p-98 測位衛星を使用した精密単独測位と 地球・宇宙 慣性・宇 …€¦ ·...

1
SATテクノロジー・ショーケース 2020 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 第一宇宙 技術部門 衛星測位システム技術ユニットではGPS衛星等 の測位衛星を使用した精密測位技術の研究開発を行って いる。本ポスター発表では数cm~数十cmレベルの測位 精度を達成する精密単独測位(Precise Point Positioning, PPP)と呼ばれる技術について紹介し、最新の研究動向と して既に確立されている慣性航法( Inertial Navigation System, INS)との複合航法技術や、地球周回軌道を飛行 する宇宙機の精密機上航法( Precision Onboard Navigation)に関する我々の研究内容を紹介する。また、 精密測位技術の応用例を紹介し、将来実現するであろう 世界について俯瞰する。 1.PPPの収束性向上に関する研究 従来のGPS測位技術では数mレベルのGPS衛星の軌道 暦が使用される。一方、PPPでは数cmレベルの精密軌道 暦を使用してユーザの精密測位が行われるため、GPS位技術の精度が数mレベルであるのに対して、PPPでは数 cm~数十cmレベルの測位が可能になる。一度、数cm数十cmレベルの精密な測位精度が実現すると、自動運転 技術や精密農業等の実応用に対して大きなインパクトを 持つことになり、我々の社会における機械の自律化が更 に促進されることになる。 しかしながら、PPPには解決すべき課題として収束性の 問題が存在する。PPPは数mレベルの測位結果を初期値 として採用し、数cm~数十cmレベルの測位精度に徐々に 収束させる技術であるため、収束するまでに平均して30程度の時間を要する。この収束時間の問題は、GPS衛星 の信号が地球大気圏を通過する際に経験する対流層遅 延と呼ばれる効果や、信号の測距情報への変換後に存在 するアンビギュイティと呼ばれる不定量の推定に時間を要 することに起因し、30分という数字は応用を考えた場合許 容できるものではない。 したがって現在、収束時間の短縮を目的とする研究が 世界で盛んに議論されているが、画期的な解決法は未だ 存在しない。我々は対流層遅延量の推定を早めるため、 推定処理に拘束をかけるアプローチの検討を行っている。 本ポスター発表では我々のアプローチと関連研究につい て概説し、実データを用いた実験結果を紹介する。 2INSとの複合航法技術に関する研究 PPPGPS衛星等の測位衛星の信号を使用するため、 何かしらの影響により信号を安定的に取得することができ ない場合、測位精度に大きな影響が出る。一方、INSは加 速度センサの出力値に基づき現在位置を算出するため、 外部要因の影響が小さいというメリットを持つ。 そこで、PPPの精密な測位精度とINSのロバスト性や安 定性の両メリットを保持する複合航法技術の研究が現在 活発に行われている。複合航法技術ではINSの航法精度 に影響を与える加速度センサの誤差がPPPにより推定・補 正されるため、INSの航法精度が大幅に改善される。我々 のグループにおいても複合航法技術の検証を目的とした ドローンを用いるフィールドトライアルの検討を開始してお り、本ポスター発表ではその取り組み内容を説明する。 3Precision Onboard Navigationに関する研究 現在、地球の低軌道を周回する衛星はGPS信号を受信 することで自律的かつリアルタイムに位置を決定しており、 m レベルの精度を達成している。一方、 Precision Onboard Navigationでは数cm~数十cmレベルの精度が 目標とされるため、地上のPPP技術を軌道上の衛星の位 置決定に適用する研究が海外の宇宙機関で盛んに行わ れている。 しかしながら人工衛星に搭載されるGPS受信機は地上 のものと比べて性能が劣る事が多いため、測位の観測値 として使用する測距情報に無視することができないノイズ が乗ることが予想される。また、低軌道の人工衛星は時速 78kmで飛行する高ダイナミクス環境下にあるため、地 上の物体に対するPPP技術をそのまま軌道上に適用する ことは難しい。 そこで本研究では測位精度に影響を与える誤差源を同 時に推定するアプローチに注目し、JAXAALOS2(だい 2号)の軌道上データを用いた実験結果について報告 する。また、低軌道衛星に限らず高軌道衛星や月飛行に おける精密航法についても言及し、GPS衛星等の測位衛 星が本質的な役割を担うことについて説明する。 宇宙空間において数cm~数十cmレベルの精密航法技術 が確立すると、超高精度な航法精度が要求されるフォーメ ーションフライト(Formation Flight)やランデブーミッション Rendezvous Mission)が実現すると考えられ、地球観測や 天文観測ミッションに対する多大なる貢献が可能になる。 使 1)精密単独測位 2)複合航法技術 3)精密機上航法 山田英輝(やまだ ひでき) 松下紗也(まつした さや) 代表発表者 問合せ先 3 0 3 - 8 5 0 5 2 - 1 - 1 T E L 0 5 0 - 3 3 6 2 - 3 9 8 5 F A X 0 2 9 - 8 6 8 - 5 9 8 7 m u r a t a . m a s a y a @ j a x a . j p P-98 100

Upload: others

Post on 24-Oct-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • SATテクノロジー・ショーケース2020

    ■ はじめに 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 第一宇宙

    技術部門 衛星測位システム技術ユニットではGPS衛星等の測位衛星を使用した精密測位技術の研究開発を行っている。本ポスター発表では数cm~数十cmレベルの測位精度を達成する精密単独測位(Precise Point Positioning, PPP)と呼ばれる技術について紹介し、最新の研究動向として既に確立されている慣性航法(Inertial Navigation System, INS)との複合航法技術や、地球周回軌道を飛行す る宇宙機の 精密機上航法 ( Precision Onboard Navigation)に関する我々の研究内容を紹介する。また、精密測位技術の応用例を紹介し、将来実現するであろう世界について俯瞰する。

    ■ 活動内容 1.PPPの収束性向上に関する研究 従来のGPS測位技術では数mレベルのGPS衛星の軌道

    暦が使用される。一方、PPPでは数cmレベルの精密軌道暦を使用してユーザの精密測位が行われるため、GPS測位技術の精度が数mレベルであるのに対して、PPPでは数cm~数十cmレベルの測位が可能になる。一度、数cm~数十cmレベルの精密な測位精度が実現すると、自動運転技術や精密農業等の実応用に対して大きなインパクトを持つことになり、我々の社会における機械の自律化が更に促進されることになる。 しかしながら、PPPには解決すべき課題として収束性の

    問題が存在する。PPPは数mレベルの測位結果を初期値として採用し、数cm~数十cmレベルの測位精度に徐々に収束させる技術であるため、収束するまでに平均して30分程度の時間を要する。この収束時間の問題は、GPS衛星の信号が地球大気圏を通過する際に経験する対流層遅延と呼ばれる効果や、信号の測距情報への変換後に存在するアンビギュイティと呼ばれる不定量の推定に時間を要することに起因し、30分という数字は応用を考えた場合許容できるものではない。 したがって現在、収束時間の短縮を目的とする研究が

    世界で盛んに議論されているが、画期的な解決法は未だ存在しない。我々は対流層遅延量の推定を早めるため、推定処理に拘束をかけるアプローチの検討を行っている。本ポスター発表では我々のアプローチと関連研究について概説し、実データを用いた実験結果を紹介する。

    2.INSとの複合航法技術に関する研究

    PPPはGPS衛星等の測位衛星の信号を使用するため、何かしらの影響により信号を安定的に取得することができない場合、測位精度に大きな影響が出る。一方、INSは加速度センサの出力値に基づき現在位置を算出するため、外部要因の影響が小さいというメリットを持つ。 そこで、PPPの精密な測位精度とINSのロバスト性や安

    定性の両メリットを保持する複合航法技術の研究が現在活発に行われている。複合航法技術ではINSの航法精度に影響を与える加速度センサの誤差がPPPにより推定・補正されるため、INSの航法精度が大幅に改善される。我々のグループにおいても複合航法技術の検証を目的としたドローンを用いるフィールドトライアルの検討を開始しており、本ポスター発表ではその取り組み内容を説明する。

    3.Precision Onboard Navigationに関する研究 現在、地球の低軌道を周回する衛星はGPS信号を受信

    することで自律的かつリアルタイムに位置を決定しており、数mレベルの精度を達成している。一方、Precision Onboard Navigationでは数cm~数十cmレベルの精度が目標とされるため、地上のPPP技術を軌道上の衛星の位置決定に適用する研究が海外の宇宙機関で盛んに行われている。 しかしながら人工衛星に搭載されるGPS受信機は地上

    のものと比べて性能が劣る事が多いため、測位の観測値として使用する測距情報に無視することができないノイズが乗ることが予想される。また、低軌道の人工衛星は時速7~8kmで飛行する高ダイナミクス環境下にあるため、地上の物体に対するPPP技術をそのまま軌道上に適用することは難しい。 そこで本研究では測位精度に影響を与える誤差源を同

    時に推定するアプローチに注目し、JAXAのALOS2(だいち2号)の軌道上データを用いた実験結果について報告する。また、低軌道衛星に限らず高軌道衛星や月飛行における精密航法についても言及し、GPS衛星等の測位衛星が本質的な役割を担うことについて説明する。 宇宙空間において数cm~数十cmレベルの精密航法技術が確立すると、超高精度な航法精度が要求されるフォーメーションフライト(Formation Flight)やランデブーミッション(Rendezvous Mission)が実現すると考えられ、地球観測や天文観測ミッションに対する多大なる貢献が可能になる。

    地球・宇宙

    測位衛星を使用した精密単独測位と 慣性・宇宙航法の融合

    ■キーワード: (1)精密単独測位 (2)複合航法技術 (3)精密機上航法 ■共同研究者: 山田英輝(やまだ ひでき) 松下紗也(まつした さや)

    代表発表者 村田 眞哉(むらた まさや) 所 属 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

    第一宇宙技術部門 衛星測位システム技術ユ

    ニット

    問合せ先 〒303-8505 茨城県つくば市千現2-1-1 筑波宇宙センター

    TEL:050-3362-3985 FAX:029-868-5987 [email protected]

    P-98

    ‒ 100 ‒