北海道の国道斜面における 崩壊等の発生誘因分析 …...を分析した。...

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Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito 平成25年度 北海道の国道斜面における 崩壊等の発生誘因分析について (独)土木研究所 寒地土木研究所 防災地質チーム ○大日向昭彦 日下部祐基 伊東 佳彦 過去の道路斜面災害事例を収集し、災害発生の素因や誘因を整理・分析することにより、道路斜面防災の 向上に有効な知見を得ることが期待される。このため、筆者らは小規模な事例を含め北海道内で発生した事 例を収集し検討を行っている。過年度では、素因に関わる事項を中心に検討を行い報告した。本稿では誘因 に着目し、中でも誘因として最も影響の大きい降雨による事例を取り上げ、崩壊等をもたらした降雨の特徴 を分析した。 キーワード:道路斜面、斜面防災、事例分析 1. はじめに 道路斜面災害の発生を未然に防止するためには災害発 生の素因や誘因を適確に把握し、事前に必要な対策を施 すことが重要である。そのためには、過去の斜面災害事 例をより多く収集・整理し、災害発生の素因や誘因を分 析することが有効である。このため筆者らは、北海道内 で発生した崩壊等の事例について、小規模な事例を含め 収集し検討を行っている 1)2)3)4)5) 本稿では 2012 年までに収集された災害事例の中から、 災害発生の誘因として最も影響が大きい降雨による事例 を取り上げ、崩壊等をもたらした降雨の特徴を分析する とともに、そこから得られた防災上の留意点について報 告する。 2. 斜面災害事例の収集および分析方法 (1) 災害事例の収集方法 小規模な事例を含め比較的詳細な調査結果が得られる 資料として、道路防災点検業務等の受注コンサルタント が作成した災害対応レポートがある。これは、国土交通 省北海道開発局等の発注者から点検コンサルタントに要 請があった場合に作成されるもので、現道に影響したか その可能性があった事例が中心となっている。このレポ ートは、道路防災点検業務が発注されるようになった19 98年以降作成されており、2012年までに発生した498事例 を収集した。この他、発生規模が大きく詳細な調査結果 が文献で公表されている54事例を含め、合わせて552事 例を収集した。災害事例の履歴分布を図-1 に示す。 (2) 分析方法 収集した 552 事例について、災害発生誘因を災害種別 に整理した。その中で降雨を誘因とする事例については、 どの程度の雨が降った場合に崩壊等が発生しているのか を調査するため、崩壊等発生箇所最寄りの北海道開発局 道路テレメータから発生時の総雨量と最大時間雨量を抽 出し、崩壊等発生とそれぞれの雨量の関係を分析した。 総雨量は降り始めから降り終わりまでひと雨の降雨量を 示している。最大時間雨量は総雨量を毎時 0 分を起点に 1 時間毎に区切った時間当たり雨量のうち最大のものを 示しており、雨の強さ(降り方)の目安となるものである。 このほか、発生時における道路交通への影響の大きさを 調査するため、発生規模の目安として崩壊物の道路到達 範囲を災害種別に整理・分析した。災害種は便宜的に表- 1 のように定義・分類した。分析は降雨による事例数が 多い落石、崩壊、土石流(土砂流出)を取り上げて行った。 表-1 災害種区分の定義 落石 岩石が高速で落下する現象のうち、最大岩塊規模が約2 m 3 未満かつ個数で数えられる規模のもの 崩壊 土砂、岩石の強風化部及び数えられない規模の礫状物質 が落下する現象 岩盤崩壊 岩石が落下する現象のうち、最大岩塊規模が約2m 3 を超 えるもの、または個数では数えられない規模のもの 地すべり 地盤の一部が緩慢に動く現象のうち、すべり面の主体と なる部分が自然地山の内部に位置するもの 土石流 土砂や岩石を含んだ水塊が非常に高速で流れ下る現象

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Page 1: 北海道の国道斜面における 崩壊等の発生誘因分析 …...を分析した。 キーワード:道路斜面、斜面防災、事例分析 1. はじめに 道路斜面災害の発生を未然に防止するためには災害発

Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito

平成25年度

北海道の国道斜面における

崩壊等の発生誘因分析について

(独)土木研究所 寒地土木研究所 防災地質チーム ○大日向昭彦

日下部祐基

伊東 佳彦

過去の道路斜面災害事例を収集し、災害発生の素因や誘因を整理・分析することにより、道路斜面防災の

向上に有効な知見を得ることが期待される。このため、筆者らは小規模な事例を含め北海道内で発生した事

例を収集し検討を行っている。過年度では、素因に関わる事項を中心に検討を行い報告した。本稿では誘因

に着目し、中でも誘因として最も影響の大きい降雨による事例を取り上げ、崩壊等をもたらした降雨の特徴

を分析した。

キーワード:道路斜面、斜面防災、事例分析

1. はじめに

道路斜面災害の発生を未然に防止するためには災害発

生の素因や誘因を適確に把握し、事前に必要な対策を施

すことが重要である。そのためには、過去の斜面災害事

例をより多く収集・整理し、災害発生の素因や誘因を分

析することが有効である。このため筆者らは、北海道内

で発生した崩壊等の事例について、小規模な事例を含め

収集し検討を行っている1)2)3)4)5)。

本稿では 2012 年までに収集された災害事例の中から、

災害発生の誘因として最も影響が大きい降雨による事例

を取り上げ、崩壊等をもたらした降雨の特徴を分析する

とともに、そこから得られた防災上の留意点について報

告する。

2. 斜面災害事例の収集および分析方法

(1) 災害事例の収集方法

小規模な事例を含め比較的詳細な調査結果が得られる

資料として、道路防災点検業務等の受注コンサルタント

が作成した災害対応レポートがある。これは、国土交通

省北海道開発局等の発注者から点検コンサルタントに要

請があった場合に作成されるもので、現道に影響したか

その可能性があった事例が中心となっている。このレポ

ートは、道路防災点検業務が発注されるようになった19

98年以降作成されており、2012年までに発生した498事例

を収集した。この他、発生規模が大きく詳細な調査結果

が文献で公表されている54事例を含め、合わせて552事

例を収集した。災害事例の履歴分布を図-1に示す。

(2) 分析方法

収集した552事例について、災害発生誘因を災害種別

に整理した。その中で降雨を誘因とする事例については、

どの程度の雨が降った場合に崩壊等が発生しているのか

を調査するため、崩壊等発生箇所最寄りの北海道開発局

道路テレメータから発生時の総雨量と最大時間雨量を抽

出し、崩壊等発生とそれぞれの雨量の関係を分析した。

総雨量は降り始めから降り終わりまでひと雨の降雨量を

示している。最大時間雨量は総雨量を毎時0分を起点に

1 時間毎に区切った時間当たり雨量のうち最大のものを

示しており、雨の強さ(降り方)の目安となるものである。

このほか、発生時における道路交通への影響の大きさを

調査するため、発生規模の目安として崩壊物の道路到達

範囲を災害種別に整理・分析した。災害種は便宜的に表-

1 のように定義・分類した。分析は降雨による事例数が

多い落石、崩壊、土石流(土砂流出)を取り上げて行った。

表-1 災害種区分の定義

落石岩石が高速で落下する現象のうち、最大岩塊規模が約2

m3未満かつ個数で数えられる規模のもの

崩壊土砂、岩石の強風化部及び数えられない規模の礫状物質が落下する現象

岩盤崩壊岩石が落下する現象のうち、最大岩塊規模が約2m3を超えるもの、または個数では数えられない規模のもの

地すべり地盤の一部が緩慢に動く現象のうち、すべり面の主体となる部分が自然地山の内部に位置するもの

土石流 土砂や岩石を含んだ水塊が非常に高速で流れ下る現象

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Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito

集計期間:1981年~2012年

3. 分析結果と考察

(1) 災害発生誘因

道路斜面災害は、発生箇所の斜面形状(地形)や斜面構

成物質(地質)といった素因(潜在的原因)と災害発生の引

き金となる誘因(直接的原因)が複雑に関与して発生する。

ここでは災害発生誘因を取り上げ、災害種別に整理した

(図-2)。

落石の誘因は、降雨、融雪、経年変化、凍結融解、地

震、動物の接触、人為的なもの、強風と多岐に渡る。な

かでも降雨により発生した事例が全体の2割程度(48/20

5件=23%)を占め最も多い。

崩壊の誘因は、降雨による事例が圧倒的に多く全体の

約 6 割(125/203 件=62%)を占め、融雪による事例が全体

の2割程度(35/203件=17%)を占めこれに続く。

53(96)

7(20)

10(19)

125(62)

48(23)

1(2)

10(29)

5(9)

35(17)

33(16)

5(9)

5(2)

22(11)

1(3)

8(15)

1

19(9)

3(9)

10(19)

8(4)

2(1)

19(9)

1(3)

1(2)

9(4)

3(2)

1

7(3)

1(3)

1(2)

1

10(5)

1(2)

12(34)

14(26)

18(9)

42(20)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

土石流

(全55件)

地すべり

(全35件)

岩盤崩壊

(全54件)

崩 壊

(全203件)

落 石

(全205件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)

降雨

融雪

経年変化

凍結融解

地震

動物の接触

人為的なもの

強風

その他

不明

図-2 災害種別発生誘因

図-1 北海道における道路斜面災害の履歴分布

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Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito

岩盤崩壊は、降雨を誘因として発生した事例、地震を

誘因として発生した事例が最も多く、それぞれ全体の約

2割(10/54件=19%)を占める。

地すべりは、融雪を誘因とする事例が全体の約 3 割

(10/35 件=29%)を占め最も多く、降雨を誘因とする事例

が全体の2割(7/35件=20%)を占めこれに続く。

土石流は、ほぼ全ての事例(53/55 件=96%)が降雨を誘

因として発生している。

以上より、地すべりを除く落石、崩壊、岩盤崩壊、土

石流の4災害種において、降雨を誘因とする事例の割合

が最も高く、災害発生誘因として降雨の影響が大きいこ

とがわかる。

(2) 落石発生と雨量の大きさの関係

落石発生時の総雨量を図-3に、最大時間雨量を図-4に

整理した。それぞれ上段は落石全体、中段は転石(抜け

落ち)型落石のみ、下段は浮石(剥離)型落石のみを示し

ている。総雨量(図-3)をみると落石全体の約7割(33/46

件=72%)が総雨量50mm未満の少ない雨量で発生し、最大

時間雨量(図-4)をみると落石全体の約7割(32/46件=70%)

が時間当たり雨量10mm未満の穏やかな雨の降り方で発生

しており、降雨を誘因とする落石は日常的な降雨で比較

的多く発生していることが明らかとなった。

図-3、図-4中段に示す転石型落石と下段に示す浮石型

落石を比較すると、最大時間雨量(図-4)については、強

い雨ほど事例数が少なくなるという全体の傾向は変わら

ないものの、総雨量(図-3)については、転石型落石は全

体の約8割(22/27件=81%)が総雨量50mm未満の少ない雨量

で発生しているのに対し、浮石型落石は総雨量50mm未満

の降雨で発生した事例が全体の約6割(11/19件=58%)にと

どまり、総雨量50mm以上のまとまった雨でも一定の割合

で発生が確認された。

発生事例の詳細をみると、転石型落石は、崖錐堆積物

や段丘堆積物の硬い岩塊・玉石・礫とその周囲を充填する

固結度の低い土砂(マトリックス)からなる斜面で多くみ

られ、相対的に軟質なマトリックス(礫間充填物)が地表

水や地下水により経年的に風化・浸食され、落石の元と

なる岩塊等が地表に浮き出し除々に不安定化する中、落

石発生時の降雨が最後の引き金となりバランスを失い抜

け落ち発生したと考えられる事例が多い。浮石型落石は、

節理等割れ目が多く亀裂質な露岩を呈する斜面で多くみ

られ、地表水や地下水による凍結融解の繰り返しや乾燥

湿潤の繰り返し等の風化作用により露岩部の亀裂が拡大

しブロック状に細片化する中、落石発生時の降雨が亀裂

内部に浸透し落石の元となったブロックのせん断強度

(付着強度)が低下したため、露岩部から分離し落下した

と考えられる事例が多い。このような発生形態の違いが

発生時の総雨量の大きさの違いに影響していると考えら

れる。

11(58%)

22(81%)

33(72%)

7(37%)

3(11%)

10(22%)

1(5%)

2(7%)

3(7%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

浮石型

落石

(全19件)

転石型

落石

(全27件)

落石

(全46件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)

50mm未満

50mm以上

99mm未満

100mm以上

150mm未満

図-3 落石発生時の総雨量

13(68%)

19(70%)

32(70%)

5(26%)

6(22%)

11(24%)

1(5%)

2(7%)

3(7%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

浮石型

落石

(全19件)

転石型

落石

(全27件)

落石

(全46件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)

10mm未満

10mm以上

20mm未満

20mm以上

30mm未満

図-4 落石発生時の最大時間雨量

13(12%)

3(60%)

16(14%)

30(28%)

35(31%)

32(28%)

31(28%)

2(40%)

31(27%)

35(32%)

35

0% 20% 40% 60% 80% 100%

崩壊

(融雪期

以外)

(全109件)

崩壊

(融雪期)

(全5件)

崩壊

(全114件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)

50mm未満

50mm以上

100mm未満

100mm以上

150mm未満

150mm以上

図-5 崩壊発生時の総雨量

図-6 崩壊発生時の最大時間雨量

13(12%)

4(80%)

17(15%)

35(32%)

1(20%)

36(32%)

27(25%)

34(30%)27(24%)

34(31%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

崩壊

(融雪期

以外)

(全109件)

崩壊

(融雪期)

(全5件)

崩壊

(全114件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)

10mm未満

10mm以上

20mm未満

20mm以上

30mm未満

30mm以上

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Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito

(3) 崩壊発生と雨量の大きさの関係

崩壊発生時の総雨量を図-5に、最大時間雨量を図-6に

整理した。それぞれ上段は崩壊事例全体、中断は全事例

中融雪期に発生した事例、下段は融雪期以外に発生した

事例を示している。総雨量(図-5)をみると全体の9割程

度(32+31+35/114件=86%)が総雨量50mm以上のまとまっ

た雨で発生していた。最大時間雨量(図-6)をみると全体

の9割程度(36+27+34/114件=85%)が時間当たり雨量10mm

以上の雨の降り方で発生していた。気象庁の降雨に関す

る用語では、時間当たり雨量10mm以上20mm未満の降雨を

「やや強い雨」と定義しており6)、「やや強い雨」以上

の降雨で発生した事例が多い。

また、融雪期に発生した事例と融雪期以外に発生した

事例を比較すると、総雨量(図-5)については、中段に示

す融雪期に発生した事例をみると、総雨量50mm未満の降

雨で発生した事例が3件、総雨量50mm以上100mm未満の降

雨で発生した事例が2件となっており、5事例全て総雨量

100mm未満の降雨で発生していた。しかし、下段の融雪

期以外に発生した事例をみると、総雨量100mm未満の降

雨で発生した事例は全体の約4割(13+30/109件=39%)にと

どまっており、融雪期の事例は融雪期以外の事例と比較

し、少ない雨量で発生する傾向がある。最大時間雨量

(図-6)については、中段に示す融雪期に発生した事例を

みると、全5件中4件(全体の8割)が時間当たり雨量10mm

未満の穏やかな雨の降り方で発生していた。しかし、下

段の融雪期以外に発生した事例をみると、時間当たり雨

量10mm未満の降雨で発生した事例は全体の約1割(13/109

件=12%)にとどまっており、融雪期の事例は融雪期以外

の事例と比較し、穏やかな雨の降り方で多く発生する傾

向がある。

崩壊事例全体の詳細をみると、基盤岩など難透水性の

地層の上に土砂や基盤岩の風化物等固結度が低く透水性

が比較的よい厚さ2m程度以下の表層が分布する斜面で

多くみられ、降雨により大量の水が斜面内部に浸透し、

表層部の土砂等の間隙水圧上昇とともに地山のせん断強

度が低下したことにより、難透水性の地層の上の表層が

斜面下方へ移動したと考えられる事例が多い。融雪期の

場合、斜面上残雪の融雪水浸透の影響により表層部に水

が含まれた状態となっているため、少ない雨量で飽和状

態となり発生していると考えられる。

(4) 土石流発生と雨量の大きさの関係

土石流発生時の総雨量を図-7に、最大時間雨量を図-8

に整理した。総雨量については、全体の9割程度(31+

12/50件=86%)が総雨量100mm以上の大雨時に、最大時間雨

量については、ほぼ全ての事例(14+34/50 件=96%)が時

間当たり雨量20mm以上の雨の降り方で発生していた。気

象庁の降雨に関する用語では、時間当たり雨量20mm以上

30mm未満の雨の降り方を「強い雨」と定義しており6)、

「強い雨」以上の降雨で発生した事例が多い。

7(14%) 31(62%) 12(24%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

土石流

(全50件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%)50mm以上

100mm未満

100mm以上

150mm未満

150mm以上

図-7 土石流発生時の総雨量

1(2%)

1(2%)

14(28%) 34(68%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

土石流

(全50件)

事例件数[件](括弧内は全体に占める割合%) 10mm未満

10mm以上

20mm未満

20mm以上

30mm未満

30mm以上

図-8 土石流発生時の最大時間雨量

12(27%)

1(2%)

32(29%)

1(2%)

18(39%)

29(26%)

6(14%)

24(52%)

29(26%)

25(57%)

3(7%)

21(19%)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

土石流

(全44件)

落石

(全46件)

崩壊

(全111件)

道路への到達範囲[件](括弧内は全事例に占める割合%)

斜面内・斜面裾

クリアランス・ポ

ケット内

道路センターライ

ン内

対向車線以上

図-9 災害種別崩壊物道路到達範囲

発生事例の詳細をみると、沢など凹状の集水地形箇所

で発生する事例が多く、上記のような豪雨により大量の

水がいっきに斜面に供給された場合、斜面内部への浸透

が間に合わず地表面を流れ、水が集まりやすい集水地形

箇所に集中し、集水地形に堆積していた土砂や礫を押し

流し発生したと考えられる事例が多い。

(5)災害種別崩壊物の道路到達範囲

降雨を誘因とする崩壊、落石、土石流について、発生

時における道路交通への影響の大きさを調査するため、

発生規模の目安として崩壊物の道路到達範囲を図-9 に

整理した。崩壊は崩壊土が滑動し車道(道路センターラ

イン内及び対向車線以上)まで到達した事例が全体の 5

割程度(29+21/111 件=45%) を占める。崩壊土量が少な

い場合は斜面内に留まるものの、崩壊土量が多くなると

車道まで到達している。

落石は車道まで到達した事例が全体の約 6 割(24+

3/46 件=59%)を占め、崩壊よりやや割合が高い。しかし、

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Akihiko Obinata, Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito

道路センターラインを越え対向車線まで到達した事例の

割合をみると、崩壊(21/111 件=19%)より低く全体の 1割

程度(3/46 件=7%)となっている。これは落石の主な運動

形態が回転のため、運動形態が滑動である崩壊と比較し、

崩壊物の移動範囲が広くなる傾向があるものの、崩壊物

が小さいため対向車線まで到達するほどの運動エネルギ

ーはないと考えられる。

土石流は車道まで到達した事例が全体の約 7 割(6+

25/44 件=70%)を占め、崩壊事例や落石事例よりやや割合

が高い。また、道路センターラインを超え対向車線まで

到達した事例は全体の 6 割程度(25/44 件=57%)を占め、

崩壊事例や落石事例と比較し極端に割合が高い。これは

土石流の運動形態が流動のため、崩壊物の移動範囲が比

較的広くなる傾向にあることが原因として考えられる。

4. まとめ

2012 年までの北海道における道路斜面災害の収集事

例を基に、崩壊等の発生と雨量の関係を分析した結果得

られた、崩壊等をもたらした降雨の特徴と斜面防災上の

留意点を下記にまとめる。

(1) 落石は、総雨量 50mm 未満の少ない雨量で発生した

事例が全体の約 7 割、最大時間雨量 10mm 未満の穏

やかな雨の降り方で発生した事例が全体の約7割を

占め、日常的な降雨で発生した事例が比較的多い

ことが明らかとなった。落石の発生は、崩壊や土

石流と異なり雨量との相関が小さいため、雨量を

目安に発生を予測することが難しい。このため、

地形や地質等の素因により斜面の安定度評価を行

うことがより重要となる。

(2) 崩壊は、総雨量50mm以上のまとまった雨で発生した

事例が全体の 9 割程度、最大時間雨量 10mm 以上の

雨の降り方(気象庁の降雨に関する用語でいう「や

や強い雨」以上)で発生した事例が全体の 9 割程度

を占めた。また、これらの事例の詳細をみると、

難透水性の地層の上に透水性が比較的よい厚さ 2m

程度以下の表層が分布する斜面で発生した事例が

多い。これらのことから、このような斜面では総

雨量 50mm以上、最大時間雨量 10mm以上の降雨条件

時、崩壊の発生に警戒を強める必要があると考え

られる。ただし、融雪期はこれより少ない雨量で

発生する傾向がある点に留意が必要である。

(3) 土石流は、総雨量 100mm 以上の大雨時に発生した事

例が全体の 9 割程度、最大時間雨量 20mm 以上の雨

の降り方(気象庁の降雨に関する用語でいう「強い

雨」以上)でほぼ全ての事例が発生していた。また、

これらの事例の詳細をみると、凹状の集水地形箇

所で発生した事例が多い。これらのことから、こ

のような地形箇所では総雨量 100mm 以上、最大時間

雨量 20mm 以上の降雨条件時、土石流の発生に警戒

を強める必要があると考えられる。

(4) 災害種別に崩壊物が車道へ到達した事例の割合をみ

ると、崩壊が全体の5割程度、落石が全体の約6割、

土石流が全体の約7割となっていた。また、崩壊物

が道路センターを超え対向車線まで到達した事例の

割合をみると、落石が全体の1割程度、崩壊が全体

の約2割なのに対し、土石流は全体の6割程度が対

向車線まで到達していた。土石流は発生時、崩壊物

の移動範囲が広くなる傾向があるため、発生を予測

し通行規制等事前の対策を行うことがより重要とな

る。

謝辞:本論文をまとめるにあたり、北海道開発局の関係

各位には資料等を提供していただき、多大なご協力をい

ただいた。ここに厚くお礼を申し上げます。

参考文献

1)高橋幸継、伊東佳彦、阿南修司:北海道における斜面

崩壊等の事例分析結果について、第 54 回北海道開発

技術研究発表会HP、2011.2

2)大日向昭彦、伊東佳彦、日下部祐基:北海道の斜面

災害事例と斜面災害に関わる交通規制の関連分析、

第55回北海道開発技術研究発表会HP、2012.2

3)大日向昭彦、日下部祐基、伊東佳彦:北海道の国道斜

面災害の履歴分析結果について、寒地土木研究所月報

No,712、pp24-31、2012.9

4)大日向昭彦、日下部祐基、伊東佳彦:北海道における

道路斜面災害発生箇所の斜面特性について、第 56 回

北海道開発技術研究発表会HP、2013.2

5)大日向昭彦、日下部祐基、伊東佳彦:北海道における

崩壊等発生斜面の性状分析結果について、寒地土木研

究所月報No,725、pp17-22、2013.10

6)気象庁:気象庁HP/気象等の知識/雨の強さと降り方

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo.