2115.斜面分割結果と考察 斜面分割を実施した結果のうち、200m2、...

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地形の開析状況に着目した斜面の自動分割手法について 独立行政法人 土木研究所 高原晃宙・松澤真・木下篤彦・石塚忠範 国土防災技術株式会社 ○龍見栄臣・大野亮一 1. はじめに 表層崩壊の危険度を評価する手法は、メッシュベースで 実施される場合が多いが、実際の現象は斜面単位で発生す ることから、より危険度評価の精度を高めるためには、適 切な斜面単位を設定する必要がある。また、広範囲の評価 を実施するためには、手動での斜面分割は実用的ではない ため、自動分割ができることが望ましい。 そこで、山地の開析状況に着目し、航空レーザ測量デー タを用いて、斜面を自動的に分割する手法の技術改良を図 った。 2. 対象地域と開析状況 対象地域は、平成21年7月の豪雨災害により表層崩壊が多 発した山口県防府市の剣川流域及び阿部谷川流域とした。 斜面の開析状況は、松澤ら(2013)の判読結果を利用し、 図1に示すとおり、山頂緩斜面、開析斜面上部、開析斜面下 部の3区分とした。 3. 開析状況の地形解析結果 開析状況の区分毎に5種の地形解析(傾斜度、標高、尾根 谷度、曲率、固有値比)を実施した。 傾斜度の分布は、図2に示すとおり山頂緩斜面の分布が開 析斜面上部及び下部の分布よりも小さい領域となっている が、開析斜面上部と下部では平均値は異なるものの分布域 は重なっている。 標高・尾根谷度・曲率は、山頂緩斜面と開析斜面上部・ 下部では、分布域に違いが見られたが、開析斜面上部と下 部では違いは見られなかった。 固有値比の分布域はほとんど同じであった。 地形解析からは、山頂緩斜面は区分できる可能性がある が、開析斜面上部と下部を区分することは現時点では難し いと考えられる。 4. 斜面分割手法 斜面分割は、周ら(2005)の手法とした。この手法はGISの 機能を利用して集水域を区分した後、DEMデータを反転させ ることで尾根と谷を逆転させ、再度集水域を区分する。そ れらの結果をユニオン処理することで、図3のように尾根線 と谷線に囲まれた領域のポリゴンを作成する。 集水域作成のためのパラメータは、表1に示すとおり、作 成する集水域の大きさとして指定する最小集水面積を5パ ターンとした。 図 1 対象流域と開析状況の区分 剣川流域 (1.84km 2 ) 阿部谷川流域 (0.64km 2 ) 図 2 傾斜度の分布 図 3 斜面分割のイメージ 山頂緩斜面 開析斜面上部 開析斜面下部 20 40 傾斜度[deg] 60 0 尾根 尾根 DEM の地形 反転 DEM の地形 斜面① 斜面② 斜面③ 斜面④ P2-11 - B-294 -

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Page 1: 2115.斜面分割結果と考察 斜面分割を実施した結果のうち、200m2、 2,000m2、20,000m2の例を図4に示す。 最小集水面積が200m2では、斜面の水平長が

地形の開析状況に着目した斜面の自動分割手法について

独立行政法人 土木研究所 高原晃宙・松澤真・木下篤彦・石塚忠範

国土防災技術株式会社 ○龍見栄臣・大野亮一

1. はじめに

表層崩壊の危険度を評価する手法は、メッシュベースで

実施される場合が多いが、実際の現象は斜面単位で発生す

ることから、より危険度評価の精度を高めるためには、適

切な斜面単位を設定する必要がある。また、広範囲の評価

を実施するためには、手動での斜面分割は実用的ではない

ため、自動分割ができることが望ましい。そこで、山地の開析状況に着目し、航空レーザ測量デー

タを用いて、斜面を自動的に分割する手法の技術改良を図

った。2. 対象地域と開析状況

対象地域は、平成21年7月の豪雨災害により表層崩壊が多

発した山口県防府市の剣川流域及び阿部谷川流域とした。

斜面の開析状況は、松澤ら(2013)の判読結果を利用し、

図1に示すとおり、山頂緩斜面、開析斜面上部、開析斜面下

部の3区分とした。

3. 開析状況の地形解析結果

開析状況の区分毎に5種の地形解析(傾斜度、標高、尾根

谷度、曲率、固有値比)を実施した。

傾斜度の分布は、図2に示すとおり山頂緩斜面の分布が開

析斜面上部及び下部の分布よりも小さい領域となっている

が、開析斜面上部と下部では平均値は異なるものの分布域

は重なっている。

標高・尾根谷度・曲率は、山頂緩斜面と開析斜面上部・

下部では、分布域に違いが見られたが、開析斜面上部と下

部では違いは見られなかった。

固有値比の分布域はほとんど同じであった。

地形解析からは、山頂緩斜面は区分できる可能性がある

が、開析斜面上部と下部を区分することは現時点では難し

いと考えられる。

4. 斜面分割手法

斜面分割は、周ら(2005)の手法とした。この手法はGISの

機能を利用して集水域を区分した後、DEMデータを反転させ

ることで尾根と谷を逆転させ、再度集水域を区分する。そ

れらの結果をユニオン処理することで、図3のように尾根線

と谷線に囲まれた領域のポリゴンを作成する。

集水域作成のためのパラメータは、表1に示すとおり、作

成する集水域の大きさとして指定する最小集水面積を5パ

ターンとした。

図1 対象流域と開析状況の区分

剣川流域

(1.84km

2

)

阿部谷川流域

(0.64km

2

)

図 2 傾斜度の分布

図 3 斜面分割のイメージ

山頂緩斜面 開析斜面上部 開析斜面下部

20

40

傾斜

度[deg]

60

0

尾根

尾根

DEMの地形

反転DEMの地形

斜面① 斜面② 斜面③ 斜面④

P2-11

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Page 2: 2115.斜面分割結果と考察 斜面分割を実施した結果のうち、200m2、 2,000m2、20,000m2の例を図4に示す。 最小集水面積が200m2では、斜面の水平長が

5. 斜面分割結果と考察

斜面分割を実施した結果のうち、200m

2

2,000m

2

、20,000m

2

の例を図4に示す。

最小集水面積が200m

2

では、斜面の水平長が

長い場合や比高が高い箇所で直線状に分割

される傾向が見られた。最小集水面積が

2,000m

2

以上となると直線状に分割される箇

所は少なくなるが、斜面の水平長が長い場合

や比高が高い場合などは直線状の分割とな

った。最小集水面積が20,000m

2

では、大きな

斜面として分割されるようになり、谷を挟ん

で分割される場合も見られた。

図5に直線状斜面の形成例を示す。この箇所は、水平長

が約170m、比高が122m程度の斜面である。最小集水面積が

2,000m

2

では直線状斜面が形成されるが、最小集水面積が

5,000m

2

では細長い分割斜面が残るものの、一つの斜面とし

て分割されている。このような結果は、最小集水面積が

200m

2

でも確認でき、その場合には、水平長は短くなり、比

高も低くなっていた。これは、分割結果は、斜面の水平長

や比高などの起伏に強く影響していることを示している。

そこで、GISの機能を利用して、開析状況ごとに谷幅と高

さを計測し、図6に示すとおりプロットした。図6より、開

析斜面下部(大起伏)、開析斜面上部(中起伏)、山頂緩斜

面(小起伏)に分類でき、それぞれの起伏(水平長や比高)

ごとに、最小集水面積を設定することで、より適切な斜面

に分割できる可能性があることを示している。

6. おわりに

本研究では、GISを利用した斜面の自動分割を実施し、斜面分割結果は、斜面の水平長や比高などの起伏が強く

影響していることを確認した。今後は、起伏に応じた最小集水面積を設定することで、分割精度の向上が期待で

きると考えている。

引用文献

松澤真・武澤永純・山越隆雄・石塚忠範・龍見栄臣・竹村文(2013):山地の開析状態が表層崩壊の発生形態に与

える影響について,平成25年度砂防学会研究発表会概要集,B-318~B-319

周国云・江崎哲郎・謝謨文・佐々木靖人(2005):GISを用いた山地地形から三次元すべり危険斜面を抽出する方

法の開発と適用,応用地質,第46巻,第1号,p.28-37

図4 斜面分割結果の例

200m

2

2,000m

2

20,000m

2

谷で分割され

ていない

直線状の分割

表 1 検討パラメータ

検討項目

最小集水面積(m

2

) 20 200 2,000 5,000 20,000

パラメータ

図5 直線状に分割される斜面の例

2,000m

2

5,000m

2

直線状の分割

図 6 開析状況ごとの谷の幅と高さの関係

0

5

10

15

20

25

30

35

0 20 40 60 80 100

さ(

m)

谷の幅(m)

開析斜面下部

開析斜面上部

山頂緩斜面

中起伏

小起伏

大起伏

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