the trend of world nordic walking as of the year …...nordic walking suggests that nordic walking...

6
1 同志社大学スポーツ健康科学部(Faculty of Health and Sports Science, Doshisha UniversityDoshisha Journal of Health & Sports Science, 9, 43-482017報 告 ノルディックウォーキングの世界の動向 2016 INWAInternational Nordic Walking FederationConvention 2016 in Verona, Italia の内容報告~ 竹田 正樹 1 The Trend of World Nordic Walking as of the Year 2016, the Report of INWA (International Nordic Walking Federation) Convention 2016 in Verona, Italia Masaki TAKEDA 1 The Convention of International Nordic Walking Federation 2016 has held in Faculty of Motor and Sport sciences, University of Verona, old city of Italy from 30 th of Sep. to 2 nd of Oct. The author has participated to this convention and had presentation of physical and biomechanical aspects of Nordic Walking. The author will introduce of trend or movement of the world Nordic Walking throughout the content of convention and information exchange among participants. The main findings of this report is 1) academic level of the convention regarding Nordic Walking sciences increased compared to past convention. The data collection of biomechanical and physiological responses during Nordic Walking has demonstrated in the laboratory setting as an exhibition, producing active discussion for sports scientic research to Nordic Walking. 2) There were many research presentations concerning the effects of Nordic Walking habits on chronic disease spreading modern society. 3) The value of Nordic Walking has recognized in not only health promotion but also economical aspect of regional area as a tourist business. 4) The new style and aspects of Nordic Walking competition has introduced. Throughout the convention, the author has been able to conrm the possibilities for health and economical benets of and pleasure of Nordic Walking. These trends of world Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. KeywordsNordic Walking, International Nordic Walking Federation 2016 9 30 日~ 10 2 日の 3 日間にわたって,International Nordic Walking Federation:以下 INWAConvention が,イタリアの古都 Verona の市中心部から少し離れた郊外にあるベローナ大学スポーツ科学部 Faculty of Motor and Sport sciences)で開催された.筆者はこの Convention に参加し,その内容や参加者との 情報交換の中から,世界の Nordic Walking(以下 NW)の動向を探ったので紹介する. Convention 2016 の概要 をまとめると以下のようになる.1)学術色が高まり,多くの NW に関する研究者からの発表が紹介されると 同時に,大学のスポーツ科学関連領域の実験室内で NW 中の生理的・バイオメカニクス的データ収集(床反力計, 三次元動作解析,呼吸代謝計測,心拍数計測)のデモンストレーションが行われるなど,スポーツ科学的研究 を深めるための議論が多く行われたこと.2)生活習慣病や現代的な慢性疾患などに対する NW の効果につい ての発表が多く,関心が高かったこと,3NW を健康だけではなく,経済的な付加価値をもたらすため,観光 業との共同による NW の展開が模索されていること,4NW を競技として成立させるための新しいアイデア が提供され,ただ歩くだけでなく, NW の価値をより高めるための新たな展開が模索されていること,であった. NW のさらなる発展のため,NW というスポーツの新たな効果,可能性,楽しみ方が様々な角度から模索され ていることがわかり,NW というスポーツが文化に少しずつ近づいていることが認識できた. 【キーワード】ノルディックウォーキング,国際ノルディックウォーキング連盟

Upload: others

Post on 05-Jul-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

43

1 同志社大学スポーツ健康科学部(Faculty of Health and Sports Science, Doshisha University)

Doshisha Journal of Health & Sports Science, 9, 43-48(2017)

報 告

ノルディックウォーキングの世界の動向 2016~ INWA(International Nordic Walking Federation)Convention 2016

in Verona, Italiaの内容報告~

竹田 正樹 1

The Trend of World Nordic Walking as of the Year 2016, the Report of INWA (International Nordic Walking Federation)

Convention 2016 in Verona, ItaliaMasaki TAKEDA1

 The Convention of International Nordic Walking Federation 2016 has held in Faculty of Motor and Sport sciences, University of Verona, old city of Italy from 30th of Sep. to 2nd of Oct. The author has participated to this convention and had presentation of physical and biomechanical aspects of Nordic Walking. The author will introduce of trend or movement of the world Nordic Walking throughout the content of convention and information exchange among participants. The main findings of this report is 1) academic level of the convention regarding Nordic Walking sciences increased compared to past convention. The data collection of biomechanical and physiological responses during Nordic Walking has demonstrated in the laboratory setting as an exhibition, producing active discussion for sports scientific research to Nordic Walking. 2) There were many research presentations concerning the effects of Nordic Walking habits on chronic disease spreading modern society. 3) The value of Nordic Walking has recognized in not only health promotion but also economical aspect of regional area as a tourist business. 4) The new style and aspects of Nordic Walking competition has introduced. Throughout the convention, the author has been able to confirm the possibilities for health and economical benefits of and pleasure of Nordic Walking. These trends of world Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport.

【Keywords】Nordic Walking, International Nordic Walking Federation

 2016 年 9 月 30 日~ 10 月 2 日の 3 日間にわたって,International Nordic Walking Federation:以下 INWA)の Convention が,イタリアの古都 Verona の市中心部から少し離れた郊外にあるベローナ大学スポーツ科学部

(Faculty of Motor and Sport sciences)で開催された.筆者はこの Convention に参加し,その内容や参加者との情報交換の中から,世界の Nordic Walking(以下 NW)の動向を探ったので紹介する. Convention 2016 の概要をまとめると以下のようになる.1)学術色が高まり,多くの NW に関する研究者からの発表が紹介されると同時に,大学のスポーツ科学関連領域の実験室内で NW 中の生理的・バイオメカニクス的データ収集(床反力計,三次元動作解析,呼吸代謝計測,心拍数計測)のデモンストレーションが行われるなど,スポーツ科学的研究を深めるための議論が多く行われたこと.2)生活習慣病や現代的な慢性疾患などに対する NW の効果についての発表が多く,関心が高かったこと,3)NW を健康だけではなく,経済的な付加価値をもたらすため,観光業との共同による NW の展開が模索されていること,4)NW を競技として成立させるための新しいアイデアが提供され,ただ歩くだけでなく,NW の価値をより高めるための新たな展開が模索されていること,であった. NW のさらなる発展のため,NW というスポーツの新たな効果,可能性,楽しみ方が様々な角度から模索されていることがわかり,NW というスポーツが文化に少しずつ近づいていることが認識できた.

【キーワード】ノルディックウォーキング,国際ノルディックウォーキング連盟

Page 2: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

44 Doshisha Journal of Health & Sports Science

1.Convention 2016の内容

1)自然科学的・社会科学的な研究トピックス 2016 年 9 月 30 日~ 10 月 2 日の 3 日間にわたって,International Nordic Walking Federation:以下 INWA)の Convention が,イタリアの古都 Verona(写真 1)の市中心部から少し離れた郊外にあるベローナ大学Faculty of Motor and Sport sciences で開催された.この Convention は毎年ヨーロッパ内で場所を変えて開催されているが,2016 年はイタリアの NW 協会

(Associazione Nordic Walking Italia: ANWI)がベローナ大学スポーツ科学部長 Dr. Prof. Federico Schena

(フェデリコ シェーナ教授)と連携を図り,INWAの承認を経て当地での開催となった. 参加国はフィンランド,イギリス,フランス,オランダ,スペイン,イタリア,クロアチア,エストニア,ロシア,オーストラリア,中国,日本などであり,200 名程の参加者であった. INWA Convention に参加すれば,NW に関する新たな情報を得ることができ,またその内容から世界の NW の動向を推察することができる.早速 INWA Convention2016 の内容を見ていきたい.開会式ではDr. Prof. Federico Schena(シェーナ教授)の挨拶で始まり,INWA 会長 Aki Karihtala(アキ カリヒタラ)の挨拶の後,テーマ別の発表に入った.

 以下に 1,2 日目のプログラムを表で示した.これらの発表の中で,① NW に関する運動生理学的,バイオメカニクス的な研究の視点から,その特徴を明らかにしようとした発表(筆者もその一人であったが)や毎年必ず内容に含まれる 10 step methods を含めての NW の教育・指導方法をどうするか,②肥満,腰痛,乳がん,パーキンソン病などの生活習慣病や慢性疾患に対して NW がどのように予防的に働くか,そして③観光業と NW の連携による NW を媒介とした地域経済の活性化に関するものなどがテーマとなり,活発な討論も行われた.それぞれのテーマの概略は以下の通りである.なお,発表は英語またはイタリア語で有り,同時通訳が常に付いていて,理解を深める工夫がなされていた.

 ①  NW に関する運動生理学的,バイオメカニクス的な研究

   NW の生理的バイオメカニクス的研究についてはベローナ大学スポーツ科学部 神経科学生体医工学科ペレグリーニ教授(Dr. B. Pellegrini PhD., Dept of Neurosciences, Biomedicine and Movement sciences Verona University,Italy) および筆者が発表した.

   筆者は NW の歩行特性として,通常歩行に比較してストライド(踵接地から同側踵接地まで)が大

写真 1 INWA Convention 2016の会場となったベローナ市内の様子

Page 3: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

45ノルディックウォーキングの世界の動向 2016 ~ INWA(International Nordic Walking Federation)Convention 2016 in Verona, Italia の内容報告~

きくなり(通常歩行 145.8 ± 8.4 cm vs NW: 167.5± 4.7 cm),歩行スピードが高まること(通常歩行4.86 ± 0.46 km/h vs NW: 5.68 ± 0.57 km/h),エネ

ルギー消費量が高まること(10%),筋活動については上肢の 9 カ所の筋部位(橈側手根屈筋,上腕二頭筋,三角筋,上腕三頭筋,大胸筋,腹直筋,広背

表 2 INWA Convention 2日目のプログラム

表 1 INWA Convention 1日目のプログラム

Page 4: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

46 Doshisha Journal of Health & Sports Science

筋,僧帽筋,脊柱起立筋)全てで有意に高まること,下半身においても,内側広筋,大腿直筋で有意に高まることを報告した(Koizumi et al., 2008, 2010, 2011).つまりポールは推進力としてよく働くことことになり,下肢も含めた全身の運動量の増大の結果,エネルギー消費量増大に貢献しているという推察がなされた.しかし,ポールは推進運動としての役割だけではなくポールが身体を支えることも考えられる.すなわち,下肢への負担軽減が期待される.実際に測定してみると確かに足部着地時の床反力は NW で低下することがわかった(Koizumi et al., 2008, 2010, 2011).しかし,ストライド(または歩幅)が増した分,通常歩行に比べて下肢の一部の筋

(内側広筋,大腿直筋)の働きが大きくなることはとても興味深い.ポールは推進力としてよく働くので,さらに,筆者はエネルギー消費量の増大だけではなく,下肢関節負荷(腰椎,股関節,膝関節)が軽減するということをデータで示した.その際,歩行時のストライド(または歩幅)が増大すれば自ずと関節負荷(関節トルク)が増大するので,より負荷を軽減させるためには歩幅を狭くすると効果的であるという提言をした.これに対して,フロアより多くの質問があり,最初の発表者のベローナ大学スポーツ科学部ペレグリーニ先生と共にそれらの質問に対応し,NW の歩き方の新たな見解を提案できたように思われる.フロアからはより関節に優しい歩き方の指導方法に対するマニュアル作りを依頼された.この点については,筆者は日本ノルディックフィットネス協会(JNFA)主催ブラッシュアップセミナー(ノルディックウォーキングのサイエンスとセオリー)で紹介しているので,興味のある読者は訪ねて頂きたい.

   ベローナ大学の実験室において,ペレグリーニ教授より NW 中の床反力計,三次元動作解析系,呼吸代謝装置計などを用いた運動生理的・バイオメカ

ニクス的測定の手法に関するワークショップも開催され,多くの関心を呼んでいた(写真 2).

 ②  肥満,腰痛,乳がん,パーキンソン病などの生活習慣病や慢性疾患 NW

   乳がんと NW の関連については大変興味深い内容であったと思われる.オシオ先生(Dr. C. Osio,ミラノの外科医,腫瘍学者),ロザ先生(Dr. R. Rosa,物理療法家,INWA

   International Trainer, ベ ロ ー ナ 大 学 NW ナ シ ョナ ル テ ク ニ シ ャ ン ), ボ ン ビ エ リ 先 生(Dr. F. Bombieri, ベローナ大学スポーツ科学部 神経科学生体医工学科)の 3 名から発表があった.NW で乳がんを予防できるということを証明しているわけではないが,NW は上肢をよく使う運動であり

(Koizumi ら 2007,2010,2011),特に INWA スタイルのNWは日本のみで派生しているいわゆるディフェンシブスタイル(この言葉は世界にはないが)に比較してよりそれが顕著であることから(長谷川ら 2016),大胸筋や肩関節回りの筋活動が活発になることで血流が高まり,また乳房が物理的によく動くことで乳がんに対して予防的に働くのではないかという見方である.実際に,上記に示したように,NW は通常歩行と比較して上半身のほぼ全ての筋肉を活発に働かせる.乳がん予防のメカニズムと実証的データについては今のところ示されてはいないが,今後の研究が期待される.NW の新たな可能性に着眼したものであり,価値の高いものと考えられた.

   ボンビエリ先生からのパーキンソン病に対するNW の効果についても大変興味深いものであった.パーキンソン病になると歩行の安定性が欠如し,歩くことそのものもが困難になるケースが多い.しかし,歩行困難者に対して NW はとても有効である.筆者の研究でも明らかなように NW は歩行を安定化させる効果があることから(Koizumi ら 2010,2011),確かにパーキンソン病患者に対して NW は絶大な効果をもたらすのではないかと考えられる.同疾患に罹患して歩行活動が困難になった人に対して,NW はその病気の進行を遅らせる効果があるかもしれない.

 ③ 観光業と NW の連携   デベネディッティ氏(Mr. A Debeneditti)より,

NW と観光業の結びつきについての発表があった.これについても大変興味深い内容であった.NW は野山を歩くのに大変適していることから,イタリアのアルプスや小高い山の続く高原地帯で素晴らしい写真 2 Nordic Walkingのバイオメカニクス的測定の紹介

Page 5: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

47ノルディックウォーキングの世界の動向 2016 ~ INWA(International Nordic Walking Federation)Convention 2016 in Verona, Italia の内容報告~

景色を堪能しながら,観光を兼ねて NW を行うのは当然理に叶ったことであると考えられる.通常の歩行と比較して NW こそ,野山を歩くことに適している.ポールを用いることでより「楽に」歩くことが可能である(日本ノルディックフィットネス協会 2016).観光会社と協力し,NW の普及だけに留まらず,地域活性化の促進も狙ったこの取り組みは,今後の NW の普及にとって大切なことと考えられる.我が国でも観光会社との連携による NW ツアーが開催されつつあり,より活発な活動になることを期待している.このことは一方で NW が地域貢献活動としての役割を果たすことにもなる.社会的意義の深いものと考えられる.それにしても,イタリアの山岳地帯の目を見張るほど美しい写真の数々が紹介された.日本にも素晴らしい景色がたくさんあるので,NW を通じた日本の観光業の可能性を世界へのアピールし,外国人が日本へ NW ポールを持って観光に来る日が来ることを待ちわびたい.

2)新たな NWの楽しみ方 ~競技方法の提案~ 3 日目には NW の新たな競技スタイルの紹介が行われた.参加者はコンベンション参加者に加えて,NWの愛好者もこの日は参加した.総勢 150 名ほどの参加者であった(写真 3).NW は通常,3 キロ,5 キロ,10 キロなど,特定のコースを決めて皆で会話を楽しみながら一緒に歩くことを目的としてウォーキング大会が開催されることが多い.これはこれで所が変わり,景色が変わればもちろん面白いものではあるが,NW大会そのものには特段ルールはなく,一般的であるが故に面白みに欠ける面もある.最近では,20 キロ程度の距離を如何に早く NW で歩いてくるかという競技も行われるようになり,諸外国でもこのような競技会が開催されるようになっている.日本においても長

野県長野市飯縄高原でノルディックウォーキングハーフマラソンが開催されてきており,2016 年 10 月現在ですでに第 4 回目が開催された.走ってはならないが,20 キロにわたって誰がどのように観察し,公平性を確保するのか,課題は多いものの,参加者からの評判は上々のようである. しかし,今回のイタリアでのコンベンションで紹介された競技は全く新たなものである.参加者は 1 キロコースを 3 周するが,その際,足首にセンサーをつけて 1 キロ毎の周回のタイムを正確に測定し,いかに正確に 1 キロ毎のラップを刻むかに焦点が当てられている.1 キロ毎のタイム差が少なければ少ないほど得点が高くなる.速さは関係なく,自分のペースで歩くだけである.時計を所持してはいけない.加えて,1 キロコースの中の 4 カ所ほどにそれぞれ 2 人ほどの審判がいて,歩く姿を点数化している.評価点は多岐にわたっている.全て紹介できないが,基本的には足の運び方,腕の動かし方,ポールワークの上手さ,左右差,そして歩く姿全体の美しさやハーモニーなど,それぞれに細かいポイントが設けられており,これらの評価ポイントを歩行ラップと合わせて総合得点化し,順位を決定するというものである.個人のペースを守りながら歩けば良いので体力の高さは関係ない.健康運動としての NW で参加者に優劣をつけることがどのような意味があるのかについては議論の余地があるかもしれない.しかし,人間はより競技性のある,あるいは高いことを求める性質があり,だからこそ,「スポーツ」が成り立ち,またそれをより高度なものへと昇華させ,最終的には文化として発展してきた経緯がある.従って,NW に競技性という性格を与えることは,NW の発展,人々の内なる思いの充足にとって大事なことと考える.今回のイタリアノルディックウォーキング協会からの新しい競技スタイルの提案は大いに価値のあるものである.もちろん,歩き方の美しさのような主観的な要素,インプレッションは見る人によって大きく異なることから,これを本当に優れた競技に発展させるためには,多くの課題がある.採点ポイントを明確にしなければならない.今回の競技を見ている限り,残念ながらそれはまだ十分にできているとは思われなかった.筆者はナショナルトレーナーとしてこの NW に携わり,INWA スタイルの指導メソッドや歩行スタイルのポイントを熟知しているつもりであるが,筆者から見て歩行スタイルの美しさの評価に関してはまだまだ疑問の余地のある採点がなされていた.あくまでも主観であるが,そのように感じたのが正直なところである.評価方法や基準の善し悪しは別にして,新たな提案を行った同協会の努力に深く感謝すべきである.

写真 3  Nordic Walkingの新たな競技方法の提案(日本からの参加者は 3名であった)

Page 6: The Trend of World Nordic Walking as of the Year …...Nordic Walking suggests that Nordic Walking is approaching to one of the culture as a sport. 【Keywords】Nordic Walking, International

48 Doshisha Journal of Health & Sports Science

3) その他のプログラム ラトビアのロバート氏(Mr. Roberts Radicuks)より,ノルディックウォーキングが「上手く」なるためのポールを持たないトレーニング方法の紹介がなされた(写真 4,5).この紙面で詳細に報告することはできないが,様々な運動を組み合わせ,柔軟性の向上,バランス能力の向上,そして筋力の向上を目指した動きが紹介され,NW のテクニック向上だけではなく,健康の維持増進にとってとても良い運動の紹介であったように思われる.参加者の多くが,楽しそうに,時にはきつそうにこなしていたことがとても印象的である.

写真 4  Mr. Roberts Radicuksによるポールを持たないNordic Walkingトレーニングの紹介①

写真 5  Mr. Roberts Radicuksによるポールを持たないNordic Walkingトレーニングの紹介②

2.終わりに

 INWA Convention 2016 に参加して,冒頭に述べたように今年の大会は過去最も学術的色彩の濃い大会

であったことが印象的であった.それはある意味自然の流れのように思われる.NW というスポーツが提唱されておよそ 20 年になろうとしている現在,最初はNW の方法の紹介,指導方法の紹介,そして普及に関する課題が議論されるのは普通である.しかし,それらの課題がある程度落ち着けば,NW がなぜ良いのかについて,その「意義」を確認するために様々な角度から検討がなされてきている.この度,ベローナにおいて自然科学的そして社会科学的に多角的な視点でNW を議論できたことはとても有意義であった. 大変勉強になるこの INWA Convention はナショナルトレーナーの研鑽の場であるので,資格を有する人には,費用がかかるのが難点ではあるが,できるだけ参加して研鑽の場にして貰いたいと願うものである.

写真 6  International Nordic Walking Federationの Aki Karihtala(アキ カリヒタラ)会長(フィンランド)左と Hans Wrang(ハンス ラング)副会長(オーストラリア)(右)

引用文献Koizumi T., Tsujiuchi N, Takeda M., and Murodate Y. Physical

motion analysis of Nordic Walking. In; The engineering of sport 7 Volume 1. Estivalet, M., and Brisson, P. (Eds.), Springer, 379-385, 2008.

Koizumi T., Tsujiuchi N, Fujikura R., and Takeda M. 階段昇降時におけるノルディックウォーキングの下肢関節負荷特性評価 . Dynamics and Design Conference 2010 論文集.第10 巻 8 号,File No. 626 pdf.

Koizumi T., Tsujiuchi N, Takeda M., Fujikura R., and Kojima T. Load dynamics of Joints in Nordic walking. Procedia Engineering. 11: 544-551. 2011.

藤田和樹,高橋直博,富岡徹著.2016.アクティビティリーダー養成講座テキスト.日本ノルディックフィットネス協会編.