慢性完全閉塞病変に対する慢性完全閉塞病変に対す...

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村上和男, 渡邉哲史, 辻貴史, 許永勝, 玉井秀男 草津ハートセンター 慢性完全閉塞病変に対する 慢性完全閉塞病変に対する PCIにおける心臓CTの有用性 PCIにおける心臓CTの有用性 Cardiovascular Imaging

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Page 1: 慢性完全閉塞病変に対する慢性完全閉塞病変に対す …...慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性 当センターではCTをCAGの代替として位置づけ,

村上和男, 渡邉哲史, 辻貴史, 許永勝, 玉井秀男草津ハートセンター

慢性完全閉塞病変に対する慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性PCIにおける心臓CTの有用性

CardiovascularImaging

Page 2: 慢性完全閉塞病変に対する慢性完全閉塞病変に対す …...慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性 当センターではCTをCAGの代替として位置づけ,

はじめに

 草津ハートセンターは琵琶湖に近い自然豊かな滋賀県草津市にあり, センターの周りには田畑が多く, そこに水を通すための水路には鮒や鯉などが泳いでおり, とても環境の良い場所に建てられている病床数19床, 職員数36人の循環器科専門クリニックである. 当センターは高度な医療技術で短期入院を実現し, 「患者様が可能な限り早期に家庭や社会に復帰できるようにする」, 「治療にかかる患者様の肉体的・経済的・時間的負担を軽減し, 疾患を持っていてもその人らしい社会生活が送れる」, そのような環境を医療の側から作りたいという思いから, 2006年3月9日に当時, 日本心血管インターベンション学会理事長であった玉井秀男医師が中心となり, 「最新の医療技術で確かな医療を」を理念に循環器科の専門医療機関として設立された.  当センターでは, 64列LightSpeedVCT(GE社製)と64列Aquilion64(東芝社製)の2台のCTを患者様の状態によって使い分け, 従来冠動脈造影CTが苦手としていた不整脈疾患やメタボリックシンドロームの患者様等のような大柄な人にも対応可能である. CTは動脈穿刺による冠動脈造影検査(CAG)よりリスクも少なく低侵襲であり, 入院も必要なく受診したその日に検査をし結果を聞いて帰っていただけるため, 冠動脈の検査はCAGではなくほとんどCTで行っているのが現状である. 当センターでの冠動脈造影CT件数は年間約1,000件である. 血管撮影装置は, Innova2100IQ(GE社製)とバイプレーン装置Infinix celeve-i(東芝社製)の2台を使用し, 診断カテーテル検査を年間約250例, PCIを年間約450例施行している. 当センターでは, PCI施行件数とCAG検査件数の割合はPCI : CAG=5 : 3であり, PCIがCAGを大きく上回っている. これは, 従来CAG検査件数はPCI検査の2~3倍であったことから考えると, 当センターではほとんどの場合, 冠動脈の診断はCAG検査ではなくCT検査で代替可能であることを表している. また, 検査した画像はすべてCardiacサーバー(GE社製)に保存され, 院内のあらゆる場所からViewerやワークステーションで画像を取得, 参照することができるようになっている. これにより検査や治療に関係する全ての職員が, 事前に検査や治療の目的, 状態を確認し理解した上で実行できることから, 質の高い医療を実現している. 更にPCI治療中, 詳細なCT画像が必要になった場合, 直ぐに画像を作成できるよう血管撮影室にCT用ワークステーションを設置しており, 当センターでは, CTの利点を最大限活用できる環境になっている.

症例 : 60歳代, 男性主訴 : 労作時胸部圧迫感診断名 : 狭心症, 陳旧性心筋梗塞現病歴 : 1991年に心筋梗塞を発症し, 心臓カテーテル検査を受けた(詳細不明). 以後, 近医で内服加療を継続されていたが, 労作時に胸部圧迫感を生じるようになったため, 当院外来を受診した. 冠危険因子 : 高脂血症, 喫煙画像所見 : 左前下行枝#7 100%, 左回旋枝#11 99%

 外来で冠動脈造影CTを施行し, 左前下行枝#7に100%, 左回旋枝#11に99%の病変の存在が示唆されていたため(図1, 2), PCI目的で入院となった. 2007年4月12日, 右鼠徑部アプローチでCAGを施行したところ, CT所見と同様に, 左前下行枝#7に100%慢性完全閉塞(CTO), 左回旋枝#11に99%の病変を認め, 左前下行枝の閉塞より末梢側は中隔枝を介した側副血行路により良好に造影されていた(図3). このため, 同日, 左前下行枝#7のCTOに対しPCIを施行することとなった. ガイドカテーテルを8F JL4で開始したがバックアップ不良のため8F AL1に変更し, IntermediateワイヤーでCTO内にワイヤーを進めた. CTO内でワイヤーが進まなくなったため, ワイヤーをMiracle 6gからMiracle 12gに変更したが, なかなかワイヤーを進めることができず, 強く押したところ末梢側のfalse lumenに侵入した. このためFielderワイヤーをパラレルワイヤーテクニックを用いて, 病変の固い部分を避けながら慎重に進めたところ, 末梢側の中隔枝にre-entryした(図4, 6). 病変を1.5mm

症例

治療のアプローチと使用デバイス

治療部位

治療戦略

アプローチ部位

ガイディングカテーテル

ガイドワイヤー

バルーンカテーテル

ステント

造影剤

左前下行枝#7 100%

Stenting

Rt femoral approach

Britetip 8F JL4 → Britetip 8F AL1

Neo's Intermediate, Neo's Miracle 6g, Neo's Miracle 12g, Neo's Fielder

Ranger 1.5×20mm, Vento 2.5×20mm

Cypher stent 3.5×33mmCypher stent 3.0×28mm

イオパミドール370mgI/mL

Cardiovascular Imaging

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慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性

 当センターではCTをCAGの代替として位置づけ, 冠動脈疾患が疑われる患者様の外来スクリーニングに用いている. CAGの代替として使用するためには正確な診断が必要であるが, 当センターの診断能はSensitivity : 86.7%, Specificity : 96.9%, PPV : 82.5%, NPV : 97.8%, Accuracy : 95.5%と良好である(数値は2007年1~6月までにCTとCAGまたはPCIを施行した143人, 1,367セグメント数で表し, 有意狭窄を>50%として評価した. また, 体動, 呼吸停止不可能患者9人を除外している). 正確な診断ができなかった主な原因としては石灰化を除いて, 高心拍数によるmotion artifactと, 心拍変動によるbanding artifactであった. そのため, 当センターでは, 検査をする前に心拍数を確認し, 必要に応じてβブロッカーを使用している. また, 心臓CT検査説明時には, 体を動かさないこと, 息止めを確実に行うこと等の説明を十分に患者様に行ったうえで, 息止めの練習を行い, 体動のないことを確認して心拍数が一番安定する息止め時間を計るなど, 万全を尽くして検査を行っている. 検査時間はCT室に入室してから退室まで約20分, 画像作成時間が40~60分必要であるが. ほとんどの場合, 受診当日に検査結果を説明している.

 当センターでは, 冠動脈造影CTは, CAGの代替だけでなく, IVUSの代替や補助としても活用されている. Plaqueの性状やIVUSカテーテルが通過困難な場合, またはNVRDなどのartifactの発生によって良好な画像が得られない場合では, IVUSよりCTの方が有用な場合がある. 当センターでは, CTは診断に利用するだけのモダリティとしてだけでなく, 治療に応用しPCIに活かすことで, PCIの手技の決定や成功率の向上, 治療時間の短縮に大きく寄与している. 現在では, PCIに不可欠なモダリティになっている.

PCI前

PCI前後における心臓CTの役割

PCI中

 治療後の6カ月後フォローは, 原則CAGで行っている. CTでステント内狭窄を正確に診断することは困難な場合が多く, 診断を誤るリスクがあるためである. その後のフォローは, ステントの材質や大きさにより異なるが, CTで行う場合が多い.

 当センターでは難病変の患者様も多く来院されるため, PCIを何度も繰り返し行わなくてはいけない場合や1回あたりの治療時間が長くなるなど, 患者様の侵襲が高くなる傾向がある. このため, 患者様の安全を守るために被曝線量, 造影剤量の削減に留意している. 血管撮影においては, 透視画像をstoreする機能(Fluorostore)を使用して, 通常線量の約5割をカットしたり, CTではMAモジュレーション機能を使い不必要フェイズ部分の線量を最小限にしたりするなどして, 通常線量の3~4割をカットしている. このようにして, 質を落とさずに効率を上げる工夫や, 技術の向上を日々心がけている. CTがより有用で, 患者様に負担の少ない安全で確かな検査となるよう, これからも努めていきたい.

PCI後

まとめ

慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性

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治療戦略治療予後と治療後のフォロー

術前CT所見(VR像)図1

バルーンで拡張したところ, 順行性のflowが確認できたため, ワイヤーを左前下行枝末梢に進め, 左前下行枝#7 distalまで2.5mmバルーンで拡張し, 左前下行枝#6~7にCypher stent 3.5×33mm, 左前下行枝#7 distalにCypher stent 3.0×28mm留置し終了した(図7).

 本症例の場合, 外来の冠動脈造影CTで冠動脈病変が描出されていたため, 入院まで十分な時間をもってPCIの治療戦略を検討することができた. CTO病変に対する冠動脈造影CTのメリットは, 閉塞部位の石灰化の有無などのプラークの性状や蛇行の有無などの血管走行が判別できるところにある. 本症例の場合, 動脈壁に部分的な石灰化が点在するものの, プラーク内には石灰化はなくあまり固い病変ではないと考えられた. また, 閉塞部位の血管走行はほぼまっすぐで血管径も十分に保たれていることが示唆された(図1, 2). しかしながら, 実際にPCIを行った際, Miracle 12gワイヤーでも病変の固い部分にあたり, なかなか進まない場面があった. このときにCT所見を再度検討することで, ワイヤーが血管壁の石灰化にあたっていると判断して, 比較的柔らかいワイヤーであるFielderワイヤーを, 石灰化を避けるように上手く操作することで末梢側にre-entryすることができた(図4, 5, 6).

 本症例では, PCI前の治療戦略立案時のみならず, PCI手技にもCTの所見を反映させることでスムーズに治療することが可能であった. CTO病変において, 冠動脈造影CTで得られる所見は非常に有用な情報である.

 左前下行枝の治療後, 入院継続にて翌週に左回旋枝#11にPCIを行い, Driver stent 4.0×15mmを留置して退院となった. ステント治療後はバイアスピリン, パナルジンによる抗血小板治療を外来で継続した. 経過中, 胸痛発作の再発は認められず, 2007年10月16日にフォローの心臓カテーテル検査を行い, CAGを施行したが, 左前下行枝#7 0%, 左回旋枝#11 0%と再狭窄を認めず, 他にも狭窄の進行は認めなかった. その後, 2008年12月現在まで月1回の外来通院を継続しているが, 胸部症状の再発は認めていない. 今後, 内服加療を継続し, 胸痛発作が再発した時もしくはPCI後3年経過した時に外来で冠動脈造影CTを施行し, 冠動脈疾患のフォローを行う予定である. ステント治療後の冠動脈造影CTについては, 心拍コントロールなど条件を整えて施行することにより, ステント内再狭窄についても十分に観察することができるため, スクリーニング検査として有効な手段と考えられる.

■左前下行枝#7に100%の慢性完全閉塞を認めた(  ).

■閉塞部のプラークを赤色に色付けしたところ, 閉塞部分の血管走行と血管径が可視化できた.

A

B

術前CT所見(MIP像)図2

閉塞部位の大部分はプラークであるが, 血管壁にそってspottyな石灰化を認めた.

A

B

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治療前の冠動脈造影所見図3

左前下行枝#7の完全閉塞を認める(  ). 閉塞部位より遠位は中隔枝を介した側副血行路により造影された.

ワイヤー操作図4

Miracle 12gワイヤーでもBの位置で固いプラークにあたり, クロスできなかった.

冠動脈造影CTでのワイヤー操作補助図5 パラレルワイヤーテクニック図6

1本目のMiracle 12gワイヤーが偽腔に入ってしまったため, 2本目のFielderワイヤー(  )を, 石灰化を避けながら慎重に進めたところ, 中隔枝にクロスした.

ステント留置図7

閉塞部位を2.5mmバルーンで拡張し, Cypher stentを2本留置した.

■血管壁の石灰化にあたり, ワイヤーが進まないと考えられた.

■2本目のワイヤーを, 石灰化を避けるように進める方針とした.

A

B

A B

慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性

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造影剤注入条件

造影剤(イオパミドール)

濃度

注入量

注入速度

370mgI/mL

撮影時間+2秒分であるが, それが10秒以内であれば10秒分注入

3.0~6.0mL/秒

第2CT室第1CT室

スキャンタイミングの決定方法

投与法

撮影部位

撮影条件

スキャン開始時間の測定方法

造影剤

Test injection法

冠動脈起始部

管電圧100kV, 管電流40mA

ボーラストラッキング法

左房と左室が一番広く撮影されるところ

管電圧135kV, 管電流60mA

第2CT室第1CT室

造影剤注入後6秒後から2秒間隔で下行大動脈のピークを超えるまで撮影し, 上行大動脈と下行大動脈のTDCカーブを描きそのピークの中心を本スキャン時間と定める.

本スキャン使用量以外に別途必要となる. イオパミドール370mgI/mLを本スキャンと同じ注入速度で15mL注入後, 造影剤の1/2の注入速度で生理食塩水15mLを後押しする.

Visual prepにて左室内をモニタリングし, 造影剤の左室到達を視覚的にトリガーし, その8秒後を本スキャン時間と定める.

本スキャン分のみで別途必要としないが, 本スキャン時に5mL程度多目に使用している.

再構成スライス厚/間隔

再構成

ルーチン

3D/MPR用

再構成関数

フィルム用

当院における心臓CTの撮影条件

管電圧

管電流

撮影スライス厚

スキャン速度

ピッチ

スキャン開始部位

スキャン終了部位

スキャン範囲

総撮影時間

撮影方向

64列LightSpeedVCT(GE社製)

デュアルショットTYPE-CD(根本杏林堂社製)

主に体格の良い症例

120または100kV

700~800mA

0.625mm

0.35秒/回転

0.16~0.22

冠動脈起始部上15mm(CABG後の評価の場合は術式に応じて通常は鎖骨上)

心窩部下20mm(CABG後の評価の場合は術式に応じて上腹部)

約120mm

5~8秒

頭尾方向

0.625

同上

スタンダード

なし

64列Aquilion 64(東芝社製)

デュアルショットGX(根本杏林堂社製)

主に不整脈や高心拍症例

135kV

440mA

0.5mm

0.4秒/回転

0.137~0.22

約120mm

7~13秒

頭尾方向

0.5

同上

FC43

なし

スキャン条件

CT使用機種

自動注入器

CT機種の使い分け

第1CT室 第2CT室

(2009年5月作成)IOP-7.0(MP/SN)資材記号 IOP-09-0153

慢性完全閉塞病変に対するPCIにおける心臓CTの有用性