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立教大学社会学部メディア社会学科 木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書 2018 年 7 月

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立教大学社会学部メディア社会学科

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

2018 年 7 月

立教大学社会学部メディア社会学科

目 次

はじめに ............................................................................................................................ 1

2017 年度・木村ゼミの主な活動 ...................................................................................... 3

第 I 部 卒業論文に向けた調査研究レポート ...................................................................... 5

Instagram の利用拡大による若者の消費行動と消費に対する価値観の変化 .................... 6

コミュニケーション、その移り行くツール .................................................................... 20

横浜 Dena ベイスターズから見るファンコミュニティー形成におけるマーケティングと

メディア・コミュニケーションの関係について ............................................................. 46

大学生の流行における記号的消費とインフルエンサーの影響力 .................................... 57

オンラインメディアによって子どもの未来はどう変わるか ........................................... 70

消費に関する価値観に SNS はどのような影響を及ぼしているのか .............................. 78

現代の若者の SNS における自己 .................................................................................... 89

インターネットの普及と衣服購買の意識 ...................................................................... 104

若者における SNS の利用頻度と人間関係の満足度について ....................................... 117

Instagram が与えた影響力と SNS 観光地に潜む問題点 .............................................. 132

ビジュアルコミュニケーションの変容 ......................................................................... 152

Twitter 上でのコミュニケーションの意義 ................................................................... 165

~SNS 利用状況・リア充アピール投稿に焦点を当てて~ ............................................ 180

スポーツ番組と Twitter ................................................................................................ 199

在日へのヘイトスピーチで構成されるオンラインコミュニティ .................................. 216

インターネット利用は子どもたちを「ダメ」にするのか ............................................. 229

スマホと食べる。~現代における孤食~ ...................................................................... 246

オンラインコミュニティによる社会問題の解決〜恋愛と自殺〜 .................................. 261

第 II 部 社会調査分析レポート ...................................................................................... 278

大学生の Instagram 利用とブランド意識 .................................................................... 279

SNS は「コミュ障」を加速させたのか ........................................................................ 288

SNS 利用と趣味 ............................................................................................................ 296

大学生における消費の流行についての情報発信と情報取得の分析 .............................. 303

インターネット利用は若者を「ダメ」にするのか ....................................................... 311

SNS の利用と価値観の関係性について ........................................................................ 317

Twitter における自己 ................................................................................................... 323

Instagram 利用と消費行動の関連性 ............................................................................ 336

LINE におけるコミュニケーションの変化 ................................................................... 346

消費行動における発信者の意識の違い ......................................................................... 352

デジタルメディアが与えたビジュアルコミュニケーション ......................................... 358

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

公式リツイートに対するユーザーの意識、空コメントの実態 ...................................... 363

「リア充アピール」をする投稿者にもたらされる精神面の影響 .................................. 370

若者の情報獲得実態~インターネットは「能動的」ツールか ...................................... 379

2017 年における現実の経験と不安感の乖離および不安感と相関のある属性について 392

「インターネット利用は若者を『ダメ』にするのか」 ................................................ 398

現代日本における「孤食」と「つながり」の関係性について ...................................... 404

口コミサイトの情報に対するデジタルネイティブたちの意識 ...................................... 410

第 III 部 社会調査質問票(単純集計付) ....................................................................... 418

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

1

はじめに

本冊子(ファイル)は、立教大学社会学部メディア社会学科木村忠正ゼミ 2017 年度「専

門演習 2」報告書である。「専門演習 2」は、3 年次のゼミであり、通年科目として展開され

る。わたしにとっては、立教大学社会学部に着任して 3 年目のゼミであり、ゼミ生たちは、

第 3 期生となる。ただ、小職自身は、上下関係をあまり好まないため、「第・期」という言

い方よりも、「木村ゼミ 2015」という言い方を基本としており、本報告書は、「木村ゼミ 2017」

の学生たちによる、「2017 年度専門演習 2 報告書」である。

本ゼミは「メディア・コミュニケーション」を中核的主題としており、小職が着任した

1995 年度当初から、ゼミ生たちは、高校からスマホを利用し始めた世代として、LINE、

twitter、Instagram などの SNS に強い関心を抱いている。「デジタルネイティブ」たちの

情報ネットワーク行動、とりわけ SNS 利用を研究主題の一つとしている担当者にとって、

ゼミ生たちとの出遭いは、楽しく、教えられるところの多いものであり、木村ゼミ 2017 生

たちも例外ではなかった。とくに、Instagram の普及が目覚ましく、ゼミ生たちは、社会調

査において、積極的に新たな質問を工夫し、分析に取り組んでくれた。

ゼミ活動は、ソロ活動とグループ活動、文献にもとづく議論と社会調査などのデータにも

とづく議論、いずれも大切にし、各人の得手不得手、関心のあり方で、強弱がつけられるよ

うに配慮し、構成された。具体的には、大別して、以下の 5 種類の活動を展開した。

A. インターネット研究、CMC 研究の基礎的文献読解

B. 「現代社会におけるデジタルネイティブたちのメディア・ネットワーク利用に関す

る調査研究」という大きな枠組で、既存の調査研究にもとづき、各自具体的な調査研

究課題を設定し、レポートを作成

C. 卒業論文に向けた研究課題の設定、先行研究サーベイ、議論の組み立て

D. ゼミ合宿(2017 年 9 月)

E. 立教大学生を対象とした社会調査の立案、実施、データ入力、整理、分析

A、B は、4 名からなる 5 グループに分かれて行った。A の活動を通してグループでディ

スカッション、知識を共有しながら、B の活動に向けて、各自問題意識、関心を明確化した。

それを受け、B の活動では、各メンバーの関心を摺り合わせ、グループ毎に一定のテーマを

設定し、個別にレポートを作成することを目指した。

就職活動が、4 年生の春学期の学業に大きな影響を及ぼす傾向にあることを踏まえ、3 年

生の初期段階から、A、B の活動と並行し、それを活かしながら、卒業論文に向けた研究課

題の具体化と取り組みを積極的に推奨した。C の活動として、秋のゼミ合宿、秋学期終盤で

研究計画、進捗報告のプレゼンを行い、学年末にレポートとしてとりまとめた。

E は、本ゼミとして、2015 年度から取り組んでいる主要な活動の柱である。2017 年度

は、15、16 年度の質問票を基礎としながら、Instagram の急速な普及などの新たな動向、

ゼミ生たちの関心にもとづき、検討、設計、実施、分析を行った。ゼミ生たちは、その主た

立教大学社会学部メディア社会学科

2

る関心から、①消費行動、②口コミ流行、③教育、④SNS・社会心理、⑤社会・関係性、の

5 ユニットに分かれ、質問票を検討、作成した。また、2017 年度は、Google Form を利用

して作成し、小職が担当する「メディア・コミュニケーション論」受講者たちに回答を依頼

する形態を初めて試みた。幸い、作成、回答とも順調に進み、回答されたアンケートデータ

にもとづき、ゼミ生たちは、ユニット毎に分析を行い、 後の授業において、その結果をプ

レゼンテーションし、その後、各自がそれぞれに分析レポートを完成させた。アンケートに

回答してもらった「メディア・コミュニケーション論」受講者の皆さんに、この場を借りて、

お礼を申し上げたい。

本報告書は、上記のような活動から、C、E の活動によるレポートと、E の調査票を単純

集計とともにまとめたものである。不十分な点が多いことはたしかだが、学生たちの知的成

長と関心をうかがうことができるとともに、社会調査は、立教生の現在を知る上で、多くの

方にとって参考になるものと思う。今回で 3 年目であり、関心のある方は、是非、2015、

2016 の報告書に掲載された集計表と比較してみていただきたい。

2018 年 7 月

木村忠正

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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2017 年度・木村ゼミの主な活動

4 月~9 月 基礎調査分析

5 月~翌年 2 月 卒論準備プロジェクト

6 月~翌年 2 月 社会調査実施プロジェクト

9 月 ゼミ合宿

<基礎調査分析>

1 グループ 4 人程度の小グループに分けられ、アンケート調査、テキスト分析、フィールド

調査などの基礎調査分析に取り組みました。具体的には「SNS アカウントの使い分けにつ

いて」「人々の行動と他者との関係について」「既読スルーについて」「SNS の複数利用とそ

の背景について」「デジタルネイティブにおけるスマホアプリ利用について」の 5 つのグル

ープに分かれて調査しました。

<卒論準備プロジェクト>

4 年生の 12 月には提出する卒業論文の準備を、早い段階から始めました。これは基礎調査

分析や社会調査実施プロジェクトとは異なり、個人で行うプロジェクトです。3 年生終わり

までに 1 万字書くことを目標に励みました。

<社会調査実施プロジェクト>

基礎分析調査とは異なるグループ(問題関心の近い人同士で構成されたグループ)で、木村

ゼミ全体で毎年行っている社会調査の質問票を作成しました。また、質問票とは別に、実際

に行われた調査の結果をまとめたレポートも各グループで作成しました。

<ゼミ合宿>

今年度のゼミ合宿は河口湖で行われました。主な学習内容としては、基礎調査分析、社会調

査実施プロジェクトの各グループごとのプレゼンテーションと、卒論準備プロジェクトの

各自個人のプレゼンテーションを行いました。各プレゼンテーションの後、一つ上の代の先

輩方を交えてのディスカッションも行いました。また、学習時間外では花火やバーベキュー

などで、学年を超えた交流を盛んに行いました。

立教大学社会学部メディア社会学科

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<一年間のゼミ活動を通して>

学習内容としては個人・グループの両面での活動があることで、個人としての力のみなら

ずチームとしての力も育まれました。そのような環境が整っているため、自然にゼミ生間の

仲も深まり、学習活動外で様々なレクリエーションや誕生日パーティなどを定期的に行っ

ています。

何よりも、木村教授がゼミ生にとっての父のような存在であることが、居心地の良いゼミ

になっている秘訣だと思います。教授は私たちのレポートやプレゼンに対して厳しいフィ

ードバックを行うこともあれば、ゼミ内の飲み会に喜んで参加してくださる一面もありま

す。

そのような教授の元、ゼミ生一同、学業も学習活動外での交流も全力で取り組んでおりま

す。恵まれた環境に感謝しつつ、残りのゼミ活動も悔いのないものにしたいと考えておりま

す。

木村ゼミ第 3 期生ゼミ長 田中匠

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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第 I 部 卒業論文に向けた調査研究レポート

立教大学社会学部メディア社会学科

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Instagram の利用拡大による若者の消費行動と消費に対する価値観

の変化

要旨

ここ数年で消費に機能面以外の価値を求める行為が増えてきていると感じている。例え

ば「おしゃれなカフェに行き、写真映えするが値段は高いスイーツを食べる」「全身コスプ

レをしてテーマパークで写真を撮る」などの行為があげられるだろう。その背景として考え

られるもののひとつに、SNS の存在があると感じる。特に従来のテキスト中心の SNS と異

なり、ビジュアルとして他人の視覚に訴えかけ、他人に見られることを想定している要素が

強い Instagram の影響は大きいのではないか。実際飲食店は「インスタ映え」を狙ったメ

ニューを増やしたり、「インスタ映え」をコンセプトにしたイベントが各地で多数開催され

たりしている。また 2017 年の流行語に「インスタ映え」という言葉が選ばれ、Instagram

の普及が社会的に話題になったことは記憶に新しい。そこで本研究では Instagram 利用拡

大による若者の消費行動及び消費に対する価値観の変化について分析する。また他人から

見られ、時に社会関係を形成する媒体にもなる Instagram、との関連性を見ることで、消費

を通した他者とのコミュニケーション、社会的関係の築き方も明らかにしていきたい。

キーワード:Instagaram、つながり消費、同調消費、差異消費、インスタ映え、価値

1 はじめに

1-1 主題

本研究では Instagram 利用拡大による若者の消費行動及び消費に対する価値観の変化に

ついて分析する。また他人から見られ、時に社会関係を形成する媒体にもなる SNS との関

連性を見ることで、消費を通した他者とのコミュニケーション、社会的関係の築き方も明ら

かにしていきたい。

1-2 問題意識

一般に「嫌消費」や「消費離れ」など、近年の若者の消費状況に対して消極的な用語で

語られることが多いように感じる。またファストファッションの流行や宅飲みの増加な

ど、お金をかけないで楽しむという消費の仕方も増えている。その一方で、特にここ数年

で消費に機能面以外の価値を求める行為も増えてきていると感じている。例えば「おしゃ

れなカフェに行き、写真映えするが値段は高いスイーツを食べる」「全身コスプレをして

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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テーマパークで写真を撮る」などの行為があげられるだろう。なぜここ 近お金を使うこ

とに消極的と言われる若者が、このような機能面以外の欲を満たすような消費行動をとる

ようになったのか。その背景として考えられるもののひとつに、SNS の存在があると感じ

る。特に従来のテキスト中心の SNS と異なり、ビジュアルとして他人の視覚に訴えか

け、他人に見られることを想定している要素が強い Instagram の影響は大きいのではない

か。実際飲食店は「インスタ映え」を狙ったメニューを増やしたり、「インスタ映え」を

コンセプトにしたイベントが各地で多数開催されたりしている。また 2017 年の流行語に

「インスタ映え」という言葉が選ばれ、Instagram の普及が社会的に話題になったことは

記憶に新しい。そこで Instagram の利用拡大によって若者の消費行動や消費に関する価値

観はどのように変化したのかと疑問に感じたのが本研究の始まりである。

2 先行研究

2-1 AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議 「20 代女子が自ら解説 インスタ世代の

行動指標“インスタジェニック”」(2018 年 2 月 13 日最終閲覧)

近年言語系メディア(Facebook や Twitter)から非言語メディア(Instagram や

MixChannel)への移行が特に顕著である。その要因としては、文字や言葉を認識する左

脳よりも、視覚など五感を認識する右脳の方が、処理速度が 6 万倍早いと言われており、

ソーシャルメディアネイティブ層にはそうしたスタイルの方が好まれているからと考えら

れているからだという。

この Instagram には大きく 3 つの特徴がある。1 つめは写真を加工してアップするだけ

というシンプルな点、2 つめは写真によってコミュニケーションがとれるため、言語を必

要とせずグローバルに活用ができるという点、3 つめは画像にリンクが貼れず、サービス

内の拡散機能も持たないクローズドな点である。

そしてこの Instagram の利用において重要になってくるのが“インスタジェニック”と

いう価値観である。インスタジェニックとは、「Instagram 上で映えるモノやコト」とい

う意味で使われる。具体的に言うと、色彩豊かで単純に写真映えするモノやコト(図 1)

と、“リア充 ”アピールできるモノやコト(図 2)という 2 種類がある。後者の例として

はカラーランやバブルランなどの「◯◯ラン」があげられる。走るだけならば市民マラソ

ンに出ればいいが、これらの流行の背景には、「自分にはこんなに友達がいて、こんなに

楽しく生活している」とアピールをしたいという心情がある。つまりインスタ世代にとっ

て、Instagram にアップした写真は自分自身を表現するものであり、「こういう世界に私

は所属している」という自己顕示欲求の表れだという。そしてこのインスタジェニックと

はただの価値観ではなく、インスタ世代における購買や行動に直結する行動指標にもなっ

ているのだ。(石井、2015 年の言及を要約)

立教大学社会学部メディア社会学科

8

図 1 インスタジェニック①写真映えするケース

(出典:https://www.advertimes.com/20151028/article207914/)(2018 年 2 月 14 日最終

閲覧)

図 2 インスタジェニック②リア充アピールできるケース

(出典:https://www.advertimes.com/20151028/article207914/)(2018 年 2 月 14 日 終

閲覧)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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2-2 電通報「『SNS 映え』の分析から見えてくる若者の情報行動『シミュラークルモ

デル』」(2017 年 2 月 13 日最終閲覧)

数年前まではブログなど言葉で思いをつづる「日記型」が主流であったが、近年は写真

や動画を用いた「アルバム型」が主流になってきている。その際投稿時に写真に添えられ

る言葉には真の感情(特に負の感情)は語られず、端的な事実のみが記されている。これ

は「空気を読む」時代に生まれ育った若者ならではの受け手を配慮する側面とも捉えられ

る。そうした一面が反映されている象徴的な事例が「言い訳ハッシュタグ」(図 3)であ

る。これは Instagram などでリア充感のあふれる写真を載せながらも、空気を読んだ等身

大のコメントを“落ち”としてハッシュタグにして投稿する行為である。

図 3 言い訳ハッシュタグ

(出典:https://backyard.imjp.co.jp/articles/sakata_hashtag)(2018 年 2 月 14 日最終閲

覧)

このようにビジュアルコミュニケーションは、若者の情報行動の変化を考える上で重要

なツールとなっている。さらに彼らはそれぞれのメディアごとのトーンとマナーを踏まえ

て、目的に応じた使い分けを行っている。例えば Instargam は「おしゃれな投稿が集まる

ハイセンスな場」、Twitter は「多種多様な人々や文化が混在するカジュアルな場」、

Facebook は「親も先生も見ているフォーマルな場」といったすみ分けがなされている。

瞬時に情報処理が可能なビジュアルは、膨大な量を見られるため、興味をそそらない、目

にとまらないものはスルーされる。そのアプリの世界観やそこにいるユーザーの気分とマ

ッチしたスタイルが表現されていなければ、受け手側のアテンションは得られないことも

立教大学社会学部メディア社会学科

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重要なポイントである。またビジュアルコミュニケーションのメリットは、文字では伝わ

りにくかったり、わざわざ言わなかったりすることも表現できることである。例えば、芸

能人の意外なプライベートの一面や友人のひそかな一面などが写真・動画を通じて表現さ

れることで、親近感を生むきっかけともなる。企業や商品の場合は、その世界観を伝え、

商品の魅力を深く共有することを通じたブランディングが期待されている。例えば女性フ

ァッション誌『JJ』(光文社)は誌面では商品訴求、Instagram の上ではブランドの世界観

を動画として紹介する広告を打ち出している。

また従来はある起点から情報が発信・拡散されてヒト・モノ・コトが動く“マス型”や

“インフルエンサー型”が一般的であった。しかし、近年オリジナルの情報源が不明のま

ま、いつの間にか多くの人が共感を抱き、体験をコピーしていく新たな情報伝達のモデル

が増えてきている。誰が始めたのか分からないけれど、みんながまねたい写真のスタイル

がパターン化し、それへの憧れや興味関心が消費行動に表れてくるこの現象は、誰もがビ

ジュアルで体験を可視化し、発信する時代ならではの現象である。(電通報、2016 年の言

及を要約)

2-3 玉置によるオンライン・コミュニティにおける消費者のアイデンティティ形成行

動研究

今回の研究対象である Instagram の前身のオンラインメディアと消費に関する研究とし

て、玉置の 2007 年の研究を取り上げたい。オンライン・コミュニティにおける消費者のア

イデンティティ形成行動を解明するため、製品にかかわる議論を目的とした 12 のコミュニ

ティ(掲示板)参加者 378 名にアンケートをとった結果、玉置は以下2つのことを主張し

た。

1 つめに、オンライン空間における情報交換は、自分なりの消費スタイルの創造やその製

品を他者よりもうまく使いこなすことによる「独自の自己イメージの構築」のために行われ

ていると主張した。また構築した自己イメージを自分自身で確認し、他の消費者に評価して

もらうという「自己・他者の相互作用」のためにオンラインコミュニティに参加していると

も述べている。つまり、現代のアイデンティティ形成には、他者と異なる独自の存在価値を

高めたいという個に対する欲求と、価値観の多様化した社会において相反する充足が求め

られ、それを実現する関係をオンライン空間で形成しているのである。

2 つめに、アイデンティティ形成を求める消費者にとってオンラインコミュニティは、

他者よりも優れた存在価値を持つための情報探索を行い、消費の成果を自慢する場所であ

ることも解明した。しかし同時に、一個人では得られないような知識を共有し、時に問題

解決を行うパートナー、互いに存在価値を認め合う関係であるとも述べている。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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3 仮説

以上の先行研究をうけ、「Instagram の利用拡大に伴って若者の消費行動や消費に関する

価値観にはどのような変化がみられたか」というリサーチクエスチョンを設定し、以下 2 つ

の仮説を立てた。

仮説 1:他人から見られ、時に社会関係を形成する媒体にもなる Instagram の利用が若者

の間で拡大することで、結果的に他人を意識した機能面以外の欲を満たす消費行動も促進

された。

仮説 2:消費行動において何に価値を見出すかは社会背景が色濃く影響しており、現代の若

者は商品やサービス自体というよりも、それらを消費することの意味するメッセージに価

値を見出している。

以上の仮説を検証するために、消費社会論に関する言及、Instagaram の普及、若者の消

費行動や価値観について調査していく。

4 これまでに分かったこと、調べたこと

4-1 Instagram の普及について

まず Instagram の普及について触れておきたい。その際本論文は日本国内の Instagram

の利用に限定して論を進めていくため、日本における Instagram の歴史を見ていく。

Insta Lab1によると、2010 年 10 月 6 日にアメリカでリリースされた Instagram はリリー

ス後 3 ヶ月目の 2010 年 12 月に日本語対応をスタートした。また iPhone 版のみの展開で

あった。その後 2012 年になると Android 版、PC 版もリリースされ、そのプラットフォ

ームを広げていった。図 5 は日本国内の月間クティブユーザー数の推移を表したものであ

る。2014 年 6 月は 400 万人、2015 年 6 月には 810 万人、2016 年 3 月には 1200 万人、

2017 年 10 月には 2000 万人と一定して増えているが、2014 年に入ってから急激にユーザ

ー数の伸びが大きくなることがグラフを見ると明らかである。Instagram の日本語版公式

アカウントが 2014 年 2 月に登場していることからも、2014 年は Instagaram にとってあ

る種のキーポイントになりそうだ。また日本国内においてインスタグラム広告が始まった

のは 2015 年 5 月であった。

さらに Instgram はユーザー数の拡大と共に企業利用も活発になっている。図 6 は

Instagram の公式アカウント開設企業数の推移を表したものである。このようにユーザー

数の増加と共に企業も Instgram の利用を進めているということは、Instagram の利用拡

大が消費促進や販売促進活動につながっていると推測できる。

1 Insta Lab「国内利用者数が 2000 万人突破したインスタグラムの成長の歴史とユーザー

数推移」2018 年 2 月 14 日 終閲覧 https://find-model.jp/insta-lab/instagram-users-history/

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図 4 日本国内の Instagram 月間アクティブユーザーの推移

(出典:https://find-model.jp/insta-lab/instagram-users-history/#i-4)(2018 年 2 月 14

日 終閲覧)

図 5 Instagram の公式アカウント開設企業数の推移

(出典:https://find-model.jp/insta-lab/instagram-users-history/#i-4)(2018 年 2 月 14

日 終閲覧)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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4-2 Instagram 普及以前の若者の消費行動や価値観

まずどの時点で Instagram が普及したといえるのかは、はっきりとした言及がされてい

る文献がないため大変曖昧であるが、今回はユーザー数が著しく伸び、日本語版公式アカ

ウントが登場した 2014 年を転機として定義し、論を進めていこうと考えている。

まずここでは 2011 年の研究である佐々木俊尚『キュレーションの時代~「つながり」』

の情報革命がはじまる』の中での記述をとりあげたい。

記号的な価値にはだんだん意味がなくなっていくのであれば、クルマは単なる「人を運ぶ

ための移動の道具」として買えばいい。実際、 近は若者の間で「輸入車とか高級車を買

うのはお金のムダ。単なる移動の手段なんだから軽自動車で十分じゃん」と安価な中古車

を買う人が増えているようですから、記号消費から機能消費へと逆戻りしている部分は少

なからずあるでしょう。安価で着心地の良いユニクロなどのファストファッションが流行

しているのも、機能消費化のひとつの表れとして受け止められると思います。(P90 より

引用)

2011 年時点の一研究では、若者の消費傾向として機能消費化への記述がなされている。

記号的意味合いよりも機能を重視するという当時の若者の消費傾向について、今後は情報

消費白書やなどの統計調査から、具体的な心理についても明らかにしていく予定である。

4-3 Instagram 普及後の若者の消費行動や価値観

ここでは Instagaram が普及した後である 2014 年以降の消費や価値観に関する研究をみ

ていく。藤本浩平(2015)『つくし世代~「新しい若者」の価値観を読む』第 1 章「チョイ

スする価値観」では若者の様々な価値観について述べられている。具体的にはノットハング

リー(ウィル彼、ラブプラス、三平女子、女子会男子、スライムマンなど)、せつな主義(農

業ブーム、スピード退職、若者ボランティア、献血離れ)、つながり主義(〇○ラン、街コ

ン、友チョコ、自宅パーティー、銭湯、ヒトカラ)、チョイスする価値観(メギンス、かち

割りビール、下着コーデ、ユザクロ、ママガール)、ケチ美学(せんべろ、いえなか消費、

弁当男子、試着ファッションショー、レンタル高級品、シェアハウス、相乗り)等が述べら

れている。今後これらの若者の行動や価値観を用いて、Instagaram 利用との関連性を調査

していきたい。これらのキーワードのトレンド動向については後述する。

また、「自分らしさを強調したい」という価値観も見られるという。結婚相談所のオーネッ

トが 2015 年 600 人の新成人を対象に行った「第 20 回新成人意識調査」2の結果が表 1 であ

2 調査対象 1994 年:4 月 2 日-1995 年 4 月 1 日生まれの未婚男女 600 名(男性:300 名、

女性:300 名) 調査実施先:株式会社オーネット 結婚情報サービス「オーネット」調査 調査方法:楽天リサーチ株式会社によるインターネットを利用したクローズ調査 調査期間:2014/11/28~2014/12/05

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14

る。調査によると、「自分はどんなタイプだと思うか」というアンケートを実施した結果、

92%が「人からペースを乱されたくない」、82%が「人に気を使うタイプ」と回答している。

表は回答の結果である。これより、自分らしさを大切にする一方で他人との協調も同じくら

い大切にするという若者のマインドがうかがえる。

表 1 「第 20 回 新成⼈意識調査 2015 年新成⼈(全国 600 ⼈)の生活・恋愛・結婚・

社会参加意識」

(出典:https://onet.rakuten.co.jp/company/release/2015/pdf/20150105.pdf)(2018 年 2

月 14 日 終閲覧)

また、藤本(2015)によると、SMAP の国民的大ヒットソング『世界に一つだけの花』

の歌詞が響くのは、競争社会で戦ってきた 30 代以上だけであるという。「一番になれ、優等

生になれ」という教えのもとで育っていたからこそ「ナンバーワンにならなくてもいい」と

いう競争社会へのアンチテーゼが響いたというのだ。しかし現代の若者はそもそも個性尊

重主義のもとで育ってきた。問題は「自分らしくあることの難しさ」「個性と他人との協議

の葛藤」にある。これは「あなたはありのままでいい」というメッセージが刻み込まれた『ア

ナと雪の女王』のヒットにもつながっているという。つまり既成の価値観や枠組み、世間の

常識にとらわれず、自分のフィーリングにあうものを自由にチョイス・ミックス・アレンジ

し「自分らしさ」の完成を目指しながらも、他人との付き合いを大切にするのが現在の若者

のマインドといえる。

さらに、「自分ものさし」を持っている若者は、ブランドの押し付けを嫌うという。「自分

らしさ」を表現するときにブランド品に頼りたくないというのも若者の一つのマインドだ

とふれられている。この価値観に対し、マーケティング側は完成されたブランドイメージを

押し付けるのではなく、顧客側がチョイスしたりアレンジしたり、自身で完成させる「スキ」

をあえて残しておくということを実践している。これの成功例にペプシネックスのプロモ

ーションがあげられる。従来のペプシマンを起用したイメージつくりが徐々に受けなくな

ってきたところで、あえて世界観を作りこまないで「おいしいところがいい、ペプシネック

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

15

ス」というキャッチコピーだけを打ち出す広告に切り替えた。このようなブランドイメージ

を押し付けないプロモーションが若者に受けているのだ。他にも、着回しがしやすく、コス

パのいいユニクロ製品は、ブランドやメーカーにこだわらない近年の若者の間で多く着用

されている。しかしそのままでは他人と被ってしまうという差別化したい思いから、ユザワ

ヤを利用して自分だけの衣服にアレンジするという動きも見られている。

第 2 章では「つながり願望」について触れられている。カラーランやエレクトリックラン

などのイベントに対する消費行動からは、現在の若者の繋がりを感じていたいという願望

だけでなく、SNS にのせてその繋がりをアピ-ルしたいという願望も見受けられる。そし

てその願望を満たすためにはフォトジェニックとよばれる写真を投稿したり、面白いネタ

動画を撮影したりすることが必要になってくる。またバーベキューで友人と繋がりながら

も非日常を体験したいというつながり願望や、街コンで新たな人と出会いたいというつな

がり願望など、SNS 上だけでなくリアルの社会的ネットワークの形成にも積極的であると

いう。

第 7 章では「なぜシェアするのか」ということに関して触れられている。藤井によると、そ

の 大の理由は繋がりを確認するためだという。「双子コーデ」と呼ばれるファッションを

したり、空気を読みながらも「リア充撮り」と呼ばれる誰かと食事をしているかに見せる投

稿をしたりすることで、他人とつながっているという安心材料になるのである。

このように現在の若者は、自分らしさを求めたり他人との差別化を図ったりしながらも、

他人との繋がりを大切にしている様子が藤本の記述からもうかがえる。

5 自分自身で収集したデータと分析

5-1 2017 年度木村ゼミ社会調査による分析

2017 年度木村ゼミではメディアコミュニケーション利用の実態を把握するために立教大

学の社会学部生 264 名に対してアンケートを実施した。本論文では若者の Instagram の利

用状況と消費実態及び様々な価値観を分析するために、単純分析調査とクロス集計調査を

行った。調査概要は以下の通りである。なお、本研究は「メディアコミュニケーション論」

受講生を対象に行ったため、ある程度情報収集に積極的であったり、メディアコミュニケー

ションを活発に行っていたりする可能性があることは考慮していかないといけない。

【調査概要】

調査名:情報メディアコミュニケーションに関する調査

調査主体:立教大学社会学部木村ゼミ

調査方法:グーグルフォームを用いた WEB 上のアンケート

調査時期:2017 年 11 月

調査対象:「メディアコミュニケーション論」を受講生する立教大学の社会学部生 264 名

立教大学社会学部メディア社会学科

16

5-1-1 大学生の消費に関する単純分析

まずいっとき盛んに語られていた「嫌消費」「消費離れ」が現在はどうなっているのか

を調査するために、「物欲がある」「常に節約を心がけていて、無駄なものは買わないよう

にしている」に関して単純分析した。表 2 を見ると、「物欲がある」に対して「あてはま

る」「まあてはまる」と答えたのが 80.5%であることから、現在多くの大学生は消費に対

して前向きな心持ちであることが分かる。さらに表 3「常に節約を心がけていて、無駄な

ものは買わないようにしている」をみると、ちょうど半数が「あてはまる」「まあてはま

る」と答えている。この結果から現在の大学生はある程度節約意識を持っているものの、

そこまで節約に縛られて消費をしていないというわけではないことがうかがえるだろう。

表 2 「物欲がある」に関する単純分析表

表 3 「常に節約を心がけていて、無駄なものは買わないようにしている」に関する単純分

析表

5-2 Google トレンドによる分析

ここでは前述の『つくし世代~「新しい若者」の価値観を読む』の中で若者の消費や価

値観として述べられていたキーワードがいつ頃から流行りだしたのかを検討するために、

Google トレンドによる人気度の動向を分析していく。期間はいずれも本論文で

「Instagaram が普及した」と定義づけた 2014 年の前後 3、4 年である 2011 年 2 月 14 日

から 2018 年 2 月 14 日に設定した。

まず図 7 は「フォトジェニック」に関するトレンド分析である。フォトジェニックと

は、本来は「写真写りが良い」「写真撮影向き」を意味する言葉である。しかしここ 近

では単に写真映えする景色や被写体というわけではなく、Instagram 上で生える写真とい

う意味合いが強くなっているようにも感じる。図 7 を見ると 2017 年から急激に伸びてき

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

17

て、2017 年 8 月にピークを迎えていることから、昔から使われていた言葉ではないこと

がわかる。また Instagram がリリースされた 2010 年当時はそれほど話題になっていなか

ったことから、ここ 1 年程度のムーブメントであることが分かる。さらに、近年ではフォ

トジェニックから派生し、「動画映え」を意味する「ムービージェニック」というムーブ

メントも起こりつつある。

図 6 「フォトジェニック」に関するトレンド分析(2018 年 2 月 14 日)

次に図 8 は「カラーラン」に関するトレンド分析である。カラーランとは、近年メディ

アでもよく取り上げられるようになった「ファンラン」の一種である。単なるマラソンで

はなく、白い服を着て参加し、走りながらカラーパウダーを浴びることに楽しみを見出す

イベントである。カラーランの他にも「バブルラン」や「ウォーターラン」なども存在す

る。図 8 を見ると 2014 年ごろからその数は伸び、2015 年 4 月がピークになっている。イ

ベントの性質上、開催時期による人気度の変動はあるものの、明らかに Instagram が普及

した後に活発になっていることが分かる。

立教大学社会学部メディア社会学科

18

図 7 「カラーラン」に関するトレンド分析(2018 年 2 月 14 日)

後に図は「双子コーデ」に関するトレンド分析である。「双子コーデ」とは全身お揃

いの服や色違いの服を、友人やカップル同士で着るファッションスタイルである。図をみ

ると 2013 年の冬頃からその人気度は伸び始め、2016 年 3 月がピークになっている。また

2014 年の Instagram 普及後からグラフの傾きが急になっていることから、「双子コーデ」

の人気度の上昇を後押ししている要因のひとつとして Instagram の普及が考えられるので

はないか。

図 8 「双子コーデ」に関するトレンド分析(2018 年 2 月 14 日)

6 今後の課題

目を通したもののまだまとめきれていない文献が膨大にあるので、それらをまず整理し

ていきたい。特に Instagaram 普及前の若者の消費実態や価値観についての研究が圧倒的

に不足しているので、それらの研究の文献調査を進めていきたい。そしてまだ断片的な情

報しかまとめきれていないため、時系列として流行を追うために、その年に流行った広告

等についてもふれ、章の組み方も再検討していく予定である。またそれが論拠として本当

に必要な情報なのかも再検討していく必要があると感じている。

2017 年度木村ゼミ社会調査の分析については、今後 Instagram の利用と消費行動、価値

観の関連性を調べていきたい。また、表 2、3 を組み合わせ、「物欲あり/なし×倹約あり/

なし」に分けて、それぞれで、社会心理や情報行動パターン、消費行動、口コミ行動などの

違いがあるのかについても検証していきたい。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

19

参考文献

【単行本】

佐々木俊尚(2011)『キュレーションの時代~「つながり」』の情報革命がはじまる』筑摩書

藤本浩平(2015)『つくし世代~「新しい若者」の価値観を読む』光文社

松田久一ほか(2013)『消費社会白書 2014』JMR 生活総合研究所

間々田孝夫(2016)『21 世紀の消費~無謀、絶望、そして希望』ミネルヴァ書房

【専門論文】

玉置了(2007)「オンライン・コミュニティにおける消費者のアイデンティティ形成行動

(商学編)」『商経学叢』54 巻 1 号 41-59

【インターネット情報源】

株式会社オーネット「第 20 回 新成⼈意識調査 2015 年新成⼈(全国 600 ⼈)の生

活・恋愛・結婚・社会参加意識」

https://onet.rakuten.co.jp/company/release/2015/pdf/20150105.pdf

電通報「『SNS 映え』の分析から見えてくる若者の情報行動『シミュラークルモデル』」(

終閲覧日 2017 年 12 月 18 日)

https://dentsu-ho.com/articles/3747

AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議 「20 代女子が自ら解説 インスタ世代の行動指標

“インスタジェニック”」( 終閲覧日 2018 年 2 月 13 日)

https://www.advertimes.com/20151028/article207914/

APPBANK「Instagram の日本語版公式アカウントが登場しました。」( 終閲覧日 2018

年 2 月 14 日)

http://www.appbank.net/2014/02/19/iphone-application/755330.php

Insta Lab「国内利用者数が 2000 万人突破したインスタグラムの成長の歴史とユーザー数

推移」( 終閲覧日 2018 年 2 月 14 日)

https://find-model.jp/insta-lab/instagram-users-history/

BACKYARD「“言い訳ハッシュタグ”の意味とは?インスタ世代のハッシュタグの使い

方」( 終閲覧日 2018 年 2 月 14 日)

https://backyard.imjp.co.jp/articles/sakata_hashtag

立教大学社会学部メディア社会学科

20

コミュニケーション、その移り行くツール

要旨

SNS は対人関係を広げ、対人関係を密にした。それによって生じた問題、現代に特

有な事象、生み出された言葉がある。では、人々の行動、欲求、コミュニケーション

はそれに伴い大きく変化してしまったのであろうか。SNS やメールはコミュニケーシ

ョンにどのような影響を与えたのか。コミュニケーションの本質とは何か、それは時

代と共に移ろいゆくものなのか。コミュニケーションをする際に用いた「ツール」を

世代別に①固定電話、②ポケベル、③ベーシックフォン、④フィーチャーフォン、⑤

スマートフォンの 5 つの時代に分類し、それぞれの時代のコミュニケーションの形態

の聞き取り調査、文献調査を試みた。そのうえでスマートフォンの時代における特有

の現象に着目し、多くのネガティブな新語や事件の存在に、ある種 SNS の現代の生

きづらさを垣間見たのだが、ツールが違えども悲劇はどの時代にもあり得ることであ

って、SNS の持つ特性も、過去のコミュニケーション・ツールに類似した特徴がある

という示唆を得られた、と結論づけるにはまだまだ不十分かつ経過途中な本論文であ

るため、今後調査を続けていきたい。

キーワード:コミュニケーション、電話、ポケベル、メール、SNS

序章 はじめに

第 1 節 繰り返される「投擲的発話」

北村智ほか著『ツイッターの心理学』において「ボナンゴ」と呼ばれるザイールの

農耕民ボンガンドによってなされる発話形式とツイートは、多数への投擲的発話とい

う点から類似、という指摘は興味深い(北村・佐々木・河井 2016)。ボナンゴの声がち

ょうどツイートの文字になったと考えられる。声にはその人人の色というものがあ

り、大きい声の人もいれば小さい声の人、淡々と脈絡なく語る者もあれば、さらに、

そこに身振り手振りがつき抑揚たっぷりの人もいる。比べて文字は、ツイートする文

字は誰が打とうが差はないが、改行の位置、句読点の盛り込み方、間の入れ方、絵文

字・顔文字の使用など、やはり打つ人によって、同じ文であってもその印象はずいぶ

ん異なる。そしてそれは、それを受ける人、通り過ぎる人、チラッと見る人、それに

対して反応する人、そうでない人、返事を返す人、共感する人、批判する人など、受

け取る側にしても多種多様な反応が起こるのだが、それがその後の生き方に大きく関

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

21

わってくる場合もある。発することの重さを、良くも悪くも思い知るようだ。それに

しても確かに投擲的発話という観点からのボンガンドの叫びとツイートの類似性とい

う見解は見事で、胸中にあたかも道標のごとく、これから行くべき険しいであろう長

く岩多き道を仄かに照らしているように思われ、片時も頭脳から消滅することはなか

った。

第 2 節 コミュニケーションとは何か

いったいコミュニケーションをより良くするための手段としてどのようなことに注視す

べきか。そもそも「より良いコミュニケーション」とは何か。奥村隆によれば、「互いによ

くわかりあう」ことが「よいコミュニケーション」であると言及しつつも、「わからない」

ことがコミュニケーションを続けさせ、「もうわかった」をめざすコミュニケーションを「よ

いコミュニケーション」とする立場は単純すぎる、と述べている(奥村 2013)。なるほど、

コミュニケーションは奥が深いが、そもそも他者無くしてはコミュニケーションは成り立

たない。「よいコミュニケーション」とはの質問に対し、「正直に面と向かって」が必ずしも

常時の正答でないことは容易に想像できる。

本来コミュニケーションとは何か。ブリタニカ国際大百科事典によると、「言語、身ぶり、

画像などの物質的記号を媒介手段とした精神的交流のこと。語源はラテン語で『分かち合う』

を意味する communicare。歴史的には物質的記号は初期の身ぶり、叫びなどの直接的で無

反省な状態から、明確な言語などの普遍的かつ間接的な状態へと発達した。コミュニケーシ

ョンの過程は、精神的内容を物質的に表現する送り出しの段階、受け手によって受容される

段階の 2 段階から成る。また、その内容は分析的に知的理解のためのものと、情緒的な伝播

を目指すものとに分けられる。人間社会を成立させる基礎的な条件であり、特に今日ではマ

ス・コミュニケーションが高度に発達して大きな影響力をもっている。」と記されている。

また、百科事典マイペディアでは、「社会的事象がすべて意味づけられてある以上、人間の

行為のほとんどすべてをコミュニケーションととらえることができると考えられ、この立

場からコミュニケーション論の新たな展開が期されている。」とある。「人間の行為のほとん

どすべてである」コミュニケーションの重要性は言うに及ばずである。

コミュニケーションは言語、身ぶり、画像という物質的記号を媒介手段としており、さら

にこの媒介手段を直接、面と向かって他者、あるいは社会に行う以外に、形状を成した物体、

道具としてのツールを用いてコミュニケーションをはかるという行為について著しい興味

を覚えた。本来、積極的で社交的であると自負している者も、こうしたツールの適切な利用

によりコミュニケーションはさらに深まり、その後のより 良な結果を得ることも可能な

のではないか、という酷くお気楽かつ楽観的な考えで、というよりこの世界に必要あって誕

生した、世界を狭め時間を短くせしめた効率的で便利な物体を、巧く賢明に使用する手立て

を考察したい。

かつて一家に 1 台、今や 1 人数台という人も珍しくない。この一家に 1 台の時代から 1

立教大学社会学部メディア社会学科

22

人数台の現在まで、年代で表すなら 1970 年から 2018 年現在までのいわゆる電話・ケータ

イという機器を頻繁に利用したであろう、当時、若者と呼ばれた人々の、その使用目的、心

理状態、効用、問題点などを調査することにより、現在の若者の SNS 普及によるコミュニ

ケーションの在り方、光の部分に焦点を当て、現代をよりよく生きることを目的とした考察、

できるならこれから先、未来という展望も含め、コミュニケーションはどのように変化する

のかという予測も混じえて触手を伸ばすことを試みたい。

第 1 章 「ツール」別によるコミュニケーションの在り方

以下に述べるものは、筆者の家族・親戚・バイト先の同僚何人か(年齢 40~60 代)に聞き

取り調査を実施し、当時の様子をまとめたものである。ゆえに母数が少なく、偏った見解

と捉えられるものも散在しているという事実も否めない。今後も聞き取り調査を継続し、

文献調査も取り入れることで論の正確性を高めたい。

第 1 節-1 固定電話の時代 1960 年代後半~1980 年代

いわゆる黒電話といわれる時代、家庭では黒だが、飲食店などではレジ横などに赤電話

3、ピンク電話4なるものが配置されていた。たばこ屋さんの角などにも置かれ、10 円玉を

握り、外で話す遠距離恋愛の人などがいた頃である。

3 「委託公衆電話の通称。店舗の店先などに置かれる赤色の電話機。」(広辞苑より) 4 「特殊簡易公衆電話。加入電話を NTT と契約して、一般にも利用させるもので喫茶店

などにある。」(ブリタニカ国際大百科事典より)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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図 1 黒電話・赤電話・ピンク電話

一家に 1 台のこの固定電話時代、場所をも時間をも限られ、専ら、約束や重要事項、急

ぎ連絡のためのツールであった。長距離電話では金額も高く、10 円玉 1 枚入れて「金送

れ」の一言で切れる、下宿から実家への電話という話も耳にする。また、友人と話すに

も、彼女と会話するにも、その前に友人、彼女の家族と話す必要に迫られることが多々あ

り、「こんばんは、夜分恐れ入ります。〇〇と申しますが△△さんをお願いします」など

という挨拶文を練習したりするわけだ。事前に「夜 9 時に電話するから絶対 初に出て」

などと約束を交わさない限り、たいてい家の電話を先に取るのは親である。また、兄弟が

多かったり、厳格な家庭では、特に差し迫っていない内容で長く会話を交わすことを快く

許容することはそうは考えられない。父親が「いい加減にしなさい」と、受話器の向こう

の相手に聞こえるような大声で言うことも珍しくない。長電話はもちろんのこと、一日に

数度も同じ相手に、というのは容易い話ではない。待ち合わせ事情も非常に厄介である。

一旦約束をしたら変更は困難を要する。駅ならば伝言板を、喫茶店ならばお店の電話で呼

び出してもらうという手法がとられるだろう。待ち合わせ場所に相手が現れず、自宅へか

けても電話が繋がらないという場合、待つよりほかなく、その時間は長くなることも、一

時間くらい待っても現れずということも考えられる。「どうしたのだろう、事故か?」と

いう心配もつきまとう。「♪どんなに遅れても許してあげるから いつもと同じに 手を

立教大学社会学部メディア社会学科

24

挙げ駆けてきて 街は黄昏 悲しい待ちぼうけ」5などという歌の歌詞は、この状況をよく

言い得ている。

固定電話の時代のコミュニケーションは、固定電話そのものをツールとしてコミュニケ

ーションに及ぼす影響はそれほど大きくないと言えよう。寧ろ、「授業中に手紙を回す、

仲の良い者の間での交換日記6、サイン帳7なるものの方がコミュニケーションに与えた影

響が大きかった」と 50 代女性は語っていた。文献や表象で、この実態のさらなる精査が

必要である。

第 1 節-2 固定電話の子機の誕生 1980 年代後半~1990 年代

電話機本体を親機とし、それと無線で結んで同じ家屋内の離れたところで使う送受話器

を子機と呼ぶ(広辞苑より)。

図 2 固定電話、親機と子機 2 台

5 小柳ルミ子の唄、「悲しい待ちぼうけ」の歌詞の一部。作詞:山上路夫、作曲:鈴木淳。

1973 年 11 月 10 日に発売されたアルバム「あしたも日本晴れ」の収録曲であった。 6 2 人もしくは数人の間で 1 冊のノートなどにその日の出来事、口では言いづらいこと、

感謝であったり謝罪であったりをお互いに書いて読む。聞き取り調査の結果、特に女子の

中で流行っていたそうだ。 7 「学年の初め、もしくは終わり、友人の趣味、特技、興味のあるものなどを友人に記し

てもらう。クラス全員に頼む場合もある。」と 50 代女性は語っていた。筆者が小学生の頃

(2003~2009 年)にも「プロフィール帳」という名で、女子の間で人気を博していた。近年

(2015・2016 年)でも、筆者のアルバイト先の塾では、小中学生の女子生徒がプロフィール

帳を交換している姿が見受けられ、また筆者も記入を求められたりした。しかし、流行っ

ていたのはスマートフォンを持っていない(携帯電話を所持していない、あるいは持ってい

るがガラケーの)女子生徒の間であり、スマートフォンが学生に広く普及した 2018 年現在

は、こうした行動は減少傾向なのか。スマートフォンにおいて使われる SNS のアプリ(例えば Twitter や Facebook のプロフィール欄)が、このプロフィール帳の機能を補完してい

るからなのであろうか。さらなる調査の必要がある。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

25

同じ固定電話であっても、この子機の誕生は、少なからずコミュニケーションの形に変

化を与えたと言える。子機を自由に家の中の好きな場所に移動させることにより、それま

であった時間的・空間的制約が緩んだ。自分の部屋に子機を持っていくことにより、家族

に会話の内容を聞かれることなく、長電話が可能になった。また、時刻を電話の使用頻度

の少ない時、例えば夜中、家族の就寝後などとすると、ヒソヒソと会話を続けることが可

能な場合が格段と増加する。昼間の喧騒の中での会話と異なり、深夜の子機を媒介とした

それは一対一であり、顔の表情が見えない分、声のトーンや微妙な間、受話器という媒介

を通しての声色の変化、大声には耳を塞ぎたくなるが、夜更けという時が作り出す穏やか

な静かな声を聴こうとする心理状態は、受話器を介しての二人を接近させる力も持つ。相

互に場は離れていても同じ時を共有するわけだ。難問の試験勉強の解答への導きが会話の

内容であるかもしれない。週末の約束であるかもしれない。一方では一人暮らしの人と、

もう一方では家族が寝静まったのを見計らっての、他愛もない取るに足らぬ会話であるか

もしれない。

この時代のコミュニケーションは長電話、直に喋るということが増加した。「今思えば

あの頃は友達と電話ばかりしていた」と、女子は 長電話記録を更新する者も少なくな

い。同じ TV 番組を観ながら、途中「ちょっと待って飲み物持ってくるから…」というこ

とも成立する。「親に交友関係を知られずに会話できることが嬉しかった。『電話料金がす

ごいことになっている』と親から言われても知らん顔していた。」と 50 代女性は語ってい

た。

固定電話の時代はこのように二極に大別して考えることが望ましいであろう。

A 媒介として取り上げるには、コミュニケーションに何らの影響を及ぼすことが殆ど皆

無の状況に近い場合 → 黒電話時代

B 媒介として取り上げるに足る、コミュニケーションに何らかの影響を及ぼすことが認

められる状況にある場合 → 子機誕生時代

B の場合であっても、そのコミュニケーションは一対一であり、限られた近しい者の間

のみで交わされたものであるゆえ、深く狭いと言えよう。気の合った友人同士がさらにそ

の仲を深めるために、顔を見ると言いづらい言葉であったり、他者には聞かれるのを拒む

内容であったりということを相互の間のみで可能にするには有益な存在であった子機の誕

生であるが、あくまでも限られた間柄で、時間を共有することの不便さと親密さを回避す

ることは難しく、世間一般に遍く広がったとは言い難いであろう。ゆえに以下のように定

義できる。

子機…頻繁もしくは長時間による通話を可能にしたことによる双方間のコミュニケーシ

ョンをより深く親密にするツール

立教大学社会学部メディア社会学科

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第 2 節 ポケベル(ポケットベル)時代 1980 年代後半~1996 年

「NTT などがサービスしている無線呼出し方式 paging system の愛称、あるいはこの

方式に用いる超小型の携帯用呼出し受信機。外出中の社員などを呼出すのに使われる。普

通の電話から、その登録番号をダイヤルすると、ポケットベルが鳴る(振動式のものもあ

る)ようになっている。通話はできないが、メッセージの表示も可能である。1968 年に東

京都 23 区でスタート、次いで大阪、名古屋、横浜、千葉、福岡など全国主要都市でサー

ビスを行なっており、広く利用されている。」(ブリタニカ国際大百科事典より)

「加入者を無線で呼び出す装置。ポケベルとも。加入者を呼び出したいとき、電話でポ

ケットベルの番号をダイヤルすると、加入者の携帯する小型無線受信機に呼出音が出る。

加入者はもよりの電話を使って、あらかじめ決められた連絡先に連絡する。また、電話か

ら文字コードをダイヤルすると、メッセージとして受けとれるものもあり、その手軽さか

ら若者にも普及が進んだ。」(百科事典マイペディアより)

この両方の事典により、頭の中にポケベルというそのツールはいくらか具象化されたで

あろう。「そんなポケベルが大きく変容を遂げるきっかけは、1987 年の 4 月に起こった。

まだドコモに分社する前の NTT は、前年に参入してきた東京テレメッセージをはじめ、

新規事業者に対抗するサービスとして、本体液晶画面上に数字や文字を表示できる『ディ

スプレイ型』ポケベルの提供を開始する。このタイプでは呼び出す際に、かける側がコー

ルバックしてほしい番号を入力してやると数字が画面に表示されるので、誰から呼び出さ

れているのかがわかるようになった。これにより、特定の 1 人あるいは 1 カ所から呼びだ

されるためのメディアから、職場、家庭、友人等々、さまざまな相手から呼び出されても

対応できるメディアとなったわけである。こうしてポケベルは、オフィス・シーンでの利

用だけでなく、プライベート・ユース/パーソナル・ユースへと利用を拡大していくこと

になる。」(岡田・松田 2002、30)

図 3 「ディスプレイ型」ポケベル

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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黒電話に象徴される大多数の人が容認できるもの、その存在を実際目にしていない年代

の人にも容易にその形態を具体化させ、使用目的をも連想させうる映像として『サザエさ

ん』、もしくは『ちびまる子ちゃん』の TV アニメを挙げることができるであろう。日本家

屋の平屋建ては、今や都会ではなかなかお目にかかれない代物であるが、その廊下という

場にわざわざ黒電話その物のためにのみ設置された電話台の上で、常時珍重され存在し、

当時とすれば頗る便利な貴重品であったに違いない。

ではポケベルはどうであろう。1995 年のピーク時の様子の聞き取り調査を試みたい。

表 1 ポケベル流行ピーク時(1995 年)の様子の聞き取り調査(2018 年 2 月 3 日実施)

調査対象が限られていること、当時の記憶が明確でないことなど、これらの調査から導

き出される要素はそれほど多くなく、断定も困難であることを考慮して次のことを述べた

い。その使用目的、その年代は主に二極化されるのではないかと推測できる。一方は会社

より持たされたという義務型。他方、自ら望んで購入したという権利型である。義務型の

年代は主に 50 代であり、権利型は 30 代後半から 40 代前半と言えよう。本研究におい

て、そのツールとコミュニケーションの在り方、使用目的、背景、心情を探るべく、権利

型、後者にその的を絞るのが妥当だと考えられる。

だが、その前に黒電話に象徴される映像として『サザエさん』、『ちびまる子ちゃん』を

挙げたことの意味を先に述べるべきと考える。このことは容易くそのイメージなるもの

を、当時を知る術もない者にもある程度共通の認識として捉えてほしいからに他ならな

い。表 1 のキーワードが役に立つであろう。このドラマは、実は当時を程良く反映してい

るようで多数の 40 代、50 代の女性から聞かれたワードである。『ポケベルが鳴らなくて

8』というドラマはそのタイトルにあるように、キーポイントは正にポケベルであったわけ

だ。片や中年サラリーマン妻子ありの男性と、片や若い女性。この女性は妻子あり男性の

娘と友達というのだから、この二人の間の恋愛は物議を醸し出さぬはずがない。その二人

の連絡手段がポケベルであったわけだ。いわゆる一方通行の連絡ツール。ポケベルの音が

鳴るのを待つしかない身の女性。この状況はポケベルの可能性の薄氷を履むとでも云うべ

き危うさを感じさせる。そしてそのことは、言い換えればそこまで便利ではないというこ

8 企画・秋元康、主演は緒形挙、裕木奈江で全 12 回 1993.7.3〜1993.9.25、日本テレビで

放映されたドラマ。

公衆電話に長蛇の列『ポケベルが鳴らなくて』

40代女性C50代男性B50代女性A

使用

印象

キーワード

周りは持っていた 会社から持たされた 欲しくて自ら購入

当時はかなり画期的 運転中に鳴ると面倒だった 面白かった、頭を使った

ポケベル語、ベル友

立教大学社会学部メディア社会学科

28

とは、無の中の有を生んだこととも言えるかもしれない。残念なことに『ポケベルが鳴ら

なくて』は『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のような周知の認知度がなく、黒電話

のようなイメージを捉えるには全く万全ではない。

ただ機能としてポケベルの一方通行ぶりはある程度理解に結びつけていただけるのでは

ないかという淡い希望をもとに述べてみた。

さらにここからの展開は多少無理を伴うという懸念を禁じ得ないのだが、考察を述べ

る。ポケベル権利型の特筆すべき点として、そこまで便利ではない、所持者は待つしかな

い、文字ではない、数字である。だが、当時の若者してみればかなり画期的であったろう

ことは想像に容易い。

にんじんの皮を剥くのにピーラーを使用する人は多いであろう。だが、包丁を器用に使

い皮を剥くことによる脳の活性化が明らかになっている。

ポケベルのそこまで便利ではない機能は、当時、女子高生からのアイディアと工夫と興

味の増大に一役も二役も買ったのではないか。彼女らの脳の活性化を盛んにしたのだ。文

字が無ければ数字を文字に当てはめればよい。大勢の間にすぐに受け入れられた「ポケベ

ル暗号9」と言われるものである。これは寧ろ単純に文字を並べるよりもどこか秘密めいた

り、ある時はそのごく限られた間柄の双方だけでの理解による暗号のようなワクワク感も

手伝い、そのことが女子高生をさらに魅了し夢中にさせたに違いない。当時の公衆電話、

街の至る所に点在した電話ボックスに、女子高生が昼休みや放課後列をなしたという。こ

の少しの手間と新しい物を生み出そうとするちょうど良い加減の面倒臭さは女子高生を虜

にしたのだ。このポケベルによる文字コミュニケーション、「メル友」ならぬ「ベル友」

ブームに火を点けた「ポケベル暗号」を紹介したい。

表 2 ポケベル暗号の例 (聞き取り調査10と、ネット記事を参考にした) (出典:

https://biz.moneyforward.com/blog/15201) (最終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

9 ポケコトバとも言われた。「おもに女子高校生たちの間から広まったと言われるのが、数

字の配列を語呂合わせで読むことによって、メッセージを伝える『ポケコトバ』というも

のだった。」(岡田・松田 2002、35) 10 神奈川在住 40 代女性 2 名、50 代女性 3 名への聞き取り調査。

14106 愛してる 5963 ごくろうさん 1052167 どこにいるの

11014 会いたいよ 500731 ごめんなさい 724106 何してる1871 会えない 33414 寂しいよ 8110 バイト

194 行くよ 3614 寒いよ 8181 バイバイ10105 今どこ 3470 さよなら 889 早く

09106 起きてる 999 サンキュー 86 ハロー0906 遅れる 49 至急 5110 ファイト

04510 お仕事 428 渋谷 0-15 ボウリング行こ0840 おはよう 21104 着いたよ 0106 待ってる0833 おやすみ 106841 Telほしい 4649 よろしく

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

29

ここに表された数字というポケベル暗号が持つ内容を短くて 2 文字、長くて 7 文字、組

み合わせることは可能であるゆえ 7 文字以上の長文もあり得るが、それにしてもメールの

比ではない。むしろ LINE の方に近いと言えるのはその文字数と直接的な会話ということ

にあるだろう。字数にしても読み方にしても限られているため、ひどく単純で端的であ

る。その機能を 大限に生かすためには回りくどいは 大の敵であり、用を成さない。

ポケベルというツールがコミュニケーションに及ぼした影響は、頭脳の活性化、考える

力と暗号的要素からなる特別の親密度、また共同作業を交互にするための時間を作る意欲

であったかもしれない。子機によって作り出された時間の共有とは異なり、発信すること

によって始まる受信者との交互のやりとりは、限られた場の限られた時間のやりくりを生

み出す。空いた時間に公衆電話に並ぶことも、簡潔に自分の気持ちを表す言葉を数字にな

ぞらえポケベル暗号を創作すること11も、承認欲求のためのみではない、何かプラスアル

ファの存在を思わせる。その正体を突き止めるべく、今後調査を続けてみたい。

これはあくまで予測に過ぎないのだが、その正体は制約の中の達成ともいうべきか。わ

ずか 17 音でその中に季語を 1 つ入れるという制約で詠まれる俳句というものの達成感に

通じるものがあると言っては無理があるだろうか。不自由という中の面白みである。その

達成、面白みは双方の間を深めたといえる。

以下、岡田朋之・松田美佐著の『ケータイ学入門』より抜粋

――PHS とか携帯欲しいと思う?

男「思う、お金があれば」。

――携帯とか PHS もったらベルどうする?

男「もっとく」。

女「もっとく」。

――なんで?

男「えぇ、なんか離されへん」。

女「なぁ。さみしいなぁ、鳴らへんだったらなあ」。

――電話でも鳴るやん。

男「ちゃう。なにか……、ベルだけのなんかってあるねん」。

女「電話やったらな、『おはよう』なんかできへんもんな」。

男「そうそうそう」。

11 女子高生が次々とポケベル暗号を創作していくのに対し、「ポケベル事業者はこのよう

すを見て、ポケベルの数字による表示に『11』なら『ア』『21』なら『カ』というかたち

で、カナ変換ができる機能を与えた」(岡田・松田 2002、35)のだが、この「ポケベル打

ち」と呼ばれた日本語のコミュニケーションについては、余裕があれば今後考察してみた

い。

立教大学社会学部メディア社会学科

30

(1997 年 1 月大阪ミナミ、アメリカ村三角公園にて)

ただ制約の中での使用はやはりコミュニケーションを広め多種多様なものにすることに

はならなかったと言えよう。

第 3 節 ベーシックフォンの時代 1997 年~1999 年

黒電話の時代、若者のコミュニケーションにそれほど多くの影響は及ぼさなかったので

はないか、と考察し、黒電話がコミュニケーション・ツールになっているとは言い難いと

述べた。寧ろ、黒電話は緊急時、もしくは連絡事項などのためとしては欠かせないもので

あったと言えよう。当時連絡網なるものが存在し、その連絡のための電話をかけるという

行為は決して好まれることではなかったと記憶する人が多いことも、聞き取り調査からの

結果として得ている。

それに対し、子機の誕生は若者にとって相当画期的かつ新鮮であった。この子機が、家

に留まらず、せめて庭やベランダへできることなら 100 メートル先へ歩き出してくれたら

と考える者もいたのではないか。その願望を成就させ実現し、ツールとして存在し、具体

化されたのがベーシックフォン12の時代の嚆矢である。

図 4 ベーシックフォン

12 「携帯電話の端末のうち、通話機能を主とし、携帯電話としての必要 低限の機能だけ

を搭載している端末のことである。」(IT 用語辞典バイナリより) 本論文では、「音声通話機能のみ搭載されたアンテナ付きの携帯電話で、メールはでき

ない」と定義する。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

31

このベーシックフォンの登場によりコミュニケーションに及ぼす影響は多種多様であっ

た。待ち合わせも方法も会話も連絡も変化したに違いない。調査を続ける必要がある。

第 4 節 フィーチャーフォンの時代 2000 年~2010 年

常時通話可能という目覚ましいベーシックフォンの時代を経て、人々はさらなる利便と

恩恵を受けることとなる。常時通話可能という状況は果たして双方にどのような行動、心

理状態をもたらすのか。あるいは強いるのであろうか。コミュニケーションにいかなる影

響を与えるのか。

発信者側と受信者側ではその状態は全く異なるのか。少なくとも発信者側には通話すべ

き事情が生じている。では受信者側はどうか。快く受ける場合もあるだろうし、何かの作

業中でそのことを中断して受ける場合もある。発信者が誰であるのか確認して、今、受け

るのか、はたまた、後で掛け直すのか、受信を拒否する場合もあるだろうか。

常時通話可能がもたらす利点は多々あるが、裏を返せば、利点は難点とし湧き上がって

くる状況が考えられるのである。受信者にその現在の行動を中断させ、発信者とある程度

の時間を共有させてしまう。会いたくてもなかなか諸事情がそれを許さず、双方の間に距

離が大きく存在する者たちにこそ多大なる恩恵と成り得るが、受信者と発信者の関係によ

り必ずしもそうとはならない場合もある。後者にとってベーシックフォンというツールは

コミュニケーションに与える影響はどうなるのか。発信者による時間の共有の柔らかなる

提案、もしくは強制は、時間を奪うことに繋がると考えられる。

双方の意志を尊重しながら意思疎通を可能にするツールであるとしてフィーチャーフォ

ン13の存在を観るという概念は少々無理があるだろうか。フィーチャーフォンは人々にさ

らなる利便と恩恵を与えると考えていいのではないか。

13 いわゆるガラケー。「通話機能を中心に、インターネット接続、音楽再生、動画再生、

GPS、デジタルカメラによる静止画・動画撮影、電子マネーなど、さまざまな機能を搭載

する携帯電話の総称。一般に iOS やアンドロイドなどの汎用的なオペレーティングシステ

ムを採用するスマートホン(原文ママ)とは区別される。また日本では、大手電機メーカー

の 新技術を集めて多機能化された、ボタン式の携帯電話を指すことが多い。」(デジタル

大辞泉より) 本論文では、「メール、カメラ機能が搭載された携帯電話」と定義する。

立教大学社会学部メディア社会学科

32

図 5 フィーチャーフォン(ガラケー)

常時通話に加え「メール」という文字コミュニケーション、カメラ、バーコードリーダ

ー、電卓、アラーム、スケジュール、メモ、タイマー、ボイスレコーダー、方位磁針など

多種多様な機能が備わっており、甚だ便利である。特にこの「メール」は若者を中心にコ

ミュニケーションの革命を起こしたと言っても過言ではない。

2005 年に早稲田大学で実施された木村研究室による情報コミュニケーションに関する調

査では、調査対象 239 人のうち 239 人全員の学生が「携帯電話・PHS14のメールの機能」

を「使っている」と回答し、また、「メールの方が、電話(音声通話)より相手に気兼ね

せずに連絡できる」と感じている学生が 80.3%いた。このことから、若者たちの脳内で

「携帯」というものの主たる機能の認識が「電話」から「メール」に変換されたことが明

らかであり、またこの事象はコミュニケーションの変遷を語る上で見過ごせない。実際に

筆者がメールの世代を通過していること、また、メール・コミュニケーションに関する文

献が多数あることからも、自らの経験を交えつつも主観をできるだけ排除し、多くのデー

タを用いて、そのコミュニケーションを今後考察していきたい。

表 3 携帯電話・PHS でメールを送受信することについての調査結果(出典:2005 年早稲

田大学、情報コミュニケーションに関する調査)

14 personal handyphone system の略で、携帯電話サービスの一種。「無線の基地局が低コ

ストのため通話料が通常の携帯電話より安く、デジタル方式で高速のデータ通信が可能。

平成 7 年(1995)にサービス開始。携帯電話の普及にともない利用者が減少したが、デー

タ通信に特化した利用や音声通話の定額制サービスなどにより携帯電話との差別化が図ら

れている。ピッチ。」(デジタル大辞泉より)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

33

さらに同調査では、「携帯電話・PHS を忘れて外出すると不安で仕方がない」学生が

62.6%、「あなたにとって携帯電話・PHS はどの程度必要なものですか」の質問に対し

「なくてはならないもの」、「あったほうがよいもの」と答えた学生が 95.3%いたことが分

かり、携帯の日常生活における役割の大きさがここから推察できる。

表 4 携帯電話・PHS の利用によって生じる変化についての調査結果(出典:2005 年早稲

田大学、情報コミュニケーションに関する調査)

100% 0% 0%

使っているメール機能がなく

使わない

あなたは、携帯電話・PHSのメールを使っていますか。

メール機能はあるが使っていない

はい いいえ

メールの方が、電話(音声通話)より相手に気兼ねせずに連絡できる

80.3% 19.7%

はい いいえ

携帯電話・PHSを忘れて外出すると不安で仕方がない

62.6% 26.4%

変わらない

11.1%

38.9% 56.4%

95.3%

3.8% 0.9%

4.7%

なくてはならないもの

あったほうがよいもの

なくてもよいもの

なくなってしまえばいいもの

あなたにとって携帯電話・PHSはどの程度必要なものですか

立教大学社会学部メディア社会学科

34

図 6 携帯電話・PHS の利用によって生じる変化についての調査結果の円グラフ(出典:

2005 年早稲田大学、情報コミュニケーションに関する調査)

携帯はますます我々の生活必需品になっていき、セガが 2008 年 11 月 6 日~11 月 21 日

にかけ携帯電話向けカラオケサイト「ヒトカラ」で会員 2 万 9501 人15を対象に実施した

「携帯を家に忘れて外出したら家に取りに戻るのは家からどの程度の地点までか」という

アンケート調査の存在と結果も、雄弁にその重要性を物語っている。

表 5 セガが携帯サイトユーザー2 万 9501 人を対象に実施した、通勤・通学の途中、自宅

に携帯電話を忘れた時、自宅まで何分以内ならば、取りに帰るかの調査(出典:

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0901/28/news056.html#l_mmi_sega_01.jpg)(

終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

15 性・年代の割合、地域的分布は確認できなかったため、詳細な類似調査を模索したい。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

35

第 5 節-1 スマートフォンの時代 2011 年~現在

「携帯電話と個人用携帯電話端末 PDA の機能を融合させた端末。電話の機能に、電子

メールやワールド・ワイド・ウェブ WWW の閲覧・書き込み・スケジュールや住所録管

理、音楽や静止画・動画の再生など多くの機能を付加している。通常、ソフトウェアやフ

ァイルの管理をするオペレーティングシステム OS を積んでいる。1999 年に発売された小

型キーボード付きの多機能端末 BlackBerry に始まり、2007 年にアップルが発売した多機

能電話 iPhone が世界で爆発的に売れ、スマートフォンのブームをつくった。日本の携帯

電話も 1999 年からネットワークに繋がる i モードが導入されていたが、世界的な流れと

はならなかった。世界の携帯電話メーカーは競って新型のスマートフォンを発表してお

り、OS でいえば、グーグルの Android、アップルの iOS、リサーチ・イン・モーション

の BlackBerryOS などが普及している。」(ブリタニカ国際大百科事典より)

生まれながらにしてパソコンやケータイなどのインターネットに囲まれて育った世代に

は、トーストをくわえボサボサの頭で慌てて出かけていくというドラマや漫画のお決まり

の朝の光景はおそらくもはや死語ならぬ死景……、今では見かけない光景であろう。昨今

の朝と云えば、口にくわえはしないが、どんなに急いていても、その手、もしくはポケッ

ト、あるいはバッグに必ずと言っていいほど確りとスマホが携帯されているはずである。

全国スマートフォン時代ともいうべき現在のコミュニケーションをこのツール抜きで語る

には無理が生じる。

立教大学社会学部メディア社会学科

36

図 7 スマートフォン(スマホ)

2016 年に立教大学で実施された木村ゼミによる情報メディアコミュニケーションに関す

る調査では、調査対象 268 人のうち 98.5%もの学生が「スマートフォン」をふだん「利用

する」と回答している。

表 6 情報メディア機器の利用についての調査結果(出典:2016 年立教大学、情報メディ

アコミュニケーションに関する調査)

そのスマートフォンの主な利用用途に「SNS16」が挙げられるのは以下に掲示する調査

結果から明らかであろう。ここ数年のうちのデジタルネイティブ17による SNS 使用の伸び

幅には目を見張るものがある。増加率に関して、またその多種多様さに関しても特筆すべ

き点が多々見受けられる。デジタルネイティブによる SNS がかなりの高い頻度で使用、

利用、効用されていることは日々、周囲を見回しても誰の目にも明白な事実と言える。近

16 「《social networking service》個人間のコミュニケーションを促進し、社会的なネット

ワークの構築を支援する、インターネットを利用したサービスのこと。趣味、職業、居住

地域などを同じくする個人同士のコミュニティーを容易に構築できる場を提供してい

る。」(デジタル大辞泉より) 本論文で、「SNS」という言葉を用いる際、主に LINE、Twitter、Facebook、Instagram の 4 つを指すとする。 17 木村忠正によれば、デジタル技術に青少年期から本格的に接した 1980 年前後生まれ以

降の世代を指す。また、橋元良明らは、1996 世代においてはメディア接触、生活様式、価

値観が変化しつつあり、日本の先進的なモバイルブロードバンド環境で生成している世代

であることから、特に「ネオ・デジタルネイティブ」と呼ぶことを提案している。(木村

2012) 本論文で、「デジタルネイティブ」の言葉を用いる際には、この「ネオ・デジタルネイ

ティブ」である、2018 年現在大学生の若者たちを指すとする。

利用する

スマートフォン(iPhone、Xperiaなど)

持っているが、ほとんど

使わない

持ってない・使わない

98.5% 0.4% 1.1%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

37

年 SNS に関してのニュースが後を絶たないことも、このことを強く裏付けているであろ

う。SNS に関する事件については今後調査していきたい。

表 7 SNS の使用状況についての調査結果(出典:2016 年立教大学、情報メディアコミュ

ニケーションに関する調査)

LINE、スカイプなどの通話・メッセージングアプリを利用「したことがない」人は

0%、Facebook、Twitter、mixi18などを利用「したことがない」人は 2.6%と、ほぼ

100%の大学生が何かしらのネットサービスを利用していることは容易に推察できる。特

にネットサービスの中でも利用率の高い、LINE、Twitter、Instagram に焦点を絞ってみ

ると、「日に 2、3 回以上利用している」人は順に 95.8%、82.5%、58.2%と、いずれも半

数を超えており、また、自分が「 もよく利用する SNS」(67.5%が LINE と回答)に 1

日あたり 50 回以上アクセスする人が 31.8%いたことから、大学生の SNS 利用率は非常に

高いと述べることができる。

第 5 節-2 映画『何者』から捉える大学生の SNS の使用実態

前項で述べた、LINE を「日に 2、3 回以上利用している」大学生は 95.8%、Twitter は

82.5%いるという結果は、非常に興味深い値であり、LINE と Twitter がデジタルネイテ

18 2016 年に立教大学で実施された木村ゼミによる情報メディアコミュニケーションに関

する調査で、2016 年当時 mixi を利用している大学生が 2.3%であったこと、またそのう

ち 0.8%が「日に 1 回」、残りの 1.5%が「月 1、2 回かそれ以下」の利用であったことか

ら、LINE、Twitter、Facebook、Instagram と比較して利用率は大幅に低下しており、本

論文では「SNS」を扱う際、mixi については除外する。

LINEなどのメッセージングアプリ

Facebook、Twitterなど

268

267

100%

97.4%

0%

2.6%

N利用している、したこと

がある

利用していない

95.8%

82.5%

58.2%

Twitter 263

Insatagram 263

LINE 264

N日に2、3回以上利用

立教大学社会学部メディア社会学科

38

ィブには欠かせないコミュニケーション・ツールであることを量的に把握することができ

た。

次に、質的にその使用実態を調査すべく、『何者19』という映画を取り上げる。数ある表

象から映画『何者』を選んだ理由は 3 つ挙げられる。第一に、平成生まれの作家・朝井リ

ョウが直木賞を受賞し、大きな話題を呼んだ小説『何者』(新潮文庫刊)の映画化として世

間の注目を集め、興行収入 10 億円以上を突破したこと。第二に、就活をテーマとした作

品であり、登場人物が「ネオ・デジタルネイティブ」の大学生であること。第三に、数々

のシーンで LINE と Twitter によるコミュニケーションが見られること。以上の理由か

ら、この主題、作者が我々に伝えたかったものは何か、ということをあくまでも問題にす

るのではなく、どのように SNS が利用され、コミュニケーションにどのような影響を及

ぼしているのかを調べてみたい。

就活もスマホで行う時代、企業からの「残念ながら今回はご期待に添うことができませ

ん。」のお祈りメールも、非通知着信の内定通知も、スマートフォンがなくてはならない

この時代、LINE、Twitter、その裏アカウントの存在から見えつつあるコミュニケーショ

ンの在り方。

就活という同じ目的を持った 5 人の仲間が同じ部屋で会話をしている場面、主人公はテ

ーブルの下でひたすら指を動かす。「へぇー自分の名刺作ったんだ。すごいじゃん」と口

では発するも、その指が紡ぐ言葉は、自らの発した言葉の冷静分析かつ馬鹿にして笑うよ

うな否定形。Twitter の裏アカウント20という、(この主人公の場合、非公開設定にしてお

らず)すべての人が見ることはできるが、敢えて友人には知らせていない匿名のアカウン

トにより、主人公自らの本音とも云うべき心底を語っている。

自分の現在の涙ぐましいまでの努力を、実況中継的に Twitter に語ることなくて立って

いられないといった仲間。

19 2016 年 10 月 15 日公開。監督・脚本は三浦大輔。ひとつの部屋に集まった 5 人の男

女。大学の演劇サークルに全力投球していた拓人(佐藤健)。拓人がずっと前から片想い

をしている瑞月(有村架純)。瑞月の元カレで、拓人とルームシェアをしている光太郎

(菅田将暉)。拓人たちの部屋の上に住んでいる、瑞月の友達の理香(二階堂ふみ)。就活

はしないと宣言する、理香と同棲中の隆良(岡田将生)。みんなを見守っている、大学院

生のサワ先輩(山田孝之)。理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まる 5 人。

それぞれが抱く思いが複雑に交錯し、徐々に人間関係が変化していく。「私、内定もらっ

た…。」やがて「裏切り者」が現れたとき、これまで抑えられていた妬み、本音が露にな

っていく。人として誰が一番価値があるのか?そして自分はいったい「何者」なのか?い

ま、彼らの青春が終わり、人生が始まる――。(映画『何者』公式サイト、STORY より) 20 裏アカウント、通称裏アカ(裏垢とも)。その定義は曖昧であり、聞き取り調査の結果、

筆者の周りの大学生においては、「ごく限られた友達のみに公開している、本音を呟くア

カウントである」という認識が強く、『何者』の主人公とは公開範囲設定が異なる。裏ア

カウントの定義については今後の課題とし、その存在、実態を模索していきたい。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

39

主人公は内定を取った仲間の企業のブラックさを調べ、かつて共に夢に向かい劇団で頑

張っていた友人の劇の評判を調べ、それらに関しても裏アカウントで語っている。

スマホをそれほど多用しない仲間二人が、実は内定 1 番と内定 2 番。内定 1 番の彼女に

主人公は好意を寄せ、電車の中で彼女の家庭の事情をゆっくりとした喋りで聴く。母の面

倒を見なければ、安定した職に就かなければという。またある時は彼女から内定 2 番の人

から 2 度も振られたと、その告白は直電でした模様。

知り合って 3 週間足らずで同棲を始めた 2 人は直に会話ではなく Twitter で会話。

ラストに主人公のツイートが全部出てくるシーンとツイートの音が印象的である。

1 分間スピーチで主人公が初めて自らの言葉で本音をボソボソ語る。劇団の頃の仲間へ

の想い。

以上「何者」の映画から見えてくること――頻度によりコミュニケーションに及ぼす影

響にも差がある。現在生活するに必須であるスマホ、その使用頻度の差は大きい。ここで

2 つに大別してみる。

A 必要 低限に使用する人

B 利用過多、無くては生きるに困る人

A の場合、自分のことを他者に語るとき、face to face で自らの言葉で語っている。B の

場合、表面では話を合わせたり、褒めたりしているが、その本音は音として発することな

く文字として残す。その文字は不特定多数の人に読まれることを前提に、さらに承認され

たりもする。公開日記ということか。

A の場合、感情を伴いわかりやすいが、その場のテンションを下げたり、嫌な雰囲気を

作ったりしてしまうこともある。B の場合、本音は不明だが、その場を取り繕い雰囲気は

悪くない。

SNS を使用している大学生は 100%いると言っても過言ではないが、その誰もが SNS

に依存し利用過多であるということは誤りであろう。SNS の特徴を明らかにし、あらゆる

コミュニケーションの形態を調査していくことが必要だと感じた。

黒電話から始まり、その移り行くツールによるコミュニケーションの在り方を(まだま

だ不十分であるのだが)調査してきた。ツールはその時々で我々に多くの恩恵を享受した

が反面、その存在なき時代には現れなかった言葉、いわゆる造語もしくは「新語」、ツー

ルと共に誕生し、普及、蔓延した言葉が多々ある。また、そのツールゆえ、それを引き金

とし、それが要因となり起きてしまった悲劇というべき事件もある。ツールに表象され

る、世間に評判になった映画、小説、ドラマなどはその性質上、ツールのイメージを強く

世間に知らしめた。それらを調査し読み解くことは、懸念すべき問題点を明らかにするこ

立教大学社会学部メディア社会学科

40

とに繋がるであろうと推測できる。問題点を顕著に示すことは、ツールの効用への 短の

近道であると確信する。

第 2 章 SNS に関連した現代特有の新語・事件・表象、それらに対する懸念

第 1 節 スマートフォン時代、特有の事象

スマートフォンが普及し始めた 2011 年以降、それが持つ機能や、それが引き起こした

社会現象により、過去の時代には存在しなかった「新語」が次々と生み出されてきた。第

34 回 2017 年ユーキャン新語・流行語大賞において「インスタ映え」が年間大賞にノミネ

ートされたことは記憶に新しい。SNS での「いいね!」を獲得するために、「インスタ映

えスポット」と呼ばれるフォトジェニックな(写真写りの良い)場所へ赴き、そこで撮影

した写真を Instagram に投稿し、ビジュアルを競い合う人々の光景が世に溢れていること

が、その「新語」の誕生に繋がった。この光景に気味の悪さを感じる人々も多いのではな

いかと推測するのは早計であろうが、次に挙げていく「新語」から、スマートフォンの普

及、それに伴うトラブルに、違和感や懸念を多少なりとも感じた人々がいるに違いないと

提言することは、行き過ぎた論ではないように思える。

2016 年にノミネートされた語には「歩きスマホ」、「ゲス不倫」、「保育園落ちた日本死

ね」などがあった。ノミネートはされてはいないが「SNS 依存」、「バイトテロ」、「スマホ

当たり屋」などの言葉をニュースで耳にしたことがある人もいるであろう。これらの言葉

はどういった意味なのか。ネット記事などを参考にまとめたものが以下の表である。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

41

表 8 2016 年新語と近年ニュース等で耳にする言葉の意味(筆者作成)

上の表から、これらの言葉が決してポジティブな文脈で利用されることが多くはないで

あろう推測することは難くない。「歩きスマホ」と、「スマホ当たり屋」の出現について、

2 つのキーワードが検索された時期が Google Trends の折れ線グラフにおいて相似をなし

ているのは興味深い。

言葉 意味

歩きスマホ歩きながらスマートフォンを使用すること。そのため前方不注意となり、人にぶつかる危険などがある。歩きスマホをしてしまう理由として、SNSやYouTubeなどの動画サイト、ポケモンGOなどのゲームアプリに夢中といったことが挙げられる。

ゲス不倫

ロックバンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル川谷絵音とタレント、ベッキーが関わる一連の不倫騒動・スキャンダルを指す語として定着し、芸能界や政界で次々と発覚した不倫騒動を報じる際にも用いられた(実用日本語表現辞典 参考)。川谷絵音とベッキーのLINEを介してのやりとりの内容が、スクリーンショットで週刊文春に流出してしまい、LINEの使用に対する懸念がTwitterなどで議論された。

保育園落ちた日本死ね

「2016年2月15日、匿名で日記を書き込めるネットサービスに『保育園落ちた日本死ね!!!』と題された文章が書き込まれた。政府が掲げる『待機児童ゼロ』政策が一向に進展しない事態に対して、育児中の母親とみられる人物が訴える、怒りとも悲鳴ともとれるブログ。この言葉が広まり、ツイッターでも『#保育園落ちたの私だ』というハッシュタグの投稿が相つぐ。」(ユーキャン新語・流行語大賞 公式サイトより)

SNS依存

SNS依存症。「SNS依存症とは、俗に、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)に頻繁にアクセスして更新の確認や投稿、友人のページへの書き込みなどを間断なく行ったり、長くアクセスしないでいることに極度の不安を感じたりする状態のことである。」(IT用語辞典バイナリより)

バイトテロ

飲食店やコンビニのアルバイト店員が、店内の設備や商品を使って悪ふざけをし、その様子を撮影してSNSに投稿する行為や、その投稿によって炎上する現象を指す。店舗や企業のイメージを損なうだけでなく、商品交換や設備の補修に伴う実害も大きく、社会問題に発展した。「バカ」なことを「Twitter」に投稿するといった意味から「バカッター」「バカッター事件」とも言われた。

スマホ当たり屋歩きスマホをしている人に故意に勢いよく突き当り自らのスマホが割れたなどと言いがかりをつけ金銭を要求する行為や人を指す。

立教大学社会学部メディア社会学科

42

図 8 Google Trends でキーワード“歩きスマホ”と“スマホ当たり屋”を日本において

の過去 12 か月間、ウェブ検索を実施した結果(施行日 2017 年 9 月 9 日)

今後、新聞やネット記事でテキストマイニングを実施し、表 8 で挙げた言葉が実際にど

ういった文脈でそれが用いられているかを細かく検証し、論に重みを増したいところであ

るが、本論文では、これらの言葉がスマートフォン普及以降に生まれた「新語」であり、

スマートフォンによって過去の時代には見られなった特異な社会現象が生み出されている

との予測のもと、論を進めていきたい。これらの新語の誕生の背景にある人々の意識や行

動は何かということを本論文で解明していきたかったのだが、今回は時間の都合上割愛さ

せていただく。

「新語」の意味から、スマートフォンが新たに様々なトラブルを生んでいるということ

は理解に容易い。その たるトラブルとして、近年、社会に大きな衝撃を与えた『小金井

ストーカー事件』と『座間 9 遺体殺人事件』を取り上げ、SNS の持つその特性によって起

きてしまった悲劇について今後考察していきたい。また、SNS の恐ろしさを扱った作品と

して映画『ディス/コネクト』、『白ゆき姫殺人事件』、『ザ・サークル』といったものがあ

り、それについても時間があれば吟味してみたいと考えている。

第 2 節 果たしてスマホが社会を変えたのか

副作用のない薬はない。新しい便利な物には必ずその逆のこと、不具合が付き物であ

る。重要なのはその副作用を正しく理解し 小限に留める努力を継続することである。新

語、事件、表象という SNS の存在のもとに登場することとなった、これらのいくつかの

問題点は、SNS の現代を不本意ながら必ずしも良い方へ導いているとは言えないことを認

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

43

知した。その善用よりも寧ろ悪用が著しく人目を引き際立って強調されてしまうのは、そ

の事件の異様性、残虐性あるいは珍しさによるものなのか。

ではスマホの前、メールが主流であったいわゆるガラケーの時代はこうした凶悪な事件

とは縁がなかったのであろうか。

やや、主論から外れてしまう恐れを否めないが、メールが提示した悲劇、メールが変え

た運命を扱った作品を列挙することによりコミュニケーションの妙味というべきツールの

役割への深い理解の認知と、それに伴う人間の持つ良心とエゴに少し触れることを容赦願

いたい。

もともとメールとは、その携帯の所有者と他者による文字コミュニケーションであるべ

きである。携帯の所有者が依頼しない限り第三者が勝手にその携帯の所有者のツールを使

用し、文字を打ち、文を作成し、その所有者と成りすまし送信するという悪意はあっては

ならない。フィーチャーフォン時代の悲劇の表象として、平野啓一郎が 2016 年に発表し

た小説『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)を取り上げようと考えている。

終章 今後の課題、結論の方向性

固定電話から SNS にコミュニケーションの手段が変化したことは、過去の時代より対

人関係を広げ、密にし、さらに社会を特徴づけるあらゆる語を生み出し、過去の世代とは

異なる形相を見出したが、その本質は変わっておらず、いつの時代も希求するものは他者

である、との仮説をもとに議論を展開していく。コミュニケーション、対人関係を築くア

プローチの仕方は世代によって多種多様であるが、果たしてその背後、または内奥に潜む

恒常的なものに何ら変わりはなく、コミュニケーションの在り方も繰り返すのではないだ

ろうか。だとすれば、現在使われている SNS の闇にも勝るであろう、その光の部分に焦

点を当て、有効活用する術を探索し提唱して結びとしたい。以降、現段階で考えている章

立てについて記載する。

第 3 章 立教大学社会学部 2017 年度春学期講義「メディア・テクノロジー・社会」よ

り、

学者の視点から現代を捉え直す

①マクルーハン提唱「グローバル・ヴィレッジ」、メディアによる「人間の拡張」、

またそれによる「トレードオフの関係」→SNS の功罪

②クーリーの「鏡に映った自己」→ケータイは鏡

③ギデンズの「再帰性」→SNS 依存、友達地獄、社会的自我の未成熟化、不安化

④ラッシュ提唱「テクノロジー的生活様式」(スマホはもはや器官)、「離隔における

生」

立教大学社会学部メディア社会学科

44

第 4 章 奥村隆著の『反コミュニケーション』より、ルソー、ジンメル、ゴフマンの指摘

から「よりよいコミュニケーション」とは何かについて

第 5 章 SNS による光――震災時の Twitter 利用など計りしれない可能性

第 6 章 SNS の現代と今後

文献から SNS の現代をよりよく生き抜く術、今後のコミュニケーションの在り方の予

→他者を求めるという本質は変わらず、コミュニケーション形態は繰り返していく

固定電話時代やポケベル時代のコミュニケーションを調べていくにあたって、交換日記

やポケベル暗号の制約などが、現代の SNS におけるプロフィールや Twitter の 140 文字

という制約に通ずるというには多少無理があるだろうが、コミュニケーションの本質の変

わらなさ、あるいは繰り返すコミュニケーション様式といったものが垣間見られたと思

う。時間の関係で、予定していたアメリカドラマ『フレンズ』の表象から固定電話やベー

シックフォン時代のコミュニケーションを紐解くことができなかったため、次回までの課

題にしたい。また各所に調査・分析途中のものが散在するので、引き続き文献、聞き取

り、データを用いた調査を行っていきたい。さらに、ロビン・ダンバー著の「ことばの起

源」を読み、コミュニケーションの在り方について確認し、ベンヤミンの「親密さ」につ

いての議論を加筆、論に重みを増したうえで、コミュニケーションに影響を与えた「ファ

クス、公衆電話、留守電機能などについても言及できたらと思う。

参考文献

岡田朋之・松田美佐、2002、『ケータイ学入門 メディア・コミュニケーションから読み

解く現代社会』、有斐閣

奥村隆、2013、『反コミュニケーション』、弘文堂

北村智・佐々木裕一・河井大介、2016、『ツイッターの心理学』、誠信書房

木村忠正、2012、『デジタルネイティブの時代 なぜメールをせずに「つぶやく」のか』、

株式会社平凡社

立教大学社会学部・木村ゼミ、2017、『情報メディアコミュニケーションに関する調査』

早稲田大学理工学部・木村研究室、2005、『情報コミュニケーションに関する調査』

インターネット情報源

映画「何者」公式サイト、2016、「映画『何者』公式サイト、STORY」( 終閲覧日 2018

年 2 月 9 日)

http://nanimono-movie.com/content/index.html#story/index

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

45

自由国民社、2016、「ユーキャン新語・流行語大賞 第 33 回 2016 年 受賞語」( 終閲

覧日 2018 年 2 月 9 日)

http://singo.jiyu.co.jp/award/award2016.html

自由国民社、2017、「ユーキャン新語・流行語大賞 第 34 回 2017 年 受賞語」( 終閲

覧日 2018 年 2 月 9 日)

http://singo.jiyu.co.jp/award/award2017.html

BIZ KARTE、2015、「これ読めますか?『045105110』懐かしのポケベルのメッセージ

27 選」( 終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

https://biz.moneyforward.com/blog/15201

ITmedia NEWS、2009、「『携帯、自宅に忘れたら取りに帰る』が 7 割 携帯ネットユー

ザー調査」( 終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0901/28/news056.html

立教大学社会学部メディア社会学科

46

横浜 Dena ベイスターズから見るファンコミュニティー形

成におけるマーケティングとメディア・コミュニケーション

の関係について

要旨

日本一になった 1998 年以降低迷期が続いて横浜ベイスターズだったが、IT 企業である

Dena が球団を買収した 2012 年シーズンから、ファンクラブ会員数が急増し観客動員数が

5 年連続で増加をしている。この要因として 2011 年〜2016 年まで球団社長を務めた池田

純氏の様々なマーケティング施策と、twitter や 2ch、インターネット中継などのファンに

よる CMC が高いエンゲージメントと拡散力をもたらしたのではないかと考えた。本研究

は、横浜 Dena ベイスターズを対象にファンエンゲージメント増加についてそのプロセス

と構成の仕組みについて解明を行うことで、メディア・コミュニケーションとマーケティン

グの関わりについて探求していく論文である。

キーワード:横浜 DENA ベイスターズ、マーケティング、メディア・コミュニケー

ション、CMC、ファンエンゲージメント

1.はじめに

インターネットが幅広く浸透した現代において、人々は、現実とインターネットの 2 つ

の世界を行き来した生活を送っている。特に 近ではネット上のコミュニケーションの場

はソーシャルネットワーキングサービスを筆頭に発展しており、もはやリアルの対面コミ

ュニケーションの機会よりもネット上でのコミュニケーションがメインになりつつある人

も多いのではないだろうか。また情報の収集先に関しても、テレビや新聞、雑誌などのプッ

シュメディアによる情報獲得よりも、インターネット上において自らの手で自分の求める

情報を獲得することのほうが圧倒的に多いといえるだろう。そんな情報の入口、コミュニケ

ーションの場がインターネット上になっている現代において、電子メディアを通じたデジ

タルマーケティングは多くの企業において取り組まねばならぬ課題の一つになっている。

そんな中、マーケティングの著しい成功例として、横浜 Dena ベイスターズここ数年のフ

ァン数急増がある。日本一になった 1998 年以降低迷期が続きファン数も減少の一途を辿っ

ていた横浜ベイスターズだったが、IT 企業である Dena が球団を買収した 2012 年シーズ

ンから、ファンクラブ会員数が急増し観客動員数が 5 年連続で増加をしている。

では現実とインターネットの二つの世界を行き来している現代の人々を動かすために横

浜 Dena ベイスターズがどのようなアプローチをしてきたのか。本論文ではそれらを解明

し、それがどのような構造になっているのかを明らかにすることで、現代マーケティングに

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

47

おけるメディア・コミュニケーションとの関わりについて考察していきたいと思う。

2.問題意識

Dena が球団の親会社になる前、万年 下位であったベイスターズは横浜という好立地に

本拠地を構えながらもチームの人気はなかった。だがその後 Dena の経営改革によって見

事人気球団へと成長した。そして現在インターネット上では 5ch のなん J 民21たちによっ

て連日、ベイスターズ関連のスレが立ち並びネット民たちによるベイスターズ談義が行わ

れている。またツイッターにおいても、人々は試合をみながら「#baystars」のタグを用い

て実況をし、試合終了時などには、かなりの確率でベイスターズ関連のワードがトレンド入

りを果たしている光景が頻繁に見られる。現在のインターネットにおけるファン同士のコ

ミュニケーションが取れる環境はファンエンゲージメントを保つ上で必要不可欠のもので

ある。では、このような体制はベイスターズが人気球団へと成長する過程の中でいつごろ定

着したのだろうか。またその内部はどのように構築されているのだろうか。そしてそもそも

人気球団においてファンコミュニティーはどのような役割を果たしているのか。本論文は

これらの疑問を解消していくことが目的である。また論文全体を通して、横浜 dena ベイス

ターズのファンがファンになるまでの過程でどのような段階を経ているのか、そのモデル

についても明らかにしていきたいと思う。

3.横浜 Dena ベイスターズについて

3-1 横浜 Dena ベイスターズの変遷

まずは本論文で取り上げる横浜 Dena ベイスターズについて、その変遷から触れていく。

横浜 Dena ベイスターズはセ・パ両リーグが分立した 1955 年に誕生した大洋ホエールズを

前身とする。リーグ優勝回数は 2005 年に誕生した楽天を除けば も少ない 2 回だが、日本

シリーズ優勝 2 回は中日と並び、阪神を上回る。読売ジャイアンツ、阪神タイガース、中日

ドラゴンズは日本プロ野球の創世期に誕生して長い伝統と歴史を持ち、大都市圏をフラン

チャイズに持ち、熱狂的なファンに支えられ、2 リーグ分立後も人気・実力ともに高い球団

だったのに対し、両リーグ分立時に新規参入した大洋、国鉄スワローズ、広島カープの 3 球

団は低迷していた。特に大洋は 54 年から 59 年めでの 6 年間、大洋は 下位に甘んじてお

り、59 年には優勝した巨人に 28.5 ゲーム差をつけられていた。だが、56 年に後に監督を

務めることになる秋山登や土井淳などが入団し、徐々にチーム力が上がっていった。そして

1960 年、西鉄ライオンズを率いてパ・リーグ 3 連覇と同時に、巨人との日本シリーズでも

3 連覇を果たした三原脩を監督として招聘する。三原はエースを秋山を中心に、新人の近藤

昭仁を二塁手として起用するなど、三原マジックと呼ばれる采配を振るい、優勝を果たす。

21 5ch の掲示板「なんでも実況 J(ジュピター)」の利用者を指すネットスラング

立教大学社会学部メディア社会学科

48

前年 下位の球団が優勝するのは史上初であった。初進出した日本シリーズでも、毎日大映

オリオンズに対して、全て 1 点差勝ちの 4 連勝で日本一を獲得する。ところが、翌 61 年に

は再び 下位に転落する。まさにジェットコースターのような優勝劇であった。

その後の大洋は、川崎から新設された横浜スタジアムに本拠地を移し、横浜大洋ホエール

ズとなる。さらに、親会社の大洋漁業が社名をマルハに改称したことに伴い、チーム名も横

浜ベイスターズに変わる。そして 1998 年にバッテリーチーフコーチだった権藤博が監督に

就任。就任直後のミーティングで、「みなさんはプロですから、プロらしくやって下さい」

と一言だけ告げると、以降は全体ミーティングを行わず、練習や体調管理などもすべて選手

の自主性に任せる奔放野球を貫く。守護神の佐々木主浩を中心に三浦大輔、斉藤隆、野村弘

樹らの投手陣と、一度打ち出したら止まらない「マシンガン打線」と呼ばれた石井琢朗、波

留敏夫、鈴木尚典、駒田徳広、谷繁元信、佐伯貴弘。ローズなどが打ちまくり、二度目の優

勝を果たす。さらに日本シリーズでもパ・リーグ 2 連覇の西武ライオンズを降し、二度目の

日本一に輝く。その後は 2 年連続 3 位となると、球団は権藤の後任にチーム再建の切り札

として西武黄金時代を築いた森祇晶を監督に招聘する。だが、森の目指す管理野球は、権藤

の奔放野球とは全く対照をなすものであった。3 年連続の 3 位となったものの、監督と選手

間に確執が生じ、優勝を知る選手が FA やトレードによってチームを離れ、2002 年には、

シーズン終了を待たず森監督が休養、契約を 1 年残して辞任した。そしてチームは 下位

に転落してしまう。

02 年、親会社のマルハが球団経営から撤退し、第 2 位の株主であるニッポン放送へ譲渡

されることになる。だが、東京ヤクルトスワローズの親会社が産経だった時代から、ニッポ

ン放送が含まれるフジ・サンケイグループはヤクルトの株主でもあり、同一グループが複数

球団の親会社になることは野球協約に接触するということで、第三位の株主であった TBS

に譲渡されることで決着する。こうした親会社のドタバタ劇や大学生の裏金契約問題など

が、選手の心理状態に影響を与え、横浜は低迷していき 02 年から 11 年までの 10 年間で、

実に 8 回の 下位を経験。この間、何度もの監督交代劇があったが、チームは上昇しなかっ

た。この暗黒時代によって多数いたファンも徐々に離れていき、年々観客数は減少していっ

た。

そうした事情の中、12 年に IT 企業の DeNA が球団経営に乗り出し、横浜 Dena ベイス

ターズとなり、中畑清を監督に招聘して生まれ変わる。買収前年には 12 球団 下位だつた

観客数も 14 年には 8 位まで上昇し、毎年約 30 億円と言われた巨額の赤字もほぼ半減、さ

らにチームの順位も中畑清が整えてきた基盤を元にここ近年では 2 年連続 3 位となり、チ

ーム力も着実に上昇してきている。

3-2 ファン数の推移

このような変遷を経てきたベイスターズというチームだが、特に近年では親会社が IT 企

業である Dena になったことが大きな転機だったということが分かる。では TBS から、

Dena になり、ファン数はどのような推移を辿ってきたのか。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

49

ここではファン数の指標になるものとして、観客動員数とファンクラブ会員数のデータ

を見ていく。

まずは観客動員数についてだが、Dena の年間観客動員数は 2017 年、球団史上 多の約

198 万人を記録した。Dena が親会社となった初年度の 2011 年は約 110 万人。この 6 年で

約 88 万人も伸ばし、優勝した 1998 年の約 186 万人をも超える観客数となっている。客

席稼働率も脅威の 96.2%を記録しており、2011 年の 50.4%からほぼ倍増しており、主催

71 試合のうち 63 試合が大入り満員になるなど、チケットが入手しづらい状態が続いた。

そして 5 年間の年間入場者数の伸び率も 75%と 12 球団でも一番の伸び率を記録してい

る。

図 1 観客数(棒グラフ)稼働率(折れ線グラフ)の推移(出典:

https://dena.com/jp/article/2017/11/17/003509/)( 終閲覧日 20180205)

またファンクラブの会員数に関しても 2017 のファンクラブ会員数は 8 万 7503 人にな

り、11 年シーズンの 6427 人と比較すると 13.6 倍に達している。

3-3 主なマーケティング施策

このように Dena の経営改革により、チームは年々ファン数を着実に拡大していってい

る。球場来場者へのインターネットや球場でのリサーチによると、回答者の来場理由のう

ち 33%が「チームが強くなったから」と答えている。一方、残りの 67%の理由を見ると、

「いろいろな新しい取り組みをしている」「ニュースでみたから」「広告が気になったか

ら」というものなどの、事業的な取り組みが評価されていることが分かる。では、このよ

うな結果の裏ではどのようなマーケティング施策があったのだろうか。

業界参入当初、全くデータがなく為す術がない中、初めは話題作りを目指し、「全額返金

チケット」や「シルバー割」「子供割」、さらに「女子割」などの日を作り、その日は女装

立教大学社会学部メディア社会学科

50

でも良いということにするなど、メディアや SNS でのネタ要素を盛り込んだ。その後、

全社員共通の戦略ターゲットを定めるため、データ分析に着手する。そして観客の年齢層

や職業、居住地などを調査したところ、一番多い層として 30~40 代のサラリーマン男性が

浮かび上がる。Dena はこの層を「アクティブサラリーマン」=「仕事が終わってから飲

みに出かけたり、土日もアウトドアやスポーツを楽しんだりする層」と位置づけメインタ

ーゲットに設定した。そしてこの層に向けた様々な施策を打っていく。企画としては試合

後にチケットを持っている人なら誰でもグラウンドで遠投を体験できる「おやじだらけの

遠投大会」や、昔、野球をやっていた人たちをターゲットにした「夢のプロテスト体

験」、さらに球場では「ビール半額デー」を設けたり、大人数でワイワイ観戦を楽しめる

「BOX シート」を設けたりした。さらにアクティブサラリーマンへのアプローチを基軸

に、女性ファンの獲得にも力を入れており、球場の周りに人気のスイーツを楽しめるカフ

ェスペースを設け、チョコレート食べ放題もできるイベント「ショコラガーデン」を開催

したり、女性ファンのためのイベント「YOKOHAMA☆GIRLS FESTIVAL」を初開催。

来場した Dena ファン女性全員に、この日のために特別に用意したパステルカラーのユニ

フォームをプレゼントしたりしている。

そして Dena は横浜スタジアムを、野球をきっかけに街のいろいろな人達が集まるコミ

ュニティにしようという考えの元、「コミュニティーボールパーク化構想」といったコン

セプトを打ち出し、純粋なエンターテイメント空間として、人々に野球場に行こうという

感覚を持ってもらうことを目指した。その一環として、球場の外でビアガーデンを運営し

たり、「食べて勝!B 食祭」と称して神奈川のさまざまな B 級グルメを集めたりなど多く

のイベントを開催。その中でも特に話題となっているのは、「YOKOHAMASTAR☆

NIGHT」だ。入場者全員に無料で「YOKOHAMA ユニフォーム」を配布し、横浜にゆか

りのあるアーティストの音楽とともに、花火を楽しんだり、スタジアムを消灯しファン全

員でペンライトを点灯したりなどファン参加型のイベントにも力を入れている。

これらの、球場の改修やイベント開催などは顧客満足度を上げるための「スタジアム

内」のことであり、2011 年から 2013 年までの 2 年間で特に注力をしてきた。だが、

Dena はそれだけにとどまらず 2014 年からスタジアムを超えて、街のアイデンティティと

してのプロ野球、横浜 Dena ベイスターズの存在をアピールすることを目指し、「I☆

YOKOHAMA(アイ・ラブ・ヨコハマ)」というキャッチフレーズの浸透を図った。具体

的には街中や商店街の街灯などに掲げているフラッグに「Dena ベイスターズ」と書いて

いたのを「アイ・ラブ・ヨコハマ」に変えたり、老朽化したマンホールを交換する際に、

「アイ・ラブ・ヨコハマ」の文字を入れて街と一体であることを訴えたり、球場の来場者

全員に「アイ・ラブ・ヨコハマ」のステッカーを配ったりしている。今ではヒーローイン

タビューの締めに「アイ・ラブ・ヨコハマ!」と選手とファンが一緒に叫ぶのが恒例にな

っている。他にもチームカラーであるユニフォームの色を「海と港の街・横浜」のイメー

ジに近づけるため、紺色から鮮やかな青に変更し横浜ブルーと名付けたり、横浜のライフ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

51

スタイルに合わせたグッズの制作や販売にも力を入れたりと地域に合わせた施策で野球を

横浜の文化の一つにすることを目指している。

他にも Dena ははさまざまな施策をこの数年間で行ってきたが、それらをジャンルごと

にまとめ整理すると次の表になる。

楽しんでもらう仕掛け

・対戦カードごとのイベントやイニング間のイベントを開

・タレントや芸能人を呼んだ話題作り

・横浜公園のボールパーク化

グルメ

・従来の球場飯の常識を覆すスタジアム飯の開発

・球団オリジナルビールの製品化

グッズ

・デザインに徹底的に拘った製品の開発

・思わずファンが欲しくなる限定グッズの販売

・オフィシャルショップ、オンラインショップの整備

チケット販売

・お客さんが価格を決めることができるチケットの販売

・100 万円チケットの販売

・ファンクラブのリニューアル→ファン区分の細分化、オ

ファーの変更、早期申込みをさせる仕掛け

インターネット

・テレビやインターネットで試合観戦ができるような各種

取組

・ソーシャルメディアを使った情報発信

地域密着未来のファンづ

くり

・市営地下鉄をはじめとする企業とタイアップしての広

告展開

・神奈川県内の子供 72 万人にベースボールキャップの

プレゼント

・横浜市内の幼児を招いての野球大会の開催

・幼稚園や保育園、小学校への訪問回数増加

表 9 ベイスターズ主なマーケティング施策

(出展:http://genesiscom.jp/baystars/)( 終閲覧日 20180213)

Dena のマーケティングの流れを整理すると、初めにターゲットとしてのアクティブサ

ラリーマン層を設定し、それらの動員が増えることで、その層が一緒に連れてきているで

あろう同年代の女性や子供も増え、野球場に多くの属性が足を運ぶ形を作った。そしてさ

らにボールパークを目指し、エンターテイメント性を高めることでその幅広い属性に対

応、その後チームとファンの一体感を高めるため、キャッチフレーズを作り、横浜のチー

立教大学社会学部メディア社会学科

52

ムであることをアピールすることで愛されるチームになり、経営的に成長できるサイクル

をつくった。

これらの施策の数々で、Dena ベイスターズは勝ち負けに限らず、人々に「また来た

い」と思ってもらえる形作りが出来ており、そのためにグルメやグッズ、イベントなど、

野球の周辺にある全てのコントロール可能な領域で提供するサービスすべての質を高めて

いったということが分かった。

4.横浜 Dena ベイスターズとメディア・コミュニケーション

4-1 横浜ベイスターズによる情報発信

情報をスピーディーにファンに提供できる SNS の活用はスポーツチームにおいても必

要不可欠なものであるが、現在横浜 Dena ベイスターズはチームの使用 SNS を

「Facebook」一つに絞っている。その理由としては、ベイスターズは上記でも述べたよう

にターゲットを 20~30 代の男性である「アクティブサラリーマン」と位置づけており、

Facebook を一番活用しているのがこの年代というデータがある。次に、twitter では 140

文字という文字制限があるのに対し、Facebook は文字数の制限がなく動画を投稿するの

も用意であり、ベイスターズの前球団社長・池田純氏は、Twitter や Instagram は余程エ

ッジの利いた投稿でないと拡散の効果は薄いと述べている。さらに 後の理由として、フ

ァンとコメントを通じて双方向のコミュニケーションが可能であるという点だ。球団のリ

リースに対し、ファンが自分の意見を伝えることができるのはファン心理を満たす上で効

果的であり、ブログなどの記事などで意見を述べるより、ダイレクトに伝えることが出

来、当然、その中でいわゆる「炎上」の問題もあるが、ベイスターズはそれも踏まえてフ

ァンの声として拾い上げている。球団としてもファンの生の声を聞くことで、今後の企画

立案に生かすことができる。このようにベイスターズはあえて twitter などの複数の SNS

に手を広げファンが情報を拾いにくくなることを防ぎ、明確なターゲットへ情報のリーチ

を高めている。

また Dena ベイスターズは youtube 上にチャンネルを 2013 年に開設し、運用してい

る。プロスポーツチームが配信する動画は大きく分けて「試合映像」と「それ以外」の 2

種類に大きく分類することができる。「試合映像」はハイライトや好プレー・珍プレーな

どがあげられる。もう一方は普段見ることが出来ない舞台裏の様子や、中長期間追って制

作するドキュメンタリー映像、選手の素顔が見えるインタビュー映像などが挙げられる。

ベイスターズの youtube チャンネルでは特にこのもう一方のコンテンツの方に力が入れら

れており、ドキュメンタリーに関しては 2012 年からシーズン終了後に映画館などで公開

しており、ファンとの接点を創出している。

他にも横浜 Dena ベイスターズはネット中継にも力を入れており、いつでも、どこでも

試合を見れるようになっている。現在ニコニコ生放送、SHOWROOM、DAZN、スポナビ

ライブ、AbemaTV といった 5 つの放送チャネルで横浜 Dena ベイスターズの試合を見る

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

53

ことができ、今後もネット中継のプラットフォームを広げていく方針である。背景には以

前の地上波で野球が感染できた頃からモデルが崩れつつあり、ネット中継の充実が全国に

ファンを増やしていく上で重要であることがあるといえるだろう。

4-2 ファンによるメディア・コミュニケーションの場

次にファンにおけるメディア・コミュニケーションの場だが、それらが顕著に現れてい

る場として、twitter や 5ch、上記のネット中継の放送チャネルの中でのコメント欄等があ

る。その中でも特に活発といえるのは twitter であり、「#baystars」のタグを用いて

日々、ファンたちの間で情報のやり取りが行われている。特に、プロ野球のシーズン中で

あれば試合中にタグを用いたタイムライン上での実況が行われており、ベイスターズが勝

った際には、「横浜優勝」とツイートする文化が存在している。実はこの「横浜優勝」と

いう言葉には歴史があり、由来は 2003 年シーズンにまで遡ると言われている。ペナント

終盤、横浜対ヤクルトの試合に、1 位の阪神の優勝がかかったことがあり、阪神のマジ

ックは 2 で、優勝の条件が「阪神が勝利し、横浜がマジック対象チームであるヤクルトに

勝つ」ことだった。結果として阪神も横浜も勝利し、ネット上では「横浜が勝ったために

阪神の優勝が決定した」略して「横浜優勝」という言葉が飛び交った。かくして、横浜の

1 勝を祝う「横浜優勝」という言葉が誕生したわけだが、この言葉が本格的に流行りだし

たのが 2012 年〜2013 年頃であり、その頃はまだ横浜が 5〜6 位を行ったり来たりする苦

しい時期であり、ファンの間では「横浜優勝」には「本当の優勝は祝えない」という悲哀

も感じられた。しかし現在ではチームも着実に力をつけ、2 年連続 3 位で A クラスに入

り、優勝も現実的になってきたこともあり、後付で「横浜優勝」の意味合いが「横浜が優

れているから勝った」という純粋にポジティブなワードとして捉えられることが多くなっ

た。2012 年から流行りだしたこの言葉だが、 近では、ナイターの時間帯などは twitter

のトレンド上に「横浜優勝」「#baystars」のワードが入ることが頻繁に見られ、より

twitter 上におけるコミュニティーが確立されつつあることが強く実感できる。

RiteTag というハッシュタグの分析に特化したツールを用いて「#baystars」のハッシュ

タグ分析を行ってみると、図2のようになった。分析した時点(2018 年 2 月 13 日)では

プロ野球はオフシーズンであり、タグを用いた投稿は比較的少なかったが、実際にキャン

プの中で阪神との練習試合が行われた 2 月 10 日を見てみると、ハッシュタグの含まれた

ツイートの閲覧数が大きく伸びていることが分かる。このことからも twitter におけるフ

ァンの発信、コミュニティーが形成されるのは主に試合中であるということが言えるだろ

う。

立教大学社会学部メディア社会学科

54

図 2 RiteTag を用いた「#baystars」のツイート投稿数と閲覧数と RT 数

またネット中継の中の AbemaTV では視聴者のコメントに応じて、解説者が片方のチー

ムに肩入れをしたり、提供される情報に反応して視聴者同士がエピソードトークを展開。

その風貌から「プーさん」と親しまれる宮﨑敏郎選手の打席になるとはちみつの絵文字が

並んだりと、特有の文化が存在している。いままで同じような場として、ニコニコ生放送

のベイスターズチャンネルがあったのだが、プレミアム会員でなければ画質もあまりよく

なく、また視聴者数に限りがあり、プレミアム会員が優先されるため、無料会員は試合の

途中で生放送が見れなくなってしまうことがあるなどの弊害があった。それもあり、完全

無料で、視聴者数に限りもなく、なおかつ画質もきれいな、AbemaTV に人が流れ、ニコ

ニコと同じような文化が構成されたと考えられる。現在 abemaTV では一試合あたりの平

均アクセス数が 60 万を超え、コメント数はたびたび 100 万を超えている。

5.今後の論文執筆に向けて

ここまで、現状をメインに扱ってきたわけだが、その中でもベイスターズにおける

CMC でのコミュニティー形成を探る上で、マーケティングとの関わりがあると考えた場

合、ターゲットにしている 20~30 代のアクティブサラリーマンの SNS の活用の仕方、テ

ーマパークとしての球場においては、他のエンターテイメントでの参加者の SNS の使い

方、またリアルでの地域との一体化と CMC でのコミュニティー形成の関わりなど、掘り

下げたい部分が数多く出てきた。だがこれらの理論はすべて仮設の入り口でしかなく、ベ

イスターズのファンコミュニティー形成において実態として存在しているものはどれか見

極めるための要素を出していくことが今後の作業において必要となる。そしてその見極め

る際に照らし合わせることになるのが、先行研究から見つけ出す理論であり、今後先行研

究を当たるうえで、「コミュニティー誕生」や「エンゲージメント」「ファン研究」につい

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

55

ての理論の理解を深めていくことが必要不可欠になってくる。またコミュニティーの形成

と強化がみられる時期を見極める上で必要なのが、ツイート量を表す定量的なデータであ

り、今後例えば「#baystars」を含むツイート量の時期ごとの推移のデータを

socialinsight のようなツールを用いて獲得する必要があり、そこが一つの課題とも言える

だろう。他にも CMC でのコミュニティー形成の疎い他球団や、他スポーツとの現状面に

おける比較をし、要因となる実態を引き算し、よりコミュニティー形成を行う上での要因

となったものを明確に絞り込んでいく作業もやっていく必要がある。さらに現時点で要因

の一つになると考えている放送チャネルの多さに関しては、間接的なスポーツ観戦的な役

割を果たしており、コミュニティーが一番盛り上がるのも試合中であることがわかったた

め、そのあたりの先行研究にも当たっていきたい。他にも人気球団におけるファンコミュ

ニティーの役割に関しては、私の中での想定としてギデンスの構造化理論的な要素がある

のではないかという仮設があるので、それについても検証していく必要がある。ベイスタ

ーズファンになるまでの過程の調査に関しては、上記のことを検証し結論づけた上で、そ

れらを参考にしたアンケートを作成し、横浜スタジアムに訪れる人々に実際にアンケート

を行うフィールド調査を用いて明らかにしたいと思う。

春から始まる卒業論文演習における読書ノートでは、先行研究の調査になる文献をしっ

かりと選定し、無駄のない情報収集を行っていきたい。

参考資料

【文献】

・池田純 (2016)「空気のつくり方」幻冬舎

・株式会社横浜 Dena ベイスターズ (2014) 「次の野球」ポプラ社

【ネット資料】

・NPB 日本野球機構 http://npb.jp/bis/teams/yearly_db.html 終アクセス 2018-02-

06

・ITmedia マーケティング 2017-10-23 「横浜 dena ベイスターズが 5 年間で来場者数

を 76%増やすためにやったこと」

http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1710/23/news038.html 終アクセス 2018-

02-03

・abematimes 2017-5-27「横浜スタジアムの観客数を球団史上 高に導いた Dena ベイ

スターズ部長の「顧客戦略」」https://abematimes.com/posts/2436117 終アクセス

2018-02-03

・日本経済新聞 2017-11-8「ベイスターズの観客動員過去 多の 198 万人に」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23256210Y7A101C1L82000/ 終アクセス

2018-02-03

立教大学社会学部メディア社会学科

56

・abematimes 2017-4-04「横浜 Dena 球団初の観客動員 200 万人超えへ初年度 110 万人

から 5 年で 194 万人に」https://abematimes.com/posts/2212542 終アクセス 2018-

02-05

・yahoo!マーケティングソリューション 2017-2-21 横浜 Dena ベイスターズはどうファ

ンを増やしたかーデータ使い方

https://d-marketing.yahoo.co.jp/entry/20170221438428.html 終アクセス 2018-02-05

・diamond online 2015-6-5「横浜 Dena に学ぶ「極上のおもてなし」戦略」

http://diamond.jp/articles/-/72714?page=3 終アクセス 2018-02-05

・nipponmarketers 2014-4-9「コミュニティボールパーク化構想」そして「スタジアムを

超える」

https://nipponmkt.net/2014/04/09/takurami-09baystars_ikeda02/ 終アクセス 2018-

02-08

・マーケの教科書 2017-9-4「横浜ベイスターズに学ぶターゲット戦略。データを活か

し、ターゲット設定をより精緻に」

http://genesiscom.jp/baystars/ 終アクセス 2018-02-08

・日経ビジネス online 2015-9-2「ベイスターズ、集客 6 割アップの秘密」

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/083100044/?P=2 終アクセス

2018-02-08

・advertimes 2017-5-31「常識を超えるマーケティング発想が求められている」

https://www.advertimes.com/20170531/article251669/ 終アクセス 2018-02-11

・nikkei style 2017-4-3「DENA ベイスターズ地域に愛される球団づくりの舞台裏」

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO14592680Y7A320C1000000?channel=DF2204

20167276 終アクセス 2018-02-11

・abematimes 2017-8-14「勝てば毎回「横浜優勝」Twitter 上でトレンド入りする 4 文

字の由来」https://abematimes.com/posts/2793999 終アクセス 2018-02-11

・sposqu web 2017-1-20「横浜 Dena ベイスターズに学ぶ SNS 活用の極意」

http://sposqu.net/column/68/ 終アクセス 2018-02-11

・カナロコ 2017-8-2「ベイスターズのネット中継が大盛況 12 球団トップの 5 社が配信

中」 http://www.kanaloco.jp/article/268339 終アクセス 2018-02-11

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

57

大学生の流行における記号的消費とインフルエンサーの影響力

要旨

大学生の流行の伝播メカニズムは SNS の登場によって、大きく変化した。本研究

では、大学生の流行、特に記号的消費の側面と媒介となるインフルエンサーの影響力

について研究を行う。

大学生は流行についての情報源として SNS を活用しており、流行についての情報

発信・受信を誰しもが行い、インフルエンサーの役割を果たす双方向的なネットワー

クが形成されているのではないか。また、流行の消費においては記号的消費は見られ

ないが、SNS への流行についての投稿という行為が記号論的意味付けの役割を果たし

ているのではないかという仮説を立て検証を行う。

また、研究にあたり、流行についての先行研究やファッションなどの流行の歴史を

使って分析していく。また、木村ゼミの 2017 年度社会調査やインタビュー調査など

を行い、実際の大学生の流行についての実情も分析していく。

キーワード:流行、記号的消費、インフルエンサー、シミュラークル、共感的消費

1. 序論

1-1.研究主題

近年登場した SNS は私たちの生活、特に大学生の生活そのものを大きく変化させたとい

える。Twitter の国内利用者数は、2018 年 2 月現在約 4500 万人、Instagram の国内利用者

数は 2018 年 2 月現在約 2000 万人を突破している。SNS の登場によって社会的に注目され

るようになった「いいね!」や「インスタ映え」といった言葉は、もはや流行語の域を超え、

私たちの生活に定着した言葉となってきている。また、SNS を通じて食やファッション、

お笑いなど様々な文化が社会へ広まっていった。

私たちの生活を取り巻く社会現象の一つとして流行がある。過去から現代に至るまで、

様々な事象や文化が流行してきた。ファッションや食といった消費行動の流行はその典型

例であるだろう。1990 年代に流行したルーズソックスは、その後も社会に広まり、現在に

おいてはファッションの一つとして、社会に広く受け入れられたものとなっている。

近年 SNS の登場により、流行の形が大きく変化していると考えられる。従来、ファッシ

ョンなどの消費の流行は、主にマスメディアを介して社会へと広まっていた。テレビや雑誌

といったメディアが、ある文化や事柄を取り上げることによって社会へ伝搬していくとい

う流れが一般的であったのだ。だが、SNS が登場し、誰しもが気軽に情報発信することが

立教大学社会学部メディア社会学科

58

可能になったことで、マスメディアを介せずに流行が社会に広まるという変化が起きるよ

うになった。

本研究では、流行の中でもファッションや食といった消費の流行に注目し、大学生と流行

の関係を研究していく。その中で、流行の記号的消費とインフルエンサーの影響力の 2 つ

に注目して研究を進める。

また、研究を進めるにあたり立教大学社会学部木村ゼミが 2017 年に行ったメディアの利

用状況などを聞く社会調査のデータを用いる。

1-2.問題意識

古来、流行はジンメルらが唱えたトリクルダウン仮説のように、階層間移動を伴ったもの

であった。これらの階層間移動を伴った流行は、記号的消費の意味合いが強いものであった

といえる。衣服はその典型例として挙げられ、社会的階層が強く存在していた時代では、衣

服は自分の階層を強く反映したものであった。スーツやジャケットなども元は貴族などの

上位階層の人が身につけるものであったが、時が経つに連れ、一般階層にも広まっていった。

こうした階層間移動を伴う過程が流行のメカニズムの一つであったといえる。その後、目に

見えるような階層は存在しなくなり、マスメディアが登場すると、流行は雑誌やテレビなど

のマスメディアを通じて、より広域に拡散されるものとなっていった。この時代においては、

ラザースフェルド(Lazarsfeld)の提唱した「コミュニケーションの 2 段階仮説」が流行に

も見られるようになったり(中島 1998)、マスメディアが取り上げることによる記号付け

が見られるようになった。

だが、SNS・インターネットの登場により、流行の構図はさらに大きく変化したと考えら

れる。まず、記号的消費や機能的消費だけでなく、共感的消費という新しい形の消費が登場

したことが影響を与えていると考えられる。これは SNS の「いいね!」に見られるように、

商品などへの共感、友人の口コミへの共感などによって起こる消費のことを指す。また、世

間に大きな影響力を与える行動を行う人を意味するインフルエンサーが大きく注目される

ようになった。SNS などにより、情報発信が双方向化したことで、従来マスメディアが務

めていた流行の媒介の役割を一般市民も務めることが可能になった。

私は、共感的消費によるものが増えている大学生の流行において、インフルエンサーはど

のような影響力を持った存在なのか、そしてどのような人や存在がインフルエンサーとな

っているのかを調査したと考えた。

1-3.リサーチクエスチョン

本研究にあたり、以下の 3 つのリサーチクエスチョンを立てた。

RQ1「流行の消費を SNS に投稿するという行為は記号論における記号付けの意

味合いを持っているのか」

現在の大学生の消費の流行においては、共感の感情によって生まれる共感的消費が増加

している。そのため、大学生の流行において、ステータスを買うという意味合いでの記号的

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

59

消費は薄れている。共感的消費が増加したと考えられる要因として、SNS が発展したこと

で、自分が接触する情報の取捨選択が容易になり、「いいね!」などの機能の登場で、人と

共有・シェアするという感覚がより身近なものになったことが挙げられる。

だが、流行の消費行動を行った後の SNS への投稿という行為がステータスを消費したと

他者に誇示する記号付けの意味合いを持つようになり、記号的消費の傾向が見られるので

はないかと考えた。

RQ2「大学生が流行についての情報を得る情報源は、マスメディアから SNS へ

と移行しているのか。また、流行の媒介となるインフルエンサーは芸能人などの

社会的影響力の強い存在から SNS に投稿する一般人へと変化しているのか。」

SNS において膨大な量の流行に関する情報が発信されるようになったことで、従来のテ

レビや雑誌などのマスメディアの流行の情報源としての役割は SNS へと移行したと考えら

れる。また、近年マイクロインフルエンサーという言葉が広く認知されているように、イン

フルエンサーの役割は一般人へと移行していると考えられるため、このリサーチクエスチ

ョンを立てた。

RQ3「流行に関する現代の大学生のネットワークにおいては、誰しもが情報の発

信者かつ受信者となる双方向的、脱中心的なネットワークが形成されているの

ではないか。」

RQ3 の先行研究として、電通報(2016.3.2)『「SNS 映え」の分析から見えてくる若者の情

報行動「シミュラークルモデル」』が挙げられる。この中で、写真や動画を用いたビジュア

ルコニュニケーションが主流となった現代の若者間でのトレンドの広まり方について以下

のように述べられている。

従来の“マス型”や“インフルエンサー型”のように、ある起点から情報が発信・拡

散されてヒト・モノ・コトが動くのではなく、オリジナルの情報源が不明のまま、いつ

の間にか多くの人が共感を抱き体験をコピーしていく“シミュラークル型 ”という新

たな情報伝達のモデルが誕生しました。重要なことは、この三つのモデルは単線的に移

行するわけではなく、共存するということです。

このように若者の間の流行の伝播ネットワークにはシミュラークル型が存在していると

述べられている。私は、現在の大学生では、マスメディアのような一方的に情報を発信する

メディアの影響力は小さくなっていると感じた。また、インフルエンサーもモデルのような

比較的社会的影響力を持つ存在ではなく、一般人が自分の投稿を目にする身の回りの人に

影響を与えていく程度のネットワーク、影響力をあまり持たないインフルエンサーが無数

にいるという形が現代の流行モデルの中心になっているのではないか。すなわち、大学生の

間で、双方向的に流行の情報のやり取りが行われることによって、流行が形成されていく双

立教大学社会学部メディア社会学科

60

方向的であり、脱中心的なネットワークが形成されているのではないか、これらのことより、

RQ3 を立てた。

2.流行とはなにか

2-1.流行の定義

本研究を進めるにあたり、まず初めに本研究の主題である「流行」とは何かについて整理

していく。

一言に流行といっても、対象となる事象は様々である。ファッションなどはもちろんのこ

と、言葉や色に至るまで多種多様な事象が流行してきた。中島(2013)によると、流行という

言葉はもともと医学的に使われてきたものであった。流行を表す英単語の中に epdemia

という単語があるが、この単語は感染性の病気が広がっていく様子を表した専門用語であ

った。その後、社会文化的な現象の広がりを表す意味を持つようになっていったとされてい

る。医学における流行の特徴として、「一定の集団内・同一の型・通常頻度以上」の 3 つが

存在していた。

次に現代における流行の定義を見ていくと、広辞苑では流行を「流れ行くこと、急にある

現象が世間一般にゆきわたり広がること、衣服・化粧・思想などの様式が一時的にひろく行

われること、はやり」と記している。中島(2013)では、流行の定義を電通マーケティング局

(編)(1982)の定義を引用し、「時間的・空間的な集中によって起こる社会現象」と定義付けし

ている。この場合の時間的な集中とは「一時的」「短期間」といった時間的特性のことを指

し、空間的な集中とは「広くゆきわたる」「通常頻度以上」といった空間的範囲内での凝縮

的特性を指す。

また、藤竹暁編(2000)の中で、川本勝は流行現象の特質として以下の 5 つを挙げている。

① 新のものである

② 一時性、短期性

③ その時代の社会的・文化的背景を反映している

④ 瑣末性(重要でない小さなこと)

⑤ 一定の規模を持っている

以上のことより、本研究では流行を「ある現象が一時的に社会に広くゆきわたること」と

定義付ける。

2-2.流行の歴史

2-2-1.マスメディア登場以前

ここでは、流行についての先行研究を多くまとめた中島(2013)に基づき、流行という現象

の歴史と特徴について分析していく。古典的な流行研究として、フランスの社会心理学者

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

61

ル・ボン(Le Bon)が挙げられる(ル・ボン 1993)。ル・ボンは流行の伝播過程について

群衆心理によって病気が他者に感染するように、群衆へと広まっていくという感染説を唱

えた。ここでは、群集心理は暗示、感染、模倣という 3 段階によって生じるとされた。

一方、フランスの社会学者のタルド(Tarde)は流行という人々の社会的行動の大きな要

因が模倣である模倣が流行現象の主要なメカニズムであるという模倣説を唱えた(タルド

2007)。ここでいう模倣とは、個人の内部から外部への模倣であり、下流階級の人による上

流階級の模倣であった。この階層間での模倣は、上流階級の人の文化というステータス、記

号を獲得しようとする記号論的意味合いがあったと考えられる。

マスメディア登場以前の流行研究としてもう一つ重要なのが、ジンメル(Georg Simmel)

の研究が挙げられる(ジンメル 1979)。ジンメルは流行によって人々は他者に同調する欲

求と共に、他者との区別や差異化の欲求を満たすという同調化と差異化を唱えた。また、流

行とは常に階級的なものであり、上流階級の生活様式やファッションといった文化に中産

階級や下層階級が憧れを持ち、模倣することで上から下へと流れていく、トリクルダウンが

起こることによって発生するというトリクルダウン説を唱えた。また、上流階級の人々は自

分たちの文化が模倣によって流行すること、自分たちのアイデンティティが失われるよう

になり、新たな上流階級の特徴となる文化を生み出すようになるとも考えられた。

このように、マスメディア登場以前の流行研究においては、階層間移動を伴った模倣は流

行が発生する要因の一つとして考えられていたといえる。また、上流階級の文化というステ

ータスを模倣し獲得しようとする動きは、記号的消費の意味合いがあったといえるだろう。

2-2-2.マスメディア登場以後の流行研究〜ラザースフェルドの 2 段階仮説〜

社会的階層分けが以前より意識されなくなり、ラジオやテレビといったマスメディアが

社会に登場すると、流行、そして情報の伝播メカニズムは大きく変化した。

アメリカの社会学者ラザースフェルドはコミュニケーションの 2 段階仮説を提唱した。2

段階仮説とは、マスメディアなどの情報源が発した情報がまず情報接触度の高いオピニオ

ンリーダーへ流れ、そこから一般の受け手にも伝わる、つまり 2 段階で情報が伝わるとい

う仮説のことを指す。この 2 段階仮説は流行における情報の伝播過程においても見られる

ものである。

流行の伝播過程にマスメディアが関わることでいくつかの変化が生まれた。マスメディ

アが発信する情報を意図的にコントロールできるようになったことで、流行をある程度人

為的に生み出すことができるようになったという変化である。また、従来存在していた流行

の階層性をうすめ、一つ一つの流行のサイクルが早まったと考えられる。記号論から流行を

見た場合、マスメディア登場以前では、模倣することによって流行を消費する本人たちが記

号を獲得しようとしていたと捉えられるが、マスメディアが登場したことで、マスメディア

が発信する情報に記号付けをすることが可能となった。こうして、マスメディアによってつ

けられた記号を元に、消費者は流行の記号的消費を行うようになったといえる。

また、ラザースフェルドの 2 段階仮説におけるオピニオンリーダーは、現代の流行研究

立教大学社会学部メディア社会学科

62

においても多く述べられているインフルエンサーと似た存在であると考えられる。インフ

ルエンサーの定義について詳しくは後述するが、インフルエンサーとは世間に大きな影響

力を与える行動を行う人を指す。オピニオンリーダーのマスメディアと一般人の間の媒介

となって、一般人に影響を与える人であると考えられるため、この二つの言葉はほぼ同義で

あるといえるだろう。だが、現在のインフルエンサーについての言説では、インフルエンサ

ーは芸能人やモデルといった人物であることが多いのに対し、2 段階仮説におけるオピニオ

ンリーダーは情報接触度の高い一般人である場合が多いと考えられるため、この違いにつ

いては留意すべきだと思われる。

3.SNS と流行

本章では、現在の大学生の接触量が一番多く、大学生の生活に大きな影響を与えていると

考えられる SNS と流行の関係性について分析していく。なお、分析を進めるにあたり、SNS

の中でも Instagram と Twitter に注目し分析を進める。

3-1.消費の 3 類型

SNS の登場により、私たちの消費の形が変わったと言われている。従来、消費には機能

的消費と記号的消費の 2 類型があるとされていた。

機能的消費とは、ものの機能を買うという意味の消費を指す。例えば、車であれば燃費な

どの純粋な機能、服であれば保温性や通気性などのものが持つ機能を買うという意味で消

費を指す。例えば、ユニクロのヒートテックといった機能に代表されるようにファストファ

ッションは近年における機能的消費であるといえるだろう。

記号的消費とは、反対に純粋なもの機能というよりは、そのものを買うことによって得ら

れる社会的ステータスや記号を獲得することが目的となっている消費のことを指す。この

考えは、ボードリヤール(Baudrillard)が『消費社会の神話と構造』の中で述べた考え方

である。ブランドものを持つことによって「自分はこのブランドの商品を持てる人間なんだ」

とアピールするような消費がこれにあたる。

だが、藤村(2018)では近年この記号的消費が減ってきていると論じている。その背景と

して、SNS の登場により私たちの生活が他者に可視化することで、ブランドといった記号

付けされた自分を演じ続けることが難しくなっているからではないかと考察している。

近年 SNS の登場により、この 2 類型だけでなく新たな形の消費、共感的消費が注目され

ている。SNS において「いいね!」や「お気に入り」といった機能が登場することで、人

と共有するという感覚、シェアするという感覚がより身近なものとなった。その現代におい

て、消費の際に重視されているのが、ある人に共感したから、ある商品に共感したからとい

った感覚であり、これが共感的消費である。例えば、友人の SNS での商品のレビューの投

稿を見て、共感することで起こる消費などが挙げられる。

共感的消費の機能的消費、記号的消費には無い特徴として挙げられるのが、消費が双方向

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

63

的、両面的であるという点である。機能的消費や記号的消費では、メーカーやマスメディア

が提示した機能や社会的記号を消費者側が消費するという一方向的な行動であった。だが、

共感的消費ではあるものに共感することによって消費をする人、SNS などに投稿を行うこ

とで他者の共感を促す人と双方向的なコミュニケーションが生まれている。さらには、何か

に共感し消費を行った人が、そのものについてもしくはまた別のものについての情報を

SNS などで発信するというように、発信者と受信者の立場が幾度となく入れ替わるという

点も従来の消費にはなかった点である。このように共感的消費を基本として、双方向的なネ

ットワークが築かれるという点は、SNS を通じた消費の特徴であるといえるだろう。

こうした双方向的なネットワーク形成は、流行の伝播にも見られる。ある社会現象に関す

る情報発信が SNS 上で行われ、それを見た別の人が消費を行う。さらに自らその社会現象

についての投稿を行い、また別の人に影響を与えていく。こうして流行が拡散していくとい

うモデルが現在の SNS を通じて発生した流行の特徴であるといえる。また、情報発信を行

う人それぞれが影響力の小さなインフルエンサーとして伝播を行うというネットワークが

形成されているのではないか。

図 1:ラザースフェルドの 2 段階仮説における情報の伝播のイメージ

マスメディア(情報発信)

オピニオンリーダー(媒介)

一般人(情報受信)

立教大学社会学部メディア社会学科

64

図 2:シミュラークル型ネットワークの情報の伝播のイメージ

4. 2017 年度木村ゼミ社会調査に基づく分析

本章では、立教大学社会学部木村忠正ゼミが 2017 年に立教大学生を対象として行った社

会調査を元に、大学生における流行の実態について分析を行う。調査概要は以下の通りであ

る。

調査名:メディアコミュニケーション論・社会調査

調査主体:立教大学木村忠正研究室

調査時期:2017 年 11 月

調査方法:Google Form 上での回答

調査対象:2017 年後期「メディア・コミュニケーション論」受講者

調査有効票:264 票

現役の大学生を対象とし、メディアの利用状況やそれに伴う意識を調査したものであり、

本研究を進めるにあたり、データを活用できると考えられる。

下の図 3〜5 は問 16 各メディアの性質を聞く質問の「何かを購入する時の情報源」の 1

位から 3 位の回答割合を円グラフにしたものである。図を見ると、SNS、特に Instagram

と Twitter はテレビと雑誌、いわゆるマスメディアよりも高い回答割合を示していることが

わかる。

一般人

一般人一般人

受信と発信

受信と発信

受信と発信

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

65

図 3:問 16「何かを購入する時の情報源」の割合

また、下の表 1 は問 21 商品・サービス購入の際にどのような口コミサイトを利用するか

の質問の「SNS」の項目と問 17 商品・サービス購入のきっかけとなる影響力の強さを聞く

質問の「友人の SNS での投稿」の項目のクロス集計表である。

表1:問21口コミサイトの利用「SNS」と問17友人のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

問17友人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問21 SNS する 度数 112 30 142

問21 SNS の % 78.9% 21.1% 100.0%

しない 度数 76 45 121

問21 SNS の % 62.8% 37.2% 100.0%

合計 度数 188 75 263

問21 SNS の % 71.5% 28.5% 100.0%

*漸近有意確率…0.4%

表 1 からもわかるように、商品・サービス購入の際に SNS を利用する人ほど、友人の

SNS での投稿の影響力が強いと回答している傾向があることがわかった。また全体で見た

場合も、友人の SNS での投稿の影響力が強いと回答した人は 71.5%と高い割合を示した。

このことから、調査対象の大学生においては、商品・サービスの購入の際に SNS が活用さ

れており、さらに SNS の中でも友人の SNS での投稿は消費行動に大きな影響を与えてい

1%

28%

1%

15%

38%

7%9%

2%1%

19%

2%

19% 19%

11%

16%13%

3%

12%

7%

22%

14% 12% 14%17%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

1位 2位 3位

立教大学社会学部メディア社会学科

66

ることがわかった。消費行動の際に情報源として活用されているということは、ファッショ

ンなどの消費に関する流行についての情報を集める際にも SNS が活用されていると推察で

きる。

また、商品・サービス購入の際に影響力を持つということは、インフルエンサーが持つ役

割と同じものであり、この場合 SNS へ投稿をした友人がインフルエンサーの役割を担って

いるといえる。このことは、RQ2 で挙げた社会的影響力をあまり持たない一般人がインフ

ルエンサーへと変化しているという考えを立証したものであると考えられる。それ以外に

も、友人の SNS での投稿が実際の対面でのコミュニケーションに近いものであると受け取

られている可能性が推察できる。

下の表 2 は問 24-1-2「流行っているものが気になり、流行によく乗る」という質問と問

21 商品・サービス購入の際にどのような口コミサイトを利用するかを聞く質問の「SNS」

の項目のクロス集計表である。

表2:問24-1-2流行の関心度合いと問21口コミサイトの利用「SNS」のクロス集計

問21 SNS

合計 する しない

問24-1-2 流行っているも

のが気になり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 75 45 120

問24-1-2 流行っているも

のが気になり、流行によく

乗る

62.5% 37.5% 100.0%

あてはまらない 度数 67 77 144

問24-1-2 流行っているも

のが気になり、流行によく

乗る

46.5% 53.5% 100.0%

合計 度数 142 122 264

問24-1-2 流行っているも

のが気になり、流行によく

乗る

53.8% 46.2% 100.0%

*漸近有意確率=1.0%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

67

表 2 からわかるように、SNS を消費の情報源として利用する割合は問 24-1-2 に「あては

まる」と回答した人、すなわち流行に敏感な人ほど高い傾向があることがわかった。

下の表 3〜5 は SNS の投稿にさらに注目し、問 24-1-2 流行の関心度合いと問 17 友人、

芸能人、友人・芸能人以外の人の SNS での投稿の 3 つとの関係を分析するクロス集計表で

ある。

表3:問24-1-2流行の関心度合いと問17友人のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

問17友人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行っ

ているものが気に

なり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 99 21 120

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る82.5% 17.5% 100.0%

あてはまらない 度数 89 54 143

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る62.2% 37.8% 100.0%

合計 度数 188 75 263

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る71.5% 28.5% 100.0%

*漸近有意確率=0.0%

表4:問24-1-2流行の関心度合いと問17芸能人のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

問17芸能人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行っ

ているものが気に

なり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 82 38 120

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る68.3% 31.7% 100.0%

あてはまらない 度数 80 63 143

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る55.9% 44.1% 100.0%

合計 度数 162 101 263

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る61.6% 38.4% 100.0%

*漸近有意確率=4.0%

表5:問24-1-2流行の関心度合いと問17友人・芸能人以外のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

立教大学社会学部メディア社会学科

68

問17友人・芸能人以外の

人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行っ

ているものが気に

なり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 70 50 120

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る58.3% 41.7% 100.0%

あてはまらない 度数 55 88 143

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る38.5% 61.5% 100.0%

合計 度数 125 138 263

問24-1-2 流行っているもの

が気になり、流行によく乗る47.5% 52.5% 100.0%

*漸近有意確率=0.1%

問 17 に「強い」と回答した人の中で、問 24-1-2 に「あてはまる」と回答した人と「あて

はまらない」と回答した人の割合の差に注目してみると、友人の投稿では 20.3%、芸能人の

投稿では 12.4%、友人・芸能人以外の人の投稿では 19.8%と、芸能人の SNS での投稿にお

ける割合の差が一番小さいという結果がでた。すなわち、芸能人の SNS での投稿は、受信

側の流行についての情報を得ようとする態度の如何に関わらず、一定の影響を受けるのに

対し、友人・それ以外の人の SNS での投稿は、受信する側の情報を得ようとする態度によ

って受ける影響力が異なることがわかった。

5.今後の展望

現段階では、リサーチクエスチョン立てを含めた序論、本論の第 1 章として想定してい

る流行の定義、歴史の一部分、そして木村ゼミが行った社会調査に基づいた分析を行った。

今後は、量的分析を用いて検証ができる形での仮説立て、流行についてのさらなる先行研究

の分析、記号論、インフルエンサーについての研究が必要であると感じる。

また、今回取り扱った木村ゼミの社会調査だけでは、研究に必要なデータが揃わないと感

じたため、他の社会調査を取り扱ったり、実際に大学生を対象としたインタビュー調査を行

ってもよいのではないかと感じた。また、木村ゼミの社会調査のような、実際のメディア接

触を聞くミクロ的な調査だけでなく、メディアの利用者数や SNS におけるハッシュタグの

件数の推移などマクロ的な面での分析を行う必要がある。

大学生における流行の分析として、ファッションなどの社会現象について注目し、時代ご

との変化をまとめていく方法がいいのではないか。例えば、ファッション雑誌や SNS にお

けるファッションに関する投稿、ハッシュタグなどについて調べることで、大学生の流行の

情報源の移り変わりやインフルエンサーの所在をより明確にできるのではないかと感じた。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

69

また、実際の流行事例を取り上げ、beinsight を用いた分析などを行うことを検討している。

参考文献

日本語文献

ガブリエル・タルド(2007) 『模倣の法則』 河出書房新社

ギュスターヴ・ル・ボン(1993) 『群集心理』 講談社

ゲオルク・ジンメル(1979) 『社会学の根本問題―個人と社会』 岩波書店

ジャン・ボードリヤール(1979) 『消費社会の神話と構造』 紀伊国屋書店

ダナ・ボイド(2014) 『つながりっぱなしの日常を生きる』 草思社

赤阪俊一、乳原孝、辻幸恵(2004) 『流行と社会 過去から未来へ』 白桃書房

電通マーケティング局(編) (1982) 『成熟社会の流行現象』 電通

中島純一(1998) 『メディアと流行の心理』 金子書房

藤竹暁 編(2000) 『現代のエスプリ別冊 生活文化シリーズ 2 流行ファッション』

至文堂

藤村正宏(2018) 『「3 つの F」が価値になる! SNS 消費時代のモノの売り方』 日本経済

新聞社

間々田孝夫(2014) 『消費社会論』 有斐閣コンパクト

ネット資料

植田康孝(2016) 『ファッション・コーディネートのメディア進化〜若者の Instagram 利

用急拡大〜』

https://edo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_

main_item_detail&item_id=653&item_no=1&page_id=13&block_id=21 (アクセス

日 2018 年 2 月 14 日)

電通報(2016 年 1 月 22 日) 『「盛り」と「祭り」から読み解く若者たちの写真シェア文

化』https://dentsu-ho.com/articles/3597 (アクセス日 2018 年 2 月 13 日)

電通報(2016 年 3 月 2 日) 『「SNS 映え」の分析から見えてくる若者の情報行動「シミ

ュラークルモデル」』 https://dentsu-ho.com/articles/3747 (アクセス日 2018 年 2

月 14 日)

森田雅憲 『階級構造のない社会における流行現象の理論』

https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/8074/017061060013.pdf(アクセス日

2018 年 2 月 14 日)

立教大学社会学部メディア社会学科

70

オンラインメディアによって子どもの未来はどう変わるか

要旨 現代では、小学生であっても、スマホなどのオンラインメディアと接触する機会が増

えました。これまでテレビは子どもに悪影響を与えるといわれてきなか、果たしてオンライ

ンメディアは子どもに対してどのような影響を与えるのであろうか。そして、未来の子ども

たちはオンラインメディアによってどのように変化するのであろうか。メディアから受け

る影響を明らかにし、子どもにとって害があると言われているメディアとの、より良い付き

合い方について提案をしたい。

1はじめに

これまで、テレビ(オフラインメディア)は子どもにとって悪影響という話をよく耳にし

てきた。しかし、スマートフォンなどのオンラインメディアの急速な普及、進化により悪影

響の根源はオフラインメディアから、オンラインメディアへと変わりつつあるのではない

かと私は考えている。私には小学生3年生の妹がいるが、その妹も毎日のようにオンライン

メディアを利用し、動画視聴やゲームなどを行っている。過去の娯楽が主にテレビであった

時代から考えると、それだけオンラインメディアが子どもたちにとって、より身近なものに

なっているのではないだろうか。本論文で私が言及したいのは、オンラインメディアがどれ

ほどの影響を子どもたちに対して与えているのかということだ。これまでの時代でテレビ

が子どもにとって悪影響と考えられているのであれば、オンラインメディアも確実に悪影

響となりうるであろう。小学生の妹がいる身としても、オンラインメディアによる子どもへ

の影響がどのようなものなのかということは非常に興味深い。そのような思いから今回の

卒業論文のテーマを決定した。小学生であってもスマートフォンを持つようになった現代

で、子どもはオンラインメディアからどのような影響を受けているのであろうか。また、そ

れらの影響は子どもにとって良いものなのか、それとも悪いものなのか。仮に悪いものなの

であれば、子どもたちはどのようにしてオンラインメディアと付き合っていけばよいのか、

そして我々大人はどのような付き合い方を提示すればよいのだろうか。卒業論文全体を通

して、オンラインメディアによる子どもへの影響を明らかにし、今後の付き合い方を考察し

たい。 終的には、オンラインメディアによって未来の子どもがどのように変化していくか、

そして、オンラインメディアのよりよい利用方法や仕組みを提案し、卒業論文の終着とする。

本論文では、子どもという対象を小学生と限定し、小学生(児童)がオンラインメディア

を利用することによってどのような変化があるかということを中心に考えていきたい。第

1章では先行研究を元に、テレビによる子どもへの影響を考え、児童期におけるメディアと

の関わりを、テレビ中心に過ごした子どもについて考察をする。第 2 章では現状の子ども

のオンラインメディアとの関係について明らかにする。第 3 章では 1,2 章を踏まえたうえ

で、過去と現代の子どもにどのような差があるのかについて言及をする。4 章では、オンラ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

71

インメディア利用による子どもへの影響を、良影響、悪影響の双方から考える。そして 5 章

では、未来の子どもたちが、オンラインメディアを利用することによってどのように変化す

るのかを考え、より良い付き合い方、利用方法を提案する。

2先行研究

子どもがオンラインメディアとどれほど関わっているのかという本題に入る前に、オフ

ラインメディアとの関わり方について考えたい。現在ではテレビはオワコン22と呼ばれ、テ

レビを見ることよりもスマートフォンを利用して動画を視聴することのほうが主流となっ

た世の中になっている。しかし、子どもにとって、テレビが欠かせない存在という時代も過

去には存在する。まずは、同じメディアのなかでもオフラインメディアとして呼ばれる「テ

レビ」と子どもとの関わり方を考えることで、メディアと子どもの関わり方についてより明

確にしたい。

2-0 オンラインメディアとオフラインメディア

本論文では、テレビを「オフラインメディア」、スマートフォンを「オンラインメディア」

と位置付けている。ここでのオフラインとオンラインとは、インターネットに繋がっている

ものをオンライン、つながっていないものをオフラインとする。つまり。インターネットを

介していないテレビという媒体は「オフラインメディア」、インターネットを介して、動画

視聴やゲーム、SNSを利用するスマートフォンなどの媒体は「オンラインメディア」とし

て考える。

2-1 子どもとテレビの視聴実態

はじめに、子どもが一日にどれほどの時間テレビを視聴しているか、ということについて

考える。見る意欲がなくとも、家でテレビがついていることによって視界に入ることや、何

かの作業をしながらテレビを視聴する、いわゆる「ながら見」も含め、子どものテレビの視

聴時間については以下の研究結果23が出ている。なお、本論文では、小学生(6歳~12歳)

のオンラインメディア利用について研究を行うため、オフラインメディアの観点に関して

は、今の小学生の世代が幼稚園生、保育園生であった頃の視聴環境について考える。

22 終わったコンテンツの略。ネット用語として使われるようになった 23中野佐知子『幼児のテレビの視聴時間の減少とその背景』論文

立教大学社会学部メディア社会学科

72

図1からわかることは以下の2点である。

① 2~6歳の幼児は1日に平均2時間のテレビ視聴を行っている。

② 1997年~2013年にかけて、年々テレビの視聴時間が減少している。

1つ目に関して、1日に平均して2時間テレビを視聴するということは、どのような状況

なのであろうか。私が保育園生であった頃の経験を元に考えると、1日2時間という時間は、

子どもの自由時間の半分を占めることとなる。これは、朝8時に起床、9時から18時まで

の9時間を保育園に通園、22時から8時までの10時間を睡眠時間と考えた際に、食事や

入浴を含めた、残りの5時間を子どもの自由時間と考えたときのものである。5時間のうち、

2時間をテレに視聴に費やすということが、果たして子どもにとっての悪影響となるか、現

時点で判断することはできないが、テレビ視聴によって及ぼされる何かしらの影響を鑑み

ると、悪影響となりうるのではないか考えている。しかし、2つ目の考察からもわかるよう

に、テレビの視聴時間は年々減少している。この理由として考えられるのが、保護者の意識

によって、テレビの視聴を制限しようと働きかけていることや、オンラインメディアの発達

が、テレビ視聴そのものを減少させているということである。テレビ視聴の時間が減少して

いる理由に関しては、今後の章で考える。

2-2子どもとメディアの関わり方

第1節では子どもの視聴時間についてみてきたが、テレビ視聴は子どもにとって悪いもの

という考えの元、日本小児科学会からは「子どもとメディアの問題24」に対する提言がなさ

れている。

24 日本小児科学会 2004年発表 (http://jpa.umin.jp/download/media/proposal02.pdf 2/25 アク

セス)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

73

① 2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう

② 授乳中、食事中のテレビ・ビデオ視聴は止めましょう。

③ すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目

安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。

④ 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょ

う。

⑤ 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールを作りましょう。

表1 日本小児科学会 2004年発表

これら 5つの提言から

・「2時間以上に及ぶテレビ視聴は子どもによくない」

・「子供はテレビを除くビデオやパーソナルコンピューター、ゲームなどのメディアと長時

間関わることであっても、良いことではない」

・「子どもがテレビを視聴すること自体が良くない」

ということを読み取ることができる。表1の提言は、小児科学会の「子どもの生活環境改善

委員会」が 1900 人の保育園、幼稚園児に調査を行った結果出たものである。この調査結果

によると、一日に 4時間以上もテレビを視聴する子どもは、4時間未満の子どもに比べて意

味のある言葉が出てくるのが遅れる確率が 1・3倍にもなり、言語理解、社会性、といった

ものにも遅れる傾向があるという結果が出ている。またほかの研究結果からテレビを視聴

することは学力の低下につながる25ということや、連続する一時間以上のテレビ視聴が上記

のような悪影響を子どもに及ぼす26という結果も出ている。つまり、これらの結果を考察す

ると、テレビの長時間視聴は学力や創造力の低下、言語発達の遅れなど、子どもにとっての

悪影響が多くみられる為、子どもにとって、テレビ視聴はさせるべきものではないと判断す

ることができる。オフラインメディアと子どもの関わり方に関しては、悪影響が多々あるこ

とから、させるべきものではないと判断したが、テレビを視聴することは子どもの成長を促

進するため「テレビを視聴することは良いもの」であるという意見も存在する。この意見に

関しては後の章で触れる。

2-3 テレビ視聴と認知能力

第1節、2節ではテレビの視聴時間や視聴方法によって悪影響があるということが判明し

た。では、テレビを視聴するという行為そのものや視聴内容からは、どのような影響を受け

るのであろうか。幼児がテレビを視聴する際には認知能力というものが働く。そして、テレ

25 坂元章『メディアと人間の発達』学分社 2013 年 11 月 26 菅原ますみ 『乳児期の発達と映像メディア接触』

立教大学社会学部メディア社会学科

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ビを視聴する行為、内容によってこれらの認知能力には5つの分類をすることができる。

・消極性理論

消極性理論とは、テレビ視聴は基本的に読書27や勉強28などに比べて常に一方向に効果が

作用するものであり、テレビを見るという行為は心理的に受け身で心的労力が軽いもので

ある。そのためテレビをよく見る子供は心理的に怠け者になりやすく、また読書や勉強、創

造的活動といった心的労力がかかる行動をしなくなる29、というものである。この理論から

考えられることは、近頃問題となっている「子どもの読書ばなれ」の原因がテレビを視聴し

ていることによるものではないかということである。

・ペース理論

ペース理論とは、テレビ番組のペースが速いことで子供の注意力を低下させ、その結果

集中力がなくなり、勉強や創造的活動など集中力が求められる活動ができなくなる30、とい

うものである。この理論から考えられることは、読書や勉強の場合、自分の意志によって進

行し情報を処理するため頭に入ってくる情報量は自然に制御されているが、テレビのよう

に一方的に絶え間ない情報が流されているものの場合、一度にたくさんのテレビから発信

される情報を子供は処理しなければならない。そのため子どもの集中力が続かなくなり散

漫になり、活動ができなくなるということである。

・置き換え理論

置き換え理論とは、テレビ視聴が子供の学力を低下させるということを説明する際

に も多く使われる仮説である。これは、テレビを多く見るようになると、読書や勉強、創

造的な遊びといった子供の認知発達31を促進しうる活動時間が減る32、というものである。

上記でも述べているように、テレビを視聴することが長時間に及ぶと当然、家族と関わる時

間や外で遊ぶといった時間も減る。これらの時間は子どもの成長にとても必要な時間であ

ると考えられる。そういった会話をする時間や考えるという時間、体を動かす時間が減るこ

とによって認知能力にも悪い影響を及ぼすということにつながる。

・視覚化理論

視覚化理論とは、テレビが子供の創造性や想像力に与える影響のことである。テレビに出

てきた画像にとらわれてしまい視聴者が新たなアイデアを生み出せなくなってしまう33と

27 絵本を読むこと 28 読み書きを覚えること 29 坂本章「メディアと人間の発達」学文社、2003 年 12 月、24 頁 30 同註 8 24 頁 31 理解、判断、論理などの知的機能 32 同註 8 25 頁 33 同註 8 25 頁

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

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いうものである。これは身近な例として、集団で何か意見を出し合っているときなどに、他

人が発言した意見が頭から離れなくなり自分も似たような意見しか思い浮かばなくなると

いったものがあげられる。

・暴力視聴理論

暴力視聴理論とは、暴力的描写の視聴によって生じた攻撃的感情が、学力や創造性を間接

的に低下させるというものである34。暴力的描写を見るということは、テレビでの視聴に限

らず、世間的にも良いものではないためにそういった情報が子どもを不安にさせ、覚醒させ

てしまうのだと考えられる。また、「青少年と放送に関する調査研究会」35によると、幼児期

の暴力的番組の視聴は 10 年後の暴力傾向に影響を与えると述べている。

これらの理論からもわかる通り、テレビ視聴という行為そのものだけでなく、子どもの認知

能力に悪影響を与えていると判断することができる。また、学力の低下といった影響だけで

なく、例えば暴力視聴理論のように子どもの精神に対しても悪影響を与える恐れがあると

いうことも判明した。これまで内容を踏まえると、子どもにとってテレビ視聴は絶対的に悪

影響を及ぼすものであり、見るべきものではないと考えられる。

2-4 テレビ視聴とテレビ内容

3節では、テレビ視聴という行為そのものから与えられる影響を、子どもの認知能力とい

う観点からみてきた。テレビ視聴が与える影響については理解することができたが、どんな

テレビ内容であっても、与えられる影響というのは同じなのだろうか。例えば、暴力的描写

が含まれている番組を視聴することで、子どもの攻撃性が増すのであれば、正義のヒーロー

が出演する「仮面ライダー36」を視聴することで、子どもの正義感は増すのではないだろう

か。本節では、テレビ内容によって、影響の違いはあるのかということについて言及する。

4-① 暴力番組と攻撃性

1 つ目の例として「暴力的番組」の視聴があげられる。ここでの暴力的番組とは一般に、

対象となるものの意志に反して意図的に傷つけたり、殺したりする内容を扱っているもの

とする。駒沢短期大学の向田久美子准教授37によると暴力的シーンのあるテレビはこれまで

の研究でその視聴量が多ければ多いほど、子供の学力、創造性、が低くなることが明らかに

されている。これは上記で述べた「暴力視聴理論」に関係している。また、特に創造性の中

でも想像力に関しては多くの研究によって暴力的な番組を視聴するほど、幼児の想像力は

34 同註 8 25 頁 35 『青少年と放送に関する調査研究会』1998 年 発表 36 37 2013 年度まで駒沢女子短期大学の准教授として、社会心理学を主な研究テーマにし研究を進めてい

立教大学社会学部メディア社会学科

76

低くなることが確認されている38。つまり、暴力的番組の視聴量が多い人ほど新しく何かを

創り上げるといった創造能力や、自分が思っていることのイメージを描くといった想像能

力が乏しくなるということである。またこういった暴力を取り扱う番組を視聴時間にかか

わらず、幼児期に視聴することで、その暴力内容や暴力行為に対しての賞罰の有無に関係な

しに暴力は習得され攻撃性が増し、社会性が欠如する39のだ。これらのことから、幼児期か

ら暴力的番組を多く視聴した幼児は社会性の欠如により大人になった時、反社会的行動を

起こしやすくなるのではないかと考えられる。実際に幼児期に多く暴力的番組を視聴した

子どもの多くに、その 10 年後、攻撃性が高くなり暴力的行動が多くみられる40。だからこ

そ幼児の成長にとって暴力的番組は「悪いテレビ」であり、幼児期にこれ視聴するというこ

とは確実に不適切なものなのである。

4-② バラエティー番組とIQ

2 つ目の例としては、「バラエティー番組」の視聴である。バラエティー番組とは、音楽

番組、クイズ番組、お笑い番組など一般的な番組のすべてに該当し、子ども大人と、誰しも

が視聴する番組である。向田教授41によれば、これらの番組の視聴量が多ければ多いほど子

供の IQ は低くなるということがわかっている42。これは子どもだけでなく大人にも当ては

まる。一見、クイズ番組のようなものであれば「考える」という行為をするため IQ の発達

を促進するように思われるが、実際にはこういった番組の視聴時間が長時間に及ぶと IQ の

低下につながってしまうのだ。このようなIQの欠如には「ペース理論」が大いに関係して

いる。「バラエティー番組」のような番組は視聴者を楽しませ、また、飽きさせないために、

多様な場面の切り替えや様々な特殊効果を使用している。それが子どもにとっては瞬時に

情報処理をしなければならないことにつながる。たとえば、フジテレビで放送されている

「ネプリーグ43」の「トロッコアドベンチャー」というコーナーでは、トロッコのような乗

り物に解答者が乗り、トロッコがレールを走る映像を見ながら問題に解答し、正解ならトロ

ッコは進み次の問題へ、不正解ならトロッコは溶岩の中に落ち終了という問題形式で行っ

ているものがある。確かにこれは視聴者にとって見ていて楽しいものであるが、これは、ト

ロッコが画面上を進み続けるという情報や問題の解答によって画面の映像が絶え間なく変

わるという情報などを速い速度で提示しているため、子どもには瞬時の情報処理が必要に

なる。 近のクイズ番組では上記のようなコーナーの問題形式が 1 時間や 2 時間の番組内

容の中で多数使用されている。そういった番組を長時間視聴するだけで大量の情報を処理

しなければならないことになる。その結果注意力が散漫になるのだ。こういったバラエティ

ー番組も子供によっては長時間の視聴に及ぶと、悪影響となりうるのである。

38 坂本章「メディアと人間の発達」学文社、2003 年 12 月、27,31 頁 39 渡辺功「テレビ暴力番組の久弥会的行動に及ぼす効果の実証的研究」国際基督大学 40 同註17 32頁 41 同註 19 42 坂本章「メディアと人間の発達」学文社、2003 年 12 月、27,31 頁 43 フジテレビで毎週月曜日夜 7 時から放送されているクイズ番組

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

77

4-③ アニメと創造性

三つ目の例としては「アニメ」の視聴である。アニメの視聴は子どもの創造性や想像力を

低下させる可能性が示唆されている。たとえば、想造的な遊びを「現在、あるいはすぐ前の

状況には存在しなかった存在や出来事を創造して表現すること」と定義した上で、同性の子

ども 2 人に同じアニメを見せた。その後、一人にはアニメと関係のある人形を渡し、もう一

方にはアニメと関係のない人形を渡したところ、アニメを見てアニメと関係のない人形で

遊んだ子供のほうが、想像力が豊かであった44。これはアニメの視聴後にそのアニメのキャ

ラクターの人形で遊ばせた場合だが、アニメを視聴したことによって想像力が低下すると

いうことにつながっているというのは事実である。これは視覚化理論に関係している。見た

ことのあるアニメのキャラクターだからこそ、どうしても想像するということをせずに、ア

ニメで見たような遊びをしてしまうのだ。アニメは子どもに人気であり視聴をする子供も

多いことから、アニメには悪い効果ばかりではないように思われるが、多少なりとも想像力

が低下するということを考えるとアニメ視聴も子どもにとって悪影響となる「悪いテレビ」

である可能性があるのだ。

44 同註 12

立教大学社会学部メディア社会学科

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消費に関する価値観に SNS はどのような影響を及ぼしているのか

要旨

200~600 字

消費に対する価値観は時代により変化してきた。これまでどのような時代のもとどん

な価値観が形成され、それが消費にどのような変化をもたらしてきたのかを研究した

い。本論文では特に消費行動やその価値観と SNS の関係性という切り口に重点を置

き研究していく。その理由としては、現在の消費活動を考えたとき、SNS の存在は消

費行動や価値観の形成と切っても切れない関係にあるのではないかと考える。そこ

で、価値観や消費行動が変化していく中で、SNS やその前身となるものがこれらにど

のような影響を与えていったのかについて研究していく。

キーワード:5 項目程度

Instagram、Twitter、価値観、マーケティング

1. はじめに 私たちの世代は「ものを欲しがらない世代」などと呼ばれることが多くあった。確かに、

ブランド物を買い集めたりするようなことはしたことがないし、母などの話を聞く限り、そ

のような欲求は昔の方が多かったのだろうなと感じることも多々あるし、実際そのような

映像をテレビで目撃することもある。しかし、私は私たちが「モノを欲しがらない」のか。

といわれるとそうではないのではないかと感じる。趣味にお金を使う友達をたくさん見て

いるし、ご飯を食べに行ったり、旅行に行ったりするなどそれぞれいろいろな楽しみにお金

を使っていると感じるし、だからこそ、今の大学生もバイトをして働いてお金を得ているの

だろうと感じる。では、「モノを欲しがっていた世代」と私たち「モノを欲しがらない世代」

の違いは何なのか。それは、お金を払う対象の変化であると思う。高級品というものを欲し

ていたころと比べても現在はご飯を食べに行くことや旅行に行くことなど様々な使い方が

ある。そして、このようにお金を払う対象が変化しているということは、何にお金を払いた

いと思うかという価値観が変化しているということになるのではないか。さらに、その価値

観の変化には、世の中の動きや環境の変化といった社会的な要因が関係してきていると思

う。そこで私は、これまでどのような時代のもとどんな価値観が形成され、それが消費にど

のような変化をもたらしてきたのかを研究したい。そして、本論文では特に消費行動やその

価値観と SNS の関係性という切り口に重点を置き研究していく。その理由としては、現在

の消費活動を考えたとき、SNS の存在は消費行動や価値観の形成と切っても切れない関係

にあるのではないかと考える。そこで、価値観や消費行動が変化していく中で、SNS やそ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

79

の前身となるものがこれらにどのような影響を与えていったのかについて研究していく。

2.消費に対する価値観の変化

消費に対する価値観や欲求はどのように変化してきたのか。それを考えるうえで「マーケ

ティング 4.0」に関する議論を参考にしながら進めていく。

2-1.マーケティング 4.0 とは

マーケティング 4.0 とは、「自己実現」を意味しており、この自己実現ができるようなマ

ーケティングをしましょう。ということがマーケティング 4.0 である。しかし、昔からこの

マーケティング 4.0 が求められていたわけではない。ここからはこれまで時代ごとにどのよ

うな欲求があり、それに対して、どのようなマーケティングをしてきたかを見ていく。

2-2.マーケティング 1.0

戦前・戦後ではいかに良いものを作るかが重要視されていた。その時代にはとにかく良い

商品を提供することでお客のニーズを満たす必要があった。そのため、製品がマーケティン

グの中心にあり、モノを生産する側や販売する側による製品中心志向な時代であった。良い

商品、つまり機能的にどれほど優れていて、どれほどの価値があるのかを消費者が求めてい

たということになる。

2-3.マーケティング 2.0

およそ 1970 年以降になると、これまで作る側が中心となってより良いものを作っていく

ことが大切な時代から、消費者に満足してもらえるかが重要になってきた。消費者中心のマ

ーケティングが行われるようになったのだ。戦前・戦後が、もっと便利になるためにモノを

欲する時代なのだとしたら、これからは、モノが一通りそろってしまった後にその状態でい

かに消費者の必需を超えたものを訴えかける必要が出てきたのである。これまでが機能的

価値の時代なのだとしたら、この時代は感情的な気持ちの入った価値が必要になってきた

のである。

2-4.マーケティング 3.0

続いてこのマーケティング 3.0 は製品主導でもなく、消費者主導でもなく価値が主導する

マーケティングへと変化して行く。価値が主導するというと少し難しいが、その者がどれほ

ど品質的に優れているのか、性能がいいかではなく、どういった思いがあって作られたのか、

それによりどんな価値を社会に発信できるのかを考えることが大切になっているのである。

例えば考えられる例として、穴をあけるドリルで考えてみる。性能重視で考えていくと、作

られる製品は、例えばドリルの穴が素早く開けられる。などの技術をより発展していく方向

性になっていくことになる。しかし、消費者の視点を入れてみるとたとえば、より安全性を

立教大学社会学部メディア社会学科

80

重視することになるかもしれない。また、ドリルが欲しい理由はただ穴をあけたいだけなの

かという問から、じゃあ穴を開けなくても何かが作れるような強力な接着剤があったらも

っと嬉しいかもしれないというようにお客さんへの思いを乗せた商品を生み出していくこ

とになるかもしれない。そこからさらに一歩進むと、何かを作ることを通してもしかしたら

子供とのコミュニケーションの時間を取りたいと考えてそのために必要となるドリルを買

おうとしたのかもしれない。そう考えると、親子で一緒にモノを作れるキットの開発をして

親子の体験教室を開くことでコミュニケーションの時間をより取りやすくしようという考

えが生まれてくる。このように次第に商品を届ける以上の価値を提供することが求められ

てくるようになる。そして、現在日本がここの段階なのである。

2-5.マーケティング 4.0

では、マーケティング 4.0 とはどのようなものであるのか。マーケティング 4.0 が求めて

いることは、本章の冒頭にもあったように「自己実現」である。そのモノやサービスを利用

することでどんな生活や人生を送りたいのか。どんな自分になれるのかという価値を発信

していくことがこれから求められるようになってくるのである。例えば、ダイエットをした

いという人の目標はダイエットをして痩せることであるけれど、本当の目的は例えば健康

であり続けたいという思いなのかもしれないし、きれいになることで異性からもてたいと

いう欲求なのかもしれない。もしくは、痩せることで自分に自信を持ちたいというためにダ

イエットをしようと思っているのかもしれない。このように、これからは本当はどうしてそ

れをやりたいのかを考えることで、ただ痩せられるダイエット食品を作ればいいだけでも

なくて、スポーツジムで運動をサポートするだけでない、一見わからないニーズを見つけ出

し応えていくことが必要となってくるのだ。SNS という観点から考えると、SNS によりな

りたい自分の姿が広がることや、より個人に特化したニーズが求められるようになる可能

性もあるのではないだろうか。SNS と今後の購買の関係性については、また別の場所で考

えていきたい。

3.価値観の変化と社会環境 前章で見てきたように価値観や私たちが求めるものや欲求は時代に合わせて変化してい

くことが分かった。そして。この変化にはその時の時代背景が必ず影響していると考えた。

そこで、本章では、価値観の変化と時代背景の関係性について考えていく。その際、時代の

基準として前章であげたマーケティングの変化を価値観の変化のタイミングととらえて考

えていきたい。(この章についてはこれから、過去の雑誌を見比べるなどして、広告やキャ

ッチコピー、商品などの流行を調査、判断して年代ごとの価値観の変化を細分化したいと考

えています。また、マーケティングの観点から見ていくと、作り手側や発信者側がメインに

なってくるので、消費者目線での価値観の変化のタイミングをとらえられるようにしたい

です。)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

81

3-1.マーケティング 1.0 とその時代背景

マーケティング 1.0 と言われている 1950-70 年代の日本は高度経済成長期であった。さ

らに 1960 年代にはエネルギー革命が起こったことで、国の土台となる鉄鋼などの産業が発

達していた時代であった。戦後からの復興ということもあり、生活に必要なもの、生活を便

利にするものなど基本的なものに対する需要があったこと技術の進歩が進み新たな製品が

作れるようになったことなどからマーケティング 1.0 のような作り手が中心となった、製

品中心の価値というものが作られていったと思われる。また、買い手の消費に関する価値観

という観点でも、これから日本が成長していき、それを作り上げていくことという使命がは

っきりしている環境の中で生きることは、ものを手に入れる達成感などわかりやすい欲求

を求める事にもつながるのではないか。

3-2.マーケティング 2.0 とその時代背景

マーケティング 2.0 は 1970-1980 年代に主流になった。先進国は経済や技術の発展に伴

って、生活に便利な製品の開発が進むようになった。また、産業廃棄物などによる公害問題

が起こるなどすると、健康問題の観点から消費者の権利を主張するようになった。そうする

と、機能や性能について同じような製品が並ぶようになるとただ製品を中心にしていくだ

けでは売れなくなってしまう。また、1970 年にオイルショックが起こり、物価の高騰が起

こった。そのため需要を生み出すことがますます難しくなったという経済的背景が考えら

れる。また、経済発展で中心となっていた生産者から消費者へと変化していく。そうすると、

消費者のニーズが考えられた製品が揃うようになるため、消費者が自分のニーズを満たす

ような商品を選ぶようになり、その連鎖で、いかに顧客を満足させて、つなぎとめるかが大

切になって来たのだと思う。

3-3.マーケティング 3.0 とその時代背景

マーケティング 3.0 は 1990-2000 年代が当てはまる。この世代は第三次産業革命の1つ

であるインターネットが登場したことが大きな特徴であり、これにより世の中が変わって

くることになった。インターネットが登場したため、消費者が情報を自由に扱えるようにな

った。インターネットにより人と人や、人と企業が簡単につながるようになった。人と人と

がつながることでこれまで例えば広告でも企業から多くの人に伝えるという方法だったの

が、消費者同士がつながることができるようになったことで、企業と消費者の関係性が変わ

って来たのだろう。

また、先進国では自分のニーズを満たす商品もたくさんあり、その需要が飽和してきたこ

とも考えられる。なんのためにこの商品があって、この商品を買うことで自分にとってどの

ような価値があるのかという1つ上の次元の需要が出てきたのではないか。これまでは物

質的な豊かさや生活の豊かさだったことが、心の豊かさを求める人が増えてきたのではな

いか。そのような心の部分の需要が出てきたことで、企業も消費者の心とつながる必要があ

ったのではないか。

立教大学社会学部メディア社会学科

82

3-4.マーケティング 4.0 とその時代背景

マーケティング 4.0 はコトラー氏が 2014 年頃に提唱したものである。人が自分の時間を

コントロールし、管理できるようになったことで、自分の好きなことを追求し続けることが

できるようになってきた。また、情報が多様化したことで人それぞれの好みや価値が重視さ

れるようになった。さらに、SNS といった人との繋がりをつくり、体験したことや価値を

共有することができる仕組みが整ってきている。そうすると、消費を行うことがたんなる消

費体験ではなく、その先の価値を求めての行動になってくるのではないか。例えば誰かとつ

ながるための手段として、または、自分を表現するための手段としての消費体験になってく

るのではないだろうか。すると、企業が提供するべき価値は商品を消費することで直接的に

得られる価値ではなく、その先に潜んでいる価値の創造ということになるのだろう。また、

昔に比べてブランドを持ちたいという欲求が少なくなってきているというブランド離れが

話題になることも多いが、ブランドを持つことが、価値や体験を共有したい相手にわかりや

すく伝わる手段にもなり得るのではないか。そう考えると、企業が今後ブランドを消費者に

浸透させ、そのブランドを利用した価値の提供を行うようにもなるのではないか。

4.現代の若者のニーズや実態 それでは、実際に若者(大学生)はどのようなニーズを持ち、どのように行動しているの

かを見ていく。

株式会社ドゥ・ハウスが 2016 年に 19-24 歳の男女 10 名に対して行った「大学生のお金

と時間の使い方」に関するインタビューを参考に現在の大学生の傾向やニーズを見ていき

たい。調査方法は以下の通りである。

調査名:「大学生の時間とお金の使い方」に関する調査

目的:今後の消費ターゲットとなる若者像の一面を明らかにすること

対象:19 歳から 24 歳(大学生・大学院生)10 名

方法:「お金の使い方(一か月間)」と「時間の使い方(二週間)」を記録してもらう日記

調査を実施。後日、個別インタビュー

期間:2016 年 3 月-5 月

大学生は消費に対する実態と価値観を以下の三つのグループに分類することができる。

①多方面でメリハリ消費グループと②自分は抑えて他者優先消費グループそして③マイペ

ース自己完結型消費グループである。 ①から順番に詳しい特徴についてみていきたい。

①多方面でメリハリ消費

このグループの特徴は自分のためにも、他者と共有するためにも両方の消費行動を行う

という点である。自分のためという点では、自分のための衣食住に関わる自己完結型消費だ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

83

けでなく、他者と共有するための消費も行っている。例えば、学校の友達やサークルのメン

バー、バイト仲間など様々なフィールドでつながりを持っており、コミュニティーが広いこ

とも特徴の一つである。また、このように多方面で消費をしつつも、お金をかけるべきとこ

ろと節約できるところを見極めたメリハリのある消費を行っていることが挙げられる。

②自分は抑えて他者優先消費

このグループの特徴は、自分のための衣食住に関連する消費を抑えて、趣味やサークルと

いった誰かほかの人と共有できる消費を積極的に行っているという点が挙げられる。その

ため、身近なコミュニティーだけでなく、例えば小学校や中学校の頃の友達を大切にしてい

る人も多い。また、お金のまわり方がサークルなどの活動を中心に回っており、それを基準

として他の消費活動におけるお金の使い方が考えられている。また、共有できる消費に積極

的であるため、コト消費にお金をかける傾向があることもこのグループの特徴の一つであ

るといえるのではないか。

③マイペース自己完結型消費

このグループの特徴は消費や選択をすることに「面倒」と感じるという点である。そのため、

他の二つのグループと比べてもマイペースで自己完結型の消費が多いという特徴がある。

さらに、この調査では、グループに関係なく、「消費」の価値に対する発言もいくつも挙げ

られていた。例えば、節約志向がある中で、どのような場面だったらお金を使ってもいいか

なと思うかというと「他者と一緒に消費を行う」ということであった。これは、コト消費が

盛んになっているという現代をまさに表す言葉だと思う。また、ここにインスタ映えも含ま

れてくるのではないかと考えた。また、目の前のことだけではなく、将来を見据えた節約を

行っている人が多いという声もあった。これは、日々トレンドや注目されるエンタメが変わ

っていき、そのスピードが早くなっていることからも、いつ、自分がお金をかけたいと思う

ものが来てもいいように準備をしているという側面が強いと考え、先の見えない不安から

の節約とは意味が異なってくるように感じた。また、ここに、乗るべき、または乗りたい流

行りに乗り遅れたくないという気持ちもあるのではないかと考えた。ここにも SNS が与え

ている社会環境の変化による影響があるのではないかと考えた。また、自分の時間を拘束さ

れたくないという人もいた。今はテレビも録画してみることが普通の時代で自由に自分の

すきなように時間を組み合わせたいという欲求があるのではないかと考えた。また、 近は

音楽を聴くだけではないスピーカーを各社が販売しているなど映像から離れ音声を重要視

している流れが来ているように思う。これは、人間がデバイスに合わせるのではなく、デバ

イスが人間に合わせるようになることが「求められているからだとおもうが、この傾向が強

くなれば、さらに消費においても自分の時間を大切に思う人が増えてくるのではないか。

(この辺りをもう少し、調査しそこに SNS がどう絡んでいるのかを調べたいと思っていま

す。具体的にはインタビュー調査を行い、私が新しく分類を考えたいと思います)

このように、現代の若者は、様々な価値観をそれぞれに持っているものの、時代の流れな

どもあり、消費に対して、自分でコントロールしたいという気持ちや、人とつながるための

手段として消費が位置づけされているように感じた。そして、モノを買わない世代とは言わ

立教大学社会学部メディア社会学科

84

れるものの、買う判断基準が異なるだけで、若者が消費を嫌っているわけではないのではな

いかと思った。そこで、これからは、若者が具体的にどのような消費をしたいのか、してい

るのかを見ていきたい。そして現代の若者の特徴である SNS による消費についてみていき

たい。

5.消費と SNS 前章であげられた若者が消費に求めるものの中に、消費を自分でコントロールしたいと

いう欲求や、人とつながる手段としての消費という位置づけということは消費という手段

を通してなりたい自分になるという欲求なのではないかと考えた。つまり、2 章であげたマ

ーケティング 4.0 の「自己実現欲求」が若者の消費にも関係しているのではないかと考え

た。そして、その手段として SNS が好都合な特徴を持っていたため、もしくはそこに合わ

せたサービスの提供を行っていたため、SNS を使った消費というものが一般に広く受け入

れられているようになっていったのではないかと考える。では、SNS は購買のどのレベル

において影響を与えてきたのだろうか。マーケティング 4.0 を提唱しているコトラー教授は

購買プロセスを 5 つの「A」で表している。それは①AWARE(認知)②APPEAL(記憶・

印象に残る)③ASK(調べる)④ACT(購入する)⑤ADVOCATE(勧める)の 5 つである。

私は、SNS はこの中の ACT を除く 4 つすべてに対して影響力があり効果的に利用されて

いると考えた。 まず①AWARE については、近年、企業が SNS を使い様々な商品やイベントなどを広報

しているのを目にする。twitter や Instagram にも企業の公式アカウントがあり、こまめに

かつ画像などを使ったよりキャッチーな方法で消費者に対して施策を広めようとしている。

私たちはこのような SNS からも、情報を得ることができる。つまり、認知する手段として

SNS が使われているといえると考えた。

次に②APPEAL についてではこちらも公式アカウントが発信する画像や動画などが簡単に

見えるようになり、より対象に届きやすい内容を発信することで、記憶に残ることができる

のではないか。また、SNS のそもそもの目的でもあるいろんな人との繋がりがあるため、SNS

上で他の人が体験した価値などを共有することができる。この価値は消費者目線としての

価値であるからより共感しやすく印象に残るのではないか。また、インスタ映えが近年流行

っているようにより記憶に残るものがそもそも SNS の利用者に求められているのではない

だろうか。

3 の ASK では、消費者の目線で提供されている情報と、企業が SNS で発信する情報の2つ

を調べることができる。これまでは企業が発信する情報がほとんどを占めていた。口コミが

あったとしても、それは限られた身内の意見だけしか集まっていない場合や、口コミサイト

があったとしても匿名の場合がほとんどであるため、どれだけ信用に値するコメントであ

るかを判断することが難しかったように思う。しかし、SNS が登場したことで、例えば美容

に対してとても信頼できる発言や実績があるようなアカウントなどといったように、どの

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

85

カテゴリでどの人を信じればいいのかという判断が下しやすくなっているように思う。ま

た、SNS は過去にこの人がどのような情報を発信してきたかや、この人がほかの人とどのよ

うな関わりを持っているのかを知ることが可能であることも情報として信頼性のあるもの

を集めることができることにつながってくるのではないか。

⑤の ADVOCATE では、先述したような企業側の公式アカウントからの推進も可能であるし、

消費者側からの発信という視点でも、口コミを発信するツールとして使うことでより多く

の人に勧めることができる。また、誰かにお勧めしたいという動機だけではなくて、SNS で

共有したいという思いから、推進できるというのも SNS ならではの推進方法として考えら

れるのではないか。

このように SNS は価値の形成に影響を与える時代の変化という点でも大きな影響を与え

てきた。そしてそれだけではなく、変化した後の購買システムほぼすべてに影響を与えてい

るのである。このように SNS と購買行動の価値について考えることは現代の若者の価値や

消費行動に欠かせないものであるといえるのではないか。

6.SNS の変化 そこで、SNS がこれまでどのように変わってきたのか、そしてどのように利用されてき

たのかという変化の歴史を見ていきたい。

(これから歴史を細かく振り返っていこうと思っています。具体的にはアプリのアッデー

トなども参考にしながら SNS が提供する価値と世の中のニーズがどのような関係性にある

のかを見ていこうと考えています。)

7.立教大学生の SNS 利用と価値観について 現在、複数の SNS が存在しており、その利用方法はさまざまであるが、この SNS の利

用方法とその人個人が持っている価値観は関係性があるのかを立教生を対象にして行った

アンケートをもとに考えていきたい。

7-1.調査について

分析対象や方法は以下のとおりである。

分析対象:木村ゼミ社会調査 全有効回答 264 人

分析方法:木村ゼミ社会調査の問 6「Twitter を一日にどれくらい利用しますか」問 12

「Instagram を一日にどれくらい利用しますか」の二つの質問の回答結果から回答者を五

つのブロックに分け、分析を行う。ブロックの分け方は以下のとおりである。

A ブロック;Twitter、Instagram ともに一日に 11 回以上利用する人

B ブロック;Twitter は一日に 11 回以上利用するが、Instagram は一日に 1 回から 10

回しか利用しない

C ブロック;Twitter は一日に 1 回から 10 回しか利用しないが、Instagram は一日 11

回以上利用するひと

立教大学社会学部メディア社会学科

86

D ブロック;Twitter、インスタ共に一日 1 回から 10 回しか利用しない人

E ブロック;Twitter、Instagram ともに、数週間利用しないひと

このようなブロック分けを行うことで、SNS の利用頻度ごとに価値観や行動の特徴を読

み取ることができ、SNS ごとの特徴や価値観の違いから生まれる利用形態の変化が読み取

れるのではないかと考えた。各ブロックの特徴は以下のとおりである。

A ブロック:Twitter・Instagram 共に利用頻度が高く、SNS 全体に対する関心が も

高い

B ブロック:Twitter のみ利用頻度が高い

C ブロック:Instagram のみ利用頻度が高い

D・E ブロック:SNS 全体に対する関心が低い

今回は[〇〇ラン(バブルラン、カラーランなど)、ナイトプールなどインスタ映えする

イベントによく行く]という質問に対して「当てはまるの」「あてはまらない」と答えた割

合をブロックごとで見ていき、どのような傾向があるかについて見ていく。注意点とし

て、この分析結果のあてはまるにはアンケート回答【あてはまる・まああてはまる】が、

あてはまらないには【あてはまらない・あまりあてはまらない】が含め分析を行う。

7-2.仮説

この質問に対して当てはまると答える割合が大きいグループほど流行に敏感で感度が高

いと言えると考えた。また、〇〇ランはコト消費であるため、この回答に当てはまるグル

ープは 4 勝で言及した②自分は抑えて他者優先消費に当てはまると言えると考えた。

今回分析する質問はインスタ映えという Instagram を強く意識した質問であるため、A

ブロックと C ブロックに当てはまる人が多いと予想する。また、その中でも Instagram

に特化しているのではなく、SNS 全体に対しての関心が強い A ブロックの方が当てはま

る人が多いのではないかと考えた。その理由としては、SNS に積極的であればあるほど、

SNS をうまく利用しようとする意識が強くあるのではないかと考えたからである。また、

Twitter に特化している人は Instagram のアカウントを所有し、少し使っていたとして

も、それを目的にしようとすること、は少ないのではないかと考えた。ここから

Instagram を利用する頻度が高いほどこの質問に当てはまり、②自分は抑えて他者優先消

費タイプの人が多いと考えた。

7-3.結果

以下のグラフが分析の結果である(グラフ 1)。ここから見てもわかる通り、予想どおり

A ブロックと C ブロックが当てはまる人が多かった。ここから Instagram を使っている

人ほどこの質問に当てはまるという仮説に一致した。しかし、A ブロックと C ブロックの

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

87

差がほとんど見られなかったため、SNS 全体に対しての関心と個々の SNS に対する関心

の強さは比例しないということが読み取れた。また、SNS に興味がなくても Instagram

に積極的な興味があるという人がいるということは、Instagram が他の SNS との差別化

に成功し、Instagram でしか提供できない価値を提供できていると考えることができるの

ではないか。そして、この Instagram にしか提供できない価値が利用者の価値観に影響を

与えているのではないかと考えた。(ほかの質問の分析もこれからまた、増やしていきま

す。また、各質問が価値観(②自分は抑えて他者優先消費など)に実際どのように結びつ

くことができるのかがはっきりしていないため、アンケートやインタビューを用いて明確

化したいと考えています。)

グラフ 1

7.まとめ 消費やそこに求める価値は時代により変化してきている。今は消費をすること自体が目

的なのではなく、それにより何を得られるか、どのように自己形成につながるかがポイン

トになってきていることが分かった。そして今の消費の形は SNS が与えた影響というも

のが大きかったのではないか。それは SNS が若者や社会が変化する中で求めるようにな

った自己実現欲求を満たすものだったからではないか。特に、現代の若者の消費のブーム

となっているインスタ映えやコト消費は SNS が与えた影響が大きい。それは消費を楽し

む手段の提供だけにとどまらず、ありたい自分になるという「自己実現欲求」を達成する

という点においても重要なポジションにいるにではないか。

今後に向けて

16%2%

19%4% 0

84%98%

81%96% 100%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Aグループ Bグループ Cグループ Dグループ Eグループ

インスタ映えするイベントによく行く

あてはまる あてはまらない

立教大学社会学部メディア社会学科

88

SNS が関わっている部分として消費の目的というポイントとその手段という二つが挙げら

れた。前者の方をメインにしてこれから卒論に向けて調査を進めたいと思うが、後者をど

こまで取り入れるべきかが検討できていない。またマーケティングと SNS が 2 本軸にな

ってしまっているため、どこかのポイントで一つに統一していきたいが、どこでやるべき

かがはっきりしない。もう少し、知りたいことを具体化していかなければならないと思っ

た。

参考文献

・フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン(2017)

『コトラーのマーケティング 4.0 スマートフォン時代の究極法則』 朝日新聞出版

インターネット参考文献

・株式会社ドゥ・ハウス「大学生のお金と時間の使い方」

https://www.dohouse.co.jp/news/research/20161115/ 2018 年 2 月 10 日アクセス

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

89

現代の若者の SNS における自己

要旨

デジタル技術やソーシャルメディアが当たり前となっている世代「デジタルネイティ

ブ」(=現代の若者)は、Twitter、Instagram、Facebook といった様々な SNS を使

いこなし、それぞれの SNS で使い分けを行っている。

本論文では、現代の若者の SNS の使い分けに注目し、現代の若者の友人関係の在り

方や自己表現方法といった観点から、先行研究や 2017 年度木村ゼミ調査票調査、

Beinsight を用いて、それぞれの SNS の投稿内容や投稿する際の意識を分析し、それ

をもとに、現代の若者の SNS を使い分ける心理を明らかにしていく。また、SNS が

現代の若者に与える影響に関しても検証していく。

キーワード:SNS、多元化、同質化、役割、自己、友人関係、デジタルネイティブ

1.問題意識

現代の若者は、「デジタルネイティブ」(木村、2012)や「ソーシャル・ネイティ

ブ」(遠藤、2011)と言われるように、デジタル技術に青少年期から本格的に接した

世代、ソーシャルメディアが当たり前の世代だとされている。

本論では、これを踏まえて、現代の若者=「デジタルネイティブ」、「ソーシャル・

ネイティブ」とし、加えて、「現代の若者」の対象範囲を、「中学生から 20 代」と定

義して話を進めていく。

問題意識の背景は、博報堂の調査(campaign「『フォトジェニック消費』を牽引す

るミレニアル世代の日本人女性」)では、現代の若者は SNS ごとに目的に応じて、

Twitter は「本音デトックス」、Instagram は「セルフブランディング」、Facebook は

「冠婚葬祭」といった使い分けをしていると主張される。

このような SNS の使い分けはたしかにあると筆者自身も考え、調査結果を踏まえ

てさらに、現代の若者の SNS の用途別での使い分けは、自己表現の使い分けが影響

しているのではないだろうかと疑問に思った。

そして、このことは SNS だからこそ行われているものなのか、それとも現実世界

でも行われており、現実世界の延長として行われているものなのか、また、そもそも

これらの使い分けは、彼らの友人関係が影響しているのではないだろうかと、疑問に

思った。

立教大学社会学部メディア社会学科

90

そこで、本論文では、SNS を利用する現代の若者の友人関係を理解した上で、SNS

と現実世界における自己表現にはどのよう

な違いがみられるのか、また、現代の若者においてよく利用されている Twitter、

Instagram、Facebook における「自己の使い分け」に注目し、各 SNS がユーザー

(現代の若者)にとってどのような役割を果たしているのかも併せて検証していきた

い。

2.仮説

以上の問題意識から、以下の二つのリサーチクエスチョンを立てた。

① 現実世界における友人関係の在り方が、SNS の使い分けにも影響しているの

ではないか?

② SNS を用途別に使い分け、それぞれで異なる自己表現を行っているのではな

いか?

これらをもとに、次章以降で検証を進めていきたいと思う。

3.これまでにわかったこと

3.1 現代の若者の友人関係

3.1.a 友人関係の「多元化」

現代の若者の特徴として、「つかず離れず」という言

葉がある。これは、友人とあまり深い付き合いをしな

くなったという意味で、友人関係が「選択的」になっ

たことを指している。

このことに関して、浅野智彦や辻大介は、若者の友

人関係に「選択化」を通じた「多元化」と呼ぶべき事

態が進行していると指摘している。

図 1 を見てほしい。この図において、上図は従来の

友人関係を指しており、下図は現代の若者の人間関係

を示すものとされている。

従来は、日常生活のほぼ全域を包括的に共有するよ

うな「狭くて深い=親密な」友人関係と、それほど親

密でもないような「広くて浅い」友人関係、友人関係

の同心円状的構造が当然視されてきた。

しかしながら、現代の若者においては、特定の領域

図 1 自己構造の2つの模式図

(小川克彦『つながり進化論』

2011、200)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

91

のみを限定的に共有しながらも、その領域においては「親密に」付き合うような友人

関係を複数持つような構造が成立していると考えられている。

実際に、ある 17 歳の女子高校生は以下のように述べている。「友達を使い分けてい

る。一緒に勉強する友達、将来の話をする友達、校外活動をともにする友達。局面に

応じて 適な友達を選んでいる。嫌な人は切ってしまう。」(『朝日新聞』2013 年 5 月

2 日朝刊)。

また、電通が 2015 年に調査した「若者まるわかり調査 201545」では、「普段の生活

におけるつながりの数」は、高校生では 7.2 個、大学生では 7.4 個、20 代社会人では

6.8 個であった。

一方で、そのうち「素でいられるつながりの数」については、高校生では 3.6 個、

大学生では 4.1 個、20 代社会人では 3.7 個であった。

このことから、現代の若者は、友人関係において多くのつながりをもっているた

め、部分的な関係にみえるが、実際に素でいられるつながりは半分もいることから、

決して現代の若者の友人関係は、部分的であるが表層的ではないと理解することがで

きる。

2017 年度木村ゼミ調査票調査においても、「本当の自分というのは一つとは限らな

い」という質問項目に対して、「あてはまる」(「まああてはまる」も含む)と回答し

たのは、全体の 76%だった。

このことから、現代の若者は、友人に応じて複数の自分を使い分けていると考える

ことができる。

3.1.b 友人関係の「同質化」

前節では、現代の若者は友人関係において「多元化」に向かっていると論じた。

45 2015 年 2 月 6 日~2月 9 日、関東 1 都 6 県、関西 2 府 4県、東海 3 県の高校生以上の未婚

15~29 歳男女、3000 サンプル、インターネット調査

図 2 若者のつながりの数(電通『若者まるわかり調査 2015』より

立教大学社会学部メディア社会学科

92

ところが、一方で、「選択化」が進行した結果、むしろ友人の「同質化」が強まっ

てきているという指摘もある。

そのことに関して、土井(2008)は、人間関係の選択化・多元化が進行したこと

で、かえって若者たちは価値観の相対比から逃れようとして、むしろ同質化した友人

関係のなかに埋没しようとする傾向があると論じた。

以上のことから、友人関係が各々の「選択」によって決まるものとなった今、場面

に応じて自分と価値観の合う友人を「選択」し、その中で確実で安定した友人関係を

築いていこうとする状況、つまり、友人関係の「同質化」が進んでいるということが

理解できる。

3.2 複数の役割を演じる現代の若者

前章から、現代の若者は場面に応じて、複数の自分を使い分けていることが明らか

となった。彼らが複数の自分を使い分けているのはなぜなのか、本節では「役割」と

いう観点から探っていく。

社会心理学者のミードの説によると、私たちは自分の役割を他者からの期待(予

期)によって獲得していくのだという(鈴木謙介 2013、104)。

ここでいう期待とは、何かをしてほしいと積極的に願うことだけではなく、振る舞

いや態度に関する漠然とした、あまり意識されないレベルでの予想までを含んでいる

という。この期待に応じて求められる振る舞いの集合を、バーガーは、「類型化され

た期待に対する類型化された反応」(鈴木謙介 2013、104)であると述べており、つ

まり、これが役割であると彼は言っている。

これを分かりやすく言うと、役割とは、「特定の場面、特定の関係性の中で、ある

人と別の人との間で『期待する―される』という関係性をもって成り立っているも

の」であるということである。

すなわち、それぞれの場面に応じて、他者から求められる(期待される)役割を演

じなければならないということなのだ。

そのため、相手に応じて自分を変える=複数の顔(役割)をもって生活しなければ

ならないのである。

この「役割」をさらにわかりやすく考えていくために、これから先「役割」という

言葉を、「キャラ」という言葉に置き換えて考えていきたいと思う。

現代の若者は「多元化」が進んだ友人関係のもとで、いくつのキャラを使い分けて

いるのか、電通総研が 2015 年に行った、「若者まるわかり調査 2015」の調査結果を

見ていきたい。

同調査では、普段の生活で使うキャラの数は、女子高生は 6.6 キャラ、女子大生は

5.8 キャラ、20 代社会人女子は 4.8 キャラであることが明らかとなった。

先述した、同調査における「つながりの数」の数と比較すると、女子高生は 7.7 個

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

93

のつながりに対して 6.6 キャラ、女子大生は 8.3 個のつながりに対して 5.8 キャラ、

20 代社会人女子は 7.6 個のつながりに対して 4.8 キャラを使い分けていることがわか

った。

このことから、高校生はコミュニティに応じてキャラをしっかりと使い分けている

印象があるが、大学生、社会人となるにつれてコミュニティに応じてキャラを毎回使

い分けているわけではなく、使い分けるキャラ数が減っていることがうかがえる。

また、同調査では、ある女子中学生や女子高校生が、「普段は元気キャラ。グルー

プに元気キャラがいなかったから、自分がやることにした。でも元気キャラで居続け

るのは疲れるし、ネガティブになることもある。」や、「中学までは大人しいキャラだ

ったが、進学と共にキャラチェンジ。高校では、突っ込み役をしている。せっかくぼ

ける子がいても、突っ込み役がいないと場が盛り上がらない。私がいることでみんな

が喜んでくれる。キャラチェンジしてよかった」と話していた。

このことから、現代の若者たちは周囲の期待に応えようとして周囲の状況を見て、

どのキャラであるべきかを考えた上で、自分のキャラを設定していると考えることが

できる。

3.3 「リアル」と「ネット」に対する認識

前節の調査結果に基づけば、現代の若者は日常生活において、複数のキャラを使い

分けていると考えることができる。

そこで、本節では、現代の若者における「リアル」と「ネット」の考え方について

探っていこうと思う。

SNS が普及した現代社会において、現代の若者は、現実世界における友人と 24 時

間の常時接続が可能となった。

しかし一方で、SNS におけるオンラインコミュニケーションは現実世界の友人関係

を補完する形で存在するようにそれにより、現代の若者には、SNS が現実世界におけ

図 3 普段の生活で使うことのあるキャラ数(電通「若者まるわかり調査 2015」

立教大学社会学部メディア社会学科

94

る友人関係を維持するためには欠かすことのできないものとなっている。

その理由として、先述した「選択的な」友人関係が関係してくる。自分自身付き合

う相手を勝手に選べる自由があるということは、一方で自分が相手から選んでもらえ

ないかもしれないリスクがあるといえるのである。

つまり、現代の若者の間における友人関係では、互いに親密さを常に確認し続けな

いと、その関係を維持していくことが難しくなってしまっているのだ。

電通が 2011 年に行った「SNS100 友調査」46によると、「リアルよりネットでの人

間関係の方が楽である」と回答した人は、全体の 20%しかおらず、人間関係において

ネット上の方がリアルと比べてフリーになれるわけではないことが明らかになった。

むしろ、リアルな関係と同様に、「なるべく空気を読む」(44%)、「なるべく相手と

合わせる」(25%)という回答が多く挙げられた。

このことから、現代の若者にとってリアルとネットではどちらがより居心地がいい

かという感覚はないということがわかる。

このことについて土井(2014)は、現代の若者にとって、リアルの世界とネットの

世界は、決して別のものではなく、表裏一体どころか、メビウスの輪のように表裏に

境目がなくなっており、相互に入り混ざり、つながりあっていると表現し、現実の人

間関係とは別の世界がネット上に構築されているのではなく、むしろ現実の人間関係

がネット上にまで拡張されていると述べている。

つまり、現代の若者にとって、ネット上であろうと現実世界であろうと変わらず、

互いに影響しあう中で友人関係を築いていることが理解できる。

3.4 SNS で複数の顔を使い分ける現代の若者

3.4.a SNS とは何か

本章では、現代の若者の友人関係、自己表現の仕方、リアルとネットの認識を踏ま

えた上で、SNS における自己表現がどのように行われているのか、2017 年度木村ゼ

ミ調査票調査、Beinsight における分析を通して明らかにしていく。

その前に、まず前提として SNS の定義を今一度確認しておきたいと思う。

SNS の学術的定義としては、2007 年のボイドとエリソンのものがあり、エリソン

とボイド自身が 2013 年にそれを改めている(北村智他 2016、24)。

改訂後の定義では、SNS は、利用者が①利用者自身そして他の利用者が生成したコ

46 2011 年 9 月上旬、関東圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、栃木、茨城)の中学生

を除く、15~37 歳までの男女個人(mixi、facebook、twitter 等のソーシャルメディアを

現在利用している、ソーシャルメディア上でつながっている人が合計で 100 人以上いる

※複数のソーシャルメディアで同じ人とつながっている場合は 1 人としてカウント)、PCインターネット調査、800 サンプル、PC インターネット調査

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

95

ンテンツ、場合によっては当該システムによって提供されたデータも含めて、利用者

を特定できる公開/限定公開のプロフィールを持つ②他の利用者によって閲覧可能

で、またそこからさまざまな関係をたどることができる人間関係を公開されたものと

して明確に表示できる③他の利用者によって生成されたコンテンツを消費し、またそ

のコンテンツを介して他の利用者とやり取りが可能、という3つを満たすコミュニケ

ーションプラットフォームであるとされる。

本論文では、SNS を上記3つの条件を満たすものとして論じていく。

3.4.b 現代の若者の SNS の利用状況

前節の SNS の定義を踏まえた上で、本節では、現代の若者の SNS の利用状況がど

のようなものであるか探っていきたいと思う。

本節では、SNS の中でも、実名制で、テキスト・画像・動画による投稿ができる

「Facebook」、複数アカウントの所持が可能で、テキスト(上限 140 字)・画像・動画

によるリアルタイムの投稿が多い「Twitter」、画像・動画・ストーリーズといった写

真や動画による投稿が多い「Instagram」の3つに注目してみていく。

これら3つの SNS の利用率と利用頻度に関しては、立教大学社会学部生に調査し

た 2017 年度木村ゼミ調査票調査結果を用いていきたい。

LINE 以外で も利用率が高い SNS は、Twitter(92%)だった。次いで

Instagram(85%)、Facebook(40%)という結果だった。

一方で、LINE 以外で も利用頻度の高い SNS は、Instagram(54%)だった。次

いで Twitter(44%)、Facebook(2%)という結果だった。

「インスタ映え」という言葉が、昨年の流行語大賞と選ばれるほど、多くの注目を

集めた Instagram だが、一昨年まで SNS(LINE)で も利用率が高かったと思われ

る Twitter の利用頻度を上回る結果となった。

一方で、他の SNS と比べた際の、Facebook の利用率や利用頻度の低さが気にな

る。Facebook が LINE を除く SNS(Twitter と Instagram)との違いを考えると、

「実名制」と「複数アカウントが作れない」の2点だろう。

まず、「実名制」に関しては、Twitter と Instagram では「実名」で登録する必要

は全くない。

加えて、鍵をかけて公開する相手を制限することが可能である。同調査において、

Twitter のメインアカウント・サブアカウント、Instagram のメインアカウントでの

「鍵の有無」について分析を行った。

その結果、Twitter のメインアカウントでは、全体の 69%で約 7 割の人がメインア

カウントに鍵をかけており、サブアカウントにおいては、全体の 57%で約 6 割近くの

人がサブアカウントに鍵をかけていることがわかった。

一方で、Instagram のメインアカウントにおいては、全体の 66%が鍵をかけてお

立教大学社会学部メディア社会学科

96

り、約 7 割近くの人が鍵をかけていることがわかった。

このことから、現代の若者は公開する相手を限定して SNS を利用しており、SNS

において狭いコミュニティでのコミュニケーションを望んでいると考えられる。

次に、複数アカウントについても同調査の結果をみると、全体の 91%が Twitter で

複数アカウントを所持しており、全体の半数以上の人(58%)が「2~4個」所持し

ていることが明らかとなった。

メインアカウントの使用目的は、「リア友用」が も多く、79%だった。それ以外

の使用目的は、「趣味用」(9%)、「情報収集用」(6%)などといった結果になった。

一方で、サブアカウントにおいては、「趣味用」が も多く、42%だった。それ以

外の使用目的は、「少人数フォロー専用」(22%)、「リア友用」(14%)という結果に

なった。

Instagram においても、全体の 30%が複数アカウントを所持していることが明らか

となった。

メインアカウントの利用目的としては、「友人と自分お互いの情報共有」、「日記や

思い出の記録」が多く挙げられた。

一方で、サブアカウントの利用目的としては、「趣味用」が多く挙げられた。

これらのことから、現実世界において友人を使い分けているのと同様に、SNS にお

いても友人を使い分けていたいという若者の心理をうかがうことがわかる。

それは、日常生活において、「同質化」を好んだ友人関係を築いている現代の若者

の特性が表れていると考えられるだろう。

このような意味で、Facebook は、現代の若者にとってあまり好ましくないツール

なのだと考えられる。

9285

40

0102030405060708090

100

Twitter Instagram Facebook

SNSの利用率

図 4 SNS の利用率(2017 年度木村ゼミ調査票調査より)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

97

また、ICT 総研による「2017 年度 SNS 利用動向に関する調査」47では、SNS ユー

ザーの利用理由に関して、「人とつながっていたい」「知人の近況を知りたい」といっ

たコミュニケーションを求める理由が も多く、40%であった。次に、「自分の近況

を知ってもらいたい」(約 26%)、「自分の行動記録を残しておきたい」(約 24%)と

いう理由が続いている。

一方で、「いいね、などのリアクションが欲しい」という理由は 15%に留まった。

この調査結果から、SNS 利用者が SNS を利用する上で、 も重要視するのは、人

(おそらく、現実世界でも繋がっている友人)との交流であることが読み取れる。

これは、先述した、「選択的」で「多元化」が進んでいる現代の若者の人間関係が

関係しているといえるのではないだろうか。

一方で、 も利用理由として挙げられた割合が少なかったが、「仲間はずれにされ

たくない」が約 5%いるということに注目したい。

これはおそらく、先述した、「選択的」で不安定な友人関係であることが関係して

おり、日常生活の対面での関係性を補完する形で SNS を利用し、仲間外れになるこ

とを防ぎたいという考えから生まれものだと思われる。

3.4.c SNS における使い分け

前節で現代の若者による SNS の利用状況が理解できた上で、本項では、それぞれ

の SNS を現代の若者がどのように使い分けているのかを検証していきたい。

それぞれの SNS の「投稿内容」に関して、問題意識で取り扱った先行研究をもと

に、Twitter は「本音デトックス SNS」、Instagram は「セルフブランディング

47 2017 年 10 月、SNS 運営会社・関連企業への取材結果に加え、インターネットユーザ

ー4,196 人への web アンケート調査、各種公開資料などをまとめて分析

図 5 SNS を利用する理由(ICT 総研「2017 年度 SNS 利用動向に関する調査」より

立教大学社会学部メディア社会学科

98

SNS」、Facebook は「冠婚葬祭 SNS」なのか検証していく。

そこでまず、Twitter に関しては、Beinsight において、筆者が「感情を表す言葉」

だと考えた 11 個(ポジティブ言葉:「嬉しい」「楽しい」「好き」「ほしい」「した

い」、ネガティブ言葉:「むかつく」「悲しい」「嫌い」「つまらない」「寂しい」「した

くない」)を用いて、調査対象日を 2018 年 2 月 1 日と設定し、それぞれの言葉の投稿

数について分析を行った。

その結果、図 6 のようになった。この分析から読み取れるのは、ポジティブな言葉

に関しては投稿数が比較的多いが、ネガティブな言葉に関しては圧倒的に投稿数が少

ないということである。

この Beinsight において分析できる対象アカウントは、鍵がかかっていないアカウ

ントに限るため、ネガティブな言葉に関する投稿が少なかったのではないかと考えら

れる。

Twitter が「本音をつぶやく」SNS なのかは、他の SNS との比較を通して初めて

わかることだと考える。そのため、今回は先ほど Twitter において行った分析と同じ

条件(感情を表す言葉 11 個、2018 年 2 月 1 日)で、Facebook でも分析してみるこ

とにした。

その結果、図 7 のようになった。Twitter における分析と比較すると、感情を表す

投稿が圧倒的に少ないということに気付く。

つまり、「感情を表す言葉を投稿する」=「本音をつぶやく」のは、Twitter におけ

る投稿の特徴だといっていいだろう。

52,878

26,217

176,251

42,39053,959

4737,765 14,451

1,163 5,807 3,0230

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

200,000

Twitterにおける投稿数(2018年2月1日)

図 6 Twitter における感情を表す言葉の投稿数【2 月 1 日】(Beinsight より)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

99

次に、Facebook に関しては、Twitter と同様に Beinsight を用いて分析を行った。

Facebook は問題意識の先行研究において「冠婚葬祭 SNS」とされていたが、今回の

Facebook の分析では、「若者にとって、冠婚葬祭と同等の特別行事」に関連する言葉

だと考えた 3 個(「報告」「成人」「結婚」)を用い、調査対象日を「成人式」に合わせ

て、2018 年 1 月 8 日と設定し、それぞれの言葉の投稿数について分析を行った。

その結果、図 8 のようになった。この分析から読み取れるのは、全体的にはそこま

で特別行事について投稿する様子が見受けられないということである。

しかしながら、調査対象日を 2018 年 1 月 8 日にあえて設定したため、「成人」とい

う言葉に関しては、先ほど感情を表す言葉の投稿数との比較でみると、圧倒的に多い

投稿数だということがわかる。

Facebook が「冠婚葬祭 SNS」なのかは、他の SNS との比較を通して初めてわかる

ことだと考える。そのため、今回は先ほど Facebook において行った分析と同じ条件

(若者にとって、冠婚葬祭と同等の特別行事、2018 年 1 月 8 日)で、Twitter でも分

析してみることにした。

その結果、図 9 のようになった。Twitter における分析と比較すると、Facebook に

比べて Twitter の投稿数が多いという結果になってしまった。

しかしながら、先述したように、もともと Twitter の方が利用率も高く、母数が多

きため、このような結果になってしまったのは仕方のないことなのではないかと考え

る。

Twitter との比較からはわからなかったが、Facebook 同士で比較すると、「感情を

図 7 Facebook における感情を表す言葉の投稿数【2018 年 2 月 1 日】(Beinsight

より)

4151

79

29

76

05 6

1 1 4

0102030405060708090

Facebookにおける投稿(2018年2月1日)

立教大学社会学部メディア社会学科

100

表す言葉」よりも、「成人」という言葉の投稿数が圧倒的に多いことから、Facebook

は特別行事があるときに投稿する SNS だといえるのではないだろうか。

Instagram においては、Beinsight が Instagram に対応していないため、2017 年

度木村ゼミ調査票調査の結果に基づいて、「投稿における意識」という観点から、分

析を行った。

今回 4 つの質問を取り上げ、Instagram が現代の若者にとって、「セルフブランデ

ィング SNS」なのか検討していきたいと思う。

まず、「インスタグラムに投稿するとき、日常の自分より美化しているという意識

図 9 Twitter における若者の特別行事に関連する言葉の投稿数【2018 年 1 月 8 日】

(Beinsight より)

20

273

39

0

50

100

150

200

250

300

報告 成人 結婚

Facebookにおける投稿(2018年1月8日)

図 8 Facebook における若者の特別行事を表す言葉の投稿数【2018 年 1 月 8 日】

(Beinsight より)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

101

がある」という質問に関して、「ある」(「とてもよくある」、「ある」、「ときどきあ

る」を含む、この先「ある」は以下同)と答えたのは 56%、「ない」と答えたのは

37%だった。

二つ目に、「写真を見てもらうために投稿する」に関して、「ある」と答えたのは

54%、「ない」と答えたのは 46%だった。

三つ目に、「インスタグラムにアップすることを意識して、商品を購入する」に関

して、「ある」と答えたのは 22%、「ない」と答えたのは 78%だった。

後に、「インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食

店、旅行先、芸術鑑賞など)を決める」に関しては、「ある」と答えたのは 34%、「な

い」と答えたのは 66%だった。

以上のことから、Instagram を利用するにあたって、普段より美化しているという

意識があると回答した人が半数以上いることから、セルフブランディングしている人

がいることはうかがえるが、投稿する前の段階から「Instagram にアップすること」

を目的としているわけではないことがわかった。

今回の調査では、Instagram が「セルフブランディング SNS」であるとまでは言い

切ることができなかったが、サブアカウントで自分の趣味用として使ったり、アルバ

ムのような形で記録することを目的として使ったりしていることから、少なからず自

身をブランディングして、「自分の世界観」を作ることを楽しんでいる様子がうかが

うことができた。

4.結論

まず、現代の若者の友人関係について触れていきたい。現代の若者は、友人関係の

「多元化」によって、それぞれのコミュニティに応じて複数の自分を使い分けている

一方で、価値観の合う友人を「選択」し、そこでの人間関係を大事にする、友人関係

の「同質化」が進んでいることが考えられる。また、現代の若者は、友人と交流する

際、周囲の状況を見た上で、周囲に期待されるキャラを演じていることも明らかにな

った。

次に、リアルとネットに関する認識では、現代の若者にとって、リアルもネットも

感覚として同じであり、リアルの延長にネットが存在しているということがわかっ

た。

SNS の利用状況では、LINE 以外で も利用率が高いのは Twitter、 も利用頻度

が高いのは Instagram だったが、一方で、Facebook の割合が両者ともに悪かった。

その理由として、実名制で複数アカウントを持てない Facebook では、「多元化」と

「同質化」による友人関係を築くことができないからではないかと考えた。

そして、SNS ごとの特徴としては、分析の結果、Twitter に関しては「本音デトッ

クス SNS」であることがうかがえたが、Instagram と Facebook に関してははっきり

立教大学社会学部メディア社会学科

102

とそれぞれの特徴として言い切れない結果となった。

後に、リサーチクエスチョンの検証結果について述べる。

まず、「①現実世界における友人関係の在り方が、SNS の使い分けにも影響してい

るのではないか?」について、「多元化」と「同質化」といった特徴をもつ現実世界

における友人関係を踏まえた上で、2017 年度木村ゼミ調査票調査で二つの調査を行っ

た。一つは、Twitter のメインアカウント・サブアカウント、Instagram のメインア

カウントでの「鍵の有無」である。その結果、「SNS における鍵の有無」と「現代の

若者の『同質化』という友人関係」が関係している可能性が高いことがわかった。二

つめに、複数アカウントの所持率と用途である。その結果、「複数アカウントの所持

数」と「現代の若者の『多元化』という友人関係」、「複数アカウントによる用途別の

利用」と「現代の若者『同質化』という友人関係」はそれぞれ関連があると考えられ

た。

次に、「②SNS を用途別に使い分け、それぞれで異なる自己表現を行っているので

はないか?」については、Beinsight で Twitter、Facebook の投稿分析を行い、

Instagram は 2017 度木村ゼミ調査票調査で投稿意識の分析を行った。その結果、

Twitter は「本音デトックス SNS」、Facebook は「冠婚葬祭 SNS」の要素があること

は分かったが、Instagram においては「セルフブランディング SNS」とまでは言い切

れない結果となった。

5.今後の課題

まず、分析方法に関して、今回は全体的に、文献調査や 2017 年度木村ゼミ調査票

調査、Beinsight での分析がメインになってしまったので、今後はそれ以外の分析ツ

ールの活用を検討していきたい。また、今回の論文では Instagram に関する投稿内容

の分析ができなかったため、Instagram 用の分析ツールを探し、活用したいと思う。

そして、Facebook に関する情報が、2017 年度木村ゼミ調査票調査にほとんどないこ

とに加えて、現代の若者の利用率が低いこともあって 新の SNS 調査の結果に含ま

れていないことが多いため、どこから新たな情報を得るかは今後検討が必要である。

次に、リサーチクエスチョンの検証に関しては、今回は全体的に、情報量の少なさ

から立証できたとまでは言い難いので、今後全体的にさらなる調査や分析が必要であ

ると考える。具体的に、「Twitter において複数アカウント所持者が、それぞれのアカ

ウントでどのようなつぶやきを行っているか」や、「SNS が現代の若者にどのような

影響を与えているか」ということは分からなかったので、今後調査を進めていきた

い。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

103

6.参考文献

【日本語文献】

小川克彦、2011 年、『つながり進化論 ネット世代はなぜリア充を求めるのか』、中公

新書

長田攻一、田所承己、2014 年、『<つながる/つながらない>の社会学―個人化する

時代のコミュニティのかたち』、弘文堂

北村智、佐々木裕一、河井大介、2016 年、『ツイッターの心理学 情報環境と利用者

行動』、誠信書房

鈴木謙介、2013 年、『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』、NHK 出

土井隆義、2014 年、『つながりを煽られる子供たち ネット依存といじめ問題を考え

る』、岩波書店

松下慶太、2012 年、『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア 若者が生み出す

新たなコミュニケーション』、教育評論社

ラリー・D・ローゼン、ナンシー・A・チーバー、L・マーク・キャリア―、2012

年、『毒になるテクノロジー iDisorder』、東洋経済新報社

【ネット資料】

電通「SNS100 友調査」

http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2011130-1102.pdf(2018 年 1 月 24

日取得)

電通総研「若者まるわかり調査 2015」

http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2015038-0420.pdf(2018 年 1 月 16

日取得)

Campaign「『フォトジェニック消費』を牽引するミレニアル世代の日本人女性」

https://www.campaignjapan.com/article/フォトジェニック消費-を牽引するミレニ

アル世代の日本人女性/436896(2018 年 1 月 20 日取得)

CNET JAPAN「Twitter アカウントは 4 つ持ち--本音が言えない女子高生が向かう先」

https://japan.cnet.com/article/35063667/(2018 年 1 月 16 日取得)

ICT 総研「2017 年度 SNS 利用動向に関する調査」

http://ictr.co.jp/report/20171011.html(2018 年 1 月 28 日取得)

Resemom「SNS 利用者満足度、2 位はインスタ…1 位は?」

https://resemom.jp/article/2017/10/12/40799.html(2018 年 6 月 29 日取得)

立教大学社会学部メディア社会学科

104

インターネットの普及と衣服購買の意識

要旨

洋服というものは、私たちの生活において必要不可欠なものであり、自己表現や社

会問題を反映させるツールとして存在している。ZOZOTOWN・メルカリ・エアーク

ローゼットなどといった EC サイトやフリマアプリ、レンタルサービスなどの登場に

よって購入の選択肢が増えた現在、大学生はどのように洋服を購入しているのか、そ

して、EC 化よって洋服の売り方・買い方・着方が多種多様に変化したことは、生活

必需品である衣服に対する価値観にどう影響を及ぼしたのかを明らかにしたい。

キーワード:5 項目程度

シェアリングエコノミー、ブランド価値、ファッション意識、オンラインショッピン

グ、ユビキタス消費

1. はじめに

1-1. 研究背景

大きな世の中の変化として、EC 化、モノ消費からコト消費の変化、技術革新、そしてシ

ェアリングエコノミーの台頭などが挙げられる。特にシェアリングエコノミーの国内市場

規模は今後大きく拡大すると見込まれており、2015 年度の総務省「情報通信白書」の調査

によれば、2015 年度に約 285 億円であったものが、2020 年までに 600 億円まで拡大する

と予想している。これらの影響により、現在のアパレル店舗での市場では、「作っても売れ

ない」、「在庫超過」、「リアル店舗が買い場からショールーミング化している」などといった

状況に陥っているのが現状だ。私は百貨店のインターンシップに参加した際、リアル店舗で

も在庫を持たない販売の仕方(店舗では試着だけを行って、購入される商品はその場でネッ

ト注文し翌日発送)を行っている店が存在することを知った。例えば、Nordstrom(ノード

ストローム)という全米でも有数の大型百貨店チェーンが昨年の 10 月にオープンした

「Nordstrom Local」はその代表例とされる。「買い物」というのはお店に行って、在庫か

ら商品を『買う』という意味ではなく、信頼できるスタッフとセレクトされた商品からお気

に入りを『選ぶ』ことへ概念は変わっているそうだ。

しかし、私自身オンラインよりも実際に店舗で洋服を買うことが多い。また、現在アルバ

イトをしている無印良品では、オンラインストアで商品を注文し、指定の店舗で受け取るこ

とができる「ネット注文店舗受け取りサービス」があり、そのサービスを利用して店舗には

ただ商品を受け取る場として利用するお客様も 近増えていると感じたが、それでも実際

に足を運んで洋服を購入される方が多い。

一方で、フリマアプリの「メルカリ」やファッションレンタルサービスの「メチャカリ」

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

105

が昨年話題になった。経済産業省が発表した C to C-EC 市場規模推計によれば、平成 28 年

のネットオークション市場規模は、10849 億円、フリマアプリ市場規模は 3052 億円となっ

ていて、フリマアプリ市場はシェアリングエコノミー市場の成長と付随して大きく発展し

ているといえる。それに伴い、少なからず人々の衣服購買に対する意識が変わってきている

のではないのかと考えた。

1-2. 問題意識

洋服というものは、私たちの生活において必要不可欠なものであり、自己表現や社会問題

を反映させるツールとして存在している。ZOZOTOWN・メルカリ・エアークローゼットな

どといった EC サイトやフリマアプリ、レンタルサービスなどの登場によって購入の選択

肢が増えた現在、大学生はどのように洋服を購入しているのか、そして、EC 化よって洋服

の売り方・買い方・着方が多種多様に変化したことは、生活必需品である衣服に対する価値

観にどう影響を及ぼしたのかを明らかにしたい。今まで店舗で買うことが当たり前であっ

た洋服が、オンラインでも購入でき、さらには消費者同士で売ったり借りたりするような流

れから、「衣服購買」に対する価値観が以前と大きく変化しているのではないか疑問に思い、

この研究に取り組む。

1-3. 本レポートの構成

以上のことを踏まえ、本レポートにおいて以下の構成で進めていく。

まず第 2 章においては、日本人のファッション意識とブランド価値観はどのようなもの

か調査した研究を紹介する。第 3 章では、インターネットが現代の日本の消費行動にどう

影響を及ぼしたのか先行研究から分析し、その中でもフリマアプリやレンタルサービスア

プリなどの「シェアリングエコノミー」がどのように誕生し私たちの消費行動に影響を与え

ているのか重点的に調査する。第 2 章、第 3 章を踏まえて第 4 章では木村ゼミ社会調査ア

ンケートの結果をもとに、現代の大学生はどのように洋服を購入しているか、また洋服を購

入するといった消費行動にどのような価値を置いているのか分析と考察を行っていく。

後に第5章では、現状のまとめと今後の課題についてまとめる。

2. ファッション意識とブランド価値観

2-1. 消費行動の変遷

この章では、日本人のファッションに対する消費行動や価値観がこれまでどのように変

化してきたのか先行研究をもとに考察する。はじめに消費行動が時代とともにどう変わっ

たのか考察する。三浦(2012)によれば、戦前から現代における消費社会を図表 1 のよう

に 4 段階に分けることができるという。戦前の「第一の消費」は洋風化で大都市志向を意識

した消費、戦後直後の「第二の消費」は家族を意識した大量消費、バブル期にあたる「第三

の消費」は個性と多様化を重視しブランド志向が高い消費、そして現代の「第四の消費」は

ノンブランド志向でシェア志向の高い消費であることが特徴である。女性による消費は世

立教大学社会学部メディア社会学科

106

界規模で 64%を占めているとされているが、消費の志向に変化をもたらした要因は、バブ

ル崩壊、リーマンショック、震災などの時代背景に伴い、画一化されたライフステージの崩

壊、早婚化と晩婚化の二極化、価値観の多様性などが挙げられるという。(金光、2013)

図表 1 消費社会の 4 分類

金光淳、2013、

「『第四の消費』時代の女性消費者クラスターマッピング –ハイブランド/ローブランドの

ファッション関連アイテム購入金額パターンのクラスター分析-」より引用

このことに関して佐野と片岡(2011)も言及しており、戦後高度経済成長にかけて、モノ

が十分に行き届いていなかった時代において、大量に生産された商品を大量に消費すると

いう消費スタイルを「オールドノーマル消費」と呼ばれていたのに対し、石油ショック、バ

ブルの崩壊、インターネットの普及加速、人口減少、そして東日本大震災を契機に変化した

消費スタイルを「ニューノーマル消費」を呼ぶ。みんなが同じものを購入するという志向が

薄れ、「マイスタンダード」を追求したり、モノだけでは満足しなくなったり、資源やエネ

ルギーの無駄に敏感になったりと新しい消費の普通が生まれているのである。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

107

女性の消費に関して着目すると、佐野ら(2011)は男性の場合、結婚をする・しない、結

婚をする年代が異なるなどの違いがあるものの、大抵の人に大きな違いが見られないのに

対し、女性のライフコースが多様化している点について着目している。多様化した大きな要

因は、1986 年に施行された男女雇用機会均等法だ。オールドノーマル時代においては、女

性は「結婚後家庭に入る=離職する」ことが標準的な生き方とされていたが、現在では①結

婚後、専業主婦②出産後、専業主婦③出産後離職、末子就学後に復職④子供を出産しても必

要 低限の休暇のみ取得し働き続ける⑤結婚しても働き続け子供がいない⑥生涯結婚をし

ないシングル と 6 つのライフコースに分けることができる。このように女性のライフコー

スが多様化されたことは、収入を得る女性層が増加し、結婚しても夫婦の財布は別々である

など自由に消費を楽しむ新たな層が出てきたことを表している。世の中が変化しただけで

なく、女性のライフコースが多様化して消費の選択肢が増えたことで購買行動に大きな影

響を与えると考えられる。

2-2. 女性消費者とファッション意識

2-2-1. ファッション価値観からみる8つのクラスター

ここでは、前節で述べた消費行動の変遷を背景に、日本の消費者クラスターとファッショ

ン価値観の関係性を分析した研究を紹介する。ファッション消費は女性の消費の中心を占

め、女性の生き方を反映する傾向が強いことに着目し、過去1年間にハイブランドとローブ

ランドをいくらずつ買ったか、年齢、所得、そして理想の自己イメージと服装や流行に関す

る考え方をアンケート調査してクラスター分析する方法である。金光(2011)が行ったその

研究によると、所得・年代・価値観によってファッション観を以下のように8つのカテゴリ

ーに分類できるという。(金光、2011:127)

①第1クラスター(9.4%)「自己流女子」

中所得のハイブランド・クラスター。20 代前半と 60 代以上がやや多い。特に 60 代以上

で 300~500 万円の世帯が目立つ。ファッションにこだわりがあり、自分流の着こなしを身

につけている。

②第2クラスター(13.6%)「素朴系女子」

中所得の全世代的なローブランド・クラスター。300〜500 万円の世帯が目立つ。素朴で

飾らない服装が好き。

③第3クラスター(15.5%)「アーバン・アクティブ女子」

高年齢で平均的な所得分布のローブランド・クラスター。30 代前半までの若年層が少な

く、60 代以上世代の比率が極めて高い。「さわやか」「若々しい」「元気な」「知的な」をモ

ットーとする高年齢層。

④第4クラスター(17.3%)「Kawaii 系女子」

若年強力ローブランド・クラスター。30 代前半までの比率が も高い。ファッションに

対する消費は少なくないが、そのほとんどすべてがローブランドで占められる。他人のファ

立教大学社会学部メディア社会学科

108

ッションが気になり「かわいさ」「クールさ」を求めて手頃な価格の服を次々と買い換える。

休日はおしゃれに気を配る。

⑤第5クラスター(15.2%)「ルーラル・アクティブ女子」

高年齢・低所得のローブランド・クラスター。「さわやか」「若々しい」「元気な」「知的な」

をモットーとするアクティブな高年齢層。

⑥第6クラスター(13.6%)「セレブ系女子」

非中年・高所得ハイブランド・クラスター。世帯所得 700 万以上が 4 割を占める。30 代

前半と 50 代前半が目立って多い。自分なりの着こなしを工夫し、上品な身だしなみをする

ために好きなブランドにこだわり、特に海外ブランドを好む。

⑦第7クラスター(11.8%)「オシャレ系女子」

中年・高所得でブランド・バランスのとれたクラスター。ローブランドとハイブランドを

組み合わせながら、「おしゃれ」を、自分を表現する手段として楽しんでいる。700 万〜1000

万の所得層の比率が高い。「アラフォー世代」が多く含まれると思われる。

⑧第8クラスター(3.7%)「定番系女子」

低中所得・中高年のローブランド・クラスター。誠実で定番感覚のものを好み、スポーテ

ィブである。

以上のように、女性の消費行動の多様化がファッション価値観と深く関係していることが

研究からわかった。過去1年間に買ったローブランド・ハイブランドのそれぞれの金額や、

「清潔感を大切にする」「おしゃれを楽しむほうだ」などの服装に対する価値観を掛け合わ

せて分析する手段に関心を持った。ここで紹介した研究の対象者は 10 代から 60 代以上の

女性であったため、細かく8つにクラスターすることができたが、若者のファッション価値

観が少し抽象的であったように感じる。自身の卒論研究では、金光のクラスター分析を参考

にさせていただき、大学生、もしくは大学生〜OL を対象にファッション価値観や衣服購買

に関する価値観を調査したいと現時点では考えている。

2-2-2. 選択肢の多様性とブランド価値観

ここでは、三浦(2013)による日本消費者の多受容性に関する研究を紹介する。彼によれ

ば、欧米と比べると、日本の消費者の購買行動に関わる規範は弱いという。文化的にみると、

欧米は洋食中心の食事に対し日本は和洋中の食事、一神教であるため季節のイベントはキ

リスト教儀式が中心な欧米に対して日本は多神教で、初詣からクリスマス、仏式葬式など

様々な行事が存在すること、社会意識が強い欧米の CSR に対して日本は流行としてのライ

フスタイルを重視する CSR など、衣食住における日本の選択肢が多様性にあふれているの

である。

また、三浦(2013)は生活面だけでなく、ブランドにおける価値観も欧米と日本では異な

ることを述べている。例えば、ルイ・ヴィトンのバックの購買の際、日本では高校生でもル

イ・ヴィトンが好きでお金に余裕があるのなら買う消費者がいる。仮に高校生がバッグを購

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

109

買しようとするとき、もう少し手頃で高校生が持ちそうな国産バッグが選択肢の1つであ

るだけでなく、ルイ・ヴィトンやグッチなどハイブランドを含めたすべてのバッグが選択対

象になりうるのである。一方、ルイ・ヴィトンの発祥地フランスでは、高校生のバッグ購買

において、ヴィトンのバックは対象にならないそうだ。それは、フランスにおいて高級ブラ

ンド品についての社会的意味が明確で、それを持つに相応しい階層や年齢が社会的に共有

されているからである。また、このブランド価値観において学士論文の研究でも述べられて

いる。そもそもルイ・ヴィトンのブランドは旅行用鞄専門店としてスタートした。筆者は、

このブランドをよく見かける場所を国ごとに比較しており、パリにおいては空港などで見

かけるうえに、大きな旅行用サイズの鞄を持つ人を多く見かけるという。NY においては社

会的地位が確立されたキャリアウーマンや富裕層の人が街中でヴィトンのバッグを持つ。

このように、欧米の消費者はブランドに対する付加価値を理解し社会的意味を把握してい

るのに対し、日本では高校生や大学生を中心に幅広い年代の人がヴィトンのバッグや財布、

iPhone ケースを所有していて、いろんなところでそのブランドを見かける。

三浦(2013)は、この現象に関して次のように述べている。

すなわち、フランスにおいては、高級バッグの購買における社会的規範が存在し、

その結果、高校生や中・下層断層の人は、ヴィトンのバッグを買わないわけであり、した

がって、選択肢にも入らない。一方、日本では、高級バッグ購買においてそのような規範

は今日において存在せず、その結果、高校生であろうが若いバイトであろうが、ヴィトン

のバッグを買えるわけであり、選択肢に入れることにまったく問題がないのである。(三

浦 2013:23)

続けて、このことを検証するために日本、アメリカ、フランス、中国で「所得・階層に関

係なく高級ブランドを買ってよいか」といった購買行動の規範意識を調査しており、4カ国

で分散分析を行った結果、日本の消費者が も弱いことが判明した。その結果を受けて次の

ように述べている。

一般に階層社会といわれる欧米では、いわゆる高級ブランドは中産階級以上のブ

ルジョア階級が持つものであり、下位の労働者階級が持つべきでないという社会の規範

があるといわれるが、この結果はまさにそれを表しており、アメリカやフランスでは、

ファッション製品の購買において、これら社会の規範の壁から下位の階層の消費者は高

級ブランドを買いにくい状況が見て取れる。その点、日本の消費者はそのような「下位

階層は高級ブランドを買ってはいけない」という規範がないので、誰でも高級ブランド

を買える、ある意味、階層意識から自由な国であり、そのことが選択肢の多様性を生み

出しているのだと考えられる。(三浦、2013:45)

さらに、三浦の研究結果より、購買行動に関して日本は選択肢の多様性から規範意識が弱

立教大学社会学部メディア社会学科

110

いことが検証されただけでなく、日本社会は欧米と比較して集団主義であることが購買の

選択にも影響を及ぼし、同質的選択もする可能性が高いことも検証された。日本は幅広い商

品を選択肢に入れつつも、流行なものに目を向け、結果的に周りと似たようなものを好む傾

向があるのではないだろうか。俗に言う「量産型ファッション」も流行を意識した結果みん

な似たような服装になってしまう現象なのではないかと考える。

選択肢が幅広いのに同質的選択をする傾向があるのは、国民性も関与していると考えら

れるが、インターネットの存在も大きく影響しているからではないだろうか。インターネッ

トを通じて自ら情報を得ることが可能になり、流行の商品をいち早く知ることができる。先

ほどに例にあげたルイ・ヴィトンのバッグも、SNS を通じて商品を知る機会が増えれば増

えるほど購入につながりやすいのではないか。私は、以上のようにブランド価値に違いがで

る要因にはインターネットの利用、またはシェアリングエコノミーの考えが関係している

のでないかと考える。次章では、インターネットが現代の消費行動にどう影響を及ぼしたの

か考える。

3. インターネットが消費行動に与えた影響

3-1. ユビキタス消費

インターネットの発達によって、私たちは直接お店に行かなくても自宅で商品をいつで

も購入することが可能になった。総務省の調べによると、ここ過去 10 年でネットショッピ

ングの世帯利用率は全世代的に上昇した。ネットショッピングの個人利用率は確実に増加

していて、若者に注目すると 20 代以下・30 代の利用率は 7 割弱である。(図表 2)

図表 2 ネットショッピングの個人利用率

総務省ホームページより引用

木村ゼミ社会調査アンケートから、オンラインショッピングを利用したことがある大学生

はどのくらいいるのか調べてみると、社会学部生全体の 264 人のうち 88.3%とほとんどの

学生が利用していることがわかった。さらに細かく見てみると、日に2、3回以上=1.9%、

日に1回=1.5%、週に3〜5回=12.9%、月に3〜6回=21.6%、月に1、2回かそれ以下

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

111

=42.8%という結果になった。

現在の消費者は「いつでも、どこでも、誰からでも」購買消費をすることが可能になり、

従来のリアル店舗だけでなく通販や各種ネットショッピングやネットオークション、フリ

マアプリなどさまざまな形で商品を購入することができるようになった。この現象を中谷

(2004)は「ユビキタス消費」と呼び、ネットショッピング、モバイルショッピング、ネッ

トオークション、通販、リサイクルショップの 5 つの市場がこのユビキタス消費を牽引

しているという。売り場がリアルからネットへ、売り手が企業から個人へと変化した現在私

たちは広がる選択肢の中からより賢く簡単に買い物ができるようになったのである。

3-2. 「シェア」の広まり

総務省は、シェアリングエコノミーとは、「個人等が保有する活用可能な資産等を、イン

ターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活

性化活動である」と定義されており、スマートフォンにより個人間の取引が拡大された C to

C サービスである。シェアリングエコノミーは、資産やスキルを提供したいという個人と提

供を受けたいという個人とをマッチングさせるサービスであり、インターネット利用を前

提としている。スマートフォンの普及により、個人間マッチング取引がいつでもどこでもリ

アルタイムで行うことが可能で、このシェアリングを後押すのが SNS である。シェアリン

グエコノミーの始まりは「モノのシェア」であり、インターネットの普及を背景にして登場

したオークションサイトは 初のシェアリングエコノミーであるという。宮崎(2015)に

よると、見ず知らずの人同士でモノを売買したり、貸借したり、サービスを提供したりする

ことを可能にした主な要因として、①インターネットの普及②スマホの登場③決済システ

ムの進化が挙げられるという。

続けて宮崎(2015)は、こうしたモノのシェアには、スマホの普及によって2つの新たな

流れが生まれていると述べている。

(1)マーケットプレイス

スマホから簡単にモノを出品できる個人間のやりとり。「フリマアプリ」がその代表であ

る。

(2)短期レンタル

ドレスや鞄などのファッションアイテムなどを中心に低料金あるいは一定の月額料金でレ

ンタルできるサービス。

このように、インターネットの普及によって個人間での購買消費のやりとりが可能にな

り、より消費における選択肢が増えた。卒論ではマーケットプレイスと短期レンタルサービ

スの両方を取り扱い、衣服に対する価値観や購買消費そのものの価値観にどう影響を及ぼ

しているのか、フリマアプリやファッションレンタルサービスを利用しているユーザーに

インタビューをして分析したいと考えている。

立教大学社会学部メディア社会学科

112

3-3. フリマアプリ

3-3-1. フリマアプリ市場

ここでは、フリマアプリの登場とその市場について述べる。フリマアプリ市場は「市場勃

興期」「サービス乱立期」「市場淘汰期」の3つの段階に分けて考えることができるという。

⬛市場勃興期(2012 年〜2013 年上半期) 2012 年 7 月に女性ファッションに特化したフリマアプリ「Fril」が 初のフリマサービ

スである。次いでハンドメイド作品に特化した「minne」、ガラケー時代からフリマサービス

を展開していた「ショッピーズ」がリリースされた。この時期にリリースされた3サービス

はいずれも 10 代から 20 代の女性向けや、ハンドメイドといったターゲットを絞ったサー

ビスを展開している。例えば、国内初のフリマアプリサービスである「Fril」に関して Google

Trends で話題性を調べると、サービスが開始された時期から今日まで検索ヒットは右肩上

がりであり、シェアリングエコノミーの考えが広まりつつある 2016 年から 2017 年にかけ

て注目が集中していることがわかる。

図表 3 Google Trends 分析結果

⬛サービス乱立期(2013 年下半期〜2014 年)

2013 年 7 月に元ウノウ代表の山本進太郎氏が「メルカリ」を立ち上げた。3 分で簡単に

出品できる手軽さと出品する商品のジャンルは問わずに幅広い商品を取り扱うというコン

セプトが評判を呼んだ。この流れを受けて、「STULIO」、「LINE MALL」、「ラクマ」など

EC 業界の大手企業がフリマアプリ業界に参入した。乱立したサービスから抜け出すために

各社が TVCM を開始し、フリマアプリの存在が世の中に影響を及ぼし始めたのである。

⬛市場淘汰期(2015 年〜今)

LINE、楽天といった大手がフリマアプリ界に参入し、各社が TVCM で認知拡大を図っ

てフリマアプリ市場競争は激化した。リリースしたものの勢いが振るわなかったアプリは

完全撤退していくなど厳しい競争環境があるなか、2015 年 12 月に ZOZO フリマが登場し

注目されたが、こちらも売り上げが伸びずにサービスが終了した。フリマアプリの代名詞に

なりつつある「メルカリ」は世界累計 1 億ダウンロードを突破し、今もなお利用者は増加し

ている。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

113

3-3-2. フリマアプリユーザー

MMD 研究所が 2017 年に行った調査を紹介する。スマートフォンを所有する 10〜60 代

の男女 23,107 人にフリマアプリの利用経験について聞いたところ、現在利用している=

31.4%、過去に利用したことがある=15.2%、利用したことがない=53.4%という結果にな

った。(図表 4)2016 年に行った同様の調査と比較すると 10.9 ポイントも利用経験が増え

ていることがわかった。これはフリマアプリの TVCM が多く流れるようになったことや

SNS 内のプロモーション広告で認知を着々と得たからではないかと考える。

また、フリマアプリの利用経験があると回答した人を対象に、フリマアプリの利用状況を

調査したところ、出品・購入したことがある=60.2%、出品のみしたことがある=9.0%、購

入のみしたことがある=30.8%となっている。(図表 5) このことから、現代の消費者はオン

ライン上での商品のやりとりに対して抵抗は少なく、むしろ肯定的であることがうかがえ

る。

図表 4 フリマアプリの利用経験

MMD 研究所ホームページを参考に作成

31.4%

22.0%

17.7%

15.2%

13.7%

13.4%

53.4%

64.3%

68.9%

2017年(n=23,107)

2016年(n=22,003)

2015年(n=16,927)

現在利用している 過去に利用したことがある 利用したことはない

立教大学社会学部メディア社会学科

114

図表 5 フリマアプリの利用状況(n=1,837)

MMD 研究所ホームページを参考に作成

4. 木村ゼミ社会調査から

ここでは、立教大学の社会学部に所属している生徒 264 人に対して行ったアンケートを

もとに衣服購買に対する意識を分析する。まず、ファッションに関心があるかどうかに対し

て、あてはまる=39.4%、まああてはまる=38.3%、あまりあてはまらない=17.4%、あて

はまらない=4.9%という結果になった。買い物をするとストレス解消になるかの質問に対

しては、あてはまる=28.0%、まああてはまる=36.0%、あまりあてはまらない=25.0%、

あてはまらない=11.0%であった。ここ 1 ヶ月の支出の割合をみたときにファッション支

出費が全体の 18.2%と意外と少ない結果となったが、大半の学生はショッピングすること

を好み、3 章で述べたようにオンラインショッピングに対しても積極的であることがわかっ

た。

買い物や商品の選び方に関して、新商品は、自分では気になっていても周りの人がまだ買

い始めて(あるいは使い始めて)いないと購入に踏み切れない方かという質問に対して、あ

てはまる=7.2%、まああてはまる=18.6%、あまりあてはまらない=36.7%、あてはまらな

い=37.5%と、あてはまらない傾向が強いことがわかった。2 章において、日本の消費者は

流行なものに目を向け、結果的に周りと似たようなものを好む傾向があることが解析され

たが、現代の大学生は周囲の友人がその商品を持っていなかったとしても、SNS を通じて

自ら情報やレビューを手に入れることが可能になったためこのような結果になったのでは

ないのかと考える。

続けて、洋服を買うとき、店員のおすすめ、アドバイスに左右されるかどうかは、あては

まる=10.2%、まああてはまる=33.7%、あまりあてはまらない=33.7%、あてはまらない

60.2%

9.0%

30.8%

出品・購入したことがある

出品のみしたことがある

購入のみしたことがある

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

115

=22.3%という結果になった。また、AI(人工知能)で簡単にコーディネートや商品を調べ

ることができたら使用したいかの質問に対しては、あてはまる=21.2%、まああてはまる=

29.2%、あまりあてはまらない=23.1%、あてはまらない=26.5%という結果になった。こ

の質問は、ZOZOTOWN が開始した自分の体型をあらかじめ登録し、サイズにあった商品

だけを表示するという ZOZOSUIT のサービスを想定とした質問であるが、アンケートを実

施した時期とそのサービスが開始した時期がずれていたため、うまく認知されていなかっ

たと思われる。今後作成するアンケート調査の際の課題として以上の結果を取り入れたい

と考えている。ファッションレンタルサービスを利用するかに関しての質問は、あてはまる

=0.8%、まああてはまる=3.4%、あまりあてはまらない=7.6%、あてはまらない=88.3%

と利用者がほとんどおらず、まだまだ学生におけるファッションレンタルサービスの認知

度は低いことがわかった。

5. 今後に向けて(現状の課題)

今回の論文において、問題提起に対する自身の仮説を立ててそれを検証するところまで

至らなかった。しかし、文献調査を通して購買消費の変遷やブランド意識、シェアリングエ

コノミーの意識に関する内容を細かく理解することができた。また、アンケート調査の分析

の際、質問内容の言葉の足らなさや他にも聞きたい質問など多く見つかったので、3 万 2000

字に向けたアンケート調査の際は、必要な項目を細かく洗い出し聞き逃しのないように注

意する。また、今回の論文ではフリマアプリに着目していたが、これから注目されるであろ

うファッションレンタルサービスに関しても同等に調査したい。ただ、フリマアプリと違っ

てファッションレンタルサービスの利用者はまだまだ少ないと思われるので、フリマアプ

リ利用者とともにインタビュー分析を行っていきたいが、どのように対象者を抽出するべ

きか要検討である。

立教大学社会学部メディア社会学科

116

参考文献

金光淳、2013、「『第四の消費』時代の女性消費者クラスターマッピング –ハイブランド/

ローブランドのファッション関連アイテム購入金額パターンのクラスター分析

-」、 『京都マネジメント・レビュー、第 22 号、111-132。

佐野紳也・片岡敏彦、「新しい普通が見えてきた」、『消費のニューノーマル』、株式会社三

菱総合研究所編、2011、28-47。

高橋彩花、2013、「ファッションの文化交渉史」、明治学院大学。

中谷俊介、2004、「ユビキタス消費の可能性」、電通消費者研究センター編、『現代消費の

ニ ュートレンド』、宣伝会議、152-163。

三浦展、2012、『第四の消費 つながりを生み出す社会へ』、朝日新書。

三浦敏彦、2013、「日本の消費者はなぜタフなのか 日本的・現代的特性とマーケティン

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宮崎康二、2015、「シェアリングエコノミー」、日本経済新聞出版社。

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http://www.actususa.com/news/2017/9/8/nordstromlocal(2018 年 1 月 5 日アク

セス)。

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獲 れるのか-」、

https://ecclab.empowershop.co.jp/archives/5477 (2018 年 1 月 30 日アクセス)。

MMD 研究所、2017、「フリマアプリに関する利用実態調査」、

https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1655.html (2018 年 1 月 30 日アクセ

ス)。

経済産業省、2016、「平成 28 年度我が国みおけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子

商取引に関する市場調査)」

http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170424001/20170424001-2.pdf

(2018 年 1 月 30 日アクセス)。

総務省、2015、「情報通信白書」、

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(2018 年 2 月 1 日アクセス)。

総務省、2017、「情報通信白書」

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc112220.html

(2018 年 2 月 1 日アクセス)。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

117

若者における SNS の利用頻度と人間関係の満足度について

要旨

現在コミュニケーション手段として多くの人が SNS を利用している。このコミュニ

ケーション手段としての SNS によって、時代の変化とともに人々が形成するコミュ

ニティにも変化があるのではないだろうか。例えば mixi やブログなどでは不特定多

数の人を対象とする広いコミュニティを形成するのに対して、LINE や Facebook、そ

して 近は Twitter などでは家族や既存の友人、知り合いとのコミュニティを補完す

るものとして機能していると感じる。こうした問題意識から調査を進めると同時に、

SNS によるコミュニティの変化から、SNS の利用と家族や友人との人間関係にも視

野を広げて調査をしていく。

キーワード:5 項目程度

狭いコミュニティ、相関関係、LINE、逆転現象、満足度

1.問題意識

日本では現在、ほとんどの 10 代、20 代の人がコミュニケーションの手段として

LINE や Twitter などの SNS を利用している。若者の間で SNS でのコミュニケーシ

ョンが当たり前になった今、SNS は以前に比べて“狭いコミュニティ”を形成するよう

になったのではないかと私は感じる。つまりどういうことかというと、LINE などが

普及する以前まではインターネット上における友達は現実世界では知らない、ネット

内だけの関係であることが多くみられた。Facebook では現実で知っている人とつな

がりメールを使ってやり取りをし、Twitter では趣味を同じくする人やツイートが面

白いと思った人をフォローする、といったような使い方が主流だったように感じる。

しかし現在では、Facebook を始め Twitter や LINE などでも、現実の世界でもとも

と知っている人同士のコミュニティが形成されていないだろうか。SNS 上でやり取り

するのは基本的に現実世界における実際の友達であり、知らない人とつながるのが主

流ではなくなっているのではないかと感じた。また私自身 SNS では LINE や

Facebook に限らず Twitter や Instagram でも実際の友達しかフォローをしていな

い。このように時代の変化に応じて形成されるコミュニティに違いが生まれているの

ではないか、という問題意識からこの研究を始めていきたいと思う。また、以前まで

は現実世界では知らないネットだけでの関係を求めることから、現実世界に友達がい

ない人ほどネットに依存する傾向が高い。一方現在は、現実世界における実際の友達

と SNS 上でやり取りすることが一般的となっているため、現実世界にいる友達が多

いほどネットに依存する、といった逆転現象が起きているのではないかという点に注

立教大学社会学部メディア社会学科

118

目して研究を進めていこうと思う。

2.研究方法

10 代~20 代の若者が 1 日にどれだけの時間を SNS に割いているか、どの SNS を

主に使っているか、SNS でやりとりしているのはどのような関係の人か、またどれだ

け自分の周りの人間関係に満足しているかといった項目を中心として、2017 年度木村

ゼミで行った社会調査や、日本女子大・早稲田大学で行われた社会調査等のデータを

用いた研究、アンケート調査、文献調査など様々な方法から研究していく。

また先行研究として「SNS 利用における青年の対人関係特性―Twitter と Line 利用時の行

動に着目した検討―」(高橋尚也、伊藤彩花 2016 年)を挙げておく。

Twitter と LINE を利用する男女を調査対象としたこの研究は、Twitter と LINE の利用頻

度と生活満足度を、アンケート調査を用いて調査している。この質問内容とLINEやTwitter

に着目している点など、私の研究内容と一致する部分が多くあるため、研究を進めていくう

えで随時参考にしていきたいと思う。

3.仮説の提示

私は今回の研究を進めていくうえで、2 つの仮説を立てた。まず 1 つ目は問題意識

のところでも述べたように、「SNS に依存している人ほど現実世界の人間関係に満足

している、現実世界の人間関係に満足している人ほど SNS に依存している、という

相関関係がある」という仮説である。そして 2 つ目が「SNS の依存度と人間関係の満

足度における逆転現象が起こったのは、LINE の普及が原因である」というものであ

る。LINE の登場によって形成されるコミュニティに変化があったのではないかとい

う考えに基づいている。以上の 2 つの仮説を立てて本研究に入っていく。

4.分析内容

1.SNS の利用頻度について

1-0 SNS とは

SNS とは、人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供

する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを

円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるい

は「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築す

る場を提供するサービスで、Web サイトや専用のスマートフォンアプリなど

で閲覧・利用することができる。(IT 用語辞典 e-Words より引用 http://e-

words.jp/w/SNS.html 2018 年 6 月 30 日取得)

SNS の 大の特徴は、簡単に人脈を広げられるという点である。共通の趣味を

持つ人や考え方が同じ人、友だちの友だちなど、少しの接点で幅広いコミュニテ

ィを築くことが可能となった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

119

1-1 SNS の変遷

まず初めに、社会に広く普及した SNS(Social Networking Service)がいつ登場したか

をみていく。

2004 年 ①mixi。株式会社ミクシィ(日)笠原健治

2004 年 MSN Spaces。マイクロソフトに日本数社が協力

2004 年 ②Facebook。Facebook 社(米)マーク・ザッカーバーグ。2008 年に日本上陸

2005 年 ③Twitter。Odeo 社(米)エヴァン・ウィリアムズ、ジャック・ドーシー、ビズ・

ストーン、ノア・グラス。2008 年に日本上陸

2005 年 YouTube。YouTube 社(米)チャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・

カリム。2007 年に日本語対応

2006 年 ニコニコ動画。株式会社ニワンゴ(日)中野真、戀塚昭彦

2010 年 ④Instagram。Instagram 社(米)ケヴィン・シストロム、マイク・クリーガー。

2011 年に日本上陸

2011 年 Google+。Google 社(米)。日本上陸も 2011 年

2011 年 ⑤LINE NHN Japan(韓国NEVER社の日本子会社)李海珍

このように見てみると、まず SNS が登場し始めてまだ 15 年ほどしか経っていないこと

に私は驚いた。現在当たり前のように使っているコンテンツが約 15 年前には姿かたちもな

かったと思うと、社会の変化のスピードがいかにはやいか、そしてたったこれだけの年月で

私たちの生活に深く浸透していることからその影響力がいかに大きいものかが分かるだろ

う。

中でも特に影響力が強いといえる 5 つの SNS について、特に注目して特徴を掴んでこう

と思う。

①mixi

日本での元祖 SNS といえる存在であり、世界的にも初期に開始した大規模な SNS であ

る。

当初は、既登録ユーザーの招待を受けないと利用登録ができない招待制を採用していた。こ

の方式は、健全で安心感が持てるため、それを重視する健全な会員が得られた。当時の日本

でのSNSスタンダードを築いたといえる。現在でも、根強いメンバーをもつ。反面、登録

手続きが面倒なことから、新規会員数の増加は限定的になった。しかも、2008 年頃から

Facebookの日本上陸の影響を受けるようになり、その後、加入条件が緩和の一途をたどる。

②Facebook

世界 大の利用者をもつ SNS である。日本では LINE が 大で 2 位になっている。実名

登録制をとっていて、他の SNS に比較して実名登録が厳しい。匿名やハンドル名を禁止し

立教大学社会学部メディア社会学科

120

実名制をとっている。実名を保証する手段を講じていないため、その信頼性は低いのだが、

Facebook では実名登録を強く推奨しており、実際にそうしている利用者が多いといわれて

いる。Facebook は情報共有にも厳格である。あらかじめ相手と「友達」になり、友達にな

らないと情報を得られない(限定された情報しか得られない)仕組みになっている。

Facebook は世界での普及に比較して、日本の利用者は少なかった。その理由として、当初

日本語のサービスが極端に少なかったこと、英語版のレイアウトを日本語版がリアルタイ

ムで反映しなかったことが挙げられるが、Facebook のアカウントは実名と本人の顔写真、

実社会でのプロフィールの登録が義務づけられており、それが日本人の性格に合わなかっ

たのだという説もある。

その後次第に利用者が増加していき、特にジャスミン革命の報道が Facebook への関心や

共感を得て、急速に普及した。2010 年末で約 300 万人だったのが、2011 年 9 月には 1000

万人を超え、2015 年末には 2500 万人になったという。

③Twitter

twitter は「つぶやき」の意。ツイートと呼ばれる 140 文字以内(ダイレクトメッセージ

では制限緩和されている)の短文・画像・動画を投稿・共有できる SNS。操作が簡単で、

短文で投稿できるため、いつでも気軽に、思ったことをつぶやけるので、リアルタイム性が

高い。今自分が体験している事や皆に知らせたい事をメモと写真や動画で投稿する目的で

利用されることが多い。その例として、レストランでの料理や自分が調理した料理をスマー

トフォンで撮影し投稿するような風潮がある。また閲覧者がさらに自分の友達に知らせる

リツイート機能がある。それによる情報拡散もされやすい。実名登録の規定はないため、有

名人やビジネス利用では実名で登録し投稿しているが、ほとんどの人はハンドル名(ニック

ネーム)を用いており、匿名性が高い。

④Instgram

Instagram の名称は、インスタマチックとポラロイドというカメラ名を合成したもの。

カメラ内に現像機能をもち撮影直後に写真が出てくるので、撮影した場で仲間が写真を楽

しむことができた。Instagram は、そのインターネット版で、写真の共有に特化したSNS

である。ポラロイドなどへの敬意からか、フレームサイズを正方形にしている。自分が撮っ

た写真や短い動画(60 秒、音声つき)にコメントを添えて投稿する。不特定のメンバーが

それらを閲覧、シェアでき「いいね」やコメントを追加できる。Instagram アプリには、画

像や動画を投稿する際に写真加工ができる、ハッシュタグを使用して関連付けができるな

どの機能をもつ。Twitter が文章を主にしたリアルタイム性を重視しているのに対し、

Instagram は写真を主に編集・加工を重視しているようである。投稿する写真の見栄えの

良さを意味する「インスタ映え」は 2017 年の流行語大賞になった。Instagram は匿名性が

高い。Instagram アプリをインストールしてアカウントを得るが、ハンドルネームだけで

実名登録の必要はない。アカウントを得るためにメールアドレスを知らせる必要があるが、

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

121

メールアドレスだけが本人確認の手段である。逆に、Instagram では、スマートフォンの連

絡帳に登録している電話番号やメールアドレスから、ユーザー検索をすることができる。そ

のため、意図していない相手に検索されることがある。

⑤LINE

2017 年現在、国内 大の利用者をもつ SNS である。日本の利用者ニーズに合致してお

り、サービス開始後、急速に利用者が増大した。LINE の発案者は韓国人の李海珍。韓国N

EVER社の子会社である日本法人の NHN Japan で、日本・韓国の技術者により開発。そ

れで「準国産 SNS」といわれている。2011 年 3 月に起きた東日本大震災をきっかけに「災

害時にも簡単に連絡ができるアプリを作る」という目的の下リリースされた。 初はスマー

トフォン・携帯電話向けの無料チャットアプリとして登場し、その後パソコン版も登場した。

サービス開始後利用者は急激に増加し、3 か月後には 100 万ダウンロードを達成、わずか 1

年後の 2012 年 7 月にはユーザー数が 5000 万人に達した。

また LINE ギフト、LINE MUSIC、LINE バイト、LINE マンガ、LINE ショッピ

ングなど様々なコンテンツを追加してサービスの幅を広げている点も特徴的である。

1-2 SNS 利用状況

LINE Facebook Twitter mixi Instagra

m

全体(N=1500) 67.0% 32.3% 27.5% 6.8% 20.5%

10 代(N=140) 79.3% 18.6% 61.4% 2.9% 30.7%

20 代(N=217) 96.3% 54.8% 59.9% 13.4% 45.2%

30 代(N=267) 90.3% 51.7% 30.0% 9.4% 30.3%

40 代(N=313) 74.1% 34.5% 20.8% 8.3% 16.0%

50 代(N=260) 53.8% 23.5% 14.2% 5.8% 12.3%

60 代(N=303) 23.8% 10.6% 4.6% 1.0% 1.3%

男性(N=756) 63.6% 32.0% 25.7% 6.5% 13.9%

男性 10 代(N=72) 70.8% 16.7% 54.2% 2.8% 20.8%

男性 20 代

(N=111) 94.6% 50.5% 53.2% 14.4% 34.2%

男性 30 代

(N=136) 86.0% 46.3% 30.1% 5.1% 18.4%

男性 40 代

(N=159) 68.6% 36.5% 21.4% 8.8% 11.3%

男性 50 代

(N=130) 49.2% 24.6% 11.5% 6.2% 6.9%

立教大学社会学部メディア社会学科

122

男性 60 代

(N=148) 23.6% 14.2% 4.1% 1.4% 0.0%

女性(N=744) 70.4% 32.5% 29.3% 7.1% 27.3%

女性 10 代(N=68) 88.2% 20.6% 69.1% 2.9% 41.2%

女性 20 代

(N=106) 98.1% 59.4% 67.0% 12.3% 56.6%

女性 30 代

(N=131) 94.7% 57.3% 29.8% 13.7% 42.7%

女性 40 代

(N=154) 79.9% 32.5% 20.1% 7.8% 20.8%

女性 50 代

(N=130) 58.5% 22.3% 16.9% 5.4% 17.7%

女性 60 代

(N=155) 23.9% 7.1% 5.2% 0.6% 2.6%

表1 主な SNS の利用率(2016 年 全体・性年代別)

(出典)総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関す

る調査」

2016 年 11 月 26 日~12 月 2 日に、13 歳から 69 歳までの男女 1,500 人を対象とし

て総務省情報通信政策研究所が行った調査を参考にする。上記で取り上げた 5 つの

SNS の利用率を年代別・性別にみてみると、10 代~30 代の LINE 利用率が も高く

約 8 割~9 割となっている。特に 20 代は 96.3%が使用していることからも、LINE

がいかに若者の間で必要不可欠なものであるかを表している。そして全体的にみても

他の SNS を圧倒して普及していることから、世代や男女を超えて利用されていると

いうことができる。また Twitter に関しては 10 代~20 代は約 6 割の人が利用してい

る一方で、30 代は 3 割と、やや低い傾向が見て取れる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

123

図1 代表的な SNS の利用率の推移

(出典)総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関す

る調査」

同研究所による調査で、2012 年から 2016 年の 4 年間による普及率の推移を追った

ものが上記のグラフである。mixi などの利用率が減少していっているなか、LINE、

Twitter、Facebook といった今日主要となる SNS は全て利用率が年々増加してい

る。ここ数年のスマートフォンの定着により SNS の利用も定着していったことが見

て取れる。その中でもひと際利用率が右肩上がりで伸びているのが LINE である。

2012 年はリリースして間もないなかでも高い利用率をあげている。

立教大学社会学部メディア社会学科

124

(3)携帯電話でメールを見たり送ったりす

る (%)

している してい

ない 合計

全体 28.0 72.0 100.0

年代 10 代 10.0 90.0 100.0

20 代 7.4 92.6 100.0

30 代 12.4 87.6 100.0

40 代 27.8 72.2 100.0

50 代 40.8 59.2 100.0

60 代 54.1 45.9 100.0

表 2 携帯電話でメールを見たり送ったりする

総務省情報通信政策研究所「平成 28 年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に

関する調査」

また上記の表 2 は、「携帯電話でメールを見たり送ったりする」かどうかを聞いた

ものである。この結果からも分かるように、50 代~60 代の人は半数近くがメールを

利用しているのに対して、10 代~20 代は特にコミュニケーションのツールとしてメ

ールを使う人はほとんどいないのが現状である。メールよりも手軽で軽快にコミュニ

ケーションを取ることができ、また大人数でのメッセージのやり取りも簡単にできる

LINE の普及により、メールの利用率が下がっていったことは容易に想像できる。

ではなぜ、LINE がメールや他の SNS を圧倒して普及していったのか、という問題意

識について次の章で扱っていきたいと思う。

2.LINE について

2-1 LINE の歴史

そもそもコミュニケーションアプリ「LINE」が日本でサービスが開始されたのは、2011

年 6 月だった。同年 3 月に起きた東日本大震災をきっかけに「災害時にも簡単に連絡がで

きるアプリを作る」という目的の下リリースされたのだ。 初はスマートフォン・携帯電話

向けの無料チャットアプリとして登場し、その後パソコン版も登場した。サービス開始後利

用者は急激に増加し、3 か月後には 100 万ダウンロードを達成、わずか 1 年後の 2012 年 7

月にはユーザー数が 5000 万人に達した。これは Twitter の約 3 年、Facebook の約 3.6 年

をはるかに上回るスピードであり、いかに LINE が急速に普及したかがよく分かる。その

後も利用者の増加は衰えることなく、2013 年にはダウンロード数 1 億を突破した。このよ

うな歴史からも分かるように、LINE は他の SNS に比べてリリースが遅くまだ歴史が浅い

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

125

にもかかわらず、とても高い利用者数を誇っている。このように日本では高い利用率を誇っ

ている LINE だが、世界での利用率はそこまで高くないのが現状である。市場調査会社の

GlobalWebIndex 社がまとめた、他の国での 2013 年における LINE の利用率をみていくと

以下のとおりである。アメリカやカナダ、イギリスでは 1~2%、発案した韓国でも 12%と

低い利用率となっている。LINE に代わって主流となる SNS は、WhatsApp・

FacebookMessenger・KakaoTalk などが挙げられる。また日本のように 1 つの SNS に集

中するという形態は海外ではあまり見られない。

2-2 “狭いコミュニティ”をつくる SNS

NTT ドコモ モバイル社会研究所が行った、「SNS のプロフィール公開範囲」に関する

調査を参考にする。2012 年は、公開している人が 25.0%、友だちの友だちまで公開してい

る人が 24.2%、友だちまで公開している人は 43.0%という結果になった。そして 2 年後の

2014 年には、公開している人が 16.2%、友だちの友だちまで公開している人が 14.7%、友

だちまで公開している人が 55.6%、という結果になった。つまり、友だちまでしか公開し

ない人が増えているということができる。

また同研究所による「SNS で新しく友だちを作った経験」という調査では、あると回答

した人が 49.2%、ないと回答した人は 38.3%であるのに対して、2014 年ではあると回答し

た人が 32.4%、ないと回答した人が 59.5%となった。この 2 つの調査から分かることは、

SNS が新しい人間関係を構築するものではなく“既存の人間関係を補完する手段”であると

いうことだ。

2012 年に東京広告協会によって行われた「大学生の友人関係に関する調査」では、

LINE 上の構成メンバーと Twitter 上の構成メンバーを上位 3 位まで選んでもらっ

た。その結果は以下の通りである。まず LINE 上の構成メンバーは 1 位大学の友人

(97.4%)、2 位地元の友人(80.4%)、3 位学校の先輩や後輩(60.0%)。Twitter の

構成メンバーは 1 位大学の友人(94.5%)、2 位地元の友人(80.2%)、3 位学校の先

輩や後輩(71.8%)。このように、大学生が LINE や Twitter を利用する際、その構成

メンバーはどちらも共通して既存の人間関係であることがよく分かる。これは先述し

た SNS の 大の特徴である「新たな人間関係を構築する」というものとは真逆のも

のであるように感じた。この構築する人間関係の違いを、“広いコミュニティ”と“狭い

コミュニティ”に分けて考える。

本来新たな人間関係を構築することが目的である、つまり“広いコミュニティ”をつ

くることができるのが特徴である SNS が、すでにある人間関係をさらに強固なもの

にする、つまり“狭いコミュニティ”をつくるものへと変わってきているということが

分かる。

立教大学社会学部メディア社会学科

126

2-3 リスク化する社会

世界的にはまだまだ普及率の低い LINE が日本では急速な普及を遂げているという

ことから、LINE が普及したのには日本の社会的背景が関係しているのではないかと

考えた。そこで、“狭いコミュニティ”を求める人々の社会的背景について考えてみた

いと思う。少し遡ってみると、日本は 1950 年代から 1980 年代ごろまで高度経済成長

期などをむかえて経済的にも社会的にも成長していた成長社会であった。成長性のあ

る社会では、流動性が人々にとって大きなチャンスとなった。多様な価値観がうまれ

ることで個性や才能が重視され、多様な選択肢の中から自由に自己決定をすることが

できるようになり、不本意な関係を制度によって強制をされなくなったということが

できる。また成長中の社会で重視される問題は経済上の問題や健康上の問題であった

ため、幸福度を測る尺度としてはこれらが生活を安定していくうえで一定のレベルに

達しているか、ということであった。

しかし成長には限界があり、バブル崩壊後の 1990 年代、2000 年代に入ってくると

成長社会が終焉し、成熟社会へと変わっていく。成長社会における流動化によって関

係を保障する共通の枠組みがなくなったため、成熟社会においてはこの流動性が人々

にとって大きなリスクとなる。また経済的な面での生活の安定を多くの人が手に入れ

ているため、幸福度を測る尺度として人間関係の比重が高まっていった。つまり、人

間関係を強制される不満や決められた自己を生きなければならない不満から生まれた

「自由への欲求」が、次第に人間関係から外される不安や誰からも見られていないの

ではないかという不安によって生まれる「他者からの承認の欲求」へと変わっていっ

たといえる。そのため人間関係の再帰化がおこり、個性や才能の重視から人間関係の

重視へとシフトしていったのである。

博報堂生活総合研究所が 1998 年から行っている定点調査の「友人は多ければ多い

ほどよいと思う」というデータをみてみると、以下のようになっている。友人が多け

れば多いほどよい、と回答している人は右肩下がりに減少し続けている。2016 年には

30%を下回る結果となった。この調査結果からは、リスク化する現代社会において、

広く浅く人間関係を広げていくよりも狭く深い人間関係を築きたいと考える人が増え

ているということができる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

127

図 2 友人は多ければ多いほどよいと思う

このように人間関係への不安、他者から自分の存在をちゃんと認めてほしいという

不安感から、SNS に“狭いコミュニティ”の構築を求めることが増えていると分析す

る。そのため SNS やインターネットによって新しい出会いを求めることよりも、基

本的に自分の友だちや家族、知り合いとのコミュニティをベースとし、コミュニケー

ションに特化した LINE の普及が日本において急速に拡大したのではないだろうか。

3.人間関係の満足度について

下記の 2 つの表は、第 1 章でも触れた総務省情報通信政策研究所の調査にもとづい

たものである。総務省調査では、人間関係の満足度について、いくつかの関係に分けてき

いている。表 3 は、その質問で、「あなたの家族との関係」について、表 4 は、「あなたの

友人との関係」について、それぞれたずねたものである。

立教大学社会学部メディア社会学科

128

(1)あなたの家族との関係 (%)

満足し

ている

まあ満

足して

いる

どちら

でもな

やや不

満だ 不満だ

該当す

る相手

はいな

合計

全体 46.2 41.5 8.1 2.2 1.1 0.9 100.0

年代 10 代 45.0 40.7 11.4 2.1 0.7 0.0 100.0

20 代 44.2 42.4 8.3 3.7 1.4 0.0 100.0

30 代 52.1 39.0 6.7 1.5 0.7 0.0 100.0

40 代 44.1 45.0 7.0 1.0 2.2 0.6 100.0

50 代 45.8 40.8 7.3 3.1 1.2 1.9 100.0

60 代 45.5 40.3 9.2 2.3 0.3 2.3 100.0

表3 あなたの家族との関係

総務省情報通信政策研究所「平成 28 年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に

関する調査」

(2)あなたの友人との関係 (%)

満足し

ている

まあ満

足して

いる

どちら

でもな

やや不

満だ 不満だ

該当す

る相手

はいな

合計

全体 30.5 52.2 14.3 1.8 0.4 0.8 100.0

年代 10 代 41.4 45.0 11.4 0.7 1.4 0.0 100.0

20 代 31.8 50.2 13.8 3.2 0.5 0.5 100.0

30 代 32.6 50.2 14.2 2.2 0.7 0.0 100.0

40 代 24.6 53.0 18.8 2.6 0.0 1.0 100.0

50 代 29.6 58.8 8.8 1.5 0.4 0.8 100.0

60 代 29.7 52.1 15.8 0.3 0.0 2.0 100.0

表4 あなたの友人との関係

総務省情報通信政策研究所「平成 28 年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に

関する調査」

今回の調査では若者に焦点を当てているため、特に 10 代~20 代に着目してみる。

家族との関係に「満足している」または「まあ満足している」と回答した若者は合わ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

129

せて 80%を超え、「不満だ」、「やや不満だ」と回答した人は合わせて 5%前後ととて

も少ない割合になっている。次に友人との関係についてみてみると、「満足してい

る」と回答したのは 10 代が 41.4%となった。これは他の年代に比べて約 10%ほど高

い結果となった。20 代も「満足している」、「まあ満足している」と回答した人は合わ

せて 80%を超える。このように現在、他者との関係についての満足度についてはとて

も高いということができる。ではこの満足度の高さと、SNS の利用に何らかの相関関

係はあるのだろうか。「SNS に依存している人ほど現実世界の人間関係に満足してい

る、現実世界の人間関係に満足している人ほど SNS に依存している、という相関関

係がある」という 初に提示した仮説について検証していきたいと思う。

4.SNS の利用と人間関係について

SNS を利用する時間が多い人ほど人間関係への意識が高いのではないかという考え

から、2017 年度木村ゼミ社会調査で得たデータをもとに調査を行った。「LINE を一

日にどのくらいの頻度で利用するか」と「私の生活にとって他者とのつながりは不可

欠だ」という問いに対する結果を使って SPSS によるクロス集計をした。結果は以下

のとおりである。

(0=月に数回程度、1=1 日に 1 回程度、2=1 日に 2~10 回、3=1 日に 11~20

立教大学社会学部メディア社会学科

130

回、4=21~50 回、5=51~100 回、6=101 回以上)

「他者とのつながりは不可欠だ」という質問に対し「あてはまる」、「まああてはま

る」と回答した人は LINE の利用頻度が高まるにつれ増加傾向があるため、相関関係

がみられたと思ったが、漸近有意確立が.050 であることからこの結果は有意とは言

い難い。そのため現段階の研究では 1 つ目の仮説が正しいかどうかの検証には至らな

かった。なぜ有意なデータにならなかったのかという原因は現段階では明確ではな

い。SNS の利用頻度と人間関係の満足度に関する相関関係をみていくうえで、有意と

なるデータを得ることが今後研究を進めていくうえで課題となる。

5.現時点での考察

現在私たちの日常になくてはならないものとなった SNS だが、SNS が普及し始め

てからまだ歴史は浅く、社会がいかに急激な変化をしているかということを調査を始

めて改めて感じた。そして SNS の普及率をみると、年代や男女にかかわらず圧倒的

な普及をみせているのが LINE である。その中でも特に 10 代~20 代の利用率は 8 割

~9 割と非常に高いものとなっている。現段階の調査から分かったことは、LINE と

いう“狭いコミュニティ”が圧倒的な普及を果たしたのには LINE の特徴だけによるも

のではなく、日本の社会的な背景が大きく関わっているということである。バブルが

崩壊し社会的に成熟した社会において、人々が人間関係に求めるものが変化していっ

たことが挙げられる。「友人の数が多い方がいい」と回答する人が年々減少している

ことがとても興味深かった。友だちは量より質という考え方が根付いてきているのだ

ろうか。

そして家族や友だちとの人間関係に対する満足度が 2016 年の調査をみる限りとて

も高いものとなっている。SNS が普及する以前、特に個性が重視されていた時代

(1950~1980 年代ごろ)の人間関係の満足度などと比較していき、現在の傾向を掴

んでいけたらと思う。そして SNS の利用頻度と人間関係の満足度の相関については

今後の研究において 大の課題である。人間関係の満足度という抽象的なものに対し

てどのようにして有意なデータを得るか、といったことを再度考えて研究を進めてい

きたいと思う。また SNS の利用頻度と人間関係の相関だけでなく、LINE や

Twitter、Instagram などそれぞれの友だちの数やフォロワー数と人間関係の満足度

についても調べてみたら面白いのではないかと思ったので、今後の研究で扱えたらと

思う。

参考文献

木村忠正,2012,『デジタルネイティブの時代:なぜメールをせずに「つぶやく」のか』

平凡社.

コグレマサト・まつもとあかし,2012『LINE なぜ若者たちは無料電話&メールに飛び

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

131

ついたのか?』マイナビ新書.

土井隆義,2009,『キャラ化する/される子どもたち』岩波書店.

――――,2014,『つながりを煽られる子どもたち』岩波書店.

高橋尚也・伊藤彩花,2016,「SNS 利用における青年の対人関係特性―Twitter と

Line 利用時の行動に着目した検討―」立正大学心理学研究所紀要 第 14 号(2016)

39-50.

ソーシャルメディアラボ,https://gaiax-socialmedialab.jp/post-30833/

総務省情報通信政策研究所,「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調

査」,2017,

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc111130.html

NTT ドコモ モバイル社会研究所,http://www.moba-ken.jp/

博報堂総研 生活定点,2016,「12 交際」,http://seikatsusoken.jp/teiten/

立教大学社会学部メディア社会学科

132

Instagram が与えた影響力と SNS 観光地に潜む問題点

要旨

テレビや雑誌などで「インスタ映え」という言葉が頻繁に聞かれるように

Instagram には若者の消費行動に影響を与える力があるとされてきた。Instagram に

投稿するために、例えば普通のアイスよりも見た目のかわいいアイスを買うといった

行為等に疑問を持ち、本論文で議論する。「インスタ映え」の言葉が現れる前から私

たちはその言葉に近い感覚を持っていた。私たちが景色を見るとき、例えば「沖縄ら

しい」や、「ヨーロッパらしい」と思うことがある。それは、私たちがフィルターを

持って、その観光地を見ているからだ。そのフィルターを通してみた景色は美しく、

今日ではそういったきれいな景色がテレビや SNS で拡散され多くの人に知れ渡って

いく。多くの人がその地を観光すると、ごみの投棄や無断侵入といった禁止行為が増

え、「SNS 観光地」の閉鎖が相次いで起こっている。この問題点を本論文で文献やオ

ンラインフィールドを用いて考察していく。

キーワード:「sns 観光地」「インスタ映え」「地域活性化」「消費行動」「マナー違反」

はじめに

本研究では、「写真映え」の意味を持つ「インスタ映え」に着目した。Instagram に「イ

ンスタ映え」する写真を投稿するために、若者は実際に見栄えの良い食べ物のため、景色の

ために行動するのか。「インスタ映え」が人に与える心理的影響と消費行動を中心に考察す

る。また、「インスタ映え」が原因で、立ち入り禁止や景観を損ねてしまった所謂「SNS 観

光地」の問題について、従来の地域活性化とメディアの関わり方を比較しながら考察する。

そして、2020 年には、東京オリンピックが開催されるため、更なる観光客の増加が見込ま

れる。これからの観光地がどうメディアを利用して地域活性化を図っていくのか、さらなる

立ち入り禁止の観光地を増やさないためにどうするべきか考察する。

1.問題意識

2017 年人気を博したブルゾンちえみの「35 億」、将棋界の加藤一二三 9 段の愛称である

「ひふみん」を抜いて、流行語大賞に「忖度」と「インスタ映え」が選ばれた。Instagram

に投稿する際、写真が華やかなもの、かわいらしいもの、かっこいいもの、珍しいものの写

真を撮ると、多くの人から「いいね!」がもらえるため、「インスタ映え」を求めて行動す

る人が増加している。また、多くのフォロワーを持つインスタグラマーは、一般人であるが

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

133

多くの人に影響を与えているため、あこがれの対象となり、彼らを真似する人が増えている。

またインスタグラマーは自分の世界観といった個性を持つ。そして、彼らが行った場所、買

った服、やアクセサリー、食べたものの投稿に多くの「いいね!」がつくため、ある企業で

は、そういったインスタグラマーに商品をプレゼントして彼らのフォロワーに PR させてい

る。Instagram で「インスタ映え」の写真を投稿して話題になれば、誰もがインスタグラマ

ーになることができる。このように、今や Instagram は私たちの生活に深く浸透している

のだ。

次に地域活性化に関して。少子高齢化・過疎化が進み、日本創生会議の分科会座長の増田

寛也元総務相が 2014 年 5 月に公開した「消滅自治体リスト」増田(2014)では、2040 年

までに 896 市町村が消滅する可能性があるとされ、地域活性化は住民にとって大きな課題

となった。そのため、「SNS 観光地」として有名になることで、観光客の増加につながり、

地域活性化となることはメリットしかないように思える。しかし、「インスタ映え」によっ

て起きた問題は少なくない。「インスタ映え」した写真が撮れると話題になった観光地を多

くの人が訪れ、観光客のマナーの悪さが原因となって、立ち入り禁止やもともとの景色を改

造してしまった場所が多く存在する。実際、ディズニーランドのシンデレラ城前の柵にのぼ

り写真を撮る人が増えたため、危険だとされ、のぼれないように突起のついたものに変わり、

景観改造が行われた。今回、こうした問題意識のもと、「インスタ映えによる消費」と「観

光」の 2つのテーマに絞り、「インスタ映え」が受け手側の消費行動にどういった影響を与

えるのか、実際に「インスタ映え」は発信者側に利益をもたらすのかについて調査する。ま

た「インスタ映え」が原因となって起きた問題を、今までの観光形態を遡りながら、実例を

基に明らかにする。

2.先行研究

2-1 山村(2009)からみる地域とメディアの関わり方

初に、従来の観光と現在の観光に関して、地域のかかわり方、メディアとのかかわり方

に着目する。観光に関する議論として、重要視されているのは、「発地型観光」から「着地

型観光」へのシフトである。これは、具体的に言うと、企業が旅行商品を販売するために送

客システムを構築していくという旧来の「経済開発型モデル」(マスツーリズム)から、地

域社会が自らの資源を「旅行商品」として持続可能な形で維持・管理・販売するために集客

システムを構築していく「地域開発型モデル」(ニューツーリズム)への移行である。1960

年から 2000 年以降にかけての観光の形態を見てみよう。

山村(2009)によると、戦後高度経済成長期(60~70年代)は、新幹線やジャンボジェ

ット機などによる交通インフラの整備が観光に大きく影響している。つまり、大量輸送

化・高速化によって、自ずと交通網の整備された限られた土地へ、同時に大人数がまとめ

て効率よく訪れる形態に変わった。これが日本におけるますツーリズム成立の背景であ

立教大学社会学部メディア社会学科

134

り、旅行会社の規格化されたパッケージ商品が例である。また、航空運輸業者と旅行会社

が観光開発の中心である。(=発地型観光)

バブル経済前後(80~90年代)は、観光施設と地域資源の商品価値が観光行動を規定し

た。バブル期において、地域外資本によるリゾート開発に加え、ふるさと創生事業による

観光振興を目的とした施設整備や温泉掘削など、自治体による観光資源開発も行われた。

バブル崩壊後は、荒廃した地域経済を立て直すために地域おこしを目指したが、自治体行

政には観光開発の与力がなく、自ずと住民主体の観光まちづくりを志向せざるを得なかっ

た。(=着地型観光への流れ)

2000年以降は、交通インフラ、観光施設・地域資源に変わってインターネットが台頭し

始めたことにより、観光行動を規定する要素に改革が起こった。具体的には、家庭へのイ

ンターネットの普及によって、旅行会社を通さずに航空券の購入や、ホテルの予約が可能

となり、航空運輸業と旅行会社による発地型商品は存在価値を問われるようになった。さ

らに、インターネットの技術を持つ若者を中心に、個々人が自らのブログやホームページ

で目的地に関する情報を発信、相互参照をし始めた。またmixiや趣味などで結びついたネ

ットコミュニティにおいて、例えばアニメの観光に関する同好コミュニティが生まれ、新

しい対象が観光の目的としてあげられるようになった。つまり、旅行者は観光情報の発信

者となり、観光を創り出す主体となった。情報革命と言われ、アニメファンによる聖地巡

礼行為など新たな文化創造につながる事例が現れている。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

135

図表 1 観光行動を規定する要素から見た戦後日本の観光の流れ(山村 2009)

このように、従来の観光に関する情報発信者はインターネットの出現により企業から地

域、そして個人へと移り、観光振興や観光の特色において、個人の趣味が大きく影響してい

ることがわかる。観光の商店においても、個人の趣味嗜好に重きが置かれ、情報革命が強く

表れている。今後、マスメディアと観光地のかかわりから、観光地が SNS を利用して地域

活性化をはかっている観光地に着目する予定である。

2-2 西川(2017)からみる伐採された「哲学の木」

次に、観光客のマナーの悪化が原因で伐採された有名な観光地「哲学の木」を例に挙げて

考察する。西川(2017)によると、北海道の美瑛町にある「美瑛の丘」は、1970 年代はじ

立教大学社会学部メディア社会学科

136

めに、写真家の前田真三による美瑛の農村景観の写真作品と、同じころ放映された自動車の

テレビコマーシャルによって発見され、観光対象となった。こうして写真やコマーシャルと

いう媒体を通して、外からの視線によって構築された、美瑛の美しい田園景観の観光は、実

は極めて深刻な問題を抱えていた。それはすなわち、農地に侵入したり、ゴミを捨てたり、

畑で用を足したりという、農業に直接的な損害を与えかねない一部の観光者の振る舞いで

ある。靴底や衣服についた細菌が、畑に持ち込まれて作物に感染して伝播、ジャガイモ畑等

で病害虫が発生して作物に大被害をもたらす可能性もあるため、農家の人たちは恐れてい

た。『それはしばしばニュースでも取り上げられていたが、2016 年 2 月に悲劇的な結果を

生み出すにいたった。すなわち、撮影スポットして観光者に人気のあった「哲学の木」が所

有者の農家によって伐採されてしまったのである。』(西川 2017.48)「美瑛の丘」には、「哲

学の木」の他にも、昭和 47 年の日産のコマーシャルで話題になった 「ケ

ンとメリーの木」、「親子の木」、タバコのパッケージに使われた「セブンスターの木」、タバ

コブランドのポスターに使われた「マイルドセブンの木」など、メディアに取り上げられて

有名になった木が多くある。メディアに取り上げられ、話題になったことで、多くの観光客

が増加するという一見メリットばかりのように思われたが、マナーの悪化というデメリッ

トが存在していたことがわかる。

3.仮説

初に、「インスタ映え」の特徴を、「可愛いカラフル、おしゃれな雑貨風、非日常、意外

性/ミスマッチ/違和感、規格外、ストーリー(世界一、日本一)」とする。そして、「イン

スタ映え」と類似語である「フォトジェニック(photogenic)」の定義を、写真写りが良い、

写真撮影向きとする。(「写真」を意味する(photo)に「~に適している」を意味する(genic)

を掛け合わせた言葉。Instagram では、フォトジェニックはいいね!やコメントが付きや

すいという意味で使用されている。地域活性化(地域創生)の定義48としては、「各地域がそ

れぞれの特徴を活かし、自律的かつ持続的で魅力ある社会を作り出すこと(JTB 総合研究

所 HP)とする。

① 多くの企業が SNS 映えを PR した商品やイベントを企画する中、それが作戦とはわか

っていながらも、実際に高いお金を払ってでも「SNS 映え」のために行動し、写真を撮

ったことはあるのではないか。(=「インスタ映え」は消費を促すのではないか。)

② 多くの人が危険な行為をおかして写真を撮ったものが写真のみで拡散されるため、禁止

されていると知らずに写真や禁止されている行動をとってしまうのではないか。

③ SNS を活用した観光客増加作戦は有効なのではないか。

48 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/regional-revitalization/

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

137

4.調査方法

4-1

オンラインフィールドで、話題になっている観光地に着目し、実際に消費者が観光地でどの

ような写真を撮っているのか、影響を受けているのか調査する。文献調査では、従来の観光

PR と今日の SNS を利用した観光 PR を比較し、どのような効果があるのか、実際にどの

ような被害があったか考察する。また、木村ゼミアンケートを利用して、「インスタ映え」

と「リア充」の関係性に着目し、「インスタ映え」はどのような心理的影響を与えているか

調査する。

4-2 12 月の LINE NEWS による「インスタ映え」関連記事

○12 月 17 日「厚労省がインスタ映え風景増へ整備促進、観光客を後押し」(共同通信)

『Instagram などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が訪日客の旅程決定

に強い影響力を持つ中、「インスタ映え」する街道風景を増やしていくのが狙い。国交省は

平成 19 年度からの「日本風景街道」事業で、観光地の無電柱化などを進めており、会議で

は成功事例の水平展開や風景街道のロゴマークの標識化も視野に入れて検討する方向で、

来夏までに意見を取りまとめます。』

○12 月 18 日「インスタ映えスポット“ナナガン”が閉鎖、マナー違反相次ぐ」(産経ニュ

ース)

『「インスタ映え」のスポットとして人気を博した大阪市港区の通称・第七岸壁(ナナガン)

で、8日、出入り口付近に柵が設置され、一般の立ち入りが禁止に。SNS 上で人気になるに

つれ、違法改造車の騒音やゴミのポイ捨てといったマナー違反が相次ぎ、管理する大阪市が

閉鎖を決めました。』

この二つの記事から、インスタ映え推進とインスタ映えが生んだ悲劇という対照の事柄

が起こっていることがわかる。

立教大学社会学部メディア社会学科

138

5.分析

・図表 2 Google trend による分析

Google trend を利用し「インスタ映え」を検索した結果、2017 年の 7 月中旬まで、検索

数は少なかったものの、7 月終わりから 8 月上旬にかけて増加していることがわかった。8

月以降、大きな変化はなかったものの、クリスマスから年末の時期に過去 高の検索数とな

った。このように 2017 年の下半期にかけて「インスタ映え」が大注目されたため、流行語

大賞になったのだろう。

5-1.2017 年度木村ゼミアンケートによる分析

立教大学社会学部 264 名の学生を対象に行った 2017 年度木村ゼミアンケートを利用し、

Instagram 投稿に得られる心理と消費行動の関連性を分析する。

〇利用した質問項目

・問 24-1-1「〇〇ラン(バブルラン、カラーランなど)、ナイトプールなどインスタ映え

するイベントによく行く」

・問 24-1-1「ハロウィンにコスプレをして楽しむ」

・問 24-2-1「自分は SNS に依存していると思う」

・問 24-2-1「SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」

・問 24-3-2 「あなた自身の経験から考えて、Twitter、Instagram、Facebook のうち、

あなたが もよく利用する SNS の特徴として、以下の項目はどれくらい当てはまると思

いますか。「リア充アピールができる」」

・性別

「あてはまる:1」「「まあてはまる:2」「あまりあてはまらない:3」「あてはまらない:4」

とリコードし、Instagram を使用していない場合、無回答を欠損値とした。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

139

・図表 3 「インスタ映えするイベントによく行く」と「ハロウィンコスプレをして楽しむ」

のクロス集計表

・図表 4 図表 3 のカイ 2 乗検定

女性のほうが、イベントに参加しやすいという結果が得られる」という仮定の下、性別ご

とに「○○ランやナイトプールなどインスタ映えする場所に行く」と「ハロウィンにコスプ

立教大学社会学部メディア社会学科

140

レをして行く」という二つの項目の相関関係を調べた。この相関関係を調べることによって、

1 つの季節のイベントに参加しやすい人は、別の季節のイベントにも参加しやすいことが分

かる。分析の結果、インスタ映えする場所に行くにあてはまると答えた人で、ハロウィンに

コスプレをしていくに当てはまると答えた人は、2 人と少なかった。また、両方当てはまら

ないと答えた人は 146人であり、全体的にイベントに参加する人が少ないことが分かった。

さらに図表 2 より、男女ともに有意水準が 0.000 であることからこの結果は有意である。

・図表 5 「SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」と「自分は SNS に依存

していると思う」のクロス集計表

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

141

・図表 6 図表 5 のカイ 2 乗検定

次に、「SNS 上でリア充アピールするために投稿を頻繫に行う」と「自分は SNS に依存

していると思う」の二つの項目の相関関係を調べることで、生活が実際に SNS 中心になっ

ているかどうか分析する。男性で「SNS に依存していると思う」にあてはまる、まあては

まるという人は、68 人。あまりあてはまらない、あてはまらないと答えた人は、56 人。女

性であてはまる、まあてはまると答えた人は 95 人。あまりあてはまらない、あてはまらな

いと答えた人は 45 人。男女ともに SNS に依存している人が大多数を占めていることがわ

かった。しかし、リア充アピールのために投稿を頻繁に行う人は、男性 14 人、女性 25 人。

あてはまらない人は男性 110 人、女性 115 人と少ない結果だった。そのため、SNS に依存

しているが、発信して自分の生活をアピールする人は少ないことがわかった。図表 4 より、

有意水準が男性で 0.026 と女性で 0.000 であることがわかる。

立教大学社会学部メディア社会学科

142

・図表 7 「〇〇ラン、ナイトプールなどインスタ映えするイベントによく行く」と「SNS

上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」のクロス集計表

・図表 8 図表 7 のカイ 2 乗検定

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

143

・図表 9 「ハロウィンにコスプレをして楽しむ」と「SNS 上でリア充アピールのための投

稿を頻繁に行う」のクロス集計表

・図表 10 図表 9 のカイ 2 乗検定

図表 7 と 9 にて、季節もののイベントにおいて、「リア充アピールするための投稿」に差

がでるか分析した。結果は、「インスタ映えするイベントに行く」、「ハロウィンにコスプレ

をしていく」の項目にあてはまる、まあてはまる人が男性において 10 分の 1 にも満たない

結果だった。女子において、ハロウィンにコスプレをのしていく方が 17人ほど多かったが、

予想より少ない結果が得られた。2 つの項目をクロス集計した結果、図表 7、9 の両方とも

あまりあてはまらない、あてはまらないと答えた人が過半数だった。男性の結果が、有意水

準が 0.00 で有意であり、女性においても有意水準が 2.9%と 5%未満であるため、有意であ

る。

立教大学社会学部メディア社会学科

144

・図表 11 「Instagram にアップすることを意識して外出先・イベントを決める」と「SNS

上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」のクロス集計表

・図表 12 図表 11 のカイ 2 乗検定

Instagram に「インスタ映え」の写真を載せることがリア充を意味するのか、関係性を調

べるために、「Instagram にアップすることを意識して外出先を決める」と「SNS でリア充

アピールをするために頻繁に投稿する」の項目をクロス集計した。男性で Instagram にア

ップを意識して決めるにあてはまる、まああてはまると答えた人は 19 人。女性においては

57 人と予想に近い結果が得られた。しかし、相対的に「SNS でリア充アピールをする」人

が少ないため、両方の項目にあてはまる、まああてはまらないは男性が 14 人。女性は 25 人

であった。有意水準は、男女ともに 0.000 と、5%以下であったため、有意であることがわ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

145

かる。

・図表 13 1 か月に平均して自由に使える金額

「1:5000 円程度、1~2 万円」「2:3~5 万円程度」「3:6~9 万円程度」「4:10 万円程度、

10~15 万円程度」「5:15~20 万円程度」「6:それ以上」とリコードをした。1 番多かった

のは 3~5 万円程度と答えた人が全体の約半数の 141 人だった。また、次に多かったのが 6

~9 万円程度で、61 人であった。

図表 14 「SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」と「1 か月の使える金額」

と「性別」のクロス集計表

44

141

61

14 1 2

1か月に自由に使える金額

1 2 3 4 5 6

立教大学社会学部メディア社会学科

146

図表 15 図表 14 のカイ 2 乗検定

1 か月の使える金額が多い人ほど、リア充アピールをする投稿が多いのか分析した結果、

使えるお金が「それ以上」と答えた人でリア充アピールのための投稿をするにあてはまる人

はいなかった。またこの有意水準は男性で 0.158、女性で 0.001 であるため、女性の結果に

おいて有意である。

図表から、立教大学社会学部の学生は、SNS に依存していると答えた人が多かった。や

はり男性よりも女性の方が若干 Instagram を利用した生活を送っていることが分かったも

のの、全体的にみると、○○ランやナイトプールなどの「インスタ映え」するイベントに参

加したり、Instagram を生活のアピールのために活用するなどの Instagram 中心の生活を

送っていないことがわかった。

5-2.文献調査

私たちはいつから綺麗な景色を「写真映え」、そして今日の「インスタ映え」と感じる

ようになったのだろうか。アメリカの歴史家であるダニエル・J・ブーアスティンは、「イ

メージは人工的に創り出されるものである」と、メディアにはイメージを形成するメディ

アパワーがあると述べている。(内田2009.1)観光客は観光地を何らかのフィルターを持

ってみているのだ。イギリスの社会学者のジョン・アーリはこのことを「まなざし」(内

田2009.1)と呼んでいる。まなざしは記号に構築され、私たちが例えば北海道を「北海道

らしい風景だ」というとき、何らかの記号を感じ取っている。そして、その記号はテレビ

や映画などのメディアによって創出され、私たちに影響を与えているのだ。

『「美瑛の丘」の発見は、近代的な技術と移動性を象徴する自動車のコマーシャルに

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

147

よって引き起こされ、観光のまなざしの対象として記号化されていくことになる。こ

うして観光資源としての価値を持ち始めた丘陵景観には、ほかにもある定型的な意味

が付与される。それは日本的ではない、外国のような、あるいはヨーロッパ的という

言い回しであり、美瑛町の資料や前田真三の文章にも「欧州的な田園風景」「こんな

所が日本にもあったのか」「ヨーロッパの田園を思わせる」といった表現が出てく

る。つまり、こうした美瑛の丘の景観は「ここではないどこか」という旅行者の希求

に合致し、「日本のようではない」「ヨーロッパ的な」として外在化されて,非日常

的で特別な意味を有した記号に転化していった。』(西川2017.48)

北海道の「哲学の木」を見たときに「ヨーロッパの田園」を思い出せるような印象を与

えたのはまさにテレビコマーシャルであり、メディアであるのだ。

○立ち入り禁止になったもう一つの事例

沖縄のパワースポットとして有名な「備瀬のワルミ」に着目する。この場所は2017年7月

14日に無期限で閉鎖された。「備瀬のワルミ」は、神が降り立った地とされ、ウミガメの

産卵地として有名であった。また、地図はなく、まさに神に選ばれた者しかたどり着くこ

とができないという神秘的な場所である。崖(バンダ)の割れ目(ワレー(ワルミ))か

ら青い海が見えるため、地元の人は「ワリーバンダ」と呼ぶ。閉鎖された理由としては、

ごみ投棄や私有地への無断侵入や、観光客の悪さが原因である。沖縄タイムスプラス49に

よると、『14日に金網や有刺鉄線を張った地元住民は、「 低限のマナーが守られ、一定

のルールがつくられない限り解除できない」と訴えている』。また、3~4年前に観光客の

増加がみられ、テレビでや旅行雑誌で取り上げられ、SNSで急速に広まったという。『あ

る男性住民は「観光客の8割は散歩や撮影するだけの素通り。お金も落ちない。撮影のた

めに洗濯物もどけるように言われもした」』。 近、お昼の番組(ヒルナンデス!)など

を見ると、話題のお店や観光地を紹介するとき、よく「SNSで話題のお店」「インスタ映

えする場所」といった言葉をよく耳にする。写真を撮るだけでなく、TwitterやInstagram

の共有・拡散機能が備わったソーシャルメディアの発展により、「お気に入り写真を共有

したい、見てほしい」といった気持ちの連鎖がこのような観光客の増加につながったので

あろう。

6.考察

観光地に対するイメージをマスメディアが作り出し、SNS などの拡散機能を持つソーシ

ャルメディアの発展により急速に広まった。そして、メディアが作った「まなざし」は人々

を惹きつけた。「インスタ映え」もまた、可愛いらしい、非日常、違和感、規格外、ストー

49 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/118984

立教大学社会学部メディア社会学科

148

リー(世界一、日本一)といった特徴を持つことから、「観光のまなざし」と「インスタ映

え」には相関関係があるように見える。私たちがきれいな景色を見て、「インスタ映え」と

思うのは、無意識に「まなざし」を記号化しているのではないか。例えば、沖縄に旅行をす

るという。多くの人に聞けば、沖縄と聞いて連想するのは海や、ハイビスカス、ソーキそば

などの土地の食べ物だろう。京都といえば神社仏閣、神戸といえば夜景。このように、どの

地でも青い海や神社や夜景はあるが、観光のまなざしが記号化されたことによって「らしさ」

が出てくる。実際「#沖縄旅行」と検索すると、青い海が大半であるし、「#京都」で検索

すると、神社や抹茶の食べ物が出てくる。

図表 15 地域 SNS による地域活性化のイメージ(平成 22 年版情報通信白書より)

地域創生のために SNS を活用して観光客を呼び込む地域は増加している。また、前記し

た通り、政府もまた地域の「インスタ映え」景観を推進している。例えば、兵庫県市川町地

域振興課50の Facebook での投稿をみると、2017 年 9 月 28 日の投稿のタイトルに「市川町

に「インスタ映え」するスポット誕生!」とある。ひまわり畑と、ひまわりで作られたハー

ト型のシンボルと、「ひまりん」というゆるキャラの写真が載っている。また、「#兵庫県#

市川町#ひまわり#ひまりん#インスタ映え#OKUvillage」のタグ付けがされていた。こ

の振興課の別の日の投稿をみても、2017 年 10 月 6 日にタイトル「市川町にインスタ映え

50 https://www.facebook.com/chiikishinkou/posts/775631345972944

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

149

するスポットが次々に登場」と、閲覧者にハロウィン仕様にかぼちゃで飾られた市川町文化

センターを訪れるようにアピールをしている。またタグ付けをみても、「#ハロウィン#市

川町#インスタの聖地#市川町文化センター」と、市川町を知らない人が「#インスタ映え

#ハロウィン」と検索してもヒットするように仕掛けている。実際私も、「地域振興/イン

スタ映え」で検索した結果一番上のページに市川町の Facebook がでてきたことで初めてこ

の町を知った。

7.今後の展望

木村ゼミアンケートの分析結果では、予想に反して Instagram が生活の中心になってい

る結果は得られず、仮説が否定された。しかし、テレビ番組で話題のお店を「インスタ映え」

と、褒め言葉の常套句としているように、店側が「インスタ映え」を狙っているケースは多

い。立教大学社会学部生は違ったが、Instagram に影響を受けた消費を行っている人が多

いはずである。実際、大学生や高校生などの自由に使えるお金の少ない学生が、「インスタ

映え」事業の対象となっていることが多い。自由に使える金額が少なくても、「インスタ映

え」のために行動する人は多いのではないか。それを考察するために、対象の幅を大学生だ

けでなく高校生まで広げて、企業のアンケートなどを活用して分析したい。また、極端な

Instagram 中心の生活はどういったものか調べるために、多くのフォロワーを持つインス

タグラマーに、どういった消費行動を行っているかインタビューをする予定である。また、

男女での意識の違いにも注目。

更に、観光が主なテーマであるので、観光に関する消費行動の文献調査やオンラインフィ

ールドを行いながら、「インスタ映え」と「禁止行為」についての考察を深めたい。また、

自発的に地域が「インスタ映え」を図っているケースに着目し、その地域振興の活動が消費

行動を促し有効であるかどうか考察する。その際、有効であるかの指標を決める。そして、

観光に関する新たな仮説を設定し、様々な角度から考察を深めて卒論の幅を広げていきた

い。

また、「インスタ映え」の対義語、侮辱する意味を込めた「インスタ萎え」という言葉を

耳にすることが増えたため、「インスタ映え」に疲れた人に着目して触れていきたいと思う。

☆クロス表に関して後日作成予定

8.参考文献

・日本文献

アライドアーキテクツ株式会社・藤田和重・金濱壮史 2016

「いちばんやさしい Instagram マーケティングの教科書」(ラトルズ)

公益社団法人日本写真家協会「SNS 時代の写真ルールとマナー」(朝日新書)

立教大学社会学部メディア社会学科

150

・ネット資料

泉水清志 「ソーシャルメディアの共感が購買行動に及ぼす影響」

(育英短期大学研究紀要 第 31 号 2014)

https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/8352/1/01_Sensui.pdf

内田純一 「フィルム・インスパイアード・ツーリズム : 映画による観光創出から地域イ

ノベーションまで」(北海道大学文化資源マネジメント論集 = Web-Journal of Tourism and

Cultural Studies, vol.10 2009.p1)

https://eprints.lib・.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/35679/1/paper010.pdf

鬼塚健一郎 「ソーシャルメディアを活用した農村地域コミュニティの活性化要因の解明

-全国農村地域における Facebook ページを対象とした包括的な分析―」

平成 2651年度 国土政策関係研究支援事業 研究成果報告書(2014)

http://www.mlit.go.jp/common/001085815.pdf

鈴木晃志郎 「メディア誘発型観光の研究動向と課題」(日本観光研究学会第 24 回全国大

会論文集 2009.p85-88)

http://koshirosuzuki.web.fc2.com/jitr2009.pdf

土井文博 「観光社会学の可能性-J.アーリーの『まなざし』論を超えて-」(海外事情研

究 第 41 巻第 2 号 2014.p11—40)

http://www3.kumagaku.ac.jp/research/fa/files/2014/03/38ed41d0f489ebe3ce8d34234c54

2123.pdf

西川克之 「イメージの呪縛を解くために:美瑛における「観光のまなざし」の向こう側」

北海道大学観光学高等研究センター(CATS 叢書 = CATS Library, 11 巻 2017 p47-53)

https://eprints.lib.hokuda.ac.jp/dspace/bitstream/2115/66706/1/CATS11_06.pdf

増田寛也 「地域消滅時代」を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について

国土交通政策研究所「政策課題勉強会」(2014.p3)

http://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf

山村高淑 「観光革命と 21 世紀 : アニメ聖地巡礼型まちづくりに見るツーリズムの現代的

意義と可能性」(CATS 叢書 Vol.1『メディアコンテンツとツーリズム』第 1 章 2009.p3-

28)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

151

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/38111/6/chapter01.pdf

JTB 総合研究所( 終閲覧 2018.0628)

https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/regional-revitalization/

沖縄タイムスプラス「沖縄のパワースポット『備瀬のワルミ』立ち入り禁止に」( 終閲覧

2018.0628)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/118984

立教大学社会学部メディア社会学科

152

ビジュアルコミュニケーションの変容

要旨

ビジュアルコミュニケーションは今でこそ当たり前に行っているが、洞窟壁画の頃に

は想像もし得なかったような文化である。ビジュアルメディアの変化を歴史でたどる

とともに、今のビジュアルコミュニケーションはどういう場合に好まれ、どの媒体で

使われているのか、直接的コミュニケーションとビジュアルコミュニケーションの違

いはどこにあるのかを探る。

そして、ビジュアルコミュニケーションが今後どう変化していくかを歴史と現在から

予測する。

キーワード:5 項目程度

ビジュアルコミュニケーション、写真、動画、直接的コミュニケーション、

Instagram、Twitter

1.はじめに

私たちは、「今」どのようにコミュニケーションをとっているだろうか。直接的なコミ

ュニケーションはもちろんのこと、デジタルメディアを用いたコミュニケーションが主と

なっているのではないか。

大昔の人々は、人と人がつながるにはすぐそばにいる必要があった。コミュニケーション

は声が届く距離、表情が見える距離で行われた。その時代の人にとって、コミュニケーショ

ンの相手を理解することは当たり前だった。だって表情が見えるから。声色の変化に気付く

から。しかし今では、一人ひとりがお互いに見えないところで自由に生きるようになった。

声の届かないところ、遠く離れた人ともコミュニケーションを取れるようになった。表情も

読み取れず、声色の変化にも気付かず。だからこそ、現代のコミュニケーションツールを使

う私たちは、昔よりも人の気持ちを読み取る力が積極的に必要なのだと考える。

SNS 登場により写真が自分たちの中で思い出として置いておくものから、他者に向けて発

信するものへと変化している。その中で、写真を撮る媒体も技術の進歩より変化してきて

いたが、昔流行したチェキや写ルンですなどが 近また注目されてきている。便利が求め

られていた時代から、SNS の先にいる人を意識し、また昔のものを求める時代へと変化し

てきているのではないか。

近では、一瞬を切り取る写真だけでなく、動画で伝えることも広まってきている。

Instagram でいうストーリー投稿がそれにあたる。若者が「今」を伝えることに特化した

動画コミュニケーションは、写真でのコミュニケーションと何が違うのだろうか。また

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

153

Twitter などの文字で「今」を伝えるものとどう使い分けているのかを明らかにするとと

もに、私たちが SNS における写真と動画によって何を満たしているのかを考える。

写真はそもそも、同じ場所やときにいない人に見た景色をそのまま共有できるものとして

発明された。それが加工できるようになり、よりタイムリーで共有できるようになった。

動画の登場でよりリアルな動きまでを共有できるようになったが、今の時点では写真に比

べると動画の加工などは主流ではない。ビデオの誕生をカメラの登場と同じようにたど

る。写真や動画文化によって満たされる自己についても考えていければよい。

2.問題意識

デジタルデバイスの発達により、私たちのコミュニケーションの方法が変容してきてい

る。人類というのはメディアの変遷の中で、どのようにコミュニケーションの方法を変え

てきたのだろうか。

自分自身が 初に携帯電話を持った小学5年生の頃、通話やメールさえできれば機能と

しては何の問題もなく、インターネットにつなげようという意識すらなかった。次第にカ

メラ機能を打ち出した携帯電話が販売されるようになった。スマートフォンを初めて持っ

たのは中学3年生の頃で、そのときは、パケットし放題という聞きなれない言葉を携帯電

話ショップが使うようになり、どれくらいの通信料がどれくらいの料金になるかなど見当

がつかず、月に数十万円を支払わされたというニュースも目にした。

今では、スマートフォンを持っているのが当たり前になり、2017 年のスマートフォン所持

率は 77.5%となった。今度 100%に近付いていくと考えられうるこの時代の中で、私たち

はどうコミュニケーションをとり、その中でビジュアルコミュニケーションというのはど

のような位置づけにあるのだろうか。

SNS の登場により、ビジュアルコミュニケーションを多く行うようになった。出来事を

自分の中にしまっておくものとしてあった写真や動画、データフォルダは、今ではその一部

が人に見せるものとなってきている。そのから見せるために何か行動を起こすまでになっ

た。

写真や動画の位置づけがどのように変わってきていて、他者意識や美化意識が作用して

いるのではないか。また、Snapchat や Instagram のストーリー機能の搭載のことからも、

写真で伝えられないものとして動画文化が新たに始まっていることがわかる。写真のとい

う一瞬を切り取れるものという特性ゆえの行動の変化や、その先にある動画コミュニケー

ションの現状と未来について考える。写真で伝えたいものと動画で伝えたものはどのよう

に分けているかと同時にそれぞれを発信することで満たされる発信者自身の自己の問題は

どのようになっているのかを考察する。

立教大学社会学部メディア社会学科

154

3.ビジュアルコミュニケーションの発展

ビジュアルコミュニケーションとは何だろうか。映像や図などの視覚的に受け手に働き

かけるコミュニケーションのことである。デジタルデバイスの発達により、どこにいても

誰とでもコミュニケーションがとれるようになった。その場で状況や感情を共有し、シェ

アすることが可能になった。

ビジュアルコミュニケーションの活性と対照的に、文字でコミュニケーションの重要性

が下がっていると言われている。立教大学社会学部・深川雅文『視覚文化論』の授業をも

とに、筆者なりにまとめて議論する。本論でビジュアルコミュニケーションを語るにあた

り、現代のコミュニケーションの発展に欠かせないメディアの8つについて、時代背景と

ともに説明していく。

3-1.洞窟壁画

洞窟壁画は有史以前の洞窟や岩壁の壁面および天井部に描かれた絵の総称である。現存

する人類 古の絵画で、壁画は 4 万年前から製作されており、視覚文化の原点である。そ

して、洞窟壁画こそが人類が 初に生み出した表現物であるため、人類が情報共有のた

め、そして後世のためのメッセージを伝えるために生み出した 初のメディアは「絵」や

「図」「画」であることがわかる。しかし、ラスコー洞窟の壁画からもわかるように、古

い絵の上に新しい絵が重ねて描かれることもあり、絵画としての意識はないことがわか

る。アルタミラ洞窟の壁画からわかることとして、人間を描写したものは狩猟生活と関係

した動物などに比べて著しく数が少なく、またその中で人間が描写されているものは、抽

象的・省略的である。

このことから、洞窟壁画の時代の人類の考え方が、人類中心ではなく、生きるための首

相生活が中心になっていることがわかる。

3-2.文字

文字の誕生は紀元前4千年にさかのぼる。文字のもとには先ほどあげた洞窟壁画があ

る。描かれていたものを簡易的に書き写したものから来ている。ある意味ビジュアルコミ

ュニケーションなのではないか。しかし、事実を伝達したり、自らの心情などを細かく示

せたりする文字となるまでには長い時間がかかった。

初めて文字が生まれたメソポタミア。農業についての記号としての絵文字が使われてい

た。そこから、1100 年後の紀元前 2900 年頃、絵文字から楔形文字への変容が見られた。

楔形文字は、三角形や直線で書かれており、これはこの地域で富んでいた葦が筆記用具と

して使われていたことに関係している。

エジプトでは、ヒエログリフで主教的なことだけでなく自分たちの出来事を歴史として

記すようになった。そして、それを石だけでなくパピルスという巻紙をつくり、そこに記

述するようになった。このことから、洞窟壁画の時代に比べ、自分たちの意識というのが

死活の必需的な意味以外でも芽生えてきたことがわかる。今日私たちが学んでいる歴史

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

155

も、文字なしでは存在し得なかった。文字があることで初めて私たちは、物事を時間に沿

って記述することができるようになったのだ。

文字の革命としては、アルファベットが挙げられる。視覚的にモノをとらえた文字では

なく、音をとらえた文字をつくることで、格段に少ない数ですべてのものを書けるように

なったのだ。

3-3.活版印刷術

文字が誕生し、テクスト文化が始まった。しかし、1000 年以上文字を読んだり書いたり

する人は一部に限られ、文字文化はその一部である僧侶によって発展させられたと言って

も過言ではない。手書きの写本は、現在の書物の原型である。

12 世紀末になり、教会だけで教えられるものとしての文字はなくなった。14 世紀にな

ると、それまで教会にしか置かれていなかった書物が一般の手に届くようになった。それ

に伴い、修道院の中で行われていた写本も外部の一般の会社が取り行うようになり、テク

ストの需要が増加したのと同時に、教会の権力というのは失われていくようになった。メ

ディアが変化していく中で、一見関係してないようなところに影響が出てきており、テク

スト文化初期の耐久性ある羊皮紙から紙へと変化してきたのはこのタイミングである。紙

の生産を促進させたのは、ルネサンスでもある。文芸復興により、書物の拡大と需要の増

加が著しく、写本技術ではその流通速度や需要に対応できない状況となったのだ。

そんな中、ヨハネス・グーテンベルクは 1440 年代半ばに活版印刷術を開発。父型の活

字の元をつくり、そこから複写して母型をつくることで、アルファベットの文字の活字を

大量に制作し、多くの文字を版に組み込むことができるようになった。その後、この技術

は全ヨーロッパに広まった。

活版印刷が広まったことにより、誰にでも聖書が手に入るようになった。写本を外部が

行うようになったときと同様に、聖書を独占していた教会の権力はさらに弱体化していく

こととなった。ここから宗教革命への原動力としての役割を果たすこととなった。

また、科学革命にも大きく影響を与えた。紙の本の流通により、人々は意図すれば知識を

簡単に深められるようになった。図や絵を文章と一緒に本の中に盛り込めるようになった

ため、研究書なども出てきた。

活版印刷術というのは、今の私たちから見ればメディアの歴史を根底から変えたような

大きな変化だが、当時の人々はそのことに気付いていなかった。

3-4.遠近画法

洞窟壁画のところでも触れたように、人類には潜在的に意識せずとも遠近法でモノを描

いていたのはないかと考えられている。

意識して遠近法が取り入れられるようになったと言われているのは、ステンドグラスが

代表されるゴシック絵画からの変化である。遠近法が芽生える前は、平面的ンあ構成が主

流であった。しかし、ルネサンス思想により、自然をありのまま忠実に表そうとする画家

立教大学社会学部メディア社会学科

156

が増えた。自然を見ている自分という視点が如実に表れていて、自分意識の芽生えはここ

から来ているのではないかとも考えられる。15 世紀になり、建築家のブルネレスキが遠近

法を幾何学的に証明したことから線遠近法が確立された。

3-5.リトグラフ印刷術

西欧の歴史において、市民革命と産業革命は 18 世紀の2つの社会革命として大きな影

響があった。これらの革命によって、社会のあり方を示唆しるような新たなメディアが必

要となった。

大衆的なメディアとしてのポスターは活版印刷術と図や絵を組み合わせることができる

ようになったことが関係している。また、そのメディアをつくるために、さらにリトグラ

フの発明とグラフィックデザインの誕生があった。

リトグラフというのは、彫刻せずに、平らな板にそのまま印刷の原板を制作する方法であ

る。書いたものがそのまま生かされるという特徴から、今まで描けなかった複雑な形や

線、字体などまで詳細に残せるようになった。このことにより、楽譜など線や記号が入り

乱れたものや、芸術家のポスターなどが広まるようになった。

リトグラフのポスターは社会に大きな影響を及ぼした。産業革命の発展を担い、多数の

国民、消費者の目に届くようになった。その視線に大きなポスターが移ることで、今まで

触れることのできなかった層に向けて、商品やサービスと届けることができるようになっ

た。

ポスターは詳細なタッチまでも伝えられるとして、19 世紀から 20 世紀前半までの中で

主要なビジュアルメディアとしての地位をリトグラフ印刷術によって確立させた。

3-6.写真技術

市民革命や産業革命のあととなる 19 世紀。社会は、どうあるべきかを反映するような

新たなメディアを必要としていた。写真は新しいビジュアルメディアとして登場したが、

そのことにより、今まであった絵やポスターなど古いビジュアルメディアにも影響を及ぼ

した。

写真は、見たものありのままを伝えられるメディアは既存のビジュアルコミュニケーシ

ョンに新たな風を吹かせ、芸術革新の原動力となった一方で、写真自体にアートな部分を

見出そうとする動きも見られた。これは、それぞれの写真を合成することによって、新た

な価値や意義を見出していたことからもわかる。

カメラ・オブスクラの誕生は写真の前身と言われている。ルネサンスにより、神が中心

であるという考え方から人間が神を見るという世界観に大きく変化した。そこから、人間

中心のビジュアル世界が誕生し遠近法へと発展、それが機械装置化されたものが映像の原

点でもあるカメラ・オブスクラだ。眼の構造と類似していると言われるカメラ・オブスク

ラは現在の写真文化をも担っている。反転した像を移すことができるカメラ・オブスクラ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

157

をその場で消えてしまうものとしてそのままにしておくのではなく、何かに定着させよう

という試みが写真の原点なのだ。これを実現させようと写真の発明者は何人も現れた。

写真が文書を映し出す使い方も発見された。複写しても変わらない「情報」についての発

見につながることとなり、これは前代の情報社会にも通じているのではないか。

しかし、現代の社会でも言えることだが、写真は現実をありのままに、自然をそのまま

に映していると考えられがちである。つまり、真実を映していると思われがちなのだ。視

覚は直接私たちに訴えるものの、何であるかと解釈する私たちは千差万別なのであるた

め、同じ写真を見ても様々に捉えられてしまうという点が写真の無差別性として語られて

いる。

3-7.映画

今では、動く写真は動画というイメージで、だからこそ写真コミュニケーションと動画

コミュニケーションが比較されるのだが、19 世紀のビジュアルメディアにおいては映画と

いう捉え方であった。

映画は、写真を元としてその連動性を持ったものとして発明された。映像としての記録

ができるだけでなく、映像作品の制作ができるようになった。

残像という視覚効果の研究に基づいて、残像を利用した人工的な装置が様々な形で生み出

された。空の鳥かごに鳥が入って見える装置のソーマトロープで遊ぶ人が出てきた。ま

た、動くスリットから円盤に描いてある絵を透かして覗くフェナキスティコープを生か

し、光を反射させて外部に投影させ、スクリーン上に映像を映し出すことができることと

なった。

エドワード・マイブリッジは絵画での馬の描かれ方に疑問を持ったことから、高速移動

する馬の一瞬を、シャッタースピードを速めることで連続撮影に成功。写真技術の向上と

映画誕生の原点になっただけでなく、絵画の描かれ方の矛盾点を証明した。

1882 年には写真銃という連続写真撮影機が発明され、撮った写真を研究することでモノ

の動きがどうであるかを明らかにしたとともに、映画撮影機の原型となった。

写真の連続画像を大量に記録できるものとしてフィルムの必要となり、1秒に 16 コマ連

続投影できる技術が発明、そこから映画実現へと前進することとなった。

自然を投影し、アートの可能性を引き出した写真。映画においては、自然をより連続的

に投影できるだけでなく、ファンタジーの世界を創出した。

3-8.ハーフトーン印刷術

ハーフトーンはデジタルメディアが介在している今では言葉に馴染みがないが、ビジュ

アルメディアの出版のための技術として大きな影響力をもたらした。

現在では当たり前となっている、文字と写真が一緒に映ったもの、身近なものでいうと

大学の授業のレジュメなどがこの技術を使ってできている。画像と文字が同じ面で印刷さ

立教大学社会学部メディア社会学科

158

れることは、情報量や補足面が一気に増えることを助けた。本来2つの別々のメディアと

して分けられて考えられていたものが1つのメディアへと変わったのである。

ハーフトーン印刷術は、今でも大きな新聞広告などに目をこらして見るとわかりやすい

のだが、モノクロの度合いを網状のスクリーンを使って網点の集合体に置き換えて印刷す

る技術である。

19 世紀半ばからの研究者の努力により、19 世紀末には社会で使われるようになった。

4.現代のビジュアルコミュニケーション

第 3 章でビジュアルコミュニケーションが発展するまでの経緯をたどった。本来では、

目で見えて視覚的に訴えるものであればビジュアルコミュニケーションに帰属している。

しかし、第 4 章以降では、より視覚的に訴える写真や動画、スタンプ等について考えてい

く。これは、声でコミュニケーションをとっていた時代から、文字で何かを記すようにな

り、そのあとの現代における 終的なコミュニケーション方法だと考えるためである。

4-1.直接的コミュニケーションと動画コミュニケーション

Instagram では 2016 年8月から、ストーリーと呼ばれる 24 時間限定で発信することが

できる、そのときの状況を伝えるのに特化した投稿方法が追加された。写真の投稿はもち

ろん、動画であれば 15 秒までであれば投稿できる。

Instagram での動画を使える機能はストーリー以外にも複数ある。通常の写真投稿と同

様に動画をあげる場合、DM で動画を送る場合は 60 秒までで、一度相手が見ると消えて

しまう DM ではストーリーと同様に 15 秒まで、ライブ配信の場合は 60 分までである。そ

の中でもストーリーは今の状況をそのまま簡潔に広く伝えられるという利点がある。スト

ーリーがその場をそのまま伝える機能であることから、直接的コミュニケーションに近い

ビジュアルコミュニケーションなのではないかと考え、「直接的なコミュニケーションを

好む人はストーリー機能を好むのではないか」という仮説を立てた。

今回は、立教大学、社会学部に所属している生徒 264 人を対象に、社会調査アンケート

を実施した。そこから出た調査結果から分析する調査方法である。その社会調査アンケー

トの中から、主に Instagram の使用方法と行動についての質問項目を使う。SPSS を用い

て行った単純集計結果とクロス集計した結果から考察していく。

【問 24-3-2 常に誰かと一緒にいた方が安心する】と【問 12-2 (Instagram で)スト

ーリーを投稿する】、【問 12-2 (Instagram で)ストーリーを見る】のクロス集計のそれ

ぞれを分析対象とした。

4-1-1.常に誰かと一緒にいる安心感とストーリー投稿の関連性

本調査では、選択肢のリコードを行った。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

159

【問 24-3-2 常に誰かと一緒にいた方が安心する】では、欠損値はなく、「あてはま

る」、「まああてはまる」を1、「あまりあてはまらない」、「あてはまらない」を2とし

た。

【問 12-2 (Instagram で)ストーリーを投稿する】では、欠損値を0、「とてもよくあ

る」、「よくある」を1、「ときどきある」を2、「あまりない」、「全くない」を3とした。

帰無仮説 HO:常に誰かと一緒にいる安心感とストーリー投稿には関連性がない

対立仮説 HI:常に誰かと一緒にいる安心感とストーリー投稿には関連性がある

2変数間で関連性をカイ2乗検定を用いて検定した結果、p=0.019 と p<0.05 で有意性

が認められたので、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択できるとし、2変数間に関連があ

ると言える。

常に誰かと一緒にいる方が安心する人ほど、Instagram でストーリー投稿をするという

ことがわかった。

4-1-2.常に誰かと一緒にいる安心感とストーリーを見ることの関連性

本調査では、選択肢のリコードを行った。

【問 24-3-2 常に誰かと一緒にいた方が安心する】では、前調査同様、【問 12-2

(Instagram で)ストーリーを見る】では、欠損値を0、「とてもよくある」、「よくあ

る」を1、「ときどきある」を2、「あまりない」、「全くない」を3とした。

立教大学社会学部メディア社会学科

160

帰無仮説 HO:常に誰かと一緒にいる安心感とストーリーを見ることには関連性がない

対立仮説 HI:常に誰かと一緒にいる安心感とストーリーを見ることには関連性がある

2変数間で関連性をカイ2乗検定を用いて検定した結果、p=0.019 と p<0.05 で有意性

が認められたので、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択できるとし、2変数間に関連があ

ると言える。

常に誰かと一緒にいる方が安心する人ほど、Instagram でストーリーを見るということ

がわかった。

4-1-3.動画コミュニケーションの直接的コミュニケーション

「直接的なコミュニケーションを好む人はストーリー機能を好むのではないか」という

仮説から2つのクロス集計表を使い、常に誰かと一緒にいる方が安心する人ほど、

Instagram でストーリー機能を使うということがわかった。

近年、世界的に見ると社内報を動画化して流しているところもあり、直接的コミュニケ

ーションの代わりに動画コミュニケーションを図っている例がよくあげられる。2013 年に

アメリカの調査機関が行った調査52によると、対象 713 名の経営者や部長などのうち、

70%を超える組織が社内コミュニケーションに動画を活用していることが分かった。ここ

52 調査機関:Ragan Communications、Ignite Technologies 調査対象:713 名のコミュニケーター(企業の経営者、担当部長、ライター・プロデュ

ーサー、担当マネージャーなど) 調査概要:社内コミュニケーションに動画を使用しているかのアンケート

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

161

からすでに6年が経過していることを鑑みても、現在の動画コミュニケーションの規模が

大きくなっていることは明らかだ。

今ではスマートフォンを持っていない若者の方が珍しく、タブレット端末でさえも 2017

年、41.0%の人が所持しており、スクリーンをそれぞれが携帯する時代となった。テレビ

しかスクリーンがなかった時代から大幅に変わってきている。プロジェクションマッピン

グのように、一見スクリーンに見えないようなものにも、様々な形で情報が映し出される

ようになった。今後、「スクリーンの数は増え続け、一つのスクリーンに固定されること

なく、いくつものサイズやタイプのスクリーンをいろいろな場所で連携していろいろなコ

ンテンツを楽しむことも可能になるだろう(ケリー 2016:73)53」。テレビという大きな画

面からパソコン、スマートフォンへとスクリーンは徐々に小さいものが出てきていた。し

かし、タブレットの登場やスマートフォンをテレビに接続するなど、スクリーンがまた拡

大してきている。このことからも、今後の動画コミュニケーションが変異していくことが

推測される。

動画コミュニケーションは直接的コミュニケーションを補完する形での使われ方がされ

ている一方、動画加工も 近では見られる。写真の加工アプリは様々な種類があったが、

動画を加工することはあまりなかった。しかし、Snapchat 誕生により動画加工の可能性

が感じられた。

つまり、動画はありのままを伝えるコミュニケーションツールであったのに加え、加工

すて発信するものへと変化してきているのだ。社内報のような堅い使われ方であればその

ようなことは無いだろうが、SNS などでの動画コミュニケーションでは今後より加工され

た動画が出回るのではないかと考えられる。

4-2.ビジュアルコミュニケーションが使われる媒体

ビジュアルコミュニケーションと聞いてわかりやすいのが写真コミュニケーションであ

る。 近では動画コミュニケーションも流行しているが、ここでは主に写真コミュニケー

ションについて Twitter と Instagram での使われ方の違いを模索していく。

第 4 章で使用した、社会調査アンケートの中から【問7 (Twitter で)写真を加工して

投稿する】・【問 12-1 (Instagram で)写真を加工して投稿する】、【問7 (Twitter で)

フォローしている友だちの写真を見る】・【問 12-1 (Instagram で)フォローしている友

達の写真を見る】の比較を行う。

4-2-1.写真を加工して投稿する場合

53 ケヴィン・ケリー(服部桂=訳)、2016、『これからインターネットに起こる『不可避な

12 の出来事』』、インプレス R&D(P.73) 宮田穣、2015、『ソーシャルメディアの罠』、彩流社

立教大学社会学部メディア社会学科

162

Twitter 利用者 240 人のうち、【問7 (Twitter で)写真を加工して投稿する】を「かな

りよくする」が 2.5%、「よくする」7.5%となった。

Instagram 利用者 221 人のうち、【問 12-1 (Instagram で)写真を加工して投稿す

る】を「とてもよくある」が 29.4%、「よくある」が 25.3%となった。

Twitter で写真を加工したものを投稿することは、Instagram で写真を加工したものを

投稿することよりも明らかに少ない。投稿というのは能動的であるため、このことから写

真をよく見せようとしたいとき、人々は Instagram での発信をしているということや、よ

り良い写真を見てほしいときに Instagram が選ばれているということがわかる。

4-2-2.フォローしている友達の写真を見る場合

Twitterで写真を加工して投稿する

かなりよくする よくする ときどきする あまりしない 全くしない

Instagramで写真を加工して投稿する

とてもよくある よくある ときどきある あまりない 全くない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

163

Twitter 利用者 240 人のうち、【問7 (Twitter で)フォローしている友だちの写真を見

る】を「かなりよくする」が 21.3%、「よくする」が 43.3%となった。

Instagram 利用者 221 人のうち、【問 12-1 (Instagram で)フォローしている友達の

写真を見る】を「とてもよくある」が 72.9%、「よくある」が 21.3%となった。

Twitter でフォローしている友達の写真を見ることは、Instagram でフォローしている

友達の写真を見ることよりも明らかに少ないが、ここには2つの理由があると考えられ

る。

1つ目は、Instagram はビジュアルコミュニケーションの文化が根付いており、友達の

写真を見るものとしての Instagram というイメージが付いているからである。 近になっ

てストーリーで文字だけの投稿する人が出てきたものの、Instagram 登場直後は写真に言

葉やハッシュタグを添え、位置情報を追加するくらいがせめてもの使い方だった。写真コ

ミュニケーションのための Instagram として確立できているということである。

Twitterでフォローしている友だちの写真を

見る

かなりよくする よくする ときどきする あまりしない 全くしない

Instagramでフォローしている友達の写真を

見る

とてもよくある よくある ときどきある あまりない 全くない

立教大学社会学部メディア社会学科

164

2つ目は、投稿するときに比べ見るという動作が受動的であることにある。Instagram

では友人や有名人、インスタグラマーを中心にフォローして使用する人が主で、そのフォ

ローした人がタイムラインに出てくる形となっているため、フォローしている友達の写真

を見ることは Instagram 利用者にとってはほぼ必然であるということである。

【インターネット参考資料】

インターネットの 20 年:若者のコミュニケーションは文字からビジュアルへ

https://dentsu-ho.com/articles/3689(2018 年2月1日現在)

インスタグラムの動画は何秒まで?投稿できる時間の長さ

https://movie-factory.info/media/8154(2018 年2月5日現在)

若年層の写真・動画コミュニケーションに関する調査 - NTT アド

https://www.ntt-

ad.co.jp/research_publication/research_development/report/160209/index.html(2018

年2月5日現在)

社内報に動画を使うメリットとは?米国企業の 7 割が導入する動画による社内コミュニケ

ーションのススメ

http://www.movie-times.tv/study/how-to/6766/(2018 年6月 27 日現在)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

165

Twitter 上でのコミュニケーションの意義

要旨(355 文字)

世界全体でのユーザー数が伸び悩んでいる昨今でもなお、日本では若者を中心に大

きな支持を集めている Twitter。Twitter 内で大きく拡散され話題となったトピック

は、ネットメディアやマスメディアに取り上げられることでさらに多くの認知を得

る。今や日本社会を語るには切り離せない Twitter だが、何故社会は Twitter に魅了

され、翻弄されるのだろうか。なぜ人はわざわざ対面よりも自己表現方法の少ない

Twitter で他者とコミュニケーションをとりたいのだろうか。本論では現在使われて

いる Twitter 独自のコミュニケーションに着目し、コミュニケーション様式の変容を

把握する。そして「炎上」という社会現象の 小単位である公式リツイートにフォー

カスを当て、どんな場面で人々は公式リツイートを用いるのかを考察する。その結果

として、既存の炎上のメカニズムに対し新たな意見を提唱できればと思う。

キーワード:Twitter、コミュニケーション、アイデンティティ、公式リツイート、炎

1.序論

1-1.研究背景

世界全体でのユーザー数が伸び悩んでいる昨今でもなお、日本では若者を中心に大きな

支持を集めている Twitter。アルバイトの学生の不衛生な写真の投稿によって生まれた「バ

カッター」という言葉や、大手広告会社電通に勤める高橋まつりさんが過労自殺し、そのツ

イート内容が波紋を広げた「電通社員過労死事件」など、Twitter がきっかけで広まった言

葉や事件などは数多く、その影響力は社会にとって無視できない存在となっている。またユ

ーザーが Twitter に投稿した動画を無断でマスメディアが使用したり、SNS で話題のもの

を特集する番組が放送されたりと、SNS がマスメディアを動かすような社会の様相も表れ

つつある。なぜここまで Twitter は影響力を及ぼすようになったのだろうか。本来、対面コ

ミュニケーションに比べ Twitter でのユーザー間のやりとりには表情、しぐさなどの文字以

外の情報が不足しているため、他者とのコミュニケーションは活発になりづらいと考えら

れる。しかし実際にはアクティブユーザー数は増え続けており、日々多くのやりとりが交わ

され、今この瞬間も何らかのツイートが大きく拡散されている。情報が制限された中で相手

の真意を汲み取り円滑にコミュニケーションをとるために、ユーザーはどのような行動を

行っているのだろうか。本論では Twitter ならではの独自のコミュニケーションの在り方

立教大学社会学部メディア社会学科

166

を、先行研究や質問票調査を駆使しながら明らかにしていく。特に、「炎上」という現象の

小単位である「公式リツイート」の利用実態にフォーカスしたい。これによりなぜ炎上が

起こるのかそのメカニズムを解き明かしていきたい。

1-2.問題意識

Twitter では毎日数多くのツイートが投稿され、そのいくつかは大きく拡散された後マス

メディアやネットメディアに取り上げられる。拡散は「公式リツイート」という機能によっ

て行われる。私自身が Twitter を利用する中で、公式リツイートは単にフォロワーへのツイ

ートの共有として行われているのではなく、自分語りの場として機能しているのではない

かと感じるようになった。

飲食店での全面禁煙に関するツイートが広く公式リツイートされたときのことを例に挙

げたい。元ツイートを公式リツイートした後、あるユーザーは怒りを込めたツイートをし、

別のあるユーザーは税収面からの見解をツイートし、あるユーザーは自身の喫煙者とのエ

ピソードをツイートしている。これらはそれぞれユーザー自身が何者であるか、どんな知識

を持っているか、どんな体験をしたかを示すツイートである。ユーザーは元ツイートを他者

と「共有」する目的のほかに、自身のアイデンティティを他者に示すための道具として利用

しているのではと疑問を抱くようになった。公式リツイートは発信できる情報が限られる

オンラインコミュニケーションにおいて、自身を相手に伝える重要な手段の一つではない

だろうか。

このような観点から Twitter 上でのコミュニケーションと公式リツイートの目的を探る

ことにより、公式リツイートの連鎖から生まれる炎上の仕組みについても新たな見解が得

られるのではないだろうか。

1-3.本レポートの構成

以上のことを踏まえ、本論文は以下の構成で進めていく。

まず第二章をコミュニケーションの変容と題し、対面からメール、LINE そして Twitter

に至るまでのコミュニケーションの変容とそれぞれの特徴を明らかにする。続く第三章で

は 2017 年度木村ゼミ社会調査を通してわかった若者の SNS 利用の実態を記述する。そし

て四章では炎上が起こるメカニズムとその拡散経路を実際の事例を参照しながら明らかに

していきたい。五章では今後の課題に触れ、本論の締め括りとする。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

167

2.コミュニケーションの変容

本章では技術とともに変容するコミュニケーションの在り方を対面コミュニケーション

から順に見ていく。

2-1.Twitter 外でのコミュニケーション

本節では先行研究を引用することによって歴史によって変化していった諸コミュニケー

ションについて理解を深める。主に引用したのは船津衛(2010)の『コミュニケーション・

入門 改訂版』である。

2-1-1.対面

人類は長らく対面でのコミュニケーションを行ってきた。手紙による文字のコミュニケ

ーションや電話による声のコミュニケーションなど、メディアの発展により我々のコミュ

ニケーションの選択肢は広がったが、やはり対面で行うコミュニケーションが生活の中心

にあることは疑いようがない。その理由として、対面で行うコミュニケーションで得られ

る情報の豊かさが挙げられる。「言葉だけが唯一の自己表現メディアではない。ジェスチ

ュア、顔の表情、そして目の動きもまた重要な自己表現メディア」であると、船津

(2010:63)は自身の著書で述べている。船津によると、身体の接触、服装や髪型、携帯

品、化粧品なども自己表現メディアと言えるという。これらのものによって自己の年齢や

職業、また社会的地位を表現したり、現在の自分の気持ちや感情を表したり、またカモフ

ラージュしたりすることができるという。例えばハイブランドの服を身に着けることによ

り自分が資産家であることを相手に表すことができる。逆に言えば貧乏な生活をしていて

もハイブランドの服に身を包むことにより、自分を資産家にカモフラージュすることがで

きる。このように対面で得られる視覚的情報は相手を知る上で非常に重要なファクターで

あるといえる。また船津はジェスチュアの機能を五つに分類している。それが図1であ

る。

立教大学社会学部メディア社会学科

168

図 3 ジェスチュアの 5 機能

ジェスチュアは手を大きく広げたりテーブルを叩いたりすることで話し言葉を「強調」し、

言葉では言い表せないものを何とか表現するときに頭を下げたり手を振ったりして言葉を

「補足」する。言葉を使用することが困難であるとき、また言葉の使用が不適切な場面でか

わりにジェスチュアを用いる。例えば当人の前で悪口を言うとき、言葉の「代わり」として

嫌そうな顔の表情で示したり肩をすくめたりする。またジェスチュアは言葉の及ぼす効果

をコントロールし、「抑制」する。そっけない態度で「ありがとう」、眼が笑っていないのに

「うれしい」など、言葉とジェスチュアが合致しないとき、話し言葉の効果は薄れる。時に

ジェスチュアは言葉以上に雄弁に自己を「表現」する。悲しいときはどんな言葉よりも涙の

方が想いを伝えやすい。このように対面コミュニケーションでは言葉は自己表現の覇権を

握ることはない。言葉は視覚情報によって補足され、代替され、時には言葉の意味さえ真逆

のものに変質させてしまう。

また日本人のコミュニケーションの特徴についても船津(2010:200)は以下のように言

及している。孫引きを含んでおり、また古い文献から引用になってしまうが、現代の日本

人にも当てはめることが出来る言説であると考えたため、紹介したい。

日本人はコミュニケーション嫌いであるといわれる。他の人の前ではあまりしゃべら

ず、押し黙っており、むしろ、「言わぬ、語らぬ」がよいとされる。金田一春彦による

と、日本人の言語表現は、何よりもまず「言うな、語るな」である。(金田一[1975])ま

た、D.C.バーンランドによると、日本人は口に出して言い表すことをコミュニケーショ

ンの方法として高く評価していない(バーンランド[1979])。(船津 2010:200)

話し言葉を強調する

話し言葉を補足する

話し言葉の代わりをする

話し言葉を抑制する

話し言葉以上に表現する

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

169

日本人のコミュニケーションを海外からの目線で見ると、日本人は口に出して物事をは

っきりと断言することをよしとしない文化があるように見えるらしい。現代の「日本人はシ

ャイである」という認識は 1970 年代には既に世界共通の認識とされていたのだろうか。こ

の後も興味深い言説が続く。

日本人の 1 日の会話時間はアメリカ人の半分であるといわれる。そして、日本人にお

いては言語使用の価値が低く、言語による自己表現にそれほど積極的ではない。おし

ゃべりは尊ばれず、むしろ軽薄というマイナス評価を受けている。「口は災いの因

(ママ)」であり、「キジも鳴かずば撃たれまい」といわれ、「物言えば唇寒し」であ

る。そして、思ったことをすぐに口には出さず、心の中にしまっておくのがよく、

「言わぬが花」とされる。

(中略)

しかし、このことが日本人は自己主張をしないだとか、自己表現を行わないとか、ま

た主体性を欠いていることを意味しない。それは、よい印象を獲得するという積極

的・攻撃的自己表現というよりかは、他者による「悪い印象」を回避するという消極

的・防衛的な自己表現である。つまり「消極的で控えめ」なのは自己表現のありかた

である。したがって、日本人の対人関係においては相手の気持ちを察することが重要

な事柄となる相手があまりかたらずそれほど動かないので、ちょっとした言葉づかい

や眼の動きを見逃してはならない。それを鋭くキャッチし、相手の心の内を推し量る

ことが必要である。(船津 2010:200-201)

日本には言葉を用いて語ることを悪行と見なすようなことわざ、慣用句が多く存在す

る。しかしながら、それは自己表現をしないこととイコールでは結ばれない。日本人は多

くを語らないことによって相手との良い関係を崩すまいとする。こうした自己表現の方法

は消極的で控えめで後ろ向きではあるが、決して主体性がなく、自分の意志を持たないわ

けではない。それが船津の日本人のコミュニケーションに対する評価である。また「日本

人は公的場面では沈黙を旨とするが、私的場面では多弁であり、ひっきりなしに話が続

き、しかもダイナミックに展開している」(船津 2010:202)と、日本人は公的場面と私

的場面をしっかりと区別し、私的場面と感じた場では消極的姿勢を崩しありのままの自分

の言葉を語る人種であると評している。

つまり日本人は公私の分離を明確に行い、公的場面では相手から良い印象を得ることよ

りも悪い印象を避ける方向に努力する。その結果無口で控えめな、主体性のないような態

度になってしまう。しかし私的場面では積極的なコミュニケーションをとることができ

る。これが船津の見解である。しかし小川裕喜子(2010)はその私的場面すら心許せる空

間ではなくなっているのでは、という指摘をしている。小川の見解については次項で詳し

く追っていく。

立教大学社会学部メディア社会学科

170

2-1-2.メール

メールコミュニケーションの登場はメディア研究において、その負の側面とともに語ら

れることが多い。負の側面とはすなわち、メールの返信が遅いなどの理由から行われる、

学生間における理不尽ないじめのことである。メールの登場が他者とのコミュニケーショ

ンをどのように変質させてしまったのだろうか。茨木正治編著『情報社会とコミュニケー

ション』(2010)の第六章において、小川(2010:127)は対面コミュニケーションとメー

ルでのコミュニケーションが抱える問題について以下のように記している。

本来ならば、他者とのコミュニケーションは、「フェイス トゥ フェイス」の関係で

親しみを感じ、他者を思いやるはずのものから自分を圧迫してしまうコミュニケーシ

ョンへと変化している。一番身近な存在である家族、仲間集団、友達に心をすり減らす

関係を築いてしまい、自分に幸せを与えてくれる友達や恋人が、自分を息苦しくしたり、

相手を息苦しくさせてしまったりしている。彼らは、他者から期待される自分を演じる

ことに必死でありながら、菅野の言葉を借りれば「同調圧力」に耐え切れないでいる。

(中略)

このような他者との関係性が求められている彼らにとっては、ケータイメールでの他

者とのコミュニケーションは決して希薄なものではない。彼らにおけるケータイメー

ルは、内容を伝えることではなく、相手に返信する「即レス」が重要とされている。相

手の友情や愛情を「即レス」で測ってしまう人が多いようである(菅野,2008:51-52)。

(小川 2010:127-134)

小川は対面コミュニケーションがメールの登場により、圧迫感を感じるものに変わって

しまうことを指摘している。メールの即レスが何よりも大切で、内容は二の次。そのよう

な中身のないコミュニケーションを強いてしまうのが、メールでのコミュニケーションの

負の部分である。荻上(2007)はメディアについて、「メディアはそのあり方によって、

欲望自体を欲望させるというようなことを生じさせる」という言葉を著書に記している。

メールの登場によって、メールの返信の内容ではなくメールを返信するという行為そのも

のが大事なコミュニケーションの一部になっているのだ。メディア論の祖、マーシャル・

マクルーハンは「メディアはメッセージである」という有名な語を遺しているが、正にメ

ールはその存在によって「即レス」という新しいコミュニケーションのありかたを生み出

してしまった。木村(2012)もメールが持つ同調圧力に着目し、なおかつそれが現在、

Twitter が人気を博している要因だという見解を示している。次節では Twitter のコミュ

ニケーションの特徴を先行研究から導き出す。

2-2.Twitter の登場

2006 年にアメリカで、2008 年に日本でサービスが開始した Twitter。本節では Twitter

の諸機能について簡単に説明したのち、Twitter が社会に大きな影響を及ぼす理由の一つ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

171

である「公式リツイート」機能についてフォーカスを当てる。

2-2-1.主な機能

Twitter ではユーザーはアカウントを取得し、テキスト情報を投稿する点ではブログなど

と同じ使い方である。投稿した記事は「ツイート」と呼ばれ、140 字の字数制限があるため

長文は書き込めない。木村(2012:205)は「140 字と制約が大きく、文章をほとんど書けな

いからこそ、挨拶もいらず、誰かにキャッチボールを強要されるわけではない。そこで、テ

ンションが高揚したり、落ち込んだ時、自分のテンション、気持ちを気軽につぶやける」と

文字数に制限があることを前向きに評価している。無制限に書き込めるメールでは過剰な

絵文字、デコレーションメールなど一通送信するためにも余分な手間がかかっていた。それ

が Twitter では簡潔にまとめなければならないので、相手を気遣うことなく必要 低限の簡

潔な文章で返信してもとがめられない。同調圧力に疲弊した人々の目には Twitter のその気

軽さが魅力的に映ったことであろう。

こうした利点が投稿面で挙げられるが、Twitter が従来の SNS に比べ画期的であった点

は、投稿ではなくその閲覧のやり方である。従来の SNS、ブログや mixi ではアカウントご

とにそれぞれ固有のページが与えられていた。ページはユーザーのプロフィール、ブログ記

事、コメントなどから形成されており、他ユーザーはここに自発的にアクセスしないとコン

テンツに触れることが出来なかった。また自分のページを閲覧しに来たユーザーが通知さ

れる足跡機能によって、他者のページを閲覧すること自体がコミュニケーションの一環に

なっていた。しかし Twitter ではユーザーが主に閲覧するのは「タイムライン」である。気

になるツイートをしているユーザーを「フォロー」することで、フォローしたユーザーのツ

イートがリアルタイムでページに表示されていく。このページのことをタイムラインと呼

ぶ。自身のツイート一覧とプロフィールから成るユーザーページもあるが、Twitter を利用

する上で主に閲覧するのはタイムラインである。タイムラインの魅力は、どのユーザーのツ

イートを見たいか自分で決定できる点にある。永井(2011)は『デジタルメディアの社会

学』第 10 章で、タイムラインを構成する過程を雑誌の編集に例えた。永井いわく「自分が

編集長となって、紙面(タイムライン)を魅力あるものにする執筆者(ほかのユーザー)を

探す(フォローする)のである。そして、その読者はもちろん自分である」ことが Twitter

の楽しみ方であると述べている。このタイムラインシステムにより、メールにおける「同期

性」が Twitter では消滅した。ユーザーそれぞれが全く異なるタイムラインを閲覧すること

により、対面なりメールなりで感じていた「この空気に合わせなければならない」というコ

ミュニケーションの息苦しさから解放され、ユーザーは気ままに Twitter を楽しむことが出

来る。

しかしながら、このタイムラインシステムは登場当初こそ画期的であったものの、今では

Facebook や Instagram など様々な SNS で取り入れられ、別段珍しいものではなくなって

しまっている。では Twitter の独自性は失われてしまったのかというと、そうではない。そ

の主たる例は「公式リツイート」機能である。公式リツイートについては 2-2-2 項で詳しく

立教大学社会学部メディア社会学科

172

後述する。

また他にも様々な機能が Twitter には備わっている。実はそれらの機能は、ユーザーの独

自の慣習を公式側が汲み取り、あとから実装したものが多い。林(2010)によれば、Twitter

がサービス開始してしばらくは単純な 140 文字以内のテキストメッセージしか投稿するこ

とが出来ず、@マークをツイートにつけて特定の他者に向けてツイートをする「リプライ」

機能、「#キーワード」という形式の文字列をワンクリックすることで、同じ文字列を含む

ツイートを一覧することができる「ハッシュタグ」機能などは当初利用できなかった。例え

ばハッシュタグ機能は Twitter 向け外部ビジネス「Summize」によって開発された機能で

あり、これをのちに Twitter 社は買収、公式検索機能として採用したのである。今ではリプ

ライと同程度当たり前に利用されている写真の投稿も以前は Twitter 内で行うことが出来

ず、ユーザーは他のクライアントアプリを用いたり、「twitpic」「Flickr」などの外部サービ

スに投稿し、その URL をツイートに含むことで写真投稿を成り立たせていた。

2-2-2.公式リツイート

公式リツイートは今や Twitter の重要な機能の一つとされているが、これも 初から

Twitter に備わっていた機能ではない。前項で挙げたリプライ機能のように、公式リツイー

トもユーザーの習慣から実装された機能である。リツイートとはだれかのつぶやきを、再度

自分が呟きなおすことを指す。林(2010)によると、Twitter を使う中で面白いつぶやきだ

と感じた人が、元のつぶやきを引用し、「RT @元のつぶやきのユーザー名 元のつぶやき」

という形式でつぶやきなおす習慣が定着し、2009 年にはリツイート機能が公式にサポート

されたようだ。ただ公式のリツイート機能は元発言をそのまま呟きなおすもので、コメント

などは追加できない。コメントを追加したい場合はツイートへのリンクをコピーし自らの

ツイートに貼り付ける。それが現在非公式リツイートと呼ばれるものである。対して、リツ

イートボタンをクリックしてフォロワーのタイムラインに元ツイートを共有することが、

公式リツイートである。すなわち非公式リツイートが先に使用されていて、このユーザー間

での習慣に気付いた運営陣が、公式にサポートされた機能として公式リツイートをリリー

スしたのである。

ところで中国と日本のマイクロブログの利用実態を比較した論文を、張と石井(2011-

2012)が執筆している。その中で公式リツイートに関する記述がある。以下に注目すべき

箇所を引用した。

微博では Twitter の日本語利用者に比べてリツイートの比率が有意に高い。Twitter の

日本語利用者ではリツイートの比率は 9.5%に過ぎないのに対し、微博では 52.5%がリ

ツイートである。ま た、微博では外部リンクも多かった(5%水準で有意)。 一方、微

博では他者への「返事」が少なく、知り合いどうしのやり取りが少ないことがわかる。

また、微博ではリツイートの比率が高いだけでなく、リツイート回数も多かった。(張・

石井 2011:54)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

173

微博とは中国版の Twitter である。細かな機能の違いはあるものの、同じものとして捉え

てよいだろう。張らの研究によると、日本人は中国と比べると RT に対して消極的であると

いうことだった。これは 2-1-1 で前述した日本人のコミュニケーションの「消極的で控え

め」という特徴と合致する。他者との衝突を回避するため RTを用いた自己主張は控えるが、

他者へのリプライという限定的私的空間では、雄弁に語ることが出来る。メールと違い、同

期性がないため他者とのやりとりに同調圧力を感じず、のびのびとリプライでコミュニケ

ーションを楽しむ姿が伺える。

また北村(2016)のツイッター上でのフォローとオフラインの関係性の違いに関する調査

によると、「会ったことのない個人」を多くフォローしている人ほど、ツイート数が多く、

その内訳として公式リツイートの割合が高く、メンションの割合が低いそうだ。また情報系

アカウントのフォロー数も多い。つまり、ツイッターのみのオンラインの関係では、相手を

特定した交流が行われているというよりは、相手を名指ししない情報の交換・共有が中心に

なっていると考えられる。

2-2-3.空コメント

ところでユーザーが公式リツイートを行った後、さらに元ツイートに対するコメント(共

感、批判、自身の体験等)をツイートする場合がある。これによってユーザーは公式リツイ

ートされた元ツイートに対して共感しているのか、はたまた批判的なのか、立場をより明確

にすることができる。このようなツイートを、@マークをつけずに他者のツイートにリプラ

イを送ることを「空リプ」と呼ぶことにちなみ、本論では「空コメント」と定義し扱うこと

とする。空コメントは Twitter 上で日常的に投稿されている。例えば筆者がとあるミュージ

シャンのライブが開催されるという旨のツイートを公式リツイートしたとする。その公式

リツイートを見た筆者のフォロワーは、「筆者はこのミュージシャンのファンである」と思

うだろう。しかしその直後筆者が「このミュージシャン、 近はやっているけどあまり好き

じゃない」などと呟けば、フォロワーの筆者への認識は 180 度変わってしまう。このよう

に空コメントを用いることにより、公式リツイートをするだけではわからない元ツイート

への詳細なユーザーの立場を周囲に知らせることができる。

立教大学社会学部メディア社会学科

174

3.2017 年度木村ゼミ調査より

本調査は 2017 年度秋学期開講講義である「メディアコミュニケーション論」を受講する

学生 264 名を対象として行われたものである。本調査で公式リツイートに関するユーザー

の意識をいくつか伺った。

まず公式リツイートの頻度については、「全くしない」と答えたのが 30%と一番多く、「あ

まりしない」が 23.7%、「ときどきする」が 27%、「よくする」は 11.6%、「かなりよくす

る」と答えたのは合わせて 7.5%であった(図 2)。公式リツイートの内訳について趣味に関

するツイート、面白いツイート、政治経済に関するツイート、生活の役に立つツイートにわ

けて伺ったところ、政治経済に関するツイートのリツイートが相対的に少ないことが分か

った。その他三つのリツイート頻度はおおよそ同じという結果が見られた。この理由につい

て、単純に若者に政治経済が馴染みのないものだからなのか、それとも他者との価値観の違

いによる衝突を避けるためなのかは、今回の調査ではわからなかった。

次に「公式リツイートしようか迷うときがある」「いいねより公式リツイートの方が気軽

にできる」「自分の情報が載ったツイートはできるだけ公式リツイートしたい」という三つ

の問に対する回答をまとめた。これが表1である。表1によると、公式リツイートをしよう

か迷うことがあるユーザーは「あてはまる」「まああてはまる」と合わせて 46.2%であった。

また逆に、「いいねより公式リツイートの方が気軽にできる」と答えたのが「あてはまる」

「まああてはまる」合わせてわずか 6.3%しか見られなかったことから考えて、対象者は公

式リツイートよりも「いいね」の方が使いやすい機能であると感じていることがわかる。

以上の結果を総括すると、若者が公式リツイートをあまり積極的に使っていないことが

分かった。その理由の一つとして、そもそも対象者の総ツイート数が少なくツイートするこ

とに積極的でないという可能性が考えられる。しかし個人によってツイート数には大きな

幅があり、今後突出したデータと公式リツイートへの意識の相関を調査すれば、また何か違

った発見があるかもしれない。

図 4 公式リツイートをする頻度についてのグラフ

公式リツイートをする頻度

かなりよくする よくする ときどきする あまりしない 全くしない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

175

表 10 公式リツイートに対するユーザー意識

あてはまる

まああてはま

あまりあては

まらない

あてはまらな

公式リツイートしようか迷う時がある 12.9 33.3 30.4 23.3

いいねより公式リツイートの方が気軽にできる 2.1 4.6 30.8 62.5

自分の情報が載ったツイートはできるだけ公

式リツイートしたい 6.3 20.4 32.5 40.8

4.ツイートの拡散と炎上

本章では公式リツイートの蓄積によるツイートの拡散と、その結果から生じるネット炎

上という現象について、簡単な質的調査を交えながら分析する。まず続く 4-1 項では、炎上

の定義と現在わかっている調査結果について簡潔に記したい。

4-1.炎上はなぜ起きる

荻上の言葉を用いるならば、炎上とは「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収

まりがつかなそうな状態」(荻上、2007)を指す。炎上は Twitter の登場以前にもたびたび問

題となっていた。荻上の説明を借りるならば、炎上を語る上で重要な現象がサイバーカスケ

ード(cyber cascade)と呼ばれるものである。サイバーカスケードとはアメリカの憲法学

者キャス・サンスティーンが『インターネットは民主主義の敵か』の中で提唱した概念であ

る。インターネット上で人々がそれぞれの欲望のままに情報を獲得し、議論や対話を行って

いった結果、特定の言説パターン、行動パターンに集団として流れていく現象を指す。また

そうして辿りついた言説、行動パターンは、たいていは極端であるとも述べられている。ち

なみにカスケードは「小さな滝」を意味する言葉である。サイバーカスケードに共通する点

は、ある集団行動や現象自体が、さらなる集団行動や現象を引き起こすという循環構造を持

っていることである。すなわち批判が批判を呼んだり、評価が評価を呼んだりすることで、

特定のテーマに対する言及がどんどん急増するのである。

Twitter のタイムラインは先述したように、自らが編集者となってツイートを取捨選択し

表示させる。自らと異なる意見を持つユーザー、不快と思うユーザーをリムーブする(フォ

ローを外す)ことにより、徐々にタイムラインは閉鎖的なものに変質していく。この状態の

タイムラインはエコーチェンバーに例えられる。エコーチェンバーとは音の反響効果を人

工的に作り出す部屋や装置のことである。小さなつぶやきであっても、自分に都合の良いツ

イートに溢れたタイムラインの中で、多くの人と同調しあうことでその声を大きくするこ

とが出来る。そして時には自分が多数派の正しい意見を述べていると勘違いをしてしまう。

Twitter のタイムラインシステムは周囲と自分を切り離し、同調圧力を排除することに成功

したが、その一方でサイバーカスケードが発生しやすい環境を創造してしまったと言える。

立教大学社会学部メディア社会学科

176

4-2.リンク拡散経路

では実際、どのようにしてツイートは拡散されるのだろうか。今回、杉並区の楽器店に預

けた高額な楽器が持ち主に返却されないまま店が閉店した事件について、UserLocal 社の

URL 拡散分析を用い、ネット記事の URL の拡散経路を調べた。対象としたネット記事 URL

は Yahoo!ニュースとライブドアニュースの二種54である。その結果が図 3 と図 4(2 月 12 日

18 時 02 分取得)である。

どちらの URL も拡散の円の中心となっているのはネットメディア自身の公式アカウン

トであった。図 3 では二番目に大きな円は一般ユーザーが中心となっているが、図 4 の二

番目の円もライブドアニュースの公式アカウントが中心となっている。拡散経路を見ると

二次、三次の拡散が確認できるが、一番多くなされた拡散は一次の拡散、公式アカウントの

フォロワーが拡散したものが多かった。

次に奨学金を返済できず自己破産するケースが増えている事実について、同様にネット

記事 URL55の拡散経路を調べた。使用したのはライブドアニュースの記事である。その結

果が図 4(2 月 12 日 18 時 30 分取得)である。この記事はライブドアニュースの公式アカウ

ントにはツイートされていないため、大規模拡散を示す円が表れなかった。また公式アカウ

ントにツイートされた記事に比べ、URL を含むツイート数が少なく伝播も起こりにくいこ

とが分かった。結論として、ニュースサイトの記事はニュースメディア自身の公式アカウン

トにツイートされることにより多くの拡散・閲覧数を得ていることがわかった。

次に前者のネット記事 URL への空コメントを調べた。調査に使ったサイトは有志ユーザ

ーによって作成された「リツイート直後のツイートを表示するやつ」56である。表示された

54 https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180212-00000007-nnn-soci と

http://news.livedoor.com/article/detail/14289827/ の 2 つを用いた 55 http://news.livedoor.com/article/detail/14288560/ 56 https://retweets.azurewebsites.net/?lang=ja

図 3 Yahoo!ニュース「高額ビンテージ楽器“未返却”店が突如閉店」の URL 拡散経

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

177

ツイートのうち、記事の内容に関連すると思われるツイートを空コメントとして扱った。2

月 12 日 19 時の時点で 1728 人のユーザーが公式リツイートを行い、空コメントは 48 件観

測された。主な空コメントの種類は以下の通りである。まず「これはこわい」「昼間言って

た話だけど本当に酷い。元店長首根っこ捕まえてやりたい」などの事件への感想を表す空コ

メントが一番多く観測された。「はれのひみたいな事件がこんなところにも……。」「こうい

うのはやってるの?」など「はれのひ事件」57との類似性を示唆する空コメントもよく見ら

れた。「バディサウンド〜て、高円寺のか…」「高円寺だなーこれ、、」など記事の内容から事

件店舗を推測するツイートは少数であったが、自分がその土地の土地勘があることをフォ

ロワーに示す空コメントと分類できるだろう。こちらも少数であったが、「フォロワーさん

がどんどん大物になっていくな〜」「ついこの間ご一緒したのまぐちさんの楽器。。 おそら

く購入当時 80 万 65 年製のオリンピックホワイトなんて、、いま買えば 180 万〜はするだ

ろうなぁ 楽器ってただの道具じゃなくて親友みたいなもんだから辛いなぁ( ; ; )」とい

う被害に遭った被害者とのエピソードを語るツイートが 2 件あった。これは事件の内容に

興味を示しているというよりかは、被害者が自分の近しい存在であったことをフォロワー

にアピールする目的で行われた空コメントと受け取れる。興味深かったのは「これちょっと

前 TL で回ってきた話だ RT」「前ツイッターで流れてきたやつじゃん」など、事件の内容

ではなく以前 Twitter で同事件のツイートを見たという自分の経験を語っている空コメン

トが 7 件確認できたことである。これらは読者を想定していない独り言の空コメントと見

なした。

57 2018 年 1 月、横浜市の着物店「はれのひ」が成人式当日に突如閉店し、新成人が振袖

を着ることが出来なかった事件。顧客から預かった振袖の転売が疑われた。

図 4 ライブドアニュース「杉並区の楽器店が突然閉店 客が預けた楽器が返却されずトラ

ブルに」の URL 拡散経路

立教大学社会学部メディア社会学科

178

5.今後の課題

今後はより多くの事例を挙げ、拡散経路や空コメントの体系化を図っていきたいと考え

る。また今回はニュースサイトの記事の拡散を取り扱ったが、炎上したツイートの多くは個

人のアカウントによるツイートであるため、そちらも分析が必要である。空コメントに関し

て調査した先行研究は筆者による検索の中では見当たらなかった。空コメントの体系化を

行うことでこれからの Twitter 研究に貢献できればと思う。また Twitter が日本国内での人

気を博した要因として、コミュニケーション様式の観点から対面、メールとの違いを提示し

たが、現在の若者にとってはメールは古いメディアであり、現状に即した新たな説を提唱す

る必要があると感じた。この問題に対して「匿名アカウントによる役割間コンフリクトの解

消」「メディアの窓口となるマルチメディア化」という二つの言説を提示したかったが、今

回は十分な時間がなく断念した。これらも次回につなげていきたい。

執筆作業における反省点としては、本論は先行研究の紹介が主な軸となってしまい、独自

の観点や新しい見解を具体的に示すことが出来なかった。その理由として独自の研究に割

く時間が十分にとれなかったこと、社会調査の分析で自らの仮説を証明できるようなデー

タがとれず、今まで考えていた仮説を練り直さなければならなくなったことが挙げられる。

特に論文執筆のためのタイムマネジメントには大きな課題が残る結果となった。今後の研

究においてはさらに先行研究や調査結果を用い見聞を深め、自らの仮説をしっかりと定め

たい。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

179

参考文献

〈書籍〉

茨木正治他編著、2010、『情報社会とコミュニケーション』、ミネルヴァ書房。

荻上チキ、2007、『ウェブ炎上』、筑摩書房。

北村智他、2016、『ツイッターの心理学』、誠信書房。

木村忠正、2012、『デジタルネイティブの時代―なぜメールをせずに「つぶやく」のか』、平

凡社。

小峰隆生、2015、『炎上と拡散の考現学』、祥伝社。

土橋臣吾他編著、2011、『デジタルメディアの社会学』、北樹出版。

林信行、2010、『iPhone とツイッターは、なぜ成功したのか?』、株式会社アスペクト。

船津衛、2010、『コミュニケーション・入門 改訂版』、有斐閣アルマ。

サンスティーン、C、2003、『インターネットは民主主義の敵か』(石川幸憲訳)、毎日新聞社。

〈論文〉

張 永祺・石井 健一、2012、「中国のマイクロブログ(微博)における情報伝達の特徴―Twitter

日本人利用者との比較」、『情報通信学会誌 第 29 巻第 4 号』、47-59、公益財団法人情報通

信学会。

〈インターネット資料〉

総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書」

(http://www.soumu.go.jp/main_content/000492877.pdf)(2018 年 2 月 10 日取得)

立教大学社会学部メディア社会学科

180

~SNS 利用状況・リア充アピール投稿に焦点を当てて~

要旨

本レポートは、「卒論に向けた 1 万字レポート」であり、大きく分けて「1.問題意

識」「2.SNS 利用状況」「3.リア充アピール投稿」の 3 部で成り立っている。今回、

本格的に卒業論文を執筆する前の準備段階として、今この時期に触れておきたいとい

う 3 点に焦点を当てた。実際の卒業論文において「1.問題意識」は非常に大切な大

前提となる箇所であり、「2.SNS 利用状況」は丁寧かつ地道な客観的データの分析が

求められる箇所である。そして、「3.リア充アピール投稿」は今自身にとって も関

心のあるトピックであるかつ、身近で取り組みやすいと感じられるテーマであったと

いう理由により、上記 3 点を今回本レポートで取り上げることとした。

キーワード:スマートフォン、SNS 利用率、LINE、Twitte、Facebook、Instagram

リア充、リア充アピール

0.はじめに

本レポートは専門演習 2「年度末提出課題:卒論に向けた 1 万字レポート」として卒業論

文のうちの 1 万字を執筆していく。流れとしては、「1.問題意識」で実際の卒業論文を想定

した問題意識を、特にスマートフォンの登場が世間に与えたインパクトという部分に焦点

を当てて綴っていく。実際の卒業論文では本レポート執筆部分に加えて、自身が研究対象と

して扱おうとしている「SNS」と「承認欲求」とのかかわりそのものについての問題意識や、

それに関する先行研究を紹介する予定である。

そして、「2.SNS 利用状況」では、SNS の利用率を改めて確認していくために用意され

た章である。スマートフォンそのものの利用率から始まり、LINE、Twitter、Facebook、

そして Instagram という現代を代表する 4 つの SNS の利用率や利用時間を性年代別で丁

寧にみていく。

そして 後に「3.リア充アピール投稿」で、どのような投稿内容が SNS 疲れにつながっ

ていくかをみるために「リア充アピール投稿」に焦点を当てていく。本章の流れとしては、

まず Google Trends を用いて「リア充」「リア中アピール」の登場時期を確認する。そして、

現状として、リア充アピールに対する世間の反応や世間の声を Yahoo!リアルタイム検索を

用いて確認。その後、どのような投稿が実際にリア充アピール投稿とされているのかの事例

を紹介し、具体的な「リア充アピール投稿」に対してのイメージを抱いてもらうという流れ

で第 3 章は進んでいく。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

181

実際のレポートでは投稿内容の検討はリア充アピール投稿だけにとどまらず、他の観点

からも検討していく予定であるが、本レポートではそのうちの一部分を紹介した。本レポー

トでは「3-1.登場」「3-2.現状」「3-3.投稿事例」と、リア充アピール投稿に語る上で

の前提となる定義部分のみしか触れることができなかった。しかし、実際の卒業論文では、

第3章の内容は「3-4.実態」として既存の調査をもとにリア充アピール投稿に対するユー

ザーの心理を分析し、それに付随して「年度末提出課題:社会調査分析レポート」での内容

につながっていく予定であり、2017 年度木村ゼミアンケート調査分析が活かされる流れに

進めていくつもりである。

以上が本レポートの流れである。本レポートだけでは問題提起から結論までの一連のレ

ポートの形式は取られていないことをここで明記しておく。しかし、実際の卒業論文を見越

したうえでの、重要になってくる部分を適度に抜き出されて構成されたものだと思ってほ

しい。

1. 問題意識

1-1.オコノミボックス

冒頭からいきなりではあるが、まず以下の【図 1】を見てほしい。これは、1980 年 6 月

28 日に発売した『ドラえもん 第 19 巻』(小学館、1980)の「第 9 話 オコノミボックス」

のなかの一部である。

図 5:ドラえもん 第 19 巻 「第 9 話 オコノミボックス」(1980)

立教大学社会学部メディア社会学科

182

出典:iphone Mania「34 年前のドラえもんに iPhone の登場を予言していたひみつ道具があった!?」

(https://iphone-mania.jp/news-39693/、2018 年 2 月 4 日取得)。

のび太が手にしているのは、ドラえもんのひみつ道具である「オコノミボックス」だ。オ

コノミボックスはテレビ、レコードプレイヤー、インスタントカメラなど、様々なものに姿

を変える。物語の中では「四角いもの」という制限があるものの、一つの小さな四角い物体

が、映像を見る・音楽を聴く・写真を撮るという事を可能にしているのだ。あらゆるものに

変化するオコノミボックスにのび太はすっかり夢中だ。

これを見て何を思うだろう。「オコノミボックス」を見て連想されるもの―それは「スマ

ートフォン(文中以下:スマホ)」ではないか。Twitter リアルタイム検索で「オコノミボッ

クス」と検索してみても以下の【図2】のような意見が並ぶ。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

183

図 6:Twitter リアルタイム検索「オコノミボックス」

出典:https://twitter.com/search(2018 年 2 月 6 日取得)。

スマホという一つの四角く小さな物体も、テレビ、ミュージックプレーヤー、カメラなど、

オコノミボックスのように様々なものと同様の役割を果たす。そして、特筆すべき点は、本

作が 初に掲載された『小学二年生』が出版された年は 1979 年であり、今から 39 年も前

だという点である。この時点で未来のスマホと呼べるような道具が語られているのが面白

い。

ドラえもんのオコノミボックス登場から 28 年。2007 年、Apple 社の iPhone に代表され

るスマホがこの世に登場し、我々は今まで手にしたことのないような、まるで新しい機器を

手に入れた。上記の言葉を借りると、スマホはまるで、ドラえもんの「ひみつ道具」だ。そ

してスマホは登場から 10 年というわずかな時に瞬く間に、日本そして世界中に広く普及し

ていった。ドラえもんがオコノミボックスでのび太を夢中にさせたように、現代のスマホは

日本中、ひいては世界中の人々を夢中にさせている。「スマホ」がこのようにまるで「ひみ

つ道具」というかの如く人々を席巻していることに対する驚きが本レポートの問題意識の

始まりである。

1-2.変化した景色

そのようにスマホが世間の人々に浸透してから、従来とは変わったと私が感じる景色が

ある。ここでは 2 つ紹介していく。

まず 1 つ目は電車の車内。車内を少し見渡せば、乗客の顔がみなそろって手元のスマホ

に向いているという光景だ。もはや、現代のあたりまえのものとなっている、皆がそろって

立教大学社会学部メディア社会学科

184

下を向いているこのような光景は実際には異様であろう。電車の中といえば、いわば暇な時

間。満員電車などではなおさら身動きも取れないため行動範囲も手元でできるものに限ら

れる。そのような空間でできる暇つぶしと言ったら考えられるのが、読書、音楽を聴く、新

聞を読む、ゲーム、他にもさまざまあげられると思うが、実際これらの暇つぶしはすべてス

マホでできてしまう。一つの端末は無数の顔を持っているということは、スマホがあれば無

数のことができるのだ。日記を書いたり、スケジュール管理を行ったりという手帳やノート

が本来必要な行為でも、片手一つで出来てしまう。そのため、異様ともいえる光景でも、ス

マホが我々に与えた便利さの側面から考えたら、すべての人が手元のスマホを見ていても

仕方ないのかもしれない。

2 つ目の変わった景色、それは街の中の「歩きスマホ」だ。歩きスマホによる事故は、

東京消防庁によると「東京消防庁管内で平成 22 年から平成 26 年までの 5 年間で、歩きな

がら、自転車に乗りながら等の携帯電話、スマートフォン等に係る事故により 152 人が救

急搬送」されたという。そのうちの 122 名は軽症で済んでいるものの、入院の必要がある

中等症は 25 名、重症は 4 名、さらに重篤は 1 名という内訳になっている(東京消防庁、

2014)。実際、街中でも、駅でも、どのような場所でも、歩きスマホをする人というのは本

当に日々無数に見かけることがあり、すべての人に事故の危険性が付いて回っている。これ

は新たな機器を手にしたからこその新たに発生したリスクだ。

景色とは言わないまでも、人と喋っている間もそうである。友人と会っていても、常にと

は言わないまでも、話はするものの、顔は正面ではなく手元のスマホに向いていること、こ

れはもう誰もが経験したことがあるのではないか。私たちは何のために人と会っているの

だろうか、人と会う意味さえも問いてしまう。私はこのような景色にひどく疑問を抱いてい

た。なぜ人々はこんなに小さな端末に意識をとられてしまうのか。そんな小さな嘆きも本レ

ポートを作成する上での問題意識の一つだ。

スマホは前項では人々を夢中にする「ひみつ道具」と称したが、上記のことから分かるの

は、スマホは人との交流の意味を問い直したくなるような影響を与えたり、今までにはない

新たな景色を生み出したり、 悪の場合、死に結びついてもおかしくないような凶器になる

までも可能性も秘めているということだ。このように、あるとないとでは世界が変わってし

まうようなスマホに、なぜ人々はここまで虜になってしまうのか。なぜそんなに人々を夢中

にさせるのか。そんな問題意識に基づいて本レポートは進んでいく。

そして次節からは、スマホの中で人々がみているものとして「SNS」を選択し、まず、

「SNS」の利用状況を見ていき、その後、SNS が利用者にもたらした影響について、特に

心理的側面に着目して考えていく。

2. SNS 利用状況

2-1.スマートフォン利用率

本節では、人々がスマホの中で利用しているサービスである SNS についての検討を行う

ため、SNS の利用状況を確認していくのが目的である。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

185

そのためにもまず、スマホの利用率をまずみてみよう。総務省による「平成 28 年情報通

信メディアの利用時間と情報行動に関する調査58」(2017)では、スマホの利用率は 2016 年

に全世帯で 71.3%、なかでも 10 代では 74.3%、20 代では 96.8%という調査結果が発表さ

れている。つまり、大学生の年代ではほぼすべての人々がスマホを持っている時代なのだ。

それ以上の年齢でも依然として利用率は高く、30 代では 92.1%、40 代では 79.9%、50 代

では 63.1%というどの世代においても依然として高い割合を占めていることがわかる(総

務省、2017)。以下【図 3】に 2016 年度までの過去 5 年間の推移をまとめてみた。

図 7:平成 28 年度 スマートフォン等の利用率(全年代)

出典:総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017)より作成

フィーチャーフォン59と比較してみてみると、フィーチャーフォンとスマホの利用率が

2013 年を中心に逆転しているという構図が読み取れる。逆転してからのスマホ利用率の伸

びはかなり大きく、2016 年は 2012 年の 2 倍以上の利用率を誇っており、5 年という短い

期間においてスマホが普及している。そして 新の 2017 年の利用率は、博報堂 DY メディ

アパートナーズ「メディア定点調査 2017」(2017)によると 77.5%とますます 8 割に近づ

いていることが分かった(メディア環境研究所、2017)。

2-2.LINE・Twitter・Facebook 利用状況

2-2-1.利用率

58 13 歳から 69 歳までの男女 1500 人(全国 125 地点にてランダムロケーションクォーターサ

ンプリングにより抽出)を対象に、2016 年 11 月 26 日~12 月 2 日に実施。訪問留置式。 59 ここでは携帯電話のうち、スマートフォンを除き、PHS を含むもの

71.30%

68.70%

62.30%

52.80%

32.00%

35.20%

36.80%

42.20%

51%

69.70%

0.00% 10.00% 20.00% 30.00% 40.00% 50.00% 60.00% 70.00% 80.00%

H28

H27

H26

H25

H24

フィーチャーフォン スマートフォン

立教大学社会学部メディア社会学科

186

次にどれだけの人々が SNS を利用しているのかを検討するために、前項と同様である総

務省のデータを用いて、総務省のデータにあった「LINE」「Twitter」「Facebook」の 2016

年の利用率を紹介する。総務省によると、LINE は全年代では 67.0%、10 代で 79.3%、20

代で 96.3%の利用率であった。Twitter は全年代では 27.5%、10 代では 61.4%、20 代では

59.9%の利用率であった。そして、Facebook は全年代では 32.3%、10 代では 18.6%、20

代では 54.8%の利用率であった。

LINE に関しては、20 代の利用率は非常に高く、20 代の国民ほぼすべてが利用している

といっても過言ではなくなっている。Twitter に関しては、10 代と 20 代を比較した際に、

3 つの SNS のうち唯一 10 代の利用率が 20 代を上回っていることがわかる。Facebook で

は 10 代と 20 代の利用率の差が も顕著であり、中高生の 10 代より、大学生、そして社会

人という新たな節目や人間関係の一新が行われる 20代が利用率を支えているような印象を

受けた。3つの SNS の 2012 年から 2016 年の 10 代の利用率の推移をまとめたのが以下の

【図 4】、20 代の利用率の推移をまとめたのが次ページの【図5】である。

ここから読み取れるのは、LINE に関しては 10 代、20 代ともに 5 年を通じて上昇傾向に

あるといってよい。そして両者どちらも 2012 年と 2016 年の利用率を比べると、約 2 倍で

あることがわかる。Twitter に関しては 10 代は 2015 年をピークに 2017 年は若干の現象を

見せている。それに対して 20 代は緩やかな上昇を見せている。Facebook に関しては唯一

3 つの SNS の中で 5 年を通じて減少傾向にあるのは特筆すべき点である。

図 8:主な SNS の利用率(10 代)

出典:総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017)より作成

79.3

77

77.9

70.5

38.8

18.6

23

25

22.3

19.4

61.4

63.3

49.3

39.6

26.6

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

H28

H27

H26

H25

H24

Twitter Facebook LINE

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

187

図 9:主な SNS の利用率(20 代)

出典:総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017)より作成

2-2-2.利用時間

次に多くの人に利用される SNS を「時間」という単位でみていこう。以下の【図 6】【図

7】は 10 代及び 20 代の SNS 平均利用時間を平日と休日に分けて考えたものである。

図 10:【平日】SNS 平均利用時間(10 代及び 20 代)(単位:分)

出典:総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017)より作成

96.3

92.2

90.5

80.3

48.9

54.8

61.6

61.1

57

44.4

59.9

54.8

53.8

47.1

37.3

0 20 40 60 80 100 120

H28

H27

H26

H25

H24

Twitter Facebook LINE

26.9

48.1

59.6 57.8 58.9

21.9

45.1

51.3

46.1

60.8

0

10

20

30

40

50

60

70

H24 H25 H26 H27 H28

10代 20代

立教大学社会学部メディア社会学科

188

図 11:【休日】SNS 平均利用時間(10 代及び 20 代)(単位:分)

出典:総務省「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017)より作成

ここから読み取れるのは、平日に関しても、休日に関しても、若干の上下の推移はあるも

のの基本的には利用率は全体的に上昇傾向にあるという事だ。

10 代と 20 代間で比較すると、平日のほうが 10 代と 20 代の利用時間の差は少なく、約

10 分以内の範囲でしか差がない。それに対して、休日では 10 代と 20 代の利用時間の差は

15 分以上差があることがわかる。また平日と休日で比較すると、利用時間の差は 10 代は約

30 分以上差があるのに対し、20 代は 20 分程度の範囲に利用時間の差がとどまっていると

いえる。つまり平日は 10 代も 20 代も同じ程度の使用をしているが、休日になると、10 代

のほうがより利用時間が増加傾向にあるという事だ。

しかしながら、ここでよく見ておきたいのは 2016 年度の時点では平日では、10 代・20

代共に約 60 分、休日では約 90 分の時間、若者は SNS に触れている時間があるという事で

ある。実感としては、出かけ先や移動中も細かく分けて短い利用が行われており、その積み

重ねを考えると実際はもう少し多くなるのではないかという印象ではある。

しかし、平日に関しては、統計の取られた 2012 年から 2016 年の 5 年間で 10 代では約

2.2 倍以上、20 代では約 3 倍近く増加しており、急激な利用時間の増加がみられているの

は特筆すべき点である。休日でも伸びがみられるものの、その伸び率は平日ほどではない。

前項より、SNS の利用率が年々増加していることにより、休日の時間のある時にゆっくり

SNS を見るという使い方の人々ではなく、毎日欠かさず SNS をチェックするという使用形

態の人々が増加したのではないかと考えられる。

78.3

95 93.396.8

5257.7

70.5

80.7

0

20

40

60

80

100

120

H25 H26 H27 H28

10代 20代

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

189

2-3.Instagram 利用状況

前節では「LINE」「Twitter」「Facebook」という三つの SNS についての利用状況をみて

きた。本節では「Instagram」についての利用状況を確認していく。ここではマクロミルが

2016 年に実施した Instagram に関する調査60を参照していく(マクロミル、2016)。

まず Instagram の認知度と保有状況を Facebook、Twitter と比較してみていく。

Instagram の認知度は 79%であった。Facebook 94%、Twitter 94%と比較すると少ないも

のの、約 8 割の人々が認知していることは十分高い数値であるといえる。

次に、アカウントの保有状況を見てみると、Instagram は 17.5%であった。これは

Facebook 41%、Twitter 37%と比較するとかなり少なく、存在を認知するものの利用して

いるとの割合は少ないという事がわかる(以下【図 8】)。

図 8:Instagram アカウント保有率

出典:マクロミル「SNS 利用状況調査」(2016)より作成

ここでは年代別に細かく利用状況を見ていく。以下の【図 9】【図 10】は、性年代別の利

用率を表したものである。「閲覧もするし、自分から情報発信もする」と「閲覧はするが、

自分から情報発信は行わない」の 2 つの割合を足したものが、Instagram の利用者である

が、10 代から 50 代の利用状況を比較すると、圧倒的に多いのは 10 代、20 代の女性であ

り、Instagram は若い女性によって支えられているといえるだろう。しかし、10 代女性の

24.0%、20 代女性の 19.5%という数字をみると、実際にアカウントを保有しながら自らも

投稿を行うという人は、全年代でみてみるとまだまだ少ないというような印象を受けた。

60 マクロミルがインターネットリサーチを用いて全国 15~59 歳の男女(マクロミル提携モニ

タ)を対象に行った。調査対象は合計 3172 サンプル。

17.50%

61.30%

21.20%

持っている 持っていない 知らない

立教大学社会学部メディア社会学科

190

図 12:Instagram の利用状況(男性・年代別)

出典:マクロミル「SNS 利用状況調査」(2016)より作成

図 13:Instagram の利用状況(女性・年代別)

出典:マクロミル「SNS 利用状況調査」(2016)より作成

11.9

12.3

7.9

4

0.9

7.5

6.6

7.6

7.8

5.7

3.4

2.6

0.9

0.9

1.2

77.1

78.5

83.6

87.3

92.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

10代

20代

30代

40代

50代

閲覧もするし、自分からも情報発信もする 閲覧はするが、自ら情報発信は行わない

閲覧も情報発信もしていない アカウントを持っていない

24

19.5

8.4

4.6

3.5

12.3

14.5

9.6

7.1

5

2.3

2.8

1.9

1.2

0

61.3

63.2

80.1

87

91.5

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

10代

20代

30代

40代

50代

閲覧もするし、自分からも情報発信もする 閲覧はするが、自ら情報発信は行わない

閲覧も情報発信もしていない アカウントを持っていない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

191

3. リア充アピール投稿

3-1.登場

ここでは SNS 疲れの要因となる投稿内容の検討に入っていく。本章で取り扱う事象は、

「リア充アピール投稿」だ。いわゆる「リア充自慢」ともいわれる。では、まずリア充自慢

投稿の内容について触れていく前に、「リア充」そして「リア充アピール・リア充自慢」と

いう単語が世間に登場した時期はいつなのか Google Trens を用いて確認していく。検索結

果を以下【図11】に示した。

図 14:Google Trends 「リア充」検索結果

出典:Google Trends より作成(2018 年 2 月 14 日)

まず初めてリア充という言葉が登場したのは 2006 年 3 月であった。その後は現在まで依

然として上昇傾向にあることがうかがえる。時折急上昇している箇所もうかがえるが、一つ

目の山の頂点である 2008 年 2 月からは、急低下することなく、「リア充」という言葉は国

民に広く普及したのち定着したことがうかがえる。

次に見ていくのは「リア充アピール」と「リア充自慢」の検索結果である(以下【図12】

参照)。青い線が「リア充アピール」、赤い線が「リア充投稿」を示している。

図 15:Google Trends 「リア充アピール」「リア充自慢」検索結果

出典:Google Trends より作成(2018 年 2 月 14 日)

立教大学社会学部メディア社会学科

192

ここから読み取れることは、まず相対的に見て「リア充アピール(青)」と「リア充投稿

(赤)」を比較してみると、「リア充アピール」という用語のほうは使用される頻度が高いと

いう事だ。そのため、本レポートでも「リア充アピール」トいう名称のほうを採用して議論

を進めていく。

そして、【図 11】と【図 12】を比較してわかることは、やはり「リア充アピール」「リア

充自慢」という言葉は「リア充」という言葉と同時期ではなく、時期的には遅れて誕生した

言葉だという事がわかる。先ほど、「リア充」という言葉の登場はおよそ 2006 年 3 月ごろ

だと記述したが、「リア充アピール」「リア充自慢」という言葉が登場し、継続的に使用され

るようになったのはおよそ 2012 年に入ってからといっていいだろう。この間にはかなりの

ブランクがあることがわかる。つまり、2006 年から 2012 年の間には「リア充」という概

念は存在していたものの、「リア充アピール」や「リア充自慢」という概念は存在していな

い、または広く普及していなかったといえる。

3-2.現状

次に「リア充アピール」に対する世間の声、世間の反応といったような現状を、Yahoo!

リアルタイム検索を用いて紹介していきたい。世間の SNS ユーザーはリア充アピールに対

してどのような印象を抱いているのだろうか。検索結果画面は後述の【図 15】の通りだ。

「Yahoo!リアルタイム検索」を行ったのは 2018 年 2 月 14 日と、ちょうど「バレンタイ

ンデー」当日であった。そのため時期的にチョコレートをもらった自慢などの投稿があふれ

ることにより、リア充に対しての意見を述べるツイート数の増加が予想された。しかし、過

去 1 週間(【図 13】)と過去 1 か月(【図 14】)の「リア充アピール」というツイート数の推

移を見てほしい。

図 16:「リア充アピール」ツイート数(2018 年 2 月 14 日より、過去一週間)

出典:Yahoo!リアルタイム検索より作成(2018 年 2 月 14 日)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

193

図 17:「リア充アピール」ツイート数(2018 年 2 月 14 日より、過去一か月)

出典:Yahoo!リアルタイム検索より作成(2018 年 2 月 14 日)

【図 13】に関しては、毎日 24 時間ごとに同じような波及を描いているのが特徴である。

【図 14】に関しては、過去一週間(2 月 7 日付近で若干の増加と減少の様子がうかがえる

が)基本的にはなだらかな線が一定のところでキープされているのが特徴的だ。ここから分

かるものは、バレンタインデーという特別な日に限って「リア充」に言及するツイート数が

増加するわけではなく。基本的に日常的に「リア充」に言及するツイートは毎日一定数存在

しているという事である。

それでは再び、世間の SNS ユーザーはリア充アピールに対してどのような印象を抱いて

いるのかに関して、Yahoo!リアルタイムの検索結果画面を確認していきたい。改めて次ペー

ジの【図 15】を参照してほしい。ここに引用したツイートはごくわずか一部ではあるもの

の、ツイート内容は世間の人の声をそのまま代弁しているといってよいだろう。

ツイート内容を確認してみると、他の媒体でやるものを推奨するもの、「草」と嘲笑する

もの(この場合馬鹿にして笑っているというニュアンスが感じ取れるだろう)、長文で怒り

を表すもの、憐れだと感じるもの、はっきり「うざい」という意見を主張するものと、反応

は非常に様々である。しかし【図 15】で記した 7 つのツイートだけでも、非常に「リア充

アピール」をするもの、「リア充アピール」をする投稿に対して、マイナスであり、ネガテ

ィブない印象を抱いているという事が読み取れる。

後述の【図 16】では Yahoo!リアルタイム検索ならではの機能である、ツイートに対する

「感情の割合」を示した。ここでは 2018 年 2 月 14 日から過去一か月の感情の割合は示さ

れている。グラフを見てみるとネガティブな感情が50%に対して、ポジティブな感情が17%

という結果が出た。このような対比関係も「バレンタインデー」当日だから見られる特異な

結果ではなく、棒グラフでの推移から分かるように、一か月にわたって常に一定であり、基

本的にこの対比関係は日常的にネガティブな感情が勝っているという事がわかる。

立教大学社会学部メディア社会学科

194

図 18:Yahoo!リアルタイム検索 「リア充アピール」(2018 年 2 月 14 日)

出典:Yahoo!リアルタイム検索より作成(2018 年 2 月 14 日)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

195

図 19:Yahoo!リアルタイム検索「リア充アピール」感情の推移

出典:Yahoo!リアルタイム検索より作成(2018 年 2 月 14 日)

3-3.投稿事例

本項では、実際にどのような投稿が「リア充アピール投稿」となるのか、その定義を確認

してくと共に、具体的な投稿事例を確認することで、リア充アピール投稿に対するイメージ

を共有するとともに 大化していくことを目的とする。

まず、リア充とは「リアル(=現実世界)の生活が充実している人」の略であり、語源は

インターネット、いわばネットスラングであった。Tap-biz(2017)によると、2005 年ごろ

に 2 ちゃんねるで「リアル充実組」として成立した言葉であったものが、2006 年に入って

から「リア充」という呼称に変化していったという(Tap-biz、2017)。そのことにより「3

-1.登場」で、Google Trends により、2006 年 3 月ごろから「リア充」という言葉が世の

中に登場し始めたこととの整合性が生まれる。ここで改めて「リア充」という言葉は 2006

年初頭に生まれたと考えてよいだろう。

そして本レポートではこれ以降「リア充アピール投稿」を、「自らの充実した私生活の様

子を映し出しており、自分がリア充である様子を世間に向けてアピールしているととらえ

立教大学社会学部メディア社会学科

196

られるような投稿」と定義して議論を進めていく。

次に具体的にどのような投稿事例がリア充アピール投稿とみなされるのか、その具体例

を紹介していく。実際のところ受けてが「リア充アピール」だと感じられる投稿はすべてリ

ア充アピール投稿だといえるが、ここでは具体的なイメージを膨らませやすいように代表

例といえるべき投稿内容を紹介していく。

ここからは、マイナビが 2015 年 7 月に、社会人 353 人を対象にインターネット上で行っ

たアンケートをもとに作成された「リア充アピール投稿 7 選」で紹介されている事例を参

考に私なりの定義も織り交ぜて見ていく(マイナビ学生の窓口、2015)。

① デートの様子の投稿

彼氏、彼女などのパートナーとのデートの様子を映し出した投稿がこれにあたる。具体的

にどこかの場所や、食事の写真、もらったプレゼントの写真だけでなく、恋人とのツーショ

ットやピンショットなどの仲睦まじい様子や、記念日の際に SNS の文面上で想いを語る投

稿などもこれにあたるといえるだろう。投稿の閲覧者にとっては、惚気と感じられるような

投稿をみると、心から祝福したくなるというよりは、見せびらかされているという気持ちに

なるのではないかと推測される。

② 忙しい自慢の投稿

毎日出かけているから、すなわち毎日予定が詰まっていて大変・忙しいという事を伝える

趣旨の投稿がこれにあたる。具体的には「飲み会続きで疲れた」「寝てない」などといった

アピールがこれに当てはまる。このような投稿は純粋に忙しくて大変ということを伝えた

くて行った投稿であったとしても、閲覧者にとっては、「スケジュールが予定でいっぱい=

リアルが充実している」すなわち羨ましいと捉えてしまいかねない。

③ ブランド品など、高価なものを見せびらかすような投稿

高価な商品を映し出したり、買えたことをアピールする投稿がこれにあたる。具体的には

車や、ブランド品のバックなどである。このような投稿は実直で分かりやすく、素直に自慢

をするために投稿が行われている可能性が高い。あからさまな自慢と受け取れる場合、受け

手はいい気分はしないだろう。

④ イベントなどの参加の投稿

簡単には出来ないような非日常や、目を引くような派手なイベントに参加している様子

の投稿がこれにあたる。具体的には、海水浴、BBQ、花火大会、ハロウィンの仮装など季節

のイベントから、コンサート、音楽フェスなどのフェス系、そして近年流行しているカラー

ラン・バブルラン、そしてないとプールといったような視覚的にも印象的で目を引くような

派手なイベントの参加を投稿することがこれにあたる。日常生活を行っている人が、非日常

の様子が映し出された投稿を目にすると、自らの状況と比較してしまい気分が落ちてしま

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

197

うことが想定される。

⑤ 幸せな家族を映した投稿

わかりやすく家族というカテゴリーにおいて幸せだという事が伝わってくる投稿がこれ

にあたるといえる。具体的には子供の成長の写真などがあげられる。しかし、このような投

稿をリア充アピールと感じてしまうのは実際に結婚相手や子供などの家族を持つというこ

とが身近に感じられるようになる年代からだと推測される。そのためすべての年代に共通

してこのような投稿が「リア充アピール」と認定されるかと言ったらかならずしもそうだと

は言い切れないだろう。

⑥ 友達が多い様子がうかがえる投稿

飲み会、カラオケ、旅行、ドライブなど「遊び」に行ってきた様子が映し出された投稿は

大体これに当てはまる。この種の投稿においてポイントなのは、「投稿の頻度・回数」だ。

遊びに行った投稿の頻度・回数が多いという事は、それだけたくさん遊びに行く機会が多い

という事につながり、そのことは、それだけたくさん「一緒に遊んでくれる人がいる」「遊

びに誘ってもらえている」ことを表わしていると解釈することにつながりやすい。そのため

閲覧者はこの種の投稿を見ると、「友だちが多い自慢」と受け取ってしまうといえるだろう。

⑦ 遠回しな自慢の投稿

恋人という観点でいうならば、これは①がストレートに「恋人の存在が明らかに分かる投

稿」であるならば、本投稿はいわゆる遠回りで「におわせな投稿」である。恋人の姿を映し

ている訳ではないが、恋人のような人物と一緒にいることが感じられるような投稿をする

ことで、閲覧者に「誰と行ったの?」「誰がくれたの?」などのような疑問を生み出すよう

な投稿、またはそのような疑問が生まれることを狙った投稿がこれにあたるといえる。

具体的には顔は移さず後ろ姿や手元だけの写真、料理や物などの被写体を映していると

見せかけて、背景に誰かがいることがわかる写真、明らかに一人ではないことが感じられる

写真(二人分の料理、車内の助手席など)がこれにあたるといえるだろう。

以上が実際の「リア充アピール投稿」の具体例である。参考にしたデータが社会人を対象

に行われていることから、特に「⑤幸せな家庭を映した投稿」や、もしかしたら「③ブラン

ド品など、高価なものを見せびらかすような投稿」は、家族を持つ立場に達していない、高

価なものを買うほどの経済的余裕がない大学生にとっては少しなじみのない投稿かもしれ

ない。しかしその他の投稿の形態は非常によくするものであり「リア充アピール投稿」とし

て大いに納得のできる内容だと感じる。

立教大学社会学部メディア社会学科

198

参考文献

≪日本語文献≫

情報通信政策研究所、2017、「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する

調査」総務省。

メディア環境研究所、2017「メディア定点調査 2017」博報堂 DY メディアパートナーズ。

≪web ページ≫

小学館、2018、「ドラえもん 19」、小学館ホームページ

(https://www.shogakukan.co.jp/books/09140109、2018 年 2 月 4 日取得)。

東京消防庁、2014、「歩きスマホ等に係る事故に注意!!」東京消防庁ホームページ

(http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201503/mobile.html、2018 年 2 月 6 日取

得)。

マイナビ学生の窓口、2015、「『リア充自慢』としか思えない! SNS の投稿 7 選」、

(https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/16671?page=2、2018 年 2 月 14 日取

得)。

マクロミル、2016、「2016 年夏、Instagram の今(SNS 利用状況調査より)」、HONOte

(https://honote.macromill.com/report/20160726/、2018 年 2 月 9 日取得)。

Tap-biz、2017、「リア充アピールとは?うざいと思われる失敗例|リア充アピールの心

理」(https://tap-biz.jp/tap_cat_100401/tap_cat_100406/1000950、2018 年 2 月 14 日

取得)。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

199

スポーツ番組と Twitter

要旨

これまでスポーツはメディアともちつもたれつの関係で発展を遂げてきた。新聞に

始まり、ラジオ、テレビそして IT と時代の流れによってメディアによる発信もその

都度変化を遂げてきた。また一方で受信者側は IT の発達によって「ながら視聴」を

より楽しむことができるようになり、スポーツ番組の盛り上がり方、楽しみ方も変化

している。その例として、Twitter が挙げられる。試合中継中、またその前後多くの

ツイートがされる。それらは高視聴率スポーツ番組(地上波放送)の場合 1 人の人が

複数回ツイートするのではなく、多くの人によって発信され、リツイートがかなりの

範囲を占めることが明らかになった。しかし有料放送の場合、試合中継中に各々の感

情をツイートするケースが多くみられた。今回はそれら傾向を発見するにとどまった

ため、今後実証していくことを課題とする。

キーワード:スポーツ、メディア、ながら視聴、リアルタイム、Twitter

1 問題意識、研究背景

今日に至るまでスポーツとメディアはもちつもたれつの関係を保ちながら、それぞれの

発展の寄与に大きく関わってきた。そして、この関係の在り方はめまぐるしい変化を遂げて

いるように思われる。近年、「テレビ離れ」に伴い、スポーツ番組の視聴率の低下も起きて

いる。プロ野球の地上波放送の減少はこの現状をまさに象徴していると言えよう。一方でイ

ンターネット環境の整備が進んでいることやスマートフォンの普及により、動画配信サー

ビスを用いる機会が急激に増えた。特に話題性があるスポーツ動画配信サービスといえば、

「DAZN」が挙げられる。1 年で 100 万人を突破するというとても勢いがあるサービスであ

る。また、Twitter による試合・大会のリアルタイム実況分析やそれに関するツイートがタ

イムライン上に並ぶことは現在ではお馴染みである。特に大きなスポーツイベントや世間

からの注目を集めている試合があるとき、Twitter のタイムラインが盛り上がっている様子

をよく目にする。これと並行に、このようなスポーツイベントや試合があるときテレビの視

聴率が高い。

これらのことから、デジタル・ソーシャルメディアがマスメディアにとって代わる役割を

果たしていると思ったが、実は一度にこの両方のメディアを利用して楽しんでいる人が以

前より増えてきているのではないかと感じた。それはテレビとインターネットを同時並行

する「ながら視聴」が代表例である。そこで今日までのスポーツとメディアの関係性に遡っ

立教大学社会学部メディア社会学科

200

たあと、現代のテレビとインターネット利用の在り方の実態を見ていく。そしてそのあと視

聴率が高く、注目度が高いスポーツ番組と Twitter のツイートについて分析していく。

2 日本のスポーツとメディア関係史

本章では、次章の仮説論証に入るまでの、予備知識としてこれまでの日本におけるスポー

ツとメディアの相互関係の歴史を振り返ることにする。また、本章では『現代メディアスポ

ーツ論』(橋本、2002)、『よく分かるスポーツ文化論』(井上・菊、2011)、『スポー

ツは誰のためのものか』(杉山、2011)『メディアスポーツへの招待』(黒田、2012)を

参考にした。

2-1 活字メディア―新聞・雑誌

世界で 初のスポーツと活字メディアの関係性が見られるようになったのは、近代スポ

ーツの母国である、イギリスである。19 世紀半ば以降、スポーツ専門の新聞や雑誌が展開

されていくようになり、20 世紀に入るときには既には一般紙にもスポーツ面が大きく取り

上げられるようになっていた。

日本のスポーツの歴史の出発点は、明治時代にまで遡る。それは近代日本のスポーツが、

この時期に見られた、欧米スポーツを起点として出発し、発展されていくからである。近代

的新聞に近代スポーツ関する記事が記載されたことからも、新聞とスポーツの結びつきが

比較的早いことが伺える。そして新聞によって初めて伝えられた記事は、1881 年郵便報知

発行による『島津家で催された展開大相撲』というものである(佐野、2017)。当時は相撲

に関する記事がとても多く、1895 年日清戦争以降から次第にスポーツ記事が増えていった。

戦争報道によって、国民の新聞への関心が高まるようになった。これらの記事は「一高対外

人クラブ、ベースボール試合」など「野球」を取り上げる記事がよく見られた。このような

外国人を相手とする試合についての報道、特に日本の勝利を報告する記事が多かった。

同時期に、新聞だけでなく、数多くのスポーツの専門雑誌が登場し、増加していった。

1897 年に日本 初のスポーツ総合月刊誌『運動界』が創刊された。そして日本でスポーツ

専門の日刊紙『日刊スポーツ』は 1946 年に発行された。これは戦後の日本に平和と元気を

もたらしたのであった(現在は朝・夕刊合わせて 7 のスポーツ紙が大衆に読まれている。)

このようにして、スポーツの普及にとどまらず、スポーツの大元国家であるヨーロッパ人と

の戦いぶりを報道することによって、日本人としてのイデオロギー形成や国民の統合意識

の形成にも大きな役割を果たしていった。

さらに、スポーツイベントの主催や支援に取り組みを始めるようになったのも新聞社で

ある。日本で 初の新聞社主催のイベントは 1901 年に行われた『上野不忍池 12 時間競走

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

201

76 周(約 112 キロ)』である主催者であった『時事新報』が走った者に賞金100円を出

した(佐野、2017)。この も成功した例の一つが 1915 年に朝日新聞社主催で始まり、

1924 年から甲子園球場で開催されるようになった「全国中等学校優勝野球大会」である。

これは、現在の高校野球選手権大会、夏の甲子園である。これに対抗して毎日新聞社も全国

中等学校優勝野球大会現在の春の「センバツ」大会を実施するようになる。さらには新聞社

独自によるスポーツ紙が発刊され、1929 年には新聞紙の紙面に「運動欄」が独立して設け

られるようになった。新聞社が報道だけでなく大会運営などに積極的に関わっていくこと

で、スポーツに対する社会的関心は高まっていった。

2-2 ラジオ

前節の 後の方で述べた甲子園大会の全国的展開を促進したのは、ラジオの実況中継で

会った。1920 年にアメリカで始まり、1925 年に日本でもラジオ放送が開始された。同年、

治安維持法が成立し、その影響を受けて放送事業も国の厳しい監督下に置かれた。民放の放

送は戦後になるまで許可されなかった。1927 年 8 月 13 日第 13 回全国中等学校野球優勝大

会で初めて日本初のスポーツラジオ放送が行われた。当初、ラジオ放送により観客の減少が

懸念され反対の意見もあったが、1928 年にラジオ放送の全国中継網が確立したことをさき

がけに、ラジオの実況放送は全国規模までに甲子園野球を押し上げる大きなきっかけとな

った。そしてその後もラジオ放送は相撲から陸上競技へと範囲を広げていき、1936 年ベル

リン五輪から実況中継が実現されたのである。このようにして国民にとってのスポーツの

娯楽化を推し進め、その関係性をまた一段と強めたのである。(しかし、1937 年以降、日

中戦争開戦を契機に、ラジオ放送は国家との結びつきが強くなり、スポーツ番組の実況も制

限されるようになった。)

2-3 映像メディア―映画・テレビ

当時、速報性という点では引けを取る部分もあるが、映像が動くという強みを発揮し、ニ

ュースや記録を流す映像メディアとして活躍したものが、映画である。日本でテレビ放送が

開始されたのは戦後 1953 年であり、テレビ映像機が一般家庭に普及したのは、1960 年代

半ばであった。映画はそれまでの映像メディアの主力であった。つまり、スポーツ観戦の原

点は映画館での鑑賞と言うこともできる。この当時一番の人気スポーツは野球であった。わ

ざわざ球場に足を運ばなくとも見れる点や、後日にその試合を見れる点は当時革命的であ

った。

そして、第二次世界大戦後各国でテレビの技術開発の加速化が進み、まずアメリカで早々

に娯楽性に評価が広まっていった。そして日本でも実験を経て、1953 年 2 月 1 日に NHK、

同年 8 月に初の民放局として「日本テレビ放送網(NTV)」が開局した。そして NHK のス

ポーツ中継は同年 4 月の東京六大学野球春季リーグ戦、NTV は開局翌日にプロ野球セ・リ

立教大学社会学部メディア社会学科

202

ーグ巨人対阪神戦を行ったのが記念すべき初回である。また、当時登場した白黒テレビは 1

台 30 万円と高級品であったため(当時一般勤労者給料 3 万円)、人気を博したのは街頭テ

レビであった。そこでスター選手となった代表例が「日本プロレス界の父」と慕われる力道

山である。そして1964年の東京オリンピックで初めて衛星中継によるテレビ放送が行われ、

日本のテレビとスポーツ史においてまた一つ歴史が刻まれた。さらにカラーテレビが 1970

年代から本格的に国民に広まり、スポーツをさらに楽しませた。力道山の他にも東京オリン

ピック男子マラソンの円谷幸吉や大学野球、プロ野球で活躍し、それらの人気にまた火をつ

けたのが「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄など、「テレビ」の登場によって、時代や社会

を象徴し、国民へ夢や価値観を体現する「スポーツヒーロー」や「スター選手」を生み出し

ていった。(森田、2009)

その後、1984 年ロサンゼルスオリンピックではハイビジョン放送の実験放送が行われ、

1988 年のソウルオリンピックではハイビジョン中継が実現された。また、1998 年のサッカ

ーフランスワールドカップでは NHK の放送クルーがヨーロッパへのデジタルハイビジョ

ン中継普及活動を行っている。また 1998 年のワールドカップまで 6 大会連続 NHK が日本

の独占放送権を持っていた。しかし 2002 年日韓共催ワールドカップではジャパンコンソー

シアム(JC)という NHK と民放によるデジタルハイビジョン放送とデータ放送が世間に

顔見せすることとなった。(NHK、2010)地上波のみならず BS 放送や CS 放送といった有

料チャンネルも多岐にわたる。さらにスーパースローモーション、3D、VR、ウルトラスー

パーハイビジョンなど様々な放送技術が開発され、大会時に導入されテレビ放映への工夫

がさらに高められているのである。

以上のことからも、国民にとってスポーツをよりリアルに感じることができ、これまでよ

りスポーツが隆盛したのは「テレビ」が登場したからであった。それと並行に技術開発にも

力が入れられていたことも明らかである。そしてオリンピックやワールドカップなど、世界

規模で行われている、いわゆる「メディアイベント」とテレビの結びつきが近年強くなって

いるのである。さらにスポーツとメディアが「ビジネス」としての関係を持つようになり、

テレビ放映を前提として度重なるスポーツのルール変更が行われ、また近年のスポーツ放

映権料の高騰というビジネス的な問題にもつながっているのが現状である。

2-4 IT

IT 技術の発達により、1990 年代後半から映像の圧縮技術の前進により、光ファイバーや

ブロードバンドを使って放送される映像の画質が飛躍的に上がった。そのため、インターネ

ットによる動画の配信が可能となった。この状況はスポーツ界においても大きな変化をも

たらした。2002 年ソルトレークシティオリンピックまではインターネット利用をする人が

少なかったことから映像配信が認められなかったが、見る見るうちにネット利用者が増え、

2004 年アテネオリンピックから大幅に規制が緩和され、利用されることとなった。日本で

は 2008 年北京オリンピックでは公式動画サイトを開設し、初めて配信を行った。これは生

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

203

中継によるものはなく、主なものはテレビ映像を編集されたものであった。そして 2012 年

ロンドンオリンピックでは計 10 個による専用チャンネルが設けられ、無料ライブ配信が行

われ、この大会からインターネットによる中継の充実度がぐんと上がったのである。そして

今月開幕される平昌オリンピックでもインターネットでも同時配信を行い、4K や見逃し番

組も試験的に提供される。今日プロ野球や J リーグなど各スポーツでネット配信が行われ

ており、なかでも 近話題なのはスポーツストリーミング配信を行っている「DAZN」

「AmebaTV」などではないだろうか。スポーツ動画配信サービスの中心であった「スポナ

ビライブ」が今年の 5 月末をもって終了し「DAZN」にコンテンツを集約することが発表さ

れた。本サービスは 2016 年 3 月にサービスが開始されたばかりでプロ野球の一部試合やサ

ッカー、特にプロバスケットリーグ B リーグの全試合ライブ配信を行うなどして盛り上げ

に寄与した。2 年という短い期間でスポーツ動画配信サービス界に変動が起きるという日々

メディアとスポーツの関わり方に動きがあると言えよう。

インターネットがこれまで放送されてこなかったマイナースポーツを放送することがで

きるといったスポーツの発信の幅をさらに広めると同時に、これまでスポーツ界において

マスメディアがスポーツ情報を独占し、作り上げていっていたという構造に対して対抗す

る勢力となり、今ではマスメディアの存在をも脅かしている。情報の速報性という面におい

ても優位に立つのは言うまでもない。そして技術面においては野村克也元監督による「ID

野球」や女子バレーボール日本代表元監督真鍋政義監督は試合中 iPad を片手に選手に 新

かつ的確なアドバイスを提供していた。あらゆるデータを細かく分析することができるよ

うになったのである。またマーケディング面においては SNS を用いて集客アップを目指す

スポーツチームが増えてきている。さらにこの SNS 上の Twitter では利用者によるリアル

タイムな試合状況が発信されている。これは Twitter の持つ情報伝播力の強さが物語ってお

り、特に「ハッシュタグ(#)」や「リツイート(RT)」がそれを象徴づけた。(津田、2009)

これまで受信者だった視聴者たちが発信者側になることも可能な時代となったのである。

2-5 まとめ

本章第 1~4 節で「活字メディア」「ラジオ」「映像メディア」「IT」という 4 つのメディア

に区分し、これまでの日本のスポーツとメディアの歴史について見てきた。日本のスポーツ

発展に一番大きく寄与したのが新聞や雑誌といった「活字メディア」の果たした役割が大き

かったことが分かった。新聞によってスポーツとの親和性が生まれたのである。そして映像

メディアの登場によってよりスポーツを国民は身近で感じられるようになり、今日のオリ

ンピックを始めとしたビッグイベントとのメディア(特にテレビ)の関係性の土台を築き上

げたのである。今日ではお互い相互に依存しあっており、放映権料の高騰という世界的な問

題が起きているのも実情である。そしてインターネットを始め「速報性」という特徴が光る

IT 技術が発展したことによって、テレビ中継やラジオ放送がない地域や国民にも“ライブ・

実況”に近い放送を提供することができるようになった。また、これまで一度に数百万に情

立教大学社会学部メディア社会学科

204

報を発信できるメディアはテレビやラジオしかなかったが、インターネットにおいて初め

て「電波」に敵う伝播力を持つ Twitter の登場したことも大きい。これらの変遷により、こ

れまで勝負のプロセスを楽しむというスポーツの楽しみ方も同時に変化を起こしていて、

速報性やリアルタイム重視にシフト転換されているのではないかと考え、本章の結びとす

る。

3 仮説

本論文では、前章の問題意識も踏まえて、日本のスポーツとメディアのこれまでの歴史を

遡り、その関係性の変化を見ていく。そして以下の二つに仮説を立て、論を展開していく。

仮説 1:「インターネット利用」をしながら「テレビ(リアルタイム)視聴」する、「なが

ら視聴」は減少傾向にある。

仮説2:また、高視聴率を獲得したスポーツ番組に関するTwitterのツイート数は高くなり、

より多くの人がツイートしている。

仮説 1 はテレビ(リアルタイム視聴)が減少し、インターネット利用時間が伸び続けてい

るという現状を踏まえて「ながら視聴」は減少しているのかという考えからである。

仮説 2 は高視聴率を獲得している状況とは多くの人がテレビに接触しているということ

である。また、テレビ接触量が多いと Twitter の趣味情報ツイート受信量が多いという関係

性も見られる。(北村他、2016)つまり受信するだけでなく、よりたくさんの人が何らかの

形でツイート、発信をしているのではないか、という考えからである。

4 分析

4-1 先行研究

まず、テレビ(リアルタイム)視聴利用率とインターネット利用の平均利用時間・行為者

率の推移について見ていく。者率の推移について見ていく。ここでは総務省情報通信政策研

究所「平成 28 年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の統計を用いる。

この統計は平成 28 年 11 月 26 日から 1週間、13 歳から 69 歳までの全国 1500 人をランダム

で抽出し、調査を実施した。平日のテレビ(リアルタイム)の視聴平均時間は平成 24 年 184.7

分から緩やかな減少傾向にあり、平成 28 年は 168.0 分であった。しかし、休日においては

数値の変化はあまり見られず、テレビの利用時間の減少は「平日」に見る時間数が減ったと

いうことが要因と考えられる。また、インターネットの平均利用時間も平日休日ともには増

加傾向にあった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

205

次に経年(平日)テレビ(リアルタイム)視聴及びインターネット利用時間・行為者率(年

代別)この 2 つの行為者の平均利用時間を年代別に見ていく。図 1 の赤で示されたグラフ

がテレビ(リアルタイム)視聴、青で示されたグラフがインターネット利用を示している。

テレビ(リアルタイム)視聴において、10~20 代は平均利用時間、行為者率ともに概ね減少

傾向にあり、30 代及び 50 代の行為者率が 80%、90%を割っていることも注目すべきとこ

ろである。60 代における平均利用時間・行為者率は概ね安定した高い数値を維持する形と

なっている。

「テレビ離れ」を起こしている要因としては 10、20 代といった若者だけではないことが分

かる。さらに 50 代の平均利用時間は平成 27 年に比べて、30 時間も減少していることから、

大人世代にもこの状況が進んでいるといえる。インターネット利用においては利用平均時

間に着目すると、全年代増加傾向にある。

また、図 2 は、テレビ(リアルタイ

ム)視聴とインターネット利用状況に

おいて 1 日の時間帯別行為者率を表し

たものである。テレビ(リアルタイム)

視聴は平日休日ともに平成 28 年から過

去 5 年の大きな変化は見られない。細か

く見てみると、平日の朝 7 時台が 5 年前

と比較して減少していることが分かる。

一方で同時間帯のインターネット利用は

図 1 経年(平日)テレビ(リアルタイム)視聴及びインターネット利用の平均利用時間・行為

者率(年代別)(平成 29 年度情報通信白書)

図 2 テレビ(リアルタイム)視聴とインターネ

ット利用状況において 1 日の時間帯別行為者率

(平成 29 年度情報通信白書)

立教大学社会学部メディア社会学科

206

増加しており、朝起きてからネットで SNS の確認をするといった作業を行う人が増えたこ

となどが想定される。インターネット利用、過去 5 年で全体的に利用率がアップしており、

特に平日の 12 時台の行為者率が過去 5 年間で も増大していることが挙げられる。テレビ

(リアルタイム)視聴もインターネット利用も変わらず「ゴールデンタイム」と呼ばれる 19

時~22 時にかけて高い。

後に、テレビのリアルタイム(視聴)とインターネットの並行利用についてのグラフを

取り上げる(図 3)。表 1 は、上記で取り上げた「ゴールデンタイム」と「並行利用」に着

目した図である。(「テレビ(リアルタイム)」では「テレビ RT」と置く。)

平日の全年代でテレビ(リアルタイム)視聴が 43.7%と も高い 21 時台に 10.3%が平

行利用をしている。つまりテレビ(リアルタイム)視聴率のうちの 23.6%が「ながら視聴」

をしていることが分かる。大体、休日の全年代でテレビ(リアルタイム)視聴が 49.5%と

も高い 20 時台に 10.7%が平行利用、「ながら視聴」をテレビ(リアルタイム)視聴者の

21.7%行っている。しかし 21 時台は「ながら視聴」を行っているテレビ(リアルタイム視

聴)行為者は 22.1%と 20 時台より上昇していることが分かる。大体朝から夕方にかけて数

パーセント、ゴールデンタイムにかけて 10%前後が「ながら視聴」を行っていることがわ

かった。この傾向は年代別の並行利用も同様の結果が見られた。また、ゴールデンタイムの

テレビ(リアルタイム)視聴に対しての並行利用(ながら視聴)の割合を見ると、10~30 代

は 30%代もしくはそれ以上の数値の一方、40 代以降は数値が低くなった。そしてこれらの

傾向は過去 5 年大きな変化はない。

また、「ゴールデンタイム」にどちらのメディアも利用している人が多いという傾向に大

きな変化はなく、テレビ(リアルタイム)視聴の 10%後半から 20 パーセント前半、またイ

ンターネット利用の 30%から 大 50%が並行利用していることが明らかである。

図 3 テレビ(リアルタイム)視聴とインターネット利用の並行利用等 時間

帯別行為者率(全年代) 平日休日比較(平成 29 年度情報通信白書)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

207

したがって、「平日」のテレビ(リアルタイム)視聴が減少傾向にあり、総じてインター

ネット利用は増加し、特にお昼時の利用度が近年大幅にアップした。また、「ゴールデンタ

イム」にどちらのメディアも利用している人が多いという傾向に大きな変化はなく、テレビ

(リアルタイム)視聴の 10%後半から 20 パーセント前半、またインターネット利用の 30%

から 大 50%が並行利用していることが明らかである。

4-2 分析結果

本論文第 2 章で提示した仮説を今一度提示したいと思う。

仮説 1:「インターネット利用」をしながら「テレビ(リアルタイム)視聴」する、「なが

ら視聴」は減少傾向にある。

仮説2:また、高視聴率を獲得したスポーツ番組に関するTwitterのツイート数は高くなり、

より多くの人がツイートしている。

仮説 1 は前項による先行研究より、「ながら視聴」の増加度は近年大きな変化がみられて

いないことがわかった。このことより、仮説 1 は否定された。

次に仮説 2 に進む。前項の先行研究を踏まえると、「ゴールデンタイム」に行われるスポ

ーツ番組は視聴率が高く、同時にその試合に関わるツイート数も多いことが予測される。次

に、過去 5 年の年間視聴率トップ 10 に入っているスポーツゲームをピックアップし、その

ゲームに関する単語(「サッカー」「日本」など)を含むツイートを抽出し、これらの相関

関係を調べ、仮説 2 の論証とする。

(平日) H28 並行 H28 テレビ RT H28 ネット H28 並行

/テレビ

H28 並行

/ネット

19 時台 6.1% 34.5% 20.4% 17.8% 30.0%

20 時台 9.3% 41.3% 24.7% 22.5% 33.7 %

21 時台 10.3% 43.7% 27.6% 23.6% 37.3%

22 時台 8.9% 32.5% 26.9% 27.5% 33.1%

(休日) H28 並行 H28 テレビ RT H28 ネット H28 並行

/テレビ

H28 並行

/ネット

19 時台 7.3% 44.6% 19.0% 16.4% 38.4%

20 時台 10.7% 49.5% 25.4% 21.7% 49.3%

21 時台 9.5% 42.9% 26.9% 22.1% 35.3%

22 時台 7.1% 27.9% 23.6% 25.3% 30.1%

表 1 「ゴールデンタイム」時のテレビ(リアルタイム)視聴とインター

ネット利用の並行利用(平成 29 年度情報通信白書より筆者作成)

立教大学社会学部メディア社会学科

208

4-2-1 スポーツ番組年間視聴率(2013 年~2017 年)

ビデオリサーチより、2013 年~2017 年の年間視聴率トップ 10 入りを果たしたスポーツ

番組をまとめたものが表 2 になる。これらの共通点は FIFA ワールドカップ、WBC、箱根

駅伝といった全てスポーツの「ビッグイベント」が高視聴率を集めている。また前節で述べ

たように、これらの番組は「ゴールデンタイム」に行われていることが多かった。しかしス

ポーツ番組においてはあまり「平日」「休日」を左右しないことや「テレビ離れ」があまり

影響していないようにこのデータからは読み取れる。箱根駅伝は 2013 年、2014 年はトッ

プ 10 にランク入りしていないが、毎年 28%前後の安定した視聴率を残している。また、

2014 年にソチオリンピック、2016 年にリオデジャネイロオリンピックが開催されたが、ト

ップ 30 にもランク入りはしていなかった。時差の関係もあり視聴者がリアルタイム視聴を

行うには厳しい条件だったからだろう。2013 年と 2014 年の上位にサッカーワールドカッ

プが入っており、2014 年 2 位と 3 位に関しては時間帯が早朝にも関わらず、高視聴率であ

る。このことから、放送「時間」に絶対的な関係性はなく、オリンピックよりもサッカーワ

ールドカップの方が高視聴率を獲得している。サッカーワールドカップというスポーツイ

ベントの大衆の認知度や人気ぶりも伺える結果となった。

2013 年 放送日 放送局 放送時間 番組平均世帯視聴率(%)

3 2014FIFA ワールドカップ TM アジア地区 終予選 日本×オーストラリア

2013/6/4(火) テレビ朝日 19:30~21:37 (127 分)

38.6

5 2013WBC2 次ラウンド 日本×オランダ

2013/3/10(日)

TBS 19:34~22:04 (150 分)

34.4

9 2013WBC2 次ラウンド 終戦

日本×オランダ 2013/3/12(火)

TBS 19:53~22:48 (175 分)

30.4

10 ソチ五輪日本代表 終選考会 全日本フィギュアスケート選手

権 2013 女子フリー

2013/12/23(月)

フジテレビ 20:12~21:43 (93 分)

30.0

2014 年 放送日 放送局 放送時間 番組平均世帯視聴率(%)

1 2014FIFA ワールドカップ TM 日本×コートジボワール

2014/6/15(日)

NHK 総合 10:59~12:03 (64 分)

46.6

2 2014FIFA ワールドカップ TM 日本×コートジボワール

2014/6/15(日)

NHK 総合 9:45~10:59 (74 分)

42.6

4 2014FIFA ワールドカップ TM 日本×コロンビア

2014/6/25(水)

NHK 総合 5:00~7:20 (140 分)

42.2

6 2014FIFA ワールドカップ TM 日本×ギリシャ

2014/6/20(金)

NHK 総合 6:40~9:15 (155 分)

33.6

2015 年 放送日 放送局 放送時間 番組平均世帯視聴率(%)

3 第 91 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(復路) 2015/1/3(金) 日本テレビ 7:50~14:18

(388 分) 28.3

4 第 91 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(往路) 2015/1/2(木) 日本テレビ 7:50~14:05

(375 分) 28.2

8 世界野球プレミア 12 日本×韓国

2015/11/19(木)

TBS 19:01~22:56 (235 分)

25.2

2016 年 放送日 放送局 放送時間 番組平均世帯視聴率(%)

表 2 年間視聴率(過去 5 年)トップ 10 入りしたスポーツ番組一覧(ビデオリサーチ)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

209

5 第 92 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(往路) 2016/1/2(土) 日本テレビ 7:50~14:05

(375 分) 28.0

6 第 92 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(復路) 2016/1/3(日) 日本テレビ 7:50~14:18

(388 分) 27.8

8 FIFA クラブワールドカップ決

勝 レアルマドリード×鹿島ア

ントラーズ

2016/12/18 日本テレビ 19:20~22:09 (169 分)

26.8

2017 年 放送日 放送局 放送時間 番組平均世帯視聴率(%)

3 第 93 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(復路) 2017/1/3(火) 日本テレビ 7:50~14:18

(388 分) 28.4

5 2017WBC2 次ラウンド 日本×キューバ

2017/3/14(火)

TBS 19:42~22:50 (188 分)

27.4

6 第 93 回東京箱根間往復大学駅

伝競走(往路) 2017/1/2(月) 日本テレビ 7:50~14:05

(375 分) 27.2

10 2017WBC2 次ラウンド 日本×イスラエル

2017/3/15(水)

テレビ朝日 19:08~21:54 (166 分)

25.8

4-2-2 地上波放送スポーツ番組と Twitter

本項では、地上波放送スポーツ番組で高視聴率または注目される大きな大会を訪

ソしている番組を取り上げ、Twitter の関連性を見る。図 4 は Beinsight を利用して

ワールドカップ期間中 2014 年 6 月 12 日から 7 月 15 日までの「サッカー 日本」

の 2 つのワードが含まれるツイートの総計を表したものである。このことからもワ

ールドカップの日本戦が大きく飛び出ていることが分かる。しかし、この大会期間

中 も高い視聴率を獲得した 15 日のコートジボワール戦よりも 25 日のコロンビア

戦の方が約 1 万ツイート多くツイートされている。視聴率の差は 3%弱あるものの高

視聴率なほどツイート数が高くなるという結果は間違いなさそうだ。また翌日の 26

日も 1 万 3000 ツイート以上されている。その日はダイジェスト放送などされてお

らず、「ザック JAPAN ありがとう」「日本代表お疲れ様」といった前日に行われた試

合や今大会を振り返るツイートが多くみられた。このことからも前日に試合を見て

いた人がまたその翌日に再ツイートを行い、一方で試合を見ていない人が試合結果

を知ってなんらかの形で見てツイートするという形に至ったのではないだろうか。

これらからも高視聴率を獲得したスポーツ番組は翌日のツイート数も平常時よりも

ツイート数が伸びていると言える。

立教大学社会学部メディア社会学科

210

また、日本戦が 終戦であるといったビッグイベントの見納め、 後となった試合

や大会の翌日はさらにツイート数が多いことも明らかになった

ではこれらのツイートは一人の人が複数回ツイートしているのか、それとも新規

でツイートする人が多いのか。分析対象は、国際大会や国内の大きな大会に限定す

し、(a)サッカーワールドカップ(b)サッカー天皇杯(c)World Baseball Clasic

(d)プロ野球日本シリーズの 4 つのデータを beinsight を用いて分析する。またツ

イート数にはリツイート数も含めている。

(a)サッカーワールドカップ

2014 サッカーワールドカップで も国内視聴率が高かった対コロンビア戦が行

われた 6 月 15 日(水)の「サッカー 日本」の 2 語を含むツイートを分析する。表

2 にあるように、視聴率は「休日」なこともあり、視聴率は約 45%であった。そして

この日「サッカー」を含むツイートが 128,494 にあったのに対して「サッカー 日

本」の 2 語を含むツイートが 22,128 あり、「サッカー」のツイートの約 20%弱に当

たる結果となった。次に「サッカー 日本」のツイートのうち、重複していたアカウ

ントは 1,796 あり、20330 アカウントによってツイートされていることが分かった。

(b)サッカー天皇杯

国内サッカーのビッグイベントとして毎年元旦に決勝が行われるのが天皇杯であ

る。今回は第 96 回天皇杯全日本選手権大会の決勝が行われた 2017 年 1 月 1 日(日)

の「天皇杯 決勝」の 2 語を含むツイートを分析する。この試合は鹿島アントラー

ズと川崎フロンターレが対戦し、鹿島アントラーズが優勝した。NHK 総合で 13:50

~生中継で放送され、視聴率は平均 7.6%(前半 :6.8%・後半 8.4%)であった。「天皇

杯」を含むツイートが 9186 ツイートあったのに対して、「天皇杯 決勝」と 2 語を

含むツイートが 3992 あった。また「天皇杯 決勝」のツイートのうち、重複してい

図 4 beinsight Twitter「サッカー 日本」2017/6/12~7/15

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

211

たアカウントは 731 あり、3262 アカウントによってツイートされていることが分か

った。さらに も多く RT されていたアカウントは鹿島アントラーズ公式 Twitter ア

カウント(@atlrs_official)による速報で 1060 リツイートされており、その数は 3

分の 1 とかなりを占めていることが分かった。

(c)World Baseball Clasic

野球の国際大会で も盛り上がる大会が WBC である。今回は 2017WBC 大会の

3 月 14 日(火)15 日(水)の「WBC 日本」の 2 語を含むツイートを分析する。

日本は 2 日連続で試合を行い、14 日は対キューバ戦(視聴率 27.4%)、15 日(視聴

率 25.8%)は対イスラエル戦で試合開始時刻は 19 時、どちらの試合も日本は勝利を

おさめた。この 2 試合のツイート数を表したものが表 3 である。この 2 日間に渡っ

て「WBC」というツイートは 3 万以上され、高視聴率を獲得した 14 日のキューバ

戦より、15 日の方がツイート数はやや多い。これは 15 日が 2 次ラウンド 終戦で

準決勝進出をかけた試合であったことから注目が高かったのかもしれない。

また「WBC」を含むツイートが

33 万 以 上 さ れ た の に 対 し て 、

「WBC 日本」の 2 語を含むツイー

トは、計約 6094 され、「WBC」のツ

イートの約 20%強が「日本」も併せ

てツイートしていると言える。(a)

にあったように、このことからもスポーツの国際大会時にされる「○○(大会名)

日本」を含むツイートが約 20%に上ることが今回の分析を通して新たに気づかされ

た。

2 日間で「WBC 日本」ツイートが 6094 あったうちどれくらいのアカウントが

ツイートしているのかを分析したところ、691ツイートが重複アカウントであった。

結果、5406 アカウントが「WBC 日本」ツイート(リツイートも含む)したことが

分かった。また 6094 ツイートのうち 5406 リツイートされていた。

(d)プロ野球日本シリーズ

WBC の次に国内野球のビッグイベントである日本シリーズに注目する。今回は

2016 シーズン日本シリーズ第 6 戦が行われた 2016 年 10 月 29 日(土)の「日本シ

リーズ」を含むツイートの分析を行う。この試合は広島カープに 3 勝 2 敗と優勝王

手をかけていた日本ハムが日本一を決めた試合で視聴率は 25.7%とここ近年では高

い数字だった。「日本シリーズ」を含むツイートは 30,188 であり、そのうちどれだ

ツイート (3/14~15)

3/14 3/15 計

「WBC」 13,282 19,468 32,930

「WBC 日本」 2715 3379 6094

表 3 beinsight 「WBC」「WBC 日本」ツイー

ト(3/14・15)総計

立教大学社会学部メディア社会学科

212

けの人がツイートしていたかを見ると、25021 アカウントであった。「日本シリーズ

広島」の 2 語を含むツイートが 3978 アカウントによって 4400 ツイートされ、「日

本シリーズ 日本ハム」の 2 語を含むツイートが 3346 アカウントによって 3726 ツ

イートされた。

これら 4 つのデータ分析から、ツイート数の約 1 割が重複アカウントによるツイ

ートで 9 割のツイートが各個人によるツイートやリツイートであるという結果とな

った。つまり、一人の人が複数回ツイートしているのではなく、様々な多くの人によ

ってそのスポーツ大会に何かしら関わるツイートが行われているということが言え

るだろう。しかしリツイートのなかには、「エンタメ」的要素を含んだものも見え、

大会そのものに興味や関心があるツイートに限定されてないことや、また、「○○

日本」とツイートした人が次は選手名でツイートしているかもしれないという推測

も可能であり、このような言及にとどめられる。

4-2-3 有料放送スポーツ番組と Twitter

前項では地上波放送され、視聴率も明らかにされているスポーツ大会にスポット

を当てていたが、本項では「有料放送チャンネル」で放送されたスポーツ番組とその

選手や大会に関するツイートを見ていく。今回は 2014 年全米テニスオープン男子シ

ングルス大会の錦織圭選手に関するツイートについて見ていく。この大会は有料放

送チャンネル「WOWOW」が独占放送権を持っていた。しかし錦織圭選手が快進撃

を遂げ、準決勝でノバク・ジョコビッチ選手を破り、マリン・チリッチ選手との決勝

に進出したことから NHK で決勝の録画放送が行われるという異例の事態が起きた

大会であった。

図 5 は「2014 年 9 月 3 日~2014 年 9 月 11 日」に「錦織」とツイートされた数を

表したものである。この 3 つの山は左から、準々決勝、準決勝、決勝となっている。

一番多く「錦織」を含むツイートがされたのは、日本時間 6 日「深夜」に行われた、

準決勝である。その数は 81,193 である。9 日の朝 6 時から開始され、その日のお昼

から NHK による録画放送が放映された決勝戦よりも多いツイート数となっている。

図 5 beinsight Twitter「錦織」2017/9/3~11

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

213

サッカーのワールドカップ並みのツイートがされた。試合が終わったのは日本時間

7 日朝 4 時過ぎである。7 日の日付が変わってから試合終了直後までのツイート数は

約 10,000 ものツイートがされ、試合途中は「錦織やばい」などリアルタイム視聴が

伺えるツイートが見られ、試合終了後には「うそ!!錦織勝った!!決勝」などリツ

イートではなく思い思いの感情をみな「ツイート」していた。この場合 WOWOW 加

入者と視聴者が限定的でかつ深夜に行われているにも関わらず、全体のツイート数

はかなり多い結果となった。有料放送チャンネルによるスポーツ中継は、一人の人

が複数回ツイートする傾向にあるのか、という仮説が新たに出てくる分析結果とな

った。

4-3 結論・考察

ここで仮説をもう一度再提示する。

仮説 1:「インターネット利用」をしながら「テレビ(リアルタイム)視聴」する、「なが

ら視聴」は減少傾向にある。

仮説2:また、高視聴率を獲得したスポーツ番組に関するTwitterのツイート数は高くなり、

より多くの人がツイートしている。

本章第 1 項で、先行研究として「テレビ(リアルタイム)視聴」とインターネッ

ト利用の「ながら視聴」に着目した。19 時から 22 時までの「ゴールデンタイム」が

テレビ(リアルタイム)視聴率も高く、またインターネット利用頻度が高かった。

またネット利用者のうち 大 50%が「ながら視聴」を行っているという結果が出た。

さらに Twitter の国内利用者、インターネット利用者の増加に伴い、「ながら視聴」

をする人が増えているのではないかという考えから立てた仮説 1 は近年変化がない

ことから否定された。第 2 項で過去 5 年の高視聴率のスポーツ番組を調査した。す

ると「ゴールデンタイム」放送されてるものが多かった。しかしサッカーワールドカ

ップは早朝という時間帯でも 30%越えという数字を叩き出し、テレビ放送「時間」

に絶対的な関係や「平日」「休日」「テレビ離れ」はあまり関係しないことが分かっ

た。第 3 項では、高視聴率を獲得しやすいサッカーワールドカップ、サッカー天皇

杯、WBC、プロ野球日本シリーズのツイートを分析した。その結果、1 割が重複ア

カウントであり、残り 9 割の人が何らかの形でツイートしていることが分かった、

ツイート内容を見てみると「リツイート」がとても多く、したがって、高視聴率スポ

ーツ番組は「リツイート」が増えやすい傾向にあると言えよう。しかし「試合速報」

などの直接試合に関わるものやそうでない「エンタメ」的要素を含んだものもあり、

試合内容に興味関心があるかは図るところまでは現段階で到達できなかった。一方、

有料放送チャンネルで「深夜」放送という一見視聴者が限定的であるようだが、ワー

ルドカップ並みのツイートを誇るものもあることが分かった。このような場合は「リ

立教大学社会学部メディア社会学科

214

ツイート」ではなく、自らの感情を「ツイートする」傾向にあるのではないかという

疑問に至った。よって仮説 2 は成立したといえるが、今後への課題点、疑問点が出

てくる結果となった。

5 まとめ、今後への課題

メディアの変遷を見ると、スポーツ発展にやはり新聞やテレビが大きく寄与し、

「テレビ離れ」が進んでいるがスポーツ番組はそれに左右されていないことを調査

結果より改めて感じた。今回の分析では重複を除いた Twitter のアカウント数を分

析するにとどまったが、次回 KHcoder を用いて Twitter のテキストマイニングや共

起分析も行い、その分析により出てきたワードをもう一度 beinsight にかけてみる

ことでさらにツイートを絞って抽出するなどの工夫もしていきたい。また、リアル

タイムに視聴しながらツイートする人がどれくらいいるのかなどの人数や発信回数

などの「ながら Twitter」の状態をアンケートも取り、量的調査結果からも推測して

いく。今後、現在開催されている平昌オリンピックに関するツイートを分析してい

く際に本論文執筆で出てきた疑問点を解消していこうと思う。

参考文献

<日本語文献>

井上俊・菊幸一、2011、『よく分かるスポーツ文化論』、ミネルヴァ書房

北村智、佐々木裕一、河井大介、2016、『ツイッターの心理学:情報環境と利用者行

動』、誠信書房

黒田勇、2012『メディアスポーツへの招待』、ミネルヴァ書房

杉山茂、2011、『スポーツは誰のためのものか』、慶應義塾大学出版会

津田大介、2009、『Twitter 社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』、洋泉社

橋本純一、2002、『現代メディアスポーツ論』、世界思想社

森田浩之、2009、『メディアスポーツ解体<見えない権力>をあぶり出す』、日本放送出

版協会

<ネット資料>

NHK アーカイブスブログ「NHK が伝えたワールドカップ」(2010/6/4)

http://www.nhk.or.jp/archives-blog/genre/sport/50574.html ( 終閲覧日

2018/2/3)

yahoo!JAPAN ニュース「NHK、平昌オリンピックをインターネットで同時配信--4K、見逃しな

ど試験的に提供」(2018/2/1)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180201-35114036-cnetj-sci( 終閲覧日

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

215

2018/2/3)

一般社団法人家庭電気文化会「家電の昭和史」

http://www.kdb.or.jp/syouwasiterebi.html ( 終閲覧日 2018/2/2)

佐野慎輔「スポーツメディアと “メディアスポーツ”」、2017

http://www.ssf.or.jp/Portals/0/resources/academy/2016/pdf/academy_20170123.

pdf(2018/1/31 取得)

総務省情報通信政策研究所、『平成 28 年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関す

る調査』、2017 http://www.soumu.go.jp/main_content/000492877.pdf

( 終閲覧日 2018/2/10)

ビデオリサーチ「年間高世帯視聴率番組 30」

https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/index.html ( 終閲覧日

2018/2/10)

博報堂「若年層で進むライブストリーミング観戦【コンテンツファン消費行動調査 2017

分析リレーコラム】#2(スポーツ編)」(2017/11/22)http://www.hakuhodody-

media.co.jp/column_topics/colum、n/contentsfan_report/20171122_20072.html

( 終閲覧日 2018/2/4)

立教大学社会学部メディア社会学科

216

在日へのヘイトスピーチで構成されるオンラインコミュニティ

要旨

卒業論文の制作に先立って、小規模のデータ収集および分析を行った。論文執筆

用に大まかな方針を決めるためである。実際、テストも兼ねた今回のデータ収集や

分析は、今後の論文執筆の方向性を定める一定程度の役割を果たしてくれそうだ。

今回の調査を通して、リサーチクエスチョンなどもひととおり変更した。今まで

は、一時的ヘイトスピーチと恒常的ヘイトスピーチについて議論する予定だった

が、オンラインのヘイトスピーチによって作られているコミュニティに興味が湧い

た。そのため、こちらを卒業論文のテーマとして設定する。ただ、未だ検討に甘い

部分が残っているので今後詰めていきたい。

キーワード:

在日、ヘイトスピーチ、Twitter、在日特権、オンラインコミュニティ

1. 問題意識と主題

1-1. 問題意識

あなたはヘイトスピーチの報道を見聞きしたことがあるだろうか。身体の不自由な人

や外国に住んでいた人を誹謗中傷する様子は、度々メディアで報道されている。今回取り

上げる、在日朝鮮人らに対して行われるヘイトスピーチも同様だ。横断幕や旗を持ちなが

ら拡声器でヘイトスピーチをする様子はニュースでよく見かける。日本の憲法では、表現

の自由は認められているが、これほどまでに濫用していると問題に値する。表現の自由は、

公共の福祉を前提に成り立つものであり、他人に損害を与えてもなお得られる自由では

ないからだ。

何十年前は、報道や実際のデモを見なければ、目にすることはなかっただろう。しかし、

ネットが普及した現在、この問題はオフラインに限った話ではない。Yahoo ニュースのコ

メント欄はその顕著な例だ。日本で過酷な労働を強いられている中国人が、サイトに掲載

されると、「日本に不満があれば中国に帰れ。」などと理不尽な要求を突きつけられる。こ

のように、要求それ自体の論理は破綻していることが多い。誹謗・中傷する人は、匿名性

の高いネットなら、何を言っても問題にならないと思っているのだろう。61

この匿名性を始め、ネットにおけるヘイトスピーチはいくらか特徴的な性質を帯びて

61 実際には、名誉毀損や恐喝の罪に訴えられるので、問題になる可能性は多分にある。そ

の際、個人も特定されるので、ネットでの暴言は決して安全ではない。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

217

いるのではないか。リアルに人と接するわけではないゆえに、容易に暴言を吐けるように

思えるのだ。また、ネットは拡散力が高い。特に、SNS での広まり方は従来の人づての

比ではない。

これらの性質に触れているうちに、ネットには独自の、見えない団結力があるのではな

いかと感じるようになった。オフラインで仲間ではなくても、フォローとフォロワーの関

係のみで、お互いの情報をやりとりする。また、お互いの主張を確認し、ネット上での主

張をより強固なものにする。これらのやりとりは従来、街頭で行われていたヘイトスピー

チと似ながらも異なる新しい仲間関係だと考えられる。

そこで今回は、ネットで在日を批判するコミュニティについて論じていこうと思う。ネ

ット自体、独自の仲間意識や距離感を持っていることは賛成するが、ネットが昨今のヘイ

トスピーチをどのように形作っているのかはまだわかっていないことも多い。本論文を

もってその一部でも明らかにできたら良いと考えている。

1-2. 主題

ネット上の在日朝鮮人や中国人に向けられたヘイトスピーチ62は新しい形のコミュニ

ティを形成したのではないだろうか。

街頭で行われているいわゆるヘイトスピーチのように、在日に向けられた暴言や非難

はネットでも似た様相を呈している。特に Twitter では、独自のコミュニティを作りなが

らヘイトスピーチがなされているように見える。今回はヘイトスピーチでつながってい

る、新しい形のコミュニティ形成について分析および考察を重ねていく。

1-3. 本論文の構成

本論文は 7 章に分かれている。

第1章は主題と問題意識、およびこの構成解説が該当する。本論文の狙いや執筆に至っ

た経緯、文章の流れを大まかに解説している。

第2章は先行研究をまとめている。本論文では、二本の論文を利用して先行研究をまと

めた。一つは、高史明(2015)が執筆したレイシズムの分類についての著書である。自分よ

り劣っていると見なすことに起因する「古典的レイシズム」と、過剰な権利要求の誤認識

から生まれる「現代的レイシズム」がレイシズムの二分類である。二つ目は、Jonathan

Haidt(2013)による、道徳基盤理論の著書だ。道徳は理性に基づいていると、本論文の読

者は捉えられるかもしれないが、それはこの著書の論理と異なっている。Haidt(2013)に

よると先に感情が動いて、後追いで道徳(理性)が理由づけする、としている。

第3章は二つのリサーチクエスチョンを展開している。一つ目は、「ネット上における

在日朝鮮人・中国人へのヘイトスピーチは、独自のコミュニティを作りながら行われてい

るのではないか」である。社会的に立場の弱い人は在日だけではない。体に障害のある人

62 誹謗中傷のこと。本論文ではヘイトスピーチと呼ぶことにする。

立教大学社会学部メディア社会学科

218

や、見た目に後の残る怪我を負っている人など、実に多様だ。また、彼らもヘイトスピー

チの被害を受けている。他方、ヘイトスピーチをする側だが、在日とこれら他の属性の間

では、形成されているコミュニティは異なるのだろうか、という疑問に思った。二つめは、

「媒体によって作られるコミュニティが異なるのだろうか」である。先ほどは、ヘイトス

ピーチされる対象によってコミュニティが異なるのではないかと考えたが、二つ目では、

媒体によってコミュニティが異なるのか検討している。

第4章は、分析対象の Twitter や、分析に利用したツールを紹介する予定だ。今回の執

筆ではあまり書けないので、割愛させてもらう。計画としては、第5,6章の結果執筆に

あたり、難しそうな Twitter の用語や、分析手法について書く予定だ。

第5,6 章では、分析した結果をまとめるつもりだ。今回は、 終的な論文を書くため

の、小規模調査を代わりにまとめた。双方とも、特定の用語で検索をかけてツイートをフ

ィルタリングしている。そのうえで、第5章では RT 数、ツイート数による定量的な分析、

第6章では RT 数、ツイート数の多いアカウントを分析した定性的調査を行った。

第7章では、本論文を総括する予定だ。今回の経過報告では、今後の論文執筆に向けて

の考察をまとめている。

2. 先行研究

2-1. 古典的レイシズムと現代的レイシズム

高(2015)によると、在日に対するヘイトスピーチは、大きく分けて二つの論理が存在し

ているという。「古典的レイシズム」と「現代的レイシズム63」の二種類である。高はそれ

ぞれのレイシズムを、黒人へのレイシズムと関連づけて説明している。以下はその説明の

要約である。

「古典的レイシズム」は、黒人のケースにおいては道徳的・能力的に劣っていることが

発端にあるという。ここでいう「劣っている」とはあくまで白人から見て、黒人が白人よ

り劣っている64ということである。この、黒人は劣っているとされることに起因するレイ

シズムを「古典的レイシズム」と高は呼んでいる。

黒人・白人の考えを、在日と日本人に当てはめると、在日は日本人にとって、未発達な

人種であるからレイシズムが起こったと捉えられられないだろうか。実際日本人は昔、朝

鮮人に対してきたならしい、だらしない、くさい匂いの、といったネガティブな印象を持

っていた。在日における「古典的レイシズム」とは、このように日本人より劣っているこ

とを理由にしているレイシズムのことを指す。

他方「現代的レイシズム」は「古典的レイシズム」とは違ったロジックを持つ。高によ

れば、「現代的レイシズム」は、(1)黒人に対する偏見や差別はすでに存在しておらず、(2)

63 「象徴的レイシズム」とも呼ばれる 64 黒人の文化は白人と異なっているが、それを劣っていると捉えるのは白人の主観によ

る。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

219

したがって黒人と白人との間の格差は黒人が努力しないことによるものであり、(3)それ

にもかかわらず黒人は差別に抗議し過剰な要求を行い、(4)本来得るべきもの以上の特権

を得ていることに起因しているという。在日に対するレイシズムも、同様だそうだ。つま

り、在日はすでに必要十分な権利を有しているのにもかかわらず、それ以上の権利を要

求・受給していると言われているのだ。これがいわゆる在日特権と呼ばれるそれである。

このような形で「現代的レイシズム」は語られている。

2-2. 道徳基盤理論

レイシズムから少し離れるが、保守派について考えるときは「道徳基盤理論」を踏まえ

ると理解が深まる。道徳基盤理論は、ほかの学者も論じているが、Haidt の理論がもっと

も参考になるだろう。

もともと人間を含む動物は情動で動いている。人間も、気づいていないかもしれないが

例外ではない。しかし、それに気がつかないばかりにロジックでことを進められると思い、

衝突が起きているのだという。そして、情動の一部である道徳概念の背後には、生理基盤

が存在している。これは「汚れ」を排除しようとする感覚だ。掃除をするのも、除菌をす

るのも、整列をするのも、いじめるのも全てこの生理基盤に基づいた行動である。ただ、

この汚れは人によって異なる。これが保守派とリベラル派の違いを生んでいる。

保守派とリベラル派では持っている要素の数が異なる。要素というとわかりづらいが、

味覚のようなものだ。ある人は、辛味が強く欲し、またある人には甘みが強く欲するよ

うに、道徳の要素も人によって欲するものが異なる。まずはリベラル派だが、こちらは

三つの要素を持っている。〈ケア/危害〉〈公正/欺瞞〉〈自由/抑圧〉の三つである。

よりわかりやすく言えば、危険が少なくかつ皆が平等で自由な社会になることを望んで

いるということだ。他方、保守派は今の三つに加え、新たに三つ、合計六つの要素を持

っている。保守派がさらに持っている要素は〈忠誠/背信〉〈権威/転覆〉〈神聖/堕

落〉である。簡単にいってしまえば、伝統的なものや権威あるものを大事にする要素が

道徳に組み込まれているということだ。

この結果がリベラル派と保守派の思想に大きく影響を与えている。リベラル派は忠誠

や権威への執着がない代わりに、平等や救済の要素が強いので、革命を起こし平等にな

ることを望む。それに対し、保守派は神聖なものや権威あるものを大事にしているの

で、今の体制の偉い人を大切にしようと考える。この点で両者の意見は食い違ってしま

う。これがリベラル派と保守派の思想の違いである。

今回の調査では主に保守派を対象にするので、〈忠誠/背信〉〈権威/転覆〉〈神聖/

堕落〉といったキーワードを頭に入れておくだけでも、彼らの考え方がいくらか頭に入

ってきやすくなるだろう。

そもそも道徳とは協力的な社会を構築する、つまり共同体を成立させるための装置で

あると、Haidt は主張する。我々が道徳というと「倫理」に近い意味を想像するのでは

ないだろうか。小学校の授業で道徳の科目を習ったとき、私は人としてあるべき思想を

立教大学社会学部メディア社会学科

220

学んだと記憶している。しかし、Haidt によれば、それは正しいとはいえず、むしろ共

同体が成立さえすれば良いというのだ。

例えば、戦争を例にとるとわかりやすい。日本で殺人を起こせばそれは殺人の罪に問

われ、それ相応の罰を受けるだろう。しかし、第二次世界大戦中、海外で人を殺した際

はどうなっていただろうか。同じ人として心が病んだとしてもそれが罪になることはな

かったはずだ。むしろ、国からはさぞ褒められたことかと思う。同じ殺人であっても、

日本人を殺す場合と、外国人を殺す場合とではわけが違うというのだ。これも「道徳」

を考えると納得がいく。道徳は「その共同体内において」協力的な社会を構築できるよ

うに設計されている。そのため、自国がより協力的になるためには外国の人の命を奪っ

ても問題はないということだ。ヒトラーに賛成していた人たちにとっては、ユダヤ人の

迫害は(本人たちがどのように考えているかは別にして)「道徳」であったし、これを

なすべきなのだと考えられていた。昨今、道徳の授業で、先生の望み通りの回答が得ら

れないと評定が下がってしまうと批判されているが、これも協力的な社会を作るためと

考えると間違ってはいない。道徳とは理性的に正しいことを指すわけではないことを理

解しておくとよいだろう。

3. リサーチクエスチョン

本論文 大のリサーチクエスチョン(以下、RQ)は「ネット上における在日朝鮮人・

中国人へのヘイトスピーチは、独自のコミュニティを作りながら行われているのではな

いか」である。街頭などのオフラインから、オンラインへと表現の場が広がった今日、ヘ

イトスピーチは変化を遂げているのではないだろうか。ただ、この RQ を考えるには、要

素分解した方が、明確な回答を得やすいように思われる。そこで、この RQ をもとに、よ

り具体的な RQ も考えていきたい。

具体的にすると言っても、時代を比較する方法やヘイトスピーチの文言を観察して比

較する方法など、いくつもある。その中でも今回は、ヘイトスピーチされる対象と、ヘイ

トスピーチする媒体を比較する。つまり、「ネット上の在日に向けられたヘイトスピーチ

のコミュニティは、他の誹謗中傷するコミュニティと異なる点がある」と「ネット上のヘ

イトスピーチも、媒体によっては作られるコミュニティが異なるのだろうか」の二つが具

体的な RQ である。

3-1. 在日に向けられたヘイトスピーチのコミュニティは、他と異なる点があるのか

この RQ は、在日のヘイトスピーチコミュニティは何かしらの特徴を帯びているのか、

を問うている。ヘイトスピーチの対象には、在日だけでなく、身体が不自由な人や芸能人

も該当しうる。これらの人と、在日になされる誹謗中傷を比較したときに何かしらの特徴

を見つけられれば、異なる点があると言える。相違点を見つけられれば、なぜその違いが

生まれたのかまで考察していきたい。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

221

3-2. 媒体によって作られるコミュニティが異なるのだろうか

こちらの RQ は、Twitter を Yahoo ニュースのコメント欄、Facebook、5 ちゃんねる

(旧 2 ちゃんねる)と比較したとき、コミュニティ構成にどのような違いが見られるか

というものだ。Yahoo ニュースのコメント欄をなぜ取り上げたかだが、コミュニティ形成

のしやすさが理由にある。Yahoo ニュースでは在日についての記事が掲載されると記事

に対して多くのコメントが寄せられる。このコメントによって、何かしらのコミュニティ

が形成されており、Twitter と比較できるのではないかと考えた。Yahoo ニュースだけで

なく、できれば Facebook とも比較したいと考えている。日本ではお堅い印象を持たれが

ちな Facebook と、より軽い気持ちで投稿されやすい Twitter ではどのようにコミュニテ

ィの違いがあるのかは、双方の特徴を考えるうえで、有効だろう。5ちゃんねるは匿名性

が高く、独自の言語やコミュニティが在日関係とは関係なく構築されている。そのため 5

ちゃんねるも比較対象として用いたい。なお、Instagram は在日を批判したヘイトスピ

ーチはあまりみられないので、今回は比較の対象として用いない。その他の SNS は投稿

の母数が少ないので今回の研究には適さず、対象から除いた。

3-3. 明らかにしたい論点

RQ1「ネット上における在日朝鮮人・中国人へのヘイトスピーチは、独自のコミュニテ

ィを作りながら行われているのではないか」においては、それぞれのコミュニティの形を

明らかにしていきたい。できれば、それぞれのコミュニティを図示できる状態までまとめ

たい。そうすれば、どの点が異なるか、筆者も読者も理解が容易になるだろう。なお、今

回の報告で行ったデータ収集と分析により、在日を取り巻くコミュニティの形はあらか

たつかめた。そのため、これを基準に他の界隈のコミュニティも調査していけたらベスト

だ。

RQ2「ネット上のヘイトスピーチは、媒体によっては作られるコミュニティが異なるの

だろうか」では、まずそれぞれの媒体がコミュニティを形成しているのかを調査しなくて

はならない。Twitter 上にコミュニティが存在することは今回の報告で明らかにできたが

(詳細はこれ以降で解説)、他の媒体では存在が明らかではない。そのため、コミュニテ

ィの存在を確認したのち、コミュニティの形について考えていく。Twitter と Facebook

は両方とも似たようなインターフェイスをしているものの、Yahoo ニュースのコメント

欄や 5 ちゃんねるはそもそものコミュニケーションの方法が異なる。そのため、比較を

する以前に、比較ができるのかについても検証する必要がある。

立教大学社会学部メディア社会学科

222

4. 分析に使うツールや手法(双方の RQ に共通する部分)

4-1. 今回使用したデータ

Twitter における 2018/1/1〜15 の投稿のうち、「在日」「在日朝鮮人」「在日韓国人」「在

日コリアン」「在日中国人」を含む投稿を取得した。合計 2 万件以上の投稿があったが、

毎日 1000 件、合計 1 万 5000 件の投稿をランダムに抽出した。

抽出や分析は、このデータを投稿したアカウントごと、本文の引用 RT されているアカ

ウントごと、に行った。

4-2. 次回分析時に気をつけたい点

検索のキーワードは「在日」「朝鮮人」「韓国人」としていたが、「在日」「在日朝鮮人」

「在日韓国人」「在日コリアン」「在日中国人」と変更したほうが良いデータを取得できそ

うだ。「朝鮮人」や「韓国人」をキーワードにしたとき、調べたい情報とずれたデータが

混ざってしまうからだ。たとえば、「韓国人」だと、韓国人のアイドルやドラマも、取得

してしまう。この現象を避けるためには、「在日」を含めたキーワードが好ましいと考え

られる。

5. 量的な分析

5-1. アカウントあたりのツイート数

まずは、1アカウントあたりのツイート数を分析した。取得した期間において、1件の

み投稿したアカウントが 6792 個、2 件投稿したアカウントが 1215 個、というに具合に

カウントし、表に起こした。

図 5-1 アカウントあたりのツイート数

ここから、頻繁に投稿するアカウントとそうでないアカウントで極端に分かれている

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

223

ことがわかる。大半のアカウントが 15 日間で1回しか投稿していないのに対し、1 日1

回以上投稿しているアカウントもある。

このことから、ネットで在日を叩く人は一部に偏っているといえるようだ。もちろん、

一人で複数のアカウントを持っている可能性はあるので、断定はできない。しかし、一人

で数十、数百のアカウントを管理しているとは考えにくいので、おそらくオンラインのヘ

イトスピーチは少数の人によってなされているといえるだろう。

今回は、15 日分しか集計しなかったが、より長期間集計すると、顕著な差が生まれそ

うだ。つまり、大半の人が 1,2 回しか、「在日」「在日朝鮮人」「在日韓国人」「在日コリア

ン」「在日中国人」の語で投稿していないのに対し、数人、十数人が何十もの投稿をして

いる、ということだ。

5-2. アカウントあたりの RT 数

続いて、アカウントあたりの RT 数を分析した。RT 数を調べるにあたって、「RT」と

いうキーワードの使われている投稿をカウントした。そのため、実際の RT 数とは、誤差

があるかもしれない。今回の調査は、本調査ではなく、概算でも問題ないので、このまま

分析を進める。

図 5-2 アカウントあたりの RT 数

この分析により、RT を通じて投稿しているケースは非常に多いことがわかった。数値

で見ると、15,000 件中、12,030 件は RT ないし引用 RT であった。これは、投稿全体の

8割にも及ぶ。

また、ツイート数同様、RT でも、ごく一部のアカウントが集中的に RT されていた。

半分以上のアカウントは 15 日間で1回しか RT されていないのに対し、100 回以上引用

RT されているアカウントが 15 個ある。

さらに興味深いのは、値の偏りがアカウント別のツイート数より大きいということで

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224

ある。15 日間、1アカウントで投稿された 大の数は 56 件であるのに対し、RT されて

いる数は 953 件にまで達する。

今までは、1 アカウントが大量のツイートをするために、ヘイトスピーチは広まってい

ると考えていた。しかし、どうやら少数のインフルエンサーがおり、その周りにいる多く

の人が RT するため、ヘイトスピーチは広まっているように見える。100 件以上に RT さ

れているアカウントは 15 こもあることが、この説を補足する。どちらにしても、この辺

りは本格的にデータを収集したのち、再度検討する余地がある。

6. 質的調査

6-1. ツイート数の多いアカウントを分析

先ほど、一部のアカウントに限って、大量投稿している議論をした。ここでは、そのア

カウント上位 10 個をより詳細に見ていく。具体的には、10 個のアカウントが期間中に投

稿した本文を見ていく他、2018 年2月のツイートを実際の Twitter で検索した。どれく

らいの頻度で、どのような投稿をしているのか、またフォローやフォロワーの人数はどれ

ほどかなどを調べた。以降のデータは 2018/2/12 現在のものである。

表 6-1 計測期間中にツイート数の多かった人の概要

アカウント名

ツイー

ト数

フォロ

ー数

フォロ

ワー数 特徴

shaneyotuya 16196 1363 996

慰安婦の問題は解決したのになぜまだ続

けるのかという姿勢。RT しつつ自身の

コメントを乗せることが多い。

uyobousan 71030 1 5 bot。フォロワーも5人のみ。

J_Bond007Mi6 12062 2108 1804

日本の利益をかなり重要に考えている。

単なる RT が多い。とにかく朝鮮人を批

判する。

gekkou3569 491974 30691 28092

在日に限らず、韓国人を全面的に批判し

ている。オリンピックに絡めた批判も多

い。繰り返して同じ投稿を RT。

tyo21sky 39912 8965 21539

朝鮮人の批判が強い。日本はなぜ野放し

にしているのかなど。自分で長文のツイ

ートを作り、リツイートしている。

SIRIUS_ABENGER 39300 0 256

bot。特定のアカウントを攻撃する。フ

ォローやリツイートをひたすら促す

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

225

Hudomyho_Yubo 192106 1601 3527

自分へのリプをリツイートする傾向にあ

る。フォロワーも 2 千人を超えているの

でそれなりにリプが飛んでくる。

gomat147 518881 2020 4184

在日のみならず、外国人移住者、皇室、

GHQ など幅広いものを批判する。bot

ということもありツイート数が多い。

skZy7N8pZCOhFFs 117172 579 1197

日本を大事にする傾向が見られる。フォ

ロワーのツイートをリツイートすること

が多い。よくリツイートするアカウント

もある。

sankazumin 18542 560 531

他人のアカウントをリツイートする。自

分へのリプでなくてもリツイートする。

上位 10アカウントを詳細に見たが、これらの中だけでも、多様な投稿形態が見られた。

そこで投稿の仕方を大きく分類してみた。ここでは、4 つに分類してみる。同一アカウン

ト内で複数属す場合もあるが、大まかにはこのようになっている。

1. ネット記事やブログを RT するアカウント

2. 批判をひたすら繰り返す bot のアカウント

3. 他人のリプライを RT するアカウント

4. 自分の投稿を RT するアカウント

1 は Yahoo ニュースやまとめサイトを RT し、報道を伝えるアカウントである。RT し

た後に、自身のコメントを載せる場合と載せない場合があるが、いずれにしても在日関連

でネガティブな印象を持たせる記事・ブログが多かった。

2 はいわゆる bot で、似たような投稿を繰り返しているアカウントである。bot なので

ひたすら似通った投稿をしているのだが、gomat147 のようにフォロワーが多めのアカウ

ントもあった。このアカウントのみをみて言及するのであれば、サイトの記事引用や丁寧

に書かれた文章があると bot であっても一定数のフォロワーを獲得できるのかもしれな

い。

3 は他人がしたリプライを RT するアカウントである。これは RT する側のアカウント

にリプライをしてきたものもあれば、他人へのリプライを RT するパターンもある。自分

の意見ではなく、多くの人の意見をフォロワーのタイムラインに流すことで、多くの人が

似たような意見を持っているというイメージを抱かせる意図もありそうだ。

4 は自分が過去にした投稿を何度も RT するアカウントである。bot ではないながらが、

自分の投稿を再投稿しているので、半自動的である。フォロワーからすれば bot 同様、同

立教大学社会学部メディア社会学科

226

じ投稿が何回も流れてくるのであまり嬉しくないのかと思いきや、調査したアカウント

ではかなりのフォロワー数が存在していた。どのような理由でフォロワーが多いのかは

詳しく調査してみなくては検討もつかない。

今回調査したアカウントでは、上のような特徴が見られた。それぞれにどのような意図

があってその方式で運営されているのかは、調査の余地が多分に残っている。ただ、どの

タイプにも共通しているのが、RT を利用している点だ。調査していないので詳細は不明

だが、今回調査したアカウントは Twitter 全体の平均 RT 数以上に RT が多いように思え

た。全体の 80%は RT が本文中に入っていることから、相当数のアカウントは他人の投

稿やサイトを利用して自分の意見を述べているように思える。これは、エビデンスを求め

ているからなのか、自分に関係ない事柄だからなのかは不明である。しかし RT が多いと

いうことは一つの調査ポイントになる。

6-2. ツイート数の多いアカウントを分析

先ほどと同様、RT されているアカウント上位 10 個を個別に調べてみた。アカウント

の中にはアカウント名が変わってしまったのか検索結果に引っかからなかったものもあ

った。それらのアカウントに関しては、取得できたデータのみに基づいて特徴を記した。

表 6-2 期間中に RT された数が多いアカウントの概要

アカウント名

ツイー

ト数

フォロ

ー数

フォロワ

ー数 特徴

SonmiChina 3877 799 14186

この期間にたまたまリツイートが多く上位

にきた。しかし日常的にそれなりに RT や

いいねはされている。

tyo21sky 39912 8965 21539

朝鮮人の批判が強い。日本はなぜ野放しに

しているのかなど。自分で長文のツイート

を作り、RT している。

katsuyatakasu 75553 271 328821

高須クリニックの高須克弥。在日と揉め事

をおこした件で RT された。

hoshusokuhou 22629 8262 57576

アカウント名が保守速報。保守的なネット

ニュースをまとめている。

JPN_1st - - -

アカウントが見つからず。取得した本文か

らは在日を批判する文言が見られた。

no_payochin 3041 3816 12664

反日勢力と戦うとプロフィール欄に書いて

ある通り、在日を強く批判している。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

227

kaminoishi 25142 595 49149

日本贔屓が見られる。そのため、反日的な

姿勢やマスコミは批判する。RT されてい

る。

No_namapo 11287 4113 4075

在日をわかりやすく批判している。記事や

動画にコメントする形で批判している。

panda3091 249360 10364 30329

在日へ厳しめな言葉で批判している。一種

のプロパガンダのようにも見える。

no_jcp - - -

アカウントが見つからず。取得した本文か

らは在日を批判する文言が見られた。

いわゆるバズで RT の数が増加した SonmiChina と katsuyatakasu は除いて考える。

先ほど、ツイート数上位 10 アカウントで調査したアカウントより、全体的にフォロワー

数が多いのがまず見てとれる。RT されるからにはそれ相応のフォロワーが必要なことは

確かなようだ。全体を通して気になったのは、アカウント名が個人名ではないことだ。保

守派や在日反対の姿勢を見せるアカウント名は多かったものの、本名やニックネームの

ようなアカウント名はほとんど見られなかった。これは、フォロワーを増やす際に、保守

派や在日批判をする人と一目でわかるようなアカウント名に設定している意図があるの

ではないだろうか。また、先ほどとは異なり、bot は見られなかった。このことから、bot

は投稿数を稼げるものの、RT はされにくいということが予想される。反対に手動で動か

しているアカウントは投稿数を稼げないとしても投稿の質が高くなるので、RT されやす

いということなのだろうか。

7. 今後の方向性について

7-1. 今後の方針

今回のデータ収集および分析でいくつかの方針が定まった。

まずは、データを取得する際のキーワードを「在日」「在日朝鮮人」「在日韓国人」「在

日コリアン」「在日中国人」にするということだ。これらに設定したことで不要な投稿を

回避しつつ、有用な投稿を取得できる。

また、ツイート数より RT されているかどうかを中心に分析したほうが、より影響力の

あるヘイトスピーチしているアカウントに遭遇できそうだ。

分析から、ツイート数が多ければ影響力があるとは限らないということもわかった。恒

常的にヘイトスピーチをしていても、そもそも人目に触れられないので、影響力はないと

考えられる。それよりもむしろ、投稿数は 1 日に1回程度だとしても人間の手による人

間味のある在日批判は RT されやすく、影響力を持ちやすいように感じた。これらのこと

から、影響力のあるヘイトスピーチをする人を探す際にはツイート数ではなく、RT され

立教大学社会学部メディア社会学科

228

ている数を参考にした方が、有効であろう。また、今回は利用しなかったが、RT されて

いる人を探す際には、蜘蛛の巣状になっている図を参考にするのが良いだろう。どのよう

に RT されているかが一目でわかるため、簡単に影響力のあるアカウントを発見できると

思われる。

そして、データの取得はまとめて行ったほうが効率的かつ網羅的に行えるということ

だ。次回の卒業論文執筆時には、すでにデータがある状況から始められるようにしたい。

1 年分の投稿データがあれば、不自由なく分析できるはずだ。

7-2. 今後、卒論に仕上げるまでにクリアすべき課題

今回、私のパソコンで gephi を利用して分析しようとしたが、不具合を起こして利用で

きなかった。また、KHcoder は Windows 用ソフトなので、そもそも利用できない。分析

に利用するソフトが軒並み使えない状況は問題である。以前使用していた Windows OS

の PC をなんとか使用できる状態にするか、大学でその都度 gephi などをインストール

するかしなくてはならない。この問題は分析をする以前の問題なので、早急に解決したい。

Yahoo ニュースのコメント欄はそもそもコミュニティが存在しているのかという問題

がある。正直まだ、Yahoo ニュースはまだ手をつけられていないので、どのようにコメン

トされているのかを把握し切れていない部分はある。そのため、Yahoo ニュースが有効に

使えない場合は Facebook および 5 ちゃんねると比較することとなる。

その Facebook と 5 ちゃんねるもどのように調べれば良いかがまだあまり検討をつけ

られていない。beinsight でデータは扱われているので収集自体は問題ないと思われる。

ただ、どのような手法で分析をすればいいかが見当をつけられていない。Twitter 同様に

本文とアカウントを分析すればいいのか、5 ちゃんねるはスレッドごとに何かしらのグ

ルーピングをしなくてはならないのかなど、調査しながらその都度検討していきたい。

8. 参考文献やネット資料

参考文献

高史明,2015,『レイシズムを解体する』勁草書房.

Jonathan Haidt, 2013, The Righteous Mind: Why Good People Are Divided by Politics

and Religion, Vintage. (=2014,高橋洋訳『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を

超えるための道徳心理学』紀伊國屋書店.)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

229

インターネット利用は子どもたちを「ダメ」にするのか

要旨

本論文は、インターネットと常につながる今日の中学生や高校生が、インターネット利用

により、「ダメ」になったのか、という問題を、アンケート調査の分析や、文献、意見投稿

サイトの比較なども参考にしながら、インターネットの利用は、「学力低下」や「コミュニ

ケーション能力低下」などの、負の側面だけであるのか、その影響は、すべての子どもに当

てはまるわけではないはずであり、その差はどこから生まれてくるのか、などについて迫っ

ていく。今回は量的調査で分析を行ったところ、インターネットの負の部分が明らかになる

ものが多かったが、今後の詳細な量的調査、加えて質的調査を行うことで、 終的に、イン

ターネットは負の側面だけでなく、家庭環境、本人の資質、周囲の状況別に「スマホ依存に

なる子どもたちの特徴」は定まっていると仮定し、そのような状況にならないような大人の

協力があれば、インターネットと子どもたちの未来を考え直すきっかけとなるということ

を明らかにしていきたい。

<キーワード>

子ども、インターネット、スマホ、学力、コミュニケーション、子どもと大人

1 はじめに

本研究では、インターネットと常に関わるであろう現在、そして未来の子供たちが、イン

ターネットと常につながることにより、学力やコミュニケーション、ストレスなどの変化が

あるのかを追究していく。その中でも特に、子供達の中でのコミュニケーションの違い、ス

トレスの感じ方の違い、インターネットトラブルに合う子、合わない子の違いなど、子供た

ちの中でもその違いはどこから生まれるのかということに疑問を持ち、調べていこうと考

えた。

調査の中では、現代の子供たちの中の差異のほかに、過去のインターネットをあまり利用

していない時代と、現代の子供たちとの違いを、インターネット以外の、テレビなどの他メ

ディアによる影響をもとに述べていくことを通じて、メディアの変遷は子供たちにどのよ

うな変化を与えていったのかを調べることで、今後インターネット利用がさらに低年齢化

する未来において、その変化にどう対応していくのかまで考えていきたい。

2 問題意識

2016 年、小学生は 27.0%、中学生は 51.7%、高校生は 94.5%の割合でスマートフォンを持

立教大学社会学部メディア社会学科

230

っているという時代になった。(内閣府 青少年のインターネット利用環境実態調査)65小

学生、中学生は、2 年前の 2014 年に比べて、10%以上割合が増えたという結果が出ている。

私のバイト先の塾での休み時間でも、スマートフォンをいじって時間をつぶしている学生

が多い。その中で、スマートフォンでゲームをすることによって生まれる新しい交友関係を

見た。ネット利用の拡大によって、「スマホを見すぎたことにより学力が低下した」、「スマ

ホばかり見て、コミュニケーションが取れない」、など、スマホに対する負の意見が多いよ

うに感じるが、このようにスマホを通じたコミュニケーションがあるというのに気づいた。

そして、このような交友関係の生まれ方について疑問に思った。それは、ネットにより一人

の時間が増える子と、そこからコミュニケーションをとれる子では何が違うのだろうとい

うものである。ここから、コミュニケーション能力以外でも、子供たちのどのような面が、

スマホ利用の影響の受け方の違いに結びつくのかを調べていきたいと思った。そもそもイ

ンターネット利用の拡大、スマホの普及は悪影響ばかりが語られているが、それは利用の仕

方を教えることなく与えた大人にも理由があるのではないか。これら「大人の無知」という

点でも研究をしていこうと考えている。

3 先行研究

3-1. 仙台市、「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」、2015 年、2016 年

まず、図 1 を見てほしい。これは、スマホの利用状況と成績の関係性をグラフに表したも

のである。(仙台市 学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト)ここには「スマホを 1

度でも長い時間使い続けると、成績は上がらない」ということが示されている。

次に図 2 を見てほしい。これは、勉強中のアプリの利用状況と、成績の関係性をグラフに

表したものである。ここでは、「どんなアプリを使っていても、勉強中に使っている場合は

成績が下がる」と記されている。

しかしこの調査は、調査方法やデータなど、調査の詳細が記されていない。そのような点

から調査として不十分であるとも考えられるが、一つの世論として先行研究とする。

~先行研究へのレビュー~

まず、図 1 のチラシで述べられている、「長い時間スマホを使っていた人は、やめても成

績は下がる」という点に疑問を持った。まず、この「やめた人」の中には、今まで長時間使

っていて、勉強をしてこなかった子どもが、やめた直後にアンケートに答えた可能性がある

ということだ。テストの直前まで長時間スマホを利用しており、直前だけ使うのをやめた子

どもも、利用をやめたに含まれているとすれば、この結果は間違いなく正しいとは言い切れ

ないのではなかろうか。

65 実施時期:平成 28 年 11 月 5 日~12 月 11 日

対象:①青少年調査満 10 歳から満 17 歳までの青少年(5,000 人)

②保護者調査左記青少年の同居の保護者(5,000 人)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

231

次に、図 2 のチラシで述べられている「どんなアプリでも利用すると成績が下がる」とい

う点に疑問を持った。確かに、このチラシで述べられているゲームなどのアプリの利用は、

集中力に支障をきたすと考えられるが、それを「どんなアプリでも」と言い切るのはよくな

いのではないか。今日では、辞書アプリや公式集、英語のプレゼンを聴くことでリスニング

対策になるものなどの、勉強の補助となるアプリが展開されているほか、ノートやプリント、

暗記カードをデータ化して利用できるものなど、デジタルネイティブたちの勉強をサポー

トする機能が出てきている。このチラシで述べられているのはそのようなことではないと

言われればそれまでだが、「スマホを賢く、効果的に使う必要がある」今日の子どもたちに、

頭ごなしに「アプリはよくない」としかりつける親は少なくないと思われる上に、このよう

な国が関わる期間が、スマホのダメな部分だけを伝えるだけで、どのような対策があるのか

を伝えないというのは問題なのではないだろうか。

図 1 スマホを一度利用すると、利用をやめても成績は下がるというチラシ

出所:仙台市、「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」(2015)市民向けチラシより

立教大学社会学部メディア社会学科

232

図 2 アプリ利用は成績低下につながるというチラシ

出所:仙台市、「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」(2016)リーフレットより

3-2.石川結貴、『子どもとスマホ―おとなの知らない子どもの現実』、花伝社、2016 年

石川は、この本の冒頭に、子どもたちは今日のインターネット環境に翻弄されており、

例としてオンラインゲームには、子どもたちが「やめられなくなる」仕組みがあると述べ

ている。そのような環境の中で、何も考えずにスマホを与えたのはおとなであるのに、た

だ「子どもが悪い」と決めつけるのは、責任から逃れているのではないか。しかしおとな

の方にもスマホのことがわからないというような困惑がある。このような状況を抜け出す

ために、おとなと子ども、双方の立場から考えたネット・スマホの問題について考えてお

り、 後には、子どもたちをネット・スマホから守るための具体的な方法が記されてい

る。それは以下の 5 つである。

①紙チェック

「子どもがスマホを欲しい理由」「親がスマホを持たせるので心配なこと」をお互いに書

いて、見せ合い、正負の面両方を理解する。そのあとは子どもにルールを作らせ、紙に書い

てもらう。紙に書きだすことで、自覚を促すことになる。

②フィルタリング・ペアレンタルコントロールの利用

ユーザー側が利用制限を設定するシステム。子供が有害サイトに知らぬ間に繋がったり、

App 内課金などを無断に行えないようにできるため、安全性が高くなる。

③ルール作りのポイント

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

233

親子で十分話し合うことが大切である。親が一方的に押し付けたルールでは、子どもの実

情とかけ離れる可能性がある。自らが「守れそうなルール」を設定することでスマホの使い

方に関して自覚と責任を持つようになる。ペナルティも子ども自身に考えさせること。それ

でも守れない場合は、「スマホの料金を支払わない」という方法がおすすめである。(④の見

える化につながる)

④見える化

1.お金が見える

毎月のスマホの料金表を必ず見せる。自分のスマホ利用料金を自覚することにより、使い

過ぎなどを自身で把握できる。

2.支払ってくれる人が見える

親がどう働き、どれほどの収入があり、どれほどの支出があるかを伝える。「今月はいく

ら使った。このお金は親が支払っている」という自覚を持てばおのずとルールを守るように

なる。

3.自分の利用状況が見える

スマホの利用時間をお金に換算するといくらになるか、スマホの利用時間を勉強や読書、

スポーツなどに費やしたらどれくらいの成果が出るのか、などに対して、具体的な数字や時

間を示すことで、自分のスマホやネットの利用状況本当の意味で把握し、自身の行動を考え

るようになる。

⑤加害者・被害者にならないための教育

加害者にならないための教育を徹底するのはもちろん、被害者にならないための教育も

重要である。基本的な注意点は以下の 5 つである。

1. インターネットの情報をそのまま信じない。

2. インターネットは世界とつながる「公共の場所」であることを自覚して、現実世界で

のルールをインターネット利用時にも意識する。

3. トラブルに合わないように、自分にできることは確実に実行し、自分の身は自分で守

る。

4. 自分が作った文章で人を傷つけていないか、勘違いさせないか、など考える時間を持

つ。

5. 問題が起こったときに、適切な意見やアドバイスをもらえるような、信頼できる大人

とつながる。

~先行研究へのレビュー~

この先行研究を読んで、スマホ利用でトラブルに合う子供は、本人が悪いことは間違い

ないが、ただ、子どもだけのせいなのではなく、まだ未熟な子供たちに、警戒心なしでス

マホを与える大人にも問題があることが分かった。それに伴い考えたのが、ルールをきち

んと定めている家庭では、このスマホ利用に対する意識の面で他の子と異なっているた

め、きちんとスマホ利用にけじめをつけられている。つまり、「スマホ利用による悪影響

立教大学社会学部メディア社会学科

234

(学力低下やスマホトラブル)を受けていないのではないか」ということである。ここ

で、ルールを決めている家庭はスマホトラブルが少ないということを詳しく調査すること

ができれば、今日の子どもが「ダメ」なのではなく、大人も「ダメ」だということになる

し、より、ルールの大切さを実感できるのではないかと考えた。

4 仮説

以上の先行研究と、それを踏まえた考察から、子どもとスマホに関するいくつかの仮説

を立てた。

① スマホを一度利用したら学力は低下するということから、スマホを持ち始めた時期が

早い子供の方が、成績が低い。

② スマホトラブルにあったことがある子どもは、親とスマホのルールを決めずに利用し

ている。

③ インターネットは悪影響を及ぼすという意見が広まっているが、相互同意によるルー

ル決めや、利用方法を考えることで、子供の知識を増やしたり、学力向上につなが

る。

④ インターネットの利用時間が長い子どもほど、現実でのコミュニケーションが乏し

い。

上記のほかにも、コミュニケーションに関する仮説を何個か立てたいと考えている。

5 調査方法

上記の仮説に対して、調査方法・調査理由は以下のものを考えている。番号は仮説のも

のと一致している。

① 高校生 6289 名を調査対象に行った、2014 年のベネッセの調査のアンケートデータを

分析する。アンケート内の該当項目を、SPSS を用いて行った分散分析の結果から考

察していく。その結果から、相関性が見られ(5%水準)、有意性が認められた場合

は、スマホを持ち始めた時期が早い子供の方が、成績が低いと考えられる。

② 上記のアンケート方法に加え、小学校・中学校に通う子供を持つ親にアンケート調査

を実施。スマホ購入時にルールを定めたか、それはきちんと守られているか、それに

伴い、勉強時間やコミュニケーションに問題が表れているかをインタビューしたい。

先行研究で述べられていたように、ルールを定め、親が子どものスマホ事情を理解し

ていれば、スマホトラブルは少ないと考えられる。

③ 上記のアンケート方法に加え、インターネット利用による勉強を推奨している学校に

インタビュー、もしくは記事を探し、ICT 教育が生徒・先生にどのような影響を及ぼ

しているのか調査する。学校教育以外にも、スマホの勉強アプリのレビューや、利用

結果なども調査していきたいと考える。そこから、「アプリ利用は子供に悪影響だ」と

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

235

言い切っていることは、必ずしも正しいわけではないということを結論付けられるよ

うにする。

それに加え、ゲームアプリに関しての調査も行いたい。単に「ゲームアプリ」と一

つにまとめられているが、中には成長に良い影響を与えるアプリもあるだろうと考え

る。そのゲームアプリのレビューや、利用者の声を「発言小町」などの投稿サイトか

ら、意見を洗い出し、ここからも単純に「スマホアプリは子どもに悪影響だ」と述べ

ることが必ずしも正しくはないということを結論付けていきたい。

④ 上記のアンケート方法を利用。コミュニケーションに関する調査は、ここではネット

利用の負の部分の検証を行うが、その負の部分をどうすればなくすことができるか、

そしてネット利用によるコミュニケーションの良い点を今後の研究で明らかにしてい

きたい。

6 分析

6-1 スマホを持った年齢が低いほど、学力は低いのか

ここでは①の仮説を調査していく。表 1を見てもらいたい。こちらは 2014 年度ベネッセ

調査アンケートの中から、初めてスマホを持ち始めた年齢と成績の相関性を検討するため

に SPSS で作成した、クロス集計表である。このクロス集計表において、説明変数を、「ス

マホ利用開始年代」とし、具体的には、①=小学校、中学校まで、②=高校、③=大学以降

と変数とした。そして、目的変数を「成績」とし、具体的には、成績が①下、②中、③上と

した。この表の成績の上の結果を見ると、スマホを持った時期が小学生時代より、中学生時

代の子供のほうが成績は上のように見えるが、高校生になってから持ったこのほうが、成績

が上の子は少ない。次に表 2 の有意確率の数値を見てもらいたい。有意確率は、0.099 で、

有意水準 5パーセントとした場合、有意ではない、つまり関連はほとんどないと言える。結

論として、「スマホを持った年齢が低いほど、学力が低い」という仮説は否定された。

立教大学社会学部メディア社会学科

236

表 1 スマホ利用開始時期と成績のクロス表

表 2 スマホ利用開始時期と成績 カイ 2乗検定

6-2 親とスマホのルールを決めて利用している子は、学力が高いのか

ここでは②の仮説を調査していく。仮説では「スマホトラブルとの相関性」を述べている

が、ここではその中でも「学力低下」に関して見ていく。表 3を見てもらいたい。こちらは

2014 年度ベネッセ調査アンケートの中から、スマホを利用する際、「利用時間を 1時間以下

にする」というルールの有無と成績の相関性を検討するために SPSS で作成した、クロス集

計表である。このクロス集計表において、説明変数を、「『利用時間を 1時間以下にする』

合計

下 中 上

度数 14 10 8 32

Q22_2利用開

始時期:ス

マホ の %

43.8% 31.3% 25.0% 100.0%

度数 544 447 490 1481

Q22_2利用開

始時期:ス

マホ の %

36.7% 30.2% 33.1% 100.0%

度数 1451 1007 1137 3595

Q22_2利用開

始時期:ス

マホ の %

40.4% 28.0% 31.6% 100.0%

度数 2009 1464 1635 5108

Q22_2利用開

始時期:ス

マホ の %

39.3% 28.7% 32.0% 100.0%

成績合計

小学生時代

中学生時代

高校入学以降

スマホ利用

開始時期

成績

合計

値 自由度

漸近有意確

率 (両側)

Pearson の

カイ 2 乗 6.665a 4 0.155

尤度比 6.725 4 0.151

線型と線型

による連関 2.746 1 0.097

有効なケー

スの数 5108

カイ 2 乗検定

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

237

というルールの有無」とし、具体的には、①決めていない②決めているとした。そして、目

的変数を「成績」とし、具体的には、成績が①下、②中、③上とした。次に表 4の有意確率

の数値を見てもらいたい。有意確率は、0.232 で、有意水準 5パーセントとした場合、有意

ではない、つまり関連はほとんどないと言える。よって、「1 時間の利用制限を定めている

子のほうが、学力が高い」という仮説は否定された。

表 3 スマホ利用ルール(利用時間を 1時間以下にする)の有無と成績のクロス集計表

表 4 スマホ利用ルール(利用時間を 1時間以下にする)の有無と成績 カイ 2乗検定

6-3 スマホで勉強アプリを利用することと、学力低下に相関関係はあるのか

ここでは③の仮説を調査していく。仮説③の、「利用方法を考えることで、学力向上につ

ながる」という部分を「スマホアプリの中でも、勉強アプリの利用であったら、学力低下に

は結びつかない」という仮説に置き換えて調査をしていく。表 5を見てもらいたい。こちら

は 2014 年度ベネッセ調査アンケートの中から、勉強アプリ、その中でも単語記憶のアプリ

の利用と成績の相関性を検討するために SPSS で作成した、クロス集計表である。このクロ

下 中 上

度数 2125 1525 1693 5343

Q37[利用

ルール]_1時

間制限 の %

39.8% 28.5% 31.7% 100.0%

度数 240 189 226 655

Q37[利用

ルール]_1時

間制限 の %

36.6% 28.9% 34.5% 100.0%

度数 2365 1714 1919 5998

Q37[利用

ルール]_1時

間制限 の %

39.4% 28.6% 32.0% 100.0%

決めていない

決めている

1時間の利用制限成績

合計

合計

値 自由度

漸近有意確

率 (両側)

Pearson の

カイ 2 乗 2.918a 2 0.232

尤度比 2.917 2 0.233

線型と線型

による連関 2.912 1 0.088

有効なケー

スの数 5998

カイ 2 乗検定

立教大学社会学部メディア社会学科

238

ス集計表において、説明変数を、「単語記憶のアプリの利用」とし、具体的には、①よくあ

る、②ときどきある、③あまりない、④まったくない、とした。そして、目的変数を「成績」

とし、具体的には、成績が①下、②中、③上とした。この表の結果を見ると、利用している

子どもたちよりも、利用していない子どもたちのほうが、成績が良いということが分かる。

次に表 6の有意確率の数値を見てもらいたい。有意確率は、0.000 で、有意水準 5パーセン

トとした場合、有意である、つまり関連があると言える。これは、「勉強アプリを利用して

いる子どもは、成績が低い」に対しての有意の結果であり、逆説的に、「スマホアプリの中

でも、勉強アプリの利用であったら、学力低下には結びつかない」という仮説は否定された

ということになる。

表 5 勉強アプリ利用の有無と成績のクロス集計表

下 中 上

度数 163 118 114 395

Q6[勉強と

ネット]_3ア

プリで単語

用語記憶 の

%

41.3% 29.9% 28.9% 100.0%

度数 366 227 263 856

Q6[勉強と

ネット]_3ア

プリで単語

用語記憶 の

%

42.8% 26.5% 30.7% 100.0%

度数 492 433 352 1277

Q6[勉強と

ネット]_3ア

プリで単語

用語記憶 の

%

38.5% 33.9% 27.6% 100.0%

度数 1333 921 1184 3438

Q6[勉強と

ネット]_3ア

プリで単語

用語記憶 の

%

38.8% 26.8% 34.4% 100.0%

度数 2354 1699 1913 5966

Q6[勉強と

ネット]_3ア

プリで単語

用語記憶 の

%

39.5% 28.5% 32.1% 100.0%

成績合計

単語用記憶アプリ

の利用

よくある

ときどきある

あまりない

まったくない

合計

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

239

表 6 勉強アプリ利用の有無と成績 カイ 2乗検定

6-4 インターネットの利用時間が長い子どもは、現実でのコミュニケーションが乏しい

のか

ここでは④の仮説を調査していく。ここではまず、石川の「子どもとスマホ」の中か

ら、「リアルの友達関係はむずかしい」という節に関心を持ち、そこから、インターネッ

トを利用している子どもほどそちらに熱中し、現実世界でのコミュニケーションが乏しい

のではないかと考え、調査した。まず、表 7を見てもらいたい。こちらは 2014 年度ベネ

ッセ調査アンケートの中から、インターネットの利用時間と現実の友達との交友関係を面

倒だと思うかということの相関性を検討するために SPSS で作成した、クロス集計表であ

る。このクロス集計表において、説明変数を、「インターネットの利用時間」とし、具体

的には、①1時間程度以下、②2時間程度、③3時間程度、④4時間程度、⑤5時間程度以

上、とした。そして、目的変数を「友達関係を『面倒だ』と思うか」とし、具体的には、

①とてもそう、②まあそう、③あまりそうでない、④まったくそうでない、とした。この

表の「とてもそう」の結果に注目すると、スマホの利用時間が長い子どもたちの方が、こ

の部分の割合が高いことが見受けられる。次に表 8の有意確率の数値を見てもらいたい。

有意確率は、0.000 で、有意水準 5パーセントとした場合、有意である、つまり関連があ

ると言える。よって「インターネットの利用時間が長い子どもは、現実の交友関係を面倒

だと感じる」という仮説は支持された。

次に、同じコミュニケーションという面から、「親子関係」について調査していく。現

実の交友関係が難しいということが、親子関係にも及んでいるのかということを調べるた

めに、仮説を、「インターネット利用時間が長い子どもほど、保護者との会話が少ない」

というものにして調査していく。まず、表 9を見てもらいたい。こちらは 2014 年度ベネ

ッセ調査アンケートの中から、インターネットの利用時間と保護者との会話の頻度の相関

性を検討するために SPSS で作成した、クロス集計表である。

このクロス集計表において、説明変数を、「インターネットの利用時間」とし、具体的に

値 自由度

漸近有意確

率 (両側)

Pearson の

カイ 2 乗 37.317a 6 0.000

尤度比 36.893 6 0.000

線型と線型

による連関

8.983 1 0.003

有効なケー

スの数 5966

カイ 2 乗検定

立教大学社会学部メディア社会学科

240

は、①1時間程度以下、②2時間程度、③3時間程度、④4時間程度、⑤5時間程度以上、

とした。そして、目的変数を「保護者とよく話をするか」とし、具体的には、①とてもそ

う、②まあそう、③あまりそうでない、④まったくそうでない、とした。

この表の「とてもそう」の結果に注目すると、スマホの利用時間が短い子どもたちほど、

この部分の割合が高いことが見受けられる。次に表 8の有意確率の数値を見てもらいた

い。有意確率は、0.000 で、有意水準 5パーセントとした場合、有意である、つまり関連

があると言える。よって「インターネットの利用時間が長い子どもほど、保護者との会話

は少ない」という仮説は支持された。

表 7 平日のネット利用に時間と友達関係のクロス表

とてもそう まあそうあまりそう

でないまったくそうでない

度数 170 730 1340 580 2820

Q33[ネット

利用時間]_1総合・平日

の %

6.0% 25.9% 47.5% 20.6% 100.00%

度数 121 330 572 301 1324

Q33[ネット

利用時間]_1総合・平日

の %

9.1% 24.9% 43.2% 22.7% 100.0%

度数 96 243 352 172 863

Q33[ネット利用時間]_1

総合・平日の %

11.1% 28.2% 40.8% 19.9% 100.0%

度数 51 109 163 60 383

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日の %

13.3% 28.5% 42.6% 15.7% 100.0%

度数 81 183 228 119 611

Q33[ネット

利用時間]_1総合・平日

の %

13.3% 30.0% 37.3% 19.5% 100.0%

度数 519 1595 2655 1232 6001

Q33[ネット利用時間]_1

総合・平日

の %

8.6% 26.6% 44.2% 20.5% 100%

合計平日の

ネット利用時間

合計

5時間程度以上

4時間程度

3時間程度

2時間程度

1時間程度以下

友だち関係が面倒だ

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

241

表 8 平日のネット利用時間と友達関係 カイ 2乗検定

表 9 平日のネット利用時間と保護者との関係のクロス表

値 自由度

漸近有意確

率 (両側)

Pearson の

カイ 2 乗 83.715a 12 0.000

尤度比 82.857 12 0.000

線型と線型

による連関44.804 1 0.000

有効なケー

スの数 6001

カイ 2 乗検定

とてもそう まあそうあまりそう

でない

まったくそ

うでない

1時間程度以下度数 1164 1221 375 68 2828

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

41.2% 43.2% 13.3% 2.4% 100.0%

2時間程度 度数 533 570 191 35 1329

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

40.1% 42.9% 14.4% 2.6% 100.0%

3時間程度 度数 346 377 105 37 865

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

40.0% 43.6% 12.1% 4.3% 100.0%

4時間程度 度数 154 157 48 23 382

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

40.3% 41.1% 12.6% 6.0% 100.0%

5時間程度以上 度数 250 225 99 36 610

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

41.0% 36.9% 16.2% 5.9% 100.0%

度数 2447 2550 818 199 6014

Q33[ネット

利用時間]_1

総合・平日

の %

40.7% 42.4% 13.6% 3.3% 100.0%

合計

合計

保護者とよく話す平日の

ネット利用時間

立教大学社会学部メディア社会学科

242

表 10 平日のネット利用時間と保護者との関係 カイ 2 乗検定

7 考察

7-1 スマホを持った年齢が低いほど、学力は低いのか

クロス集計表の結果から分かるように、スマホを持ち始めた年齢と学力には相関関係が

ないということが分かった。「スマホを一度長時間使うと」とあったが、これは、小さい

ころからスマホを持っている子が、必ずとも長時間利用をしているわけではないというこ

とを表していると考えられる。ここで新たに疑問に思ったのは、世間では、子供にスマホ

を与える時期はいつがいいのかという議論がされているが、このクロス集計の結果から考

えると、「スマホを与えるのに適切な時期がある」という考えは間違っていると考えられ

る。時期ではなく、他に大切なことがあることがうかがえ、それが何かを今後の調査で明

らかにしていきたい。

7-2 親とスマホのルールを決めて利用している子は、学力が高いのか

クロス集計表の結果を見ると、ルールを決めていない子よりもルールを決めている子の

ほうが、割合的には成績は上のように見えるのは回答数の差が関係していると考えられ

る。決めている子が 665 人に対して、決めていない子は 5343 人であり、パーセンテージ

的には有意であるように思えるが、人数にすると差が生まれていたのではないかと考え

た。カイ 2 乗検定からも分かるように、1 時間の利用制限を定めているからといって、成

績が高いわけではないということが確認された。ここで私は、三谷宏治氏の「なぜ、スマ

ホ使用『0時間の子』は『2時間未満の子』より点数が劣るのか」という記事の中から、

「1時間台で使うのをやめる」、のはとても意志が強い行動であると考えられ、逆に 0時間

の子は、「利用ゼロはきっと本人の意思ではないのでしょう。」(三谷)という部分に注目

した。この部分は、「利用制限を親にされているのではなく、自分の意志で決められる子

は優秀である」ということを結論付けている。先行研究である石川の「子どもとスマホ」

において、ルールを決めてスマホを利用すると問題が起こらないと書いてあるので、矛盾

値 自由度

漸近有意確

率 (両側)

Pearson の

カイ 2 乗 43.421a 12 0.000

尤度比 40.123 12 0.000

線型と線型

による連関9.884 1 0.002

有効なケー

スの数 6014

カイ 2 乗検定

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

243

しているように思えるが、「親が一方的に押し付けたルールでは、子どもの実情とかけ離

れる可能性がある。自らが『守れそうなルール』を設定することでスマホの使い方に関し

て自覚と責任を持つようになる。」(石川)とある。つまり、「1 時間利用の制限を誰が決め

ているのか」ということが論点となるのである。このアンケートでは、このルールを決め

たのが誰だかは明らかにされていない。今後行いたいと考えているアンケートでは、その

ルールを「誰が作っていて、親子同士の同意はあるのか」という面も意識したアンケート

を作成したい。

7-3 スマホで勉強アプリを利用することと、学力低下に相関関係はあるのか

クロス集計表、およびカイ 2 乗検定の結果から、勉強アプリであっても、利用している

子どもたちは、利用していない子どもたちと比べて成績が低いという結果となった。ここ

から考えられる理由としては、スマホで単語アプリを利用しているときに、LINE やその

他の SNS から通知が来た場合、そちらに反応してしまうのではないかということであ

る。スマホで移動中に簡単に単語を覚えること自体はとても画期的なことであり、デジタ

ルネイティブたちにはもってこいのサービスであるように思えるが、他のアプリの通知が

きてしまう、もしくは通知がなくても、他の SNS が気になってアプリを開いてしまう、

ということがあると考えられる。スマホで勉強アプリを利用する場合、通知を切るか、気

になるのであればほかのアプリを消すということも必要になりそうであり、子どもたち自

身が、利用方法を改める必要性がある。

7-4 インターネットの利用時間が長い子どもは、現実でのコミュニケーションが乏しい

のか

クロス集計表、およびカイ 2 乗検定の結果から、インターネットを長時間利用している

子どもたちほど、現実での交友関係を面倒だと感じているという結果となった。同じくク

ロス集計表、およびカイ 2 乗検定の結果から、インターネットを長時間利用している子ど

もたちほど、保護者との会話の頻度も低いという結果も見受けられた。単純に、パソコン

やスマホの画面にのめりこんでいるため、会話が少なということに加えて、意識泡による

と、狭い人間関係の中ではうまく馴染むために「浮かない」「空気を読む」ことが求めら

れ、もしも馴染めなかったら「逃げ場」がない。このような現実から逃げるために、イン

ターネットを頼りにするのであるという。(石川 2017)インターネットに没頭したため

に、コミュニケーションが減るというのは理解していたが、その逆に、現実でのコミュニ

ケーションから逃げたいがために、インターネットに没頭することがあるという視点があ

るということに新たに気づくことができた。このアンケートの結果からは、どちらのパタ

ーンでインターネットに没頭しているのかまでは把握することができないが、どちらにせ

よ、現実での交友関係よりも、インターネットでの交友関係、インターネットの中の楽し

さを優先しているのは事実であろう。この結果は想定内であったが、ここからまた問題意

識としてあがったのは、「インターネットの利用時間が多くても、コミュニケーションを

立教大学社会学部メディア社会学科

244

多くとれている子どもたちは、どのようなインターネット利用をしているのか」という点

である。確かにインターネットの利用時間と、現実での交友関係には相関性が見られた

が、そこに当てはまらない子どもたちもいる。彼・彼女らはどのようなインターネットの

利用をしているのか、そしてそのような子どもたちには共通点はあるのか、それを新たに

問題意識として、アンケートや論文、投稿サイトを参考にしながら、明らかにしていきた

い。

8 今後の展望

今後、行いたいこととしては、調査方法に沿って、今のところ 2 つ考えている。

1 つ目は、小学生・中学生の子供を持つ母親に対してのアンケートである。前述の先行

研究の中で、「子どもたちをそうした状況に置くおとなの責任についても考えるべきだ」

という記述が見受けられる。そこで、果たして、小さいころからスマホを持たせている親

はルールを決めて子供にスマホを渡しているのかというのを、本先行文献の中で述べられ

ているルールに沿って質問していきたいと考える。そしてその親の行為が子供の学習状況

や、遊びの内容につながっているのかまで考察していきたいと考える。それにおいて、こ

のアンケートをどこでやれるかというのが課題だと考えているので、何か良い方法や、調

査対象などがあれば、先生にもアドバイスをいただきたいと思っている。

2 つ目は、インターネット利用が子供に悪影響をきたすばかりではないと結論付けるた

めに、インターネット利用による勉強を推奨している学校のことを調査したいと考えてい

る。それは、情報番組「あさイチ」で 2018 年 1 月 24 日に放送された、「シリーズ発達障

害 読み書き計算が苦手… どう向き合う?学習障害」の中で、授業の中でタブレットを

導入した学校のことである。この小学校では、生徒が学ぶ際、ノート利用とタブレット、

好きなもので学べるというシステムをとっている。その中で、発達障害によって読み書き

が苦手な生徒が、タブレットによって書くストレスから解放され、書くことに時間がかか

りすぎてしまい、授業に追いつけないという事態からも解放されたという事象が放送され

ていた。この例は、インターネット利用による良い面の例、今後のインターネットとの付

き合い方にも触れられると思うので、インタビューを行うか、このようなシステムを利用

している学校のインタビュー記事の利用、利用者の声を探すなど、あらゆる方法で調査し

ていきたいと考えている。

3 つ目は、スマホとコミュニケーションに関する研究である。今までの内容は「スマホ

と学力」に関してのものが多い。このままでは「ダメ」の定義が「学力低下」のみになっ

てしまうので、コミュニケーションに関する研究をしたいと考えている。まだ細かいとこ

ろまで考えられていないので、卒論提出までにこの「コミュニケーション」に関する問題

意識を詰めていきたいと考えている。

後に全体の展開として感じたのが、ネットの良い面ばかりに関心が向いているのでは

ないかということである。今回は「スマホは悪影響ばかりではない」ということを結論と

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

245

したいが、それにしても、ネットの悪い面も踏まえ、今後その面とどのように付き合って

いくか、どのような対応が必要かを考えるために、ネットの悪い面にも言及する調査が必

要だと考えた。

参考文献

【日本語文献】

(筆頭)著者 50 音順

石川結貴(2016)「子どもとスマホ―おとなの知らない子どもの現実」

【ネット資料】

※仙台市、2017、「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」、

http://www.city.sendai.jp/manabi/kurashi/manabu/kyoiku/inkai/kanren/kyoiku/pro

ject.html (2019 年 2 月 1 日アクセス)。

※三谷宏治(2015)「なぜ、スマホ使用『0時間の子』は『2時間未満の子』より点数が劣る

のか」

http://president.jp/articles/-/16000?page=2 (2017 年 2 月 4 日アクセス)

立教大学社会学部メディア社会学科

246

スマホと食べる。~現代における孤食~

要旨

私達人間が生きていく上で欠かせない「食事」。その食事の一般的な形が、誰かと

共に食事をする「共食」であった。戦後日本において、ちゃぶ台を家族で囲みながら

行なわれるにぎやかな食事が共食の典型例である。一方、一人で食事をすることを

「孤食」という。単身世帯や共働き世帯の増加により、日本社会には共食に取って代

わって孤食が浸透していった。

孤食が浸透する中、日本社会ではほかにも様々な変化が起きていた。その中で代表

的な変化として「デジタル社会化」を挙げる。インターネットが普及した後、インタ

ーネットにさえつながっていれば、いつでもどこでも誰とでもつながることができる

「スマートフォン」がみるみるうちに全国へ浸透した。

スマートフォンとの関わり方が問われる現代において、食事の場面にもスマートフ

ォンは影響を与えているようだ。外食をする際に一人で食事をしている人々を見てみ

ると、スマートフォンをいじりながら食事をしている人々が非常に多い。では、一人

で食事をする「孤食」と、いつでもどこでも誰とでもつながることができる「スマー

トフォン」が交わった時、私たちの食事はどのようなものになってしまうのだろう

か。「孤食とスマートフォンの関係性」というテーマのもと、現代における孤食を読

み解いていく。

キーワード:孤食・スマートフォン・共食・つながり・技術決定論

1.はじめに

突然だが、あなたは「食事」に対して、どのようなイメージをお持ちだろうか。食事とは

「人」としてこの世に生まれた私たちが生きていく上で欠かせないものである。もう少し噛

み砕くのなら、人々が栄養を摂り、健康な生活を送るために不可欠なものが食事である。

一方、食事にはこのような考え方もある。「食事はコミュニケーションを取る機会である」。

この考え方も世間一般的に納得されるものであろう。そう、家族や友人と会話をし、コミュ

ニケーションを取り、人間関係を深める機能も食事には備わっているのだ。

私たち日本人は、いや人類は、人とコミュニケーションをしながら食事をしてきた。つま

り、「共食」をしてきたのである。しかし、現代において一人で食べること「孤食」をする

ことに対する抵抗が無くなってきた人も少なくないだろう。孤食をする機会が増加した背

景には、単身世帯、共働き世帯の増加などが考えられるが、近年、孤食を促進させているも

のがまた一つ増えたように思える。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

247

それが「スマートフォン(以下「スマホ」と称する)」である。例えば牛丼チェーン店へ

足を運んだ時のことを思い出してほしい。一人で食事をしている客の大多数がスマホをい

じりながら食事をしていなかっただろうか。スマホをいじりながら何かをする「ながらスマ

ホ」という言葉が注目されているが、これは食事の場も例外ではない。スマホをいじりなが

ら孤食をする人々を見ることは、もはや珍しくもなんともなく、もはや日常に溶け込んでい

る光景である。

一般論はこうだ。「一人での食事は寂しい」。ここで私は一つの疑問と一つの希望を抱いた。

「孤食をする際にスマホの中でコミュニケーションを取ることができていれば、寂しいと

いう感情は無くなり、無理に共食をする必要は必ずしもないのではないだろうか。したがっ

て、わざわざ同じ時間・場所に集まり、共食をしなくても良いスマートな社会になってきて

いるのではないだろうか」という疑問と希望である。

その疑問と希望を明らかにするべく、本論文は大きく分けて四つの内容で構成されてい

る。一つ目の内容は「共食」についてである。私たちの根本にある共食とはどのような意味

を持つのかということや、共食のメリットなどについて触れる。二つ目の内容は「孤食」に

ついてである。共食という伝統的な食体系が崩れていくとともに現れた孤食という食体系

はどのように生まれたのか、孤食のデメリットなどについて触れる。三つ目の内容は「スマ

ホ」についてである。スマホと孤食の関係について調査するにあたり、スマホが私たちに与

えている影響について広い視野で整理する。四つ目の内容はいよいよ日本における「孤食と

スマホの関係性」についてである。スマホを持った人々は孤食とどう向き合い、どのような

ことを考えながら孤食をしているのかということなどについて大学生を対象とした社会調

査アンケートも駆使しつつ分析する。

また、本論文はミクロな視点ではなく、マクロな視点で事象を考察していく。孤食とスマ

ホの関係性について「日本社会全体が関係する課題」と捉え、本論文を日本社会、あるいは

世界においても意味を持つものにする。

2.共食

2-1.共食の定義

石毛は「人間は共食をする動物である(石毛 1982、54)」と述べている。孤食がどれだ

け私たちの生活に浸透してきたとしても、誰かと共に食事をする「共食」の経験は誰にでも

あるだろう。本論文では「孤食とスマホの関係性」について読み解くことを目的としている

が、孤食について考察する前に共食についても理解しておく必要がある。

2-1-1.動物たちの食事

共食を「誰かと共に食事をすること」と定義すると、起源は人類がアウストラロピテクス

やサルだった時代にまで遡る。彼らも間違いなく別の誰かとモノを分配しながら食事をし

ていた。あるいは、人類に限定しなければ、共食を「誰かと共に食事をすること」と定義す

ると、草食動物の肉に集るトラや、巣で餌をつつきあう鳥も共食をしていることになる。

しかし、「真の共食」の意味はそうではない。人間以外の動物が行っているそれらの食事

立教大学社会学部メディア社会学科

248

は「真の共食」ではない。では「誰かと共に食事をすること」にプラスアルファの意味をは

らんだ「真の共食」とはどのようなものなのだろうか。

2-1-2.人間の共食

外山は「共に食事をし、それによって集団間のつながりを深める」という共食をする動物

は人間のみだと述べている(外山 2008)。つまり、「真の共食」、人間のみが行う共食には

「誰かと共に食事を行うこと」に加え、「人と人とのつながりを深める」という特徴がある

のだ。

共食をイメージする際に、テレビアニメ『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』が例に挙

げられることが多い。それらのテレビアニメではほぼ毎回話の中で、家族でちゃぶ台を囲み、

にぎやかなコミュニケーションを取りあう明るい家族像が描かれている。これがいわゆる

「真の共食」の姿である。無言で食事をするのではなく、今日一日で感じた嬉しかったこと

や、明日行うことなどについてお互いコミュニケーションを取りながら食事をすることが

共食なのだ。

また、昭和を代表する『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』で描かれるちゃぶ台を家族

で囲んで行われる共食だけではなく、交通インフラや外食産業の発展に伴い、共食をする機

会は家族間にとどまらないものになっている。学校帰りに友人と一緒にラーメン屋のカウ

ンターに肩を並べながらラーメンをすすったり、回転ずしチェーン店で 2 時間も 3 時間も

ソファ席でお茶をしたりと、他の動物にはできない「真の共食」を人間は日常生活の中で行

ってきているのだ。

2-2.人間が行う共食のメリット

では、共食のメリットはどのようなものなのだろうか。ここでは人間が行う「真の共食」

のメリットについて考える。

しばしば、子ども(小学生くらいまでの子どもを想像してほしい)が共食をするメリット

として、「親子間でコミュニケーションを取ることができる」「親が指導しながら食事をする

ことができるため、バランスの良いものを食べさせることができる」「好き嫌いのない子ど

もにすることができる」などが挙げられる。ここでの主な論点は「成長」であり、子どもに

より良い成長をしてほしいという考えから共食を勧めている。私自身、小学校時代まで、好

き嫌いをすることは許されず、母親の監視下で食事をしていた。あの母親の監視が無ければ、

私は好きなものだけを食べていただろうし、子供の成長に共食が大きな影響をもたらして

いることを私自身も今になって感じている。もはや共食は子供の成長のために必要不可欠

なことの一つとして捉えられても良いものなのである。

一方、大人が共食をするメリットは「コミュニケーション」に偏っているように考えられ

る。「食事らしい食事とはどんな食事を言いますか」という質問に対して、多くの大人は「み

んなで食べること」や「話をすること」が大切だと答えている(外山 1990)。ある程度教育

(食育)を受けてきた大人が共食をするメリットは「好き嫌いが無くなる」といったような

次元の話ではなく、彼ら自身が望む「コミュニケーションを取ることができる」ことであろ

う。「真の共食」の特徴である「人と人とのつながりを深める」ことができることが大人に

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

249

とってはメリットなのである。

しかし、子どもであれ大人であれ大きなメリットがあり、伝統的な価値観として重要視さ

れてきた共食だが、時代の流れと共に機会が確実に減少してきている。次章では共食の衰退

とともに出現した「孤食」について見ていく。

3.孤食

3-1.孤食の登場

3-1-1.孤食増加の消極的要因

一人で食事をする「孤食」。この言葉が人々に用いられ始めたのは 2000 年前後からであ

る。そして、先述した共食に相反する言葉でもある。誰かと共に食事を行い、人と人とのつ

ながりを深める共食をする機会が減少し、一人で食事をする「孤食」をする機会が増加した

のだ。では、その背景にはどのような要因があるのだろうか。まずは消極的要因から見てい

こう。

消極的要因として、単身世帯の増加や、共働き世帯の増加などが挙げられる。共働き世

帯の増加で主な影響を受けているのはその家庭の子供であり(どちらの親もいない機会が

多く、子どもは一人で食事をせざるを得ない機会が多くなる)、「スマホと孤食の関係性」

について明らかにしていくという目標には直接関係しないため、今回は単身世帯の増加

(孤食をする大人が増加する)に関して見ていく。

図表 1 は総務省による「平成 27 年国勢調査」の「世帯人員別一般世帯数の推移」だ

が、1 人世帯(単身世帯)が増加していることがわかる。これは平成 7 年から 27 年の推移

だが、近年の推移を見ても単身世帯が増加している。つまり、今もなお孤食をする機会は

増加し続けているのである。家族と暮らし、共食をすることが当たり前だった時代は終焉

を迎えようとしており、今や「一人で何を食べるか」ということをベースに考える人々が

多いのだ。

この要因を消極的要因と称した理由は、単身世帯が増加したからこそ「孤食をせざるを

得ない状況」に立たされている人々が増加しているからである。

立教大学社会学部メディア社会学科

250

図表1 世帯人員別一般世帯数の推移

出所:総務省(2015、34)

3-1-2.孤食増加の積極的要因

一方、孤食をする機会が増加した積極的要因にはどのようなものがあるのだろうか。スマ

ホの浸透については後ほど詳しく述べるが、それ以外の要因として「コンビニ食の発展」や

「おひとりさま歓迎の外食産業の発展」などが挙げられる。今回はその二つに絞って見てい

く。

まずは「コンビニ食の発展」だが、コンビニ食というとどのようなものをイメージするだ

ろうか。ここでは「コンビニ弁当」を想像してほしい。コンビニ弁当は一人前で用意されて

おり、これは一人で気軽に、なおかつ安く済ませるためには 適である。24時間買い物を

することができるコンビニに一人前の安い弁当が売られるようになったことで、さらに孤

食は促進された。

次に「おひとりさま歓迎の外食産業の発展」だが、『一蘭』というラーメン屋をご存じだ

ろうか。いまや海外にも店舗展開しているとんこつラーメン専門店『一蘭』では『味集中カ

ウンター』という席を導入している。『味集中カウンター』は一人用の席で、各座席がしき

りで隔離されており、周りの目を気にせずにリラックスした状態でラーメンを食べること

ができるというものだ。このシステムのターゲットは「一人で来店する客」である。『味集

中カウンター』だけではなく、日本の外食産業全体が一人で来店する客、いわゆる「おひと

りさま」が来店しやすいシステムを導入し始めている。

また、「ひとり焼き肉」を筆頭に「ひとり○○」という言葉も流行した。ニュースを見て

いると、「ひとり鍋はできるけど、さすがにひとりバーベキューはできない」といったよう

な議論も目にすることがある。先の「おひとりさま歓迎の外食産業の発展」に伴い、消費者

側も「ひとり○○」をポジティブなものとして捉える動きが活発化してきている。いまや、

おひとりさまによる「ひとり消費」は私たちの日常に溶け込んでいるのだ。

以上のように、消極的要因だけではなく、自ら「孤食をしたくなる」ようなシステム(積

極的要因)も社会に出来上がってきているのである。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

251

3-2.孤食のデメリット

孤食の登場から、人々に浸透してきた過程がわかってきたものの、孤食が良いものなのか

悪いものなのかという議論はまだしていない。では孤食に対する日本人の考えはどのよう

なものなのだろうか。良い評価か悪い評価かで答えるのなら、確実に悪い印象である。特に、

食やコミュニケーションに関する研究に携わっている方々からの評価は 悪だ。

孤食に関する議論において、大抵論じられるものとして「孤食をするとコミュニケーショ

ンの機会が減る」というものがある。孤食は一人で食事をすることであり、共に食事をして

いる仲間はいない。そうなれば、コミュニケーションをする相手もいないため、自然にコミ

ュニケーションの機会が失われることになる。

また、2017 年に立教大学社会学部の木村ゼミが行った「情報メディアコミュニケーショ

ンに関する調査」の中の「一人で食事をするほうが、他の人と食事をするよりも好きだ」

という項目に対し、「あてはまる・まああてはまる」と答えた学生は 33%に対して、「あま

りあてはまらない・あてはまらない」と答えた学生は 67%であり、孤食よりも共食を望む

人の方が多いことがわかった。孤食にデメリットがあるため、孤食をしない方が良いとい

う以前に、そもそも孤食をしたくないと思う人が多いということが明らかになった。

加えて、「ランチメイト症候群」という言葉は耳にしたことがあるだろうか。町沢静夫

は『学校、生徒、教師のための心の健康ひろば』の中で、一緒に食事をする人がいないこ

とに恐怖心を抱くことを「ランチメイト症候群」と称した(町沢 2002)。これは学校で昼

食(ランチ)を一緒に食べる友人がいない女子生徒の実体験を聞いた町沢自身が名付けた

ものである。孤食をしたくないと思う人が多いということも問題ではあるが、「ランチメ

イト症候群」のような精神疾患に近いものを孤食が生み出しているということについて

は、それ以上に問題視すべきだろう。

以上の孤食のデメリットと、孤食を望まない人が多いという点からも孤食が批判される

理由がわかる。子どもに対しては食育の指導の場になり、大人にとってもコミュニケーショ

ンを取る機会になるといったメリットばかりを兼ね備えている共食に比べれば、デメリッ

トが目立つ孤食が批判されるのは仕方のないことだろう。

3-3.孤食のメリット

しかし、私には孤食の賛否という議題において、まだ議論すべき点があると考える。それ

は「孤食のメリット」についてである。私はこの議論が行われている文献にまだ出会ったこ

とがない。この議論が行われにくいというのも、もし食育を推進している人が孤食のポジテ

ィブな面を論じてしまうと、100%共食が良いと言い切れなくなってしまうからであろう。

理由は何であれ、とにかく孤食のメリットに関して触れようとする人がほとんどいないこ

とは事実である。

では孤食のメリットにはどのようなものがあるのだろうか。私は「ストレスフリーで食事

をすることができる」ということが も大きなメリットだと考える。図 2 ではたしかに 7 割

の人が孤食よりも共食を望んでいる。しかし、裏を返せば 3 割の人は共食よりも孤食を望

んでいるのだ。コミュニケーションを望んで共食をしている人がいるのなら、コミュニケー

立教大学社会学部メディア社会学科

252

ションを望まない、コミュニケーションをストレスに感じる人は孤食を望む。つまり、コミ

ュニケーションが取れないからこそ、ストレスフリーで食事をすることができる孤食にも

メリットがあるのだ。

もちろん共食は伝統的な観点からも重要であり、私自身もできるかぎり共食をしていき

たいと思う。しかし、孤食のメリットを提示せず、共食を強制的に押し付けてはならない。

なぜならコミュニケーションが苦手で、コミュニケーションにストレスを感じる人に無理

やり共食をさせることは一種の拷問のようなものに受け取られる可能性があるからだ。

ここで、私は「スマホ」に可能性を感じる。スマホは「いつでも人とつながることができ

る」上に「ストレスフリーで相手をしてくれる(動画の視聴やゲームをプレイすることなど)」

という機能も持ち合わせている。これは「疑似的な共食」にもつながり、孤食のメリットを

助長することにもつながる可能性を秘めている。詳しくは後述するが、まずはスマホについ

ての情報も整理する必要がありそうだ。

4.スマートフォンと孤食

4-1.スマートフォンの登場

数十年前の人類は、スマホのような画期的なものが登場し、なおかつ多くの人々に普及す

るということを予想できただろうか。数十年前の人類は、電車に乗っている人々のほとんど

がスマホをいじっているという「異様な日常」を予想できただろうか。『ドラえもん』の便

利グッズのように、スマホのようなものがあれば便利だと妄想していた一般人はいただろ

うが、明確にスマホができると予想していた人は全世界の中でほんの僅かだろう。

一つ端末を持っており、インターネットにつながってさえいればいつでもどこでも好き

なことを調べることができ、遠方にいる人ともコンタクトをとることができるスマホ。図表

2 は総務省の「平成 29 年版情報通信白書66」の中の「モバイル端末の保有状況」だが、今も

なお年々スマホの保有率は伸びている。そして図表 3 は株式会社マイナビの「2017 年卒マ

イナビ大学生のライフスタイル調査67」の中の「スマートフォン保有率」だが、大学生の保

有率も年々伸びており、2017 年に卒業した大学生の 97.8%がスマホを持っていることがわ

かる。いまやスマホを持っていない人の方が圧倒的にマイノリティであり、私たちの社会を

「スマホ社会」と称しても違和感を持つ人はほとんどいないだろう。じっしねん・つき、実

施地域対象者の主な属性・対象者のリクルート方法(無作為とからんだむとか)、調査方法

(留め置き)回収率

66 2017 年 11~12 月,平成 29 年 4 月 1 日現在で、年齢が満 20 歳以上の世帯構成員がいる

世帯, 都道府県及び都市規模を層化基準とした層化二段無作為抽出法, 郵送による調査票

の送付・回収、報告者自記入による調査,41.1% 67 2015 年 12 月~2016 年 1 月, マイナビ 2017 会員の大学生・大学院生, 『マイナビ

2017』全会員に WEB DM を配信。その後、数回に分けて新規登録会員に WEB DM を配

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

253

図表 2 モバイル端末の保有状況

出所:総務省(2017)

図表 3 大学生のスマートフォン保有率

出所:株式会社マイナビ(2016)

4-2.スマートフォン依存

そのように便利で、大多数の人が持っているスマホだが、しばしば所持することのデメリ

ットについての議論が行われる。そのデメリットの中でも目立つこととして、「スマホ依存」

が挙げられる。

①ネットを利用していない時も、ネットのことを考えている②より多くの時間ネット

をしないと満足できない③ネットの利用時間をコントロールしようとしても、うまく

いかない④ネット利用を控えようとすると、落ち着かなくなったり、いらいらしたりす

る⑤もともと予定していたよりも長時間ネットを利用してしまう⑥ネットのせいで、

立教大学社会学部メディア社会学科

254

家族・友人との関係が損なわれたり、勉強や部活動などがおろそかになりそうになって

いる⑦ネットを利用している時間や熱中している度合いについて、家族や友人に嘘を

ついたことがある⑧現実から逃避したり、落ち込んだ気分を盛り上げるためにネット

を利用している(橋元良明 2013、9)

総務省と東京大学情報学環の共同研究では上記の 8 項目中 5 項目以上に当てはまると、

ネット依存(スマホ依存)の傾向にあるとしている。このスマホ依存傾向の判断基準の設定

に総務省が携わっていることからも、スマホ依存はデメリットという次元を超え、社会的な

問題になっているといえる。

また、スマホ依存と一口に言っても、スマホ依存にも種類がある。土井はスマホ依存を、

コミュニケーション・アプリ、いわゆる SNS を介した他者とのつながりに依存する「つな

がり依存」、ゲームや動画などの多種多様なコンテンツに依存する「コンテンツ依存」の二

つに分類できると述べている(土井 2014)。では、次に以上の二つの依存の形について考

察していく。

4-2-1.つながり依存

まずは、SNS を介した他者とのつながりに依存する「つながり依存」についてである。

インターネットという無限の広さを持つ世界の中に無数のコミュニティが存在し、私たち

利用者はそれらのコミュニティの中の一つ、ないし二つ以上のコミュニティに参加してい

る。そのコミュニティの多くは LINE や Twitter などの SNS 上で展開(ブログやオンライ

ンゲームなどの中でのみ存在するコミュニティもある)しており、私たちは現実世界とオン

ライン世界という二つの世界で自分を「存続」させなければならない。「存続」という言葉

を用いた理由は、私たちの日常を想像していただければすぐにわかるだろう。私たちは、従

来のアナログ現実世界といつでも誰とでも繋がることができるオンライン世界の二つの世

界を両立させなければ「孤立」する恐れさえあるからである。

オンライン世界でしか知ることができない情報もあり、もちろん現実世界でしか知るこ

とができないこともある。もしオンライン世界でのみ宣伝されていたイベントがあったと

すると、オンライン世界にいなければ、当然そのイベントに参加することはできない。つま

り、私たちは現実世界とオンライン世界の二つの世界にしがみつかなければならない時代

に生きているのだ。

そのような時代に生きる私たちがオンライン上でのつながりに依存してしまうことはあ

る意味「自然」なことなのかもしれない。しかし、鈴木はつながり依存の人々は「寂しい」

からではなく「一人だと思われるのが怖い」からつながりに依存するとし、現代の生きづら

さを主張している(鈴木 2013)。周りの目線を気にしながら、無理にでもどこかのコミュ

ニティにしがみつく。そのコミュニティはもしかすると長年付き合ってきた親友などおら

ず、いわゆる表面上での付き合いのような浅い関係の知り合いしかいないコミュニティか

もしれない。しかし、「そのようなコミュニティにでもしがみつきたい」「そのようなコミュ

ニティにしがみつくことで周りから一人だと思われないならそれで良い」と思う人が少な

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

255

くない世界に私たちは生きている。

また、SNS 上で行うコミュニケーションにおける気疲れのことを指す「SNS 疲れ」とい

う言葉も一般的に浸透してきた。図表 4 は総務省と東京大学情報学環が共同で小学 4~6 年

生・中学生・高校生・大学生・社会人を対象に行った「スマートフォン利用と依存傾向68」

の中の「ソーシャルメディアを利用する際に、悩んだり負担に感じたりすることはあります

か。あてまるものをいくつでもお選びください。」という項目だが、「ソーシャルメディア内

の人間関係」について悩んだり、負担を感じている人が多いことがわかった。「人とつなが

るため」のツールとして普及していった SNS だが、その SNS は人間関係について人々を

悩ませるツールになってしまっているのである。

つながりに依存してしまう「自然」なことだとしても、それが「生きづらさ」になってし

まったからには、やはり問題視していく必要があるだろう。

図表 4 ソーシャルメディアを利用する際に、悩んだり負担に感じたりすること

出所:橋元良明(2013、21)

4-2-2.コンテンツ依存

次に、スマホのコンテンツに依存する「コンテンツ依存」についてである。先の「つなが

り依存」で私たちは「現実世界」と「アナログ世界」にしがみついて生きているという論を

展開したが、スマホの使い方はそれらの二つの世界でつながるためだけに用いられるわけ

ではない。「つながり」のためではなく「コンテンツ」のためにスマホを使い、その使い方

が依存傾向にある場合、それを「コンテンツ依存」と呼ぶ。

68 2013 年 2 月, 小・中・高校生および大学生・社会人, マクロミルに登録している調査協

力パネル(約 110 万人)のうち、104,299 サンプルに事前アンケートを配信

立教大学社会学部メディア社会学科

256

コンテンツ依存の もわかりやすい例として「スマホゲーム依存」を挙げる。MMD 研究

所と株式会社コロプラが提供するスマホ向けインターネットリサーチサービス「スマート

アンサー」でスマホを所有する 15 歳以上の社会人、専業主婦、学生を対象にダウンロード

したことのあるアプリのジャンルについて共同調査をした69(図表 5)ところ、 も多かっ

た回答は 72.5%で「ゲーム」だった。「つながり依存」よりもスマホゲーム依存をはじめと

した「コンテンツ依存」に陥っている人々の方が多いということも推測される。

このようにスマホゲームアプリのダウンロードを促進す要因として、スマホアプリを「無

料ダウンロード」できる手軽さは見逃せない。スマホゲームアプリに限らず、多くの動画視

聴アプリやニュースアプリなどのスマホアプリは無料でダウンロードすることができ、課

金という形で有料コンテンツが用意されていることが多い。加えて、多くのアプリは無料で

も、ある程度満足できる内容になっているものが多い。例えばスマホゲームであれば、有料

コンテンツに課金すればゲームを進める上で無課金ユーザーより有利になるものの、無課

金のままでも努力次第で課金ユーザーに肩を並べられるような仕組みになっていることが

多い。金がないから課金をしないのではなく、「無課金でどれだけ楽しむことができるか」

ということを考えながらスマホゲームを楽しんでいるユーザーも多い。

他にもコンテンツ依存の要因は考えられるが、スマホを一つ持っていれば多種多様なコ

ンテンツを無料で利用することができるということは大きな要因の一つである。そして、私

たちは何のデメリット(リスク)もないスマホのコンテンツを毎日利用している。その「ス

マホ中心」ともいえる日常の中で、選びきれないほどの多くのコンテンツを暇さえあれば利

用しているのだ。

コンテンツ依存は非常に単純な依存の形である。なぜなら、コンテンツを利用するたびに

時間が失われ、自分の生活がスマホのコンテンツに侵食されていく「だけ」だからである。

69 2015 年 4 月, スマートフォンを所有する 15 歳以上の社会人、専業主婦(主夫)、学生, インターネット調査

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

257

図表 5 ダウンロードしたことのあるアプリジャンル

出所:MMDLabo 株式会社(2015)

4-3.スマートフォンと食事

「つながり依存」「コンテンツ依存」とスマホ依存の種類を見てきたが、いよいよ本論文

の内容のメインでもある「スマホと食事の関係性」について触れていきたい。スマホ依存と

いう社会問題が私たちの食事にも影響を与えている様子について考察する。

食事の体系は共食と孤食に分けることができるが、本論文の研究対象である孤食ではな

く共食にもスマホが影響を与えていることからまずは確認したい。2017 年に立教大学社会

学部の木村ゼミが行った「情報メディアコミュニケーションに関する調査」において、「一

緒に友達と食事をしている 中でもスマホをいじってしまう」ということに対して「あては

まる・まああてはまる」と 50.4%の学生が回答し、「一緒に家族と食事をしている 中でも

スマホをいじってしまう」ということに対して「あてはまる・まああてはまる」と 69.4%の

学生が回答した。友人・家族関係なく誰かと共食をする際にスマホをいじる人は大学生の半

数以上存在しているのだ。つまり、共食をする際にスマホが存在する(利用される)ことは

自然な(自然になりつつある)ことなのである。なにかをしながら食事を行う「ながら食べ」

は、基本的に日本人には受け入れられてこなかった。今でも「テレビを見ながら食事をする

な」といったことや、もちろん「スマホをいじりながら食事をするな」といったことなどを

親に怒られる人々も多いだろう。しかし、それでもスマホをいじりながら共食をする人々は

一定数存在するのである。

では本題である孤食にはスマホが影響しているといえるのだろうか。同調査において、

「スマホがあれば一人の食事も寂しくない」ということに対して「あてはまる・まあてはま

る」と 84.9%の人が答えている。この調査結果は本論文において非常に重要な意味を持つ。

立教大学社会学部メディア社会学科

258

なぜなら、スマホがあれば孤食は寂しくないということは「スマホがあれば共食をする必要

がない」という仮説を立てることができるからである。人間が行う共食の大きな意味として

「人と人とのつながりを深める」ということがあったが、スマホが「人と人とのつながりを

深める」機能を果たしているとすれば、無理に同じ空間で誰かと一緒に食事をする必要はな

くなる。「スマホをいじりながら行う孤食」に関して、面と向かって行われるコミュニケー

ションが衰退し、「人間らしさ」のようなものが欠如していくとネガティブに捉えるか、は

たまたスマホ一つあれば人とのつながりを気にすることなく、自由に一人で食事をするこ

とができるとポジティブに捉えるのか。これらに関する 終的な結論を出すためには、実際

に行われている「スマホをいじりながら行う孤食」をさらに深堀していく必要がありそうだ。

5.スマートフォンと共に孤食をする人々

では早速「スマホと孤食」について深堀していくわけだが、まずは立教大学の学生 50 人

にインタビュー調査を行ったところ、「スマホをいじりながら孤食をする人々」は五つに類

型化できるという結果に至った。「コミュニケーション依存」「コンテンツ依存」「人依存」

「オンラインコミュニケーション被支配」「他者意識」の五つである。では、その五類型に

ついて社会学の視点から分析する。

5-1.コミュニケーション依存

第一類型は「コミュニケーション依存」である。彼らの特徴は①スマホでは SNS 上での

「やり取り」の中で人とつながりたい②寂しいの二つである。つまり、スマホをコミュニケ

ーションツールと認識しており、「一人の食事は寂しい」「食事中も誰かとつながっていたい」

と思っているのだ。私は彼らのことを「コミュニケーション依存」と類型した。

5-2.コンテンツ依存

第二類型は「コンテンツ依存」である。彼らの特徴は①スマホでは雑誌感覚で SNS や web

サイトを眺める②寂しいの二つである。つまり、スマホをコミュニケーションツールという

よりかはコンテンツとして利用しており、彼らにとってスマホは暇つぶしに過ぎないのだ。

私は彼らのことを土井隆義の言葉を借りて「コンテンツ依存」と類型した。

5-3.人依存

第三類型は「人依存」である。彼らの特徴は①スマホでは SNS や動画を眺める②「人」

を感じることができていれば寂しさが和らぐの二つである。つまり、スマホではコミュニケ

ーションを取りたいものの、SNS で人の動向を知ったり、動画で人を見ていれば寂しさが

和らぐのだ。私は彼らのことを「人依存」と類型した。

5-4.オンラインコミュニケーション被支配

第四類型は「オンラインコミュニケーション被支配」である。彼らの特徴は①スマホでは

真っ先に LINE(Twitter や Instagram の場合もある)の返信をする②食事は LINE の返

信をするチャンスだと思っているの二つである。つまり、孤食中に「何をしたいか」という

よりも「SNS(特に LINE)の返信をしなければならない」と考えており、SNS 社会に支

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

259

配されているのだ。私は彼らのことを「オンラインコミュニケーション被支配」と類型した。

5-5.他者意識

第五類型は「他者意識」である。彼らの特徴は①スマホ内で行うことは多種多様②周りの

目を気にしてスマホをいじるの二つである。つまり、やりたいことのためにスマホをいじる

のではなく、「自分は友人がいないわけではない」「自分にはやることがある」というメッセ

ージを周りに「消極的に」発信するためにスマホをいじるのだ。私は彼らのことを「他者意

識」と類型した。

6.現代における孤食とスマートフォン

6-1.「孤食×スマートフォン」負の側面

6-2.「孤食×スマートフォン」正の側面

7.おわりに

参考文献

単行本

石川結貴、2016、『子どもとスマートフォン』、花伝社。

石川結貴、2017、『スマホ廃人』、文藝春秋。

石毛直道、1982、『食事の文明論』、中央公論社。

小川克彦、2011、『つながり進化論 ネット世代はなぜリア充を求めるのか』、中央公論新

社。

奥村隆、2013、『反コミュニケーション』、弘文堂。

表真美、2010、『食卓と家族』、世界思想社。

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バイル社会』、春風社。

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木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

261

オンラインコミュニティによる社会問題の解決〜恋愛と自殺〜

要旨

本研究ではオンラインコミュニティの中でも「恋愛」と「自殺」という 2 点につい

て論じていく。まず、はじめに、インターネット社会の現代において、デジタルネイ

ティブである若者をはじめ、人々がどのようにオンラインコミュニティに関わってい

るのか、2005 年と 2016 年 2017 年の社会調査と比較し、約 10 年間の変化と現代の

特徴を明らかにする。そして恋愛コミュニティに関して、マッチングアプリに焦点を

絞り、これらは社会問題である少子化や晩婚化を解決しうる力があるのか論じる。ま

た、次に自殺コミュニティは 2017 年 10 月 31 日に発覚した座間での 9 人殺害事件と

関連させながら述べていきたい。オンラインコミュニティは恋愛と自殺という社会の

問題を解決することができるのか、明らかにしていきたい。

キーワード:オンラインコミュニティ、デジタルネイティブ、マッチングアプリ、恋

愛、自殺

1 問題意識

近年インターネットは私たちの生活に必要不可欠なものとなった。そして、インタ

ーネットの普及によって人間関係も複雑に広がり、実際には会ったことのない人とオ

ンライン上でコミュニケーションを行うこともある。しかし、私が幼少の頃インター

ネットの情報は誰が発信しているのかわからず、安易に信頼してはならないと何度も

教わったことを覚えている。私たちデジタルネイティブたちは現在インターネットの

情報を信頼しすぎてはいないだろうか。インターネットの情報の中でもオンラインに

影響を与えるものとして明るい側面である「恋愛」、そして暗い側面を持つ「ネット

自殺」について考察していきたい。

まず前者の恋愛に関するコミュニティについて。これは私の周りにマッチングアプ

リを利用する人が増加したように感じたためであり、オンライン上で出会った人と連

絡を取り合うだけでなく、恋愛関係にまで発展するというのはデジタルネイティブた

ちにとって抵抗感がないものなのだろうか。また、これらの流行は現代の社会問題で

ある、少子化や晩婚化といった諸問題を解決しうる可能性を持っているのか論じてい

きたい。

そして、次にオンラインコミュニティの負の側面として、「自殺」という観点につ

いて論じたい。私は 2017 年 10 月 31 日に発覚した神奈川県座間市で起きた 9人殺害

事件に関心を抱いている。事件の被害者の多くが twitter を用いて加害者と繋がり、

呼び出されたものとされており、SNS というオンラインコミュニティが悲惨な結果を

立教大学社会学部メディア社会学科

262

生んだ事件だと言える。この事件の被害者は 15 歳〜26 歳であり、いずれもデジタル

ネイティブたちが当てはまる。オンライ上のみでのコミュニケーションや、情報開示

が積極的に行われている現代であり、デジタルネイティブたちのオンラインコミュニ

ティに対する抵抗感の少なさから起きた事件なのではないだろうかと考えた。また、

この事件において、マスメディアの報道のあり方にも違和感を感じており、両者の関

係性についても述べたい。ネット自殺の歴史をたどり、また、どのようにして防いで

いくことができるのか。これ以降残忍な事件を防ぐためにも、オンラインコミュニテ

ィはどうあるべきなのか考えていきたい。

2 インターネットに対する意識

まず,はじめに現代のデジタルネイティブである大学生たちがインターネットの情報

及び SNS に対してどのような意識を持っているのか、また、2005 年の調査と比較し、

オンラインコミュニティに対する意識がどのように変化してきたのか、早稲田 2005

年の調査、及び、2017 年度木村ゼミの調査を比較する形で用いて述べていく。

2-1 調査方法

現在の大学生のデータとしては 2017 年度、2016 年度立秋学期の「メディアコミュニ

ケーション論」を履修中の立教大学社会学部生を対象に行ったアンケート調査を用い

る。また、過去のデータと比較する際は 2005 年度に行われた早稲田大学の情報コミ

ュニケーションに関する調査を用いる。過去と現在のデータを比較する際に、対象の

学生の大学や学部が異なること、また質問文によって解釈や結果が異なる可能性もあ

ることは考慮しなくてはならない。2005 年の調査では SNS とひとくくりにし、アンケ

ートを行っているが、この時代 GREE や Mixi が主流であったことも補足情報として記

しておく。

2-2 利用割合

まず、はじめに 12 年間の間でどの程度大学生に SNS が普及したのか、また利用頻度

を明らかにしたい。2005 年と 2017 年の結果が図表 1と図表 2である。2005 年時点で

はまだ SNS はあまり認知されておらず、「アクセスしない」、「SNS がどういうものかよ

くわからない」と答えた人が 67.6%と半数を超えている。それに対し、2017 年では

twitter を現在利用していない人はわずか 9.1%、Instagram は 16.3%となっており、

2005 年と比較すると幅広く SNS が認知され、利用されていることがわかる。また、

2017 年の利用頻度として注目したい点は、ほぼ半数の人が 1日に 11 回以上 twitter

や Instagram にアクセスしているということだ。多くの人が積極的に SNS を利用し、

12 年間で SNS がどれほど若者たちに浸透しているのかがわかる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

263

2-3 オンライン上での友人関係

次にオンライン上でどのような人とコミュニケーションを行っているのか、明らかに

したい。2005 年と 2016 年の結果が図表 3と 4である。図表 3から 2005 年の段階では

SNS での主なコミュニケーションの相手はあくまでもオフラインで知っている直接の

友人、知人であり、オンラインでの友人関係はあまり広げようとする意識が低いこと

がわかる。2005 年の時点ではオンラインでのみ知っている人が平均 1.9 人であるのに

対し、2016 年になるとオフラインでのみ知っている人は 23.64 人と 20 人以上増加

し、オンラインでのコミュニティが広がっていることがわかった。また、オンライン

で知り合い、現実で出会ったことのある人も 0.8 人から 4.9 人と伸びていることがわ

かった。

2-4 情報開示量

情報開示量を比較する質問項目として、2005 年早稲田「あなたはご自分のホームページ、

日記などにどのような情報を載せていますか」と 2017 年木村ゼミ社会調査の「以下のよう

な情報をプロフィールに載せていますか? 」を使用する。ここでの注意点として、2017 年

度での調査は投稿内容ではなく、プロフィールに載せている情報であるということである。

図表 5 から 2005 年では本名はわずか 14.8%であったのに対し、2017 年では twitter が

48.7%、Instagram が 60.8%となっており、自分の個人情報を公開していることがわかる。

また、顔写真に関しても 13.1%であったのに対し、twitter が 40.8%、Instagram が 53.9%

となっており、多くの人が自分の個人情報を公開することへの抵抗感が減少していること

がわかった。Instagram では情報開示が少ないのは主に写真や動画を通したビジュアルコ

ミュニケーションが行われており、プロフィール欄に積極的に個人情報を載せている人が

twitter より少ない理由なのではないだろうか。

2-5 オンライン上の人たちとオフラインで交流することに関して

過去の質問項目とやや内容が違うため、参考程度であるが、オフライン上の人たちとのオ

フラインでの交流について図表 6と図表 7が比較結果である。図表 6から 2005 年度の調査

では「オフ会に参加したいと思う・思ったことがある」に対して「全く当てはまらない」と

回答した人が 71.8%とほぼ大勢であり、ネット上で出会った人と現実世界で交流するオフ会

に対して否定的な人が多いことがわかる。一方 2017 年の調査である図表 7を見ると「オン

ライン上で出会った人と現実世界で出会うべきではない」という質問項目に対して「まあ当

てはまる」が 29.9%、「あまり当てはまらない」が 41.3%とどちらともとることができない回

答が多いが、完全に否定している人は少数であることがわかる。オンラインコミュニティで

出会った人とオフラインで交流することに対する意識が変わりつつあるのかもしれない。

2-6 まとめ

以上の通り 2005 年度の早稲田大学の調査と比較すると、2016 年、2017 年のデジタルネィ

立教大学社会学部メディア社会学科

264

ティブである立教大学生たちは SNS を積極的に利用し、オフラインの友人との関係を築く

のみならず、オンラインのみの人間関係も築いている人が多く、実際にオフラインで交流す

ることには未だわずかながら抵抗感はあるものの、考え方も変化しつつある。また、自己の

情報開示に対する抵抗感も薄れており、多くの学生が本名や顔写真など個人情報を 2005 年

と比較し、積極的に載せていることがわかった。12 年の間にインターネットや SNS との関

わり方は変化していると言えるだろう。これらのデジタルネィティブたちのオンラインコ

ミュニティの広がりやインターネット情報への抵抗感の少なさが社会にどのような影響を

生む可能性があるのかこれから考察していきたい。

図表

図表1 2005 年早稲田

1 ⽇に数回 1 ⽇に 1回

週に 1 回〜数回 ⽉に数回

アクセスしない

SNS がどういうものかよくわからない

SNS 12.2% 9.7% 8.5% 2.1% 47.3% 20.3%

図表2 2017 年木村ゼミ

1 ⽇に 11 回以上

1 ⽇に 1~10回

週に数回〜それ以下

利⽤していたが今は利⽤していない

利⽤したことはない

twitter 42.4% 41.3% 7.2% 5.3% 3.8% Instagram 47.4% 29.5% 6.8% 2.3% 14%

図表3 2005 年早稲田

オンラインでのみ知っている⼈ 1.9 ⼈ SNS でのみ初めて知り合い、現実で会った⼈ 0.8 ⼈

図表 4 2016 年木村ゼミ

オンラインでのみ知っている⼈ 23.64 ⼈ オンンラインで初めて知り合い、現実で会った⼈ 4.94 ⼈

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

265

図表 5

2005 年早稲⽥ 2017 年⽊村ゼミ SNS 全般 twitter instagram 本名 14.8% 48.7% 60.8% 顔写真 13.1% 40.8% 53.9% サークル 32.8% 40.0% 23.2% ⼤学 60.7% 61.6% 49.5%

図表 6 2005 年度早稲田

全く当てはまら

ない

あまり当てはま

らない

だいたい当ては

まる

非常に当てはま

オフ会に参加し

たいと思う・思

ったことがある

71.8% 19.3% 6.3% 2.5%

図表 7 2017 年度木村ゼミ社会調査

3 オンラインコミュニティと恋愛

上記の問題意識、及び社会調査の結果から以下のリサーチ・クエスチョンを立てる。

3-1 リサーチ・クエスチョン

マッチングアプリはデジタルネイティブたちに浸透し、未婚化や晩婚化、少子化という社

会問題を解決しうる可能性を持っている

マッチングアプリとはインターネットを介して出会いを提供する出会い系サービスの一

種であり、興味のあるユーザー同士がマッチングをした後にチャットなどの機能でコミュ

ニケーションをとることができるサービスである。アプリという手軽さからユーザーに選

ばれていると考えられる。また、今までの出会い系は犯罪と結びつくイメージが多かったが、

マッチングアプリは運営元が信頼できる企業であり、「タップル誕生」はサイバーエージェ

ントグループ、「ゼクシィ恋結び」はリクルート、「Yahoo!パートナー」では Yahoo! JAPAN

当てはまる

まあ当てはまる

あまり当てはまらない

当てはまらない

オンライン上で出会った⼈と現実世界で会うべきではない

13.6%

29.9%

41.3%

15.2%

立教大学社会学部メディア社会学科

266

が運営している。有名企業がマッチングアプリ市場に参入することで、ユーザーも安心感を

持って利用することができている。そのほか Facebook との連携機能もあり、Facebook 上で

のステータスが交際中、婚約中、既婚中、別居中の人は利用不可という規約が付いているも

のや、Facebook 上で友達関係である人は表示されないため、知り合いに見つからずに恋人

探しをすることができるアプリなど、安全面を重視しされたものが普及していることがわ

かる。出会い系を利用する際に不安要素であった安全面が運営元によって整備され、オンラ

イン上でのコミュニケーションに対する抵抗感が少なくなっている現代において、マッチ

ングアプリは社会に受け入れられ始めているのではないだろうか。

3-2 出会い系の歴史

出会い系、マッチングアプリを調査するにあたり、まず始めに、時代とともに出会い系が

どのように変化してきたのか論じたい。出会い系メディアの変遷に関して70圓田(20060 によ

ると、出会い系メディアというシステムの古くは江戸時代から存在し、近年になると 1985

年に誕生したテレフォン・クラブを先駆けに、電話風俗となるものも登場、1995 年にポケ

ットベルを使用した「ベル友」と呼ばれるものも登場した。そして、その後、出会い系サイ

トが急成長し、インターネットを通じての友達探しや恋人探し、電子メールを交換し合うだ

けの「メル友」が一般化してくるようになる。また、同時期にテレビや映画などのメディア

に置いて見知らぬ男女の出会いと恋愛が主要なテーマとして放映されるようになり、この

ことも、見知らぬ男女の出会いと恋愛を積極的に肯定していく契機になったのではないか

と論じている。また、出会い系コミュニケーションは 1999 年に iモードサービスの開始に

伴い、携帯電話からウェブサイトが閲覧できるようになり、安価に手軽にいつでもどこでも

利用できるようになったため、それまでの何倍ものユーザーが出会い系サイトを利用する

ようになったと述べている。

この論文から出会いを目的とした仕組みや、コミュニティは古くから存在していること、

テレビ番組や、映画によって、また、携帯で気軽にアクセスすることができるようになり、

出会い系サイトの利用者が増えたとされたように、時代の流れとともに出会いの形が変容

して来ていることがわかる。現代ではスマートフォンで一人一人が自由にアプリをダウン

ロードすることができ、スマートフォンの中に他人にはあまり見られない空間を作ること

ができるようになった。その気軽さが現代のマッチングアプリの手軽さとつながる部分が

あり、現代の出会いの形として社会に受け入れられて良いのではないだろうか。

70 圓田浩二,2006,「出会い系メディアのコミュニケーションに関する分析-現代社会にお

ける匿名的な親密さ-」、『沖縄大学人文学部紀要』、(7) 75-85

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

267

3-3 利用割合及び意識

3-3-1 2017 年度立教大学生

ここで現在マッチングアプリのデジタルネイティブたちの利用割合と意識を明らかにし

たい。2017 年度の木村ゼミ社会調査ではマッチングアプリの利用経験は図表 8 のグラフの

通りであった。全体の 18.2%の人が利用経験があり、残りの 81.8%の人は「利用したことが

ない」ということがわかり、あまり積極的に利用されているわけではなかった。しかし、細

かく男女で比較したところ男性の方が女性よりやや積極的に利用していることがわかった。

また、マッチングアプリに対する認識として、問 24-2-2「マッチングアプリは不純であり、

絶対にしようすべきではない」という質問項目をみてみる。結果は図表 9のグラフになり、

「当てはまらない」、「あまり当てはまらない」と回答した人は 57%を超えており、半数近い

人が否定的ではないことがわかる。しかし、「不純である」と否定的に考えている人も 14%

と、一定数いることも事実であった。

以上の結果から、2017 年の社会調査現在ではデジタルネイティブである大学生たちにマッ

チングアプリが普及していると言うことはできなかった。

図表 8

図表 9

したことがない

以前はしていたが今はしていない

月に1~2回かそれ以下

月に1~6回日に1回以上

立教大学社会学部メディア社会学科

268

3-3-2 企業による調査

マッチングアプリの国内市場規模の予測として71株式会社マッチングエージェントと株

式会社デジタルインファクトによると 2017 年のオンライン恋活・婚活マッチングサービス

市場は、2015 年と比較し、73%増であり、2022 年には 2017 年と比較し約 2.8 倍拡大すると

述べており、これからの伸び代が期待できる。 また、マッチングアプリを利用した結果の意識として、72株式会社 aite が 20 代から 30 代

の女性 300 人を対象に 2017 年 9 月に行ったアンケート結果を引用する。このアンケートの

結果から、まず、「恋愛・結婚マッチングサービスを利用したことで、あなたは交際関係に

至った経験がありますか」という質問に対して「はい」52.0%、「いいえ」48.0%という結果

が出ており、2 人に 1 人が交際関係に発展していることがわかった、また、「結婚相手に出

会えると思う」という質問項目に対して、「強く思う」、「思う」と答えた人が 21.7%、「どち

らとも言えない」が 46%、であり、不安定ながらも真剣に結婚を考えながらマッチングサー

ビスを利用していることがわかった。結婚に前向きな人が登録しているマッチングアプリ

ならば仮説を立証することも可能なのではないだろうか。

3-4 今後の展開

2017 年の社会調査にて、マッチングアプリを肯定的に捉える人、否定的に捉える人には

71 https://mainichi.jp/articles/20180204/k00/00e/040/165000c

マッチングエージェントオンライン婚活( 終閲覧日 2018 年 2 月 10 日) 72 https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=13691

恋愛・結婚マッチングサービス実態調査( 終閲覧日 2018 年 2 月 10 日)

14%

29%39%

18%

マッチングアプリは不純であり、

絶対にしようすべきではない

当てはまる まあ当てはまる あまり当てはまらない 当てはまらない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

269

どのような特徴があるのか調べること。また、現代の結婚率や、少子化、個人の結婚観など

社会的背景をしっかり捉えることと、企業が独自で行った調査には企業の宣伝広告要素も

含まれていると考えられるため、中立的な立場でのデータを探さなくてはならない。社会問

題は容易に解決しうるものではないことも加味し、慎重に考察を進めて行きたい。

4 オンラインコミュニティと自殺志願

4-1 座間 9 遺体事件概要

2017 年 10 月 31 日に発覚した神奈川県座間市で起きた事件。2017 年 8 月 22 日から 10 月

30 日までの期間に 9 人を殺害し、その被害者の多くが Twitter を用いて呼び出されたもの

とされている。また、加害者、被害者はともにデジタルネイティブの世代である。加害者は

twitter にて複数のアカウントを所有し、中でもマスメディアに出ているものとして「首吊

り士」というアカウントを所有しており、「本当につらい方の力になりたい」と記し、「死に

たい」などと投稿する人たちに自殺志願者を装い、または、自殺幇助を称して、個別にメッ

セージを送っていたことがわかっている。(「朝日新聞」2017.12.11)

4-2 データから考える自殺

4-2-1 全体の自殺者数 73警察庁の自殺統計によると 1998 年以降 14 年連続して3万人を超える状態が続いてい

たが、2012 年に 15 年ぶりに3万人を下回った。1998 年と 2003 年に自殺者数が急増して

おり、これらの原因を調べたところ、「自殺の実態に基づく予防対策の水準に関する研

究」によると 1998 年はバブル崩壊後の景気後退局面の中で、とりわけ 50 歳代と 60 歳代

の職業を持つ男性の自殺者の増加が大きな割合を占めていることがわかった。経済的に追

い詰められ、職場環境の厳しさの中で死を選んだ人々が大きく増加していると考えられた

ことから,自殺の増減には個人を取り巻く社会的な負荷の高まりと、それに対する適切な

支援対策の不足などが大きく影響している可能性があると述べられていた。

図表 10

73 厚生労働省 年齢階級別の自殺者数の推移( 終閲覧日 2018 年 6 月 30 日) http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16/dl/1-03.pdf

立教大学社会学部メディア社会学科

270

4-2-274自殺者年齢別統計

また、図表 11 によると自殺者の年齢別割合としては、多い順に 50〜59 歳、70〜79 歳と、

比較的年代が上の人が多く、若者である 19 歳以下、20〜29 歳は下から 1 番 2 番であった。

しかし、若者の自殺者数の割合が全体の中で低いと言っても、社会的な問題ではない。

図表 11

74 厚生労働省 年齢階級別の自殺者数の推移( 終閲覧日 2018 年 6 月 30 日) http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16/dl/1-03.pdf

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

271

図表 12 は 15〜34 歳の死因の上位 3 位までを記した表になっている。先進国のうち若い

世代で自殺が 1 位となっているのは日本と参考までに韓国のみであり、その自殺による死

亡率も他国と比較すると高くなっていることがわかる。日本は他国と比べ、自殺する若者が

多い。

図表 12

立教大学社会学部メディア社会学科

272

4-2-3 ネット自殺の割合

ネット自殺が話題となり、警察庁は 2003 年からネット心中による自殺者数に関する統計

を取るようになった。2014 年の警察庁による「インターネット上の自殺予告事案への対応

状況について」から考察してみるとインターネット上での自殺予告により死亡した人は

2013 年において 2 人、自殺の恐れがあるとされた書き込みは 84 人であり、2013 年の全体

の自殺者数が約 27500 人いる中で決して大きな数ということはできない。しかし、こうした

自殺者が確実に存在することもまた事実であった。

図表 13

4-2-4 自殺念慮及び自殺未遂

次に75日本財団の自殺念慮及び自殺未遂の調査を取り上げる。調査対象は全都道府県 20

歳以上の男女、回答数は 44245 件のうち有効回答数は 40436 件、調査期間は 2016 年 8 月 2

日から 8月 9日にかけてである。この調査によると若年層である 20 歳〜39 歳は も自殺念

慮と自殺未遂のリスクが高い世代であり、前者の全世代の平均が 25.4%であるのに対し、

34.5%、また後者が全世代の平均が 0.6%であるのに対し、1.28%であるとされていた。また、

その理由としては他年代と比べて進路の悩み、虐待、職場や学校の人間関係の不和が挙げら

れていた。自殺念慮と自殺未遂が高い人の傾向として、他者に頼ることができず、人間同士

は理解・共感ができないと思っている人が当てはまり、「孤独感」と関係があるとされてい

た。

4-2-5 調査結果まとめ

これらの調査結果のまとめとして、まず、日本国内では自殺者数は 1998 年の急増、及び

2003 年のピーク以降は減少の傾向にあり、自殺者の年齢割合は若年層の自殺者の割合は他

の年代と比較すると少なかった。しかし、他国と比較した際、15 歳〜34 歳の死因 1位が自

殺である日本のような国は先進国ではあまり見受けられず、日本の特徴であり、改善すべき

社会問題であることは明らかであった。ネット自殺自体の割合は全体の数と比較すると決

して多いということはできないが、自殺の恐れがある書き込みも実際に行われており、一定

75 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133759.html

日本財団自殺意識調査( 終閲覧日 2018 年 6 月 30 日)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

273

数存在することがわかった。また、日本財団の調査結果から、若年層の自殺念慮と自殺未遂

のリスクは他の年代と比較し、高くなっており、ライフイベントに対する不安が課題となっ

ており、彼らの心にある「孤独感」を解決しなくてはならない。オンラインコミュニティに

は自殺を考える人たちが抱える「孤独感」を救う、魅力的なものがあるのだろうか。

4-3 先行研究

4-3-176富田英典(2003)、「社会現象としての『ネット心中』」

まず、はじめに、ネット心中の歴史として始まりは 1998 年の「ドクター・キリコ事件」

が発端だとされており、この事件は東京都杉並区に住む女性がインターネットの掲示板を

通して、青酸カリを入手し、自殺したとされた事件である。実際はインターネットではなく、

電話の口コミから紹介を受けて薬を入手したとされているが、インターネットコミュニテ

ィを発端に自殺が起きたと誤報が世間に広まり、翌年には実際にインターネットから自殺

を図る事件が発生している。このように 90 年代末に起きる事件の特徴としては自殺願望者

が薬物を入手し、送り主が自殺幇助罪に問われる事件として注目を集めていた。そして、

2000 年に入り、インターネットで知り合った者が 2 人から数名で自殺する事件へと姿を変

えたとされている。2000 年 10 月に福井県北部の空き家にて自殺情報を集めたホームページ

で知り合った男女が自殺、2003 年 2 月には埼玉県のアパートで男女3人が行なった練炭を

利用したネット心中が大々的に報道され、以後断続的に今日まで自殺関連サイト上で知り

合った、見知らぬもの同士のネット心中は続いているとされている。

また、富田はこの論文にて、ネット心中にはインターネットの匿名性ならではの絆が存在

すると述べている。ネット上では匿名のままのコミュニケーションが成立することで逆に

相手のことを内面から理解することができ、富田はインターネット上に成立する親密な他

者を「インティメイト・ストレンジャー」と名付けている。そして、自殺まで思いつめた人

たちが、お互いの苦しみを分かち合い共感するという、匿名性のもたらす親密性が自殺願望

の共有という形で成立し、自殺という人生 後の時を共にする相手として「インティメイ

ト・ストレンジャー」が選ばれている、と述べている。自らの死を前にして、「一緒に死ね

る人」というよりは、「もっと大切なものを共有できる人」という理由で選ばれており、適

当に共に死ぬ相手を選ぶのではなく、誰か特別な人を求めて、ネット心中が行われているこ

とがわかった。

富田の先行研究からまず、はじめにネット自殺の歴史からこの現象はデジタルネイティブ

たち特有の現象というわけではなく、2000 年前後にピークが存在した。また、2章のインタ

ーネットに対する意識において、2005 年の早稲田の調査では「オンライン上での友人関係」、

「オンライン上の人たちとオフラインで交流することに関して」、2017 年の調査よりも抵抗

感が多くなっていたが、これは一連のネット自殺のブームがあったからこその抵抗感だっ

76 富田英典(2003)、「社会現象としての『ネット心中』」、『月刊少年育成』、(569)8-15

立教大学社会学部メディア社会学科

274

たのかもしれない。またその事件の危険性が社会の中で薄れた結果 2017 年度の調査でそれ

らの抵抗感が低くなっており、また一種のネット自殺のブームのような大きな事件に発展

する恐れもあるのではないだろうか。また、自殺志願者にとって特別な存在である「インテ

ィメイト・ストレンジャー」が共に自殺を試みる人、自殺に促す人ではなく、自殺から救う

人になることはできないのだろうか。

4-3-2 フィリップス、ウェルテル効果

ウェルテル効果とは、マスメディアによるセンセーショナルな自殺報道に影響されて自

殺が増加する現象であり、若者が影響を大きく受けやすく、アメリカの社会学者のフィリッ

プスによって名付けられた。18 世紀末にゲーテの「若きウェルテルの悩み」が出版される

と、若者がその主人公と同じ服装、同じ方法で自殺をするという事件が相次いだことが名前

の由来となっている。座間の事件以降、自殺者の増加数とまではいかずとも、メディアの報

道に伴って、twitter のツイート内容やコミュニティにはどのような変化が起きたのだろう

か。インターネットという新しいメディアの新規性を危険なものとしてクローズアップす

るように報道しているのではないだろうか。

以上の先行研究から、オンラインコミュニケーションが身近になった現代だからこそ、ネ

ット自殺を再び見直しことが重要であり、ネット自殺の問題点として「孤独感を救うインテ

ィメイト・ストレンジャーをどのように活用していくのか」、「マスメディアの報道」が挙げ

られるのではないだろうかと考えた。

4-4 仮説及び検証

4-4-1 仮説

上記のデータおよび先行研究から以下の仮説を立てる。

仮説 1 ネット自殺が起きた後過剰なマスメディア報道が起き、一種のウェルテル効果とも

見られる現象が発生する

仮説 2 ネットコミュニティには自殺念慮の原因となる人たちの孤独感を救うものがあり、

自殺を防ぐこともできる

4-4-2 検証

4-4-2-1 ウェルテル効果に対する beinsight での検証

検証を行うキーワードに関して、「#自殺募集」というタグを用いたい。このタグは座間で

の事件が発覚したのち、マスメディアがニュースでこのタグを被害者と加害者が使用し、両

者を結びつけたものとして報道を行っている。そこで、加害者が実際に使用していたとされ

る「#自殺募集」というハッシュタグを beInsight を用いて検証を行ってみる。「#自殺募集」

というハッシュタグにて過去 1 年間に絞り、過去検索をしてみたところ、2017 年 5 月まで

は 1 日あたり 0〜1 件ほどのツイート、7 月〜9 月あたりからわずかに増加するが、多い時

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

275

でも 10 件程度であった。そして、10 月 31 日の事件発覚後、関心が高まりツイート数は 1800

件を超えている。事件以降次第に件数は少なくなるものの、2月現在まで毎日 10 件から 20

件ツイートが行われていることがわかった。このハッシュタグの利用される内容としては、

事件発覚直後は事件の引用や、事件に関する感想や意見を投稿するためであったが、事件か

ら時間が経つにつれ、本人の自殺志願による「#自殺募集」の投稿の内容が目立つようにな

る。これは事件発覚前にも行われていた内容の投稿ではあるが、明らかに件数が増えている

ことがわかった。これはメディアの報道によって twitter を自殺志願のコミュニティとし

て利用する人が増加したと言えるのではないだろうか。

774-4-2-2 WHO による提言

WHO はウェルテル効果を防ぐためのメディア報道のあり方について以下のような提言を

行なっている。

1,努めて、社会に向けて自殺に関する啓発・教育を行う

2,自殺を、センセーショナルに扱わない。当然の行為のように扱わない。あるいは、問題解

決方法の1つであるように扱わない

3,自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない

4,自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない

5,自殺既遂や未遂の生じた場所について、詳しい情報を伝えない

6,見出しのつけ方には慎重を期する

7,写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する

8,著名な人の自殺を伝える時には特に注意をする

9,自殺で遺された人に対して、十分な配慮をする

10,どこに支援を求めることができるのかということについて情報を提供する

11,メディア関係者自身も、自殺に関する話題から影響を受けることを知る

これらの提言通り座間の事件の時マスコミは報道を行なっていたのだろうか。

4-5 オンラインコミュニティの現在の対処法

78twitter japan によると現在 twitter では「死にたい」、「消えたい」など、自殺に関係

する検索を行った際、検索結果の一番上に専門のパートナー団体(東京自殺防止センター)

への案内が表示されるようになっており、相談窓口へと誘導が行われている。また、twitter

77 厚生労働省 WHO 自殺予防関係者のための手引き( 終閲覧 2018 年 6 月 30 日)

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133759.html 78 Twitter Japan( 終閲覧日 2018 年 2 月 5 日)

https://about.twitter.com/ja.html

立教大学社会学部メディア社会学科

276

だけではなく、79Facebook では AI の「パターン認識」を活用した自殺検出を行い、Facebook

の専門家で構成するチームに通知がいき、利用者本人や、その友人に電話相談の利用などを

促す機能が米国内で導入され、2017 年 10 月の 1ヶ月間で 100 件以上の警告を出すことがで

きたと発表されている。また、東京都の足立区では平成 30 年度の予算案にてインターネッ

トで自殺関連の言葉を検索するとメール相談へ誘導する「インターネット・ゲートキーパー

(命の門番)」を導入すると発表している。オンラインコミュニティの管理の変化が求めら

れ、徐々に適応してきていることがわかった。

4-6 今後の展開

マスメディアのネット自殺の報道に対して、座間の事件の報道がどのように行われてい

たのかさらに細かく調べる。

末木新の「インターネットは自殺を防げるか〜ウェブコミュニティの臨床心理学とその実

践」の著作を参考に、オンラインコミュニティにおける解決策を提示していきたい。

79 Facebook( 終閲覧日 2018 年 2 月 5 日)

https://ja.newsroom.fb.com/

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

277

参考文献

圓田浩二(2006)「出会い系メディアのコミュニケーションに関する分析-現代社会におけ

る匿名的な親密さ-」、『沖縄大学人文学部紀要』、(7) 75-85

末木新(2013)「インターネットは自殺を防げるか〜ウェブコミュニティの臨床心理学とそ

の実践」、一般財団法人 東京大学出版界

富田英典(2003)、「社会現象としての『ネット心中』」大阪少年補導協会

インターネット情報源

厚生労働省 年齢階級別の自殺者数の推移( 終閲覧日 2018 年 6 月 30 日)

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16/dl/1-03.pdf

厚生労働省 WHO 自殺予防関係者のための手引き

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133759.html

日本財団自殺意識調査( 終閲覧日 2018 年 6 月 30 日)

https://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2016/img/102/2.pdf

毎日新聞「東京・足立区『死にたい』検索者、相談ページに誘導へ( 終閲覧日 2018 年 2

月 5 日)

https://mainichi.jp/articles/20180204/k00/00e/040/165000c

マッチングエージェントオンライン婚活( 終閲覧日 2018 年 2 月 10 日)

https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=13691

恋愛・結婚マッチングサービス実態調査( 終閲覧日 2018 年 2 月 10 日)

http://aite.co.jp/release/2017/aite_release_20171018.pdf

Facebook( 終閲覧日 2018 年 2 月 5 日)

https://ja.newsroom.fb.com/

Twitter Japan( 終閲覧日 2018 年 2 月 5 日)

https://about.twitter.com/ja.html

立教大学社会学部メディア社会学科

278

第 II 部 社会調査分析レポート

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

279

大学生の Instagram 利用とブランド意識

要旨

Instagram の利用拡大に伴い、消費行動との関連性について語られることが多くな

ったと感じる。特に 2017 年の流行語に「インスタ映え」が選出されたことは、社会

的にも Instagram の影響力が大きくなっているということを表す指標とも捉えられる

だろう。本レポートでは消費行動のうち特にブランド意識に焦点を当て、大学生のブ

ランド意識と Instagram の利用頻度、利用時の行動や心情との関連性を調査する。そ

の際 2017 年度木村ゼミ社会調査のデータをもとに分析していく。

キーワード:Instagram、ブランド意識、セルフブランディング、利用頻度、購買行

1 はじめに

近年の若者の消費マインドの中で「若者のブランド離れ」という言葉をよく耳にする。

これとよく比較されるのがバブル時代の消費マインドだろう。バブル時代には車やブラン

ド品をもっているということが一種のステータスであり、その消費形態は記号消費や顕示

的消費などに分類されるといわれている。つまりブランド品を記号として携帯すること

で、自らをブランディングしていたのだ。一方の現代の若者は、一般的にこれらに価値を

見出さないといわれることが多い。しかしここ数年、ある意味自らをブランディングする

ツールである Instagram の利用拡大は目覚ましいものになっている。実際に Instagram

を閲覧していると、ブランド品の化粧品や値段は高いが写真映えのする食べ物など、ある

種のアピールのような投稿もよく見かける。そこで一旦は離れたと言われていた若者のブ

ランド意識と、セルフブランディングメディアである Instagram の利用拡大には関連性あ

るのではないかと疑問に感じたのが本レポートの出発点である。

2 先行研究

ここでは株式会社オプトによる「デジタル時代におけるブランド消費の価値観」調査

を先行研究としてあげたい。調査概要は以下の通りである。

<調査概要>

調査名称:デジタル時代におけるブランドイメージ調査

調査期間:2016 年 6 月~2016 年 7 月

立教大学社会学部メディア社会学科

280

調査方法:WEB アンケート

調査対象:全国の 20 歳~59 歳までの男女

サンプル数:2,000( 性別 [男女] ×各年代 [20 代, 30 代, 40 代, 50 代]に 250 ずつ割

付)

まず図1は消費嗜好性の分類に関する図である。この調査のなかで行った消費の価

値観や情報シェアの価値観の回答をもとに 4 つに分類すると、「体験・シーンにお金を使

う」×「共感されたい」という嗜好をもつ人の割合が 61%と大きなシェアを占めている。

ここではこれらの人々を「リッチなライフスタイルを送りたい」人と分類分けしており、

単に「ブランド品を持ちたい」と分類された人の割合は 10%と少なくなっている。

図1 消費嗜好性の分類

(出典:http://www.opt.ne.jp/column/journal/detail/id=3781)( 終閲覧日 2018 年2月

11 日)

次に前述の4つの分類ごとの SNS の利用実態を集計したものが図2である。対象 SNS

は、「LINE」、「Facebook」「Twitter」「Instagram」「Pinterest」「Google+」の 6 メディ

アである。図をみるとどの分類先でも利用率が も高くなったのは「LINE」で、利用率

は 7 割を超えていることがわかる。今回の研究である Instagram の利用率をみると「アピ

ールしたい」という志向が強い分類先での利用率が高く、特に「ブランドを持ちたい」と

いう分類先での利用率が高いことが分かる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

281

図2 トライブ別 SNS の利用率

(出典:http://www.opt.ne.jp/column/journal/detail/id=3781)( 終閲覧日 2018 年2月

11 日)

3 仮説

以上の先行研究をうけ、「大学生の Instagram 利用とブランド意識には関連性があるの

か」というリサーチクエスチョンを立て、以下2つの仮説を立てた。

仮説1:Instagram の利用頻度が高い人ほどブランド志向が強い。

仮説2:ブランド志向が強い人は Instagram 上でもその傾向が色濃く表れ、Instagram を

セルフブランディングメディアとして利用している。

4 仮説に対する検証

4-1 分析方法

2017 年度木村ゼミではメディアコミュニケーション利用の実態を把握するために立教大

学の社会学部生 264 名に対してアンケートを実施した。本研究では利用状況と大学生の

Instagram の利用と消費実態及び様々な価値観を分析するために、単純分析調査とクロス

集計調査を行う。今回分析に使用する問いは以下の通りである。

問5:SNS の利用頻度

問 11:Instagram の利用について

問 18:買い物や商品の選び方、消費への嗜好

問 19:買い物や商品の選び方、ブランドやメーカーへの態度

問 24:さまざまな行動、考え方、価値観

問 25:Twitter、Instagaram、Facebook の利用状況と特徴(イメージ)

立教大学社会学部メディア社会学科

282

4-2 仮説1に関する検証~Instagram 利用頻度とブランド志向の関連性の分析

まず仮説1「Instagram の利用頻度が高い人ほどブランド志向が強い。」を検証するため

の前提として、Instagram の利用頻度を単純集計分析した。表1は分析結果を表したもの

である。その際「月数回化それ以下」「週数回」「一日 1 回程度」を「ライトユーザー」、「一

日2回~10 回」「一日 11 回~20 回」「一日 21 回~50 回」を「ミドルユーザー」、「一日 50

回~100 回」「一日 101 回以上」をヘビーユーザーと分類した。この結果から立教大学生の

6割が一日に数回以上 Instagram を利用するミドルユーザーであることが分かる

表1 Instagram の利用頻度

次にブランド志向に関する分析をするために独立変数を「Instagram の利用頻度」に固

定し、従属変数を「自分にとってなくてはならないメーカーやブランドがある」「高級なも

のを持つことで優越感を感じる」「一度好きになったブランドは長い間好きだ」の3つの項

目に設定し、それぞれクロス集計分析した。まず表2は「Instagram の利用頻度」と「自分

にとってなくてはならないメーカーやブランドがある」のクロス集計の結果である。表2よ

り、Instagram のヘビーユーザーは「自分にとってなくてはならないメーカーやブランド

がある」に「あてはまる」「まあてはまる」が 75%もいるのに対し、Instagram を利用して

いない人は 30.3%と半数にとどまっている。また利用頻度が上がるほど「あてはまる」「ま

ああてはまる」と回答している割合が高い。この結果より、Instagram の利用頻度が高いほ

ど、ブランドやメーカーへのこだわりが強いことが分かった。

表2は「Instagram の利用頻度」と「自分にとってなくてはならないメーカーやブランドが

ある」のクロス集計表

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

283

さらに「Instagram の利用頻度」と「高級なものを持つことで優越感を感じる」のクロス

集計の結果が表3である。表3より、「あてはまる」と答えた人の割合はヘビーユーザーが

28.6%と高くなっている。しかし「あてはまる」「まあてはまる」と答えた人の割合は

Instagram を利用していない人は 21%と低くなっているものの、利用している人はいずれ

も 50 パーセント前後であった。つまり Instagram の利用の有無と「高級なものを持つこと

で優越感を感じる」には相関関係があり、Instagram ユーザーは高級なものを持つことに

対してある種の憧れを抱いているといえるのではないか。これについては次節の表8にて

Instagram の利用時の心情とともに詳しく検証していく。一方で利用頻度との相関関係は

見られなかった。

表3 「Instagram の利用頻度」と「高級なものを持つことで優越感を感じる」のクロス集

計表

後に「Instagram の利用頻度」と「一度好きになったブランドは長い間好きだ」のクロ

ス集計の結果が表4である。表4より、Instagram を利用していない人で「あてはまる」

「まあてはまる」と答えた人は 69.8%、ヘビーユーザーで「あてはまる」「まあてはまる」

と答えた人は 83.7%とヘビーユーザーのほうが若干割合は高いものの、利用頻度との関連

性があるとはっきりと言えない結果となった。つまり Instagram のヘビーユーザーほどブ

ランドへのこだわりがあるが、Instagram の利用の有無、利用頻度に関わらず現代の大学

生は一度好きになったブランドは長い間好む傾向があるといえる。

以上の分析より、「仮説1:Instagram の利用頻度が高い人ほどブランド志向が強

い。」は部分的に支持されたといえるであろう。

立教大学社会学部メディア社会学科

284

表4 「Instagram の利用頻度」と「一度好きになったブランドは長い間好きだ」のクロス

集計表

4-3 仮説2に関する検証②~Instagram 利用状況とブランド志向の関連性の分析

次に仮説2「ブランド志向が強い人は Instagram 上でもその傾向が色濃く表れ、

Instagram をセルフブランディングメディアとして利用している。」を検証していく。

まず各 SNS のユーザーがそれぞれにどのような特徴をイメージしているのかを明らかに

する。表5は Instagram を もよく利用するユーザーが Instagra に対して「リア充アピー

ルができる」というイメージを抱いているかどうかを表している。また同様に表6は

Twitter を もよく利用するユーザーが Twitter に対して「リア充アピールができる」とい

うイメージを抱いているかどうかを表している。Instagram と Twitter を比較すると、

Instagram がリア充アピールの出来るツールだと捉えている人は 61.9%、Twitter がリア

充アピールのできるツールだと捉えている人は 41.2%と大きな差がみられた。この結果か

ら、Instagram ユーザーのうち自分自身をアピールするツール(=セルフブランディング

ツール)として Instagram を利用している人の割合が半数以上であることが分かった。

表5 リア充アピールができる(Instagram ユーザー)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

285

表6 リア充アピールができる(Twitter ユーザー)

次に Instagram の利用に関する行動や心情とブランド志向の関連性を分析するために2

つの分析をした。表7は「(Instagram 上で)投稿することを意識して商品を購入する」と

「自分にとってなくてはならないブランドやメーカーがある」のクロス集計の結果である。

表7より「(Instagram 上で)投稿することを意識して商品を購入する」ことが「全くない」

人は「自分にとってなくてはならないブランドやメーカーがある」に「あてはまる」「まあ

てはまる」と答えた割合が 41.2%であった。一方「(Instagram 上で)投稿することを意識

して商品を購入する」ことが「とてもよくある」人は「自分にとってなくてはならないブラ

ンドやメーカーがある」に「あてはまる」「まあてはまる」と答えた割合が 72.8%であった。

「Instgram に投稿することを意識する」ということをフォロワーに向けた一種のセルフブ

ランディングであると仮定すると、Instgram をセルフブランディングツールとして利用し

ている人ほど商品へのブランド志向も強いことが推測できる。

表7は「(Instagram 上で)投稿することを意識して商品を購入する」と「自分にとってな

くてはならないブランドやメーカーがある」のクロス集計表

立教大学社会学部メディア社会学科

286

次に表8は「高級なものを持つことで優越感を感じる」と「友人の投稿につく『いいね』

が気になる」のクロス集計の結果である。「高級なものを持つことで優越感を感じる」に「あ

てはまる」と答えた人で「友人の投稿につく『いいね』が気になる」に「あてはまる」「ま

あてはまる」と答えた人は 60%と半数以上である。一方で。「高級なものを持つことで優越

感を感じる」に「あてはまらない」と答えた人で「友人の投稿につく『いいね』が気になる」

に「あてはまる」「まあてはまる」と答えた人は 35.3%にとどまった。この結果から、ブラ

ンド品に対してステータスを感じ、現実世界で優越感を感じている人は、Instagram 上で

も他人を気にしているということが分かる。

以上の分析より「仮説2:ブランド志向が強い人は Instagram 上でもその傾向が色濃

く表れ、Instagram をセルフブランディングメディアとして利用している。」は支持され

たといえるであろう。

表8「高級なものを持つことで優越感を感じる」と「友人の投稿につく『いいね』が気にな

る」のクロス集計表

5 まとめ

以上の分析より、Instagram の利用頻度が高い人ほどブランド志向が強いとは完全には

言えないものの、Instagram の利用者は非利用者よりもブランド嗜好が強いことが分かっ

た。またその嗜好はブランドに関するこだわりは Instagram 上でも表れ、Instagram をセ

ルフブランディングメディアとして利用していることが分かった。また本レポートの中で

興味深かった点として、Instagram のヘビーユーザーほどブランドへのこだわりがある

が、Instagram の利用の有無、利用頻度に関わらず現代の大学生は一度好きになったブラ

ンドは長い間好む傾向があるという点がある。このように行動ごとに数値の差異が出なか

ったということは、現代の大学生が育ってきた環境や現在の社会環境などの共通の背景が

影響しているのではないかと推測できる。今後卒業論文制作の中で、ブランド志向と現代

の大学生を取り巻く時代環境の関連性についても研究していきたいと思う。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

287

参考文献

株式会社オプト「デジタル時代におけるブランド消費の価値観」を調査 ~自らの「体験」

に「共感されたい」と考える生活者が 6 割を占める結果に~

http://www.opt.ne.jp/column/journal/detail/id=3781)( 終閲覧日 2018 年2月 11 日)

立教大学社会学部メディア社会学科

288

SNS は「コミュ障」を加速させたのか

要旨

「コミュ障」という言葉、「初対面の人と会話することに苦手意識を感じている

人」を指す場合に多く用いられるこの言葉を、近年頻繁に聞いたり目にしたりするに

あたって、Google Trends で検索をかけたところ、スマートフォン普及開始の 2011

年頃から使われ始めたものであることが判明した。スマートフォンの普及が SNS の

利用を拡大させたことから、「SNS が『コミュ障』を加速させたのではないか」との

仮説をもとに調査を試みた。その際、2005 年、2017 年に大学生を対象に行われた情

報コミュニケーションに関するアンケート調査の結果を利用し、「知らない人とで

も、すぐに会話が始められる」という質問項目の変数の変化に着目した。結果、仮説

は実証されず、「コミュ障」という言葉がただトレンドとして用いられていて、実際

に「コミュ障」の症状が見られる人物はそう多くはないこと、また、「コミュ障」と

いう言葉を用いてコミュニケーションをスムーズに行う若者が増えているという視座

が得られた。

キーワード:コミュ障、Twitter 、SNS、コミュニケーション、スマートフォン

1.はじめに

「私コミュ障だから初対面の人と話すのキツイわー」

「就活とかコミュ障にとって地獄」

「おまえ会話続かないとかコミュ障かよ www」

「基本コミュ障なので今日もネットの民と会話します」

「今年こそ人見知り無くして脱コミュ障!」

「知らん人ばっかでコミュ障発動したわ」

「コミュ障極めすぎてぼっちで飯食ってるなう」

近年、筆者の周りの大学生やネット上の記事、Twitter の呟きで「コミュ障」とい

う言葉を耳にしたり目にしたりすることが多くなったと感じる。友人は「ネットやゲ

ームアプリばっかしてたらコミュ障になってきた」と言っていた。確かに、筆者が小

学生の頃(2003~2009 年)は「コミュ障」という言葉をまだ認識しておらず、周囲

からそのような言葉を聞く機会も無かったと思われる。また、筆者のバイト先の個別

指導塾にて、生徒の保護者と面談した際、「社会学部のゼミではどんなことを勉強な

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

289

っさているんですか?」との問いに「対人関係について興味があり研究しています。

SNS とかコミュ障とか…」と答えると、「コ・ミュ・ショウ…?」みたいな反応をさ

れたことから、ここ 近若者の間で急速に普及し使われるようになった言葉であると

推測した。と同時に、この言葉に特異性を感じ、「コミュ障」について調査すること

によって、現代の若者の行動や心理、コミュニケーションの在り方を模索できるので

はないかとの期待を抱いた。時間や資料、そして筆者の文章力の都合上、稚拙極まり

ない研究となっているのだが、見田宗介が述べた「他者は第一に、人間にとって、生

きるということの意味の感覚と、あらゆる歓びと感動の源泉である」(奥村 2013、

221)という言葉を念頭に、万人に共通の問題であろう対人関係、コミュニケーショ

ンについて言及していくので、少しばかりの興味を持ってのご一読を乞う所存であ

る。

2.コミュ障とは何か

そもそもコミュ障とは何なのか。コミュニケーション障害の略であることは想像で

きると思うのだが、本来は医学的な観点から見た疾患群を指す言葉であった。

「アメリカ精神医学会による診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マ

ニュアル』第 5 版)においてコミュニケーション障害とは、ことばを扱うことに対し

て障害が発生する複数の疾患が一つにまとめられた、コミュニケーション症群/コミ

ュニケーション障害群(Communication Disorders)という総称として認識されてい

る」

(LITALICO 発達ナビ 2016)

しかし、近年、若者の間で使われている「コミュ障」はこの意味ではない。いわゆ

る「コミュ障」というこの言葉は、2 ちゃんねるなどの BBS や SNS で作られたネッ

ト用語である。ゆえに辞書や特定機関による細かい定義が確立されていないため、ネ

ット用語の解説が充実しているニコニコ大百科の見解を援用する。

「コミュ障(こみゅしょう)とは、コミュニケーション障害の略である。実際に定

義される障害としてのコミュニケーション障害とは大きく異なり、他人との他愛もな

い雑談が非常に苦痛であったり、とても苦手な人のことを指して言われる。…日本に

おいてはほとんどの企業は新入社員の採用などにおいてコミュニケーション能力を要

求しているが、それだけ世間にコミュニケーションに問題を抱えている人が多いと

も、逆に過剰にコミュニケーション能力を要求しているとも言える。」(ニコニコ大百

科 2016)

立教大学社会学部メディア社会学科

290

また、ニコニコ大百科によると、コミュ障にはいくつかの分類があり、主に「ダウ

ナー系コミュ障」と「アッパー系コミュ障80」に大別できるのだが、一般的にコミュ

障と言われて多くが想像するであろうものは前者のため、以下「ダウナー系コミュ

障」に見られる症状について記述する。

①人見知りが強い。

②どもりがちで、口下手。滑舌が悪くて、話すこと自体に劣等感を抱く。

③文章だと理解できるが、会話になると軽いパニックに陥ってしまい、喋れない。

④話しかけられてもはっきりと応じることが出来ない。

⑤必要以上に空気を読み、自分の発言がその場を悪くする、嫌われるのではないか

と考えて黙ってしまう。

⑥ぼっちなので、そもそも喋る人がいない。 (ニコニコ大百科

2016)

以上の症状から、筆者の周りで使われている「コミュ障」の言葉の使い方は概ね正

しく、「人見知り」や「話す」、「会話」、「発言」、「喋る」などの言葉から、共通の認

識として、「初対面の人と会話することに苦手意識を感じている人」とでも言えるで

あろう。コミュ障とは何かについて、おおよそ把握することができた。

3.仮説

前章において、「コミュ障」の言葉の定義について確認した。では、何故この「コ

ミュ障」という言葉が使われ始めたのか、という疑問が生まれる。「初対面の人と会

話することに苦手意識を感じている人」など、どの時代にも共通して存在しているで

あろう。特別「コミュ障」という言葉が生まれたのは何か理由があるに違いない。2

ちゃんねるなどの BBS や SNS で作られたネット用語であるのであれば、スマートフ

ォンが普及し、ネット接続や SNS の利用が頻繁になる 2011 年あたりから使われ始め

た言葉であろうと予測し、Google Trends でキーワード「コミュ障」と「コミュ症

81」を日本においての過去 13 年間、ウェブ検索の実施を試みた。以下、その結果であ

る。

80 「ダウナー系とは逆に、喋りすぎる、主張しすぎる、人の話を聞き入れないなどの症状

を抱える分類。鬱陶しくなるタイプ。人との交わり自体への苦手意識は薄いが、逆に自信

過剰で人との距離を測れず、それらの悪影響への自覚もない。」(ニコニコ大百科 2016) なお、この「アッパー系コミュ障」は、本論文では扱わない。

81 「コミュニケーション症群」という言葉からの派生で「コミュ症」という表記もネット

上で散見されたことから、これも含めて検索した。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

291

図 20 Google Trends でキーワード“コミュ障”と“コミュ症”を日本においての過去 13

年間、ウェブ検索を実施した結果(施行日 2018 年 2 月 11 日)

「コミュ障」、「コミュ症」という言葉がスマートフォン普及開始の 2011 年頃から

使われ始めたことが明らかである。スマートフォンの普及が SNS の利用を拡大させ

たことから、ここで一つの仮説が生まれる。

仮説:「SNS などのネット利用が増え、それに伴い face to face の必要性が減ったこ

とにより、自分が『コミュ障』であると感じる人が増えた、つまり、SNS が『コミュ

障』を加速させたのではないか。」

4.調査結果

仮説を検証するにあたって、「初対面の人と会話することに苦手意識を感じている

人」を「コミュ障」と定義して、2017 年に立教大学で実施された木村ゼミによる情報

メディアコミュニケーションに関する調査の質問項目、問 24-4「あなたは、次のよ

うな感覚が、どの程度あてはまりますか。」のうち、「12.知らない人とでも、すぐに

会話が始められる」の調査結果の値に注目することにした。これに「あてはまる」と

回答した人は「コミュ障」ではない可能性が高い、といった見解である。

また、「SNS などのネット利用が増え、それに伴い face to face の必要性が減ったこ

とにより、自分が『コミュ障』であると感じる人が増えた、つまり、SNS が『コミュ

障』を加速させたのではないか。」という仮説を満たすには、SNS などのネット利用

が頻繁に行われていなかった過去の時代との比較が必要である。そこで、2005 年に早

稲田大学で実施された木村研究室による情報コミュニケーションに関する調査の中に

立教大学社会学部メディア社会学科

292

「知らない人とでも、すぐに会話が始められる」といった、一字たりとも違わぬ質問

項目があったので、それを用いて比較検討を試みる。以下、その結果である。

表 11 「知らない人とでも、すぐに会話が始められる」についての回答(出典:2005 年早

稲田大学、情報コミュニケーションに関する調査)(出典:2017 年立教大学、情報メディア

コミュニケーションに関する調査)

図 21 「知らない人とでも、すぐに会話が始められる」の回答割合について 2005 年と 2017

年の変化(出典:2005 年早稲田大学、情報コミュニケーションに関する調査)(出典:2017

年立教大学、情報メディアコミュニケーションに関する調査)

筆者の予想に反し、図 2 から、2005 年と 2017 年という 12 年の差がありながら

も、その回答の傾向はほぼ変わっていないことが読み取れる。むしろ「あてはまる」

と回答した人数の割合は微増しており、「初対面の人と会話することに苦手意識を感

じている人」はわずかに減っていると言える。つまり、「SNS が『コミュ障』を加速

させた」という仮説の立証は困難である。

そもそも自分が「コミュ障」と感じている人はどれほどいるのか。2017 年の調査の

質問項目、問 24-1「あなたは、次のような行動、事柄が、どの程度あてはまります

2005年

2017年

N

236

264

18.6% 35.6% 29.7% 16.1%

23.1% 34.9% 28.4% 13.6%

あてはまる まああてはまるあまりあてはま

らないあてはまらない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

293

か。」のうち、「11.自分はコミュ障だと思う」の回答結果を利用する。

表 12 「自分はコミュ障だと思う」についての回答(出典:2017 年立教大学、情報メディ

アコミュニケーションに関する調査)

図 22 「自分はコミュ障だと思う」についての回答割合の円グラフ(出典:2017 年立教

大学、情報メディアコミュニケーションに関する調査)

「自分はコミュ障だと思う」という問いに「あてはまる」、「まああてはまる」と回

答した割合は半分にも満たないことが分かった。どうやら SNS がコミュ障を加速さ

せたわけでもなく、コミュ障の人が多いわけでもないようだ。

5.考察

調査結果から、「SNS が『コミュ障』を加速させた」と言い切れず、また、2017 年

時点で、「コミュ障」の自覚がある人は過半数を超えておらず、それほど「コミュ

障」が多いとは言えなかった。

では、なぜ「コミュ障」という言葉が生まれ、その言葉が近年若者の間で多用され

ているのか。Twitter で「コミュ障」で検索すると 2018 年 2 月 11 日 18:00 時点で

「360 Tweets in the last hour」と表示され、また Twitter のプロフィールに「コミ

ュ障」と書かれているユーザーも多く見受けられる。

2017年 264 15.5% 25.8% 37.1%

N あてはまる まああてはまるあまりあてはま

らないあてはまらない

21.6%

立教大学社会学部メディア社会学科

294

ここから、「コミュ障」という言葉がただトレンドとして用いられていて、実際に

「コミュ障」の症状が見られる人物はそう多くはないことが伺える。Twitter では、

「#コミュ障は RT」とツイートして、積極的に交友関係を広げているユーザーが多

く見受けられた。「コミュ障だけど仲良くしてくれる人は RT」と「コミュ障」という

言葉を用いてコミュニケーションをするユーザーもいた。SNS が「コミュ障」という

言葉を創り出したかもしれないが、同時に SNS は「コミュ障」を救っているのでは

ないか。あるネット記事では、SNS のデメリットとして「リアルコミュニーションの

低下」や「会話力の低下」を挙げ、「SNS はコミュニケーション能力を低下させてい

る」と題しているが、それも使い方次第であろうことについても言及されている(コ

ミュ障克服ナビ 2017)。

大学入学の際、学部のオリエンテーションで「俺コミュ障だから、いっぱい話しか

けてくれると嬉しい!仲良くしてね!LINE 交換しよー!」と自ら積極的に周りの初

対面の人に話しかけていく、「コミュ障」とは到底思えない、その症状とは真逆の人

を見かけた記憶がある。また、冒頭に挙げたセリフやツイートを発した人々も、自分

が「コミュ障」であることを明るく述べ、筆者の主観ではあるが、決して会話が下手

という印象は受けなかった。

誰もが、初対面と話すのは少なからず緊張する。そんな誰もに共通の認識を自分も

もちろん持っていて、だから大丈夫、仲よくしよう、といった、「コミュ障」という

言葉を用いてコミュニケーションをスムーズに行う若者が増えているのではないか、

と考察するには証拠不十分の本論文であるが、少なくとも自らを「コミュ障」と語る

ことは会話、コミュニケーションを始める第一歩であるのではと推測できる。

「コミュ障」という言葉を生みだしたかもしれない SNS が、対人関係を広げ、

「『コミュ障』から始まるコミュニケーション」を創り出したことに少し感動し、

SNS の発展とその有効活用はコミュニケーションの充実を図るのではないかと、ひど

く楽観的であるのだが、そんな希望を記し本論文を締めくくることとする。

参考文献

奥村隆、2013、『反コミュニケーション』、弘文堂

立教大学社会学部・木村ゼミ、2017、『情報メディアコミュニケーションに関する調

査』

早稲田大学理工学部・木村研究室、2005、『情報コミュニケーションに関する調査』

インターネット情報源

コミュ障克服ナビ、2017、「SNS はコミュニケーション能力を低下させている?!」

( 終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

https://communication-disorder.com/sns

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

295

ニコニコ大百科、2016、「コミュ障とは(コミュショウとは)[単語記事]」( 終閲覧

日 2018 年 2 月 9 日)

http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E9%9A%9C

LITALICO 発達ナビ、2016、「コミュニケーション障害とは?俗称と医学的定義の違

いは?症状の種類や原因、治療方法まとめ」( 終閲覧日 2018 年 2 月 9 日)

https://h-navi.jp/column/article/35025990

立教大学社会学部メディア社会学科

296

SNS 利用と趣味

要旨

私たちは現在デジタル化の加速する世界の真っただ中におり、日々インターネットを通

じてオンライン上の莫大なデータベースとつながっている。そんな莫大なデータをすべて

処理するということは到底不可能であり、私たちは日々、それらの情報から必要な情報だけ

をピックアップし、取捨選択を行っている。その取捨選択において、自分にとって有益かど

うかということが一つの判断基準になると思うが、その有益というのは人にとって様々で

ある。そんな中、今回私は人の好き、嫌いといった感情に依拠する「個人の嗜好」によって

求められる情報に注目をした。嗜好に合うということは一つの情報を得るうえでの動機と

して成り立つと思え、私自身、嗜好が情報を受信する上での一番の判断基準となっている。

私達が嗜好に合う情報を受信するツールとして、 も身近な存在であるのが SNS と言える。

SNS には、友達とのつながり保持や、自身の自由な情報発信など、様々な利用用途がある

が、中でも自分の求める情報を収集するというのは利用用途の中でも大きな割合を占める

ものといえるだろう。また、この嗜好を元に行われる人間の活動として、趣味活動がある。

趣味とは人間が自由時間に、好んで習慣的に繰り返しおこなう行為と辞書において定義づ

けられている。

上記の事から、今回私は、「嗜好」というキーワードが行動要因になっている趣味活動に

おいて、「嗜好」という判断基準を元に情報の受信を行う SNS は必要不可欠なものであり、

両者のなかで強い関わりがあるのではないかと考えた。そこで今回は、2017年度木村ゼ

ミ社会調査によって得られたデータを用いて、SNS と趣味の関係に関する分析を行ってい

きたいと思う。

キーワード:オンライン、データベース、SNS、趣味、嗜好

問題意識

さまざまな趣味が混在する世の中において、趣味の中にも、ひときわ SNS とよりかかわ

りが深く、相性のいい趣味が存在するのではないかと考えた。この場合の SNS とよりかか

わりが深く相性のいい趣味というのは、日常におけるオフラインでの交流などによる情報

収集、発信の機会が頻繁に設けられないことから、オンライン上においてこそ、その役目が

求められ、いろいろある SNS の利用意図の中でも、趣味による、発信、受信がその役割を

担っている割合がより高いのではないかという考えである。上記の想定を元に今回私は、分

析をするにあたって下記の2つの仮説を設定した。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

297

・人々に馴染みのあるメジャーな趣味ほど、日常での趣味における交流の機会が頻繁に存在

し、SNS においてその求められる役割は小さい。

・人々に馴染みのないマイナーな趣味ほど、日常での趣味における交流の機会が少なく、

SNS においてその求められる役割は大きい

調査方法

今回は上記の仮設を検証するため、2017 年度メディア社会学科の専門科目である、メデ

ィア・コミュニケーション履修者 264 名を対象に行った 2017 年度木村ゼミ社会調査のデー

タを用いて分析を行っていく。

注目する SNS は、SNS の用途としても比較的、情報収集的な役割が提唱されており、情

報収集ツールとして世間からも認知の高い twitter を選んだ。そのうえで今回の調査から上

記の仮設を検証していくため、まず問 23 の「あなたの趣味、関心として、以下の項目の中

から、当てはまるものにすべてチェックして下さい」という、回答形式が複数選択である設

問において、単純集計を行い、該当する趣味を選んだ人の値から、順位付けを行っていく。

ここで明らかになった単純集計による順位づけによって、順位の高い趣味ほど「馴染みのあ

る趣味」、順位の低い趣味ほど「馴染みにくい趣味」と認識する。その後、「馴染みのある趣

味」「馴染みにくい趣味」をそれぞれ一つずつピックアップした上で、まず問 9-1「twitter

のメインアカウントが趣味用である」、問 10-1「twitter のサブアカウントが趣味用である」

それぞれとのクロス集計を行うことで特定の趣味を持っている人の twitter のアカウント

利用状況を明らかにする。その後 twitter の使い方を問う項目の中から、比較的趣味関連の

利用として当てはまる項目といえそうな問 6-9「趣味に関する公式リツイートをする」、問

6-19 「ファンコミュニティーを作るためハッシュタグをつけて投稿する」それぞれとのク

ロス集計を行い、特定の趣味を持っている人の twitter の使い方について、実態を明らかに

していく。

調査結果

まず問 23 の「あなたの趣味、関心として、以下の項目の中から、当てはまるものにすべ

てチェックして下さい」という質問項目の単純集計を行い、趣味ごとに数値を割り出し、順

位づけを行った。以下がその結果である。

立教大学社会学部メディア社会学科

298

図 1 「あなたの趣味、関心として、以下の項目の中から、当てはまるものにすべてチェッ

クして下さい」単純集計グラフ

今回この当該の問に回答すべき人数は 264 人であり、複数回答という形式で、回答者数は

264 人であった。

結果は、「写真・動画撮影」が 78 票、「鉄道」が 5 票、「アニメ・漫画」が 96 票、「スポ

ーツをする」が 98 票、「旅行」が 126 票、「科学」が 17 票、「絵やイラストを書く」が 33

票、「音楽を聴く」が 98 票、「ゲーム」が 60 票、「歴史」が 31 票、「スポーツ観戦」が 60

票、「好きなタレントやアーティストの情報収集やコンサートに行く」が 128 票、「ボラン

ティア」が 21 票、「楽器の演奏」が 46 票、「演劇鑑賞」が 19 票、「読書」が 76 票、「料理」

が 50 票、「ファッション・コスメ」が 10 票、「パソコン・インターネット」が 90 票、「映

画鑑賞」が 130 票、その他は 1 票あり、ダンスであった。

この結果からするに、今回の調査では「映画鑑賞」が も馴染みやすい趣味、鉄道が も

馴染みにくい趣味という扱いになるが、鉄道の標本数が 5 票ということで、票の少なさか

ら傾向が読み取れない懸念があるため、今回は馴染みやすい趣味に「映画鑑賞」、馴染みに

くい趣味として 10 位の「ゲーム」を調査の対象に選択する。

次に特定の趣味を持っている人の twitter のアカウント利用状況を明らかにしていく。ま

ず「映画鑑賞」と「twitter のメインアカウントが趣味用である」とのクロス集計を行った。

以下がその結果である。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

299

図2 「映画鑑賞」と「twitter のメインアカウントが趣味用である」のクロス集計表

このクロス集計では、欠損値は 24 票であり全部で 240 票が有効数であった。

結果として、映画鑑賞が趣味であると答えた人のうち、10.3%が twitter のメインのアカウ

ントを趣味用と位置付けている。

次に「ゲーム」と「twitter のメインアカウントが趣味用である」のクロス集計を行った。

以下がその結果である。

図3 「ゲーム」と「twitter のメインアカウントが趣味用である」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 24 票であり 240 票が有効数であった。

結果として、ゲームが趣味であると答えた人のうち、12.5%が twitter のメインのアカウン

トを趣味用と位置付けている。

次に「映画鑑賞」と「twitter のサブアカウントが趣味用である」のクロス集計を行った。

以下がその結果である。

図4 「映画鑑賞」と「twitter のサブアカウントが趣味用である」のクロス集計

このクロス集計では、欠損値は 104 票であり全部で 160 票が有効数であった。

結果として、映画鑑賞が趣味であると答えた人のうち、36.1%が twitter のメインのアカウ

ントを趣味用と位置付けている。

立教大学社会学部メディア社会学科

300

次に「ゲーム」と「twitter のサブアカウントが趣味用である」のクロス集計を行った。

以下がその結果である。

図5 「ゲーム」と「twitter のサブアカウントが趣味用である」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 104 票であり全部で 160 票が有効数であった。

結果として、ゲームが趣味であると答えた人のうち、37.0%が twitter のメインのアカウン

トを趣味用と位置付けている。ここまでが、特定の趣味を持っている人の twitter のアカウ

ント利用状況を明らかにした分析結果である。

この後は、特定の趣味を持っている人の twitter の使い方について、実態を明らかにして

いく。今回、「趣味に関する公式リツイートをする」(以下、twitter の利用(趣味に関する

RT))と「ファンコミュニティーを作るためハッシュタグをつけて投稿する」(以下 twitter

の利用(ファンコミュニティー))において、結果をする or しないの二極化にし、見やすく

するため、かなりする、よくする、ときどきするを「する」、あまりしない、全くしないを

「しない」に変数の値の再割り当てを行った。まず、「映画鑑賞」と「twitter の利用(趣味

に関する RT)」のクロス集計を行った。以下がその結果である。

図6 「映画鑑賞」と「twitter の利用(趣味に関する RT)」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 24 票であり、全部で 240 票が有効票であった。

結果として、映画鑑賞が趣味であると答えた人のうち、50.9%の人が Twitter の利用におけ

る趣味に関する RT をするということが分かった。

次に「ゲーム」と「twitter の利用(趣味に関する RT)」のクロス集計を行った。以下が

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

301

その結果である。

図7 「ゲーム」と「twitter の利用(趣味に関する RT)」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 24 票であり、全部で 240 票が有効票であった。

結果として、映画鑑賞が趣味であると答えた人のうち、53.1%の人が Twitter の利用におけ

る趣味に関する RT をするということが分かった。

次に「映画鑑賞」と「twitter の利用(ファンコミュニティー)」のクロス集計を行った。

以下がその結果である。

図8 「映画鑑賞」と「twitter の利用(ファンコミュニティー)」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 24 票であり、全部で 240 票が有効票であった。

結果として、映画鑑賞が趣味であると答えた人のうち、10.3%の人が Twitter においてファ

ンコミュニティー形成のためハッシュタグを用いた投稿をするということが分かった。

次に「ゲーム」と「twitter の利用(ファンコミュニティー)」のクロス集計を行った。以

下がその結果である。

立教大学社会学部メディア社会学科

302

図9 「ゲーム」と「twitter の利用(ファンコミュニティー)」のクロス集計

このクロス集計では欠損値は 24 票であり、全部で 240 票が有効票であった。

結果としてゲームが趣味であると答えた人のうち、4.7%の人が Twitter においてファンコ

ミュニティー形成のためハッシュタグを用いた投稿をするということが分かった。

結論・考察

結果に関して、まず特定の趣味を持っている人の twitter のアカウント利用状況について

は、「ゲーム」が「映画鑑賞」よりも 2%ほどメインアカウントを趣味用と位置づけている

人が多く、サブアカウントに関しても、「ゲーム」が 1%ほど上回るものとなった。これらの

結果から圧倒的な差はなかったものの、馴染みにくい趣味である「ゲーム」のほうが twitter

を趣味活動の場として活用しているととりあえず言えるだろう。次に特定の趣味を持って

いる人の twitter の使い方については、「ゲーム」が「映画鑑賞」よりも趣味に関する公式

RT をする人が 3%ほど多いという結果となったが、ファンコミュニティーに関しては、「映

画鑑賞」の趣味を持つ人のほうが「ゲーム」よりも上回る結果となってしまった。

この結果になってしまった理由としては、まず、2017 年度の木村ゼミでの質問票において、

あてはまる趣味を複数回答で答える形式にしてしまったため、クロス集計時にその趣味単

体にあてはまる人ではなく、複数の趣味のうちの一つがあてはまる人という形式になって

いたことから、見えない他の趣味の影響が結果に表れてしまっていたことが考えられる。そ

れに加えて、他にもファンコミュニティー形成という活動自体が趣味ごとによって求めら

れたり求められなかったりするなどの相性が存在しているなどといったことが予測される。

今回の分析からは仮設を完全に立証するような結果にはならなかったが、ところどころ

仮説に沿った結果も見られ、更なる追求の余地が残されているように感じられる。また、2

つの変数間での相関関係やその間にある因果関係や擬似相関や媒介関係をもたらしている

要素など、趣味と SNS の関係のその背景にあるものはまだまだ未知であるといえ、今後の

課題として挙げられる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

303

大学生における消費の流行についての情報発信と情報取得の分析

要旨

SNS の登場により、大学生を取り巻く情報環境は大きく変化している。本研究で

は、大学生のファッションなどの消費の流行について、情報発信と情報取得の 2 つの

側面から分析を行う。分析には、木村ゼミが行った 2017 年度社会調査のデータを用

いる。大学生の流行についての情報源や、流行への関心度合いによる情報行動の変化

を分析することによって、大学生の流行についての意識や態度を明らかにすることを

目的とする。

キーワード:流行、情報発信、情報取得、SNS、シミュラークル

1.問題意識

近年、SNS などのインターネットメディアは大学生の生活に大きな影響を与えている。

インターネットメディアは、以前主流であったマスメディアにはない特徴として、検索機

能を用いて自分が調べたい情報にアクセスすることができる、自ら情報発信をすることが

容易であるという特徴を持つ。このような変化が起きている中で、現代の大学生はファッ

ションなどの消費の流行についてどのように向き合っているのかと疑問を持った。本研究

では流行について、情報の発信と取得の 2 つの側面に注目して分析していく。

2.調査方法

本研究では、木村忠正研究室が 2017 年に行った社会調査のデータを用いる。

調査名:メディアコミュニケーション論・社会調査

調査主体:立教大学木村忠正研究室

調査時期:2017 年 11 月

調査方法:Google Form 上での回答

調査対象:2017 年後期「メディア・コミュニケーション論」受講者

調査有効票:264 票

3.仮説

本研究を進めるにあたり、まず次のようなリサーチクエスチョンを立てた。

RQ「大学生はファッションなどの消費の流行についての情報発信と情報取得をどのよう

に行っているか」

また、それに伴い以下の 2 つの仮説を立てた。

立教大学社会学部メディア社会学科

304

仮説 1「大学生は消費の流行についての情報源として SNS を活用している。また、流行に

敏感な人ほど、SNS 上で積極的に情報収集を行っている」

仮説 2「大学生においては、流行に敏感な人ほど SNS を通じた情報発信が多く、こうして

発信された情報が、他者の流行の消費に影響を与えるというネットワークができている」

仮説 2 については、『「盛り」と「祭り」から読み解く若者たちの写真シェア文化』(電

通報 2016/1/22)において述べられている社会学者ボードリヤールが提唱したシミュラー

クル型の情報拡散モデルが若者の間でできているという考えをもとにして立てた仮説であ

る。

4.調査結果

①仮説 1 の検証

まずは、調査対象となる大学生の流行についての意識を分析した。問 19 買い物や商品

の選び方を問う項目の中の「新商品や流行りの商品はこまめにチェックしている」という

問いに対して「あてはまる」と回答した人は 47.3%、「あてはまらない」と回答した人は

52.7%であった。また、問 24-1-2 様々な行動、事柄についての感覚を問う項目の中の「流

行っているものが気になり、流行によく乗る」という問いに対しては、「あてはまる」と

回答した人は 45.5%、「あてはまらない」「と回答した人は 54.5%であった。

次に大学生の流行についての情報取得を分析していく。下の図 1 は問 16「何かを購入す

る時の情報源」を問う質問の回答割合のグラフである。

図 1:「何かを購入する時の情報源」の割合

1%

28%

1%

15%

38%

7%9%

2%1%

19%

2%

19% 19%

11%

16%13%

3%

12%

7%

22%

14% 12% 14%17%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

1位 2位 3位

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

305

図からもわかるように SNS、特に Instagram と Twitter はテレビや雑誌などのマスメ

ディアよりも情報源として大学生に活用されていることがわかる。

次に仮説 1 の後半部分「流行に敏感な人ほど、SNS 上で積極的に情報収集を行ってい

る」という部分について考察していく。本研究において、流行に敏感な人は問 24-1-2「流

行っているものが気になり、流行によく乗る」という質問に「あてはまる」と回答した人

とし、彼らの情報発信について分析を行っていく。

下の表はそれぞれ流行の関心度合いと Twitter、Instagram の利用とのクロス集計表で

ある。両 SNS 共に、1 日 20 回以上利用する人の割合が「あてはまる」と回答した人にお

いて 30%を超えるというデータが出た。

表 1:問 24-1-2 流行の関心度合いと問 6Twitter 利用のクロス集計

問 6 Twitter の利用

1 日 20

回以上

1 日 20

回〜1 回

それ以下 利用して

いない

合計

問 24-1-2 流行

っているものが

気になり、流行

によく乗る

あてはま

度数 39 62 8 11 120

問 24-1-2 32.5% 51.6% 6.7% 9.2% 100%

あてはま

らない

度数 25 95 11 13 144

問 24-1-2 17.4% 65.9% 7.7% 9.1% 100%

合計 度数 64 157 19 24 264

問 24-1-2 24.2% 59.5% 7.2% 9.1% 100%

*漸近有意確率…0.9%

表 2:問 24-1-2 流行の関心度合いと問 12Instagram の利用のクロス集計

問 12 Instagram の利用

1 日 20

回以上

1 日 20

回〜1 回

それ以

利用して

いない

合計

問 24-1-2 流

行っているもの

が気になり、流

行によく乗る

あてはま

度数 41 54 11 14 120

問 24-1-2 34.1% 45.0% 9.1% 11.7% 100%

あてはま

らない

度数 26 82 7 29 144

問 24-1-2 18.1% 57.0% 4.9% 20.2% 100%

合計 度数 67 136 18 43 264

問 24-1-2 25.4% 51.%% 6.8% 16.3% 100%

*漸近有意確率…1.8%

下の表 3 は問 24-1-2 流行の関心度合いと問 21 商品・サービス購入などの意思決定の際

に SNS をどの程度利用するかという質問でクロス集計をした表である。

立教大学社会学部メディア社会学科

306

表 3 からわかるように、「あてはまる」と回答した人ほど購入の意思決定の際に SNS

を利用しているというデータが出た。では、流行に敏感な人と敏感でない人では、SNS で

閲覧する投稿にどのような差があるのか。

表3:問24-1-2流行の関心度合いと問21口コミサイトの利用「SNS」のクロス集計

問21 SNS

合計 する しない

問24-1-2 流行ってい

るものが気になり、流

行によく乗る

あてはまる 度数 75 45 120

問24-1-2 62.5% 37.5% 100.0%

あてはまらない 度数 67 77 144

問24-1-2 46.5% 53.5% 100.0%

合計 度数 142 122 264

問24-1-2 53.8% 46.2% 100.0%

*漸近有意確率…1.0%

下の表 4・5・6は問 24-1-2 と問 17 商品・サービス購入のきっかけとなる影響力の強さ

を聞く質問の友人、芸能人、友人・芸能人以外の人の SNS での投稿それぞれの項目とで

クロス集計をした表である。

表4:問24-1-2流行の関心度合いと問17友人のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

問17友人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行ってい

るものが気になり、流

行によく乗る

あてはまる 度数 99 21 120

問24-1-2 82.5% 17.5% 100.0%

あてはまらない 度数 89 54 143

問24-1-2 62.2% 37.8% 100.0%

合計 度数 188 75 263

問24-1-2 71.5% 28.5% 100.0%

*漸近有意確率…0.0%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

307

表5:問24-1-2流行の関心度合いと問17芸能人のSNSでの投稿の影響力のクロス集計

問17芸能人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行っ

ているものが気に

なり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 82 38 120

問24-1-2 68.3% 31.7% 100.0%

あてはまらない 度数 80 63 143

問24-1-2 55.9% 44.1% 100.0%

合計 度数 162 101 263

問24-1-2 61.6% 38.4% 100.0%

*漸近有意確率…4.0%

表6:問24-1-2流行の関心度合いと問17友人・芸能人以外のSNSでの投稿の影響力のクロス

集計

問17友人・芸能人以外の

人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問24-1-2 流行っ

ているものが気に

なり、流行によく

乗る

あてはまる 度数 70 50 120

問24-1-2 58.3% 41.7% 100.0%

あてはまらない 度数 55 88 143

問24-1-2 38.5% 61.5% 100.0%

合計 度数 125 138 263

問24-1-2 47.5% 52.5% 100.0%

*漸近有意確率…0.1%

SNS での投稿の影響力が「強い」と回答した人に注目すると、流行に敏感な人とそうで

ない人の差は、友人の投稿と友人・芸能人以外の人の投稿では約 20%、芸能人の投稿では

約 12%と結果に差がでた。このことから流行に敏感な人は SNS において、芸能人以外の

人、つまり社会的な影響力を持たない人の投稿をよく閲覧していることがわかった。

以上のことから仮説 1 を検証すると、大学生は消費の流行の情報源として、SNS や各種

ネットサイトを多く活用しており、流行によく乗る人、敏感な人ほど購入の意思決定の際

に SNS を多く利用している傾向があることがわかった。また、流行に敏感な人の傾向と

して、友人やその他一般人のように社会的影響力をあまり持たない人の投稿の影響力が、

流行に敏感でない人に比べ高い傾向があることがわかった。

立教大学社会学部メディア社会学科

308

②仮説 2 の検証

次に仮説 2 について検証を行っていく。下の表 7 は、問 24-1-2 と Instagram の累計投

稿数のクロス集計表である。

表 7:問 24-1-2 流行の関心度合いと Instagaram の累計投稿数のクロス集計

累計投稿数

0〜49 50〜99 100〜199 200 以上 合計

問 24-1-2 流

行っているもの

が気になり、流

行によく乗る

あてはまる 度数 79 19 6 2 106

問 24-1-2 74.5% 17.9% 5.7% 1.9% 100%

あてはまら

ない

度数 89 7 15 4 115

問 24-1-2 77.4% 6.1% 13.0% 3.5% 100%

合計 度数 168 26 21 6 221

問 24-1-2 76.0% 11.8% 9.5% 2.7% 100%

*漸近有意確率…2.8%

「あてはまる」と回答した人と「あてはまらない」と回答した人の間で、累計投稿数に

大きな差は見られない。このことから、流行に敏感な人ほど情報発信が多いという仮説 2

の前半部分は否定できると考えられる。

下の表 8 は、問 17 商品・サービス購入の際の影響力を聞く質問の「友人の SNS の投

稿」の項目と、問 21 商品・サービス購入の際にどのような口コミサイトを利用するかと

いう質問の「SNS」の項目のクロス集計表である。

表8:問21口コミサイトの利用「SNS」と問17友人のSNSでの投稿の影響力のクロ

ス集計

問17友人のSNSでの投稿

合計 強い 弱い

問21 SNS する 度数 112 30 142

問21 78.9% 21.1% 100.0%

しない 度数 76 45 121

問21 62.8% 37.2% 100.0%

合計 度数 188 75 263

問21 71.5% 28.5% 100.0%

*漸近有意確率…0.4%

上の表からわかるように、友人の SNS の投稿の影響力が「強い」と答えた人は全体で

71.5%と大きな影響力を持つことがわかった。また、商品・サービス購入の際に SNS を利

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

309

用する人ほど、友人の SNS の投稿に影響を受けるというデータも出た。このように友人

の SNS の投稿は私たちの消費行動に一定の影響を与えており、仮説 2 の「発信された情

報が、他者の流行の消費に影響を与えるというネットワークができている」という後半部

分は立証できると考えられる。

以上のことより仮説 2 について、SNS を通じた情報発信においては、流行への関心度合

いによって、情報発信の頻度の変化は見られないが、SNS 上で発信された情報は他者の流

行の消費に影響を与えていると結論付けられる。

5.総括

本研究では、初めに以下の 2 つの仮説を立てた。

仮説 1「大学生は消費の流行についての情報源として SNS を活用している。また、流行に

敏感な人ほど、SNS 上で積極的に情報収集を行っている」

仮説 2「大学生においては、流行に敏感な人ほど SNS を通じた情報発信が多く、こうして

発信された情報が、友人の流行の消費に影響を与えるというネットワークができている」

仮説 1 については、流行の情報源として SNS が活用されており、その中でも流行に敏

感な人ほど SNS を活用していることがわかった。また、身の回りの友人などの SNS での

投稿が大学生の流行の情報源として強い影響力を持っていることは特筆すべき点であると

考えられる。SNS がより現実でのコミュニケーションに近い形で「口コミ」としての影響

力を持つようになっているのではないかと考えられ、この点については今後より深く研究

する必要があると思う。

仮説 2 については、流行についての敏感度合い、関心度合いによってでは情報発信の量

に変化は見られないということがわかった一方で、私たちの SNS での投稿は他者の流行

の消費に影響を与えていることがわかった。このような情報のネットワークは社会学者ボ

ードリヤールが提唱したシミュラークル型のネットワークの形になっていると考えられ

る。誰しもが情報発信を行うことができ、その発信された情報が、流行の情報源となりう

るという点は、情報技術が発展した現代においての流行の特徴の一つとして挙げられるで

あろう。この点についても、今後より研究を深めていきたいと思う。

参考文献

日本語文献

赤阪俊一、乳原孝、辻幸恵(2004) 「流行と社会 過去から未来へ」 白桃書房

中島純一(1998) 「メディアと流行の心理」 金子書房

ネット資料

植田康孝(2016) 「ファッション・コーディネートのメディア進化〜若者の Instagram 利

用急拡大〜」

立教大学社会学部メディア社会学科

310

https://edo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_

main_item_detail&item_id=653&item_no=1&page_id=13&block_id=21 (アクセス

日 2018 年 2 月 14 日)

電通報(2016/1/22) 『「盛り」と「祭り」から読み解く若者たちの写真シェア文化』

https://dentsu-ho.com/articles/3597 (アクセス日 2018/2/13)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

311

インターネット利用は若者を「ダメ」にするのか

1はじめに

本調査では、若者が「ダメ」と言われる問題に関して、コミュニケーションの観点からダ

メかどうかの判断を行う。現代の社会では、「 近の若者はダメだ」と言う大人が増えたと

いうことをよく耳にする。「ゆとり世代」といった言葉も、「若者」がダメと言われている言

葉の一つであろう。若者が「ダメ」と言われるようになった原因の一つとして、私は社会に

オンラインメディアが登場したことに目を付けた。特にインターネット利用は、若者をダメ

にしている理由の一つとして挙げられるのではないだろうか。では、なぜインターネットを

利用することは、若者をダメにしていると考えられるのであろうか。今回の調査では、「若

者」の定義を、立教大学に通う大学生とし、「ダメ」という定義を「コミュニケーション能

力の欠如」と位置付ける。また、結論としては、γ班の仁瓶が行う「学力の低下におけるダ

メ」という定義と、自身の行う「コミュニケーション能力の欠如によるダメ」の定義の二点

から、本当に現代の若者は「ダメ」と言えるのかを明らかにする。

2本論

2-1若者とインターネット

上記でも示したように、若者が「ダメ」と言われる理由として、コミュニケーション

能力の欠如、いわゆる意思疎通ができないことが理由として考えられる。コミュニケー

ション能力が欠如する理由の一つとして考えられるのが、現代の大人が学生の頃には盛

んではなかった、インターネットという環境だ。本調査では、インターネットを利用す

ることによって、若者のコミュニケーション能力(主に対面でのコミュニケーション)

が下がっているという考えの元、調査を進める。現にインターネットが普及したという

ことは、様々な面で若者に影響を与えていると考えることができる。以下の図は立教大

学に通う大学生に、「いつから携帯電話(ガラパゴス携帯)を持ち始めたか」という質

問をした際の回答である。

立教大学社会学部メディア社会学科

312

図1 社会調査 アンケート(ガラパゴス携帯)

この図では、1が小学生低学年、2が小学生高学年、3が中学生、4が高校生、5が

大学生を表している。グラフの数値を見てもわかるように、早くて未就学児、 も多くて小

学生高学年の時からガラパゴス携帯(以下ガラケーとする)を持ち始めているということが

わかる。つまり、現代の大学生は、小学生時代からインターネット環境というものが身近に

存在していたということを理解することができる。携帯電話以降、スマートフォンが普及し

たことによって、我々とインターネット環境というものはより身近になった。以下の図は

「いつからスマートフォンを持ち始めたか」という質問をした際の回答である。

図2社会調査アンケート(スマートフォン)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

313

スマートフォンの場合では、多くの人が高校生時代から持ち始めている。ガラケーでは小

学校高学年、中学生時代から、スマホでは中学生、高校時代に持ち始めた人が も多いこと

から、小学生、中学生時代にガラケーを持ち始めた人の多くが、中学、高校に進学する際に

ガラケーからスマホに変更したということが考えられる。この調査をして も驚くべきこ

とは、調査を行った全学生が、ガラケーかスマホのどちらかを必ず所持しているという点で

ある。それだけ、ガラケー、スマホを通したインターネットという環境は若者にとって身近

であるということがうかがえる。では、インターネットが身近にあるという状況は、具体的

にどのような状況なのであろうか。まずは、ガラケーを持っている際の、インターネットの

利用意図、方法について考えたい。

2-2ガラケーとコミュニケーション

初期のガラケーの場合、基本的には通話とメールといった機能がメインとなるだろう。私

たちが小学生のころのガラケーはその二つが主な使用方法であった。その後、ガラケーの機

能が進化するにつれて、ワンセグテレビや、簡易的な携帯ゲーム、カメラなどの機能が搭載

された。インターネットの面に関しては、ガラケー内にインターネット機能は搭載されては

いるものの、パケット通信料が高くかかることや、インターネットとしての利便性がそこま

で高くないことから、あまり用いられてはいなかったように思われる。実際に私が中学生で

あった 2012 年~2015 年頃はスマートフォンが発売される直前であり、多くの友人が、スラ

イド式のガラケーや、防水、防塵など様々な機能の搭載されたガラケーを所持していたが、

インターネットを利用している者は少なかった。つまり、ガラケーの使用方法は、通話やメ

ールが主であり、使用意図は、基本的には通話やメールなどによって相手とつながることで

あるため、インターネット利用はそこまで頻繁に行われてはいなかったと判断することが

できる。次にガラケーを使用したことによる使用者の変化という点に着目したい。ガラケー

を使用した際にどのような変化があったかという質問82を学生に行った際に多くの見られ

たのが以下の回答だ。

① 視力が落ちた

② 就寝時間が遅くなった。

③ 勉強時間が減少した。

④ 常に携帯のことが気になるようになった。(メールが来ていないかどうか気になる)

これらの回答は、主にガラケー利用による悪影響を抜粋したものである。視力や学力など、

身体面における悪影響は様々だが、コミュニケーション能力の低下という観点から見ると、

ガラケーの使用による影響はほとんどないと判断することができる。ガラケーの場合は、イ

82 木村ゼミ実施、社会調査アンケート 問2-3 携帯電話を利用し始めて、何か変わったことはありましたか

立教大学社会学部メディア社会学科

314

ンターネットを利用することも少ないことから、コミュニケーション能力の低下につなが

っている可能性は低いといえるであろう。

2-3スマホとコミュニケーション

次にスマートフォンにおけるインターネットの利用意図、方法について考える。スマート

フォンでは、通話、メールといったガラケー時代の主機能に加え、新たに、アプリといった

スマートフォン内において様々なコンテンツを楽しむことができるソフトウェアが搭載さ

れた。例えば、LINE や Twitter などの SNS をはじめ、パズドラ、モンストといった課金式

ゲーム、YouTube、ニコニコ動画などの動画視聴サービス、アマゾンやメルカリなどの販売

サービスなど、様々な利用方法の存在するアプリが開発され、スマホ内に搭載された。実際

にはアプリストアというアプリを販売しているサイトから、自身の用途に合わせたアプリ

を基本的には無料で、場合によっては有料でダウンロードすることができるため、スマホ所

有者の利用意図によって、使うアプリを選ぶことが可能となっている。これらのアプリは、

インターネット環境を介して利用することが可能となっている。インターネット利用の面

では、スマホ内のアプリの一つとして、インターネットをいつでも利用できる機能が搭載さ

れたため、スマホを所持し電波の届く場所であれば、どこでもインターネットが利用できる

ようになった。いわば、いつでもインターネットを利用することが可能な、持ち運び小型P

Cを持っているようなものである。ガラケーに比べ、インターネットをより身近に利用する

ことが可能となったスマートフォンであるが、利用したことによる変化83としては以下の回

答が挙げられる。

① 家にいる時間が増えた。

② インターネットの利用が増えた。

③ SNSを多く利用するようになった。

④ 本を読まなくなった。(長い文章が苦手になった)

⑤ 人と会っていてもスマホを見ていることがある。

ガラケー時の回答にも見られた、視力や勉強時間、睡眠時間の減少に加え、上記のような回

答が多くみられた。ここでの回答の注目すべきところは、①、③の2つである。これらの回

答はコミュニケーション能力の低下につながっているのではないかと考えることができる。

この二つに共通することは、人と人が対面で会話を行う機会が減っているということであ

る。SNSの発達は、ネット上でいつでも誰とでも会話をできるようになった反面、会わず

にオンライン上で会話を済ませるということを可能にしてしまった。その結果として表れ

ているのが、①の家にいる時間が増えたという結果であろう。カルフォルニア大学ロサンゼ

ルス校(ULCA)の心理学教授であったアルバート・メラビアンは、人と人が直接顔を合

83 木村ゼミ実施、社会調査アンケート 問2-4 スマホを利用し始めて、何か変わったことはありましたか

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

315

わせるフェース・ツー・フェース・コミュニケーションには、基本的に三つの要素が84ある

としている。視覚情報「見た目・表情・しぐさ・視線等」、聴覚情報「声の質、話す速さ、

声の大きさ・口調等」、言語情報「言葉そのものの意味・話の内容等」85の三つである。また、

人へメッセージを伝達する際は、言葉が7パーセント、声のトーンや口調が38パーセント、

ボディランゲージは55%の割合で相手は意味を理解しているという実験結果が明らかと

なっている。しかし、SNS上の会話においては、視覚や聴覚から得られる情報は全くとい

えるほど存在しておらず、コミュニケーションを文字情報のみで行うという状態が成り立

ってしまう。つまり、人と対面でコミュニケ―ションをする機会が減ったことによって、相

手の口調や表情を読み取るとる機会も減り、それが結果として対面でのコミュニケーショ

ン能力の欠如につながっているのではないかと考えることができる。インターネット環境

を介して行われるSNSは、若者のコミュニケーション能力の欠如に繋がっていると判断

できる。

3結論

本論の内容から判断できるように、インターネットの利用はコミュニケーション能力を

低下させていると考えられる。その原因として考えられたのが、SNSのオンラインコミュ

ニケーションのよる、対面コミュニケーションの減少だ。文字のみの会話しか行わないとい

うことが、相手の表情や口調、ボディランゲージといった対面でのコミュニケーションに多

く含まれる要素を読み取ることを高度化し、結果としてそれがコミュニケーション能力の

欠如に繋がっていると判断することができる。しかし、SNSを利用することが必ずしもコ

ミュニケーション能力の欠如に繋がっていると言い切れないのも事実である。本論2-2

でも述べたように、SNSにはいつでも誰とでもリアルタイムに話すことができるように

なったというメリットも存在している。実際に、スマートフォンを持ったことによる変化と

して、「接点の少ない友達ともつながりやすくなった」「友達が増えた」などの、対面でのコ

ミュニケーション増加が見込める変化もある。だからこそ私は、インターネット利用は若者

を「ダメ」にしているとは一概に言い切れないと考えている。「ダメ」の定義を学力の低下

として調査した仁瓶が、スマートフォンの利用時間によっては、必ずしも学力が低下するわ

けではない、と考えているように、コミュニケーションの観点においても、必ずしも能力が

欠如するわけではないと考えている。以上の理由から、インターネット利用は若者を「ダメ」

にしているとは言い切れないと結論付ける。

γ班の調査結果からもわかるように、使用方法によって様々な影響を与えるのがスマー

トフォンである。特に、子どもはその影響を も受けやすい。我々大人は、子どもの未来の

ためにも、スマートフォンと今後どのように関わっていくかということをもっと考えなけ

ればいかいのではないだろうか。

84 和田 秀樹 「スマホで馬鹿になる~子どもを壊す依存症の恐怖~」時事通信社 2014年10月 57頁 85 同上3

立教大学社会学部メディア社会学科

316

4参考文献

・木村ゼミ 社会調査

・γ班 仁瓶七海 「インターネット利用は若者を「ダメ」にするか」

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

317

SNS の利用と価値観の関係性について

<要旨>

本論文は、2017 年 11 月に立教生を対象にして行った木村ゼミアンケートの結果の分

析を通して、SNS の利用方法(利用頻度)と個人が持つ価値観にどのような関係性が

あるのかを考察したものである。アンケート結果は、Twitter と Instagram それぞれ

の利用頻度を参考にグループ分けをし、分析を行うことで、グループごとの価値観と

の関係性の違いを考察できるように取り組んだ。

キーワード:Twitter、インスタグラム、価値観、消費行動

1.はじめに

Mixi や Facebook、Instagram など様々な SNS が登場し利用されてきている。そのなかか

ら利用者は SNS ごとの特徴やその時代で主流となっているかどうかなどを比較、検討して

より自分にあった SNS を選択し利用していたように感じる。しかし、最近では SNS 同士

の連携が進められているなど、一つの SNS に絞るのではなく、複数の SNS を使い分けて

利用している人が増えるなど、SNS の利用形態の幅が広がっているように感じる。そして

SNS の利用の仕方には個人の価値観が関わっていると感じたため、現代の大学生の SNS 利

用方法ごとにどのような価値観の違いを持っているのかを Twitter と Instagram 利用者を対

象として分析・検討したい。

2.本論 2-1.Twitter、Instagram について

今回分析の対象とする SNS として Twitter と Instagram を選択した。これらの利用者

の価値観を分析するにあたり、それぞれの SNS の特徴について知ることは利用者の利用

目的を知るうえで欠かせないと考えた。

まず、Twitter は上限 140 文字の中で発言すること(発信すること)ができる。少ない

文字数で発言することから、気軽に利用しやすい SNS であると考えられる。また、どん

な人とも気軽にやり取りが行える点も特徴だと言えるだろう。

一方 Instagram は文字によるコミュニケーションではなく、写真や動画を使って人とつ

ながりを持つことや、世の中の楽しいことを発見するなどすることができる。生活の中で

の様々な瞬間から自分を表現するコンテンツがシェアできる。物事をシェアするために利用

できることが特徴だと言えるだろう。

立教大学社会学部メディア社会学科

318

2-2.SNS ごとの利用者の特徴

リスキーブランドが 2017 年 5 月に行った生活者分析によると、Twitter は若者の利用者が

多く、Instagram に比べて男性の利用が多いことが分かる。また、Instagram は若者が多

いことは変わらないが、女性の利用が多いこともわかる。また、同調査から、各 SNS の

価値観特性として、Twitter は「甘えたい」と感じる一方、他人は他人であると切り離し

考えるという特性があるとされている。また、同調査によると、Instagram に関しては、

デザインや要望、流行を重視する人が多い。

2-3.木村ゼミ社会調査 2017 の分析からみる SNS 利用頻度ごとの価値観の違い

2-3-1.分析の目的

Twitter、Instagram の利用頻度により利用者個人の価値観にどのような違いが出るの

かを知るために分析、考察を行う。

社会調査の対象者は立教大学メディアコミュニケーション論受講学生であるため、今回

は大学生の価値観に焦点を絞り分析を行う。

2-3-2 分析対象、方法

分析対象:木村ゼミ社会調査 全有効回答 264 人

分析方法:木村ゼミ社会調査の問 6「Twitter を一日にどれくらい利用しますか」問 12

「Instagram を一日にどれくらい利用しますか」の二つの質問の回答結果から回答者を五

つのブロックに分け、分析を行う。ブロックの分け方は以下のとおりである。

A ブロック;Twitter、Instagram ともに一日に 21 回以上利用する人

B ブロック;Twitter は一日に 21 回以上利用するが、Instagram は一日に 1 回から 20 回

しかりようしない

C ブロック;Twitter は一日に 1 回から 20 回しか利用しないが、Instagram は一日 20 回

以上利用するひと

D ブロック;Twitter、インスタ共に一日 1 回から 20 回しか利用しない人

E ブロック;Twitter、Instagram ともに、数週間利用しないひと

このようなブロック分けを行うことで、SNS の利用頻度ごとに価値観や行動の特徴を読み

取ることができ、SNS ごとの特徴や価値観の違いから生まれる利用形態の変化が読み取れ

るのではないかと考えた。各ブロックの特徴は以下のとおりである。

A ブロック:Twitter・Instagram 共に利用頻度が高く、SNS 全体に対する関心が も高

B ブロック:Twitter のみ利用頻度が高い

C ブロック:Instagram のみ利用頻度が高い

D・E ブロック:SNS 全体に対する関心が低い

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

319

価値観を比較するために使用する質問項目は以下の通りである。

質問①「流行っているものが気になり、流行によく乗る」

質問② [友人の持っているものをうらやましく思い、同じものを購入することがある]

質問③「私はリア充だ」

また、この質問の回答を分析するにあたり、あてはまる・まああてはまるを合わせて「当

てはまる」、あてはまらない・あまりあてはまらない、の二つを合わせて「あてはまらな

い」とした。

2-3-3.仮説

生活者分析の結果を考慮すると、A ブロックは SNS 全体に対する関心が高いため、アン

テナが高く、興味の幅や種類が多い人な人が多いのではないか。B ブロックは Twitter 利

用頻度が高いため Twitter 利用者の価値観とかなり似通るのではないかと考えたため、人

とのつながりを求めつつも、外部に対してライバル意識を持っている人が多いのではない

か。一方、C ブロックは Instagram 利用頻度が高いため、Instagram 利用者の価値観と似

ると考えたため、流行に敏感な人や充実感がある人が多いのではないかと考えた。D ブロ

ックは SNS 全体に対する関心が低いため、外部に向けられる関心が薄い人が多いのでは

ないか。E ブロックは D ブロックよりさらに SNS に対する興味がなかったり、SNS に対

する抵抗感があると考えたため、全体的に肯定感が少なそうな傾向があると考えた。

2-3-4.分析結果

問①流行っているものが気になり、流行によく乗る」

結果;A ブロックは約 68%が当てはまると答えており、他と比べて流行りを気にしている

人が多くいることが分かる。しかし、B ブロックと C ブロックではあまり差が出ないとい

う経験になった。

考察;SNS に対する意識が高い方が流行に乗りやすいが、Twitter と Instagram では今回

の分析では大きな違いは見られなかった。SNS 自体が 新の情報に触れることができる手

段であるため、SNS に対して関心を向けている人ほど流行も意識しているのではないか。

また、Instagram、Twitter のどちらかが流行に近いということもあまり見られないの

は、SNS を使うことで流行に近づけるため、どちらを利用するとしても、流行に近づく手

段になるからだと考えた。

立教大学社会学部メディア社会学科

320

グラフ 1「流行っているものが気になり、流行によく乗るかどうか」

問②[友人の持っているものをうらやましく思い、同じものを購入することがある]

結果;SNS をよく利用している人に当てはまることが多い。また、B ブロックが 51%の人

が当てはまるが C ブロックは 36%と B にくらべると少ないことが分かる。

考察:SNS を利用している人ほど他者に対する羨望が強く出てくると言えるのではいか。

また、Instagram メイン利用者よりも Twitter をメインに利用している方が羨望の気持ち

が強く出ている。Twitter は他人の生活に関わるという側面は薄いと思うが、人との繋がり

やすさという点は Twitter の特徴であるため、友人に対して向けられる意識が Instagram

より強かったのではないか。

32%52% 58% 59% 53% 55%

68%48% 42% 41% 47% 45%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

A2 B2 C2 D2 E2 参考

流行っているものが気になり、流行によく乗る

あてはまらない あてはまる

35%48%

64% 64% 65% 59%

65%52%

36% 36% 35% 41%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

A2 B2 C2 D2 E2 参考

友人の持っているものを羨ましく思い、同じものを購入することがある

あてはまらない あてはまる

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

321

問 3.「私はリア充だ」

結果:A ブロックから D ブロックまであまり大きな変化が見られなかった。E ブロックは

他と比較し、リア充だと思っている人が少なかった。

考察:SNS の利用頻度や利用形態により多少は変化するものの、特定の SNS を使ってい

るからや多く SNS を利用しているからリア充だと感じるのではないことが分かる。ま

た、SNS を使わない E ブロックが一番リア充だと自覚している人が少なく、SNS を使う

という行為がリア充であると自覚することの原因の一つになっているということも考えら

れる。

3.結論 全体を通して、A ブロックは各質問に当てはまる確率が一番高く、SNS の利用頻度が高

いということは、SNS に対する関心が高く、SNS を行う目的である外部とのつながり意

識が高かったり、外部と比較することが多い傾向にあった。Twitter と Instagram の比較

としては、二つの間に大きな差は見られなかった。これは、利用頻度ごとで区切ってはい

ても、二つの SNS を利用しているため、どちらかに偏った価値観を持っていたり、偏っ

た利用をしている人が少なかったためだと考えられる。そんな中でも、Twitter は比較的

Instagram より各質問に当てはまる人が多く、外部とのつながりを意識している人が多い

印象を受けた。これは Twitter の特徴でもある簡単に人とつながれるという性質が影響し

ているのではないかと考えた。

先ほど、Twitter と Instagram で思ったほどの差が出なかったと述べたが、二つの SNS

を使いこなす人がいるように、自分たちの価値に合わせて SNS の利用方法を利用者側が

考え、工夫する時代になってきているのではないかと考えた。それを知るためには、具体

55%64% 61% 60%

71%61%

45%36% 39% 40%

29%39%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

A2 B2 C2 D2 E2 参考

わたしはリア充だ

あてはまらない あてはまる

立教大学社会学部メディア社会学科

322

的に、SNS のどんな機能を使い、どのような事を発信しているのかまで知る必要があると

考えたため、卒業論文の参考にするためにまた、調査したい。

インターネット情報源 株式会社リスキーブランド 生活者分析/SNS 利用者動向(2017 年 5 月 10 日)

http://www.riskybrand.com/report_170510/ (2018 年 2 月 3 日 アクセス)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

323

Twitter における自己

要旨

現代の若者は SNS を四六時中使いこなし、現実世界と SNS の両方の世界でコミュニケーシ

ョンを行っている。SNS 特有のコミュニケーションがあるように、それに付随して自己表

現に関しても SNS 特有のものが見受けられるのではないかと考えた。

そこで、本調査では、SNS の中でも特に Twitter における自己に焦点を当て、立教大学社

会学部の学生 245 名を対象に 2017 年に実施した「メディア・コミュニケーション行動の

実態」に関する調査票調査の結果をもとに、アカウントの用途、アカウント数の観点から

検証し、Twitter を通じた現代の若者の自己に対する考え方について探っていく。

キーワード:SNS、Twitter、自己、複数アカウント、アカウント数

1.はじめに

電通総研の「若者まるわかり調査 2015」(2015 年 2 月)によると、多くの高校生が日常的

に複数のキャラを使い分けており、Twitter でも複数アカウントを使い分けていることがわ

かった。それぞれで人間関係や付き合いがあるため、その時々で自分のキャラを使い分けて

いるという。

また、「Twitter だけが本音を言える場所」であり、裏アカウントを複数持つことで、現

実世界で落ち込んだことをツイートしてバランスを取っている人もいることが主張されて

いた。

さらに、東洋経済の記事によると、メインアカウントでは知らない人にもフォローされて

おり、個人的なことをつぶやきにくいことから、「親しい友人しかフォロワーにいないアカ

ウント」や「趣味専用アカウント」などを作り、自分の本音や趣味についてつぶやいている

ということが述べられていた。

以上のことから、現代の若者は、Twitter の複数アカウントによって自分のキャラを使い

分けており、現実世界での人間関係やリア垢での人間関係とバランスを取っていると考え

られる。

これらの先行研究から、以下の 3つの仮説を考えた。

① 「SNS の自分が素の自分である」と考える人は、「SNS 上では普段は表に出せないよ

うな自分の考えを出すことができる」と考えたり、「SNS 上の世界のほうが生きてい

る実感が得られる」と考えたりする傾向がある。

立教大学社会学部メディア社会学科

324

② 親しい友人以外もフォロワーにいるリア垢よりも、親しい友人のみの少人数フォ

ロー専用アカウントや趣味用アカウントのほうが「素の自分である」と考える人が

多い

③ 持っているアカウント数が多い人ほど、「本当の自分というものは 1 つとは限らな

い」と考えたり、「人に見られている自分と本当の自分は一致しない」と考えたりす

る傾向がある。

2.分析方法

量的調査として、2017 年度秋学期授業「メディア・コミュニケーション論」を履修中

である立教大学社会学部の学生 245 名に対して「メディア・コミュニケーション行動の

実態」に関する調査票調査を実施した。

本文では、この調査票調査の結果をもとに検証を進めていく。

【分析において扱う質問項目】

Q9-1 Twitter のメインアカウント【用途】

Q10 Twitter のアカウント数

Q11-1 Twitter のサブアカウント【用途】

-2-1 「SNS の自分は、素の自分である」

Q24-1-2 「本当の自分というものは 1つとは限らない」

-4-1 「人に見られている自分と本当の自分は一致しないと感じる」

Q25-1-2 「普段は表に出せないような自分の考えを、出すことができる」

「SNS 上の世界のほうが生きているという実感が得られる」

3.分析結果

3.1 仮説①「SNS の自分は、素の自分である」と、「SNS 上では普段は表に出せないよう

な自分の考えを出すことができる」、「SNS 上の世界のほうが生きている実感が得られる」の

関連性

初めに、調査票調査の結果から、「SNS の自分は、素の自分である」と回答した人の割合

を調べた。

図 1において、「あてはまる」を【1】、「あてはまらない」を【2】としてみてほしい。

「あてはまる」と回答した人は、全体の 59%おり、それに対して「あてはまらない」と回

答した人は、全体の 41%だった。

この結果から、全体の半数以上の人は、「SNS の自分は、素である」と考えていることが

わかった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

325

この結果を踏まえたうえで、仮設①の検証を行った。

まず、Q11-2-1:「SNS の自分は、素の自分である」と、Q25-2:「SNS 上では普段は表に

出さないような自分の考えを出すことができる」の 2変数間での関連性を、カイ 2乗検

定を用いて検定を行った。

帰無仮説 H0:「SNS の自分は、素の自分である」と、「SNS 上では普段は表に出さないよ

うな自分の考えを出すことができる」には関連がない

対立仮説 H1:「SNS の自分は、素の自分である」と、「SNS 上では普段は表に出さないよ

うな自分の考えを出すことができる」には関連がある

その結果、p=0.411 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

次に、Q11-2-1:「SNS の自分は、素の自分である」と、Q25-2:「SNS 上では普段は表に出

さないような自分の考えを出すことができる」の2変数間での関連性を、カイ 2乗検定を

用いて検定を行った。

帰無仮説 H0:「SNS の自分は、素の自分である」と、「SNS 上の世界のほうが生きている

実感が得られる」には関連がない

対立仮説 H1:「SNS の自分は、素の自分である」と、「SNS 上の世界のほうが生きている

実感が得られる」には関連がある

その結果、p=0.299 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

3.2 仮説②「SNS の自分は、素の自分である」と、「メインアカウントの用途」、「サブ

アカウントの用途」の関連性

初めに、調査票調査の結果から、「メインアカウントの用途」について調べた。図 2に

おいて、「リア垢」を【1】、「趣味用」を【2】、「少人数フォロー専用」を【3】、「その他

(情報収集用など)」を【4】としてみてほしい。メインアカウントの用途で最も多かった

のは、「リア垢」で、56%と半数以上の人が回答していることがわかった。

その次に「その他(情報収集用など)」(28%)、「趣味用」(13%)、「少人数フォロー専

用」(3%)が続いた。

「メインアカウントの用途」を踏まえたうえで、Q11-2-1:「SNS の自分は、素の自分で

ある」と、Q9‐1:「あなたのメインアカウントは、どのようなアカウントですか?」の 2

変数間での関連性を、カイ 2乗検定を用いて検定を行った。

立教大学社会学部メディア社会学科

326

帰無仮説 H0:「SNS の自分は、素の自分である」と、「メインアカウントの用途」には関

連がない

対立仮説 H1:「SNS の自分は、素の自分である」と、「メインアカウントの用途」には関

連がある

その結果、p=0.219 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

次に、「サブアカウントの用途」について、調査票調査の結果から調べてみた。図 3に

おいて、「趣味用」と「その他(情報収集用など)」が最も多く、34%で、次に「少人数フ

ォロー専用」が多く、

26%だった。

この結果を踏まえたうえで、Q11-2-1:「SNS の自分は、素の自分である」と、Q11-1:

「あなたのサブアカウントは、どのようなアカウントですか?」の 2変数間での関連性

を、カイ 2乗検定を用いて検定を行った。

帰無仮説 H0:「SNS の自分は、素の自分である」と、「サブアカウントの用途」には関連

がない

対立仮説 H1:「SNS の自分は、素の自分である」と、「サブアカウントの用途」には関連

がある

その結果、p=0.101 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

3.3 仮説③「持っているアカウント数」と「本当の自分というものは 1 つとは限らな

い」の関連性

まず初めに、「持っているアカウント数」について、調査票調査の結果から調べた。図 4

において、最も多かったのが「2~4個」で 58%と、全体の半数以上の人が回答した。次

に、多かったのが「1個」で 32%だった。一方で、5個以上は全体の 10%にしか満たなか

った。

この結果を踏まえたうえで、Q10:「持っているアカウント数」と、Q24-1-2:「本当の自

分というものは 1つとは限らない」の 2変数間での関連性を、カイ 2乗検定を用いて検定

を行った。

帰無仮説 H0:「持っているアカウント数」と、「本当の自分というものは 1つとは限ら

ない」には関連がない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

327

対立仮説 H1:「持っているアカウント数」と、「本当の自分というものは 1つとは限ら

ない」には関連がある

その結果、p=0.069 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

次に、Q10:「持っているアカウント数」と、Q24-4-1:「人に見られている自分と本当の自

分は一致しないと感じる」の 2変数間での関連性を、カイ 2乗検定を用いて検定を行っ

た。

帰無仮説 H0:「持っているアカウント数」と、「人に見られている自分と本当の自分は

一致しないと感じる」には関連がない

対立仮説 H1:「持っているアカウント数」と、「人に見られている自分と本当の自分は

一致しないと感じる」には関連がある

その結果、p=0.059 で有意差は認められなかった(p>0.05)。

よって、帰無仮説(H0)は棄却できず、2変数間に関連性はみられなかった。

4.考察

まず、仮説①に関して、今回の調査結果から、「SNS の自分は、素の自分である」と答え

た人が半数以上いることが判明した。SNS 上で素であるからこそ、意見を言いやすいと感

じたり、生きている実感が得やすいと考えたりする人がいるのではないかと思ったが、実

際には、素であるからといって、SNS 上のほうが意見を言いやすかったり、生きている実

感が得られたりするわけではないことが分かった。

このような結果になった理由として、愚痴に関して多少つぶやくことができたとして

も、周りが目につくような意見までは言えないからなのではないかと考えた。

その理由として、SNS 上の世界のほうが生きている実感が得られると関連がないことか

らもわかるように、結局は現実世界と同様に SNS 上でも周りの目を気にして空気を読んで

いるため、生きている実感が得られるかといわれると、現実世界と SNS 上では大して変わ

らないのではないかと思った。

次に、仮説②に関して、今回の調査結果から、メインアカウントの用途やサブアカウン

トの用途と、「SNS の自分が素の自分である」ことは、関連性がないことがわかった。

リア垢より趣味用アカウントや少人数フォロー専用アカウントのほうが素の自分である

と感じているかと思っていたが、実際は関連性がないことに驚いた。

少人数フォロー専用が「素の自分である」ことと関連がないことに関して、「仲良しの

人とやり取りをする」という意味合いでの「少人数フォロー専用」だと考え、調査したも

のの、今回の調査自体フォロワーの内訳まで調査していなかったため、実際は仲良しの人

立教大学社会学部メディア社会学科

328

だけをフォローしているアカウントではなかったのかもしれないと考えた。

また、趣味用アカウントに関して、趣味に関するつぶやきは素であっても、そこで行わ

れるフォロワーとの会話では素でないのかもしれないと考えた。その理由として、趣味用

アカウントでは、おそらくフォロワーに面識のない人が多いため、そこまで自分の素を出

せるわけではないのかもしれないと考えた。

最後に、仮説③に関して、今回の調査結果から、持っているアカウント数と、「本当の

自分は 1つとは限らない」という考え方と、「人に見られている自分と本当の自分は一致

しないと感じる」という考え方は、あまり関連性がないことがわかった。

持っているアカウント数が多い人ほど、「本当の自分は 1つとは限らない」と考えるの

ではないかと思っていたため、持っているアカウントが 0の人のうち、「本当の自分は 1

つとは限らない」と考えている人が 90%に及ぶという結果は意外であり、興味深かった。

アカウントを所持していない人が「本当の自分が 1つとは限らない」と考える理由につい

て、今後検証していきたいと思った。

また、「人に見られている自分と本当の自分は一致しないと感じる」という考え方と関

連性がなかったことに関しては、どのアカウントもすべて本当の自分であり、ただ分けて

いるだけだと考えているからなのではないかと思った。

5.資料

59%

41%

SNSの⾃分は、素の⾃分である

1

2

図1 SNS の⾃分は素の⾃分である (2017 年度⽊村ゼミアンケート調査より筆者作成)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

329

6%

34%

26%

34%

サブアカウントの⽤途

リア垢

趣味垢

少人数フォロー専

その他

56%

13%

3%

28%

メインアカウントの⽤途

リア垢

趣味垢

少人数フォロー専用

その他

図2 メインアカウントの⽤途 (2017 年度⽊村ゼミアンケート調査より筆者作成)

図 3 サブアカウントの⽤途 (2017 年度⽊村ゼミアンケート調査より筆者作成)

立教大学社会学部メディア社会学科

330

問24-2-1 [SNSの自分は、素の自分である] と 問25-2 [SNS上の世界のほうが、生きているという

実感が得られる] のクロス表

問25-2 [当該SNS上の世界のほうが、

生きているという実感が得られる]

合計 0 1 2

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある]

1 度数 5 20 120 145

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

3.4% 13.8% 82.8% 100.0%

2 度数 1 10 89 100

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

1.0% 10.0% 89.0% 100.0%

合計 度数 6 30 209 245

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

2.4% 12.2% 85.3% 100.0%

32%

58%

9%

1%

持っているアカウント数

1

2~4

5~7

8~11

図 4 持っているアカウント数 (2017 年度⽊村ゼミアンケート調査より筆者作成)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

331

カイ 2 乗検定

値 自由度 漸近有意確率 (両側)

Pearson のカイ 2 乗 2.414a 2 .299

尤度比 2.612 2 .271

線型と線型による連関 2.330 1 .127

有効なケースの数 245

a. 2 セル (33.3%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 2.45 です。

問24-2-1 [SNSの自分は、素の自分である] と 問25-2 [普段は表に出せないような自分の考えを、

出すことができる] のクロス表

問25-2 [普段は表に出せないような自

分の考えを、出すことができる]

合計 0 1 2

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある]

1 度数 5 70 70 145

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

3.4% 48.3% 48.3% 100.0%

2 度数 1 46 53 100

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

1.0% 46.0% 53.0% 100.0%

合計 度数 6 116 123 245

問24-2-1 [SNSの

自分は、素の自分で

ある] の %

2.4% 47.3% 50.2% 100.0%

カイ 2 乗検定

値 自由度 漸近有意確率 (両側)

Pearson のカイ 2 乗 1.776a 2 .411

尤度比 1.957 2 .376

立教大学社会学部メディア社会学科

332

線型と線型による連関 1.016 1 .313

有効なケースの数 245

a. 2 セル (33.3%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 2.45 です。

カイ 2 乗検定

値 自由度 漸近有意確率 (両側)

Pearson のカイ 2 乗 5.744a 4 .219

尤度比 6.755 4 .149

線型と線型による連関 1.708 1 .191

有効なケースの数 245

問24-2-1 [SNSの自分は、素の自分である] と 問9-1 あなたのメインアカウントは、どのような

アカウントですか?次の中から最も適当だと思うものを一つ選択してください。 のクロス表

問9-1 あなたのメインアカウントは、どのような

アカウントですか?次の中から最も適当だと思うも

のを一つ選択してください。

合計0 1 2 3 4

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る]

1 度数 13 109 11 3 9 145

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

9.0% 75.2% 7.6% 2.1% 6.2% 100.0

%

2 度数 10 68 9 0 13 100

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

10.0% 68.0% 9.0% 0.0% 13.0% 100.0

%

合計 度数 23 177 20 3 22 245

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

9.4% 72.2% 8.2% 1.2% 9.0% 100.0

%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

333

a. 2 セル (20.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 1.22 です。

問24-2-1 [SNSの自分は、素の自分である] と 問11-10あなたのサブアカウントは、どのようなアカ

ウントですか?次の中から最も適当だと思うものを一つ選択してください。 のクロス表

問11-10あなたのサブアカウントは、どのようなアカ

ウントですか?次の中から最も適当だと思うものを

一つ選択してください。

合計0 1 2 3 4

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る]

1 度数 50 17 42 21 15 145

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

34.5% 11.7% 29.0% 14.5% 10.3% 100.0

%

2 度数 44 5 22 12 17 100

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

44.0% 5.0% 22.0% 12.0% 17.0% 100.0

%

合計 度数 94 22 64 33 32 245

問24-2-1

[SNSの自分は、

素の自分であ

る] の %

38.4% 9.0% 26.1% 13.5% 13.1% 100.0

%

カイ 2 乗検定

値 自由度 漸近有意確率 (両側)

Pearson のカイ 2 乗 7.754a 4 .101

尤度比 7.954 4 .093

線型と線型による連関 .006 1 .937

有効なケースの数 245

a. 0 セル (0.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 8.98 です。

立教大学社会学部メディア社会学科

334

持っているアカウント数 と 問24-1-2 [本当の自分というものは1つとは限らない] のクロス表

問24-1-2 [本当の自分というもの

は1つとは限らない]

合計 1 2

持っているアカウント数 0 度数 19 2 21

持っているアカウント数

の % 90.5% 9.5% 100.0%

1 度数 48 24 72

持っているアカウント数

の % 66.7% 33.3% 100.0%

2 度数 104 26 130

持っているアカウント数

の % 80.0% 20.0% 100.0%

3 度数 12 7 19

持っているアカウント数

の % 63.2% 36.8% 100.0%

4 度数 2 1 3

持っているアカウント数

の % 66.7% 33.3% 100.0%

合計 度数 185 60 245

持っているアカウント数

の % 75.5% 24.5% 100.0%

カイ 2 乗検定

値 自由度

漸近有意確率

(両側)

Pearson のカイ 2 乗 8.700a 4 .069

尤度比 8.965 4 .062

線型と線型による連関 .272 1 .602

有効なケースの数 245

a. 3 セル (30.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は .73

です。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

335

持っているアカウント数 と 問24-4-1 [人に見られている自分と本当の自分は一致しないと感じる] の

クロス表

問24-4-1 [人に見られている

自分と本当の自分は一致しない

と感じる]

合計 1 2

持っているアカウント

0 度数 9 12 21

持っているアカウント数

の % 42.9% 57.1% 100.0%

1 度数 36 36 72

持っているアカウント数

の % 50.0% 50.0% 100.0%

2 度数 87 43 130

持っているアカウント数

の % 66.9% 33.1% 100.0%

3 度数 9 10 19

持っているアカウント数

の % 47.4% 52.6% 100.0%

4 度数 2 1 3

持っているアカウント数

の % 66.7% 33.3% 100.0%

合計 度数 143 102 245

持っているアカウント数

の % 58.4% 41.6% 100.0%

カイ 2 乗検定

値 自由度

漸近有意確率

(両側)

Pearson のカイ 2 乗 9.100a 4 .059

尤度比 9.119 4 .058

線型と線型による連関 3.175 1 .075

有効なケースの数 245

a. 2 セル (20.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は

1.25 です。

立教大学社会学部メディア社会学科

336

Instagram 利用と消費行動の関連性

要旨

インフルエンサーといった立場が存在するように、SNS を通じて自己発信をより多

くの人に共感してもらう時代になった。特に Instagram においては、写真と一緒に自

分をアピールしやすい SNS であるといえ、多くの大学生が利用しているのが実態で

ある。本研究では、“Instagram を通して「自己発信する人」と「あまり自己発信し

ない人」との間には、消費行動の価値観や社会心理的態度に違いがあるのではない

か”という仮説を立てて社会調査分析を行った。

キーワード:Instagram、SNS 映え、コト消費、コミュニティ

1. 問題意識

2017 年の流行語大賞が「インスタ映え」であったことが象徴するように、SNS を通じて

自己アピールすることがもはや当たり前の時代となった。富永(2017)によれば、グローバ

ル化が進み、生活形態や人生そのものが多様化したことで、モデル化された既存の生き方を

提供する『家族』や『学校』、『会社』の力が弱くなっており、『組織』への信頼が懐疑的に

なっていることが要因で自己をプロデュースして生きていくことが必要になり、個人の価

値観が自由になったのだという。個人の価値観が SNS を通して発信され、可視化できるよ

うになったため、その価値観の一方的なアピールではなく、いかに多くの人から共感を得る

ことができるのかが重要になった。また、自分自身でメディアをコントロールすることが可

能になったことで、個性をどこまで表現するか、そしてそれをいかに多くの人に共感を持っ

てもらえるのかが重要視される。つまり、「自分自身がメディアになる」といった感覚をと

りわけ強く感じる人が、インフルエンサーの存在になりうるのだ。

「SNS を通して自己発信する」といった行為をよくする人とそうでない人との間には、

消費行動の違いや価値観の差が生まれるのだろうか。また、SNS をよく利用することが私

たちの生活に影響を与えているのだろうか。本研究においては、自己発信する媒体を

Instagram に限定し、大学生における Instagram 利用と消費行動には関連性があるのか検

証したい。

2. 先行研究

株式会社ドゥ・ハウスが大学生(大学院生含む)を対象に、1 ヶ月のお金の使い方と 2 週

間の時間の使い方を調査したところ、消費に関して 3 つのグループに分けることができる

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

337

という調査結果がみられた。

1 つ目は、自分の衣食住にお金を使う自己完結消費だけでなく、他者と共有するための消

費も活発的なのが特徴の「メリハリ消費」。興味範囲や、コミュニティにおける交流関係も

広く、多方面で消費をしつつも、「服にはお金をかけたくないが、靴と鞄にはかけたい」や

「節約のために歩く」など、メリハリをつけた消費を行うのがこのグループの特徴である。

2 つ目は、自己完結消費はなるべく抑え、趣味やサークルなどの課外活動など他者と共有

する部分に優先的に時間やお金をかけるのが特徴の「他者優先消費」。その中でも優先する

内容によってタイプに分かれ、例えば、大学だけでなく中高の地元の友達と過ごすことが多

く身近なコミュニティを大切にし、新しいものよりも慣れ親しんだものに愛着を感じる「居

心地いいネットワーク・愛着継続タイプ」、サークルや学外活動を通じた趣味が明確で、そ

れを中心に時間とお金の使い方が成り立っている「課外活動集中タイプ」、交流範囲は広く、

他者との共有やその時にしか体験できないコトに時間やお金をかける比重が高い「コト消

費優先タイプ」などがある。

3 つ目は、消費や選択において面倒という感覚が強いのが特徴の「マイペース自己完結型

消費」である。他のグループに比べ、自己完結型の消費が比較的に多く、自分の時間を拘束

されるのを嫌う。

以上の調査結果のように、同じ大学生でも時間とお金の価値観には違いがあり、それに伴

って消費行動も異なることがわかった。

3. 仮説

Instagram を通して「自己発信する人」と「あまり自己発信しない人」との間には、消費

行動の価値観や社会心理的態度に違いがあり、それぞれに共通点があるのではないかと考

えた。

4. 調査の概要

立教大学の社会学部に所属している生徒 264 人に対して、メディアコミュニケーション

に関するアンケート調査を実施し、その調査結果をもとに分析する。今回は、「インスタグ

ラマー」といった言葉が象徴されるように、自己発信しやすい場として Instagram に着目

するため、264 人の回答者のうち「Instagram を利用している」と回答した 221 人の利用

者を研究対象とする。また、「Instagram を通して自己発信する」といった行為が強く表れ

ていると思われる行動を以下の質問項目に限定し、それらの質問項目と消費行動や生活満

足度に関する質問項目の回答結果を掛け合わせて、SPSS を用いてクロス集計した結果を分

析する。クロス集計して2つの回答に相関性があり(5%水準)、有意性が認められた場合は、

Instagram をどのように利用するかで消費行動や価値観に違いがでやすいと考えられる。

◆「Instagram を通して自己発信する」といった行為が強く表れている行動

・Instagram にアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店・旅行先・芸術鑑賞

立教大学社会学部メディア社会学科

338

など)を決める

・Instagram にアップすることを意識して、商品を購入する

・◯◯ラン(バブルラン、カラーランなど)、ナイトプールなどインスタ映えするイベント

によく行く

5. 分析結果

5-1. Instagram の利用状況

ここでは先にも紹介した立教大学社会学部の生徒 264 人うち Instagram 利用者 221 人

(83.7%)を対象にした調査結果を分析していく。まず、図 1 と図 2 のように、 もよく利

用する SNS で Instagram と答えた人が 58.8%と半数以上おり、何かを購入するときの情

報源として も利用するメディアは、その他各種ネットサイトに次いで Instagram と回答

する人が 33%いた。Instagram は写真に投稿を楽しむためのメディアだけでなく、商品の

購入の際のレビューの役割をも担うメディアになっていることがわかる。これは、芸能人や

インフルエンサー、友人などが商品の写真と口コミを合わせてアップすることで情報の信

頼性が増し、また「いいね!」を表すハートの数がその商品の評価を表す効果があるため、

何か購入するときの情報源として Instagram を利用するのではないのかと考える。

図表 23 Q25-1 「Twitter、Instagram、Facebook のうち最も利用する SNS は?」

58.8%

39.8%

1.4%

Instagram Twitter Facebook

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

339

図表 2 Q16-4 「以下のメディアの中で、何か購入するときの情報源の性質が最も高いもの

は?」

また、「Instagram を通して自己発信する」といった行為が強く表れている行動として設

定した Q12-1 Instagram にアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店・旅行

先・芸術鑑賞など)を決めるかの質問に関して、ある=11.7%、ときどきある=20.4%、な

い=65.6%という結果になった。また、Instagram にアップすることを意識して、商品を購

入するかの質問に関しては、ある=8.2%、ときどきある=14.5%、ない=76.9%という結果

になった。(図表 3、4)なお、分析はとてもよくある・よくある=1、ときどきある=2、あ

まりない・全くない=3 と新しい変数に再割り当てしている。次の仮説検証の際、ある・と

きどきあるかの回答の割合が多かった「Instagram にアップすることを意識して、外出先・

イベント(飲食店・旅行先・芸術鑑賞など)を決める」に着目して分析する。

34.8%

33.0%

13.1%

8.6%

5.4%2.7% 1.4% 0.9%

その他各種ネットサイト Instagram Twitter

まとめサイト テレビ 雑誌

LINE Facebook

立教大学社会学部メディア社会学科

340

図表 3 Q12-1 [インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店、

旅行先、芸術鑑賞など)を決める]

図表 4 Q12-1 [インスタグラムにアップすることを意識して、商品を購入する]

5-2. 仮説検証

続いてカイ二乗検定を用いて仮説の検証を行っていく。Instagram を通して自己発信す

る人はフォトジェニック・SNS 映えと呼ばれるような場所やイベントに行くのではないか、

14.0%

20.4%

65.6%

ある ときどきある ない

8.6%

14.5%

76.9%

ある ときどきある ない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

341

また、冒頭で述べたように Instagram への投稿を他者に共感してもらいたいのなら、そう

いった投稿をする人ほど他人との付き合いを重視するのではないか、そして生活の満足度

の評価が高い人ほどインスタ映えな写真を投稿するために出かけるのではないかという仮

説を検証する。

5-2-1. Instagram への投稿とコト消費の関連性

帰無仮説 H0:Instagram 投稿目的の外出と SNS 映えなイベントへの参加には関連がな

い。対立仮説 H1:Instagram 投稿目的の外出と SNS 映えなイベントへの参加には関連

がある。

Q12-1 インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店、旅行

先、芸術鑑賞など)を決めると、Q24-1-1 〇〇ラン(バブルラン、カラーランなど)、ナ

イトプールなどインスタ映えするイベントによく行くかの 2変数間での関連性をカイ2条

検定用いて検定したところ、p=0.00 と有意差は認められた(p>0.05)。よって、帰無仮説

(H0)を棄却でき、2変数間には関連性があるといえる。

Instagram にアップすることを意識して外出先やイベントを決めた経験がある人の中

で、ナイトプールやカラーランなどインスタ映えするイベントに行くと答えた人は、あ

る・ときどきあるを合わせて 44.8%と半数近くいることがわかった。そして、どちらもな

いと回答した人が 95.2%と高いため、投稿を意識する人ほどそういった SNS 映えなコト消

費を体験できるイベントに参加すると考えられる。

図表 5 [インスタグラム投稿を意識して、外出先・イベントを決める] × [インスタ映えするイベント

によく行く]

問24-1-1 [インスタ映えするイベ

ントによく行く]

合計 ある ない

問12-1 [インスタグラムに

アップすることを意識し

て、外出先・イベントを決

める]

ある 度数 7 24 31

% 22.6% 77.4% 100.0%

ときど

きある

度数 10 35 45

% 22.2% 77.8% 100.0%

ない 度数 7 138 145

% 4.8% 95.2% 100.0%

合計 度数 24 197 221

% 10.9% 89.1% 100.0%

立教大学社会学部メディア社会学科

342

5-2-2. Instagram への投稿と他者へのつながり

帰無仮説 H0:Instagram 投稿目的の外出と他者へのつながりには関連がない。

対立仮説 H1:Instagram 投稿目的の外出と他者へのつながりには関連がある。

Q12-1 インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店、旅行

先、芸術鑑賞など)を決めると、問 24-3-2 常に誰かと一緒にいた方が安心するの 2変数

間での関連性をカイ2条検定用いて検定したところ、p=0.172 と有意差は認められなかっ

た(p>0.05)。

続いて、Q12-1 インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食

店、旅行先、芸術鑑賞など)を決めると Q24-3-2 他人と付き合うのは面倒だの 2変数間で

の関連性をカイ2条検定用いて検定したところ、こちらも p=0.330 と有意差は認められな

かった。さらに Q24-3-2 私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だの 2変数間にお

いても p=0.652 と有意差は認められなかった。(p>0.05)よって帰無仮説(H0)を棄却で

きず、2変数間に関連性はみられなかった。

図表 6[インスタグラム投稿を意識して外出先・イベントを決める]× [常に誰かと一緒

にいた方が安心する]

問24-3-2 [常に誰かと一緒

にいた方が安心する]

合計 ある ない

問12-1 [インスタグ

ラムにアップすること

を意識して、外出先・

イベントを決める]

ある 度数 22 9 31

% 71.0% 29.0% 100.0%

ときどきあ

度数 23 22 45

% 51.1% 48.9% 100.0%

ない 度数 78 67 145

% 53.8% 46.2% 100.0%

合計 度数 123 98 221

% 55.7% 44.3% 100.0%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

343

図表 7[インスタグラム投稿を意識して、外出先・イベントを決める] × [他人と付き合うの

は面倒だ]

問24-3-2

[他人と付き合うのは面倒

だ]

合計 ある ない

問12-1 [インスタグラ

ムにアップすることを

意識して、外出先・イ

ベントを決める]

ある 度数 10 21 31

% 32.3% 67.7% 100.0%

ときどきあ

度数 18 27 45

% 40.0% 60.0% 100.0%

ない 度数 41 104 145

% 28.3% 71.7% 100.0%

合計 度数 69 152 221

% 31.2% 68.8% 100.0%

図表 8 [インスタグラム投稿を意識して外出先・イベントを決める] ×[他者とのつながりは

不可欠だ]

問24-3-2 [私の生活にとっ

て、他者とのつながりは不可

欠だ]

合計 ある ない

問12-1 [インスタグラム

にアップすることを意識

して、外出先・イベント

を決める]

ある 度数 27 4 31

% 87.1% 12.9% 100.0%

とき

どき

ある

度数 37 8 45

% 82.2% 17.8% 100.0%

ない 度数 127 18 145

% 87.6% 12.4% 100.0%

合計 度数 191 30 221

% 86.4% 13.6% 100.0%

5-2-3. インスタ映え投稿を意識した外出と生活満足度

帰無仮説 H0:Instagram 投稿目的の外出と生活満足度には関連がない。

対立仮説 H1:Instagram 投稿目的の外出と生活満足度には関連がある。

立教大学社会学部メディア社会学科

344

Q12-1 インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント(飲食店、旅行

先、芸術鑑賞など)を決めると問 24-3-2 私は今の生活にとても満足している 2変数間で

の関連性をカイ2条検定用いて検定したが、p=0.86 と有意差は認められなかった

(p>0.05)。

図表 9 [インスタグラム投稿を意識して、外出先・イベントを決める] ×[私は今の生活にとても満

足している]

問24-3-2 [私は今の生活にと

ても満足している]

合計 ある ない

問12-1 [インスタグラ

ムにアップすることを意

識して、外出先・イベン

ト(を決める]

ある 度数 23 8 31

% 74.2% 25.8% 100.0%

ときどきある 度数 31 14 45

% 68.9% 31.1% 100.0%

ない 度数 105 40 145

% 72.4% 27.6% 100.0%

合計 度数 159 62 221

% 71.9% 28.1% 100.0%

6. 考察・まとめ

立教の社会学部生は、8 割以上の学生が Instagram を利用していて、その中でも半数以

上の人が Twitter や Facebook の SNS ツールを差し置いて も頻繁に利用していることが

わかった。また、Instagram の利用に関して、ただユーザーの投稿や写真を見たり自ら投稿

したりして楽しむだけでなく、何か商品を購入するときの検索ツールやレビューとして

Instagram を使っている人も多くいることが明らかになった。Instagram は他の SNS サー

ビスと比べて新しいサービスであるのも関わらず、情報源として大きな影響を与える存在

になっていると考えられる。

Instagram に投稿することを意識して何か外出先を決めたり、商品を購入したりする人

は全体の 2 割〜3 割程度しかいなかったが、その中でもいくらか消費行動や価値観に関する

関係性を分析することができた。1点目は Instagram の投稿へのこだわりとコト消費の関

係性である。Instagram に投稿するために外出先やイベントを決める人ほど、インスタ映

えするイベントに参加する傾向があることが分析結果からわかった。 近は企業側が「イン

スタ映え」を意識したイベントやフード、エンタメが増えているので、必然とコト消費と

SNS の関連性が強まっているのではないかと考えられる。

企業側がインスタ映え意識して開催したイベントの例として、「東京アイスクリームイベ

ント」が挙げられる。これは、2017 年末に3日間限定で開催されたもので、アイスクリー

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

345

ムを食べるわけではなく、アイスクリームをテーマにしたフォトジェニックアートを楽し

み、その空間で可愛い写真を撮影し、加工し、シェアすることがイベントの目的であった。

このようなイベントがあることが、Instagram への投稿を強く促しやすい要因になると考

える。一方で、Instagram で自己発信する人ほど他者との関わりを気にすると考えたが、分

析の結果関係性は見られなかった。合わせて、生活満足度も関係性はなかった。

このように、Instagram を通して積極的に自己発信している人とそうでない人との消費

行動の差の大きな違いは見られなかった。楽しそうで華やかな写真をあげているからとい

って他者との関わりを意識していることや生活満足度とは関係なく、しかしコト消費には

積極的であることがわかった。仮説への検証に関して、もう少し Instagram への投稿に関

する行動を分析する必要があると感じた。

参考文献

渡部かおり、2018、「自分自身が“メディア”になるという時代 セルフプロデュース力

UP 講座」、『GINZA』、2018 年 2 月号、78-81。

クックビズ総研、2018、『話題のインスタ映えマーケティングと「東京アイスクリームラ

ンド」』

https://cookbiz.jp/soken/news/instagram_tokyoicecreamland/(2018 年 1 月

30 日アクセス)

浜悠子、2016 年、「消費者研究:大学生の消費に対する価値観とは?」

http://www.dohouse.co.jp/kikulab/?p=13503 (2018 年 1 月 5 日アクセス)

立教大学社会学部メディア社会学科

346

LINE におけるコミュニケーションの変化

要旨

SNS が普及していく中、急激な普及率をみせている LINE によって、人々のコミュニ

ケーションや自己表現の仕方に変化が起きたのではないかという問題意識からこの調

査を始めた。LINE の歴史や特徴をみていくと、“狭いコミュニティ”を形成したこと

が、普及の大きな要因となることが分かった。LINE のシンプルな構造と、自分の友だ

ちや家族、知り合いなどから構成されるコミュニティをさらに強固なものにしたいと

いう人々のニーズがマッチしたといえる。狭いコミュニティのなかではやはり「素の自

分を出しやすい」といったように SNS における自己表現の変化も見られた。

キーワード:LINE、狭いコミュニティ、広いコミュニティ、コミュニケーション、

普及率

1. 問題意識

SNS の登場によって人々のコミュニケーションの取り方が多様化した。その中でも特に

LINE は世代や男女差に関係なくとても多くの人に使われている。他の SNS に比べて登場

したのが遅かったにもかかわらず、普及のスピードはとても急激なものとなった。なぜ

LINE がこれほどまでに浸透したのか、急速な普及を遂げるにはやはり他の SNS やコミュ

ニケーションツールとは違う特徴があるのではないかという問題意識からこの研究に取り

組もうと思う。また LINE の登場によって、コミュニケーションや自己表現の仕方に変化

がうまれたのではないかという疑問から、LINE がコミュニケーションの仕方に影響を及ぼ

したのかという問題意識をもってこの調査を進めていきたいと考えている。

2. 研究方法

量的な調査として 2017 年度秋学期の授業「メディア・コミュニケーション論」履修中の社

会学部の学生 263人に対して調査票調査を行った。これはこの授業を履修している学生が、

一般的な関東圏の学生であるということを前提に行った調査・分析であるが、メディア・コ

ミュニケーション論という授業に興味を持っている学生であるという点は考慮に入れるべ

きだと考える。またすでにある文献から文献調査を行い、量的調査をさらに深めていきたい

と思う。

3.仮説

「LINE によって、人々のコミュニケーションの仕方や自己表現の方法に変化がうまれた」

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

347

という仮説を立てて研究を進めていく。この変化が分かれば、LINE が急速に普及した理由

の解明にもつながると考えた。

4.分析内容

1)LINE の歴史

コミュニケーションアプリ「LINE」が日本でサービスが開始されたのは、2011 年 6 月だっ

た。同年 3 月に起きた東日本大震災をきっかけに「災害時にも簡単に連絡ができるアプリ

を作る」という目的の下リリースされたのだ。 初はスマートフォン・携帯電話向けの無料

チャットアプリとして登場し、その後パソコン版も登場した。サービス開始後利用者は急激

に増加し、3 か月後には 100 万ダウンロードを達成、わずか 1 年後の 2012 年 7 月にはユー

ザー数が 5000 万人に達した。これは Twitter の約 3 年、Facebook の約 3.6 年をはるかに上回

るスピードであり、いかに LINE が急速に普及したかがよく分かる。その後も利用者の増加は

衰えることなく、2013 年にはダウンロード数 1 億を突破した。このような歴史からも分かるよ

うに、LINE は他の SNS に比べてリリースが遅くまだ歴史が浅いにもかかわらず、とても高い

利用者数を誇っている。

2)LINE の普及率

図1 LINE 登録者の推移

(出典 NHN Japan)

参考文献である『LINE なぜ若者たちは無料電話&メールに飛びついたのか?』(2012 年 コ

グレマサト、まつもとあかし著 マイナビ新書)によると、2012 年の時点での調査結果は以下

の通りである。LINE のユーザー数は、日本を含め全世界で毎月 500 万人のペースで増え続けて

いる。「230 を超える国と地域で利用され、同年 3 月時点ではスマートフォンユーザーの、なん

と 44%が利用している」と発表された。日本での利用者の割合をみてみると、「男女比は男性

51%:女性 49%で、ほぼ半分」「職業は会社員が 38.5%で も多いですが、それに次ぐ存在とし

て学生が 30.3%を占めて」いる。また年齢別に見てみると、「12~19 歳が 16.5%、20~24 歳が

立教大学社会学部メディア社会学科

348

22.6%、25~29 歳が 21.9%と、30 歳未満の年代で過半数を占めて」いる。そして利用回数に関

しても、「全体は『毎日』が 37%、『週 4~5 回』が 17.1%」であり特に利用率が高い 10 代の男

子、女子は「毎日」使う人が 50%を超えている。このように LINE は特に若者層からの指示が

厚く、携帯電話のメール機能を脅かす存在となっている。

3)LINE の特徴

・テキストチャット

・グループチャット

・スタンプ

・無料電話

・シンプルなサービス

・電話番号を登録すれば自動的に友だちとつながれる

mixi や Twitter、Facebook メッセンジャー、Skype…など LINE と類似の機能を持つコミ

ュニケーションツールはたくさんある。ではなぜ LINE が抜きん出て普及したのか。上記

に LINE の特徴をまとめてみた。それぞれ LINE 独自のサービスがみられるのだが、LINE

が他のコミュニケーションツールと大きく違う点として、「ユーザーベースを拡大するため

にアドレス帳の情報を送信し、知り合いをマッチングさせて友だち同士として登録する」

(60 ページ)といったように、ベースとなるコミュニティの作り上げ方が挙げられる。LINE

では基本的に、アドレス帳に電話番号がある人が自動的に友だちリストに入り、手作業で

ID を入れたり QR コードをしたり同じグループラインに入っている人を追加することで新

しい友だちを追加していく。つまり LINE ではお互いに知っている人同士が簡単につなが

ることができるため、“狭いコミュニティ”が生まれやすくなったということが出来る。一

方 Twitter や mixi では「友達の友達も友達」といったように、次々とコミュニティの輪を

広げることが容易でありそうしてコミュニティを増やしていくのが目的の 1 つとなってい

る。Twitter や Instagram などをやっている人なら誰もが、「知り合いかも」という欄で直

接のつながりがなくても友達の友達が表示され、つながることを勧められた経験があるの

ではないだろうか。このように、他の SNS では“広いコミュニティ”が特徴なのである。

では同じように知り合い同士の“狭いコミュニティ”でメッセージのやりとりを行う

Facebook メッセンジャーや Skype はなぜ、LINE ほどの普及をしなかったのか。その理由

の一つとして、Facebook メッセンジャーや Skype など友達とはパソコンを使用する人向け

に作られたものであるため、容量が大きくまた高機能になっていて、IT に詳しくない人か

らしたら使いづらさや複雑さを感じやすいことが挙げられる。しかし LINE はスマホが普

及した時期にリリースされたため、スマホでも簡単に利用することができ、パソコンや IT

に強くない人たちの支持を得たのである。つまり LINE は、「とてもシンプルな仕組みで知

り合いにメッセージを送ることができる」という初心者でも使いやすいスタイルがコミュ

ニティを形成するのにうってつけだったということができる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

349

4)自己表現の仕方や満足度について

このように LINE によって“狭いコミュニティ”ができた結果、人々のコミュニケーショ

ン・自己表現の仕方や人間関係における満足度にも何らかの変化が生まれたのではないだ

ろうか。

2017 年度木村ゼミで行った社会調査で、「LINE の利用頻度(0=月に数回程度、1=

1 日に 1 回程度、2=2~10 回、3=11~20 回、4=21~50 回、5=51~100 回、

6=101 回以上)」と「SNS の自分は素の自分である」という質問項目でクロス集計

を行った。その結果、LINE の利用頻度が 1 日 21~101 回以上の人で「あてはまる/

まああてはまる」と答えた人は 96 人で約 35%、「あてはまらない/あまりあてはまら

ない」と答えた人は 57 人で約 20%となった。LINE の利用頻度が 1 日に 1 回程度~

20 回程度の人で「あてはまる/まああてはまる」と答えた人は 47 人で約 17%となっ

た。この結果から、LINE の利用頻度が高い人ほど SNS で素の自分を出す人が多いと

いうことが分かる。これは LINE が形成する“狭いコミュニティ”によって、素の自

分を出しやすい環境がうまれているのではないだろうか。匿名で知らない人とつなが

ることで素の自分を出すスタイルから、自分の知っている人とつながることで素の自

立教大学社会学部メディア社会学科

350

分を出せるというスタイルに変化していると考えることができる。

そこで私は、LINE の利用率が高い人ほど、根強いコミュニティを形成できている人

であり普段の生活の満足度が高い(リア充である)、という新たな仮説を立てた。こ

の仮説を検証するために再び木村ゼミ社会調査のデータを用いた。LINE の利用率と

「私は今の生活に満足している」、「わたしはリア充だ」という質問項目をクロス集計

した結果、以下のような結果となった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

351

この 2 つの調査結果は、有意性を満たしていないため有効なデータとしては使えなかった。

LINE の利用頻度と生活の満足度についての関係性について有益な結果を得るためにはど

のような質問項目を用意することが必要か、もう一度見直して卒論に向けて諦めずに研究

を続けていきたいと思う。

5.まとめ

本研究では「LINE によって、人々のコミュニケーションの仕方や自己表現の方法に変化が

うまれた」という仮説をもとに研究を進めてきた。この仮説を検証するために、他の SNS

とは違う LINE 独自の特徴について考えたところ、「アドレス帳を軸に友だちリストが作ら

れていく」というすでに知り合い・友だちのベースがある、という点が も違う点だという

ことが分かった。ネット上での新しいつながりではなく知り合い・友だち・家族とのつなが

りを求め、複雑で高度な機能ではなくシンプルな構造を求める人々のニーズにマッチした

ことが LINE の急速な普及につながったのだろう。このように本来の SNS の利用目的の一

つであった“広いコミュニティ”ではなく“狭いコミュニティ”が形成された。これを踏ま

えて、人々の自己表現について相関関係があるかクロス集計を行った結果、「素の自分を出

せる」人が LINE の利用頻度が高い人に多くみられた。そのため「LINE によってコミュニ

ティに変化がうまれ、自己表現の仕方にも変化がみられる」という結論を得ることができた。

しかし課題として、Twitter など他の SNS の利用頻度との相関関係と比べたらより裏付け

の強いデータとなったのではないかということが挙げられる。また SNS の利用頻度と生活

の満足度についての相関関係についても有益なでデータを得るための工夫が必要であるこ

とが分かったため、卒論に向けてさらに研究を続けていきたいと思う。

参考文献

・『SNS って面白いの? 何が便利で何が怖いのか』(2015 年 草野真一著 講談社)

・『LINE なぜ若者たちは無料電話&メールに飛びついたのか?』(2012 年 コグレマサト、ま

つもとあかし著 マイナビ新書)

・https://www.nhn-japan.com/(NHN Japan)

・https://line.me/ja/(LINE 公式 HP)

・www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242220.html(総務省 情

報通信白書)

立教大学社会学部メディア社会学科

352

消費行動における発信者の意識の違い

要旨

「SIPS」というソーシャルメディアの出現によって新しい生活消費行動のモデルが

登場した。今までの消費行動の相違点は、「共感・拡散」という点にある。拡散の時

代で強まれるとされる二つの意識、「自分ごと意識」と「つながり意識」が

Instagram の投稿に表れ、かつ大学生の消費行動に影響を与え、消費を促しているの

かについて木村ゼミアンケートを用いながら言及する。また、「自分ごと意識」と

「つながり意識」の二つの意識の関係性について、オンラインフィールド研究を行

い、明らかにする。

キーワード:「自分ごと意識」「つながり意識」「趣味アカウント」「価値観」「SIPS」

1.問題意識

Twitter のユーザー数を追い越す勢いで成長している写真投稿専用アプリケーションで

ある Instagram。このような拡散の時代には、二つの意識が強まるといわれている。「自分

ごと意識」と「つながり意識」である。「自分ごと意識」は、自分のものさしで価値観を判

断していこうという意識。「つながり意識」は絆や人とつながることを重視することであり、

シェアリングエコノミーなどが「つながり意識」を象徴する動きである。この二つの意識が、

若者の Instagram で投稿された写真に表れているのかを調査する。また、「インスタ映え」

という言葉が 2017 年の流行語大賞に選ばれたように、Instagram で写真映えした投稿をす

る若者が増えた。そのため、Instagram には若者の消費行動に少なからず影響を与えてい

るのではないかと考えた。今回、この Instagram に表れる「自分ごと意識」と「つながり

意識」が若者の消費行動に影響を与えているか考察する。

また投稿内容について。食事に関して、流行りのカフェや見た目がかわいい食べ物など、

いわゆる「インスタ映え」として有名な場所を Instagram に投稿している人が多い。それ

に対して、ファッションの投稿は自分の世界観を演出しているインスタグラマーと呼ばれ

る人が多い。先ほど述べた「自分ごと意識」と「つながり意識」を踏まえて、この意識の違

いが投稿内容ごとに表れ、受け手側の消費行動に異なる影響をもたらすのではないか調査

する。

2.仮説

①「自分ごと意識」と「つながり意識」は Instagram の投稿に表れ、それが消費行動に影

響を与えているのではないか。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

353

②自分ごと意識」と「つながり意識」がそれぞれ違った影響を持ち、投稿によってその意識

が違うのではないか。

3.先行研究

始めに、SNS と消費行動の関係性を見てみよう。ソーシャルメディアが主流となる時代

の生活者消費行動として SIPS という言葉がある。

Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する)、Share & Spread

(共有・拡散する)。ソーシャルメディアの要素が消費行動の中にある。「共有、拡散」とい

うソーシャルメディアの時代ならではの消費行動の形態が存在する。

図 1 消費者行動の変化(新スーパーマーケット白書 2017.57)

3.調査方法

立教大学部、社会学部に所属している生徒 264 名を調査対象に、社会調査アンケートを

実施し、その調査結果から分析する調査方法である(2017 年度木村ゼミアンケート)。

Instagram に関する質問をした項目それぞれを、SPSS を用いて行った単純集計結果とクロ

ス集計結果した結果から考察していく。クロス集計した結果に相関性があり、(5%水準)、

優位性が認められた場合は、Instagram の利用による消費行動がなされやすいと考えられ

る。

また、オンラインフィールドを行い、「自分ごと意識」と「つながり意識」に着目して、

趣味アカウントといわれるものにどちらの意識が表れるかを考察する。

4.分析結果

4-1

問 20 ここ 1 か月であなたが、下にあげた 6 つの用途に支出した金額を思い浮かべ、1 位

立教大学社会学部メディア社会学科

354

2 位の支出用途をそれぞれ選択してください。

1 位 交際費 食費(交際費を除いた外食) ファッション

2 位 交際費 食費(交際費を除いた外食) ファッション

支出用途の 1 位と 2 位に選んだものは同じ、消費行動の対象を、食事とファッションに限

定して研究を行う。

図表 1 「12-1-14 インスタグラムにアップすることを意識して、商品を購入する」

「12-1-16 インスタグラムで検索し、商品をについて調べる」

のクロス集計表

Q12 商品購入 と Q12 商品検索 のクロス表

Q12 商品検索

合計 1 2 3

Q12 商品購入 1 度数 87 30 53 170

Q12 商品購入 の % 51.2% 17.6% 31.2% 100.0%

2 度数 5 6 21 32

Q12 商品購入 の % 15.6% 18.8% 65.6% 100.0%

3 度数 1 0 18 19

Q12 商品購入 の % 5.3% 0.0% 94.7% 100.0%

合計 度数 93 36 92 221

Q12 商品購入 の % 42.1% 16.3% 41.6% 100.0%

今回の分析において、「1:あまりない、全くない」「2:ときどきある」「3:とてもよくあ

る、よくある」とリコードした。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

355

図表 2

カイ 2 乗検定

値 自由度

漸近有意確率 (両

側)

Pearson のカイ 2 乗 39.952a 4 .000

尤度比 44.544 4 .000

有効なケースの数 221

a. 1 セル (11.1%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は

3.10 です。

図表 1 から、「Instagram で商品について検索する」ことを「あまりしない、全くしない」

と答えた人が「Instagram にアップすることを意識して購入する」ことを「あまりしない、

全くしない」と答えた人が一番多く、度数は 87 であった。また、検索することを「とても

よくする、よくする」人の中で、意識して購入する人の度数は 18 と少ないことが分かった。

検索だけでみると、全くしないと答えた人と、とてもよくすると答えた人の度数ははば同じ

であることが分かった。また、図表 2 より有意確立が 0.000 であることからこの結果は優

位であることがわかる。

今回、「Instagram にアップすることを意識して購入する」という項目が一番、Instagram

の投稿と購入に関連すると予想して用いた。しかし「Instagram」にアップすることが目的

とされるこのクロス集計は、仮説の他人の投稿が自分の消費行動に影響を与えているかを

調べるには物足りない結果となった。

4-2 オンラインフィールド

Instagram の投稿に表れる意識の調査をするため、Instagram で「ファッション」と「食

事」に関するタグ検索を行い、「つながり意識」と「自分ごと意識」が表れているか調査を

行った。

#おしゃれさんとつながりたい (2522796 件 2018 年 1 月 16 日 15 時)

#お洒落さんとつながりたい (3820707 件)

#おしゃれさんと繋がりたい (2522837 件)

#お洒落さんと繋がりたい (3820726 件)

#お洒落な人と繋がりたい ( 554011 件)

#おうちごはん (6695278 件 2018 年 1 月 16 日 15 時)

立教大学社会学部メディア社会学科

356

#朝食 (1926311 件)

#昼食 ( 566551 件)

#夕食 (1297270 件)

#あさごはん (2923325 件)

#おうちカフェ (1664418 件)

#うちごはん ( 831992 件)

#ふたりごはん ( 498866 件)

#飯テロ ( 492589 件)

#デブ活 ( 550959 件)

5.考察

「自分ごと意識」の結果が「つながり意識」に変化?

上記をみると、「~と繋がりたい」や「~ごはん」など、多くの人が使う共通認識のタグ

が存在することがわかる。好きな言葉を入れて独自のハッシュタグを作ることができるが、

このような「~と繋がりたい」というハッシュタグは、人と繋がることを目的に作られたも

のである。ハッシュタグの機能として、同じハッシュタグをつけている投稿(公開アカウン

ト)をすべて見ることができるため、共通の趣味を持つ人と同じ話題で盛り上がることがで

きる。実際、そういったハッシュタグのついた投稿をみると、コメント欄に「どこで買いま

したか?」「どこのお店ですか?」「素敵な投稿ですね、フォローさせてください」といった

書き込みが多く、共通の趣味を持つ人が情報収集をするには 適な場である。よって、趣味

に関する投稿をする人は「つながり意識」が大きく表れていることが分かる。

また、さらにオンラインフィールドを続けると、形式(写真のアングル、人物のポーズ)

は同じであるが、自分オリジナルのフィルター加工や、統一感のある色彩を施している投稿

が多くみられた。衣服に関して、自分のこだわりの物や好きな服、今日の服、買った服など

を、服単体だけでなくドライフラワーやアクセサリーなどを使って話題の場所やいわゆる

インスタ映えといわれる場所での撮影をして、独自の演出している人が多く見られた。食事

に関しても、「おうちごはん」、「おうちカフェ」のタグが多いことから、手作りという個性

を表す投稿が多いことが分かった。(=自分ごと意識)

外食に関して、#外食のタグ数は手料理に比べて少ない。その理由は、外食という大まか

なくくりよりも、ユーザーはそのお店の位置登録や、店名をタグにする傾向がある。

以上のことから、「自分ごと意識」が「つながり意識」に変化していることがわかった。結

果、仮説②の「自分ごと意識」と「つながり意識」を発信するモノによって無意識に変えて

いるのではないか。」は違うことがわかった。

そもそも Instagram はソーシャルネットワーキングサービスであるため、個性を意識し

た「自分ごと意識」が結果的に「つながり意識」の反映された投稿になったと思われる。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

357

Instagram が消費行動に影響を与えているかの仮説に対して、趣味アカウントが情報収

集の場となり、同じ趣味でも「自分ごと意識」が同じ人との「つながり」が、「どこで買え

ますか?」といったコメント欄から多く見られるように、情報収集の場となり、消費行動に

影響を与えているといえる。

6.おわりに

食事、ファッションといった消費行動において、「自分ごと意識」と「つながり意識」が

投稿に表れているため、インスタグラムは情報収集に 適なツールであることがわかった。

しかし、それぞれの意識の違いが別々の影響力を持ち、投稿内容によってその意識が違うの

ではないかという仮説においては、オンラインフィールドを行った結果、食事、ファッショ

ンを主に投稿するいわゆる趣味アカウントにみられる「~と繋がりたい」や「おうちごはん」

といった共通のハッシュタグはいずれも「つながり意識」が強く表れていることがわかる。

また、独自の世界観をフィルター加工やオリジナリティを演出している投稿が趣味カウン

トに多いことから「自分ごと意識」が表れていることもわかる。コメント欄を見ても、共通

の趣味嗜好を持つ人たちが「どこで買えますか?」などの情報収集を行っていることがわか

った。

木村ゼミアンケートの、大学生の支出用途に食事(交際費)が 1 位として挙げられていた

ことから分かるように、「つながり意識」が大学生に強く表れている。拡散の時代で、「自分

ごと意識」、「つながり意識」が強くなるといわれている。交際費、自己投資など、どの支出

に重きを置くかは個人によって異なる。しかし、「SIPS」の生活消費者行動の形態は、ソー

シャルメディアの出現が消費に影響を与えていることを説明している。SNS がこれからの

消費にさらに関わってくるのは明白である。

7.参考文献

消費者庁 「平成 28 年版消費者白書」(2016)

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/pdf/2017_whitepap

er_all.pdf

新日本スーパーマーケット協会 「2017 年版スーパーマーケット白書 第 3 章 SNS と消

費者・小売業」(2017)

http://www.super.or.jp/wp-content/uploads/2017/02/hakusho2017-3_4.pdf

電通モダン・コミュニケーション・ラボ

佐藤 尚之、金田 育子、京井 良彦、信澤 宏至、茂呂 譲治、橋口 幸生、宮林 隆吉

dentsu SHIPS~来るべきソーシャルメディア時代の新しい生活消費行動も出る概念~

(2011)

http://www.dentsu.co.jp/sips/index.html

立教大学社会学部メディア社会学科

358

デジタルメディアが与えたビジュアルコミュニケーション

要旨

「インスタ映え」という言葉からもわかるように、デジタルメディアが与えたビジュアル

コミュニケーションが私たちの行動に「今」、大きな変容をもたらしている。コミュニケ

ーションを意識した写真の撮影や行動の変化が世の中にはあるのではないか。そして、そ

れは他者からの目や自分を美化しようとする意識が働いているのではないだろうか。

デジタルメディアがもたらした、ビジュアルコミュニケーションという概念を「今」とい

う視点も主に考えていく。

キーワード:Instagram、ビジュアルコミュニケーション、他者意識、美化意識、

「今」

1.はじめに

デジタルメディアが誕生し、私たち若者のコミュニケーションの仕方が多様化した。人類

のメディア文化におけるターニングポイントは8個だと考えられている。その中で 初に

あたる洞窟壁画の誕生は4万年前にさかのぼる。人類がメッセージを伝えるために生み出

した 初のメディアは「絵」や「図」、「画」であった。

時が経ち、私たちは言葉を使ってコミュニケーションをとることが主流となった。電話が

なかったころは直接的に話してコミュニケーションをとることが普通であった。携帯電話

の誕生は 1985 年。そこから早 30 年以上が経過し、現在ではスマートフォンがほとんどを

占める。2017 年のスマートフォン所持率は 77.5%、タブレット端末は 41.0%と、液晶媒

体を見ながら外に出る人の多さを表している。

直接的な言葉のコミュニケーションから、携帯電話誕生により電話でのコミュニケーショ

ン、そしてメールでのコミュニケーションが流行した。写メという言葉は、写真をメール

で送るということが新鮮だったゆえにできたものだ。そこから今ではスマートフォンでの

スクリーンショット Instagram での写真投稿やストーリー投稿とコミュニケーションの幅

が広がっていることは明らかである。

デジタルメディアがもたらした、ビジュアルコミュニケーションという概念を、「今」の

視点を中心に考えていく。ものの伝え方が変容してきているなかで、現状若者はどのよう

にビジュアルコミュニケーションをしているのかを考察する。また、ビジュアルコミュニ

ケーションとるためにの意識が芽生えているのであれば、それについても検討する。

2.問題意識

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

359

私自身が携帯電話を 初に持ったのは小学校5年生のときであった。そのときは、電話を

する用途と少しメールが出来れば十分といったような感じだった。スマートフォンを持っ

たのは、中学3年生の頃。外でインターネットにつなげられるということで感動する時代

であった。今は当たり前となっているパケットし放題も、その頃はどれくらいの使用時間

がどれくらいの料金になるかも実感できず、パケットし放題にしていなかった人が多額な

お金を請求されたケースもあった。

今では、そもそも便利であったはずの電話やメールはそもそも便利であったはずの硬いイ

メージとなり、その用途を満たす普段のコミュニケーションツールとしては LINE を使っ

ている人が多い。また、Twitter や Facebook、Instagram のなど SNS の登場によって、

私たちのコミュニケーションの仕方が変わってきているようにも思える。

「インスタ映え」という言葉からもわかるように、ビジュアルコミュニケーションを意識

した写真の撮影や行動の変化が「今」の世の中にはある。ビジュアルコミュニケーション

をとる人には、他者からの目という意識が内在しているのではないか。そして、「インス

タ映え」するきれいなもの、うらやましがられるものを載せることで、自分を良く見せよ

うをしているのではないか。

様々なデジタルメディアが発展してきている「今」のコミュニケーションの仕方をビジュ

アルという観点から捉えていく。

3.仮説

ビジュアルコミュニケーションをよく使う人は他者意識が強いのではないか。また、ビジ

ュアルコミュニケーションを意識した行動をとる人は自己の美化意識が強いのではないか

という仮説を立てた。

4.調査方法

立教大学、社会学部に所属している生徒 264 人を対象に、社会調査アンケートを実施し

た。そこから出た調査結果から分析する調査方法である。その社会調査アンケートの中か

ら、主に Instagram の使用方法と行動についての質問項目を使う。SPSS を用いて行った

単純集計結果とクロス集計した結果から考察していく。

「ビジュアルコミュニケーションをよく使う人は他者意識が強いのではないか」という仮

説に対しては、【問 12-0 Instagram をどの程度利用しますか】と【問 12-2 写真を見ても

らうために(Instagram を)投稿する】の質問項目を使用。

また、「ビジュアルコミュニケーションを意識した行動をとる人は美化意識が強いのでは

ないか」という仮説に対しては、【問 12-1 (Instagram に)アップすることを意識して外

出先・イベントを決める】と【問 12-1 (Instagram に)投稿するとき、日常の自分より

美化しているという意識がある】の質問項目を使用。

立教大学社会学部メディア社会学科

360

5.分析結果

5-1.Instagram の利用回数と写真を見てもらうための投稿との関連性

本調査では、選択肢のリコードを行った。

【問 12-0 Instagram をどの程度利用しますか】では、「1日 101 回以上」、「1日 100 回~

51 回」、「1日 50 回~21 回」を1とし、「1日 20 回~11 回」、「1日 10 回~2回」、「1日 1

回程度」を2、「週に数回」、「月に数回かそれ以下」を3、「利用していたが今は利用して

いない」、「利用したことがない」を4とした。

【問 12-2 写真を見てもらうために(Instagram を)投稿する】では、欠損値を0、「とて

もよくある」、「よくある」、「ときどきある」を1、「あまりない」、「全くない」を2とし

た。

帰無仮説 HO:Instagram の利用回数と写真を見てもらうための投稿には関連性がない

対立仮説 HI:Instagram の利用回数と写真を見てもらうための投稿には関連性がある

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

361

2変数間で関連性をカイ2乗検定を用いて検定した結果、p=0.000 と p<0.05 で有意性が

認められたので、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択できるとし、2変数間に関連がある

と言える。

Instagram を利用している回数が多いほど、写真を見てもらうために Instagram を投稿し

ているということがわかった。

5-2.Instagram のアップを意識した行動と自己の美化意識の関連性

本調査では、選択肢のリコードを行った。

【問 12-1 (Instagram に)アップすることを意識して外出先・イベントを決める】で

は、欠損値を0、「とてもよくある」、「よくある」、「ときどきある」を1、「あまりな

い」、「全くない」を2とした。

【問 12-1 (Instagram に)投稿するとき、日常の自分より美化しているという意識があ

る】では、欠損値を0、「とてもよくある」、「よくある」、「ときどきある」を1、「あまり

ない」、「全くない」を2とした。

立教大学社会学部メディア社会学科

362

帰無仮説 HO:Instagram のアップを意識した行動と自己の美化意識には関連性がない

対立仮説 HI:Instagram のアップを意識した行動と自己の美化意識には関連性がある

2変数間で関連性をカイ2乗検定を用いて検定した結果、p=0.000 と p<0.05 で有意性が

認められたので、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択できるとし、2変数間に関連がある

と言える。

Instagram にアップすることを意識して外出先・イベントを決める人ほど、Instagram に

投稿するとき、日常の自分より美化しているという意識があるということがわかった。

6.まとめ

分析結果から、以下の2つのことがわかった。

1つ目は、Instagram を利用している回数が多いほど、写真を見てもらうために

Instagram を投稿しているということ。ここから、利用回数が多い人は、見られている意

識、他者意識が強いという傾向があることが言える。Instagram で行うビジュアルコミュ

ニケーションは、人から見られている意識を強めているのかもしれない。

2つ目は、Instagram にアップすることを意識して外出先・イベントを決める人ほど、

Instagram に投稿するとき、日常の自分より美化しているという意識があるということ。

ここから、自分をよく見せたいという意識が自分の本来の行動を変えることにつながって

いると言えるのではないか。Instagram m で行うビジュアルコミュニケーションは自分の

ありのままから遠ざかってしまうのかもしれない。

今回、Instagram を中心に2つのクロス集計を行い分析したが、「今」のコミュニケーシ

ョンについては掴めきれなかった。今後、卒業論文においては Instagram にある要素

(例:写真を加工して投稿する)ことなどを、Twitter など他の SNS と比較しながら、ビ

ジュアルコミュニケーションの在り方の変化について触れていきたい。

【参考文献】

・年表で読み解く携帯電話の 30 年

http://mobile.nuro.jp/mvnolab/articles/201505_87/(2018 年1月 21 日現在)

・スマートフォン所有率は 78%、タブレットは 41%にまで躍進

http://www.garbagenews.net/archives/2170355.html(2018 年1月 21 日現在)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

363

公式リツイートに対するユーザーの意識、空コメントの実態

要旨(327 文字)

2017 年度秋学期に行われた木村ゼミ社会調査をもとに、大学生の公式リツイートに

対するユーザーの意識と空コメントの利用実態を明らかにしていく。公式リツイート

は今日社会が注目する「炎上」という現象の 小単位である。この公式リツイートを

デジタルネイティブである大学生はどのように使いこなしているのだろうか。また公

式リツイートをした上で行われる「空コメント」についても言及していく。空コメン

トをすることにより、公式リツイートをした元ツイートに対する自信の立場がより明

確になる。空コメントも重要な自己主張の役割を担うのではないだろうか。アカウン

トの利用用途やユーザー個人の性格が公式リツイート、および空コメントに何らかの

関連を持つという観点の元、調査結果を分析していく。

キーワード:Twitter、公式リツイート、アカウントの複数利用、空コメント、自己主

1.はじめに

本レポートでは公式リツイートがデジタルネイティブである大学生にとってどのような

目的、どのような意識で行われているのか、ユーザーのアカウント利用状況と照らし合わせ

ながら考察する。

2.問題意識

今日における「炎上」という社会現象で、重要な役割を担うのが Twitter 内での公式リツ

イートである。バイト従業員が衛生上不適切な画像をツイートし、それが拡散し生まれた

「バカッター」という言葉、女性らが共通のハッシュタグをつけて隠れた性的暴行を告発す

る「metoo 運動」など、Twitter 発祥の言葉やムーヴメントが数多く生まれてきた。公式リ

ツイートの持つ伝播力は今や社会にとって無視できないものとなっている。私の近辺では

そんな公式リツイートに関して、「多すぎるとタイムラインを圧迫してしまいフォロワーに

迷惑なのでは」といったネガティブな意見がある一方で、「普段はツイートよりもリツイー

トの方が多い」といった意見もある。デジタルネイティブである大学生は公式リツイートに

どのようなイメージを持ち、またどのように利用しているのだろうか。

3.Twitter の機能

まず公式リツイートと、公式リツイート後のユーザーのツイートの定義を明らかにし、そ

立教大学社会学部メディア社会学科

364

の後アカウントの複数利用の実態に迫る。

3-1.公式リツイートと「空から

コメント」

公式リツイートとは Twitter におけるツイートのシェア機能のことを指す。他ユーザーの

ツイートにあるリツイートボタンを押すことにより、自分をフォローしている「フォロワー」

とそのツイートを共有することができる。ちなみに他ユーザーのツイートを引用し、自分の

コメントを添えて再発信するのは非公式リツイートと呼ばれる。公式リツイートは単純に

リツイートと呼ばれることも多い。本論では正式名称である公式リツイートという表記を

用いる。

またユーザーが公式リツイートを行った後、さらに元ツイートに対するコメント(共感、批

判、自身の体験等)をツイートする場合がある。これによってユーザーは公式リツイートさ

れた元ツイートに対して共感しているのか、はたまた批判的なのか、立場をより明確にする

ことができる。このようなツイートを、@マークをつけずに他者のツイートにリプライを送

ることを「空リプ」と呼ぶことにちなみ、本論では「空コメント」と定義し扱うこととする。

3-2.アカウントの複数利用

他の SNS と比べ、複数のアカウントを使い分けて使用できる点が Twitter の特徴といっ

ても過言ではないだろう。実際にこの特徴を活かし複数アカウントを併用している学生も

多い。2016 年度木村ゼミ社会調査では一人当たり平均 2.04 個のアカウントを所持してお

り、今年度の木村ゼミ調査でも平均 2.48 個所持しているという結果が出た(表 1)。また問

9-1 と問 11-1 によると、メインアカウントの利用用途上位は「リア友用」が 79.2%、「趣味

用」が 8.8%、「つぶやく用」が 2.2%。サブアカウントの利用用途上位は「趣味用」が 42.5%、

「少人数用」が 21.9%、「リア友用」が 14.4%という結果になった。 このような調査結果

から、大学生は複数アカウントを持ち、それらを用途にとって使い分けることで Twitter を

楽しんでいるということがわかった。

表 13 問 10 Twitter のアカウント所持数

度数 最小値 最大値 合計 平均値 標準偏差

持っているアカウント数 240 1 11 595 2.48 1.659

表 14 問 9-1 メインアカウントの利用用途

リア友

用 趣味用

つぶやく

用 少人数フォ

ロー専用 情報収集

用 その他

あなたのメインアカ

ウントは、どのよう

なアカウントです

か?

79.2 8.8 2.5 1.3 6.3 2.0

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

365

表 15 問 11-1 サブアカウントの利用用途

リア友用 趣味用 つぶやく

少人数フ

ォロー専

情報収集

用 その他

あなたのサブアカウ

ントは、どのような

アカウントですか?

14.4 42.5 1.9 21.9 10.6 8.6

4.仮説

アカウントの利用用途と個人の性格、それぞれが公式リツイートの数に影響を与えてお

り、空コメントがアイデンティティの表明として使われているという観点のもと、三つの仮

説を立てた。

① リア友用より趣味用のアカウントの方が公式リツイートの頻度が高い

② オンラインでの交友関係が広いほど空コメントが多くなる

③ 周りの目を気にする人ほど公式リツイートをためらい、自己主張をしたい人ほど公式リ

ツイートが多くなる。

リア友との社交がアカウントの目的ならば、既にオフラインでアイデンティティを他者

に示せているので公式リツイートの頻度は少ないはずである。反対にオンラインを通じ情

報縁で得た友人との交流が目的の場合、Twitter 上のみの情報でアイデンティティを表明す

る必要があるので公式リツイートの頻度は高くなると予想できる。さらにより明確な立場

をフォロワーにアピールするため、情報縁でのつながりを有するアカウントでは空コメン

トが多い傾向にあるという仮説を立てた。

アカウントの利用用途とは別に、個人の性格も公式リツイートの数に影響を及ぼすと予

想される。二章で述べたように、公式リツイートは他人の目を気にしてためらわれることが

ある。こうした意見をもとに、ユーザーの自己表現に対する姿勢と公式リツイート数には相

関があると考えた。

5.社会調査分析

5-1.概要

今回分析したのは『2017 年度木村ゼミ社会調査』である。本調査は 2017 年度秋学期開

講講義である「メディアコミュニケーション論」を受講する学生 264 名を対象として行わ

れたものである。なおこのうち Twitter を利用していると回答したのは 240 名であった。

本調査のうち、本論で注目した問いとその内容は以下の通りである。

立教大学社会学部メディア社会学科

366

問 6 Twitter 利用頻度

問 7 公式リツイートの関心別利用頻度

問 8 公式リツイートへの意識

問 9-1 メインアカウントの利用用途

問 9-3(17) メインアカウントでの累計ツイート数

問 9-4(19) メインアカウントでの一週間の公式リツイート数

問 9-4(20) メインアカウントでの一週間の空コメント数

問 11-1 サブアカウントの利用用途

問 11-3(27) サブアカウントでの累計ツイート数

問 11-4(29) サブアカウントでの一週間の公式リツイート数

問 11-4(30) サブアカウントでの一週間の空コメント数

問 24-2-2 オンライン上での友人に対する意識

問 24-4-1 自己主張についての意識

問 24-4-2 他人からの評価についての意識

これらのうち区間選択肢で回答されたものは区間の平均値に置換し、問 9-3 と問 11-3 の

「201 以上」という回答は全て 300 とみなした。同様に問 9-4 と問 11-4 の「16 以上という

回答は全て 20 とみなし計算した。なお問 24-4-2「意見を言うとき、みんなに反対されない

かと気になる」を逆転項目とみなし「意見を言うとき、みんなに反対されないかと気になら

ない」と変数を加工した。

5-2.分析結果

5-2-1.アカウント利用用途と公式リツイート数の関連性

仮説①を証明するためリア友用アカウント、趣味用アカウント、それぞれの一週間の累計

ツイート数と、一週間の公式リツイート数の平均を求めた。その結果が表4、表 5 である。

表 16 メインアカウントのツイート数と公式リツイート数の平均

アカウント数 ツイート平均 公式リツイート平均

メインアカウント

の用途

リア友用 190 5.22 2.26

趣味用 21 43.28 7

表 17 サブアカウントのツイート数と公式リツイート数の平均

アカウント数 ツイート平均 公式リツイート平均

サブアカウントの

用途

リア友用 23 9.52 3.23

趣味用 68 9.72 3.88

表 4 によると、平均公式リツイート数はリア友用アカウントが 2.26 回、趣味用アカウント

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

367

が 7 回であった。単純なリツイート数でみると趣味用アカウントの方がリア友用を大きく

上回っているように見える。しかし一週間の累計ツイート数は、リア友用アカウントは 5.22

回、趣味用アカウントは 43.28 回となった。これを踏まえ累計ツイート数の中での公式リツ

イート数の比率を見ると、リア友用アカウントでは約 50%、趣味用では約 16%となった。

サブアカウントでも同様に累計ツイートと公式リツイートの比率を見ると、リア友用アカ

ウントは 33%、趣味用は 39%となり、有意な差は見られなかった。

「リア友用より趣味用のアカウントの方が公式リツイートの頻度が高い」という仮説をも

とに分析をしたが、仮説を証明するようなデータは得られなかった。むしろリア友用アカウ

ントの方が少ないツイート数の中で公式リツイートの割合が高くなっていることが意外な

結果であった。

5-2-2.オンラインの交友関係の広さと空コメント数の関連性

帰無仮説 H0:オンラインの交友関係の広さと空コメント数に関連性がない

対立仮説 H1: オンラインの交友関係の広さと空コメント数に関連性がある

問 9-4(20)「メインアカウントでの一週間の空コメント数」と問 24-2-2「オンライン上(イン

ターネット、スマホ)だけでの付き合いだけでも、オフラインの友だちと同じくらいの友だ

ちといえる」の 2 変数間での関連性を、カイ 2 乗検定を用いて検定した結果、p= 0.178 と

有意性が認められなかった。(p>0.05)よって帰無仮説(H0)を棄却できず、2 変数間に関連は

見られなかった。(表 6)

表 18 「空コメント数」と「オンライン上(インターネット、スマホ)だけの付き合いで

も、オフラインの友だちと同じくらいの友だちといえる」のクロス集計表

5-2-3.自己主張の姿勢と公式リツイート数の関連性

帰無仮説 H0:自分を目立たせようとすることと公式リツイート数に関連性がない

対立仮説 H1:自分を目立たせようとすることと公式リツイート数に関連性がある

オンライン上(インターネット、スマホ)だけの付き合いでも、オフラインの

友だちと同じくらいの友だちといえる

合計

あてはまる まああてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

空コメント 53 36 14 9 112

9 9 4 6 28

1 2 2 0 5

0 0 1 0 1

1 0 0 0 1

合計 64 47 21 15 147

立教大学社会学部メディア社会学科

368

問 9-4(19)「メインアカウントでの一週間の公式リツイート数」と問 24-4-2「大勢の人が集

まる場では、自分を目立たせようと張り切るほうだ」の 2 変数間での関連性を、カイ 2 乗

検定を用いて検定した結果、p= 0.016 と有意性が認められた。(p>0.05)よって帰無仮説(H0)

を棄却し対立仮説(H1)を採用できるとし 2 変数間に関連があるといえる。(表 7)

表 19 「公式リツイート数」×「大勢の人が集まる場では、自分を目立たせようと張り切る

ほうだ」のクロス集計表

大勢の人が集まる場では、自分を目立たせようと張り切るほうだ 合計

あてはまらない あまりあてはま

らない

まああてはまる

あてはまる

一週間の

公式リツイート

15 30 11 2 58

14 31 23 2 70

2 10 1 0 13

0 1 0 1 2

0 2 1 1 4

合計 31 74 36 6 147

帰無仮説 H0:周りに反対されないか気になることと公式リツイート数に関連性がない

対立仮説 H1:周りに反対されないか気になることと公式リツイート数に関連性がある

問 9-4(19)「メインアカウントでの一週間の公式リツイート数」と問 24-4-2「意見を言うと

き、みんなに反対されないかと気になる」の 2 変数間での関連性を、カイ 2 乗検定を用い

て検定した結果、p= 0.318 と有意性が認められなかった。(p>0.05)よって帰無仮説(H0)を棄

却できず、2 変数間に関連は見られなかった。

表 20 「公式リツイート数」×「意見を言うとき、みんなに反対されないかと気になる(逆

転)」

意見を言うとき、みんなに反対されないかと気になる 合計

あてはまる まああてはまる あまりあては

まらない

あてはまる

公式リツイート 11 22 17 8 58

13 30 20 7 70

2 6 2 3 13

1 1 0 0 2

3 0 0 1 4

合計 30 59 39 19 147

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

369

6.考察とまとめ

本論ではアカウントの利用用途と個人の性格、それぞれが公式リツイートの数に影響を

与えており、空コメントがアイデンティティの表明として使われているという観点のもと、

三つの仮説を立て、検証を行った。

①リア友用より趣味用のアカウントの方が公式リツイートの頻度が高い

②オンラインでの交友関係が広いほど空コメントが多くなる

③周りの目を気にする人ほど公式リツイートをためらい、自己主張をしたい人ほど公式リ

ツイートが多くなる。

仮説①はアカウントごとの累計ツイート数における公式リツイート数の比率を求めるこ

とで証明を試みた。これには有意な結果が見られず、仮説は証明されなかった。次に仮説②

を証明するために、オンラインで得た友人への意識と空コメント数の相関を求めた。その結

果この変数間には有意な関係が認められ、仮説は支持された。 後に仮説③を証明するため、

自己主張に関するユーザーの姿勢と公式リツイート数の関連を調べた。結果として、「自分

を目立たせたい」と思うユーザーほど公式リツイート数が多くなることには有意性が確認

できたが、「意見を言うとき反対されないか気になる」と思うユーザーと公式リツイート数

には関連が見られなかった。よって、仮説③については「自己主張をしたい人ほど公式リツ

イートが多くなる」という部分のみ証明された。

仮説①が棄却されてしまったことが非常に驚きだった。しかし公式リツイートを自己表

現でなく元ツイートへ「面白い」「共感した」ということを伝えるシグナルと捉え利用して

いる若者が多いことが、北村智(2016)の研究の中で紹介されている。先行研究と分析結果を

踏まえると、アカウントごとの公式リツイート数にはもっと複雑な要因が絡み合っている

と考えられる。公式リツイート研究にはまだまだ研究の余地がありそうだ。

参考文献

北村智他、2016、『ツイッターの心理学』、誠信書房

立教大学 木村ゼミ「2016 年度木村ゼミ社会調査」

立教大学社会学部メディア社会学科

370

「リア充アピール」をする投稿者にもたらされる精神面の影響

要旨

スマートフォンも SNS も広く普及している現代、「SNS 疲れ」という言葉が存在す

るように、人々は SNS 利用によって疲れを感じているのではないか。この「疲れ」

を「精神的不健康」に置き換え、SNS が精神的不健康をもたらしていくそのメカニズ

ムを本レポートでは検討していく。

また、そのうえで今回着目した観点は SNS における「リア充アピール投稿」であ

る。このような投稿の『閲覧者』は「イラっとする」などといった不快感を示すこと

は既存のデータにより明らかになっている。そのため今回は、リア充アピールの『投

稿者』側に注目し、2017 年度木村ゼミ作成の「情報メディアコミュニケーションに関

する調査」の回答を分析することで、「リア充アピール」と「精神的不健康」の関係

を明らかにしていくなかで自分なりの答えを導き出すのが本レポートの目的である。

キーワード

SNS 利用、精神的不健康、リア充アピール、Twitter、Instagram

1. 問題意識

スマートフォンが広く普及した現代、人々は手のひらに収まる小さな機器に夢中だ。総務

省によると、スマートフォンの利用率は 2017 年において、全年代で 71.3%にまでのぼって

いるという。そして同様に「SNS 利用」も、現代では一部の人にとってだけのものではな

くなっている。再び総務省の同データによると、SNS の利用率は全年代で 71.2%にのぼっ

ており、SNS を利用すること自体も広く普及しているといえる(総務省 2018)。

スマホも SNS も普及した現代、耳にするようになったのは「SNS 疲れ」という現代病

だ。私が関心を抱くのは、時と場所を選ばない自由なコミュニケーションを可能にした SNS

は、一見すると人々にとってプラスの影響をもたらす夢の道具と思いきや、実際には、従来

は感じていなかったストレスが SNS によってもたらされているということである。

そのストレスは私自身も身をもって経験したことがある。しかし、経験者は私だけではな

く、「SNS 疲れ」という言葉が存在していることからもわかるように、世間一般の人々も同

様に感じているはずではないだろうか。このような問題意識に基づいて、自らの手で人々の

SNS に対する意識について分析を行っていくことが本レポートの目的である。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

371

1. 先行研究

〈米ビッツバーグ大学研究チーム「若い世代の精神に SNS が与える影響」(2016)〉(東洋

経済より)

米ビッツバーグ大学研究チームが 2016 年 3 月に発表した調査によると、SNS をよく利

用する人ほどうつ病になりやすいという。そして、うつ病のリスクは、SNS 利用回数が多

い人はそうでない人と比べ 2.7 倍高く、SNS 利用時間が長い人はそうでない人に比べて 1.7

倍高くなるという結果が出ている。調査対象者の SNS 利用回数は週平均で 30 回、利用時

間は 1 日平均 61 分程であった。

本レポートでは、前章でも触れた「SNS 疲れ」や、上記の「うつ病」といったような、

SNS 利用によってもたらされる精神的に負の状態や悪影響、それに伴う疾患などを総称し

て「精神的不健康」と定義する。上記の先行研究から SNS は若い世代にうつ病のリスクを

高める、つまり本レポートにおける『精神的不健康』をもたらすということがわかった。

次章からはこの結果を踏まえ、「SNS は精神的不健康をもたらす場合がある」ということ

を前提にし、「どのような SNS 利用の仕方が精神的不健康をもたらすのか」というメカニ

ズムについて分析を通じ、明らかにしていく。

2. 仮説

本レポートでは、精神的不健康をもたらす SNS 利用の仕方として、『「リア充アピール」

に関する投稿』に注目した。

「リア充」とは「リアル(=現実世界での生活)が充実」していることを指す。そのよう

に、自身の人間関係の豊かさや、予定が詰まっていて忙しい様子を誇示するような投稿(具

体的にはデート・飲み会などの忙しくも楽しそうな様子の投稿、またそれらを頻繁に行うこ

と)は時に「リア充アピール」といわれる。

この類の投稿は、閲覧者を不快な気持ちにさせることがある。トレンド総研(2014)によ

ると 20-30 代の男女 300 人のうち、「 もリア充投稿が多いと思う」という回答が 49%で

一番高かった「Facebook」において、Facebook ユーザーの 83%が「友人のリア充投稿を

見たことがある」と回答したという。そして、見かけたことがあるユーザーのおよそ 75%

もの人が「リア充投稿にイラっとしたことがある」と回答した。つまり、リア充アピール投

稿の閲覧者の多くは精神的不健康をもたらされているのだ。

しかし、本レポートでは、リア充アピールの閲覧者ではなく「投稿者」に着目する。そし

て「リア充アピールの投稿という SNS 利用の仕方は、投稿者自身の精神的不健康をもたら

す」という仮説をたてて、次章から分析を進めていく。

3. 調査概要

4-1 分析対象

調査名:「情報メディアコミュニケーションに関する調査」

立教大学社会学部メディア社会学科

372

調査主体:立教大学社会学部 木村忠正研究室

調査時期:2017 年 11 月実施

調査方法:Google フォームを用いて作成したアンケートを web 上で実施

調査対象:立教大学 2017 年度秋学期「メディア・コミュニケーション論」受講者

調査有効数:264 票

4-2 分析内容

〈使用した変数〉

Q3-1-2:SNS、ブログ、電子掲示板で自分の成功や幸せな様子を載せたことで、自慢してい

る嫌な人だと思われる

Q24-1-4:私はリア充だ

Q24-2-4;SNS を利用するのは楽しい

Q24-2-5:SNS の自分は素の自分だ

Q24-2-6:自分は SNS に依存していると思う

Q24-2-7:SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う

Q25-1: もよく利用する SNS

Q25-2-1: もよく利用する SNS の特徴として、「リア充アピールができる」がどれくらい

当てはまるか

F1:性別

4-3 分析方法

上記調査で得られた回答を Excel で数値化し、統計ソフト SPSS のクロス集計表を用い

てデータ分析を行った。「リア充」に関する説明変数と、「依存」といった精神的不健康・「楽

しい」といった精神的健康を表す独立変数を組み合わせて、リア充アピールをする側の気持

ちと SNS 利用の際の精神面の関連を調べた。

4. 分析結果

5-1. 【リア充アピール投稿をする割合】

そもそも、SNS 上でリア充アピール投稿を行う人はどれくらいの割合存在するのか。

「Q24-2-7:SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う」をみてみよう。結果を以

下の【グラフ1】に示した。ここから読み取れるのはリア充アピール投稿を実際に行うのは、

全体のおよそ 14.8%であるということである。リア充アピール投稿を目にする機会は 近

多いが、実際の投稿者は 2 割に満たない限られた人たちということである。

グラフ1:SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

373

5-2. 【最もリア充アピールができる SNS】

大学生にとって もリア充アピールの場と考えられている SNS は何であろうか。まず、

「Q25-1: もよく利用する SNS」をみてみよう。結果(【グラフ2】)を見てみると、

Instagram が 49.6%で Twitter が 45.1%と、若干 Instagram のほうが上回るものの、この

二つの SNS に二極化しているといっていいだろう。

グラフ2:最もよく利用する SNS

また、「Q25-2-1: もよく利用する SNS の特徴として『リア充アピールができる』がど

れくらい当てはまるのか」と上記の「Q25-1: もよく利用する SNS」をクロス集計してみ

ると、「あてはまる」と回答した人の 81.6%、「まああてはまる」と回答した人の 52.6%が

54.20%31.10%

11.70%3.00%

あてはまらない

あまりあてはまらない

まああてはまる

あてはまる

49.6%

45.1%

2.3% 3%

Instagram

Twitter

Facebook

利用していない

立教大学社会学部メディア社会学科

374

Instagram を もよく利用する人であった。それに対し、「あまりあてはまらない」と回答

した人の 55.6%、「あてはまらない」と回答した人の 58.3%が Twitter を もよく利用する

人であった。

つまり、Instagram と Twitter は大学生の二大巨頭的な利用率の高さを誇る SNS ではあ

るものの、「リア充アピール」の場として考えられているのは、Twitter よりも Instagram

であるということがわかった。

5-3.【SNS 依存と思うとリア充アピール投稿を頻繁に行うの関連性】

帰無仮説:SNS 依存とリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がない。

対立仮説:SNS 依存とリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がある。

「Q24-2-6:自分は SNS に依存していると思う」と「Q24-2-7:SNS 上でリア充アピール

のための投稿を頻繁に行う」の2変数間での関係性を、カイ二乗検定を用いて検定した結果、

p=0.000 と有意差が認められた(p<0.05)。よって帰無仮説を棄却し、対立仮説を採用でき

るので2変数間には関連があるといえる。

つまり、リア充アピール投稿を頻繁に行う投稿者は、自分は SNS に依存していると感じ

る傾向にあるのだ。

5-4.【リア充だと思う・SNS は素の自分とリア充アピール投稿を頻繁に行うの関連性】

帰無仮説:リア充と思うこととリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がない。

対立仮説:リア充と思うこととリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がある。

「Q24-1-4:私はリア充だ」と「Q24-2-7:SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に

行う」の2変数間での関係性を、カイ二乗検定を用いて検定した結果、p=0.000 と有意差

が認められた(p<0.05)。よって帰無仮説を棄却し、対立仮説を採用できるので2変数間に

は関連があるといえる。

つまり、リア充アピールを行う人は自分自身をリア充だと感じてあり、取り繕っているわ

けではなさそうだ。そのことを「SNS の自分は素の自分である」という観点からも見てい

こう。

帰無仮説:SNS は素の自分とリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がない。

対立仮説:SNS は素の自分とリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がある。

「Q24-2-5:SNS の自分は素の自分だ」と「Q24-2-7:SNS 上でリア充アピールのための投

稿を頻繁に行う」の2変数間での関係性を、カイ二乗検定を用いて検定した結果、p=0.017

と有意差が認められた(p<0.05)。よって帰無仮説を棄却し、対立仮説を採用できるので2

変数間には関連があるといえる。

よって実際にリア充アピール投稿を行う人は、実際に自分の生活も充実していると感じ

ており、SNS 用の偽りの自分を映しているというよりは、ありのままを載せていると感じ

る人が多いということだろう。

5-5.【SNS 利用は楽しいとリア充アピール投稿を頻繁に行うの関連性】

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

375

帰無仮説:SNS 利用は楽しいとリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がない。

対立仮説:SNS 利用は楽しいとリア充アピール投稿を頻繁に行うことには関連がある。

「Q24-2-4;SNS を利用するのは楽しい」と「Q24-2-7:SNS 上でリア充アピールのための

投稿を頻繁に行う」の2変数間での関係性を、カイ二乗検定を用いて検定した結果、p=

0.03 と有意差が認められた(p<0.05)。よって帰無仮説を棄却し、対立仮説を採用できるの

で2変数間には関連があるといえる。

ここからわかるのは、リア充アピール投稿を頻繁に行う人は、前述した SNS 依存との関

連からは、SNS 依存傾向にあるということが分かったが、それでも「楽しい」と感じてい

るということだ。ただ単に SNS 依存といったマイナスな感情が形成されるだけに終始して

いいわけではなく、楽しいといったプラスな感情も、リア充アピール投稿者には芽生えてい

るという点を見逃してはならない。

5. 結論・考察

本レポートでは、SNS は人々に従来は感じていなかったストレスをもたらすものではな

いかという問題意識のもと、ストレスを「精神的不健康」に置き換えて、SNS 利用の仕方

との関連性を探ることを目的とした。その上で「リア充アピール投稿」という SNS 利用の

仕方に着目し、なかでもそのような投稿の「閲覧者」ではなく「投稿者」に焦点を当て、分

析を行った。

得られた結果としては、まず前提として大学生に利用率の高い Instagram と Twitter の

うち、リア充アピールの場として考えられているのは Instagram ということであった。や

はり 140 字に制限があり添付できる画像数も 4 枚と制約の多い Twitter よりも、画像・動

画メインの Instagram の方が、投稿に盛り込める内容の幅も広く、質も高いということが

要因だろう。ストーリー機能といったように即自的に発信ができることもアピールの場と

して使いやすいと考えられる要因であるといえる。

そして、リア充アピール投稿者は、リア充を取り繕って誇示しているわけではなく、実際

に自分の実生活が充実しているものとしてとらえており、SNS の自分も素の自分であると

いうことを感じているという。リア充ではないにもかかわらずリア充に見せようとしてい

るのではなく、本当にリア充であり、それをアピールしたがっていると考えられる。

そして一番見逃せなかった結果は、リア充アピール投稿者は SNS 依存を感じながらも、

利用を楽しんでいるという点だ。そのことにより「リア充アピールの投稿という SNS 利用

の仕方は、投稿者自身の精神的不健康をもたらす」という仮説は必ずしも正しいものとは言

えないという結論を得た。SNS 依存という精神的不健康をもたらしながらも、楽しんでい

ることによりむしろ精神的健康がもたらされているのではないかと考えることも可能だ。

今後は「リア充アピール投稿」の内容面についてもっと深く掘り下げ、どのような投稿が

どのような影響をもたらすかまでの検討を行うことが自身の課題である。

立教大学社会学部メディア社会学科

376

6. 資料

図表1:最もよく利用する SNS とリア充アピールができるのクロス表

図2:SNS 依存と思うとリア充アピール投稿を頻繁に行うのクロス表

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

377

図3:リア充だと思うとリア充アピール投稿を頻繁に行うのクロス表

図4:SNS は素の自分とリア充アピール投稿を頻繁に行うのクロス表

立教大学社会学部メディア社会学科

378

図5:SNS 利用は楽しいとリア充アピール投稿を頻繁に行う

参考文献

日本語文献

・情報通信政策研究所、2017、「平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関す

る調査」総務省。

・西村豪太編集、2016、『週刊東洋経済 2016 年 7 月 2 日号』、東洋経済新報社、Google ブ

ックス https://books.google.co.jp(2018 年 2 月 1 日取得)。

ネット資料

・トレンド総研、2014、「『SNS リア充の意識と実態』に関する調査」、トレンド総研 HP

http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M102314/201403209201/_prw_PR1fl_973j6

n82.pdf(2018 年 2 月 1 日取得)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

379

若者の情報獲得実態~インターネットは「能動的」ツールか

要旨

現在、私たちが日々行っている「検索」のツールは幅広いものである。この「検索」

を通じて消費意識が高まるなど情報に対して「能動的」に若者は動いているように思わ

れる。しかし視点を変えてみると、に「Twitter」や「Instagram」など、限定的なプラ

ットホームで情報収集を行っているとも言える。これまでの新聞やテレビといった「マ

スメディア」の立場と同様にあり、つまり情報に対して「受動的」になっているのであ

る。しかし、情報の信頼度の高さは「マスメディア」が高いことが分析結果と出た。こ

のことから、「インターネット」は若者にとって「受動的ツール」であり、「マスメディ

ア」はこれを補完する役割を果たし、「能動的ツール」となり、これまでの立ち位置が

逆転しているのである。

キーワード:検索、能動的・受動的、Twitter、マスメディア、インターネット

1 はじめに

1-1 先行研究

本論文執筆前に、現在若者がなにを利用し

て「検索」しているのかについての調査

データを上げる。LiDDELL 株式会社が若

者 100 人を対象に「 近よく使っている

検索はなにか」についてアンケート調査

を実施した。図 1 より、google(33%)

や Yahoo!(12%)といった検索エンジン

に並んで、Twitter(31%)や instagram

(24%)の SNS が検索に利用されている

ことが明らかになった。この結果のみ見

てみると、SNS の利用率が計 55%とブラウザの利用率の計 44%より上回っていることが

分かった。このことから、現代の若者の検索において SNS 利用が重要な位置を占めてい

ると言える。

図1「最近検索によく使うツール」

(https://eczine.jp/news/detail/2779)

立教大学社会学部メディア社会学科

380

次に 10 代~20 代の若者の SNS における「ハッシュタグ利用」について Testee による

アンケート調査を資料としてあげる。ハッシュタグは今から 15 年ほど前に利用され始め

てから、多くの人に利用されている検索手段の一つである。図 2 より、「Twitter」でのハ

ッシュタグ検索利用経験率が男女共通して高く、また、「instagram」でのハッシュタ

グ検索利用経験率は女性が高いことが読み取れる。さらに同調査の「instagram」のハ

ッシュタグ検索後に、「購入したことがある」「購入したいと思ったことがある」の回

答者を合計すると、全体で半数に上る(図 3)。このことから若者のハッシュタグ検索

が消費意識、購買意識に影響があると考えられる。

1-2 問題意識

前章の先行研究から、消費意識、購買意識の高まりが「検索」を通して生まれていると

いう点に関しては、情報に対して「能動的」に私たちは動いているといえる。一方で、

instagram と Twitter という限定的なプラットホームで情報収集を行っているとも言うこ

とができる。つまり情報に対して私たちは「受け身」になっているという捉え方もできる

のではないだろうか。スマートフォンの登場により、検索ツールがブラウザから SNS へ

と移行したことにとどまらず、インターネットそのものが「能動的」から「受動的」なツ

ールに変化していると言うほうがしっくりくるのかもしれない。そして 20 代のスマート

フォ個人保有率が 94.2%(総務省、2017)という私たち現代の若者はこの傾向を大いに受

けているのではないかと考え、この傾向を分析することに至った。

2 仮説

前章で述べたよう、現代の若者はスマートフォンの登場によりハッシュタグ検索をはじ

め、SNS による検索がブラウザに並び、利用されるようになった。さらにそれは消費意識

や購買意識にも大いに影響を与え、情報に対して私たちが「能動的」に動いているとも言

図 3「ハッシュタグ購入経験」

(https://japan.cnet.com/article/35

図 2「ハッシュタグ検索利用経験率」

(https://japan.cnet.com/article/35107656/)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

381

え、また検索ツールが「ブラウザ」から「SNS」に移行していることが分かる。一方でこ

れまでテレビやラジオといった「受け身」のツールがブラウザや SNS に移っていたので

はないだろうか。これまで新聞やテレビから入ってくる情報をただただ受け取るのみ、情

報を流し見しているという言い方もできるかもしれない。そこで以下のような仮説を立て

る。

『インターネットそのものが「能動的」ツールから「受動的」ツールに変化した』

ここでいうインターネットとはブラウザと SNS を総称したものを指す。

3 調査概要

本論文では昨年に木村ゼミとして立教大学社会学部の授業の一環として受講生 245 名を

対象に行った 2017 年度社会調査をもとに統計分析を行う。

問 4「口コミサイトの閲覧」頻度

問 7「Twitter の使い方について」

問 12-1、問 12-2「Instagram の使い方について」

問 16「メディアの情報源としての性質に対して」

4 分析結果

4-1 若者の SNS 利用状況

まず、現在の若者の SNS の利用頻度についてみていきたいと思う。「問 5 Facebook の

利用程度」の結果から一日に 1 回以上「Facebook」を利用する人は 14.3%に留まった。一

方で、「問 6 Twitter の利用程度」と「問 12-0 Instagram の利用程度」についての結果

からは「Twitter」は 84.5%、「Instagram」は 78.4%の人が一日に 1 回以上利用している

ことが分かった。このことから、若者が利用する SNS は Twitter と Instagram が二大 SNS

であることがデータ的に明らかである。また、「F1 性別」と「問 25-1 3 つの SNS であ

なたが もよく利用する SNS はどれか」でクロス集計をとった結果が図表 1 である。

図表 1 F1 性別 と 問 25-1 3 つの SNS で最もよく利用する SNS についてのクロス表

問25-1 3つのSNSであなたが最もよく利用するSNSはど

れですか?

合計 いずれも利用

していない Facebook Instagram Twitter F1 性別 女性 度数 2 2 84 45 133

F1 性別 の % 1.5% 1.5% 63.2% 33.8% 100.0%男性 度数 4 4 40 64 112

F1 性別 の % 3.6% 3.6% 35.7% 57.1% 100.0%合計 度数 6 6 124 109 245

F1 性別 の % 2.4% 2.4% 50.6% 44.5% 100.0%

立教大学社会学部メディア社会学科

382

この結果からも先行研究にあった結果と同様に女性の Instagram 利用度の高さが顕著に

見て取れる。また、「問 7 Twitter の使い方 [ハッシュタグを使って検索する]」「問 12-1

Instagram の使い方 [ハッシュタグを使って検索する]」の質問に対して 5 段階で回答し

てもらったところ、以下の結果になった(図 4・図 5)

1 は「かなりよくする」「よくする」、2 は「ときどきする」、3 は「あまりしない」

「全くしない」0 は「欠損値」とした。(以下の統計資料同様のコーディングを行ってい

る。)

それぞれ 1と 2を合算したところ、Twitterによるハッシュタグ検索は 56.3%、Instagram

によるハッシュタグ検索は 71.8%と第 1 章であげた先行研究(TesTee)のデータともほぼ

数値が同じであることから、木村ゼミの社会調査のデータの質の高さも同時に伺える。

4-2 仮説論証

第 3 章で立てた仮説を裏付けるための条件として、問 12-1 Instagram の [フォローして

いる友達の写真を見る] 、[ストーリーの投稿を見る]の 2 つと 問 17 商品・サービス購入の

きっかけとなる影響力の強さ[友人の SNS での投稿] のクロス集計をした際に、投稿を見た

結果、その後の行動への影響力を見ることで若者の情報獲得や意識の在り方が見えるので

はと考えた。そこでこれらをクロス集計した結果が以下となる。(図表 2,3)

図表 2 Instagram の [フォローしている友達の写真を見る] と 商品・サービス購入のきっか

けとなる影響力の強さ[友人の SNS での投稿] のクロス表

問17 商品・サービス購入のき

っかけとなる影響力の強さ[友人のSNSでの投稿] 合計

33.5%

22.8%

43.8%

問7 Twitter[ハッシュタ

グを利用して検索する]

1

2

349.5%

22.3%

28.2%

問12‐1 Instagram[ハッ

シュタグを利用して検索す

る]

1

2

3

図 5 Twitter[ハッシュタグを利用して

検索する]

図 6 Instagram[ハッシュタグを利用

して検索する]

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

383

1 2 問12-1 Instagramの [フォ

ローしている友達の写真を

見る]

0 度数 23 16 39

問12-1 Instagramの [フォローしている友達の写

真を見る] の % 59.0% 41.0% 100.0%

1 度数 151 43 194

問12-1 Instagramの [フォローしている友達の写

真を見る] の % 77.8% 22.2% 100.0%

2 度数 3 6 9

問12-1 Instagramの [フォローしている友達の写

真を見る] の % 33.3% 66.7% 100.0%

3 度数 1 1 2

問12-1 Instagramの [フォローしている友達の写

真を見る] の % 50.0% 50.0% 100.0%

合計 度数 178 66 244

問12-1 Instagramの [フォローしている友達の写

真を見る] の % 73.0% 27.0% 100.0%

図表 3 Instagram [ストーリーを見る] と 商品・サービス購入のきっかけとなる影響力の強

さ[友人の SNS での投稿] のクロス表

問17 商品・サービス購入のき

っかけとなる影響力の強さ[友人のSNSでの投稿]

合計 1 2 問12-2 Instagram [ストーリーを見る]

0 度数 24 16 40問12-2 Instagram [ストーリーを見る] の % 60.0% 40.0% 100.0%

1 度数 142 38 180

問12-2 Instagram [ストーリーを見る] の % 78.9% 21.1% 100.0%

2 度数 4 8 12

問12-2 Instagram [ストーリーを見る] の % 33.3% 66.7% 100.0%

3 度数 8 4 12

問12-2 Instagram [ストーリーを見る] の % 66.7% 33.3% 100.0%

合計 度数 178 66 244問12-2 Instagram [ストーリーを見る] の % 73.0% 27.0% 100.0%

立教大学社会学部メディア社会学科

384

このクロス集計を行ったことで発見した点は、「Instagram のフォローしている友達の

投稿を見る」や「ストーリーの投稿を見る」を「かなりよく・よくする」人の約 6 割がそ

の後の商品やサービスの購入きっかけとなっている一方で、4 割の人が影響していないと

している。この 4 割という数は比較したとき検討し得る数値と言えるのではないか。つま

り、4 割の人にとっては私たち若者を「能動的」に動かせることなく、ただただ「受動

的」な状態でいさせているのである。それは SNS などのインターネット自体が「受動的

ツール」になったということではないだろうか。

以前友達とストーリーの投稿について話した際、「ストーリー」は 後まで見ないでど

んどん次に進んでしまうよね、というものであった。このことからも一度にたくさんの情

報を一方的に受け取っている、つまり「受け身の姿勢」であると言えると感じ、これが

SNS への負担感にも感じることにつながると推測することができる。

4-3 メディアを使い分ける若者

前節まで、流れてくる情報に対して「受動的」になっており、それは私たちが「受け身に

なっただけではなく、ネットそのものが受動的なツールになっているのではないかという

ことを述べてきた。本節ではこれも踏まえたうえで現代の若者がどのようにメディアを使

い分けているのかについて見ていく。問 16「メディアの情報源の性質について」という質

問で、「新聞・雑誌・まとめサイト・テレビ・その他各種ネットサイト・Twitter・LINE・

Instagram・facebook」の 9 つのメディアの中である情報源に対して上位 3 つを回答しても

らった。今回の分析においては、1 位を 3 点、2 位を 2 点、3 位を 1 点として計算し、その

合計点数が高いほど、重要度が高いとする。

今後二つのグラフが登場するが、上のグラフが各メディアの 1 位、2 位、3 位の割合と

その合計を表したものである。下のグラフが上記の得点方法で各メディアの合計点数を出

し、それを全体の得点数で割ったものである。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

385

4-3-1 娯楽源

図 7-1、7-2 より、娯楽源で もよく利用するものは「Twitter」と「Instagram」である

ことがよく分かる。この 2 つは 1 位、2 位も同様の割合が見られている。3 番目に高い割合

を示したのが「LINE」であり、これは友人関係でのやり取りであることが伺える。その

「LINE」とほぼ同じ数値であったのは「テレビ」であった。若者のテレビ視聴率低下が懸

念されているが、今回のこの結果はテレビにもまだ若者の娯楽源獲得のメディアとして活

路があるとも言えるのではないだろうか。

1.2%

24.8%

14.8%

25.4%

9.4%

14.6%

6.1%3.5%

0.3%0.0%5.0%

10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%

娯楽源

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0%

facebook

Instagram

LINE

Twitter

その他各種ネットサイト

テレビ

まとめサイト

雑誌

新聞

娯楽源

1位 2位 3位

図 7-a(上)7-b(下)「メディアの情報源の性質について(娯楽源)」の割合

立教大学社会学部メディア社会学科

386

4-3-2 勉強、仕事上の情報源

図 8-a より もよく利用すると回答されたツールは「LINE」であった。これは、試験

や課題前などに友人と連絡をとって確認する人が多いことが予測される。この他にも

「Twitter」「新聞」「その他各種ネットサイト」が類似した数値が出た。しかし図 8-b の全

体割合を見ていると、専門性に特化した「その他各種ネットサイト」が群を抜く結果とな

った。次に「Twitter」であり、「LINE」「新聞」と続いた。

「Twitter」での友人との連絡を取ることが頻度からなのか、課題や試験のネタ集めとして

用いられているのか、なにが要因なのか、この結果から気になった点である。

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%

facebookInstagram

LINETwitter

その他各種ネットサイト

テレビ

まとめサイト

雑誌

新聞

勉強、仕事上の情報源

1位 2位 3位

3.1% 2.9%

13.0%15.3%

26.7%

11.7% 11.0%

3.5%

13.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

勉強、仕事上の情報源

図 8-a(上)・8-b(下)「メディアの情報源の性質について(勉強、仕事上の情報源)」の割合

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

387

4-3-3 社会的出来事の情報源

図 9-a、9-b より、「テレビ」と「Twitter」が社会的出来事を知るために多くの人が用い

ているという結果が出た。「テレビ」は若者の視聴が減っていると言われるが、5 分や 10

分の放送の中にたくさんの社会的出来事について「映像」を通して知ることができるとい

う点において「Twitter」より勝るのかもしれない。また、図 9-a より、若者の「新聞」の

購読率の低さも伺えるが、2 位、3 位として利用している割合は 1 位よりも多く、他のメ

ディアで知った情報の信頼性や確実性を補完するという点において役割を果たしていると

考えられる。

2.6% 3.2%

8.3%

24.9%

14.6%

28.5%

6.4%

1.0%

10.5%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

社会的出来事の情報源

図 9-a(上)・9-b(下)メディアの情報源の性質について(社会的出来事の情報源)の割合

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0%

facebookInstagram

LINETwitter

その他各種ネットサイト

テレビ

まとめサイト

雑誌

新聞

社会的出来事の情報源

1位 2位 3位

立教大学社会学部メディア社会学科

388

4-3-4 何か購入する時の情報源

図 10-a、10-b より、購入する時の情報源としては「その他各種ネットサイト」「Instagram」

が二大トップとなった。「その他各種ネットサイト」はショップの HP の他にスマートフォ

ンアプリを開設しているお店が多いのも背景にあることが推測される。そして図 10-a より、

今話題の「Instagram」は 1 位、2 位として利用されている割合が多いことから、「Instagram」

への信頼度や好感度が厚い人、利用頻度が高い人の要素はこれがかなり大きく影響してい

ることも読み取れる。また「テレビ」「雑誌」などはこれらを補う形で用いられていること

も分かった。

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

facebook

Instagram

LINE

Twitter

その他各種ネットサイト

テレビ

まとめサイト

雑誌

新聞

何か購入する時の情報源

1位 2位 3位

1.5%

23.1%

2.3%

17.1%

27.4%

8.6%11.7%

8.3%

0.0%0.0%5.0%

10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%

何か購入する時の情報源

図 10-a(上)・10-b(下)メディアの情報源の性質について(何か購入する時の情報源)の割合

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

389

4-3-5 得られる情報の信頼性が高い情報源

図 11-b より、 も信頼性が高い情報というのは「新聞」であり、その次が「テレビ」で

あった。しかし、図 11-a より、「テレビ」を 2 位と回答している割合が多いのが目を惹

く。さらに「新聞」と「テレビ」の 1 位と 2 位を合計した割合はほぼ同じであり、3 位を

合わせると、「テレビ」が上回る形になる。この結果は、非常に興味深いものである。よ

り多くの人が信頼しているのは「テレビ」であり、「信頼性が高い」のは「新聞」という

ことになるだろうか。SNS は全体を通しても信頼度の低さが顕著に表れている。

「マスメディア」の信頼度の健在さが光る結果となった。

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0%

facebook

Instagram

LINE

Twitter

その他各種ネットサイト

テレビ

まとめサイト

雑誌

新聞

得られる情報の信頼性が高い情報源

1位 2位 3位

1.6%4.9% 4.4% 4.8%

12.7%

27.8%

2.7%

10.7%

30.6%

0.0%5.0%

10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%

情報の信頼性が高い情報源

図 11-a(上)・11-b(下)メディアの情報源の性質について(得られる情報の信頼性が高い情報源)の割合

立教大学社会学部メディア社会学科

390

4-3-6 結論

本節では第 1~5 項まで、若者がメディアをどのように使い分けているのかについて述べ

てきた。この結果から、「Twitter」が多くの人が幅広い場面で使っているということが分か

った。この「Twitter」の特徴として、知りたい情報を「いち早く」知ることができるとい

う点で「娯楽源」「社会的出来事「勉強・仕事上」の面での利用率が高まったことが言える。

その点においては「テレビ」も同様のことが言えるだろう。「テレビ離れ」が進むと言われ

ている若者にとって「テレビ」は情報源としての位置を確立している、ということは意義あ

る発見である。また、これよりも時間をかけてじっくり知りたい要素において「Instagram」

や「その他各種のネットサイト」が高くなり、それは「何か購入する時の情報源」で表れて

いる。そしてより正確な情報を得たいときに用いられるのが「新聞」であった。そして本節

終項「得られる情報の信頼性が高い」メディアとして「マスメディア」という結果は、今

後も「マスメディア」が「デジタルメディア」を補完する役割として共存していくことを指

すのではないかと考える。

5 考察

以上のことから、スマートフォンの登場により、検索ツールがブラウザから SNS へ

と移行したことにとどまらず、インターネットそのものが「能動的」から「受動的」なツ

ールに変化していると言うほうがしっくりくるのかもしれない。図表 4 で整理してみた結

果、「受動的」ツールが主要的役割を「能動的」ツールが補完的役割を果たしていると言

えるかもしれない。つまりこれまで情報を得ていた「テレビ」と「新聞」という限定的で

かつ「受け身の」プラットホームが「Twitter」や「ブラウザ」という限定的なものに移行

されたことにより、私たちにとってインターネットそのものが「受動的なツール」になっ

たと言えるのではないか。そこを補っていくのが、これまでメディアを引っ張ってきた

「マスメディア」であり、現在そして今後能動的な役割となっていくと考えられる。

図表 4 過去と現在のメディア利用の変化

過去 現在~

<能動的>

(補完的役割)

ブラウザ、SNS マスメディア

<受動的>

(主要的役割)

マスメディア ブラウザ、SNS

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

391

参考資料

・Clnet japan『若者がインスタでよく使う「ハッシュタグ」は--スマホ画⾯から読み解く実態』https://japan.cnet.com/article/35107656/ (2018/1/20 取得)

・ECzine「検索はもう古い? 若者はツイッターやインスタグラムでなにを検索しているの

か」2016/2/22 配信 https://eczine.jp/news/detail/2779 (2018/1/20 取得)

・総務省、2017、「平成 29 年度版情報通信白書」

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/pdf/n1100000.pdf

(2018/1/27 取得)

・木村ゼミ 2017 年度社会調査アンケート

立教大学社会学部メディア社会学科

392

2017 年における現実の経験と不安感の乖離および不安感と相関の

ある属性について

要旨

本論文は、木村忠正の著書「デジタルネイティブの時代」で取り上げられた不

安感について再度検証した論文である。具体的には、仮説 1「経験していないに

も関わらず、その事柄を不安に思う」について、仮説 2「不安感が何かしらの属

性と相関関係にある」について考察したものである。これらを見ていった結果以

下のことが考察できた。2017 年現在、UAI が高いかは不明だが不安感は強い。そ

して、不安感の強い人は、自分の行動や言動によってネガティブな印象をつけられな

いように気を遣っている。また、自分がどのように見られているかを知りたい欲求が

ありその欲求を満たすように行動していると予測される。

キーワード:

不安感、現実の経験、周りの視線、UAI

1. はじめに

木村(2012)の著書である「デジタルネイティブの時代」では不確実性回避行動について論

じた次のような記述がある。

日中カナダを比較すると中国(上海)のインターネット利用者における不安感が日本以上

であることがわかるとともに、中国では実際にトラブルに遭うからこそ不安なのに対し

て、日本社会では実際のトラブル自体は相対的に極めて少ないのに対して不安感は中国

と同水準に高いことも示されている。(木村 2012)

言い換えれば、日本人は中国人やカナダ人と比較すると、漠然とした不安感を抱きやすい

というのだ。確かに、日本人は何かと用心することが多い。例えば、アメリカでは無名のブ

ラントであっても品質が良ければ利用するらしい。しかし、私はそれができない。名も知れ

ていないブランドの商品と、ブランド力はあるが値の張る商品であれば、私は後者を購入す

る。これも漠然とした不安感によって導かれた消費行動であろう。

今の例は私個人的なものであるが、ほかの日本人も比較的似た傾向を示すのではないだ

ろうか。少なくとも、2012 年の研究時点では、漠然とした不安感を持つ傾向が見られた。

では、2017 年現在ではどうだろうか。いまだ、未経験の事柄に対して不安になる傾向が見

られるのか、はたまた 2012 年からみると改善が見られるのか。本論文ではこれを一つの仮

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

393

説とする。つまり、「現実に経験していないにも関わらず、その事柄を不安に思う」のかと

いう仮説だ。

もうひとつの仮説は「不安感が何かしらの属性と相関関係にある」ということだ。先ほど

はひとくくりに日本人と呼んでいたが、日本人の中でも不安感の強い人と弱い人がいる。こ

の違いはどこにあるのかを見ていく。木村の著書ではあまり語られていなかったが、今回は

この仮説を研究していくことにより、さらに不安感に対しての認知を深めようと考えてい

る 。

なお本論では 、第 2 章において先ほど挙げた二つの仮説を検証していく。その後、第 3

章においてそれらの検証結果をまとめ、結びとする。 第 2 章はさらに二つに分かれてお

り、1 部は仮説 1 の「経験していないにも関わらず、その事柄を不安に思う」について、2

部は「不安感が何かしらの属性と相関関係にある」について論じている 。

2. 本論

2-1. 2017 年の現実の経験と不安感の乖離

1 部では、仮説 1「経験していないにも関わらず、その事柄を不安に思う」について検

証していく。この仮説は調査票の問 3 を分析することによって検証できる。

問 3 は大きく二つに分かれて質問が構成されている。前半は実際の経験について、後半

は不安感について、それぞれ以下の項目がどの程度当てはまるか聞いている。

1. SNS、ブログ、電子掲示板などで、自分に対する悪口や中傷を書かれる

2. SNS、ブログ、電子掲示板で、自分の成功や幸せな様子を載せたことで、自慢してい

る嫌な人だと思われる

3. 口コミサイトや SNS に乗っている商品情報や評価が現実と違う

4. SNS、ブログ、電子掲示板などで自分に画像が他人に曝される、悪用される

これらの質問項目は実際の経験と不安感、両方に共通しているため、実際には経験して

いないが不安に感じている人をクロス集計できる。これにより実際には経験していないが

不安感は高いかどうかを検証する。相関を持ってないという帰無仮説を立て、この仮説が

棄却できれば相関があり、逆になければ相関があるとは言えない、とする。

表 1 問 3 における帰無仮説

有意確率 帰無仮説

問3-2-1 0.03052 棄却される

問3-2-2 0.00286 棄却される

問3-2-3 1.52818 棄却されない

問3-2-4 0.40537 棄却されない

立教大学社会学部メディア社会学科

394

この結果を見ると、経験していないからと言って不安感が高いわけではないことが分か

る。 しかしこれは、経験している/していないに関わらずそもそも不安感が高いのではな

いだろうか。木村の著書にも書いてあったことだがこれを疑問に感じたため、単純集計を

確認した。集計結果は以下の通りだ。なお、数字の単位はその選択肢の回答者数である。

表 2 問 3-1 における不安の感じ方の比較

不安はない あまり不安はない やや不安 不安 総計

問3-1-1 47 69 88 60 264

問3-1-2 56 62 101 45 264

問3-1-3 18 45 128 73 264

問3-1-4 33 55 91 85 264

質問項目でバラツキはあるものの全体を通して不安感は高い数値になっている。 残念

ながら今回のアンケート調査は日本人にしか聞いていないため外国人との比較はできな

い。ただし少なくとも日本人において、不安感は高いという結果が得られた。そのため次

の仮説も、分析が満足に行えるものと考える。

2-2. 不安感と相関関係にある属性について

2 部では、仮説 2「不安感が何かしらの属性と相関関係にある」について検証してい

く。

大まかなやり方としては、問 3 を独立変数とし、問 24-4 および問 25-2 を従属変数とし

て設定する。これらをクロス集計にかけた後、相関があるか検証する。また相関があると

分析できたものについては相関の強さも見ていく。

まず問 3 の変数だが、今のままでは不安感を示す指標として扱いにくい。そのため問 3-

2 で集計できた不安感のデータ 4 項目を数値化し、それぞれ足し合わせる。これをポイン

ト毎に 5 段階に分けて、変数として新たに作る。

具体的には、問 3 の 4 項目それぞれにおいて「不安はない」と回答した人は 1、「あま

り不安はない」と回答した人は 2、「やや不安」と回答した人は 3、「不安」と回答した

人は 4 として数値に変換する。そして、足し合わせた数値の結果によって不安感の強さを

以下の五つに分ける。

不安感が弱い 4,5,6

不安感がやや弱い 7,8,9

不安感が標準的 10

不安感がやや強い 11,12,13

不安感が強い 14,15,16

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

395

今回独立変数として扱うのはこの不安感の指標である。なおこの変数の単純集計は以下の

通りである。

表 3 問 3 の変数を改めてラベリングした結果

不安感が弱い 24

不安感がやや弱い 51

不安感が標準的 32

不安感がやや強い 102

不安感が強い 55

この変数を用いて問 24-4 および問 25-2 でクロス集計をし、相関があるかないか、相関

の強さがどれくらいかを分析した。なお相関の強さを測るときにはピアソンの積率相関係

数を利用した。結果は以下の通りである。

表4 帰無仮説の棄却と相関の強さ

帰無仮説 相関の強さ

問 24-4-1-1 棄却されない -0.1917

問 24-4-1-2 棄却されない 0.13215

問 24-4-1-3 棄却される 0.2353

問 24-4-1-4 棄却されない 0.17979

問 24-4-1-5 棄却される 0.22839

問 24-4-1-6 棄却されない 0.19865

問 24-4-2-1 棄却される 0.07766

問 24-4-2-2 棄却される 0.30962

問 24-4-2-3 棄却される 0.39477

問 24-4-2-4 棄却される -0.1077

問 24-4-2-5 棄却される 0.33994

問 24-4-2-6 棄却されない -0.1075

問 25-2-1 棄却されない 0.23215

問 25-2-2 棄却される 0.19301

問 25-2-3 棄却されない 0.13556

問 25-2-4 棄却される 0.24466

問 25-2-5 棄却される 0.26683

問 25-2-6 棄却されない 0.13887

問 25-2-7 棄却されない 0.15857

問 25-2-8 棄却される 0.22428

問 25-2-9 棄却される 0.18059

立教大学社会学部メディア社会学科

396

問 25-2-10 棄却される 0.19891

帰無仮説が棄却できたもののうち、比較的相関の強い 0.2 以上の質問項目、そして 0.3

以上の質問項目を下に記した。 なお、相関の見られた質問項目のうち負の相関のものは

なかった。

表 5 相関 0.2 以上の質問項目

問 24-4-1-3 人から敵視されないよう、人間関係には気を付けている

問 24-4-1-5 人と話すときにはできるだけ存在をアピールしたい

問 25-2-4 自分について、客観的に考えたり、感じたりすることができる

問 25-2-5 「自分には仲間がいる」という安心感が得られる

問 25-2-8 当該 SNS ができなくなったら、きっと耐えられないと思う

表 6 相関 0.3 以上の質問項目

問 24-4-2-2 目立つ行動をとるとき、周囲から変な目で見られないか気になる

問 24-4-2-3 意見を言うとき、みんなに反対されないかと気になる

問 24-4-2-5 他人が自分をどう思っているかいつも気になる

上記の質問項目において、いくつかに共通している点が二つある。一つ目は、自分の行

動や言動によってネガティブな印象をつけられないように気を遣っていること、二つ目

は、自分がどのように見られているかを知りたい欲求がありその欲求を満たすように行動

していることだ。

一つ目は、問 24-4-1-3、問 24-4-2-2、問 24-4-2-3 の質問から読み取れた。 これは今の日

本において一度ネガティブな印象をつけられたら、ポジティブな印象をつけるまでにかな

りの時間を要するということに起因しているかもしれない。

二つ目は、問 24-4-2-5、問 25-2-4 からわかる。一つ目の気づきとも関係があるのだが、

自分がどのように見られているか早急にキャッチすることでそれ以上のマイナスな印象を

つけられまいとする意識があるように思われる。

これら二つの気づきから私は次のようなことが予想した。まず一つ目に、不安とは「周

囲と比較したときに、自分が相対的に低い状態になることを恐れる感情」ではないかとい

うことだ。不安と、ネガティブな印象になることは相関があると見られたこと、 そして

木村の著書において経験したことがなくとも不安感を抱く傾向があること、これらを踏ま

えると不安の対象は一度でも経験してしまうと社会的に不利な状況に陥ってしまうものだ

と予想できた。

二つ目は自身の状況を確認するために他人を観察しているということだ。自分自身の評

価というものはあくまで他人から見られた自分にすぎない。そのため自分のことを知るた

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

397

めにはまず他人を知らなければならない。自分のアイデンティティを知るためには他者の

評価(肩書きなどのステレオタイプも含める)を知る必要があるということだ。そのため

に SNS 等のツールを使い、周囲の人間から自らへの視線を確認しているのではないだろ

うか。

3. 結論

今回は 2012 年に木村が出版した著書をもとに現実の経験とそれに対する不安感を調査

してきた。仮説 1「経験していないにも関わらず、その事柄を不安に思う」への回答は、

現実の経験と不安感は乖離しているとは限らない。しかし、不安感は依然として強い傾向

にあるということになる。木村の著者では日本人も中国人やカナダ人と同等程度の不安感

を持っているとのことだったが、今回の調査票調査では日本人にしか調査できなかったた

め、2017 年現在、不安感がどれほど強いのかは相対的にはわからなかった。

仮説 2「不安感が何かしらの属性と相関関係にある」への回答は、相関はあるというこ

とで落ち着いた。また、ネガティブな印象を気にする態度と、周囲への観察を怠らない姿

勢の両方と相関があるということがわかった。もちろん相関関係でしかないのでどちらが

原因でどちらが結果か、あるいは他の変数が関わっているという可能性は十分にありえ

る。しかし 不安感とネガティブな印象を気にする態度・周囲を確認する姿勢、それらは

関係性があると考えてよいだろう。芸能人がスキャンダルを一度したらなかなか復帰でき

ない状況や、一度ミスしたら会社をクビになってしまう事態を見ると、日本人は特に UAI

が強くなりがちなのかもしれない。このあたりはまた機会があれば検証してみたい。

参考文献

木村忠正,2012,『デジタルネイティブの時代 なぜメールをせずに「つぶやく」のか』平凡社.

立教大学社会学部メディア社会学科

398

「インターネット利用は若者を『ダメ』にするのか」

1.はじめに

「 近の若者は…」。ほとんどの若者がこのようなことを一度は言われたことがあるので

はなかろうか。それに対して私たち、いわゆる若者は、「若者だからとひとくくりにされる

のは納得がいかない」、「年齢は関係ない」と憤りを感じているように思える。

私も何度かこの一言を祖母に言われたことがあったので、なぜそう思うか聞いてみたとこ

ろ、「携帯ばかりいじって勉強はしないし、コミュニケーションも取れない」と言われた。

本論文ではこうした考え、経験から、インターネット社会で生きてきた今日の若者、いわ

ゆるデジタルネイティブたちがネットを利用することにより、日常の行動や精神、勉学や

コミュニケーションなどに悪影響が表れているのかを追究していく。今回は、「ダメ」の

定義を「学力低下」とし、仮説を①スマホを持った年齢が低いほど学力は低い、②インタ

ーネット利用による影響は悪影響ばかりではなく、「人」によって違いがある、として調

査をする。そこから、果たして「デジタルネイティブたちは本当に『ダメ』なのか」とい

うことを論証していく。

2.本論

2-1.人々はスマホと学力低下を結びつけているのか

まず初めに、人々はスマホと学力低下を結び付けて考えているのかを調査していく。以下

の図を見ていきたい。図 1は、Google Trend にて、「スマホ 学力 低下」を検索した結果で

ある。次に、図 2を見てほしい。図 2は Google Trend にて、「スマートフォン」を検索した

結果である。私はここで、「スマホ 学力 低下」のグラフが初めて動いたのが、2011 年 8

月、スマートフォンのグラフが頂点に達したのが、2011 年 7 月と、とても近いことを発見

した。ここには関係性があると考え、調べたところ、2011 年は、スマートフォンの販売台

数が急激に増えた年であることが分かった。(図 3)(※1)図 1~図 3から、スマートフォン

の発売が急激に伸びたことにより、多くの人々がスマートフォンを買おうとインターネッ

トで検索することが多くなり、それに加え、学生が持つということに、親世代が、「スマホ

を触りすぎて、勉強しなくなるのではないか」と考え、インターネット上で、情報共有を行

うようになったと推測される。つまり、スマートフォンの導入は、人々が、「スマホ=学力

低下」と結びつけるようになった 初のタイミングであると考えられる。

後に図 4を見てほしい。図 4は、Google Trend にて、「スマホ 学力 低下」を検索した

結果の中でも、グラフが頂点を示した 2015 年 3 月にポイントを置いたものである。この年

に何があったのだろう。調べていくと、同年に東北大学が、「スマホの長時間使用が、学力

低下に強い影響を与える」と発表したのである。この発表は毎日新聞に、「スマホ警告ポス

ター『使うほど学力が下がります』日医作製」という記事が掲載されたことにより、広く話

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

399

題になった。(※2)この発表は、東北大学が、教育委員会で毎年行われている標準学力調査

でのアンケート結果に基づいて調査しているうえに、医師会がポスターを作るという、きわ

めて信憑性が高いものであった。それ故に人々の関心を引き、インターネットでの検索につ

ながったのであろう。この出来事は、「スマホ=学力低下」というイメージを固定化させた。

ここまでの一連の流れにより、人々は、スマホと学力低下を結び付けて考えていることがわ

かる。

図 1 Google Trend 「スマホ 学力 低下」での検索結果(2011 年 8 月)

図 2 Google Trend 「スマートフォン」での検索結果(2011 年 7 月)

図 3 日本における主要 3キャリアのタッチパネル+ストレートタイプのスマートフォンの

発表台数(HH News & Reports 調べ)

立教大学社会学部メディア社会学科

400

図 4 Google Trend 「スマホ 学力 低下」での検索結果(2015 年 3 月)

2-2.スマホを持った年齢が低いほど、学力は低いのか

ここまでで、多くの人々はスマホと学力低下を結び付けていることが分かった。ここから

は、その中でも、どのような人がスマホ利用により学力が下がるのかを調査していく。私は、

「スマホを早くから持つと、長時間の利用により、依存状態になるのでは」と考え、ここで

は、「スマホを持った年齢が低いほど学力は低い」を仮説とし、調査していく。

まず、表 1 を見てもらいたい。こちらは 2017 年度木村ゼミ社会調査アンケートの中から、

初めてスマホを持ち始めた年齢と GPA の違いを検討するために、SPSS で分散分析を行い、

「スマホを持ち始めた年齢と、GPA の数値は関係性があるか」ということを表している。こ

の分散分析において、説明変数を、「スマホ利用開始年代」とし、具体的には、①=小学校、

中学校まで、②=高校、③=大学以降と変数とした。そして、目的変数を「GPA」とし、具

体的には、GPA が①0.5~0.99、②1.0~1.49、③1.5~1.99、④2.0~2.49、⑤2.5~2.99、⑥3.0~3.49、

⑦3.5~4.0 とした。結果をみると、有意確率は、0.099 で、有意水準 5パーセントとした場

合、有意ではない、つまり関連はほとんどないと言える。結論として、「スマホを持った年

齢が低いほど、学力が低い」という仮説は否定された。

表 1 スマホ利用開始時期と GPA 分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

グループ

間1.685 2 0.843 2.332 0.099

グループ

内94.314 261 0.361

合計 95.999 263

分散分析

F8a GPA(連続)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

401

2-3.スマホを使う時間が長いほど、学力は低いのか

アンケートを用いた分散分析の結果から、「スマホを持ち始めた年齢と学力には相関関係

がない」ということが分かった。持ち始めた年齢は、使用時間に比例していないのでこのよ

うな結果になったのではないかと考える。そこでここからは、「スマホを使う時間が長いほ

ど、学力は低いのか」ということに関して調査していく。

初めに、図 5を見てもらいたい。この記事は、イギリスのスマホ利用と学力低下に関する

調査結果の記事である。「 も学力が低い生徒のグループでは持ち込み禁止により、成績の

伸びを測る指標が 14.23%向上した。5グループ平均の上昇率は 6.41%だった。高学力グルー

プでは成績に大きな差はなく、『学力が低い生徒は携帯電話により集中力を乱されやすい』

としている。」(※3)とあるがよく注目してもらいたい。高学力のグループには大きな差は

なし、つまり、スマホ利用の時間が変わっても、学力低下に陥ってはいないということを述

べているのである。これは、2-1 の東北大学の調査と矛盾していることがわかる。

次に、図 6を見てほしい。これは、文部科学省「全国学力・学習状況調査 2013」の中の、

中学 3 年生の、平日インターネット利用時間別科目別問題正答率をグラフに表したもので

ある。(図 6)このグラフを見ると、1 週間の利用数が 0 時間の子供は、1 時間台の子供より

平均点が低い。これも、「スマホを使えば使うほど学力が下がる」という東北大学の調査と

矛盾していることがわかる。それではなぜこのような結果が出たのだろうか?三谷氏の記

事の中では、三女の放った「意志が強いからだよ」という発言に注目している。(※4)確か

に、スマホというのは、ゲームや動画、SNS など、使おうと思えばいくらでも楽しめるので

ある。そのような自由度が高い機器を「1 時間台で使うのをやめる」、これはとても意志が

強い行動であると考えられる。逆に 0時間の子は、「利用ゼロはきっと本人の意思ではない

のでしょう。」(三谷)とあるように、親に使わないように言われているなど、「自分の意思

で使用時間を制限しているわけではない」というように考えられる。ここからわかることは、

自由に使えるスマホを自らの意思で制限できる子供たちは、スマホ利用で学力低下となる

ことはないということである。

立教大学社会学部メディア社会学科

402

図 5 日経電子版、2015、「スマホ禁止で学力格差縮小 英調査『成績低い子に有効』」、『日

本経済新聞』、2015 年 5 月 23 日

図 6 文部科学省「全国学力・学習状況調査 2013」より(三谷作成)

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

403

3.結論

本論の 2-1 で述べたように、人々は「スマホ利用は学力低下に結びつくもの」というよ

うに意識していることが分かった。そこから 2-2 で、「スマホを持った年齢が早いほど、

学力低下に繋がる」ことを調査したが、持ち始めた時期は関係なく、それよりは長時間利

用が問題となっており、早くからスマホを持っていても、ルールを守りながら利用し、自

分で制御できる力があれば関係がないということが分かった。

「スマホを長時間使うことは学力低下に繋がる」、これは単純に勉強時間がスマホ利用に

より減少するということも考えられ、間違いのないように思われるが、全員が全員そうな

のではなく、自分の中でスマホ利用を制限できる強い意志がある人と、スマホの楽しさに

負けて利用している人では、もし利用時間が同じくらいでも、学力の問題に関しては違う

結果が得られるだろう。大事なのは「利用時間」ではなく、「やることはやり、自分でス

マホ利用をコントロールできるか」なのである。

今回は、「ダメ」の定義を「学力低下」としたが、「ダメ」の定義を変えても、ただ、利

用時間が多いと悪影響がある、という結論にはならないと考えられる。移り行く時代の中

で、きちんと自分の行動を律して、スマホと共存していくことが大切である。

参考文献

※1 HH News & Reports(2013) スマートフォン市場の変化と現在

http://www.hummingheads.co.jp/reports/feature/1311/131105_01.html

(2017 年月 20 日アクセス)

※2 リクルートマネージメントソリューションズ(2017)「スマホを見ると学力が下がる」

は本当か?

https://www.recruit-ms.co.jp/issue/interview/0000000590/

(2017 年 1 月 20 日アクセス)

※3 日本経済新聞電子版「スマホ禁止で学力格差縮小 英調査『成績低い子に有効』」2015

年 5 月 23 日

※4三谷宏治(2015)「なぜ、スマホ使用『0時間の子』は『2時間未満の子』より点数が劣

るのか」

http://president.jp/articles/-/16000?page=2 (2017 年 1 月 30 日アクセス)

立教大学社会学部メディア社会学科

404

現代日本における「孤食」と「つながり」の関係性について

要旨

たとえスマートフォンの中ででも誰かとつながってさえいれば、一人の食事は寂し

くないのではないだろうか。これは私が現代日本における「孤食(一人で食事を行う

こと)」に対して抱いた疑問である。家族や仲間と一緒に食べる「共食」の機会が減

少し、孤食の機会が増加している日本。そして、同じ空間にいなくてもコミュニケー

ションを取ることができるスマートフォンの普及。この二つが重なる時、日本人の食

生活はどのように変化するのだろうか。

本分析では調査対象を大学生に絞り、実際に立教大学の生徒に取った社会調査アン

ケートをもとに分析をする。そして、スマートフォンが私たちに与える影響について

も触れながら、「孤食」と「つながり」の関係性を明らかにしていく。

キーワード:孤食・つながり・スマートフォン・寂しさ・コミュニケーション

1.はじめに

一人で食事を行うことを「孤食」という。近年、この食体系が一般化されてきている。一

方、家族や仲間と一緒に食べる「共食」という食体系がある。これは日本において(世界に

おいても広く理解されている)重要視されてきた食体系である。しかし、この共食をする機

会が年々減ってきている。この背景には単身世帯の増加、共働き世帯の増加など多くの要因

が考えられるが、私はスマートフォン(以下「スマホ」と称する)の浸透が大きな影響を与

えていると考える。つまり、スマホによっていつでもどこでも人とつながることができるよ

うになったため、わざわざ同じ空間で食事をせずとも、スマホを介して一緒の空間を共有し

ているかのような感覚を持つことができるようになり、もはや共食をする必要が無くなっ

たのではないだろうか。

本研究では、現代に生きる人々が持つ「孤食」に対する考えを「つながり」という視点か

ら読み解くことを目的とする。そして、研究対象を大学生に絞り、スマホと日常生活を送る

若者の孤食について分析することをここで断っておく。

2.仮説

2017 年に木村ゼミが行った「情報メディアコミュニケーションに関する調査」において

「スマホがあれば一人の食事も寂しくない」という質問に対して「あてはまる」「まああて

はまる」を合わせると 84.9%、「あまりあてはまらない」「あてはまらない」を合わせると

15.1%と、スマホがあれば一人の食事も寂しくないと答えた人が圧倒的に多かった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

405

以上の回答結果から、私は「たとえスマホの中ででも誰かとつながってさえいれば、一人

の食事は寂しくない」という仮説を立てた。

3.調査方法

立教大学社会学部に所属している生徒 264 名を調査対象に社会調査アンケートを行った

結果をもとに分析をする。

今回は「孤食」と「つながり」に対する意識の相関関係を知りたいため「スマホがあれば

一人の食事も寂しくない」という項目と「常に誰かと一緒にいたほうが安心する」「私の生

活にとって、他者とのつながりは不可欠だ」という二項目それぞれとのクロス集計をとる。

4.分析結果

今回の分析に用いる社会調査アンケート内の項目はもともと「あてはまる」「まあてはま

る」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4段階で調査対象者に質問しているが、

わかりやすくするために分析をする際には「あてはまる」「まああてはまる」を「1」、「あ

まりあてはまらない」「あてはまらない」を「2」にリコードした。

4-1.単純集計

4-1-1.スマホがあれば一人の食事も寂しくない

「仮説」を参照。

4-1-2.常に誰かと一緒にいたほうが安心する

「常に誰かと一緒にいたほうが安心する」という項目に対して「あてはまる・まああては

まる」が 79.2%「あまりあてはまらない・あてはまらない」が 20.8%となった。つまり、常

に誰かと一緒にいた方が安心すると思っている大学生が多いことがわかる。

4-1-3.私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だ

「私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だ」という項目に対して「あてはまる・

まああてはまる」が 32.2%「あまりあてはまらない・あてはまらない」が 67.8%となった。

つまり、自分の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だとは思わない大学生の方が多い

ことがわかる。

4-2.クロス集計

4-2-1.常に誰かと一緒にいたほうが安心するという考えと、スマホがあれば一人の食

事も寂しくないという考えの関係性

帰無仮説 HO:常に誰かと一緒にいたほうが安心するという考えと、スマホがあれば一人の

食事も寂しくないという考えには関係性がない

対立仮説 HI:常に誰かと一緒にいたほうが安心するという考えと、スマホがあれば一人の

食事も寂しくないという考えには関係性がある

2変数間での関係性をカイ2乗検定を用いて検証した結果 p=0.324 と有意性が認められ

なかった。そのため、帰無仮説を棄却できず、対立仮説を採択することができないので、2

変数間には関係がないといえる。

立教大学社会学部メディア社会学科

406

つまり、常に誰かと一緒にいたほうが安心すると思っている人の中には、スマホがあれど

寂しく思う人もいれば、スマホがあれば寂しくないと思う人もいるということである。

図表1-1 処理したケースの要約

ケース

有効数 欠損 合計

度数 パーセント 度数 パーセント 度数 パーセント

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない * 常にだれか

と一緒にいたほうが安心す

264 100.0% 0 0.0% 264 100.0%

図表1-2 常にだれかと一緒にいたほうが安心する と スマホがあれば一人の食事も寂しくない の

クロス表

常にだれかと一緒にいたほうが安

心する

合計 1 2

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない

1 度数 175 49 224

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 78.1% 21.9% 100.0%

2 度数 34 6 40

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 85.0% 15.0% 100.0%

合計 度数 209 55 264

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 79.2% 20.8% 100.0%

図表1-3 カイ 2 乗検定

値 自由度

漸近有意確率

(両側)

正確な有意確率

(両側)

正確有意確率

(片側)

Pearson のカイ 2 乗 .973a 1 .324

連続修正b .600 1 .438

尤度比 1.038 1 .308

Fisher の直接法 .401 .223

線型と線型による連関 .969 1 .325

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

407

有効なケースの数 264

a. 0 セル (.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 8.33 です。

b. 2x2 表に対してのみ計算

4-2-2.私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だという考えと、スマホがあれ

ば一人の食事も寂しくないという考えの関係性

帰無仮説 HO:私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だという考えと、スマホがあ

れば一人の食事も寂しくないという考えには関係性がない

対立仮説 HI:私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だという考えと、スマホがあ

れば一人の食事も寂しくないという考えには関係性がある

2変数間での関係性をカイ2乗検定を用いて検証した結果 p=0.680 と有意性が認められ

なかった。そのため、帰無仮説を棄却できず、対立仮説を採択することができないので、2

変数間には関係がないといえる。

つまり、自分の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だと思っている人の中には、ス

マホがあれど寂しく思う人もいれば、スマホがあれば寂しくないと思う人もいるというこ

とである。

図表2-1 処理したケースの要約

ケース

有効数 欠損 合計

度数 パーセント 度数 パーセント 度数 パーセント

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない * 私の生活に

とって、他者とのつながり

は不可欠だ

264 100.0% 0 0.0% 264 100.0%

図表2-2 私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だ と スマホがあれば一人の食事も寂しく

ない のクロス表

私の生活にとって、他者とのつな

がりは不可欠だ

合計 1 2

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない

1 度数 71 153 224

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 31.7% 68.3% 100.0%

2 度数 14 26 40

立教大学社会学部メディア社会学科

408

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 35.0% 65.0% 100.0%

合計 度数 85 179 264

スマホがあれば一人の食事

も寂しくない の % 32.2% 67.8% 100.0%

図表2-3 カイ 2 乗検定

値 自由度

漸近有意確率

(両側)

正確な有意確率

(両側)

正確有意確率

(片側)

Pearson のカイ 2 乗 .170a 1 .680

連続修正b .052 1 .819

尤度比 .168 1 .682

Fisher の直接法 .715 .404

線型と線型による連関 .169 1 .681

有効なケースの数 264

a. 0 セル (.0%) は期待度数が 5 未満です。最小期待度数は 12.88 です。

b. 2x2 表に対してのみ計算

4-3.分析結果まとめ

まずは単純集計の結果から、常に誰かと一緒にいたほうが安心すると思う人が多いこと

と、自分の生活にとって、他者とのつながりは不可欠ではないと考える人が多いことが分か

った。つまり、「誰かと一緒にいる方が好ましいが、絶対に誰かと一緒にいる必要はない」

という考えを持っている大学生が多いことが推測される。大学生は「つながり」を求めてい

るものの、その「つながり」は無くても問題はないのだ

また、「スマホがあれば一人の食事も寂しくない」と「常に誰かと一緒にいたほうが安心

する」「私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だ」はどちらも関係がないというこ

とがわかった。そして、この分析結果から「誰かと一緒にいた方が安心すると思っている人

でも、スマホの有無で孤食中の寂しさは変わらない」ということが分かったことは大きな成

果である。なぜなら、このことからスマホの中で仮にコミュニケーションを取ったとしても、

そのコミュニケーションは現実世界で行われる face to face で行われるコミュニケーション

と同等の価値を持たないということが明らかになったからである。

したがって、「たとえスマホの中ででも誰かとつながってさえいれば、一人の食事は寂し

くない」という仮説は成立せず、スマホでなにが行われていようと(コミュニケーションが

行われていても)孤食時の寂しさの解消には関与しないということが分かった。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

409

5.おわりに

家族や仲間と一緒に食べる「共食」の機会が減少し、一人で食事をする「孤食」の機会が

増加したことは日本人の大多数が直接感じていることだろう。もしくは、幼少期から孤食の

機会が多く、人生を通して孤食が日常に溶け込んでいる人々も少なくないのではないだろ

うか。

そのような社会の中で、スマホが私たちの生活に浸透し、いつでもどこでも誰とでもつな

がることができるようになったことで、孤食を促進させているように思えた。

たしかにスマホが原因で孤食の機会が増えた人々も多いのかもしれないが、スマホは孤

食中の寂しさを解消しているものではないこと(スマホのおかげで寂しくないと考えてい

る人が少なからず筆者の周りには存在しているため、改めてアンケートを取り、さらに細か

い分析を加え、再度検証するが)がわかった。これはスマホの中でのコミュニケーションが

face to face のコミュニケーションが持つ寂しさを解消するような機能は持っていないとい

うことも表しているのだろう。

一方で、スマホが自己目的化しているとしたらどうだろうか。寂しさという次元ではなく、

スマホを触ること自体が自己目的化しており、「スマホ(他人とコミュニケーションをする

ためのスマホではなく)と共に食事をする」ということが無意識に行われているとすればど

うだろうか。おそらく、それは寂しさを感じつつも、日常生活を共に送るスマホと「自然に」

そのまま食事をしているのだ。卒論ではこのようなことに関しても分析したい。

参考文献

日本語文献

表真美、2010、『食卓と家族』、世界思想社。

土井隆義、2014、『つながりを煽られる子どもたち』、岩波書店。

翻訳書

シェリータークル、2017、『一緒にいてもスマホ』、青土社。

立教大学社会学部メディア社会学科

410

口コミサイトの情報に対するデジタルネイティブたちの意識

要旨

この研究では、デジタルネイティブである大学生がどの程度、口コミサイトを利用

しているのかを明らかにし、口コミサイトを頻繁に利用され、影響される人にはどの

ような特徴があるのかを見ていく。また、口コミだけでなく、ネットの情報に対して

どのような意識を持っているのか明らかにしたい。

キーワード:デジタルネイティブ、口コミ、信ぴょう性、ネットリテラシー

1.はじめに

現代社会では、技術の発展とともにインターネットがより社会に浸透し、私たちの生活

に身近になった。検索の手軽さや情報の量からインターネットに頼る場面は多く、私たち

の生活とは切り離すことのできないものとなった。しかし、その一方で原点に戻ってみれ

ば、インターネット上の情報とは情報源が不確かであり、気軽に信頼してはならないもの

と教わってきたはずである。インターネット上では誰もが発現することができるため、多

くの口コミ情報が存在する。口コミの発信源こそ、どのような人が書いているのか、知識

量や感性などは人それぞれであり、情報の信憑性は不確かではないだろうか。

今回は口コミという観点から、デジタルネィティブ世代である大学生たちがどのように

情報に接しているのか、男女の違い、個人差はどのような観点から生まれるのか明らかに

していきたい。

2,調査方法

調査方法として、2017 年度の木村ゼミ社会調査を利用する。対象となるのは立教大学の

264 名であるが「メディアコミュニケーション論」を履修している人に限られるため、メデ

ィアに関心を持った生徒のアンケート結果であり、情報に対する意識、抵抗感などは他の他

学部の学生とは異なる可能性も考慮しなくてはならない。

3.単純集計の内容及び結果

まず、はじめに口コミサイトを利用する人について、どのような口コミサイトが利用さ

れており、また、閲覧、書き込みの男女別の利用度の違いを単純集計し、明らかにしてい

く。

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

411

3-1 問 4 口コミサイトの閲覧頻度

結果は図1の通りになった。全体の 86.7%が利用経験があり、多くの人が利用したこと

があることがわかった。男女で比較をすると週に 3~5 回以上利用する人は男性は 24%、女

性は 32%となっており、全体的に女性の方がわずかながら口コミサイトを頻繁に利用して

いる割合が高いことがわかる。

3-2 問4口コミサイトや SNS において、商品・サービスの評価の書き込み頻度

結果は図2の通りになった。男女間で大きな違いはなく、書き込みに関して未経験者が

多くいた。わずかながら男性の方が書き込みに関してやや積極的だろうか。

3-3 問19 何かを購入する前には口コミサイトにアクセスし、閲覧する

ここでの問4で扱った分析との違いは、単に口コミサイトを閲覧するだけではなく、口

コミサイトが「商品購入」という意思決定にまで影響力が及ぶ強さがあるかどうかであ

る。図3より「当てはまる」、「まあ当てはまる」と答えた人は男性が 52%であるのに対し

て、女性が 62%と多くなっており、女性の方が積極的に商品購入の際に口コミサイトを利

用していることがわかった。

3-4 商品・サービスの購入などの意思決定をする際に、どのようなジャンルの口コミサ

イトを利用しますか?

また、参考までにどのような口コミサイトを大学生が利用しているのかを図 4に載せて

おく。幅広く利用されているが、グルメや SNS、ファッションなど多くの人に関係ある話

題は必然的に利用している割合も多くなるだろう。

3-5.得られた調査結果から

これらの単純集計から気づいたこととして、口コミサイトの閲覧は多くの学生が行なっ

ていることであり、幅広く認知されていることがわかった。しかし、3-3 での商品購入に

まで口コミサイトの情報を利用する人は約半数と割れていることがわかり、この口コミサ

イトへの意識の差はどのような観点から生まれているのだろうか。また、口コミに対する

男女の差も見られたため、性別による違いの検討も必要だと考えられる。

立教大学社会学部メディア社会学科

412

3-6.図表

図1 口コミサイトの閲覧

図2 口コミサイトの書き込み

16%

3%

28%29%

14%

7%3%

11%6%

24%

26%

24%

7%1%

53%

5%12%

19%

5%6%

55%

6%

17%

11%7%4%

16%3%28%29%

14%7%3%男したことがない 以前していたが今はしていない 月に1,2回かそれ以下

月に3~6回 週に3~5回 日に1回

日に2,3回以上

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

413

図3 商品購入

図4 どのようなジャンルの口コミサイトを利用しますか

4.仮説

これ以降口コミサイトを商品購入のきっかけにする人を「口コミサイト閲覧者」と表現

し、単純分析からの気づきを考慮し、以下の仮説を設定する。

1)女性の方が男性より口コミ情報に対して信頼感を持ち、影響力も大きい。

2)口コミ閲覧者はネットの情報全体に対しても信頼感を持っている

15%

37%28%

20%

当てはまる

まあ当てはまる

あまり当てはまらない

当てはまらない

25%

37%

24%

14%

010203040506070

グラフ タイトル

立教大学社会学部メディア社会学科

414

仮説 1に対して、3章での単純集計結果からわかるように口コミサイトを利用する割合

は男性より女性の方が多い。これは女性の方が口コミサイトの情報に対して信頼感を持っ

ているための結果なのではないだろうか。また口コミの情報に対する影響度も男性より女

性の方が大きいのではないだろうかと考えた。仮説 2に対して、口コミサイトとは、オフ

ライン上での信頼関係はゼロに等しく、情報の信憑性は怪しいものも多い。口コミサイト

閲覧者はネットの情報全体に対しても抵抗感は少ないのではないだろうかと考えた。

5.仮説の検証

5-1 仮説 1

まず、初めに仮説 1「女性の方が男性より口コミ情報に対して信頼感を持ち、影響力が大

きい」を2つの分析から検証していきたい。

5-1-1 検証1

問 19 何かを購入する前には、口コミサイトにアクセスし、閲覧する

問 3 口コミサイトや SNS に載っている商品情報や評価が現実と違う不安感

この2点を性別で区分し、多重クロス集計を行い相互関係を見る。仮説1から考えると、

口コミ閲覧者に関わらず、女性の方が不安を抱く人は少ないはずである。結果は図5の通

りになった。口コミ閲覧者、口コミ閲覧しない人両者とも、女性の方が商品情報や評価が

現実と違う不安感を抱いていることがわかり、仮説の予想とは反した結果となり、検証 1

では仮説 1を立証することはできなかった。

図 5

5-1-2 検証 2

続いて、影響力の大きさを計るため以下の質問項目を使用する。

問 19 何かを購入する前には、口コミサイトにアクセスし、閲覧する

問 17 商品・サービス購入のきっかけとなる影響力の強さ

-8 友人や家族などによる口コミ(対面での会話)

-15 口コミサイト(食べログ、@コスメなど)

男 現実と違う不安感

口コミサイト 不安 不安はない

閲覧者 76.6% 23.4%

閲覧しない 58.3% 41.7%

合計 67.7% 32.3%

女 現実と違う不安感

口コミサイト 不安 不安はない

閲覧者 87.4% 12.6%

閲覧しない 77.4% 22.6%

合計 83.6% 16.4%

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

415

今回の分析では影響力を「強い」と答えた割合を比較する。仮説 1から考えると、男女で

比較した際、口コミサイトの影響力は女性の方が大きいはずである。また、今回比較しや

すいよう対面での口コミも項目に入れて分析する。結果は図6の通りになった。

図 6

商品購入の際の口コミサイトの影響力が強いと答えた男性の割合が 57.3%であるのに対

し、女性は 78.6%となり、仮説通り男性よりも女性の方が口コミサイトに対する影響力が

大きいことがわかった。また、目立った違いとして、口コミサイトの影響力が強い、か

つ、サイトを閲覧しない男性の割合が 36.7%に対して女性は 62.3%の人が影響力が強いと

答えておりその差は 25.6%と大きく開いていた。口コミサイトを「閲覧しない」と答えた

にも関わらず、「口コミサイトの影響力が大きい」と答えた女性が半数以上いることが驚

きであった。また、口コミサイトと比較するために対面での口コミの影響力の強さもクロ

ス集計したが、注目するべき点としては「口コミサイト閲覧者」の、サイトと対面での口

コミの影響力の割合の差である。男性が対面とサイトの影響力に 9.3%の差があるのに対

し、女性はわずか、1.2%の差であり、女性にとって口コミサイトが対面と同じレベルの影

響力を持っていることがわかった。これらの結果から男性よりも女性の方が口コミサイト

に影響されていると言える。検証 2では仮説1は立証されたということができるだろう。

5-1-3 補足

調査の補足として、男女に分けて多重クロス集計を行う場合に度数が少なくなってしま

うため、検証1にて問 19 の回答の「まああてはまる」を「あてはまる」、「あまりあては

まらない」を「あてはまらない」に再割り当てし、「当てはまる」「あてはまらない」の両

者を図表上では口コミ閲覧者と閲覧しない人に区分。問 3のやや不安を「不安」、あまり

不安はないを「不安はない」に再割り当てした。検証 2も同じく度数の関係で問 17 の回

答の「とても強い」、「まあ強い」を「強い」に、「あまり強くない」、「とても弱い」を

「弱い」に再割り当てした。

5-2 仮説 2

5-2-1 検証

「口コミ閲覧者はネットの情報全体に対しても信頼感を持っている」を検証していく。

対面での口コミの影響力が強い

口コミサイト 男 女

閲覧者 85.9% 89.7%

閲覧しない 80.0% 90.6%

合計 83.1% 90.0%

口コミサイトの影響力が強い

口コミサイト 男 女

閲覧者 76.6% 88.5%

閲覧しない 36.7% 62.3%

合計 57.3% 78.6%

立教大学社会学部メディア社会学科

416

使用する質問項目は以下の通り

問 19 何かを購入する前には、口コミサイトにアクセスし、閲覧する

問 24 ネットの情報は信じるべきではない

この 2つのクロス集計を行なった。仮説から考慮すると口コミ閲覧者は「ネットの情報は

信じるべきではない」という項目に対して「あてはまらない」、「あまりあてはまらない」

と回答するのではないだろうか。結果は図のようになった。

カイ 2乗検定を行なったところ有意数は 0.064 となり有意と述べることができなかった。

全体的にネットの情報に対して「まああてはまる」、「あまりあてはまらない」と回答

し、どちらともとることのできない回答が多くあった。1つ注目点として、口コミサイト

にアクセスし、閲覧するに「あてはまる」と回答した人の中でネットの情報は信じるべき

ではないに「当てはまる」と断定した人が 0人であったことだろうか。しかし、この結果

から仮説を立証することはできなかった。

6.まとめ・考察

まず仮説 1 に関して、「女性の方が男性より口コミ情報に対して信頼感を持ち、影響力が

大きい」という仮説のもと二つの検証を行ったが、結果として、検証 1 では男性より女性の

方が口コミ情報に対して不安感を抱いていることがわかり、仮説を立証する根拠とはなら

なかった。しかし、検証 2 では女性は男性より口コミサイトの影響力が強いと答えた割合

は多く、その影響力は対面での口コミとほぼ変わらない大きさであることがわかり、仮説を

立証する根拠ということとなった。検証 1 と 2 を通し、女性は口コミの情報に対して不安

感を抱きつつも、強く影響されてしまっているという矛盾さが見受けられた。

11.10%

1.00%

5.70%

48.90%

50.00%

50.00%

45.30%

35.60%

45.60%

44.90%

49.10%

4.40%

4.40%

4.10%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

あてはまらない

あまりあてはまらない

まああてはまる

あてはまる

口コミ閲覧者とネットの情報は信じるべきではない

あてはまらない あまりあてはまらない まああてはまる あてはまる

商品を購入する前に口コミサイトにアクセスし、閲覧する

ネットの情報は信じるべきではない

木村ゼミ 2017 年度専門演習 2 報告書

417

また、仮説 2の「口コミ閲覧者はネットの情報全体に対しても信頼感を持っている」に

関しては口コミサイトの閲覧に関わらず多くの人が「まああてはまる」、「あまりあてはま

ない」と中立的な回答であったため、仮説を立証することはできなかった。ネットが身近

なデジタルネイティブたちにとってもネットの情報は信頼しすぎてはならないものであ

り、しっかり事実かどうか検討する必要があるという意識を多くの人が持っていることが

わかった。

これらの結果から口コミ閲覧を積極的に行っているからといって、口コミ情報やネッ

ト情報に対して完全な信頼感を置いているわけではなく、利用する人ほど、情報ひとつひ

とつを疑いながらしっかり吟味しようとする意識を持っているのではないだろうか。実際

に口コミ情報やネットの情報が真実かどうかを検証することは難しい。しかし、デジタル

ネイティブたちは、ネットの情報の信ぴょう性は怪しいものとしてしっかり理解し、オフ

ラインでの生活のものと使い分け、事実か疑わしいものか本質を一人一人が取捨選択する

意識を持っているのかもしれないと感じた。インターネットの情報が身近な現代において

も、多くのデジタルネイティブたちはネット情報を信頼しすぎるのではなく、距離感を保

ちながら、ネットリテラシーを守ることができているのではないだろうか。

立教大学社会学部メディア社会学科

418

第 III 部 社会調査質問票(単純集計付)

立教大学社会学部メディア社会学科

419

419

情報メディアコミュニケーションに関する調査

調査実施日:2017 年 11 月

調査方法:Google Form を利用した自記式調査(一定期間を設定し、「メディア・コミュニケーション論」受講者に回答を依頼)

有効回答数:264 名(男性 124 名、女性 140 名)

以下の単純集計表で、とくに別途記載がなければ、N=264、単位は%

問1 下の表にある情報メディアの利用について、ここ 1 か月程度を考えて、あなたに最もあてはまるものを、1~6 の中から

一つずつ選択してください。

利用する ここ 1 か

月以上利

用してい

ない

日に

2、3 回

以上

日に 1回

週に 3~5 回

月に 3~6 回

月 1、2回かそれ

以下

1. テレビ番組視聴(テレビ受像機での) 43.2 28.0 16.7 3.8 3.8 4.5

2. テレビ番組見逃し視聴サービス 4.2 6.1 8.7 12.1 14.0 54.9

3. 無料ネット動画の視聴(YouTube、ニコ動、

AbemaTV、Gyao など)44.7 20.1 20.1 8.0 4.5 2.7

4. 有料ネット配信動画の視聴(ニコ動有料会

員、hulu、Netflix、Amazon プライムなど)3.4 5.3 10.6 8.7 5.3 66.7

5. DVD の視聴(DVD、ブルーレイディスクで

の映画などの視聴)2.7 4.2 9.8 18.9 28.8 35.6

6. 新聞の閲覧(紙の新聞) 1.5 9.1 8.3 8.3 20.1 52.7

7. 新聞の閲覧(電子版) 2.7 6.1 9.8 9.8 9.8 61.7

8. ラジオ番組を聴く(ラジオで) 0.8 2.3 2.7 4.5 9.5 80.3

9. ラジオ番組を聴く(ネットで) 0.8 2.7 7.2 8.7 14.4 66.3

10. ゲーム機(ニンテンドー3DS、PS Vita、Wii Uなど家庭用機、小型機いずれも含む)

2.7 5.7 4.2 5.3 14.4 67.8

問 2 あなた携帯電話(ガラケー)とスマホの利用についてお伺いします。項目 1、2 は数字で、項目 3、4 は思いつくことを自

由に記述回答ください。

0~5 歳 (未就学)

6~9 歳 (小学校

低学年)

10~12歳

(小学校

高学年)

13~15歳

(中学校)16~18歳 (高校)

18~20歳

(大学に

入って)

20~歳 (成人 以降)

1. あなたが初めて自分用の携帯電

話(ガラケー)を持ち始めたのは、

いつ頃ですか?

1.5 9.8 38.3 36.0 13.6 0.4 0.4

2. あなたが初めて自分用のスマホ

を持ち始めたのは、いつ頃です

か?

0.0 0.0 1.9 36.7 58.0 2.3 1.1

3. 携帯電話を利用し始めて、何か変わったことはありましたか(例、視力が落ちた。友達が増え

た)。思いつくことをご回答ください。(省略)

4. スマホを利用し始めて、何か変わったことはありましたか(例、視力が落ちた。友達が増えた)。

思いつくことをご回答ください。(省略)

420

問3 あなたは、インターネットを利用する際、次のようなトラブルを経験したことがありますか?また、不安を感じますか。「現

実の経験」について、それぞれ、最も適切だと思う選択肢の番号にチェックしてください。 現実の経験 不安感

3 度以

上ある

1、2度ある

全くな

い 不安

やや不

安 あまり不

安はない

不安は

ない

1. SNS、ブログ、電子掲示板などで自分に

対する中傷や悪口などを書かれる 3.4 19.7 76.9 22.7 33.3 26.1 17.8

2. SNS、ブログ、電子掲示板で自分の成

功や幸せな様子を載せたことで、自慢し

ている嫌な人だと思われる 4.9 18.6 76.5 17.0 38.3 23.5 21.2

3. 口コミサイトや SNS に載っている商品情

報や評価が現実と違う 23.5 53.4 23.1 27.7 48.5 17.0 6.8

4. SNS、ブログ、電子掲示板などで自分の

画像が他人に曝される、悪用される 3.0 14.8 82.2 32.2 34.5 20.8 12.5

5. ネット炎上したツイートに返信したことが

ある 0.8 1.9 97.3

6. ネット上で、侮蔑的な言い方をされて、

いやな思いをする 5.3 16.3 78.4

問 4 あなたは、以下のような様々なジャンルのサイト、アプリを利用、あるいは、ネットでの行為に参加していますか。パソコ

ン、タブレット、スマホ等を問わず、それぞれについて、あてはまるものを選択肢から一つずつ選択してください。

利用/参加する 以前して

いたがい

まはして

いない

したこと

がない日に

2、3 回

以上

日に 1回

週に 3~5 回

月に 3~6 回

月 1、2回かそ

れ以下 1. 自分で創ったものの共有(批評、作品、

グラフィクス、写真、小説、動画など) 8.0 4.9 8.7 15.2 17.0 7.2 39.0

2. マッチングサービス・アプリ(恋愛・趣味

問わず tinder,pairs 等)の利用 1.9 1.5 1.9 1.1 1.9 9.8 81.8

3. ブログの閲覧 4.9 5.7 8.0 14.8 23.1 26.5 17.0

4. 口コミサイトの閲覧 2.3 7.2 19.3 27.3 26.1 4.5 13.3

5. 口コミサイトや SNS において、商品・サ

ービスの評価の書込 0.0 4.9 6.1 14.4 14.8 5.7 54.2

6. オンラインショッピング 1.9 1.5 12.9 21.6 42.8 7.6 11.7

7. 音楽・読書の定額制サービス(Apple Music 、 Google Play Music 、

KindleUnlimited など) 14.4 6.4 4.9 6.1 5.3 6.1 56.8

8. ニュースサイト 17.4 20.1 15.5 13.3 12.1 5.3 16.3

9. 2ちゃんねる(現5ちゃんねる) 3.0 1.9 6.1 7.2 8.3 11.4 62.1

10. 2ちゃん(5 ちゃん)まとめサイト 4.5 4.2 8.3 9.1 8.7 13.3 51.9

11. まとめサイト(Naver まとめ、Togetter な

ど) 3.0 8.7 24.2 24.6 22.0 6.4 11.0

421

問 5・問 6 あなたは次の SNS、メッセージングサービスをどの程度利用しますか。それぞれに関して、あてはまるものを 1 つ

ずつ選択してください。

利用している 利 用 し

て い た

が 今 は

利 用 し

て い な

利 用 し

た こ と

はない1 日

101 回

以上

1 日

100 回

~ 51回

1 日

50 回

~ 21回

1 日

20 回

~ 11回

1 日 10回~2 回

1 日 1

回程度週数回

月数回

か そ れ

以下

問 5

LINE 8.0 17.8 31.4 25.4 14.0 2.7 0.4 0.4 0.0 0.0

facebook 0.4 0.4 1.5 2.3 2.7 7.6 8.3 16.3 25.8 34.8

Snapchat 0.8 1.5 3.4 4.9 6.1 1.9 3.8 5.3 18.9 53.4

問 6 Twitter 3.4 4.9 15.9 18.2 33.0 8.3 3.4 3.8 5.3 3.8

問7 (問 6 で、「利用している」にあてはまる、いずれかの選択肢に〇をつけた回答者のみ対象、N=240) 表にある様々な Twitter の使い方について、「かなりよくする」~「全くしない」の中から、最もよくあてはまる記号を一つ

ずつ選んでください。(「公式リツイート」は引用をせず RT ボタンを押して行うリツイートを指します)

かなりよく

する よくする

ときどき

する あまりし

ない 全くしな

1. 写真をあげる 5.4 12.9 28.3 34.2 19.2

2. 写真を加工して投稿する 2.5 7.5 21.3 37.5 31.3

3. フォローしている友だちの写真を見る 21.3 43.3 26.3 6.7 2.5

4. フォローしていない人の写真を見る 8.3 15.8 31.3 31.7 12.9

5. フォローしている芸能人の写真を見る 18.8 31.7 24.6 10.8 14.2

6. いいね!をする 20.8 33.3 30.4 12.9 2.5

7. 「拡散行為」に参加する 4.2 4.2 16.3 35.0 40.4

8. 公式リツイートをする 7.5 11.7 27.1 23.8 30.0

9. 趣味に関する公式リツイートをする 10.4 15.4 25.0 22.5 26.7

10. 面白いツイートに関する公式リツイートをする 6.3 15.8 27.9 22.1 27.9

11. 政治経済に関する公式リツイートをする 1.3 2.1 7.9 23.8 65.0

12. 生活の役に立つことに関する公式リツイートをする 1.7 9.6 19.2 27.1 42.5

13. ハッシュタグを利用して検索する 8.3 25.4 22.1 17.9 26.3

14. 他ユーザーに自分の投稿を発見してもらいやすく

するために、ハッシュタグをつけて投稿する 2.1 7.1 9.6 20.8 60.4

15. タグに関する情報の共有をするためハッシュタグを

つけて投稿する 2.5 9.2 8.8 20.4 59.2

16. 同じ話題で不特定多数の人と盛り上がるためハッ

シュタグをつけて投稿する 1.3 6.3 7.1 21.7 63.8

17. 同じ話題で、知り合いと盛り上がるためハッシュタグ

をつけて投稿する 1.3 7.1 10.4 16.7 64.6

18. リアルタイムを伝えるためハッシュタグをつけて投

稿する 1.3 4.6 5.8 19.6 68.8

19. ファンコミュニティを作るためハッシュタグをつけて

投稿する 2.1 2.9 6.7 17.9 70.4

422

問 8 (問 6 で、「利用している」にあてはまる、いずれかの選択肢に〇をつけた回答者のみ対象、N=240) 表にある Twitter の使い方について、「あてはまる」~「あてはまらない」の中から、最もよくあてはまる記号を一つずつ

選んでください。

あてはま

る まああては

まる あまりあて

はまらない あてはまら

ない 1. 公式リツイートしようか迷う時がある 12.9 33.3 30.4 23.3

2. いいねより公式リツイートの方が気軽にできる 2.1 4.6 30.8 62.5

3. 自分の情報が載ったツイートはできるだけ公式リツイート

したい 6.3 20.4 32.5 40.8

問9 (問 6 で、「利用している」にあてはまる、いずれかの選択肢に〇をつけた回答者のみ対象、N=240) 問9の各問では、あなたの Twitter メインアカウントについて伺います。 問 9-1 あなたのアカウントは、どのようなアカウントですか?次の中から最も適当と思うものを一つ選択してください。

リア友用 趣味用 つぶやく用 少人数フォロ

ー専用 情報収集用

サークルなど

の広告用 その他

79.2 8.8 2.5 1.3 6.3 0.0 2.1 問 9-2 このメインアカウントに、あなたは鍵をつけていますか?また、以下のような情報をプロフィールに載せていますか?

あてはまるものすべてにチェックをしてください。

1. このアカウントに鍵をかけている 68.3 8. あなたの顔写真 40.82. あなたの本名* 48.8 9. 在学校名 61.73. あなたの名** 50.4 10. 母校(幼稚園から高校どれでも) 38.34. 普段呼ばれているあだ名 16.3 11. あなたの趣味 33.35. 年齢あるいは生まれた年 32.9 12. 所属サークル 40.06. 誕生日(月日のみで可) 61.3 13. 彼氏・彼女の情報 0.87. 性別 25.4 14. 居住地(都道府県レベルでよい) 20.8

* 第三者が本名を容易に推測できる名前を含む、表記は漢字、かな、英字どれでも可 ** 姓はなくてよい、表記は自由 問 9-3 あなたのメインアカウントに関し、フォロー数などの数はどの程度ですか?最もよくあてはまる選択肢を一つずつ選ん

でください。 フォロー数 フォロワー数 累計ツイート数 直近 1 週間(7 日間)累計ツイート数

0 0.0 2.1 0 3.8 0 38.8

1〜10 1.3 1.7 1〜100 21.7 1〜5 35.8

11〜50 5.4 5.0 101〜500 20.4 6〜10 12.9

51〜100 5.0 5.8 501〜1000 13.3 11〜50 10.0

101〜200 19.2 18.3 1001〜2000 12.9 51〜100 1.7

201〜300 19.6 16.7 2001〜3000 4.6 101〜200 0.0

301〜400 22.1 19.2 3001〜4000 7.9 201 以上 0.8

401〜500 8.8 8.3 4001〜5000 5.4

501〜600 5.8 7.1 5001〜7500 2.9

601〜700 5.4 3.8 7501〜10000 1.7

701〜800 1.7 3.8 10001〜20000 2.9

801〜900 1.7 1.7 20001〜50000 0.4

901〜1000 1.7 2.1 50001〜100000 1.3

1000 以上 2.5 4.6 100000 以上 0.8

423

問 9-4 (前問で、直近 1 週間の累計ツィート数が、「1」以上の回答者のみ。N=147) メインアカウントでツイートした最近

1 週間のツイートの中で、以下に当てはまるツイートはそれぞれどのくらいありますか?最もよく当てはまる選択肢をそれぞれ

一つずつ選択してください。

公式リツイート 公式リツイートしたうえで、さらにそれに対す

るコメント(共感、批判、自身の体験・意見

等) のツイート ハッシュタグをつけたツイート

0 39.5 0 76.2 0 81.6

1〜5 47.6 1〜2 19.0 1〜5 15.6

6〜10 8.8 3〜4 3.4 6〜10 1.4

11〜15 1.4 5〜6 0.7 11〜50 0.0

16 以上 2.7 7〜10 0.0 51~100 1.4 11 以上 0.7 101 以上 0.0

問 10 (問 6 で、「利用している」にあてはまる、いずれかの選択肢に〇をつけた回答者のみ対象、N=240) あなたは、問 9 で回答いただいたメインアカウントを含め、Twitter のアカウントをいくつ持っていますか?あてはまるものを選

択してください。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 以上

アカウント数 33.3 27.1 20.8 8.8 4.2 2.5 1.3 1.3 0.4 0.0 0.4

※アカウント数が「1」の場合、問 12 に進んでください。「2」以上の場合には、問 11 に進んでください。 問 11 (問 10 で、アカウント数が「2」以上の回答者のみ対象、N=160) Twitter のアカウントを 2 つ以上お持ちの方で、問 9 で回答いただいた「メインアカウント」の次によく利用される(あなたにと って重要な)アカウント(以下、「サブアカウント」)の利用についてうかがいます。 問 11-1 あなたのサブアカウントは、どのようなアカウントですか?次の中から最も適当だと思うものを一つ選択してください。

リア友用 趣味用 つぶやく用 少人数フォロ

ー専用 情報収集用

サークルなど

の広告用 その他

14.4 42.5 1.9 21.9 10.6 4.4 4.4 問 11-2 このサブアカウントで、あなたは、鍵はつけていますか?また、以下のような情報をプロフィールに載せていますか?あ

てはまるものすべてにチェックをしてください。 1. このアカウントに鍵をかけている 56.9 8. あなたの顔写真 7.52. あなたの本名* 12.5 9. 在学校名 13.13. あなたの名** 16.3 10. 母校(幼稚園から高校どれでも) 5.64. 普段呼ばれているあだ名 11.3 11. あなたの趣味 28.85. 年齢あるいは生まれた年 12.5 12. 所属サークル 6.96. 誕生日(月日のみで可) 20.6 13. 彼氏・彼女の情報 0.07. 性別 18.1 14. 居住地(都道府県レベルでよい) 9.4

* 第三者が本名を容易に推測できる名前を含む、表記は漢字、かな、英字どれでも可 ** 姓はなくてよい、表記は自由 問 11-3 このサブアカウントに関して、フォロー数などの数はどの程度ですか?最もよくあてはまる選択肢を一つずつ選んでく

ださい。

フォロー数 フォロワー数 累計ツイート数 ここ 1 週間の(7 日間)サブアカウ

ントでの累計ツイート数

0 3.1 10.6 0 14.4 0 51.3

1〜10 20.0 25.0 1〜100 33.8 1〜5 23.8

11〜50 20.0 18.8 101〜500 13.8 6〜10 7.5

51〜100 17.5 11.9 501〜1000 11.3 11〜50 11.9

101〜200 14.4 9.4 1001〜2000 8.8 51〜100 4.4

201〜300 8.8 8.8 2001〜3000 4.4 101〜200 1.3

301〜400 6.3 3.8 3001〜4000 0.0 201 以上 0.0

424

フォロー数 フォロワー数 累計ツイート数

401〜500 3.8 1.9 4001〜5000 1.9

501〜600 1.9 1.3 5001〜7500 3.8

601〜700 0.6 0.6 7501〜10000 2.5

701〜800 0.0 0.0 10001〜20000 1.9

801〜900 0.6 1.9 20001〜50000 2.5

901〜1000 1.3 1.9 50001〜100000 0.6

1000 以上 1.9 4.4 100000 以上 0.6 問 11-4 (前問で、直近 1 週間の累計ツィート数が、「1」以上の回答者のみ。N=78) その一週間のサブアカウントでのツイートの中で、以下に当てはまるツイートはそれぞれどのくらいありますか?最もよくあては

まる選択肢を一つずつ選んでください。

公式リツイート 公式リツイートしたうえで、さらにそれ

に対するコメント(共感、批判、自身

の体験・意見等) のツイート ハッシュタグをつけたツイート

0 43.6 0 71.8 0 76.9

1〜5 42.3 1〜2 17.9 1〜5 19.2

6〜10 9.0 3〜4 6.4 6〜10 1.3

11〜15 3.8 5〜6 2.6 11〜50 2.6

16 以上 1.3 7〜10 1.3 51 以上 0.0 11 以上 0.0

問 12 Instagram の利用について伺います。 問 12-0 あなたは、Instagram どの程度利用しますか。最もよくあてはまる選択肢を一つ選んでください。

利用している 利 用 し て

いたが今

は 利 用し

ていない

利 用 し

た こ と

はない1 日 101回以上

1 日 100回 ~ 51回

1日50回

~21 回

1 日 20回 ~ 11回

1 日 10 回~

2 回 1 日 1 回

程度 週数回

月 数 回

かそれ以

4.5 6.1 14.8 22.0 24.6 4.9 3.4 3.4 2.3 14.0

問 12-1 (前問で、「利用している」のいずれかにあてはまる回答者のみ、N=221) 以下の Instagram の使い方について、それぞれ、「とてもよくある」〜「全くない」で、最も当てはまるものをひとつずつ選択して

ください とてもよ

くある よくある

ときどき

ある あまりな

い 全くない

フォローしている友達の写真を見る。 72.9 21.3 4.5 0.5 0.9

フォローしていない人の写真を見る 20.8 33.5 28.5 12.2 5.0

フォローしている芸能人の写真を見る 44.3 31.2 11.3 7.7 5.4

インスタグラマーの写真を見る 15.4 19.9 17.6 21.7 25.3

ハッシュタグを利用して検索する 22.6 26.2 22.6 14.5 14.0

位置情報を利用して検索する 10.9 12.7 18.1 21.3 37.1

クリップ機能を利用する 7.7 11.3 14.5 22.6 43.9

投稿をスクショする 13.1 19.9 26.2 19.9 20.8

いいね!をする 57.0 24.0 12.7 3.6 2.7

写真を加工して投稿する 29.4 25.3 17.2 14.9 13.1

インスタグラムに投稿するとき、日常の自分より美化している

という意識がある 14.9 17.2 24.4 20.4 23.1

自分の投稿にいいね!をしてくれる人に対して、いいね!返し

をしなければならないという気持ちになる 11.3 19.9 18.6 22.2 28.1

425

とてもよ

くある よくある

ときどき

ある あまりな

い 全くない

インスタグラムにアップすることを意識して、外出先・イベント

(飲食店、旅行先、芸術鑑賞など)を決める 5.4 8.6 20.4 25.8 39.8

インスタグラムにアップすることを意識して、商品を購入する 5.0 3.6 14.5 28.5 48.4

インスタグラムで検索し、外出先・イベントを決める 10.9 17.2 20.8 17.2 33.9

インスタグラムで検索し、商品について調べる 13.1 28.5 16.3 11.8 30.3

インスタグラムでたまたまみた場所・イベントに行きたくなる 18.6 28.5 26.7 10.0 16.3

インスタグラムでたまたまみた商品がほしくなる 17.2 26.7 28.5 11.8 15.8

1 日で写真を撮る回数が増えた 9.0 19.5 18.6 23.1 29.9

インスタグラムにあげるために、友だちと遊ぶ 1.8 3.6 9.0 21.7 63.8

問 12-2 表にある Instagram の使い方について、「とてもよくある」〜「全くない」の中から、最もよくあてはまる記号を 1 つずつ

選んでください。(N=221) とてもよく

ある よくある

ときどきあ

る あまりな

い 全くない

ストーリーを投稿する 27.1 30.8 22.2 10.4 9.5

ストーリーを見る 61.5 25.8 6.3 5.0 0.9

ライブ配信をする 0.0 0.5 5.4 15.8 78.3

ライブ配信を見る 1.8 3.6 19.9 36.2 38.0

自撮り写真を投稿する 0.9 6.8 7.7 20.8 63.8

写真を見てもらうために投稿する 5.9 25.3 21.7 20.4 26.7

アルバム代わりに写真を保存するために投稿する 7.2 12.2 12.2 21.7 46.6

写真を加工して投稿する 25.8 19.5 20.8 14.9 18.6

他ユーザーに投稿を発見しやすくするためにハッシュ

タグをつけて投稿する 9.0 16.3 13.6 23.5 37.1

タグに関する情報の共有をするためにハッシュタグを

つけて投稿する 8.1 16.3 15.8 24.4 35.3

同じ話題で、不特定多数の人と盛り上がるためにハッ

シュタグをつけて投稿する 4.1 10.9 10.0 23.1 52.0

同じ話題で、知り合いと盛り上がるためにハッシュタグ

をつけて投稿する 9.0 16.3 14.5 18.1 42.1

リアルタイムを伝えるためにハッシュタグをつけて投稿

する 3.2 10.9 8.1 20.4 57.0

ファンコミュニティを作るためにハッシュタグをつけて

投稿する 1.8 4.1 5.4 18.1 70.6

好きじゃないものを好きかのように表現する 0.0 2.7 5.4 13.1 78.7

問 12-3 あなたがインスタグラムでよく閲覧したり、投稿したりする主題は、どのようなものですか次の中で、あてはまるものに

すべてチェックをしてください。(N=221)

1. 映画 15.8 9. ガジェット 2.7

2. 文化施設 9.5 10. スポーツ 23.5

3. ファッション 49.8 11. 美術 6.3

4. 動物 15.8 12. おしゃれな空間(街中の壁やオブジェなど) 33.5

5. 飲食店 44.3 13. 音楽 26.2

6. 化粧品 19.9 14. 旅行 43.4

7. 友達・仲間・知合い 80.1 15. その他 5.0

8. カフェ 36.2

426

問 13 あなたはいくつ Instagram アカウントを持っていますか最もよくあてはまる選択肢を⼀つ選んでください。 (N=221)

1 2 3 4 5 6 以上

アカウント数 70.6 21.3 6.3 1.8 0.0 0.0

問 14 Instagram のアカウント(2 つ以上持っている⽅はメインアカウント)の利⽤についてうかがいます(N=221)

問 14-1 このアカウントであなたは鍵をかけていますか。また以下のような情報をプロフィールにのせていますか。あてはまるも

のすべてをチェックしてください。

1. このアカウントに鍵をかけている 60.6 8. あなたの顔写真 49.3

2. あなたの本名* 55.7 9. 在学校名 45.2

3. あなたの名** 47.5 10. 母校(幼稚園から高校どれでも) 25.3

4. 普段呼ばれているあだ名 14.5 11. あなたの趣味 17.6

5. 年齢あるいは生まれた年 17.2 12. 所属サークル 21.3

6. 誕生日(月日のみで可) 20.4 13. 彼氏・彼女の情報 1.4

7. 性別 20.4 14. 居住地(都道府県レベルでよい) 6.8

* 第三者が本名を容易に推測できる名前を含む、表記は漢字、かな、英字どれでも可 ** 姓はなくてよい、表記は自由

問 14-2 あなたの Instagram メインアカウントに関して、フォロー数などの数はどの程度ですか?もっともよくあてはまる選択肢

を一つずつ選んでください。

フォロー数 フォロワー数 累計投稿数 ここ一週間(7日間)での投

稿数

0 0.5 0 0.9 0 5.9 0 47.5

1~49 3.2 1~49 3.6 1~9 23.5 1~4 49.3

50~99 7.7 50~99 10.4 10~49 44.8 5~9 1.8

100~199 23.5 100~199 24.0 50~99 11.8 10~19 0.5

200~299 24.9 200~299 26.7 100~199 9.5 20 以上 0.0

300~499 31.7 300~499 27.6 200 以上 2.7

500~999 8.6 500~999 5.9

1000 以上 0.0 1000 以上 0.9

1 投稿あたりにつけるハッ

シュタグの個数 (平均値を推測でよいので

ご回答ください)

直近 24 時間のストーリ投

稿数 ここ一週間(7 日間)のライ

ブ配信数

0 28.1 0 54.8 0 98.2

1~4 48.9 1~4 44.3 1~4 0.9

5~9 18.6 5~9 0.9 5~9 0.5

10~14 1.4 10~19 0.0 10~19 0.0

15 以上 2.3 20 以上 0.0 20 以上 0.0

問 15 写真についてうかがいます。あなたが写真を撮るために使うことのある機器であてはまるものに、すべてチェックをつけ

てください。当てはまるものをすべて選択してください。

スマートフォン 99.6 チェキ 4.9

デジタル一眼レフ 11.7 写ルンです 9.1

ミラーレスデジタルカメラ 6.4 GoPro 1.5

アナログ一眼レフ 1.9 その他 0.8

427

問 16 下の表にあるメディアの情報源としての性質について、LINE、Twitter、facebook、Instagram、ネット動画サイト、

Yahoo!、まとめサイト、テレビ、雑誌、新聞、の 10 種類から、それぞれ 1 位〜3 位のメディアを選択し、回答してください。

娯楽源 勉強、仕事上の情報源 社会的出来事の情報源

1 位 2 位 3 位 1 位 2 位 3 位 1 位 2 位 3 位

LINE 17.0 11.4 14.4 17.0 9.5 10.6 8.3 5.7 12.9

Twitter 25.0 26.9 22.7 12.9 16.7 17.8 28.8 21.2 15.5

facebook 0.0 2.7 1.5 1.9 4.2 3.4 2.7 1.9 3.0

Instagram 26.5 25.0 15.5 1.5 3.0 7.6 2.3 3.4 7.2

まとめサイト 2.7 8.3 12.5 6.4 16.3 12.5 1.9 11.0 13.3

その他各種ネットサイト 9.1 9.8 10.6 39.0 17.0 10.6 11.7 15.2 25.4

新聞 0.4 0.0 0.8 13.3 13.3 10.2 7.6 14.4 11.0

テレビ 18.2 11.4 12.9 7.2 14.8 20.1 36.7 26.5 8.0

雑誌 1.1 4.5 9.1 0.8 5.3 7.2 0.0 0.8 3.8

何か購入する時の情報源得られる情報の信頼性が

高い情報源

1 位 2 位 3 位 1 位 2 位 3 位

LINE 1.1 2.3 6.8 4.2 4.5 5.7

Twitter 14.8 18.6 22.3 2.7 3.8 13.3

facebook 1.1 1.1 2.7 0.0 2.3 4.9

Instagram 27.7 19.3 12.1 5.7 3.4 5.3

まとめサイト 8.7 16.7 13.6 1.9 2.3 5.3

その他各種ネットサイト 37.5 18.6 13.6 10.2 9.1 26.1

新聞 0.0 0.0 0.0 48.9 18.2 2.7

テレビ 6.8 10.6 12.1 22.0 44.7 11.7

雑誌 2.3 12.9 16.7 4.5 11.7 25.0

問 17 下の選択肢にあるメディアそれぞれに関して、商品・サービス購⼊のきっかけとなる影響⼒の強さを、「強い」〜「弱い」

の中から、⼀つずつ選んでください。

強い やや強い やや弱い 弱い

TV コマーシャル 17.0 45.5 23.5 13.3

TV 番組内での宣伝(例えば情報番組内での「この夏流行のス

イーツ特集」など) 22.3 49.2 16.3 12.1

紙媒体(雑誌、チラシ、新聞も含む) 10.2 43.6 34.8 10.6

インターネット上の広告・宣伝、メールマガジン 11.7 36.7 31.8 19.3

Amazon、楽天、価格.com などの電子商取引サイトでの、検索

結果、お薦め情報 16.3 30.7 36.4 16.7

Amazon、楽天、価格.com などの電子商取引サイトでの、利用

者のレビュー、口コミ 20.5 37.5 28.8 12.9

交通機及び価値中の広告(ポスターや映像広告) 3.8 29.5 43.2 23.1

友人や家族などによる口コミ(対面での会話) 46.6 40.2 9.1 4.2

友人の SNS での投稿 30.7 40.5 20.8 7.6

芸能人の SNS での投稿 29.5 31.8 26.1 12.1

428

強い やや強い やや弱い 弱い

友人・芸能人以外の人の SNS での投稿 12.1 35.2 33.3 18.9

Twitter(企業・公式アカウントのもの) 12.5 30.7 36.4 20.1

SNS アカウント(企業・公式アカウントのもの) 10.2 38.3 31.1 20.5

SNS のプロモーション広告 4.5 20.8 36.7 37.9

口コミサイト(食べログ、@マーク cosme など) 29.9 38.6 18.9 12.5

問 18 買い物や商品の選び方、消費への嗜好などについてお聞きします。あなたは、以下の項目について、どのくらいあて

はまりますか。もっとも近いものを選んでください。

あてはまる

まああては

まる あまりあて

はまらない あてはまら

ない

1.ファッションにとても関心がある 39.4 38.3 17.4 4.9

2. 洋服は、決まった店でいつも購入する 8.3 40.9 39.8 11.0

3. 店員がよく声をかけてくれる店で洋服は購入する 3.0 18.6 43.9 34.5

4. 洋服を買うとき、店員のおすすめ、アドバイスに左右される 10.2 33.7 33.7 22.3

5.ファッションレンタルサービスを利用する 0.8 3.4 7.6 88.3

6.店舗で試着をするのは面倒に感じる 17.4 29.9 25.0 27.7

7.試着をしないで洋服を買うことがある 20.1 36.0 23.1 20.8

8.購入した洋服を返品することに抵抗がある 32.6 35.2 18.2 14.0

9.AI(人工知能)で簡単にコーディネートや商品を調べること

ができたら使用したい 21.2 29.2 23.1 26.5

10.新商品は、自分では気になっていても周りの人がまだ買

い始めて(使い始めて)いないと購入に踏み切れない方だ 7.2 18.6 36.7 37.5

11.物欲がある 52.7 28.8 14.4 4.2

12.常に節約を心がけていて、無駄なものは買わないようにし

ている 14.0 36.0 36.7 13.3

13.買い物をするとストレス解消になる 28.0 36.0 25.0 11.0

14.物質的な豊かさより心の豊かさの方が大切だ 26.9 49.2 20.8 3.0

15.友人の持っているものをうらやましく思い、同じものを購入

することがある 9.1 32.2 37.5 21.2

問 19 買い物や商品の選び方、ブランド、メーカーへの態度などについてお聞きします。あなたは、以下の項目について、

どのくらいあてはまりますか。もっとも近いものを選んでください。

あてはまるまああては

まる あまりあて

はまらない あてはまら

ない

1.原材料や製造工程を重視する 7.6 21.2 45.5 25.8

2.誰が広告に起用されているかによって、購買が左右される 4.5 25.8 37.9 31.8

3.特別仕様、期間限定、個数限定などに惹かれる 17.4 40.5 25.4 16.7

429

あてはまるまああては

まる あまりあて

はまらない あてはまら

ない

4.色やデザインなど、選択のバリエーションがあるものが好き

だ 27.7 48.5 18.6 5.3

5.機能、性能がよければ、ブランド、メーカーにこだわらない 31.4 39.4 25.8 3.4

6.一度好きになったブランドは長い間好きだ 31.4 42.8 21.2 4.5

7.気に入ったものを、できる限り長く使っていきたい 53.0 39.0 7.2 0.8

8.自分が気に入ったメーカーやブランドは家族や友達にもす

すめたい 18.9 34.1 33.3 13.6

9. 自分にとってなくてはならないメーカーやブランドがある 22.3 24.2 34.5 18.9

10. 自分の好きなメーカーやブランドは独自の世界観を持っ

ている 17.8 26.5 37.1 18.6

11. 多少値段が高くても有名メーカー品(ブランド品)を買う 17.4 30.7 32.2 19.7

12. 高級なものを持つことで優越感を感じる 13.3 28.4 32.6 25.8

13. 何かを購入する前には、クチコミサイトにアクセスし、閲覧

する 20.1 37.1 25.8 17.0

14. クチコミサイトでやらせを感じたことがある 23.5 35.6 27.3 13.6

15. 新商品や流行りの商品はこまめにチェックしている 19.7 27.7 34.8 17.8

問 20 ここ 1 か月、あなたが、下にあげた 6 つの用途(ファッション支出費など)に支出した金額を思い浮かべ、1 位、2 位の

支出用途をそれぞれ選択してください。

ファッション支

出費

交際費(友人と

の外食、交流

や飲み会)

食費(交際費を

除いた外食、自

炊、中食など)

美容(化粧や

サロンなど)

自己投資費

(習い事や教材

など) 趣味娯楽

1 位 18.2 43.2 23.1 1.1 3.0 11.4

2 位 21.6 28.8 22.0 4.2 3.0 20.5

問 21 あなたは、商品・サービスの購入などの意思決定をする際に、どのようなジャンルの口コミサイトを利用しますか?以下

のジャンルで利用するものすべてにチェックをつけてください。

グルメ(レストラン、飲食店など) 59.1 本(Amazon) 32.6

SNS 53.8 家電、電化製品 21.6

ファッション 45.1 レシピ(cookpad) 18.9

コスメ、美容(ex、@コスメ) 39.4 ゲーム 12.9

旅行、ホテル、レジャー(楽天トラベル) 36.7 医療機関 3.4

映画、ドラマ 36.4 不動産、住宅、賃貸 3.4

食べ物(飲み物、お菓子) 35.6

430

問 22 日本のプロ野球には 12 球団あります。あなたが好きな球団はどこですか。最も好きな球団を一つ選び回答してくださ

い(好きな球団がない場合には、「特定の球団はない」を選択してください)。

巨人 12.1 日本ハム 3.4 中日 2.7 特定の球団はない 53.4

横浜 6.1 ロッテ 2.7 ヤクルト 1.5

阪神 5.3 広島 2.7 楽天 1.5

ソフトバンク 4.2 西武 2.7 オリックス 0.4

問 23 あなたの趣味、関心として、以下の項目の中から、あてはまるものにすべてチェックしてください。

音楽を聴く 75.0 パソコン・インターネット 34.1 絵やイラストを書く 12.5

ファッション・コスメ 51.9 スポーツ観戦 33.3 歴史 11.7

好きなタレント・・・* 50.0 写真・動画撮影 30.7 演劇鑑賞 8.3

映画鑑賞 49.6 読書 29.2 ボランティア 8.0

旅行 48.1 ゲーム 26.1 科学 6.4

アニメ、漫画 37.5 楽器の演奏 19.3 鉄道 1.9

スポーツをする 37.1 料理 18.9 その他: 3.0

*好きなタレントやアーティストの情報収集やコンサートに行く 問 24-1 あなたは、次のような行動、事柄が、どの程度あてはまりますか。あなた自身の感覚で、最も近いものを、それぞれ

一つ選んでください。

あてはまるまああては

まる あまりあて

はまらない あてはまら

ない

1. ○○ラン(バブルラン、カラーランなど)、ナイトプールなど

インスタ映えするイベントによく行く 1.1 8.0 20.8 70.1

2. ハロウィンにコスプレを楽しむ 6.4 12.1 17.4 64.0

3. 「人と違う」「変わっているね」と言われると嬉しい 13.6 32.2 33.0 21.2

4. わたしはリア充だ 11.0 28.4 33.7 26.9

5. 自分は「○○オタク」といえるほどの趣味がある 25.8 20.8 18.6 34.8

6. メジャーな漫画やアニメよりも、有名でない作品の方が

好きだ 5.7 20.5 46.2 27.7

7. マスコミにはあまりとりあげられないような「有名人」の方

が、マスコミに露出している「有名人」よりも好きだ 11.4 18.6 42.0 28.0

8. 日本のプロ野球が好きだ 13.6 17.4 24.6 44.3

9. 日本のプロサッカー(J リーグ)が好きだ 6.8 14.4 26.5 52.3

10. 趣味において、インターネットの存在は不可欠だ 48.1 37.9 8.7 5.3

11. 自分はコミュ障だと思う 15.5 25.8 37.1 21.6

12. 流行っているものが気になる、流行に乗る 11.4 34.1 36.0 18.6

13. 最近は情報が多すぎて負担に感じる 19.3 36.4 32.2 12.1

14. ことばより、絵や映像の方が自分の気持ちをうまく表現

できる 5.3 16.7 43.9 34.1

15. 本当の自分というものは 1 つとは限らない 34.8 40.9 15.9 8.3

16. 海外経験が豊富だ(豊富になりたい) 20.1 37.5 22.3 20.1

17. 国、民族の違う人とは、うまくつきあえない 5.3 19.3 48.1 27.3

431

問 24-2 あなたは、SNS などネットを利用しているとき、次のような行動、事柄が、どの程度あてはまりますか。あなた自身の

感覚で、最も近いものを、それぞれ一つ選んでください。

あてはまる

まああては

まる あまりあて

はまらない

あてはまら

ない

1. 多くの「いいね」がつくと嬉しい 53.4 32.6 9.8 4.2

2. 友人の投稿につく「いいね」が気になる 15.2 26.9 35.6 22.3

3. ネットで共感してもらえるとうれしい 33.3 41.3 15.9 9.5

4. SNS を利用するのは楽しい 37.9 50.4 7.6 4.2

5. SNS の自分は、素の自分である 14.4 43.6 31.4 10.6

6. 自分は SNS に依存していると思う 22.0 39.8 28.8 9.5

7. SNS 上でリア充アピールのための投稿を頻繁に行う 3.0 11.7 31.1 54.2

8. SNS やチャットで他の人が「テレビ番組に関連すること」を

書き込んだり、投稿したりすることがよくある 5.3 22.3 33.0 39.4

9. SNS やチャットで他の人が「テレビ番組に関連すること」を

書き込んだり投稿したりしているのを見たのがきっかけ

で、その番組を自分でも視聴することがよくある 7.2 37.5 33.0 22.3

10. SNS でフレンド(フォロワー)が多い 11.4 27.3 37.9 23.5

11. Facebook でよく「いいね」をする 2.3 3.8 17.4 76.5

12. LINE のトークで、既読が相手にわかるので、返事しなけ

れば悪いと思う 31.1 37.1 22.3 9.5

13. マッチングサービスは不純であり、絶対に使用すべきでは

ない 14.0 29.5 38.6 17.8

14. オンライン上(インターネット、スマホ)で出会った人と現実

世界で会うべきではない 7.2 11.0 34.8 47.0

15. ネットの情報は信じるべきではない 3.4 44.3 48.9 3.4

16. オンライン上で出会った人と現実世界で会うべきではない 13.6 29.9 41.3 15.2

問 24-3 あなたは、次のような行動、事柄が、どの程度あてはまりますか。あなた自身の感覚で、最も近いものを、それぞれ1

つ選んでください。

あてはま

る まああて

はまる あまりあ

てはまら

ない

あてはま

らない

1. できるだけ自分の育ったところからは離れたくない 12.1 33.3 37.9 16.7

2. 食事に一人で出かけることがよくある 27.3 34.1 28.0 10.6

3. 映画や買い物などに一人で出かけることがよくある 37.1 42.0 14.8 6.1

4. 一人で食事をするほうが、他の人と一緒に食事をするよりも好きだ 7.6 18.6 49.6 24.2

5. スマホがあれば一人の食事も寂しくない。 8.3 23.9 35.6 32.2

6. 一緒に友達と食事をしている最中でもスマホをいじってしまう。 5.3 23.5 39.4 31.8

7. 一緒に家族と食事をしている最中でもスマホをいじってしまう。 5.3 26.1 30.7 37.9

8. 恋人(パートナー)として他人と付き合うのは面倒だ 6.4 20.5 46.2 26.9

9. 恋人(パートナー)がいなくても困らない 11.0 47.3 30.7 11.0

10. 常に誰かと一緒いたほうが安心する 19.7 32.2 36.0 12.1

11. 他人と付き合うのは面倒だ 7.2 25.8 45.1 22.0

12. 私の生活にとって、他者とのつながりは不可欠だ 41.3 43.6 12.9 2.3

432

問 24-4 あなたは、次のような感覚が、どの程度あてはまりますか。あなた自身の感覚で、最も近いものを、それぞれ1つ選ん

でください。

あてはま

る まああて

はまる

あまりあ

てはまら

ない

あてはま

らない

1. インドア派というよりアウトドア派だ 18.2 32.2 37.5 12.1

2. 私は今の生活にとても満足している 16.7 52.7 26.9 3.8

3. 自分は周囲の人々によく理解されていると感じる 9.5 47.7 37.9 4.9

4. 人に見られている自分と本当の自分は一致しないと感じる 14.0 45.1 35.6 5.3

5. 人から敵視されないよう、人間関係には気を付けている 25.8 52.3 17.0 4.9

6. 皆から注目され、愛される有名人になりたいと思うことがある 17.0 31.4 35.2 16.3

7. 人と話すときにはできるだけ存在をアピールしたい 10.2 32.2 48.1 9.5

8. 自分が注目されていないと、つい人の気を引きたくなる 9.1 27.3 45.5 18.2

9. 大勢の人が集まる場では、自分を目立たせようと張り切るほうだ 3.8 22.3 48.5 25.4

10. 目立つ行動をとるとき、周囲から変な目で見られないか気になる 22.3 51.5 20.8 5.3

11. 意見を言うとき、みんなに反対されないかと気になる 18.2 46.6 26.1 9.1

12. 自分が面白いと思うことは、人が何と言おうと気にならない 14.0 37.9 39.4 8.7

13. 他人が自分をどう思っているかいつも気になる 26.9 43.6 23.9 5.7

14. 知らない人とでも、すぐに会話が始められる 23.1 34.8 28.4 13.6

問 25 Twitter、Instagram、Facebook の 3 つの SNS について伺います。

問 25-1 Twitter、Instagram、Facebook の 3 つの SNS で、あなたが最もよく利用する SNS はどれですか?あてはまるものを

一つ選択してください。

Twitter 45.1 Facebook 2.3

Instagram 49.6 いずれも利用していない 3.0

問 25-2 あなた自身の経験から考えて、Twitter、Instagram、Facebook のうち、あなたが最もよく利用する SNS の特徴として、

以下の項目はどれくらい当てはまると思いますか。それぞれの項目に関して、あなた自身の感覚で、最も近いものを、そ

れぞれ1つ選んでください。

あてはま

る まああて

はまる

あまりあ

てはまら

ない

あてはま

らない

1. リア充アピールができる 14.4 36.0 23.9 22.7

2. 「こうありたい自分」や「なりたい自分」になることができる 11.7 31.4 31.8 22.0

3. 普段は表に出せないような自分の考えを、出すことができる 17.8 29.9 29.5 19.7

4. 自分について、客観的に考えたり、感じたりすることができる 11.7 37.9 32.6 14.8

5. 「自分には仲間がいる」という安心感が得られる 18.2 40.5 22.7 15.5

6. 多くの多様な人々と、広く触れ合うことができる 37.9 41.3 15.2 2.7

7. 当該 SNS 上の世界のほうが、生きているという実感が得られる 2.3 11.4 37.5 45.8

8. 当該 SNS ができなくなったら、きっと耐えられないと思う 10.6 22.7 29.9 33.7

9. 気に入らないときはいつでも人間関係を切ることができる 12.5 30.3 33.7 20.5

10. 非日常的な感覚を楽しむことができる 8.3 33.7 34.1 20.8

433

F1 性別、満年齢 男性:47.0 女性:53.0 19.4 歳(平均)

F2 きょうだい

いない 1 人 2 人 3 人以上

20.5 64.0 13.6 1.9

F3 あなたは実家暮らしですか?それとも実家を離れて住んでいますか?また、実家を離れている場合、一人暮らしです

か?それとも同居者(家族、親戚、第三者問わず)がいますか?最もあてはまるものを一つ選んでください。

実家 72.3 実家を離れて一人暮らし 22.7 実家を離れ同居者がいる 4.9

F4 大学の通学時間

30 分以内 22.7 1 時間 30 分~2 分 5.7

30 分~1 時間 44.7 2 時間以上 1.1

1 時間~1 時間 30 分 25.8

F5 個人的に自由に使える金額(月平均)

5000 円程度 1.9 5 万円程度 20.8 10 万円程度 3.8

1 万円程度 4.5 6 万円程度 9.8 10~15 万円程度 1.5

2 万円程度 10.6 7 万円程度 6.4 15~20 万円程度 0.4

3 万円程度 19.3 8 万円程度 6.4 それ以上 0.8

4 万円程度 13.3 9 万円程度 0.4

F6 ここ半年くらいで、アルバイトもしくは有給インターンシップをしていますか。

はい 90.5% いいえ 9.5%

F6-1 F7 で「はい」とお答えした方にお聞きします(N=239)。以下の職種の中から現在行っているアルバイトもしくは有給イ

ンターンシップに最も近いものをお答えください。複数該当する方は複数お答えください。

A アクティブワーク(引っ越し・仕分け・警備員な

ど) 3.3

E 販売(コンビニ・スーパー・アパレル・本屋

など) 22.2

B オフィスワーク(事務・コールセンター・テレフォ

ンアポイントなど) 5.4 F 教育(塾講師・家庭教師など) 15.1

C 飲食(居酒屋・カフェ・ファミリーレストランなど) 56.5G イベント(イベントスタッフ・チラシ配り・モ

デルなど) 8.4

D サービス(映画館・カラオケ・漫画喫茶・ガソリン

スタンドなど) 7.9 H その他 4.6

F6-2 ここ半年くらいでの 1 週間当たりの平均バイト・有給インターン時間数(複数掛け持ちしている場合は合計)(N=239)

4 時間以内 4.2 10 時間程度 33.9 20 時間程度 14.6

5 時間程度 10.9 15 時間程度 31.8 それ以上 4.6

434

F7 GPA

0~0.49 0.0 1.5~1.99 16.7 3.0~3.49 13.6

0.5~0.99 1.5 2.0~2.49 32.6 3.5~4.0 1.5

1.0~1.49 6.4 2.5~2.99 27.7

F8 世間水準に比べて、あなたの生活程度はどのあたりだと思いますか。

上位の上 0.8 中位の上 51.5 下位の上 3.4

上位の下 11.4 中位の中 23.1 下位の下 0.8

中位の下 9.1

F9 世帯年収

~200 万円未満 1.1 800 万円以上~1000 万円未満 22.0

200 万円以上~400 万円未満 4.9 1000 万円以上~1200 万円未満 19.3

400 万円以上~600 万円未満 16.7 1200 万円以上~1500 万円未満 11.4

600 万円以上~800 万円未満 18.2 1500 万円以上 6.4

⽴教⼤学社会学部メディア社会学科 ⽊村ゼミ 2017 年度専⾨演習 2 報告書 発⾏⽇: 2018 年 7 ⽉ 31 ⽇ 発⾏⼈: ⽊村忠正 ⽊村ゼミ Twitter: https://twitter.com/rikkyokmrsemi