐待相談対応件数を増やすことが重要である。そうすること

で、より多くの虐待を受けている子どもを認識することで、未然に防止することが可能で

あると考えられる。そのためには、保育士を配置することが有効である。さらに、児童福

祉施設入所件数を増やすことで、重篤なケースを未然に防止することが可能であると考え

られる。その場合においては、保健師・助産師・看護師の配置も有効であると考えられ

る。

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581 政策提言

提言1 地方自治体の取り組みを推進するための補助金

前述のとおり、児童虐待は大きな社会問題である。児童虐待から子どもを救うことには

正の外部性があり、社会全体で取り組むべき課題である。そのため、国が一括して児童虐

待防止の事業を推進することも考えられる。しかし、アンケート調査結果からも分かるよ

うに、事業の取り組み内容には地方自治体間で差が生じているため、国が一括して事業を

推進したとしても効果があるとは限らない。

今回、分析結果よりファミリーサポートセンター事業の効果および事業(その他)の効

果が確認できた。事業(その他)は、地方自治体が独自に行っている事業であり、地域性

に応じたものであるといえる。その地域性に応じた事業を行えるように、柔軟性のある使

い方ができる必要があると考えられる。事業(その他)については、アンケート調査から

も、こどもの居場所づくり事業、子育て応援サポーター事業、休日保育事業、子育て支援

派遣事業、親教育プログラム、怒らない子育てプログラム等、地域性に応じた多様な取り

組みが行われていた。

地方自治体は限られた財源の中で、児童虐待防止に対して使用することができる予算を

捻出しなければいけない。ヒアリングにおいて、事業開始にあたっての判断基準は、国の

予算または通知に依存しており、地方自治体の財政部門を説得できる材料がないと、予算

の確保ができず、事業開始できないということであった。

しかし、たとえ、予算が確保できたとしても、今まさにその地方自治体が必要としてい

る取り組むべき事業であると限らない。そのため、地方自治体が必要としている事業を開

始するために必要な補助金が求められるが、その使用方法については、柔軟な使い方を用

意しておくべきであると考える。

提言2 職員の配置の見直し

児童人口当たりの職員数が増えることによって、人口密度が高いほど、児童虐待相談対

応件数が増加し、児童福祉施設入所件数が減少する効果がある。そのため、職員を増やす

必要性がある。ただし、闇雲に職員を増やせばいいというわけではない。保健師・助産

師・看護師および保育士といった、より児童虐待防止に効果のある職種について増やすべ

きである。

もしくは、適切な職種の配置をすべきである。ヒアリングにおいても、人員増加は常に

求められているが、簡単に行えるものではないとの意見がある。そのため、職種が増やす

ことが困難である場合については、地方自治体の部署間における、職種の適切な配置換え

をすべきであると考える。

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提言3 啓発活動の推進

啓発活動の推進方策として2点挙げたい。

1点目は、虐待してしまう者へのアプローチである。事業(その他)での親教育プログ

ラムに関連し、母親(父親)学級での児童虐待についての啓発活動を開催すべきではない

かと考える。例えば、普通自動車運転免許更新の際には、事故事例などを取り上げ、事故

を犯してしまった場合の罪などについての周知徹底が行われるが、同様に、母親(父親)

学級についても、虐待を未然に防止する上で、児童虐待について取り上げる必要があるの

ではないか。これから子どもができる、子どもを育てていく人に伝える必要性があると考

える。児童虐待については、家庭の中、密室の中で行われるため、事業等の環境を整える

必要性とともに虐待している者に直接届くような施策を考えていく必要がある。

2点目は、周囲の者へのアプローチである。人口密度による違いから、人口密度(低、

中)については、啓発活動を積極的に行うべきであり、特にその中でも、住民向けイベン

トの開催を推進することが考えられる。住民向けイベントの開催による効果としては、2

つ考えられる。1つ目は、虐待してしまう(している)者への効果であり、直接、児童虐

待を減らす効果がある。また、2つ目としては、周辺住民への効果であり、児童虐待を発

見・通告しやすくする効果である。そもそも、虐待をしてしまう者は、住民向けイベント

を開催しても参加しない可能性が高いが、自発的な参加が困難であったとしても、大型シ

ョッピングセンターなどでのイベント開催をすることによって、通りすがりの人を巻き込

むことは可能であると考えられる。

582 今後の研究課題

本研究では、児童虐待相談対応件数を増加させるため、職員を配置しなければいけない

としているが、職員を配置することによって、児童虐待相談対応件数が増加するという逆

の因果関係が懸念される。今回のアンケート調査では、この逆の因果関係については完全

に否定することは難しい。しかし、ヒアリングで聞き取りを行った限りでは、各地方自治

体が職員を増やすことは、国の方針および同地方自治体内において児童虐待による死亡事

例などが生じない限りは、基本的には困難とのことであった。そのため、逆の因果関係に

ついては生じていないと考えられるが、この点については、今後、より厳密な研究が必要

であると考える。

また、アンケート調査において、虐待種別について、地方自治体の取り組みで効果のあ

るものについて聞き取りを行った。しかし、虐待一つ一つのケースをとっても、その虐待

をしてしまう者の背景は千差万別であり、一概に特定の取り組みによる効果があるという

ことを結論付けることはできず、ヒアリングでも同様の結果となった。

さらに、今回は、あくまでも児童虐待に関する主な相談窓口の取り組み等について着目

しており、児童虐待防止のためには、未然防止の観点に立つと、妊娠期から子育て期にわ

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たる切れ目ない支援の広い分析が必要で、同様の分析を児童虐待に携わる、多くの関係機

関に対しても行い、包括的に検証を行う必要となる点については考慮していない。よっ

て、本研究による考察は、あくまでも地方自治体の主たる担当窓口による事業等の効果の

みから考えた分析であること付しておく。

謝辞

本稿の執筆にあたり、細江宣裕准教授(主査)、安藤至大客員准教授(副査)、鶴田大輔客

員教授(副査)、杉浦美奈准教授(副査)から丁寧かつ熱心なご指導をいただいたほか、福井

秀夫教授(まちづくりプログラムディレクター)、森岡拓郎専任講師から示唆に富んだ大

変貴重なご意見をいただきました。また、まちづくりプログラムおよび知財コースの関係

教員、同期の皆様からは研究全般に関する多くの貴重なご意見をいただきました。ここに

記して感謝の意を表します。

また、本稿での実証分析にあたり、各種情報提供に回答にご協力いただきました関係自

治体の職員の皆様には、ここに感謝の意を表します。

さらに政策研究大学院大学にて、研究の機会を与えていただいた派遣元及び研究生活を

全面的に支えてくれた家族に改めて感謝申し上げます。

なお、本稿における見解及び内容に関する誤り等については、全て筆者に帰属します。

また、本稿における考察や提言は筆者の個人的な見解を示したものであり、所属機関の見

解を示すものではないことを申し添えます。

参考・引用文献

緒方康介 (2014)「児童虐待相談対応件数の増減に係る都市化の影響-日本全国と大阪府の

公式統計による分析-」『児童・家庭相談所紀要』22 号,33-44

和田一郎・五十嵐中 (2013)「わが国の子ども虐待の社会的コストの推計」『日本子ども虐待

防止学会学術集会大会プログラム・抄録集』211

板谷俊亨・秋田あゆみ (2013)「児童虐待防止法の法的効果に関する比較分析」大阪大学法

学部国際公共政策学科修士論文(未公刊)

李政元 (2012)「二項-ベータ階層ベイズモデルによる児童虐待相談対応率の地域差に関す

る研究」『総合政策研究』41 号,29-36

平部康子 (2012)「児童虐待防止法制の課題」『九州法学会会報』,54-52

佐柳忠晴 (2007)「児童虐待の実態と現行法制の問題点」『法制論叢』44 巻,44-65

内田良 (2005)「「虐待」は都市で起こる-「児童相談所における虐待相談の処理件数」に関

する2次分析-」『教育社会学研究第 76 集』,129-142

三枝有 (2003)「児童虐待における刑事法の在り方」『中京法学』37 巻,265-292

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附録「地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響について」

地方自治体の取り組みが児童虐待防止へ与える影響について

【調査内容について(平成29年3月末現在)】※本調査項目は全部で6問になります。

※また、本調査項目(特に問2)については、担当課が複数に分かれている可能性があります。

その場合は、お手数おかけしますが、担当課の方へ聴取、または転送をお願いいたします。

問1 貴市役所における平成24年度から平成28年度までの下記項目の児童虐待相談対応件数(虐待種別)等について教えてください。

(この調査での児童福祉施設の定義)乳児院、児童養護施設、里親、ファミリーホームをさします。

(虐待の定義)

殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など

子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など

家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など

言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

件 件 件 件 件

問2 貴市役所における取組事業と、児童虐待防止に対する独自の取組について教えてください。

問2-① 取組内容について該当するものに○をつけてください。(複数回答可)

(回答項目は、13.「その他」を具体的に記載すること以外、プルダウンで選択できるようになっています。)

「13.その他」の場合は具体的に記載してください。

問2-② また、問2-①で回答した取組内容で、虐待種別ごとに最も効果的であると考えられる取組内容について教えてください。

該当する取組

7.子育て短期支援事業

8.ファミリーサポート事業

9.一時預かり事業

10.延長保育事業

11.病児保育事業

12.放課後児童クラブ

【以下、アンケート調査】

自治体名 担当者名 職名

電話番号 担当者メール

13.その他

5.乳児家庭全戸訪問事業

6.養育支援訪問事業

該当する取組 終了年度開始年度

1.利用者支援事業

2.地域子育て支援拠点事業

3.妊婦健康診査

4.産後ケア事業

H28

② ①のうち児童福祉施設入所措置になった件数

身体的虐待

性的虐待

ネグレクト

身体的虐待

性的虐待

ネグレクト

心理的虐待

虐待種別 H24 H26

心理的虐待

①児童虐待相談対応件数(福祉行政報告例で提出した件数)

身体的虐待

性的虐待

ネグレクト

心理的虐待

H25 H27

1.身体的虐待

2.性的虐待

3.ネグレクト

4.心理的虐待

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問3 貴市役所における平成28年度の、主たる相談窓口の設置場所等及び職員の配置状況について教えてください。

(回答項目は、すべてプルダウンで選択できるようになっています。)

(選択項目について)

設置場所 1.児童福祉主管課 2.母子保健主管課

3.児童福祉・母子保健統合主管課 4.福祉事務所(家庭児童相談室)

5.保健センター 6.教育委員会 7.保健所 8.児童相談所

9.市の障害福祉主管課 10.その他

夜間・休日対応 1.対応している 2.対応していない

問4 貴市役所における児童虐待防止マニュアルの整備状況について教えてください。

(回答項目は、すべてプルダウンで選択できるようになっています。)

問4-①

1.マニュアルを作成している。→問4-②へ

2.マニュアルを作成していない。→「問5.貴市役所における児童相談窓口職員に対する研修の実施について」へ進んでください。

【回答欄】

問4-② 問4-①で「1.」を選択した自治体にお伺いします。

    作成した年度、及びマニュアルの作成元についてお答えください。

(選択項目について)

整備年度 H12年度~H28年度

整備元 1.国 2.都道府県 3.市町村 4.その他

問5 貴市役所における虐待相談窓口職員に対する、児童虐待防止のための研修の実施状況について教えてください。

(回答項目は、プルダウンで選択できるようになっています。)

問5-①

1.研修を行っている。→問5-②へ

2.研修を行っていない。→「問6.貴市役所における、児童虐待防止啓発活動について」へ進んでください。

【回答欄】

問5-② 問5-①で「1.」を選択した自治体にお伺いします。

    実施した年度、頻度及び実施状況についてお答えください。

(回答項目は、すべてプルダウンで選択できるようになっております。)

(選択項目について)

頻度(○回/年) 1.1~2回 2.3~4回 3.5~6回 4.7~8回 5.9~10回 6.11回以上

実施主体について 1.①貴市役所実施(委託も含む) 2.②他機関の実施への参加 3.①+②

配置状況 ○

⑩その他

⑨ ①~⑧以外

の一般事務職員

⑤保健師・助産

師・看護師(①を除く)

⑥教員免許を有

する者(①を除く)

⑦保育士(①を

除く)

⑧ ①~⑦以外

の社会福祉主事

④精神保健福

祉士例①児童福祉司と

同様の資格を有する者

②医師 ③社会福祉士

H28

2.3~4回

1.①貴市役所実施(委

託も含む)

H24 H25例

H26 H27

実施主体について

頻度(○回/年)

実施状況について

整備年度 整備元

夜間・休日対応

設置場所

職種

5

正規職員の人数

非正規職員の人数

専任の職員の人数

兼任の職員の人数

1.児童福祉主管課

1.対応している

H28

10

15

20

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問6 貴市役所における、児童虐待防止啓発活動について教えてください。

啓発活動の取組内容について該当するものに○をつけてください。(複数回答可)

(回答項目は、8.「その他」を具体的に記載すること以外、プルダウンで選択できるようになっています。)

「8.その他」の場合は具体的に記載してください。

ご協力ありがとうございました。

該当する取組 開始年度 終了年度

1.ポスター掲示

2.リーフレット配付及び設置

8.その他

6.住民向けイベントの開催

7.ホームページへの掲載

3.広報誌への掲載

4.街頭啓発(啓発物品の配布等)

5.各関係機関への訪問