r6-01図-3 地下水位h w の経時変化 図-4 地表面変位δsd の経時変化 図-5...

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-1 模型実験の概要図 -1 模型斜面の初期物性値 -2 降雨履歴 0.6m 0.4m WL06 (GL-1.15m) WL05 (GL-1.15m) WL04 (GL-1.15m) WL02 (GL-0.95m) WL01 (GL-0.81m) SD05 (GL-0.0m) 排水層 水位計 WL 伸縮計 SD 通水 装置 WL07 (GL-1.0m) WL03 (GL-1.15m) SD04 (GL-0.0m) SD03 (GL-0.0m) SD02 (GL-0.0m) SD01 (GL-0.0m) [unit: m ] 土留め壁(高さ30㎝, 下部に排水弁を設置) 地点A (SD03, WL04) 地点B (SD04, WL05) 粒度 土粒子密度 透水係数 含水比 湿潤密度 乾燥密度 D[mm] ρS [g/cm 3 ] k 15[cm/s] ωave[%] ρsat [g/cm 3 ] ρd [g/cm 3 ] D10=0.3 D30=0.4 D60=1.8 2.643 5.0×10 -3 (ρd=1.600g/cm 3 ) ωave=8.6 (ρsat)ave=1.740 (ρd)ave=1.602 0 200000 400000 600000 800000 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 時間降雨量(mm/h) 時間 (s) 時間降雨量 通水量(時間降雨量に換算) 累積降雨量 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 累積降雨量(mm) Ev01 Ev02 Ev03 EV04 Ev05 Ev06 崩壊 降雨量 通水量 累積降雨量 降雨履歴に伴う地下水位変動と斜面変位の関係について (独) 防災科学技術研究所○石澤友浩 高知大学 笹原克夫 (独) 防災科学技術研究所 酒井直樹 (独) 防災科学技術研究所 福囿輝旗 1 はじめに 降雨時斜面の土中の水分挙動は,せん断応力の増加やせん断強 度の減少など,斜面の不安定化に影響を及ぼす.そのため,降雨 による土中の水分挙動と変位挙動の両者の関係を把握すること が,斜面の不安定化を正確に検知できると考えられる.この水分 挙動と変位挙動に関係について,鈴木ら 1) ,笹原ら 2) の研究では, 降雨時斜面の土内におけるサクションと体積含水率の繰り返し 載荷に伴うせん断ひずみの降伏と降伏値以上になった時の増加 について明らかにしている. そこで,本研究は土内の地下水位変動に伴う斜面変位を検討す るために,大型模型実験をおこなった.この実験では降雨や斜面 上部からの通水によるマサ土斜面の地下水位と地表面変位を計 測した.本稿では,地下水位の変化に伴う斜面の地表面変位の関 係について検討した. 2 実験概要 図-1 は模型斜面の概要図を示している.模型斜面の形状は,傾 斜部が斜面長 10m,幅 3.9m,深さ 1.15m,斜面傾斜角 30°,天 端が長さ 0.8m,幅 3.9m,深さ 1m である.土槽の底面は突起の あるモルタル製,側面は鋼製である.また,この模型斜面の下流 には,下部に排水管を有する高さ 30cm の土留め壁を設置した. また,斜面末端部での斜面表面への湧水を防ぐために,斜面末端 部の下層は砕石を用いた排水層となっている.さらに,土槽底面 に一定量の水を通水できる装置を斜面天端に設置している. 試験試料はマサ土(茨城県笠間産)を用い,物理特性を表-1 に示している.模型斜面の作成方法は,乾燥密度が均一となるよ うに層厚 20 ㎝毎に湿潤密度ρ sat ,含水比ωを確認しながら,人力 による締め固めで作成した(平均含水比ω ave ,平均密度(ρ) ave 表-1 に示している).また,計測機器の設置は,上記作業と同時 におこなった. この実験の降雨条件は,同一模型斜面に 6 回の履歴(Ev0106) を与えた実験をおこなった. 図-2 は,本実験の履歴(時間降雨量 と累積降雨量)を示している.履歴 1, 2 は降雨(時間降雨量 15, 30mm/h)を与え,履歴 35 は斜面上部からの通水をおこなった. 通水量は 50, 100ml/s であり,斜面の表面積を用いてこの通水量を時間降雨量に換算すると,それぞれ約 4.7, 9.5mm/h である.図中に示す通水量は時間降雨量に換算した結果を示している.最後の履歴 6 は,約 24 時間の通水により, 斜面底面に平行な約 20 ㎝の地下水面が見られてから,時間降雨量 40mm/h の降雨を与え,崩壊が生じるまで続けた. 本稿では, 6 回の履歴の期間における図-1 に示す斜面中腹部の地点 A, B の地下水位 H W (水圧式水位計 WL04, 05と地表面変位δ SD (インバー線式伸縮計 SD03, 04)の計測結果について検討する. 3 実験結果 図-3 は,地点 A, B における履歴 0106 の斜面崩壊が生じるまでの地下水位 H W の経時変化を示している.同図 より,初期降雨(EV01)では地下水位の上昇は見られなかったが,履歴 02 以降は地下水位の変動が見られた.次に同 図の各履歴の最大地下水位に着目すると,崩壊が生じた履歴 6 の最大地下水が高いことは明瞭であるが,履歴 25 では履歴 3 が最も高いことがわかる.また,この傾向は地点 A,B ともに同じであった. R6-01 - 308 -

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  • 図-1 模型実験の概要図 表-1 模型斜面の初期物性値

    図-2 降雨履歴

    0.6m0.4m

    WL06(GL-1.15m)

    WL05(GL-1.15m)

    WL04(GL-1.15m)

    WL02(GL-0.95m)

    WL01(GL-0.81m)

    SD05(GL-0.0m)

    排水

    水位計WL伸縮計 SD

    通水装置

    WL07(GL-1.0m)

    WL03(GL-1.15m)

    SD04(GL-0.0m)

    SD03(GL-0.0m)

    SD02(GL-0.0m)

    SD01(GL-0.0m)

    [unit: m ]

    土留め壁(高さ30㎝,下部に排水弁を設置)

    地点A(SD03,WL04)

    地点B(SD04,WL05)

    粒度 土粒子密度 透水係数 含水比 湿潤密度 乾燥密度

    D [mm] ρS [g/cm3] k 15[cm/s] ωave[%] ρsat [g/cm3] ρd [g/cm3]

    D 10=0.3D 30=0.4D 60=1.8

    2.643 5.0×10-3

    (ρd=1.600g/cm3)

    ωave=8.6 (ρsat)ave=1.740 (ρd)ave=1.602

    0 200000 400000 600000 8000000

    5

    10

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    時間

    降雨

    量(m

    m/h)

    時間 (s)

    時間降雨量 通水量(時間降雨量に換算) 累積降雨量

    0

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    350

    400

    450

    500

    550

    累積

    降雨

    量(m

    m)

    Ev01 Ev02 Ev03 EV04 Ev05 Ev06 崩壊

    降雨量

    通水量

    累積降雨量

    降雨履歴に伴う地下水位変動と斜面変位の関係について

    (独) 防災科学技術研究所○石澤友浩

    高知大学 笹原克夫

    (独) 防災科学技術研究所 酒井直樹

    (独) 防災科学技術研究所 福囿輝旗

    1 はじめに

    降雨時斜面の土中の水分挙動は,せん断応力の増加やせん断強

    度の減少など,斜面の不安定化に影響を及ぼす.そのため,降雨

    による土中の水分挙動と変位挙動の両者の関係を把握すること

    が,斜面の不安定化を正確に検知できると考えられる.この水分

    挙動と変位挙動に関係について,鈴木ら 1),笹原ら 2)の研究では,

    降雨時斜面の土内におけるサクションと体積含水率の繰り返し

    載荷に伴うせん断ひずみの降伏と降伏値以上になった時の増加

    について明らかにしている. そこで,本研究は土内の地下水位変動に伴う斜面変位を検討す

    るために,大型模型実験をおこなった.この実験では降雨や斜面

    上部からの通水によるマサ土斜面の地下水位と地表面変位を計

    測した.本稿では,地下水位の変化に伴う斜面の地表面変位の関

    係について検討した. 2 実験概要

    図-1は模型斜面の概要図を示している.模型斜面の形状は,傾

    斜部が斜面長 10m,幅 3.9m,深さ 1.15m,斜面傾斜角 30°,天端が長さ 0.8m,幅 3.9m,深さ 1m である.土槽の底面は突起のあるモルタル製,側面は鋼製である.また,この模型斜面の下流

    には,下部に排水管を有する高さ 30cm の土留め壁を設置した.また,斜面末端部での斜面表面への湧水を防ぐために,斜面末端

    部の下層は砕石を用いた排水層となっている.さらに,土槽底面

    に一定量の水を通水できる装置を斜面天端に設置している. 試験試料はマサ土(茨城県笠間産)を用い,物理特性を表-1

    に示している.模型斜面の作成方法は,乾燥密度が均一となるよ

    うに層厚 20 ㎝毎に湿潤密度ρsat,含水比ωを確認しながら,人力による締め固めで作成した(平均含水比ωave,平均密度(ρ)ave を 表-1 に示している).また,計測機器の設置は,上記作業と同時におこなった.

    この実験の降雨条件は,同一模型斜面に 6 回の履歴(Ev01~06)を与えた実験をおこなった.図-2は,本実験の履歴(時間降雨量

    と累積降雨量)を示している.履歴 1, 2 は降雨(時間降雨量 15, 30mm/h)を与え,履歴 3~5 は斜面上部からの通水をおこなった.通水量は 50, 100ml/s であり,斜面の表面積を用いてこの通水量を時間降雨量に換算すると,それぞれ約 4.7, 9.5mm/hである.図中に示す通水量は時間降雨量に換算した結果を示している.最後の履歴 6 は,約 24 時間の通水により,斜面底面に平行な約 20㎝の地下水面が見られてから,時間降雨量 40mm/hの降雨を与え,崩壊が生じるまで続けた.

    本稿では,6 回の履歴の期間における図-1に示す斜面中腹部の地点 A, B の地下水位 HW(水圧式水位計 WL04, 05)と地表面変位δSD(インバー線式伸縮計 SD03, 04)の計測結果について検討する. 3 実験結果

    図-3は,地点 A, B における履歴 01~06 の斜面崩壊が生じるまでの地下水位 HWの経時変化を示している.同図より,初期降雨(EV01)では地下水位の上昇は見られなかったが,履歴 02 以降は地下水位の変動が見られた.次に同図の各履歴の最大地下水位に着目すると,崩壊が生じた履歴 6 の最大地下水が高いことは明瞭であるが,履歴 2~5では履歴 3 が最も高いことがわかる.また,この傾向は地点 A,B ともに同じであった.

    R6-01

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  • 図-3 地下水位 H W の経時変化

    図-4 地表面変位 δSDの経時変化

    図-5 地下水位 H W と地表面変位 δSDの関係

    0 200000 400000 600000 8000000

    10

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    地下

    水位

    HW (

    cm

    )

    時間 (s)

    WL04 :地点A WL05 :地点B

    Ev01 Ev02 Ev03 EV04 Ev05 Ev06 崩壊

    地点A

    地点B

    0 200000 400000 600000 8000000

    1

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    3

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    地表

    面変

    位δ

    SD (

    cm

    )

    時間 (s)

    SD03 :地点A SD04 :地点B

    Ev01 Ev02 Ev03 EV04 Ev05 Ev06 崩壊

    地点B

    地点A

    0 1 2 3 4 5 60

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    地下

    水位

    HW(c

    m)

    地表面変位δSD

    (cm)

    WL04 :地点A WL05 :地点B 崩壊

    崩壊

    Ev01 開始

    Ev02開始

    Ev03開始

    Ev04開始

    Ev05,6開始

    地点B

    地点A

    図-4は,地点 A, B における崩壊に至るまでの地表面の累積変位δSDの経時変化を示している.同図より,2 地点の地表面変位δSDは,履歴 2, 3 では明瞭な増加が見られるが,履歴 4,5 での変位δSDは僅かである.また,履歴 6の崩壊直前では累乗的な変位δSDの増加が見られ,崩壊に至ったことがわかる. 図-5は,図-3,4の計測結果より地下水位 HWと地表面変位δSDの関係を示している.また,同図には各履歴の開

    始点も示している.同図より,履歴 01 では水位の増加が見られないが地表面変位が僅かに増加し,次の履歴 02 では地下水位が約 30 ㎝まで見られ,地表面変位が顕著に増加していることがわかる.また,地下水 HWの減少が始まると,変位δSD は僅かである.次に,履歴 3 では,地下水位 HW が履歴 02 の最大地下水を超えると,地表面変位 δSDが生じることがわかる.しかし,次の履歴 4, 5 では,地下水位 HWの上昇は見られるが,地表面変位が僅かであった.特に履歴 5 では,地下水位 HWの変動はあったが変位δSD が生じず,同図の履歴開始点が示すように履歴5, 6 の履歴開始点は同じであった.次に崩壊が生じた履歴 6 では,斜面上部からの通水により斜面底面に平行な約20 ㎝の地下水面を確認できたが,変位δSDは生じなかった.その後,通水を続けながら,時間降雨量 40mm/h の散水を行い,履歴 3 の最大地下水位を超えてから変位δSDが生じ始まり,崩壊に至ったことがわかる.また同図の地下水位と地表面変位の傾き HW/δSD が緩やかになると崩壊に至ることがわかる.この本稿の地表面変位と地下水位の関係は,既往の研究 1,2)が指摘しているサクションや体積含水

    率の繰り返し載荷に伴うせん断ひずみの関係と同様な傾向を示

    している. 以上より,図-5に示すように斜面内の地下水位 HWの変動によ

    る繰返し載荷により,地下水位 HWと地表面変位δSDの関係には降伏点が見られ,この降伏点を超えない場合には変位が生じない.

    逆に,超えた場合には,降伏点が地下水位に伴い増加し,ひずみ

    硬化現象に似た関係が見られ,最終的に崩壊に至ることがわかっ

    た.つまり,履歴情報から斜面内と水分と変位の関係や降伏点を

    推測することができれば,斜面崩壊の事前予測に利用できること

    が期待できる. また,本実験では地下水を変動させるために降雨と通水の異な

    る 2 種類の方法を用いたが,どちらも最大地下水位を超えた場合には変位が進行することがわかった.現地でモニタリングを行う

    際には, 本実験の通水のように,降雨後にしばらく時間を経てから地下水が急激に上昇する場合が考えられる.降雨時中の斜面変

    動に着目するだけでなく,降雨後の地下水位の増加にも注意する

    ことが必要である. 4 まとめ

    理想化された模型斜面の降雨実験の結果ではあるが以下の知

    見を得た. ・斜面内の地下水の変動により,地表面は変動することがわかっ

    た. ・斜面内の地下水位 HWの変動による繰返し載荷により,地下水位 HWと地表面変位δSDの関係には降伏点が見られる.

    ・この降伏点を超えない場合には変位が生じない.逆に,超えた

    場合には,降伏点が地下水位に伴い増加し,ひずみ硬化現象に

    似た関係が見られた. ・地下水位と地表面変位の傾き HW/δSDが緩やかになると,最終的に崩壊に至ることがわかった.

    参考文献

    1) 鈴木大健,内村太郎,可児健:斜面の水分量と変位の計測を併用した崩壊危険性のリアルタイム判定手法,第 46 回地盤工学研究発表会, pp.1000-1001, 2011.

    2) K. Sasahara and N. Sakai : Shear strain development and pore pres-sure distribution under repeated rainfall, 2nd International Confer-ence on Transportation Geotechinics, IS-Hokkaido,2012.(submitted)

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