圃 新しい炎症マーカー『血清アミロイド a.nの臨床...

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新しい炎症マーカー『血清アミロイド A .nの臨床的意義 近清裕 前川鏡子 原因朱美 山和人 小松 島赤 十 字 病 院 検査部 要旨 血清アミロイド A (serum amyloidA ,以下 SAA)はアミロイド前駆体の低分子蛋白で CRPと同様肝細胞で合 成される 。SAA は炎症により 合成が冗進する 急性相反応物質の ーっとされており、その新しい炎症マ ーカーとし ての 意義を検討した 。測定は市販のラテックス 凝集免疫測定法キット (栄研化学)を用いた。対象は、 急性心筋梗塞 3 例、 心臓手術 3 例、細菌性肺炎 2 例、ウィルス性急性肝炎 1 例、 RA1 例の計 10 例である 。SAAの基礎レベルは 0 8μg ,/ ml で、 CRP の数倍であるが、炎症急性期には最大1940μg/ml まで上昇 した 。急性心筋梗塞の発症直後や心 臓手術の直後に CRP 等の炎症マーカーより 早期から SAA の上昇が認められ、ストレスによる変動と考えられたが、 数日後の頂値も他のマ ーカーに比べて数十倍高いレベルとな った。細菌性肺炎の 1 O' IJ では、炎症の軽快により SAA 1940 から 8 へ、 CRP 329 から o 8 となり、 SAA がより 早期に正常化した 。一方、肺炎が選延した l 例では CRP12 2 から1. 9 に対し SAA749 から 128 と、 SAA の低下が遅延した 。ウィルス性急性肝炎では CRP0 9 に対し SAA 66 高値であった 。RA でも CRP 3 9 から 2 9 への変化に対し、 SAA 201 から 101 5 へとより変動が大きかった 。 キーワード :血清アミロイド A(SAA) 、炎症マ ーカー はじめに 炎症性疾患においては、macrophageにより 産生 される Interleukin-1 (I L-1α β) IL-6 TNFα 等の サイトカインが肝細胞に作用し急性相反 応物質 (acutephasereactant ,以下 APR) の産生 を誘導する 。APRSAA CRP α1-AT α1 酸性糖蛋白、ハプトグ ロビ ン、フィブ リノー ゲンなど の血柴蛋白であるが、これらのうち SAACRP 二者が炎症に最も敏感に反応するとされる 。現在、炎 症マ ーカー としては CRPが主 に用いられており、 SAACRP と同様の変動を示すが、病態によって は二者の反応に差異のあることが知られている 。最近、 炎症状態の把握における SAAの保険適用が認めら れ、また簡易な測定キットも開発されたため、 SAA の臨床応用が期待される。今回我々は、炎症やス トレ スを伴う病態における SAAを含む種々の炎症マー カーの変動の差異ならびに SAA 測定の|臨床的意義に ついて検討した。 12 新しい炎症マーカ ー 『血清アミロイド A. l の臨床的意義 対象と方法 対象患者は、 当院に入院中の急性心筋梗塞 3 例、心 臓手術 3 例、細菌性肺炎 2 例、ウィルス性急性肝炎 1 例、慢性関節リウマチ(以下 RA) 1 例の計10 例で ある 。 急性心筋梗塞の 3 例は、入院時、入院後 2 4 8 12 時間後、 翌日 (24 時間後)、 3日後に経時的に SAACRPを測定した。また、関心術のストレス による血中炎症マーカ ーの変動を観るため、手術前、 直後、 4 時間後、翌日、 2日後、 3日後、 4日後、 7日後、 14 日後、 21 日後の各時点で SAA CRP M-CSF ASP 、シアル酸を測定した。肺炎、 RA よび急性肝炎の各疾患では、 SAA CRPと末梢血白 血球数(以下 WBC) を経時的に測定した。 SAA の測定には市販のラテックス凝集免疫測定法 キット (栄研化学) を用いた。SAA の基礎レベルは 0 8μg/ml(0 8mg/d l)で CRP の基 礎値の数倍であった。 CRP(mg/d l)、 M-CSF (ng/ml)、 ASP(mg/d l)、シアル酸 (mg/d l)の 測定は各々、 比濁法、EIA 法、 比色法および酵素法 を用いた 。 KomatushimaRed CrossHospitalMedicalJournal

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Page 1: 圃 新しい炎症マーカー『血清アミロイド A.nの臨床 …...測定値の一部はmean:t SDで表示し、 二群聞の有意差検定にはStudentのt検 定を用いた。Table

圃 新しい炎症マーカー『血清アミロイドA.nの臨床的意義

近清裕 前川鏡子 原因朱美 亀山和人

小松島赤十字病院検査部

要旨

血清アミロイド A (serum amyloid A,以下 SAA)はアミロイド前駆体の低分子蛋白で CRPと同様肝細胞で合

成される。SAAは炎症により合成が冗進する急性相反応物質のーっとされており、その新しい炎症マーカーとしての

意義を検討した。測定は市販のラテックス凝集免疫測定法キット (栄研化学)を用いた。対象は、 急性心筋梗塞3例、

心臓手術 3例、細菌性肺炎 2例、ウィルス性急性肝炎 1例、 RA1例の計10例である。SAAの基礎レベルは 0,5~

8μg,/mlで、 CRPの数倍であるが、炎症急性期には最大1940μg/mlまで上昇した。急性心筋梗塞の発症直後や心

臓手術の直後に CRP等の炎症マーカーより早期から SAAの上昇が認められ、ストレスによる変動と考えられたが、

数日後の頂値も他のマーカーに比べて数十倍高いレベルとなった。細菌性肺炎の 1O'IJでは、炎症の軽快により SAAが

1940から 8へ、 CRPは329からo8となり、 SAAがより早期に正常化した。一方、肺炎が選延した l例では CRP12,2

から1.9に対し SAA749から128と、 SAAの低下が遅延した。ウィルス性急性肝炎では CRP0, 9に対し SAAは66と

高値であった。RAでも CRPの3,9から2,9への変化に対し、 SAAは201から101,5へとより変動が大きかった。

キーワード :血清アミロイド A (SAA)、炎症マーカー

はじめに

炎症性疾患においては、macrophageにより産生

される Interleukin-1(IL -1α, β)や IL-6、

TNFα等のサイトカインが肝細胞に作用し急性相反

応物質 (acutephase reactant,以下 APR)の産生

を誘導する。APRは SAA、CRP、α1-AT、α1

酸性糖蛋白、ハプトグロビン、フィブリノーゲンなど

の血柴蛋白であるが、これらのうち SAAとCRPの

二者が炎症に最も敏感に反応するとされる。現在、炎

症マーカー としては CRPが主に用いられており、

SAAもCRPと同様の変動を示すが、病態によって

は二者の反応に差異のあることが知られている。最近、

炎症状態の把握における SAAの保険適用が認めら

れ、また簡易な測定キットも開発されたため、 SAA

の臨床応用が期待される。今回我々は、炎症やス トレ

スを伴う病態における SAAを含む種々の炎症マー

カーの変動の差異ならびに SAA測定の|臨床的意義に

ついて検討した。

12 新しい炎症マーカー『血清アミロイド A.lの臨床的意義

対象と方法

対象患者は、 当院に入院中の急性心筋梗塞 3例、心

臓手術 3例、細菌性肺炎 2例、ウィルス性急性肝炎

1例、慢性関節リウマチ(以下 RA) 1例の計10例で

ある。

急性心筋梗塞の3例は、入院時、入院後 2、 4、 8、

12時間後、 翌 日 (24時間後)、 3日後に経時的に

SAAとCRPを測定した。また、関心術のストレス

による血中炎症マーカーの変動を観るため、手術前、

直後、 4時間後、翌 日、 2日後、 3日後、 4日後、

7日後、 14日後、 21日後の各時点で SAA、CRP、

M-CSF、ASP、シアル酸を測定した。肺炎、 RAお

よび急性肝炎の各疾患では、 SAA、CRPと末梢血白

血球数(以下 WBC)を経時的に測定した。

SAAの測定には市販のラテックス凝集免疫測定法

キット (栄研化学)を用いた。SAAの基礎レベルは

0, 5~ 8μg/ml (0, 05~O, 8mg/dl)で CRPの基

礎値の数倍であった。CRP (mg/dl)、 M-CSF

(ng/ml)、 ASP(mg/dl)、シアル酸 (mg/dl)の

測定は各々、 比濁法、EIA法、 比色法および酵素法

を用いた。

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal

Page 2: 圃 新しい炎症マーカー『血清アミロイド A.nの臨床 …...測定値の一部はmean:t SDで表示し、 二群聞の有意差検定にはStudentのt検 定を用いた。Table

測定値の一部はmean:tSDで表示し、

二群聞の有意差検定には Studentの t検

定を用いた。Table 2 心臓手術侵襲による各種血中炎症関連物質の変動

結果

心筋梗塞急性期の 3例を Table1に示

す。

SAA は入院時あるいは、入院 2~4 時

間の時点で既に増加しており、 CRPに比

して早期で、かっ大きい増加反応を示した。

2例では病初期に CRPがほぼ正常域での

変動であるのに較べて SAAには明らかな

術0'1

術直後

4HR後

24HR後

2日後

3日後

4日後

7日後

14日後

21日後

増加が認められ、ス トレスによる生体反応をより鋭敏

に反映していた。

Table 1 心筋梗塞急性期における SA A と CRPの

経時的変化 (3例別 )

Table 2に、関心術の前後 3週間における各種炎症

マーカーの変動を示す。

* p < O. 05, * * p < O. 01 (術前値に対し)

各種の炎症関連物質のうち SAAとCRPの二者が

術直後ないし 4時間の早期から上昇し、他の三者は

2~3 日後から増加を示した。 SAA と CRP を比較

すると、 SAAの増加率が最大で約950倍であったの

に比して CRPの増加は最大で約45倍であった。

シアル酸以外は術後21日目でもなお有意の高値を示

し、 SAAは術前値の109倍と非常に高値であった。

VOL.3 NO.1 MARCH 1998

SAA CRP M-CSF ASP シアル酸

o 9 02:t01 2.3:t0.6 155:t 28 64:t 11

5 6* 03:t03 2.0:t0.6 106:t 20 55:t 9

35 6 .. 0.3:t0.1* 2. 4 :t O. 7 109:t26 56:t 12

170 9** 4.8:t0.7** 2. 5 :t O. 7 158:t 39 64 :t 13

859 1** 7 6:t3 1 .. 2. 5:t O. 7 229:t 58 .. 73:t 18

811 9** 5.3:t2.7 .. 2.7:t06* 295:t 48 .. 82:t 24方

450 0 .. 4.3:t2.9* 2.8:t06本 290:t 58 80:t 12*

319 6 .. 5. 5:t 3. 0 .. 33:t12本 285:t 76日 84 :t 17 *

194 6 .. 1.5:t1.1本本 3. 3:t 1. 0*本 260:t 58叫 77土12

98. 3 .. 0.6:t0.5** 2.7:t0.2 .. 237:t 20本本 82:t 23

* pく0.05,村pく0.01(術前値に対し)

次に炎症性疾患として、肺炎、ウィルス性肝炎および

RAについて検討した。

Table 3に約 2週間で軽快した細菌性肺炎の 1例を

提示する。入院時、 SAAは1940と極めて高値で

CRP も32.9であったが、 2週間後に SAAが 8に

CRP はO.8になり、 SAAがより早期に正常化した。

同じ細菌性肺炎であるが、経過が遅延した 1例を

Table 4に示す。

本症例は軽快するまでに 1カ月半を要した大葉性肺

炎で、発病後 2週間で CRPが1.9と低下したにも拘

わらず SAAは正常値の10倍以上の高値で、その後肺

炎の改善まで 3週間に亘り高値のままであった。

Table3 T.M.61歳細菌性肺炎

SAA CRP WBC

11 15 1940 32 9 20440

11 21 42 12 6280

11 28 8 o 8 6420

Table 4 S. K .78歳 細菌性肺炎

SAA CRP WBC

11 14 749 12 2 9320

11 24 128 19 7500

2 ! 7 151 3 3 6870

2! 17 90 1.4 7250

新しい炎症マーカー 『血清アミロイドA.)] 13

の臨床的意義

Page 3: 圃 新しい炎症マーカー『血清アミロイド A.nの臨床 …...測定値の一部はmean:t SDで表示し、 二群聞の有意差検定にはStudentのt検 定を用いた。Table

ウィルス性急性肝炎の 1例では、入院時CRPO. 9

に比して SAA66と高く、 SAAは発熱等の炎症所見

をより反映していた。

ステロイド中止後の RAの 1{yIJでの経過をTable

5に示す。

本例は発熱、関節痛などの症状が強く活動性の RA

と考えられたが、ステロイド投与のためか CRPが

4 mg/dl以下と低めで、 SAAの方が炎症状態をよ

り反映していると考えられた。

Table 5 K .S.65歳、RA

SAA CRP WBC

1120 201 3 9 5870

2/7 144 3 7 4660

2/ 18 1015 2 9 5310

2/25 82 2 2 4530

考 察

CRPよりも有用であった。ウィルス感染で SAAが

CRPより鋭敏な指標となることが以前から指摘され

ているが、我々の症例でもそれを支持する成績であっ

た。

膝原病などの慢性炎症状態ではステロイドの使用な

どにより、 [1寺に CRPが病勢の指標とならないことが

以前より指摘されてきた。これまでその様な病態では、

CRPに替わり ASPが病勢を反映するとされている。

今回の RA症例での検討では、ステロイドの投与歴

もあり CRP値に比して炎症症状が強く、 SAAの変

動がより病勢を反映していた。また、 RAなどの慢性

炎症に合併し易い続発性アミロイドーシスでも SAA

が高値となるため、そのスクリ ーニングに有益と思わ

れる。

おわりに

新しい炎症マーカー血清アミロイド A (SAA)の

測定は、様々の炎症やストレスを伴う病態において、

CRPと同等あるいはそれ以上に有益な情報をもたら

本邦では数年前に簡便な凝集免疫法による SAAの すと考えられた。

自動 ・迅速分析が可能となり、 更に保険適用も認めら

れたため、 CRPに替わる鋭敏な炎症マーカーとして

注目されている。過去数年の臨床報告では、 SAAは

CRPよりも炎症の有無を見分ける診断感度や特異性

が高く、特にウィルスJ性疾患や臓器移植後の拒絶反応、

ステロイド剤使用中の感染症併発などの病態の把握に

おいて CRPIこ優るとされる。

今回我々は、CRPや他の炎症マーカーとも対比し

SAA測定がより有用と考えられる病態について検討

した。

急性心筋梗塞や関心術の前後では、 SAAはCRPよ

りも早期から明らかな上昇を示し 1~ 3日後の頂値も

高く 、これらストレス状態の把握において CRPより

も有用な指標と思われた。他の数種の炎症マーカーに

ついての検討では、炎症性サイトカインの M-CSF~ APR (α1AT、αl酸性糖蛋白)を反映する指標で

ある ASPとシアル酸の増加反応は SAAよりも遅延

しており、その反応機序に差異のあることが推測され

た。

細菌の感染による急性炎症では、 SAAはCRPと

ほぼ同様の変動を示したが、細菌感染が選延する場合

には SAAがより病勢を反映しており、この点でも

14 新しい炎症マーカー 『血清ア ミロイド AJI

の臨床的意義

文 献

1)屋形稔、 IJー|田俊幸 :炎症マーカ一、アミロイド

前駆体としての血清アミロイド蛋白A 医学の

あゆみ 152: 81-86, 1990

2)中山哲夫、浅村信二、野由美恵子、武内可尚:ラ

テックス凝集免疫測定法による血清アミロイドA

(SAA)測定の臨床的検討-SAAと急性期反応

蛋白(APR)との比較検討一. 医学と薬学 33:

1183-1189. 1995

3)〆谷直人、市川恵子、鉢村和男、田中恒任、大谷

慎一、狩野有作、大谷英樹 :C反応性蛋白 (CRP)

低濃度域における血清アミロイド A蛋白 (SAA)

および IL-6の変動について.臨床病理 44:

669-675. 1996

4)山田俊幸、小津哲夫、村津 章 .慢性関節 リウマ

チにおけるSAA(JIllY青アミロイド A)11直. リウ

マチf.'1.16: 417-418, 1996

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal

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Clinical Significance of Serum Amyloid A, a New InflammatorγM arker

Hirokazu CI-IIKAK1YO, Kyoko MAEGA WA, Akemi I-IARADA, Kazuhito KAMEY AMA

Division of Laboratory, Komatushima Red Cross Hospital

Serum amyloid A (SAA) is a low molecular protein of the amyloid precursor and is synthesized in liver

cells as CRP is SAA is believed to be one of the acute reactants and we studied its significance as a new

inflammatory marker Commercialized latex aggregation immunologic measurement kit (Eiken

Chemical) was used for measurement. The subjects were ten patients including three patients with acute

myocardial infarction, three patients who underwent heart surgery, two patients with bacterial

pneumonia, one patient with viral acute hepatitis, and one patient with RA The SAA basic level was

0.5 -8μg/ml, several times that of CRP level, and the SAA level increased to a maximum of 1940μg/ml

at the inflammatory acute stage. The increase of SAA level was seen earlier than the inflammatory

markers such as CRP immediately after acute myocardial infarction occurs or immediately after heart

surgery was performed. Several days later, SAA level increased to the maximum level, several tens of

times of those in other markers, although it was assumed to be a variation resulting from stress. 1n one

patient with bacterial pneumonia, when inflammation was alleviated, SAA level changed from 1940 to 8

and CRP level decreased from 32. 9 to O. 8. SAA 1巴velwas normalized earher On the other hand, in one

patient who had prolonged pneumonia, the CRP level decreased from 12.2 to 1. 9 and SAA level from 749 to

128. The reduction of SAA level was delayed. 1n a case of viral acute hepatitis, CRP and SAA levels

were O. 9 and 66, respectively, which were high. 1n the RA patient, the CRP level changed from 3. 9 to 2. 9

and SAA level decreased greatly from 201 to 101. 5

Keywords: serum amyloid A (SAA), inflammatory marker

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal 3 : 12-15, 1998

VOL.3 NO.1 MARCH 1998 新しい炎症マ ーカー 『血清アミロイドAJ 15 の臨床的意義