pbl学習効果の検証 is研究会...

8
PBL 情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL の学習モデルを情報教育へ適用する。PBL は、問題解決力などを育成する教育手法で あり、医学教育では、PBL がカリキュラムの中心となっている。本研究におけるPBL情報教育の学習 プロセスは、1)問題の提示、2)グループ学習、3)自己学習、4)プレゼンテーション、の各ステ ップにより実践している。これらの活動を通じて、PBLの学習効果を検証する。具体的には、同一科 目においてPBLとPBL以外のグループの学習効果を比較した。その結果、問題解決力、自己学習、 対人コミュニケーション、情報リテラシーの各項目が、PBLグループが優位に高い結果となった。ま た、2004年から2006年までの3年間PBLの学習効果を調査した結果、継続して高い値を得た。 Verification of learning effect in PBL information education Akira INOUE KONAN University , Education and Research Center for Information Science Abstract Abstract: In this research, the PBL(Problem-Based Learning) method is applied to information ducation. Problem-Based Learning is an educational technique that enables students to develop problem-solving skills. It is a core curriculum in educational reform and is being by many in clinical courses. An information education PBL includes the following steps:1) Presentation of problem,2) Group study,3) Unit(Self-study teaching material) study,4) Presentation. Information education to PBL methods was evaluated by comparing the learning styles. Students taught using a traditional information curriculum (n = 36) and a PBL curriculum (n = 25) were compared. The PBL curriculum resulted in significantly better examination performance than did the traditional teaching curriculum, in the problem finding, the problem solving ability, the self-learning, and the information literacy acquisition. A high value was obtained continuously for three years from 2004 to 2006. 1. はじめに 本研究では、情報リテラシー科目において PBL を実施し、PBL によって得られる学習効果を検証 する。本研究は、システム・エンジニアなど IT スペシャリストとして必要な高度な IT スキルや 専門的知識の獲得を目的としているものではな い。PBL の学習プロセスによって学習者がどのよ うな知識や能力を獲得できるのかを検証するこ とを目的としている。 これまで、2004年度から2006年度の約 3年間、PBL による情報教育の実践を行ってきた。 これらの実践について、PBL の先行事例である看 護学で用いられている学習評価をベースに、PBL によって得られる学習効果について検証する。具 体的には、PBL と PBL 以外での学習効果の比較、 PBL で実施した 3 年間の学習評価の推移について 考察する。 2. PBL による情報教育 甲南大学において、2004 年度前期授業より、

Upload: others

Post on 01-Mar-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

PBL 情報教育の学習効果の検証 井上 明

甲南大学 情報教育研究センター

概 要

本研究は、PBL の学習モデルを情報教育へ適用する。PBL は、問題解決力などを育成する教育手法で

あり、医学教育では、PBL がカリキュラムの中心となっている。本研究におけるPBL情報教育の学習

プロセスは、1)問題の提示、2)グループ学習、3)自己学習、4)プレゼンテーション、の各ステ

ップにより実践している。これらの活動を通じて、PBLの学習効果を検証する。具体的には、同一科

目においてPBLとPBL以外のグループの学習効果を比較した。その結果、問題解決力、自己学習、

対人コミュニケーション、情報リテラシーの各項目が、PBLグループが優位に高い結果となった。ま

た、2004年から2006年までの3年間PBLの学習効果を調査した結果、継続して高い値を得た。

Verification of learning effect in PBL information education

Akira INOUE

KONAN University , Education and Research Center for Information Science

Abstract Abstract: In this research, the PBL(Problem-Based Learning) method is applied to information ducation. Problem-Based Learning is an educational technique that enables students to develop problem-solving skills. It is a core curriculum in educational reform and is being by many in clinical courses. An information education PBL includes the following steps:1) Presentation of problem,2) Group study,3) Unit(Self-study teaching material) study,4) Presentation. Information education to PBL methods was evaluated by comparing the learning styles. Students taught using a traditional information curriculum (n = 36) and a PBL curriculum (n = 25) were compared. The PBL curriculum resulted in significantly better examination performance than did the traditional teaching curriculum, in the problem finding, the problem solving ability, the self-learning, and the information literacy acquisition. A high value was obtained continuously for three years from 2004 to 2006.

1. はじめに

本研究では、情報リテラシー科目において PBL

を実施し、PBL によって得られる学習効果を検証

する。本研究は、システム・エンジニアなど IT

スペシャリストとして必要な高度な IT スキルや

専門的知識の獲得を目的としているものではな

い。PBL の学習プロセスによって学習者がどのよ

うな知識や能力を獲得できるのかを検証するこ

とを目的としている。

これまで、2004年度から2006年度の約

3年間、PBL による情報教育の実践を行ってきた。

これらの実践について、PBL の先行事例である看

護学で用いられている学習評価をベースに、PBL

によって得られる学習効果について検証する。具

体的には、PBL と PBL 以外での学習効果の比較、

PBL で実施した 3 年間の学習評価の推移について

考察する。

2. PBL による情報教育

甲南大学において、2004 年度前期授業より、

Page 2: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

教職科目「教育の方法技術」科目で PBL の手法を

取り入れた授業を実施した(図1)[1]。

上記科目は、教育工学的な視点から、教材開発、

授業設計、授業技法、授業の評価、授業改善など、

情報機器を活用した具体的な教育や学習の改善

にかかわる技法の習得を目的とした科目である。

授業は半期開講科目であり、これまで 2004

年 9 月~ 2006 年 7 月の間に、計 5 回実施した

i。受講生は甲南大の3・4回生である。この

科目は全学部共通であるため、授業に参加す

る学生の所属は、文学部、理工学部、経済学

部、経営学部、法学部など様々である。授業

1クラスの受講生は、 25 名から 35 名程度で

ある。

授業はインターネットへ接続されている

コンピュータ 50 台が設置されている教室を

使用し、教師 1 名と TA(Teaching Assistant)2

名で授業をおこなった。授業回数は 14 回であ

る。

(1) 問題の提示

i 2006 年度後期も実施しているが、データ集計中の

ため、今回の論文には掲載していない

PBL では、まず解決すべき課題が提示される。

その課題がトリガーとなり学習が進んでいく。ま

ず、問題の提示として、自分たちが教師になった

と仮定させ、「高校生を対象とした、実際の授業

で利用できる電子教材」の制作を課題として提示

した。

「教師である自分が使う」ことを意識させるこ

とで、解決すべき問題を自分のこととして認識さ

せ、学習意欲の向上と実施すべき作業の明確化に

つながるようにした。

提示された問題から、学生は様々な視点から課

題を見つけ出していく。たとえば、

・ 教材を利用する学年をどこに設定するのか

・ 対象とする教科を何にするか

・ 教材の内容と学習目標

・ 授業を実施する設備と環境

このような項目を解決すべき問題としてとら

え、授業設計やコンピュータに関する知識を駆使

して、検討していく。例えば、「総合的学習の時

間で使用できる教材」「身近な環境問題を図やア

ニメーションを使用し分かりやすく説明する」

「教室でパソコンと液晶プロジェクターを使用

し教材を提示する」といったように、徐々に対象

まず問題に出会う

どうしたら解決できるかを論理的に(実践的・

論理的手法によって)考える

相互に話し合い ,何を調べるかを明らかにする

自主的に学習する

新たに獲得した知識を問題に適用する

学習したことを要約する

PBL の学習プロセス説

情 報 を 収 集 す る

仮 説 を 立 て る

計 画 の 立 案

PBL による情報学習

プロセスへの応用

ス テ ッ プ 1「 問 題 の

提 示 」

ス テ ッ プ 2「 グ ル ー

プ 学 習 」

ス テ ッ プ 3「 ユ ニ ッ

ト で の 技 術 習 得 」

ス テ ッ プ 4「 教 材 の

制 作 」

ス テ ッ プ 5「 プ レ ゼン テ ー シ ョ ン 」

本 物 の 問 題 を イ メ

ー ジ で き る 課 題 を

提 示

実 施

評 価

実際の授業の進

め方

図 1.PBL による情 報 教 育 学 習 プロセス

Page 3: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

や状況を絞り、具体的な内容を決定して行く。状

況を明確化するにつれて、次の作業として何をど

のように決めていけばよいか、どのような知識が

必要になるかが明らかになって行く。

教材を作成する条件として、教師から使用する

ソフトウェアや完成条件は指示しない。「ソフト

ウェアありき」ではなく、課題解決のためにどの

ようなソフトウェアが最適かを考えさせる。それ

により、操作テクニックだけでない、課題解決の

ためのツールとしてのICTの理解を意識させるよ

うにした。

(2) グループ学習

次に、学生達は課題を解決するためにグループ

活動を行う(図2)。学生を 5 名から 7 名程度の

グループに分け、リーダ、サブリーダなどの役割

を与える。学習のペース配分、学習事項に関して

は自分たちで決定するようにした。このようなグ

ループ・ワークによる共同作業は対人関係の理解

やコミュニケーション能力に繋がる。

一方、教員は講義のように一方的に何かを教え

るのではなく、「学生からの質問へ答える」「適宜

必要なアドバイス」をおこなう。学生達が間違っ

た方向へ議論しているようであれば、修正意見を

述べる。また、議論が進まないようであれば呼び

水になるような問いかけをおこなう。

また、随時どのような議論をしているのか、積

極的に活動に参加しているか等を適宜個人ごと

に記録する。その記録は成績評価の際に使用する。

(3) ユニット

PBL では通常の演習や実験と異なり、作業を行

うために必要な知識やスキルは事前にほとんど

教えられない。これまで他の授業等で学んできた

知識を組み合わせる。また、分からないことを、

メンバー同士の教えあいや自己学習で理解して

いく。つまり、「知らない」状態から「新しい知

識を自分で獲得していく」活動がPBLとも言える。

本実践での PBL の場合も、事前にソフトウェア

操作などは教えない。ただ、教材を作るための必

要な知識を獲得する情報源として、「ユニット」

と呼ぶ PowerPoint 等各種ソフトウェアの操作方

法を自学自習形式で学習できる e-Learning コン

テンツを用意した。(図3)。

例えば、「PowerPoint を使用してのアニメーシ

ョ ン 効 果 の あ る Web ペ ー ジ 制 作 」

「HomePageBuilder での動画コンテンツ制作」

「Word での文章を主とした Web ページ制作」など

の学習内容をユニットとし、いつでも学習できる

ように Web で公開した。 学生達はユニットや書

籍、Web ページ、そして教員や TA への質問、メン

バー同士の教え合いなどから知識を習得してい

った。

(4) 教材制作

学生たちは、グループのメンバー同士での議論、

ユニットでの知識の習得を経て、教材の制作をお

こなった。例えば、ある年度で学生が製作した教

材内容は、「生態系」「熱力学の法則」「ビタミン図 2 .グループ学 習 の様 子

図 3. 自 学 自 習 教 材 ユニットの例 (「PowerPoint の

使 い方 」)

Page 4: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

とは」「Webページ製作」などであった(図4)

(表 1)。その中には、掲示板を活用して学習者同

士でコミュニケーションが図れるといった、イン

ターネットの双方向性をうまく活用したものも

あり、多様な教材コンテンツが創作された。

(5) 模擬授業

教材が完成した後、1グループ約15分程度の

模擬授業を実施した(図5)。

模擬授業を実施することで、教材の完成で終わ

りではなく、実際に使用して得られる学習者から

の教材評価や、授業を円滑に進める上での問題と

いった、授業という現場での IT 活用を理解させ

るようにした。つまり、コンテンツ単体での評価

ではなく、教材を使って学習者に学習内容を理解

させるという「問題発見解決の場」での評価を意

識させた。

成績の評価は、1)製作した教材、2)模擬授業、

3)レポート、4)テュートリアル時の観察評価、5)

出席、などを総合的に評価した。

3. 検証

3.1.PBL と PBL 以外の学習効果比較

PBL による教育効果を検証するために、同一科

目で「PBL でおこなった授業」と「PBL でない授

業」との学習効果を比較した。

学習効果の比較は、問題発見、自己学習、情報

リテラシー、対人技能の習得を問うアンケートに

よっておこなった。

PBL PBL 以外

調査日 2004 年 12 月 13 日 2004 年 12 月 15 日

対象者数 25 名 36 名

調査方法 無記名の Web アンケートシステムによる電

子的調査法

具体的には、問題発見解決に関する評価として、

下記表2の項目を調査した。この評価項目は、森

らが看護学におけるPBL教育の評価をおこなった

際に使用した項目を参考に設定した[2]。

たとえば、「問題解決」については、項目

グル

ープ

テーマ 教 材 内 容 使 用 ソフトウェ

ア、IT 技 術

1 生 態 系 食 物 連 鎖 を 中 心 に

生 態 系 に 関 す る 解

説 をおこなう

PowerPo int

2 熱 力 学 の

第 一 法

熱 力 学 の 第 一 法 則

と は 何 か 、 を 図 を 用

いて学 習 する

HomePageBu i l

der、HTML

3 電 池 電 池 の 構 造 、 種 類 、

しくみについて学 ぶ

Flash、HTML

4 ビタミン ビタミンの種 類 、体 と

の関 係 を 幅 広 く学 習

する

PowerPo int

5 Web ペー

ジ作 成

Web ページの制 作 方

法 について概 説 する

HomePageBu i l

der、HTML

6 情 報 A 高 等 学 校 で の 情 報

科 目 「情 報 A」につい

Flash

PowerPo int

図 5.模 擬 授 業 の様 子

図 4. 製 作 した学 習 教 材 の一 部 (生 態

系 ,熱 力 学 第 一 法 則 )

表 1.製 作 した教 材 (一 部 )

Page 5: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

1,2,3,4,16 を 評 価 し 、「 自 己 学 習 」 で は 、

5,6,7,8,17 を評価している。また、「情報リテラ

シー」では、項目 13,14,15、「対人技術」では、

9,10,11,12 を評価した。これらの項目を、各 5

段階(大変そう思う、から、全く思わない)で評

価した。評価項目は、クロンバックのα係数を求

め、その妥当性を検証済みである。

表2.学習効果評価項目

平均値の有意差の検定の結果、「問題発見」「自

己学習」「情報リテラシー」「対人技能」の各項目

において、 PBL での授業の評価が、PBL でない授

業より、有意に高い値(p<0.01)となった(表 3)。

これら学習評価からわかるように、全ての項目

において PBL は、PBL でない授業と比較し、高い

値(5 ポイントに近い)を示している。

3.2.PBL の 3 年間の推移

PBL を実施しているクラスを対象として、2004

年度から 2006 年度前期までの学習評価を調査し

た。グラフからわかるように、全ての項目におい

て高い値(5 ポイントに近い)を示している。また、

2004 年度から 2006 年度まで継続して全ての項目

に対して高い結果が得られている。(図 6)

次に、アンケート 18 項目の中から「問題を発

見し解決する能力が身についたか」「情報技術に

関する知識を習得できたか」「授業に熱心に取り

組んだか」「教育分野における情報技術の活用方

法を理解できたか」の項目を抽出しグラフ化した。

こちらもグラフから分かるように継続して高い

値を示している(図 7)。

評 価 項 目

1 さまざまな角 度 から多 面 的 に問 題 を捉 えようとしたか 54321

2 これまで学 習 し てきた既 習 の知 識 を 活 用 すること ができたか 54321

3 さまざまな疑 問 点 や学 習 項 目 を 発 見 することができたか 54321

4 問 題 を発 見 し 解 決 する能 力 が身 についたか 54321

5 自 己 学 習 に十 分 な時 間 と努 力 を 注 い だか 54321

6 自 らの学 習 意 欲 は高 まったか 54321

7 学 習 計 画 の時 間 配 分 は適 切 であったか 54321

8 自 ら設 定 し た到 達 目 標 を達 成 すること ができたか 54321

9 グループの一 員 とし て問 題 解 決 への建 設 的 な貢 献 を 行 う こと

ができたか 54321

10 自 分 の考 えを他 のメンバーに理 解 し てもらう よう 論 理 的 に説

明 したか 54321

11 メンバーの考 えを 理 解 し ようとしたか 54321

12 自 分 と異 なる意 見 も尊 重 できたか 54321

13 情 報 技 術 に関 する知 識 を習 得 できたか 54321

14 教 育 分 野 における情 報 技 術 の活 用 方 法 を 理 解 できたか 54321

15 ソフトウェアの操 作 技 術 が向 上 したか 54321

16 新 たに習 得 した知 識 や技 術 を 問 題 解 決 (教 材 作 成 )に活 用

できたか 54321

17 授 業 に熱 心 に取 り 組 んだか 54321

18 授 業 に関 する感 想 ・意 見 などがあれば記 述 してください

*各 項 目 を 5 段 階 評 価 してください

評 価 基 準 5 :大 変 そう 思 う 4 :そう 思 う 3 :普 通 2 :そう 思 わ

ない 1 :思 わない

問 題 発 見 解 決 =1 , 2 , 3 , 4 , 1 6 自 己 学 習 =5 , 6 , 7 , 8 , 1 7 情 報 リテラシ学

習 =13 , 1 4 , 1 5 対 人 技 能 =9 , 1 0 , 1 1 , 1 2 ,

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

4.50

5.00

2004前期 2004後期 2005前期 2005後期 2006前期年度

問題解決 自己学習 情報リテラシ能力 対人技能

表 3.PBL と PBL 以 外 での学 習 効 果 の比 較

図 6.2004 年度から 2006 年度前期までの

学習結果

平均値 4.25 4.1 4.17 4.13

標準偏差 0.42 0.51 0.52 0.52

平均値 3.04 3.06 3.23 3.52

標準偏差 0.75 0.73 1.01 0.66

**p<.01

情報リテラシー 対人技能

PBL(n=25)

PBL以外(n=36)

問題発見解決 自己学習項目グループ

** ** ** **

Page 6: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

3.3.学習要素別の分析

次に、2004 年度後期と 2006 年度前期の結果を

元に、各学習要素別の分析を行う。表の縦軸は評

価ポイントで、横軸は回答者である。

(1) 問題発見解決

設問1「さまざまな角度から多面的に問題を捉

えようとしたか」、設問16「新たに習得した知

識や技術を問題解決(教材作成)に活用できたか」

に関しては、両年度共に、大きなばらつきは見ら

れない。ただ、設問2「これまで学習してきた既

習の知識を活用することができたか」は、両年度

共に、低い値を回答した学生が数名見られた。

設問16の結果と、設問2の結果を考えると、

「PBL によって知識を獲得することができたが、

これまで他の授業等で身につけた知識との連携

が上手くいっていない」姿が垣間見える。つまり、

PBL の課題として、既存授業との連携が必要なこ

とがわかる。

設問3「さまざまな疑問点や学習項目を発見す

ることができたか」、設問4「問題を発見し解決

する能力が身についたか」は、2006 年度後期のあ

る特定の学習者が低い値を示している。この学生

は、自己学習の設問に対しても低い回答を行って

いる。この結果から伺えることは、あまり積極的

に PBL に参加せず、グループの誰かの指示によっ

て与えられた担当箇所のみをこなしていた学生

のように思われる。事実、授業では、ごく少数で

あるがいわゆる「フリーライダー」的な学生が見

られた。したがって、教員は、常に、特定の学生

に作業が集中していないか、他人にまかせっきり

になっている学生がいないか、グループの活動を

チェックする必要がある。

(2) 自己学習

設問5「自己学習に十分な時間と努力を注いだ

か」、設問7「学習計画の時間配分は適切であっ

たか」設問8「自ら設定した到達目標を達成する

ことができたか」に関しては、各年度共にばらつ

きが見られる。

その要因として、考えられることは、学生のス

ケジュール管理能力の低さである。15 回の授業の

中で、いつまでにどの程度の作業が完了しておか

なければならないか、といった作業のペース配分

が管理しきれていない様子が見られた。その結果、

図 7.学習効果比較(項目ごと)

4.494.17

4.544.08 3.94

0

1

2

3

4

5

2004前期 2004後期 2005前期 2005後期 2006前期

情報技術に関する知識を習得できたか

3.55

4.173.88 3.96 4.06

0

1

2

3

4

5

2004前期 2004後期 2005前期 2005後期 2006前期

選択肢 問題を発見し解決する能力が身についたか

4.44.58 4.5 4.44 4.39

0

1

2

3

4

5

2004前期 2004後期 2005前期 2005後期 2006前期

授業に熱心に取り組んだか

4.11 4.084.38 4.16 4.18

0

1

2

3

4

5

2004前期 2004後期 2005前期 2005後期 2006前期

年度

教育分野における情報技術の活用方法を理解できたか

Page 7: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

十分な自己学習に時間を費やすことができずに、

コンテンツを完成させることにのみ没頭してし

まう。したがって、ファシリテータである教員は、

各グループの進捗を把握し、作業ペースのアップ

など適切なアドバイスを実施すべきである。

一方、設問6「自らの学習意欲は高まったか」、

設問 17「授業に熱心に取り組んだか」は、平均し

て高い値を得ており、高い学習意欲のもと熱心に

授業へ参加している様子が伺える。

(3) 情報リテラシー

設問 13「情報技術に関する知識を習得できた

か」、設問 14「教育分野における情報技術の活用

方法を理解できたか」、設問 15「ソフトウェアの

操作技術が向上したか」の以上の項目に関しては、

ほとんどの学生が、できたと回答している。つま

り、課題を解決するために必要な IT ツールを自

分たちで選択し、その使い方を学び、理解する、

というプロセスが成立していたものと思われる。

今回、ソフトウェア操作を自学自習で学べる学習

コンテンツを提供したが、ほとんどの学生が使用

していた。PBL では、必要な知識を得るための情

報源が必要である。つまり、書籍や e-Learning

教材など、「適切な情報源」を豊富に用意してお

くことが PBL 成功のポイントとなる。

(4)対人能力

設問 9「グループの一員として問題解決への建

設的な貢献を行うことができたか」、設問 10「自

分の考えを他のメンバーに理解してもらうよう

論理的に説明したか」、設問 11「メンバーの考え

を理解しようとしたか」、設問 12「自分と異なる

意見も尊重できたか」、の対人コミュニケーショ

ンに関する設問に関しても、ほぼ全員が高い回答

をしている。これは PBL を進めるには、好き嫌い

にかかわらず、他者との意見交換や討論が組み込

まれることによるものである。

図 9.問題発見解決―2006 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33

設問1:さまざまな角度から多面的に問題を捉えようとしたか

設問2:これまで学習してきた既習の知識を活用することができたか

設問3:さまざまな疑問点や学習項目を発見することができたか

設問4:問題を発見し解決する能力が身についたか

設問16:新たに習得した知識や技術を問題解決(教材作成)に活用できたか

図 8.問題発見解決―2004 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25設問1:さまざまな角度から多面的に問題を捉えようとしたか

設問2:これまで学習してきた既習の知識を活用することができたか

設問3:さまざまな疑問点や学習項目を発見することができたか

設問4:問題を発見し解決する能力が身についたか

設問16:新たに習得した知識や技術を問題解決(教材作成)に活用できたか

図 10.自己学習-2004 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25

設問5:自己学習に十分な時間と努力を注いだか

設問6:自らの学習意欲は高まったか

設問7:学習計画の時間配分は適切であったか

設問8:自ら設定した到達目標を達成することができたか

設問17:授業に熱心に取り組んだか

図 11.自己学習-2006 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33

設問5:自己学習に十分な時間と努力を注いだか

設問6:自らの学習意欲は高まったか

設問7:学習計画の時間配分は適切であったか

設問8:自ら設定した到達目標を達成することができたか

設問17:授業に熱心に取り組んだか

Page 8: PBL学習効果の検証 IS研究会 20070315skaneda/200703IS_inoue.pdfPBL情報教育の学習効果の検証 井上 明 甲南大学 情報教育研究センター 概 要 本研究は、PBL

また、感想や意見の一部は表4のとおりである。

このように、戸惑いや疑問を克服していくプロセ

スから、知識獲得の充実感を得る。また他者との

コミュニケーションを進めながら、課題解決力や

IT スキルなど幅広い知識を獲得していった。

ただし、他者への依存性の高い学生への対応や、

スケジュール管理や適切な情報源の確保など、

PBL を円滑に進めるための学習環境などについて

は今後も検討が必要である。

表4.PBL 受講生の感想

4. まとめ

本研究では、PBL の手法を用い、問題発見解決

能力の育成と IT 技術の習得をおこなう情報教育

をおこなった。その結果、学生は PBL によって、

課題解決に興味を持って取り組み、熱心な授業参

加意識のもと、問題解決力、自己学習、対人コミ

ュニケーション、情報リテラシー、に関する知識

やスキルを獲得した。また、PBL でない授業に比

べ、学習効果に有意な差が見られた。3年間継続

して PBL の学習効果が高い値を示し、PBL 手法の

有効性が認められた。

参 考 文 献

[1] 井上明,「PBL による情報教育-実績 3 年目の評価」, 全国大学IT 活用教育方法研究発表会,私立大学情報教育協会,2007 [2] 森美智子、長井美穂、本間千代子、谷岸悦子、木村恭子、中川禮子、『看護学における問題基盤型学習(PBL)を用いたテュートリアル教育の教育(8)』、日本赤十字武蔵野短期大学紀要 14 号、2001

正直なところこの講義で使用するための教材を作るために、ネ

ット上、教科書、資料集等を駆使して教材研究をするのは、大

変でした。ですが最後まで何とかやりとおしてみてほんの少し

かもしれないが情報機器の操作において、知識が増え技術面で

もスキルアップできたと思います。

このような授業形式は今までなく、最初は戸惑いましたが、自

分で考えて自分のペースで進めていけるので授業自体はとて

も受けやすかったです。すべてを自分たちで決めて自分の役割

を決められた期間に果たすという、いわば社会に出てからも役

立つ授業だと思いました

すごく楽しい授業でした。大学でこんなに授業を楽しみに、待

ち遠しく思ったのは初めてです。グループの仲間と自らの力で

何かひとつのことをやりとげられてとてもうれしく思います。

自分が動かなければ進まないのでやりがいがすごく感じられ

る授業でした。自分もこんな達成感のある授業がしてみたいで

す。

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25設問13:情報技術に関する知識を習得できたか

設問14:教育分野における情報技術の活用方法を理解できたか

設問15:ソフトウェアの操作技術が向上したか

図 12.情報リテラシー-2004 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33

設問13:情報技術に関する知識を習得できたか

設問14:教育分野における情報技術の活用方法を理解できたか

設問15:ソフトウェアの操作技術が向上したか

図 13.情報リテラシー-2006 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25設問9:グループの一員として問題解決への建設的な貢献を行うことができたか

設問10:自分の考えを他のメンバーに理解してもらうよう論理的に説明したか

設問11:メンバーの考えを理解しようとしたか

設問12:自分と異なる意見も尊重できたか

図 14.対人能力-2004 年度後期

図 15.対人能力-2006 年度後期

0

1

2

3

4

5

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33

設問9:グループの一員として問題解決への建設的な貢献を行うことができたか

設問10:自分の考えを他のメンバーに理解してもらうよう論理的に説明したか

設問11:メンバーの考えを理解しようとしたか

設問12:自分と異なる意見も尊重できたか